(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177852
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化性組成物およびその用途
(51)【国際特許分類】
C04B 9/00 20060101AFI20241217BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20241217BHJP
C04B 14/10 20060101ALI20241217BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20241217BHJP
C04B 14/36 20060101ALI20241217BHJP
C04B 14/04 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C04B9/00
C04B22/06 Z
C04B14/10 A
C04B22/10
C04B14/36
C04B14/04 Z
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096217
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000127639
【氏名又は名称】株式会社エービーシー商会
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】郷 博之
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MA02
(57)【要約】
【課題】仕上げに使用される建材からの二酸化炭素や窒素系悪臭物質の排出を削減する技術を提供する。
【解決手段】酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、半水石膏、ケイ酸塩化合物を含有する硬化性組成物であって、
酸化マグネシウムを30~60質量%含有し、
酸化マグネシウムの平均BET比表面積が5~25m
2/gであり、
酸化マグネシウムと炭酸マグネシウムの質量比が3~10:1であり、
半水石膏が、酸化マグネシウムの質量に対して、6~25質量%であり、
塩化マグネシウムを含有しない、
ことを特徴とする二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化性組成物、これと水を混練した混練物を硬化させて得られる二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化体や成形体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、半水石膏、ケイ酸塩化合物を含有する硬化性組成物であって、
酸化マグネシウムを30~60質量%含有し、
酸化マグネシウムの平均BET比表面積が5~25m2/gであり、
酸化マグネシウムと炭酸マグネシウムの質量比が3~10:1であり、
半水石膏が、酸化マグネシウムの質量に対して、6~25質量%であり、
塩化マグネシウムを含有しない、
ことを特徴とする二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化性組成物。
【請求項2】
炭酸マグネシウムが、塩基性炭酸マグネシウムである請求項1記載の二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化性組成物。
【請求項3】
ケイ酸塩化合物が、ウォラストナイト、メタカオリン、ジルコン、乾式シリカからなる群から選ばれる1種または2種以上である請求項1記載の二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化性組成物。
【請求項4】
ケイ酸塩化合物が酸化マグネシウムの質量に対して、0.1~30質量%である請求項1記載の二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化性組成物。
【請求項5】
更に、充填剤、顔料、減水剤、消泡剤、湿潤分散剤、粘性調整剤、ダレ防止剤、水性樹脂、骨材からなる群から選ばれる配合剤の1種または2種以上を含有するものである請求項1記載の二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化性組成物と水を混練した混練物を硬化させて得られる二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化体。
【請求項7】
請求項1~5の何れか1項に記載の二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化性組成物と水を混練した混練物を型枠に流し込んだ後、硬化させて得られる二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用成形体。
【請求項8】
請求項1~5の何れか1項に記載の二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化性組成物と水を混練した混練物を床面に塗布した後、硬化させることを特徴とする二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質の吸収方法。
【請求項9】
請求項1~5の何れか1項に記載の二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化性組成物と水を混練した混練物を壁面に塗布した後、硬化させることを特徴とする二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質の吸収方法。
【請求項10】
請求項1~5の何れか1項に記載の二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化性組成物と水を混練した混練物を型枠に流し込んだ後、硬化させることを特徴とする二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質の吸収方法。
【請求項11】
請求項7記載の二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用成形体を床面に貼り付けることを特徴とする二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質の吸収方法。
【請求項12】
請求項7記載の二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用成形体を壁面に貼り付けることを特徴とする二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質の吸収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床面や壁面に使用する二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化性組成物およびその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セメントは、オフィスビルやマンションの建物を建築する際の建材として使用されるが、セメントは製造時の焼成により大量に二酸化炭素を排出することが知られている。
【0003】
近年では環境に配慮して建物を建設する時だけでなく、建築に用いられるセメントを製造する際の二酸化炭素の排出量にも削減が求められている。
【0004】
そのため、セメントを硬化バインダーとして使用されるコンクリートやモルタル系材料の配合材料を工夫することで二酸化炭素の排出量の削減をするための技術が開発されている。例えば、特許文献1ではポゾラン性成分と、アルカリ性成分とを含むことを特徴とする水硬性組成物が開示されていて、この水硬性組成物の製造においては、炭酸化処理を行い、焼成処理を含まないため二酸化炭素排出量を少なくあるいは二酸化炭素吸収量の方を多くできると記載されている。
【0005】
更に近年ではセメントだけでなく、建物を建築する際の二酸化炭素の総排出量を抑制するために、床面や壁面の仕上げに使用する建材についても二酸化炭素の排出の削減が求められている。
【0006】
このような仕上げに使用する建材の二酸化炭素の排出の削減技術としては、例えば、特許文献2では土系骨材と、酸化マグネシウムと塩化マグネシウムとを含む固化剤とリン酸とが混練りされた混合物であって、この混合物が舗装ブロックに成型されており、舗装材に必要な強度が発現していることを特徴とする土系ブロックが開示されていて、このブロックは製造にセメントを用いないため二酸化炭素の大量排出を避けることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2022-153131号公報
【特許文献2】特開2023-15438号公報
【特許文献3】特許第7130291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、仕上げに使用される建材からの二酸化炭素の排出を削減する技術、または二酸化炭素を吸収する技術は発展途上で有り、効果的な対策事例は確認することができない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、本発明の課題は、仕上げに使用される建材からの二酸化炭素の排出削減または吸収する技術を提供することである。
【0010】
ところで、本発明者らは、床面や壁面の仕上げに使用する建材に用いることのできる水硬性組成物を報告している(特許文献3)。この水硬性組成物について引き続いて鋭意研究を行ったところ、水硬性組成物から硬化体になる過程で二酸化炭素を吸収することを見出し、また、同時にアンモニア、トリメチルアミン等の窒素系悪臭物質も吸収することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
また、本発明者らは、上記で得られる硬化体も二酸化炭素を吸収することを見出し、また、同時にアンモニア、トリメチルアミン等の窒素系悪臭物質も吸収することを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の通りのものである。
(1)酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、半水石膏、ケイ酸塩化合物を含有する硬化性組成物であって、
酸化マグネシウムを30~60質量%含有し、
酸化マグネシウムの平均BET比表面積が5~25m2/gであり、
酸化マグネシウムと炭酸マグネシウムの質量比が3~10:1であり、
半水石膏が、酸化マグネシウムの質量に対して、6~25質量%であり、
塩化マグネシウムを含有しない、
ことを特徴とする二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化性組成物。
(2)上記二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化性組成物と水を混練した混練物を硬化させて得られる二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化体。
(3)上記二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化性組成物と水を混練した混練物を型枠に流し込んだ後、硬化させて得られる二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用成形体。
(4)上記二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化性組成物と水を混練した混練物を床面に塗布した後、硬化させることを特徴とする二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質の吸収方法。
(5)上記二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化性組成物と水を混練した混練物を壁面に塗布した後、硬化させることを特徴とする二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質の吸収方法。
(6)上記二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化性組成物と水を混練した混練物を型枠に流し込んだ後、硬化させることを特徴とする二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質の吸収方法。
(7)上記二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用成形体を床面に貼り付けることを特徴とする二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質の吸収方法。
(8)上記二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用成形体を壁面に貼り付けることを特徴とする二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質の吸収方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化性組成物は、これを硬化中および硬化体や成形体としてこれを仕上げ用の建材に使用する場合であっても二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質を吸収する。
【0014】
そのため、本発明は、建物を建築する際の二酸化炭素の総排出量を抑制するのに役立つことが出来、また建物屋内においてアンモニア、トリメチルアミン等の窒素系悪臭物質を低減することで室内環境改善に役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例6の二酸化炭素吸収試験の結果を示す図である。
【
図2】実施例7の二酸化炭素吸収試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、硬化性組成物とは、この組成物と水を混練させた混練物を養生することにより硬化するものをいう(特許文献3の水硬性組成物と同じものを指す)。
【0017】
本明細書において、窒素系悪臭物質は、特に限定されないが、例えば、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン等が挙げられ、好ましくはアンモニア、トリメチルアミンのことをいう。
【0018】
本発明の二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化性組成物(以下、単に「本発明の組成物」という)は、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、半水石膏、ケイ酸塩化合物を含有する硬化性組成物であって、酸化マグネシウムを30~60質量%含有し、酸化マグネシウムの平均BET比表面積が5~25m2/gであり、酸化マグネシウムと炭酸マグネシウムの質量比が3~10:1であり、半水石膏が、酸化マグネシウムの質量に対して、6~25質量%であり、塩化マグネシウムを含有しないものである。
【0019】
上記酸化マグネシウムは、得られる硬化性組成物の可使時間や硬化物の強度等の物性の点から平均BET比表面積が5~25m2/gのものが好ましく、10~20m2/gのものがより好ましい。前記平均BET比表面積の酸化マグネシウムを用いる場合、この範囲の平均BET比表面積のものを単独で用いてもよいし、複数の平均BET比表面積のものを組み合わせてこの範囲にしたものを用いてもよい。また、酸化マグネシウムの平均粒子径は特に限定されないが、例えば、1.0~6.0μm、好ましくは3.0~4.5μmである。なお、このような酸化マグネシウムは、市販されている酸化マグネシウムのBET比表面積や平均粒子径を実際に測定し、そこから上記条件にあう酸化マグネシウムを選択し、適宜組み合わせて用いればよい。具体的にこのような酸化マグネシウムは、神島化学工業(株)、赤穂化成工業(株)、タテホ化学工業(株)、協和化学工業(株)等から入手することができる。
【0020】
なお、酸化マグネシウムのBET比表面積は、JIS R1626(ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法)に準じ、流動式比表面積自動測定装置(フローソーブ2300型:(株)島津製作所製)を用いて測定される値である。また、酸化マグネシウムの平均BET比表面積は、BET比表面積の異なる酸化マグネシウムの2種以上を混合した後、この混合物のBET比表面積を上記気体吸着BET法で測定した値のことをいう。更に、酸化マグネシウムの平均粒子径は、予め分散媒(変性アルコール)に試料を入れて、超音波分散装置(UD-201:(株)日本精機製作所製)を用いて試料を3分間分散後に、マイクロトラック粒度分布計(model HRA型:日機装(株)製)で測定される値の平均値である。
【0021】
本発明の組成物における酸化マグネシウムの含有量は、30~60質量%(以下、単に「%」という)、好ましくは35~50%である。
【0022】
上記炭酸マグネシウムは、特に限定されないが、塩基性炭酸マグネシウムであることが好ましい。塩基性炭酸マグネシウムは一般的に下記式
<式>
mMgCO3・Mg(OH)2・nH2O
(ここで、m=3~5、n=3~7)
で表されるが、好ましくは4MgCO3・Mg(OH)2・4H2Oが主成分のものである。また、塩基性炭酸マグネシウムの平均BET比表面積は、特に限定されないが、例えば、10~60m2/g、好ましくは20~50m2/gである。なお、上記平均BET比表面積の塩基性炭酸マグネシウムとしては、この範囲の平均BET比表面積のものを用いてもよいし、複数の平均BET比表面積のものを組み合わせてこの範囲にしたものを用いてもよい。また、塩基性炭酸マグネシウムの平均粒子径は、特に限定されないが、0.5~100μm、好ましくは5~20μmである。塩基性炭酸マグネシウムの平均BET比表面積や、平均粒子径は酸化マグネシウムと同様にして測定することができる。
【0023】
本発明の組成物における酸化マグネシウムと炭酸マグネシウムの質量比は、3~10:1、好ましくは5~9:1である。
【0024】
上記半水石膏は、焼石膏ともよばれるものであり、CaSO4・1/2H2Oで表されるものである。この半水石膏にはα型とβ型が知られているが、どちらか一方または両方の型を用いてもよい。
【0025】
本発明の組成物における半水石膏の含有量は、得られる硬化性組成物の可使時間や硬化物の強度等の物性の点から、酸化マグネシウムの質量に対して6~25%、好ましくは8~20%である。
【0026】
上記ケイ酸塩化合物は、特に限定されないが、例えば、ウォラストナイト、カオリナイト、メタカオリン、ジルコン、タルク、マイカ、乾式シリカなどが挙げられる。これらケイ酸塩化合物の中でも、ウォラストナイトと、ウォラストナイト以外のケイ酸塩化合物の1種または2種以上の組み合わせが好ましく、ウォラストナイトと、メタカオリン、ジルコン、乾式シリカからなる群から選ばれる1種または2種以上の組み合わせがより好ましい。ウォラストナイトは、天然の無機鉱物である珪灰石を微粉化したもので、CaSiO3で表される。このウォラストナイトは、ケイ酸成分を保有し、結晶構造が針状であるため、硬化物組織の寸法安定性効果も期待できるためこれを必須とすることが好ましい。カオリナイトは、天然の高陵石を微粉化したもので、Al4Si4O10(OH)8で表される。メタカオリンは、半焼成カオリンとも呼ばれ、無水ケイ酸アルミニウム、Al2O3・2SiO2で表される。このメタカオリンは、カオリナイトを700~900℃で加熱焼成して製造される。ジルコン(ケイ酸ジルコニウム)は、ジルコニウムのケイ酸塩鉱物であり、ZrSiO4で表される。このジルコンとしては、粉砕して粒子径50μm以下のものを使用することが好ましく、例えばジルコン、ジルコンフラワーの商品名で市販されている。タルクは、水酸化マグネシウムとケイ酸塩から成る鉱物で滑石とも呼ばれ、Mg3Si4O10(OH)2で表される。マイカは、和名は雲母と呼ばれ、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、カリウムなどから成り、結晶構造が鱗片状をなしているのが特徴であるケイ酸塩鉱物である。乾式シリカは、フュームドシリカとも呼ばれ、SiO2で表される。この乾式シリカは、一次粒子径は50nm以下と小さく、複数の粒子が数珠状に繋がり非常に嵩高い凝集体を形成しており、配合量は極少量で効果が期待できる。
【0027】
本発明の組成物におけるケイ酸塩化合物の含有量は、特に限定されないが、得られる硬化性組成物の可使時間や硬化物の強度等の物性の点から、例えば、酸化マグネシウムの質量に対して、0.1~30%、好ましくは0.2~25%である。特にケイ酸塩化合物が乾式シリカを含む場合、乾式シリカは嵩高く、含有量が多くなると材料の粘性が高くなり過ぎるため、乾式シリカの含有量は酸化マグネシウムの質量に対して3%以下と低くすることが好ましい。ウォラストナイトは、針状形状ではあるが材料の粘性に与える影響は少なく、酸化マグネシウムの質量に対して30%程度まで配合することが可能であり、寸法安定性を高めるのに有効である。なお、ケイ酸塩化合物として、ウォラストナイトと、ウォラストナイト以外のケイ酸塩化合物の1種または2種以上の組み合わせて用いる場合、ウォラストナイトとウォラストナイト以外のケイ酸塩化合物の質量比は1:0.01~1、好ましくは1:0.01~0.8である。
【0028】
本発明の組成物には、上記必須成分の他に、更に、充填剤、顔料、減水剤、消泡剤、湿潤分散剤、粘性調整剤、ダレ防止剤、水性樹脂、骨材からなる群から選ばれる配合剤の1種または2種以上を含有させてもよい。これらの配合剤は、基本的には本発明の組成物の用途に合わせた量で適宜配合すればよい。
【0029】
上記充填剤としては、作業性における粘性の調整、硬化物の強度物性、増量材としての役割があり、例えば、炭酸カルシウム、シリカ粉、硅砂、バライト紛等が挙げられる。また、本発明の組成物における充填剤の含有量は特に限定されないが、例えば、10%以上、好ましくは20~70%、より好ましくは30~60%である。
【0030】
上記顔料としては、例えば、無機顔料、有機顔料、特殊顔料等が挙げられる。具体的な無機顔料としては、赤土、黄土、緑土、孔雀石、胡粉、黒鉛等の天然鉱物顔料、紺青、亜鉛華、コバルト青、エメラルド緑、ビリジャン、チタン白、酸化鉄等の合成無機顔料が挙げられる。具体的な有機顔料としては、アルカリブルー、リゾールレッド、カーミン6B、ジスアゾエロー、フタロシアニンブルー、キナクリドンレッド、イソインドリノンエロー等が挙げられる。具体的な特殊顔料としては、蛍光顔料、金属粉顔料、パール顔料、示温顔料、窯業用顔料等が挙げられる。また、本発明の硬化性組成物における顔料の含有量は特に限定されないが、例えば、0.1%以上、好ましくは0.2~2.0%、より好ましくは0.4~1.5%である。
【0031】
上記減水剤としては、例えば、AE剤、減水剤・AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤等が挙げられる。また、本発明の組成物における減水剤の含有量は特に限定されないが、例えば、0.05%以上、好ましくは0.1~1.5%、より好ましくは0.2~1.0%である。
【0032】
上記消泡剤としては、例えば、鉱物油系化合物、ポリエーテル系化合物、シリコーン系化合物等が挙げられる。また、これら消泡剤は粉体であってもよい。更に、本発明の組成物における消泡剤の含有量は特に限定されないが、例えば、0.01%以上、好ましくは0.05~2.0%、より好ましくは0.1~1.5%である。
【0033】
上記湿潤分散剤であれば、例えば、アニオン性化合物、カチオン性化合物、非イオン性化合物、高分子化合物等が挙げられる。具体的な湿潤分散剤としては、脂肪族多価カルボン酸系化合物、アミノアマイド系化合物、リン酸エステル系化合物、非イオン系化合物、アクリル系重合物、ポリエーテル燐酸エステル系化合物等が挙げられる。また、本発明の組成物における湿潤分散剤の含有量は特に限定されないが、例えば、0.01%以上、好ましくは0.02~1.0%、より好ましくは0.03~0.5%である。
【0034】
粘性調整剤としては、例えば、ウレタン変性ポリエーテル系化合物、アクリル系重合物、アマイド系化合物、ポリエーテル燐酸エステル系化合物、水添ひまし油系化合物、フュームドシリカ系化合物、ベントナイト系化合物、層状ケイ酸塩系化合物等が挙げられる。また、本発明の組成物における粘性調整剤の含有量は特に限定されないが、例えば、0.01%以上、好ましくは0.02~1.0%、より好ましくは0.03~0.5%である。
【0035】
ダレ防止剤としては、例えば、セルロース系化合物、スターチエステル系化合物、ポリアクリルアミド系化合物、合成ポリマー系化合物等が挙げられる。また、本発明の組成物におけるダレ防止剤の含有量は特に限定されないが、例えば、0.01%以上、好ましくは0.02~1.0%、より好ましくは0.03~0.5%である。
【0036】
水性樹脂としては、例えば、再乳化形粉末樹脂、ポリマーディスパージョン等が挙げられる。再乳化形粉末樹脂としては、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂等が挙げられる。また、ポリマーディスパージョンとしては、スチレンブタジエンゴム系ラテックス、アクリル酸エステル系エマルション、エチレン-酢酸ビニル系エマルション等が挙げられる。なお、ポリマーディスパージョンは水性樹脂を水に分散させたものであるため、配合する場合には、別途後記した水と共に含有させればよい。更に、本発明の組成物における水性樹脂の含有量は特に限定されないが、例えば、0.5%以上、好ましくは1.0~10.0%、より好ましくは2.0~6.0%である。
【0037】
骨材としては、例えば、砂利、砕石、人工骨材、磁鉄鉱、重晶石、鉄片、膨張スラグ、パーライト等が挙げられる。また、本発明の組成物における骨材の含有量は特に限定されないが、例えば、本発明の組成物100質量部に対して5質量部以上、好ましくは10~100質量部、より好ましくは20~80質量部である。
【0038】
なお、本発明の組成物は、塩化マグネシウムを含有しないで構成することができる。
【0039】
本発明の組成物のより好ましい態様として、以下の成分を含有するもの、特に好ましい態様としては以下の成分からなるものが挙げられる。
(組成1)
酸化マグネシウム 30~55質量部
炭酸マグネシウム 3~15質量部
半水石膏 3~10質量部
ケイ酸塩化合物 0.1~30質量部
充填材 20~50質量部
充填剤以外の配合剤 0.5~ 5質量部
(組成2)
酸化マグネシウム 30~55質量部
炭酸マグネシウム 3~15質量部
半水石膏 3~10質量部
ケイ酸塩化合物 0.1~30質量部
ウォラストナイトとウォラストナイト以外のケイ酸塩化合物の質量比
=1:0.01~1
充填材 20~50質量部
充填剤以外の配合剤 0.5~ 5質量部
【0040】
以上説明した本発明の組成物は、これと水を混練して混練物とすることができる。混練物を調製する方法は特に限定されないが、例えば、本発明の組成物に水を添加して混練して混練物を調製する方法等が挙げられる。また、混練物における水の含有量は、硬化反応が十分に起きる量であれば特に限定されないが、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、半水石膏、ケイ酸塩化合物の合計質量:水の質量比が1:0.5~1.0、好ましくは1:0.6~0.9となる量である。
【0041】
上記混練物は、床面、壁面等に塗布して硬化させて硬化体とすることができ、また、型枠中で硬化させれば成形体とすることができる。硬化は常温(5~35℃)で行うことができる。また、この混練物は、適度な硬化反応時間、例えば、15~30分程度の可使時間と、15~30時間程度の硬化時間を有するものである。なお、可使時間は、実施例に記載の方法で測定されるものであり、硬化時間は施工された混錬物の上に人が乗れる時間の目安である。
【0042】
本発明の組成物は、硬化の際に二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質を吸収する。ここで二酸化炭素を吸収するとは、本発明の組成物は水と混錬されることで硬化反応が開始され、同時に二酸化炭素の硬化体中への取り込みが行われ、その結果として周辺環境に存在する二酸化炭素が吸収される現象が生じることをいう。また、窒素系悪臭物質を吸収するとは、本発明の組成物の硬化が進行し硬化体が形成されていく過程で、硬化組織の中に微小な細孔が形成され、その細孔が窒素系悪臭物質の粒子を吸着していると推測される。また、本発明の組成物の硬化物は、相当の養生期間を経ることで完全硬化に至るが、完全硬化する前の過程においては、混錬直後に比べて二酸化炭素吸収量は低下するものの、二酸化炭素の吸収性能は緩やかに持続する。更に、本発明の組成物の硬化物は、その組織中に微小な細孔が形成されていることから、窒素系悪臭物質の粒子の吸着効果が確認できるものである。
【0043】
二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質の吸収量を測定するには気体捕集用バッグを用いて、この中に計量した試料を入れた後、バッグの開封部分をヒートシールにより密封処理後、直ちにバッグ内に注入用バルブから二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質を予め所定の濃度に調整した気体を注入する。その後は時間経過毎に捕集バッグ内における各物質の濃度を測定することで、吸収量が測定できる。
【0044】
また、二酸化炭素の濃度測定は、二酸化炭素センサーを内蔵した濃度測定器でも測定可能であるが、気体捕集用バッグを用いることから、ガス検知管により測定する方法が簡便で操作しやすい。
【0045】
一方、窒素系悪臭物質の濃度測定は、ガスクロマトグラフ法や吸光光度法により測定可能であるが、二酸化炭素の濃度測定と同様に、ガス検知管による方法により簡便に測定することができる。
【0046】
なお、一般的なポルトランドセメント類は、コンクリートやモルタルとして使用される際に、その硬化過程および長期的養生過程で二酸化炭素を吸収することは知られており、これはコンクリートに炭酸化が生じてアルカリ度が低下してしまう、いわゆるコンクリートの中性化という現象が生じ、コンクリートの初期アルカリ度がpH12~13に対して、環境条件や材料の品質によって、経時の変化でpH10以下になってしまうことがあり、鉄筋コンクリートの場合はこの中性化が起きてしまうと鉄筋に腐食(錆)が発生するため大きな問題となる。
【0047】
一方、本発明の組成物に水を添加して得られる混練物のpHは10~11程度であるが、使われ方として鉄筋コンクリートのような使用はなく、床面、壁面等に塗布するいわゆる仕上げ材として使われるため上記のような問題は生じない。また予め硬化体の状態にして成型タイルとして使用されるため、同様にpHの問題はない。
【0048】
また、本発明の組成物に水を添加して得られる混練物を二酸化炭素存在下で硬化させることにより、得られる硬化物や成形体の強度が向上する。硬化の際の二酸化炭素の濃度は特に限定されないが、例えば、室内大気中で硬化養生させた時の曲げ強度が15.0MPaであるものが、二酸化炭素濃度20%の環境下で硬化させた場合、同養生日数で曲げ強度が18.7MPaとなり、約25%の強度向上が確認することができた。
【0049】
斯くして得られる本発明の硬化体や成形体も、本発明の組成物と同様に、二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質を吸収する。
【0050】
更に、本発明の硬化体や成形体には、本発明の硬化体や成形体の二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質を吸収する能力に大きく影響を及ぼさないため通常施されるトップコートを施してもよい。トップコートの種類としては、特に限定されないが、本発明の硬化体および成形体の表面を完全に遮蔽してしまうような固形分が高い材料の場合であれば、これらの吸収量は低下してしまうため、トップコート材料の固形分濃度は50%以下が望ましく、好ましくは30%以下であると吸収能力低下を抑制できる。更に塗布量についても、特に限定されないが、過剰な量を塗布してしまうと吸収能力が低下するため、必要最小限の塗布量で使用することが好ましい。
【0051】
本発明の硬化体や成形体は、更に、次のような性質を有することが好ましい。寸法が70mm×20mm×厚み6.5mmの試験体(成形体)の3点曲げ試験が、気乾養生日数30日後で15MPa以上である。また、気乾養生30日後に7日間水中浸漬直後の3点曲げ強度が9MPa以上である。更に、寸法が12.5mm×12.5mm×高さ25.0mmの試験体(成形体)の圧縮強度が、気乾養生日数30日後で30MPa以上である。更に、コンクリート板状に3mmの厚みで塗布し、20℃で30日養生した試験体(硬化体)の接着性が2.0N/mm2以上、耐衝撃性が5回以上である。なお、3点曲げ試験、曲げ強度、圧縮強度、接着性、耐衝撃性は、実施例に記載の方法で行われるものである。また、上記硬化体や成形体は本発明の効果に記載した物性も有する。
【0052】
上記硬化体は、従来のセメント組成物の硬化物と同様に塗り床材、着色骨材やガラス片を混入させ、硬化後に研ぎ出しを行うテラゾー工法、塗り床用の下地処理材、防水材用の下地処理材、コンクリート構造物の補修材、内外装壁用塗材等の用途に用いることができる。また、成形体は内外装用タイル、建材用ボード等の用途に用いることができる。
【0053】
本発明においては、これら用途の中でも従来のマグネシアセメント系硬化物の湿気および水分との接触による強度低下や、表面に水分を呼ぶことによる汗かき現象の発生、また、長時間にわたる経時的な膨張性等の問題を解決し、速硬性や施工性にも優れるため塗り床材に用いることが好ましい。
【0054】
上記硬化体を塗り床材に用いる場合、その施工方法は、特に限定されず、本発明の硬化性組成物を含有する混練物を床面に塗布し、硬化させるだけでよい。上記混練物を床面に塗布する方法は特に限定されず、例えば、金鏝やレーキ等でよい。また、上記混練物を床面に塗布する前には、下地面の研磨による目粗し処理、下地に凹凸がある場合の平滑化処理、下地との接着性向上のためにプライマー塗布等を行ってもよい。また、上記混練物を下地の状況に応じて1回または複数回塗布して硬化させた後は、トップコート処理、シーラー処理等を行ってもよい。
【0055】
上記硬化体を塗り床材に用いた場合には、耐荷重性(普通ポルトランドセメント系や早強セメント系の床材と同等以上の圧縮強度を有しているため、フォークリフトや無人搬送車(AGV)等の重車両の走行に対しても耐久性に優れる)、耐衝撃性(重量物や金属工具等の落下衝撃にも耐久できる)、耐摩耗性(表面硬度が高いため、重車両の頻繁な走行や、パレットの引き擦り等に対する耐摩耗性に優れる)、クラック抑制(一般的なセメント系硬化体においては硬化収縮によるひび割れが生じるが、本発明では硬化反応の過程で収縮が抑制されており、ひび割れが起こりがたい)、白色度が高い(主原料であるマグネシアは白色度が高いものであり、体質顔料として、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等の色調に影響を与えないものを用いれば、普通ポルトランドセメントを硬化主成分とした硬化物よりも白色度が高い硬化物となる)等の効果を得ることが出来る。標準厚み3mmであるが、粒径の大きな骨材を配合することで一度に20mm以上の厚塗りも可能である。
【0056】
更に、上記硬化体は、店舗、大型商業施設、工場等の塗り床材としての適用だけでなく、損傷、欠損、不陸がある床面の下地処理材、擁壁、橋脚、トンネル等のコンクリート構造物の補修材、内装壁面の仕上げ材、外壁用仕上げ材等の施工現場で硬化させて使用する用途や、内外装用の壁材、床材用途向けの成形タイル等の成形体として使用するのに好適である。
【0057】
以上説明した、本発明の組成物、本発明の硬化体や成形体は二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収能を有するため、二酸化炭素吸収能を有することに着目すれば、建物の種類や室内用途を問わずに、床・壁・天井などの建築仕上げ材料として幅広く適用することで、地球温暖化対策という面で有効に機能する。また、窒素系悪臭物質吸収能を有することに着目すれば、居室・寝室・トイレ等の内装材に使用することで室内環境の向上が図れる。
【0058】
本発明の組成物、本発明の硬化体や成形体は、二酸化炭素や窒素系悪臭物質を吸収することができる。例えば、本発明の組成物を塗り床材として建築物の床面に厚み3mmで適用すれば、面積100m2当り二酸化炭素を1ヶ月程度で30kg以上、好ましくは33~37kg吸収することができる。また窒素系悪臭物質であれば、硬化体をタイルのように使用した場合は、厚み3mmで適用すれば、面積1m2当りアンモニアにおいては、2時間経過で1.9-4mol以上、好ましくは2.5×10-4~2.9×10-4mol吸収することが出来る。同様にトリメチルアミンにおいては、2時間経過で4.0×10-5mol以上、好ましくは5.0×10-5~5.5×10-5mol吸収することができる。
【実施例0059】
以下、本発明の実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例の各組成において同じ成分名のものは同じものを使用している。
【0060】
実 施 例 1
硬化性組成物、成形体および硬化体の物性:
表1に記載の成分を含有する硬化性組成物と水とを混合して混練物を調製した。これらの混練物について以下に基づいて可使時間判定、混練物を型枠に入れて硬化させて得られる成形体の強度判定測定および混練物を硬化させて得られる硬化体のひび割れ性判定を行った。それらの結果も表1に記載した。
【0061】
表1に記載の成分のうち、酸化マグネシウムは、まず、市販の酸化マグネシウムの3種類(神島化学工業(株)製 スターマグP:BET比表面積1~5m2/g、同社製 スターマグU:同90~110m2/g、赤穂化成工業(株)製 AM-2:同5~10m2/g)の平均BET比表面積を以下の方法で測定した。その後、それらを適宜混合して各平均BET比表面積の酸化マグネシウムを調整した。
【0062】
【0063】
<平均BET比表面積測定方法>
平均BET比表面積は、JIS R 1626(ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法)に準じ、流動式比表面積自動測定装置(フローソーブ2300型:(株)島津製作所製)を用いて測定した。
【0064】
<可使時間判定方法>
温度20℃の室内で、硬化性組成物に水を加えて2分間撹拌混合した直後を起点として、粘度が20,000mPa・sを超えるまでの時間を測定した。なお、粘度の測定は、JIS Z 8803 (液体の粘度測定方法)に準じ、BH型回転粘度計 モデルBHII(東機産業(株)製)を使用して、回転数20rpmで行った。
【0065】
<硬化物強度定方法>
温度20℃の室内で、硬化性組成物に規定量の水を加えて2分間撹拌混合した混練物をシリコーンゴム製の型枠に、混練物の厚みが約7mmなるように流し込み平坦な場所に静置した。養生5日後に型枠から硬化した成形体を脱型し、寸法が70mm×20mm×厚み6.5mmになるように成形した成形体を得た。更に成形体を気中で25日間静置して気乾養生日数が合計30日後に水中に浸漬し、7日間経過後に水中から取出しその直後に3点曲げ試験を行い3点曲げ強度を求めた。
【0066】
(試験条件)
試験機:株式会社島津製作所製 オートグラフ 型式AG-50kNXplus
試験速度:1mm/min
支点間距離L:50mm
圧子の半径:5mm
支持台の半径:5mm
【0067】
(計算式)
σ=(3FL)/(2bh2)
σ:曲げ強度(MPa)
F:破壊時荷重(N)
L:支点間距離(mm)
b:試験片幅(mm)
h:試験片厚さ(mm)
【0068】
<ひび割れ性判定>
寸法が450mm×450mmのフレキシブルボードにサイデン化学(株)製の水性樹脂AD-8521(アクリル・スチレンエマルション)をプライマーとして塗布し乾燥させたものを下地板とした。温度20℃の室内で、この下地板の上に硬化性組成物に規定量の水を加えて2分間撹拌混合した混練物を全面が厚み3mmになるように均一に塗布して硬化体を得た。これをそのまま静置して30日経過後に目視観察を行い、硬化体のひび割れの有無を判定した。
【0069】
組成9は、半水石膏が酸化マグネシウムの質量に対して5.0%であり、ひび割れの発生が確認されたが、組成1~8および組成10は半水石膏が酸化マグネシウムの質量に対して12.5~30.0%であり、ひび割れの発生は確認されなかった。特に組成2、3、6、7は、酸化マグネシウムの平均BET比表面積が5~25m2/gの範囲にあり、更に酸化マグネシウムと炭酸マグネシウムに質量比が3~10:1の範囲にあり、可使時間と硬化物強度のバランスがとれていた。
【0070】
実 施 例 2
硬化性組成物および成形体の物性:
表2に記載の成分を含有する硬化性組成物と水とを混合して混練物を調製した。これらの混練物について実施例1と同様に可使時間判定、成形体の強度判定測定および硬化体のひび割れ性判定を行った。それらの結果も表2に記載した。
【0071】
【0072】
組成11はケイ酸塩化合物の配合が無く硬化物強度が低いのに対し、組成12~17はケイ酸塩化合物が1種または2種以上を酸化マグネシウムの質量に対して、0.75~25.0%配合されており、硬化物強度が9MPa以上を示した。
【0073】
実 施 例 3
成形体の物性:
表3に記載の成分を含有する硬化性組成物と水とを混合して混練物を調製した後、実施例1に示した同様の方法で成形体を作製した。これを温度20℃の環境で、気乾養生日数10日、20日、30日、50日、100日後における3点曲げ強度試験を実施例1と同様に行い、曲げ強度を測定した。その結果を表4に示した。
【0074】
【0075】
また、上記混練物をシリコーン製型枠に注型した後硬化させ、寸法12.5mm×12.5mm×高さ25.0mmの成形体を作製した。気乾養生日数10日、20日、30日、50日、100日後における圧縮試験を以下の方法で行い、圧縮強度を測定した。その結果を表4に示した。
【0076】
<圧縮試験>
(圧縮試験条件)
試験機:株式会社島津製作所製 オートグラフ 型式AG-50kNXplus
試験速度:1mm/min
【0077】
(計算式)
σ=F/A
σ:圧縮強度(MPa)
F:降伏点荷重(N)
A:応力をかける前の試験片の断面積
【0078】
【0079】
成形体の曲げ強度、圧縮強度共に養生日数の経過に伴い強度が緩やかに向上していることが確認できた。
【0080】
実 施 例 4
硬化性組成物の硬化体の物性:
縦300mm×横300mm×厚み50mmのコンクリート板を水平に設置し、その表面をサンドペーパーを使用して脆弱な表層を除去した後に、サイデン化学(株)製の水性樹脂AD-8521(アクリル・スチレンエマルション)をプライマーとして塗布し乾燥させた。乾燥後その上に3mmの厚さになるように実施例3と同様の混練物を塗布し、硬化体とした。これについて20℃・30日間の養生を行った後、これを試験体(下地がコンクリート、上面が硬化体)として、表5に記載の試験を行った。その結果も表5に示した。
【0081】
【0082】
硬化体の接着性は良好であった。また、硬化体の耐衝撃性も、良好な結果を示した。
【0083】
実 施 例 5
硬化性組成物の鉄材への影響:
実施例3と同様の混練物を作製し、これを縦100mm×横50mmのプラスチック製容器の中に、約5mmの深さになるように流し込み、その中にサイズ20mm×50mm×厚み2mmの鉄板を垂直になるように設置した。その状態で7日間静置した後の状態を目視観察したところ変色等の変化は認められなかった。
【0084】
実 施 例 6
二酸化炭素吸収試験:
実施例2の組成17の硬化性組成物100質量部と、水50質量部を混合して混練物を作製した。試験用型枠(129.5mm×129.5mm)に硬化物の厚みが3mmになるように混練物を85.5g流し込み、直後にこれをビニルアルコール系ポリマーフィルム製の気体捕集バッグであるスマートバッグPA(ジーエルサイエンス(株)製:実測容量2.7L)に入れヒートシールを施して密閉し、二酸化炭素の濃度調整を行った気体をバルブより注入し、その直後からバッグ内の二酸化炭素濃度をガス検知管法(北川式ガス検知管:型式126SH、126UH)で測定した。なお、開始直後の二酸化炭素の濃度は37.3%であった。測定開始から1週間はおよそ1日経過毎に二酸化炭素濃度を測定し、その後に吸収された分の二酸化炭素の補充を行った。100時間経過以降は、約7日間経過毎に二酸化炭素濃度の測定および補充を行った。その結果を
図1に示した。
【0085】
図1から明らかなように、本発明の硬化性組成物は、硬化中も初期硬化後(100時間以降)も連続して二酸化炭素を吸収することが分かった。袋に入れた直後から858時間までの二酸化炭素の吸収量は3110mlであることから、本発明の硬化性組成物は85.5gあたり二酸化炭素を5.75g吸収することが分かった。本発明の硬化性組成物の510kgを厚み3mm、面積100m
2に施工した場合には858時間までで34.3kgの二酸化炭素を吸収することになるが、これは樹齢50年の杉の木が1年間に吸収する14kg(関東森林管理局ホームページ(https://www.rinya.maff.go.jp/kanto/hukusima/office/forest/knowledge/breathing.html))よりも顕著に高い。
【0086】
実 施 例 7
二酸化炭素吸収試験:
実施例2の組成17の硬化性組成物100質量部と、水50質量部を混合して混練物を作製した。この混練物の85.5gを24時間硬化させて厚み3mm、129.5mm×129.5mmのタイルにした。材料を流し込んだ24時間後に、この硬化体の全面に水性アクリル樹脂系汚れ防止用の薄膜コーティング材(ヴェレージアMトップコート:(株)エービーシー商会製)を2回塗りし1時間放置乾燥した後にビニルアルコール系ポリマーフィルム製の気体捕集用バッグであるスマートバッグPA(ジーエルサイエンス(株)製、実測容量2.5L)に入れた後、開封部分にヒートシールを施して密封し、二酸化炭素の濃度調整を行った気体をバルブより注入し、その直後から二酸化炭素の濃度をガス検知管法(北川式ガス検知管:型式126SH、126UH)で測定した。なお、開始直後の二酸化炭素の濃度は13.1%であった。測定開始から1週間はおよそ1日経過毎に二酸化炭素濃度を測定し、その後に吸収された分の二酸化炭素の補充を行った。100時間経過以降は、約7日間経過毎に二酸化炭素濃度の測定および補充を行った。その結果を
図2に示した。
【0087】
図2から明らかなように、本発明の硬化性組成物は、トップコートの影響を受けずに連続して二酸化炭素を吸収することが分かった。袋に入れた直後から1004時間までの二酸化炭素の吸収量は2677.5mlであることから、本発明の硬化性組成物は85.5gあたり二酸化炭素を4.95g吸収することが分かった。本発明の硬化性組成物の510kgを厚み3mm、面積100m
2に施工した場合には1004時間までで29.5kgの二酸化炭素を吸収する(材料混錬から24時間における二酸化炭素吸収量は除外)ことになるが、これは樹齢50年の杉の木が1年間に吸収する14kgよりも顕著に高い。
【0088】
実 施 例 8
アンモニア吸収試験:
実施例2の組成17の硬化性組成物100質量部と、水50質量部を混合して混練物を作製した。試験用型枠(129.5mm×129.5mm)に硬化物の厚みが3mmになるように混練物を85.5g流し込み、直後にこれをポリプロピレン製の気体捕集バッグであるテドラーバッグ(ジーエルサイエンス(株)製、実測2.7L)に入れ、ヒートシールを施して密閉し、直ちに予めアンモニアの濃度調整を行った気体をバルブより注入し、その直後から時間を追ってバッグ内のアンモニア濃度をガス検知管法(北川式ガス検知管:型式105SD、105SE)で測定した。なお、開始直後のアンモニアの濃度は17.0%であった。その結果を表6示した。
【表6】
【0089】
この結果から明らかなように本発明の硬化性組成物は硬化中にアンモニアを吸収することが分かった。
【0090】
実 施 例 9
アンモニア吸収試験:
実施例2の組成17の硬化性組成物100質量部と、水50質量部を混合して混練物を作製した。この混練物を100mm×100mm×厚み3mm(試料面積100cm2)の硬化体にし、通常の室内環境下で28日間放置養生を行った。これをポリフッ化ビニル製の気体補修用テドラーバッグ(ジーエルサイエンス(株)製)に入れた後、ヒートシールを施して密閉し、予めアンモニアの濃度調整を行った気体をバルブより注入した。その直後から時間経過毎にアンモニアの濃度をガス検知管(北川式ガス検知管:No.105SDまたはNo.105SE)で測定した。なお、開始直後のアンモニアの濃度は29ppmであった。その結果を表7示した。
【0091】
【0092】
この結果から明らかなように本発明の硬化性組成物は硬化後もアンモニアを吸収することが分かった。
【0093】
実 施 例 10
アンモニア吸収試験:
実施例2の組成17の硬化性組成物100質量部と、水50質量部を混合して混練物を作製し、100mm×100mm×厚み3mm(試料面積100cm2)の硬化体を作製した。材料混錬後24時間後にこの硬化体の全表面に水性アクリル樹脂系汚れ防止用の薄膜コーティング材(ヴェレージアMトップコート:(株)エービーシー商会製)を2回塗りし通常の室内環境下で28日間放置養生を行った。これをポリフッ化ビニル製の気体捕集用バッグに入れヒートシールを施して密閉し、その直後からアンモニアの濃度をガス検知管(北川式ガス検知管:型式105SD、105SE)で測定した。なお、開始直後のアンモニアの濃度は44ppmであった。その結果を表8に示した。
【0094】
【0095】
この結果から明らかなように、本発明の硬化体は、トップコートの影響を受けずに連続してアンモニアを吸収することが分かった。
【0096】
実 施 例 11
トリメチルアミンの吸収試験:
実施例2の組成17の硬化性組成物100質量部と、水50質量部を混合して混練物を作製した。試験用型枠(129.5mm×129.5mm)に硬化物の厚みが3mmになるように混練物を85.5g流し込み、直後にこれをポリフッ化ビニル製の気体捕集バッグであるテドラーバッグ(ジーエルサイエンス(株)製、実測容量2.7L)に入れ、ヒートシールを施して密閉し、直ちに予めトリメチルアミンの濃度調整を行った気体をバルブより注入し、その直後から時間を追ってバッグ内のトリメチルアミン濃度をガス検知管法(北川式ガス検知管:型式105SE)で測定した。なお、開始直後のトリメチルアミンの濃度は11.5%であった。その結果を表9に示した。
【0097】
【0098】
この結果から明らかなように本発明の硬化性組成物は硬化中にトリメチルアミンを吸収することが分かった。
【0099】
実 施 例 12
トリメチルアミンの吸収試験:
実施例2の組成17の硬化性組成物100質量部と、水50質量部を混合して混練物を作製した。この混練物129.5mm×129.5mm×厚み3mmの硬化体にし、14日間室内で放置養生を行った。これをポリフッ化ビニル製の気体捕集バッグであるテドラーバッグ(ジーエルサイエンス(株)製、実測容量2.7L)に入れ、ヒートシールを施して密閉し、直ちに予めトリメチルアミンの濃度調整を行った気体をバルブより注入した。その直後からトリメチルアミンの濃度をガス検知管法(北川式ガス検知管:型式105SE)で測定した。なお、開始直後のトリメチルアミンの濃度は15ppmであった。その結果を表10に示した。
【0100】
【0101】
この結果から明らかなように、本発明の硬化性組成物は硬化後もトリメチルアミンを吸収することが分かった。
【0102】
以上のように、本発明の硬化性組成物は、二酸化炭素と、アンモニア、トリメチルアミン等の窒素系悪臭物質を硬化中および硬化体や成形体としてこれを仕上げ用の建材に使用する場合であっても吸収することが明らかなとなった。これは本発明の硬化性組成物の硬化反応に伴う吸収作用、または硬化体組織中の細孔の吸着作用によるものと推測される。そのため、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、半水石膏、ケイ酸塩化合物を含有する硬化性組成物であって、酸化マグネシウムを30~60質量%含有し、酸化マグネシウムの平均BET比表面積が5~25m2/gであり、酸化マグネシウムと炭酸マグネシウムの質量比が3~10:1であり、半水石膏が、酸化マグネシウムの質量に対して、6~25質量%であり、塩化マグネシウムを含有しない組成のものは全て二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質を吸収するものとなる。
【0103】
実 施 例 13
二酸化炭素養生後の成形体の物性:
実施例2の組成17の硬化性組成物100質量部と、水50質量部を混合して混練物を作製した後、実施例1に示した同様の方法で成形体を作製した。これを温度20℃で2日間、大気下で養生後、試験体をスマートバッグPA(ジーエルサイエンス(株)製)に入れた後にヒートシールを施して密封し、そこへ二酸化炭素を注入して二酸化炭素濃度を10~20%に保持して養生を行った。養生日数13日、30日後における3点曲げ強度試験を実施例1と同様に行い、曲げ強度を測定した。全て大気下で養生したものを比較とした。それらの結果を表11に示した。
【0104】
【0105】
本発明の成形体は二酸化炭素を吸収することにより、強度が向上することが明らかとなった。
ケイ酸塩化合物が、ウォラストナイト、メタカオリン、ジルコン、乾式シリカからなる群から選ばれる1種または2種以上である請求項1記載の二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化性組成物。
更に、充填剤、顔料、減水剤、消泡剤、湿潤分散剤、粘性調整剤、ダレ防止剤、水性樹脂、骨材からなる群から選ばれる配合剤の1種または2種以上を含有するものである請求項1記載の二酸化炭素および/または窒素系悪臭物質吸収用硬化性組成物。
更に、充填剤、顔料、減水剤、消泡剤、湿潤分散剤、粘性調整剤、ダレ防止剤、水性樹脂、骨材からなる群から選ばれる配合剤の1種または2種以上を含有するものである請求項1記載の二酸化炭素吸収用硬化性組成物。