(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177738
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】車両用支持構造体及び車両用支持構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B60G 7/00 20060101AFI20241217BHJP
B23Q 3/18 20060101ALI20241217BHJP
B22D 17/22 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B60G7/00
B23Q3/18 Z
B22D17/22 H
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096043
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】山崎 祐太郎
(72)【発明者】
【氏名】丸山 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】寺田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】小林 隆史
(72)【発明者】
【氏名】談 涛
【テーマコード(参考)】
3C016
3D301
【Fターム(参考)】
3C016HA01
3D301AA78
3D301AA80
3D301DA08
3D301DA89
(57)【要約】
【課題】機械加工時に、位置決め用の治具を挿入して鋳造体を確実に支持することができるとともに、車両に搭載した状態で、水が溜まることを防止した加工基準穴を備えた車両用支持構造体及び車両用支持構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】鋳造により製造されるサスペンションアームは鋳造時に形成される加工基準穴7を有する。加工基準穴7は成型工程において発生するサスペンションアームの曲がり方向に長く形成される。加工基準穴7に一端を通じさせるとともに他端を外方に開放させた凹部8を形成する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造により製造される車両用支持構造体であって、該車両用支持構造体は鋳造時に形成される加工基準穴を有し、該加工基準穴は成型工程において発生する前記車両用支持構造体の曲がり方向に長く形成されるとともに、前記加工基準穴に一端を通じさせるとともに他端を外方に開放させた凹部を形成したことを特徴とする車両用支持構造体。
【請求項2】
前記加工基準穴の底部と前記凹部の底部とは、前記凹部の他端側に向けて、漸次、重力方向下向きに傾斜することを特徴とする請求項1記載の車両用支持構造体。
【請求項3】
前記車両用支持構造体はサスペンションアームであり、前記加工基準穴は、前記サスペンションアームの車両取付状態において上面、且つ、他部品接続部の周囲に配置されることを特徴とする請求項1又は2記載の車両用支持構造体。
【請求項4】
鋳造により製造される車両用支持構造体の製造方法であって、前記車両用支持構造体は、成型工程において発生する前記車両用支持構造体の曲がり方向に沿って長い加工基準穴と、該加工基準穴に一端を通じさせるとともに他端を外方に開放した凹部とを鋳造時に成型することを特徴とする車両用支持構造体の製造方法。
【請求項5】
前記成型工程は熱処理工程を備え、前記車両用支持構造体の曲がり方向が、前記熱処理工程時に発生する曲がり方向と同じであることを特徴とする請求項4記載の車両用支持構造体の製造方法。
【請求項6】
前記成型工程は離型工程を備え、前記車両用支持構造体の曲がり方向が、前記離型工程時に発生する曲がり方向と同じであることを特徴とする請求項4記載の車両用支持構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用支持構造体及び車両用支持構造体の製造方法に関し、詳しくは、鋳造により製造される車両用支持構造体であって、鋳造後の鋳造体を機械加工する際に、位置決めのために使用される加工基準穴を有した車両用支持構造体及び車両用支持構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋳造により製造される車両用支持構造体では、成型工程終了後の鋳造体に設けられた加工基準穴に治具を挿入し、鋳造体を位置決めした状態で機械加工(加工処理工程)を行っており、この加工基準穴は、成型工程時に中子によって形成されていた(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の特許文献1のものでは、成型工程時に発生する鋳造体の曲がり等の変形に伴って加工基準穴が位置ずれすることがあり、機械加工時に変形した加工基準穴に位置決め用の治具が挿入できなかったり、挿入できても治具で加工基準穴を確実に支持できなかったりすることがあった。さらに、車両に搭載された車両用支持構造体の加工基準穴に水が溜まって腐食することがあり、強度が低下する虞があった。
【0005】
そこで本発明は、機械加工時に位置決め用の治具を挿入して、鋳造体を確実に支持することができるとともに、車両に搭載された状態で、水が溜まることを防止できる加工基準穴を備えた車両用支持構造体及び車両用支持構造体の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の車両用支持構造体は、鋳造により製造される車両用支持構造体であって、該車両用支持構造体は鋳造時に形成される加工基準穴を有し、該加工基準穴は成型工程において発生する前記車両用支持構造体の曲がり方向に長く形成されるとともに、前記加工基準穴に一端を通じさせるとともに他端を外方に開放させた凹部を形成したことを特徴としている。
【0007】
また、前記加工基準穴の底部と前記凹部の底部とは、前記凹部の他端側に向けて、漸次、重力方向下向きに傾斜すると好ましい。
【0008】
さらに、前記車両用支持構造体はサスペンションアームであり、前記加工基準穴は、前記サスペンションアームの車両取付状態において上面、且つ、他部品接続部の周囲に配置されると好適である。
【0009】
また、本発明の車両用支持構造体の製造方法は、鋳造により製造される車両用支持構造体の製造方法であって、前記車両用支持構造体は、成型工程において発生する前記車両用支持構造体の曲がり方向に沿って長い加工基準穴と、該加工基準穴に一端を通じさせるとともに他端を外方に開放した凹部とを鋳造時に成型することを特徴としている。
【0010】
さらに、前記成型工程は熱処理工程を備え、前記車両用支持構造体の曲がり方向が、前記熱処理工程時に発生する曲がり方向と同じであることを特徴としている。
【0011】
また、前記成型工程は離型工程を備え、前記車両用支持構造体の曲がり方向が、前記離型工程時に発生する曲がり方向と同じであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車両用支持構造体によれば、加工基準穴を車両用支持構造体の曲がり方向に沿って長く形成したことにより、鋳造時に曲がりが発生し、加工基準穴の曲がり方向の位置ずれが生じることがあっても、加工基準穴に位置決め用の治具を挿入させることができるとともに、加工基準穴の幅方向の側壁に治具を当接させることで、治具で加工基準穴を確実に支持することができる。さらに、車両用支持構造体を車両に搭載した状態で、加工基準穴に水が浸入することがあっても、浸入した水を凹部によって排出させることができ、加工基準穴に水が溜まることを防止できる。
【0013】
また、加工基準穴の底部と凹部の底部とを、凹部の他端に向けて漸次重力方向下向きに傾斜させることにより、加工基準穴に浸入した水を確実に排出させることができ、加工基準穴に水が溜まることがない。また、これにより、加工基準穴が水によって腐食することを防ぎ、加工基準穴が他部品接続部近傍に設けられた場合に、他部品接続部へ腐食の影響を与える虞がない。
【0014】
さらに、本発明の車両用支持構造体の製造方法によれば、加工基準穴及び凹部を容易に成型することができる。
【0015】
また、加工基準穴を、熱処理工程時に発生する曲がり方向や、離型工程時に発生する曲がり方向に沿って長く形成することにより、曲がりが発生して加工基準穴及び凹部に曲がり方向の位置ずれが生じることがあっても、加工基準穴に位置決め用の治具を挿入させることができるとともに、加工基準穴の幅方向の側壁に治具を当接させることで、治具で加工基準穴を確実に支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一形態例を示すサスペンションアームの平面図である。
【
図3】本発明の一形態例を示すサスペンションアームの説明図である。
【
図4】同じく加工基準穴と凹部とを成型したサスペンションアームの鋳造体の要部平面図である。
【
図6】同じく加工基準穴を成型したサスペンションアームの鋳造体の要部平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1乃至
図7は、車両用支持構造体の一例であるサスペンションアームに適用した一形態例を示す図で、本形態例のサスペンションアーム1は、車両の後輪のロアアームとして取り付けられる。
【0018】
サスペンションアーム1は、アーム本体2aと、アーム本体2aから車体側に延出する車体側腕部2bと、アーム本体2aから車輪側に延出する車輪側腕部2cとを備え、車体側腕部2bの先端に車体側軸受部3が、車輪側腕部2cの先端に車輪側軸受部4がそれぞれ設けられている。アーム本体2aは、底壁2dと、底壁2dから上方に延出する側壁2eとを備えた凹状に形成され、底壁2dには車輪側腕部2c側に円形部2fが、車体側腕部2b側に開口部2gがそれぞれ形成されている。円形部2fの中心にはショックアブソーバ連結部2hが突設され、該ショックアブソーバ連結部2hにサスペンションスプリング5や緩衝用のゴムリング6等を備えたショックアブソーバ(図示せず)が連結される。
【0019】
車体側腕部2bの先端部上面には、加工基準穴7と凹部8とが一体に形成されている(加工基準穴7と凹部8の境界を
図5の想像線に示す)。加工基準穴7は、車体側腕部2bの幅方向よりも曲がり方向(
図2に示す矢印A方向)に長く形成され、底部7aと側壁7bとを備えている。凹部8は、一端を加工基準穴7に通じさせるとともに、他端を車体側腕部2bの先端外方に開放させている。凹部8の底部8aは、加工基準穴7の底部7aと面一に形成され、底部7a,8aは、車体側腕部2bの先端側(凹部の他端側)に向けて、漸次、重力方向下向きに傾斜するように形成されている。
【0020】
上述のようなサスペンションアーム1の製造は、主型及び可動型と、加工基準穴7や凹部8を成型する中子とを備えた成形型(成形型及び各型については図示せず)のキャビティ内に、アルミニウム等の金属の溶湯を流して充填する溶湯充填工程,主型及び可動型を開いて鋳造体1aを成形型から取り出す離型工程,鋳造体1aから湯口を切り落とす湯口切り落とし工程,鋳造体1aを高温で一定時間加熱し、その後速やかに水冷し、水冷した鋳造体をさらに一定時間加熱する熱処理工程等を順に行う成型工程を終了した後に、切削等の加工処理工程が行われる周知の鋳造方法によって製造される。
【0021】
熱処理工程では、長尺部分である車体側腕部2bに曲がり(
図2に示す矢印A方向の曲がり)が発生することがある。また、離型工程では、離型ピンで鋳造体1aを押しながら可動型を開き、次いで、主型に残った鋳造体1aを離型ピンで押しながら主型から取り出すが、離型ピンで押し出す強さのバランスや、鋳造体1aの主型又は可動型への引っかかり等により、鋳造体1aに、熱処理工程時に発生する曲がりと同様の曲がり(
図2に示す矢印A方向の曲がり)が発生することがある。
【0022】
本形態例では、加工基準穴7を車体側腕部2bの曲がり方向(
図2に示す矢印A方向)に長く形成することから、上述のような曲がりが発生して加工基準穴7及び凹部8に曲がり方向の位置ずれが生じることがあっても、加工基準穴7に治具9を挿入し(
図4)、鋳造体1aを位置決めした状態で機械加工(加工処理工程)を行う際に、加工基準穴7に位置決め用の治具9を挿入させることができるとともに、加工基準穴7の幅方向の側壁7b,7bに治具9を当接させることで、治具9で加工基準穴7を確実に支持することができる。
【0023】
また、一端を加工基準穴7に通じさせるとともに、他端を車体側腕部2bの先端外方に開放させた凹部8を設けたことにより、サスペンションアーム1を車両に搭載した状態で、水が加工基準穴7に浸入することがあっても、凹部8によって浸入した水を排出させることができる。さらに、加工基準穴7の底部7aと凹部8の底部8aとを、面一に形成するとともに、車体側腕部2bの先端側に向けて、漸次、重力方向下向きに傾斜するように形成したことから、浸入した水を確実に排出させることができる。さらに、加工基準穴7に水が溜まることがないので、水による腐食を防ぐことができ、車体側軸受部3(本発明の他部品接続部)に、腐食の影響を与えることがない。
【0024】
また、加工基準穴7及び凹部8は、鋳造時に中子によって成型されることから、加工基準穴7及び凹部8を容易に形成することができる。
【0025】
なお、上述の形態例では、加工基準穴7及び凹部8を鋳造時に中子によって成型しているが、
図6及び
図7に示されるように、加工基準穴10を鋳造時に中子によって成型した後、機械加工によって凹部を切削加工によって形成することもでき、凹部は一端を加工基準穴10に連通させるとともに、他端を外方に開放させるように切削される。加工基準穴10は、
図5の想像線を含む加工基準穴7と同じ形状であり、車体側腕部2bの幅方向よりも曲がり方向の方が穴の径が長く形成されている。
【0026】
また、本発明の車両用支持構造体は、上述の形態例のようにサスペンションアームに限るものではなく、ハブベアリングやアーム等の各部品を結合して支えるナックルや、該ナックルの上下方向の動きを支え、車体の左右方向の動きを抑える各種アーム部材といった各種部品が含まれる。
【符号の説明】
【0027】
1…サスペンションアーム、1a…鋳造体、2a…アーム本体、2b…車体側腕部、2c…車輪側腕部、2d…底壁、2e…側壁、2f…円形部、2g…開口部、2h…ショックアブソーバ連結部、3…車体側軸受部、4…車輪側軸受部、5…サスペンションスプリング、6…ゴムリング、7…加工基準穴、7a…底部、7b…側壁、8…凹部、8a…底部、9…治具、10…加工基準穴