(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177768
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】光沢調整剤組成物、及び熱可塑性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20241217BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20241217BHJP
C08K 5/10 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K5/098
C08K5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096099
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】森重 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】清水 湧太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉村 健司
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA011
4J002EG047
4J002EH046
4J002GC00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】熱可塑性樹脂の成形品表面に低摩擦性を付与することでその使用感を向上させつつ、当該成形品表面の光沢をバラつきなく長期安定的に抑えることができる、光沢調整剤組成物を提供する。
【解決手段】脂肪酸亜鉛塩AがエステルワックスBに溶融してなる、熱可塑性樹脂用の光沢調整剤組成物であり、前記脂肪酸亜鉛塩Aが、1分子中に不飽和結合を1つ有する炭素数18~22の不飽和脂肪酸の亜鉛塩であり、前記エステルワックスBが、炭素数14~24の直鎖飽和脂肪酸と、ペンタエリスリトール及びジペンタエリスリトールから選ばれる少なくとも1種の多価アルコールとの多官能エステル化合物であり且つ融点が60℃以上であり、脂肪酸亜鉛塩AとエステルワックスBとの質量比が1:99~30:70である、光沢調整剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸亜鉛塩AがエステルワックスBに溶融してなる、熱可塑性樹脂用の光沢調整剤組成物であり、
前記脂肪酸亜鉛塩Aが、1分子中に不飽和結合を1つ有する炭素数18~22の不飽和脂肪酸の亜鉛塩であり、
前記エステルワックスBが、炭素数14~24の直鎖飽和脂肪酸と、ペンタエリスリトール及びジペンタエリスリトールから選ばれる少なくとも1種の多価アルコールとの多官能エステル化合物であり、且つ融点が60℃以上であり、
前記脂肪酸亜鉛塩Aと前記エステルワックスBとの質量比(脂肪酸亜鉛塩A:エステルワックスB)が1:99~30:70である、光沢調整剤組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の光沢調整剤組成物と、熱可塑性樹脂とを含有し、
前記熱可塑性樹脂100質量部に対し、前記光沢調整剤組成物の含有量が0.01~10質量部である、熱可塑性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂の成形品表面を低光沢とするための光沢調整剤組成物、及び当該光沢調整剤組成物を含有する熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂組成物は、成形加工が容易なことから、電子機器、自動車、印刷、医療、家具、家電及び食品などの幅広い分野で使用されている。各用途での要求特性に合わせて熱可塑性樹脂組成物に必要な機能を付与することが一般的に行われており、例えば、成形品の表面処理、又は熱可塑性樹脂組成物への改質剤の添加等により、様々な機能を付与することができる。
【0003】
例えば、近年、自動車、電子機器、家具及び家電等の分野では、高級感を求める志向にあり、これらの分野で用いられる部品において、表面の光沢を抑えてマット調の落ち着いた風合いとする需要が高まっている。成形品表面の光沢を抑えるための方法としては、成形加工時の金型内面に微細な凹凸を設ける方法、及び、艶消し剤を成形品の表面に塗布する方法が一般的である。しかし、このような方法は、作業性の悪化、又は樹脂元来の特性が損なわれることが課題である。
【0004】
そこで、熱可塑性樹脂の成形時に添加することで、成形品表面の光沢を抑えることが可能な材料が要求されている。例えば、特許文献1には、主成分となるポリカーボネート樹脂に対して、成形品表面の光沢を抑えるために多孔質球状樹脂粒子を添加する方法が提示されている。
【0005】
また、成形品の使用感を良くするために、成形品表面の滑りを良くすることも求められている。成形品表面の滑りを良くする方法としては、例えば、成形品の表面摩擦を低減する方法が挙げられる。例えば、特許文献2には、樹脂成形品の表面摩擦を低減可能なアミド化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-30130号公報
【特許文献2】特開2016-6122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示される方法では、成形品表面の光沢にバラつきが生じる場合がある。また、特許文献1に開示される方法は、低光沢性の長期安定性について十分な検討がなされていないことから、たとえバラつきのない低光沢性が得られたとしても、経時的に成形品の表面が変化して、光沢が増したり、光沢にバラつきが生じたりする恐れがある。
また、特許文献2に開示されるアミド化合物は、光沢を抑えるための光沢調整剤と併用した場合に、互いの機能を阻害し合い、本来の効果を十分に発揮できない恐れがある。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、熱可塑性樹脂の成形品表面に低摩擦性を付与することでその使用感を向上させつつ、当該成形品表面の光沢をバラつきなく長期安定的に抑えることができる、光沢調整剤組成物を提供することである。
さらに本発明の目的は、低光沢性、光沢均一性、及びこれらの長期安定性に優れ、且つ低摩擦性に優れる成形品を作製可能な熱可塑性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、特定のエステルワックスに特定の脂肪酸亜鉛塩を少量溶融させてなる組成物が、熱可塑性樹脂の成形品表面の滑りを良好にしながら、光沢を抑えるための光沢調整剤となり、更に、当該組成物が添加された熱可塑性樹脂の成形品は、低光沢性及び光沢均一性が長期間に亘って優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の光沢調整剤組成物は、脂肪酸亜鉛塩AがエステルワックスBに溶融してなる、熱可塑性樹脂用の光沢調整剤組成物であり、
前記脂肪酸亜鉛塩Aが、1分子中に不飽和結合を1つ有する炭素数18~22の不飽和脂肪酸の亜鉛塩であり、
前記エステルワックスBが、炭素数14~24の直鎖飽和脂肪酸と、ペンタエリスリトール及びジペンタエリスリトールから選ばれる少なくとも1種の多価アルコールとの多官能エステル化合物であり、且つ融点が60℃以上であり、
前記脂肪酸亜鉛塩Aと前記エステルワックスBとの質量比(脂肪酸亜鉛塩A:エステルワックスB)が1:99~30:70であることを特徴とする。
【0011】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前記本発明の光沢調整剤組成物と、熱可塑性樹脂とを含有し、前記熱可塑性樹脂100質量部に対し、前記光沢調整剤組成物の含有量が0.01~10質量部であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光沢調整剤組成物は、熱可塑性樹脂の成形品表面に低摩擦性を付与することでその使用感を向上させつつ、当該成形品表面の光沢をバラつきなく長期安定的に抑えることができる。
また、本発明の光沢調整剤組成物と、熱可塑性樹脂とを含有する本発明の熱可塑性樹脂組成物は、低光沢性、光沢均一性、及びこれらの長期安定性に優れ、且つ低摩擦性に優れる成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、本明細書において記号「~」を用いて規定された数値範囲は「~」の両端(上限及び下限)の数値を含むものとする。例えば「2~10」は2以上10以下の範囲を表す。
【0014】
以下、本発明の光沢調整剤組成物が含有する各成分、本発明の光沢調整剤組成物、及び本発明の熱可塑性樹脂組成物について説明する。
【0015】
〔脂肪酸亜鉛塩A〕
本発明の光沢調整剤組成物が含有する脂肪酸亜鉛塩Aは、1分子中に不飽和結合を1つ有する炭素数18~22の不飽和脂肪酸の亜鉛塩である。
脂肪酸亜鉛塩Aに用いられる不飽和脂肪酸が有する不飽和結合は、炭素-炭素二重結合であることが好ましい。また、当該不飽和脂肪酸としては、直鎖不飽和脂肪酸が好ましく、また、モノカルボン酸が好ましい。
脂肪酸亜鉛塩Aに用いられる不飽和脂肪酸の炭素数は、18~22であればよいが、好ましくは18~20である。
脂肪酸亜鉛塩Aに用いられる前記不飽和脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、エライジン酸、及びエルカ酸などが挙げられる。
脂肪酸亜鉛塩Aの具体例としては、例えば、オレイン酸亜鉛、エライジン酸亜鉛、及びエルカ酸亜鉛などが挙げられる。
脂肪酸亜鉛塩Aにおいて、不飽和脂肪酸は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。すなわち、脂肪酸亜鉛塩Aは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上の脂肪酸亜鉛塩Aを組み合わせて使用する場合は、2種以上の脂肪酸亜鉛塩Aを溶融混合して使用することが好ましい。
【0016】
本発明の光沢調整剤組成物による、成形品表面の光沢をバラつきなく長期安定的に抑える効果を向上させるの観点から、脂肪酸亜鉛塩Aとしては、中でも、オレイン酸亜鉛及びエライジン酸亜鉛から選ばれる少なくとも1種が好ましく、少なくともオレイン酸亜鉛を含むことがより好ましく、オレイン酸亜鉛とエライジン酸亜鉛を組み合わせて含むことが更に好ましい。脂肪酸亜鉛塩Aとして、オレイン酸亜鉛とエライジン酸亜鉛を組み合わせて含む場合、オレイン酸亜鉛とエライジン酸亜鉛との質量比(オレイン酸亜鉛:エライジン酸亜鉛)は、99.9:0.1~90:10であることが好ましく、99.9:0.1~99:1であることがより好ましい。オレイン酸亜鉛とエライジン酸亜鉛とを質量比を99.9:0.1~99:1で併用すると、本発明の光沢調整剤組成物による、成形品表面の光沢をバラつきなく長期安定的に抑える効果がより一層向上する。
【0017】
脂肪酸亜鉛塩Aの融点MpAは、特に限定はされないが、脂肪酸亜鉛塩Aが長期安定的に機能を発揮する点と、後述するエステルワックスBへの脂肪酸亜鉛塩Aの溶融性の観点から、好ましくは70℃~100℃、より好ましくは75℃~95℃、更に好ましくは80~85℃である。
脂肪酸亜鉛塩Aの融点MpAは、脂肪酸亜鉛塩Aの示差走査熱量測定(DSC)により得られるDSC曲線が示す、昇温時の吸熱ピークのピークトップの温度とする。なお、DSCの昇温時の昇温速度は毎分2℃とする。
【0018】
脂肪酸亜鉛塩Aの製造方法としては、特に限定はされず、例えば、溶融脂肪酸と、金属酸化物または金属水酸化物とを直接反応させる直接法、及び、脂肪酸アルカリ金属塩の水溶液と無機金属塩とを反応させる複分解法等が挙げられる。
【0019】
〔エステルワックスB〕
本発明の光沢調整剤組成物が含有するエステルワックスBは、炭素数14~24の直鎖飽和脂肪酸と、ペンタエリスリトール及びジペンタエリスリトールから選ばれる少なくとも1種の多価アルコールとの多官能エステル化合物である。
炭素数14~24の直鎖飽和脂肪酸としては、例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等が挙げられる。中でも、炭素数14~22の直鎖飽和脂肪酸が好ましく、炭素数18~22の直鎖飽和脂肪酸がより好ましい。エステルワックスBにおいては、原料脂肪酸として、これらの脂肪酸を1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
エステルワックスBに用いられる原料アルコールは、ペンタエリスリトール及びジペンタエリスリトールから選ばれる少なくとも1種の多価アルコールである。エステルワックスBにおいては、原料アルコールとして、ペンタエリスリトール又はジペンタエリスリトールを1種単独で用いてもよいし、これらを併用してもよいが、結晶性の制御が容易である点から、ペンタエリスリトール又はジペンタエリスリトールを1種単独で用いることが好ましい。
また、エステルワックスBとしては、前記直鎖飽和脂肪酸と前記多価アルコールとの多官能エステル化合物を、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0020】
エステルワックスBの融点MpBは60℃以上である。これにより、本発明の光沢調整剤組成物によって、成形品表面の光沢をバラつきなく長期安定的に抑えることができ、更に、成形品表面に低摩擦性を付与して使用感を良好にすることができる。エステルワックスBの融点MpBは、好ましくは70℃以上である。エステルワックスBの融点MpBの上限は、特に限定はされないが、通常、100℃以下である。
エステルワックスBの融点MpBは、エステルワックスBの示差走査熱量測定(DSC)により得られるDSC曲線が示す、昇温時の吸熱ピークのピークトップの温度とする。なお、DSCの昇温時の昇温速度は毎分2℃とする。
【0021】
本発明の光沢調整剤組成物が、成形品表面の光沢をバラつきなく長期安定的に抑える効果、及び成形品表面に低摩擦性を付与して使用感を良好にする効果を十分に発揮する観点から、エステルワックスBの酸価は、5mgKOH/g以下であることが好ましく、より好ましくは3mgKOH/g以下、更に好ましくは1mgKOH/g以下である。
同様の観点から、エステルワックスBの水酸基価は、20mgKOH/g以下であることが好ましく、より好ましくは10mgkOH/g以下、さらに好ましくは5mgkOH/g以下である。
なお、上述の酸価は、JOCS(日本油化学会)2.3.1-1996に準拠して測定することができ、水酸基価は、JOCS(日本油化学会)2.3.6.2-1996に準拠して測定することができる。
【0022】
エステルワックスBの製造方法としては、特に限定はされないが、例えば、酸化反応による合成法、脂肪酸やその誘導体からの合成、アルコールと脂肪酸との脱水縮合反応を利用する方法、酸ハロゲン化物とアルコールとの反応を利用する方法、エステル交換反応を利用する方法等が挙げられる。反応の際には、触媒を使用してもよい。触媒としては、エステル化反応に用いる一般の酸性又はアルカリ性触媒、例えば酢酸亜鉛、チタン化合物等が挙げられる。エステルワックスBは、例えば、上述したアルコール又はその誘導体と、上述した脂肪酸又はその誘導体とを原料としたエステル化反応により得られ、典型的には、上述したアルコールと脂肪酸との脱水縮合反応により得られる。
エステルワックスBを得る場合には、原料アルコールの水酸基(-OH)と原料脂肪酸のカルボキシ基(-COOH)とのモル比が1:1となるように、又は、水酸基量よりもカルボキシ基量の方が若干過剰になるように、原料アルコールと原料脂肪酸とを反応させることが好ましい。これにより、酸価及び水酸基価が上述した好ましい範囲内の多官能エステルを容易に得ることができる。
なお、エステル化反応の後に、アルカリ性水溶液による脱酸工程が適宜行われてもよく、さらに、再結晶法、蒸留法、溶剤抽出法などにより高純度化させてもよい。
【0023】
〔光沢調整剤組成物C〕
本発明の光沢調整剤組成物Cは、脂肪酸亜鉛塩AがエステルワックスBに溶融してなる組成物である。本発明の光沢調整剤組成物Cは、脂肪酸亜鉛塩AをエステルワックスBに溶融混合することで得られる。溶融混合の方法としては、脂肪酸亜鉛塩A及びエステルワックスBを、それぞれの融点以上で完全に溶融させて、混合することが好ましい。脂肪酸亜鉛塩AをエステルワックスBに溶融させることで、本発明の光沢調整剤組成物Cを熱可塑性樹脂に含有させた熱可塑性樹脂組成物において、本発明の光沢調整剤組成物Cは、バラつきのない組成物として熱可塑性樹脂組成物の成形品表面にブリードすることができる。そのため、本発明の光沢調整剤組成物Cは、熱可塑性樹脂の成形品表面の光沢をバラつきなく抑える効果を発揮することができる。
また、熱可塑性樹脂の成形品においては、使用感を良くするために表面の滑りを良くすることが求められる。本発明の光沢調整剤組成物Cが、熱可塑性樹脂組成物の成形品表面にブリードすることによって、成形品表面に低摩擦性が付与されるため、表面の滑りが良好になり、使用感も良好になる。
【0024】
本発明の光沢調整剤組成物Cに含まれる脂肪酸亜鉛塩AとエステルワックスBの質量比(脂肪酸亜鉛塩A:エステルワックスB)は1:99~30:70であり、好ましくは1:99~20:80である。本発明の光沢調整剤組成物Cによれば、エステルワックスBが、成形品表面の光沢を抑え且つ低摩擦性を付与し、更に脂肪酸亜鉛塩Aを適度に含むことにより、光沢をバラつきなく長期安定的に抑える効果がより向上する。これは、エステルワックスBの結晶性が脂肪酸亜鉛塩Aによって適度に低下し、成形品表面でのエステルワックスBの過度な結晶形成を抑制するためと考えられる。一方、脂肪酸亜鉛塩Aの割合が特定量以下であることにより、本発明の光沢調整剤組成物Cによる効果は長期安定性に優れる。これは、脂肪酸亜鉛塩Aが過剰量でないことで光沢調整剤組成物Cの結晶状態の経時変化が抑制されるためと考えられる。
本発明の光沢調整剤組成物Cにおいて、脂肪酸亜鉛塩AとエステルワックスBの質量比は、より好ましくは3:97~15:85の範囲であり、更に好ましくは4:96~10:90の範囲である。この場合、光沢調整剤組成物Cによる、成形品表面の光沢をバラつきなく長期安定的に抑える効果、並びに低摩擦性を付与して使用感を向上させる効果がより向上する。
【0025】
本発明の光沢調整剤組成物Cは、1種以上の脂肪酸亜鉛塩Aと、1種以上のエステルワックスBとを溶融混合することで調製することができる。光沢調整剤組成物Cには、脂肪酸亜鉛塩A又はエステルワックスBに含まれていた不純物等のその他の成分が含まれていてもよいが、本発明の光沢調整剤組成物Cに含まれる全固形分100質量%に対し、脂肪酸亜鉛塩AとエステルワックスBの合計含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上である。不純物の含有量が少ないほど、本発明の光沢調整剤組成物Cによる、成形品表面の光沢をバラつきなく長期安定的に抑える効果、並びに低摩擦性を付与して使用感を向上させる効果がより一層優れたものとなる。
【0026】
本発明の光沢調整剤組成物Cの示差走査熱量測定(DSC)により得られるDSC曲線は、200℃から30℃までの降温時に単一の極大点PCを示すことが好ましい。
光沢調整剤組成物CのDSC曲線において、降温時の極大点PCは、光沢調整剤組成物Cの結晶化の際の発熱に由来する。すなわち、当該極大点PCは、光沢調整剤組成物Cの結晶化による発熱ピークのピークトップである。そのため、DSC曲線が降温時に示す極大点PCが1点のみであると、光沢調整剤組成物Cは結晶化の均一性に優れる。光沢調整剤組成物Cの結晶化にバラつきが少ないほど、成形品表面にブリードする光沢調整剤組成物Cの組成の均一性が向上するため、光沢調整剤組成物Cによる、成形品表面の艶消し、光沢均一性、又はこれらの長期安定性がより一層向上する。
【0027】
DSC曲線の降温時における極大点PCの個数は、溶融混合品を得る場合の均一混合の指標であり、光沢調整剤組成物CのDSC曲線が、降温時に単一の極大点PCを示すようにするためには、脂肪酸亜鉛塩A及びエステルワックスBを適切に選択し、更に、脂肪酸亜鉛塩A及びエステルワックスBの含有割合を適宜調整することが有効である。例えば、光沢調整剤組成物Cに用いるエステルワックスBを、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸及びベヘン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の直鎖飽和脂肪酸と、ペンタエリスリトール又はジペンタエリスリトールのいずれか一方との多官能エステル化合物とし、これと組み合わせて用いる脂肪酸亜鉛塩Aを、オレイン酸亜鉛及びエライジン酸亜鉛から選ばれる少なくとも1種とすることが好ましい。脂肪酸亜鉛塩AとエステルワックスBとの質量比(脂肪酸亜鉛塩A:エステルワックスB)は、例えば、1:99~20:80の範囲内で調整することが好ましい。
光沢調整剤組成物CのDSC曲線が、降温時に単一の極大点PCを示すようにするためには、特に、エステルワックスBの原料アルコールとして、ペンタエリスリトール又はジペンタエリスリトールのいずれか一方のみを用いることが有効である。
【0028】
本発明の光沢調整剤組成物CのDSC曲線における降温時の極大点Pcは、示差走査熱量計(例えば、株式会社日立ハイテクサイエンス製、DSC7000X)を用いて、次に示す操作を行うことで確認することができる。まず、測定サンプル(光沢調整剤組成物C)をアルミニウム製のサンプルパンに10mg秤量する。毎分60mlの流速で窒素が吹き込まれる測定フォルダ内で、秤量した測定サンプルを昇温速度毎分2℃で200℃まで昇温した後、200℃で1分間保持することで、測定サンプル間の熱履歴を均一とする。その後、測定サンプルを200℃から30℃まで、降温速度毎分2℃で冷却することにより、測定サンプルの冷却時のDSC曲線を得る。当該冷却の際に、発熱ピークが確認される。このDSC曲線における発熱ピークにおいて、DDSC(DSCの微分値)曲線の変極点、すなわちDDSC値が0となる点を、上述した極大点PCとする。なお、測定結果の分析は、例えば装置付属の標準解析ソフトを用いて実施することができる。示差走査熱量計として株式会社日立ハイテクサイエンス製のDSC7000を用いる場合は、DSC7000付属の解析ソフトを使用することができる。
本発明の光沢調整剤組成物Cにおいては、上述した通り、極大点PCが1点のみであることが好ましく、すなわち、DSC曲線が降温時に示す発熱ピークが1つであり、且つ当該発熱ピークにおけるDDSC曲線の変極点が0となる点が1点のみであることが好ましい。
【0029】
本発明の光沢調整剤組成物Cの示差走査熱量測定により得られるDSC曲線において、上述した降温時の極大点PCをピークトップとするピークの半値幅ΔTPCは、3℃~11℃の範囲であることが好ましく、4℃~8℃の範囲であることがより好ましい。これにより、本発明の光沢調整剤組成物Cによる、熱可塑性樹脂の成形品表面の光沢のバラつきがより抑制される。
【0030】
また、本発明の光沢調整剤組成物Cの動摩擦係数μCは、0.4以下であることが好ましく、より好ましくは0.3以下である。これにより、本発明の光沢調整剤組成物Cによる、熱可塑性樹脂の成形品表面の低摩擦性が向上する結果、成形品の使用感がより向上する。
上述の動摩擦係数μCの測定方法は以下のとおりである。光沢調整剤組成物Cを溶融成形して直径5cm×厚さ1cmの板状とした測定サンプルについて、バウデン試験機にて、接触子(半円柱状、ステンレス製、直径1cm)を用い、荷重:100g、速度:2.5mm/s、測定距離:10mm、試験回数:10回の条件で、動摩擦係数を測定し、10回の測定値の平均値を光沢調整剤組成物Cの動摩擦係数μCとする。
【0031】
〔熱可塑性樹脂組成物〕
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上述の本発明の光沢調整剤組成物Cと、熱可塑性樹脂Dとを含有し、熱可塑性樹脂D100質量部に対し、本発明の光沢調整剤組成物Cの含有量が0.01~10質量部の範囲である。本発明の光沢調整剤組成物Cの含有量が上記の範囲内である本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形品は、表面の低光沢性、光沢均一性、及びこれらの長期安定性に優れ、更に、表面の滑りが良く使用感が良好である。光沢調整剤組成物Cの含有量は、好ましくは、0.1~5質量部の範囲である。
【0032】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂Dとして非晶性の熱可塑性樹脂を含むことで、成形品表面の低光沢性、光沢均一性、及びこれらの長期安定性がより一層向上し、成形品表面の滑りもより一層向上する。非晶性の熱可塑性樹脂として、例えば、ポリスチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリルニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、スチレン-アクリル酸エステル共重体合樹脂等が挙げられる。
【0033】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の目的を害しない範囲内で、必要に応じ、物性を調整するために一般的に添加される各種添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤としては、例えば、可塑剤、架橋剤、軟化剤、粘着付与剤、帯電防止剤、充填剤、老化防止剤、シランカップリング剤、亜鉛華(酸化亜鉛)、加硫促進剤、加硫剤、作業改良剤、溶媒等が挙げられる。
【0034】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上述した本発明の光沢調整剤組成物、熱可塑性樹脂、及び必要に応じて添加される添加剤等を、公知の方法により混錬することによって製造することができる。
【実施例0035】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の実施形態を具体的に説明する。
脂肪酸亜鉛塩A、エステルワックスB、及び光沢調整剤組成物Cについての測定は、以下の方法により行った。
(1)融点:測定サンプルをアルミニウム製のサンプルパンに10mg秤量し、示差走査熱量計(株式会社日立ハイテクサイエンス製、DSC7000X)を用いて、毎分60mlの流速で窒素が吹き込まれる測定フォルダ内で、秤量した測定サンプルを昇温速度毎分2℃で30℃から200℃まで昇温した後、200℃で1分間保持し、次いで、200℃から30℃まで、降温速度毎分2℃で冷却することにより、測定サンプル間の熱履歴を均一とした。その後、熱測定サンプルを昇温速度毎分2℃で30℃から200℃まで昇温した際のDSC曲線を得た。得られたDSC曲線の昇温時の吸熱ピークのピークトップの温度を融点とした。
(2)酸価:JOCS(日本油化学会)2.3.1-1996に準拠して測定した。
(3)水酸基価:JOCS(日本油化学会)2.3.6.2-1996に準拠して測定した。
(4)極大点PCの個数:測定サンプルをアルミニウム製のサンプルパンに10mg秤量し、示差走査熱量計(株式会社日立ハイテクサイエンス製、DSC7000X)を用いて、毎分60mlの流速で窒素が吹き込まれる測定フォルダ内で、秤量した測定サンプルを昇温速度毎分2℃で200℃まで昇温した後、200℃で1分間保持することで、測定サンプル間の熱履歴を均一とした。その後、測定サンプルを200℃から30℃まで、降温速度毎分2℃で冷却することにより、測定サンプルの冷却時のDSC曲線を得た。得られたDSC曲線の降温時の発熱ピークにおいて、DDSC曲線の変極点が0となる点の個数を特定し、極大点PCの個数とした。
(5)半値幅ΔTPC:上記「(4)極大点PCの個数」の測定結果が1個の場合において、極大点PCをピークトップとするピークの半値幅をΔTPCとした。
(6)動摩擦係数:直径5cm×厚さ1cmの板状の測定サンプルについて、バウデン試験機にて、接触子(半円柱状、ステンレス製、直径1cm)を用い、荷重:100g、速度:2.5mm/s、測定距離:10mm、試験回数:10回の条件で、動摩擦係数を測定し、10回の測定値の平均値を当該測定サンプルの動摩擦係数とした。
【0036】
〔脂肪酸亜鉛塩Aの合成又は準備〕
脂肪酸亜鉛塩A-1~A-3を、下記のとおりにして合成又は準備した。
なお、オレイン酸とは炭素数18の1価の不飽和脂肪酸のうち9位がシス型のもの、エライジン酸とは9位がトランス型のものを指す。表1に、各脂肪酸亜鉛塩Aの原料脂肪酸及び融点MpAを示す。
【0037】
以下、純度100%未満の化合物の物質量は、不純物も含めて算出した物質量である。
〔脂肪酸亜鉛塩A-1(オレイン酸亜鉛)の合成〕
温度計および窒素導入管を取り付けた300mLの4つ口フラスコにオレイン酸(東京化成工業(株)、純度99.0%超過)200g(0.7mol)を入れ、フラスコ内の液体を90℃に保ちながら、酸化亜鉛(28.5g、0.35mol)、及び水(0.1g)を滴下した。その後、110℃で3時間反応を行い、水分を除去することでオレイン酸亜鉛(219.9g、0.35mol)を得た。
【0038】
〔脂肪酸亜鉛塩A-2(エライジン酸亜鉛)の合成〕
オレイン酸の代わりにエライジン酸(東京化成工業(株)製、純度97.0%超過)200g(0.7mol)を用いた以外は、前記脂肪酸亜鉛塩A-1の合成と同様にして、エライジン酸亜鉛を(219.9g、0.35mol)得た。
【0039】
〔脂肪酸亜鉛塩A-3(ステアリン酸亜鉛)の準備〕
脂肪酸亜鉛塩A-3(ステアリン酸亜鉛)としては、日油(株)製の「ジンクステアレートG」を用いた。
【0040】
【0041】
〔エステルワックスBの合成又は準備〕
エステルワックスB-1~B-4を、下記のとおりにして合成又は準備した。表2に各エステルワックスBの原料脂肪酸、原料アルコール、融点MpB、酸価、及び水酸基価を示す。
【0042】
〔エステルワックスB-1(ペンタエリスリトールテトラステアレート)の合成〕
温度計、窒素導入管、攪拌羽および冷却管を取り付けた3Lの4つ口フラスコに、ペンタエリスリトール250.0g(1.8mol)、及びステアリン酸(日油(株)製、純度98.0%超過)2107.6g(7.4mol)を入れて、窒素気流下、240℃で反応させてエステル粗生成物を得た。得られたエステル粗生成物は、酸価が5.7mgKOH/gであった。このエステル粗生成物にトルエン750gおよび2-プロパノール200gを加え、更に、エステル粗生成物の残存酸価の2倍当量に相当する量の水酸化カリウムを含む10質量%水酸化カリウム水溶液を加え、70℃で30分間攪拌した。その後、30分間静置して水層(下層)を分離して除去することで、エステル層を得た。排水のpHが中性になるまで、得られたエステル層の水洗を4回繰り返した。エステル層に残留する溶剤を180℃、1kPaの減圧条件下で留去した後、濾過を行い、ペンタエリスリトールテトラステアレート(2103.5g、1.7mol)を得た。
【0043】
〔エステルワックスB-2(ペンタエリスリトールテトラステアレート)の準備〕
エステルワックスB-2(ペンタエリスリトールテトラステアレート)としては、日油(株)製の「ユニスターH-476」を用いた。
【0044】
〔エステルワックスB-3(ペンタエリスリトールテトラベヘネート)の合成〕
ステアリン酸の代わりにベヘン酸(日油(株)製、純度88%超過)(2517.5g、7.4mol)を用いた以外は、エステルワックスB-1の合成と同様にしてペンタエリスリトールテトラベヘネート(2424.8g、1.7mol)を得た。
【0045】
〔エステルワックスB-4(ジペンタエリスリトールヘキサミリステート)の合成〕
ステアリン酸の代わりにミリスチン酸(日油(株)製、純度98%超過)(2466.4g、10.8mol)を用い、ペンタエリスリトールの代わりにジペンタエリスリトール(457.7g、1.8mol)を用いた以外は、エステルワックスB-1の合成と同様にしてジペンタエリスリトールヘキサミリステート(2578.4g、1.7mol)を得た。
【0046】
【0047】
〔光沢調整剤組成物Cの調製〕
撹拌羽および窒素導入管を取り付けた容量0.3Lのセパラブルフラスコに、表3に示す脂肪酸亜鉛塩AとエステルワックスBを、表3に示す質量比で入れて、窒素気流下、150℃で1時間撹拌することにより溶融混合した。その後、冷却、固化、粉砕を経て、光沢調整剤組成物C-1~C-14を得た。
なお、光沢調整剤組成物C-1の調製では、脂肪酸亜鉛塩Aとして、脂肪酸亜鉛塩A-1(オレイン酸亜鉛)と脂肪酸亜鉛塩A-2(エライジン酸亜鉛)とを質量比99.5:0.5の割合で溶融混合したものを用いた。光沢調整剤組成物C-1に用いた脂肪酸亜鉛塩Aの融点MpAは82℃であった。
光沢調整剤組成物C-9の調製では、脂肪酸亜鉛塩Aとして、脂肪酸亜鉛塩A-1(オレイン酸亜鉛)と脂肪酸亜鉛塩A-2(エライジン酸亜鉛)とを質量比90:10の割合で溶融混合したものを用いた。光沢調整剤組成物C-9に用いた脂肪酸亜鉛塩Aの融点MpAは84℃であった。
光沢調整剤組成物C-10の調製では、エステルワックスBとして、エステルワックスB-2(ペンタエリスリトールテトラステアレート)とエステルワックスB-3(ペンタエリスリトールテトラベヘネート)とを質量比20:80で溶融混合したものを用いた。光沢調整剤組成物C-10に用いたエステルワックスBは、融点MpBが78℃、酸価が0.7mgKOH/g、水酸基価が6.7mgKOH/gであった。
【0048】
表3には、得られた光沢調整剤組成物C-1~C-14に関し、原料の脂肪酸亜鉛塩A及びエステルワックスB、DSC曲線における降温時の極大点Pcの数、当該極大点Pcをピークトップとするピークの半値幅ΔTPC、及び動摩擦係数μCを示す。
なお、得られた光沢調整剤組成物C-1~C-14はいずれも、光沢調整剤組成物Cに含まれる全固形分100質量%に対する脂肪酸亜鉛塩AとエステルワックスBの合計含有量が98質量%以上であった。
【0049】
【0050】
表3に示すように、光沢調整剤組成物C-1~C-10は、上述した脂肪酸亜鉛塩AがエステルワックスBに溶融してなり、脂肪酸亜鉛塩AとエステルワックスBとの質量比が1:99~30:70の範囲内である、本発明の光沢調整剤組成物であった。
一方、光沢調整剤組成物C-11~C-14は、本発明の光沢調整剤組成物には該当しないものであった。光沢調整剤組成物C-11は、エステルワックスBを含まず、脂肪酸亜鉛塩Aからなるものであった。光沢調整剤組成物C-12は、脂肪酸亜鉛塩Aを含まず、エステルワックスBからなるものであった。光沢調整剤組成物C-13は、脂肪酸亜鉛塩AとエステルワックスBとの質量比が40:60であり、脂肪酸亜鉛塩Aの割合が多かった。光沢調整剤組成物C-14は、脂肪酸亜鉛塩Aの原料脂肪酸が飽和脂肪酸であった。
【0051】
〔熱可塑性樹脂組成物の調製〕
(実施例1~13、比較例1~7)
表4に示す種類及び量の光沢調整剤組成物Cと熱可塑性樹脂Dとを、二軸混練機にて260℃で溶融混練し、冷却後、粉砕することで、実施例1~13及び比較例1~7の熱可塑性樹脂組成物を調製した。
なお、熱可塑性樹脂Dとしては、熱可塑性樹脂D-1(ポリカーボネート樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス社製、「ユーピロンS1000」)を用いた。
また、比較例5では、光沢調整剤組成物C-11(脂肪酸亜鉛塩A-1のみ)と光沢調整剤組成物C-12(エステルワックスB-1のみ)とを予め溶融混合せずに、表4に記載の質量比で添加して使用した。
【0052】
(実施例14~15、比較例8)
表4に示す種類及び量の光沢調整剤組成物Cと熱可塑性樹脂Dとを、130℃で溶融混練し、冷却後、粉砕することで、実施例14~15及び比較例8の熱可塑性樹脂組成物を調製した。
なお、熱可塑性樹脂Dとしては、熱可塑性樹脂D-2(非晶性ポリエステル樹脂、三菱レーヨン社製、「ダイヤクロンER508」)を用いた。
【0053】
〔評価〕
実施例1~15及び比較例1~8で得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて、下記の評価試験を行った。評価結果を表4に示す。
【0054】
(低摩擦性)
熱可塑性樹脂組成物を、錠剤成型機(品名:卓上油圧成形機MP250、マーセン社製)にて直径5cm厚さ5mmの円柱状ペレットに成形した。混練温度(260℃又は130℃)と同温に設定したホットプレートにて、ペレットの底面を1秒間加熱したのちに室温にて急冷した。ペレットの加熱した面について、バウデン試験機にて、接触子(半円柱状、ステンレス製、直径1cm)を用い、荷重:100g、速度:2.5mm/s、測定距離:10mm、試験回数:10回の条件で、動摩擦係数を測定し、10回の測定値の平均値を、熱可塑性樹脂組成物の動摩擦係数μDとした。
光沢調整剤組成物Cを添加していない熱可塑性樹脂Dについても、同様にして動摩擦係数を求め、熱可塑性樹脂Dの動摩擦係数μDBlankとした。
動摩擦係数μD及び動摩擦係数μDBlankを用いて、下記の式(1)にて動摩擦係数の低減率KμDを算出した。
KμD=μD/μDBlank 式(1)
動摩擦係数の低減率KμDが大きいほど、光沢調整剤組成物Cによる低摩擦性の付与効果に優れる。KμDの値に基づいて、低摩擦性について評価した。評価基準は下記の通りである。
◎:KμD<0.80
〇:0.80≦KμD<0.90
×:0.90≦KμD
【0055】
(低光沢性)
上述した低摩擦性の評価に用いた円柱状ペレットと同様のペレットを作製し、測定サンプルとした。サンプル表面の10箇所の測定領域について、株式会社堀場製作所製の「グロスチェッカIG-320」を用いて、入射角60℃の条件で測定し、その平均値を熱可塑性樹脂組成物の光沢値GDとした。
光沢調整剤組成物Cを添加していない熱可塑性樹脂Dについても、同様にして光沢値を求め、熱可塑性樹脂Dの光沢値GDBlankとした。
光沢値GD及び光沢値GDBlankを用いて、下記の式(2)にて光沢値の低減率KGDを算出した。
KGD=GD/GDBlank 式(2)
光沢値の低減率KGDが大きいほど、光沢調整剤組成物Cによる光沢を抑える効果(低光沢性)に優れる。KGDの値に基づいて、低光沢性について評価した。評価基準は下記の通りである。
◎:KGD<0.85
〇:0.85≦KGD<0.95
×:0.95≦KGD
【0056】
(低光沢性の長期安定性)
上述した低摩擦性の評価に用いた円柱状ペレットと同様のペレットを作製し、当該ペレットを55℃湿度85%にて1カ月間保管することにより加速試験を行った。加速試験後のペレットを水洗し、室温で1日乾燥させたものを加速試験後のサンプルとした。加速試験後のサンプルについて、上述した低光沢性の評価と同様にして光沢値を求め、加速試験後の熱可塑性樹脂組成物の光沢値GD’とした。この光沢値GD’と、上述した低光沢性の評価で求めた熱可塑性樹脂Dの光沢値GDBlankを用いて、下記の式(3)により、加速試験後の光沢値の低減率KGD’を算出した。
KGD’=GD’/GDBlank 式(3)
さらに、加速試験後の光沢値の低減率KGD’と上述した低光沢性の評価で求めた光沢値の低減率KGDとを用いて、下記の式(4)より変化率CGDを算出した。
CGD(%)={|KGD’-KGD|/KGD}×100 式(4)
変化率CGDが小さいほど、光沢調整剤組成物Cによる光沢を抑える効果(低光沢性)は長期安定性に優れる。CGDの値に基づいて、低光沢性の長期安定性について評価した。評価基準は下記の通りである。
◎:CGD<3.0
○:3.0≦CGD<5.0
×:5.0≦CGD
【0057】
(光沢均一性)
上述した低光沢性の評価で測定サンプルについて測定した10箇所の測定結果のうち、最も大きな光沢値GMAXと最も小さな光沢値GMINを用いて、下記の式(5)にて光沢値の差ΔGを算出した。
ΔG=GMAX-GMIN 式(5)
光沢値の差ΔGが小さいほど、光沢調整剤組成物Cによる光沢を抑える効果のバラつきが小さく、光沢均一性に優れる。ΔGの値に基づいて、光沢均一性について評価した。評価基準は下記の通りである。
◎:ΔG<0.5
〇:0.5≦ΔG<1.0
×:1.0≦ΔG
【0058】
(光沢均一性の長期安定性)
上述した低光沢性の長期安定性で測定した加速試験後のサンプルの10箇所の測定結果のうち、最も大きな光沢値GMAX’と最も小さな光沢値GMIN’を用いて、下記の式(6)にて加速試験後の光沢値の差ΔG’を算出した。
ΔG’=GMAX’-GMIN’ 式(6)
加速試験後の光沢値の差ΔG’が小さいほど、光沢調整剤組成物Cによる光沢を抑える効果のバラつきが長期経過後も小さく、光沢均一性に優れる。ΔG’の値に基づいて、光沢均一性の長期安定性について評価した。評価基準は下記の通りである。
◎:ΔG’<0.5
〇:0.5≦ΔG’<1.0
×:1.0≦ΔG’
【0059】
【0060】
表4に示すように、熱可塑性樹脂100質量部に対し、本発明の光沢調整剤組成物C-1~C-10を0.01~10質量部の範囲で含有させた実施例1~15の熱可塑性樹脂組成物は、脂肪酸亜鉛塩AまたはエステルワックスBとして、単独あるいは複数の成分を用いたどちらの場合においても、成形品表面の低摩擦性、低光沢性及び光沢均一性に優れており、熱可塑性樹脂組成物を高温多湿条件で保管する加速試験後も、低光沢性及び光沢均一性が維持されており、長期安定性に優れる結果が得られた。
一方、比較例1~2の熱可塑性樹脂組成物は、光沢調整剤組成物C-1の含有量を、熱可塑性樹脂100質量部に対し0.01質量部未満又は10質量部超過とした。その結果、低摩擦性、低光沢性及び光沢均一性の全てが劣っていた。
比較例3の熱可塑性樹脂組成物は、使用した光沢調整剤組成物C-11が、脂肪酸亜鉛塩Aのみからなるものであった。その結果、低摩擦性、低光沢性及び光沢均一性の全てが劣っていた。
比較例4及び8の熱可塑性樹脂組成物は、使用した光沢調整剤組成物C-12が、エステルワックスBのみからなるものであった。その結果、低摩擦性は良好であったものの、低光沢性及び光沢均一性が劣っていた。
比較例5の熱可塑性樹脂組成物は、光沢調整剤組成物C-11(脂肪酸亜鉛塩Aのみ)と光沢調整剤組成物C-12(エステルワックスBのみ)を、溶融混合せずにそれぞれ添加した。その結果、低摩擦性は良好であったものの、低光沢性及び光沢均一性が劣っていた。
比較例6の熱可塑性樹脂組成物は、使用した光沢調整剤組成物C-13が、脂肪酸亜鉛塩AとエステルワックスBとを質量比40:60で含むものであり、脂肪酸亜鉛塩Aの割合が多かった。その結果、低摩擦性、低光沢性及び光沢均一性が良好であったものの、低光沢性及び光沢均一性の長期安定性に劣っていた。
比較例7の熱可塑性樹脂組成物は、使用した光沢調整剤組成物C-14が、脂肪酸亜鉛塩Aとして飽和脂肪酸の亜鉛塩を含むものであった。その結果、低摩擦性は良好であったものの、低光沢性及び光沢均一性が劣っていた。