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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177851
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】中綿およびその繊維製品
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/643 20060101AFI20241217BHJP
   A47G 9/02 20060101ALI20241217BHJP
   A47G 9/10 20060101ALI20241217BHJP
   A47C 27/12 20060101ALI20241217BHJP
   B68G 1/00 20060101ALI20241217BHJP
   D02G 1/12 20060101ALI20241217BHJP
   D01F 6/62 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
D06M15/643
A47G9/02 B
A47G9/10 B
A47C27/12 B
B68G1/00
D02G1/12
D01F6/62 301J
D01F6/62 303E
D01F6/62 306P
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096216
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】黒田 幸乙綾
【テーマコード(参考)】
3B096
3B102
4L033
4L035
4L036
【Fターム(参考)】
3B096AD04
3B102AB07
3B102BA12
4L033AA07
4L033AB01
4L033AC09
4L033CA59
4L035AA05
4L035BB31
4L035DD03
4L035FF04
4L035FF08
4L036MA05
4L036MA19
4L036MA35
4L036PA26
4L036PA36
4L036RA04
4L036UA07
(57)【要約】
【課題】中綿を含む繊維製品の圧縮梱包を開封した後にも、圧縮梱包する前と同様の物性を有する、中綿およびそれを含む繊維製品を提供すること。
【解決手段】シリコーン系表面処理された合成繊維であって、中空かつ平面捲縮である合成繊維が主体繊維である中綿。さらには、主体繊維の繊度が4~20dtexの範囲であることや、主体繊維である合成繊維がポリエチレンテレフタレート繊維であることが好ましい。ポリトリメチレンテレフタレート繊維を含有することや、主体繊維以外に中空繊維を含有することが好ましい。また立体捲縮繊維を含有することや、該立体捲縮繊維が中空繊維であることや、ポリトリメチレンテレフタレート繊維であることも好ましい。及び、上記本発明の中綿を用いた繊維製品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン系表面処理された合成繊維であって、中空かつ平面捲縮である合成繊維が主体繊維であることを特徴とする中綿。
【請求項2】
主体繊維の繊度が4~20dtexの範囲である請求項1記載の中綿。
【請求項3】
主体繊維である合成繊維がポリエチレンテレフタレート繊維である請求項1記載の中綿。
【請求項4】
ポリトリメチレンテレフタレート繊維を含有する請求項1記載の中綿。
【請求項5】
主体繊維以外に中空繊維を含有する請求項1記載の中綿。
【請求項6】
立体捲縮繊維を含有する請求項1記載の中綿。
【請求項7】
該立体捲縮繊維が、中空繊維である請求項6記載の中綿。
【請求項8】
該立体捲縮繊維が、ポリトリメチレンテレフタレート繊維である請求項6記載の中綿。
【請求項9】
請求項1記載の中綿を用いた繊維製品。
【請求項10】
繊維製品が、布団、枕、クッション、ぬいぐるみ、ダウンジャケット、寝袋、カーペットおよび敷パッドなどの各種パッドからなる群より選択される何れかである、請求項9記載の繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中綿が充填された掛布団や枕などの繊維製品に最適な、耐圧縮性に優れた中綿およびその繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル繊維などの合成繊維からなる中綿および布団などの繊維製品は種々提案されている。中でもその保温性の高さから中空繊維は汎用されている(たとえば特許文献1,2)。
【0003】
ところで家庭用寝装・インテリア・衣料などの繊維製品、特に中綿を含む繊維製品は多量の空気を含んで基本的に嵩高である。そのため昨今の環境負荷低減の風潮に伴い、圧縮梱包して搬送し、輸送コストやエネルギーの削減や保管スペースの圧縮に貢献できる製品が、強く望まれていた。圧縮梱包しない場合、輸送エネルギー(輸送費、輸送数量、エネルギー排出量など)の効率が、大きく低下するからである。
【0004】
特に、寝具インテリア類のふとん、枕、クッション(抱き枕含む)、カーペット、寝袋等や雑貨類のぬいぐるみ、また衣料類のダウンジャケット等の中綿を含んだ大物繊維製品は、他の一般的な衣料等の繊維製品と比べてもより嵩ばるため、より圧縮梱包できることが望まれていた。
【0005】
また高価な羽毛布団は圧縮梱包しないケースが多く、一部の洗える羽毛布団において圧縮梱包するケースがあるが、特に回復性に問題はない。一方、羽毛等と比較して合成繊維中綿は嵩高性は優れているものの、無理やり一時的に圧縮梱包した場合には、その圧縮梱包された繊維製品を輸送、保管等したのち、店頭陳列や家庭での使用時に開封した場合にヘタリ感が生じ、さらには圧縮梱包することによって、触感、製品性能(へたることによる保温性への阻害、ペーパーライク感によるフィット感の欠如など)が低下するという問題があった。特に中綿を使用する製品は、保温性や柔軟な風合いなどの機能性を訴求した繊維製品であることが多く、圧縮梱包することによって、期待された性能が発現されなくなる、という課題を有していた。
【0006】
特に最近の合成繊維製の中綿は、中空繊維であることに加え、重合度の異なるポリマーをサイドバイサイドに張り合わせて複合紡糸して延伸したり、紡糸工程において異方冷却を施すことにより得られる立体捲縮(スパイラル捲縮)繊維が数多く使われている。これら立体捲縮繊維の短繊維(原綿)やまた該繊維を中綿に使った繊維製品は高い保温性等は確保できるものの、圧縮しても嵩が減りにくく、逆にまた開封した場合に嵩が戻りにくい(捲縮が強固であり繊維の絡まりが解けにくい)、という問題があった。
【0007】
かかる要求に対して、繊維の絡まりを解けやすくする方法として、繊維間摩擦係数を下げる各種油剤等が提案されているものの、まだ十分ではない。
品質低下を避けるために、まだまだ製品圧縮を避ける(圧縮梱包しない)ことが選択されることが多いのが現状であり、特に中綿が用いられることの多い大物繊維製品に適した、耐圧縮性に優れた中綿の開発が待たれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭56-76915号公報
【特許文献2】特開平1-260050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、圧縮梱包を開封した後にも圧縮梱包する前と同様の物性を有する、中綿およびそれを含む繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の中綿は、シリコーン系表面処理された合成繊維であって、中空かつ平面捲縮である合成繊維を主体繊維とすることを特徴とする。
さらには、主体繊維の繊度が4~20dtexの範囲であることや、主体繊維である合成繊維がポリエチレンテレフタレート繊維であることが好ましい。また、本発明の中綿は、ポリトリメチレンテレフタレート繊維を含有することや、主体繊維以外に中空繊維を含有することが好ましい。
また本発明の中綿は、立体捲縮繊維を含有することも好ましく、該立体捲縮繊維が中空繊維であることや、該立体捲縮繊維がポリトリメチレンテレフタレート繊維であることも好ましい。
【0011】
もう一つの本発明の繊維製品は、上記本発明の中綿を用いた繊維製品である。さらには繊維製品が、布団、枕、クッション、ぬいぐるみ、ダウンジャケット、寝袋、カーペットおよび敷パッドなどの各種パッドからなる群より選択される何れかであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、圧縮梱包を開封した後にも圧縮梱包する前と同様の物性を有する、中綿およびそれを含む繊維製品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を実施するための形態を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
本発明の中綿は、シリコーン系表面処理された合成繊維であって、中空かつ平面捲縮である合成繊維が主体繊維であることを特徴とする。
【0014】
ここで本発明の中綿の主体繊維を構成する合成繊維としては、ポリエステル繊維が好ましい。さらにポリエステル繊維を形成するポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸などのポリエステルや、第3成分を共重合させた共重合ポリエステルなどが好ましく例示される。
【0015】
中でもその物性や経済性のバランスからは、主体繊維の合成繊維がポリエステル繊維であって、特にはポリエチレンテレフタレート繊維であることが好ましい。
また主体繊維や、主体繊維以外のその他の繊維としてポリトリメチレンテレフタレート繊維を含有することも好ましい。ポリエチレンテレフタレートを全量用いた場合に比べ、若干耐圧縮性は低下するものの、柔らかい風合いの中綿となる。
【0016】
さらに合成繊維に用いるポリマー中には、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステル等の合成樹脂や、特開2009-091694号公報に記載された、バイオマスすなわち生物由来の物質を原材料として得られたモノマー成分を使用してなるポリエチレンテレフタレートであってもよい。さらには、特開2004-270097号公報や特開2004-211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステル等のポリマーも好ましく用いられる。
【0017】
さらにはこの合成繊維となるポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0018】
また本発明の主体繊維となる合成繊維はシリコーン系の表面処理をされた繊維であることが必要である。シリコーン系の表面処理としては、ケイ素を主鎖に含有するポリマーであるシリコーン樹脂によって表面処理された物であればよい。アミノ変性やヒドロキシ変性のポリシロキサンであってもよく、シリコーン樹脂は架橋されたシリコーン樹脂であることも好ましい。架橋することによって、シリコーン樹脂が中綿を構成する繊維からより脱落しにくくなる。
【0019】
特には、ポリシロキサンを含む油剤で処理したものであって、アミノ変性ジメチルポリシロキサン/末端ヒドロキシ変性ジメチルポリシロキサン/アミノアルコキシシランの混合物からなる水系エマルジョン油剤によって表面処理した繊維であることが好ましい。
このようなシリコーン系の表面処理を行うことによって、繊維/繊維間の摩擦を下げる(滑りを高める)ことができ、柔らかく、圧縮性、圧縮回復性に優れた中綿となる。
【0020】
本発明で用いるシリコーン系の表面処理剤としてはポリシロキサンを含む油剤であることが好ましく、またリン酸系化合物、脂肪族化合物、ハロゲン系化合物を含むことや、さらには、酸化防止剤、防腐剤、制電剤等を含むことも好ましい。
【0021】
また、そのようなシリコーン系油剤の繊維への付着量(opu)としては、0.05~1%の範囲が好ましく、さらには0.06~0.5%、特には0.08~0.2%、より好ましくは0.1~0.15%、特には0.11%以下の範囲であることが好ましい。
【0022】
かかる油剤を合成繊維に付与する方法としては、従来公知の任意の方法を採用することができ、繊維成型後であれば任意に可能である。なかでも、製糸・製綿工程で付与する方法が好ましく、特に延伸工程以降の熱処理前の段階で付与することが好ましい。
【0023】
通常の処理方法は、かかる油剤を延伸後の繊維に浸漬法、オイリングローラー法、スプレー法等によって付与される。例えば、製綿工程においては、かかる油剤を付与後、熱処理し、次いで捲縮、任意の短繊維長にカット、次いでエージングされる。尚、カットとエージング工程の順番はどちらが先でも構わず、またエージングは無くても構わない。
【0024】
また目的を損なわない限り、前記油剤に制電剤、消泡剤、変色防止剤などが含まれていても構わず、更には油剤を処理した後の熱処理の前後に、制電剤、消泡剤、変色防止剤などを処理しても構わない。
【0025】
そして本発明の中綿に用いる主体繊維である合成繊維は、中空繊維かつ平面捲縮繊維(以下、「平面捲縮中空繊維」と記すことがある)であることが必要である。
中空繊維は従来公知の方法で得ることが可能であるが、その中空率としてはその繊維断面において2~50%の空隙があることが好ましい。さらには5~25%、特には8.5~18.5%であることが好ましく、より好ましくは10.5~16.5%、さらには12.5~14.5%の範囲であることが最も好ましい。通常中空率を高くすると保温性等が向上するものの、本発明の重要な効果である耐圧縮をすることにより、中空が潰れたり、割れたりすることにより若干低下する傾向にある。
【0026】
また本発明の中綿に用いる平面捲縮繊維とは、いわゆる立体捲縮や三次元捲縮と異なり、一平面上で繊維がジグザグに捲縮したものであって、圧縮時に各捲縮繊維が折りたたまれやすく体積が減少しやすい(圧縮されやすい)ばかりか、必要以上に各捲縮繊維が絡みあわないために、圧縮解放時にも元の物性(嵩など)を保持しやすい。
【0027】
さらに本発明で適用される平面捲縮としては、捲縮した繊維が短い直線と角からなるジグザグ構造で構成されていることが好ましい。本発明の平面捲縮繊維では明確な角を有する捲縮であるために、その製造方法からなだらかな曲線で構成されることが一般的な立体捲縮繊維とは異なり、圧縮時にはその角を中心に応力が集中して曲がりやすく、結果的に容易に中綿の体積が減少する。逆に圧縮からの解放時には急激に角にかかる応力が減少し、中綿の体積が回復しやすい。ちなみに主に曲線で構成される立体捲縮では各部分に平均して応力がかかるために、圧縮されにくく、回復もしづらいものとなる。
【0028】
但し平面捲縮中空繊維では、機械的にその捲縮を付与するために中空繊維構造が潰れやすいという問題があり、その観点からは中空率が低く、繊度が大きいことが好ましく、また嵩性のためにも繊度が大きいことが好ましい。具体的には25%未満、特には20%未満や15%未満の中空率であることが好ましく、繊度としては4dtex以上、特には5dtex以上や6dtex以上であることが好ましい。
【0029】
平面捲縮を付与する方法としては機械捲縮であることが好ましく、さらには押し込みクリンパー方式による機械捲縮であることが好ましい。ちなみに立体捲縮に用いられる、重合度の異なるポリマーをサイドバイサイドに貼り合わせる複合紡糸や、途中工程処理における異方冷却処理よりも、平面捲縮に用いられる機械捲縮では、その捲縮程度の調整が容易となり、より均一な品質の繊維が得られやすい。
【0030】
本発明の中綿に用いる合成繊維は、このような捲縮を付与することによって、嵩高性、工程通過性(中綿成型する、開繊(カード)web工程など)が向上する。また、平面捲縮中空繊維としては、主として平面捲縮の性質が表れていればよく、若干であれば立体捲縮を伴っていても良い。具体的には直線状のジグザク捲縮の性質が残存していることが好ましい。
【0031】
なお、本発明で主体繊維に用いる中空繊維としては、例えば、中空にフィンが付いている異形中空であってもよく、その他の空隙を有する断面として、十断面、H断面、T断面、Y断面などの異形断面であることも好ましい。
【0032】
このような捲縮繊維の捲縮数(CN)としては5~15個/25mmの範囲であることが、さらには8~12個/25mm、特には7.5~10.5個/25mmの範囲であることが好ましい。捲縮度(CD)としては10~30の範囲であることが、さらには15~25、特には16~22の範囲であることが好ましい。さらには、残留捲縮度(CR)が特定の範囲内にあることが好ましく10~25%の範囲であることが好ましく、さらには12~20%、特には13~19%の範囲であることが好ましい。また、残留捲縮度(CR)/捲縮度(CD)の値が0.85以下であることが好ましい。
このような数値範囲の平面捲縮中空繊維を主体繊維に採用することによって、より圧縮・開放時に品質変化の少ない、中空の潰れにくい、中綿を得ることが可能となる。
【0033】
その他、主体繊維の好ましい要件としてはその繊度が4~20dtexの範囲にあることが好ましく、さらには5~9dtex、特には6.0~6.4dtexの範囲であることが好ましい。このように比較的高い繊度の中綿用合成繊維を用いることによって、中綿の嵩性や保温性、軽量性などの機能特性と圧縮梱包されても中綿が速やかに回復する特性を両立することがより容易となる。カット長としては20~200mmの範囲であることが好ましく、さらには32~76mm、特には38~64mm、最も好ましくは45~55mmの範囲であることが好ましい。
【0034】
このような主体繊維の含有率は、中綿を構成する繊維の中でもっとも多い含有率であれば良い。中綿における主体繊維の含有率としては30重量%以上が好ましく、さらには50重量%以上、特には90重量%以上であり、100重量%、すなわち構成繊維が主体繊維のみで構成されていることも好ましい。
【0035】
本発明では中綿を構成する主体繊維が、上記のような中空形態や平面捲縮等の構造をとることによって、耐圧縮性の高い中綿を得ることができるようになったのである。
また本発明の中綿は風合い等の他の要件を満足させるために主体繊維以外の他の繊維を含有しても良い。主体繊維以外の繊維としては立体捲縮繊維や、中空部を有さない中実繊維を挙げることができるが、特には中空の立体捲縮繊維であることが好ましい。
【0036】
従来のように中空の立体捲縮繊維のみで中綿が構成された場合、十分に体積を圧縮するためには大きな荷重をかける必要もあり、中空が潰れやすかった。しかし本発明では主体繊維として中空平面捲縮繊維を採用するがゆえに、小さな荷重でも十分に体積が減少し、かつ平面捲縮繊維に主に荷重がかかるため、立体捲縮繊維を併用しても、嵩が減りやすく、圧縮解放時の物性も高い状態で維持される中綿となる。
【0037】
本発明の中綿を構成する主体繊維以外の他の繊維としては、断面形状が中空の繊維を用いることが好ましく、その場合、中綿の嵩性、弾性、回復性、保温および軽量性の面でさらに優れた中綿となる。このような中空繊維の例としては、例えば中空にフィンが付いている異形中空であってもよく、中空+フィンによって得られる中空率とフィン間の空隙率を足した中空率として、30~80%の範囲であることが好ましい。その他の空隙を有する断面として、十断面、H断面、T断面、Y断面などの異形断面であることも好ましい。
【0038】
また本発明においては、他の繊維にもシリコーン系の表面処理が行われていることが好ましく、油剤付着量としては0.1~0.3%の範囲であることが好ましく、さらには0.1~0.2%の範囲であることが好ましい。
【0039】
そして他の繊維としては、嵩性に加えて剛性を加味する場合は例えば9.0dtex以上の太繊度の繊維を、逆に柔らかい風合いを求める場合には例えば4.0dtex未満の細繊度繊維を混綿することも好ましい。もちろん複数の他の繊維を用いて、複数の繊維をミックスした中綿であっても構わない。カット長としては30~76mmの範囲が、汎用性が高く好ましい。
【0040】
他の繊維の捲縮特性としては、残留捲縮度(CR)が20以下であることや、残留捲縮度(CR)/捲縮度(CD)の値が0.85以下であることが好ましい。
また先に述べたように、主体繊維以外の他の繊維としてポリトリメチレンテレフタレート繊維を含有することも好ましく、風合いの優れた中綿となる。さらにはポリエチレンテレフタレート繊維を平面捲縮中空繊維の主体繊維とし、ポリトリメチレンテレフタレート繊維を主体繊維以外の立体捲縮繊維として用いることが、耐圧縮性能と風合いのバランスに優れた中綿となり好ましい。
【0041】
ポリトリメチレンテレフタレート繊維が捲縮する場合は平面捲縮でも良いが立体捲縮であることが好ましく、より風合いが柔らかいものとなる。捲縮数(CN)としては5~20個/25mmの範囲であることが、さらには15個/25mm以下、特には9個/25mm以下の範囲であることが好ましい。
さらにはポリトリメチレンテレフタレート繊維としては、中空繊維や突起部(フィン部)を有する中空繊維であることも好ましい。
【0042】
このようなポリトリメチレンテレフタレート繊維が通常の中空繊維である場合の中空率としては20%以下が好ましく、さらには2~14%の範囲であることが好ましい。その他の好ましい要件としてはその繊度が2~6dtexの範囲にあることが好ましく、さらには3~4dtexの範囲であることが好ましい。繊維のカット長としては38~64mmの範囲であることが好ましく、さらには50~55mmの範囲であることが好ましい。
【0043】
また突起部(フィン部)を有する中空繊維である場合の空隙率(フィンの外接円の中の空隙の割合)としては30~80%の範囲が好ましく、さらには50~70%の範囲であることが好ましい。その他の好ましい要件としてはその繊度が3~13dtexの範囲にあることが好ましく、さらには4~11dtexの範囲であることが好ましい。繊維のカット長としては32~76mmの範囲であることが好ましく、さらには51~64mmの範囲であることが好ましい。
【0044】
本発明の中綿としては、上記のポリトリメチレンテレフタレート繊維以外に、ポリエチレンテレフタレート繊維を主体繊維以外の他の繊維として含有することも好ましい。
他の繊維がポリエチレンテレフタレート繊維である場合の捲縮数(CN)としては、7~13個/25mmの範囲であることが、さらには8.5~12.5個/25mmの範囲であることが好ましい。中空率としては25~35%の範囲が好ましく、さらには26~34%の範囲であることが好ましい。その他の好ましい要件としてはその繊度が4~10dtexの範囲にあることが好ましく、さらには6~8dtex、特には6.5~7.5dtexの範囲であることが好ましい。繊維のカット長としては30~80mmの範囲であることが好ましく、さらには32~76mm、特には51~64mmの範囲であることが好ましい。
【0045】
さらには本発明の中綿としては、主体繊維以外の他の繊維として、ポリトリメチレンテレフタレート繊維と、ポリエチレンテレフタレート繊維の両者を含有することが好ましい。これらはそれぞれ中実繊維であっても良いし、または中空ないし中実の立体捲縮繊維であっても良い。特には平面捲縮の主体繊維に対し、主体繊維以外の他の繊維がポリトリメチレンテレフタレート繊維とポリエチレンテレフタレート繊維の立体捲縮繊維を含有することが好ましい。
【0046】
もう一つの本発明は上記の本発明の中綿を用いた繊維製品である。さらにはその繊維製品が布団、枕、クッション、ぬいぐるみ、ダウンジャケット、寝袋、カーペットおよび敷パッドなどの各種パッドからなる群より選択される何れかであることが好ましい。
このような本発明の中綿を用いた繊維製品は、本発明の中綿の有する軽量でありながら、保温性や嵩高性を有し、耐圧縮性に優れた繊維製品となる。
【0047】
本発明の繊維製品は、圧縮梱包し輸送や保管されたのち、開封して使用する際に、圧縮前あるいは圧縮されずに梱包・輸送や保管された繊維製品と同等の性質を有し、回復特性に優れ、感覚的にも圧縮梱包されたことを感じることのない繊維製品となる。
本発明の中綿は、例えば、布団等中わたの詰綿として使用することができ、軽量かつ嵩高で保温性や通気性、尚且つ圧縮梱包しても繊維製品特性が損なわれない優れた布団となる。
【0048】
さらに本発明の中綿を用いた繊維製品は、中綿入りジャケット、スポーツウエア、作業衣、防護衣、防寒服、寝袋、座布団、こたつ布団、布団、枕、敷パッド、枕パッドなどの中綿を含む繊維製品や、カーペット、キッチンマットなどの中綿を含むインテリア用製品等として、好ましく用いられる。特に圧縮梱包を必要とされる場合の多い大物繊維製品、布団(布団中綿)やこたつ布団などにおいて、その効果はより好ましい。
【0049】
本発明の中綿および繊維製品により、圧縮梱包されても開封時に速やかに回復し、圧縮梱包されたことを感じない、あるいは圧縮梱包されていない繊維製品と同様な嵩性や風合いを有した耐圧縮性に優れた中綿および繊維製品を得ることができる。
【0050】
そして本発明の中綿を用いた繊維製品は、特に大物繊維製品の代表である掛布団などの寝装製品に対して、特に有効に使用することが可能となる。輸送時や保管時の圧縮梱包によって嵩性等の特徴を阻害されることなく、圧縮梱包・輸送・保管の各作業を行うことができ、輸送や保管等に伴うCO排出量を低減させることが可能となり、環境も優しい繊維製品となった。
【実施例0051】
次に本発明の実施例および比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお。実施中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0052】
(1)捲縮特性
JIS L 1015、「けん縮」により「けん縮数(捲縮数:CN)」「けん縮率(捲縮度:CD)」「残留けん縮率(残捲または残留捲縮度:CR)」を測定した。
【0053】
(2)油剤の付着量(重量%)
OPU(%)として、油剤が付着した絶乾後繊維重量と脱脂後の絶乾後繊維重量の比率を算出した。
【0054】
(3)摩擦係数(F/Fμd)
JIS L1015「摩擦係数」により測定した。
【0055】
(4)中綿の嵩高性と回復性
JIS L1097「比容積(かさ高性)」、「圧縮弾性(圧縮率・回復率)」により測定した。
【0056】
(5)布団の圧縮回復性
(5-1)回復率(ミニ布団)
シングル掛布団(幅1.5m×長さ2.1mサイズ、中綿充填量1.5kg)のミニ版として、20cm角サイズ、中綿充填量19gを試作し、布団厚みを測定した後、そのままの状態(折りたたまず、平置き)でチャック付き密閉袋に入れ加圧密閉・梱包したのち、密閉袋の中に空気が入らないように、20cm角サイズに均等に力がかかるように3kgの荷重を2週間載せて放置した。加圧密閉・梱包時の圧縮率は、圧縮前厚みからの減少した厚さの比率とした。
その後、密閉袋を開封し、開封直後、各1日、2日,3日,7日静置後にミニ布団厚みを測定し、回復率を求めた。
回復率(%)=100-((X-Y)/X)*100
X:圧縮前厚み
Y:圧縮2週間経過後、開封し特定時間経過後の厚み。
【0057】
(5-2)回復率(シングル掛布団)
シングル掛布団(幅1.5m×長さ2.1mサイズ、中綿充填量1.5kg)を、幅の1.5m側を三つ折りし長さ方向に巻いたのち、密閉袋に挿入し2トン圧縮とともに熱融着シーリングし梱包した。圧縮・梱包時圧縮率は、未圧縮の厚みからの減少した厚さの比率とした。
圧縮梱包2か月経過および5か月経過した後に開封し、開封直後、1日、3日、7日静置後に布団の厚みを測定し、未圧縮のシングル掛布団と比較し回復率を求めた。
回復率(%)=100-((X-Y)/X)*100
X:未圧縮の掛布団の厚み
Y:圧縮梱包2もしくは5ケ月経過後に開封し、特定時間経過後の掛布団の厚み。
【0058】
[実施例1]
固有粘度が0.6のポリエチレンテレフタレートを、孔径0.3mm、孔数180ホール、錘数24ケを有する紡糸口金から、紡糸温度300℃、吐出量560g/分で溶融押出し、巻取速度1050m/分で紡糸し、70℃の温水中で延伸速度30m/分で延伸倍率2.9倍の処理を行い、次いで90℃の温水中で延伸倍率150m/分で定倍に延伸した。引き続きシリンダ乾燥を経て、ポリシロキサンを含む油剤(アミノ変性ジメチルポリシロキサン/末端ヒドロキシ変性ジメチルポリシロキサン/アミノアルコキシシランの混合物からなる水系エマルジョン油剤)のオイルバス(浴)に浸漬処理し、押込み捲縮クリンパーで絞り機械捲縮による平面捲縮を付与した。さらに51mmの長さにカットし、170℃の乾燥を行い、ポリシロキサンを含む油剤の付着量OPU0.20%の短繊維を得た。
【0059】
この短繊維は、平面捲縮中空繊維であって、繊度は6.6dtex、中空率は13.5%であった。また捲縮数(CN)は9ケ/25mm、捲縮度(CD)19、残留捲縮度(CR)16、CR/CD値が0.84、F/Fμdは0.190であった。
得られた短繊維を主体繊維として100wt%開繊し、得られたカードwebを用いて中綿の嵩高性と回復性を評価した。また該中綿を用いて、ミニ布団とシングル掛布団を作成した。その時に用いた布団生地は、ポリエステル100%、目付70gsmの平織物であった。得られた布団をそれぞれ圧縮梱包した後、開封し、回復率を求めた。結果を表1、表2に示す。
【0060】
[実施例2]
実施例1において、得られた短繊維を主体繊維として50wt%用いた。
混綿相手として立体捲縮中空ポリトリメチレンテレフタレート繊維(以下「立体捲縮PTT」)30wt%と、立体捲縮中空ポリエチレンテレフタレート繊維(以下「立体捲縮PET1」)20wt%を用いて実施例1と同様に中綿を得た。
用いた立体捲縮PTTは、3.3dtex×51mm、丸断面中空率8%、立体捲縮加工され、ポリシロキサンを含む油剤のOPUが0.2%、短繊維の捲縮数(CN)6.8ケ/25mm、F/Fμdは0.21であった。
用いたもう一つの立体捲縮PET1は、6.6dtex×64mm、丸断面中空率30%、立体捲縮加工され、ポリシロキサンを含まない油剤のOPUが0.2%、短繊維の捲縮数(CN)11ケ/25mm、捲縮度(CD)26、残留捲縮度(CR)23、CR/CDが0.88ならびにF/Fμdは0.24であった。
実施例1の中綿に比べ若干柔らかい風合いのものであった。結果を表1に併せて示す。
【0061】
[実施例3]
実施例2と同様に、実施例1において得られた短繊維を主体繊維として50wt%用いた。混綿相手として実施例2で用いた立体捲縮PTT繊維と立体捲縮PET1繊維を用い、ただし比率を実施例2から、立体捲縮PTT繊維20wt%と、立体捲縮PET1繊維30wt%に変えて実施例2と同様に中綿を得た。
実施例1の中綿に比べると若干柔らかい風合いであったが、実施例2よりはしっかりした風合いであった。結果を表1に併せて示す。
【0062】
[比較例1]
ポリエチレンテレフタレートからなり9.0dtex×76mm、丸断面中空率30%で、立体捲縮加工され、ポリシロキサンを含む油剤がOPU0.2%付着し、F/F μd0.19のポリエステル繊維(以下「立体捲縮PET2」)を100wt%のみを用い、実施例1と同様に中綿を得た。用いた短繊維の捲縮数(CN)9.5ケ/25mm、捲縮度(CD)22、残留捲縮度(CR)21、CR/CDが0.86ならびにF/Fμdは0.19であった。
結果を表1、表2に併せて示す。
【0063】
[比較例2]
実施例1で用いた主体繊維を用いず、実施例2で用いた立体捲縮PTT繊維を30wt%、立体捲縮PET1繊維を20wt%、比較例1で用いた立体捲縮PET2繊維を50wt%用い、実施例1と同様に中綿を得た。
結果を表1に併せて示す。
【0064】
[比較例3]
実施例1で用いた主体繊維を用いず、実施例2で用いた立体捲縮PET1繊維を100wt%用い、実施例1と同様に中綿を得た。
結果を表1、表2に併せて示す。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】