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特開2024-177746圧力容器及びガスバリア層の形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177746
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】圧力容器及びガスバリア層の形成方法
(51)【国際特許分類】
   F16J 12/00 20060101AFI20241217BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20241217BHJP
   B05D 7/22 20060101ALI20241217BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20241217BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20241217BHJP
   F17C 1/06 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
F16J12/00 B
B05D7/00 K
B05D7/22 Q
B05D5/00 Z
B05D3/02 Z
F17C1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096063
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】308039414
【氏名又は名称】株式会社FTS
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大脇 優介
(72)【発明者】
【氏名】白井 浩史
【テーマコード(参考)】
3E172
3J046
4D075
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172AB20
3E172BA01
3E172BB03
3E172BB12
3E172BB17
3E172BC04
3E172CA20
3E172DA36
3E172DA38
3E172DA90
3J046AA06
3J046AA14
3J046BA02
3J046BD08
3J046CA04
3J046DA05
3J046EA01
4D075AA09
4D075AA17
4D075AA68
4D075BB29Z
4D075CA13
4D075CA42
4D075CA47
4D075CA48
4D075DC41
4D075EA02
4D075EA17
4D075EA19
(57)【要約】
【課題】ガスバリア層の厚さを薄くできるようにする。
【解決手段】圧力容器Aは、内部に高圧の流体が貯留される容器本体30と、容器本体30の外面を包囲する補強層35と、容器本体30の内面を覆うガスバリア層32と、を備え、ガスバリア層32は、容器本体30の内面に塗着されたガスバリア性を有する塗膜14からなる。ガスバリア層32は、成形済みの容器本体30に塗着された塗膜14からなるので、ガスバリア層32には機械的な強度が不要である。ガスバリア層32の厚さは、ガスバリア機能を発揮するために必要な厚さで済む。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に高圧の流体が貯留される容器本体と、
前記容器本体の外面を包囲する補強層と、
前記容器本体の内面を覆うガスバリア層と、を備え、
前記ガスバリア層は、前記容器本体の内面に塗着されたガスバリア性を有する塗膜からなる。
【請求項2】
圧力容器を構成する容器本体の内面に、ガスバリア層を形成する方法であって、
前記容器本体を構成するベース部材の内面に、ガスバリア性を有する合成樹脂からなる塗料を塗布し、
前記ベース部材に塗布した前記塗料を、加熱して溶融状態にした後に、冷却して固化させることによって前記ガスバリア層を形成するガスバリア層の形成方法。
【請求項3】
前記塗料として、粉体塗料を用い、
ノズルと前記ベース部材との間に電圧差を生じさせ、
前記ノズルから吐出した前記粉体塗料を、静電引力によって前記ベース部材に塗着させる請求項2に記載のガスバリア層の形成方法。
【請求項4】
前記ベース部材が、両端が開口した筒状ベース部材と、前記筒状ベース部材の開口を閉塞するドーム状ベース部材とを含み、
前記ガスバリア層が、前記筒状ベース部材の内周面に形成される筒状バリア層と、前記ドーム状ベース部材の内面に形成されるドーム状バリア層とを含み、
成形済みの前記筒状ベース部材の内周面に、ガスバリア性を有する合成樹脂からなる塗料を塗布し、
前記筒状ベース部材に塗布した前記塗料を、加熱して溶融状態にした後に、冷却して固化させることによって前記筒状バリア層を形成する請求項2又は請求項3に記載のガスバリア層の形成方法。
【請求項5】
前記塗料を溶融して塗膜を形成する工程と、溶融状態の前記塗膜を冷却する工程において、前記筒状ベース部材を、軸線が水平となる向きにして回転させる請求項4に記載のガスバリア層の形成方法。
【請求項6】
前記筒状ベース部材に塗布した前記塗料を、前記筒状ベース部材の中空内に収容したヒーターによって加熱する請求項4に記載のガスバリア層の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力容器及びガスバリア層の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高圧の気体を貯留する圧力容器には、気体の圧力に耐え得る耐圧強度と、貯留する気体の漏出を抑制するためのガスバリア性が要求される。特許文献1に開示される圧力容器は、ガスバリア性を有するライナと、その外側を覆う補強手段としての外殻とを備えている。ライナは、高密度ポリエチレン等の合成樹脂で構成されている。外殻は、炭素繊維及びガラス繊維を含む繊維束で構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-21099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の圧力容器は、ライナの外周面にフィラメントワインディングによって繊維束を巻き付けて外殻を形成する。そのため、ライナの剛性の確保のために、バリア性の確保に必要な厚み以上の厚みでライナを形成していた。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、ガスバリア層の厚さを薄くできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の開示は、
内部に高圧の流体が貯留される容器本体と、
前記容器本体の外面を包囲する補強層と、
前記容器本体の内面を覆うガスバリア層と、を備え、
前記ガスバリア層は、前記容器本体の内面に塗着されたガスバリア性を有する塗膜からなる。
【0007】
第2の開示は、
圧力容器を構成する容器本体の内面に、ガスバリア層を形成する方法であって、
前記容器本体を構成するベース部材の内面に、ガスバリア性を有する合成樹脂からなる塗料を塗布し、
前記ベース部材に塗布した前記塗料を、加熱して溶融状態にした後に、冷却して固化させることによってガスバリア層を形成する。
【発明の効果】
【0008】
上記開示によれば、ガスバリア層の厚さは、ガスバリア機能を発揮するために必要な厚さで済む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1の圧力容器の正面図
図2】圧力容器の断面図
図3】筒状部材とドーム状部材との接続構造をあらわす部分拡大断面図
図4】ドーム状部材を構成する筒状ベース部材の製造工程において、マンドレルに繊維強化樹脂材を巻き付けている様子をあらわす斜視図
図5】筒状ベース部材の製造工程のうち加熱工程と冷却工程をあらわす斜視図
図6】筒状ベース部材の製造工程のうち、成形済みの筒状ベース部材をマンドレルから抜き取る様子をあらわす斜視図
図7】筒状ベース部材の内周面に粉体塗料を塗布している様子をあらわす斜視図
図8】筒状ベース部材に塗布した粉体塗料を加熱する工程及び冷却する工程をあらわす断面図
図9】実施例2において、筒状ベース部材に塗布した粉体塗料を加熱する工程及び冷却する工程をあらわす断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。下記の複数の実施形態を、矛盾を生じない範囲で任意に組み合わせたものも、発明を実施するための形態に含まれる。
【0011】
(1)第1の開示の圧力容器は、内部に高圧の流体が貯留される容器本体と、前記容器本体の外面を包囲する補強層と、前記容器本体の内面を覆うガスバリア層と、を備えている。前記ガスバリア層は、前記容器本体の内面に塗着されたガスバリア性を有する塗膜からなる。この構成によれば、ガスバリア層は、成形済みの容器本体に塗着された塗膜からなるので、ガスバリア層には機械的な強度が不要である。よって、ガスバリア層の厚さは、ガスバリア機能を発揮するために必要な厚さで済む。
【0012】
(2)第2の開示は、圧力容器を構成する容器本体の内面に、ガスバリア層を形成する方法であって、前記容器本体を構成するベース部材の内面に、ガスバリア性を有する合成樹脂からなる塗料を塗布し、前記ベース部材に塗布した前記塗料を、加熱して溶融状態にした後に、冷却して固化させることによってガスバリア層を形成する。この形成方法によれば、ガスバリア層は、成形済みのベース部材にガスバリア性を有する塗料を塗布することによって形成されるので、ガスバリア層には機械的な強度が不要である。よって、ガスバリア層の厚さは、ガスバリア機能を発揮するために必要な厚さで済む。塗料は、溶融状態にすることによってベース部材に焼き付けられるので、ベース部材に対するガスバリア層の固着強度が高い。
【0013】
(3)(2)において、前記塗料として、粉体塗料を用い、ノズルと前記ベース部材との間に電圧差を生じさせ、前記ノズルから吐出した前記粉体塗料を、静電引力によって前記ベース部材に塗着させることが好ましい。この方法によれば、静電引力によって、粉体塗料をベース部材の内周面全体に亘って均一に塗着させることができるので、ガスバリア層の厚さを均一化することができる。
【0014】
(4)(2)又は(3)において、前記ベース部材が、両端が開口した筒状ベース部材と、前記筒状ベース部材の開口を閉塞するドーム状ベース部材とを含み、前記ガスバリア層が、前記筒状ベース部材の内周面に形成される筒状バリア層と、前記ドーム状ベース部材の内面に形成されるドーム状バリア層とを含み、成形済みの前記筒状ベース部材の内周面に、ガスバリア性を有する合成樹脂からなる塗料を塗布し、前記筒状ベース部材に塗布した前記塗料を、加熱して溶融状態にした後に、冷却して固化させることによって前記筒状バリア層を形成することが好ましい。この方法によれば、ベース部材を、筒状ベース部材とドーム状ベース部材とからなる分割構造にしたことによって、塗料を塗布する工程が容易となる。
【0015】
(5)(4)において、前記塗料を溶融して塗膜を形成する工程と、溶融状態の前記塗膜を冷却する工程において、前記筒状ベース部材を、軸線が水平となる向きにして回転させることが好ましい。この方法によれば、固化する前の塗膜が重力によって垂れ下がっても、ガスバリア層の厚さを均一化することができる。
【0016】
(6)(4)~(5)において、前記筒状ベース部材に塗布した前記塗料を、前記筒状ベース部材の中空内に収容したヒーターによって加熱することが好ましい。この方法によれば、筒状ベース部材への熱の伝達が抑制されるので、筒状ベース部材が過熱されることに起因する不具合を抑制することができる。
【0017】
<実施例1>
以下、本発明を具体化した実施例1を図1図8を参照して説明する。本実施例1の圧力容器Aは、水素、アンモニア等の高圧の流体(液化ガスや気化ガス)を貯留するカプセル状の容器である。圧力容器Aは、構造的には、円筒形をなす1つの筒状部材10と、概ね半球状をなす一対のドーム状部材20と、補強層35とを備えて構成されている。ドーム状部材20は、筒状部材10に対して両端の開口を塞ぐように組み付けられる。補強層35は、組み付けた状態の筒状部材10とドーム状部材20を、包囲して補強する。
【0018】
図2に示すように、筒状部材10は、円筒形の筒状ベース部材11と、筒状バリア層13とから構成されている。筒状ベース部材11は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)等の繊維強化樹脂材12(図4参照)からなる。図3に拡大して示すように、筒状バリア層13は、筒状ベース部材11の内周面の全体と、筒状ベース部材11の両端の開口部における外周縁部とに積層するように形成されている。筒状バリア層13は、ガスバリア性を有する合成樹脂製の塗膜14からなる。ガスバリア性を有する合成樹脂としては、エチレンビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)やポリアミド(PA)等が用いられる。
【0019】
図2に示すように、ドーム状部材20は、概ね半球状をなすドーム状ベース部材21と、ドーム状バリア層22とから構成されている。ドーム状ベース部材21は、筒状ベース部材11と同様、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)等の繊維強化樹脂材12からなる。ドーム状バリア層22は、ドーム状ベース部材21の内周面の全体に積層するように形成されている。ドーム状バリア層22は、筒状バリア層13と同様、ガスバリア性を有する樹脂製の塗膜14からなる。
【0020】
筒状部材10とドーム状部材20を組み付けた状態では、筒状ベース部材11とドーム状ベース部材21とによって、カプセル状の容器本体30(図2,3参照)が構成されている。容器本体30は、高圧の流体を貯留する貯留空間31を構成する部材である。筒状部材10とドーム状部材20を組み付けた状態では、筒状バリア層13とドーム状バリア層22が、容器本体30の内面全体を覆うガスバリア層32を構成する。ガスバリア層32は、圧力容器A内に貯留されている気化ガスが、容器本体30(筒状ベース部材11とドーム状ベース部材21)を透過して圧力容器Aの外部へ漏出することを抑制するガスバリア機能を発揮する。
【0021】
補強層35は、容器本体30(筒状ベース部材11とドーム状ベース部材21)の外面を覆うように形成されている。補強層35は、筒状ベース部材11及びドーム状ベース部材21と同様、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)等の繊維強化樹脂材12からなる。補強層35は、筒状部材10とドーム状部材20を合体した状態に保持する保持機能と、容器本体30の強度と剛性を高める補強機能とを兼ね備えている。
【0022】
圧力容器Aの製造は、筒状部材10とドーム状部材20を別々に製造し、筒状部材10とドーム状部材20を合体させ、補強層35を形成する、という手順で行われる。筒状部材10の製造は、筒状ベース部材11を製造し、製造した筒状ベース部材11に筒状バリア層13を形成する、という手順で行われる。
【0023】
筒状ベース部材11の製造に際しては、まず、図4に示すように、円柱形のマンドレル40の外周面に、細長い繊維強化樹脂材12をフィラメントワインディング法によってフープ巻きする。繊維強化樹脂材12は、炭素繊維、ガラス繊維、ケプラ繊維等からなる糸状の繊維を束ねた繊維束(図示省略)に、液状の熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂)を含浸させたもの、または繊維束に含浸した熱硬化性樹脂を半硬化状態にしたもの(プリプレグ繊維)である。次に、繊維強化樹脂材12を、マンドレル40に巻き付けままで、例えば150℃~160℃に加熱して溶融状態とし、その後、冷却して固化する(図5参照)。繊維強化樹脂材12が固化した後、図6に示すように、固化した繊維強化樹脂材12(筒状ベース部材11)をマンドレル40から抜き取る。以上により、筒状ベース部材11が製造される。
【0024】
次に、筒状ベース部材11に筒状バリア層13を形成する。筒状バリア層13の形成は、静電粉体塗装法によって行う。具体的には、図7に示すように、高電圧発生器41に接続した塗装ガン42を用い、塗装ガン42のノズル43を筒状ベース部材11の内部に向くようセットする。筒状ベース部材11は、アース部材44に接続しておく。塗装ガン42のノズル43から、ガスバリア性を有する合成樹脂からなる粉体塗料45を吐出し、静電引力によって粉体塗料45を、筒状ベース部材11の内周面の全体と、筒状ベース部材11の両端の開口部の外周縁部とに塗布する。粉体塗料45を塗布する際には、予め、筒状ベース部材11の外周面のうち両端部を除いた領域にマスキングを施しておく。粉体塗料45として、エチレンビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)やポリアミド(PA)等が用いられる。
【0025】
粉体塗料45を塗布した後、図8に示すように、筒状ベース部材11を加熱装置46内にセットする。加熱装置46の内壁面にはヒーター48が配置されている。加熱装置46内には、軸線を水平方向に向けた一対のローラ47が、軸線と交差する水平方向に並ぶように配置されている。筒状ベース部材11は、この両ローラ47上に載置される。ローラ47は、モータ(図示省略)によって回転駆動されているので、筒状ベース部材11は、ローラ47からの回転力を受けて回転する。
【0026】
筒状ベース部材11は、回転した状態で、例えば150℃~160℃に加熱される。筒状ベース部材11の塗布した粉体塗料45は、加熱によって溶融し、重力によって垂れていくが、筒状ベース部材11が回転しているので、溶融状態の粉体塗料45が一か所に集まることはない。溶融した粉体塗料45は、筒状ベース部材11の内周面に対して均一に溶着され、厚さが全周に亘って均一な塗膜14を形成する。所定の加熱時間が経過した後は、加熱処理を終了し、筒状ベース部材11と塗膜14を冷却する。冷却する工程の間も、筒状ベース部材11を回転させ続ける。塗膜14が固化すると、筒状ベース部材11と一体化された筒状バリア層13が形成される。以上により、筒状部材10の製造工程が完了する。
【0027】
ドーム状部材20の製造は、ドーム状ベース部材21を製造し、製造したドーム状ベース部材21にドーム状バリア層22を形成する、という手順で行われる。ドーム状ベース部材21の製造に際しては、略半球状の治具(図示省略)の外周面に繊維強化樹脂材12を貼り付け、貼り付けた繊維強化樹脂材12を加熱して溶融状態とする。その後、繊維強化樹脂材12を冷却して固化させる。固化した繊維強化樹脂材12を治具から外したものが、ドーム状ベース部材21である。
【0028】
次に、ドーム状ベース部材21にドーム状バリア層22を形成する。ドーム状バリア層22の形成は、筒状バリア層13と同様、静電粉体塗装法によって行う。ドーム状ベース部材21の内面に粉体塗料45を塗布し、ドーム状ベース部材21の向きを三次元的に変えながら、塗膜14とドーム状ベース部材21を加熱する。溶融した塗膜14は、特定の位置に集まることなく、均一な膜厚でドーム状ベース部材21に一体化される。ドーム状ベース部材21の向きを三次元的に変えながら、ドーム状ベース部材21と塗膜14を冷却することによって、均一な膜厚のドーム状バリア層22が形成される。以上により、ドーム状部材20の製造が完了する。
【0029】
製造された筒状部材10と一対のドーム状部材20を合体させる。合体させるときには、図3に示すように、筒状部材10の両端の開口部に、ドーム状部材20の開口縁部を外嵌し、筒状バリア層13とドーム状バリア層22とを密着させる。これにより、筒状ベース部材11とドーム状ベース部材21とによって容器本体30と貯留空間31が構成されるとともに、筒状バリア層13とドーム状バリア層22とによって、容器本体30の内面にガスバリア層32が形成される。
【0030】
次に、容器本体30の外面に、補強層35を形成する。補強層35の形成は、筒状ベース部材11と同様、フィラメントワインディング法によって行う。即ち、細長い繊維強化樹脂材12を容器本体30の外面にフープ巻きする。繊維強化樹脂材12は、筒状ベース部材11及びドーム状ベース部材21の成形に用いたものと同じ材料である。容器本体30を構成する筒状ベース部材11とドーム状ベース部材21は、フィラメントワインディング法に耐え得る強度と剛性を有するので、容器本体30の外面に繊維強化樹脂材12を巻き付ける際に、容器本体30が変形する等の支障を来すことはない。容器本体30に巻き付けた繊維強化樹脂材12を、加熱することによって容器本体30の外面に密着させる。以上により、補強層35の成形と、圧力容器Aの製造が完了する。
【0031】
本実施例1の圧力容器Aは、カプセル状の容器本体30と、補強層35と、ガスバリア層32とを有する。容器本体30は、筒状ベース部材11の両端の開口にドーム状ベース部材21を組み付けて構成されている。容器本体30の内部(貯留空間31)には高圧の流体が貯留される。補強層35は、容器本体30の外面を包囲する。ガスバリア層32は、容器本体30の内面を覆うように形成されており、容器本体30の内面に塗着されたガスバリア性を有する塗膜14からなる。ガスバリア層32は、成形済みの容器本体30に塗着された塗膜14からなるので、ガスバリア層32には機械的な強度が不要である。ガスバリア層32の厚さは、ガスバリア機能を発揮するために必要な厚さで済む。
【0032】
本実施例1では、圧力容器Aを構成する容器本体30の内面に、ガスバリア層32を形成する方法を開示する。ガスバリア層32の形成は、塗布工程と加熱工程と冷却工程とを経て行われる。塗布工程では、容器本体30を構成する筒状ベース部材11とドーム状ベース部材21の内面に、ガスバリア性を有する合成樹脂からなる粉体塗料45を塗布する。過熱工程では、筒状ベース部材11とドーム状ベース部材21に塗布した粉体塗料45を、加熱して溶融状態にする。冷却工程では、溶融状態にした粉体塗料45を、冷却して固化させる。以上の工程によって、ガスバリア層32が形成される。
【0033】
この形成方法では、ガスバリア層32は、成形済みのベース部材にガスバリア性を有する塗料を塗布することによって形成されるので、ガスバリア層32には機械的な強度が不要である。よって、ガスバリア層32の厚さは、ガスバリア機能を発揮するために必要な厚さで済む。塗料は、溶融状態にすることによってベース部材に焼き付けられるので、ベース部材に対するガスバリア層32の固着強度が高い。
【0034】
ガスバリア層32の形成は、静電粉体塗装によって行われる。具体的には、ノズル43とベース部材11,21との間に電圧差を生じさせ、ノズル43から吐出した粉体塗料45を、静電引力によって筒状ベース部材11とドーム状ベース部材21に塗着させる。この方法によれば、静電引力によって、粉体塗料45をベース部材11,21の内周面全体に亘って均一に塗着させることができるので、ガスバリア層32の厚さを均一化することができる。
【0035】
上記のように、容器本体30を構成するベース部材には、両端が開口した筒状ベース部材11と、筒状ベース部材11の開口を閉塞するドーム状ベース部材21とが含まれる。ガスバリア層32は、筒状ベース部材11の内周面に形成される筒状バリア層13と、ドーム状ベース部材21の内面に形成されるドーム状バリア層22とを含む。筒状バリア層13の形成は、成形済みの筒状ベース部材11の内周面にガスバリア性を有する合成樹脂からなる塗料を塗布する工程と、筒状ベース部材11に塗布した粉体塗料45を、加熱して溶融状態にする工程と、溶融状態にした粉体塗料45(塗膜14)を、冷却して固化させる工程とを経て行われる。
【0036】
ドーム状バリア層22の形成は、成形済みのドーム状ベース部材21の内周面にガスバリア性を有する合成樹脂からなる粉体塗料45を塗布する工程と、ドーム状ベース部材21に塗布した粉体塗料45を、加熱して溶融状態にする工程と、溶融状態にした粉体塗料45(塗膜14)を、冷却して固化させる工程とを経て行われる。この方法によれば、ベース部材を、筒状ベース部材11とドーム状ベース部材21とからなる分割構造にしたので、粉体塗料45を筒状ベース部材11とドーム状ベース部材21に塗布する作業が容易となる。
【0037】
粉体塗料45を溶融して塗膜14を形成する工程と、溶融状態の塗膜14を冷却する工程において、筒状ベース部材11を、軸線が水平となる向きにして回転させる。この方法によれば、固化する前の塗膜14が重力によって垂れ下がっても、ガスバリア層32(塗膜14)の厚さを均一化することができる。
【0038】
<実施例2>
次に、本発明を具体化した実施例2を図9を参照して説明する。本実施例2は、筒状バリア層13の形成工程の一部を、上記実施例1とは異なる工程としたものである。その他の構成については上記実施例1と同じであるため、同じ構成については、同一符号を付し、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0039】
筒状バリア層13の形成工程のうち、成形済みの筒状ベース部材11の内周面に、静電塗装によって粉体塗料45を塗布するまでの工程は、実施例1と同じである。本実施例2では、筒状ベース部材11に塗布した粉体塗料45を加熱して溶融する手段としては、筒状ベース部材11の中空内に、棒状のヒーター49を筒状ベース部材11と同心状に配置している。筒状ベース部材11は、実施例1と同様、一対のローラ47に載せて回転させておく。ヒーター49からの輻射熱は、筒状ベース部材11の内周面の塗膜14には伝達されるが、筒状ベース部材11に対しては直接的には伝わらない。
【0040】
本実施例2では、筒状ベース部材11に塗布した粉体塗料45を、筒状ベース部材11の中空内に収容したヒーター49によって加熱するので、筒状ベース部材11への熱の伝達が抑制される。これにより、筒状ベース部材11が過熱されることに起因する不具合を抑制することができる。
【0041】
<他の実施例>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
ガスバリア層は、塗料を塗着させる方法に限らず、溶射によって形成してもよい。
静電引力を用いずに、塗料を筒状ベース部材に塗着させてもよい。
塗料は、溶剤に溶かした液体塗料であってもよい。
塗料は、熱硬化性の樹脂であってもよい。
【符号の説明】
【0042】
A…圧力容器
11…筒状ベース部材(ベース部材)
13…筒状バリア層
14…塗膜
21…ドーム状ベース部材(ベース部材)
22…ドーム状バリア層
30…容器本体
32…ガスバリア層
35…補強層
43…ノズル
45…粉体塗料
49…ヒーター
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9