(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177790
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ホール輸送材料及びホール輸送材料を用いた太陽電池
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20241217BHJP
C07D 333/06 20060101ALI20241217BHJP
H10K 30/40 20230101ALI20241217BHJP
H10K 30/86 20230101ALI20241217BHJP
H10K 85/50 20230101ALI20241217BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20241217BHJP
【FI】
H10K30/50
C07D333/06
H10K30/40
H10K30/86
H10K85/50
H10K85/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096126
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】土本 勝也
(72)【発明者】
【氏名】サナ・アムリタ
(72)【発明者】
【氏名】デボジュ・ハリナダ・チャリィ
(72)【発明者】
【氏名】マリードゥ・スリニバス
【テーマコード(参考)】
3K107
5F251
【Fターム(参考)】
3K107AA03
3K107DD71
3K107DD78
5F251AA11
5F251AA20
5F251CB11
5F251CB12
5F251CB13
5F251CB14
5F251CB15
5F251CB27
5F251CB29
5F251EA09
5F251EA16
5F251FA02
5F251FA06
5F251GA01
5F251XA01
5F251XA43
5F251XA55
(57)【要約】 (修正有)
【課題】優れたホール輸送特性を安定的に示すホール輸送材料、更に、電池性能の高い太陽電池の安価な提供。
【解決手段】一般式(1)で表されるドナー-アクセプター-ドナー型構造を有し、A部を、炭素原子と水素原子からなる電子受容性基を含んで構成し、フルオレン環上の9位に炭素間二重結合を介して基(VI)で表されるR
Aが導入され、フルオレン環上の2位及び7位にD部が導入されたホール輸送材料、及び、太陽電池。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表されるドナー-アクセプター-ドナー(D-A-D)型構造を有するホール輸送材料。
【化1】
〔一般式(1)中、
2つのD部は、同一の構造を有する領域であり、
各D部は、下記の基(I)、基(II)、基(III)、基(IV)、及び、基(V)から選択される1つの構造を有し、
【化2】
(基(I)中、
XとYは、それぞれ独立して、0、1、2の何れかの整数である
R
1は、-H、-C
nH
2n+1、-O-C
nH
2n+1、及び、-S-C
nH
2n+1から選択され、ここで、n=1~8の整数であり、
R
3は、-H、-C
nH
2n+1、-O-C
nH
2n+1、及び、-S-C
nH
2n+1から選択され、ここで、n=1~8の整数であり、
ただし、R
1とR
3は、同時に-Hであることはなく、
R
2a1、R
2a2、R
2b1、及び、R
2b2は、それぞれ独立して、-H、-F、及び、-CF
3から選択され、ここで、R
2a1とR
2a2は、少なくとも一方が-Hであり、R
2b1とR
2b2は、少なくとも一方が-Hである。)
【化3】
(基(II)中、
XとYは、それぞれ独立して、0、1、2の何れかの整数である
R
1は、-H、-C
nH
2n+1、-O-C
nH
2n+1、及び、-S-C
nH
2n+1から選択され、ここで、n=1~8の整数であり、
R
3は、-H、-C
nH
2n+1、-O-C
nH
2n+1、及び、-S-C
nH
2n+1から選択され、ここで、n=1~8の整数であり、
ただし、R
1とR
3は、同時に-Hであることはなく、
R
2a1とR
2a2は、それぞれ独立して、-H、-F、及び、-CF
3から選択され、ここで、R
2a1とR
2a2は、少なくとも一方が-Hであり、
R
4は、-H、-C
nH
2n+1、-O-C
nH
2n+1、及び、-S-C
nH
2n+1から選択され、ここで、nは、1~8の何れかの整数であり、
Yが1又は2であって、R
5が存在する場合には、R
5は、基(II)中のチオフェン環の3位又は4位に導入され、-H及び-C
nH
2n+1から選択され、ここで、nは、1~8の何れかの整数である。)
【化4】
【化5】
【化6】
(基(III)、基(IV)、及び、基(V)中、
XとYは、それぞれ独立して、0、1、2の何れかの整数であり、
2つのR
Dは、それぞれ独立して、下記の基(I´)で表される構造を有し、
【化7】
(基(I´)中、
X´とY´は、それぞれ独立して、0、1、2の何れかの整数である
R
1´は、-H、-C
nH
2n+1、-O-C
nH
2n+1、及び、-S-C
nH
2n+1から選択され、ここで、n=1~8の整数であり、
R
3´は、-H、-C
nH
2n+1、-O-C
nH
2n+1、及び、-S-C
nH
2n+1から選択され、ここで、n=1~8の整数であり、
ただし、R
1´とR
3´は、同時に-Hであることはなく、
R
2a1´、R
2a2´、R
2b1´、及び、R
2b2´は、それぞれ独立して、-H、-F、及び、-CF
3から選択され、ここで、R
2a1´とR
2a2´は、少なくとも一方が-Hであり、R
2b1´とR
2b2´は、少なくとも一方が-Hである。))
一般式(1)中、
R
Aは、下記の基(VI)で表される構造を有し、
【化8】
(基(VI)中、
R
6は、-C
mH
2m+1であり、ここで、m=6~16の整数である。)〕
【請求項2】
RAは、5-(2-エチルへキシル)-2-チエニルである、請求項1に記載のホール輸送材料。
【請求項3】
以下の一般式(2)又は一般式(5)で表される、請求項1に記載のホール輸送材料。
【化9】
【化10】
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載のホール輸送材料を用いた太陽電池であって、
透明導電膜を有する基板、
電子を前記透明導電膜に受け渡し、かつ逆電子移動を防止するブロッキング層、
光によって励起して前記電子を発生するペロブスカイト層を多孔質半導体に積層させて形成される発電層、
前記ペロブスカイト層から発生したホールが通過し、前記ホール輸送材料を有するホール輸送層、の順に積層される積層体と、
前記透明導電膜を介して前記電子を放出する光電極、及び、前記ホール輸送層の表面に設けられた対向電極で構成される電極と、を備えている、太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホール輸送材料及びホール輸送材料を用いた太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池には、シリコン系、化合物半導体、有機半導体などの素子を用いたものが一般的であるが、高い光捕集能に加え、薄膜化や低コスト化の可能なハイブリッド型太陽電池(ペロブスカイト太陽電池)が注目されている。
【0003】
非特許文献1には、透明導電膜付きガラス基板と、緻密な二酸化チタン(TiO2)膜からなるブロッキング層と、光によって励起して電子を発生するペロブスカイト化合物として臭化鉛(PbBr2)、ヨウ化鉛(PbI2)、メチルアミン臭化水素酸塩(CH5N・HBr:以下、「MABr」と略する場合がある)、及び、ホルムアミジンヨウ化水素酸塩(CH4N2・HI:以下、「FAI」と略する場合がある)を多孔質の二酸化チタン(TiO2)に積層させて形成される発電層と、ホール輸送層と、電極とを備えたペロブスカイト太陽電池が示されている。
【0004】
この発電層は、混合ハロゲン化物(FAPbI3)0.85(MAPbBr3)0.15ペロブスカイト層として形成されている。
【0005】
従来において、ホール輸送層に用いられるホール輸送材料として、下記の一般式(A)で表される2,2´,7,7´-テトラキス(N,N´-ジ-p-メトキシフェニルアミノ)-9,9´-スピロビフルオレン(2,2',7,7'-tetrakis(N,N'-di-p-methoxyphenylamine)-9,9'-spirobifluorene(一般呼称「spiro-OMeTAD」、以下、本呼称を使用))が汎用されている。ペロブスカイト化合物の結晶が光を吸収することによって電子とホールを生じる。ホールは、ホール輸送材料により対向電極に輸送され、電子は光電極に移動するといったサイクルを繰り返すことで発電する。
【0006】
【0007】
spiro-OMeTADは市販されており入手が容易であるが、非特許文献1でも報告される通り、spiro-OMeTADには、合成及び精製工程数が多く要求されることから本質的に低コスト化が困難であるとの問題点があった。更に、ホール移動度が比較的低い、ホール輸送材料として効率的かつ安定的に機能するためにはコバルト錯体等のドーパントを要する等の問題点もあった。また、spiro-OMeTADをホール輸送材料として太陽電池に組み込んだ際に高い初期性能を発揮し得るが、その持続性に問題があった。そのため、低コストに提供でき、かつ、効率的かつ安定的なホール輸送効果を奏するホール輸送材料の研究が進められている。
【0008】
そこで、非特許文献1では、新規なホール輸送材料として、アクセプター(以下、「A」という)部にカルバゾール環、ドナー(以下、「D」という)部にトリフェニルジメトキアミノ基を有し、これらがドナー-アクセプター-ドナー型(以下、「D-A-D型」という)構造に連結した下記の一般式(B)で表されるLD29と呼称される化合物が報告されている。かかるLD29をホール輸送材料として利用した太陽電池においてドーパントフリーでは変換効率が14.29%であったが、ドーパントとしてリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(以下、「LiTFSI」と称する場合がある)、4-tert-ブチルピリジン(TBP)、コバルト錯体(FK209)を添加すると変換効率が18.0%に改善され、spiro-OMeTADに匹敵する変換効率が得られている。
【0009】
【0010】
LD29において、A部にカルバゾール環が導入されているが、当該カルバゾール環の9位のヘテロ原子(窒素原子)上の不対電子対(ローンペア)が電子吸引性に対して阻害する方向に働くことが考えられる。これにより、LD29の分子内でのホール輸送能力が低下し、LD29をホール輸送材料として使用する太陽電池において十分な太陽電池効率を得ることが難しいことが想定される。また、当該太陽電池は、時間の経過と共に太陽電池効率が低下する等、その耐久性の面での課題があった。これは、ホール輸送材料にドーパントとして添加されたLiTFSIに含まれるリチウムイオンがホール輸送層の外に拡散してしまうことや、LiTFSI自体に強い吸湿性があること等に起因するものであると考えられる。
【0011】
また、非特許文献2において、下記の一般式(C)で表されるYN1と称される化合物が、非特許文献3において、下記の一般式(D)で表されるPTZ2と称される化合物が報告されている。何れの化合物もD-A-D型構造を有するものであるが、上記したLD29と同様の問題点がある。
【0012】
【0013】
【0014】
このように、D-A-D型構造を有するホール輸送材料等の低分子有機材料に関する多くの研究が進められている。本願の発明者らも、特許文献1において、下記の一般式(E)で表されるDHCF-3と称される低分子有機材料を報告した。かかるDHCF-3は、優れたホール輸送特性を安定的に示しホール輸送材料として良好に機能し、かつ、太陽電池に導入したところ良好な太陽電池性能を発揮したことが確認されたものである。ここで、DHCF-3は、A部にフルオレン環、D部に4-(ビス(4-メトキシフェニル)アミノ)フェニル基を有し、かつA部のフルオレン環の9位の炭素にC-C二重結合を介してD部と同一の置換基が導入された構造を有する。
【0015】
【0016】
しかし、特許文献1に記載のホール輸送材料は、A部の置換基が嵩高いことから、一方のD部とA部の置換基が立体的に接近した配置となり、この近接している側のD部がA部のフルオレン環に対しより大きくねじれた配置を取る。そのためπ共役が弱くなりホール輸送効果が阻害されることが想定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Xuepeng Liu他著、“A star-shaped carbazole-based hole-transporting material with triphenylamine side arms for perovskite solar cells,”J.Mater.Chem.C., 2018, 6, 12912-12918(DOI:10.1039/c8tc04191a)
【非特許文献2】Peng Xu他著、“D-A-D-Typed Hole Transport Materials for Efficient Perovskite Solar Cells: Tuning Photovoltaic Properties via the Acceptor Group”、ACS Appl. Mater. Interfaces 2018, 10, 23(DOI:10.1021/acsami.8b04003)
【非特許文献3】Roberto Grisorio他著、“Molecular Tailoring of Phenothiazine-Based Hole-Transporting Materials for High-Performing Perovskite Solar Cells”、ACS Energy Lett. 2017, 2, 5, 1029-1034(DOI:10.21/acsenergylett.7b00054)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
そこで、上記従来技術の問題点を鑑み、優れたホール輸送特性を安定的に示すホール輸送材料の提供が依然として求められていた。また、ホール輸送材料を安価に提供することが求められていた。更に、電池性能の高い太陽電池を安価で提供することが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に係るホール輸送材料の特徴構成は、
下記の一般式(1)で表されるドナー-アクセプター-ドナー(D-A-D)型構造を有するホール輸送材料。
【化6】
〔一般式(1)中、
2つのD部は、同一の構造を有する領域であり、
各D部は、下記の基(I)、基(II)、基(III)、基(IV)、及び、基(V)から選択される1つの構造を有し、
【化7】
(基(I)中、
XとYは、それぞれ独立して、0、1、2の何れかの整数である
R
1は、-H、-C
nH
2n+1、-O-C
nH
2n+1、及び、-S-C
nH
2n+1から選択され、ここで、n=1~8の整数であり、
R
3は、-H、-C
nH
2n+1、-O-C
nH
2n+1、及び、-S-C
nH
2n+1から選択され、ここで、n=1~8の整数であり、
ただし、R
1とR
3は、同時に-Hであることはなく、
R
2a1、R
2a2、R
2b1、及び、R
2b2は、それぞれ独立して、-H、-F、及び、-CF
3から選択され、ここで、R
2a1とR
2a2は、少なくとも一方が-Hであり、R
2b1とR
2b2は、少なくとも一方が-Hである。)
【化8】
(基(II)中、
XとYは、それぞれ独立して、0、1、2の何れかの整数である
R
1は、-H、-C
nH
2n+1、-O-C
nH
2n+1、及び、-S-C
nH
2n+1から選択され、ここで、n=1~8の整数であり、
R
3は、-H、-C
nH
2n+1、-O-C
nH
2n+1、及び、-S-C
nH
2n+1から選択され、ここで、n=1~8の整数であり、
ただし、R
1とR
3は、同時に-Hであることはなく、
R
2a1とR
2a2は、それぞれ独立して、-H、-F、及び、-CF
3から選択され、ここで、R
2a1とR
2a2は、少なくとも一方が-Hであり、
R
4は、-H、-C
nH
2n+1、-O-C
nH
2n+1、及び、-S-C
nH
2n+1から選択され、ここで、nは、1~8の何れかの整数であり、
Yが1又は2であって、R
5が存在する場合には、R
5は、基(II)中のチオフェン環の3位又は4位に導入され、-H及び-C
nH
2n+1から選択され、ここで、nは、1~8の何れかの整数である。)
【化9】
【化10】
【化11】
(基(III)、基(IV)、及び、基(V)中、
XとYは、それぞれ独立して、0、1、2の何れかの整数であり、
2つのR
Dは、それぞれ独立して、下記の基(I´)で表される構造を有し、
【化12】
(基(I´)中、
X´とY´は、それぞれ独立して、0、1、2の何れかの整数である
R
1´は、-H、-C
nH
2n+1、-O-C
nH
2n+1、及び、-S-C
nH
2n+1から選択され、ここで、n=1~8の整数であり、
R
3´は、-H、-C
nH
2n+1、-O-C
nH
2n+1、及び、-S-C
nH
2n+1から選択され、ここで、n=1~8の整数であり、
ただし、R
1´とR
3´は、同時に-Hであることはなく、
R
2a1´、R
2a2´、R
2b1´、及び、R
2b2´は、それぞれ独立して、-H、-F、及び、-CF
3から選択され、ここで、R
2a1´とR
2a2´は、少なくとも一方が-Hであり、R
2b1´とR
2b2´は、少なくとも一方が-Hである。))
一般式(1)中、
R
Aは、下記の基(VI)で表される構造を有し、
【化13】
(基(VI)中、
R
6は、-C
mH
2m+1であり、ここで、m=6~16の整数である。)〕、点にある。
【0021】
上記構成によれば、安定的かつ効率的にホールを捕捉し移動させることができる優れたホール輸送特性を有しているホール輸送材料を提供することができる。詳細には、本構成のホール輸送材料は、D-A-D型構造を有し、A部を炭素原子と水素原子からなるフルオレン環等の電子受容性基を含んで構成すると共に、フルオレン環上の2位及び7位それぞれに4-(ビス(4-メトキシフェニル)アミノ)フェニル基等の電子供与性基を含むD部を導入し、更に、フルオレン環上の9位に炭素間二重結合を介して5-アルキル-2-チエニル基を導入して構成されている。このように構成することにより、A部の電子吸引性が向上すると共に、従来における技術的問題であったA部の置換基とD部との立体的な干渉が解消されることで、ホール輸送材料の分子内でのプッシュ-プル効果が大きくなり、分子内の電荷移動特性が向上する。結果として、分子内での電子の移動がスムーズになりHOMO-LUMOの電荷分離がより明確になる。つまり、上記構成のホール輸送材料は、HOMO及びHOMO-1準位でD部に電子が集中し、LUMO準位でA部に電子が集中する。このように、本構成のホール輸送材料は、分子内での電荷移動特性が向上したことから優れたホール輸送特性を発揮することができる。更に、ヘテロ原子を含まないフルオレン環をA部に用いることにより、〔先行技術の〕項で説明したLD29等で生じていたヘテロ原子の不対電子対(ローンペア)による電子吸引性の阻害が解消され、より効果的にホール輸送材料として機能し得る。
【0022】
また、本構成のホール輸送材料は、深いHOMOエネルギー準位を有することから、ペロブスカイトのHOMO準位との配置を適切に調節でき、ホール輸送特性を向上させることができ、更に太陽電池効率を向上させ易いとの利点もある。
【0023】
本構成のホール輸送材料は、500nm以上の可視光域でほとんど光吸収を示さず、かつ、400~500nm領域の光吸収強度が従来において汎用されるspiro-OMeTADと同等程度に弱い。このため、本構成のホール輸送材料を用いた太陽電池は、ホール輸送材料による光吸収ロスを最低限に抑えることができ、高い光電変換効率を期待することができる。
【0024】
本構成のホール輸送材料は、溶媒への溶解性の面でも優れた特性を有する。特に、A部のフルオレン環に対して長鎖アルキル基を有する5-アルキル-2-チエニル基を導入することにより溶媒への溶解性が向上している。そのため、太陽電池を作製する際の作業性が向上し、また、スピンコートによる塗布法等のウェットプロセス等をも利用することができ、太陽電池のホール輸送層の形成が容易となる。また、本構成のホール輸送材料は、非極性溶媒にも可溶であるため、安価かつ環境負荷の低い溶媒を用いて、太陽電池のホール輸送層を作製することが可能である。一方、従来において汎用されるspiro-OMeTADは、ホール輸送層を作製する際に、溶媒としてクロロベンゼンを用いるのが一般的である。しかし、クロロベンゼンは、分子内に塩素原子を含み、かつ、高価であることから、溶媒廃棄等の後処理を含めた設備として費用が嵩み、また、排気漏れ等による安全及び環境への負荷も大きいとの問題点がある。
【0025】
また、本構成のホール輸送材料は、安価な原料により、短時間に少ない合成工程により合成することができ、かつ、簡単な精製工程により高純度品を提供できる。そのため、高価な試薬や煩雑な工程を要せず、合成や精製に要するコストを低減することができ、安価かつ高性能なホール輸送材料を提供することができる。
【0026】
更に、A部に導入した5-アルキル-2-チエニル基の長鎖アルキル基による疎水性効果により、本構成のホール輸送材料を導入した太陽電池の耐水性を向上させることができる。また、本実施形態に係るホール輸送材料は、その分子内及び分子間のホールの移動がスムーズに行われることから、分子の酸化が抑制され耐久性が向上できる。これにより、太陽電池の耐久性の向上が期待できる。
【0027】
このように、本構成のホール輸送材料は、優れた特性を有することから、太陽電池のホール輸送材料として好適に利用することができ、本構成のホール輸送材料をペロブスカイト太陽電池等のホール輸送層に用いた場合、初期実験において優れた電池性能を示した。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】ペロブスカイト太陽電池の模式断面図である。
【
図2】ペロブスカイト太陽電池の上方からの斜視図である。
【
図3】ペロブスカイト太陽電池の発電説明図である。
【
図4】ペロブスカイト太陽電池の作製手順を示す説明図である。
【
図5】実施例1において調製を行ったホール輸送材料(DHCF-17)の合成スキームを示す図である。
【
図6】実施例1において調製を行ったホール輸送材料(DHCF-17)の合成を確認した
1H NMR分析の結果を示す図である。
【
図7】実施例1において調製を行ったホール輸送材料(DHCF-17)の合成を確認した質量分析の結果を示す図である。
【
図8】実施例1において調製を行ったホール輸送材料(DHCF-17)の合成を確認した紫外可視近赤外分光分析の結果を示す図である。
【
図9】実施例3で検討を行った太陽電池の電池性能評価の結果を示すグラフであり、検討を行った各太陽電池のIV特性を示すものである。
【
図10】実施例4で検討を行った太陽電池の電池性能評価の結果の一例を示すグラフであり、検討を行った各太陽電池のIV特性を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明に係るホール輸送材料を用いたペロブスカイト太陽電池10(太陽電池10の一例。以下、「太陽電池10」と記載する。)の実施形態について、図面に基づいて説明する。本実施形態では、太陽電池10の一例として、有機及び無機のハイブリッド化合物で生成されるペロブスカイト層44を備えて構成された太陽電池10として説明する。ただし、以下の実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0030】
(本実施形態に係る太陽電池10の基本構成)
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る太陽電池10は、透明基板21及び透明導電膜22を有する基板2と、基板2上に設けられ、電子を透明導電膜22に受け渡し、且つホール輸送層5と透明導電膜22とを分離して電子とホールとの再結合(逆電子移動)を防止するブロッキング層3と、ブロッキング層3上に設けられ、光によって励起して電子を発生するペロブスカイト層44を多孔質半導体41に積層させて形成される発電層4と、発電層4上に設けられペロブスカイト層44で発生したホールが通過するホール輸送層5とで構成される積層体11を備えている。また、ブロッキング層3の表面に設けられ、透明導電膜22を介して電子を放出する光電極61と、ホール輸送層5の表面に設けられ、電子を受け取る対向電極62とで構成される電極6を備えている。なお、電極6の配置は、例えば透明導電膜22に導線接続して光電極61を形成するなど、電子の受け渡しが可能なものであれば特に限定されない。また、太陽電池10の耐久性を高めるため、対向電極62を透明基板21などで保護しても良い。
【0031】
透明基板21は、光透過性を有するもので構成される。例えば、透明ガラス基板、すりガラス状の半透明ガラス基板、透明樹脂基板等を適用することができる。また、透明導電膜22は、例えば、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化スズ(TO)、スズドープ酸化インジウム(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)やアルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)などを用いることができる。
【0032】
ブロッキング層3及び多孔質半導体41は、金属酸化物が適しており、例えば、二酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニオブ(Nb2O5)、二酸化スズ(SnO2)や酸化アルミニウム(Al2O3)などが用いられる。特に、ペロブスカイト層44を積層するための表面積を多く確保できる二酸化チタン(TiO2)の焼結体として構成することが好ましい。また、ブロッキング層3は、一部が透明導電膜22に延出して形成され、透明導電膜22が区画される。更に、ブロッキング層3は、電子が積層方向に通過することができるが、横方向への移動がし難いように緻密な絶縁層31を形成している。つまり、ブロッキング層3から侵入した電子は、透明導電膜22の積層方向に円滑に移動して光電極61に供給されると共に、絶縁層31によって対向電極62への移動が防止されるので短絡しない。
【0033】
ペロブスカイト層44は、鉛及びハロゲン元素Xで構成される化合物(PbX2、X=ハロゲン元素)と、メチルアンモニウムアイオダイド(CH3NH3I:以下、「MAI」と略する場合がある)とを反応させて生成される。具体的には、多孔質半導体41の孔内部に鉛及びハロゲン元素Xを含む溶液42を浸透・乾燥させた後、MAIの混合溶液43に浸漬して、ペロブスカイト層44を形成するペロブスカイト化合物(X=Iの場合、CH3NH3PbI3)の結晶が速やかに生成される。なお、ハロゲン元素Xは、ヨウ素、臭素や塩素などを用いることができるが、形態安定性の高いヨウ素を用いることが好ましい。また、MABrと0.2Mの臭化鉛(PbBr2)、FAIとヨウ化鉛(PbI2)を利用した混合カチオン-混合ハライド((FAPbI3)1-x(MAPbBr3)x)としてもよい。例えば、(FAPbI3)0.85(MAPbBr3)0.15等を好適に用いることができる。
【0034】
ホール輸送層5には、後述するホール輸送材料を用いる。電極6は、例えば、金、白金、銀、銅等の金属の単体や合金、あるいはフッ素ドープ酸化スズ(FTO)やスズドープ酸化インジウム(ITO)といった酸化物導電体などを用いることができる。
【0035】
ここで、
図3に基づいて太陽電池10が発電する原理について説明する。透明基板21に太陽光や室内光等の光が入射すると、この入射光はほとんど吸収されることなく基板2やブロッキング層3を透過して、大部分が発電層4に到達する。そして、発電層4に到達した入射光がペロブスカイト層44に照射されると、このペロブスカイト層44は光エネルギーを吸収して励起する。この励起により、ペロブスカイト層44のエネルギー準位が多孔質半導体41である金属酸化物の伝導帯電位よりも所定レベル以上高くなると、ペロブスカイト層44から多孔質半導体41へと電子が注入される。注入された電子は、ブロッキング層3を経て光電極61で集電される。
【0036】
一方、ペロブスカイト層44で発生したホールは、ホール輸送層5を経由して対向電極62へ到達し、ここで外部負荷7を経由してきた電子と再結合する。つまり、光電極61と対向電極62との間に電位勾配が生じるので、両極間に外部負荷7を接続することによって、電力を供給することができる。
【0037】
(本実施形態に係る太陽電池10の作製手順)
本実施形態に係る太陽電池10の作製手順を、
図4に基づいて説明する。ただし、以下の実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。また、Michael Saliba他著、“Correction to “How to Make over 20% Efficient Perovskite Solar Cells in Regular (n-i-p) and Inverted (p-i-n) Architectures””、Chem. Mater., 2018, 30, 4193-4218等の公知技術を参照して作製することができる。
【0038】
まず、透明基板21の上に透明導電膜22を形成して基板2を作製する。透明導電膜22は、例えば、CVD(化学的気相成長法)やスパッタリングなどにより透明基板21上に積層される。次いで、レーザースクライブを施して透明導電膜22を部分的に除去し絶縁層31が入る凹部221を形成した後、洗浄する。次いで、基板2上の全面に、ALD法(原子層堆積法)やSPD法(スプレー熱分解法)などによりブロッキング層3を形成する。ブロッキング層3は、好ましくは、TiO2緻密層として形成される。次いで、マスキングを施した基板2及びブロッキング層3上の中央付近に、ナノ粒子焼結層である多孔質半導体41を形成する。好ましくはTiO2の多孔質層(p-TiO2)として形成される。この多孔質半導体41は、ナノ粒子ペーストを溶媒によって希釈し、例えば、4000rpm~6000rpmの回転速度のスピンコート法で塗布・乾燥した後、マスキングを取り除いて450℃~550℃で加熱し、焼結形成される。
【0039】
例えばPbI2のN,N-ジメチルホルムアミド溶液42を調製し、多孔質半導体41上に滴下後、例えば、5000rpm~8000rpmの回転速度のスピンコートにより孔(p-TiO2)内部への浸透と余分な溶液の除去を行う。60℃~120℃(好ましくは70℃~90℃)で乾燥させてPbI2層を形成する。
【0040】
MAI(CH3NH3I)のイソプロピルアルコール溶液43(2~20mg/ml)に、基板2・ブロッキング層3・ヨウ化鉛が浸透した多孔質半導体41を0℃~80℃(好ましくは常温)で浸漬する(MAI浸漬法)。PbI2とMAIが反応によりペロブスカイト化合物[(CH3NH3)PbI3(MAPbI3)]をペロブスカイト層44として多孔質半導体41の孔内部及び上部に形成した後、純イソプロピルアルコール溶液で灌ぎ、60℃~120℃(好ましくは70℃~100℃)で乾燥させる。混合カチオン-混合ハライド((FAPbI3)1-x(MAPbBr3)x)系のペロブスカイト化合物についても同様にして調製することができる。
【0041】
本実施形態に係るホール輸送材料を、例えば、クロロベンゼン溶液60~90mg/mlとして調製する。溶液をペロブスカイト層44上に滴下し、スピンコート法により余分な溶液の除去を行い、乾燥させることでホール輸送層5を形成する。ホール輸送材料には、4-イソプロピル-4´-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(以下、「TPFB」と称する場合がある)等の添加物を添加してもよい。TPFBを添加する場合には、TPFBは、ホール輸送材料の0.01重量%~100重量%であることが好ましく、0.1重量%~50重量%であることが特に好ましい。例えば、本実施形態に係るホール輸送材料を30mMとなるように秤量し、その10重量%に相当するTPFBを加え、これらをクロロベンゼンに溶解させたものを用いてホール輸送層5を形成することができる。
【0042】
PbI2層形成からホール輸送層5形成までの工程は、グローブボックスなど乾燥窒素雰囲気下で行うことが好ましい。最後に、真空蒸着法などによって、金などの薄膜をブロッキング層3及びホール輸送層5の表面に付着させ、電極6を形成する。
【0043】
上記の作製手順では、ペロブスカイト層44を形成するペロブスカイト化合物を2ステップによって結晶成長制御したものであるが、これを1ステップで行ってよい。例えば、ペロブスカイト((CH3NH3)PbI3)溶液をスピンコート法により、多孔質半導体41の孔内部に浸透させる。スピン中にトルエンを滴下し、微小結晶を析出させて表面を鏡面化する(貧溶媒析出法)。続いて、本実施形態に係るホール輸送材料によりホール輸送層5を形成してもよい。
【0044】
(本実施形態に係るホール輸送材料)
本実施形態に係るホール輸送材料は、D-A-D型構造を有する。下記の一般式(1)で表される化合物が好適に例示される。
【0045】
【0046】
A部には、電子受容性基(電子吸引性基)が導入され、ここでは、A部がフルオレン環として構成され、当該フルオレン環上の9位に炭素間二重結合を介して置換基RAが導入ている。フルオレン環は、炭素原子と水素原子から構成され、窒素原子等のヘテロ原子を含まない。更に、このフルオレン環上の2位及び7位で、D部とそれぞれ連結している。フルオレン環上の2位及び7位に連結している各D部は、好ましくは同一の基として構成される。
【0047】
D部は、電子供与性基として構成され、ここでは、好ましくは、以下の基(I)、基(II)、基(III)、基(IV)、又は、基(V)から選択される1の構造を有する。なお、基中の波線は、A部との結合位置を示す。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
基(I)、基(II)、基(III)、基(IV)、及び、基(V)において、XとYは、独立して、0、1、2の何れかの整数である。したがって、基(I)及び基(II)は、下記で説明する置換基を有するジフェニルアミノ基(X=0、Y=0)、4-(ジフェニルアミノ)フェニル基(X=1、Y=0)、4´-(ジフェニルアミノ)〔1,1´-ビフェニル〕-4-イル基(X=2、Y=0)、5-(ジフェニルアミノ)チオフェン-2-イル(X=0、Y=1)、5´-(ジフェニルアミノ)〔2,2´-ビチオフェン〕-5-イル基(X=0、Y=2)、5-〔4-(ジフェニルアミノ)フェニル〕チオフェン-2-イル基(X=1、Y=1)、5-〔4´-(ジフェニルアミノ)〔1,1´-ビフェニル〕-4-イル〕チオフェン-2-イル基(X=2、Y=1)、5´-〔4-(ジフェニルアミノ)フェニル〕〔2,2´-ビチオフェン〕-5-イル基(X=1、Y=2)、及び、5´-〔4´-(ジフェニルアミノ)〔1,1´-ビフェニル〕-4-イル〕〔2,2´-ビチオフェン〕-5-イル基(X=2、Y=2)から選択される。
【0054】
基(I)及び基(II)において、各置換基はそれぞれ独立して選択されるものであり、R1は、-H、-CnH2n+1、-O-CnH2n+1、及び、-S-CnH2n+1から選択され、ここで、n=1~8の整数であり、R3は、-H、-CnH2n+1、-O-CnH2n+1、及び、-S-CnH2n+1から選択され、ここで、n=1~8の整数であり、なお、R1とR3は、同一であっても、異なっていていてもよいが、同時に-Hであることはない。したがって、R1及びR3は、少なくとも一方が、-CnH2n+1、-O-CnH2n+1、及び、-S-CnH2n+1から選択される。
【0055】
R1及びR3における-CnH2n+1は、アルキル基であり、直鎖及び分枝の別を問ない。また、その鎖長はn=1~8の範囲内である限りは特に制限はない。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t-ペンチル基、s-ペンチル基、2-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、2-エチルプロピル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、ネオヘキシル基、t-ヘキシル基、2,2-ジメチルブチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1-プロピルプロピル基、n-ヘプチル基、イソヘプチル基、s-ヘプチル基、t-ヘプチル基、2,2-ジメチルペンチル基、3,3-ジメチルペンチル基、1-メチルヘキシル基、2-メチルヘキシル基、3-メチルヘキシル基、4-メチルヘキシル基、1-エチルペンチル基、2-エチルペンチル基、3-エチルペンチル基、1-プロピルブチル基、2-プロピルブチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、t-オクチル基、ネオオクチル基、2,2-ジメチルヘキシル基、3,3-ジメチルヘキシル基、4,4-ジメチルヘキシル基、1-メチルヘプチル基、2-メチルヘプチル基、3-メチルヘプチル基、4-メチルヘプチル基、5-メチルヘプチル基、1-エチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、3-エチルヘキシル基、4-エチルヘキシル基、1-プロピルペンチル基、2-プロピルペンチル基、3-プロピルペンチル基等が挙げられる。
【0056】
基(I)において、R2a1、R2a2、R2b1、及び、R2b2は、独立して、-H、-F、及び、-CF3から選択され、R2a1、R2a2、R2b1、及び、R2b2は、同一であっても異なっていてもよいが、R2a1とR2a2は、少なくとも一方が-Hであり、R2b1とR2b2は、少なくとも一方が-Hである。したがって、R2a1、R2a2、R2b1、及び、R2b2として、-F、又は、-CF3を導入する場合には、R2a1及びR2a2の何れか一方、及び/又は、R2b1及びR2b2の何れか一方に導入される。
【0057】
基(II)において、R2a1及びR2a2は、独立して、-H、-F、及び、-CF3から選択され、R2a1及びR2a2は、同一であっても異なっていてもよいが、R2a1とR2a2は、少なくとも一方が-Hである。したがって、R2a1及びR2a2として、-F、又は、-CF3を導入する場合には、R2a1及びR2a2の何れか一方に導入される。
【0058】
式(II)において、R4は、-H、-CnH2n+1、-O-CnH2n+1、及び、-S-CnH2n+1から選択され、ここで、nは、1~8の何れかの整数である。R4における-CnH2n+1、並びに、-O-CnH2n+1、及び、-S-CnH2n+1中の-CnH2n+1は、アルキル基であり、アルキル基の定義は、上記で説明した通りである。
【0059】
基(II)において、Yが、1又は2であり、チオフェン環が存在する場合、R5は、当該チオフェン環の3位又は4位に導入される。R5は、-H及び-CnH2n+1から選択され、ここで、nは、1~8の何れかの整数である。R5における-CnH2n+1は、アルキル基であり、アルキル基の定義は、上記で説明した通りである。
【0060】
基(III)、基(IV)、基(V)において、RDは、好ましくは、以下の基(I´)から選択される。
【0061】
【0062】
基(III)、基(IV)、基(V)中の2つのRD、すなわち基(I´)は異なっていても同一であっても良いが、好ましくは同一の基として構成される。
【0063】
基(I´)において、各置換基はそれぞれ独立して選択されるものであり、R1´は、-H、-CnH2n+1、-O-CnH2n+1、及び、-S-CnH2n+1から選択され、ここで、n=1~8の整数であり、R3´は、-H、-CnH2n+1、-O-CnH2n+1、及び、-S-CnH2n+1から選択され、ここで、n=1~8の整数であり、なお、R1´とR3´は、同一であっても、異なっていていてもよいが、同時に-Hであることはない。したがって、R1´及びR3´は、少なくとも一方が、-CnH2n+1、-O-CnH2n+1、及び、-S-CnH2n+1から選択される。
【0064】
R1´及びR3´における-CnH2n+1は、アルキル基であり、直鎖及び分枝の別を問ない。また、その鎖長はn=1~8の範囲内である限りは特に制限はない。アルキル基の定義は、上記で説明した通りである。
【0065】
基(I´)において、R2a1´、R2a2´、R2b1´、及び、R2b2´は、それぞれ独立して、-H、-F、及び、-CF3から選択され、R2a1´、R2a2´、R2b1´、及び、R2b2´は、同一であっても異なっていてもよいが、R2a1´とR2a2´は、少なくとも一方が-Hであり、R2b1´とR2b2´は、少なくとも一方が-Hである。したがって、R2a1´、R2a2´、R2b1´、及び、R2b2´として、-F、又は、-CF3を導入する場合には、R2a1´及びR2a2´の何れか一方、及び/又は、R2b1´及びR2b2´の何れか一方に導入される。
【0066】
D部として、好ましくは、4-(ビス(4-アルコキシフェニル)アミノ)フェニル基であり、特に好ましくは4-(ビス(4-メトキシフェニル)アミノ)フェニル基である。好ましくは、ビス(4-アルコキシフェニル)アミノ基等であり、特に好ましくは、ビス(4-メトキシフェニル)アミノ基であってもよい。また、好ましくは、テトラキス-4-アルコキシフェニルカルバゾール基であってもよく、特に好ましくは、テトラキス-4-メトキシフェニルカルバゾール基である。これらに限定するものではないが、このようなフェニル基で置換した三級アミン基を有するものが特に好ましい。また、上記基に含まれるアルコキシ基は、メトキシ基の他に、エトキシ基、プロポシキ基、ブトキシ基等から好ましく選択される。
【0067】
A部には、A部を構成するフルオレン環上の9位に炭素間二重結合を介して置換基RAが導入されている。ここで、置換基RAは、以下の基(VI)で表される5-アルキル-2-チエニル基として構成することが好ましい。なお、基中の波線は、A部を構成するフルオレン環上の9位の炭素間二重結合との結合位置を示す。
【0068】
【0069】
基(VI)において、R6は-CmH2m+1基であり、直鎖及び分枝の別を問ない。また、その鎖長はm=6~16の範囲内である限りは特に制限はなく、好ましくはm=8~12の範囲内である。-CmH2m+1基はアルキル基であり、アルキル基の定義は上記で説明した通りである。例えば、上記で説明したアルキル基の具体例のうち、炭素原子数6~8のアルキル基に加え、直鎖又は分枝のノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基等が挙げられる。好ましくは、n-へキシル基、1、2、3、4、又は、5-メチルへキシル基、1、2、3、又は、4-エチルへキシル基、1、2、又は、3-プロピルへキシル基、1、又は、2-ブチルへキシル基、1-ペンチルへキシル基等が例示できる。なお、R6は、ヘテロ原子を含んで構成されるものではない。
【0070】
A部としては、好ましくは、フルオレン環上の9位に二重結合を介して置換基RAとして5-(2-エチルへキシル)-2-チエニル基が導入されたものであるが、これに限定するものではない。
【0071】
〔本実施形態に係るホール輸送材料の好適例〕
本実施形態に係るホール輸送材料の好適例は、下記の一般式(2)で表される化合物である。以下、一般式(2)のホール輸送材料は「DHCF-17」と称する場合がある。
【0072】
【0073】
本実施形態に係るホール輸送材料の好適例の1つであるDHCF-17について、その構造について詳細に説明する。DHCF-17は、D-A-D型構造を有する。A部はフルオレン環として構成される。フルオレン環上の2位及び7位で、それぞれD部と連結している。各D部として、4-(ビス(4-メトキシフェニル)アミノ)フェニル基が導入され、フルオレン環上の9位に炭素間二重結合を介して5-(2-エチルへキシル)-2-チエニル基が導入されている。
【0074】
〔本実施形態に係るホール輸送材料の合成方法〕
本実施形態に係るホール輸送材料の合成方法は、下記の実施例1に記載の合成方法を参照して容易に合成することができる。なお、実施例1は、本実施形態に係るホール輸送材料の好適例であるDHCF-17の合成方法の一例を示すものであるが、これらに限定するものではなく、適宜他の方法を用いて合成することができる。
【0075】
本実施形態に係るホール輸送材料の好適例は、D-A-D型構造を有し、A部には、炭素原子と水素原子からなるフルオレン環が配置される。A部には、A部を構成するフルオレン環上の9位に炭素間二重結合を介して置換基(好ましくは、5-アルキル-2-チエニル基)が導入されている。更に、A部のフルオレン環上の2位及び7位にそれぞれD部が導入された構造を有する。合成に際しては、D部を導入する2位及び7位がBr等のハロゲン原子により置換されたA部フルオレンと、A部に導入を所望する置換基においてA部への導入位置にアルデヒド基が導入された化合物とを、クネーフェナーゲル縮合反応(Knoevenagel condensation reaction)等により反応させて、フルオレン環上の9位に炭素間二重結合を介して所望の置換基を導入した中間体化合物を得る。続いて、得られた中間体化合物の2位及び7位に当該技術分野で公知のクロスカップリング等によりD部を導入することにより本実施形態に係るホール輸送材料を合成することができる。上記した好適例であるDHCF-17は、D部として4-(ビス(4-メトキシフェニル)アミノ)フェニル基が導入され、5-(2-エチルへキシル)-2-チエニル基がA部に炭素間二重結合を介して導入されている。具体的には、下記の実施例1のように、DHCF-17の合成に際して、まず、2,7-ジブロモ-9H-フルオレンと、5-(2-エチルへキシル)チオフェン-2-カルバルデヒドとのクネーフェナーゲル縮合反応により、A部を構成するフルオレン環に二重結合を介して置換基(5-(2-エチルへキシル)-2-チエニル基)を導入した中間体化合物を合成することができる。続いて、かかる中間体化合物と、4-メトキシ-N-(4-メトキシフェニル)-N-(4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェニル)アニリンとを鈴木-宮浦カップリング反応させることでDHCF-17を合成することができる。
【実施例0076】
本発明を、以下の実施例をもって詳細に説明する。
【0077】
(実施例1)ホール輸送材料(DHCF-17)の調製
本実施例で調製を行ったホール輸送材料は、下記の一般式(2)で表される「DHCF-17」と称するものであり、A部を構成するフルオレン環上の2位及び7位それぞれに、D部として4-(ビス(4-メトキシフェニル)アミノ)フェニル基を導入すると共に、A部を構成するフルオレン環上の9位に、炭素間二重結合を介して5-(2-エチルへキシル)-2-チエニル基を導入した化合物である。合成スキームを要約する
図5に基づいて説明する。
【0078】
DHCF-17の合成に際して、まず、2,7-ジブロモ-9H-フルオレン(1)と、5-(2-エチルへキシル)チオフェン-2-カルバルデヒド(2)とのクネーフェナーゲル縮合反応により、A部を構成するフルオレン環に二重結合を介して置換基を導入した中間体化合物(3)を合成した。続いて、中間体化合物(3)と、4-メトキシ-N-(4-メトキシフェニル)-N-(4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェニル)アニリン(4)との鈴木-宮浦カップリングによりDHCF-17を合成し、定法により精製した。以下に、DHCF-17の合成及び精製の詳細を説明する。
【0079】
(合成)
[工程1]中間体化合物(3)(db-Fluoro-TPA-EHT)の合成
250mLの丸底フラスコに、2,7-ジブロモ-9H-フルオレン(1)(1.60g、4.9382mmol)、5-(2-エチルヘキシル)チオフェン-2-カルバルデヒド(2)(1.44g、6.4197mmol)、), テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)(0.56g、1.7283 mmol)及び乾燥トルエン(50mL)を加えた。続いて、40%の水酸化ナトリウム(NaOH)(50mL)を反応混合物に加えた。反応混合物をアルゴン雰囲気下で、18時間、70~80℃で加熱した。反応終了後の反応混合物を冷却後、反応混合物を水に注ぎ、ジクロロメタン(以下、「DCM」と称する場合がある)で抽出した。続いて、ブライン溶液で洗浄し、有機層を真空下で濃縮して粗生成物を得た。得られた粗生成物を、溶出液として石油エーテル:DCM=1:4を用いて、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル100~200メッシュ)で精製し、中間体化合物(3)(db-Fluoro-TPA-EHT)を固体として得た(収量:1.60g、収率:61%)。
【0080】
[工程2]DHCF-17の合成
工程1で得られた中間体化合物(3)(db-Fluoro-TPA-EHT)(0.30g、0.56mmol)、4-メトキシ-N-(4-メトキシフェニル)-N-(4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェニル)アニリン(4)(0.54g、1.2444mmol)及び炭酸カリウム(K2CO3)(0.39g、2.83mmol)を、乾燥トルエン(14mL)及び水(7mL)に溶解した。続いて、反応混合物をアルゴン雰囲気下で30分間脱気した後、Pd(PPh3)4(0.04g、0.034mmol)を加えた。反応混合物をアルゴン雰囲気下で、110℃で18~20時間還流した。反応終了後の反応混合物を室温に冷却した。続いて、反応混合物をDCMで抽出し、水、ブライン溶液で洗浄した後、有機層を分離して濃縮し、DHCF-17の粗生成物を得た。
【0081】
(精製及び確認)
工程2で得られた粗生成物を、溶出液としてn-ヘキサン:DCM=3:7を用いて、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル100~200メッシュ)に供して精製し、薄橙色の固体のDHCF-17を得た(収量:0.30g、収率:54.15%)。得られたDHCF-17に対して、
1H NMR分析、質量分析(以下、「Mass」と称する場合がある)、高速液体クロマトグラフィー分析(以下、「HPLC」と称する場合がある)、及び、紫外可視近赤外分光分析(以下、「UV-Vis」と称する場合がある)を行い、DHCF-17の合成及び精製を確認した。
図6に
1H NMR分析の結果を、
図7に質量分析の結果を、
図8に紫外可視近赤外分光分析の結果を示す。
【0082】
(比較例1)DHCF-3の調製
比較例3として調製を行ったホール輸送材料は、下記の一般式(E)で表される「DHCF-3」と称するものであり、上記〔背景技術〕の項で説明した特許文献1(特開2023-46046号)に記載の化合物である。詳細には、DHCF-3は、A部を構成するフルオレン環上の2位及び7位それぞれに、D部として4-(ビス(4-メトキシフェニル)アミノ)フェニル基を導入すると共に、A部を構成するフルオレン環上の9位に、炭素間二重結合を介して、D部と同一の基である4-(ビス(4-メトキシフェニル)アミノ)フェニル基を導入した化合物である。合成及び精製は、上記特許文献1の記載に基づいて行うことができるが、以下に簡単に説明する。
【0083】
(合成)
2,7-ジ(4-(ビス(4-メトキシフェニル)アミノ)フェニル)-9H-フルオレン(1)(0.01g、0.13mmol)と、4-(ビス(4-メトキシフェニル)アミノ)ベンズアルデヒド(2)(0.056g、0.17mmol)、TBAB(0.015g、0.45mmol)及び乾燥トルエン(8mL)を、25mLの丸底フラスコに加えた。続いて、40%の水酸化ナトリウム(NaOH)(6mL)を加えた。この反応混合物を、アルゴン雰囲気下で、8時間にわたって加熱還流した。冷却後、反応混合物を水に注ぎ、DCMで抽出した。続いて、ブライン溶液で洗浄し、真空中で濃縮し、粗生成物を得た。
【0084】
(精製)
得られた粗生成物を、溶出液として石油エーテル:DCM=5:95を用いて、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:100~200メッシュ)に2~3回供して精製し、黄色固体のDHCF-3を得た(収量:0.10g、収率:71.02%)。
【0085】
下記に、実施例1及び比較例1で合成した各ホール輸送材料の構造を要約する。
【化23】
【0086】
(実施例2)太陽電池10の作製
以下、実施例2として、太陽電池10の作製例を示す。なお、上記したChem. Mater., 2018, 30, 4193-4218等の公知技術を参照して作製することができる。
【0087】
一例をあげると、透明基板21にはフッ素ドープ酸化スズ(FTO)ガラス(23mm×14mm×1.6mm)を使用した。このFTOガラスにレーザースクライブを施してFTOを除去した凹部221を形成し、十分に洗浄した。次に、ブロッキング層3としてTiO2緻密膜をスプレー熱分解法(SPD法)により形成した。更に、市販のTiO2ナノ粒子ペーストをエタノールで希釈した溶液を滴下し、スピンコートにより塗布し、100℃で乾燥させた。乾燥後、450℃で焼成することで、多孔質半導体41となるTiO2ナノ粒子層を形成した。焼成後、室温まで冷却した。
【0088】
次に、ペロブスカイト層44を形成するための、ペロブスカイト前駆体溶液の調製を行った。初めに、FAI(CH(NH2)2I)を秤量し、この中にあらかじめ調製しておいた1.7MのPbI2/ジメチルホルムアミド(DMF)+ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液を注入して、FAPbI3溶液を調製した。次に、MAI(CH3NH3I)を秤量し、この中にあらかじめ調製しておいた1.7MのPbBr2/ジメチルホルムアミド(DMF)+ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液を注入して、MAPbBr3溶液を調製した。
【0089】
最後に、FAPbI3溶液とMAPbBr3溶液、及び、あらかじめ調製しておいた1.7MのCsI/ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液を混合してスピンコートに供する前駆体溶液を調製した。
【0090】
ペロブスカイト層44の製膜は、上記した前駆体溶液をTiO2多孔質膜上に滴下し、スピンコートにより塗布した。塗布完了後、100℃で60分間加熱を行い、続いて室温まで冷却した。
【0091】
続いて、ホール輸送層5の調製を行った。ホール輸送材料としては、上記実施例1で合成したDHCF-17、上記比較例1で合成したDHCF-3をそれぞれ用いた。各ホール輸送材料溶液を最終濃度30mMとなるように秤量し、その10重量%に相当するTPFBを秤量し、ホール輸送材料に添加した。ホール輸送材料とTPFBの混合物を、クロロベンゼンに溶解させることでホール輸送材料溶液を調製した。なお、ドーパントして汎用されるコバルト錯体(FK209)は添加しなかった。ホール輸送層5の製膜は、ホール輸送材料溶液をペロブスカイト膜上に滴下し、スピンコート法により形成した。
【0092】
ホール輸送層5の製膜後、真空蒸着法で約100nmの金を製膜して、これを取り出して電極6とし、これを積層した。
【0093】
(実施例3)太陽電池10の電池性能評価
本実施例では、太陽電池10の電池性能評価を行った。ここでは、上記実施例1で合成したDHCF-17、上記比較例1で合成したDHCF-3をホール輸送材料として用いる太陽電池10について検討した。
【0094】
本実施例で検討を行った実施例1のDHCF-17(一般式(2))、及び、比較例1のDHCF-3(一般式(E))のホール輸送材料は、何れもD-A-D型構造を有し、D部として4-(ビス(4-メトキシフェニル)アミノ)フェニル基をA部のフルオレン環上の2位及び7位それぞれに導入したものである。A部は何れもフルオレン環として構成されているが、A部に導入された置換基の点で相違する。詳細には、実施例1のDHCF-17では、A部を構成するフルオレン環上の9位に、炭素間二重結合を介して5-(2-エチルへキシル)-2-チエニル基が導入されているのに対して、比較例1のDHCF-3では、A部を構成するフルオレン環上の9位に、炭素間二重結合を介してD部と同一の4-(ビス(4-メトキシフェニル)アミノ)フェニル基が導入されている。
【0095】
表1及び
図9に太陽電池10の電池性能評価の結果を示す。表1は、太陽電池10の短絡電流密度(以下、「Jsc」と称する場合がある)、開放電圧(以下、「Voc」と称する場合がある)、フィルファクター(以下、「FF」と称する場合がある)、変換効率の各パラメータを要約したものである。なお、FFとは、電流と電圧の積が最大となる点における最大出力P
maxを(Voc×Jsc)で割って算出し、変換効率(PCE(%))は、(Voc×Jsc×FF÷入射光強度)で算出したものである。
【0096】
【0097】
表1の結果より、実施例1のDHCF-17の変換効率は21.0%と、20%以上であり、比較例1のDHCF-3よりも高い太陽電池特性を示した。A部に導入する置換基の相違により、電池性能が変化することが判明した。詳細には、かかるA部に導入する置換基の相違により、A部の電子吸引性や、A部に導入された置換基とD部との立体的干渉の度合いに起因して、分子内での電荷移動特性に相違が生じ、その結果、太陽電池特性に変化が生じたと考えられる。つまり、実施例1のDHCF-17では、A部の電子吸引性が向上すると共に、A部に導入された置換基とD部との立体的干渉が解消した結果、分子内のプッシュ-プル効果が大きくなり、電荷移動特性が向上した結果、太陽電池特性が向上したことが考えられる。
【0098】
更に、実施例1のDHCF-17は、分子内及び分子間のホールの移動がスムーズに行われることから、分子の酸化が抑制され耐久性が高くなることが想定される。更に、DHCF-17において、A部を構成するフルオレン環上にアルキル基を導入したことから、溶媒への溶解性が良好であり、DHCF-17を適当な溶媒に溶解させた後、スピンコートによる塗布法等のウェットプロセス等によりホール輸送層5を形成でき、太陽電池10の作製が簡便となるとの利点もある。
【0099】
また、TPFBを添加することで耐久性の高い太陽電池10を構築できることも判明した。TPFBの添加はホール輸送材料と共に溶媒に溶解させるだけの簡便な工程で行うことができるとの利点もある。
【0100】
(実施例4)種々のホール輸送材料の合成
実施例1のDHCF-17においてD部を構成する基を改変したホール輸送材料を合成した。合成を行った化合物の構造を以下に示す。これらの化合物は、上記した実施例1の工程2において、工程1で得られた中間体化合物とカップリングする化合物をD部の構造に応じて変形することにより合成することができる。
【化24】
【0101】
これらの化合物についても、DHCF-17と同様の特性を有することが期待できる。例えば、DHCF-41は、上記実施例2および3と同様に太陽電池10を作製し、その電池性能評価を行ったところ、下記表2及び
図10に示す通りDHCF-3と同等の光電変換効率を示し、優れた太陽電池特性を示した。
【0102】
【0103】
上述した実施形態では、下記の構成が想起される。
(1)下記の一般式(1)で表されるドナー-アクセプター-ドナー(D-A-D)型構造を有するホール輸送材料。
【化25】
〔一般式(1)中、
2つのD部は、同一の構造を有する領域であり、
各D部は、下記の基(I)、基(II)、基(III)、基(IV)、及び、基(V)から選択される1つの構造を有し、
【化26】
(基(I)中、
XとYは、それぞれ独立して、0、1、2の何れかの整数である
R
1は、-H、-C
nH
2n+1、-O-C
nH
2n+1、及び、-S-C
nH
2n+1から選択され、ここで、n=1~8の整数であり、
R
3は、-H、-C
nH
2n+1、-O-C
nH
2n+1、及び、-S-C
nH
2n+1から選択され、ここで、n=1~8の整数であり、
ただし、R
1とR
3は、同時に-Hであることはなく、
R
2a1、R
2a2、R
2b1、及び、R
2b2は、それぞれ独立して、-H、-F、及び、-CF
3から選択され、ここで、R
2a1とR
2a2は、少なくとも一方が-Hであり、R
2b1とR
2b2は、少なくとも一方が-Hである。)
【化27】
(基(II)中、
XとYは、それぞれ独立して、0、1、2の何れかの整数である
R
1は、-H、-C
nH
2n+1、-O-C
nH
2n+1、及び、-S-C
nH
2n+1から選択され、ここで、n=1~8の整数であり、
R
3は、-H、-C
nH
2n+1、-O-C
nH
2n+1、及び、-S-C
nH
2n+1から選択され、ここで、n=1~8の整数であり、
ただし、R
1とR
3は、同時に-Hであることはなく、
R
2a1とR
2a2は、それぞれ独立して、-H、-F、及び、-CF
3から選択され、ここで、R
2a1とR
2a2は、少なくとも一方が-Hであり、
R
4は、-H、-C
nH
2n+1、-O-C
nH
2n+1、及び、-S-C
nH
2n+1から選択され、ここで、nは、1~8の何れかの整数であり、
Yが1又は2であって、R
5が存在する場合には、R
5は、基(II)中のチオフェン環の3位又は4位に導入され、-H及び-C
nH
2n+1から選択され、ここで、nは、1~8の何れかの整数である。)
【化28】
【化29】
【化30】
(基(III)、基(IV)、及び、基(V)中、
XとYは、それぞれ独立して、0、1、2の何れかの整数であり、
2つのR
Dは、それぞれ独立して、下記の基(I´)で表される構造を有し、
【化31】
(基(I´)中、
X´とY´は、それぞれ独立して、0、1、2の何れかの整数である
R
1´は、-H、-C
nH
2n+1、-O-C
nH
2n+1、及び、-S-C
nH
2n+1から選択され、ここで、n=1~8の整数であり、
R
3´は、-H、-C
nH
2n+1、-O-C
nH
2n+1、及び、-S-C
nH
2n+1から選択され、ここで、n=1~8の整数であり、
ただし、R
1´とR
3´は、同時に-Hであることはなく、
R
2a1´、R
2a2´、R
2b1´、及び、R
2b2´は、それぞれ独立して、-H、-F、及び、-CF
3から選択され、ここで、R
2a1´とR
2a2´は、少なくとも一方が-Hであり、R
2b1´とR
2b2´は、少なくとも一方が-Hである。))
一般式(1)中、
R
Aは、下記の基(VI)で表される構造を有し、
【化32】
(基(VI)中、
R
6は、-C
mH
2m+1であり、ここで、m=6~16の整数である。)〕
【0104】
本実施形態に係るホール輸送材料は、安定的かつ効率的にホールを捕捉し移動させることができる優れたホール輸送特性を有している。詳細には、本構成のホール輸送材料は、D-A-D型構造を有し、A部を炭素原子と水素原子からなるフルオレン環等の電子受容性基を含んで構成すると共に、フルオレン環上の2位及び7位それぞれに4-(ビス(4-メトキシフェニル)アミノ)フェニル基等の電子供与性基を含むD部を導入し、更に、フルオレン環上の9位に炭素間二重結合を介して5-アルキル-2-チエニル基を導入して構成されている。このように構成することにより、A部の電子吸引性が向上すると共に、A部の置換基とD部との立体的な干渉が解消されることで、ホール輸送材料の分子内でのプッシュ-プル効果が大きくなり、分子内の電荷移動特性が向上する。結果として、分子内での電子の移動がスムーズになりHOMO-LUMOの電荷分離がより明確になる。つまり、本実施形態に係るホール輸送材料は、HOMO及びHOMO-1準位でD部に電子が集中し、LUMO準位でA部に電子が集中する。このように、本構成のホール輸送材料は、分子内での電荷移動特性が向上したことから優れたホール輸送特性を発揮することができる。更に、ヘテロ原子を含まないフルオレン環をA部に用いることにより、〔先行技術の〕項で説明したLD29等で生じていたヘテロ原子の不対電子対(ローンペア)による電子吸引性の阻害が解消され、より効果的にホール輸送材料として機能し得る。
【0105】
また、本実施形態に係るホール輸送材料は、深いHOMOエネルギー準位を有することから、ペロブスカイトのHOMO準位との配置を適切に調節でき、ホール輸送特性を向上させることができ、更に太陽電池効率を向上させ易いとの利点もある。
【0106】
本実施形態に係るホール輸送材料は、可視光域でほとんど光吸収を示さず、また、~450nm領域の光吸収強度が、先行技術の項で説明した汎用のspiro-OMeTADよりも弱い。このため、本実施形態に係るホール輸送材料を用いた太陽電池10は、ホール輸送材料による光吸収ロスを最低限に抑えることができ、高い光電変換効率を期待することができる。
【0107】
本実施形態に係るホール輸送材料は、溶媒への溶解性の面でも優れた特性を有する。特に、A部として長鎖アルキル基を有する5-アルキル-2-チエニル基を導入することにより溶媒への溶解性が向上している。そのため、太陽電池10を作製する際の作業性が向上し、また、スピンコートによる塗布法等のウェットプロセス等をも利用することができ、太陽電池10のホール輸送層5の形成が容易となる。また、本実施形態に係るホール輸送材料は、非極性溶媒にも可溶であるため、安価かつ環境負荷の低い溶媒を用いて、太陽電池10のホール輸送層5を形成が可能である。一方、従来において汎用されるspiro-OMeTADは、ホール輸送層5を作製する際に、溶媒としてクロロベンゼンを用いるのが一般的である。しかし、クロロベンゼンは、分子内に塩素を含み、かつ、高価であることから、溶媒廃棄等の後処理を含めた設備として費用が嵩み、また、排気漏れ等による安全及び環境への負荷も大きいとの問題点がある。
【0108】
また、本実施形態に係るホール輸送材料は、安価な原料により、短時間かつ少ない合成工程により合成することができ、かつ、簡単な精製工程により高純度品を提供できる。そのため、高価な試薬や煩雑な工程を要せず、合成や精製に要するコストを低減することができ、安価かつ高性能なホール輸送材料を提供することができる。
【0109】
更に、A部に導入した5-アルキル-2-チエニル基の長鎖アルキル基による疎水性効果により、本実施形態に係るホール輸送材料を導入した太陽電池10の耐水性が向上し、当該太陽電池10の耐久性の向上が期待できる。
【0110】
このように、本実施形態に係るホール輸送材料は、優れた特性を有することから、太陽電池10のホール輸送材料として好適に利用することができる。
【0111】
(2)(1)のホール輸送材料において、RAは、5-(2-エチルへキシル)-2-チエニルであると好適である。
【0112】
本実施形態に係るホール輸送材料において、A部に炭素間二重結合を介して導入される基を、5-(2-エチルへキシル)-2-チエニル基とすることにより、A部の電子吸引性が更に向上すると共に、A部の置換基とD部との立体的な干渉を更に効果的に抑制できることで、ホール輸送材料の分子内でのプッシュ-プル効果を適切に制御でき、分子内の電荷移動特性を更に向上させることができる。これにより、特に、安定的かつ効率的にホールを捕捉し移動させることができる優れたホール輸送特性を有しているホール輸送材料を提供することができる。
【0113】
(3)(1)のホール輸送材料において、以下の一般式(2)又は一般式(5)で表されると好適である。
【化33】
【化34】
【0114】
本実施形態に係るホール輸送材料において、D部に4-(ビス(4-メトキシフェニル)アミノ)フェニル基又はビス(4-メトキシフェニル)アミノ基を導入し、A部に炭素間二重結合を介して導入される基を、5-(2-エチルへキシル)-2-チエニル基を導入した構成とすることにより、A部の電子吸引性が更に向上すると共に、A部の置換基とD部との立体的な干渉を更に効果的に抑制できることで、ホール輸送材料の分子内でのプッシュ-プル効果を適切に制御でき、分子内の電荷移動特性を更に向上させることができる。これにより、特に、安定的かつ効率的にホールを捕捉し移動させることができる優れたホール輸送特性を有しているホール輸送材料を提供することができる。
【0115】
(4)(1)のホール輸送材料を用いた太陽電池10であって、透明導電膜22を有する基板2、電子を前記透明導電膜22に受け渡し、かつ逆電子移動を防止するブロッキング層3、光によって励起して前記電子を発生するペロブスカイト層44を多孔質半導体41に積層させて形成される発電層4、前記ペロブスカイト層44から発生したホールが通過し、前記ホール輸送材料を有するホール輸送層5、の順に積層される積層体11と、前記透明導電膜22を介して前記電子を放出する光電極61、及び、前記ホール輸送層5の表面に設けられた対向電極62で構成される電極6と、を備えている、太陽電池10。
【0116】
本実施形態に係る太陽電池10は、上記した通り優れた特性を有する本実施形態のホール輸送材料を用いて形成されたホール輸送層5を備える。詳細には、本実施形態に係るホール輸送材料は優れた安定的かつ効率的にホールを捕捉し移動させることができる優れたホール輸送特性を有している。特に、本実施形態に係るホール輸送材料は、その分子内でのプッシュ-プル効果が大きく、優れた分子内の電荷移動特性を示すものであり、優れたホール輸送特性を発揮することができる。また、上記した通り、本実施形態に係るホール輸送材料は優れた光吸収特性を有し、更に、耐久性の面でも優れた特性を有する。したがって、本実施形態に係る太陽電池10は、優れた特性を有するホール輸送材料をホール輸送層5として用いることで、光電変換効率の向上、ひいては電池性能が向上し、更には太陽電池10の耐久性の向上をも図ることができる。
【0117】
また、上記した〔先行技術〕の項にて説明した従来のspiro-OMeTAD及びLD29等を、ホール輸送材料として使用する場合には、ホール輸送効率を向上させる機能を有するドーパントとしてLiTFSIを添加することが一般的であった。しかし、LiTFSIに含まれるリチウムイオンがホール輸送層5の外に拡散してしまうことや、LiTFSI自体に強い吸湿性があること等に起因して、時間の経過と共に太陽電池効率が低下する等、その耐久性の面での課題があった。本構成の太陽電池10においては、かかるLiTFSIに代えてTPFBを添加することで太陽電池10の耐久性を向上させることができる。これは、TPFBのカチオン部の分子サイズが大きいことから拡散し難く、また、TPFB自体が吸湿性を有しないためであると考えられる。
【0118】
更に、上記の通り、本実施形態に係るホール輸送材料は、高価な試薬類や煩雑な工程を要せず、安価かつ簡便に合成が可能である。このようにコスト面においても優れた本実施形態のホール輸送材料を利用することにより、本実施形態に係る太陽電池10自体の価格低減を図ることが可能となる。
【0119】
[その他の実施形態]
上記の実施形態では、本実施形態に係るホール輸送材料を用いた太陽電池10としてペロブスカイト太陽電池10を例に示したが、このホール輸送材料をOPV(有機薄膜太陽電池)、有機EL、有機半導体を用いたデバイスなどに用いても良い。
本発明は、有機及び無機のハイブリッド化合物で生成されるペロブスカイト化合物を備えたペロブスカイト太陽電池10などに用いられるホール輸送材料として利用可能である。