(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177671
(43)【公開日】2024-12-20
(54)【発明の名称】合金材料の製造方法およびその利用
(51)【国際特許分類】
B22F 7/08 20060101AFI20241213BHJP
C22C 1/08 20060101ALI20241213BHJP
C22C 1/00 20230101ALI20241213BHJP
C22C 9/00 20060101ALN20241213BHJP
B22F 1/00 20220101ALN20241213BHJP
B22F 1/05 20220101ALN20241213BHJP
B32B 15/01 20060101ALN20241213BHJP
【FI】
B22F7/08 C
C22C1/08 F
C22C1/00 J
C22C9/00
B22F1/00 L
B22F1/00 P
B22F1/05
B32B15/01 H
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024159090
(22)【出願日】2024-09-13
(62)【分割の表示】P 2020181768の分割
【原出願日】2020-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 慶樹
(57)【要約】
【課題】タングステン部材と他の金属部材との強固かつ信頼性の高い接合を実現する新規な技術を提供する。
【解決手段】ここに開示される製造方法は、タングステン(W)元素を含むW源と、銅(Cu)元素を含むCu源とが接触し、W源とCu源との境界においてWおよびCuが酸化している酸化接触体を準備し、酸化接触体に対して還元雰囲気下で焼成処理を行う。これによって、W元素とCu元素とが相互に拡散した合金材料であるW-Cu合金を製造できる。かかるW-Cu合金を用いることによって、タングステン部材と他の金属部材とを強固に接合できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン(W)元素を含むW源と、銅(Cu)元素を含むCu源とが接触し、前記W源と前記Cu源との境界においてWおよびCuが酸化している酸化接触体を準備し、前記酸化接触体に対して還元雰囲気下で焼成処理を行う、合金材料の製造方法。
【請求項2】
前記W源は、W元素を含む固形の金属部材である、請求項1に記載の合金材料の製造方法。
【請求項3】
前記W源は、タングステン、窒化タングステン、炭化タングステン、炭窒化タングステン、銅タングステン複合材料、銀タングステン複合材料からなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項2に記載の合金材料の製造方法。
【請求項4】
前記Cu源は、銅元素を含む銅粒子によって実質的に構成されるCu粉体を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の合金材料の製造方法。
【請求項5】
前記Cu粉体は、SEM観察に基づく平均粒子径が10nm以上5000nm以下である、請求項4に記載の合金材料の製造方法。
【請求項6】
前記Cu源は、前記Cu粉体を所定の溶媒に分散させたCuペーストである、請求項4または5に記載の合金材料の製造方法。
【請求項7】
前記W源と前記Cu源とが接触した接触体に対して酸化処理を行うことによって前記酸化接触体を準備する、請求項1~6のいずれか一項に記載の合金材料の製造方法。
【請求項8】
前記酸化処理を実施した後、前記焼成処理を実施する前において、少なくとも、前記W源と接触する前記Cu源の表面から5nm以上の領域に酸化銅が存在している、請求項7に記載の合金材料の製造方法。
【請求項9】
前記酸化処理を実施した後、前記焼成処理を実施する前において、少なくとも、前記Cu源と接触する前記W源の表面から5nm以上の領域に酸化タングステンが存在している、請求項7または8に記載の合金材料の製造方法。
【請求項10】
前記酸化処理において、酸化雰囲気下で前記接触体を加熱する、請求項7~9のいずれか一項に記載の合金材料の製造方法。
【請求項11】
前記酸化処理における加熱温度は、50℃以上200℃以下である、請求項10に記載の合金材料の製造方法。
【請求項12】
前記酸化処理における加熱時間は、0.5時間以上である、請求項10または11に記載の合金材料の製造方法。
【請求項13】
前記焼成処理は、中性ガス又は不活性ガスと還元ガスとを混合した混合ガスが充填された雰囲気で実施される、請求項1~12のいずれか一項に記載の合金材料の製造方法。
【請求項14】
前記混合ガスにおける前記還元ガスの濃度は1%~5%である、請求項13に記載の合金材料の製造方法。
【請求項15】
前記還元ガスは、水素ガスである、請求項13または14に記載の合金材料の製造方法。
【請求項16】
前記焼成処理における加熱温度は、500℃以上1100℃以下である、請求項1~15のいずれか一項に記載の合金材料の製造方法。
【請求項17】
前記焼成処理における加熱時間は、0.1時間以上である、請求項1~16のいずれか一項に記載の合金材料の製造方法。
【請求項18】
銅(Cu)元素とタングステン(W)元素とが相互に分散したW-Cu合金を主成分として含有し、厚みが5nm以上である、合金材料。
【請求項19】
タングステン(W)元素を含むW部材と、
前記W部材の表面に形成され、銅(Cu)元素とタングステン(W)元素とが相互に分散したW-Cu合金を主成分として含有するW-Cu合金層と
を備え、
前記W-Cu合金層の厚みが5nm以上である、金属積層体。
【請求項20】
請求項19に記載の金属積層体と、
前記金属積層体の前記W-Cu合金層の表面と接合された接合対象と
を備えた、金属接合体。
【請求項21】
前記接合対象が、銅(Cu)元素を含むCu部材である、請求項20に記載の金属接合体。
【請求項22】
前記Cu部材は、タフピッチ銅、無酸素銅、銅合金、銅粉焼結体からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項21に記載の金属接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金材料の製造方法および当該製造方法によって得られる種々の部材に関する。
【背景技術】
【0002】
タングステン(W)を含むタングステン部材(以下「W部材」ともいう)は、融点が高く、かつ、熱膨張率が低いという特徴を有し、高温環境での信頼性に優れている。このため、W部材は、ダイバータ、加速器、プラズマ放電装置、高温炉、薄膜形成装置等の高温環境に晒される超高温部品に使用される。一方、タングステンは、希少かつ高価な金属であり、かつ、加工が困難である。このため、W部材と他の金属部材とを接合させた金属接合体が広く使用されている。かかるW部材の接合対象の一例として、銅(Cu)製の部材(以下「Cu部材」ともいう)が挙げられる。
【0003】
しかし、国立研究開発法人 物質・材料研究機構等による無機材料データベース(AtomWork)によると、W部材とCu部材との間では金属元素が相互拡散した合金が生じないとされている。すなわち、W部材とCu部材との接合においては、2つの金属部材の境界に合金を生成して強固な接合部を形成するという接合手段が使用できないと考えられており、合金の生成以外の接合手段が作用されている。かかる他の接合手段の一例として、強い圧力でW部材とCu部材とを加圧しながら加熱するという手段が挙げられる。かかる手段で作製した接合体では、W部材とCu部材との接合界面における非常に薄い領域に金属間結合が生じていると考えられている。また、特許文献1には、W部材とCu部材とを接合した異種金属接合体の製造方法が記載されている。この製造方法では、銅含有バルク材料(Cu部材)とタングステン含有材料(W部材)との間に銅粉末を介在させた後に、所定の雰囲気下で放電プラズマ焼結処理する。特許文献1には、上述の接合手段(製造方法)によって、接合強度に優れ、種々の問題の発生が抑制された異種金属接合体を製造できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年では、W部材の用途の広がりに伴い、W部材と他の金属部材(例えば、Cu部材)とを接合した金属接合体の接合強度と信頼性を更に高めることが求められている。しかしながら、上述した従来の接合手段では、近年の要求に応えるような強固かつ信頼性の高い接合を実現することが困難であった。本発明は、上述の問題を解決するためにされたものであり、その主な目的は、タングステン部材と他の金属部材との強固かつ信頼性の高い接合を実現する新規な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上述の課題を解決するために種々の実験と検討を行った結果、W源と、Cu元素を含むCu源とが接触し、当該W源とCu源との境界にW酸化物とCu酸化物が存在している酸化接触体に対して還元雰囲気下で焼成処理を行うと、驚くべきことに、相互拡散しないと考えられていたW元素とCu元素とが相互に拡散した合金材料(W-Cu合金)が生成されることを発見した。そして、本発明者は、このW-Cu合金を用いれば、合金材料を介したW部材と他の金属部材の接合が可能になるため、強固かつ信頼性が高い金属接合体を作製できると考えた。
【0007】
ここに開示される合金材料の製造方法(以下、単に「製造方法」ともいう)は、上述の知見に基づいてなされたものである。すなわち、ここに開示される製造方法は、タングステン(W)元素を含むW源と、銅(Cu)元素を含むCu源とが接触し、W源とCu源との境界においてWおよびCuが酸化している酸化接触体を準備し、酸化接触体に対して還元雰囲気下で焼成処理を行う。これによって、W元素とCu元素とが相互拡散したW-Cu合金を形成できる。そして、このW-Cu合金を介してW部材とCu部材を接合することによって、強固かつ信頼性が高い金属接合体を作製できる。
【0008】
ここに開示される製造方法の一態様では、W源は、W元素を含む固形の金属部材(W部材)である。このようにW部材をW源として使用することによって、当該W部材の表面にW-Cu合金を生成できる。そして、このようにW部材の表面にW-Cu合金が形成された金属積層体は、W部材と他の金属部材とが接合された金属接合体を作製する際に好適に使用できる。
【0009】
ここに開示される製造方法の一態様では、W源は、タングステン、窒化タングステン、炭化タングステン、炭窒化タングステン、銅タングステン複合材料、銀タングステン複合材料からなる群から選択される少なくとも一種を含む。上述のW系材料をW源として使用することによってW-Cu合金を適切に形成できる。
【0010】
ここに開示される製造方法の一態様では、Cu源は、銅元素を含む銅粒子によって実質的に構成されるCu粉体である。このような粉体のCu源を使用することによって、W元素とCu元素との相互拡散が生じやすくなるため、W-Cu合金の製造効率を向上できる。
【0011】
上記Cu粉体を使用する態様において、Cu粉体は、SEM観察に基づく平均粒子径が10nm以上5000nm以下であることが好ましい。このように非常に微少なCu粉体を使用することによって、W元素とCu元素との相互拡散がさらに生じやすくなるため、より効率よくW-Cu合金を製造できる。
【0012】
ここに開示される製造方法の一態様では、Cu源は、Cu粉体を所定の溶媒に分散させたCuペーストである。これによって、W源とCu源とが接触しやすくなるため、W-Cu合金の製造効率が更に向上する。また、W源がW部材である場合には、作製後のW-Cu合金とW部材との間に空隙が生じることを防止できる。
【0013】
ここに開示される製造方法の一態様では、W源とCu源とが接触した接触体に対して酸化処理を行うことによって酸化接触体を準備する。これによって、酸化接触体を容易に得ることができる。なお、ここに開示される製造方法は、かかる態様に限定されず、個別に酸化されたW源とCu源を接触させたものを酸化接触体として使用してもよい。
【0014】
上記酸化処理を実施する態様では、酸化処理を実施した後、焼成処理を実施する前において、少なくとも、W源と接触するCu源の表面から5nm以上の領域に酸化銅が存在している。このように、Cu源の表面から所定の厚みで酸化銅が存在するように酸化処理を実施することによって、一定以上の厚み(典型的には5nm以上)のW-Cu合金をより適切に生成させることができる。
【0015】
上記酸化処理を実施する態様では、酸化処理を実施した後、焼成処理を実施する前において、少なくとも、Cu源と接触するW源の表面から5nm以上の領域に酸化タングステンが存在している。このように、W源の表面から所定の厚みで酸化タングステンが存在するように酸化処理を実施することによって、一定以上の厚み(典型的には5nm以上)のW-Cu合金をより適切に生成させることができる。
【0016】
上記酸化処理を実施する態様では、酸化処理において、酸化雰囲気下で接触体を加熱する。これによって、W源とCu源を短時間で充分に酸化できるため、W-Cu合金を効率よく製造できる。
【0017】
上記酸化処理を実施する態様では、酸化処理における加熱温度は、50℃以上200℃以下であることが好ましい。酸化処理の加熱温度を50℃以上にすることによって、より短時間でW源とCu源を充分に酸化できる。一方で、酸化処理の加熱温度を200℃以下にすることによって、酸化処理中にW源とCu源が焼結することを確実に防止できると共に、Cu源の過剰な酸化を防止することができる。
【0018】
上記酸化処理を実施する態様では、酸化処理における加熱時間は、0.5時間以上であることが好ましい。これによって、W源とCu源を充分に酸化させることができるため、W-Cu合金を適切に製造できる。
【0019】
ここに開示される製造方法の一態様では、焼成処理は、中性ガス又は不活性ガスと還元ガスとを混合した混合ガスが充填された雰囲気で実施される。このように中性ガス(若しくは不活性ガス)を混合して還元ガスの濃度を低下させることによって、酸化銅等が低温環境で還元されることを抑制し、高温環境に昇温するまで酸化状態を維持できるため、W-Cu合金の生成効率が向上する。
【0020】
また、上述のように、還元ガスを含む混合ガスを充填した雰囲気で焼成処理を実施する場合、混合ガスにおける還元ガスの濃度は1%~5%が好ましい。このように還元ガス濃度が非常に薄い混合ガスを使用することによって、W-Cu合金の生成効率をより好適に向上させることができる。また、このときに使用する還元ガスとしては、水素ガスが好ましい。
【0021】
ここに開示される製造方法の一態様では、焼成処理における加熱温度は、500℃以上1100℃以下である。焼成処理の加熱温度を500℃以上にすることによって、W元素とCu元素の相互拡散を促進し、W-Cu合金の製造効率を向上することができる。一方で、焼成処理の加熱温度を1100℃以下にすることによって、W源とCu源が溶融してしまうことを防止できる。
【0022】
ここに開示される製造方法の一態様では、焼成処理における加熱時間は、0.1時間以上である。これによって、W元素とCu元素との相互拡散を充分に生じさせ、W-Cu合金を適切に製造することができる。
【0023】
また、ここに開示される技術の他の側面として、上述の製造方法によって製造された合金材料が提供される。この合金材料は、銅(Cu)元素とタングステン(W)元素とが相互に分散したW-Cu合金を主成分として含有したW-Cu合金材料である。そして、上述の製造方法によると、厚みが5nm以上のW-Cu合金材料を製造できる。このように充分な厚みを有するW-Cu合金材料は、W部材と他の金属部材とを接合する接合材料として好適である。
【0024】
さらに、ここに開示される技術の他の側面として、W-Cu合金層を備えた金属積層体が挙げられる。かかる金属積層体は、タングステン(W)元素を含むW部材と、W部材の表面に形成され、銅(Cu)元素とタングステン(W)元素とが相互に分散したW-Cu合金を主成分として含有するW-Cu合金層とを備えている。そして、ここに開示される金属積層体は、W-Cu合金層の厚みが5nm以上である。かかる構成の金属積層体を使用することによって、充分な厚みのW-Cu合金層を介してW部材と他の金属部材とを接合し、強固かつ信頼性が高い金属接合体を作製できる。
【0025】
加えて、ここに開示される技術の他の側面として金属接合体が提供される。かかる金属接合体は、上述した金属積層体と、金属積層体のW-Cu合金層の表面と接合された接合対象とを備えている。かかる金属接合体では、W-Cu合金層を介してW部材と他の金属部材とが接合されているため、強固であり、高い信頼性を有している。
【0026】
ここに開示される接合体の一態様では、接合対象が、銅(Cu)元素を含むCu部材である。また、かかるCu部材は、タフピッチ銅、無酸素銅、銅合金、銅粉焼結体からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。ここに開示される技術によって得られるW-Cu合金は、Cu部材と特に好適に接合できる。換言すると、ここに開示される技術は、W部材とCu部材とが接合された金属接合体の製造に特に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】(a)はサンプル1の断面SEM像(100000倍)であり、(b),(c)はそれぞれEDX分析に基づいたCu,Wの元素マップである。
【
図2】(a)はサンプル2の断面SEM像(100000倍)であり、(b),(c)はそれぞれEDX分析に基づいたCu,Wの元素マップである。
【
図4】(a)はサンプル3の断面SEM像(50000倍)であり、(b)~(d)はそれぞれEDX分析に基づいたO,Cu,Wの元素マップである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、ここに開示される技術の一実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここに開示される技術の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここに開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施できる。なお、本明細書において、「A~B(A、Bは数値)」と記載した場合、「A以上B以下」を意味するものとする。
【0029】
1.合金材料の製造方法
先ず、ここに開示される合金材料の製造方法について説明する。ここに開示される製造方法では、酸化接触体に対して還元雰囲気下で焼成処理を行う。これによって、W元素とCu元素とが相互に拡散した合金材料(W-Cu合金)を製造できる。以下、かかる製造方法における各手順ついて具体的に説明する。
【0030】
(1)酸化接触体の準備
ここに開示される製造方法では、先ず、酸化接触体を準備する。なお、本明細書における「酸化接触体」とは、W源とCu源とが接触している接触体のうち、W源とCu源との境界にW酸化物とCu酸化物が存在しているものをいう。
【0031】
(a)W源
W源は、タングステン(W)元素を含む材料であればよく、その形態や具体的な成分は特に限定されない。例えば、W源の形態は、W元素を含む固形の金属部材(W部材)であってもよいし、W元素を含むタングステン粒子によって実質的に構成されるW粉体であってもよい。また、W源は、W粉体を所定の溶媒に分散させたWペーストであってもよい。なお、これらの形態の中でも、固形の金属部材であるW部材をW源として用いることが好ましい。これによって、W部材の表面にW-Cu合金が形成された金属積層体を製造できる。これによって、W部材と他の金属部材(接合対象)とを接合する際の手順を簡素化できる。また、W源としてW粉体を使用する場合、当該W粉体の平均粒子径は、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましく、1μm以下が特に好ましい。このように微細なW粉体をW源として使用することによって、後述する還元焼成処理におけるW元素とCu元素との相互拡散を促進できる。また、酸化接触体を準備する際のW源の取り扱い易さを考慮すると、W粉体の平均粒子径は、10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、30nm以上がさらに好ましく、50nm以上が特に好ましい。なお、本明細書における「平均粒子径」は、SEM観察もしくはTEM観察に基づいて測定した200個の粒子の面積円相当径の算術平均値である。また、W源としてWペーストを使用する場合、W粉体以外の成分(溶媒、バインダ、分散剤など)は、特に限定されず、一般的な金属ペーストに添加できる成分を特に制限なく使用できる。
【0032】
また、W源の成分の一例としては、タングステン、窒化タングステン、炭化タングステン、炭窒化タングステンなどが挙げられる。なお、W元素の不足によるW-Cu合金の生成不良を防止するという観点から、W源は、W元素を主成分として含むことが好ましい。ここで、「W元素を主成分として含む」とは、W元素以外の元素が意図的に含まれていないことを指す。したがって、原料や製造工程等に由来する不可避的不純物(W元素以外の金属元素)がW源に含まれている場合は、本明細書における「W元素を主成分として含む」の概念に包含される。例えば、W源を構成する金属元素の総数を100at%としたときのW元素の原子数が75at%以上であれば、「W元素を主成分として含む」ということができる。なお、焼成処理におけるW元素の拡散を更に適切に生じさせるという観点から、W源におけるW元素の原子数は、77.5at%以上が好ましく、80at%以上がより好ましく、82.5at%以上がさらに好ましく、85at%以上が特に好ましい。なお、W源におけるW元素の原子数の上限は、特に限定されず、99.5at%以下であってもよく、97.5at%以下であってもよく、95at%以下であってもよく、92.5at%以下であってもよく、90at%以下であってもよい。なお、W源は、上述した「W元素を主成分として含む」形態に限定されない。例えば、W源は、W系材料と他の材料とを複合した複合材料で構成されていてもよい。例えば、W源には、銅(Cu)、銀(Ag)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、金(Au)、トリウム(Th)等が含まれていてもよい。この種の複合材料の一例として、銅タングステン複合材料、銀タングステン複合材料などが挙げられる。また、W源は、W系材料とセラミックとを混合した複合材料で構成されていてもよい。W源に含まれ得るセラミックの一例として、トリア(ThO2)、イットリア(Y2O3)等の高融点セラミックが挙げられる。
【0033】
(b)Cu源
上述したW源と同様に、Cu源も、銅(Cu)元素を含む材料であればよく、その形態や具体的な成分は特に限定されない。例えば、Cu源は、Cu元素を含むCu粒子によって実質的に構成されるCu粉体であってもよい。Cu粉体のような微細なCu源を用いることによって、後述の還元焼成処理においてCu元素の拡散が生じやすくなる。なお、Cu元素の拡散をより好適に生じさせるという観点から、Cu粉体の平均粒子径は、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましく、2μm以下が特に好ましい。また、Cu粉体の粒子径が小さくなり過ぎると、酸化接触体を準備する際のCu源の取り扱いが難しくなる傾向がある。かかる観点から、Cu粉体の平均粒子径は、10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、30nm以上がさらに好ましく、50nm以上が特に好ましい。また、Cu源は、上述のCu粉体を所定の溶媒に分散させたCuペーストであってもよい。これによって、W源とCu源とが接触しやすくなるため、W-Cu合金の生成効率が更に向上する。特に、W源が固形の金属部材(W部材)である場合には、Cu源としてCuペーストを使用することによって、作製後のW-Cu合金とW部材との間に空隙が生じることを防止できる。なお、Cuペーストを使用する場合、Cu粉体以外の成分(溶媒、バインダ、分散剤など)は、特に限定されず、一般的な金属ペーストに添加できる成分を特に制限なく使用できる。また、Cu源は、上述したCu粉に限定されず、Cu元素を含む固形の金属部材(Cu部材)であってもよい。このCu部材をCu源として使用することによって、Cu部材の表面にW-Cu合金層が形成された金属積層体を製造できる。
【0034】
また、本工程で使用するCu源は、Cu元素を含む材料であればよく、その成分は特に限定されない。具体的には、Cu源に混合し得る金属元素としては、金(Au)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)シリカ(Si)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ベリリウム(Be)などが挙げられる。なお、還元焼成処理においてCu元素の拡散を適切に生じさせるという観点から、Cu源は、Cu元素を主成分として含むことが好ましい。ここで、「Cu元素を主成分として含む」とは、Cu元素以外の元素が意図的に含まれていないことを指す。したがって、原料や製造工程等に由来する不可避的不純物(Cu元素以外の金属元素)がCu源に含まれている場合は、本明細書における「Cu元素を主成分として含む」の概念に包含される。例えば、Cu源を構成する金属元素の総数を100at%としたときのCu元素の原子数が75at%以上であれば、「Cu元素を主成分として含む」ということができる。なお、焼成処理におけるCu元素の拡散を更に適切に生じさせるという観点から、Cu源におけるCu元素の原子数は、77.5at%以上が好ましく、80at%以上がより好ましく、82.5at%以上が特に好ましい。なお、Cu源におけるCu元素の原子数の上限は、特に限定されず、99.5at%以下であってもよく、97.5at%以下であってもよく、95at%以下であってもよく、92.5at%以下であってもよく、90at%以下であってもよい。
【0035】
(c)酸化接触体の準備
ここに開示される製造方法では、上述したW源とCu源とを用いて酸化接触体を準備する。かかる酸化接触体を得るための手段の一例として、W源とCu源とが接触した接触体を予め準備し、かかる接触体に対して酸化処理を行うという手段が挙げられる。以下、かかる手段の具体的な手順を説明する。
【0036】
(c-1)接触体の準備
上述した通り、ここでは、W源とCu源とが接触した接触体を準備する。接触体の形態は、W源とCu源の各々の形態に応じて変化するものであり、ここに開示される技術を限定するものではない。例えば、W源とCu源の両方が固形の金属部材であった場合には、各々の金属部材(W部材とCu部材)を密着させることによって接触体を準備できる。また、W源とCu源の両方が粉体材料である場合には、各々の粉体材料(W粉体とCu粉体)を混合した混合粉体を接触体として準備することができる。また、上述したように、W源としてW部材を用意し、Cu源としてCuペーストを用意した場合には、W部材の表面にCuペーストを塗布することによって接触体を準備できる。このようにペーストの塗布によってW源とCu源とを接触させることによって、W源とCu源とを容易に密着させることができるため、還元焼成処理後のW-Cu合金とW部材との間に空隙が生じることを防止できる。また、W源としてW部材を用意し、Cu源としてCu粉体を用意した場合には、Cu粉体を枠体の中に充填した成形体をW部材に接触させることで接触体を準備できる。
【0037】
(c-2)酸化処理
次に、上述した接触体に対して酸化処理を施す。これによって、W源とCu源の各々が酸化し、W源とCu源の境界にW酸化物およびCu酸化物が存在した酸化接触体が生成される。かかる酸化処理の具体的な手順は、特に限定されず、従来公知の種々の手段を特に制限なく採用できる。例えば、酸化処理では、酸化雰囲気下で接触体を加熱してもよい。このような加熱を伴う酸化処理を行うことによって、W源とCu源を短時間で充分に酸化させることができるため、酸化接触体の生成効率(すなわち、W-Cu合金の製造効率)の向上に貢献できる。なお、本工程を実施した後のCu源には、少なくとも、W源と接触する表面から5nm以上(より好ましくは20nm以上、さらに好ましくは50nm以上、特に好ましくは100nm以上)の領域に酸化銅が存在していることが好ましい。このようにCu源を充分に酸化させるような酸化処理を実施することによって、厚みが5nm以上のW-Cu合金をより適切に生成させることができる。一方、本工程を実施した後のW源には、少なくとも、Cu源と接触する表面から5nm以上(より好ましくは7nm以上、さらに好ましくは10nm以上、特に好ましくは15nm以上)の領域に酸化タングステンが存在していることが好ましい。このようにW源を充分に酸化させるような酸化処理を実施することによって、厚みが5nm以上のW-Cu合金をより適切に生成させることができる。
【0038】
なお、加熱を伴う酸化処理を行う場合、上述のような所定の厚みの酸化物を生じさせるには、加熱温度を50℃以上にすることが好ましく、60℃以上にすることがより好ましく、80℃以上にすることがさらに好ましく、100℃以上にすることが特に好ましい。これによって、W源とCu源の酸化を適切に促進して充分な厚みの酸化物を生成できる。一方、酸化処理中にW源やCu源が焼結することを防止すると共に、Cu源の過剰な酸化を防止するという観点から、酸化処理における加熱温度の上限は、200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましく、160℃以下がさらに好ましく、140℃以下が特に好ましい。かかる条件で酸化処理を行うことによって、処理後のCu源の表面に、1価の酸化銅(酸化銅(I))が生じる。さらに、酸化処理における加熱時間は、W源とCu源を充分に酸化させるという観点の下で調節することが好ましい。一例として、酸化処理における加熱時間は、0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、1.5時間以上がさらに好ましく、2時間以上が特に好ましい。一方、加熱時間の上限は、特に限定されず、24時間以下であってもよく、21時間以下であってもよい。なお、酸化処理の短縮による製造効率の向上を考慮すると、酸化処理における加熱時間の上限は、10時間以下が好ましく、7.5時間以下がより好ましく、5時間以下が特に好ましい。但し、これらの酸化処理における加熱時間は、ここに開示される技術を限定するものではなく、適宜変更することができる。例えば、加熱温度を上昇させた場合には、W源とCu源を充分に酸化させるために要する加熱時間を短縮することができる。なお、本明細書における「加熱温度」は加熱処理における最高温度を指し、「加熱時間」は当該最高温度を維持する時間を指す。なお、上述したように、W源とCu源とを充分に酸化させることができれば、酸化処理の具体的な手順は特に限定されない。例えば、W源とCu源を接触させた接触体を酸素雰囲気で長期間(例えば10日以上)放置すれば、加熱処理を行わなくてもW源とCu源とが充分に酸化された酸化接触体を得ることができる。
【0039】
(c-3)他の手段
また、酸化接触体を得る手段は、上述の手段に限定されず、種々の手段を採用することができる。例えば、W源とCu源の各々の表面を個別に酸化させた後に、当該酸化した表面同士を接触させてもよい。このような手段を用いて準備した酸化接触体を使用した場合でも、ここに開示されるW-Cu合金を製造できる。
【0040】
(2)還元焼成処理
次に、ここに開示される製造方法では、上述のように準備した酸化接触体に対して、還元雰囲気下で焼成処理を行う。かかる還元焼成処理において、W元素とCu元素との相互拡散が生じ、W-Cu合金が生成される。かかるW-Cu合金は、上述したように、従来では生じることがないとされていた合金材料である。ここに開示される技術を限定することを意図したものではないが、このような合金材料の生成メカニズムとしては、次のような仮説が考えられる。ここに開示される製造方法では、W源とCu源との界面にW酸化物とCu酸化物が生じた酸化接触体を使用する。そして、この酸化接触体に対して還元焼成処理を行うと、当該焼成処理の初期においてW酸化物とCu酸化物が相互に拡散したタングステン銅複合酸化物(W-Cu複合酸化物)が生成される。その後に還元焼成処理を継続すると、W-Cu複合酸化物の還元が進んでW-Cu合金が生成される。また、W-Cu合金の生成メカニズムの仮説の他の例として、次のようなものも考えられる。酸化したCu源(酸化銅)に対して還元焼成処理を行うと、還元反応の過程でCu元素が活性化される。これによって、W源へのCu元素の拡散が生じやすくなった結果、W-Cu合金が生成された可能性もある。
【0041】
なお、この還元焼成処理における加熱温度は、750℃以上が好ましく、800℃以上がより好ましく、850℃以上がさらに好ましく、900℃以上が特に好ましい。これによって、W-Cu合金の製造効率を向上することができる。一方、還元焼成処理における加熱温度が高くなり過ぎると、W源とCu源が溶融してしまい、W-Cu合金が生成されなくなる可能性がある。かかる観点から、加熱温度の上限は、1250℃以下が好ましく、1200℃以下がより好ましく、1150℃以下がさらに好ましく、1100℃以下が特に好ましい。また、還元焼成処理における加熱時間は、0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。これによって、W-Cu合金を適切に製造することができる。一方、還元焼成処理の短縮による製造効率の向上を考慮すると、本工程における加熱時間の上限は、5時間以下が好ましく、4時間以下がより好ましく、3時間以下が特に好ましい。
【0042】
また、焼成中の雰囲気は、還元雰囲気に調節されていれば特に限定されない。焼成雰囲気を還元雰囲気にするために使用される還元ガスの一例として、水素(H2)ガス、炭化水素(CH4、C3H8など)ガスなどが挙げられる。また、W-Cu合金をより適切に生成するという観点から、焼成処理は、中性ガス又は不活性ガスと還元ガスとを混合した混合ガスが充填された雰囲気で実施することが好ましい。このように中性ガス(若しくは不活性ガス)を混合して還元ガスの濃度を低下させると、酸化銅、酸化タングステン、銅タングステン複合酸化物の還元反応が完了する温度が高温化する。これによって、酸化銅等が低温環境(200℃程度)で還元されて銅に戻ることを抑制し、高温環境に昇温するまで酸化状態を維持できるため、還元反応と共にW元素とCu元素との相互拡散が生じやすくなり、W-Cu合金の生成効率が向上する。なお、上述した還元ガスと混合される不活性ガスの一例としては、アルゴン(Ar)ガスなどが挙げられる。また、中性ガスの一例としては、窒素(N2)ガス、アンモニアなどが挙げられる。そして、上述した混合ガスにおける還元ガス(例えば、水素(H2)ガス)の濃度は、20%以下が好適であり、1%~5%がより好適であり、例えば3%に設定され得る。このように還元ガス濃度が非常に薄い混合ガスを使用することによって、500℃以上という高温環境に昇温するまで酸化状態を維持し、当該高温環境で還元反応を生じさせることができるため、W-Cu合金の生成効率をより好適に向上させることができる。
【0043】
2.合金材料
次に、ここに開示される製造方法によって製造された合金材料について説明する。ここに開示される製造方法によると、Cu元素とW元素とが相互に分散したW-Cu合金を主成分として含有し、厚みが5nm以上である合金材料(W-Cu合金材料)が製造される。そして、当該厚みが5nm以上のW-Cu合金材料を用いることによって、W部材と他の金属部材(例えば、Cu部材)とを強固に接合できる。具体的には、上述したCu部材とW部材とを直接接合する従来技術でも、Cu部材とW部材との境界における1nm未満(典型的には数原子程度)の非常に狭い領域でW元素とCu元素との拡散が生じている可能性がある。しかし、このような非常に狭い領域においてW元素とCu元素との拡散が生じていたとしても、W部材とCu部材との接合強度は劇的に改善されない。これに対して、ここに開示される製造方法によると、厚み5nm以上のW-Cu合金材料を容易に製造できる。すなわち、ここに開示される技術によると、Cu部材とW部材との接合強度を改善できる合金材料を提供できる。
【0044】
なお、上述したように、ここに開示されるW-Cu合金材料は、W-Cu合金を主成分として含有する。ここで、「W-Cu合金を主成分として含有する」とは、W元素とCu元素以外の元素が意図的に含まれていないことを指す。したがって、本明細書における「W-Cu合金材料」は、W元素とCu元素以外に、原料や製造工程等に由来する不可避的不純物を微量に含む金属材料を包含する。例えば、ここに開示されるW-Cu合金材料は、構成元素の総数を100at%としたときのW元素とCu元素の合計原子数が75at%以上となる金属材料を包含する。なお、W部材やCu部材との接合性をより充分に確保するという観点から、W-Cu合金部材におけるW元素とCu元素の合計原子数は、80at%以上が好ましく、82.5at%以上がより好ましく、85at%以上が特に好ましい。なお、W-Cu合金材料におけるW元素とCu元素の合計原子数の上限は、特に限定されず、100at%以下であってもよく、99.5at%以下であってもよく、99at%以下であってもよく、98at%以下であってもよく、97at%以下であってもよい。なお、W-Cu合金材料に含まれ得る元素(不可避的不純物)としては、O、Cu、Pt、Mo、Fe、Pd、Ir、Au、Co、Ni、Zn、Al、Sn、Pb、Mn、Ag、Thなどが挙げられる。
【0045】
なお、W-Cu合金におけるW元素とCu元素との含有比率は特に限定されない。一例として、W-Cu合金におけるW元素とCu元素の合計原子数を100at%としたときのW元素の原子数は、5at%~50at%であることが好ましい。このW元素の原子数が増加するにつれて、W部材との接合性が向上する傾向がある。かかる観点から、W元素の原子数は、10at%以上が好ましく、15at%以上がより好ましく、20at%以上が特に好ましい。一方、W元素の原子数が減少するにつれてCu元素の原子数が相対的に増加するため、Cu部材との接合性が向上する傾向がある。かかる観点から、W元素の原子数は、40at%以下が好ましく、35以下%以上がより好ましく、30at%以下が特に好ましい。
【0046】
また、上述したように、W部材と他の金属部材とを強固に接合するという観点から、W-Cu合金材料は、その厚みが5nm以上であることが求められる。なお、W部材と他の金属部材との接合強度をさらに改善するという観点から、W-Cu合金材料の厚みは、50nm以上が好ましく、100nm以上が好ましく、150nm以上が好ましく、200nm以上が好ましい。なお、W-Cu合金部材の厚みの上限は、特に限定されず、1000nm以下であってもよく、900nm以下であってもよく、800nm以下であってもよく、700nm以下であってもよく、600nm以下であってもよく、500nm以下であってもよい。
【0047】
3.金属積層体および金属接合体
ここに開示される技術によると、W-Cu合金を含む部材(金属積層体および金属接合体)を作製することもできる。以下、各々について具体的に説明する。
【0048】
(1)金属積層体
ここに開示される技術によると、W部材の表面にW-Cu合金層が形成された金属積層体が提供される。かかる金属積層体は、例えば、上述した通り、接触体の準備において、W部材の表面にCuペーストを塗布した接触体を作製することによって容易に得ることができる。また、この金属積層体は、既に生成したW-Cu合金材料をW部材の表面に溶接するという方法で作製することもできる。そして、この金属積層体は、W-Cu合金層を接合面とすることによって、他の金属部材と容易に接合できる。すなわち、ここに開示される金属積層体を用いることによって、W部材と他の金属部材とが接合された金属接合体を容易に作製できる。なお、上述したように、W部材と他の金属部材との接合強度を充分に確保するため、ここに開示される金属積層体のW-Cu合金層の厚みは、5nm以上に設定される。なお、この金属積層体に用いられるW部材は、W元素を含む固形の金属部材であればよく、その形状や成分は特に限定されない。例えば、金属積層体のW部材は、上述したW源として使用され得るW部材と同じものを使用できるため、重複する説明を省略する。
【0049】
(2)金属接合体
上述したW部材とW-Cu合金とを備えた金属積層体のW-Cu合金層側の表面に、他の金属部材(接合対象)を接合することによって金属接合体が形成される。この金属接合体は、例えば、上述した接触体の準備において、W部材と接合対象との間にCuペーストを配置した接触体を作製することによって容易に得ることができる。また、この金属接合体は、上述した金属積層体のW-Cu合金層に接合対象を溶接するという方法で作製することもできる。
【0050】
なお、ここに開示される技術において、W部材の接合対象は、特に限定されず、従来公知の金属部材を特に制限なく使用できる。例えば、接合対象は、W部材とは異なる金属部材(異種金属部材)であってもよい。具体的には、W-Cu合金を介してW部材と異種金属部材とを接合することによって、W部材と異種金属部材とを強固かつ高い信頼性で接合できる。なお、異種金属部材は、W-Cu合金と接合可能な金属部材であれば特に限定されない。このような異種金属部材の一例として、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)などを含む金属部材が挙げられる。また、上述した異種金属部材の中でも、銅を主成分として含むCu部材は、W-Cu合金と特に好適に接合させることができ、かつ、比較的に安価な金属部材であるため、接合対象として好適である。なお、このCu部材の具体例として、タフピッチ銅、無酸素銅、銅合金、銅粉焼結体などが挙げられる。また、ここに開示される技術におけるW部材の接合対象は、異種金属部材に限定されない。換言すると、ここに開示されるW-Cu合金材料は、W部材同士を接合する際にも使用できる。
【0051】
以上の通り、ここに開示される技術によると、従来から相互拡散しないと考えられていたW元素とCu元素とを含む合金材料(W-Cu合金)を生成できる。そして、5nm以上の厚みのW-Cu合金材料を用いることによって、W部材と他の金属部材とを強固に接合することができる。すなわち、ここに開示される技術によると、タングステン部材と他の金属部材との強固かつ信頼性の高い接合を実現できるため、ダイバータ、加速器、プラズマ放電装置、高温炉、薄膜形成装置等の超高温部品の性能向上に貢献できる。なお、ここに開示されるW-Cu合金の用途は、W部材の接合に限定されず、金属部材(例えばW部材)の表面を保護するバリア膜、触媒などに使用することもできる。
【0052】
[試験例]
以下、本発明に関する試験例を説明するが、かかる試験例は本発明を限定することを意図したものではない。
【0053】
本試験では、W部材とCu部材とを接合した3種類の金属接合体(サンプル1~3)を作製し、各々の金属接合体に対して種々の解析を行った。
【0054】
(1)サンプル1
先ず、Cu部材(厚さ0.3mm×15mm×15mmのタフピッチ銅板)の片面全面にCuペーストを塗布した。そして、Cuペーストの上に、W部材(厚さ0.3mm×7.5mm×7.5mmのタングステン板)を載せて指で軽く押さえつけることによって、W部材とCuペーストとが接触した接触体を作製した。なお、本サンプルで使用したCuペーストは、平均粒子径1μmのCu粉を90wt%含有するものである。また、Cu粉以外の材料は、ガラス粉と、バインダ(エチルセルロース系樹脂)と、分散材と、溶剤とである。
【0055】
次に、上述した接触体に対して、酸化雰囲気下で120℃、4時間加熱する加熱処理を実施することによって酸化接触体を作製した。このとき、Cuペーストが乾燥したCu膜を観察すると、やや赤みを帯びていた。このことから、上述の加熱処理によってCu粉体が酸化して赤色の酸化銅(I)が生じたと解される。そして、N
2-H
2(3%)ガスが充填された還元雰囲気に酸化接触体を移動させ、脱バインダ処理(昇温速度:10℃/min、加熱温度:400℃、加熱時間:1時間)を実施した。そして、還元雰囲気を維持したまま焼成処理(昇温速度:5℃/min、最高温度:1000℃、焼成時間:30分間)を実施した。そして、焼成後のサンプルを室温まで冷却してサンプル1を得た。そして、このサンプル1のイオンミリングで研磨し、SEM観察とEDX分析を行った。結果を
図1に示す。なお、
図1中の(a)は断面SEM画像(100000倍)であり、(b)はCuの元素マップであり、(c)はWの元素マップである。
【0056】
図1に示すように、サンプル1では、W部材とCu部材との間に、W元素とCu元素とが相互に拡散したW-Cu合金が形成されていることが確認された。このことから、W源とCu源との境界においてW酸化物とCu酸化物が存在している酸化接触体に対して還元焼成処理を実施することによって、従来は発生しないと考えられていたW元素とCu元素との相互拡散が生じることが分かった。また、サンプル1にて観察されたW-Cu合金の厚みは230nm程度であった。そして、かかる厚みのW-Cu合金を介して接合されたW部材とCu部材との金属接合体は、非常に強い強度を有していた。
【0057】
(2)サンプル2
ここでは、還元焼成処理の前の加熱処理の時間を21時間に延長した点を除いて、サンプル1と同じ条件でサンプル2を作製した。そして、加熱処理の後にCuペーストを塗布した面を観察した結果、サンプル1よりも赤みが強いCu膜が形成されていた。このことから、本サンプルでも加熱処理によってCu粉が酸化したと解される。そして、作製したサンプル2に対して、サンプル1と同じ条件でSEM観察とEDX分析を実施した。結果を
図2に示す。なお、
図2中の(a)は断面SEM画像(100000倍)であり、(b)はCuの元素マップであり、(c)はWの元素マップである。また、サンプル2では、100000倍の断面SEM画像である
図3(a)~(c)中のポイント1~3の各ポイントにおいてEDX分析を行い、WとCuの原子数の比率(at%)を測定した。測定結果を以下の表1に示す。
【0058】
【0059】
図2~
図3および表1に示すように、サンプル2においても、W部材とCu部材との間(例えば
図3中のポイント2)において、W元素とCu元素とが相互に拡散したW-Cu合金が生成されていた。このことから、酸化処理の時間を21時間に延長した場合でも、W-Cu合金を生成できることが分かった。また、サンプル2においても、サンプル1と同様に、W-Cu合金の厚みが5nmを超えており、非常に強い接合強度を有していた。
【0060】
(3)サンプル3
ここでは、還元焼成処理の前の加熱処理の時間を30分に短縮した点を除いて、サンプル1と同じ条件でサンプル3を作製した。そして、加熱処理の後にCuペーストを塗布した面を観察すると、サンプル1、2のような赤色の膜は形成されていなかった。このことから、本サンプルでは、Cu粉の酸化が不充分であったと解される。そして、作製したサンプル3に対して、サンプル1と同じ条件でSEM観察とEDX分析を実施した。結果を
図4に示す。なお、
図4中の(a)は断面SEM画像(50000倍)であり、(b)はOの元素マップであり、(c)はCuの元素マップであり、(d)はWの元素マップである。
【0061】
図3に示すように、サンプル3では、Cu部材とW部材との境界が明確に確認されていることから、W元素とCu元素との相互拡散が生じていないと解される。このことから、還元焼成処理を行う前にCu部材とW部材が充分に酸化されていない場合には、W-Cu合金が生成されないことが分かった。以上の実験結果から、W元素とCu元素とが相互に拡散したW-Cu合金を生成するには、Cu源とW源とが酸化する酸化処理を行った後に、還元雰囲気下で焼成処理をする必要があることが分かった。
【0062】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【手続補正書】
【提出日】2024-10-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン(W)元素を含むW源と、銅(Cu)元素を含むCu源とが接触し、前記W源と前記Cu源との境界においてWおよびCuが酸化している酸化接触体を準備し、前記酸化接触体に対して還元雰囲気下で焼成処理を行い、
前記焼成処理を実施する前において、少なくとも、前記W源と接触する前記Cu源の表面から5nm以上の領域に酸化銅が存在している、合金材料の製造方法。
【請求項2】
前記W源と前記Cu源とが接触した接触体に対して酸化処理を行うことによって前記酸化接触体を準備する、請求項1に記載の合金材料の製造方法。
【請求項3】
タングステン(W)元素を含むW源と、銅(Cu)元素を含むCu源とが接触し、前記W源と前記Cu源との境界においてWおよびCuが酸化している酸化接触体を準備し、前記酸化接触体に対して還元雰囲気下で焼成処理を行い、
前記焼成処理を実施する前において、少なくとも、前記Cu源と接触する前記W源の表面から5nm以上の領域に酸化タングステンが存在している、合金材料の製造方法。