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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177792
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】自動運転車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/10 20060101AFI20241217BHJP
   B60W 40/10 20120101ALI20241217BHJP
   G01C 21/30 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B60W30/10
B60W40/10
G01C21/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096130
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】芝池 悠志
(72)【発明者】
【氏名】井上 豪
(72)【発明者】
【氏名】青木 裕
(72)【発明者】
【氏名】長田 侑士
(72)【発明者】
【氏名】高平 将吾
(72)【発明者】
【氏名】小城 隆博
(72)【発明者】
【氏名】国弘 洋司
(72)【発明者】
【氏名】賎機 宏紀
【テーマコード(参考)】
2F129
3D241
【Fターム(参考)】
2F129AA03
2F129BB22
2F129BB26
2F129BB33
2F129BB49
2F129DD13
2F129DD21
2F129DD29
2F129DD53
2F129EE02
2F129EE52
2F129EE62
2F129EE65
2F129EE78
2F129EE95
2F129GG03
2F129GG04
2F129GG05
2F129GG06
2F129GG17
2F129GG18
2F129HH33
3D241BA11
3D241BA42
3D241CE01
3D241CE02
3D241CE04
3D241CE05
(57)【要約】
【課題】所定の演算を繰り返し実行することによって得られた制御入力に基づいて車両の走行を支援するときに、その演算による負荷を低減することが可能な自動運転車両の制御装置を提供する。
【解決手段】推測された車両の現在位置に基づいて求められた目標軌道に沿って自動運転走行させるための制御入力を、所定の演算を繰り返し行うことによって求めるように構成された自動運転車両の制御装置であって、コントローラは、車両の走行路上での相対位置に基づいて、地図データ上での車両の位置を補正することにより現在位置を推測し(ステップS1)、そのときの位置の補正量に基づき現在位置の推測が正確ではないと判定された場合に(ステップS2でYES)、補正量に応じて所定の演算における所定のパラメータを演算回数が低減するように調整する(ステップS3)。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の挙動に関するパラメータを検出する複数の挙動検出センサと、
前記車両が走行している走行路の周囲に存在する対象物に関するデータを検出する複数の外部検出センサと、を備え、
予め記憶されている地図データと、複数の前記挙動検出センサの検出データと、複数の前記外部検出センサの検出データと、に基づいて前記車両の前記地図データ上での現在位置を推測し、推測された前記地図データ上での前記車両の前記現在位置に基づいて目標軌道を求め、前記目標軌道に沿って前記車両を自動運転走行させるための制御入力を、所定の演算を繰り返し行うことによって求め、前記制御入力に基づいて前記車両の走行制御を実行するように構成された自動運転車両の制御装置であって、
前記車両の前記現在位置を推測し、かつ、前記車両が前記目標軌道に沿って走行するための前記走行制御を実行するコントローラを備え、
前記コントローラは、
複数の前記外部検出センサの前記検出データに基づいて求められた前記車両の前記走行路上での相対位置に基づいて、前記地図データ上での前記車両の位置を補正することにより、前記地図データ上での前記車両の前記現在位置を推測し、
前記地図データ上での前記車両の前記現在位置を推測したときの前記地図データ上での前記車両の位置の補正量を算出し、
前記補正量に基づき、前記地図データ上での前記車両の前記現在位置の推測が正確であることを判定し、
前記地図データ上での前記車両の前記現在位置の推測が正確ではないと判定された場合に、前記補正量に応じて前記所定の演算における所定のパラメータを、演算回数が低減するように調整する
ことを特徴とする自動運転車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動運転車両の制御装置であって、
前記地図データ上での前記車両の前記現在位置の推測が正確であることの判定は、前記補正量が、前記車両の挙動として起こり得る挙動であることを判定可能な所定の補正量より、大きいか否かを判定することが含まれている
ことを特徴とする自動運転車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の自動運転車両の制御装置であって、
前記コントローラは、所定時間先までの前記車両の挙動を予測するための予測モデルを有し、
前記走行制御における前記所定の演算には、推測された前記車両の前記現在位置および前記予測モデルに基づく前記所定時間先までの前記車両の予測位置と、前記目標軌道上の目標位置との偏差が所定の偏差より大きくなった場合に、前記偏差を小さくするように前記制御入力が変更されるような制約が課されており、
前記制約は、前記所定の演算において前記偏差が前記所定の偏差より大きくなったときに演算が追加されることによって前記制御入力を変更するように構成され、
前記パラメータの調整には、前記制約を緩和することが含まれている
ことを特徴とする自動運転車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の自動運転車両の制御装置であって、
前記走行制御における前記所定の演算は、前記制御入力が適正な値であることを判定するための予め定められた収束判定閾値を満たすまで繰り返し実行するように構成され、
前記パラメータの調整には、前記収束判定閾値を大きくすることが含まれている
ことを特徴とする自動運転車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサなどによって認識した車両の挙動と外部から取得した情報とに基づいて自動運転走行することが可能な車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車線数が変化する区間を走行する場合であっても、自己位置の推定精度を安定させることを目的とした自己位置推定装置が開示されている。特許文献1の自己位置推定装置は、車載カメラによる画像データ、センサなどから取得した自車両の状態量のデータ、GPSデータ、および地図データに基づいて自車両の位置を推定する。特許文献1の自己位置推定装置では、画像データに基づき、車線数が増えるあるいは減る区間である無車線区間を認識した場合には、無車線区間を認識していない場合と比較して、地図データの活用を制限して、つまり、地図データの重み付けを小さくして自車両の推定位置の補正が行われる。そして、自車両の推定位置に基づき、自動運転のための支援が行われるように構成されている。特許文献1では、このような構成により、道路のリンクデータが正確に作成されていないような無車線区間において自己位置の推定精度が低下することを抑制することができるので、自己位置推定精度の安定化を図ることができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-207190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の位置を特定する場合には、縦方向(前後方向)、横方向(左右方向)およびヨー方向(あるいは方位角)のそれぞれの成分について特定する。つまり、それぞれの成分について、特許文献1の装置のように、車両の状態量および地図データ等に基づいて推定される車両の位置と、カメラ等によって実測された実際の走行路上における車両の相対位置と、を所定の周期ごとに取得し、それらをマッチングさせて地図データ上における車両の位置を推測する。特許文献1のように、自動運転走行が可能な車両である場合には、その推測された自己位置から目標軌道に沿って車両が走行するように、駆動装置などの車両の走行のための機構を制御する。
【0005】
そのような自動運転走行では、例えば、上述したように取得した車両の各方向の動き、地図データ、および、推測された位置などのデータに基づき、周期的に演算を繰り返すことによって、車両が現在走行しているレーンにおける目標軌道に沿って走行するように制御し、車両を自動運転走行させる場合がある。そのような制御においては、車両の安全性の観点から、実際の車両の位置が目標軌道上から所定以上ずれた場合に、車両を目標となる位置に速やかに戻すように、車両の走行のための機構への制御入力を変更するような制約が課されている場合がある。例えば、演算式に、車両の位置のずれが所定以上となった場合に、演算が追加されるような項が含まれていることなどである。
【0006】
一方で、上述したように車両の位置を推定した場合には、地図データの誤差や、位置を推定するときに用いるパラメータの重み付けが各方向で異なることなどにより、推測された車両の位置が大きくずれてしまう場合がある。このため、車両の実際の位置と目標軌道上の目標位置とにずれがあるものの、そのずれが制御入力に直ちに反映されず、そのずれがさらに大きくなってしまう。そのような場合には、車両の推測位置を大幅に補正する必要が生じる場合があるため、推測位置の補正に基づく地図データ上の車両の挙動が、実際の車両の挙動として不自然なものになってしまう可能性がある。その結果、繰り返し実行される演算において、その演算の回数が増大してしまい、それに起因した制御装置への負荷の増大につながる可能性がある。また、そのようなずれによって上述した制約に抵触するような場合には、演算が正しく実行されなかったり、演算回数の増大に起因した負荷がさらに増大したりしてしまう可能性がある。あるいは、急に制約に抵触するので、車両を速やかに目標軌道に戻そうとする制御によって、車両の挙動が搭乗者に違和感を与える挙動となってしまう可能性がある。
【0007】
本発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであって、所定の演算を繰り返し実行することによって得られた制御入力に基づいて車両の走行を支援するときに、その演算による負荷を低減することが可能な自動運転車両の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成するために、車両の挙動に関するパラメータを検出する複数の挙動検出センサと、前記車両が走行している走行路の周囲に存在する対象物に関するデータを検出する複数の外部検出センサと、を備え、予め記憶されている地図データと、複数の前記挙動検出センサの検出データと、複数の前記外部検出センサの検出データと、に基づいて前記車両の前記地図データ上での現在位置を推測し、推測された前記地図データ上での前記車両の前記現在位置に基づいて目標軌道を求め、前記目標軌道に沿って前記車両を自動運転走行させるための制御入力を、所定の演算を繰り返し行うことによって求め、前記制御入力に基づいて前記車両の走行制御を実行するように構成された自動運転車両の制御装置であって、前記車両の前記現在位置を推測し、かつ、前記車両が前記目標軌道に沿って走行するための前記走行制御を実行するコントローラを備え、前記コントローラは、複数の前記外部検出センサの前記検出データに基づいて求められた前記車両の前記走行路上での相対位置に基づいて、前記地図データ上での前記車両の位置を補正することにより、前記地図データ上での前記車両の前記現在位置を推測し、前記地図データ上での前記車両の前記現在位置を推測したときの前記地図データ上での前記車両の位置の補正量を算出し、前記補正量に基づき、前記地図データ上での前記車両の前記現在位置の推測が正確であることを判定し、前記地図データ上での前記車両の前記現在位置の推測が正確ではないと判定された場合に、前記補正量に応じて前記所定の演算における所定のパラメータを、演算回数が低減するように調整することを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明においては、前記地図データ上での前記車両の前記現在位置の推測が正確であることの判定は、前記補正量が、前記車両の挙動として起こり得る挙動であることを判定可能な所定の補正量より、大きいか否かを判定することが含まれるように構成されていてよい。
【0010】
また、本発明においては、前記コントローラは、所定時間先までの前記車両の挙動を予測するための予測モデルを有し、前記走行制御における前記所定の演算には、推測された前記車両の前記現在位置および前記予測モデルに基づく前記所定時間先までの前記車両の予測位置と、前記目標軌道上の目標位置との偏差が所定の偏差より大きくなった場合に、前記偏差を小さくするように前記制御入力が変更されるような制約が課されており、前記制約は、前記所定の演算において前記偏差が前記所定の偏差より大きくなったときに演算が追加されることによって前記制御入力を変更するように構成され、前記パラメータの調整には、前記制約を緩和することが含まれるように構成されていてよい。
【0011】
さらに、本発明においては、前記走行制御における前記所定の演算は、前記制御入力が適正な値であることを判定するための予め定められた収束判定閾値を満たすまで繰り返し実行するように構成され、前記パラメータの調整には、前記収束判定閾値を大きくすることが含まれるように構成されていてよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の自動運転車両の制御装置によれば、車両の外部検出センサの検出結果、例えば、車両と白線との相対距離に基づく車両の相対位置に応じて、地図データおよび車両の挙動検出センサに基づくデータ上の車両の位置を補正することにより車両の現在位置が推測される。そして、その推測された車両の現在位置に応じて目標軌道が設定され、その目標軌道に沿って車両が自動運転走行するように走行制御が実行される。走行制御は、所定の演算を繰り返し行うことによって算出された制御入力に基づいて求められた、車両の走行のための機構への操作量に応じて行われる。また、走行制御中には、現在位置を推測するときの補正量に基づき、地図データ上での車両の現在位置の推測が正確であることが判定される。現在位置の推測が正確でないと判定された場合には、その補正量に応じて所定の演算における所定のパラメータを、その演算回数が低減するように調整するように構成されている。すなわち、地図データ上での車両の現在位置の推測が正確でないことにより、所定の演算における演算回数が増大するような場合には、その補正量に応じて所定の演算を演算回数が低減するように調整される。したがって、演算回数の増大による制御装置への負荷を低減することができる。
【0013】
また、地図データ上での車両の現在位置の推測が正確であることの判定には、補正量が車両の挙動として起こり得る挙動であることを判定可能な所定の補正量より大きいことが含まれている。そして、その所定のパラメータは、所定の演算に課されている車両の位置の偏差を小さくするための制約を緩和すること、もしくは、所定の演算における適正な制御入力を算出するために設定されている予め定められた収束判定閾値を緩和することによって調整される。例えば、所定の条件を満たした場合に、制約に抵触しにくくすること、制約自体を含まない問題に変更して所定の演算を行うこと、または、制御自体を一時的にPID制御などのルールベースの走行制御に切り替えること、あるいは、収束判定閾値を大きくすることなどが実行される。したがって、制約に抵触することによる演算回数の増大や、収束判定閾値が小さいことによる、演算回数の増大によってECUへの負荷が増大したり、所定の最適制御問題における演算の解が出せなくなったりすることを抑制することができる。さらに、車両の挙動に搭乗者の意図しない挙動が生じることをも抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態における自動運転車両の制御装置を搭載した車両の一例を示す図である。
図2】本発明の実施形態における自動運転車両の制御装置の機能構成を説明するためのブロック図である。
図3】本発明の実施形態における自動運転車両の制御装置によって実行される制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を図に示す実施形態に基づいて説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明を具体化した場合の一例に過ぎないのであって、本発明を限定するものではない。
【0016】
図1には、本発明の実施形態における制御装置が搭載された自動運転車両(以下、単に車両と記載する)1を示している。本発明の実施形態における車両1は、手動操作による走行だけでなく、運転者が運転操作することなく駆動力や制動力、操舵量などを制御することにより自動運転走行が可能な車両1である。また、車両1は、外部から取得した周辺情報に基づいて走行環境の認識や周辺状況の監視などを行うことも可能に構成されている。
【0017】
車両1は、車両1の挙動に関するデータや外部から取得したデータに基づいて、自動運転走行が実行される。例えば、車両1は、推定あるいは実測された車両1の位置に関するデータを取得し、その車両1の位置に関するデータや地図データなどに基づいて予め定められた目標軌道に沿って車両1が走行することができるように、駆動力や制動力、操舵量などの操作量を演算して車両1を制御することにより自動運転走行が実行される。本発明の実施形態における車両1は、車両1の挙動を変更するための各装置の操作量を求めるときに基準となる車両1の現在位置を正確に推測し、車両1が目標となる軌道に沿って自動運転走行することができるように構成されている。なお、車両1は、自動運転による走行が可能な車両であればよく、例えば、エンジン車両、水素自動車、ハイブリッド車両、燃料電池車などの、既存の一般的な車両であってよい。
【0018】
そのような車両1の一例を図1に示している。図1に示す車両1は、駆動力源2、ブレーキ装置3、車輪4、ステアリング装置5、検出部6およびECU(電子制御装置)7を備えている。
【0019】
駆動力源2は、車両1を走行させるためのトルクを出力する。駆動力源2としては、例えば、従来知られているエンジン(内燃機関)やモータ・ジェネレータのいずれかを有し、あるいはそのいずれも有していてもよい。
【0020】
ブレーキ装置3は、従来知られているブレーキ装置と同様の装置であって、例えば、車両1における前後の各車輪4のそれぞれに設けられている。ブレーキ装置3の一例としては、ディスクブレーキやドラムブレーキあるいはパウダーブレーキなどの摩擦ブレーキであり、油圧や電磁力などによって摩擦力を生じて各車輪4の回転を止める方向の制動力を生じさせるように構成されている。
【0021】
ステアリング装置5は、方位角を変更して車両1の進行方向を調整する。ステアリング装置5は、従来知られているステアリング装置と同様の装置であり、例えば、電動のアシスト機構が設けられた、ラックアンドピニオン式の電動パワーステアリング装置などである。
【0022】
検出部6は、車両1を制御する際に必要な各種のデータや情報を取得するための機器あるいは装置である。検出部6は、車両1自体の走行に関するデータを取得するための内界センサ8および車両1の外部の情報を取得するための外界センサ9を備えている。内界センサ8には、車両1の加速度を検出する加速度センサ8a、車両1の姿勢や向き、例えばヨー角(方位角)の変化を角速度として検出するジャイロセンサ8bおよび車輪4の回転速度等から車速を検出する車速センサ8cなどが含まれる。外界センサ9には、撮像画像を取得する車載カメラ9aおよびレーザー光の反射光のデータを元に対象物の情報を取得するLiDAR9bなどが含まれている。なお、内界センサ8が、本発明の実施形態における挙動検出センサに相当し、外界センサ9が、本発明の実施形態における外部検出センサに相当する。
【0023】
ECU7は、本発明の実施形態におけるコントローラに相当し、プロセッサ(CPU)や記憶素子(RAMやROM)ならびに入出力装置(入出力インターフェース)などからなるマイクロコンピュータを主体にして構成されている。ECU7は、車両1に設けられた各種センサ8,9や外部から入力されたデータ、予め記憶しているデータなどを使用して所定のプログラムに従って演算を行い、その演算の結果を制御指令信号として出力するように構成されている。例えば、ECU7は、プロセッサが記録媒体に記憶されたプログラムを記憶部の作業領域にロードして実行し、プログラムの実行を通じた各種の制御を行うことにより、所定の目的に合致した機能を実行するものである。また、ECU7は、図2に示すように、車両位置推測部10、目標軌道演算部11およびトレース制御部12を備えている。なお、車両位置推測部10、目標軌道演算部11およびトレース制御部12は、それぞれ異なるマイクロコンピュータによって構成されている。
【0024】
車両位置推測部10は、車両1の挙動の変化および外部の情報などの検出データに基づいて車両1の地図データ上の現在位置を推測する。車両位置推測部10は、上述した各種センサ8,9に基づいて車両1の状態量、例えば、車速や加速度、ヨーレートなどを検出および算出する。車両位置推測部10は、その検出された車両1の状態量や、過去の車両1位置の推定結果、記憶されている地図データなどに基づき、車両1の地図データ上での位置データを求める。つまり、地図データ上において、車両1が現在走行している道路のどの位置を走行しているのか、曲線路であればどの程度の曲率あるいはヨーレートでその曲線路を走行しているのかなどを推定する。また、車両位置推測部10は、外界センサ9である車載カメラ9aやLiDAR9bなどに基づき、走行路上における車両1の実際の相対位置を取得する。例えば、車両位置推測部10は、車載カメラ9aによって認識した走行レーンにおける車両1と白線との相対距離や車両1と周囲の車両1、あるいは、標識との相対距離などに基づいて、車両1が走行している車線や、走行レーン内におけるどの位置を車両1が走行しているかなどの相対的な位置を実測する。
【0025】
車両位置推測部10は、そのように実測された車両1の相対位置と、推定された地図データ上の車両1の位置との差異を求めるように構成されている。例えば、車両1が曲線路を走行するときに、推定された車両1の位置が地図データ上において走行レーンの中心に沿って走行しているのに対し、実測された車両1の相対位置が走行レーンの中心より右側の区画線(車道中央線)に寄って走行している場合がある。そのような場合に、車両位置推測部10は、推定された地図データ上の車両1の位置データと、実測された車両1の実際の位置との差異に基づいて、車両1の地図データ上での現在位置を推測するときの位置データの補正量を求めるように構成されている。
【0026】
また、車両位置推測部10は、そのような車両1の推定された位置データと実測された位置との相違を、車両1の縦方向(前後方向)、横方向(左右方向)およびヨー方向のそれぞれの成分について算出する。車両位置推測部10は、車両1の位置を適切に推測することができるように、それらの成分の特性などに応じて成分ごとに重み付けするパラメータを変更している。例えば、車両位置推測部10は、車両1のヨー方向について、車両1に設けられている内界センサ8の検出値に基づくデータに重み付けして位置を推測する。つまり、車両位置推測部10は、主に、車両1の速度や加速度、操舵量などの挙動に基づいて地図データ上における車両1のヨー角を求める。また、車両位置推測部10は、車両1の横方向について、外界センサ9によって実測された車両1の位置に基づくデータに重み付けして地図データ上の位置を推測する。つまり、車両位置推測部10は、車両1の横方向について、ヨー方向と同様に車両1の挙動に基づく地図データ上の位置を推定するとともに、実測された車両1の相対位置に基づくデータに重み付けして位置を推測するように構成されている。車両位置推測部10は、上述したような演算を所定の周期ごとに繰り返し実行することにより、車両1の地図データ上での現在位置を推測する。
【0027】
目標軌道演算部11は、車両位置推測部10によって求められた車両1の地図データ上での現在位置および車両1が走行している走行路もしくは走行する予定の走行路である予定走行路に関する情報に基づき、車両1の目標となる走行軌道や目標曲率を演算する。走行路に関する情報は、例えば、記憶されている地図データおよび外界センサ9によって検出した走行路上の白線や標識、他の車両1などの情報である。目標軌道演算部11は、それらの情報に基づき、地図データ上において、車両1が走行レーンにおける中央を適正な速度で走行するように、あるいは、車両1が曲線路の曲率に沿った曲率で進入するようになど、車両1が搭乗者にとって快適に自動運転走行するために目標となる軌道などを演算する。また、目標軌道演算部11は、車両1の地図データ上での現在位置が現在の車両1の目標軌道あるいは目標曲率と相違している場合には、そのような目標となる軌道や曲率に車両1が速やかに復帰することができるような走行軌道を求める。なお、そのような白線や標識、他の車両1が、本発明の実施形態における車両1の周囲に存在する対象物に相当する。
【0028】
例えば、目標軌道演算部11は、地図データに基づく車線、区画線および道路境界線情報などを取得し、走行レーンの中心ラインを基準とする車両1の目標位置に基づいて目標軌道を算出するように構成されている。そのときに、車両1の地図データ上での現在位置が目標軌道から逸れていることが検出された場合には、目標軌道演算部11は、車両1の地図データ上での現在位置が現在設定されている目標軌道上の位置に向けて漸次的に一致するような走行軌道を求める。つまり、車両1の地図データ上での現在位置からの経過時間に対する車両1の目標位置、つまり、現在の目標軌道からの縦方向、横方向およびヨー方向の逸脱量や制御入力の大きさ、車両1の移動時間、許容される逸脱量などのパラメータ、および、最適制御における評価関数や制約条件に応じて目標軌道が求められる。
【0029】
トレース制御部12は、車両1の走行制御を実行するように構成され、車両位置推測部10および目標軌道演算部11から取得したデータなどに基づいて車両1を自動運転走行させる。つまり、トレース制御部12は、車両1の駆動力や制動力、操舵量などの挙動を制御する駆動力源2、ブレーキ装置3、ステアリング装置5などの各装置の操作量や制御入力を演算する。トレース制御部12は、車両1の縦方向、横方向およびヨー方向のそれぞれについて、車両1の走行路上での実測位置に基づく地図データ上での位置データの補正量についてのデータを車両位置推測部10から取得する。また、トレース制御部12は、目標軌道演算部11において演算された車両1の目標となる軌道や曲率などを取得する。トレース制御部12は、取得したそれらのデータに基づいて、車両1が地図データ上での現在位置から目標となる軌道や曲率に応じて走行するために必要な、車両1の挙動を制御する各装置の操作量や制御入力を演算する。
【0030】
例えば、目標軌道に基づいて車両1の舵角に関する操作量を求める場合、トレース制御部12は、目標舵角を演算し、その目標舵角を得るための操舵トルクを演算する。目標舵角は、目標軌道の形状に基づいて求められた目標曲率、目標ヨー角および目標横偏差とそれらのパラメータについて予め定められた制御ゲインとを用いて算出される。その一例として、目標曲率、目標ヨー角と実ヨー角との偏差、目標横偏差と実横偏差との偏差、および、目標横偏差と実横偏差との偏差の積分値のそれぞれに、制御ゲインを乗算した値に基づいて目標舵角が求められる。このような目標舵角の演算は、所定の周期ごとに実行され、その度に演算結果がECU7に送信されてステアリング機構が制御されるように構成されている。このように、トレース制御部12によって演算された操作量に基づいて、車両1の挙動を制御する各装置が制御される。
【0031】
また、トレース制御部12には、最適演算部12aが含まれている。最適演算部12aは、走行制御に用いられる装置の性能などを含む車両1の特性(動特性)を考慮し、所定の最適制御問題に基づいてその装置への最適な制御入力を演算する。また、所定の最適制御問題には、その車両1の特性や安全性などに基づいて設定された、予め定められた上限値以上、もしくは、下限値以下となることを判定するために定めた不等式で表される制約が課されている。最適演算部12aは、所定の最適制御問題において評価関数や制約条件に基づいて最適解を求めるために繰り返し演算する。最適演算部12aは、制御入力が最適であることを判定するための予め定められた収束判定閾値である所定の収束判定値を解が下回るまで演算を繰り返し、その収束判定値より解が小さくなったことにより、最適解を求めることができたことが判定される。最適演算部12aは、そのような最適化演算を予め定められた制御周期ごとに行うことにより、例えば、車両1の目標舵角を求める際には、車両1の横方向およびヨー方向の偏差、舵角速度に対する制約条件、および、それらのパラメータの重み付けや所定の時間における積算値などに基づく数式を解くことによって求められる。
【0032】
また、その数式には、車両1の特性や性能、あるいは挙動などに応じた制約条件が含まれている。そのような制約条件により、精度の高いトレース制御を行うことができる。例えば、上述した目標舵角を求める際の最適制御問題には、横偏差についての制約条件が含まれており、横偏差が所定の偏差を超えた場合に、その超えた値が最小となるように目標舵角が決められる。具体的には、現在の舵角、走行軌道、および、車両1の動きなどに基づく所定の状態方程式と、横偏差の超過した量に基づく不等式とによって制約条件が設定されている。最適演算部12aは、このように構成された制約条件を含む最適化演算を制御周期ごとに繰り返すことによって、駆動力源2やブレーキ装置3、ステアリング装置5などへの制御入力を求めるように構成されている。なお、車両1の横方向、ヨー方向および縦方向の各偏差は、推測された車両1の現在位置および所定時間先までの車両1の挙動を予測する予測モデルに基づく所定時間先までの車両1の予測位置と、目標軌道上の目標位置との偏差である。つまり、車両1の現在位置と目標位置との偏差、および、車両1の予測モデルに基づく所定時間先までの予測位置と、その予測位置における目標位置との偏差が含まれる。また、所定の最適制御問題は、本発明の実施形態における所定の演算に相当している。さらに、そのような走行制御に用いられる最適制御は、モデルによって車両1の動きを先読みしつつ、最適な操作を決定するように構成された、いわゆるモデル予測制御であってよい。
【0033】
次に、このように構成された車両1のECU7によって実行される制御の一例について説明する。図3に示すように、ステップS1では、車両1の地図データ上での位置データを、車両1の走行路上での実測位置に基づいて補正するときの補正量が算出される。ステップS1では、上述したように、主に車両1の状態量に基づいて推定された車両1の地図データ上での位置データが、主に外界センサ9に基づいて実測された車両1の相対位置に対してずれている場合には、その位置データを相対位置に応じて補正して車両1の地図データ上での現在位置を求める。ステップS1では、そのときの車両1の縦方向、横方向およびヨー方向のそれぞれについての補正量が所定の周期ごとに取得される。
【0034】
車両1の位置データの補正量を求めた後、処理がステップS2に進み、車両1の現在位置の推測に問題があるか否かが判定される。つまり、ステップS2ではステップS1で算出された位置データの補正量に基づき、車両の現在位置の推測が正確であることを判定している。具体的には、ステップS2では、ステップS1において算出された補正量に基づき、直前の周期までの車両1の挙動に対して今回の周期における車両1の挙動が、実際の車両1の挙動として生じるような補正であることを判定している。逆から言うと、ステップS2では、車両1の位置データのずれが、車両1の位置を推測するための演算などに起因して生じたずれであることを判定している。そのような判定は、例えば、ステップS1において算出された各方向における補正量が所定の補正量以上であることなどに基づいて行われる。
【0035】
車両1の現在位置を推測するときには、車両1の各方向(各成分)に応じて、求めるときに参照するパラメータやそのパラメータへの重み付けが異なっている。例えば、上述したように、車両1のヨー方向における位置は、車両1の速度や加速度、操舵量などの挙動に基づいて算出され、横方向における位置は、そのような車両1の挙動に加えて、外界センサ9等によって実測された車両1の相対位置に基づくデータも参照して算出されるように構成されている場合がある。そのような場合に、地図データの誤差や外乱などによって、車両1の走行路における実際の位置と、車両1の走行路における地図データ上の位置とでずれが発生した場合には、車両1の各方向においてそのずれの検出に差が生じる可能性がある。
【0036】
例えば、湾曲路に進入するときに、上述したような誤差や外乱などによって、地図データ上の車両1の位置が実際の位置より後ろ側に検出される場合がある。そのような場合に、車両1の横方向における位置は、車両1の挙動に基づくデータおよび実測された車両1の相対位置によって推測されるため、比較的早期にそのようなずれを検出することができる。一方で、車両1のヨー方向における位置は、車両1の挙動に基づくデータによって推測されるため、車両1の横方向に対してそのようなずれの検出が遅れてしまう可能性がある。つまり、ヨー方向については相対位置を参照しない、あるいは、相対位置の比重が小さいため、地図データ上では走行路に沿ってヨー角が変化していると推定され、そのようなずれの検出の遅れが生じる。
【0037】
車両1の舵角の操作量は、車両1の横方向およびヨー方向についての、地図データ上における車両1の目標位置と推測位置および予測位置との偏差を用いて求められる。そのため、ヨー方向の偏差が小さいことにより舵角の操作量が十分に大きくならず、車両1の横方向の偏差が大きくなってしまう可能性がある。そのような場合には、車両1の地図データ上の位置を補正するときの補正量が、実際の車両1の挙動として起こりえないような大きな補正量となってしまう可能性がある。ステップS1で算出した補正量が、そのような実際の車両1の挙動として起こりうる所定の補正量より大きいことが判定された場合には、車両1の現在位置の推測に起因した補正であることが、ステップS2において判定される。このように、補正量が所定の補正量以下であることなどにより、車両1の現在位置の推測に起因した補正ではないことがステップS2において判定された場合には、以降の制御を実行することなく、このフローチャートを一旦終了する。
【0038】
反対に、補正量が所定の補正量より大きいことなどにより、車両1の位置の推測に起因した補正であることが判定された場合には、ステップS3に進み、補正量に応じて最適制御問題におけるパラメータを調整する。ステップS3では、所定の最適制御問題において、補正量が所定の補正量より大きいことにより、演算の回数の増大につながるパラメータを調整する。例えば、ステップS3では、車両1の状態量に関する制約条件や、所定の最適制御問題における収束判定値を変更する。
【0039】
車両1の状態量に関する制約を変更する場合には、車両1の横方向やヨー方向、縦方向などにおける偏差に対して設定されている制約条件を、ステップS1で算出された補正量に応じて緩和する。例えば、横方向において車両1の現在位置が正しく推測できていないと判定された場合には、制約条件に抵触したことを判定するための所定の横偏差を大きくすることにより制約を広げる。または、最適制御問題における制約条件に関する評価関数の重みを小さくする、例えば最適制御問題における制約条件を構成するスラック変数に関する評価関数の重みを小さくする。あるいは、横偏差についての最適制御問題において、制約条件を含まない最適制御問題に変更して最適化演算を行う。もしくは、最適制御を用いることに替えて、従来知られているPID制御などのルールベースの走行制御に切り替えて走行制御を行うように構成されている。なお、従来知られている最小時間法や制約緩和法などによって最適制御問題における制約条件を緩和するように構成されていてもよい。また、制約条件を緩和するときには、ハード制約やソフト制約などを考慮して緩和されるように構成されている。
【0040】
また、所定の最適制御問題における収束判定値を変更する場合には、ステップS1で算出された補正量に応じて収束判定値を緩和する。例えば、横方向において車両1の現在位置が正しく推測できていないと判定された場合には、目標舵角を求めるための最適制御問題において収束判定値を大きくする。このように、ステップS3において、最適制御問題における所定のパラメータを、補正量に応じて変更することにより、このフローチャートを一旦終了する。
【0041】
このように構成された自動運転車両1の制御装置では、車両1の挙動に基づいて推測された車両1の地図データ上での位置データと、車両1の周囲の対象物などを認識することによって相対的に実測された車両1の走行路上での実測位置と、に基づいて車両1の地図データ上での現在位置を所定の周期ごとに推測する。そのようにして求められた車両1の現在位置と、地図データや外界センサ9によって検出した走行レーンの白線や道路形状などに基づいて車両1の走行すべき目標軌道が求められる。その目標軌道に沿って車両1を自動運転走行させるために、車両1における制約を考慮した所定の最適制御問題を解くことにより、駆動力源2やブレーキ装置3、ステアリング装置5などの操作量が求められ、その操作量に応じて車両1が自動運転走行する。
【0042】
そのような走行制御において、車両1の現在位置を推測するときの補正量が算出される。その際に、算出された補正量に基づき、車両1の現在位置を正確に推測できているか否かが判定される。つまり、地図データ上の車両1の現在位置が、実際の車両1の挙動として起こり得ないような変化をしているか否かが判定される。そのような変化をしていることが判定された場合には、所定の最適制御問題において、制約条件や収束判定値が緩和されるように構成されている。すなわち、走行制御に与える影響を考慮しつつ、そのような変化によって演算回数の増大につながるようなパラメータを調整する。例えば、実際の車両1の挙動として起こり得ないような大きな補正量となった場合には、それに応じて所定の最適制御問題において最適解を算出するまでの演算回数が増大する。さらに、そのような変化によって制約条件に抵触した場合には、その制約条件に基づく演算回数が増大する。あるいは、所定の最適制御問題において解が収束判定値に到達するまでに要する演算回数が増大する。
【0043】
本発明の実施形態における制御装置では、そのような変化であることを検出した場合には、その制約を広げる、制約自体を含まない問題に変更して演算を行う、制御自体をPID制御などのルールベースの制御に切り替える、あるいは、収束判定値を大きくするなどの変更が実行される。すなわち、そのような変化が生じたことによる演算回数の増大につながるパラメータを調整している。そのため、演算回数の増大によってECU7への負荷が増大したり、所定の最適制御問題における演算の解が出せなくなったりすることを抑制することができる。さらに、車両1の挙動に搭乗者の意図しない挙動が生じることをも抑制することができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した例に限定されないのであって、本発明の目的を達成する範囲で適宜変更してもよい。例えば、制約条件を緩和する場合には、車両1の位置データにおける補正量に基づく、制約に抵触する可能性が高いと判定された場合に実行されるように構成されていても良い。つまり、前周期での補正量の変化と今回の周期での補正量とを比較するなどによって補正量の変化を予測する。そして、その変化が続いた場合に制約に抵触することが想定された場合に、制約を広げたり、制約のない走行制御に切り替えたりして走行制御を実行するように構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 車両
6 検出部
7 ECU
8 内界センサ
9 外界センサ
10 車両位置推測部
11 目標軌道演算部
12 トレース制御部
12a 最適演算部
図1
図2
図3