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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177712
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】エッジマスク接触判定方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/06 20060101AFI20241217BHJP
   C25D 21/12 20060101ALI20241217BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20241217BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20241217BHJP
【FI】
C25D7/06 P
C25D21/12 C
G01H17/00 Z
G01M99/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096000
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】関口 修
(72)【発明者】
【氏名】岡田 徹
(72)【発明者】
【氏名】岡田 康秀
(72)【発明者】
【氏名】栗田 一宏
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
4K024
【Fターム(参考)】
2G024AD01
2G024CA13
2G024FA06
2G024FA15
2G064AA11
2G064AB02
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC02
2G064DD02
4K024BA03
4K024BC01
4K024CB22
4K024CB24
(57)【要約】
【課題】本発明は、接触の発生から接触の認定までのタイムラグを低減し、個別にエッジマスクの接触を判定できるエッジマスク接触判定方法を提供する。
【解決手段】本発明のエッジマスク接触判定方法は、一方向に延びる板状の電気メッキ対象物に対するエッジマスクの振動を測定する振動測定工程と、振動測定工程で測定した振動に基づいて、前記電気メッキ対象物と前記エッジマスクとの接触を判定する判定工程とを備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に延びる板状の電気メッキ対象物に対するエッジマスクの振動を測定する振動測定工程と、
前記振動測定工程で測定した振動に基づいて、前記電気メッキ対象物と前記エッジマスクとの接触を判定する判定工程とを備える、
エッジマスク接触判定方法。
【請求項2】
前記判定工程は、前記振動測定工程で測定した振動に基づく測定値と所定の閾値とを比較し、同一の比較結果が所定の時間以上継続するか否かで前記判定を行う、
請求項1に記載のエッジマスク接触判定方法。
【請求項3】
前記電気メッキ対象物を電気メッキする電気メッキ装置の外部に、前記エッジマスクの振動を測定する振動測定装置を配設する配設工程をさらに備える、
請求項1に記載のエッジマスク接触判定方法。
【請求項4】
前記判定工程でエッジマスクの接触を判定した場合に、現在の位置から、前記電気メッキ対象物から離れる方向に、前記エッジマスクを移動するエッジマスク移動工程をさらに備える、
請求項1に記載のエッジマスク接触判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気メッキ対象物とエッジマスクとの接触を判定するエッジマスク接触判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば鋼帯等の電気メッキ対象物に電気メッキする場合、エッジ部(端部)に電流が集中するために生じる、当該エッジ部を過多にメッキするエッジオーバーコートが知られている。このエッジオーバーコートの発生を抑止するために、例えば、特許文献1に開示されているような、エッジマスクが用いられる。このエッジマスクには、様々な形態があるが、エッジマスクは、大略、電気メッキ対象物のエッジ部の近傍に配置される、絶縁体で構成された部材を備えて構成される。これによって、前記エッジ部の電流集中を抑制することで、前記エッジオーバーコードの発生が抑止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-181592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一方向に延びる板状の電気メッキ対象物を、電気メッキ装置で電気メッキする場合、電気メッキ装置内における電気メッキ対象物とエッジマスクとを外部から見ることができないため、電気メッキ装置の入側および出側それぞれで電気メッキ対象物の各幅の各位置(入側幅位置および出側幅位置)が測定され、これら測定された入側幅位置の両端点それぞれと出側幅位置の両端点それぞれとを直線で結んだ1対の仮想線が前記電気メッキ対象物における幅方向の両端部(各エッジ部)とみなされ、これら1対の仮想線それぞれに対しエッジマスクの位置が決定される。電気メッキ装置は、一方向に比較的長く、電気メッキ対象物は、電気メッキ装置内を搬送されながら電気メッキされるので、電気メッキ対象物が蛇行すると、エッジマスクに電気メッキ対象物が接触してしまう。接触すると、エッジマスクが破損したり、電気メッキ対象物にキズが生じたりしてしまう。一方向に比較的長い電気メッキ装置には、前記一方向に沿って複数のエッジマスクが配置されることになるが、電気メッキ対象物に生じたキズは、電気メッキ装置から外部に出ないと視認できないので、接触の発生から接触の認定までにタイムラグが生じ、速やかな対処が行えない、また、複数のエッジマスクのいずれで接触が生じているかを判定できない。
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、接触の発生から接触の認定までのタイムラグを低減し、個別にエッジマスクの接触を判定できるエッジマスク接触判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかるエッジマスク接触判定方法は、一方向に延びる板状の電気メッキ対象物に対するエッジマスクの振動を測定する振動測定工程と、前記振動測定工程で測定した振動に基づいて、前記電気メッキ対象物と前記エッジマスクとの接触を判定する判定工程とを備える。
【0007】
このようなエッジマスク接触判定方法は、接触の発生で生じるエッジマスクの振動に基づいて接触を判定するので、接触の発生から接触の認定までのタイムラグを低減でき、前記エッジマスクの振動を振動測定工程で個別に測定するので、個別にエッジマスクの接触を判定できる。
【0008】
他の一態様では、上述のエッジマスク接触判定方法において、前記判定工程は、前記振動測定工程で測定した振動に基づく測定値と所定の閾値とを比較し、同一の比較結果が所定の時間以上継続するか否かで前記判定を行う。
【0009】
このようなエッジマスク接触判定方法は、同一の比較結果が所定の時間以上継続するか否かで前記判定を行うので、単発の比較結果で前記判定を行う場合に較べて、より適切に前記判定を行うことができる。
【0010】
他の一態様では、これら上述のエッジマスク接触判定方法において、前記電気メッキ対象物を電気メッキする電気メッキ装置の外部に、前記エッジマスクの振動を測定する振動測定装置を配設する配設工程をさらに備える。好ましくは、上述のエッジマスク接触判定方法において、前記配設工程は、前記電気メッキ装置の外部に臨み、エッジマスク位置を示すエッジマスク位置ゲージに前記振動測定装置を配設することで実施される。
【0011】
このようなエッジマスク接触判定方法は、電気メッキ装置の外部に振動測定装置を配設するので、既存の装置に後付けで振動測定装置を配設できるから、前記既存の装置で、接触の発生から接触の認定までのタイムラグを低減し、個別にエッジマスクの接触を判定できるように、エッジマスクの接触判定ができる。
【0012】
他の一態様では、これら上述のエッジマスク接触判定方法において、前記判定工程でエッジマスクの接触を判定した場合に、現在の位置から、前記電気メッキ対象物から離れる方向に、前記エッジマスクを移動するエッジマスク移動工程をさらに備える。
【0013】
このようなエッジマスク接触判定方法は、エッジマスクの接触を判定した場合に、現在の位置から、電気メッキ対象物から離れる方向に、エッジマスクを移動するので、前記接触を解消し得る。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかるエッジマスク接触判定方法は、接触の発生から接触の認定までのタイムラグを低減し、個別にエッジマスクの接触を判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態におけるエッジマスク接触判定方法を実装するエッジマスク装置の構成を示すブロック図である。
図2】一例として、振動と接触との関係を説明するための図である。
図3】前記エッジマスク装置の動作を示す第1フローチャートである。
図4】前記第1フローチャートに続く、前記エッジマスク装置の動作を示す第2フローチャートである。
図5】一例として、前記エッジマスク装置の動作を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の1または複数の実施形態が説明される。しかしながら、発明の範囲は、開示された実施形態に限定されない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0017】
実施形態におけるエッジマスク接触判定方法は、一方向に延びる板状の電気メッキ対象物に対するエッジマスクの振動を測定する振動測定工程と、前記振動測定工程で測定した振動に基づいて、前記電気メッキ対象物と前記エッジマスクとの接触を判定する判定工程とを備える。以下、このようなエッジマスク接触判定方法を実装したエッジマスク装置を例に、エッジマスク接触判定方法について、より具体的に説明する。
【0018】
図1は、実施形態におけるエッジマスク接触判定方法を実装するエッジマスク装置の構成を示すブロック図である。図2は、一例として、振動と接触との関係を説明するための図である。
【0019】
実施形態におけるエッジマスク接触判定方法を実装したエッジマスク装置1000は、いわゆるエッジオーバーコートの発生を抑止するために、電気メッキ対象物のエッジ部(端部)の近傍に配置される、絶縁体で構成された部材であるエッジマスクを備えて構成され、例えば、図1に示すように、振動測定部1と、前処理部2と、制御処理部3と、記憶部7と、エッジマスク移動部8とを備え、図1に示す例では、さらに、入力部4と、出力部5と、インターフェース部(IF部)6とを備える。
【0020】
振動測定部1は、前処理部2に接続され、電気メッキ対象物Obに対するエッジマスクの振動を測定する装置である。振動測定部1は、例えば、加速度を測定する加速度センサである。振動測定部1は、その測定結果を前処理部2に出力する。そして、振動測定部1は、例えば防水処理を施す等によりエッジマスクに直接的に連結されて配設されてよいが、本実施形態では、エッジマスク接触判定の前に、電気メッキ対象物Obを電気メッキする電気メッキ装置の外部に、振動測定部1は、配設される(配設工程)。好ましくは、振動測定部1は、前記電気メッキ装置の外部に臨み、エッジマスク位置を示すエッジマスク位置ゲージに配設される。なお、振動測定部1の間接的な配設箇所は、上述の例に限らず、電気メッキ対象物Obとエッジマスクとの接触により生じる振動が伝播されて検出可能な箇所であれば、よい。
【0021】
前処理部2は、制御処理部3に接続され、所定の前処理を行う装置である。前処理部2は、その処理結果を制御処理部3に出力する。前処理部2は、本実施形態では、信号増幅、ノイズカットおよびDC変換を前記前処理として実施する。より具体的には、前処理部2は、振動測定部1の出力を増幅回路で増幅し、前記増幅した振動測定部1の出力をバンドパスフィルタでフィルタリングすることによってノイズをカットし、前記ノイズをカットした振動測定部1の出力を、AC/DCコンバータでDC変換し、前記DC変換した振動測定部1の出力を、制御処理部3に出力する。前記増幅回路のゲインおよび前記バンドパスフィルタの通過帯域は、それぞれ、例えば複数のサンプルに基づき、予め適宜に設定され、一例では、4.5[kHz]~6[kHz]である。
【0022】
入力部4は、制御処理部3に接続され、例えば、運用開始を指示するコマンド等の各種コマンド、および、後述の、各タイマーにおけるタイムアップまでの各時間や判定閾値等の、エッジマスク装置1000を動作させる上で必要な各種データを前記エッジマスク装置1000に入力する機器であり、例えば、キーボード、マウス、および、所定の機能を割り付けられた複数の入力スイッチ等である。出力部5は、制御処理部3に接続され、制御処理部3の制御に従って、入力部4から入力されたコマンドやデータ、および、判定結果等を出力する機器であり、例えばCRTディスプレイ、LCD(液晶表示装置)および有機ELディスプレイ等の表示装置等である。
【0023】
なお、入力部4および出力部5は、タッチパネルより構成されてもよい。このタッチパネルを構成する場合において、入力部4は、例えば抵抗膜方式や静電容量方式等の操作位置を検出して入力する位置入力装置であり、出力部4は、表示装置である。このタッチパネルでは、表示装置の表示面上に位置入力装置が設けられ、表示装置に入力可能な1または複数の入力内容の候補が表示され、ユーザが、入力したい入力内容を表示した表示位置に触れると、位置入力装置によってその位置が検出され、検出された位置に表示された表示内容がユーザの操作入力内容としてエッジマスク装置1000に入力される。このようなタッチパネルでは、ユーザは、入力操作を直感的に理解し易いので、ユーザにとって取り扱い易いエッジマスク装置1000が提供される。
【0024】
IF部6は、制御処理部3に接続され、制御処理部3の制御に従って、例えば、外部の機器との間でデータを入出力する回路であり、例えば、シリアル通信方式であるRS-232Cのインターフェース回路、Bluetooth(登録商標)規格を用いたインターフェース回路、および、USB規格を用いたインターフェース回路等である。また、IF部6は、例えば、データ通信カードや、IEEE802.11規格等に従った通信インターフェース回路等の、外部の機器と通信信号を送受信する通信インターフェース回路であってもよい。
【0025】
エッジマスク移動部8は、制御処理部3に接続され、制御処理部3の制御に従って、電気メッキ対象物Obに対して離接するように、エッジマスクを移動する装置である。例えば、エッジマスク移動部8は、エッジマスクを支持し、電気メッキ対象物Obに対して離接するように前記エッジマスクを移動する公知の移動機構と、前記移動機構の動力源となるアクチュエータとを備えて構成される。
【0026】
記憶部7は、制御処理部3に接続され、制御処理部3の制御に従って、各種の所定のプログラムおよび各種の所定のデータを記憶する回路である。前記各種の所定のプログラムには、例えば、制御処理プログラムが含まれ、前記制御処理プログラムには、例えば、制御プログラム、判定プログラムおよび位置制御プログラム等が含まれる。前記制御プログラムは、エッジマスク装置1000の各部1、2、4~8を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御するプログラムである。前記判定プログラムは、振動測定部1で測定した振動に基づいて、電気メッキ対象物Obとエッジマスクとの接触を判定するプログラムである。前記位置制御プログラムは、前記判定プログラムでエッジマスクの接触を判定した場合に、現在の位置から、前記電気メッキ対象物Obから離れる方向に、前記エッジマスクを移動するようにエッジマスク移動部8を制御するプログラムである。前記各種の所定のデータには、例えば、各タイマーにおけるタイムアップまでの各時間や判定閾値等の、これら各プログラムを実行する上で必要なデータが含まれる。
【0027】
このような記憶部7は、例えば不揮発性の記憶素子であるROM(Read Only Memory)や書き換え可能な不揮発性の記憶素子であるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等を備える。そして、記憶部7は、前記所定のプログラムの実行中に生じるデータ等を記憶するいわゆる制御処理部3のワーキングメモリとなるRAM(Random Access Memory)等を含む。また、記憶部7は、比較的記憶容量の大きいハードディスク装置を備えて構成されてもよい。
【0028】
制御処理部3は、エッジマスク装置1000の各部1、2、4~7を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、電気メッキ対象物Obとエッジマスク101との接触を判定し、必要に応じてエッジマスク101を移動するための回路である。制御処理部3は、例えば、CPU(Central Processing Unit)およびその周辺回路を備えて構成される。制御処理部3には、前記制御処理プログラムが実行されることによって、制御部31、判定部32および位置制御部33が機能的に構成される。
【0029】
制御部31は、エッジマスク装置1000の各部1、2、4~8を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、エッジマスク装置1000の全体の制御を司るものである。
【0030】
判定部32は、振動測定部1で測定した振動に基づいて、電気メッキ対象物Obとエッジマスク101との接触を判定するものである。より具体的には、例えば、判定部32は、振動測定部1で測定した振動に基づく測定値(振幅値)と所定の閾値(判定閾値)とを比較し、この比較結果、前記測定値が前記判定閾値以下である場合には、非接触と判定し、前記測定値が前記判定閾値を上回る場合には、接触と判定してよいが、本実施形態では、判定部32は、振動測定部1で測定した振動に基づく測定値(振幅値)と所定の閾値(判定閾値)Thとを比較し、同一の比較結果が所定の時間(判定時間)Tw以上継続するか否かで前記判定を行う。この判定では、判定部32は、前記測定値が前記判定閾値Thを上回る場合が前記判定時間Tw以上継続する場合には、接触と判定し、前記測定値が前記判定閾値Thを上回る場合が前記判定時間Tw以上継続する場合では無い場合(前記測定値が前記判定閾値Th以下である場合、および、前記測定値が前記判定閾値Thを上回る場合が前記判定時間Tw以上継続しない場合のうちの少なくともいずれかの場合)には、非接触と判定する。より詳しくは、判定部32は、まず、前処理部2で前処理した振動測定部1の出力を所定の基準値RLで除算することによって正規化し、正規化した測定値(正規化測定値、正規化振幅値)を求める(正規化測定値=正規化振幅値=(前処理した振動測定部1の出力)/(基準値))。続いて、判定部32は、この正規化測定値と判定閾値Thとを比較する。この結果、判定部32は、前記正規化測定値が前記判定閾値Thを上回る場合が前記判定時間Tw以上継続する場合には、接触と判定し、前記正規化測定値が前記判定閾値Thを上回る場合が前記判定時間Tw以上継続する場合では無い場合には、非接触と判定する。
【0031】
前記基準値RLは、例えば、次のように求められ、前記判定閾値Thおよび前記判定時間Twは、例えば複数のサンプルに基づき予め適宜に設定される。
【0032】
電気メッキ装置内には、メッキ液が貯留され、電気メッキ対象物Obは、前記メッキ液に浸されて電気メッキされる。電気メッキ装置内の電気メッキ対象物Obの位置は、外部から不明なため、上述したように、電気メッキ装置の入側および出側それぞれで電気メッキ対象物Obの各幅の各位置(入側幅位置および出側幅位置)が測定され、これら測定された入側幅位置の両端点PIa、PIbそれぞれと出側幅位置の両端点POa、PObそれぞれとを直線で結んだ1対の仮想線LNa(=PIaPOa)、LNb(=PIbPOb)が前記電気メッキ対象物Obにおける幅方向の両端部(各エッジ部)とみなされ、これら1対の仮想線LNa、LNbそれぞれに対しエッジマスクの位置が決定される。
【0033】
電気メッキ装置の稼働中において、電気メッキ対象物Obの各エッジ部から十分に離間した位置(電気メッキ対象物Obと非接触となる、基準値RLを生成するための位置(基準値生成位置、非接触位置))にエッジマスクを位置させた場合に、所定の時間(基準値生成時間)、各振動測定部1で測定が行われ、この測定された測定値の平均値(暗振動値)がエッジマスク装置1000の基準値RLとして求められる。
【0034】
図2には、電気メッキ装置に用いられたエッジマスク装置1000における振動測定部1の測定結果が示され、エッジマスクの各位置における、時間(経過時間)に対する振動の振幅のグラフが示されている。図2の横軸は、時間(経過時間)[秒]であり、その縦軸は、振幅である。図2に示すグラフは、図2に示す基準値生成時間で生成した基準値RLで正規化した正規化測定値(正規化振幅値)のグラフである。上述の仮想線NLaの位置がエッジマスクの基準位置WS+0とされ、基準値生成時間では、エッジマスクは、非接触となる、電気メッキ対象物Obのエッジ部から例えば5[mm]だけ離間した位置WS+5に配置された。そして、図2に示すグラフの生成では、所定の時間間隔(観測時間間隔)で順次に、エッジマスクは、電気メッキ対象物Obのエッジ部に例えば1[mm]だけ近づいた位置WS-1、電気メッキ対象物Obのエッジ部に例えば2[mm]だけ近づいた位置WS-2、電気メッキ対象物Obのエッジ部に例えば3[mm]だけ近づいた位置WS-3、および、電気メッキ対象物Obのエッジ部に例えば4[mm]だけ近づいた位置WS-4それぞれに配置された。なお、図2に示すグラフにおいて、一定の時間ごとに、振幅0となるパルスが生じているが、図2に示すグラフの作成に用いた装置が一定の時間ごとにログ(記録)が途切れる装置であったためであり、単に、装置の都合による。
【0035】
図2に示すように、エッジマスクが位置WS+0に配置された場合に、基準値生成時間の振幅よりも有意に大きな振幅となっており、エッジマスクが電気メッキ対象物Obに接触したと推察される。このため、図2に示す例では、エッジマスクが位置WS+0に配置された場合での振幅の振動が検知されるように、前記判定閾値Thおよび前記判定時間Twが設定される。例えば、前記判定閾値Thは、基準値RLの1.2倍や1.5倍や2倍等に適宜に設定され、前記判定時間Twは、2秒や3秒や5秒等に適宜に設定される。前記基準値生成時間は、例えば、5秒や7秒や10秒等に適宜に設定される。なお、図2に示す例では、エッジマスクが位置WS-3に配置された場合およびエッジマスクが位置WS-4に配置された場合には、電気メッキ対象物Obにキズが生じていた。
【0036】
図1に戻って、位置制御部33は、判定部32でエッジマスク101の接触を判定した場合に、現在の位置から、電気メッキ対象物Obから離れる方向に、前記エッジマスク101を移動するようにエッジマスク移動部8を制御するものである。より具体的には、位置制御部33は、判定部32でエッジマスク101の接触を判定した場合に、現在の位置から、電気メッキ対象物Obから離れる方向に、予め設定された所定量(例えば0.5[mm]や1[mm]等)だけ前記エッジマスク101を移動するようにエッジマスク移動部8を制御する。
【0037】
これら制御処理部3、入力部4、出力部5、IF部5および記憶部6は、例えば、デスクトップ型やノート型等のコンピュータによって構成可能である。
【0038】
次に、本実施形態の動作について説明する。図3は、前記エッジマスク装置の動作を示す第1フローチャートである。図4は、前記第1フローチャートに続く、前記エッジマスク装置の動作を示す第2フローチャートである。図5は、一例として、前記エッジマスク装置の動作を説明するタイムチャートである。
【0039】
このような構成のエッジマスク装置1000は、その電源が投入されると、必要な各部の初期化を実行し、その稼働を始める。制御処理部3には、その制御処理プログラムの実行によって、制御部31、判定部32および位置制御部33が機能的に構成される。なお、基準値生成時間、判定閾値Th、判定時間Tw、および、エッジマスク101の移動後に判定を待機する移動後待機時間等は、予め設定され、記憶部7に記憶されているものとする。
【0040】
図3および図4において、例えばオペレータの指示の入力あるいは操業条件の変更があると、基準値RLを求めるために、エッジマスク装置1000は、制御処理部3の位置制御部33によって、前記基準値生成位置に、図2を用いて説明した上述の例では位置SW+5に、エッジマスクを移動する(S21)。
【0041】
続いて、エッジマスク装置1000は、制御処理部3によって、前記移動後待機時間にセットしたタイマー(移動後待機時間計時用タイマー)を機能的に生成し、前記移動後待機時間計時用タイマーをスタートさせ、計時を開始させる(S22)。
【0042】
続いて、エッジマスク装置1000は、制御処理部3によって、前記移動後待機時間計時用タイマーがタイムアップしたか否かを判定する(S23)。この判定の結果、エッジマスク装置1000は、前記タイムアップではない、と判定した場合(No)には、処理を処理S23に戻し、一方、前記タイムアップした、と判定した場合(Yes)には、次に、処理S24を実行する。したがって、前記移動後待機時間計時用タイマーがタイムアップするまで(前記移動後待機時間の経過まで)、処理S23が繰り返される。前記移動後待機時間だけ、処理を待機することで、エッジマスク101の移動によってエッジマスク101に生じた振動が収束でき、エッジマスク101の移動によって基準値RLに与える影響が回避し得る。前記移動後待機時間は、この観点から、例えば3[秒]や5[秒]等で予め適宜に設定される。
【0043】
この処理S24では、エッジマスク装置1000は、制御処理部3によって、前記基準値生成時間にセットしたタイマー(基準値生成時間計時用タイマー)を機能的に生成し、前記基準値生成時間計時用タイマーをスタートさせ、計時を開始させる。
【0044】
続いて、エッジマスク装置1000は、制御処理部3によって、前記基準値生成時間計時用タイマーがタイムアップしたか否かを判定する(S25)。この判定の結果、エッジマスク装置1000は、前記タイムアップではない、と判定した場合(No)には、処理を処理S25に戻し、一方、前記タイムアップした、と判定した場合(Yes)には、次に、処理S26を実行する。したがって、前記基準値生成時間計時用タイマーがタイムアップするまで(前記基準値生成時間の経過まで)、処理S25が繰り返され、この間、所定のサンプリング間隔で振動測定部1によってエッジマスクの振動が測定される。
【0045】
この処理S26では、エッジマスク装置1000は、制御処理部3の判定部32によって、振動測定部1で測定された測定値の平均値を基準値RLとして求める。エッジマスク1000が1個の電気メッキ装置に対して複数配置される場合、エッジマスク装置1000ごとに基準値RLが生成されることになるので、エッジマスク装置1000の個々のばらつきが考慮できる。操業条件の変更があると基準値RLが生成される場合、操業条件の違いによるばらつきが考慮できる。
【0046】
続いて、エッジマスク装置1000は、制御処理部3の位置制御部33によって、所定の初期位置(デフォルト位置)に、エッジマスク101を移動する(S27)。前記初期位置(デフォルト位置)は、エッジマスク101の運用を開始する際のエッジマスク101の位置であり、予め適宜に設定される。
【0047】
続いて、エッジマスク装置1000は、制御処理部3によって、上述の処理S22と同様に、前記移動後待機時間計時用タイマーを機能的に生成し、前記移動後待機時間計時用タイマーをスタートさせ、計時を開始させる(S31)。
【0048】
続いて、エッジマスク装置1000は、制御処理部3によって、上述の処理S23と同様に、前記移動後待機時間計時用タイマーがタイムアップしたか否かを判定する(S32)。この判定の結果、エッジマスク装置1000は、前記タイムアップではない、と判定した場合(No)には、処理を処理S32に戻し、一方、前記タイムアップした、と判定した場合(Yes)には、次に、処理S33を実行する。したがって、前記移動後待機時間計時用タイマーがタイムアップするまで、処理S32が繰り返される。
【0049】
この処理S33では、エッジマスク装置1000は、制御処理部3の判定部32によって、前記正規化測定値(正規化振幅値)が前記判定閾値Thを上回るか否かを判定する。この判定の結果、エッジマスク装置1000は、上回らない、と判定した場合(No)には、処理を処理S33に戻し、一方、上回る、と判定した場合(Yes)には、次に、処理S34を実行する。したがって、前記正規化測定値(正規化振幅値)が前記判定閾値Thを上回る、と判定されるまで、処理S33が繰り返され、この間、所定のサンプリング間隔で振動測定部1によってエッジマスクの振動が測定される。
【0050】
この処理S34では、エッジマスク装置1000は、制御処理部3によって、前記判定時間Twにセットしたタイマー(判定時間計時用タイマー)を機能的に生成し、前記判定時間計時用タイマーをスタートさせ、計時を開始させる。
【0051】
続いて、エッジマスク装置1000は、制御処理部3の判定部32によって、上述の処理S33と同様に、前記正規化測定値(正規化振幅値)が前記判定閾値Thを上回るか否かを判定する(S35)。この判定の結果、エッジマスク装置1000は、上回らない、と判定した場合(No)には、処理を処理S33に戻し、一方、上回る、と判定した場合(Yes)には、次に、処理S36を実行する。なお、処理を処理S33に戻す際には、前記機能的に生成した判定時間計時用タイマーが制御処理部3から削除されてもよい。
【0052】
この処理S36では、エッジマスク装置1000は、制御処理部3によって、前記判定時間計時用タイマーがタイムアップしたか否かを判定する。この判定の結果、エッジマスク装置1000は、前記タイムアップではない、と判定した場合(No)には、処理を処理S35に戻し、一方、前記タイムアップした、と判定した場合(Yes)には、次に、処理S37を実行する。したがって、処理S35で前記正規化測定値(正規化振幅値)が前記判定閾値Thを上回る、と判定し続けると、前記判定時間計時用タイマーがタイムアップするまで(前記判定時間Twの経過まで)、処理S35および処理S36の各処理が繰り返され、この間、所定のサンプリング間隔で振動測定部1によってエッジマスクの振動が測定される。
【0053】
この処理S37では、エッジマスク装置1000は、制御処理部3の判定部32によって、接触と判定し、続いて、エッジマスク装置1000は、制御処理部3の位置制御部33によって、現在の位置から、電気メッキ対象物Obから離れる方向に、前記所定量だけ前記エッジマスクを移動するようにアクチュエータ106を制御し(S38)、処理を処理S31に戻す。
【0054】
このようにエッジマスク装置1000は、動作するが、タイムチャートを用いて一例を説明すると、図5において、第1鋼板と第2鋼板とを溶接した溶接点が近接すると、エッジマスクが退避位置α1に退避され、前記溶接点が通過すると、前記第1鋼板から前記第2鋼板への操業条件の変更により、処理S21が実行され、エッジマスクが基準値生成位置α2に移動される。続いて、処理S22が実行され、処理S23の判定により、前記移動後待機時間計時用タイマーがタイムアップすると、処理S24が実行され、処理S25の判定により、前記基準値生成時間計時用タイマーがタイムアップすると、処理S26が実行され、これによって基準値RLが生成される。続いて、処理S27が実行され、これによってエッジマスクが初期位置α3に移動される。続いて、処理S31が実行され、処理S32の判定により、前記移動後待機時間計時用タイマーがタイムアップすると、処理S33ないし処理S36の各処理が上述のように実行される。処理S36の判定により、前記判定時間計時用タイマーがタイムアップすると、処理S37が実行され、続いて処理S38が実行され、これによってエッジマスクが初期位置α3から、電気メッキ対象物Obから離れる方向に前記所定量だけに離れた位置α4に移動される。そして、処理が処理S31に戻される。したがって、前記位置α4でも、上述と同様に、移動後待機時間だけ待機した後に、接触の有無が判定される。前記位置α4において、処理S36の判定により、前記判定時間計時用タイマーがタイムアップすると、処理S37が実行され、続いて処理S38が実行され、これによってエッジマスクが前記位置α4から、電気メッキ対象物Obから離れる方向に前記所定量だけに離れた位置α5に移動される(|α1|>|α2|>|α5|>|α4|>|α3|>0(=LN))。そして、処理が処理S31に戻される。したがって、前記位置α5でも、上述と同様に、移動後待機時間だけ待機した後に、接触の有無が判定される。前記位置α5において、接触と判定されなければ、処理S33ないし処理S36の各処理が上述のように実行される。
【0055】
以上説明したように、実施形態におけるエッジマスク装置1000およびこれに実装されたエッジマスク接触判定方法は、接触の発生で生じるエッジマスクの振動に基づいて接触を判定するので、接触の発生から接触の認定までのタイムラグを低減でき、前記エッジマスクの振動を振動測定部1で個別に測定するので、個別にエッジマスク101の接触を判定できる。
【0056】
上記エッジマスク装置1000およびエッジマスク接触判定方法は、同一の比較結果が所定の時間以上継続するか否かで前記判定を行うので、単発の比較結果で前記判定を行う場合に較べて、より適切に前記判定を行うことができる。
【0057】
上記エッジマスク装置1000およびエッジマスク接触判定方法は、電気メッキ装置の外部に振動測定部1を配設するので、既存の装置に後付けで振動測定部1を配設できるから、前記既存の装置で、接触の発生から接触の認定までのタイムラグを低減し、個別にエッジマスクの接触を判定できるように、エッジマスクの接触判定ができる。
【0058】
上記エッジマスク装置1000およびエッジマスク接触判定方法は、エッジマスクの接触を判定した場合に、現在の位置から、電気メッキ対象物から離れる方向に、エッジマスクを移動するので、前記接触を解消し得る。
【0059】
なお、上述の実施形態では、接触の判定のたびに前記接触を解消するために所定量だけ離間するようにエッジマスクが移動されたが、接触を判定すると、電気メッキ対象物Obと非接触となる所定の退避位置にエッジマスクが移動されてもよい。
【0060】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0061】
1000 エッジマスク装置
1 振動測定部
2 前処理部
3 制御処理部
7 記憶部
8 エッジマスク移動部
31 制御部
32 判定部
33 位置制御部
図1
図2
図3
図4
図5