(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177686
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】電気炉の炉内温度計測方法、電気炉の炉内温度計測装置、電気炉の制御方法、電気炉の制御装置、電気炉の炉内温度計測プログラム、電気炉の炉内温度計測プログラムを格納したコンピュータ読取可能な記憶媒体、及び金属材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
F27D 21/00 20060101AFI20241217BHJP
F27D 11/08 20060101ALI20241217BHJP
F27B 3/28 20060101ALI20241217BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20241217BHJP
C21B 11/10 20060101ALI20241217BHJP
C21C 5/52 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
F27D21/00 G
F27D11/08 A
F27B3/28
C22B7/00 A
C21B11/10
C21C5/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095956
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松永 有仁
(72)【発明者】
【氏名】曹 寧源
(72)【発明者】
【氏名】三輪 善広
(72)【発明者】
【氏名】堤 康一
【テーマコード(参考)】
4K001
4K012
4K014
4K045
4K056
4K063
【Fターム(参考)】
4K001BA22
4K001GA13
4K012CA09
4K014CD11
4K045AA04
4K045BA02
4K045DA04
4K045RB02
4K056AA05
4K056CA02
4K056FA12
4K063AA04
4K063BA02
4K063BA13
4K063FA64
4K063FA73
4K063FA78
(57)【要約】
【課題】電気炉が大型化した場合であっても電気炉の炉内温度を精度よく計測可能な電気炉の炉内温度計測方法、炉内温度計測装置、炉内温度計測プログラム、及び炉内温度計測プログラムを格納したコンピュータ読取可能な記憶媒体を提供すること。
【解決手段】本発明に係る電気炉の炉内温度計測方法は、アーク放電によって炉内で金属材料を溶解させる電極を備える電気炉の炉内温度計測方法であって、少なくとも炉内における溶融金属量、炉体の形状、及び電極に供給する電力量を用いて、炉内の電流密度分布及び磁場分布を計算する電磁場計算ステップと、少なくとも電磁場計算ステップにおいて計算された炉内の磁場分布を用いて、炉内における溶融金属及びガスの流速を計算する流体計算ステップと、少なくとも電磁場計算ステップにおいて計算された炉内の電流密度分布と流体計算ステップにおいて計算された炉内における溶融金属及びガスの流速を用いて、炉内の温度を計算する温度計算ステップと、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク放電によって炉内で金属材料を溶解させる電極を備える電気炉の炉内温度計測方法であって、
少なくとも炉内における溶融金属量、炉体の形状、及び前記電極に供給する電力量を用いて、炉内の電流密度分布及び磁場分布を計算する電磁場計算ステップと、
少なくとも前記電磁場計算ステップにおいて計算された炉内の磁場分布を用いて、炉内における溶融金属及びガスの流速を計算する流体計算ステップと、
少なくとも前記電磁場計算ステップにおいて計算された炉内の電流密度分布と前記流体計算ステップにおいて計算された炉内における溶融金属及びガスの流速を用いて、炉内の温度を計算する温度計算ステップと、
を含む、電気炉の炉内温度計測方法。
【請求項2】
前記流体計算ステップは、さらに前記電気炉が備える副熱源のガス流量を用いて炉内におけるガスの流速を計算するステップを含み、前記温度計算ステップは、さらに前記副熱源の熱量を用いて炉内の温度を計算するステップを含む、請求項1に記載の電気炉の炉内温度計測方法。
【請求項3】
前記温度計算ステップは、さらに炉体からの放熱量を用いて炉内の温度を計算するステップを含む、請求項1に記載の電気炉の炉内温度計測方法。
【請求項4】
アーク放電によって炉内で金属材料を溶解させる電極を備える電気炉の炉内温度計測装置であって、
少なくとも炉内における溶融金属量、炉体の形状、及び前記電極に供給する電力量を用いて、炉内の電流密度分布及び磁場分布を計算する電磁場計算部と、
少なくとも前記電磁場計算部によって計算された炉内の磁場分布を用いて、炉内における溶融金属及びガスの流速を計算する流体計算部と、
少なくとも前記電磁場計算部によって計算された炉内の電流密度分布と前記流体計算部によって計算された炉内における溶融金属及びガスの流速を用いて、炉内の温度を計算する温度計算部と、
を備える、電気炉の炉内温度計測装置。
【請求項5】
請求項1~3のうち、いずれか1項に記載の電気炉の炉内温度計測方法によって計算された炉内の温度に従って電気炉を制御するステップを含む、電気炉の制御方法。
【請求項6】
請求項4に記載の電気炉の炉内温度計測装置によって計算された炉内の温度に従って電気炉を制御する制御手段を備える、電気炉の制御装置。
【請求項7】
アーク放電によって炉内で金属材料を溶解させる電極を備える電気炉の炉内温度計測プログラムであって、
コンピュータを、
少なくとも炉内における溶融金属量、炉体の形状、及び前記電極に供給する電力量を用いて、炉内の電流密度分布及び磁場分布を計算する電磁場計算部と、
少なくとも前記電磁場計算部によって計算された炉内の磁場分布を用いて、炉内における溶融金属及びガスの流速を計算する流体計算部と、
少なくとも前記電磁場計算部によって計算された炉内の電流密度分布と前記流体計算部によって計算された炉内における溶融金属及びガスの流速を用いて、炉内の温度を計算する温度計算部と、
として機能させる、電気炉の炉内温度計測プログラム。
【請求項8】
アーク放電によって炉内で金属材料を溶解させる電極を備える電気炉の炉内温度計測プログラムを格納したコンピュータ読取可能な記憶媒体であって、
コンピュータを、
少なくとも炉内における溶融金属量、炉体の形状、及び前記電極に供給する電力量を用いて、炉内の電流密度分布及び磁場分布を計算する電磁場計算部と、
少なくとも前記電磁場計算部によって計算された炉内の磁場分布を用いて、炉内における溶融金属及びガスの流速を計算する流体計算部と、
少なくとも前記電磁場計算部によって計算された炉内の電流密度分布と前記流体計算部によって計算された炉内における溶融金属及びガスの流速を用いて、炉内の温度を計算する温度計算部と、
として機能させる、電気炉の炉内温度計測プログラムを格納したコンピュータ読取可能な記憶媒体。
【請求項9】
請求項1~3のうち、いずれか1項に記載の電気炉の炉内温度計測方法によって計算された炉内の温度に従って電気炉を制御することにより金属材料を製造するステップを含む、金属材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気炉の炉内温度計測方法、電気炉の炉内温度計測装置、電気炉の制御方法、電気炉の制御装置、電気炉の炉内温度計測プログラム、電気炉の炉内温度計測プログラムを格納したコンピュータ読取可能な記憶媒体、及び金属材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CO2の排出量削減のために、炭素源であるコークス等を用いて鉄鉱石を還元する高炉と比較してCO2の排出量削減効果が高い電気炉の利用拡大が求められている。電気炉は、冷鉄源を溶解させて溶鉄を貯蔵する炉と、黒鉛等で作製された電極と、を備えている。この電気炉では、電極に高圧の電気を印加することにより、空気との絶縁層に電流が流れてアークが発生し、その際に高温が発生する(以下、空気層に電流が流れることで発生する高温の熱源をアーク熱と呼ぶ)。アーク熱による高温は数千度から数万度の温度になると言われており、この熱をスクラップや溶鉄に着熱させることによって冷鉄源を溶解させる。冷鉄源を効率的に溶解させるためには、高温環境を生み出すと共に、炉内に熱を均等に輸送してスクラップや溶鉄に着熱させる必要がある。
【0003】
アーク熱は構造上電極付近で発生するため、炉内で熱が偏って分布することがある。このため、助燃バーナー等の副熱源を電気炉に設けることがある。また、溶鉄に対して熱を供給し続けないと、炉外に放熱される熱によって溶鉄の温度が低下し、溶鉄が凝固することによって溶鉄の生産に問題を起こすことがある。このため、電極付近の高温の溶鉄を攪拌し、溶鉄の温度を炉内で平準化することによって、溶鉄内にコールドスポットが発生しないようにする必要がある。ここで、溶鉄攪拌手段としては、電磁力で溶鉄を攪拌する電磁攪拌装置や、炉底部からガスを吹き込み、溶鉄内を上昇する気泡の上昇力によって溶鉄を攪拌する底吹き装置等を例示できる。このように、電気炉においては、炉内に高温環境を発生させることと、発生した熱を炉全体に輸送することが重要である。
【0004】
一方、電気炉の利用拡大及び効率化を実現するためには、電気炉の大型化が必要である。電気炉が大型であれば、同じ生産能力を有する複数の小型電気炉と比較して外部環境に対する溶鉄の接触面積を小さくできるため、発生した熱を効率的に利用できる。しかしながら、電気炉を大型化した場合、電極付近で発生した局所的なアーク熱を広い炉内に輸送する必要があるため、炉内温度が不均一になりやすい。そして、炉内温度が低下して溶鉄が凝固した場合には、溶鉄の生産効率が悪化する。また、炉内温度が低下しやすい場所があれば、副熱源や溶鉄攪拌手段等を利用して炉内温度を平準化する必要がある。従って、電気炉の効率を向上させるために電気炉の大型化を進める際には、炉内温度を予測して炉内温度が局所的に低くなりそうな場所を特定することが重要になってくる。
【0005】
このような背景から、特許文献1には電気炉の炉内温度予測方法が提案されている。特許文献1に記載の方法は、過去の炉内温度の測定値や電気炉の操業データから重回帰分析によって求めた回帰式に対して連続的に測定した炉内温度及び通電量や供給酸素等の操業データを入力することにより、近未来の炉内温度を予測するものである。この方法を利用することによって事前に炉内温度や溶鉄温度を調べることができれば、その温度データや操業データに基づいて回帰式を作成し、炉内温度を測定している領域付近の温度を予測することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法によれば、大型化した電気炉の炉内温度を予測することは困難である。具体的には、特許文献1に記載の方法では、溶鉄温度を事前に測定する必要があるが、大型化した電気炉では溶鉄温度に分布があり、ある一点の溶鉄温度が溶鉄全体の温度を代表するとは限らない。このため、特許文献1に記載の方法を利用する場合には、溶鉄温度を複数点で測定する必要がある。ところが、電気炉は高温であるために、温度計測器の定期的な更新が不可欠である。このため、溶銑温度を複数点で測定する場合、定期的に更新しなければならない温度計測器が多くなり、メンテナンスコストが大幅に増加する。
【0008】
また、冷鉄源となるスクラップは鋭利な形状を有するため、スクラップが接触する可能性がある箇所に温度計測器が設置されていた場合、温度計測器のセンサ部分がスクラップによって損傷する可能性が高い。温度計測器が損傷した場合、十分な温度計測ができず、炉内温度を精度よく予測することができなくなる。さらに、電気炉が大型になると、電極に印加される電圧が大きくなり、溶鉄の流動や炉内のガス流れ等の現象の相互作用が顕著に現れやすくなるため、数点の溶銑温度のデータと操業データとでは炉内温度を精度よく予測することは困難にある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的は、電気炉が大型化した場合であっても電気炉の炉内温度を精度よく計測可能な電気炉の炉内温度計測方法、炉内温度計測装置、炉内温度計測プログラム、及び炉内温度計測プログラムを格納したコンピュータ読取可能な記憶媒体を提供することにある。また、本発明の他の目的は、電気炉の操業効率を向上可能な電気炉の制御方法及び制御装置を提供することにある。また、本発明の他の目的は、金属材料を製造歩留まりよく製造可能な金属材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る電気炉の炉内温度計測方法は、アーク放電によって炉内で金属材料を溶解させる電極を備える電気炉の炉内温度計測方法であって、少なくとも炉内における溶融金属量、炉体の形状、及び前記電極に供給する電力量を用いて、炉内の電流密度分布及び磁場分布を計算する電磁場計算ステップと、少なくとも前記電磁場計算ステップにおいて計算された炉内の磁場分布を用いて、炉内における溶融金属及びガスの流速を計算する流体計算ステップと、少なくとも前記電磁場計算ステップにおいて計算された炉内の電流密度分布と前記流体計算ステップにおいて計算された炉内における溶融金属及びガスの流速を用いて、炉内の温度を計算する温度計算ステップと、を含む。
【0011】
(2)上記(1)に記載の電気炉の炉内温度計測方法であって、前記流体計算ステップは、さらに前記電気炉が備える副熱源のガス流量を用いて炉内におけるガスの流速を計算するステップを含み、前記温度計算ステップは、さらに前記副熱源の熱量を用いて炉内の温度を計算するステップを含むとよい。
【0012】
(3)上記(1)又は(2)に記載の電気炉の炉内温度計測方法であって、前記温度計算ステップは、さらに炉体からの放熱量を用いて炉内の温度を計算するステップを含むとよい。
【0013】
(4)本発明に係る電気炉の炉内温度計測装置は、アーク放電によって炉内で金属材料を溶解させる電極を備える電気炉の炉内温度計測装置であって、少なくとも炉内における溶融金属量、炉体の形状、及び前記電極に供給する電力量を用いて、炉内の電流密度分布及び磁場分布を計算する電磁場計算部と、少なくとも前記電磁場計算部によって計算された炉内の磁場分布を用いて、炉内における溶融金属及びガスの流速を計算する流体計算部と、少なくとも前記電磁場計算部によって計算された炉内の電流密度分布と前記流体計算部によって計算された炉内における溶融金属及びガスの流速を用いて、炉内の温度を計算する温度計算部と、を備える。
【0014】
(5)本発明に係る電気炉の制御方法は、上記(1)~(3)のうち、いずれか1つに記載の電気炉の炉内温度計測方法によって計算された炉内の温度に従って電気炉を制御するステップを含む。
【0015】
(6)本発明に係る電気炉の制御装置は、上記(4)に記載の電気炉の炉内温度計測装置によって計算された炉内の温度に従って電気炉を制御する制御手段を備える。
【0016】
(7)本発明に係る電気炉の炉内温度計測プログラムは、アーク放電によって炉内で金属材料を溶解させる電極を備える電気炉の炉内温度計測プログラムであって、コンピュータを、少なくとも炉内における溶融金属量、炉体の形状、及び前記電極に供給する電力量を用いて、炉内の電流密度分布及び磁場分布を計算する電磁場計算部と、少なくとも前記電磁場計算部によって計算された炉内の磁場分布を用いて、炉内における溶融金属及びガスの流速を計算する流体計算部と、少なくとも前記電磁場計算部によって計算された炉内の電流密度分布と前記流体計算部によって計算された炉内における溶融金属及びガスの流速を用いて、炉内の温度を計算する温度計算部と、として機能させる。
【0017】
(8)本発明に係る電気炉の炉内温度計測プログラムを格納したコンピュータ読取可能な記憶媒体は、アーク放電によって炉内で金属材料を溶解させる電極を備える電気炉の炉内温度計測プログラムを格納したコンピュータ読取可能な記憶媒体であって、コンピュータを、少なくとも炉内における溶融金属量、炉体の形状、及び前記電極に供給する電力量を用いて、炉内の電流密度分布及び磁場分布を計算する電磁場計算部と、少なくとも前記電磁場計算部によって計算された炉内の磁場分布を用いて、炉内における溶融金属及びガスの流速を計算する流体計算部と、少なくとも前記電磁場計算部によって計算された炉内の電流密度分布と前記流体計算部によって計算された炉内における溶融金属及びガスの流速を用いて、炉内の温度を計算する温度計算部と、として機能させる。
【0018】
(9)本発明に係る金属材料の製造方法は、上記(1)~(3)のうち、いずれか1つに記載の電気炉の炉内温度計測方法によって計算された炉内の温度に従って電気炉を制御することにより金属材料を製造するステップを含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る電気炉の炉内温度計測方法、炉内温度計測装置、炉内温度計測プログラム、及び炉内温度計測プログラムを格納したコンピュータ読取可能な記憶媒体によれば、電気炉が大型化した場合であっても電気炉の炉内温度を精度よく計測することができる。また、本発明に係る電気炉の制御方法及び制御装置によれば、電気炉の操業効率を向上させることができる。また、本発明に係る金属材料の製造方法によれば、金属材料を製造歩留まりよく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態である電気炉の炉内温度計測方法が適用される交流電気炉の構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態である電気炉の炉内温度計測方法が適用される直流電気炉の構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態である電気炉の炉内温度計測方法が適用された温度計測装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態である温度計測処理の流れを示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、
図4に示す温度計測処理の変形例の流れを示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、
図4に示す温度計測処理の変形例の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である電気炉の炉内温度計測方法、電気炉の炉内温度計測装置、電気炉の制御方法、電気炉の制御装置、電気炉の炉内温度計測プログラム、電気炉の炉内温度計測プログラムを格納したコンピュータ読取可能な記憶媒体、及び金属材料の製造方法について説明する。
【0022】
〔電気炉の構成〕
まず、
図1及び
図2を参照して、本発明の一実施形態である電気炉の炉内温度計測方法が適用される交流電気炉及び直流電気炉の構成について説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態である電気炉の炉内温度計測方法が適用される交流電気炉の構成を示す模式図である。
図1に示すように、本発明の一実施形態である電気炉の炉内温度計測方法が適用される交流電気炉1は、アーク放電によって金属材料であるスクラップ等の冷鉄源を溶解して溶鉄Sを製造する設備であり、炉2と電極3(3a~3c)を備えている。炉2は、アーク放電によって冷鉄源を溶解することにより得られた溶鉄Sを貯蔵する容器である。炉2の内面は高温に耐えられるように耐火物4で覆われ、炉2の上部は上蓋5で覆われている。炉2の底面又は側面には、溶鉄Sを外部に取り出すための溶鉄口(図示せず)が設けられている。
【0024】
炉2には、溶鉄Sの成分を調整するために石灰やコークス等の副原料を溶鉄Sに投入する副原料口(図示せず)が設けられている。炉2には、アーク放電だけでは冷鉄源の温度を調整できない場合に熱量を補助するための助燃バーナー等の副熱源6が設けられている。副原料口(図示せず)と副熱源6の2つの機能を有する装置を設けてもよい。電極3は、高圧の三相交流電流が供給されることによってアーク放電を発生させ、アーク熱によって冷鉄源を溶解する。電極3は、上蓋5に設置され、多くの場合は黒鉛によって形成されている。交流電気炉1では、高圧の三相交流電流を利用するために3本の電極3a~3cが設けられている。
【0025】
図2は、本発明の一実施形態である電気炉の炉内温度計測方法が適用される直流電気炉の構成を示す模式図である。
図2に示すように、本発明の一実施形態である電気炉の炉内温度計測方法が適用される直流電気炉10は、アーク放電によって冷鉄源を溶解して溶鉄Sを製造する設備であり、炉2と電極3(3d,3e)を備えている。炉2は、
図1に示した交流電気炉1の炉2と同様の構成を有している。電極3は、高圧の直流電流が供給されることによってアーク放電を発生させ、アーク熱によって冷鉄源を溶解する。電極3d,3eは、上蓋5及び炉2の底部にそれぞれ設置され、多くの場合は黒鉛によって形成されている。電極3に直流電流を供給するために直流電源を利用する場合、交流電流を直流電流に変換するための変換設備を設ける。上部の電極3dは1本でも複数本でも構わない。電極3dが複数本ある場合には、直流電流の電圧を大きくすることによってアーク熱を炉内で拡散しやすくすることにより、直流電気炉10を大型化した際に冷鉄源の溶解速度を速めることができる。
【0026】
〔温度計測装置の構成〕
次に、
図3を参照して、本発明の一実施形態である電気炉の炉内温度計測方法が適用された温度計測装置の構成について説明する。
【0027】
図3は、本発明の一実施形態である電気炉の炉内温度計測方法が適用された温度計測装置の構成を示すブロック図である。
図3に示すように、本発明の一実施形態である電気炉の炉内温度計測方法が適用された温度計測装置20は、コンピュータ等の情報処理装置によって構成されている。温度計測装置20には、電気通信回線を介して表示装置21、入力装置22、及び計測装置23が接続されている。
【0028】
表示装置21は、液晶ディスプレイ等の公知の表示装置によって構成され、温度計測装置20から出力された温度計算結果等の各種情報を表示出力する。入力装置22は、キーボードやマウスポインタ等の公知の入力装置によって構成され、設定値等の各種情報を温度計測装置20に入力する。計測装置23は、電気炉に設置された計測装置によって構成され、温度計測装置20からの取得要求信号に応じて過去及び現在の計測データを温度計測装置20に入力する。計測装置としては、溶鉄Sの湯面レベル(炉2内の溶鉄Sの量)を計測する計測装置や炉体の温度を計測する計測装置を例示することができる。
【0029】
温度計測装置20は、計算準備部24、電磁場計算部25、流体計算部26、及び温度計算部27を備えている。これら各部の機能は、情報処理装置内のCPU等の演算処理装置が記憶部28に記憶されている温度計測プログラム29を実行することにより実現される。これら各部の機能については後述する。記憶部28は、コンピュータ等に固定された記憶媒体やコンピュータ等から取り外し可能な記憶媒体であってもよい。コンピュータ等に固定された記憶媒体としては、EPROM(Erasable Programmable ROM)やハードディスクドライブ(HDD、Hard Disk Drive)を例示できる。
【0030】
コンピュータ等から取り外し可能な記録媒体としては、USB(Universal Serial Bus)メモリ、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory)、CD-RW(Compact Disc-Rewritable)、DVD(Digital Versatile Disc)、BD(Blu-ray(登録商標) Disc)、DAT(Digital Audio Tape)、8mmテープ、メモリカード等を例示できる。SSD(Solid State Drive)は、コンピュータ等から取り外し可能な記憶媒体としてもコンピュータ等に固定された記憶媒体としても利用できる。また、温度計測プログラム29は、インターネット等の電気通信回線に接続されたコンピュータ上に格納し、電気通信回線経由でダウンロードさせることによって提供するように構成してもよい。また、温度計測プログラム29をインターネット等の電気通信回線を介して提供又は配布するように構成してもよい。
【0031】
〔温度計測処理〕
次に、
図4を参照して、温度計測装置20による電気炉(交流電気炉1及び直流電気炉10)の炉内温度の計測処理(温度計測処理)の流れについて説明する。
【0032】
図4は、本発明の一実施形態である温度計測処理の流れを示すフローチャートである。
図4に示すフローチャートは、温度計測装置20に対して温度計測処理の実行指令が入力されたタイミングで開始となり、温度計測処理はステップS1の処理に進む。
【0033】
ステップS1の処理では、計算準備部24が、入力装置22を介して電気炉の形状及び溶鉄Sの湯面レベルに関する情報を取得する。具体的には、計算準備部24は、電気炉の形状に関する情報として、電気炉の形状を示す二次元又は三次元のCADデータを取得する。CADデータのファイル形式は、STEP、IGES、STL等のコンピュータ等が読取可能な形式であればどのような形式であっても構わない。溶鉄Sの湯面レベルに関する情報は計測装置23から取得することができる。計測装置23から溶鉄Sの湯面レベルに関する情報を取得できない場合には、計算準備部24は、例えば以下に示す数式(1)を利用して炉内の溶鉄量Mを見積もり、溶鉄量Mと電気炉の底面積から溶鉄Sの湯面レベルを計算するとよい。これにより、ステップS1の処理は完了し、温度計測処理はステップS2の処理に進む。
【0034】
【0035】
上記数式(1)において、a,bは、電気炉の操業条件毎に求められる係数を示し、設定した操業条件で電気炉の炉内数点における溶鉄Sの湯面レベルを計測する試験を行うことにより求められる。また、Eは電気炉への投入電力量の平均値、tは電気炉に冷鉄源を装入してからの経過時間を示す。
【0036】
ステップS2の処理では、計算準備部24が、ステップS1の処理において取得した電気炉の形状に関する情報から以後の処理において用いる計算格子を作成する。具体的には、計算準備部24は、溶鉄Sを含む電気炉の形状を四面体や六面体等の多面体の計算格子に分割する。計算格子の一例を
図5に示す。
図5に示す例では、電極3及び溶鉄Sを含む電気炉が複数の矩形形状の計算格子Mに分割されている。計算準備部24は、磁場、電流、速度、温度等の物理量の変化が激しいと想定される領域については、隣り合う計算格子の間隔を短くする、換言すれば計算格子の密度を上げることにより、計算精度の向上を図ってもよい。これにより、ステップS2の処理は完了し、温度計測処理はステップS3の処理に進む。
【0037】
ステップS3の処理では、計算準備部24が、電気炉の操業条件が変化しないことを前提として、電磁場計算部25、流体計算部26、及び温度計算部27が計算に用いる計算格子の境界条件及び物性値を設定する。ここで、変化する可能性がある電気炉の操業条件としては、電極3に印加する電流値(供給電力量)、副熱源6の熱量(バーナー熱量)及びガス流量、溶鉄S及びスラグの量、炉体からの放熱量を例示することができる。具体的には、計算準備部24は、電磁場計算部25が計算に用いる計算格子については電極以外の領域を絶縁境界条件に設定する。また、計算準備部24は、流体計算部26が計算に用いる計算格子における炉2の壁面に対応する部分には滑りなし条件を設定し、排出口に対応する部分には圧力定数(一般的には0を設定するが、数値は問わない)を設定する。
【0038】
また、炉周囲は外気に放熱する境界条件を設定する。この場合、外気との熱伝達率を与えて境界条件を設定しもよし、固定値として熱伝達率を与えて境界条件を設定してもよい。炉は高温となるため輻射による外気への放熱があるが、輻射を考慮した境界条件を与えるとより予測精度が向上する。外気への放熱量は操業条件で計算により求めることが困難な場合もあるため、炉外壁に温度センサを張り付け、同時に外気温度を計測し、炉から外気への放熱量を事前に計測し、その放熱量を炉外壁の境界条件に設定してもよい。また、計算準備部24は、計算格子の計算点における物性値として、電磁場計算部25については空気と溶鉄Sの電気伝導率及び比透磁率、流体計算部26については空気と溶鉄Sの密度と粘性、温度計算部27については空気と溶鉄Sの熱伝導率と比熱を設定する。計算準備部24は、ステップS2の処理において作成した計算格子の各頂点に物性値を持たせるようにしてもよいし、計算格子の中心位置に物性値を持たせるようにしてもよい。これにより、ステップS3の処理は完了し、温度計測処理はステップS4の処理に進む。
【0039】
ステップS4の処理では、計算準備部24が、入力装置22を介して電気炉の操業データを取得する。取得する操業データとしては、電極3に印加する電流値、副熱源6の熱量及びガス流量を例示することができる。これにより、ステップS4の処理は完了し、温度計測処理はステップS5の処理に進む。
【0040】
ステップS5の処理では、計算準備部24が、計測装置23が炉体温度の計測データを記憶しているか否かを判別する。判別の結果、計測装置23が炉体温度の計測データを記憶している場合(ステップS5:Yes)、計算準備部24は温度計測処理をステップS6の処理に進める。一方、計測装置23が炉体温度の計測データを記憶していない場合には(ステップS5:No)、計算準備部24は温度計測処理をステップS7の処理に進める。
【0041】
ステップS6の処理では、計算準備部24が、温度計算部27が計算に用いる計算格子の炉体に対応する箇所の境界条件に計測装置23から取得した炉体温度の計測データ(温度境界条件)を設定する。これにより、ステップS6の処理は完了し、温度計測処理はステップS8の処理に進む。
【0042】
ステップS7の処理では、計算準備部24が、温度計算部27が計算に用いる計算格子の炉体に対応する箇所の境界条件に固定の熱流束値を設定する。これにより、ステップS7の処理は完了し、温度計測処理はステップS8の処理に進む。
【0043】
ステップS8の処理では、電磁場計算部25が、ステップS1~S3の処理によって作成された計算格子及びステップS4の処理において取得した操業データを用いて、電気炉内における電流密度及び磁場の分布を計算する。具体的には、電磁場計算部25は、ステップS4の処理において取得した電流値に従って、以下の数式(2)~(4)に示すマクスウェル方程式に基づく数式(5)を離散化して数値的に解くことにより、計算格子の各計算点における電流密度J及び磁場Bを計算する。これにより、ステップS8の処理は完了し、温度計測処理はステップS9の処理に進む。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
数式(2)~(5)において、Eは電気炉内の電場、Bは電気炉内の磁場、μpは透磁率、Jは電流密度、σeは電気伝導率、vは溶鉄S及びガスの流速(流体流速)を示す。
【0049】
ステップS9の処理では、流体計算部26が、ステップS1~S3の処理によって作成された計算格子及びステップS8の処理において計算された電気炉内の磁場分布を用いて電気炉内におけるガス及び溶鉄Sの流速分布を計算する。具体的には、流体計算部26は、ステップS8の処理において計算された電気炉内の磁場分布に従って、以下の数式(6)~(8)に示す流体方程式を離散化して数値的に解くことにより、計算格子の各計算点におけるガス及び溶鉄Sの流速を計算する。ステップS8の処理において計算された磁場分布を利用することにより、溶鉄Sが動くことによって生じるローレンツ力を考慮して精度よくガス及び溶鉄Sの流速分布を計算できる。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
上記数式(6)は連続の方程式(質量保存則)、上記数式(7)はナビエストークス方程式(運動方程式)、上記数式(8)は乱流モデルによる粘性補正式である。上記数式(6)~(8)において、ρは流体密度、Pは応力、μeffは有効粘性係数、μlは分子粘性、μtは乱流粘性を示す。
【0054】
溶鉄Sの流速を計算する際、VOF(Volume Of Fluid)法等の混相流計算手法を利用して、以下の数式(9)~(11)に示すように、計算格子毎に溶鉄Sの体積分率を設定し、流体(ガス及び溶鉄S)及び体積分率の移流を計算することにより、溶鉄の流動とガス流れの相互作用を考慮してもよい。また、スラグが存在する場合には、スラグの体積分率を設定し、溶鉄と同様にスラグを移流させ、ガス流れ、溶鉄流動、及びスラグ流動の相互作用を考慮してもよい。現実に存在する相を考慮することで流体流速の計算精度を向上させることができる。なお、スラグが存在する場合には、副原料の投入量をスラグ量とし、スラグ高さを決定する。また、副熱源6が設置されている場合、操業データに基づいて副熱源6によって発生するガスの流量又は流速を考慮するとよい。これにより、ステップS9の処理は完了し、温度計測処理はステップS10の処理に進む。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
上記数式(9)~(11)において、αは溶鉄Sの体積分率、vaがガスの流速、vmが溶鉄Sの流速、ρaがガスの密度、ρmが溶鉄Sの密度、μeffaはガスの有効粘性係数、μeffmは溶鉄Sの有効粘性係数を示す。
【0059】
ステップS10の処理では、温度計算部27が、ステップS8の処理において計算された電流密度分布によって発生する熱及びステップS9の処理において計算された流体の流速分布と副熱源6からの熱を考慮して電気炉内の温度分布を計算する。具体的には、温度計算部27は、以下の数式(12)に示す熱移流拡散方程式に基づく物理方程式を離散化して数値的に解くことにより電気炉内の温度分布を計算する。この際、電流密度分布によって発生する熱はソース項S0として与え、副熱源6からの熱は境界条件又はソース項S0として与える。副熱源6の熱は、化学反応を解いて熱量を求めてもよいし、過去の実績から熱量が判明している場合は、過去実績の熱量を与えても構わない。これにより、ステップS10の処理は完了し、温度計測処理はステップS11の処理に進む。
【0060】
【0061】
ステップS11の処理では、温度計算部27が、ステップS10の処理において計算された電気炉の温度分布に関する情報を表示装置21に出力する。オペレータは、表示装置21に表示された電気炉の温度分布に関する情報を参照して、電極に印加する電流値、副熱源6の熱量及びガス流量を調整し、炉内に局所的に温度が低い所が発生しないようにする。例えば事前に設定した溶鉄Sの最低温度以下となる温度が表示された場合、オペレータは該当箇所の温度上昇させるアクションを取る。炉内全体の温度を表示することにより、熱が偏在しやすい大型炉においても操業効率の向上を図ることができる。また、溶鉄Sの製造歩留まりを向上させることができる。これにより、ステップS11の処理は完了し、温度計測処理はステップS12の処理に進む。
【0062】
ステップS12の処理では、温度計測装置20が、温度計測処理を継続するか否かを判別する。判別の結果、温度計測処理を継続する場合(ステップS12:Yes)、温度計測装置20は温度計測処理をステップS4の処理に戻す。一方、温度計測処理を継続しない場合には(ステップS12:No)、温度計測装置20は一連の温度計測処理を終了する。
【0063】
以上の説明から明らかなように、本発明の一実施形態である温度計測処理では、電磁場計算部25が、少なくとも炉内における溶鉄Sの湯面レベル、炉体の形状、及び電極3に供給する電力量を用いて、炉内の電流密度分布及び磁場分布を計算し、流体計算部26が、少なくとも炉内の磁場分布を用いて、炉内における溶鉄S及びガスの流速を計算し、温度計算部27が、少なくとも炉内の電流密度分布と炉内における溶鉄S及びガスの流速を用いて、炉内の温度を計算する。これにより、電気炉が大型化した場合であっても電気炉の炉内温度を精度よく計測することができる。また、計算された炉内の温度に従って電気炉を制御することにより、電気炉の操業効率を向上させることができる。また、計算された炉内の温度に従って電気炉を制御することにより溶鉄Sを製造することによって、溶鉄Sを製造歩留まりよく製造することができる。
【0064】
本実施形態では、物理値の変換の手間を減らすために、電磁場計算部25、流体計算部26、及び温度計算部27で同じ計算格子を利用したが、電磁場計算部25、流体計算部26、及び温度計算部27で異なる計算格子を利用してもよい。この場合、電磁場計算部25で求められた物理値を流体計算部26や温度計算部27の計算格子に補間して利用する。補間方法としては線形補間やスプライン等を例示できる。
【0065】
大型の電気炉になると、アーク熱のみならず複数の副熱源を利用する必要がある。溶鉄Sの必要な点の温度を閾値以上に保つ方法には複数存在することが多いが、その中で最も操業コストを小さくする方法を選択することが望ましい。そのために、各熱源の投入熱量と操業コストの関係を求め、各熱源の投入量を変数とする操業コスト関数を作成するとよい。操業コストは電気料金や副熱源に利用する燃料単価で変動するため、操業コスト関数は定期的に更新することが望ましい。また、溶鉄Sの複数点の温度が凝固温度又は事前に設定した閾値を下回らないように制約条件を設定するとよい。この場合、各熱源の投入量を変数にして、電磁場計算部25、流体計算部26、及び温度計算部27で複数回計算を実行し、制約条件を満たし操業コストが最小となる各熱源の投入量を決定する。操業コストが最小となる各熱源の投入量は2次計画法を用いて計算する。操業コストが最小となるように計算できれば最小値の計算手法は問わない。複数の投入量の候補を事前に設定しておき、各計算部で計算し制約条件を満たし、操業コストが最小となる投入量をみつけても構わない。必要な制約条件を満たし、操業コストが最小となる熱源投入量を決めることにより、電気炉の操業効率を向上できる。
【0066】
〔変形例1〕
図6は、
図4に示す温度計測処理の変形例の流れを示すフローチャートである。
図4に示す温度計測処理は、電磁場計算部25、流体計算部26、及び温度計算部27の相互連成を行わない場合の処理であったが、
図6に示す温度計測処理は、電磁場計算部25、流体計算部26、及び温度計算部27の相互連成を行う場合の処理である。具体的には、
図6に示す温度計測処理では、ステップS28以後の処理が
図4に示す温度計測処理とは異なる。詳しくは、相互連成を行う場合には、温度依存性が高い物性値である電気伝導率、非透磁率、密度、粘性、比熱、熱伝導率を電磁場計算部25、流体計算部26、及び温度計算部27において繰り返し計算する。以下では、
図4に示すステップS1~S7の処理と同じステップS21~S27の処理の説明は省略し、ステップS28以後の処理から説明を始める。
【0067】
ステップS28の処理では、計算準備部24が、ある物性温度を設定し、設定した物性温度に従って電気伝導率、非透磁率、密度、粘性、比熱、及び熱伝導率を計算する。これにより、ステップS28の処理は完了し、温度計測処理はステップS29の処理に進む。
【0068】
ステップS29~ステップS31の処理では、電磁場計算部25、流体計算部26、及び温度計算部27が、ステップS28の処理において計算された物性値を用いて
図4に示すステップS8~S11の処理と同じ処理を実行する。この際、電磁場計算部25は、溶鉄Sの湯面レベルやスラグ高さを流体計算部26で求めた溶鉄Sの湯面レベルやスラグ高さと一致させる。
【0069】
ステップS32の処理では、温度計算部27が、ステップS31の処理において計算された温度が求める計算精度に応じて事前に設定された収束判定閾値以下であるか否か判別する。判別の結果、計算された温度が収束判定閾値以下である場合(ステップS32:Yes)、温度計算部27は、計算温度は収束したと判断し、温度計測処理をステップS33の処理に進める。一方、計算された温度が収束判定閾値より大きい場合には(ステップS32:No)、温度計算部27は、計算温度は収束していないと判断し、計算された温度が物性温度としてステップS28~S31の処理を再度実行する。ステップS33,S34の処理は、
図4に示すステップS11,S12の処理と同じであるので、以下ではその説明を省略する。
【0070】
〔変形例2〕
図7は、
図4に示す温度計測処理の変形例の流れを示すフローチャートである。
図7に示すように、本変形例では、ステップS52の処理において、計算準備部24が計算上の時間を進行させる。これにより、将来の炉内温度を予測し、電気炉の操業効率の向上に役立てることができる。例えば温度計測装置20は、所定の時間ステップで8時間先の炉内温度を予測し、横軸が時間、縦軸が炉内温度のトレンドグラフを表示装置21に表示する。トレンドグラフには、炉内温度の時間経過と目標温度の閾値を提示し、将来閾値に対して炉内温度がどのようになるかを提示するとよい。また、炉のどの位置の温度が低下しやすいかを炉の図と共に表示してもよい。オペレータは表示された将来の温度予測に基づいて温度を低下させない操作を行う。この際、副熱源を利用して炉を局所的に昇温してもよいし、熱源を利用せず冷鉄源の装入間隔、装入物、装入方法を調整して温度を調整してもよい。冷鉄源の調整だと温度変化に時間がかかるが、将来の予測値を確認することで事前に問題点を把握して対策を行うことができる。熱源を使用しない操作方法であれば、副熱源の消費エネルギーを削減し、電気炉の操業効率を向上させることができる。なお、
図7に示すステップS41~51の処理は
図4に示すS1~S11の処理と同じ内容である。
【0071】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明が限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
1 交流電気炉
2 炉
3,3a,3b,3c,3d,3e 電極
4 耐火物
5 上蓋
6 副熱源
10 直流電気炉
20 温度計測装置
21 表示装置
22 入力装置
23 計測装置
24 計算準備部
25 電磁場計算部
26 流体計算部
27 温度計算部
28 記憶部
29 温度計測プログラム
S 溶鉄