(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177742
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造
(51)【国際特許分類】
F02M 55/02 20060101AFI20241217BHJP
F02F 7/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
F02M55/02 350D
F02M55/02 350H
F02M55/02 330
F02M55/02 350Z
F02F7/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096049
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】蟹 俊之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 秀哲
(72)【発明者】
【氏名】宮井 慎伍
(72)【発明者】
【氏名】田川 雅也
【テーマコード(参考)】
3G024
3G066
【Fターム(参考)】
3G024AA72
3G024DA01
3G024DA18
3G024GA01
3G024HA07
3G066AA02
3G066BA22
3G066BA61
3G066CB05
3G066CC66
3G066CD04
3G066DC18
(57)【要約】
【課題】コストアップを招くことなく、燃料デリバリパイプ内の燃圧脈動に起因した異音や騒音の発生を適切に抑制する。
【解決手段】シリンダヘッド2と、シリンダヘッドカバー3と、シリンダヘッド2の燃焼室に燃料を噴射するインジェクター4と、インジェクター4に燃料を圧送して供給する燃料デリバリパイプ5と、を備え、燃料を燃焼室に直接噴射し、火花点火で燃焼させる筒内噴射エンジン1の燃料デリバリ構造において、インジェクター4における燃料の噴射に伴って燃料デリバリパイプ5が振動する際に、振幅または変位が、相対的に大きくなる、もしくは、最大になる燃料デリバリパイプ5の波腹部ANに、例えば、圧力センサー6またはユニオンボルト9などの筒内噴射エンジン1の付属部品APを取り付ける。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドと、前記シリンダヘッドに取り付けられ、前記シリンダヘッドの上面を覆うシリンダヘッドカバーと、前記シリンダヘッドの燃焼室に燃料を噴射するインジェクターと、前記インジェクターに前記燃料を圧送して供給する燃料デリバリパイプと、を備え、前記燃料を前記燃焼室に直接噴射し、火花点火で燃焼させる筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造であって、
前記筒内噴射エンジンの構造または動作に関与する付属部品を備え、
前記燃料デリバリパイプは、
前記インジェクターにおける前記燃料の噴射に伴い振動する際の振幅または変位が最大になる、もしくは、前記振幅または前記変位が相対的に大きくなる波腹部を有し、
前記波腹部に、前記付属部品が取り付けられている
ことを特徴とする筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造。
【請求項2】
請求項1に記載の筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造であって、
前記燃料デリバリパイプは、前記インジェクターの直上で前記インジェクターに接続するように配置され、前記シリンダヘッドカバーに固定されている
ことを特徴とする筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造。
【請求項3】
請求項2に記載の筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造であって、
前記インジェクターは、前記シリンダヘッドカバーおよび前記燃焼室の直上に配置されている
ことを特徴とする筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造であって、
前記付属部品は、前記燃料の圧力を検出する圧力センサーである
ことを特徴とする筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造であって、
前記付属部品は、前記燃料デリバリパイプと、前記燃料デリバリパイプに前記燃料を供給する燃料ホースとを連結する継手部材である
ことを特徴とする筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか一項に記載の筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造であって、
前記付属部品は、前記筒内噴射エンジンの電装部品に接続する電線である
ことを特徴とする筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両に搭載される火花点火式のエンジンに関し、特に、燃焼室に燃料を直接噴射する筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンの燃料デリバリ構造(燃料デリバリパイプ)に関する発明が記載されている。この特許文献1に記載された燃料デリバリパイプは、燃料デリバリパイプは、複数のインジェクターが取り付けられる燃料デリバリパイプ本体と、燃料デリバリパイプ本体の内側に設けられ、密閉空間を有する中空のダンパー部材とを備えている。そして、燃料デリバリパイプは、燃料デリバリパイプ本体内に供給された燃料を各インジェクターに分配して供給する際に、ダンパー部材が変形することにより燃圧脈動を吸収するように構成されている。更に、この特許文献1に記載された燃料デリバリパイプは、燃圧脈動の吸収部分となるダンパー部材の壁部に、質量体(ダンパマス)が取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1に記載されているような燃料デリバリ構造は、燃料をインジェクターから燃焼室に直接噴射する筒内噴射エンジン(いわゆる、直噴エンジン)に用いられる。そして、燃料デリバリ構造の燃料デリバリパイプは、燃料ポンプから圧送される高圧の燃料を複数のインジェクターに分配して供給する。燃料デリバリパイプは、直噴エンジンのシリンダヘッドカバーに取り付けられて固定される。直噴エンジンでは、インジェクターで燃料噴射が断続的に行われることによって、燃料デリバリパイプ内を流動する燃料の圧力に脈動(燃圧脈動)が発生する場合がある。そのような燃圧脈動が発生すると、それに起因した振動がシリンダヘッドカバーに伝わり、シリンダヘッドカバーで共振や共鳴が発生してしまったり、シリンダヘッドカバーから異音や騒音が放射されてしまったりする懸念があった。そこで、特許文献1に記載された燃料デリバリパイプでは、上記のような中空のダンパー部材に、ダンパマスとして機能する質量体が付加されている。そのため、特許文献1に記載されたエンジンの燃料デリバリ構造によれば、質量体を付加したダンパー部材をマスダンパとして機能させて、燃料デリバリパイプ内の燃圧脈動を効果的に吸収または減衰させることができる。
【0005】
但し、上記の特許文献1に記載された燃料デリバリパイプでは、ダンパー部材に質量体を付加している分、加工工数や材料費が増加してしまい、直噴エンジンのコストアップ要因となってしまう。なお、上記のようなシリンダヘッドカバーからの異音や騒音の放出の問題は、例えば、シリンダヘッドカバーに補強リブを追加したり、シリンダヘッドカバーの板厚を増大したりして、シリンダヘッドカバーの強度および剛性を高めることによって対策できる。あるいは、騒音および振動の放出を遮断するためのカバーや防音材などを設けることも考えられる。しかしながら、リブの追加や板厚の増大は、軽量化の要求に逆行してしまう。また、いずれの場合も、結局、直噴エンジンのコストアップ要因となってしまう。
【0006】
この発明は上記のような技術的課題に着目して考え出されたものであり、コストアップを招くことなく、燃料デリバリパイプ内の燃圧脈動に起因した異音や騒音の発生を適切に抑制することが可能な筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明は、シリンダヘッドと、前記シリンダヘッドに取り付けられ、前記シリンダヘッドの上面を覆うシリンダヘッドカバーと、前記シリンダヘッドの燃焼室に燃料を噴射するインジェクターと、前記インジェクターに前記燃料を圧送して供給する燃料デリバリパイプと、を備え、前記燃料を前記燃焼室に直接噴射し、火花点火で燃焼させる筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造であって、前記筒内噴射エンジンの構造または動作に関与する付属部品を備え、前記燃料デリバリパイプは、前記インジェクターにおける前記燃料の噴射に伴い振動する際の振幅または変位が最大になる、もしくは、前記振幅または前記変位が相対的に大きくなる波腹部を有し、前記波腹部に、前記付属部品が取り付けられていることを特徴とするものである。
【0008】
また、この発明における前記燃料デリバリパイプは、前記インジェクターの直上(鉛直方向におけるほぼ真上)で前記インジェクターに接続するように配置され、前記シリンダヘッドカバーに固定された構成であってもよい。
【0009】
また、この発明における前記インジェクターは、前記シリンダヘッドカバーおよび前記燃焼室の直上(鉛直方向におけるほぼ真上)に配置された構成であってもよい。
【0010】
なお、この発明における前記付属部品は、前記燃料デリバリパイプ内の前記燃料の圧力を検出する圧力センサーであってもよい。
【0011】
また、この発明における前記付属部品は、前記燃料デリバリパイプと、前記燃料デリバリパイプに前記燃料を供給する燃料ホースとを連結する継手部材であってもよい。
【0012】
そして、この発明における前記付属部品は、前記筒内噴射エンジンの電装部品に接続する電線であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
この発明で対象にするエンジンは、例えば、ガソリンエンジンに代表される火花点火機関であり、かつ、インジェクターで燃料を燃焼室に直接噴射する筒内噴射エンジン(いわゆる直噴エンジン)である。そして、インジェクターに高圧の燃料を供給するための燃料デリバリ構造は、燃料ポンプとインジェクターとの間で燃料を圧送する燃料デリバリパイプを備えている。燃料デリバリパイプは、インジェクターで断続的に燃料を噴射する際に、燃料デリバリパイプ内における燃料の圧力の脈動(燃圧脈動)に起因して振動する。燃料デリバリパイプが振動すると、その振動がシリンダヘッドカバーに伝搬し、シリンダヘッドカバーで共振や共鳴が発生してしまったり、シリンダヘッドカバーから異音や騒音が放射されてしまったりするおそれがある。そこで、この発明の筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造では、燃料デリバリパイプの波腹部に、筒内噴射エンジンの所定の付属部品が取り付けられている。燃料デリバリパイプの波腹部は、上記のように燃料デリバリパイプが振動する際に、その振動モードの腹となる部位、すなわち、振動の振幅または変位が、相対的に大きくなる、もしくは、最大になる部位である。筒内噴射エンジンの付属部品は、筒内噴射エンジンを構成するために必備される既存の部品または部材であり、必然的に所定の質量を有している。そのため、この発明の筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造では、上記のような波腹部に取り付けられる付属部品を、ダンパマスとして機能させることができる。すなわち、付属部品の質量が波腹部に付加された燃料デリバリパイプを、マスダンパとして機能させることができる。そのため、特別な部品や部材、あるいは、振動減衰機構等を用いることなく、既存の付属部品を利用して、容易に、かつ、効果的に、燃料デリバリパイプの振動を吸収または減衰させることができる。
【0014】
また、この発明の筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造は、インジェクターの直上、すなわち、インジェクターの鉛直方向におけるほぼ真上に、燃料デリバリパイプが配置される構成の筒内噴射エンジンに適用される。あるいは、この発明の筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造は、シリンダヘッドカバー、および、シリンダヘッドの燃焼室の直上に、燃料デリバリパイプが配置される構成、すなわち、いわゆるセンター噴射方式の筒内噴射エンジンに適用される。そのような構成の筒内噴射エンジンでは、燃料デリバリパイプとインジェクターとの間のスペースで、それら燃料デリバリパイプとインジェクターとを接続するため、また、高圧の燃料を圧送するために燃料デリバリパイプの径が大きくなるため、燃料デリバリパイプとシリンダヘッドカバーとの間の距離が長くなる。すなわち、燃料デリバリパイプをシリンダヘッドカバーに固定する部分のボス部材の高さが大きくなる。そのため、燃料デリバリパイプがより振動しやすくなる。そのような構成の筒内噴射エンジンに対して、この発明の筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造では、上記のように、燃料デリバリパイプの波腹部に既存の付属部品が取り付けられることにより、容易に、かつ、効果的に、燃料デリバリパイプの振動を吸収または減衰させることができる。
【0015】
なお、この発明の筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造では、上記のような筒内噴射エンジンの付属部品として、例えば、燃料の圧力を検出する圧力センサー(燃圧センサー)、あるいは、燃料デリバリパイプと燃料ホースとを連結する継手部材(ユニオンボルト等)、あるいは、電装部品に接続する電線(ワイヤーハーネス等)が用いられる。そのため、それら既存の部品や部材を利用して、コストアップを招くことなく、容易に、燃料デリバリパイプの振動を吸収または減衰させることができる。
【0016】
したがって、この発明の筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造によれば、コストアップを招くことなく、燃料デリバリパイプ内の燃圧脈動に起因した異音や騒音の発生を適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、この発明の筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造を説明するための図であって、この発明の燃料デリバリ構造を適用する筒内噴射エンジンのシリンダヘッド、および、シリンダヘッドカバーを示す斜視図である。
【
図2】
図2は、この発明の筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造を説明するための図であって、インジェクターの基本的な構造を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、この発明の筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造を説明するための図であって、燃料デリバリパイプの基本的な構造を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、この発明の筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造を説明するための図であって、シリンダヘッドカバーに燃料デリバリパイプを配置した状態、および、筒内噴射エンジンに用いられるワイヤーハーネス(付属部品)を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、この発明の筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造を説明するための図であって、燃料デリバリパイプの後端(波腹部)に燃圧センサー(付属部品)を取り付けた状態を示す上面図である。
【
図6】
図6は、燃料デリバリパイプの波腹部に取り付ける筒内噴射エンジンの付属部品の一例を示す図であって、燃料デリバリパイプと燃料ホースとを連結するユニオンボルト(付属部品)の形状を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、燃料デリバリパイプの波腹部に取り付ける筒内噴射エンジンの付属部品の一例を示す図であって、ユニオンボルト(付属部品)で燃料デリバリパイプと燃料ホースとを連結したイメージを示す模式図である。
【
図8】
図8は、この発明の筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造の作用効果を説明するための図であって、燃料デリバリパイプの波腹部にユニオンボルト(付属部品)を取り付けた状態の周波数解析結果を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の実施形態を、図を参照して説明する。なお、以下に示す実施形態は、この発明を具体化した場合の一例に過ぎず、この発明を限定するものではない。
【0019】
この発明の実施形態における筒内噴射エンジンは、代表的には、ガソリン、その他に、例えば、LPガス、アルコール、あるいは、水素などを燃料とする火花点火機関であり、特に、燃料を燃焼室に直接噴射する筒内噴射(直噴)エンジンである。更に、この発明の実施形態で対象にする筒内噴射エンジンは、後述するように、燃料を噴射するインジェクターを燃焼室のほぼ直上に配置した、いわゆるセンター噴射方式の直噴エンジンである。そして、
図1に示すように、この発明の実施形態における筒内噴射エンジン(以下、エンジン)1は、シリンダヘッド2の上面を覆うシリンダヘッドカバー3を備えている。
【0020】
シリンダヘッドカバー3は、例えば、アルミニウム合金やマグネシウム合金などを材料とした金属製であり、既存の“樹脂製のシリンダヘッドカバー”と比較して、強度および剛性が高いものが採用されている。例えば、
図1に示す例では、アルミダイカスト法で製作されたアルミニウム合金製のシリンダヘッドカバー3が用いられている。なお、
図1に示すように、シリンダヘッドカバー3には、後述するインジェクター4を配置させるためのインジェクタ配置孔3a、および、後述する燃料デリバリパイプ5を固定するための締結ボルト用ボス3bが形成されている。
【0021】
インジェクタ配置孔3aは、シリンダヘッド2内に形成された燃焼室(図示せず)の直上に設置されるインジェクター4の配置位置に対応するシリンダヘッドカバー3上の所定の位置に形成された貫通孔である。
図1に示す例では、シリンダヘッドカバー3には、四つのインジェクター4に対応する四箇所の位置に、それぞれ、インジェクタ配置孔3aが設けられている。
【0022】
締結ボルト用ボス3bは、燃料デリバリパイプ5をボルト締結でシリンダヘッドカバー3に取り付けるためのボス形状の部位である。締結ボルト用ボス3bには、締結ボルト(図示せず)をねじ込むためのねじ穴(図示せず)が形成されている。
【0023】
その他に、シリンダヘッドカバー3には、点火プラグ(図示せず)を固定するための点火プラグ配置孔3c、および、シリンダヘッドカバー3をボルト締結でシリンダヘッド2に取り付けるためのボルト穴3dなどが形成されている。
【0024】
この発明の実施形態におけるエンジン1のような直噴エンジンでは、例えば、燃料噴射圧力の高圧化に対応するために、従来のポート噴射式のエンジンと比較して、シリンダヘッドカバー3に高い強度および剛性が要求される。また、上記のようなセンター噴射方式を採用することにより、シリンダヘッドカバー3上で、インジェクター4を配置するスペースの余裕が少なくなり、それに起因して、シリンダヘッドカバー3の強度的な余裕も少なくなっている。そのため、この発明の実施形態におけるエンジン1では、強度や剛性が高い金属製のシリンダヘッドカバー3を採用している。それにより、燃料噴射圧力の高圧化や、センター噴射方式の特殊な構造にも対応して、シリンダヘッドカバー3の強度および剛性を適切に確保することができる。
【0025】
そして、この発明の実施形態における筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造は、
図2、
図3、
図4、
図5に示すように、インジェクター4、および、燃料デリバリパイプ5を備えている。
【0026】
インジェクター4は、シリンダヘッド2の燃焼室に燃料を噴射する部品である。前述したように、この発明の実施形態におけるエンジン1は、センター噴射方式の直噴エンジンである。したがって、インジェクター4は、上記のシリンダヘッドカバー3、および、シリンダヘッド2における燃焼室の直上(鉛直方向におけるほぼ真上)に配置されている。
【0027】
図2に示すように、インジェクター4は、基本的には、従来の“センター噴射方式のインジェクター”と同様の構成である。すなわち、インジェクター4は、本体部(ノズルホルダー)4aがほぼ直管形状になっており、その上端部4bに、後述する燃料デリバリパイプ5のインジェクタ取り付け部5bが接続されて、燃料デリバリパイプ5から高圧燃料が供給される。インジェクター4は、本体部4aの内部に、ソレノイド(図示せず)やプランジャー(図示せず)などから、バルブ機構(図示せず)が形成されている。そして、本体部4aの先端(下端部)に、シリンダヘッド2の燃焼室へ、直接、燃料を噴射する噴射ノズル部4cが形成されている。
【0028】
なお、この
図2に示す例では、インジェクター4は、ノズルホルダクランプ4dを備えている。ノズルホルダクランプ4dは、インジェクター4の上端部4bと、燃料デリバリパイプ5のインジェクタ取り付け部5bとを締め付けて連結する。それとともに、ノズルホルダクランプ4dは、ばね(図示せず)の弾性力によってインジェクター4をシリンダヘッド2の方向へ押圧する構造になっている。そのため、例えば、相対的に燃料の噴射圧力が低いエンジン1の始動時に、燃焼圧によるインジェクター4の移動を抑制して、インジェクター4とシリンダヘッド2との間の気密性を高めることができる。また、インジェクター4が移動することに起因して発生する振動や騒音を低減することができる。
【0029】
燃料デリバリパイプ5は、燃料ポンプ(図示せず)から吐出される高圧の燃料を、上記のインジェクター4に圧送して供給する。
図3に示す例では、シリンダヘッドカバー3に形成された四箇所のインジェクタ配置孔3aのそれぞれにインジェクター4が設置されており、燃料デリバリパイプ5は、それら四つのインジェクター4に対して、燃料を分配して供給する。
【0030】
図3に示すように、燃料デリバリパイプ5は、基本的には、従来の“直噴エンジンの燃料デリバリパイプ”と同様の構成である。すなわち、燃料を供給するインジェクター4の数量に応じた所定の長さを有する直管形状の本管部5a、および、インジェクタ取り付け部5bを有している。
【0031】
本管部5aは、燃料ポンプに接続して、燃料ポンプから吐出される燃料の主流の流動方向に延びる管状の部材である。したがって、この本管部5aの長さ方向が、燃料デリバリパイプ5における燃料の主流の流動方向もしくは供給方向になっている。
【0032】
インジェクタ取り付け部5bは、本管部5aから分岐したボス形状の部位であり、インジェクター4を接続して取り付ける。前述したように、ノズルホルダクランプ4dを用いて、インジェクタ取り付け部5bにインジェクター4の上端部4bが取り付けられる。
【0033】
なお、
図3に示す例では、燃料デリバリパイプ5の本管部5aの長さ方向における中央付近の部位AN
1に、燃圧センサー6が装着されている。また、後述する
図5に示す例では、燃料デリバリパイプ5の本管部5aの長さ方向における先端(
図5の右端)付近の部位AN
2に、燃圧センサー6が装着されている。燃圧センサー6は、インジェクター4から噴射される高圧燃料の圧力を検出する圧力センサーであり、燃料デリバリ構造を含むエンジン1全体の付属部品APである。付属部品APは、エンジン1を構成するために必備される既存の部品または部材である。後述するように、この発明の実施形態における筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造では、上記のような部位AN
1,AN
2、すなわち、燃料デリバリパイプ5の波腹部AN
1,AN
2に、この燃圧センサー6のような付属部品APを取り付け、“ダンパマス”として機能させている。
【0034】
また、この発明の実施形態における燃料デリバリパイプ5は、上記のインジェクター4の直上(鉛直方向における真上)で、インジェクター4の上端部4bに接続するように配置されている。その状態で、燃料デリバリパイプ5は、金属製のシリンダヘッドカバー3に固定されている。
【0035】
上記のように燃料デリバリパイプ5をシリンダヘッドカバー3に固定するために、燃料デリバリパイプ5には、締結ボルト用ボス5cが形成されている。締結ボルト用ボス5cは、燃料デリバリパイプ5をボルト締結でシリンダヘッドカバー3に取り付けるためのボス形状の部位である。
図3、
図4に示すように、締結ボルト用ボス5cには、締結ボルト7を挿入するためのボルト穴(貫通穴)5dが形成されている。
【0036】
更に、この発明の実施形態における筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造では、燃料デリバリパイプ5における波腹部ANに、エンジン1の所定の付属部品APが取り付けられている。
【0037】
波腹部ANは、前述したような燃圧脈動によって燃料デリバリパイプ5が振動する際に、その振動モードの腹となる部位、すなわち、振動の振幅または変位が相対的に大きくなる部位、もしくは、振動の振幅または変位が最大になる部位である。前述の
図3で示した例では、燃料デリバリパイプ5の本管部5aの長さ方向における中央付近の部位AN
1に、付属部品APとして燃圧センサー6が取り付けられている。すなわち、
図3で示した例では、部位AN
1は、燃料デリバリパイプ5の波腹部AN
1になっている。また、
図5に示す例では、燃料デリバリパイプ5の本管部5aの長さ方向における先端(
図5の右側の端部)付近の部位AN
2に、付属部品APとして燃圧センサー6が取り付けられている。すなわち、
図5に示す例では、部位AN
2は、燃料デリバリパイプ5の波腹部AN
2になっている。
【0038】
エンジン1の付属部品APは、エンジン1の構造または動作に関与するもの、もしくは、エンジン1を構成するものであり、エンジン1を構成するために必要不可欠な部品または部材である。
図3、
図5に示す例では、付属部品APとして、燃圧センサー(圧力センサー)6が、燃料デリバリパイプ5に取り付けられている。燃圧センサー6は、必然的に所定の質量を有している。したがって、燃圧センサー6は、燃料デリバリパイプ5の波腹部ANに取り付けられることにより、燃料デリバリパイプ5が振動する際に、その振動系におけるダンパマスとして機能する。
【0039】
すなわち、この発明の実施形態における筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造では、上記のように燃圧センサー6の質量が波腹部ANに付加された燃料デリバリパイプ5を、マスダンパとして機能させることができる。そのため、例えば燃圧センサー6のような既存の付属部品APを利用して、容易に、かつ、効果的に、燃料デリバリパイプ5の振動を吸収または減衰させることができる。
【0040】
この発明の実施形態における筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造では、上記のような燃圧センサー6の他にも、所定の付属部品APを燃料デリバリパイプ5の波腹部ANに取り付けてもよい。例えば、
図4に示すようなワイヤーハーネス8を、燃料デリバリパイプ5の波腹部ANに取り付けて、ダンパマスとして機能させることができる。ワイヤーハーネス8は、エンジン1の電装部品(図示せず)に接続する電線または電線の束であり、エンジン1を動作させるために必備される付属部品APである。
図4では示していないが、そのようなワイヤーハーネス8の所定の結束部(図示せず)を、燃料デリバリパイプ5の波腹部ANに取り付けて固定することにより、上記の燃圧センサー6の場合と同様に、燃料デリバリパイプ5の振動系におけるダンパマスとして機能させることができる。
【0041】
また、
図6に示すようなユニオンボルト9を、燃料デリバリパイプ5の波腹部ANに取り付けてもよい。ユニオンボルト9は、
図7に示すイメージのように、燃料デリバリパイプ5と、その燃料デリバリパイプ5に高圧の燃料を供給する燃料ホース10とを連結する継手部材であり、エンジン1(特に、エンジン1エンジン1の燃料デリバリ構造)を構成するために必備される付属部品APである。例えば、所要の重量に調整したユニオンボルト9を、燃料デリバリパイプ5の波腹部ANに取り付けて固定することにより、上記の燃圧センサー6の場合と同様に、燃料デリバリパイプ5の振動系におけるダンパマスとして機能させることができる。
【0042】
この発明の実施形態における筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造の作用効果を説明するための解析結果を、
図8に示してある。この
図8に示す例は、燃料デリバリパイプ5の波腹部AN(
図5の部位AN
2)に、ダンパマスとして上記のようなユニオンボルト9(すなわち、付属部品AP)を取り付けた場合の、シリンダヘッドカバー3の面直方向における振動モードの解析結果を示している。また、
図8に示す例は、V型のエンジン1を対象にした解析結果であり、ユニオンボルト9を取り付けた右バンク側のシリンダヘッドカバー3の振動モードを実線で示し、左バンク側のシリンダヘッドカバー3の振動モードを一点鎖線で示してある。なお、比較のために、左バンク側の燃料デリバリパイプ5には、ダンパマスとしてのユニオンボルト9は取り付けていない。
【0043】
図8に示すように、左右の燃料デリバリパイプ5にそれぞれ加振力を与えると、各燃料デリバリパイプ5が取り付けられている左右のシリンダヘッドカバー3が、それぞれ振動する。左右のシリンダヘッドカバー3は、基本的には、同様の振動モードとなるが、この
図8に示す例では、ユニオンボルト9の有無で違いが現れている。すなわち、ダンパマスとしてユニオンボルト9を取り付けた右バンク側のシリンダヘッドカバー3では、約1.3kHzから約1.5kHzの間の異音発生域において、イナータンスが低下している。一方、ダンパマスとしてユニオンボルト9を取り付けていない左バンク側のシリンダヘッドカバー3では、上記の異音発生域におけるイナータンスの低下は見られない。したがって、ユニオンボルト9のような付属部品APを燃料デリバリパイプ5の波腹部ANに取り付けて、ダンパマスとして機能させることにより、振動および騒音の抑制効果を得られることが分かる。
【0044】
以上のように、この発明の実施形態における筒内噴射エンジンの燃料デリバリ構造によれば、特別な部品や部材等を用いることなく、既存の付属部品APを利用して、すなわち、コストアップを招くことなく、燃料デリバリパイプ5内の燃圧脈動に起因した異音や騒音の発生を適切に抑制することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 筒内噴射エンジン(センター噴射方式の直噴エンジン)
2 シリンダヘッド
3 シリンダヘッドカバー
3a (シリンダヘッドカバーに形成された)インジェクタ配置孔
3b (シリンダヘッドカバーに形成された)締結ボルト用ボス
3c (シリンダヘッドカバーに形成された)点火プラグ配置孔
3d (シリンダヘッドカバーに形成された)ボルト穴
4 インジェクター
4a (インジェクターの)本体部(ノズルホルダー)
4b (インジェクターの)上端部
4c (インジェクターの)噴射ノズル部
4d (インジェクターの)ノズルホルダクランプ
5 燃料デリバリパイプ
5a (燃料デリバリパイプの)本管部
5b (燃料デリバリパイプの)インジェクタ取り付け部
5c (燃料デリバリパイプの)締結ボルト用ボス
5d (燃料デリバリパイプの)ボルト穴(貫通穴)
6 燃圧センサー(圧力センサー:付属部品)
7 締結ボルト
8 ワイヤーハーネス(電線:付属部品)
9 ユニオンボルト(継手部材:付属部品)
10 燃料ホース
AP 付属部品
AN,AN1,AN2 波腹部(付属部品が取り付けられる部位)