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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177670
(43)【公開日】2024-12-20
(54)【発明の名称】神経変性疾患のための遺伝子治療
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20241213BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20241213BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20241213BHJP
   C12N 15/866 20060101ALI20241213BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20241213BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241213BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241213BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241213BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20241213BHJP
【FI】
C12N15/12
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/864 100Z
C12N15/866 Z
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N15/113 Z
C12N15/12 ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024128634
(22)【出願日】2024-08-05
(62)【分割の表示】P 2021530800の分割
【原出願日】2019-11-26
(31)【優先権主張番号】62/772,230
(32)【優先日】2018-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】520118865
【氏名又は名称】プリベイル セラピューティクス,インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】PREVAIL THERAPEUTICS, INC.
【住所又は居所原語表記】Lilly Corporate Center, Indianapolis, Indiana 46285, U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アベリオビッチ,アサ
(72)【発明者】
【氏名】ヘックマン,ラウラ
(72)【発明者】
【氏名】リーン,エルベ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
(57)【要約】
【課題】
本開示は、いくつかの側面において、神経変性疾患、例えばアルツハイマー病の処置のための組成物および方法に関する。
【解決手段】
いくつかの態様において、本開示は、APOEタンパク質アイソフォームまたはその一部をコードする導入遺伝子を含む発現コンストラクト、APOE遺伝子またはその一部を標的とする阻害性核酸、または上記のいずれかの組み合わせを提供する。いくつかの態様において、本開示は、これを必要とする対象に、発現コンストラクトを投与することによりアルツハイマー病を処置する方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
APOE2を発現する導入遺伝子およびAPOE4の発現または活性を阻害する阻害性核酸をコードする発現コンストラクトを含む、単離された核酸。
【請求項2】
阻害性核酸が、配列番号5~8、12~15、および17~20のいずれか1つで表される配列によってコードされる、請求項1に記載の単離された核酸。
【請求項3】
阻害性核酸が、配列番号7、8、14、15、19、および20のいずれか1つで表される配列によってコードされる、請求項1または2に記載の単離された核酸。
【請求項4】
APOE2を発現する導入遺伝子が、配列番号3で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする、請求項1~3のいずれか一項に記載の単離された核酸。
【請求項5】
APOE2を発現する導入遺伝子が、コドン最適化された核酸配列を含み、ここで任意に、核酸配列が、配列番号4で表される、請求項1~4のいずれか一項に記載の単離された核酸。
【請求項6】
発現コンストラクトが、アデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向末端反復(ITR)の脇に配置される、請求項1~5のいずれか一項に記載の単離された核酸。
【請求項7】
ITRが、AAV2 ITRである、請求項6に記載の単離された核酸。
【請求項8】
単離された核酸が、配列番号11、16、および21のいずれか1つで表される配列を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の単離された核酸。
【請求項9】
APOE2タンパク質をコードする発現コンストラクトを含む単離された核酸であって、ここで単離された核酸が、配列番号4で表される配列を含む、前記単離された核酸。
【請求項10】
APOE4の発現または活性を阻害する阻害性核酸をコードする発現コンストラクトを含む、単離された核酸。
【請求項11】
発現コンストラクトが、アデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向末端反復(ITR)の脇に配置され、ここで任意にITRが、AAV2 ITRである、請求項9または10に記載の単離された核酸。
【請求項12】
1以上のプロモーターをさらに含み、ここで任意に1以上のプロモーターの各々は、独立して、ニワトリ-ベータアクチン(CBA)プロモーター、CAGプロモーター、CD68プロモーター、またはJeTプロモーターである、請求項1~11のいずれか一項に記載の単離された核酸。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の単離された核酸を含む、ベクター。
【請求項14】
ベクターがプラスミドである、請求項13に記載のベクター。
【請求項15】
ベクターが、ウイルスベクターであり、ここで任意にウイルスベクターが、組換えAAV(rAAV)ベクターまたはバキュロウイルスベクターである、請求項13に記載のベクター。
【請求項16】
請求項1~12のいずれか一項に記載の単離された核酸、または請求項13~15のいずれか一項に記載のベクターを含む組成物。
【請求項17】
請求項1~12のいずれか一項に記載の単離された核酸、または請求項13~15のいずれか一項に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項18】
(i)カプシドタンパク質;および
(ii)請求項1~12のいずれか一項に記載の単離された核酸、または請求項15に記載のベクター
を含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)。
【請求項19】
カプシドタンパク質が、血液脳関門を通過することができ、ここで任意にカプシドタンパク質は、AAV9カプシドタンパク質またはAAVrh.10カプシドタンパク質である、請求項18に記載のrAAV。
【請求項20】
rAAVが、中枢神経系(CNS)の神経細胞および非神経細胞を形質導入する、請求項18または請求項19に記載のrAAV。
【請求項21】
請求項1~12のいずれか一項に記載の単離された核酸、請求項13~15のいずれか一項に記載のベクター、請求項16に記載の組成物、または請求項18~20のいずれか一項に記載のrAAVを対象へ投与することを含む、アルツハイマー病を有するかまたは有することが疑われる対象を処置するための方法。
【請求項22】
投与が、対象のCNSへの直接注射を含み、ここで任意に、直接注射が、脳内注射、実質内注射、髄腔内注射、またはそれらのいずれかの組み合わせである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
対象のCNSへの直接注射が、対流強化送達(CED)を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
投与が、末梢注射を含み、ここで任意に末梢注射が、静脈内注射である、請求項21~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
対象が、APOE4アレルについてホモ接合である、請求項21~24のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、35U.S.C.119(e)の下で、2018年11月28日に出願された米国仮出願第62/772,230号、表題「神経変性疾患のための遺伝子治療」の出願日の利益を主張し、これら各出願の内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
背景
アルツハイマー病(AD)は認知症の最も一般的な形態であり、米国だけで500万人以上の人々が罹患している。アルツハイマー病は、ニューロン機能を阻害し、ニューロン間の接続を破壊し、最終的には細胞死をもたらす、脳全体にわたる異常なタンパク質沈着物の存在により特徴付けられる不可逆的で進行性の脳障害である。これらの沈着物は、アミロイド-βのプラークおよびリン酸化タウタンパク質によって形成されるタングル(tangle)を含む。軽度のADを有する患者は、記憶喪失を経験し、徘徊、お金の取り扱いにおける困難、質問の繰り返し、および性格や行動の変化につながる。中等度のAD患者は、増大した記憶喪失を示し、混乱して友人や家族の認識が困難になり、新しいことを学ぶことができなくなり、幻覚、妄想、およびパラノイアにつながる。重度のADを有する患者はコミュニケーションをすることができず、彼らのケアは他人に完全に依存する。最終的に、タンパク質プラークおよびタングルは脳全体に広がり、著しい組織の萎縮につながる。
【発明の概要】
【0003】
概要
ほとんどのアルツハイマー病(AD)患者は、遅発性ADを有しており、その症状は対象において60代半ばに現れる。アポリポタンパク質E(APOE)遺伝子は、遅発性ADの発症に関与している。APOEは、ADに対して保護的であるAPOE2、および遅発性ADを発症するリスクの増大に関連するAPOE4を含む、いくつかのアイソフォームを有する。APOE4の2コピーを保有するホモ接合体患者(例として、APOE4+/+である対象)は、APOEの1コピー、およびAPOE2またはAPOE3のいずれかの1コピーを保有するヘテロ接合体患者と比較して、遅発性ADを発症するより大きなリスクにある。
【0004】
本開示の側面は、ADを有するかまたは有することが疑われる対象を処置するための組成物および方法に関する。本開示は、部分的には、AD関連遺伝子(例として、APOE4などのAPOE)を標的とする阻害性RNA(例として、shRNA、miRNA、amiRNAなど)をコードする発現コンストラクトに基づく。
【0005】
いくつかの側面において、本開示はAPOE2(またはその一部)をコードする発現コンストラクト(例として、ベクター)、および任意に、AD関連遺伝子からの1以上の追加の遺伝子産物(例として、APOE4を標的とする阻害性核酸)に基づく。いずれの具体的な理論によっても拘束されることは望まないが、本明細書に記載の遺伝子産物の組み合わせは、対象において発現される場合、ADの1以上の兆候および症状を低減するために一緒に(例として、相乗的に)作用する。
結果的に、いくつかの側面において、本開示は、APOE2タンパク質をコードする発現コンストラクトを含む単離された核酸を提供し、ここで単離された核酸は、配列番号4で表される配列を含む。
【0006】
いくつかの態様において、本開示は、APOE2を発現する導入遺伝子およびAPOE4の発現または活性を阻害する阻害性核酸をコードする発現コンストラクトを含む単離された核酸を提供する。いくつかの態様において、発現コンストラクトは、アデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向末端反復(ITR)の脇に配置される。いくつかの態様において、ITRは、AAV2 ITRである。
【0007】
いくつかの態様において、阻害性核酸は、配列番号1で表される配列の少なくとも6個の連続したヌクレオチドに相補的である。いくつかの態様において、阻害性核酸は、配列番号5~8、12~15、および17~20のいずれか1つで表される核酸配列を含む(または、それによりコードされる)阻害性RNAである。いくつかの態様において、阻害性核酸は、配列番号7、8、14、15、19、および20のいずれか1つで表される配列を含む(または、それによりコードされる)。
【0008】
いくつかの態様において、APOE2を発現する導入遺伝子は、配列番号3で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする。いくつかの態様において、APOE2を発現する導入遺伝子は、コドン最適化された核酸配列を含む。いくつかの態様において、APOE2をコードするコドン最適化された核酸配列は、配列番号4で表される。
いくつかの態様において、本開示は、配列番号11、16、および21のいずれか1つで表される配列を含む単離された核酸を提供する。
【0009】
いくつかの側面において、本開示は、APOE2タンパク質をコードする発現コンストラクトを含む単離された核酸を提供し、ここで単離された核酸は、配列番号4で表される配列を含む。いくつかの側面において、本開示は、APOE4の発現または活性を阻害する阻害性核酸をコードする発現コンストラクトを含む単離された核酸を提供する。いくつかの態様において、発現コンストラクトは、アデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向末端反復(ITR)の脇に配置され、ここで任意にITRは、AAV2 ITRである。
【0010】
いくつかの態様において、単離された核酸は、1以上のプロモーターをさらに含む。いくつかの態様において、プロモーターは、ニワトリ-ベータアクチン(CBA)プロモーター、CAGプロモーター、CD68プロモーター、またはJeTプロモーターである。
いくつかの態様において、本開示は、本開示によって記載される単離された核酸を含むベクターを提供する。いくつかの態様において、ベクターは、プラスミドである。いくつかの態様において、ベクターは、ウイルスベクターである。いくつかの態様において、ウイルスベクターは、組換えAAV(rAAV)ベクターまたはバキュロウイルスベクターである。
【0011】
いくつかの側面において、本開示は、本明細書に記載の単離された核酸またはベクターを含む組成物を提供する。いくつかの態様において、本開示は、本明細書に記載の単離された核酸またはベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0012】
いくつかの側面において、本開示は、カプシドタンパク質;および本明細書に記載の単離された核酸またはベクターを含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)を提供する。
いくつかの態様において、カプシドタンパク質は、血液脳関門を通過することができる。いくつかの態様において、カプシドタンパク質は、AAV9カプシドタンパク質、またはAAVrh.10カプシドタンパク質である。いくつかの態様において、rAAVは、中枢神経系(CNS)の神経細胞および/または非神経細胞を形質導入する。
【0013】
いくつかの側面において、本開示は、アルツハイマー病を有するかまたは有することが疑われる対象を処置する方法を提供し、該方法は、本開示に記載の単離された核酸、ベクター、組成物、またはrAAVを対象へ投与することを含む。
【0014】
いくつかの態様において、投与は、対象のCNSへの直接注射を含む。いくつかの態様において、直接注射は、脳内注射、実質内注射、髄腔内注射、またはそれらのいずれかの組み合わせである。いくつかの態様において、対象のCNSへの直接注射は、対流強化送達(CED)を含む。いくつかの態様において、投与は、末梢注射を含む。いくつかの態様において、末梢注射は、静脈内注射である。いくつかの態様において、対象は、APOE4アレルについてホモ接合(例として、APOE4+/+)である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図面の簡単な説明
図1図1は、APOE(例として、APOE転写産物バリアント4 ApoE4)を標的とする阻害性RNAをコードする発現コンストラクトを含むrAAVベクターを含むプラスミドの一態様を示す概略図である。阻害性RNAは、H1プロモーターに作動可能に連結されている。
図2図2は、APOE(例として、APOE転写産物バリアント4 ApoE4)を標的とする阻害性RNAをコードする発現コンストラクトを含むrAAVベクターを含むプラスミドの一態様を示す概略図である。阻害性RNAはイントロン内に位置し、プロモーター配列に作動可能に連結されている。
図3図3は、APOE(例として、APOE転写産物バリアント4 ApoE4)を標的とする阻害性RNAをコードする発現コンストラクトを含むrAAVベクターを含むプラスミドの一態様を示す概略図である。阻害性RNAは、プロモーター配列とAPOE2タンパク質コード配列との間のイントロン内に位置する。
図4図4は、APOE(例として、APOE転写産物バリアント4 ApoE4)を標的とする阻害性RNAをコードする発現コンストラクトを含むrAAVベクターを含むプラスミドの一態様を示す概略図である。阻害性RNAは、プロモーター配列とAPOE2タンパク質コード配列との間のイントロン内に位置する。
図5図5は、APOE(例として、APOE転写産物バリアント4 ApoE4)を標的とする阻害性RNAをコードする発現コンストラクトを含むrAAVベクターを含むプラスミドの一態様を示す概略図である。阻害性RNAは、プロモーター配列とAPOE2タンパク質コード配列との間のイントロン内に位置する。
図6図6は、ITRの「外側」(例として、導入遺伝子インサートまたは発現コンストラクトに対してITRの末端の近位)に位置する「D」領域を含むrAAVベクター(上)、およびITRをベクターの「内側」(例として、ベクターの導入遺伝子インサートの近位)に有する野生型rAAVベクターを示す概略図である。
図7A図7Aおよび7Bは、qRT-PCRによる、APOE4に対する異なるshRNAおよびコドン最適化されたAPOE2コード配列を運ぶrAAVベクターのin vitro検証を示す。図7Aは、いくつかの候補ベクターが内在性APOE発現を首尾よく低減させたことを示す。
図7B図7Bは、これらのベクターによって発現されるshRNAが、コドン最適化されたAPOE2の発現に影響を及ぼさないことを示す。
図8図8は、APOE4ノックインマウスを使用した、APOE4に対する異なるshRNAおよびコドン最適化されたAPOE2コード配列を運ぶrAAVベクターのin vivo選択の実験設計を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な説明
本開示は、部分的には、対象におけるAD関連遺伝子産物の組み合わせの発現のための組成物および方法に基づく。遺伝子産物は、タンパク質、タンパク質のフラグメント(例として、一部)、AD関連遺伝子を阻害する干渉核酸などであり得る。いくつかの態様において、遺伝子産物は、AD関連遺伝子によりコードされるタンパク質またはタンパク質フラグメントである。いくつかの態様において、遺伝子産物は、AD関連遺伝子を阻害する干渉核酸(例として、shRNA、siRNA、miRNA、amiRNAなど)である。
【0017】
AD関連遺伝子は、遺伝子学的に、生化学的に、または機能的にアルツハイマー病(AD)に関連する遺伝子産物をコードする遺伝子を指す。例えば、APOE4の少なくとも1のコピーを有する個体は、遅発性ADを発症する増大したリスクにある。別の例において、APOE2は、ADのマウスモデルにおいて神経保護効果を示す。本明細書に使用されるとき、用語「神経保護」は、神経保護の不在(例として、神経保護剤またはタンパク質の不在)における細胞または対象の神経構造および/または機能の保存と比較した、細胞または対象の神経構造および/または機能の保存を指す。
【0018】
単離された核酸およびベクター
単離された核酸は、DNAまたはRNAであり得る。いくつかの側面において、本開示は、APOE2タンパク質またはその一部をコードする導入遺伝子4および/またはAPOEを標的とする阻害性核酸をコードする、発現コンストラクトを含む単離された核酸を提供する。
一般に、本明細書に記載の単離された核酸は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれ以上の阻害性核酸(例として、dsRNA、siRNA、shRNA、miRNA、amiRNAなど)をコードし得る。いくつかの態様において、単離された核酸は、10を超える阻害性核酸をコードする。いくつかの態様において、1つ以上の阻害性核酸のそれぞれは、異なる遺伝子または遺伝子の一部を標的とする(例として、第1のmiRNAは遺伝子の第1の標的配列を標的とし、第2のmiRNAは、第1の標的配列とは異なる、遺伝子の第2の標的配列を標的とする)。いくつかの態様において、1つ以上の阻害性核酸のそれぞれは、同じ遺伝子の同じ標的配列を標的とする(例として、単離された核酸は、同じmiRNAの複数のコピーをコードする)。
【0019】
本開示の側面は、APOE4タンパク質(例として、APOE遺伝子のアイソフォームE4)を標的とする1つ以上の干渉核酸(例として、dsRNA、siRNA、miRNA、amiRNAなど)をコードする発現コンストラクトを含む、単離された核酸に関する。APOEタンパク質は、アポリポタンパク質Eを指し、これは、トリグリセリドに富むリポタンパク質の異化において役割を果たす脂肪結合タンパク質である。APOE2、APOE3、およびAPOE4と称されるAPOEの3つの主要なアイソフォームが存在する。各アイソフォームは、アミノ酸130およびアミノ酸176(タンパク質のシグナルペプチドを除いた場合、夫々位置112および158とも称される)の2つの位置において他と異なる。APOE2は、Cys130/Cys176を含有する、III型高脂血症および他の疾患に関連することが観察されているが、神経保護の役割も果たす。APOE3はCys130/Arg176を含有し、最も一般的なAPOEアレルである。
【0020】
APOE4はArg130/Arg176を含有し、遅発性アルツハイマー病、アテローム性動脈硬化症、外傷性脳損傷(TBI)における好ましくない結果および他の疾患に関連していることが観察されている。ヒトにおいて、APOE遺伝子は19番染色体上に位置する。いくつかの態様において、APOE4は、配列番号1で表される核酸配列(例として、NCBI参照配列番号NM_001302690.1)によってコードされる。いくつかの態様において、APOE2は、配列番号2で表される核酸配列(例えば、NCBI参照配列番号NM_000041.3)によってコードされる。
【0021】
APOE遺伝子(例として、APOE4)を標的とする阻害性核酸は、長さが6~50ヌクレオチドである相補性の領域(例として、標的遺伝子、例えばAPOE4をコードする遺伝子にハイブリダイズする阻害性核酸の領域)を含み得る。いくつかの態様において、阻害性核酸は、長さが約6~30、約8~20、または約10~19ヌクレオチドである、APOEと相補性の領域を含む。いくつかの態様において、阻害性核酸は、APOE配列の少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25個の連続したヌクレオチドと相補的である。いくつかの態様において、APOE遺伝子を標的とする阻害性核酸は、非アレル特異的である(例として、阻害性核酸は、APOE遺伝子のすべてのアイソフォームをサイレンシングする)。いくつかの態様において、阻害性核酸は、APOEの1つ以上の特定のアレル、例えばAPOE2、APOE3、および/またはAPOE4の1つ以上を標的とする。
【0022】
いくつかの態様において、遺伝子産物(例として、APOE2をコードする導入遺伝子)は、天然に存在する遺伝子のコード部分(例として、cDNA)によりコードされる。いくつかの態様において、遺伝子産物は、APOE遺伝子のAPOE2アイソフォームによってコードされるタンパク質(またはそのフラグメント)である。いくつかの態様において、APOE2遺伝子は、配列番号3で表される核酸配列を含む。いくつかの態様において、遺伝子産物は、AD関連遺伝子(例として、APOE遺伝子のAPOE4アイソフォーム)を標的とする(例として、それにハイブリッドする、またはそれと相補性を有する領域を含む)阻害性核酸である。当業者は、第1の遺伝子産物(例として、APOE2)および第2の遺伝子産物(例として、APOE遺伝子のAPOE4アイソフォームを標的とする阻害性RNA)の発現の順序は、一般的に逆転され得ることを認識する(例として、阻害性RNAは第1の遺伝子産物であり、APOE2は第2の遺伝子産物である)。いくつかの態様において、遺伝子産物は、APOE遺伝子のフラグメント(例として、一部)である。タンパク質フラグメントは、APOE遺伝子によってコードされるタンパク質の約50%、約60%、約70%、約80%、約90%または約99%を含み得る。いくつかの態様において、タンパク質フラグメントは、配列番号3で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質の、50%~99.9%(例として、50%~99.9%の間のいずれかの値)を含む。いくつかの態様において、遺伝子産物(例として、阻害性RNA)は、標的遺伝子の一部にハイブリダイズする(例として、標的遺伝子、例えば、配列番号1で表される配列などの、APOEのAPOE4アイソフォームの、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、またはそれ以上の連続したヌクレオチドに相補的である)。
【0023】
いくつかの態様において、発現コンストラクトはモノシストロニックである(例として、発現コンストラクトは、第1の遺伝子産物および第2の遺伝子産物を含む単一の融合タンパク質をコードする)。いくつかの態様において、発現コンストラクトはポリシストロニックである(例として、発現コンストラクトは、2つの異なる遺伝子産物、例えば2つの異なるタンパク質またはタンパク質フラグメントをコードする)。
【0024】
ポリシストロニックな発現ベクターは、1つ以上(例えば、1、2、3、4、5、またはそれ以上)のプロモーターを含み得る。任意の適切なプロモーター、例えば、構成的プロモーター、誘導性プロモーター、内因性プロモーター、組織特異的プロモーター(例えば、CNS特異的プロモーター)などを使用することができる。いくつかの態様において、プロモーターは、ニワトリベータ-アクチンプロモーター(CBAプロモーター)、CAGプロモーター(例えば、Alexopoulou et al. (2008) BMC Cell Biol. 9:2; doi: 10.1186/1471-2121-9-2に記載のもの)、CD68プロモーター、またはJeTプロモーター(例えばTornoee et al. (2002) Gene 297(1-2):21-32に記載のもの)である。いくつかの態様において、プロモーターは、第1の遺伝子産物、第2の遺伝子産物、または第1の遺伝子産物と第2の遺伝子産物をコードする核酸配列に、作動可能に連結されている。いくつかの態様において、発現カセットは1つ以上の追加の調節配列を含み、これには、限定することなく、転写因子結合配列、イントロンスプライス部位、ポリ(A)付加部位、エンハンサー配列、リプレッサー結合部位、またはこれらの任意の組み合わせが含まれる。
【0025】
いくつかの態様において、第1の遺伝子産物をコードする核酸配列と第2の遺伝子産物をコードする核酸配列は、内部リボソーム進入部位(IRES)をコードする核酸配列によって分離されている。IRES部位の例は、例えば、Mokrejs et al. (2006) Nucleic Acids Res. 34(Database issue):D125-30に記載されている。いくつかの態様において、第1の遺伝子産物をコードする核酸配列と第2の遺伝子産物をコードする核酸配列は、自己切断型ペプチドをコードする核酸配列によって分離されている。自己切断型ペプチドの例には、限定はされないが、T2A、P2A、E2A、F2A、BmCPV 2A、およびBmIFV 2A、およびLiu et al. (2017) Sci Rep. 7: 2193に記載されたものが含まれる。いくつかの態様において、自己切断型ペプチドはT2Aペプチドである。
【0026】
いくつかの態様において、ADなどの障害は、APOE4の少なくとも1つのコピーの発現に関連する。したがって、いくつかの態様において、本明細書に記載の単離された核酸は、APOE4(例として、APOE)の発現を低減または予防する阻害性核酸を含む。阻害性核酸をコードする配列は、発現ベクターの非翻訳領域(例として、イントロン、5’UTR、3’UTRなど)に配置され得る。
【0027】
いくつかの態様において、阻害性核酸は、発現コンストラクトのイントロン、例えば、第1の遺伝子産物をコードする配列の上流のイントロンに配置される。阻害性核酸は、二本鎖RNA(dsRNA)、shRNA、siRNA、マイクロRNA(miRNA)、人工miRNA(amiRNA)、またはRNAアプタマーであることができる。一般に阻害性核酸は、標的RNA(例えば、mRNA)の約6~約30(例えば、6から30までの任意の整数)個の連続したヌクレオチドに結合する(例えば、ハイブリダイズする)。いくつかの態様において、阻害性核酸分子は、miRNAまたはamiRNA、例えば、APOEのAPOE4アイソフォーム(APOE4タンパク質コードする遺伝子)を標的とするmiRNAである。いくつかの態様において、miRNAは、それがハイブリダイズするAPOE mRNAの領域とのいかなるミスマッチも含まない(例として、miRNAは「完全」である)。いくつかの態様において、阻害性核酸は、shRNA(例として、APOEを標的とするshRNA)、例えば配列番号7、14および19のいずれか1つで表されるものである。いくつかの態様において、miRNAは、それがハイブリダイズするAPOE mRNAの領域と、少なくとも1つ(例として、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれ以上)のミスマッチを含む。
【0028】
いくつかの態様において、阻害性核酸は、人工マイクロRNA(amiRNA)である。マイクロRNA(miRNA)は典型的には、植物および動物に見られる小さな非コードRNAを指し、遺伝子発現の転写および翻訳後調節に機能する。miRNAは、RNAポリメラーゼによって転写されて、プリmiRNAと呼ばれるヘアピンループ構造を形成する;これは、その後酵素(Drosha、Pasha、スプライセオソームなど)によって処理されてプレmiRNAヘアピン構造を形成し、これは次にダイサーにより処理されて、miRNA/miRNA二重鎖(はmiRNA二重鎖のパッセンジャー鎖を示す)を形成し、その一方の鎖は次にRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に組み込まれる。いくつかの態様において、本明細書に記載の阻害性RNAは、APOEのAPOE4アイソフォーム(APOE4タンパク質をコードする遺伝子)を標的とするmiRNAである。
【0029】
いくつかの態様において、APOE(例として、APOEのAPOE4アイソフォーム)を標的とする阻害性核酸は、miRNA/miRNA二重鎖を含む。いくつかの態様において、miRNA/miRNA二重鎖のmiRNA鎖は、配列番号5、6、12、13、17、および18のいずれか1つで表される配列もしくはその一部を含むか、またはそれからなる。いくつかの態様において、miRNA/miRNA二重鎖のmiRNA鎖は、配列番号5、6、12、13、17、および18のいずれか1つで表される配列を含むか、またはそれからなる。
【0030】
人工マイクロRNA(amiRNA)は、天然のmiRNAを修飾して、プレmRNAの天然の標的化領域を目的の標的化領域で置き換えることにより誘導される。例えば、天然に発現するmiRNAを足場または骨格(例えば、プリmiRNA足場)として使用でき、ステム配列を、目的遺伝子を標的とするmiRNAのそれに置き換える。人工前駆体マイクロRNA(プレamiRNA)は、通常、単一の安定した低分子RNAが優先的に生成されるように処理される。いくつかの態様において、本明細書に記載のrAAVベクターおよびrAAVは、amiRNAをコードする核酸を含む。いくつかの態様において、amiRNAのプリmiRNA足場は、プリMIR-21、プリMIR-22、プリMIR-26a、プリMIR-30a、プリMIR-33、プリMIR-122、プリMIR-375、プリMIR-199、プリMIR-99、プリMIR-194、プリMIR-155、およびプリMIR-451からなる群から選択されるプリmiRNAに由来する。いくつかの態様において、amiRNAは、例えばFowler et al. Nucleic Acids Res. 2016 Mar 18; 44(5): e48に記載されているように、APOE(例として、APOEのAPOE4アイソフォーム)を標的とする核酸配列、およびeSIBR amiRNA足場を含む。
【0031】
いくつかの態様において、APOE(例として、APOEのAPOE4アイソフォーム)を標的とするamiRNAは、配列番号8、15、および20のいずれか1つで表される配列を含むか、またはそれからなる。
本明細書に記載の単離された核酸は、それ自体で、またはベクターの一部として存在し得る。一般にベクターは、プラスミド、コスミド、ファージミド、細菌人工染色体(BAC)、またはウイルスベクター(例えば、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レトロウイルスベクター、バキュロウイルスベクターなど)である。いくつかの態様において、ベクターは、プラスミド(例えば、本明細書に記載の単離された核酸を含むプラスミド)である。いくつかの態様において、ベクターは、組換えAAV(rAAV)ベクターである。rAAVは、rAAVベクターの「プラス鎖」または「マイナス鎖」のいずれかを含み得る。いくつかの態様において、rAAVベクターは、一本鎖である(例えば、一本鎖DNA)。いくつかの態様において、ベクターは、バキュロウイルスベクター(例として、Autographa californica核多角体病(AcNPV)ベクター)である。
【0032】
典型的には、rAAVベクターは、2つのAAV逆方向末端反復(ITR)配列の脇に配置される導入遺伝子(例として、以下:プロモーター、イントロン、エンハンサー配列、タンパク質コード配列、阻害性RNAコード配列、ポリAテール配列などの各々を1以上含む発現コンストラクト)を含む。いくつかの態様において、rAAVベクターの導入遺伝子は、本開示に記載の単離された核酸を含む。いくつかの態様において、rAAVベクターの2つのITR配列のそれぞれは、完全長ITR(例えば、長さが約145bpであり、機能的Rep結合部位(RBS)および末端分解部位(trs)を含む)である。いくつかの態様において、rAAVベクターのITRの1つは、切断されている(例えば、短縮されているかまたは完全長ではない)。いくつかの態様において、切断型ITRは、機能的末端分解部位(trs)を欠き、自己相補的AAVベクター(scAAVベクター)の生成のために使用される。いくつかの態様において、切断型ITRは、例えば、McCarty et al. (2003) Gene Ther. 10(26):2112-8に記載のΔITRである。
【0033】
本開示の側面は、野生型AAV ITRと比べて、例えば野生型AAV2 ITR(例えば、配列番号25)と比べて、1つ以上の修飾(例えば、核酸の追加、欠失、置換など)を有するITRを含む、単離された核酸(例えば、rAAVベクター)に関する。野生型AAV2 ITRの構造を、図6に示す。一般に野生型ITRは、自己アニーリングして回文構造の二本鎖T型ヘアピン構造(これは、2つのクロスアーム(それぞれB/B’およびC/C’と呼ばれる配列によって形成される)、より長いステム領域(配列A/A’によって形成される)、および「D」領域と呼ばれる一本鎖末端領域からなる)を形成する、125ヌクレオチドの領域を含む(図6)。一般に、ITRの「D」領域は、A/A’配列によって形成されるステム領域と、rAAVベクターの導入遺伝子を含むインサートの間に配置される(例えば、ITRの末端に対してITRの「内側」に配置されるか、またはrAAVベクターの導入遺伝子インサートもしくは発現コンストラクトの近位に配置される)。いくつかの態様において、「D」領域は、配列番号23に示される配列を含む。「D」領域は、例えば、Ling et al. (2015) J Mol Genet Med 9(3)に開示されるように、カプシドタンパク質によるrAAVベクターのカプシド形成において、重要な役割を果たすことが観察されている。
【0034】
本開示は、部分的に、ITRの「外側」に位置する「D」領域(例えば、導入遺伝子インサートまたは発現コンストラクトに対してITRの末端に近い)を含むrAAVベクターが、修飾されていない(例えば、野生型の)ITRを有するrAAVベクターよりも、AAVカプシドタンパク質によって効率的にカプシド化されるという、驚くべき発見に基づいている。いくつかの態様において、修飾された「D」領域を有するrAAVベクターは、野生型ITR配列を有するrAAVベクターと比べて毒性が減少している。
【0035】
いくつかの態様において、修飾「D」配列は、野生型「D」配列(例えば、配列番号23)と比べて、少なくとも1つのヌクレオチド置換を含む。修飾「D」配列は、野生型「D」配列(例えば、配列番号23)と比べて、少なくも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれ以上のヌクレオチド置換を有し得る。いくつかの態様において、修飾「D」配列は、野生型「D」配列(例えば、配列番号23)と比べて、少なくも10、11、12、13、14、15、16、17、18、または19のヌクレオチド置換を含む。いくつかの態様において、修飾「D」配列は、野生型「D」配列(例えば、配列番号23)と、約10%~約99%(例えば、10%、15%、20%、25%、30%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%)同一である。いくつかの態様において、修飾「D」配列は、Wang et al. (1995) J Mol Biol 250(5):573-80に記載のように、「S」配列とも呼ばれる配列番号22に示される配列を含む。
【0036】
本開示に記載の単離された核酸またはrAAVベクターはさらに、例えば、配列番号24に示されるような、またはFrancois, et al. 2005. J Virol The Cellular TATA Binding Protein Is Required for Rep-Dependent Replication of a Minimal Adeno-Associated Virus Type 2 p5 Elementに記載のような「TRY」配列を含み得る。いくつかの態様において、TRY配列は、単離された核酸またはrAAVベクターのITR(例えば、5’ITR)と発現コンストラクト(例えば、導入遺伝子をコードするインサート)との間に配置される。
【0037】
いくつかの側面において、本開示は、本開示に記載の単離された核酸またはrAAVベクターを含む、バキュロウイルスベクターに関する。いくつかの態様において、バキュロウイルスベクターは、例えばUrabe et al. (2002) Hum Gene Ther 13(16):1935-43およびSmith et al. (2009) Mol Ther 17(11):1888-1896に記載されるような、Autographa californica核多角体病(AcNPV)ベクターである。
【0038】
いくつかの側面において、本開示は、本明細書に記載の単離された核酸またはベクターを含む、宿主細胞を提供する。宿主細胞は、原核細胞または真核細胞であり得る。例えば宿主細胞は、哺乳動物細胞、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞などであり得る。いくつかの態様において、宿主細胞は哺乳動物細胞、例えば、HEK293T細胞である。いくつかの態様において、宿主細胞は細菌細胞、例えば大腸菌細胞である。
【0039】
rAAV
いくつかの側面において、本開示は、本明細書に記載の核酸をコードする導入遺伝子を含む、組換えAAV(rAAV)に関する(例えば、本明細書に記載のrAAVベクター)。「rAAV」という用語は一般に、1つ以上のAAVカプシドタンパク質によってカプシド化されたrAAVベクターを含む、ウイルス粒子を指す。本開示に記載のrAAVは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9およびAAV10から選択される血清型を有するカプシドタンパク質を含み得る。いくつかの態様において、rAAVは、非ヒト宿主由来のカプシドタンパク質、例えば、AAVrh.10、AAVrh.39などのアカゲザルAAVカプシドタンパク質を含む。いくつかの態様において、本開示に記載のrAAVは、野生型カプシドタンパク質のバリアントであるカプシドタンパク質を含み、これは例えば、それが由来する野生型AAVカプシドタンパク質に対して、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または10より多く(例えば、15、20、25、50、100など)のアミノ酸置換(例えば、変異)を含む、カプシドタンパク質バリアントである。
【0040】
いくつかの態様において、本開示に記載のrAAVは、特にCSF空間にまたは直接脳実質に導入された場合に、CNSを通して容易に広がる。したがって、いくつかの態様において、本開示に記載のrAAVは、血液脳関門(BBB)を通過することができるカプシドタンパク質を含む。例えば、いくつかの態様において、rAAVは、AAV9またはAAVrh.10血清型を有するカプシドタンパク質を含む。rAAVの生成は、例えば、Samulski et al. (1989) J Virol. 63(9):3822-8およびWright (2009) Hum Gene Ther. 20(7): 698-706に記載されている。
【0041】
いくつかの態様において、本開示に記載のrAAV(例えば、AAVカプシドタンパク質によってカプシド化されてrAAVカプシド粒子を形成する、組換えrAAVゲノムを含むもの)は、バキュロウイルスベクター発現系(BEVS)で生成される。BEVSを使用したrAAVの生成は、例えば以下に記載されている:Urabe et al. (2002) Hum Gene Ther 13(16):1935-43、Smith et al. (2009) Mol Ther 17(11):1888-1896、米国特許第8,945,918号、米国特許第9,879,282号、および国際PCT公開WO 2017/184879。しかしながらrAAVは、任意の適切な方法を使用して(例えば、組換えrepおよびcap遺伝子を使用して)生成され得る。
【0042】
医薬組成物
いくつかの側面において、本開示は、本明細書に記載の単離された核酸またはrAAVおよび薬学的に許容し得る担体を含む、医薬組成物を提供する。本明細書で使用する場合、「薬学的に許容し得る」という用語は、化合物の生物活性または特性を無効にせず、また比較的非毒性である、担体または希釈剤などの材料を指し、例えば材料は、望ましくない生物学的影響を引き起こしたり、またはそれが含まれている組成物の任意の成分と有害な様式で相互作用したりすることなく、個体に投与し得る。
【0043】
本明細書で使用する場合、用語「薬学的に許容し得る担体」とは、薬学的に許容し得る材料、組成物または担体、例えば、液体または固体の充填剤、安定剤、分散剤、懸濁剤、希釈剤、賦形剤、増粘剤、溶媒または封入材料などであって、本発明内で有用な化合物をそれが意図する機能を果たすことができるように患者内にまたは患者に運ぶかまたは輸送することに関連するものを、意味する。本発明の実施において使用される医薬組成物に含まれ得るさらなる成分は、当該分野で知られており、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences (Genaro, Ed., Mack Publishing Co., 1985, Easton, PA)に記載されている;これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0044】
本明細書で提供される組成物(例えば、医薬組成物)は、以下を含む任意の経路で投与することができる:経腸(例えば、経口)、非経口、静脈内、筋肉内、動脈内、髄内、髄腔内、皮下、脳室内(intraventricular)、経皮、皮内、直腸、膣内、腹腔内、局所的(粉末、軟膏、クリーム、および/または滴剤による)、粘膜、鼻腔、頬側、舌下;気管内注入、気管支注入、および/または吸入;および/または経口スプレー、鼻スプレー、および/またはエアロゾルとして。具体的に企図される経路は、経口投与、静脈内投与(例えば、全身静脈内注射)、血液および/またはリンパ供給による局所投与、および/または罹患部位への直接投与である。一般に、最も適切な投与経路は、様々な因子、例えば薬剤の性質(例えば、胃腸管の環境におけるその安定性)、および/または対象の状態(例えば、対象が経口投与に耐えることができるかどうか)などに依存するであろうある態様において、本明細書に記載の化合物または医薬組成物は、対象の眼への局所投与に好適である。
【0045】
方法
本開示は部分的に、アルツハイマー病を処置するために一緒に(例として、相乗的に)作用する、対象におけるAD関連遺伝子産物の組み合わせの発現のための組成物に基づく。本明細書で使用される「処置する」または「処置すること」とは、(a)アルツハイマー病の発病を予防または遅延させること;(b)アルツハイマー病の重症度を低減すること;(c)アルツハイマー病に特徴的な症状の発症を低減または予防すること;(d)および/または、アルツハイマー病に特徴的な症状の悪化を予防すること、を指す。アルツハイマー病の症状には、例えば、認知機能障害(例として、認知症、幻覚、記憶喪失など)、運動機能障害(例として、日常のタスクの実施困難など)、ならびに感情的および行動的機能障害が含まれる。
【0046】
したがって、いくつかの側面において、本開示は、アルツハイマー病を有するかまたは有することが疑われる対象を処置する方法を提供し、該方法は、対象に、本開示に記載の組成物(例として、単離された核酸またはベクターまたはrAAVを含む組成物)を投与することを含む。
【0047】
対象は、典型的には、哺乳動物、例えばヒト、イヌ、ネコ、ブタ、ハムスター、ラット、マウスなどである。いくつかの態様において、対象は、ヒトである。いくつかの態様において、対象は、APOE4アレルによって特徴づけられる。対象は、APOE4についてホモ接合(例として、APOE4+/+)またはヘテロ接合であり得る。いくつかの態様において、対象は、APOE4についてヘテロ接合であり、対象の第2のAPOEアレルは、APOE2およびAPOE3から選択される。
【0048】
いくつかの態様において、組成物は、対象のCNSに直接的に、例えば対象の脳および/または脊髄への直接注射によって、投与される。CNS直接投与法の例には、限定はされないが、脳内注射、脳室内注射、槽内注射、実質内注射、髄腔内注射、および前述の任意の組み合わせが含まれる。いくつかの態様において、対象のCNSへの直接注射は、対象の中脳、線条体および/または大脳皮質における、導入遺伝子発現(例として、第1の遺伝子産物、第2の遺伝子産物、および該当する場合は第3の遺伝子産物の発現)をもたらす。いくつかの態様において、CNSへの直接注入は、対象の脊髄および/またはCSFにおける導入遺伝子発現(例として、第1の遺伝子産物、第2の遺伝子産物、および該当する場合は第3の遺伝子産物の発現)をもたらす。
【0049】
いくつかの態様において、対象のCNSへの直接注射は、対流強化送達(CED)を含む。対流強化送達は、脳の外科的露出および小径カテーテルを脳の標的領域に直接配置し、続いて治療剤(例として、本明細書に記載の組成物またはrAAV)を対象の脳に直接注入することを含む、治療戦略である。CEDは、例えば、Debinski et al. (2009) Expert Rev Neurother. 9(10):1519-27に記載されている。
いくつかの態様において、組成物は、例えば末梢注射により、対象の末梢に投与される。末梢注射の例には、皮下注射、静脈内注射、動脈内注射、腹腔内注射、またはこれらの任意の組み合わせが含まれる。いくつかの態様において、末梢注射は、動脈内注射、例えば対象の頸動脈への注射である。
【0050】
いくつかの態様において、本開示に記載の組成物(例えば、単離された核酸またはベクターまたはrAAVを含む組成物)は、対象の末梢および直接的にCNSの両方で投与される。例えば、いくつかの態様において、対象は、動脈内注射(例えば、頸動脈への注射)および実質内注射(例えば、CEDによる実質内注射)によって、組成物を投与される。いくつかの態様において、CNSへの直接注射および末梢注射は同時である(例えば、同時に起こる)。いくつかの態様において、直接注射は、末梢注射の前(例えば、1分から1週間の間、またはそれより前)に行われる。いくつかの態様において、直接注射は、末梢注射の後(例えば、1分から1週間の間、またはその後)に行われる。
【0051】
対象に投与される本開示に記載の組成物(例えば、単離された核酸またはベクターまたはrAAVを含む組成物)の量は、投与方法に応じて変化するであろう。例えば、いくつかの態様において、本明細書に記載のrAAVは、対象に、約10ゲノムコピー(GC)/kgと約1014GC/kgの間(例えば、約10GC/kg、約1010GC/kg、約1011GC/kg、約1012GC/kg、約1012GC/kg、または約1014GC/kg)の力価で投与される。いくつかの態様において、対象は、高力価(例えば、>1012ゲノムコピーGC/kgのrAAV)を、CSF空間への注射により、または実質内注射により投与される。
【0052】
本開示に記載の組成物(例えば、単離された核酸またはベクターまたはrAAVを含む組成物)は、対象に1回または複数回(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、またはそれ以上)投与され得る。いくつかの態様において、組成物は対象に継続的に(例えば、慢性的に)、例えば注入ポンプを介して、投与される。
【実施例0053】

例1:核酸およびrAAVベクター
この例は、APOE2タンパク質またはその一部をコードする導入遺伝子および/またはAPOE4を標的とする阻害性核酸を含む、単離された核酸(例として、rAAVベクターなどのベクター、および単離された核酸を含有するrAAV)について説明する。いくつかの態様において、この例に記載のコンストラクトは、APOE4アイソフォームの少なくとも1つのコピーを有するアルツハイマー病(AD)を有するかまたは有することが疑われる対象を処置するために有用である。いくつかの態様において、対象は、APOE4アイソフォームについてホモ接合(例として、APO44+/+)である。
【0054】
shRNAをコードする単離された核酸は、具体的にはin vitroおよびin vivoの両方でAPOE4アイソフォームの発現をノックダウンするために利用される。いくつかの態様において、shRNAは非アレル特異的であり、例として、それらは、他のAPOEアイソフォーム(例として、E2、E3、またはE4)の発現をノックダウンすることもできる。
APOE2をコードする導入遺伝子をコードする単離された核酸は、APOE2を過剰発現するために利用される。アイソフォームにかかわらず、野生型APOEを標的とするshRNAによって認識されないように、APOE2導入遺伝子は、細胞内の内因性APOE2配列と充分に異なるようにコドン最適化されている。
【0055】
shRNAおよび導入遺伝子は、同じプロモーターまたは別のプロモーターに作動可能に連結され得る。shRNAは、別のプロモーター、典型的にはPol IIIプロモーター(例として、H1プロモーター)、またはPol IIプロモーター(例としてCBA、T7など)の下で発現する。一般に、shRNAは、コドン最適化されたAPOE2導入遺伝子を含むオープンリーディングフレームの上流のイントロン配列に配置されたPol IIプロモーターに作動可能に連結される。本開示によって記載される発現コンストラクトの例は、図1~5および以下の表1に示される。
【0056】
単離された核酸を含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)は、トリプルプラスミドトランスフェクション用のHEK293細胞などの細胞を使用して生成される。ITR配列は、典型的には、以下:少なくとも1つのプロモーター/エンハンサー要素、3’ポリAシグナル、およびWPRE要素などの翻訳後シグナルの1つ以上を含む発現コンストラクトに隣接する。APOEのAPOE2アイソフォームおよび1つ以上の阻害性核酸(例として、APOEのAPOE4アイソフォームを標的とする阻害性核酸)などの複数の遺伝子産物は同時に発現される。発現された遺伝子の上流に効率的にスプライシングされる短いイントロン配列の存在は、発現レベルを改善し得る。shRNAおよび他の調節性RNAは、潜在的にこれらの配列内に含まれ得る。
【0057】
表1
【表1】
【0058】
例2:APOE4+/+細胞へのウイルス形質導入の細胞ベースアッセイ
細胞は、例えばAD患者からの線維芽細胞、単球、またはhES細胞、または患者由来の人工多能性幹細胞(iPSC)として取得される。これらの細胞は、アミロイド-βタンパク質を含むタンパク質性プラークと、タンパク質タウのねじれた鎖を含むタングルを蓄積する。
【0059】
このような細胞モデルを使用して、ADに関連する神経変性の特徴は、例えば、α-アミロイド-β抗体またはα-リン酸化タウ抗体を利用して、プラークやタングルなどのタンパク質凝集体の蓄積の観点から定量化され、続いて蛍光顕微鏡を使用したイメージングされる。アミロイド-β、リン酸化タウ、またはAPOE4などのタンパク質マーカーのICCによるADに関連する神経変性の特徴のイメージングも行われる。ウェスタンブロッティング、ELISA、および/またはqPCRが、これらの細胞におけるAPOE4発現レベルを定量するために使用される。
【0060】
治療エンドポイント(例として、ADに関連する病的状態の低減)は、rAAVの形質導入の発現の文脈において測定され、活性と機能を確認および定量される。アミロイド-βおよびリン酸化タウのレベルも、ウェスタンブロッティング、ELISA、および/またはqPCRを使用して定量される。
【0061】
例3:ヒトAPOE4を発現するマウスを使用したin vivoアッセイ
この例は、突然変異体マウスを使用したrAAVのin vivoアッセイについて説明する。突然変異体マウスにおける上記のrAAVのin vivo研究は、例えば、Liao et al. (2018) J. Clin. Invest 128(5): 2144-2155; Rosenberg, et al. (2018) Hum Gene Ther Clin Dev 29(1): 24-47; Zhao et al. (2016) Neurobiol Aging 44: 159-172によって記載されるアッセイを使用して行われる。これらの突然変異体マウスは、マウスのAPOE遺伝子座にヒトAPOE4アイソフォームを保持している。
ビークル対照とrAAV(例として、2×1011vg/マウスの用量)の髄腔内または脳室内送達は、濃縮されたrAAVストックを使用して、例えば5~10μLの注射体積で行われる。対流強化送達による実質内送達が行われる。
処置は、症状の発病前または発病に続いてのいずれかで開始される。測定されたエンドポイントは、CNSおよびCSFにおけるAPOE4およびAPOE2発現のレベルである。
【0062】
例4:ADのマウスモデルのin vivoアッセイ
この例は、突然変異体マウスを使用したrAAVのin vivoアッセイについて説明する。突然変異体マウスにおける上記のrAAVのin vivo研究は、例えば、Liao et al. (2018) J. Clin. Invest 128(5): 2144-2155; Rosenberg, et al. (2018) Hum Gene Ther Clin Dev 29(1): 24-47; Zhao et al. (2016) Neurobiol Aging 44: 159-172によって記載されるアッセイを使用して行われる。これらの突然変異体マウスは、マウスのAPOE遺伝子座にヒトAPOE4アイソフォームを保持している。いくつかの場合において、ヒトADにおけるアミロイド-βプラークの発生をモデル化するために、これらのマウスは、突然変異体ヒトアミロイド前駆体タンパク質(APP)、突然変異体ヒトプレセニリン1(PS1)タンパク質、および/または突然変異体ヒトプレセニリン2(PS2)タンパク質も発現する。
【0063】
ビークル対照とrAAV(例として、2×1011vg/マウスの用量)の髄腔内または脳室内送達は、濃縮されたrAAVストックを使用して、例えば5~10μLの注射体積で行われる。対流強化送達による実質内送達が行われる。末梢送達は、尾静脈注射によって達成される。
処置は、症状の発病前または発病に続いてのいずれかで開始される。測定されたエンドポイントは、CNSおよびCSFにおけるAPOE4およびAPOE2発現のレベル、Aβ42などのより長いアミロイド-β(Aβ)種の蓄積、すべてのAβ種の増大、運動および認知エンドポイント、ならびにアミロイド-βプラークおよびタウタングルの蓄積である。
【0064】
例5:AD患者の臨床試験
この例は、ADを有する患者において、本開示によって記載されるrAAVの安全性および有効性を査定するための臨床試験を説明する。
ADの処置のための本開示のrAAVの臨床試験は、Grabowski et al. (1995) Ann. Intern. Med. 122(1):33-39に記載されているものと同様の研究設計を使用して行われる。rAAVは、CSF中に、実質内に、海馬に、または別の脳領域に、または末梢に送達される。
測定されるエンドポイントは、アミロイド-βプラークのレベル、タウタングル、運動および認知エンドポイント、ならびにAPOE4およびAPOE2タンパク質のレベルである。
【0065】
例6:アミロイド-β抗体と組み合わせたAD患者における臨床試験
この例は、ADを有する患者におけるアミロイド-β抗体(例として、バピネオズマブおよびソラネズマブ)と組み合わせて利用される、本開示によって記載されるrAAVの安全性および有効性を査定するための臨床試験を説明する。
ADの処置のための、抗アミロイド-β抗体と組み合わせた本開示のrAAVの臨床試験は、Grabowski et al. (1995) Ann. Intern. Med. 122(1):33-39に記載されているものと同様の研究設計を使用して行われる。rAAVは、CSFに、実質内に、海馬に、または別の脳領域に、または末梢に送達される。
【0066】
いくつかの態様において、本開示のrAAVは、抗アミロイド-β抗体と相乗作用して、AD患者がアミロイド関連画像異常(ARIA)を発症する可能性を低減させ、これはAPOE遺伝子型と高度に相関する。ARIAは、具体的にはヒトモノクローナル抗体によるアミロイド修飾療法に関連する、AD患者に観察される一連の異常である。脳の浮腫を指すARIA-E、および脳微小出血を指すARIA-HのARIAの2種類が存在する。
【0067】
評価されるエンドポイントは、ARIAが発生したかどうかを決定するための処置前後の脳イメージング、ならびに本開示のrAAVがARIAの可能性、アミロイド-βプラークのレベル、タウタングル、運動および認知エンドポイント、ならびにAPOE4およびAPOE2タンパク質のレベルを低減するかどうかである。
【0068】
例7:APOE4+/+、APOE4+/-、およびAPOE4-/-であるAD患者における臨床試験
この例は、APOE4+/-またはAPOE4-/-である患者と比較したAPOE4+/+であるADを有する患者の、脳卒中、冠動脈疾患、アテローム性動脈硬化症、頭部外傷からの回復不良、およびバイパス装置での外科手術からの認知回復を含む、他の病状の増大したリスクの改善における、本開示によって記載されるrAAVの有効性を査定するための臨床試験について説明する。
【0069】
ADの処置およびAPOE4+/+である患者に関連する他の状態の増大したリスクの改善のための、本開示のrAAVの臨床試験は、Grabowski et al. (1995) Ann. Intern. Med. 122(1):33-39に記載されているものと同様の研究設計を使用して行われる。rAAVは、CSFに、実質内に、海馬に、または別の脳領域に、または末梢に送達される。
本開示のrAAVによる処置の前後に評価されるエンドポイントは、血圧、血中コレステロールおよび血糖レベル、運動および認知エンドポイント、MRI、PET、および冠状動脈の超音波イメージング、認知的外傷(cognitive trauma)からの回復、ならびにバイパス装置での外科手術からの回復である。
【0070】
例8:APOE4アイソフォームの患者保有者におけるADの予防またはADの処置
この例は、少なくとも1つのAPOE4アイソフォームを有する対象がADを発症するリスクの低減、および少なくとも1つのAPOE4アイソフォームを有する患者におけるADの処置における、本開示によって記載されるrAAVの有効性を査定するための臨床試験について説明する。APOE4アイソフォームを有する患者は、APOE4+/+またはAPOE4+/-のいずれかであり得る。
APOE4アレルの保有者におけるADの予防または処置のための本開示のrAAVの臨床試験は、Grabowski et al. (1995) Ann. Intern. Med. 122(1):33-39に記載されているものと同様の研究設計を使用して行われる。rAAVは、CSFに、実質内に、海馬に、または別の脳領域に、または末梢に送達される。
本開示のrAAVによる処置の前後に評価されるエンドポイントは、CSFおよび血液中のAPOE4およびAPOE2のレベル、ならびに認知および運動エンドポイントである。
【0071】
例9:ITR「D」配列配置および細胞形質導入の試験
rAAVの細胞形質導入に対するITR「D」配列の配置の効果を調査する。HEK293細胞は、図6に示されるとおり、1)野生型ITR(例として、導入遺伝子インサートの近位、かつITRの末端の遠位にある「D」配列)または2)ベクターの「外側」に位置する「D」を含むITR(例として、ITRの末端の近位、かつ導入遺伝子インサートの遠位に位置する「D」配列)を有するApoE2をコードするrAAVによりで形質導入される。
【0072】
例9:内在性APOEサイレンシングおよびAPOE2過剰発現に対するshRNAのin vitro検証
APOEに対するユニークなshRNAおよびAPOE2のコドン最適化されたコード配列を含有する複数のプラスミドをin vitroトランスフェクションスクリーニングで評価し、APOE(例として、APOE4)ノックダウンとAPOE2の異種発現の程度を査定した。プラスミドは、ベクターにコードされたAPOE2タンパク質の発現に影響を与えることなく、内在性APOE遺伝子を選択的にノックダウンするように特別に設計された。複数のプラスミドは、qRT-PCRを介して、内在性APOEの低減(図7A)およびコドン最適化されたAPOE2の発現(図7B)を示す。shRNA候補は、コドン最適化されたAPOE2に影響を与えることなく、内在性APOEの有意な低減を示した。
【0073】
例10:内在性APOEサイレンシングおよびAPOE2過剰発現に対するshRNAのin vivo検証
コドン最適化されたAPOE2に影響を与えない内因性APOEの有意な低減を実証するshRNA候補は、さらなるin vivo研究のために選択される。APOE4ノックイン(KI)マウスモデルは、APOE4に対する候補shRNAのin vivoでの有効性を評価するために使用される。APOE4 KIマウスにおいて、両方のマウスApoeアレルがヒトAPOE-ε4で置き換えられる。マウス(n=5)は、側脳室内(intracerebroventricular)注射(ICV)を介してAPOE4に対する候補shRNAを運ぶベクターを受け取り、ヒトAPOE4 mRNAの体内分布を注射の60日後に分析する(図8)。
【0074】
均等物
本発明の少なくとも1つの態様のいくつかの側面をこのように説明してきたが、様々な変更、修正、および改善が当業者には容易に思い浮かぶであろうことを理解されたい。かかる変更、修正、および改善は、この開示の一部であることが意図されており、本発明の精神および範囲の内にあることが意図されている。したがって、前述の説明および図面は、例示としてのみのものである。
【0075】
本明細書では本発明のいくつかの態様を説明および図示してきたが、当業者は、本明細書に記載の機能を実行し、および/または結果および/または1つ以上の利点を取得するための、さまざまな他の手段および/または構造を容易に思い浮かべるであろうし、かかる変更および/または修正のそれぞれは、本発明の範囲内であると見なされる。より一般的には、当業者は、本明細書に記載のすべてのパラメータ、寸法、材料、および構成が例示であることを意味し、実際のパラメータ、寸法、材料、および/または構成は、本発明の教示が使用される特定の用途(単数または複数)に依存することを、容易に理解するであろう。当業者は、本明細書に記載される本発明の特定の態様に対する多くの均等物を認識し、または日常的な実験のみを使用して確認することができるであろう。したがって、前述の態様は例としてのみ提示され、添付の特許請求の範囲およびその均等物の範囲内で、本発明は、具体的に記載されおよび特許請求された以外の方法で実施できることを理解されたい。本発明は、本明細書に記載の個々の特徴、システム、物品、材料、および/または方法を対象とする。さらに、2つ以上のかかる特徴、システム、物品、材料、および/または方法の任意の組み合わせは、かかる特徴、システム、物品、材料、および/または方法が相互に矛盾しない場合、本発明の範囲内に含まれる。
【0076】
本明細書および特許請求の範囲で使用される不定冠詞「a」および「an」は、明確に逆が示されない限り、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきである。
本明細書および特許請求の範囲で使用される「および/または」という語句は、そのように結合された要素の「いずれかまたは両方」、すなわち、ある場合には結合的に存在し、他の場合には分離的に存在する要素を意味すると理解すべきである。明確に逆が示されない限り、任意に他の要素も、「および/または」節で具体的に識別された要素以外に、具体的に識別された要素に関連するかどうかに関係なく存在し得る。したがって非限定的な例として、「含む」などのオープンエンドの言語と組み合わせて使用される場合の「Aおよび/またはB」への言及は、一態様では、BなしでAを指す(任意にB以外の要素を含む)ことができ;別の態様では、AなしでBを指す(任意にA以外の要素を含む)ことができ;さらに別の態様では、AおよびBの両方を指す(任意に他の要素を含む)ことができる;など。
【0077】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、「または」は、上記で定義された「および/または」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、リスト内の項目を分ける場合、「または」または「および/または」は、包括的、すなわち要素の数またはリストの少なくとも1つを含み、さらにまた複数も含み、および任意にリストされていない追加の項目を含むものとして解釈される。明確に逆の用語が示されている場合、例えば「1つのみ」または「正確に1つ」など、または特許請求の範囲で使用されている場合の「からなる」は、要素の数またはリストの正確に1つを含むことを指す。一般に、本明細書で使用される「または」という用語は、排他性の用語、例えば「いずれか」、「1つ」または「1つのみ」、または「正確に1つ」が先行する場合には、排他的選択肢(すなわち、一方または他方だが、両方ではない)を指すとして解釈されるべきである。特許請求の範囲で使用される場合の「から本質的になる」は、特許法の分野で使用される通常の意味を有するものとする。
【0078】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、1つ以上の要素のリストに関して「少なくとも1つ」という語句は、要素のリストの任意の1つ以上の要素から選択される少なくとも1つの要素を意味すると理解されたい;ただし、要素のリスト内に具体的にリストされているすべてのそれぞれの要素の少なくとも1つを必ずしも含む必要はなく、要素のリスト内の要素の任意の組み合わせを除外することもない。この定義により、「少なくとも1つ」という句が参照する要素のリスト内で具体的に識別された要素以外の要素が、具体的に識別された要素に関連するかどうかに関係なく、任意に存在可能とされる。したがって、非限定的な例として、「AおよびBの少なくとも1つ」(または、同等に、「AまたはBの少なくとも1つ」、または同等に「Aおよび/またはBの少なくとも1つ」)は、一態様では、少なくとも1つ、任意に複数のAを含み、Bが存在しない(および任意にB以外の要素を含む);別の態様では、少なくとも1つ、任意に複数のBを含み、Aが存在しない(任意にA以外の要素を含む);さらに別の態様では、少なくとも1つ、任意に複数のAを含み、および少なくとも1つ、任意に複数のBを含む(および任意に他の要素を含む);など。
【0079】
特許請求の範囲、および上記の明細書において、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「保持する(carrying)」、「有する」、「含有する」、「含む(involving)」、「保有する(holding)」などのすべての移行句は、オープンエンドとして、すなわち、限定することなく含むことを意味すると理解されたい。「からなる」および「本質的にからなる」という移行句のみが、米国特許庁の特許審査手続きマニュアルのSection 2111.03に記載されているように、それぞれクローズまたはセミクローズの移行句とする。
「第1」、「第2」、「第3」などの順序を示す用語の、クレーム要素を修飾するためのクレームにおける使用は、それ自体では、あるクレーム要素の他に対する優先権、先行、もしくは順序、または方法の行為が実行される時間的な順序を示すものではなく、しかし、特定の名前を有する一定のクレーム要素を、同じ名前(ただし順序用語のみが異なる)の別の要素から区別するためのラベルとしてのみ使用されて、クレーム要素を区別する。
明確に逆が示されない限り、1つ以上のステップまたは行為を含む本明細書で特許請求される任意の方法において、方法のステップまたは行為の順序は必ずしも、方法のステップまたは行為が示されている順序に限定されないことも、理解されるべきである。
【0080】
配列
いくつかの態様において、1つ以上の遺伝子産物(例として、第1、第2および/または第3の遺伝子産物)をコードする発現カセットは、配列番号1~21のいずれか1つで表される配列を含むか、またはそれからなる。いくつかの態様において、遺伝子産物は、配列番号1~21のいずれか1つで表される配列の一部(例として、フラグメント)によってコードされる。当業者は、阻害性核酸をコードする核酸配列が、全ての「T」が「U」よって置き換えられている配列を記載し得ることを理解する。
【0081】
>ヒトAPOE4核酸配列(NM_001302690.1)(配列番号1)
【表2-1】

【表2-2】
【0082】
>ヒトAPOE2核酸配列(NM_000041.3)(配列番号2)
【表3】
【0083】
>ヒトApoE2アミノ酸配列(配列番号3)
【表4-1】

【表4-2】
【0084】
>ApoE2核酸配列(コドン最適化された)(配列番号4)
【表5】
【0085】
>ApoE4 shRNA1核酸配列(配列番号5)
【表6】

>ApoE4 shRNA1核酸配列(配列番号6)
【表7】

>ループを有するApoE4 shRNA1(配列番号7)
【表8】

>ApoE4 amiRNA1(配列番号8)
【表9】

>ApoE4 amiRNA rAAVベクターH1(配列番号9)
【表10-1】

【表10-2】

>ApoE4 amiRNA rAAVベクター1(配列番号10)
【表11】

>ApoE4 amiRNA-ApoE2opt rAAVベクター1(配列番号11)
【表12-1】

【表12-2】

>ApoE4 shRNA2核酸配列(配列番号12)
【表13】

>ApoE4 shRNA2核酸配列(配列番号13)
【表14】

>ループを有するApoE4 shRNA2(配列番号14)
【表15】

>ApoE4 amiRNA2(配列番号15)
【表16】

>ApoE4 amiRNA-ApoE2opt rAAVベクター2(配列番号16)
【表17-1】

【表17-2】

>ApoE4 shRNA3核酸配列(配列番号17)
【表18】

>ApoE4 shRNA3核酸配列(配列番号18)
【表19】

>ループを有するApoE4 shRNA3(配列番号19)
【表20】

>ApoE4 amiRNA3(配列番号20)
【表21】

>ApoE4 amiRNA-ApoE2opt rAAVベクター3(配列番号21)
【表22-1】

【表22-2】

>AAV2 ITR D領域「S」配列(配列番号22)
【表23】

>AAV2 ITR D領域「D」配列(配列番号23)
【表24】

>TRYモチーフ配列(配列番号24)
【表25】

>野生型AAV2 ITR核酸配列(配列番号25)
【表26】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
【配列表】
2024177670000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-09-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
APOE2を発現する導入遺伝子およびAPOE4の発現または活性を阻害する阻害性核酸をコードする発現コンストラクトを含む、単離された核酸。
【外国語明細書】