(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177775
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両用トランスアクスル
(51)【国際特許分類】
B60K 6/365 20071001AFI20241217BHJP
B60K 6/442 20071001ALI20241217BHJP
B60K 6/40 20071001ALI20241217BHJP
F16H 1/28 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B60K6/365
B60K6/442 ZHV
B60K6/40
F16H1/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096107
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】今村 達也
(72)【発明者】
【氏名】土田 充孝
(72)【発明者】
【氏名】原田 佑公
【テーマコード(参考)】
3D202
3J027
【Fターム(参考)】
3D202AA02
3D202EE10
3D202EE23
3J027FA17
3J027FA19
3J027FB01
3J027GA03
3J027GB06
3J027GB09
3J027GC22
(57)【要約】
【課題】構成要素を共用して、シリーズ・パラレル方式とシリーズ方式とを容易に作り分けることが可能なハイブリッド車両用トランスアクスルを提供する。
【解決手段】エンジン8に連結する入力軸2と、発電を行う第1モータ4と、三つの回転要素を有するプラネタリギヤセット3と、駆動トルクを出力する第2モータ5とを備え、リングギヤ3aを出力部材6に連結し、サンギヤ3bを第1モータ4に連結し、キャリア3cを入力軸2に連結することにより、シリーズ・パラレル方式のハイブリッド駆動装置を構成することが可能なトランスアクスル1において、リングギヤ3aを入力軸2に連結し、サンギヤ3bを第1モータ4に連結し、キャリア3cを、ケーシング7に係合して回転不可能に固定して、シリーズ方式のハイブリッド駆動装置を構成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの出力トルクが入力される入力軸と、前記出力トルクを受けて発電を行う第1モータと、第1回転要素、第2回転要素、および、第3回転要素を有するプラネタリギヤセットと、駆動トルクを出力する第2モータと、少なくとも、前記入力軸、前記第1モータ、前記プラネタリギヤセット、および、前記第2モータを収容するケーシングと、を備え、前記入力軸、前記第1モータ、および、前記プラネタリギヤセットを、いずれも同軸の第1軸上に配置し、前記第2モータを、前記第1軸と異なる第2軸上に配置するとともに、前記第1回転要素を、前記駆動トルクが伝達される出力部材に連結し、前記第2回転要素を、前記第1モータに連結し、前記第3回転要素を、前記入力軸に連結することにより、シリーズ・パラレル方式のハイブリッド駆動装置を構成することが可能なハイブリッド車両用トランスアクスルであって、
前記プラネタリギヤセットは、はすば歯車を用いて構成され、
前記第1回転要素は、前記入力軸に連結され、
前記第2回転要素は、前記第1モータに連結され、
前記第3回転要素は、前記ケーシングに前記はすば歯車のスラスト力が作用する箇所で、前記ケーシングに係合して回転不可能に固定されており、
前記エンジンに連結してシリーズ方式のハイブリッド駆動装置を構成する
ことを特徴とするハイブリッド車両用トランスアクスル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動力源としてエンジンおよびモータを搭載したハイブリッド車両のドライブトレーン、あるいは、ハイブリッド駆動装置を構成するハイブリッド車両用トランスアクスルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ハイブリッド車両に用いられるトランスアクスルに関する発明が記載されている。この特許文献1に記載されたトランスアクスルは、ケーシングの内部に、二基のモータ、動力分割機構、および、デファレンシャルギヤ等を備えている。二基のモータは、いずれも、原動機および発電機の両方の機能を有するいわゆるモータージェネレータであり、互いに異なる回転軸線上で、平行に配置されている。動力分割機構は、サンギヤ、リングギヤ、および、キャリアの三つの回転要素を有するプラネタリギヤセットから構成され、一方のモータ、および、エンジンと同軸上に配置されている。そして、この特許文献1に記載されたトランスアクスルは、エンジンに連結して、シリーズ・パラレル方式(または、スプリット方式)のハイブリッド駆動装置を構成する。
【0003】
また、特許文献2には、シリーズハイブリッド車両用トランスアクスルに関する発明が記載されている。この特許文献2に記載されたトランスアクスルは、発電用および駆動用の二基のモータ、巻き掛け伝動機構、および、デファレンシャルギヤ等を備えている。二基のモータは、互いに異なる回転軸線上で、平行に配置されている。巻き掛け伝動機構は、スプロケットとチェーンで構成されたチェーン伝動機構であり、エンジンからトルクが伝達される入力軸と発電用モータとの間で、入力軸の回転数に対して発電用モータの回転数を高くする増速機構となっている。そして、この特許文献2に記載されたトランスアクスルは、エンジンに連結して、シリーズ方式のハイブリッド駆動装置を構成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-19373号公報
【特許文献2】特開2019-73213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1に記載されているシリーズ・パラレル方式のハイブリッド車両用トランスアクスル、および、上記の特許文献2に記載されているシリーズ方式のハイブリッド車両用トランスアクスルは、いずれも、二基のモータもしくはモータージェネレータを組み込んだ構成で共通している。しかしながら、その他、回転軸の配置や構成要素などで両者の間の差異が多く、例えば、ケーシングやギヤセット等を、シリーズ・パラレル方式のトランスアクスルとシリーズ方式のトランスアクスルとの間で共用することは容易ではなかった。
【0006】
この発明は、上記の技術的課題に着目して考え出されたものであり、ケーシングやギヤセット等を共用して、シリーズ・パラレル方式とシリーズ方式とを容易に作り分けることが可能なハイブリッド車両用トランスアクスルを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明は、エンジンに連結して前記エンジンの出力トルクが入力される入力軸と、前記出力トルクを受けて発電を行う第1モータと、第1回転要素、第2回転要素、および、第3回転要素を有する動力分割用のプラネタリギヤセットと、車両の駆動トルクを出力する第2モータと、少なくとも、前記入力軸、前記第1モータ、前記プラネタリギヤセット、および、前記第2モータを収容するケーシングと、を備え、前記入力軸、前記第1モータ、および、前記プラネタリギヤセットを、いずれも同軸の第1軸上に配置し、前記第2モータを、前記第1軸と異なる第2軸上に配置するとともに、前記第1回転要素を、前記駆動トルクが伝達される出力部材に連結し、前記第2回転要素を、前記第1モータに連結し、前記第3回転要素を、前記入力軸に連結することにより、シリーズ・パラレル方式のハイブリッド駆動装置を構成することが可能なハイブリッド車両用トランスアクスルであって、前記プラネタリギヤセットは、はすば歯車を用いて構成され、前記第1回転要素は、前記入力軸に連結され、前記第2回転要素は、前記第1モータに連結され、前記第3回転要素は、前記ケーシングに前記はすば歯車のスラスト力が作用する箇所で、前記ケーシングに係合して回転不可能に固定されており、前記エンジンに連結してシリーズ方式のハイブリッド駆動装置を構成することを特徴とするものである。
【0008】
なお、この発明は、前記シリーズ・パラレル方式のハイブリッドシステムを構成する場合に前記プラネタリギヤセットのリングギヤを支持する軸受を備えており、この発明における前記第3回転要素は、前記スラスト力の作用方向において、前記スラスト力が作用する前記軸受の配置位置よりも外側で、すなわち、前記軸受に前記スラスト力が作用する位置よりも前記スラスト力の作用方向で遠い位置で、前記ケーシングに係合するように構成してもよい。
【0009】
また、この発明における前記第1回転要素は、前記リングギヤであり、前記第2回転要素は、サンギヤであり、前記第3回転要素は、キャリアであってもよい。
【0010】
もしくは、この発明における前記第1回転要素は、キャリアであり、前記第2回転要素は、サンギヤであり、前記第3回転要素は、前記リングギヤであってもよい。
【発明の効果】
【0011】
この発明のハイブリッド車両用トランスアクスルは、主に発電機として機能する第1モータ、主に原動機として機能する第2モータ、および、三つの回転要素を有するプラネタリギヤセットを備えている。そのため、プラネタリギヤセットを動力分割機構として機能するように設置することにより、シリーズ・パラレル方式のハイブリッド駆動装置を構成することができる。更に、この発明のハイブリッド車両用トランスアクスルは、プラネタリギヤセットの第3回転要素をケーシングに係合して回転を止めることが可能な構成となっている。そのため、第3回転要素をケーシングに係合し、プラネタリギヤセットを変速機構(具体的には、増速機構)として機能するように設置するとともに、第1モータを専用の発電機として機能させ、そして、第2モータを専用の駆動モータとして機能させることにより、シリーズ方式のハイブリッド駆動装置を構成することができる。すなわち、第1モータ、第2モータ、プラネタリギヤセット、および、ケーシングを共用して、シリーズ・パラレル方式のハイブリッド車両用トランスアクスルと、シリーズ方式のハイブリッド車両用トランスアクスルとを、作り分けることができる。
【0012】
したがって、この発明のハイブリッド車両用トランスアクスルによれば、主要な構成要素を共用して、シリーズ・パラレル方式のハイブリッド車両用トランスアクスルと、シリーズ方式のハイブリッド車両用トランスアクスルとを、容易に作り分けることができる。ひいては、各方式のハイブリッド車両用トランスアクスルのコストダウンを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、この発明のハイブリッド車両用トランスアクスルの構成を説明するための図であって、プラネタリギヤセットのキャリアをケーシングに固定して、シリーズ方式のハイブリッド車両用トランスアクスルを構成した例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、この発明のハイブリッド車両用トランスアクスルの構成を説明するための図であって、プラネタリギヤセットのキャリアをケーシングに係合して固定する構造の一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、この発明のハイブリッド車両用トランスアクスルの構成を説明するための図であって、プラネタリギヤセットのキャリアを固定し、プラネタリギヤセットを増速機構として機能させる例を示すスケルトン図である。
【
図4】
図4は、この発明のハイブリッド車両用トランスアクスルの構成を説明するための図であって、プラネタリギヤセットのキャリアをケーシングに係合して固定する位置の一例を示す断面図である。
【
図5】
図5は、この発明のハイブリッド車両用トランスアクスルの構成を説明するための図であって、プラネタリギヤセットを動力分割機構として機能させて、シリーズ・パラレル方式のハイブリッド車両用トランスアクスルを構成した例を示すスケルトン図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の実施形態を、図を参照して説明する。なお、以下に示す実施形態は、この発明を具体化した場合の一例に過ぎず、この発明を限定するものではない。
【0015】
この発明の実施形態におけるハイブリッド車両用トランスアクスルは、例えば、
図1に示すような、シリーズ方式のハイブリッド車両に適用できる。
図1に示すハイブリッド車両用トランスアクスル(以下、トランスアクスル)1は、主要な構成要素として、入力軸2、プラネタリギヤセット3、第1モータ(MG1)4、第2モータ(MG2)5、出力部材6、および、ケーシング7を備えている。
【0016】
入力軸2は、このトランスアクスル1に組み合わされるエンジン(ENG)8と連結し、エンジン8の出力トルクが入力される。
図1に示す例では、入力軸2は、フライホイール9およびダンパ装置10などを介して、エンジン8の出力軸(クランク軸)8aと連結されている。また、入力軸2は、後述するプラネタリギヤセット3のリングギヤ3aと連結され、エンジン8の出力トルクをリングギヤ3aに伝達する。入力軸2は、エンジン8の出力軸8aと同軸上に配置されている。そして、この入力軸2に対して、後述するプラネタリギヤセット3が同軸上に配置されている。
【0017】
プラネタリギヤセット3は、リングギヤ3a、サンギヤ3b、および、キャリア3cの三つの回転要素を有する差動機構である。
図1に示す例では、シングルピニオン形のプラネタリギヤセット3が用いられている。プラネタリギヤセット3は、上記の入力軸2、および、後述する第1モータ4と同軸上に配置されている。また、
図1に示す例では、リングギヤ3aは、入力軸2に連結され、サンギヤ3bは、後述する第1モータ4のロータ軸4aに連結され、そして、キャリア3cは、後述するケーシング7に係合して回転不可能に固定されている。したがって、
図1に示す例では、リングギヤ3aが、この発明の実施形態における第1回転要素に相当し、サンギヤ3bが、この発明の実施形態における第2回転要素に相当し、そして、キャリア3cが、この発明の実施形態における第3回転要素に相当している。
【0018】
なお、この発明の実施形態では、プラネタリギヤセット3の第1回転要素として、キャリア3cを、入力軸2に連結し、第2回転要素として、サンギヤ3bを、後述する第1モータ4のロータ軸4aに連結し、そして、第3回転要素として、リングギヤ3aを、後述するケーシング7に係合して回転不可能に固定するように構成してもよい。
【0019】
また、プラネタリギヤセット3の各歯車は、はすば歯車を用いて構成されている。はすば歯車は、平歯車と比べて、歯車同士の噛み合いが滑らかであるため、噛み合いに伴う衝撃が小さくなり、騒音や振動を抑えられる利点がある。一方で、はすば歯車は、軸方向のスラスト力が発生する。このプラネタリギヤセット3のスラスト力に関しては後述する。
【0020】
上記のようにプラネタリギヤセット3の第3回転要素(キャリア3c、または、リングギヤ3a)が回転不可能に固定されることにより、プラネタリギヤセット3は、第1回転要素の回転数に対して第2回転要素の回転数を増減する“変速機構”として機能する。
図1に示す例では、プラネタリギヤセット3は、第1回転要素すなわちリングギヤ3aに連結するエンジン8の回転数に対して、第2回転要素すなわちサンギヤ3bに連結する第1モータ4の回転数を増大させる“増速機構”となっている。例えば、プラネタリギヤセット3のリングギヤ3aの歯数を「78」とし、サンギヤ3bの歯数を「30」とすると、それらの歯数比は「0.385」となり、エンジン8の回転数と第1モータ4の回転数との比は、「1:2.6」となる。この場合に、例えば、エンジン8の回転数が「5000rpm」であるとすると、そのエンジン8の出力トルクで駆動される第1モータ4の回転数は「13000rpm」となり、回転数が増大する。このように、プラネタリギヤセット3を“増速機構”として構成することによって、エンジン8の出力トルクで第1モータ4を駆動することによる発電を、効率良く、行うことができる。
【0021】
第1モータ4は、エンジン8の出力トルクを受けて発電を行う発電機である。第1モータ4は、上記の入力軸2およびプラネタリギヤセット3と同軸上に配置されている。すなわち、
図1に示すように、上記の入力軸2、プラネタリギヤセット3、および、第1モータ4は、いずれも、エンジン8の出力軸8aと同軸の第1軸AX1上に配置されている。また、
図1に示す例では、第1モータ4のロータ軸4aは、プラネタリギヤセット3のサンギヤ3bに連結されている。そのため、第1モータ4には、プラネタリギヤセット3を介して、エンジン8の出力トルクが伝達される。そして、第1モータ4は、エンジン8の出力トルクによって駆動されて、発電機として発電を行う。
【0022】
第2モータ5は、電力が供給されることにより駆動されて、駆動トルクを出力する原動機として機能する。第2モータ5は、後述する出力部材6に連結されている。そのため、第2モータ5が出力する駆動トルクは、出力部材6に伝達される。
図2に示すように、第2モータ5は、上記の第1軸AX1と異なり、かつ、第1軸AX1と平行な第2軸AX2上に配置されている。
【0023】
出力部材6は、上記の第2モータ5が出力する駆動トルクが伝達される回転部材である。例えば、歯車伝動機構の従動歯車や、チェーン伝動機構の従動側スプロケットなどによって構成される。
図1に示す例では、第2モータ5のロータ軸5aの先端に取り付けられたピニオン5bと噛み合う“カウンタギヤ”が、この発明の実施形態における出力部材6に相当している。後述するように、出力部材6は、プラネタリギヤセット3を“動力分割機構”として機能させ、トランスアクスル1でシリーズ・パラレル方式のハイブリッド駆動装置を構成する際に、プラネタリギヤセット3の第3回転要素(キャリア3c、または、リングギヤ3a)に連結される。なお、“カウンタギヤ”は、例えば、リダクションギヤ(図示せず)およびデファレンシャルギヤ(図示せず)等を介して、ドライブシャフト(図示せず)に動力伝達可能に連結されている。
【0024】
ケーシング7は、トランスアクスル1の外殻を形成し、少なくとも、上記の入力軸2、プラネタリギヤセット3、第1モータ4、第2モータ5、および、出力部材6を収容している。
図1に示す例では、ケーシング7は、エンジン8の取り付け面8bを有するハウジング7a、ハウジング7aと組み付けられて、トランスアクスル1の外殻の軸方向における中央部分を形成するケース7b、および、ケース7bの後端(
図1の左側の端部)に組み付けられて、トランスアクスル1の外殻の軸方向における後端部分を形成するリヤカバー7cから構成されている。
【0025】
また、ケーシング7は、前述したように、プラネタリギヤセット3の第3回転要素と係合して、第3回転要素を回転不可能に固定する。
図1に示す例では、プラネタリギヤセット3のキャリア3cと係合して、そのキャリア3cを回転不可能に固定している。例えば、
図2に示すように、キャリア3cの外周部分に、キャリア3cの外周面を径方向の外側に凸形状となるように突出させた突起部3dが形成されている。そして、ケーシング7の内周部分には、この突起部3dの形状に対応して、突起部3dが係合可能な凹形状にくぼませた凹部(図示せず)が形成されている。そのため、この発明の実施形態におけるトランスアクスル1は、ケーシング7の内部にプラネタリギヤセット3を組み付ける際に、キャリア3cに形成された突起部3dを、ケーシング7に形成された凹部に係合させることにより、ケーシング7の凹部が回り止めとなって、容易に、キャリア3cを回転不可能な状態に固定することができる。
【0026】
上記のようにして、ケーシング7の内部でキャリア3cの突起部3dを係合させる位置(係合部11)は、プラネタリギヤセット3のはすば歯車で発生するスラスト力を考慮して決定されている。前述したように、プラネタリギヤセット3の各歯車は、はすば歯車を用いて構成されている。そのため、プラネタリギヤセット3が負荷を受けて回転する際には、
図3のスケルトン図に矢印で示すように、プラネタリギヤセット3を構成している各歯車、すなわち、リングギヤ3a、サンギヤ3b、および、ピニオン(プラネタリギヤ)3eで、スラスト力が発生する。プラネタリギヤセット3のピニオン3eを保持しているキャリア3cには、第1軸AX1の軸線方向で、エンジン8から第1モータ4へ向かう方向(
図3の左方向)のスラスト力が作用する。そこで、この発明の実施形態におけるトランスアクスル1は、ケーシング7がキャリア3cに作用するスラスト力を受ける側に、係合部11が設けられている。
【0027】
より具体的には、
図4に示すように、トランスアクスル1は、プラネタリギヤセット3のリングギヤ3aを支持する軸受12,13を備えている。軸受12,13は、いずれも、円筒形状のリングギヤ3aの内周部分をケーシング7に支持している。
図4に示す例では、軸受12は、リングギヤ3aの軸線方向におけるエンジン8側(
図4の右側)の端部を支持し、軸受13は、リングギヤ3aの軸線方向における第1モータ4側(
図4の左側)の端部を支持している。そして、プラネタリギヤセット3のキャリア3cは、キャリア3cにスラスト力の作用方向において、そのスラスト力が作用する軸受13の配置位置よりも外側で、ケーシング7に係合するように構成されている。言い換えると、キャリア3cは、スラスト力が作用する軸受13に、そのスラスト力が作用する位置よりもスラスト力の作用方向で遠い位置で、ケーシング7に係合するように構成されている。すなわち、キャリア3cの突起部3dをケーシング7の凹部に係合させる係合部11は、キャリア3cにスラスト力の作用方向において、そのスラスト力が作用する軸受13の配置位置よりも外側に位置するケーシング7に設けられている。
図4に示す例では、ケーシング7を構成する三つの部材(ハウジング7a、ケース7b、リヤカバー7c)のうち、軸受13の配置位置よりも外側に位置するケース7bに、係合部11が形成されている。
【0028】
なお、前述の
図3のスケルトン図に矢印で示したように、プラネタリギヤセット3のリングギヤ3aには、キャリア3cに作用するスラスト力と反対の方向のスラスト力が作用する。したがって、例えば、プラネタリギヤセット3の第3回転要素として、リングギヤ3aをケーシング7に係合して回転不可能に固定し、プラネタリギヤセット3で“増速機構”を構成する場合には、リングギヤ3aのスラスト力が作用する軸受12の配置位置よりも外側に位置するハウジング7aに、係合部11が形成される。
【0029】
このように、この発明の実施形態におけるトランスアクスル1では、エンジン8が負荷運転をして、第1モータ4で発電を行う際にプラネタリギヤセット3の第3回転要素(
図1、
図3で示した例では、キャリア3c)に作用するスラスト力を受ける側の部位に、上述した回り止め、すなわち、係合部11が設けられる。そのため、ケーシング7における強度や剛性を確保しやすい部位で、直接、スラスト力を受けることができる。すなわち、強度的に有利な適切な部位で、スラスト力を受けることができる。そして、上記のように適切な状態でプラネタリギヤセット3を“増速機構”として機能させて、トランスアクスル1に組み付けるエンジン8と共に、シリーズ方式のハイブリッド駆動装置を構成することができる。
【0030】
更に、この発明の実施形態におけるトランスアクスル1は、ケーシング7やプラネタリギヤセット3を共用して、上記のような“シリーズ方式のハイブリッド車両用トランスアクスル”と、“シリーズ・パラレル方式(または、スプリット方式)のハイブリッド車両用トランスアクスル”とを作り分けることができる。
【0031】
この発明の実施形態におけるトランスアクスル1で、シリーズ・パラレル方式のハイブリッド駆動装置を構成した例を、
図5に示してある。
図5のスケルトン図で示すトランスアクスル1は、前述の特許文献1に記載されている“シリーズ・パラレル方式のハイブリッド車両”に用いられた“トランスアクスル”と同様の構成である。それとともに、この
図5に示すトランスアクスル1は、上記の
図1から
図4で示したシリーズ方式のハイブリッド車両用トランスアクスル1に対して、プラネタリギヤセット3の各回転要素の連結関係のみが異なっている。具体的には、
図5に示すトランスアクスル1では、プラネタリギヤセット3のリングギヤ3aは、ケーシング7に回転可能に支持されて、出力部材6に動力伝達可能に連結されている。また、サンギヤ3bは、第1モータ4のロータ軸4aに連結されている。そして、キャリア3cは、入力軸2に連結されている。このようにプラネタリギヤセット3の各回転要素を連結することにより、前述の特許文献1に記載されているように、プラネタリギヤセット3を、いわゆる“動力分割機構”として機能させるとができる。すなわち、
図5に示すように構成したトランスアクスル1で、シリーズ・パラレル方式のハイブリッド駆動装置を構成することができる。
【0032】
上記のように、シリーズ方式のハイブリッド駆動装置を構成する場合のトランスアクスル1と、シリーズ・パラレル方式のハイブリッド駆動装置を構成する場合のトランスアクスル1とでは、プラネタリギヤセット3の基本的な構成、および、ケーシング7の基本的な構成は互いに共通している。そのため、形状や組み付けの、軽微な、あるいは、簡単な変更のみで、プラネタリギヤセット3およびケーシング7を共用して(第1モータ4や第2モータ5など他の部材も共用して)、シリーズ方式のハイブリッド車両用トランスアクスル1と、シリーズ・パラレル方式のハイブリッド車両用トランスアクスル1とを、それぞれ、構成することができる。すなわち、シリーズ方式のハイブリッド車両用トランスアクスル1と、シリーズ・パラレル方式のハイブリッド車両用トランスアクスル1とを、容易に、作り分けることができる。
【0033】
したがって、この発明のハイブリッド車両用トランスアクスルによれば、主要な構成要素を共用して、シリーズ・パラレル方式のハイブリッド車両用トランスアクスル1と、シリーズ方式のハイブリッド車両用トランスアクスル1とを、容易に作り分けることができる。ひいては、各方式のハイブリッド車両用トランスアクスル1のコストダウンを図ることができる。
【符号の説明】
【0034】
1 トランスアクスル(ハイブリッド車両用トランスアクスル)
2 入力軸
3 プラネタリギヤセット
3a リングギヤ(第1回転要素、または、第3回転要素)
3b サンギヤ(第2回転要素)
3c キャリア(第3回転要素、または、第1回転要素)
3d 突起部(プラネタリギヤ)
3e ピニオン(プラネタリギヤ)
4 第1モータ(MG1)
4a (第1モータの)ロータ軸
5 第2モータ(MG2)
5a (第2モータの)ロータ軸
6 出力部材
7 ケーシング
7a ハウジング
7b ケース
7c リヤカバー
8 エンジン(ENG)
8a (エンジンの)出力軸(クランク軸)
8b (エンジンの)取り付け面
9 フライホイール
10 ダンパ装置
11 係合部
12,13 軸受
AX1 第1軸
AX2 第2軸