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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177698
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】分析システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/00 20060101AFI20241217BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20241217BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20241217BHJP
【FI】
G01N31/00 K
G01N30/72 A
G01N27/62 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095978
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110003993
【氏名又は名称】弁理士法人野口新生特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇真
(72)【発明者】
【氏名】ジュスティ,ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ルイズ アンシナル,ジョルジュ
(72)【発明者】
【氏名】ブイシエール,ブリス
【テーマコード(参考)】
2G041
2G042
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA06
2G041FA07
2G041FA25
2G041GA19
2G041GA25
2G041HA01
2G041HA05
2G042AA01
2G042BA07
2G042BD03
2G042CB01
2G042DA03
2G042FA04
2G042FB01
2G042GA01
2G042GA03
2G042HA02
2G042HA10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】酸化分解後の組成物の割合が反応管の加熱温度によって変化しにくい分析システムを提供する。
【解決手段】酸化分解装置(6)を備えた分析システム(1)であって、前記酸化分解装置(6)は、サンプルの酸化分解を内部で行なうための反応管(30)と、前記反応管(30)を内部に収容して前記反応管(30)を加熱するための加熱炉(28)と、前記サンプルを酸化させるための酸化ガスを供給する酸化ガス供給部(36)と、サンプルの酸化分解に影響を与えない不活性ガスであるメークアップガスを供給するメークアップガス供給部(38)と、入口(33)から導入されたサンプルとともに前記酸化ガス供給部(36)から供給される前記酸化ガス及び前記メークアップガス供給部(38)から供給される前記メークアップガスを前記反応管(30)の内側へ導入させる構造を有するインターフェース部(32)と、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口及び出口を有し、前記入口から導入されたサンプルを酸化分解してから前記出口から流出させる酸化分解装置と、前記酸化分解装置で酸化分解された酸化反応物を検出するための検出器とを備え、前記サンプルにおける特定の酸素成分を含む化合物の検出及び/又は定量を行なうための分析システムであって、
前記酸化分解装置は、
一端及び他端を有し、前記一端が前記入口側に配置され、前記他端が前記出口側に配置され、サンプルの酸化分解を内部で行なうための反応管と、
前記反応管を内部に収容して前記反応管を加熱するための加熱炉と、
前記サンプルを酸化させるための酸化ガスであって前記特定の酸素成分と異なる同位体の酸素成分を含む酸化ガスを供給する酸化ガス供給部と、
サンプルの酸化分解に影響を与えない不活性ガスであるメークアップガスを供給するメークアップガス供給部と、
前記入口から導入されたサンプルとともに前記酸化ガス供給部から供給される前記酸化ガス及び前記メークアップガス供給部から供給される前記メークアップガスを前記反応管の内側へ導入させる構造を有するインターフェース部と、を備えている分析システム。
【請求項2】
前記酸化ガス供給部から供給される前記酸化ガスと前記メークアップガス供給部から供給される前記メークアップガスとは互いに別の流路で前記インターフェース部に供給される、請求項1に記載の分析システム。
【請求項3】
前記インターフェース部は、前記入口から導入された前記サンプルに前記酸化ガスと前記メークアップガスを前記反応管の合流させるための内部空間、前記酸化ガス供給部から供給される前記酸化ガスを前記内部空間へ導入する酸化ガス導入流路、及び前記メークアップガス供給部から供給される前記メークアップガスを前記内部空間へ導入するメークアップガス導入流路を備え、前記内部空間で合流させた前記サンプル、前記酸化ガス及び前記メークアップガスを前記反応管の前記一端から前記反応管内へ導入する構造を有する、請求項2に記載の分析システム。
【請求項4】
前記反応管の少なくとも内面は酸化物からなる耐熱材料で形成されている、請求項1に記載の分析システム。
【請求項5】
前記耐熱材料はアルミナである、請求項4に記載の分析システム。
【請求項6】
キャリアガスによってサンプルを下流へ供給する構成を有するサンプル供給装置と、
前記検出器としての質量分析計と、
流路接続を切り替えるための切替機構と、
前記酸化分解装置の前記反応管内を減圧するための吸引ポンプと、を備え、
前記切替機構の切替えによって、前記サンプル供給装置と前記質量分析計との間に前記酸化分解装置が介在せずに前記サンプル供給装置の下流に前記質量分析計が流体接続される第1状態、及び前記サンプル供給装置の下流に前記酸化分解装置の前記入口が流体接続され、前記酸化分解装置の前記出口の下流に前記質量分析計が流体接続される第2状態のいずれかの状態が構築されるように構成され、
前記吸引ポンプは、前記第1状態において前記酸化分解装置の下流に流体接続され、前記第1状態での前記反応管内の圧力と前記第2状態での前記反応管内の圧力との差が、前記切替機構によって前記第1状態から前記第2状態に切り替えられたときの前記反応管内の圧力変動の大きさを考慮して設定された許容範囲内に収まるように構成されている、請求項1に記載の分析システム。
【請求項7】
前記第1状態において、前記吸引ポンプが前記酸化分解装置の下流に流体接続されると同時に前記質量分析計に流体接続され、前記第2状態において、前記吸引ポンプが前記質量分析計に流体接続されるように構成されており、
前記第1状態での前記酸化分解装置から前記吸引ポンプまでの間の系内の減圧効率と前記第2状態での前記酸化分解装置から前記吸引ポンプまでの間の系内の減圧効率とが実質的に同じになるように、前記第1状態において前記酸化分解装置と前記吸引ポンプとの間に組み込まれる流路の流路抵抗が設定されている、請求項6に記載の分析システム。
【請求項8】
前記許容範囲は、前記第2状態での前記反応管内の圧力の10%以内の範囲である、請求項6に記載の分析システム。
【請求項9】
前記サンプル供給装置はガスクロマトグラフである、請求項6に記載の分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプルの酸化分解を行なう酸化分解装置を備えた分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
酸素成分(例えば、16O)を含有するサンプル中の酸素成分の検出や定量を行う方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法においては、組成及び分布が天然のものと異なる酸素同位体(例えば、18O)を含有する酸化ガスを用いてサンプルを酸化分解し、酸化分解された組成物を質量分析装置等で分析する。これにより、質量分析装置等で分析される組成物中の酸素成分が、16Oであればサンプル由来であり、18Oであれば酸化ガス由来であるとの識別が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-508711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記方法を実施するためには、高温(例えば、600~1000℃程度)に加熱された反応管内にサンプル及び酸化ガスを通してサンプルの完全酸化分解を行なう必要があるため、反応管の材料としては高い耐熱性をもつ材料を使用しなければならない。高い耐熱性をもつ材料としては、アルミナなどのセラミックス材料が考えられる。しかし、アルミナ製の反応管を使用して酸化分解を行なうと、反応管の加熱温度が高くなるにつれて酸化分解後の組成物の割合が変化することが実験によりわかった。例えば、C1816O(m/z=46)に対するC16(m/z=44)の比を反応管の加熱温度を変化させながら検出したところ、反応管の加熱温度が高くなるにつれてC16の割合が大きくなることが分かった(図5参照)。これは、18Oを含有する酸化ガスを用いた酸化分解により生成されたC1816Oが、何らかの理由でC16に変化したものと推測される。このような状況下で、背景技術に示した分析を行うと、質量分析装置等で検出された組成物中の酸素成分が、サンプル由来なのか酸化ガス由来なのかの正確な区別ができなくなる。
【0005】
そこで、本発明は、組成及び分布が天然のものと異なる酸素同位体を含有する酸化ガスを用いてサンプルを酸化分解し、酸化分解により得られた組成物を検出することにより、サンプル中の酸素成分の検出や定量を行う方法における、検出や定量の精度を向上させた分析システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述したC1816OからC16への変化の原因を鋭意研究したところ、C1816Oが反応管を通過する間に、反応管の素材であるアルミナ(Al)に含有される16OとC1816O中の18Oとの置換が生じるためとの知見を得た。このような知見に基づき、以下に示す分析システムを発明した。
【0007】
すなわち、本発明に係る分析システムは、入口及び出口を有し、前記入口から導入されたサンプルを酸化分解してから前記出口から流出させる酸化分解装置と、前記酸化分解装置で酸化分解された酸化反応物を検出するための検出器とを備え、前記サンプルにおける特定の酸素成分を含む化合物の検出及び/又は定量を行なうための分析システムであって、
前記酸化分解装置は、
一端及び他端を有し、前記一端が前記入口側に配置され、前記他端が前記出口側に配置され、サンプルの酸化分解を内部で行なうための反応管と、
前記反応管を内部に収容して前記反応管を加熱するための加熱炉と、
前記サンプルを酸化させるための酸化ガスであって前記特定の酸素成分と異なる同位体の酸素成分を含む酸化ガスを供給する酸化ガス供給部と、
サンプルの酸化分解に影響を与えない不活性ガスであるメークアップガスを供給するメークアップガス供給部と、
前記入口から導入されたサンプルとともに前記酸化ガス供給部から供給される前記酸化ガス及び前記メークアップガス供給部から供給される前記メークアップガスを前記反応管の内側へ導入させる構造を有するインターフェース部と、を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る分析システムによれば、酸化分解装置のインターフェース部が、入口から導入されたサンプルとともに酸化ガス及びメークアップガスを反応管の内側へ導入させる構造を有するので、反応管内における酸化分解後の組成物と反応管の内面との接触機会が制限され、反応管内の素材に含まれる16Oと酸化分解後の組成物に含まれる酸素同位体(18Oや17O)との置換が抑制される。これにより、組成及び分布が天然のものと異なる酸素同位体を含有する酸化ガスを用いてサンプルを酸化分解し、酸化分解により得られた組成物を検出することにより、サンプル中の酸素成分の検出や定量を行う方法を実施した際の、検出や定量の精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】分析システムの一実施例におけるGC-COMB-MSモードの流路構成図である。
図2】同実施例におけるGC-MSモードの流路構成図である。
図3】同実施例の酸化分解装置の構造の一例を示す断面図である。
図4】同実施例のGC-Comb-MSモードでの18-メタノールの44/46比と加熱炉温度との関係性の検証結果を示すグラフである。
図5】酸化分解装置でメークアップガスを使用しない場合のGC-Comb-MSモードでの18-メタノールの44/46比と加熱炉温度との関係性の検証結果を示すグラフである。
図6】同実施例においてGC-MSモードからGC-Comb-MSモードに切り替えたときの反応管の出口圧力の変動と抵抗管の長さとの関係性を示すグラフである。
図7】同実施例においてGC-MSモードからGC-Comb-MSモードに切り替えたときの質量分析計の検出器信号のベースラインの変動と抵抗管の長さとの関係性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明に係る分析システムの一実施例について説明する。
【0011】
図1及び図2に示されているように、分析システム1は、主として、試料気化室2、分離カラム4、酸化分解装置6、質量分析計8、及び切替バルブ10を備えている。試料気化室2及び分離カラム4は、ガスクロマトグラフを構成するものであり、注入されたサンプルを試料気化室2内で気化させてキャリアガスとともに分離カラム4へ導入し、サンプル中の成分を分離カラム4内において互いに分離する。試料気化室2及び分離カラム4からなるガスクロマトグラフは、酸化分解装置6へサンプルを供給するサンプル供給装置を構成する。
【0012】
切替えバルブ10は1番~6番のポートを有し、1番のポートと6番のポートとの間、2番のポートと3番のポートとの間、及び4番のポートと5番のポートとの間を流体連通させるポジション(図1のポジション)と、1番のポートと2番のポートとの間、3番のポートと4番のポートとの間、及び5番のポートと6番のポートとの間を流体連通させるポジション(図2のポジション)との2つのポジションを取り得る2ポジションバルブである。
【0013】
切替えバルブ10の1番のポートには質量分析計8の入口に通じる流路16が流体接続され、2番のポートには分離カラム4の下流端が流体接続され、3番のポートには酸化分解装置6に通じる入口流路12が流体接続され、4番のポートは閉鎖され、5番のポートには減圧流路22が流体接続され、6番のポートには酸化分解装置6の出口に通じる出口流路14が流体接続されている。
【0014】
切替えバルブ10は、試料気化室2及び分離カラム4からなるガスクロマトグラフと質量分析計8とを、互いの間に酸化分解装置6を介在させないで流体接続させるGC-MSモード(第1の状態)、及び酸化分解装置6を介在させながら流体接続させるGC-Comb-MSモード(第2の状態)のいずれかのモードに切り替えるための切替機構である。図1はGC-Comb-MSモードでの流路構成を示しており、図2はGC-MSモードでの流路構成を示している。
【0015】
酸化分解装置6は、加熱炉28、反応管30、インターフェース部32、出口アダプタ34、酸化ガス供給部36、及びメークアップガス供給部38を備えている。
【0016】
反応管30は、少なくとも内面がアルミナなどの16Oを含む酸化物で形成された高耐熱性を有する円管形状の部材である。反応管30は、加熱炉28を貫通するように加熱炉28の内側に収容されており、内部においてサンプルの酸化分解を行なうためのものである。加熱炉28は内側に収容された反応管30を設定された温度に加熱する。
【0017】
インターフェース部32は反応管30の一端側(図において左側)に設けられている。インターフェース部32は入口33を有し、入口33に入口流路12の下流端が流体接続されている。
【0018】
出口側アダプタ34は反応管30の他端側(図において右側)に設けられ、反応管30の他端に出口流路14の上流端を流体接続させるためのものである。
【0019】
酸化ガス供給部36は、検出及び/又は定量の対象となる含酸素化合物に含まれている特定の酸素化合物とは異なる酸素同位体を含むガスを酸化ガスとして供給するボンベである。例えば、16Oを含む化合物が検出及び/又は定量の対象である場合には酸素ガスとして17O又は18Oを含むガスを酸化ガスとして使用することができる。酸化ガスには、ヘリウムガスやアルゴンガスなどの不活性ガスも含むことができ、酸化ガス中における酸素ガスと不活性ガスとの割合は、例えば1:99である。酸化ガス供給部36から供給される酸化ガスはインターフェース部32内に導入される。
【0020】
メークアップガス供給部38は、反応管30内におけるサンプルの酸化分解に影響を与えない不活性ガスを供給する酸化ガス供給部36とは別のボンベである。メークアップガスとしては、ヘリウムガスなどが挙げられる。メークアップガス供給部38から供給されるメークアップガスは、インターフェース32内及び出口アダプタ34内に導入される。
【0021】
図1に示されているGC-Comb-MSモードでは、分離カラム4の下流に入口流路12が接続され、分離カラム4から流出したサンプルが入口流路12を通じて酸化分解装置6のインターフェース部32内に導入される。インターフェース部32内に導入されたサンプルは、酸化ガス供給部36から供給される酸化ガス、及びメークアップガス供給部38から供給されるメークアップガスとともに反応管30内に導入され、反応管30内において酸化分解された後、質量分析計8に導入される。
【0022】
ここで、図3を用いて、酸化分解装置6の具体的な構造の一例について説明する。
【0023】
酸化分解装置6の反応管30の外周を囲うように中空円筒状の外套管40が設けられている。外套管40の外周面に加熱炉28が接しており、加熱炉28によって外套管40が加熱され、外套管40の内側を通る反応管30が加熱されるようになっている。反応管30と外套管40とは互いに接触しておらず、反応管30の外周面と外套管40の内周面との間には隙間64が存在する。外套管40は、加熱炉28内に収容されている主要部が、例えば、アルミナなどの耐熱性材料で構成されている一方で、少なくともインターフェース部32に保持されている端部は金属で構成されていてもよい。
【0024】
インターフェース部32の内部には、入口流路12をなす配管(以下、配管12とも称する)と反応管30とを流体接続するための空間42が設けられている。図示は省略されているが、外套管40の一端側(図において左側)の外周面にはネジが設けられている。インターフェース部32の加熱炉28側の面には開口が設けられており、その開口の内側に外套管40の一端側の外周面のネジと螺合するネジが設けられている。外套管40は、一端側の外周面のネジがインターフェース部32の開口の内側のネジと螺合することで外套管40によって保持されている。インターフェース部32の開口内には、ホルダ40及びパッキン54が開口の奥面と外套管40の端部との間に挟み込まれるようにして設けられている。ホルダ48はインターフェース部32内における反応管30の一端の位置を固定するためのものである。パッキン54は、内部空間42内のガスが外套管40の外側を通ってインターフェース部32の外部へ漏れ出ることを防止するためのものである。
【0025】
インターフェース部32の加熱炉28とは反対側の面に入口流路12をなす配管を通すための孔が入口33として設けられている。配管12はインターフェース部32の内部空間42に入口33から気密を保って挿入され、反応管30の一端へ向かって延在している。インターフェース部32には、メークアップガス供給部38から供給されるメークアップガスを内部空間42へ導入するためのメークアップガス導入流路50と、酸化ガス供給部36から供給される酸化ガスを内部空間42へ導入するための酸化ガス導入流路52が設けられている。メークアップガス導入流路50から導入されるメークアップガスは、インターフェース部32の内面と配管12の外周面との間の隙間に導入され、酸化ガス導入流路52から導入される酸化ガスは、配管12の下流端と反応管30の一端との間に導入される。メークアップガス導入流路50から導入されるメークアップガスにより、配管12を通じて内部空間42に導入されるサンプルが入口33側へ逆流することが防止される。
【0026】
出口アダプタ34は外套管40の他端側(図において右側)の外周面をOリング60及び62によって気密を保って保持するとともに、反応管30の他端側(図において右側)の外周面をOリング58によって気密を保って保持する構造を有する。出口アダプタ34の加熱炉28とは反対側の面からは出口流路14をなす配管(以下、配管14とも称する)が気密を保って挿入されており、出口アダプタ34の内部において反応管30の他端と配管14とが気密を保って流体接続されている。出口アダプタ34には、メークアップガス供給部38から供給されるメークアップガスを内部へ導入するためのメークアップガス導入流路56が設けられている。メークアップガス導入流路56から導入されたメークアップガスは、反応管30の外周面と外套管40の内周面との間の隙間64を通ってインターフェース部32の内部空間42へ流れる。これにより、配管12を通じてインターフェース部32の内部空間42へ導入されたサンプルが反応管30の外側を通って出口アダプタ34側へ流れることが防止される。
【0027】
配管12を通じてインターフェース32の内部空間32に導入されたサンプルは、酸化ガス及びメークアップガスとともに反応管30内を流れ、反応管30内で酸化分解された後、配管14を通じて質量分析計8へ導入される。
【0028】
図4及び図5は、GC-Comb-MSモードで、酸化ガスとして16Oと不活性ガス(16Oガス:不活性ガス=1:99)の混合ガスを供給し、18Oを含有する含酸素化合物である18-エタノール(CH 18OH)をサンプルとして注入したときの質量分析データを加熱炉28の温度を変えながら取得し、各温度での質量分析データを基に作成した酸化分解後のサンプル中のC16(質量数=44)とC1618O(質量数=46)の存在比率(44/46比)のデータである。図4はメークアップガスとしてヘリウムガスを流しながら測定したデータであり、図5はメークアップガスを流さずに測定したデータである。
【0029】
図5のデータが示すように、メークアップガスを使用しない場合、加熱炉28の温度が上昇するにつれて44/46比も大きく上昇している。これは、反応管30の温度が高温になると、反応管30の素材であるアルミナに含まれる16Oと酸化分解で生成されたC1618Oの18Oと交換が活発になり、C1618OがC16に変化したものと考えられる。このように、反応管30の素材に含まれる16Oと酸化分解後の組成物に含まれる酸素同位体との交換が行われてしまうと、酸化分解後の組成物質の割合が変化してしまい、サンプルに含まれる含酸素化合物の検出や定量の精度が低下する。なお、酸化ガスには不活性ガスが含まれている上、キャリアガスとしても不活性ガスが供給されているが、酸化ガスに含まれる不活性ガス及びキャリアガスとしての不活性ガスでは、反応管30の素材と酸化分解後の組成物との間での酸素の交換が抑制できていないことは図5のデータから明らかである。
【0030】
一方で、図4のデータが示すように、メークアップガスをサンプルとともに反応管30の内側に導入すると、44/46比は、加熱炉温度が900℃を超えると僅かな上昇はあるものの大きな変化は見られない。このように、不活性ガスをメークアップガスとして酸化ガス及びキャリアガスとは別に反応管30の入口部分へ供給しながらサンプルの酸化分解を行なうと、反応管30の素材と酸化分解後の組成物との接触機会が減少し、反応管30の素材に含まれる16Oと酸化分解後の組成物に含まれる酸素同位体との交換が抑制され、酸化分解後のサンプル中の組成物質の割合の変化も抑制する効果が得られることがわかる。
【0031】
図1及び図2に戻って分析システム1の説明を続ける。
【0032】
質量分析計8には流路20を介して吸引ポンプ18が接続されており、質量分析計8内が減圧されるようになっている。また、吸引ポンプ18には減圧流路22が流体接続されている。減圧流路22上には、ストップバルブ24及び流路抵抗調整器26が設けられている。図2に示されているように、GC-MSモードにおいて減圧流路22は出口流路14と流体連通し、反応管30内及び出口流路14内が吸引ポンプ18によって減圧される。
【0033】
この分析システム1では、例えば、分離カラム4から目的成分が溶出するまではGC-MSモードにしておき、分離カラム4から目的成分が溶出するタイミングでGC-Comb-MSモードに切り替えて目的成分を酸化分解し、酸化分解後の組成物の質量分析データを取得するといったことが行われる。
【0034】
しかし、GC-MSモード中の反応管30内の圧力がGC-Comb-MSモード時の反応管30内の圧力と大きく異なっていると、GC-MSモードからGC-Comb-MSモードに切り替えた際に反応管30内の圧力が大きく変動し、反応管30内の圧力が安定するまでの時間が長くなり、その間に目的成分が反応管に導入されてしまうと、目的成分の酸化分解の効率が低下することも考えられる。また、反応管30内の圧力が大きく変動すると、質量分析計8の出力信号のベースラインも大きく変動し、ベースラインが安定するまでに要する時間も長くなることも判明した。質量分析計8の出力信号のベースラインが安定するまでに要する時間が長くなると、ベースラインが安定する前に目的成分が質量分析計8に導入されてしまい、目的成分の検出精度が低下する恐れもある。
【0035】
そこで、この分析システム1では、GC-MSモード中の反応管30内の圧力とGC-Comb-MSモード時の反応管30内の圧力との差が、GC-MSモードからGC-Comb-MSモードに切り替えた際に反応管30内の圧力変動を考慮して設定された許容範囲内(例えば、GC-Comb-MSモード時の反応管30内の圧力の10%以内などでよいが、可能な限り小さいほうが望ましい。)に収まるように設計されている。この分析システム1では、減圧流路22に流路抵抗調整器26を入れることによって、GC-MSモード時の酸化分解装置6から吸引ポンプ18までの系内の減圧効率を、GC-Comb-MSモード時の酸化分解装置6から吸引ポンプ18までの系内の減圧効率に近づけることで、GC-MSモード中の反応管30内の圧力とGC-Comb-MSモード時の反応管30内の圧力との差を許容範囲内に収めている。流路抵抗調整器26としては、固定の流路抵抗値をもつ抵抗管であってもよいが、流路抵抗が可変に調整可能なニードルバルブ、比例電磁弁などであってもよい。
【0036】
図6は、流路抵抗調整器26としての抵抗管の長さが、GC-MSモードからGC-Comb-MSモードへ切り替えた時の反応管30の出口圧力の変動にどのような影響を与えるかの検証結果を示すデータであり、図7は、流路抵抗調整器26としての抵抗管の長さが、GC-MSモードからGC-Comb-MSモードへ切り替えた時の質量分析計8の出力信号のベースラインの変動にどのような影響を与えるかの検証結果を示すデータである。
【0037】
図6及び図7のデータによれば、減圧流路22上に抵抗管を設けない場合には、GC-MSモード時の反応管30の出口圧力が極端に低く、GC-Comb-MSモードに切り替えたときに反応管30の出口圧力が大きく変動し、質量分析計8の出力信号(検出器信号)のベースラインも大きく変動し、ベースラインが安定するまでに要する時間が長くなっている。そして、減圧流路22上に抵抗管を設けて減圧流路22の流路抵抗を高くしていくと、GC-MSモード時の反応管30内の圧力も高くなっていき、30mmの長さの抵抗管を設けたときに反応管30の出口圧力の変動が最も小さく、検出器信号のベースラインの変動も最も小さくなっている。一方で、抵抗管の長さを50mm以上にすると、GC-MSモード時の反応管30内の圧力がGC-Comb-MSモード時よりも高くなり、GC-Comb-MSモードに切り替えたときの圧力変動も大きくなる。
【0038】
上記の検証結果から、GC-MSモード時に酸化分解装置6から吸引ポンプ18までの間に組み込まれる減圧流路22の流路抵抗を流路抵抗調整器26によって適度に調整することで、GC-MSモードからGC-Comb-MSモードへ切り替えた時の反応管30内の圧力変動を小さくできることがわかる。
【0039】
なお、以上において説明した実施例は、本発明に係る分析システムの実施形態の一例に過ぎない。本発明に係る分析システムの一実施形態は以下のとおりである。
【0040】
本発明に係る分析システムの一実施形態は、入口及び出口を有し、前記入口から導入されたサンプルを酸化分解してから前記出口から流出させる酸化分解装置と、前記酸化分解装置で酸化分解された酸化反応物を検出するための検出器とを備え、前記サンプルにおける特定の酸素成分を含む化合物の検出及び/又は定量を行なうための分析システムであって、
前記酸化分解装置は、
一端及び他端を有し、前記一端が前記入口側に配置され、前記他端が前記出口側に配置され、サンプルの酸化分解を内部で行なうための反応管と、
前記反応管を内部に収容して前記反応管を加熱するための加熱炉と、
前記サンプルを酸化させるための酸化ガスであって前記特定の酸素成分とは異なる同位体の酸素成分を含む酸化ガスを供給する酸化ガス供給部と、
サンプルの酸化分解に影響を与えない不活性ガスであるメークアップガスを供給するメークアップガス供給部と、
前記入口から導入されたサンプルとともに前記酸化ガス供給部から供給される前記酸化ガス及び前記メークアップガス供給部から供給される前記メークアップガスを前記反応管の内側へ導入させる構造を有するインターフェース部と、を備えている。
【0041】
上記一実施形態の態様[1]では、前記酸化ガス供給部から供給される前記酸化ガスと前記メークアップガス供給部から供給される前記メークアップガスとは互いに別の流路で前記インターフェース部に供給される。
【0042】
上記態様[1]において、前記インターフェース部は、前記入口から導入された前記サンプルに前記酸化ガスと前記メークアップガスを前記反応管の合流させるための内部空間、前記酸化ガス供給部から供給される前記酸化ガスを前記内部空間へ導入する酸化ガス導入流路、及び前記メークアップガス供給部から供給される前記メークアップガスを前記内部空間へ導入するメークアップガス導入流路を備え、前記内部空間で合流させた前記サンプル、前記酸化ガス及び前記メークアップガスを前記反応管の前記一端から前記反応管内へ導入する構造を有することが好ましい。
【0043】
上記一実施形態の態様[2]では、前記反応管の少なくとも内面は酸化物からなる耐熱材料で形成されている。この態様[2]は、上記態様[1]と組み合わせることができる。
【0044】
上記態様[2]において、前記耐熱材料はアルミナであってもよい。
【0045】
上記一実施形態の態様[3]では、
キャリアガスによってサンプルを下流へ供給する構成を有するサンプル供給装置(2,4)と、
前記検出器としての質量分析計と、
流路接続を切り替えるための切替機構と、
前記酸化分解装置の前記反応管内を減圧するための吸引ポンプと、を備え、
前記切替機構の切替えによって、前記サンプル供給装置と前記質量分析計との間に前記酸化分解装置が介在せずに前記サンプル供給装置の下流に前記質量分析計が流体接続される第1状態、及び前記サンプル供給装置の下流に前記酸化分解装置の前記入口が流体接続され、前記酸化分解装置の前記出口の下流に前記質量分析計が流体接続される第2状態のいずれかの状態が構築されるように構成され、
前記吸引ポンプは、前記第1状態において前記酸化分解装置の下流に流体接続され、前記第1状態での前記反応管内の圧力と前記第2状態での前記反応管内の圧力との差が、前記切替機構によって前記第1状態から前記第2状態に切り替えられたときの前記反応管内の圧力変動の大きさを考慮して設定された許容範囲内に収まるように構成されている。この態様[3]は、上記態様[1]及び/又は態様[2]と組み合わせることができる。
【0046】
上記態様[3]では、前記第1状態において、前記吸引ポンプが前記酸化分解装置の下流に流体接続されると同時に前記質量分析計に流体接続され、前記第2状態において、前記吸引ポンプが前記質量分析計に流体接続されるように構成されていてもよく、その場合、前記第1状態での前記酸化分解装置から前記吸引ポンプまでの間の系内の減圧効率と前記第2状態での前記酸化分解装置から前記吸引ポンプまでの間の系内の減圧効率とが実質的に同じになるように、前記第1状態において前記酸化分解装置と前記吸引ポンプとの間に組み込まれる流路の流路抵抗が設定されていてもよい。
【0047】
また、上記態様[3]では、前記許容範囲は前記第2状態での前記反応管内の圧力の10%以内の範囲であってもよい。
【0048】
また、上記態様[3]では、前記サンプル供給装置はガスクロマトグラフであってもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 分析システム
2 試料気化室
4 分離カラム
6 酸化分解装置
10 切替えバルブ
12,14,16,20,22 流路
18 吸引ポンプ
24 ストップバルブ
26 流路抵抗調整器
28 加熱炉
30 反応管
32 インターフェース部
33 入口
34 出口アダプタ
35 出口
36 酸化ガス供給部
38 メークアップガス供給部
40 外套管
42 内部空間
48 ホルダ
50,56 メークアップガス導入流路
52 酸化ガス導入流路
54 パッキン
58,60,62 Oリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7