(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177694
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20241217BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20241217BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20241217BHJP
B41J 2/21 20060101ALI20241217BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B41J2/14
B41J2/14 603
B41J2/18
B41J2/175 501
B41J2/21
B41J2/175 503
B41J2/175 111
B41J2/01 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095971
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】小原 学
(72)【発明者】
【氏名】真田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】竹田 翔一
(72)【発明者】
【氏名】金子 義之
(72)【発明者】
【氏名】石田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】戸田 恭輔
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EA26
2C056EC07
2C056EC32
2C056EC40
2C056EE18
2C056FA03
2C056FA10
2C056HA05
2C056KA05
2C056KB03
2C056KB08
2C056KB16
2C056KB37
2C057AF71
2C057AG14
2C057AG46
2C057AG68
2C057AG74
2C057AG76
2C057AN01
2C057BA04
2C057BA13
(57)【要約】
【課題】 酸化チタンを含有するインクの再分散性を高め、インクの吐出安定性が改善されたインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】 インクを液体吐出ヘッドから吐出するインクジェット記録方法であって、前記インクは、酸化チタンを含有し、ストークスの式に基づく沈降速度が1.0×10
-11m/s以上であり、前記液体吐出ヘッドは、吐出口と、圧力室と、前記インクを吐出するためのエネルギー発生素子と、前記圧力室に液体を供給するための上流側流路と、前記圧力室に連通する下流側流路と、前記上流側流路及び前記下流側流路と連通し、前記上流側流路、前記圧力室、前記下流側流路および前記上流側流路の順に前記インクが循環する循環経路を形成するポンプと、を含み、前記循環経路の最大断面積をS[mm
2]、前記循環経路における前記インクの流量をQ[mL/s]としたとき、Q/Sが前記インクの前記沈降速度よりも大きい。
【選択図】
図20
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを液体吐出ヘッドから吐出するインクジェット記録方法であって、
前記インクは、酸化チタンを含有し、ストークスの式に基づく沈降速度が1.0×10-11m/s以上であり、
前記液体吐出ヘッドは、
前記インクを吐出するための吐出口と、
前記吐出口に前記インクを供給するための圧力室と、
前記インクを吐出するエネルギーを発生させるためのエネルギー発生素子と、
前記圧力室に液体を供給するための上流側流路と、
前記圧力室に連通する下流側流路と、
前記上流側流路及び前記下流側流路と連通し、前記上流側流路、前記圧力室、前記下流側流路および前記上流側流路の順に前記インクが循環する循環経路を形成するポンプと、
を含み、
前記循環経路の最大断面積をS[mm2]、前記循環経路における前記インクの流量をQ[mL/min]としたとき、Q/Sが前記インクの前記沈降速度よりも大きい、インクジェット記録方法。
【請求項2】
前記流量Qは前記ポンプの流量である、請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記流量Qは2.0mL/min以上10mL/min以下である、請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記循環経路内を流れる前記インクの体積が5mL以上30mL以下である、請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記液体吐出ヘッドが、インクを付与される記録媒体の搬送方向と直交する方向に走査しながら液体を吐出するように構成されている、請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記液体吐出ヘッドが、さらに、前記上流側流路内の液体の圧力を調整するように構成された第1圧力調整手段を有する、請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記第1圧力調整手段は、第1バルブ室と、第1圧力制御室と、前記第1バルブ室と前記第1圧力制御室とを連通させる第1開口と、前記第1開口を開閉可能に構成された第1バルブとを有する請求項6に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記第1圧力制御室は、変位可能に構成された第1可撓性部材により一部の面が構成され、前記第1可撓性部材と連動して変位可能な第1圧力板と、前記第1圧力板を前記第1圧力制御室の容積が大きくなる方向に付勢する第1付勢部材とを有し、前記第1圧力板及び前記第1可撓性部材の変位に応じて前記第1バルブを開閉可能に構成されている請求項7に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
前記液体吐出ヘッドが、さらに、前記下流側流路内の液体の圧力を調整するように構成された第2圧力調整手段を有する請求項1乃至8のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
前記第2圧力調整手段は、第2バルブ室と、第2圧力制御室と、前記第2バルブ室と前記第2圧力制御室とを連通させる第2開口と、前記第2開口を開閉可能に構成された第2バルブとを有する請求項9に記載のインクジェット記録方法。
【請求項11】
前記第1圧力制御室が前記上流側流路と連通する第1連通口は、前記第1圧力制御室の鉛直方向下方に配置されている、請求項7又は請求項8に記載のインクジェット記録方法。
【請求項12】
前記第2圧力制御室が前記下流側流路と連通する第2連通口は、前記第1圧力制御室の鉛直方向下方に配置されている、請求項10に記載のインクジェット記録方法。
【請求項13】
前記液体吐出ヘッドは、
前記素子基板を含む吐出ユニットと、
前記ポンプを含み、前記吐出ユニットとの間で液体を循環するように構成された循環ユニットと、を有し、
前記吐出ユニットと前記循環ユニットとが流体接続する部分において、前記吐出ユニットにおける前記循環ユニットと流体連通している流路の壁面は、鉛直方向に対して垂直又は傾斜している、請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項14】
前記吐出ヘッドに前記インクを供給するように構成され、前記吐出ヘッドとチューブを介して接続された液体収容部を有する、請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項15】
前記ポンプは圧電ポンプである、請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項16】
前記インクにおける酸化チタンの濃度は5.00質量%以上20.00質量%以下である、請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紙や樹脂フィルムなどの記録媒体を用いた広告や展示物を出力する際に、インクジェット記録装置が広く利用されるようになってきた。例えば、透明な記録媒体においても鮮明なカラー画像を表現するために、ブラックや基本色のインク(以下、これらをまとめてカラーインクと記載することがある)に加えて、白インクが併用される。具体的には、透明な記録媒体の画像を記録する領域を含む箇所に前もって白インクを付与して下地処理を行い、その上からカラーインクを付与する、又はその逆順で各インクを付与する(いわゆるバックプリント)記録方法が用いられている。
【0003】
白インクの色材としては、低コストであるとともに、白さや隠ぺい性など白インクとして必要とされる特性に優れるため、酸化チタンが広く用いられている。しかしながら、酸化チタンは沈降しやすい、という課題があった。そこで、従来、白インクにおける酸化チタンの沈降抑制の観点から、酸化チタンを表面処理することで、分散安定性を向上させる方法が検討されてきた。例えば、特許文献1には酸化チタンをシリカで表面処理した後に、さらにシランカップリング剤で表面処理し、乾燥させることで、シランカップリング剤の一部を酸化チタンの粒子表面に共有結合させた乾燥二酸化チタン生成物の製造方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2において、アルミナで表面処理された酸化チタン、1価の金属塩、及びアルミナ微粒子を含有するインクが提案されている。
【0005】
すなわち、特許文献1や特許文献2では、酸化チタンの沈降が抑制された白インクを用いることで、白インクの安定した吐出や、記録画像における画像ムラの発生抑制が試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2017-521348号公報
【特許文献2】国際公開第2018/190848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、沈降しやすい酸化チタンを含有する白インクなどのインクを用いたインクジェット記録方法において、インクの安定した吐出を達成する方法として、酸化チタンの沈降が抑制されるようにインクを構成するのではなく、再分散性の良い酸化チタン粒子を用いることを考えた。そのうえで、沈降しても再分散されるように液体吐出ヘッドを構成することを考えた。
【0008】
そこで、本発明の目的は、酸化チタンを含有するインクの再分散性を高め、インクの吐出安定性が改善されたインクジェット記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、インクを液体吐出ヘッドから吐出するインクジェット記録方法であって、前記インクは、酸化チタンを含有し、ストークスの式に基づく沈降速度が1.0×10-11m/s以上であり、前記液体吐出ヘッドは、前記インクを吐出するための吐出口と、前記吐出口に前記インクを供給するための圧力室と、前記インクを吐出するエネルギーを発生させるためのエネルギー発生素子と、前記圧力室に液体を供給するための上流側流路と、前記圧力室に連通する下流側流路と、前記上流側流路及び前記下流側流路と連通し、前記上流側流路、前記圧力室、前記下流側流路および前記上流側流路の順に前記インクが循環する循環経路を形成するポンプと、を含み、前記循環経路の最大断面積をS[mm2]、前記循環経路における前記インクの流量をQ[mL/s]としたとき、Q/Sが前記インクの前記沈降速度よりも大きい、インクジェット記録方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸化チタンを含有するインクの吐出安定性が改善されたインクジェット記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】液体吐出ヘッドの縦断面及び吐出モジュールの拡大断面図である。
【
図9】
図8(a)に示した循環ポンプのIX-IX線断面図である。
【
図10】液体吐出ヘッド内のインクの流れを説明する図である。
【
図11】吐出ユニットにおける循環経路を示した模式図である。
【
図14】吐出ユニットのインク流れを示した断面図である。
【
図16】吐出口の近傍の比較例を示す断面図である。
【
図18】液体吐出ヘッドの流路構成を示した図である。
【
図19】液体吐出装置の本体部と液体吐出ヘッドとの接続状態を示した図である。
【
図22】循環ユニットと吐出ユニットとの接続部分における断面図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、後述するインクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出して記録媒体に画像を記録する方法である。
【0013】
記録媒体としては、特に制限されないが、透明、又は、有色の記録媒体を用いることが可能である。また、記録媒体は、樹脂フィルムなどの液媒体の吸収性の小さい難吸収性媒体(非吸収性媒体)であってもよい。記録媒体の単位領域へのインクの付与は、記録ヘッドと記録媒体との複数回の相対走査に分けて行うマルチパス記録が好ましい。特に、単位領域への白インクの付与及びカラーインクの付与を、それぞれ異なる相対走査で行うことが好ましい。これにより、各インクが接触するまでの時間が長くなり、混合が抑制されやすくなる。単位領域とは、1画素や1バンドなどの任意の領域として設定することができる。
【0014】
本発明者らは、先ず、酸化チタンを含有するインクが沈降した場合の再分散性を高める方法を検討した。本発明者らの検討の結果、インクの再分散性を高めるには、ストークスの式に基づく沈降速度(沈降する際の終端速度)が1.0×10-11m/s以上であることが必要であることを見出した。なお、ストークスの式に基づく沈降速度は、粒子に上向きの力を及ぼす抵抗力および浮力と、粒子に下向きの力を及ぼす重力とが釣り合って等速運動をするようになった時の速度を意味する。
【0015】
しかしながら、そのような再分散性が高いインクを用いた場合は、インク中の酸化チタン自体が沈降しやすくなる。そのため、循環によって生じるインク流の流速がインクの沈降速度以上であれば、インクの再分散が促される。吐出口13での安定性した吐出を実現するには、酸化チタン粒子が充分に分散したインクが圧力室内に流入することが望ましい。そこで本発明では、液体吐出ヘッドがヘッド内の循環経路内でインクを循環させる機構を有し、循環経路内のインクに対して循環の流れによって再分散を促すことで、均一な顔料濃度のインクを圧力室へ流入させ、インクの吐出安定性を向上させる。
【0016】
液体吐出ヘッドにおけるインクの循環に関して、
図5を参照して説明する。
図5は、後述する本発明の液体吐出ヘッドの一例における吐出口13の近傍を示した断面図である。
図5に示す液体吐出ヘッド1は、反応液を、反応液を吐出するための吐出口13と、反応液を吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子15を備える圧力室12と、吐出口13と吐出素子15の間で連通してその内部に反応液が流通する共通供給流路18(上流側流路)と共通回収流路19(下流側流路)と、を備える。反応液は、吐出口13と吐出素子15の間を通って、共通供給流路18と共通回収流路19(
図5中の矢印の方向)へと流動している。さらに、液体吐出ヘッド1は、共通回収流路19の液体を共通供給流路18に流入させるように構成されたポンプ500を備える。これにより、液体吐出ヘッド1内には、共通供給流路18、圧力室12、共通回収流路19および共通供給流路18の順にインクが循環する循環経路が形成されている。
【0017】
インクの流れによって酸化チタンの再分散を促すには、循環経路内の最も流速が遅い場所でも、酸化チタン粒子の沈降速度以上のインクの流れが生じていればよい。循環によってインク中の酸化チタン粒子に作用する流速は、循環流量Q[mL/min]と循環経路の最大断面積S[mm2]を用いて、Q/Sで表される。Q/Sが沈降速度より大きければ再分散が促されると考えた。
【0018】
ここで、循環経路内における断面積は、液体の流れ方向と直交する面の面積とする。最大断面積Sが大きいと、インクの再分散に必要な循環流量Qが大きくなってしまうため、最大断面積は500mm2以下であることが好ましく、350mm2以下であることがより好ましい。
【0019】
(1)液体吐出装置
以下、本発明のインクジェット記録方法に用いることが可能な、液体吐出装置(インクジェット記録装置)に関し、本開示の好適な実施の形態を、添付図面を参照しながら詳しく説明する。なお、以下の実施の形態は本開示事項を限定するものでなく、また本実施の形態で説明されている特徴の組み合わせすべてが本開示の解決手段に必須のものとは限らない。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付す。本実施形態では、液体を吐出する吐出素子として、電熱変換素子により気泡を発生させて液体を吐出するサーマル方式を採用した例を用いて説明するが、これに限られない。圧電素子(ピエゾ)を用いて液体を吐出する吐出方式、または、他の吐出方式が採用された液体吐出ヘッドにも適用することができる。さらに、以下に説明するポンプ及び圧力調整手段等も、実施形態及び図面に記載されている構成自体に限定されるものではない。
【0020】
<液体吐出装置>
図1は、液体吐出装置を説明するための図であり、液体吐出装置の液体吐出ヘッド及びその周辺の拡大図である。まず、本実施形態における液体吐出装置50の概略構成を、
図1を参照しつつ説明する。
図1(a)は、液体吐出ヘッド1を用いる液体吐出装置を模式的に示す斜視図である。本実施形態の液体吐出装置50は、液体吐出ヘッド1を走査しつつ液体としてのインクを吐出して記録媒体Pへの記録を行うシリアル型のインクジェット記録装置を構成している。
【0021】
液体吐出ヘッド1は、キャリッジ60に搭載されている。キャリッジ60は、ガイド軸51に沿って主走査方向(X方向)に沿って往復移動する。記録媒体Pは、搬送ローラ55、56、57、58によって、主走査方向と交差(本例の場合は、直交)する副走査方向(Y方向)に搬送される。すなわち、液体吐出ヘッド1は、インクを付与される記録媒体の搬送方向と直交する方向に走査しながら液体を吐出するように構成されている。なお、以下で参照する各図において、Z方向は鉛直方向を示しており、X方向及びY方向によって規定されるX-Y平面と交差(本例の場合は、直交)している。液体吐出ヘッド1は、ユーザによって、キャリッジ60に対し取り外し及び取り付けが可能に構成されている。
【0022】
液体吐出ヘッド1は、循環ユニット54と、後述する吐出ユニット3(
図2参照)とを含み構成されている。具体的な構成については後述するが、吐出ユニット3には、複数の吐出口と、各吐出口から液体を吐出するための吐出エネルギーを発するエネルギー発生素子(以下、吐出素子と称す)とが設けられている。
【0023】
また、液体吐出装置50には、インクの供給源であるインクタンク2(液体収容部)及び外部ポンプ21が設けられており、インクタンク2に貯留されたインクは、外部ポンプ21の駆動力によってインク供給チューブ59を介して循環ユニット54に供給される。
【0024】
液体吐出装置50は、キャリッジ60に搭載された液体吐出ヘッド1が主走査方向へと移動しつつインクを吐出して記録を行う記録走査と、記録媒体Pを副走査方向へと搬送する搬送動作とを繰り返すことにより、記録媒体Pに所定の画像を形成する。なお、本実施形態における液体吐出ヘッド1は、酸化チタンを含んだインクを含む4種類のインクを吐出可能な構成である。ただし、本発明におけるインクジェット記録装置の構成は、4種類の液体を吐出するものに限るものではない。例えば、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ホワイト(W)のインクを吐出可能な構成が挙げられ、この場合、これらのインクによってフルカラー画像を記録することが可能である。ただし、液体吐出ヘッド1から吐出可能とするインクは、上記の5種類のインクに限定されない。他の種類のインクや、インク以外の反応液などを吐出するための液体吐出ヘッドにも本開示は適用可能である。すなわち、液体吐出ヘッドから吐出する液体の種類及びその数は限定されない。
【0025】
また、液体吐出装置50には記録媒体Pの搬送路からX方向に外れた位置に、液体吐出ヘッドの吐出口が形成された吐出口面を覆うことが可能なキャップ部材(不図示)が設けられている。キャップ部材は、非記録動作時において液体吐出ヘッド1の吐出口面を覆い、吐出口の乾燥防止や保護、吐出口からのインク吸引動作等に使用される。
【0026】
なお、
図1(a)に示す液体吐出ヘッド1は、4種類のインクに応じた4つの循環ユニット54が液体吐出ヘッド1に備えられている例を示しているが、吐出する液体の種類に応じた循環ユニット54が備えられていればよい。また、同種類の液体に対して複数の循環ユニット54が備えられていてもよい。即ち、液体吐出ヘッド1は、1つ以上の循環ユニットを備える構成とすることができる。4種類のインク全てを循環せず、少なくとも1つの酸化チタンを含んだインクのみ循環する構成でもよい。
【0027】
図1(b)は、液体吐出装置50の制御系を示すブロック図である。CPU103は、ROM101に格納された処理手順などのプログラムに基づいて液体吐出装置50の各部の動作を制御する制御手段としての機能を果す。RAM102は、CPU103が処理を実行する際のワークエリア等として用いられる。CPU103は、液体吐出装置50の外部のホスト装置400からの画像データを受信してヘッドドライバ1Aを制御し、吐出ユニット3に設けられた吐出素子の駆動を制御する。また、CPU103は、液体吐出装置に設けられた種々のアクチュエータのドライバの制御も行う。例えば、CPU103は、キャリッジ60を移動させるためのキャリッジモータ105のモータドライバ105A、及び、記録媒体Pを搬送させるための搬送モータ104のモータドライバ104Aなどの制御を行う。さらに、CPU103は、後述の循環ポンプ500の駆動を行うポンプドライバ500A、及び、外部ポンプ21のポンプドライバ21Aなどの制御を行う。なお、
図1(b)では、ホスト装置400からの画像データを受信した処理を行う形態を示しているが、ホスト装置400からのデータに拠らずに液体吐出装置50で処理が行われてもよい。
【0028】
<液体吐出ヘッドの基本構成>
図2は、本実施形態の液体吐出ヘッド1の分解斜視図である。
図3は
図2に示す液体吐出ヘッド1のIIIa-IIIa線断面図である。
図3(a)は液体吐出ヘッド1の全体的な縦断面図、
図3(b)は
図3(a)に示す吐出モジュール300の拡大図である。以下、
図2及び
図3を中心に、
図1を適宜参照しつつ、本実施形態における液体吐出ヘッド1の基本構成を説明する。
【0029】
図2に示すように、液体吐出ヘッド1は、循環ユニット54と、循環ユニット54から供給されたインクを記録媒体Pに吐出するための吐出ユニット3とを含み構成されている。本実施形態における液体吐出ヘッド1は、液体吐出装置50のキャリッジ60に設けられている不図示の位置決め手段及び電気的接点によってキャリッジ60に固定支持される。液体吐出ヘッド1は、キャリッジ60と共に
図1に示す主走査方向(X方向)に移動しながらインクを吐出し、記録媒体Pへの記録を行う。
【0030】
インクの供給源となるインクタンク2に接続された外部ポンプ21には、インク供給チューブ59が設けられている(
図1参照)。このインク供給チューブ59の先端には、不図示の液体コネクタが設けられている。液体吐出装置50に液体吐出ヘッド1が搭載された際、液体吐出ヘッド1のヘッド筐体53に設けられた、液体の導入口である液体コネクタ挿入口53aに、インク供給チューブ59の先端に設けられた液体コネクタが気密接続される。これにより、インクタンク2から外部ポンプ21を経て液体吐出ヘッド1に至るインク供給路が形成される。本実施形態では、4種類のインクを用いるため、インクタンク2、外部ポンプ21、インク供給チューブ59、及び循環ユニット54が、それぞれのインクに対応して4組設けられており、各インクに対応した4本のインク供給路が独立して形成されている。このように、本実施形態の液体吐出装置50には、液体吐出ヘッド1の外部に設けられたインクタンク2からインクが供給されるインク供給系が備えられている。なお、本実施形態の液体吐出装置50には、液体吐出ヘッド1内のインクをインクタンク2に回収するようなインク回収系は備えられていない。従って、液体吐出ヘッド1には、インクタンク2のインク供給チューブ59を接続するための液体コネクタ挿入口53aは設けられているが、液体吐出ヘッド1のインクをインクタンク2に回収するためのチューブを接続させるコネクタ挿入口は設けられていない。なお、液体コネクタ挿入口53aは、インク毎に設けられている。
【0031】
図3において、54Aは第1のインク用の循環ユニットを、54Bは第2のインク用の循環ユニットを、54Cは第3のインク用の循環ユニットを、54Dは第4のインク用の循環ユニットを、それぞれ示している。これらのインク(第1、第2、第3及び第4のインク)のうち、少なくとも1つのインクが酸化チタンを含有する場合、本発明を好適に用いることができる。各循環ユニットは略同様の構成を有しており、本実施形態において各循環ユニットを特に区別しない場合には、いずれも循環ユニット54と表記する。
【0032】
図2及び
図3(a)において、吐出ユニット3は、2つの吐出モジュール300、第1支持部材4、第2支持部材7、電気配線部材(電気配線テープ)5、及び電気コンタクト基板6を備える。
図3(b)に示すように、吐出モジュール300は、厚さ0.5~1mmのシリコン基板310と、シリコン基板310の片面に設けられた複数の吐出素子15とを備えている。本実施形態における吐出素子15は、液体を吐出するための吐出エネルギーとして熱エネルギーを発生する電気熱変換素子(ヒータ)により構成されている。各吐出素子15には、シリコン基板310上に成膜技術によって形成された電気配線を介して電力が供給される。
【0033】
また、シリコン基板310の表面(
図3(b)において下面)には、吐出口形成部材320が形成されている。吐出口形成部材320には、複数の吐出素子15に対応する複数の圧力室12と、インクを吐出する複数の吐出口13とがフォトリソグラフィ技術によってそれぞれ形成されている。さらに、シリコン基板310には、共通供給流路18と共通回収流路19とが形成されている。また、シリコン基板310には、共通供給流路18と各圧力室12とを連通する供給接続流路323と、共通回収流路19と各圧力室12とを連通する回収接続流路324が形成されている。本実施形態では、1つの吐出モジュール300が、2種類のインクの吐出を行うように構成されている。すなわち、
図3(a)に示す2つの吐出モジュールのうち、図中の左側に位置する吐出モジュール300は、第1のインクと第2のインクの吐出を行い、図中の右側に位置する吐出モジュール300は、第3のインクと第4のインクの吐出を行う。なお、この組み合わせは一例であり、インクの組み合わせはいずれであってもよい。1つの吐出モジュールが1種類のインクを吐出する構成でもよいし、3種類以上のインクを吐出する構成としてもよい。2つの吐出モジュール300が同じ種類数のインクを吐出するものでなくてもよい。1つの吐出モジュール300が備えられる構成としてもよいし、3つ以上の吐出モジュール300が備えらえる構成としてもよい。さらに、
図3に示す例では、1種類のインクに対して、Y方向に延在する2つの吐出口列が形成されている。各吐出口列を構成する複数の吐出口13の各々に対し、圧力室12、共通供給流路18及び共通回収流路19がそれぞれ形成されている。
【0034】
シリコン基板310の裏面(
図3(b)において上面)側には、後述するインク供給口及びインク回収口が形成されている。インク供給口は複数の共通供給流路18にインク供給流路48からインクを供給し、インク回収口は複数の共通回収流路19からインク回収流路49にインクを回収する。
【0035】
なお、ここでいうインク供給口及びインク回収口は、後述する順方向のインク循環時においてインクの供給及び回収を行う開口を指す。すなわち、順方向へのインク循環時にはインク供給口から各共通供給流路18にインクが供給されると共に、各共通回収流路19からインク回収口へとインクが回収される。ただし、逆方向へインクを流すインク循環を行う場合もある。この場合には、上記で説明したインク回収口から共通回収流路19にインクが供給されると共に、共通供給流路18からインク供給口へとインクが回収されることになる。
【0036】
図3(a)に示すように、吐出モジュール300は、その裏面(
図3(a)における上面)が、第1支持部材4の一方の面(
図3(a)において下面)に接着固定されている。第1支持部材4には、その一方の面から他方の面に亘って貫通するインク供給流路48とインク回収流路49とが形成されている。インク供給流路48の一方の開口はシリコン基板310における前述のインク供給口に、インク回収流路49の一方の開口はシリコン基板310における前述のインク回収口に、それぞれ連通している。なお、インク供給流路48及びインク回収流路49は、インクの種類毎に独立して設けられている。
【0037】
また、第1支持部材4の一方の面(
図3(a)における上面)には、吐出モジュール300を挿通させる開口7a(
図2参照)を有する第2支持部材7が接着固定されている。第2支持部材7には、吐出モジュール300に対して電気的に接続される電気配線部材5が保持されている。電気配線部材5は、インクを吐出するための電気信号を吐出モジュール300に印加するための部材である。吐出モジュール300と電気配線部材5との電気接続部分は、封止材(不図示)により封止され、インクによる腐食や外的衝撃から保護されている。
【0038】
また、電気配線部材5の端部5a(
図2参照)には、不図示の異方性導電フィルムを用いて電気コンタクト基板6が熱圧着され、電気配線部材5と電気コンタクト基板6とは電気的に接続されている。電気コンタクト基板6は、液体吐出装置50からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子(不図示)を有している。
【0039】
さらに、第1支持部材4と循環ユニット54との間にはジョイント部材8(
図3(a))が設けられている。ジョイント部材8には、供給口88と回収口89とがインクの種類毎に形成されている。供給口88及び回収口89は、第1支持部材4のインク供給流路48及びインク回収流路49と循環ユニット54に形成される流路とを連通させる。なお、
図3(a)において、供給口88A及び回収口89Aは第1のインクに対応し、供給口88B及び回収口89Bは第2のインクに対応する。また、供給口88C及び回収口89Cは第3のインクに対応し、供給口88D及び回収口89Dは第4の反応液に対応している。
【0040】
なお、第1支持部材4のインク供給流路48及びインク回収流路49のそれぞれの一端部の開口は、シリコン基板310におけるインク供給口及びインク回収口に合わせた小さな開口面積を有している。これに対し、第1支持部材4のインク供給流路48及びインク回収流路49のそれぞれの他端部の開口は、循環ユニット54の流路に合わせて形成されたジョイント部材8の大きな開口面積と同一の開口面積にまで拡大させた形状を有している。このような構成を採ることにより、各回収流路から集められたインクに対する流路抵抗の上昇を抑制することができる。ただし、インク供給流路48及びインク回収流路49のそれぞれの一端部及び他端部の開口の形状は、上記の例に限定されない。
【0041】
上記構成を有する液体吐出ヘッド1において、循環ユニット54に供給されたインクは、ジョイント部材8の供給口88及び第1支持部材4のインク供給流路48を経て、吐出モジュール300のインク供給口から共通供給流路18に流入する。続いてインクは共通供給流路18から供給接続流路323を介して圧力室12に流入し、圧力室内に流入したインクの一部は、吐出素子15の駆動によって吐出口13から吐出される。吐出されなかった残りのインクは、圧力室12から回収接続流路324、共通回収流路19を経てインク回収口から第1支持部材4のインク回収流路49に流入する。そして、インク回収流路49に流入したインクは、ジョイント部材8の回収口89を経て循環ユニット54へと流入し、回収される。
【0042】
<循環ユニットの構成要素>
図4は、本実施形態の記録装置に適用される1種類のインクに対応する1つの循環ユニット54の外観概略図である。循環ユニット54は、循環ポンプ500の他に、フィルタ110、第1圧力調整手段120、第2圧力調整手段150、を有していることが好ましい。これらの構成要素は、
図5及び
図6に示すように各流路によって接続され、液体吐出ヘッド1内において、吐出モジュール300に対してインクの供給及び回収を行う循環経路を構成している。
【0043】
<液体吐出ヘッド内の循環経路>
図5は、液体吐出ヘッド1内に構成される1種類のインク(1色のインク)の循環経路を模式的に示す縦断面図である。循環経路をより明確に説明するため、
図5における各構成(第1圧力調整手段120、第2圧力調整手段150、循環ポンプ500等)の相対位置は簡略化している。そのため各構成の相対位置は後述する
図19の構成とは異なる。また、
図6は、
図5に示した循環経路を模式的に示すブロック図である。
図5及び
図6に示すように、第1圧力調整手段120は、第1バルブ室121及び第1圧力制御室122を備えている。第2圧力調整手段150は、第2バルブ室151及び第2圧力制御室152を備えている。第1圧力調整手段120は、第2圧力調整手段150よりも相対的に制御圧力が高くなるように構成されている。本実施形態では、この二つの圧力調整手段120、150を用いることで、循環経路内において一定の圧力範囲での循環を実現している。また、第1圧力調整手段120と第2圧力調整手段150との圧力差に応じた流量で圧力室12(吐出素子15)をインクが流れるように構成されている。以下、
図5及び
図6を参照しつつ、液体吐出ヘッド1における循環経路及び循環経路内におけるインクの流れを説明する。なお、各図中の矢印はインクの流れる方向を示している。
【0044】
まず、液体吐出ヘッド1における各構成要素の接続状態を説明する。
【0045】
液体吐出ヘッド1の外部に設けられたインクタンク2(
図6)に収容されたインクを液体吐出ヘッド1へ送る外部ポンプ21は、インク供給チューブ59(
図1)を介して循環ユニット54と接続されている。循環ユニット54の上流側に位置するインク流路(流入流路)にはフィルタ110が設けられている。フィルタ110の下流側に位置するインク供給路(流入流路)は、第1圧力調整手段120の第1バルブ室121に接続されている。第1バルブ室121は、
図5に示すバルブ190Aにより開閉可能な連通口191Aを介して第1圧力制御室122に連通している。なお、流入流路とは、液体吐出ヘッド1の外部に設けられたインクタンク2内の液体を、圧力室12に供給するために液体吐出ヘッド1に流入する流路である。
【0046】
第1圧力制御室122は、供給流路130、バイパス流路160、及び循環ポンプ500のポンプ出口流路180に接続されている。供給流路130は、吐出モジュール300に設けられた前述のインク供給口を介して共通供給流路18に接続されている。また、バイパス流路160は、第2圧力調整手段150に設けられた第2バルブ室151に接続されている。第2バルブ室151は、
図5に示すバルブ190Bによって開閉する連通口191Bを介して第2圧力制御室152に連通している。なお、
図5及び
図6では、バイパス流路160の一端を第1圧力調整手段120の第1圧力制御室122に接続し、且つバイパス流路160の他端を第2圧力調整手段150の第2バルブ室151に接続した例を示している。なお、バイパス流路160の一端を供給流路130に接続し、バイパス流路の他端を第2バルブ室151に接続してもよい。
【0047】
第2圧力制御室152は、回収流路140に接続されている。回収流路140は、吐出モジュール300に設けられた前述のインク回収口を介して共通回収流路19に接続されている。さらに、第2圧力制御室152は、ポンプ入口流路170を介して循環ポンプ500に接続されている。なお、
図5において、170aはポンプ入口流路170の流入口を示している。
【0048】
次に、上記構成を有する液体吐出ヘッド1におけるインクの流れについて説明する。
図6に示すように、インクタンク2に収容されているインクは、液体吐出装置50に設けられた外部ポンプ21によって加圧され、正圧のインク流となって液体吐出ヘッド1の循環ユニット54に供給される。
【0049】
循環ユニット54に供給されたインクは、フィルタ110を通過することにより塵埃などの異物や気泡が除去された後、第1圧力調整手段120に設けられた第1バルブ室121に流入する。フィルタ110を通過する際の圧力損失によってインクの圧力は低下するが、この段階でのインクの圧力は正圧の状態にある。その後、第1バルブ室121に流入したインクは、バルブ190Aが開状態にあるとき、連通口191Aを通過して第1圧力制御室122に流入する。連通口191Aを通過する際の圧力損失によって、第1圧力制御室122に流入したインクは、正圧から負圧へと切り替わる。
【0050】
次に、循環経路内におけるインクの流れを説明する。循環ポンプ500は、その上流側となるポンプ入口流路170から吸引したインクを下流側となるポンプ出口流路180へとインクを送り出すように動作する。従って、ポンプが駆動されることにより、第1圧力制御室122に供給されたインクは、ポンプ出口流路180から送液されたインクと共に、供給流路130及びバイパス流路160に流入する。なお、詳細は後述するが、本実施形態では送液可能な循環ポンプとして、ダイヤフラムに貼り付けた圧電素子を駆動源とする圧電ダイヤフラムポンプを用いている。圧電ダイヤフラムポンプは、圧電素子に駆動電圧を入力することでポンプ室内の容積を変化させ、圧力変動によって2つの逆止弁が交互に動くことにより送液を行うポンプである。
【0051】
供給流路130に流入したインクは、吐出モジュール300のインク供給口から共通供給流路18を介して圧力室12に流入し、その一部のインクは吐出素子15の駆動(発熱)によって吐出口13から吐出される。また、吐出に使用されなかった残りのインクは、圧力室12を流動し、共通回収流路19を通過した後、吐出モジュール300に接続されている回収流路140に流入する。回収流路140に流入したインクは、第2圧力調整手段150の第2圧力制御室152に流入する。
【0052】
一方、第1圧力制御室122からバイパス流路160に流入したインクは、第2バルブ室151に流入した後、連通口191Bを通過して第2圧力制御室152に流入する。バイパス流路160を経由して第2圧力制御室152に流入したインクと回収流路140から回収されたインクとは、循環ポンプ500の駆動によってポンプ入口流路170を経て循環ポンプ500内に吸引される。そして、循環ポンプ500内に吸引されたインクは、ポンプ出口流路180へと送られ、第1圧力制御室122に再び流入する。以降では、第1圧力制御室122から供給流路130を介して吐出モジュール300を経て第2圧力制御室152に流入したインクと、バイパス流路160を介して第2圧力制御室152に流入したインクとが、循環ポンプ500に流入する。そして、循環ポンプ500から第1圧力制御室122に送られる。このようにして循環経路内でのインクの循環が行われることになる。
【0053】
以上のように、本実施形態では、循環ポンプ500によって、液体吐出ヘッド1内に形成した循環経路に沿って液体を循環させることが可能になる。このため、吐出モジュール300内でのインクの増粘や色材のインクの沈降成分の堆積を抑制することが可能となり、吐出モジュール300におけるインクの流動性および吐出口における吐出特性を良好な状態に保つことが可能になる。
【0054】
また本実施形態における循環経路は、液体吐出ヘッド1内で完結する構成を採るため、液体吐出ヘッドの外部に設けられたインクタンク2と液体吐出ヘッド1との間でインクの循環を行う場合に比べ、循環経路長を大幅に短縮することができる。このため、インクの循環を圧電ポンプなどの小型な循環ポンプで行うことが可能になる。
【0055】
さらに、液体吐出ヘッド1とインクタンク2との接続流路としては、インクを供給する流路のみを備える構成となっている。即ち、液体吐出ヘッド1からインクタンク2へとインクを回収するための流路を不要とする構成を採る。このため、インクタンク2と液体吐出ヘッド1との接続にはインク供給用のチューブのみを設ければよく、インク回収用のチューブを設ける必要はない。従って、液体吐出装置50の内部を、チューブの本数が削減された簡潔な構成とすることができ、装置全体の小型化を実現することができる。さらにチューブの本数が削減されることにより、液体吐出ヘッド1の主走査に伴うチューブの揺動に起因するインクの圧力変動を軽減することが可能になる。また、液体吐出ヘッド1の主走査時におけるチューブの揺動は、キャリッジ60を駆動するキャリッジモータの駆動負荷となる。このため、チューブの本数削減によってキャリッジモータの駆動負荷が低減され、キャリッジモータ等を含む主走査機構の簡略化を図ることが可能になる。さらに、液体吐出ヘッドからインクタンクへのインクの回収が不要となるため、外部ポンプ21の小型化も可能となる。このように、本実施形態によれば、液体吐出装置50において液体を循環可能に構成しつつ、の小型化及びコスト低減を実現することができる。
【0056】
なお、反応液を循環させる流量(循環流量)としては、1.0mL/min以上10.0mL/min以下であることが好ましく、2.0mL/min以上10.0mL/min以下であることがより好ましく、2.0mL以上5.0mL/min以下であることがさらに好ましい。
【0057】
<圧力調整手段>
図7は、圧力調整手段の例を示す図である。
図7を参照して、上述の液体吐出ヘッド1に内蔵される圧力調整手段(第1圧力調整手段120、第2圧力調整手段150)の構成及び作用を、より詳細に説明する。なお、第1圧力調整手段120と第2圧力調整手段150とは、実質的に同一の構成を有している。このため、以下では、第1圧力調整手段120を例に採り説明し、第2圧力調整手段150については、
図7において第1圧力調整手段に対応する部分の符号を併記するにとどめる。第2圧力調整手段150の場合には、以下で説明する第1バルブ室121を第2バルブ室151と読み替え、第1圧力制御室122を第2圧力制御室152と読み替えることとする。
【0058】
第1圧力調整手段120は、円筒状の筐体125内に形成された第1バルブ室121と第1圧力制御室122とを有する。第1バルブ室121と第1圧力制御室122とは、円筒状の筐体125内に設けられた隔壁123によって隔てられている。ただし、第1バルブ室121は、隔壁123に形成された連通口191を介して第1圧力制御室122に連通している。第1バルブ室121には、連通口191における第1バルブ室121と第1圧力制御室122との連通及び遮断を切り替えるバルブ190が設けられている。バルブ190は、バルブばね200によって、連通口191に対向する位置に保持されており、バルブばね200の付勢力によって隔壁123と密接可能な構成を有している。バルブ190が隔壁123に密接することにより、連通口191におけるインクの流通は遮断される。なお、隔壁123との密接性を高めるため、バルブ190の隔壁123との接触部分は弾性部材によって形成されることが好ましい。また、バルブ190の中央部には連通口191に挿通されるバルブシャフト190aが突設されている。このバルブシャフト190aをバルブばね200の付勢力に抗して押圧することにより、バルブ190は隔壁123から離間し、連通口191におけるインクの流通が可能になる。以下、バルブ190によって連通口191におけるインクの流通が遮断される状態を「閉状態」、連通口191におけるインクの流通が可能な状態を「開状態」と称す。
【0059】
円筒状の筐体125の開口部は、可撓性部材230と圧力板210とにより閉塞されている。この可撓性部材230と、圧力板210と、筐体125の周壁と、隔壁123とにより、第1圧力制御室122が形成されている。圧力板210は、可撓性部材230の変位に伴って変位可能に構成されている。圧力板210及び可撓性部材230の材質は、特に限定されないが、例えば、圧力板210を樹脂成形部品で構成し、可撓性部材230を樹脂フィルムで構成することが可能である。この場合、圧力板210は可撓性部材230に熱溶着によって固定することができる。
【0060】
圧力板210と隔壁123との間には、圧力調整ばね220(付勢部材)が設けられている。圧力調整ばね220の付勢力によって、圧力板210及び可撓性部材230は、
図7(a)に示すように、第1圧力制御室122の内容積が広がる方向に付勢されている。また、第1圧力制御室122内の圧力が減少すると、圧力板210及び可撓性部材230は、圧力調整ばね220の圧力に抗して、第1圧力制御室122の内容積が減少する方向に変位する。そして、第1圧力制御室122の内容積が一定量まで減少すると、圧力板210がバルブ190のバルブシャフト190aに当接する。その後、さらに第1圧力制御室122の内容積が減少すると、バルブばね200の付勢力に抗してバルブシャフト190aと共にバルブ190が移動し、隔壁123から離間する。これにより、連通口191が開状態(
図7(b)の状態)となる。
【0061】
本実施形態では、連通口191が開状態となったときの第1バルブ室121の圧力を第1圧力制御室122の圧力よりも高くなるように、循環経路内における接続設定をする。これにより、連通口191が開状態となると、第1バルブ室121から第1圧力制御室122へとインクが流入する。このインク流入により、第1圧力制御室122の内容積が増加する方向へ可撓性部材230及び圧力板210が変位する。その結果、圧力板210がバルブ190のバルブシャフト190aから離間し、バルブ190はバルブばね200の付勢力によって隔壁123に密接し、連通口191は閉状態(
図7(c)の状態)となる。
【0062】
このように、本実施形態における第1圧力調整手段120では、第1圧力制御室122内の圧力が一定圧力以下まで減少すると(例えば負圧が強くなると)、第1バルブ室121から連通口191を介してインクが流入する。これにより、第1圧力制御室122の圧力がそれ以上減少しないように構成されている。従って、第1圧力制御室122は一定範囲内の圧力に保たれるよう制御される。
【0063】
次に、第1圧力制御室122の圧力についてより詳細に説明する。
【0064】
前述のように第1圧力制御室122の圧力に応じて可撓性部材230及び圧力板210が変位し、圧力板210がバルブシャフト190aに当接して連通口191が開状態となった状態(
図7(b)の状態)を考える。このとき、圧力板210に働く力の関係は、次の式1によって表される。
【0065】
P2×S2+F2+(P1-P2)×S1+F1=0・・・式1
さらに、式1をP2について整理すると、
P2=-(F1+F2+P1×S1)/(S2-S1)・・・式2となる。
【0066】
P1:第1バルブ室121の圧力(ゲージ圧)
P2:第1圧力制御室122の圧力(ゲージ圧)
F1:バルブばね200のばね力
F2:圧力調整ばね220のばね力
S1:バルブ190の受圧面積
S2:圧力板210の受圧面積
ここで、バルブばね200のばね力F1及び圧力調整ばね220のばね力F2は、バルブ190及び圧力板210を押す方向を正(
図7において左方向)とする。また、第1バルブ室121の圧力P1及び第1圧力制御室122の圧力P2に関し、P1が、P1≧P2の関係となるように構成する。
【0067】
連通口191が開状態となるときの第1圧力制御室122の圧力P2は、式2によって決定され、連通口191が開状態となると、P1≧P2の関係に構成したことにより、第1バルブ室121から第1圧力制御室122へインクが流入する。その結果、第1圧力制御室122の圧力P2はそれ以上減少せず、P2は一定範囲内の圧力に保たれる。
【0068】
一方、
図7(c)に示すように、圧力板210がバルブシャフト190aと非当接状態となり、連通口191が閉状態となったときの圧力板210に働く力の関係は、式3のようになる。
【0069】
P3×S3+F3=0・・・式3
ここで、式3をP3について整理すると
P3=-F3/S3・・・式4となる。
【0070】
F3:圧力板210とバルブシャフト190aとが非当接状態にあるときの圧力調整ばね220のばね力
P3:圧力板210とバルブシャフト190aとが非当接状態にあるときの第1圧力制御室122の圧力(ゲージ圧)
S3:圧力板210とバルブ190が非当接状態にあるときの圧力板210の受圧面積
ここで
図7(c)では、圧力板210及び可撓性部材230が変位可能な限界まで図右方向へ変位した状態を表している。圧力板210及び可撓性部材230が
図7(c)の状態へと変位する間の変位量に応じて、第1圧力制御室122の圧力P3、圧力調整ばね220のばね力F3、圧力板210の受圧面積S3は変化する。具体的には、
図7(c)よりも圧力板210及び可撓性部材230が
図7において右方向にあるとき、圧力板210の受圧面積S3は小さくなり、圧力調整ばね220のばね力F3は大きくなる。その結果、式4の関係により第1圧力制御室122の圧力P3は小さくなる。従って、式2及び式4により、
図7(b)の状態から
図7(c)の状態になるまでの間に、第1圧力制御室122の圧力は徐々に上昇していく(つまり、負圧が弱くなり、正圧側に近づく値になる)。即ち、連通口191が開状態となっている状態から、圧力板210及び可撓性部材230が左方向に徐々に変位していき、最終的に第1圧力制御室122の内容積が変位可能な限界に達するまでの間に、第1圧力制御室の圧力は徐々に上昇していく。つまり、負圧が弱まっていくことになる。
【0071】
<循環ポンプ>
次に、
図8及び
図9を参照して、上述の液体吐出ヘッド1に内蔵される循環ポンプ500の構成及び作用を詳細に説明する。
【0072】
図8は、循環ポンプ500の外観斜視図である。
図8(a)は循環ポンプ500の正面側を示す外観斜視図、
図8(b)は循環ポンプ500の背面側を示す外観斜視図である。循環ポンプ500の外殻は、ポンプ筐体505と、ポンプ筐体505に固定されたカバー507とにより構成されている。ポンプ筐体505は、筐体部本体505aと、筐体部本体505aの外面に接着固定された流路接続部材505bとにより構成されている。筐体部本体505aと流路接続部材505bとの各々には、互いに連通する一対の貫通孔が異なる2つの位置に設けられている。一方の位置に設けられた一対の貫通孔はポンプ供給孔501を形成し、他方の位置に設けられた一対の貫通孔はポンプ排出孔502を形成している。ポンプ供給孔501は、第2圧力制御室152に接続されたポンプ入口流路170に接続され、ポンプ排出孔502は、第1圧力制御室122に接続されたポンプ出口流路180に接続されている。ポンプ供給孔501から供給されたインクは、後述のポンプ室503(
図9参照)を通過してポンプ排出孔502から排出される。
【0073】
図9は、
図8(a)に示した循環ポンプ500のIX-IX線断面図である。ポンプ筐体505の内面にはダイヤフラム506が接合されており、このダイヤフラム506とポンプ筐体505の内面に形成された凹部との間にポンプ室503が形成されている。ポンプ室503は、ポンプ筐体505に形成されたポンプ供給孔501及びポンプ排出孔502に連通している。また、ポンプ供給孔501の中間部分には、逆止弁504aが設けられ、ポンプ排出孔502の中間部分には、逆止弁504bが設けられている。具体的には、逆止弁504aは、その一部がポンプ供給孔501の中間部分に形成されている空間512aにおいて図中の左方へと移動し得るように配置されている。また、逆止弁504bは、その一部がポンプ排出孔502の中間部分に形成されている空間512bにおいて図中の右方へと移動し得るように配置されている。
【0074】
ダイヤフラム506が変位してポンプ室503の容積が増加することでポンプ室503が減圧されると、逆止弁504aは空間512a内のポンプ供給孔501の開口から離間する(つまり、図中の左方へと移動する)。逆止弁504aが空間512a内のポンプ供給孔501の開口から離間することで、ポンプ供給孔501におけるインクの流通を可能とする開状態となる。また、ダイヤフラム506が変位してポンプ室503の容積が減少することでポンプ室503が加圧されると、逆止弁504aはポンプ供給孔501の開口の周囲の壁面に密接する。この結果、ポンプ供給孔501におけるインクの流通を遮断する閉状態となる。
【0075】
一方、逆止弁504bは、ポンプ室503が減圧されると、ポンプ筐体505の開口の周囲の壁面に密接して、ポンプ排出孔502におけるインクの流通を遮断する閉状態となる。また、ポンプ室503が加圧されると、逆止弁504bは、ポンプ筐体505の開口から離間して空間512b側に移動し(つまり、図中の右方へと移動し)、ポンプ排出孔502におけるインクの流通を可能とする。
【0076】
なお、各逆止弁504a、504bの材質は、ポンプ室503内の圧力に応じて変形可能なものであればよく、例えば、EPDMやエラストマなどの弾性部材やポリプロピレンなどのフィルムや薄板で形成することが可能である。ただし、これらに限定されるものではない。
【0077】
前述のように、ポンプ室503はポンプ筐体505とダイヤフラム506との接合によって形成されている。従って、ダイヤフラム506が変形することによりポンプ室503の圧力は変化する。例えば、ダイヤフラム506がポンプ筐体505側に変位して(図中、右側に変位して)ポンプ室503の容積が減少すると、ポンプ室503内の圧力は上昇する。これによりポンプ排出孔502に対向して配置した逆止弁504bが開状態となり、ポンプ室503のインクが排出される。このとき、ポンプ供給孔501に対向して配置された逆止弁504aは、ポンプ供給孔501の周囲の壁面に密接するためポンプ室503からポンプ供給孔501へのインクの逆流は抑制される。
【0078】
また逆に、ダイヤフラム506がポンプ室503が広がる方向に変位した場合にはポンプ室503の圧力は減少する。これにより、ポンプ供給孔501に対向して配置された逆止弁504aが開状態となり、ポンプ室503にインクが供給される。このとき、ポンプ排出孔502に配置された逆止弁504bは、ポンプ筐体505に形成された開口の周囲の壁面に密接して当該開口を閉塞する。このため、ポンプ排出孔502からポンプ室503へのインクの逆流は抑制される。
【0079】
このように循環ポンプ500では、ダイヤフラム506が変形し、ポンプ室503内の圧力を変化させることにより、インクの吸引と排出を行う。この際、ポンプ室503内に泡が混入すると、ダイヤフラム506が変位しても、泡の膨張・収縮によってポンプ室503内の圧力変化が小さくなり送液量が低下する。そこでポンプ室503を重力と平行に配置してポンプ室503に混入した泡をポンプ室503の上方に集まりやすくすると共に、ポンプ排出孔502をポンプ室503の中心よりも上方に配置する。これにより、ポンプ内の泡の排出性を向上させることが可能となり、流量の安定化を図ることができる。
【0080】
<液体吐出ヘッド内のインクの流れ>
図10は、液体吐出ヘッド内のインクの流れを説明する図である。
図10を参照しつつ液体吐出ヘッド1内で行われるインクの循環について説明する。インク循環経路をより明確に説明するため、
図10における各構成(第1圧力調整手段120、第2圧力調整手段150、循環ポンプ500等)の相対位置は簡略化している。そのため各構成の相対位置は後述する
図19の構成とは異なる。
図10(a)は吐出口13からインクを吐出して記録を行う記録動作を行っているときのインクの流れを模式的に示したものである。なお、図中の矢印はインクの流れを示している。本実施形態において、記録動作を行う際には外部ポンプ21及び循環ポンプ500の両方が駆動を開始する。なお、記録動作を行わない状態において、外部ポンプ21及び循環ポンプ500が駆動していてもよい。また、外部ポンプ21と循環ポンプ500との駆動は、連動して行われなくてもよく、別個に独立して駆動されてもよい。
【0081】
記録動作中は循環ポンプ500がONの状態(駆動状態)となっており、第1圧力制御室122から流出したインクは供給流路130及びバイパス流路160に流入する。供給流路130に流入したインクは、吐出モジュール300を通過した後、回収流路140に流入し、その後、第2圧力制御室152に供給される。
【0082】
一方、第1圧力制御室122からバイパス流路160に流入したインクは、第2バルブ室151を経て第2圧力制御室152に流入する。第2圧力制御室152に流入したインクは、ポンプ入口流路170、循環ポンプ500、及びポンプ出口流路180を通過した後、再び第1圧力制御室122に流入する。このとき、第1バルブ室121による制御圧力は、前述した式2の関係に基づいて、第1圧力制御室122の制御圧力よりも高く設定されている。従って、第1圧力制御室122内のインクは、第1バルブ室121に流れずに再度供給流路130を介して吐出モジュール300に供給される。吐出モジュール300に流入したインクは、回収流路140、第2圧力制御室152、ポンプ入口流路170、循環ポンプ500、及びポンプ出口流路180を経て、再び第1圧力制御室122に流入する。以上により液体吐出ヘッド1内で完結するインク循環が行われる。
【0083】
以上のインク循環において、吐出モジュール300内のインクの循環量(流量)は第1圧力制御室122及び第2圧力制御室152の制御圧力の差圧によって決定される。そして、この差圧は、吐出モジュール300内の吐出口近傍のインクの増粘を抑制可能な循環量となるように設定される。酸化チタンを含有するインクに対応した循環ユニット54においてはさらに、循環流量Q[mL/min]と循環経路の最大断面積S[mm2]を用いて表されるQ/Sが酸化チタンの沈降速度よりも大きくなるよう差圧が設定される。また、記録によって消費された分のインクは、インクタンク2からフィルタ110、第1バルブ室121を介して第1圧力制御室122に供給される。消費されたインクが供給される仕組みを、詳細に説明する。記録によって消費されたインクの分だけ循環経路内からインクが減ることで、第1圧力制御室内の圧力が減少し、結果として第1圧力制御室122内のインクも減少する。第1圧力制御室122内のインクの減少に伴い、第1圧力制御室122の内容積が減少する。この第1圧力制御室122の内容積の減少により、連通口191Aが開状態となり、第1バルブ室121から第1圧力制御室122にインクが供給される。この供給されるインクには、第1バルブ室121から連通口191Aを通過する際に圧力損失が発生し、第1圧力制御室122に流入することで、正圧のインクは、負圧の状態に切り替わる。そして、第1圧力制御室122に第1バルブ室121からインクが流入することで、第1圧力制御室内の圧力が上昇することで第1圧力制御室の内容積が増加し、連通口191Aが閉状態となる。このように、インクの消費に応じて連通口191Aは、開状態と閉状態とを繰り返すことになる。また、インクが消費されない場合には、連通口191Aは、閉状態に維持される。
【0084】
図10(b)は、記録動作が終了し、循環ポンプ500がOFFの状態(停止状態)となった直後のインクの流れを模式的に示したものである。記録動作が終了し、循環ポンプ500がOFFとなった時点では、第1圧力制御室122の圧力及び第2圧力制御室152の圧力は、いずれも記録動作中の制御圧となっている。このため、第1圧力制御室122の圧力と第2圧力制御室152の圧力との差圧に応じて、
図10(b)に示すようなインクの移動が生じる。具体的には第1圧力制御室122から供給流路130を介して吐出モジュール300に供給され、その後、回収流路140を経て第2圧力制御室152に至るインクの流れが引き続き発生する。また、第1圧力制御室122からバイパス流路160及び第2バルブ室151を経て第2圧力制御室152に至るインクの流れも引き続き発生する。
【0085】
これらのインクの流れによって第1圧力制御室122から第2圧力制御室152へ移動したインク量が、インクタンク2からフィルタ110及び第1バルブ室121を経て第1圧力制御室122に供給される。このため第1圧力制御室122内の内容量は一定に保たれる。前述した式2の関係から、第1圧力制御室122の内容量が一定の時は、バルブばね200のばね力F1、圧力調整ばね220のばね力F2、バルブ190の受圧面積S1、圧力板210の受圧面積S2は一定に保たれる。このため、第1バルブ室121の圧力(ゲージ圧)P1の変化に応じて第1圧力制御室122の圧力が決定される。よって第1バルブ室121の圧力P1の変化がない場合には、第1圧力制御室122の圧力P2は記録動作中の制御圧と同じ圧力に保たれる。
【0086】
一方、第2圧力制御室152の圧力は、第1圧力制御室122からのインクの流入に伴う内容量の変化に応じて経時的に変化する。具体的には、
図10(b)の状態から、
図10(c)に示すように、連通口191が閉状態となって第2バルブ室151と第2圧力制御室152とが非連通状態となるまでの間は、式2に従って第2圧力制御室152の圧力は変化する。その後、圧力板210とバルブシャフト190aとが非当接状態となって連通口191が閉状態となる。そして、
図10(d)に示すように、回収流路140から第2圧力制御室152へインクが流入する。このインク流入によって圧力板210及び可撓性部材230が変位し、第2圧力制御室152の内容積が最大に達するまでの間は、式4に従って第2圧力制御室152の圧力は変化する。即ち上昇する。
【0087】
なお、
図10(c)の状態になると、第1圧力制御室122からバイパス流路160及び第2バルブ室151を経て第2圧力制御室152に至るインクの流れは発生しない。従って、第1圧力制御室122内のインクが、供給流路130を介して吐出モジュール300に供給された後、回収流路140を経て第2圧力制御室152に至る流れのみが生じる。前述のように、第1圧力制御室122から第2圧力制御室152へのインクの移動は、第1圧力制御室122内の圧力と第2圧力制御室152内の圧力との差圧に応じて生じる。このため、第2圧力制御室152内の圧力が第1圧力制御室122内の圧力と等しくなるとインクの移動は停止する。
【0088】
また、第2圧力制御室152内の圧力が第1圧力制御室122内の圧力と等しくなる状態においては、第2圧力制御室152が、
図10(d)に示す状態まで拡張する。
図10(d)に示すように第2圧力制御室152が拡張した場合、第2圧力制御室152には、インクを貯留できる貯留部が形成される。なお、循環ポンプ500の停止から
図10(d)の状態に移行するまでは、流路の形状及びサイズ並びにインクの性質に応じて変わり得るが、概ね1~2分程度の時間で移行する。貯留部にインクを貯留した
図10(d)に示す状態から循環ポンプ500を駆動すると、貯留部のインクは循環ポンプ500によって第1圧力制御室122に供給される。これにより
図10(e)に示すように第1圧力制御室122のインク量は増加し、可撓性部材230及び圧力板210は拡張方向へと変位する。そして、循環ポンプ500の駆動が引き続き行われると、
図10(a)に示すように、循環経路内の状態が変化することになる。
【0089】
なお、上記説明においては、
図10(a)は、記録動作時の例として説明したが、前述したように、記録動作を伴わずにインクの循環が行われてもよい。この場合であっても、循環ポンプ500の駆動及び停止に応じて、
図10(a)~(e)に示すようなインクの流れが生じることになる。
【0090】
ここで、循環ポンプ500の停止状態が長期間続いた場合(例えば本体の電源が切られている場合)、インク中の酸化チタン粒子は再分散せず沈降してしまうことが考えられる。また、吐出口13からのインク蒸発によるインク濃度上昇やインクの増粘、液体吐出ヘッド筐体を透過して侵入する空気によるヘッド内負圧の低下などが発生していることが考えられる。これらの状態のまま記録動作を行うと、記録画像の品質が低下する場合がある。そこで、前述したキャップ部材などを用いて、液体吐出ヘッド1の吐出口13からインクと共に増粘インクや気泡を吸引排出することにより、吐出口内のインクをリフレッシュさせてインク吐出性能を維持回復する吸引排出処理を行うことが好ましい。この吸引排出処理によって、沈降したインクを吸引排出して液体吐出ヘッド内における沈降解消を行うことができる。
【0091】
上述のように、本実施形態における第1圧力調整手段120及び2圧力調整手段150は、可撓性部材230及び圧力板210が液体吐出ヘッド1内の圧力を受けて変位する構成を有する。負圧設計上、ある程度の広さを持った受圧面積が必要であり、それに伴い、循環経路内の他の部位と比べて第1圧力制御室122及び第2圧力制御室152の体積は大きく、液体吐出ヘッドの中でもインクが沈降しやすい箇所である。この場合、沈降したインク(酸化チタン粒子)が可撓性部材230や圧力板210の変位を阻害して、適正な負圧を維持できないことが考えられる。
【0092】
そこで、循環経路内において圧力制御室(第1圧力制御室122及び第2圧力制御室152)が他の流路と連通する部分(
図10における250、260、280、240及び270)は、圧力制御室の鉛直方向下方に配置されていることが好ましい。これにより、吸引排出処理時に圧力制御室内の沈降インクを液体吐出ヘッド外部へと効果的に排出することが可能となる。吸引排出処理によってインクは吐出口13から吸引され、供給流路130と回収流路140には吐出口13に向かうインクの流れが生じる。圧力制御室内のインクは供給流路130と回収流路140を通じて吐出口13から排出されることとなる。すなわち、圧力制御手段の圧力制御室においてインクが沈降しやすい位置に供給流路130もしくは回収流路140と連通する部分(孔)を配置することが好ましく、これにより、容易に供給流路130もしくは回収流路140に沈降インクが流入して吐出口13より吸引排出することができる。
図10においては、第1圧力制御室122の供給流路130との接続部分250、第2圧力制御室152の回収流路140との接続部分270はいずれも、それぞれにおける圧力制御室(第1圧力制御室及び第2圧力制御室)の鉛直方向下方に配置されている。
【0093】
さらに、第1圧力制御室122とバイパス流路160との接続部分260、および第1圧力制御室122とポンプ出口流路180との接続部分280も、第1圧力制御室122の鉛直方向下方に、第2圧力制御室152とポンプ入口流路170との接続部分240も第2圧力制御室152の鉛直方向下方に配置されている。これにより、循環経路内の圧力制御室において、インクが沈降して循環もしにくい、循環流の死角となる袋状の淀み領域をなくすことができるため好ましい。
【0094】
なお、上記の説明における「圧力制御室の鉛直方向下方」とは、記録時の液体吐出ヘッドの姿勢において、鉛直方向において下方から圧力制御室の長さの半分以内にあればよく、鉛直方向において下方から圧力制御室の長さの1/4以内にあればより好ましい。
【0095】
さらに、吐出ユニット3内の流路が、循環経路内において沈降したインクを吐出口13から外部へと排出しやすい構造であることがより好ましく、循環ユニット54と吐出ユニット3との接続部分において、流路301及び302の壁面は、鉛直方向に対して垂直または傾斜していることが好ましい。すなわち、吐出ユニット3と循環ユニット54とが流体接続する部分において、吐出ユニット54における循環ユニット54と流体連通している流路の壁面は、鉛直方向に対して垂直又は傾斜していることがより好ましい。これにより、供給口88と支持部材供給口211、及び回収口89と支持部材供給口212との接続部分において、循環ユニット54内で沈降したインク成分を供給流路130もしくは回収流路140へと引き込んで、吐出口13から排出させやすくなる効果を得られる。
図22は液体吐出ヘッド1の別の例における断面図であり、
図22(a)は液体の供給側における循環ユニット54と吐出ユニット3との接続部分を示す断面図、
図22(b)は液体の回収側における循環ユニット54と吐出ユニット3との接続部分を示す断面図である。
図22においては、循環ユニット54と吐出ユニット3との接続部分において、流路301及び302の壁面は、鉛直方向に対して垂直または傾斜している構成が示されている。
【0096】
また上述したように、本実施形態では、第2圧力調整手段150における連通口191Bは、循環ポンプ500が駆動されてインクの循環が行われる場合に開状態になり、インクの循環が停止すると、閉状態になる例を用いるが、これに限られない。第2圧力調整手段150における連通口191Bは、循環ポンプ500が駆動されてインクの循環が行われている場合であっても、閉状態であるように制御圧力を設定してもよい。以下、バイパス流路160の役割と併せて具体的に説明する。
【0097】
第1圧力調整手段120と第2圧力調整手段150とを接続するバイパス流路160は、例えば循環経路内に生じた負圧が既定値よりも強まる場合に、その影響を吐出モジュール300に及ぼさないようにするために設けられている。また、バイパス流路160は、供給流路130及び回収流路140の両側から圧力室12にインクを供給するためにも設けられている。
【0098】
まず、負圧が既定値よりも強まる場合に、バイパス流路160を設けていることで、その影響を吐出モジュール300に及ぼさないようにする例を説明する。例えば、環境温度の変化によりインクの特性(例えば粘度)が変化することがある。インクの粘度が変化すると、循環経路内の圧力損失も変化する。例えば、インクの粘性が下がると、循環経路内の圧力損失分が減少する。この結果、一定の駆動量で駆動している循環ポンプ500の流量が増加し、吐出モジュール300を流れる流量が増えることになる。一方で、吐出モジュール300は、不図示の温度調整機構により一定温度に保たれるため、吐出モジュール300内のインクの粘度は、環境温度が変化しても一定に維持される。吐出モジュール300内のインクの粘度に変化がない一方で吐出モジュール300内を流れるインクの流量が増加する分、流抵抗により、吐出モジュール300における負圧が強まる。このようにして、吐出モジュール300における負圧が既定値よりも強まると、吐出口13のメニスカスが破壊され、外部の空気が循環経路内に引き込まれて、正常な吐出が行えなくなる虞がある。また、メニスカスが破壊されないとしても、圧力室12の負圧が所定よりも強まり、吐出に影響を及ぼす虞がある。
【0099】
このため、本実施形態では、バイパス流路160を循環経路内に形成している。バイパス流路160を設けることで、負圧が既定値よりも強まる場合には、バイパス流路160にもインクが流れるため、吐出モジュール300の圧力を一定に保つことができる。従って、例えば第2圧力調整手段150における連通口191Bは、循環ポンプ500を駆動中の場合であっても、閉状態を維持するような制御圧力で構成してもよい。そして、既定値よりも負圧が強まる場合に、第2圧力調整手段150における連通口191が開状態となるように、第2圧力調整手段における制御圧力を設定してもよい。つまり、環境変化などの粘度変化によるポンプの流量変化によってもメニスカスが崩壊しないか、または、所定の負圧が維持されるのであれば、循環ポンプ500が駆動している場合に、連通口191Bが閉状態であってもよい。
【0100】
次に、バイパス流路160が、供給流路130及び回収流路140の両側から圧力室12にインクを供給するために設けられている例を説明する。循環経路内の圧力変動は、吐出素子15による吐出動作によっても生じ得る。吐出動作に伴い、圧力室にインクを引き込む力が生じるからである。
【0101】
以下、高いデューティの記録を続ける場合に、圧力室12に供給されるインクが、供給流路130側と回収流路140側との両側供給となる点を説明する。なお、デューティは、各種条件によって定義が変わり得るが、ここでは、1200dpi格子に4plのインク滴を1発記録した状態を100%として扱うものとする。高いデューティの記録とは、例えば100%のデューティで記録が行われるものとする。
【0102】
高いデューティの記録を続けると、圧力室12から回収流路140を通じて第2圧力制御室152内に流入するインク量が減る。一方で、循環ポンプ500は一定量でインクの流出を行うため、第2圧力制御室152内での流入と流出とのバランスが崩れ、第2圧力制御室152内のインクが減少し、第2圧力制御室152内の負圧が強くなり、第2圧力制御室152が縮小する。そして、第2圧力制御室152内の負圧が強くなることで、バイパス流路160を介して第2圧力制御室152へ流入するインクの流入量が増え、流出と流入とがバランスした状態で第2圧力制御室152が安定する。このように、結果的に、デューティに応じて第2圧力制御室152内の負圧は強くなっていく。また、上述したように、循環ポンプ500が駆動している場合に、連通口191Bが閉状態である構成においては、デューティに応じて連通口191Bが開状態となり、バイパス流路160から第2圧力制御室152にインクが流入することになる。
【0103】
そして、さらに高いデューティの記録を続けると、圧力室12から回収流路140を通じて第2圧力制御室152に流入する量が減り、代わりに、バイパス流路160を経由して連通口191Bから第2圧力制御室152内に流入する量が増えていく。この状態がさらに進むと、圧力室12から回収流路140を通じて第2圧力制御室152に流入するインク量が、ゼロになり、循環ポンプ500に流出するインクは全て連通口191Bから流入するインクとなる。この状態がさらに進むと、今度は第2圧力制御室152から回収流路140を通じて圧力室12にインクが逆流する。この状態では、第2圧力制御室152から循環ポンプ500に流出するインクと圧力室12に流出するインクとが、バイパス流路160を通じて連通口191Bから第2圧力制御室152に流入することになる。この場合、圧力室12には、供給流路130のインク及び回収流路140のインクが充填されて、吐出されることになる。
【0104】
なお、この記録デューティが高い場合に生じるインクの逆流は、バイパス流路160を設けていることで生じる現象である。また、上記では、インクの逆流に応じて第2圧力調整手段における連通口191Bが開状態となる例を説明したが、第2圧力調整手段における連通口191Bが開状態となっている状態においてインクの逆流が生じることもある。また、第2圧力調整手段を設けない構成においても、バイパス流路160を設けていることで、上記のインクの逆流は発生し得るものである。
【0105】
<吐出ユニットの構成>
図11は、本実施形態の吐出ユニット3におけるインク1色分の循環経路を示した模式図である。
図11(a)は、吐出ユニット3を第1支持部材4側から見た分解斜視図であり、
図11(b)は、吐出ユニット3を吐出モジュール300側から見た分解斜視図である。なお、図中のIN、OUTで示した矢印はインクの流れを示しており、インクの流れは1色分のみ説明するが、他の色も同様の流れである。また、
図11では第2支持部材7と電気配線部材5との記載を省略し、以下の吐出ユニットの構成の説明においてもその省略している。また、
図11(a)における第1支持部材4については、
図3のXI-XIにおける断面を示している。吐出モジュール300は、吐出素子基板340と開口プレート330とを備えている。
図12は、開口プレート330を示した図であり、
図13は、吐出素子基板340を示した図である。
【0106】
吐出ユニット3には、循環ユニット54からジョイント部材8(
図3参照)を介してインクが供給される。インクがジョイント部材8を通過した後から、ジョイント部材8に戻るまでのインクの経路について説明する。なお、以下の図面では、ジョイント部材8の記載を省略する。
【0107】
吐出モジュール300は、シリコン基板310である吐出素子基板340と開口プレート330とを備えており、さらに、吐出口形成部材320を備えている。吐出素子基板340と開口プレート330と吐出口形成部材320とは、各インクの流路が連通するように重なり接合されることで吐出モジュール300となり、第1支持部材4に支持される。吐出モジュール300が第1支持部材4に支持されることで、吐出ユニット3が形成される。吐出素子基板340は、吐出口形成部材320を備えており、吐出口形成部材320は、複数の吐出口13が列を成した複数の吐出口列を備えており、吐出モジュール300内のインク流路を介して供給されたインクの一部を吐出口13から吐出する。吐出されなかったインクは、吐出モジュール300内のインク流路を介して回収される。
【0108】
図11及び
図12に示すように、開口プレート330は、複数の配列されたインク供給口311と複数の配列されたインク回収口312とを備えている。
図13及び
図14に示すように、吐出素子基板340は、複数の配列された供給接続流路323と、複数の配列された回収接続流路324とを備えている。さらに吐出素子基板340は、複数の供給接続流路323と連通する共通供給流路18と、複数の回収接続流路324と連通する共通回収流路19とを備えている。吐出ユニット3内のインク流路は、第1支持部材4に設けられたインク供給流路48やインク回収流路49(
図3参照)と、吐出モジュール300に設けられた流路と、を連通させることで形成されている。支持部材供給口211は、インク供給流路48を形成している断面開口であり、支持部材回収口212は、インク回収流路49を形成している断面開口である。
【0109】
吐出ユニット3に供給されるインクは、循環ユニット54(
図3(a)参照)側から第1支持部材4のインク供給流路48(
図3(a)参照)に供給される。インク供給流路48内の支持部材供給口211を経て流れたインクは、インク供給流路48(
図3(a)参照)と開口プレート330のインク供給口311とを介して吐出素子基板340の共通供給流路18に供給され、供給接続流路323に入る。ここまでが供給側流路となる。その後、インクは、吐出口形成部材320の圧力室12(
図3(b)参照)を経て回収側流路の回収接続流路324へと流れる。圧力室12におけるインクの流れの詳細は後述する。
【0110】
回収側流路において、回収接続流路324に入ったインクは、共通回収流路19に流れる。その後、インクは、共通回収流路19から開口プレート330のインク回収口312を介して第1支持部材4のインク回収流路49に流れ、支持部材回収口212を経て、循環ユニット54に回収される。
【0111】
開口プレート330におけるインク供給口311やインク回収口312が無い領域は、第1支持部材4において支持部材供給口211及び支持部材回収口212を仕切るための領域と対応している。また、当該領域は、第1支持部材4も開口を有さない。そのような領域は、吐出モジュール300と第1支持部材4とを接着する場合の接着領域として使用される。
【0112】
図12において開口プレート330は、X方向に配列された複数の開口の列が、Y方向に複数列設けられており、供給用(IN)の開口と回収用(OUT)の開口とが、X方向に半ピッチずれるように、Y方向に交互に配列されている。
図13において吐出素子基板340は、Y方向に配列された複数の供給接続流路323と連通する共通供給流路18と、Y方向に配列された複数の回収接続流路324と連通する共通回収流路19と、がX方向に交互に配列されている。共通供給流路18、共通回収流路19はインクの種類毎に分かれており、さらに、各色の吐出口列の数に応じて共通供給流路18及び共通回収流路19の配置数が決まる。また、供給接続流路323及び回収接続流路324も吐出口13に対応した数だけ配置される。なお、必ずしも1対1対応していなくてもよく、複数の吐出口13に対して一つの供給接続流路323及び回収接続流路324が対応してもよい。
【0113】
このような開口プレート330と、吐出素子基板340とが各インクの流路が連通するように重なり接合されることで吐出モジュール300となり、第1支持部材4に支持されることで、上記のような供給流路と回収流路とを備えたインク流路が形成される。
【0114】
図14(a)から(c)は、吐出ユニット3の異なる部分におけるインク流れを示した断面図である。
図14(a)は、
図11(a)のXIVa-XIVaで示す断面であり、吐出ユニット3におけるインク供給流路48とインク供給口311とが連通した部分の断面を示している。また、
図14(b)は、
図11(a)のXIVb-XIVbで示す断面であり、吐出ユニット3におけるインク回収流路49とインク回収口312とが連通した部分の断面を示している。また、
図14(c)は、
図11(a)のXIVc-XIVcで示す断面であり、インク供給口311とインク回収口312とが第1支持部材4の流路と連通していない部分の断面を示している。
【0115】
インクを供給する供給流路では、
図14(a)のように、第1支持部材4のインク供給流路48と開口プレート330のインク供給口311とが重なり連通した部分からインクが供給される。また、インクを回収する回収流路では、
図14(b)のように、第1支持部材4のインク回収流路49と開口プレート330のインク回収口312とが重なり連通した部分からインクが回収される。また、
図14(c)のように、吐出ユニット3では、部分的に開口プレート330に開口が設けられていない領域もある。そのような領域では、吐出素子基板340と第1支持部材4間でのインクの供給や回収は成されない。
図14(a)のようにインク供給口311が設けられた領域でインクの供給が成され、
図14(b)のようにインク回収口312が設けられた領域でインクの回収が成される。なお、本実施形態では、開口プレート330を用いた構成を例に説明したが、開口プレート330を用いない形態としてもよい。例えば、インク供給流路48及びインク回収流路49に対応した流路を第1支持部材4に形成し、第1支持部材4に吐出素子基板340を接合する構成であってもよい。
【0116】
図15(a)、(b)は、吐出モジュール300における吐出口13の近傍を示した断面図であり、
図16は、比較例として共通供給流路18と共通回収流路19とをX方向に広げた構成の吐出モジュールを示した断面図である。なお、
図15、
図16における共通供給流路18、共通回収流路19内に示した太矢印は、シリアル型の液体吐出装置50を用いる形態におけるインクの揺動を示すものである。共通供給流路18、供給接続流路323を経て圧力室12に供給されたインクは、吐出素子15が駆動されることで吐出口13から吐出される。吐出素子15が駆動されない場合は、インクは、圧力室12から回収流路である回収接続流路324を経て共通回収流路19へと回収される。
【0117】
シリアル型の液体吐出装置50を用いる形態において、このように循環するインクから吐出を行う場合、インクの吐出は、少なからず液体吐出ヘッド1の主走査によるインク流路内におけるインクの揺動の影響を受ける。具体的には、インク流路内のインクの揺動の影響は、インクの吐出量の違いや吐出方向のずれとなって現れることがある。
図16のように、共通供給流路18と共通回収流路19とが、主走査方向であるX方向に幅広の断面形状を備えている場合、共通供給流路18、共通回収流路19内のインクは、主走査方向に慣性力を受け易くなりインクに大きな揺動が生じる。その結果、インクの揺動が吐出口13からのインクの吐出に影響を及ぼす虞がある。また、共通供給流路18と共通回収流路19とをX方向に広げてしまうと、色同士の距離を広げることとなり、印刷効率が落ちる可能性がある。
【0118】
そこで、本実施形態の共通供給流路18及び共通回収流路19は、
図15に示す断面において共に、Y方向に延在しているが、主走査方向であるX方向に対して垂直であるZ方向にも延在する構成としている。このような構成とすることで、共通供給流路18及び共通回収流路19の主走査方向における各流路幅を小さくすることができる。共通供給流路18及び共通回収流路19の主走査方向における各流路幅を小さくすることで、主走査中における共通供給流路18及び共通回収流路19内のインクに作用する主走査方向と反対側に働く慣性力(図中黒太矢印)によるインクの揺動を少なくしている。これによって、インクの揺動によるインクの吐出への影響を抑制することができる。また、共通供給流路18及び共通回収流路19をZ方向に延在させることでの断面積を増やし、流路圧損を低減させている。
【0119】
上述の通り、共通供給流路18及び共通回収流路19の主走査方向における各流路幅を小さくすることで、主走査時の共通供給流路18及び共通回収流路19内のインクの揺動が少なくなるように構成されているが、揺動が無くなるわけではない。そこで、少なくなった揺動によってもなお生じ得るインク種類ごとの吐出に差が生じることを抑制すべく、本実施形態では、共通供給流路18と共通回収流路19とは、X方向に対して重なる位置に配置されるよう構成されている。
【0120】
前述した通り本実施形態では、供給接続流路323及び回収接続流路324は吐出口13に対応して設けられ、かつ供給接続流路323と回収接続流路324とは吐出口13を挟んでX方向に並んで配置される対応関係となっている。そのため、共通供給流路18と共通回収流路19とがX方向において重ならない部分があり、X方向における供給接続流路323と回収接続流路324との対応関係が崩れると、圧力室12におけるX方向へのインクの流れや吐出に影響を及ぼす。そこにインクの揺動の影響が加わることで、さらに、吐出口毎のインクの吐出に影響を及ぼす虞がある。
【0121】
そのため、共通供給流路18と共通回収流路19とをX方向に対して重なる位置に配置することで、吐出口13が配列されるY方向におけるどの位置においても、共通供給流路18と共通回収流路19とにおける主走査時のインク揺動がほぼ同等となる。その結果、圧力室12内で生じる共通供給流路18側と共通回収流路19側との圧力差が大きくばらつくことは無く、安定した吐出を行うことができる。
【0122】
また、インクを循環させる液体吐出ヘッドでは、液体吐出ヘッドへインクを供給する流路と回収する流路とが同じ流路で構成されているものもあるが、本実施形態においては、共通供給流路18と共通回収流路19とがそれぞれ別流路になっている。そして、供給接続流路323と圧力室12とが連通しており、圧力室12と回収接続流路324とが連通しており、圧力室12の吐出口13からインクが吐出される。つまり供給接続流路323と回収接続流路324とをつなぐ経路である圧力室12が、吐出口13を備えた構成となっている。そのため圧力室12には供給接続流路323側から回収接続流路324側へ流れるインク流れが発生しており、圧力室12内のインクは効率よく循環されている。圧力室12内のインクが効率よく循環されることで、吐出口13からのインクの蒸発による影響を受けやすい圧力室12のインクをフレッシュな状態に保つことができる。
【0123】
また、共通供給流路18及び共通回収流路19の2つ流路が、圧力室12と連通していることで、もし高流量で吐出を行うことが必要になった場合には、両方の流路からインクを供給することも可能となる。つまり、インクの供給と回収とを1流路だけで構成する構成と比べて、本実施形態における構成は、循環を効率的に行えるだけでなく、高流量の吐出にも対応することができるというメリットがある。
【0124】
また、共通供給流路18と共通回収流路19とは、X方向において近い位置に配置された方が、よりインクの揺動による影響が生じにくい。望ましくは、流路間が75μm~100μmで構成されているとよい。
【0125】
図17は、比較例としての吐出素子基板340を示した図である。なお、
図17では、供給接続流路323と回収接続流路324との記載を省略している。共通回収流路19には、圧力室12で吐出素子15による熱エネルギーを受けたインクが流れ込むため、共通供給流路18内のインクの温度に対して、比較的温度の高いインクが流れる。このとき、比較例では、
図17の一点鎖線で囲んだα部のように、吐出素子基板340のX方向における一部分において、共通回収流路19だけが存在している部分がある。この場合、その部分で局所的に温度が高まり、吐出モジュール300内に温度ムラが生じ、吐出に影響を与える可能性がある。
【0126】
共通供給流路18には、共通回収流路19に対して比較的低い温度のインクが流れている。そのため、共通供給流路18と共通回収流路19とが隣接していると、その近傍では、共通供給流路18と共通回収流路19とで一部の温度が相殺されることから、温度上昇が抑えられる。よって、共通供給流路18と共通回収流路19とは、略同じ長さで互いにX方向において重なり合う位置に存在し、隣接していることが好ましい。
【0127】
図18(a)、(b)は、3種類のインクに対応した液体吐出ヘッド1の流路構成を示した図である。液体吐出ヘッド1には、
図18(a)のようにインクの種類ごとに循環流路が設けられている。圧力室12は、液体吐出ヘッド1の主走査方向であるX方向に沿って設けられている。また、
図18(b)のように、共通供給流路18と共通回収流路19とは、吐出口13が配列された吐出口列に沿って設けられており、共通供給流路18と共通回収流路19とで吐出口列を挟むようにY方向に延在して設けられている。
【0128】
<本体部と液体吐出ヘッドとの接続>
図19は、本実施形態の液体吐出装置50の本体部に設けられたインクタンク2及び外部ポンプ21と液体吐出ヘッド1との接続状態、及び循環ポンプなどの配置をより詳細に示す概略構成図である。本実施形態における液体吐出装置50は、液体吐出ヘッド1に不具合が発生した際に、液体吐出ヘッド1のみを簡単に交換できるような構成を備える。具体的には、外部ポンプ21に接続されているインク供給チューブ59と液体吐出ヘッド1との接続、離脱を簡単に行い得る液体接続部700を有している。これにより、液体吐出装置50に対し液体吐出ヘッド1のみを簡単に着脱することが可能になっている。
【0129】
液体接続部700は、
図19に示すように、液体吐出ヘッド1のヘッド筐体53に突設された液体コネクタ挿入口53aと、この液体コネクタ挿入口53aを差し込むことが可能な円筒状の液体コネクタ59aとを有する。液体コネクタ挿入口53aは液体吐出ヘッド1内に形成されたインク供給流路(流入流路)に流体的に接続されており、前述のフィルタ110を介して第1圧力調整手段120に接続されている。また、液体コネクタ59aは、インクタンク2のインクを液体吐出ヘッド1に加圧供給する外部ポンプ21に接続されたインク供給チューブ59の先端に設けられている。
【0130】
上記のように
図19に示す液体吐出ヘッド1は、液体接続部700によって、液体吐出ヘッド1の着脱及び交換作業を容易に行うことが可能となっている。ただし、液体コネクタ挿入口53aと液体コネクタ59aとのシール性が低下した場合、外部ポンプ21によって加圧供給されたインクが液体接続部700から漏出する虞がある。液漏出したインクが循環ポンプ500等に付着した場合、電気系統に不具合が発生する可能性がある。そこで、本実施形態では、以下のように循環ポンプ等を配置している。
【0131】
<循環ポンプなどの配置>
図19に示すように、本実施形態では、液体接続部700から漏出したインクが循環ポンプ500に付着するのを避けるため、液体接続部700より重力方向上方に循環ポンプ500を配置している。つまり循環ポンプ500を、液体吐出ヘッド1の液体の導入口である液体コネクタ挿入口53aより重力方向における上方に配置している。さらに、循環ポンプ500が、液体接続部700を構成する部材と非接触となる位置に配置されている。これにより、液体接続部700からインクが漏出したとしても、インクは液体コネクタ59aの開口方向である水平方向または重力方向下方に流れていくため、重力方向上方にある循環ポンプ500にインクが到達するのを抑制することができる。また、循環ポンプ500を、液体接続部700から離れた位置に配置されているため、インクが部材を伝って循環ポンプ500に到達する可能性も低減される。
【0132】
また、循環ポンプ500と電気コンタクト基板6とをフレキシブル配線部材514を介して電気的に接続する電気接続部515を、液体接続部700より重力方向上方に設けている。このため、液体接続部700からインクによる電気的なトラブルを起こす可能性を低減することができる。
【0133】
また、本実施形態では、ヘッド筐体53の壁部52bが設けられているため、液体接続部700の開口59bからインクが噴出したとしても、そのインクを遮断し、循環ポンプ500や電気接続部515に到達する可能性を低減することができる。
【0134】
図20に、本実施形態におけるインク循環システムを示す。本実施形態においては、インクは外部ポンプ21を用いてインクタンク2より液体接続部700を介して液体吐出ヘッド1へと加圧供給される。外部ポンプ21は、インクタンク2よりインクを引き抜き、液体吐出ヘッド1へインクを加圧供給する役割を担う。
【0135】
外部ポンプ21と液体接続部700の間には、インク供給チューブ59と並走するように流路591が設けられている。流路591には第2の外部ポンプ22が設けられており、外部ポンプ(第1の外部ポンプ)21の下流からキャリッジ60までを含む範囲をインクが循環するように構成されている。これにより、液体吐出装置50の液体吐出ヘッド1以外の流路内においてもインクの攪拌を行うことが可能となる。
【0136】
ここで、比較例のインク循環システムを
図21に示す。まず、外部ポンプ21を用いてインクタンク2よりサブタンク25へインクが送液される。その後、供給ポンプ23および回収ポンプ24により、サブタンク25と液体吐出ヘッド1およびその間の流路全体の間でインクを循環(攪拌)する。この場合、サブタンク25から液体吐出ヘッド1までと、液体吐出装置50全体でインクを流動させる必要があるため、供給ポンプ23および回収ポンプ24は本実施形態のポンプより比較的高い能力を必要とする。また、液体吐出ヘッド1に対して、供給用の液体接続部700aと排出用の液体接続部700bの2系統の接続部を必要とするため、液体吐出ヘッド1のサイズが大きくなりやすい。さらに、回収ポンプ24と吐出ユニット3とが直接的に流体接続しているため、回収ポンプの24の脈動が吐出ユニット3に伝わりやすく、記録画像の品質低下を引き起こす場合がある。加えて、シリアル型の液体吐出ヘッド1では、走査によってインク供給チューブ59とインク回収チューブ591の双方が揺動するため、インク回収チューブの揺動による圧力変化が液体吐出ユニット3により伝わりやすくなり、記録画像の品質低下を引き起こす場合がある。なお、
図20に示した流路591及び第2の外部ポンプ22を有さないインク循環システム及び液体吐出装置を用いたインクジェット記録方法であっても、本発明の効果は十分に得られる。また、酸化チタンを含有するインクに対するインク循環システムにのみ、流路591及び第2の外部ポンプ22を適用してもよく、この場合、酸化チタンを含有するインクの沈降抑制効果をより得つつ、装置の製造コストが増加しすぎることや装置の大型化を抑制することができる。また、液体吐出ヘッド1内の循環ポンプ500を含んだひとつの循環経路内を流れるインクの総体積は30mL以下であることが好ましく、15mL以下であることがより好ましい。また、5mL以上であることが好ましい。すなわち、循環経路内を流れる液体の体積が5mL以上30mL以下であることが好ましく、5mL以上15mL以下であることがさらに好ましい。
【0137】
以上のように、
図20のようなインク循環システムであれば、液体吐出装置の小型化と記録画像の品質の向上との双方を実現することができる。
【0138】
(2)インク
以下、本発明のインクジェット記録方法に用いることが可能なインクに関し、好ましい実施の形態を挙げて、詳細に説明する。本発明においては、化合物が塩である場合は、インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。酸化チタンや酸化チタン粒子のことを、単に「顔料」と記載することがある。また、インクジェット用の水性インクのことを、単に「インク」と記載することがある。物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。また、白インクによる画像を記録する場合は、カラーインクの下地処理として白インクを用いてもよい。その場合は、白インクを付与した領域の少なくとも一部に重なるように、カラーインク(ブラック、シアン、マゼンタ、イエローなどのインク)を付与して画像を記録すればよい。また、カラーインクを付与した領域の少なくとも一部に重なるように、白インクを付与するバックプリントにも用いることができる。
【0139】
<水性インク、水性インクの製造方法>
本発明のインクは、酸化チタンを含有するインクである。このインクは、酸化チタンが白色顔料であるため、白インクであることが好ましい。しかしながら、酸化チタンを含有していれば、白以外のインクにも本発明を好適に用いることができる。また、本発明のインクは、いわゆる「硬化型インク」である必要はない。したがって、本発明のインクは、熱や光などの外部エネルギーの付加により重合し得る重合性モノマーなどの化合物を含有しなくてもよい。以下、本発明のインクを構成する成分、インクの物性、製造方法などについて詳細に説明する。
【0140】
(色材)
インクは色材(顔料)として、酸化チタンを含有する。酸化チタンは、特定の無機酸化物によって表面処理が施された酸化チタン粒子でもよい。つまり、インクは、その表面が特定の無機酸化物で被覆された酸化チタンである酸化チタン粒子を含有してもよい。インク中の酸化チタン粒子の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.10質量%以上20.00質量%以下であることが好ましい。また、インク中の酸化チタン粒子の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.00質量%以上20.00質量%以下であることがさらに好ましい。さらに、本発明においては、液体吐出装置の構成によってインクの再分散性を向上させているため、インク中の酸化チタン粒子の含有量(質量%)を高めやすく、インク全質量を基準として、5.00質量%以上20.00質量%以下であることが特に好ましい。
【0141】
酸化チタンは、白色顔料であり、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型の3つの結晶形が存在する。なかでも、ルチル型の酸化チタンが好ましい。酸化チタンの工業的製造方法としては、硫酸法及び塩素法が挙げられ、本発明で用いる酸化チタンはいずれの製造方法によるものであってもよい。
【0142】
酸化チタン粒子の体積基準の累積50%粒子径(以下、平均粒子径とも表す。)は、200nm以上500nm以下であることが好ましい。なかでも、酸化チタン粒子の体積基準の累積50%粒子径は、200nm以上400nm以下であることがさらに好ましい。酸化チタン粒子の体積基準の累積50%粒子径(D50)は、粒子径積算曲線において、測定された粒子の総体積を基準として、小粒子径側から積算して50%となる粒子の直径である。酸化チタン粒子のD50は、例えば、SetZero:30秒、測定回数:3回、測定時間:180秒、形状:非球形、屈折率:2.60、の条件で測定することができる。粒度分布測定装置としては、動的光散乱法による粒度分析計を使用することができる。勿論、測定条件などは上記に限られない。
【0143】
酸化チタンは、アルミナ及びシリカで表面処理が施されているものを用いてもよい。表面処理により光触媒活性能の抑制や分散性の向上が期待される。本明細書において、「アルミナ」は、酸化アルミニウムのようなアルミニウムの酸化物の総称である。また、本明細書において、「シリカ」は、二酸化ケイ素、又は二酸化ケイ素によって構成される物質の総称である。酸化チタンを被覆するアルミナ及びシリカの大部分は、二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムの形態で存在している。
【0144】
酸化チタン粒子に占める、酸化チタンの割合(質量%)は、酸化チタン粒子全質量を基準として、90.00質量%以上であることが好ましい。また、酸化チタン粒子に占める、酸化チタンの割合(質量%)は、酸化チタン粒子全質量を基準として、98.50質量%以下であることが好ましい。酸化チタン粒子に占める、アルミナの割合(質量%)は、シリカの割合(質量%)に対する質量比率で、0.50倍以上1.00倍以下であることを要する。前記質量比率が0.50倍未満又は1.00倍超であると、インクの吐出安定性が得られない。また、酸化チタン粒子に占める、シリカの割合(質量%)は、酸化チタン粒子全質量を基準として、1.00質量%以上4.00質量%以下であることが好ましい。前記シリカの割合(質量%)が1.00質量%未満であると、一般式(1)で表される化合物との親和性が十分に得られず、インクの吐出安定性が十分に得られない場合がある。前記シリカの割合(質量%)が4.00質量%超であると、アルミナで表面処理が施されていても、酸化チタン粒子に吸着する一般式(1)で表される化合物の量を抑えることができず、インクの吐出安定性が十分に得られない場合がある。酸化チタン粒子に占める、アルミナの割合(質量%)は、酸化チタン粒子全質量を基準として、0.50質量%以上4.00質量%以下であることが好ましい。
【0145】
酸化チタン粒子に占める、アルミナ及びシリカの割合、すなわち、アルミナ及びシリカの被覆量を測定する方法としては、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析によるアルミニウム及びケイ素元素の定量分析が挙げられる。この場合、表面に被覆している原子がすべて酸化物になっていると仮定し、得られたアルミニウム及びケイ素の値をその酸化物、つまり、アルミナ及びシリカに換算することで算出できる。酸化チタン粒子に占める、誘導結合プラズマ発光分析で得られるアルミニウム元素の割合(質量%)は、ケイ素元素の割合(質量%)に対する質量比率で、0.57倍以上1.13倍以下である。この値をその酸化物、すなわち、アルミナ及びシリカに換算すると、酸化チタン粒子に占める、アルミナの割合(質量%)は、シリカの割合(質量%)に対する質量比率で、0.50倍以上1.00倍以下となる。
【0146】
酸化チタンの表面処理方法としては、湿式処理、乾式処理などが挙げられる。例えば、酸化チタンを液媒体に分散させた後、アルミン酸ナトリウムやケイ酸ナトリウムなどの表面処理剤と反応させて表面処理を行うことができ、これら表面処理剤の比率を適宜変更することによって所望の特性に調整することもできる。表面処理には、本発明の効果が損なわれない限り、アルミナ及びシリカ以外にも、酸化亜鉛やジルコニアなどの無機酸化物、ポリオールなどの有機物を利用することができる。
【0147】
本発明の効果が損なわれない限り、インクは、酸化チタン以外の、その他の顔料を含有してもよい。この場合、白インク以外の色のインクとすることもできる。インク中のその他の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.10質量%以上5.00質量%以下であることが好ましく、0.10質量%以上1.00質量%以下であることがさらに好ましい。
【0148】
(一般式(1)で表される化合物)
インクは、酸化チタン粒子を分散するための分散剤として、下記一般式(1)で表される化合物を含有することが好ましい。インク中の一般式(1)で表される化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.01質量%以上1.00質量%以下であることが好ましく、0.02質量以上0.50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0149】
【0150】
(一般式(1)中、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1乃至4のアルキル基である。R4はそれぞれ独立に、炭素数2乃至4のアルキレン基である。Xは、単結合、又は炭素数1乃至6のアルキレン基である。nは6乃至24である。aは1乃至3であり、bは0乃至2であり、a+b=3である。)
一般式(1)中、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1乃至4のアルキル基である。炭素数1乃至4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基が挙げられる。なかでも、加水分解のしやすさの観点から、メチル基が好ましい。R1、R2、及びR3がそれぞれ炭素数4超のアルキル基であると、加水分解してシラノール基を形成することが難しくなってしまい、酸化チタン粒子との親和性が得られない。そのため、酸化チタン粒子を安定に分散させることができず、インクの吐出安定性が得られない。R1Oの数を表すaは1乃至3であり、R2の数を表すbは0乃至2であり、a+b=3である。なかでも、aが3であるとともに、bが0である、すなわち、ケイ素原子の置換基が3つともR1Oであることが好ましい。
【0151】
一般式(1)中、R4はそれぞれ独立に、炭素数2乃至4のアルキレン基である。炭素数2乃至4のアルキレン基としては、エチレン基、n-プロピレン基、i-プロピレン基、n-ブチレン基が挙げられる。なかでも、エチレン基が好ましい。OR4の個数、つまり、アルキレンオキサイド基の個数を表すn(平均値)は6乃至24である。nが6未満であると、アルキレンオキサイド鎖の長さが短すぎるため、立体障害による反発力が十分に得られず、インクの吐出安定性が得られない。nが24超であると、アルキレンオキサイド鎖の長さが長すぎるため、親水性が高まり水性媒体中に遊離しやすくなる。そのため、酸化チタン粒子の表面ヒドロキシ基との親和性が十分に得られず、酸化チタン粒子の凝集を抑制することができなくなってしまう。そのため、酸化チタン粒子を安定に分散させることができず、インクの吐出安定性が得られない。
【0152】
一般式(1)中、Xは、単結合、又は炭素数1乃至6のアルキレン基である。Xが単結合である場合、ケイ素原子とOR4が直接結合していることを意味する。炭素数1乃至6のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、i-プロピレン基、n-ブチレン基、n-ペンチレン基、n-へキシレン基などが挙げられる。なかでも、n-プロピレン基が好ましい。Xが炭素数6超のアルキレン基であると、一般式(1)で表される化合物の疎水性が高くなりすぎて、酸化チタン粒子を安定に分散することができず、インクの吐出安定性が得られない。
【0153】
酸化チタン粒子の分散剤である一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。一般式(2)で表される化合物は、ケイ素原子に結合するOR1が3個であるため、水性媒体中でその一部が加水分解して、ケイ素原子に結合するヒドロキシ基を3個形成することが可能であり、酸化チタン粒子との親和性を有する部分を増やすことができる。また、下記一般式(2)で表される化合物は、エチレンオキサイド基の繰り返し構造を持つ。そのため、水性媒体中で適度にエチレンオキサイド鎖が伸長し、立体障害による反発力を得ることができる。
【0154】
【0155】
(一般式(2)中、R1、及びR3はそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1乃至4のアルキル基である。mは8乃至24である。)
インク中の一般式(1)で表される化合物の含有量(質量%)は、酸化チタン粒子の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.002倍以上0.10倍以下であることが好ましい。前記質量比率が0.002倍未満であると、酸化チタン粒子を安定に分散させる作用が弱くなってしまい、インクの吐出安定性が十分に得られない場合がある。前記質量比率が0.10倍超であると、一般式(1)で表される化合物の割合が高くなりすぎて、一般式(1)で表される化合物の分子間での縮合(自己縮合)が生じやすい。そのため、一般式(1)で表される化合物が分散剤として作用することなく消費されてしまい、酸化チタン粒子を安定に分散させる作用が弱く、インクの吐出安定性が十分に得られない場合がある。
【0156】
一般式(1)で表される化合物は、酸化チタン粒子の表面ヒドロキシ基と水素結合するが、その一部は、脱水反応によって共有結合を形成していると考えられる。ただし、本発明では、一般式(1)で表される化合物は、酸化チタン粒子と共有結合を形成しなくとも、酸化チタン粒子を分散させることができる。つまり、酸化チタン粒子に共有結合している一般式(1)で表される化合物は非常に少なく、無視することができる程度である。このため、酸化チタン粒子の含有量には、共有結合している一般式(1)で表される化合物は含まないものとする。本発明者らの検討の結果、酸化チタン粒子に共有結合した一般式(1)で表される化合物が多すぎると、インクの吐出安定性が低下することがわかった。この理由としては、以下のようなことが考えられる。一般的に水のような誘電率の高い液媒体中では、静電的な引力が働きにくくなるため、酸化チタン粒子は周囲の環境の影響をそれほど受けずに自由に動く。しかし、一般式(1)で表される化合物が酸化チタン粒子と共有結合すると、一般式(1)の構造の親水性を有する部分(OR4の部分)が水分子と水素結合を形成し、結果として酸化チタン粒子の動きに影響を与える場合がある。そのため、インクジェットの吐出時のように液体に瞬時の圧力による変形を与える状況においては、上記のような特性が吐出特性の違いとして現れる。このため、酸化チタン粒子に共有結合している一般式(1)で表される化合物の量(質量%)は、酸化チタン粒子の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.001倍以下であることが好ましい。前記質量比率が0.001倍超であると、インクの吐出安定性が十分に得られない場合がある。前記質量比率は、0.000倍であってもよい。酸化チタン粒子に共有結合している一般式(1)で表される化合物の量は、熱重量分析などで算出することができる。
【0157】
(ワックス粒子)
本発明において、インクは、ワックス粒子を含有してもよい。ワックスは、ワックス以外の成分が配合された組成物であっても、ワックスそのものであってもよい。ワックス粒子は、界面活性剤や樹脂などの分散剤によって分散されるものであってもよい。
【0158】
ワックス(蝋)は、狭義には、水に不溶な高級1価又は2価アルコールと、脂肪酸とのエステルであり、動物系ワックス及び植物系ワックスは含まれるが、油脂及び脂肪は含まない。広義には、高融点の脂肪、鉱物系ワックス、石油系ワックス、及び各種ワックスの配合物や変性物が含まれる。本発明の記録方法では、広義のワックスであれば特に制限なく用いることができる。広義のワックスは、天然ワックス、合成ワックス、これらの配合物(配合ワックス)、及びこれらの変性物(変性ワックス)に分類することができる。
【0159】
天然ワックスとしては、蜜蝋、鯨蝋、羊毛蝋(ラノリン)などの動物系ワックス;木蝋、カルナバワックス、サトウキビワックス、パームワックス、キャンデリラワックス、ライスワックスなどの植物系ワックス;モンタンワックスなどの鉱物系ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトローラタムなどの石油系ワックス;を挙げることができる。合成ワックスとしては、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリオレフィンワックス(例:ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス)などの炭化水素系ワックスを挙げることができる。配合ワックスは、上記の各種ワックスの混合物である。変性ワックスは、上記の各種ワックスを、酸化、水素添加、アルコール変性、アクリル変性、ウレタン変性などの変性処理をしたものである。ワックスは、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、及びこれらの変性物や配合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。なかでも、複数種のワックスの配合物であることがさらに好ましく、石油系ワックス及び合成ワックスの配合物であることが特に好ましい。
【0160】
ワックスは、常温(25℃)で固体であることが好ましい。ワックスの融点(℃)は、40℃以上120℃以下であることが好ましく、50℃以上100℃以下であることがさらに好ましい。ワックスの融点は、JIS K2235:1991(石油ワックス)の5.3.1(融点試験方法)に記載の試験法に準拠して測定することができる。マイクロクリスタリンワックス、ペトローラタム、及び複数種のワックスの混合物の場合は、5.3.2に記載の試験法を利用すると、より精度よく測定することができる。ワックスの融点は、分子量(大きいほど高融点)、分子構造(直鎖だと高融点、分岐があると下がる)、結晶性(高いほど高融点)、密度(高いほど高融点)など特性の影響を受けやすい。このため、これらの特性を制御することで、所望の融点を有するワックスとすることができる。
【0161】
(樹脂)
インクには、樹脂を含有させることができる。樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ウレア系樹脂などが挙げられる。なかでも、アクリル系樹脂が好ましい。インク中の樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.00質量%以上25.00質量%以下であることが好ましく、3.00質量%以上15.00質量%以下であることがさらに好ましい。なかでも、5.00質量%以上15.00質量%以下であることが特に好ましい。
【0162】
樹脂は、耐擦過性や隠蔽性などの記録される画像の各種特性を向上させる用途でインクに含有させることができる。樹脂の形態としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、及びこれらの組み合わせなどが挙げられる。また、樹脂は、水性媒体に溶解し得る水溶性樹脂であってもよく、水性媒体中に分散する樹脂粒子であってもよい。樹脂粒子は、色材を内包する必要はない。
【0163】
本明細書において「樹脂が水溶性である」とは、その樹脂を酸価と等量のアルカリで中和した場合に、動的光散乱法により粒子径を測定しうる粒子を形成しない状態で水性媒体中に存在することを意味する。樹脂が水溶性であるか否かについては、以下に示す方法にしたがって判断することができる。まず、酸価相当のアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)により中和された樹脂を含む液体(樹脂固形分:10質量%)を用意する。次いで、用意した液体を純水で10倍(体積基準)に希釈して試料溶液を調製する。そして、試料溶液中の樹脂の粒子径を動的光散乱法により測定した場合に、粒子径を有する粒子が測定されない場合に、その樹脂は水溶性であると判断することができる。この際の測定条件は、例えば、SetZero:30秒、測定回数:3回、測定時間:180秒、とすることができる。粒度分布測定装置としては、動的光散乱法による粒度分析計(例えば、商品名「UPA-EX150」、日機装製)などを使用することができる。勿論、使用する粒度分布測定装置や測定条件などは上記に限られるものではない。
【0164】
水溶性樹脂の酸価は、80mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが好ましく、100mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。樹脂粒子を用いる場合、その酸価は、0mgKOH/g以上50mgKOH/g以下であることが好ましい。樹脂の重量平均分子量は、1,000以上30,000以下であることが好ましく、5,000以上15,000以下であることがさらに好ましい。樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の値である。
【0165】
(水性媒体)
インクは、水性媒体として水を含有する水性のインクである。インクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができる。水としては、脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.00質量%以上95.00質量%以下であることが好ましい。
【0166】
水溶性有機溶剤としては、水溶性(好ましくは、25℃において水に任意の割合で溶解するもの)であれば特に制限はない。具体的には、1価又は多価のアルコール類、アルキレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素極性化合物類、含硫黄極性化合物類などを用いることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.00質量%以上50.00質量%以下であることが好ましく、10.00質量%以上40.00質量%以下であることがさらに好ましい。水溶性有機溶剤の含有量(質量%)が3.00質量%未満であると、インクジェット記録装置内でインクが固着してしまい、耐固着性が十分に得られない場合がある。水溶性有機溶剤の含有量(質量%)が50.00質量%超であると、インクの供給不良が起きる場合がある。
【0167】
(その他の添加剤)
インクには、上記の添加剤以外に、必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、及びキレート化剤などの種々の添加剤を含有させることができる。なかでも、インクは界面活性剤を含有することが好ましい。インク中の界面活性剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.10質量%以上5.00質量%以下であることが好ましく、0.10質量%以上2.00質量%以下であることがさらに好ましい。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などが挙げられる。なかでも、インクの各種物性の調整に用いるため、酸化チタン粒子との親和性が低く、少量で効果をもたらすノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0168】
(インクの物性)
インクは、インクジェット方式に適用するインクであるので、その物性を適切に制御することが好ましい。25℃におけるインクの表面張力は、10mN/m以上60mN/m以下であることが好ましく、20mN/m以上40mN/m以下であることがさらに好ましい。インクの表面張力は、インク中の界面活性剤の種類や含有量を適宜決定することで、調整できる。また、25℃におけるインクの粘度は、1.0mPa・s以上10.0mPa・s以下であることが好ましい。25℃におけるインクのpHは、7.0以上9.0以下であることが好ましい。インクのpHが上記の範囲内であれば、一般式(1)で表される化合物の加水分解によるシラノール基の生成が進むため、酸化チタン粒子及び一般式(1)で表される化合物の弱い親和性が効果的に発揮される。インクのpHはガラス電極などを搭載した一般的なpHメータで測定することができる。
【実施例0169】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。また、酸化チタン粒子の分散液を「顔料分散液」と記載する。
【0170】
<酸化チタンの準備>
あらかじめ表面処理が施された市販のルチル型の酸化チタン粒子を用いた。酸化チタン粒子の体積基準の累積50%粒子径(D50)は、動的光散乱法による粒度分析計(商品名「Nanotrac WaveII-EX150」、マイクロトラック・ベル製)を使用して測定した。各酸化チタン粒子の特性を表1に示す。
【0171】
【0172】
<顔料分散液の調製>
(顔料分散液1)
酸価150mgKOH/g、重量平均分子量10,000のスチレン-メタクリル酸メチル-メタクリル酸共重合体(樹脂1)を用意した。樹脂1 20.0部を、その酸価と等モルの水酸化カリウムで中和するとともに、適量の純水を加え、樹脂(固形分)の含有量が20.0%である樹脂1の水溶液を調製した。酸化チタン粒子1 40.0部、樹脂1の水溶液40.0部、及び成分の合計が100.0部となるイオン交換水を混合し、ホモジナイザーを用いて予備分散を行った。その後、0.5mmジルコニアビーズを用いて、25℃、ペイントシェーカーで12時間分散処理(本分散)を行った。ジルコニアビーズをろ別し、必要に応じてイオン交換水を適量加え、酸化チタン粒子の含有量が40.0%、樹脂分散剤(樹脂1)の含有量が8.0%である顔料分散液1を調製した。
【0173】
(顔料分散液2)
顔料を酸化チタン粒子2に変更した以外は、顔料分散液1と同様の手順で、酸化チタン粒子の含有量が40.0%、樹脂分散剤(樹脂1)の含有量が8.0%である顔料分散液2を調製した。
【0174】
<インクの調製>
顔料分散液1 25.0部、並びに、以下の各成分を混合し、撹拌した。その後、ポアサイズ5.0μmのメンブレンフィルタ(ザルトリウス製)にて加圧ろ過を行い、インク1を調製した。また、顔料分散液1の代わりに顔料分散液2を用いる以外は、インク1の調製と同様の手順で、インク2を調製した。
【0175】
混合した各成分の詳細を以下に示す。
・アクリル樹脂粒子(商品名「ビニブラン2685」、日信化学工業製、樹脂粒子の含有量:30%):20.0部
・ジエチレングリコール:10.0部
・ジエチレングリコールイソブチルエーテル:10.0部
・フッ素系界面活性剤(商品名「Capstone FS-3100」、ケマーズ製):1.0部
・イオン交換水:34.0部。
【0176】
インク1、2の粘度(Pa・s)及び液体成分の密度(g/cm3)は、それぞれ、8Pa・s、1.16g/cm3であった。これらの値を利用して、各インクの沈降速度を計算した結果、インク1の沈降速度は、1.2×10-11m/sであった。また、インク2の沈降速度は、8.5×10-12m/sであった。
【0177】
沈降速度の計算は、下記の式(ストークスの式)を用いて行った。なお、νは沈降速度、Dは酸化チタンの粒子径、ρpは酸化チタン粒子の密度、ρfはイオン交換水の密度、gは重力加速度、ηはイオン交換水の粘度である。
【0178】
【0179】
<液体吐出ヘッド>
(ヘッド1)
図2~
図5に示した液体吐出ヘッドを、ヘッド1として準備した。ヘッド1における循環経路の最大断面積Sは300mm
2であった。
【0180】
<評価> ヘッド1を搭載したインクジェット記録装置に、インク1をセットし、温度25℃、相対湿度50%の環境でインクを吐出させた。循環流量Qは4.0mL/minとした。すなわち、Q/Sは2.2×10―6m/sであった。結果、本発明の効果が十分に得られることを確認した。