(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177782
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】段差検知装置および段差検知方法
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20241217BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
G08G1/00 J
B60T7/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096114
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】324003048
【氏名又は名称】三菱電機モビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】八木 貴之
【テーマコード(参考)】
3D246
5H181
【Fターム(参考)】
3D246DA01
3D246GB30
3D246GC16
3D246HB09A
3D246JA02
3D246JB11
5H181AA01
5H181BB13
5H181CC04
5H181FF14
5H181FF27
5H181LL07
5H181LL08
5H181LL09
(57)【要約】
【課題】本開示は、段差の検知に用いる照射器と撮像器とを一体または近い位置に配置することを目的とする。
【解決手段】段差検知装置101は、車両31の周辺路面が平坦な基準路面である場合に周辺路面に予め定められた基準照射パターンを照射することが可能な基準出射パターンの拡散光を、車両31に搭載された照射器21から周辺路面に向けて出射させる出射制御部11と、車両31に搭載された撮像器22により撮影された周辺路面の撮影画像から、基準出射パターンの拡散光により周辺路面に照射された実照射パターンを抽出し、実照射パターンと基準照射パターンとの大きさの比較に基づき周辺路面の段差を検知する段差検知部12と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の周辺路面が平坦な基準路面である場合に前記周辺路面に予め定められた基準照射パターンを照射することが可能な基準出射パターンの拡散光を、前記車両に搭載された照射器から前記周辺路面に向けて出射させる出射制御部と、
前記車両に搭載された撮像器により撮影された前記周辺路面の撮影画像から、前記基準出射パターンの拡散光により前記周辺路面に照射された実照射パターンを抽出し、前記実照射パターンと前記基準照射パターンとの大きさの比較に基づき前記周辺路面の段差を検知する段差検知部と、を備える、
段差検知装置。
【請求項2】
前記段差の検知結果に基づき、前記車両に搭載された警告通知器から、表示または音声によって前記段差が存在する旨の警告を行わせる出力制御部をさらに備える、
請求項1に記載の段差検知装置。
【請求項3】
前記車両は、操舵、加速または減速の少なくともいずれかを車両制御器により制御されることが可能な自動運転車両であり、
検知された前記段差を回避するよう前記車両制御器に前記車両の制御を行わせる出力制御部をさらに備える、
請求項1に記載の段差検知装置。
【請求項4】
前記照射器と、
前記撮像器とをさらに備え、
前記照射器は、
複数の光源と、
前記複数の光源から出射された光の夫々を前記基準出射パターンの拡散光として前記周辺路面に向けて出射する光学系とを備える、
請求項1に記載の段差検知装置。
【請求項5】
前記光学系は、前記複数の光源の出射光が通過する円形の複数のスリットが設けられた遮光部材であり、
各前記スリットの面積は各前記光源の出射面積よりも大きく、
前記複数のスリットは前記複数の光源と1対1で設けられ、
各前記スリットを通過した各前記光源の出射光が1つの前記基準出射パターンを構成する、
請求項4に記載の段差検知装置。
【請求項6】
前記車両のステアリングの舵角に基づき、前記周辺路面上の前記車両が走行する予定の走行経路を推定する経路推定部をさらに備え、
前記出射制御部は、前記照射器に対し、前記基準出射パターンの拡散光を前記走行予定経路へ向けて出射させる、
請求項5に記載の段差検知装置。
【請求項7】
前記複数の光源は、前記車両の前方または後方に前記車両から予め定められた第1距離だけ離れた前記周辺路面を照射し、
前記複数の光源の照射範囲は、前記複数の光源の全てがオンである場合に、前記車両の前方方向または後方方向に前記車両から前記第1距離だけ離れた位置において、前記ステアリングを一方方向の最大舵角から他方方向の最大舵角まで可変とした場合に想定される全ての前記走行予定経路を含み、
前記出射制御部は、前記経路推定部が推定した前記走行予定経路に応じて、前記複数の光源のうち少なくとも1つの光源をオフに制御する、
請求項6に記載の段差検知装置。
【請求項8】
前記出射制御部は、前記経路推定部が推定した前記走行予定経路に応じて、前記複数の光源のうち少なくとも1つの光源と前記光学系との距離を制御する、
請求項7に記載の段差検知装置。
【請求項9】
画像取得部が、車両に搭載された撮像器により撮影された前記車両の周辺路面の撮影画像を取得し、
出射制御部が、前記車両に搭載された照射器による前記周辺路面へ向けた光の出射を制御し、
段差検知部が、前記撮影画像に基づき前記周辺路面の段差を検知し、
前記出射制御部が、前記周辺路面が実質的に平坦な路面である場合に前記周辺路面に基準照射パターンを照射することが可能な基準出射パターンの拡散光を前記周辺路面へ向けて出射するよう、前記照射器を制御し、
前記画像取得部が、前記基準出射パターンの拡散光により前記周辺路面に照射された実照射パターンを前記撮影画像から抽出し、
前記段差検知部が、前記実照射パターンの大きさを前記基準照射パターンの大きさと比較することにより、前記段差を検知する、
段差検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、路面の段差を検知する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、照射器から照射したパターンを撮像器で撮像することにより、路面における照射パターンの変形を検知し、路面勾配を推定する路面状態推定装置が記載されている。
【0003】
しかし、特許文献1の路面状態推定装置では、照射器から平行光が照射されるため、照射器から検知対象までの入射光と、検知対象から撮像器までの反射光の軸が同じまたは近いと、照射パターンの変形を精度よく検知できない。そのため、照射器と撮像器を一定距離以上話して配置する必要があり、実現できる構成にはスペースを要するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、段差の検知に用いる照射器と撮像器とを一体または近い位置に配置することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の段差検知装置は、車両の周辺路面が平坦な基準路面である場合に周辺路面に予め定められた基準照射パターンを照射することが可能な基準出射パターンの拡散光を、車両に搭載された照射器から周辺路面に向けて出射させる出射制御部と、車両に搭載された撮像器により撮影された周辺路面の撮影画像から、基準出射パターンの拡散光により周辺路面に照射された実照射パターンを抽出し、実照射パターンと基準照射パターンとの大きさの比較に基づき周辺路面の段差を検知する段差検知部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示の段差検知装置によれば、照射器から周辺路面に照射される拡散光のパターンの大きさによって段差を検知する。従って、照射器と撮像器とを一体または近い位置に配置することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係る段差検知装置の構成図である。
【
図3】照射器から路面に拡散光を照射する様子を示す図である。
【
図4】基準路面、縁石、溝における照射パターンの違いを示す図である。
【
図6】実施の形態1に係る段差検知装置の動作を示すフローチャートである。
【
図7】メッシュ型の出射パターンを有する比較例の照射器の構成図である。
【
図8】実施の形態2に係る段差検知装置の構成図である。
【
図9】舵角が小さい場合の走行経路を示す図である。
【
図10】舵角が大きい場合の走行経路を示す図である。
【
図11】舵角が小さい場合の照射範囲を示す図である。
【
図12】舵角が大きい場合の照射範囲を示す図である。
【
図13】舵角が小さく、かつ一部の光源をオフにした場合の照射範囲を示す図である。
【
図14】舵角が大きく、かつ一部の光源をオフにした場合の照射範囲を示す図である。
【
図15】光源とスリットの間隔に応じた基準照射範囲の変化を示す図である。
【
図16】一部の光源の照射範囲を拡大し、点灯する光源数を減らした場合を示す図である。
【
図17】実施の形態2に係る段差検知装置による出射制御処理を示すフローチャートである。
【
図18】段差検知装置のハードウェア構成を示す図である。
【
図19】段差検知装置のハードウェア構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<A.実施の形態1>
<A-1.構成>
図1は、実施の形態1に係る段差検知装置101の構成図である。段差検知装置101は、車両に搭載された照射器21と撮像器22とを用いて、車両の周辺の路面の段差を検知し、検知結果を警告通知器23および車両制御器24に出力する。
【0010】
照射器21は、車両に搭載され、車両の周辺の路面に向けて拡散光を出射する。
図2は、照射器21の構成図である。光源211は1つでもよいし、
図2の例のように複数であってもよい。
図2には、4つの光源211が示されている。4つの光源211は、例えばLED(Light-Emitting Diode)であり、それぞれの照射範囲が重複しないように横並びに配列されている。光源211の配列方向に対して平行に、板状の遮光部材212が設けられている。遮光部材212には、4つの光源211に1対1で対応する4つのスリット212Sが設けられている。各光源211からの出射光は、スリット212Sを通ることにより、1つの出射パターンとして照射器21から出射される。
【0011】
各光源211には制御部213が接続されており、制御部213により各光源211のオンおよびオフが制御される。また、各光源211の出射光が互いに干渉しないよう、隣り合う光源211の間には遮光壁214が設けられている。
【0012】
図2の例においてスリット212Sは円形であるが、他の形状であってもよい。但し、スリット212Sを通過した光が拡散光となるように、スリット212Sの面積は光源211の出射面積よりも大きいものとする。
【0013】
図2では、遮光部材212を用いて拡散光を照射する構成について説明したが、これは照射器21の構成の一例に過ぎない。拡散光を照射することが可能である限り、照射器21には他の構成が用いられてもよい。例えば、遮光部材212の代わりに他の光学系としてプリズムが設けられてもよい。
【0014】
撮像器22は、照射器21により照射された車両の周辺路面を撮影し、撮影画像を段差検知装置101に出力する。撮像器22は、照射器21と同一筐体内に構成されていてもよいし、近い位置に配置されていてもよい。照射器21および撮像器22は、例えば、車両前方の中央1箇所もしくは左右それぞれ1箇所ずつ、車両左右それぞれの側方のドアミラーもしくはバンパー付近、または車両後方の中央1箇所もしくは左右それぞれ1箇所ずつに設けられてもよいし、これらのうちの複数個所に設けられてもよい。
【0015】
次に、段差検知装置101の構成について説明する。
図1に示されるように、段差検知装置101は、出射制御部11、段差検知部12および出力制御部13を備えて構成される。
【0016】
出射制御部11は、照射器21を制御し、照射器21に車両の周辺路面へ基準出射パターンの拡散光を出射させる。基準出射パターンとは、車両の周辺路面が基準路面である場合に、その基準路面に予め定められた基準照射パターンを照射することが可能な出射パターンである。基準路面とは、凹凸のない平坦な路面のことである。本実施の形態では、照射器21により照射される周辺路面の範囲は、例えば車両の前方10mの範囲など、予め定められているものとする。出射制御部11は、照射器21の設置位置の情報を把握しており、これに基づき、周辺路面の所定の範囲に照射されるよう照射器21を制御する。
【0017】
出射制御部11の制御を受けて、照射器21の制御部213は、各光源211のオンおよびオフを一律で切り替え、照射器21から基準出射パターンが照射されるようにする。
【0018】
段差検知部12は、撮像器22により撮影された車両の周辺路面の撮影画像を解析し、照射器21の拡散光により周辺路面に実際に照射されたパターンを抽出する。周辺路面が凹凸の無い平坦な基準路面であれば、その周辺路面には基準照射パターンが照射されているはずである。しかし、周辺路面に縁石または溝などの凹凸がある場合、実際に照射されるパターンは基準照射パターンとは異なる。そこで、実際に周辺路面に照射されたパターンを実照射パターンと称する。
【0019】
さらに、段差検知部12は、実照射パターンと基準照射パターンとを比較し、両者の大きさの比較に基づき、周辺路面の段差を検知する。
【0020】
図3は、車両31に設けられた照射器21から周辺路面に拡散光が照射される様子を示している。
図3の例において、撮像器22は照射器21と一体的に構成されているものとする。照射器21の構成は
図2に例示した通りである。4つの光源211から遮光部材212のスリット212Sを通って出射する拡散光を、それぞれ拡散光361,362,363,364とする。縁石33または溝35のない基準路面34に拡散光361,362,363,364が照射される場合、基準路面34において拡散光361,362,363,364による基準の照射パターンA1,A2,A3,A4が得られる。周辺路面に縁石33がある場合、縁石33において拡散光361,362による照射パターンB1,B2が得られる。周辺路面に溝35がある場合、溝35の底面において拡散光363,364による照射パターンC3,C4が得られる。
【0021】
図4は、
図3で説明した各照射パターンを示している。縁石33がある場合、拡散光361,362による照射パターンB1,B2は基準の照射パターンA1,A2に比べて小さい。従って、段差検知部12は実照射パターンが基準照射パターンより小さい場合に、その実照射パターンの照射位置において縁石33などの基準路面34に対する凸部が存在すると判断することができる。縁石33の高さが高くなるほど、照射パターンA1,A2のサイズは小さくなる。従って、段差検知部12は実照射パターンの基準照射パターンに対する大きさの比率から、凸部の高さを計算することもできる。
【0022】
溝35がある場合、拡散光363,364による照射パターンC3,C4は基準の照射パターンA3,A4に比べて大きい。従って、段差検知部12は実照射パターンが基準照射パターンより大きい場合に、その実照射パターンの照射位置において溝35などの基準路面34に対する凹部が存在すると判断することができる。溝35が深くなるほど、照射パターンC3,C4のサイズは大きくなる。従って、段差検知部12は実照射パターンの基準照射パターンに対する大きさの比率から、凹部の深さを計算することもできる。
【0023】
図3の例では、照射器21と撮像器22とが一体的に構成されているものとしたが、これらが離れた位置に配置されている場合でも、上記の方法で段差検知部12は段差を検知することができる。
【0024】
出力制御部13は、段差検知部12から段差の検知結果を取得し、検知された段差が車両の走行に支障をきたすと判断した場合に、その段差の存在を車両の搭乗者に警告するための警告を、警告通知器23から行わせる。例えば、段差の高さが30cmなど予め定められた閾値以上の場合に、出力制御部13はその段差が車両の走行に支障をきたすと判断してもよい。段差の高さとは、凸部の高さまたは凹部の深さである。警告通知器23による警告は、表示もしくは音声またはこれらの両方によって行われる。すなわち、警告通知器23は、ディスプレイもしくはスピーカーまたはこれらの両方を備えている。
【0025】
図5は、警告通知器23による警告表示例を示している。
図5の例において、警告通知器23は、インストゥルメントパネル51の速度計52と回転計53の間の表示領域54を用いて警告表示を行う。表示領域54には、車両を示す車両アイコンと、車両の走行経路を示す経路アイコン56と、段差を示す段差アイコン57とが表示されている。この表示により、車両の運転者は、車両の左前方に段差があることを把握し、段差を回避するように運転を行うことができる。
【0026】
また、出力制御部13は、検知された段差が車両の走行に支障をきたすと判断した場合に、段差を回避するよう車両制御器24に車両の制御を行わせてもよい。この場合、車両31は車両制御器24に操舵、加速または減速のうち少なくとも一つを制御されることが可能な自動運転車両である。車両制御器24は、出力制御部13の指示を受け、例えば段差を回避するように車両の操舵を制御したり、段差の手前で停止するように車両を制動したりする。
【0027】
<A-2.動作>
図6は、実施の形態1に係る段差検知装置101の動作を示すフローチャートである。以下、
図6のフローに沿って段差検知装置101の動作を説明する。
図6のフローは、車両の走行開始と共に開始され、走行中は一定周期など随時に繰り返して行われる。
【0028】
まず、ステップS101において、出射制御部11が照射器21に車両の周辺路面へ基準出射パターンの拡散光を出射させる。
【0029】
次に、ステップS102において撮像器22が照射器21により照射された周辺路面を撮影し、段差検知部12がその撮影画像を解析して実照射パターンを抽出する。段差検知部12は、実照射パターンを基準出射パターンと比較し、両者の大きさの違いから段差の有無と、段差がある場合にはその高さを判断する。
【0030】
その後、ステップS103において出力制御部13は、走行に支障のある段差があるか否かを判断する。例えば、ステップS102において検知された段差の高さが閾値以上である場合に、ステップS103はYesとなり、段差検知装置101の処理はステップS104に移行する。
【0031】
ステップS104において出力制御部13は、警告通知器23により車両の運転者に、車両の経路上に段差がある旨の警告を通知させる。なお、出力制御部13は本ステップにおいて警告通知に加えて段差を強制的に回避する車両制御を行ってもよい。
【0032】
ステップS102において段差が検知されなかった場合、またはステップS102において検知された段差の高さが閾値未満である場合に、ステップS103でNoとなり、段差検知装置101の処理は終了する。
【0033】
<A-3.比較例>
図2から
図4では、照射器21による出射パターンを円形として説明した。照射器21による出射パターンは円形に限るものではないが、円形であることが望ましい。以下、照射器21による出射パターンがメッシュ型である場合を比較例として、円形の出射パターンによる効果を説明する。
【0034】
図7に、出射パターンがメッシュ型のパターンの拡散光を出射する比較例の照射器21の構成を示している。比較例において、遮光部材212に設けられるスリット212S1は円形ではなくメッシュ型となる。この場合、スリット212S1の部位によって光源211までの距離が異なるため、スリット212S1のどこを通った拡散光であるかによって、路面における拡散比率が変動してしまう。そのため、サイズ判定が容易な拡散光が生成できず、判定精度の低下を招く。これを避けるためには、スリット212S1のメッシュ形状にあわせて多数の光源を配置する必要があり、回路の複雑度が増加するため、照射器21の構成が肥大化し、より多くの設置スペースが必要となってしまう。
【0035】
一方、
図2に示したようにスリット212Sを円形とした場合には、光源211とスリット212Sとの距離を一定に保つことができるため、周辺路面における拡散比率を照射パターンの全体で一定に保つことができる。そのため、小型の照射器21により、サイズ判定が容易な拡散光を照射することができる。
【0036】
<A-4.効果>
実施の形態1に係る段差検知装置101は、車両31の周辺路面が平坦な基準路面である場合に周辺路面に予め定められた基準照射パターンを照射することが可能な基準出射パターンの拡散光を、車両31に搭載された照射器21から周辺路面に向けて出射させる出射制御部11と、車両31に搭載された撮像器22により撮影された周辺路面の撮影画像から、基準出射パターンの拡散光により周辺路面に照射された実照射パターンを抽出し、実照射パターンと基準照射パターンとの大きさの比較に基づき周辺路面の段差を検知する段差検知部12と、を備える。このように段差検知装置101は拡散光の照射パターンを用いて段差を検知するため、照射器21と撮像器22を一体または近距離に配置することが可能である。
【0037】
<B.実施の形態2>
<B-1.構成>
図8は、実施の形態2に係る段差検知装置102の構成を示す図である。段差検知装置102は、実施の形態1に係る段差検知装置101の構成に加えて経路推定部14を備える。
【0038】
経路推定部14は、車両のステアリング25から現在の車両の舵角を取得し、舵角に基づき車両が今後通過すると思われる走行経路を推定する。経路推定部14により推定された車両の走行経路を推定経路と称する。推定経路は、照射器21から拡散光を照射する範囲において推定されればよい。例えば、照射器21が車両から10m前方の周辺路面に拡散光を照射する場合、経路推定部14も車両から10m前方までの走行経路を推定すればよい。
【0039】
出射制御部11は、経路推定部14から車両の推定経路を取得し、推定経路を含むように照射器21による拡散光の照射範囲を設定する。
【0040】
図9および
図10は、舵角の違いによる走行経路の違いを示している。
図9は
図10より舵角が小さい場合の走行経路を示し、
図10は
図9より舵角が大きい場合の走行経路を示している。これらの図では、車両31が現在の位置X1から将来の位置X2まで走行する際の、車両31の走行経路T1が梨地で示され、前輪の走行経路T2が実線で示され、後輪の走行経路T3が一点鎖線で示されている。例えば、車両31が時速10kmで徐行している場合、将来の位置X2は、車両31が約4秒後に到達する位置である。
図9および
図10の比較から、舵角が小さい場合に比べて舵角が大きい場合のほうが、車両31の走行経路T1は広くなり、また前輪の走行経路T2と後輪の走行経路T3との差が大きくなることが分かる。
【0041】
照射器21からの拡散光の照射方向を一定とすると、段差検知装置102による段差の検知範囲、すなわち照射器21からの拡散光の照射範囲は、舵角がいずれの値となっても、その際の車両31の走行経路T1を全て含むように、予め広く設定される必要がある。予め広く設定された照射範囲を
図11および
図12に示す。これらの図において、照射器21は互いに照射範囲が異なる8つの光源を備えている。8つの光源による拡散光の照射範囲D1-D8は、互いに隙間なく配列され、これらによって照射器21の照射範囲61が得られる。照射範囲61は、舵角がいずれの値となっても走行経路T1を漏れなく照射するように設定されるため、実際の舵角に応じて不要な範囲が生じる。
図11の例では、照射範囲D3-D7によって車両31の走行経路T1をカバーできており、照射範囲D1,D2,D8は不要である。また、
図12の例でも、照射範囲D3-D8によって車両31の走行経路T1をカバーできており、照射範囲D1,D2は不要である。
【0042】
そこで、出射制御部11は、予め定められた照射範囲が走行経路T1に重ならない光源211をオフにすることを決定し、照射器21に指示する。照射器21の制御部213は、出射制御部11の指示に従い、一部の光源211をオフにする。これにより、照射器21からの拡散光の照射範囲は
図13および
図14に示すものとなる。このように、車両31の走行経路T1上の段差を検知するのに不要な範囲を照射範囲にもつ光源211をオフにすることで、照射器21の消費電力が抑制される。
【0043】
出射制御部11は、照射器21の各光源のオンまたはオフに加えて、各光源の照射範囲を変化させるよう、照射器21に指示してもよい。照射器21の制御部213は、出射制御部11の指示に従い、各光源の照射範囲を拡大または縮小する制御を行う。
【0044】
図15は、照射器21の照射範囲を拡大または縮小する方法について示している。1つの光源211から出射された拡散光による、段差のない基準路面42における照射範囲を基準照射範囲R1とし、段差41における照射範囲を段差照射範囲R2とする。光源211とスリット212Sとの距離を短くすれば、基準照射範囲R1および段差照射範囲R2は大きくなり、光源211とスリット212Sとの距離を長くすれば、基準照射範囲R1および段差照射範囲R2は小さくなる。このように、光源211とスリット212Sとの距離を調整することにより、拡散光の照射範囲の拡大または縮小が可能である。なお、
図15の段差41は凸型の段差としているが、凹型の段差でも同様である。
【0045】
光源211とスリット212Sとの距離を短くして照射範囲を大きくすれば、基準照射範囲R1および段差照射範囲R2の差分が大きくなるため、段差の高さまたは深さの計算精度が向上し、言い換えれば段差の有無についての判断精度が向上する。また、光源211とスリット212Sとの距離を長くして照射範囲を小さくすれば、検知できる段差の解像度、すなわち段差の幅などのサイズの検知精度が向上する。
【0046】
そこで、
図16に示すように、出射制御部11は、車両31の走行経路T1に重ならない照射範囲D1,D2に対応する光源をオフにすることに加え、照射範囲D3,D5,D7に対応する光源をオフにし、照射範囲D4,D6,D8を拡大してもよい。これにより、少ない光源数で広範囲をカバーできると共に、照射範囲D4,D6,D8における段差の有無についての検知精度が向上する。照射範囲D4,D6,D8において段差が検知されると、出射制御部11は照射範囲D4,D6,D8を縮小し、照射範囲D5,D7に対応する光源をオンにする。これにより、検知された段差の幅の検知精度が向上する。
【0047】
<B-2.動作>
図17は、段差検知装置102による出射制御処理を示すフローチャートである。予め出射制御部11では、車両の10m前方など、予め定められた距離だけ車両から離れた地点において、取り得る全ての舵角に対する車両の走行経路を網羅するように照射器21の照射範囲が定められている。
【0048】
ステップS201において、経路推定部14がステアリング25の舵角情報を取得する。次に、ステップS202において経路推定部14がステアリング25の舵角情報に基づき車両の走行経路を推定する。その後、ステップS203において出射制御部11は、照射範囲が走行経路と重ならない光源211の少なくとも一部をオフに設定する。なお、本ステップにおいて出射制御部11は、走行経路に重なる照射範囲が重なる複数の光源211のうち、一部の光源211の照射範囲を拡大し、残りの光源211をオフに設定してもよい。
【0049】
<B-3.効果>
実施の形態2に係る段差検知装置102は、段差検知装置101の構成に加えて、車両31のステアリング25の舵角に基づき、周辺路面上の車両が走行する予定の走行経路を推定する経路推定部14を備える。出射制御部11は、照射器21に対し、基準出射パターンの拡散光を走行経路へ向けて出射させる。従って、段差検知装置102によれば、走行経路上の段差を検出することができる。
【0050】
複数の光源211は、車両31の前方または後方に車両から予め定められた距離だけ離れた周辺路面を照射し、複数の光源211の照射範囲は、複数の光源211の全てがオンである場合に、車両31の前方方向または後方方向に車両31から予め定められた距離だけ離れた位置において、ステアリングを一方方向の最大舵角から他方方向の最大舵角まで可変とした場合に想定される全ての走行経路を含み、出射制御部11は、経路推定部14が推定した走行経路に応じて、複数の光源211のうち少なくとも1つの光源211をオフに制御する。これにより、照射範囲が走行経路に重ならない光源211をオフにすることで、段差検知に不要な照射を抑制することができる。
【0051】
出射制御部11は、経路推定部14が推定した走行経路に応じて、複数の光源211のうち少なくとも1つの光源211と光学系との距離を制御する。これにより、1つの光源211ごとの照射範囲を拡大または縮小し、段差の検知精度および段差の幅の測定精度を高めることができる。
【0052】
<C.ハードウェア構成>
上述した段差検知装置101,102における、出射制御部11、段差検知部12、出力制御部13および経路推定部14は、
図18に示す処理回路81により実現される。すなわち、処理回路81は、出射制御部11、段差検知部12、出力制御部13および経路推定部14(以下、「出射制御部11等」)を備える。処理回路81には、専用のハードウェアが適用されても良いし、メモリに格納されるプログラムを実行するプロセッサが適用されても良い。プロセッサは、例えば中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSP(Digital Signal Processor)等である。
【0053】
処理回路81が専用のハードウェアである場合、処理回路81は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものが該当する。出射制御部11等の各部の機能それぞれは、複数の処理回路81で実現されてもよいし、各部の機能をまとめて一つの処理回路で実現されてもよい。
【0054】
処理回路81がプロセッサである場合、出射制御部11等の機能は、ソフトウェア等(ソフトウェア、ファームウェアまたはソフトウェアとファームウェア)との組み合わせにより実現される。ソフトウェア等はプログラムとして記述され、メモリに格納される。
図19に示すように、処理回路81に適用されるプロセッサ82は、メモリ83に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。すなわち、段差検知装置101,102は、処理回路81により実行されるときに、出射制御部11等の処理が結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ83を備える。換言すれば、このプログラムは、出射制御部11等の手順または方法をコンピュータに実行させるものであるともいえる。ここで、メモリ83は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)などの、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、HDD(Hard Disk Drive)、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD(Digital Versatile Disk)及びそのドライブ装置等、または、今後使用されるあらゆる記憶媒体であってもよい。
【0055】
以上、出射制御部11等の各機能が、ハードウェア及びソフトウェア等のいずれか一方で実現される構成について説明した。しかしこれに限ったものではなく、出射制御部11等の一部を専用のハードウェアで実現し、別の一部をソフトウェア等で実現する構成であってもよい。例えば出射制御部11については専用のハードウェアとしての処理回路でその機能を実現し、それ以外についてはプロセッサ82としての処理回路81がメモリ83に格納されたプログラムを読み出して実行することによってその機能を実現することが可能である。
【0056】
以上のように、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア等、またはこれらの組み合わせによって、上述の各機能を実現することができる。
【0057】
段差検知装置102は典型的には車載装置であるが、PND(Portable Navigation Device)、通信端末(例えば携帯電話、スマートフォン、およびタブレットなどの携帯端末)、およびこれらにインストールされるアプリケーションの機能、並びにサーバなどを適宜に組み合わせてシステムとして構築されるシステムにも適用することができる。この場合、以上で説明した段差検知装置101,102の各機能または各構成要素は、システムを構築する各機器に分散して配置されてもよいし、いずれかの機器に集中して配置されてもよい。段差検知装置101,102は、以上の説明では別体であった照射器21および撮像器22の少なくともいずれか1つを備えていてもよい。
【0058】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上記の実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上記の実施の形態等に種々の変形および置換を加えることができる。
【0059】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0060】
(付記1)
車両の周辺路面が平坦な基準路面である場合に前記周辺路面に予め定められた基準照射パターンを照射することが可能な基準出射パターンの拡散光を、前記車両に搭載された照射器から前記周辺路面に向けて出射させる出射制御部と、
前記車両に搭載された撮像器により撮影された前記周辺路面の撮影画像から、前記基準出射パターンの拡散光により前記周辺路面に照射された実照射パターンを抽出し、前記実照射パターンと前記基準照射パターンとの大きさの比較に基づき前記周辺路面の段差を検知する段差検知部と、を備える、
段差検知装置。
【0061】
(付記2)
前記段差の検知結果に基づき、前記車両に搭載された警告通知器から、表示または音声によって前記段差が存在する旨の警告を行わせる出力制御部をさらに備える、
付記1に記載の段差検知装置。
【0062】
(付記3)
前記車両は、操舵、加速または減速の少なくともいずれかを車両制御器により制御されることが可能な自動運転車両であり、
検知された前記段差を回避するよう前記車両制御器に前記車両の制御を行わせる出力制御部をさらに備える、
付記1に記載の段差検知装置。
【0063】
(付記4)
前記照射器と、
前記撮像器とをさらに備え、
前記照射器は、
複数の光源と、
前記複数の光源から出射された光の夫々を前記基準出射パターンの拡散光として前記周辺路面に向けて出射する光学系とを備える、
付記1から付記3のいずれかに記載の段差検知装置。
【0064】
(付記5)
前記光学系は、前記複数の光源の出射光が通過する円形の複数のスリットが設けられた遮光部材であり、
各前記スリットの面積は各前記光源の出射面積よりも大きく、
前記複数のスリットは前記複数の光源と1対1で設けられ、
各前記スリットを通過した各前記光源の出射光が1つの前記基準出射パターンを構成する、
付記4に記載の段差検知装置。
【0065】
(付記6)
前記車両のステアリングの舵角に基づき、前記周辺路面上の前記車両が走行する予定の走行経路を推定する経路推定部をさらに備え、
前記出射制御部は、前記照射器に対し、前記基準出射パターンの拡散光を前記走行予定経路へ向けて出射させる、
付記1から付記5のいずれかに記載の段差検知装置。
【0066】
(付記7)
前記複数の光源は、前記車両の前方または後方に前記車両から予め定められた第1距離だけ離れた前記周辺路面を照射し、
前記複数の光源の照射範囲は、前記複数の光源の全てがオンである場合に、前記車両の前方方向または後方方向に前記車両から前記第1距離だけ離れた位置において、前記ステアリングを一方方向の最大舵角から他方方向の最大舵角まで可変とした場合に想定される全ての前記走行予定経路を含み、
前記出射制御部は、前記経路推定部が推定した前記走行予定経路に応じて、前記複数の光源のうち少なくとも1つの光源をオフに制御する、
付記6に記載の段差検知装置。
【0067】
(付記8)
前記出射制御部は、前記経路推定部が推定した前記走行予定経路に応じて、前記複数の光源のうち少なくとも1つの光源と前記光学系との距離を制御する、
付記7に記載の段差検知装置。
【0068】
(付記9)
画像取得部が、車両に搭載された撮像器により撮影された前記車両の周辺路面の撮影画像を取得し、
出射制御部が、前記車両に搭載された照射器による前記周辺路面へ向けた光の出射を制御し、
段差検知部が、前記撮影画像に基づき前記周辺路面の段差を検知し、
前記出射制御部が、前記周辺路面が実質的に平坦な路面である場合に前記周辺路面に基準照射パターンを照射することが可能な基準出射パターンの拡散光を前記周辺路面へ向けて出射するよう、前記照射器を制御し、
前記画像取得部が、前記基準出射パターンの拡散光により前記周辺路面に照射された実照射パターンを前記撮影画像から抽出し、
前記段差検知部が、前記実照射パターンの大きさを前記基準照射パターンの大きさと比較することにより、前記段差を検知する、
段差検知方法。
【符号の説明】
【0069】
11 出射制御部、12 段差検知部、13 出力制御部、14 経路推定部、21 照射器、22 撮像器、23 警告通知器、24 車両制御器、25 ステアリング、31 車両、33 縁石、34 基準路面、35 溝、41 段差、42 基準路面、51 インストゥルメントパネル、52 速度計、53 回転計、54 表示領域、56 経路アイコン、57 段差アイコン、61 照射範囲、81 処理回路、82 プロセッサ、83 メモリ、101,102 段差検知装置、211 光源、212 遮光部材、212S,212S1 スリット、213 制御部、214 遮光壁、361,362,363,364 拡散光、R1 基準照射範囲、R2 段差照射範囲、T1,T2,T3 走行経路。