(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177689
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】電池システム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/382 20190101AFI20241217BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20241217BHJP
G01R 31/387 20190101ALI20241217BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20241217BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20241217BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
G01R31/382
G01R31/385
G01R31/387
H01M10/44 P
H01M10/48 P
H02J7/00 X
H02J7/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095960
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩原 英輝
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 浩
(72)【発明者】
【氏名】小熊 泰正
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
(72)【発明者】
【氏名】右田 翼
(72)【発明者】
【氏名】内田 義宏
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216AB01
2G216BA03
2G216BA47
2G216BA61
2G216CB41
5G503AA01
5G503BA03
5G503BA04
5G503CA08
5G503CA11
5G503DA07
5G503DA08
5G503EA05
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5H030AA01
5H030AS08
5H030BB01
5H030BB21
5H030FF41
(57)【要約】
【課題】電池のSOCの算出精度を向上させる。
【解決手段】電池システム2は、電池10と、ECU100とを備える。ECU100は、電池10の分極を解消させるための分極解消制御、および、分極解消制御の後に電池10のSOCを算出する算出処理を実行する。電池10が放電された後に分極解消制御が実行される場合には、分極解消制御は、電池10を充電する充電制御である。電池10が充電された後に分極解消制御が実行される場合には、分極解消制御は、電池10を放電する放電制御である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電装置と、
前記蓄電装置の分極を解消させるための分極解消制御、および、前記分極解消制御の後に前記蓄電装置のSOCを算出する算出処理を実行する制御装置とを備え、
前記蓄電装置が放電された後に前記分極解消制御が実行される場合には、前記分極解消制御は、前記蓄電装置を充電する充電制御であり、
前記蓄電装置が充電された後に前記分極解消制御が実行される場合には、前記分極解消制御は、前記蓄電装置を放電する放電制御である、電池システム。
【請求項2】
前記算出処理は、
前記蓄電装置が放電された後に前記分極解消制御が実行された場合には、前記蓄電装置が充電される場合の前記蓄電装置のSOC-OCV特性を用いて前記SOCを算出する処理であり、
前記蓄電装置が充電された後に前記分極解消制御が実行された場合には、前記蓄電装置が放電される場合の前記蓄電装置のSOC-OCV特性を用いて前記SOCを算出する処理である、請求項1に記載の電池システム。
【請求項3】
前記分極解消制御が実行される期間を解消期間とし、
前記解消期間の直前において、前記蓄電装置が充電された場合には、前記蓄電装置が充電された期間を直前充電期間とし、
前記解消期間の直前において、前記蓄電装置が放電された場合には、前記蓄電装置が放電された期間を直前放電期間とすると、
前記蓄電装置が放電された後に前記分極解消制御が実行される場合には、前記解消期間は、前記直前放電期間よりも短く、
前記蓄電装置が充電された後に前記分極解消制御が実行される場合には、前記解消期間は、前記直前充電期間よりも短い、請求項1または請求項2に記載の電池システム。
【請求項4】
前記蓄電装置が放電された後に前記分極解消制御が実行される場合には、前記解消期間の長さは、前記直前放電期間の長さの11分の1以上かつ9分の1以下であり、
前記蓄電装置が充電された後に前記分極解消制御が実行される場合には、前記解消期間の長さは、前記直前充電期間の長さの11分の1以上かつ9分の1以下である、請求項3に記載の電池システム。
【請求項5】
前記直前放電期間の長さの11分の1が0.1秒未満であり、かつ、前記直前放電期間の長さの9分の1が0.1秒以上である場合、前記解消期間の長さは、0.1秒以上、かつ前記直前放電期間の長さの9分の1以下であり、
前記直前放電期間の長さの9分の1が0.1秒未満である場合、前記解消期間の長さは、0.1秒であり、
前記直前充電期間の長さの11分の1が0.1秒未満であり、かつ、前記直前充電期間の長さの9分の1が0.1秒以上である場合、前記解消期間の長さは、0.1秒以上、かつ前記直前充電期間の長さの9分の1以下であり、
前記直前充電期間の長さの9分の1が0.1秒未満である場合、前記解消期間の長さは、0.1秒である、請求項4に記載の電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2019-160721号公報(特許文献1)は、二次電池を含む電池システムを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
二次電池などの蓄電装置のSOC(State Of Charge)を高精度に算出することは、蓄電装置を適切に保護したり十分に使用したりする際に重要である。したがって、SOCの算出精度を向上させる技術が望まれている。
【0005】
本開示は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、SOCの算出精度を向上可能な電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の電池システムは、蓄電装置と、制御装置とを備える。制御装置は、蓄電装置の分極を解消させるための分極解消制御、および、分極解消制御の後に蓄電装置のSOCを算出する算出処理を実行する。蓄電装置が放電された後に分極解消制御が実行される場合には、分極解消制御は、蓄電装置を充電する充電制御である。蓄電装置が充電された後に分極解消制御が実行される場合には、分極解消制御は、蓄電装置を放電する放電制御である。
【0007】
蓄電装置の分極は、蓄電装置の電圧を変化させるため、SOCの算出結果に影響を及ぼす可能性がある。蓄電装置の分極は、その極性の反対極性を有する電圧の印加により解消される。具体的には、蓄電装置の放電後の分極は、蓄電装置の充電により解消され、充電後の分極は、放電により解消される。上記の構成とすることにより、分極が起こっている場合であっても、分極解消制御により分極が解消された後にSOCが算出される。これにより、SOCの算出結果が分極により影響される事態を回避できる。その結果、SOCを精度良く算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態に従う電池システムが搭載された車両の全体構成を概略的に示す図である。
【
図2】電池の各セルの構成を概略的に示す図である。
【
図3】電池のSOC-OCV(Open Circuit Voltage)特性を表す曲線の一例を示す図である。
【
図4】電池10の分極がSOCの算出精度に影響を及ぼし得ることを説明するための図である。
【
図5】ECU(Electronic Control Unit)による電池10の満充電容量の推定時のSOCの算出処理を具体的に説明するための図である。
【
図6】SOCの算出処理に関連してECUにより実行される処理を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明を繰り返さない。
【0010】
図1は、実施の形態に従う電池システムが搭載された車両の全体構成を概略的に示す図である。
図1を参照して、車両1は、電気自動車(BEV:Battery Electric Vehicle)であって、車両1の外部の電力設備90からの給電電力を用いて電池10を充電する外部充電を実行可能に構成される。
【0011】
車両1は、電池10と、電圧センサ21と、電流センサ22と、SMR(System Main Relay)25と、PCU(Power Control Unit)30と、モータ35とを備える。車両1は、インレット40と、AC/DC変換器50と、DC-DCコンバータ65と、補機電池70と、通信装置75と、ECU100とをさらに備える。電池10、電圧センサ21、電流センサ22、SMR25、AC/DC変換器50、DC-DCコンバータ65、補機電池70、通信装置75、およびECU100は、電池システム2を構成する。
【0012】
電池10は、蓄電装置の一例であって、車両1の走行用の電力を蓄える。電池10は、複数のセルを含む組電池である。各セルは、二次電池であって、この例では全固体電池である。全固体電池とは、固体電解質層を備える電池をいう。
【0013】
電池10の充電または放電後には、電池10の分極が起こり得る。分極とは、電池10に電流が流れた時にその電流とは反対の向きの起電力(分極電圧)が一時的に発生する現象である。言い換えれば、分極は、電池10の充電時に電圧VBが一時的に上昇、または放電時に電圧VBが一時的に低下する現象である。分極は、充電もしくは放電後に十分に長い時間が経過すると自然に解消するか、または、分極電圧と反対の向きの電圧が電池10に印加されると解消する(分極電圧が零になり、電圧VBが安定する)。
【0014】
電圧センサ21は、電池10の電圧VBを検出する。電流センサ22は、電池10を流れる電流IBを検出する。充電時の電流IBは正であり、放電時の電流IBは負である。
【0015】
SMR25は、電池10とPCU30との間に接続される。PCU30は、電池10とモータ35との間で双方向の電力変換を実行する。モータ35は、交流回転電機であり、その力行時に車両1の走行駆動力を発生する。モータ35は、車両1の制動時、または下り斜面での加速度低減時に回生発電を行なうこともできる。モータ35の回生発電時、その発電電力がPCU30を通じて電池10に供給されて電池10が充電される。
【0016】
インレット40は、電力設備90のコネクタ95を挿入可能に構成され、電力設備90からの給電電力を受電する。この例では、給電電力は、交流電力である。AC/DC変換器50は、インレット40による受電電力を電池10の充電用の直流電力に変換する。AC/DC変換器50は、電池10の電力を交流電力に変換し、インレット40を介して電力設備90に給電することもできる。車両1から電力設備90への給電を「外部給電」とも称する。外部給電中、電池10は放電される。
【0017】
DC-DCコンバータ65は、補機電池70に接続されている。補機電池70は、車両1の各種補機(図示せず)を作動させるための電力を蓄える。通信装置75は、例えばCAN(Controller Area Network)通信により電力設備90と各種情報をやり取りする。この情報は、外部充電または外部給電時に車両1と電力設備90との間で伝送される電力の大きさ、外部充電の開始/停止、または外部給電の開始/停止を示す情報を含む。
【0018】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)102と、メモリ104と、記憶装置105とを含む。CPU102は、各種演算処理を実行する。メモリ104は、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を含む。ROMは、CPU102により実行されるプログラムおよび各種データを記憶する。当該データは、電池10のSOCとOCVとの関係を表す特性を示す情報を含む。この特性は、SOC-OCV特性とも呼ばれる。この特性は、OCVに従ってSOCを算出するために用いられ、電池10の充放電履歴(ヒステリシス)により影響される。OCVは、SMR25がオフされている時の電圧VBとして定められる。記憶装置105は、電圧VBおよび電流IBの履歴を表す充放電履歴110を記憶する。
【0019】
ECU100は、監視ユニット20の各センサから受ける信号ならびにメモリ104に記憶されたプログラムおよびマップに基づいて、車両1の各種機器を制御したり、電池10のSOCを算出したりする。当該機器は、SMR25、PCU30、AC/DC変換器50、DC/DCコンバータ65、および通信装置75を含む。SMR25がオンされている時、ECU100は、PCU30を用いて電池10の充放電を制御する。ECU100は、PCU30を制御することによってモータ35を駆動する。ECU100は、補機電池70の電力を電池10に供給するようにDC-DCコンバータ65を制御する制御(汲み出し充電制御)を実行可能に構成されている。
【0020】
ECU100は、外部充電を制御する外部充電制御と、外部給電を制御する外部給電制御とを実行可能に構成されている。これらの制御は、AC/DC変換器50および通信装置75を用いて実行される。ECU100は、電池10の充電時のSOCの増分(ΔSOC)で電池10の充電量を除算することによって電池10の満充電容量を推定可能に構成されている。電池10の充電量は、電流IBの積算値に基づいて定められる。
【0021】
図2は、電池10の各セルの構成を概略的に示す図である。
図2を参照して、セル15は、正極層15aと、負極層15bと、固体電解質層15cとを含む。
【0022】
正極層15aは、正極活物質層15dと、正極集電体15eとを含む。正極活物質層15dは、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、またはリン酸鉄リチウムを含む。正極活物質層15dは、固体電解質層15cに接合されており、
図2(A)の例では密着している。領域16は、これらの層の接合領域である。負極層15bは、負極活物質層15fと、負極集電体15gとを含む。負極活物質層15fは、金属活物質またはカーボン活物質を含む。負極活物質層15fは、固体電解質層15cに接合されており、この例では密着している。固体電解質層15cは、正極層15aと負極層15bとの間に介在している。正極層15aと、固体電解質層15cと、負極層15bとは、複数のセル15が積層される方向(Y方向)に積層されている。
【0023】
全固体電池の充放電が繰り返されると、正極層15aなどの電極層と固体電解質層15cとの接合の一部が剥離することがある(
図2(B))。そのような現象は、層間剥離とも呼ばれる。領域17,18は、それぞれ、層間剥離時の、電極層(この例では、正極層15a)と固体電解質層との非接合領域および接合領域である。層間剥離時、領域17の電気抵抗が高く、領域18の電気抵抗が低い。そのような電気抵抗の非一様性は、電荷担体の拡散に影響を及ぼし、電子密度の不均一性を招きやすい。その結果、全固体電池においては、リチウム塩などが拡散されやすく分極が起こりやすい。さらに、層間剥離時には、領域18の電気抵抗が低いことが原因で全固体電池において大電流が流れやすい。全固体電池が大電流で充電された(過充電された)後に直ちに放電される場合、大量の放電電流が領域18に流れ込む。その結果、全固体電池が大電流で放電されて、充電後の分極が直ちに解消する。
【0024】
図3は、電池10のSOC-OCV特性を表す曲線の一例を示す図である。
図4は、電池10の分極がSOCの算出精度に影響を及ぼし得ることを説明するための図である。
【0025】
図3を参照して、線200は、電池10が充電される場合のSOC-OCV特性を例示する。この例では、当該特性は、電池10が完全放電状態から満充電状態まで充電された場合のSOC-OCV特性に相当する。線200を「充電曲線」とも表す。線220は、電池10が放電される場合のSOC-OCV特性を例示する。この例では、当該特性は、電池10が満充電状態から完全放電状態まで放電された場合のSOC-OCV特性に相当する。線220を「放電曲線」とも表す。このように、SOC-OCV特性は、充放電の履歴(ヒステリシス)に依存して異なる。線200,220の各々は、電池10の分極が起こっていない(または解消している)という状況下でのSOC-OCV特性を示す。
【0026】
線240は、電池10が完全放電状態から満充電状態まで充電された場合のSOC-OCV特性を例示するが、分極が起こっている状況下での当該特性である点において線200とは異なる。線260は、電池10が満充電状態から完全放電状態まで充電された場合のSOC-OCV特性を例示するが、分極が起こっている状況下での当該特性である点において線220とは異なる。このように、SOC-OCV特性は、ヒステリシスの影響に加えて分極の影響を受けて変化する。この例では、線200,220の各々がメモリ104に記憶されているが、線240,260の各々は、メモリ104に記憶されていない。
【0027】
点P1,P2は、それぞれ、V1に対応する、線240,260上の点である。点P1,P2の各々は、OCVがV1であり、かつ分極が起こっている時の動作点に相当する。
【0028】
図4を参照して、電池10の分極は、電池10のSOCの算出精度に影響を及ぼし得る。例えば、充電時にOCVがV1である場合、実際には分極が起こり得るため、実際の動作点が点P1であって実際のSOCがX1であることがある(
図4の(A))。しかしながら、メモリ104に記憶されている充電曲線が線240ではなく線200であるため、線200に基づいて、動作点が点P1fであると誤判定されてSOCがX1fとして算出される可能性がある。その結果、SOCの算出結果は、ΔE1の誤差を含む。同様に、放電時に分極が起こっている場合、実際の動作点が点P2である(SOCがX2である)にも拘らず、動作点が点P2fであると線220に基づいて誤判定されてSOCがX2fとして算出される可能性がある(
図4の(B))。その結果、SOCの算出結果は、ΔE2の誤差を含み得る。このように、分極は、SOCの算出精度の低下を招きやすい。特に、全固体電池においては、層間剥離(
図2)に起因して分極が起こりやすいため、分極に起因するSOCの算出精度の低下を回避するための技術が要望されている。
【0029】
発明者らは、分極が起こっている場合には、分極を解消させて分極の解消後にSOCを算出することでSOCの算出精度を向上させることができることに着目した。分極は、その極性の反対極性を有する電圧の印加により解消される。具体的には、放電後の分極は、充電により解消され、充電後の分極は、放電により解消される。
【0030】
実施の形態では、ECU100は、電池10の分極を解消させるための分極解消制御、および、分極解消制御の後に電池10のSOCを算出する算出処理を実行する。電池10が充電された後に分極解消制御が実行される場合には、分極解消制御は、電池10を放電する放電制御である。この制御は、車両1の走行時にPCU30を用いて実行される制御であってもよいし、外部給電制御であってもよい。電池10が放電された後に分極解消制御が実行される場合には、分極解消制御は、電池10を充電する充電制御である。この制御は、車両1の走行時にPCU30を用いて実行される制御であってもよいし、外部充電制御であってもよい。
【0031】
上記の算出処理によれば、分極が起こっていた場合であっても、分極解消制御により分極が解消されて、その後にSOCが算出される。これにより、SOCの算出結果が分極により影響される事態を回避できる。さらに、十分に長い時間が経過して分極が自然に解消する前に分極が分極解消制御により解消するため、早期にSOCを算出できる。
【0032】
ECU100は、メモリ104に記憶されたSOC-OCV特性(線200,220)を用いて電池10のOCVに従ってSOCの算出処理を実行する。例えば、電池10が充電された後に分極解消制御として放電制御が実行される場合、上記の算出処理は、線220(放電曲線)を用いてSOCを算出する処理に相当する。例えば、この放電制御の開始時のOCVがV1である場合、電池10の動作点は、放電制御に起因して点P1から線250を経由して点P1aに変化し(OCVがV1からV1aに低下し)、その後、線220上で変化する(
図4の(A))。線250は、メモリ104に記憶されていない。ECU100は、放電制御の後、線220を用いてOCVに従ってSOCを算出する。例えば、放電制御の後のOCVがV1aである場合、SOCの算出結果がXaである。Xaは、X1よりもΔXaだけ低い。
【0033】
電池10が放電された後に分極解消制御として充電制御が実行される場合、上記の算出処理は、線200(充電曲線)を用いてSOCを算出する処理に相当する。例えば、この充電制御の開始時のOCVがV1である場合、動作点は、充電制御に起因して点P2から線270を経由して点P2aに変化し(OCVがV1からV1bに上昇し)、その後、線200上で変化する(
図4の(B))。線270は、メモリ104に記憶されていない。ECU100は、充電制御の後、線200を用いてOCVに従ってSOCを算出する。例えば、充電制御の後のOCVがV1bである場合、SOCの算出結果がXbである。Xbは、X2よりもΔXbだけ高い。
【0034】
上記の分極解消制御によれば、充電後に電池10が放電され、または放電後に電池10が充電され、それにより分極が解消される。その結果、分極が解消された状態(動作点が線200または220上にある状態)でSOCが算出されるため、分極に起因するSOCの算出精度の低下を回避できる。
【0035】
なお、分極解消制御が実行される期間(以下、「分極解消期間」とも称する)は、適度に短いことが好ましい。これは、この制御に起因して、元々の分極電圧とは反対向きの分極電圧が新たに生成される事態を回避するためである。
【0036】
分極解消期間(詳細には、その開始時刻)の直前において電池10が放電された場合、電池10がそのように放電された期間を「直前放電期間」とも表す。分極解消期間の直前において電池10が充電された場合、電池10がそのように充電された期間を「直前充電期間」とも表す。「分極解消期間の直前」とは、基本的には(後述の所定の上限よりも短い場合には)、この制御の開始前の充電期間(電池10が充電されていた期間)および放電期間(電池10が放電されていた期間)のうち現在時刻に最も近い期間をいう。この期間は、電池10の充電/放電が最後に切り替わった時刻(電流IBの正負が最後に切り替わった時刻)から現在時刻までの期間に相当する。この期間の長さが所定の上限(例えば3分)よりも長い場合、「分極解消期間の直前」(直前充電期間または直前放電期間)は、当該所定の上限の長さを有する期間として定められる。充電期間および放電期間の情報は、電流IBに基づいて生成され、メモリ104に記憶されている。
【0037】
充電後の分極解消期間は、直前充電期間よりも短い。同様に、放電後の分極解消期間は、直前放電期間よりも短い。仮に、分極解消期間が過度に長い場合、元々の分極電圧とは反対向きの分極電圧が新たに生成される事態が想定され得るが、実施の形態では、分極解消期間が短いため、上記の事態を回避できる。
【0038】
さらに、SOCの算出処理が分極解消制御の後に実行されるため、分極解消期間が短いほど算出処理が早く開始される。実施の形態では、分極解消期間が短いため、この期間中の分極解消制御が短時間で完了する。その結果、SOCを早く算出できる。
【0039】
分極解消期間は、過度に短いことも好ましくない。この場合、分極が十分に解消されない可能性がある。加えて、動作点が点P1(
図4)から線220上の点(例えば、点P1a)に変化する前、または点P2から線200上の点(例えば、点P2a)に変化する前のタイミングで(すなわち、動作点が線250または270上を移動している途中で)、SOCが算出される可能性がある。メモリ104は、線200,220を記憶しているが、線250,270を記憶していないため、上記タイミングで算出されたSOCは不正確であり得る。
【0040】
発明者らは、分極解消期間の長さが直前放電期間または直前充電期間の長さの11分の1以上かつ9分の1以下(以下、「約10分の1」とも表す)であれば、分極が十分に解消されやすく、かつ元々の分極電圧とは反対向きの分極電圧が生成され難いという知見を実験により得た。具体的には、そのように分極解消期間の長さを設定することで、動作点を点P1,P2からそれぞれ線220,200上の点(詳細には、点P1a,P2aまたはその近傍の点)に変化させることができた。よって、実施の形態では、電池10が放電された後に分極解消制御(充電制御)が実行される場合には、分極解消期間の長さは、直前放電期間の長さの約10分の1に設定される。同様に、電池10が充電された後に分極解消制御(放電制御)が実行される場合には、分極解消期間の長さは、直前充電期間の長さの約10分の1に設定される。このように、分極解消期間の長さは、基本的には、直前充電期間または直前放電期間の長さが長いほど長い。
【0041】
分極解消期間の長さが直前充電期間または直前放電期間の長さの11分の1よりも短い場合、分極が十分に解消されなかったり、動作点が線250または270上を移動している途中で算出されてSOCの算出精度が低下したりする可能性がある。分極解消期間の長さが直前充電期間または直前放電期間の長さの9分の1よりも長い場合、元々の分極電圧とは反対向きの分極電圧が新たに生成されてそれによりSOCの算出精度が低下する可能性がある。これに対して、実施の形態では、そのような問題を回避できる。
【0042】
直前充電期間または直前放電期間が前述の上限の長さを有する期間として定められる場合、分極解消期間の長さは、当該上限の約10分の1になるように設定(制限)される。そうでない場合、分極解消期間の長さは、直前充電期間または直前放電期間の長さの約1/10に設定される。これにより、分極解消制御の前に長時間にわたって電池10が充電または放電された場合であっても、分極解消期間が過度に長くなりSOCの算出が遅れる事態を回避できる。
【0043】
図5は、ECU100による電池10の満充電容量の推定時のSOCの算出処理を具体的に説明するための図である。
図5を参照して、線300は、SOCの推移の一例を表す。
【0044】
時刻t0~時刻t1の期間(期間P01)中、車両1が走行中であり、電池10が充電されたり放電されたりする。時刻t1において、車両1は、インレット40を介して電力設備90に接続される(プラグイン)。時刻t01~時刻t1の期間(期間P01a)は、直前放電期間である。時刻t1において、分極が起こっているものとする。
【0045】
時刻t1において、ECU100は、期間P01a中に電池10が放電されていたと充放電履歴110に基づいて判定する。ECU100は、この判定結果に基づいて、時刻t1~時刻t2の期間(期間P12)中に分極解消制御として充電制御を実行する。この制御は、外部充電制御である。期間P12は、電池10が放電された後に分極解消制御が実行される場合の分極解消期間である。期間P12中、ECU100は、電池10の充電電力が微小電力になるように外部充電制御を実行する。この例では、期間P12の長さは、期間P01a(直前放電期間)の10分の1である。
【0046】
時刻t2において、ECU100は、充電電力が微小電力である外部充電制御を停止し、SOCを算出する。その後、時刻t2~時刻t3の期間(期間P23)中、充電電力が期間P12の充電電力よりも大きくなるように外部充電制御を実行する。
【0047】
時刻t3において、ECU100は、外部充電制御を停止する。時刻t23~時刻t3の期間(期間P23a)は、直前充電期間である。この例では、電池10の充電/放電が最後に切り替わった時刻から現在時刻までの期間の長さが上限よりも長いため、期間P23a(直前充電期間)は、当該上限の長さを有する期間である。時刻t3において、分極が起こっているものとする。
【0048】
ECU100は、期間P23a中に電池10が充電されていたと充放電履歴110に基づいて判定する。ECU100は、この判定結果に基づいて、時刻t3~時刻t4の期間(期間P34)中に分極解消制御として放電制御を実行する。この制御は、外部給電制御である。期間P34は、電池10が充電された後に分極解消制御が実行される場合の分極解消期間である。この例では、期間P34の長さは、期間P23aの長さの10分の1である。時刻t4において、ECU100は、外部給電制御を停止し、SOCを算出する。
【0049】
ECU100は、時刻t2において算出されたSOCと、時刻t4において算出されたSOCとの差分の絶対値をΔSOCとして算出し、それにより満充電容量を推定する。
【0050】
図6は、SOCの算出処理に関連してECU100により実行される処理を例示するフローチャートである。このフローチャートは、車両1のプラグイン時に開始される。
【0051】
図6を参照して、ECU100は、充放電履歴110を読み出し(S105)、現在時刻の直前に電池10が充電されていたか、または放電されていたかを判定する(S107)。
【0052】
直前に電池10が充電されていた場合(S107においてYES)、ECU100は、分極解消期間の長さを、例えば、直前充電期間の長さの10分の1に設定する(S110)。ECU100は、設定された期間にわたって、分極解消制御としての放電制御を実行する(S115)。この放電制御は、例えば、期間P34中の外部給電制御に相当する。S115の後、ECU100は、電池10のOCV(例えば、
図4のV1a)を判定し、線220(放電曲線)を用いてOCVに従ってSOCを算出する(S117)。この例では、SOCは、Xa(
図4)として算出される。
【0053】
直前に電池10が放電されていた場合(S107においてNO)、ECU100は、分極解消期間の長さを、例えば、直前放電期間の長さの10分の1に設定する(S120)。ECU100は、設定された期間にわたって、分極解消制御としての充電制御を実行する(S125)。この充電制御は、例えば、期間P12中の外部充電制御に相当する。S125の後、ECU100は、電池10のOCV(例えば、
図4のV1b)を判定し、線200(充電曲線)を用いてOCVに従ってSOCを算出する(S127)。この例では、SOCは、Xb(
図4)として算出される。
【0054】
ECU100は、車両1の走行中(モータ35の駆動中)にS105~S127を実行してもよい。この場合、充電制御および放電制御は、PCU30を用いて実行される。あるいは、充電制御は、前述の汲み出し充電制御であってもよい。
【0055】
以上のように、実施の形態によれば、SOCの算出結果が分極により影響される事態を回避できる。その結果、SOCを精度良く算出できる。
【0056】
<実施の形態の変形例>
この変形例では、車両1の走行中にモータ35の力行または回生発電が相対的に長時間にわたって行われた後(直前放電期間または直前充電期間が長い場合)に、ECU100がPCU30を用いた充電制御または放電制御を実行するケースを想定する。
【0057】
直前放電期間の長さの11分の1が0.1秒未満であり、かつ、直前放電期間の長さの9分の1が0.1秒以上である場合、分極解消期間(充電制御の期間)の長さは、直前放電期間の長さの11分の1以上かつ9分の1以下に設定されるとき、0.1秒未満になる可能性がある。この分極解消期間の長さが0.1秒未満であるとき、分極極性制御(充電制御)によっても分極が常に十分に解消されるとは限らないという知見を発明者らは得た。その一方で、この分極解消期間の長さが0.1秒以上であるときには、分極は特に十分に解消されやすいという知見を発明者らは得た。そこで、ECU100は、直前放電期間の長さの11分の1が0.1秒未満であり、かつ、直前放電期間の長さの9分の1が0.1秒以上である場合、0.1秒以上、かつ直前放電期間の長さの9分の1以下に分極解消期間の長さを設定してもよい。
【0058】
直前充電期間の長さの11分の1が0.1秒未満であり、かつ、直前充電期間の長さの9分の1が0.1秒以上である場合、分極解消期間(放電制御の期間)の長さは、直前充電期間の長さの11分の1以上かつ9分の1以下に設定されるとき、0.1秒未満になる可能性がある。この分極解消期間の長さが0.1秒未満であるとき、分極解消制御(放電制御)によっても分極が常に十分に解消されるとは限らないという知見を発明者らは得た。その一方で、この分極解消期間の長さが0.1秒以上であるときには、分極は特に十分に解消されやすいという知見を発明者らは得た。そこで、ECU100は、直前充電期間の長さの11分の1が0.1秒未満であり、かつ、直前充電期間の長さの9分の1が0.1秒以上である場合、0.1秒以上、かつ直前充電期間の長さの9分の1以下に分極解消期間の長さを設定してもよい。
【0059】
直前放電期間の長さの9分の1が0.1秒未満である場合、分極解消期間の長さは、直前放電期間の長さの11分の1以上かつ9分の1以下に設定されるとき、常に0.1秒未満である。この場合、上述の通り、分極解消制御(充電制御)によっても分極が常に十分に解消されるとは限らない。そこで、ECU100は、直前放電期間の長さの9分の1が0.1秒未満である場合、0.1秒以上(例えば、0.1秒)に分極解消期間の長さを設定してもよい。
【0060】
直前充電期間の長さの9分の1が0.1秒未満である場合、分極解消期間の長さは、直前充電期間の長さの11分の1以上かつ9分の1以下に設定されるとき、常に0.1秒未満である。この場合、上述の通り、分極解消制御(放電制御)によっても分極が常に十分に解消されるとは限らない。そこで、ECU100は、直前充電期間の長さの9分の1が0.1秒未満である場合、0.1秒以上(例えば、0.1秒)に分極解消期間の長さを設定してもよい。
【0061】
<その他の変形例>
電池10の各セルは、液系リチウムイオン電池などの液系電池であってもよい。前述の分極解消制御およびSOCの算出処理は、全個体電池に代えて液系電池を含む電池システムにも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0063】
1 車両、10 電池、21 電圧センサ、22 電流センサ、35 モータ、40 インレット、50 AC/DC変換器、65 コンバータ、70 補機電池、75 通信装置、90 電力設備、95 コネクタ、100 ECU。