(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177865
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】水溶性量子ドットの製造方法及び水溶性量子ドット
(51)【国際特許分類】
C09K 11/08 20060101AFI20241217BHJP
C09K 11/70 20060101ALI20241217BHJP
C09K 11/88 20060101ALI20241217BHJP
C09K 11/56 20060101ALI20241217BHJP
C01B 25/08 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C09K11/08 A
C09K11/70
C09K11/88
C09K11/56
C09K11/08 G
C01B25/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096240
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中對 一博
(72)【発明者】
【氏名】坂上 知
【テーマコード(参考)】
4H001
【Fターム(参考)】
4H001CA02
4H001CC09
4H001CC13
4H001CF01
4H001XA07
4H001XA08
4H001XA13
4H001XA14
4H001XA15
4H001XA30
4H001XA31
4H001XA34
4H001XA48
4H001XA49
4H001XA52
(57)【要約】
【課題】水等の水性溶媒中での量子収率に優れ、FWHMの狭い発光スペクトルが得られる水溶性量子ドットの製造方法及び前記製造方法により得られる水溶性量子ドットを提供すること。
【解決手段】疎水性量子ドット分散液に親水性の配位子を加え、量子ドットの表面に結合している配位子を親水性の配位子に交換して、親水性量子ドットを得る配位子交換工程、前記親水性量子ドットを水性溶媒に分散して、親水性量子ドットの水性溶媒分散液を得る分散工程、前記水性溶媒分散液に表面処理剤を加えて、水性溶媒中で親水性量子ドットの表面処理を行い、表面処理親水性量子ドットの水性溶媒分散液を得る表面処理工程、及び、前記表面処理親水性量子ドットの水性溶媒分散液にシェル形成剤を加えて、表面処理親水性量子ドット表面にシェルを形成して水溶性量子ドットの水性溶媒分散液を得るシェル形成工程、を有する水溶性量子ドットの製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性量子ドット分散液に親水性の配位子を加え、量子ドットの表面に結合している配位子を親水性の配位子に交換して、親水性量子ドットを得る配位子交換工程、
前記親水性量子ドットを水性溶媒に分散して、親水性量子ドットの水性溶媒分散液を得る分散工程、
前記水性溶媒分散液に表面処理剤を加えて、水性溶媒中で親水性量子ドットの表面処理を行い、表面処理親水性量子ドットの水性溶媒分散液を得る表面処理工程、及び、
前記表面処理親水性量子ドットの水性溶媒分散液にシェル形成剤を加えて、表面処理親水性量子ドット表面にシェルを形成して水溶性量子ドットの水性溶媒分散液を得るシェル形成工程、
を有する水溶性量子ドットの製造方法。
【請求項2】
前記疎水性量子ドット分散液の量子ドットが、コアに少なくともリン源及びインジウム源との反応により得られたInP系量子ドットを有し、シェルにInP系以外の被覆化合物を有するコアシェル構造の量子ドットである請求項1に記載の水溶性量子ドットの製造方法。
【請求項3】
前記シェルが、AlN、AlP、Al2O3、GaN、GaP、Ga2O3、SiO2、CdS、CdSe、CdSeS、CdTe、CdSeTe、CdTeS、ZnS、ZnSe、ZnSeS、ZnTe、ZnSeTe、ZnTeS、ZnO、ZnOS、ZnSeO及びZnTeOからなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項1又は2に記載の水溶性量子ドットの製造方法。
【請求項4】
配位子交換工程で用いられる親水性の配位子が、チオール類、アミン含有チオール類、アミン類、アルコール類、チオール含有アルコール類、セレノール類、ホスファイト類、ホスフィン酸類、ホスホン酸類、リン酸類、ホスフィンオキサイド類、ホスフィンスルフィド類、ホスフィンセレナイド類、カルボン酸類、チオール含有カルボン酸類、チオカルボン酸類、チオノカルボン酸類、ジチオカルボン酸類、スルフェン酸類、スルフィン酸類及びスルホン酸類からなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項1又は2に記載の水溶性量子ドットの製造方法。
【請求項5】
前記水性溶媒が水である請求項1又は2に記載の水溶性量子ドットの製造方法。
【請求項6】
前記表面処理剤が、金属ハロゲン化物、金属カルボン酸塩、ハロゲン化水素、ハロゲン化窒素、第4級アンモニウム化合物若しくは第4級ホスホニウム化合物のハロゲン化物、又はカルボン酸、ホスホン酸、スルホン酸若しくはこれらの酸ハロゲン化物である請求項1又は2に記載の水溶性量子ドットの製造方法。
【請求項7】
前記シェル形成剤が、チオール類、チオール含有カルボン酸類、チオ尿素類、チオカルバメート類、チオ炭酸類、チオカルボン酸類、チオノカルボン酸類、ジチオカルボン酸類、ホスフィンスルフィド類、並びにLi、Na、K、Be、Mg、Ca及びSrの硫化物から選ばれる少なくとも一つの硫黄源と、カルボン酸亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、次亜塩素酸亜鉛、亜塩素酸亜鉛、塩素酸亜鉛、過塩素酸亜鉛、臭素酸亜鉛、ヨウ素酸亜鉛、炭酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、次亜リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、リン酸亜鉛、トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛又は亜鉛のハロゲン化物との混合物である請求項1又は2に記載の水溶性量子ドットの製造方法。
【請求項8】
疎水性量子ドットの量子収率に対する、該疎水性量子ドットの表面に結合している配位子を親水性の配位子に交換して得られる水溶性量子ドットの量子収率が、0.8超である、水溶性量子ドット。
【請求項9】
コアに少なくともリン元素及びインジウム元素からなるInP系量子ドットを有し、シェルにInP系以外の被覆化合物を有するコアシェル構造の量子ドットである請求項8に記載の水溶性量子ドット。
【請求項10】
前記シェルが、AlN、AlP、Al2O3、GaN、GaP、Ga2O3、SiO2、CdS、CdSe、CdSeS、CdTe、CdSeTe、CdTeS、ZnS、ZnSe、ZnSeS、ZnTe、ZnSeTe、ZnTeS、ZnO、ZnOS、ZnSeO又はZnTeOからなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項9に記載の水溶性量子ドット。
【請求項11】
水溶性量子ドットの表面に配位する配位子が、チオール類、アミン含有チオール類、アミン類、アルコール類、チオール含有アルコール類、セレノール類、ホスファイト類、ホスフィン酸類、ホスホン酸類、リン酸類、ホスフィンオキサイド類、ホスフィンスルフィド類、ホスフィンセレナイド類、カルボン酸類、チオール含有カルボン酸類、チオカルボン酸類、チオノカルボン酸類、ジチオカルボン酸類、スルフェン酸類、スルフィン酸類及びスルホン酸類からなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項8又は9に記載の水溶性量子ドット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性量子ドットの製造方法及び前記製造方法により得られる水溶性量子ドットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光材料として量子ドット(quantum dots)の開発が進んでいる。代表的な量子ドットとして、優れた発光特性などからCdSe、CdTe、CdS等のカドミウム系量子ドットの開発が進められている。また、カドミウムは毒性及び環境負荷が高いことからInP、CuInS2、ZnTeSe等のカドミウムフリー量子ドットの開発が期待されている。
【0003】
この優れた発光特性を活かして、分子認識物質を蛍光体などのマーカー物質に結合した分子認識体により、たんぱく質、ウイルス、核酸等の生体含有物質を測定する方法が用いられている。ここで、生体内で量子ドットをマーカー物質として用いるためには、量子ドット表面を水溶性の配位子で被覆して、量子ドットを水溶化する必要がある。
【0004】
量子ドット表面を水溶性の配位子で被覆して量子ドットを水溶化する方法として、例えば、特許文献1の実施例では、InP量子ドットを水溶媒中で酢酸亜鉛及びメルカプト酢酸と接触させ、配位子としてメルカプト酢酸が修飾したInP/ZnSのコアシェル構造の水溶性量子ドットを得たことが記載されている。また、特許文献2の実施例においても、水溶化したInP/ZnSコアシェル量子ドットが開示されており、その作製方法として、塩化インジウム、塩化亜鉛、トリス(ジエチルアミノ)ホスフィン及びプロパンスルホン酸ナトリウムをアミン中で反応させ、次いで、メルカプトプロピオン酸を加えて、メルカプトプロピオン酸が配位したInP/ZnSコアシェル量子ドットを得た後、水中に分散させたことが記載されている。
【0005】
一般的に、量子ドットを水溶化すると量子収率が大きく低下し、また、発光スペクトルの半値全幅(Full Width at Half Maximum、以下FWHMともいう)が広くなるといった発光特性が悪くなることが知られている。これは、水溶化の際の配位子交換により量子ドット表面に欠陥が生じるためであると考えられている。上記特許文献では、水溶化の配位子としてメルカプト基を有する化合物に配位子交換する際に、量子ドット表面に欠陥が生ずるため、発光特性の低下が起こるものと懸念される。
【0006】
この課題に対して、特許文献3では、高輝度及び安定性を有する水溶性量子ドットを得るために、メルカプトプロピオン酸で配位子交換した後、塩化亜鉛とメルカプトプロピオン酸の混合水溶液を加えることにより、亜鉛により量子ドット表面の欠陥を保護しつつ、ZnSシェル層を成長させることで、発光特性を優れたものにできることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】中国特許出願公開第102031111号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第114136934号明細書
【特許文献3】中国特許出願公開第114891508号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献3のように、配位子交換の際に生ずる量子ドット表面の欠陥を保護しつつシェル形成を行うことで、水中であっても優れた発光特性を付与することができるが、有機溶媒中での発光特性と同等以上にすることは難しく、更なる検討が必要とされている。
【0009】
従って本発明の目的は、水等の水性溶媒中での量子収率に優れ、FWHMの狭い発光スペクトルが得られる水溶性量子ドットの製造方法及び前記製造方法により得られる水溶性量子ドットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、配位子交換した量子ドットを水性溶媒中で表面処理して量子ドット表面の欠陥を修復し、その後シェルを形成すると、水溶化させた量子ドットであっても有機溶媒中で得られた量子ドットと同等のFWHMを有しており、量子収率の低下も抑えられることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、疎水性量子ドット分散液に親水性の配位子を加え、量子ドットの表面に結合している配位子を親水性の配位子に交換して、親水性量子ドットを得る配位子交換工程、前記親水性量子ドットを水性溶媒に分散して、親水性量子ドットの水性溶媒分散液を得る分散工程、前記水性溶媒分散液に表面処理剤を加えて、水性溶媒中で親水性量子ドットの表面処理を行い、表面処理親水性量子ドットの水性溶媒分散液を得る表面処理工程、及び、前記表面処理親水性量子ドットの水性溶媒分散液にシェル形成剤を加えて、表面処理親水性量子ドット表面にシェルを形成して水溶性量子ドットの水性溶媒分散液を得るシェル形成工程、を有する水溶性量子ドットの製造方法を提供するものである。
【0012】
また本発明は、疎水性量子ドットの量子収率に対する、該疎水性量子ドットの表面に結合している配位子を親水性の配位子に交換して得られる水溶性量子ドットの量子収率が、0.8超である、水溶性量子ドットを提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水性溶媒中での量子収率に優れ、FWHMの狭い発光スペクトルが得られる水溶性量子ドットを工業的に有利な方法で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1で得られた水溶性量子ドットの水分散液の発光スペクトルである。
【
図2】実施例2で得られた水溶性量子ドットの水分散液の発光スペクトルである。
【
図3】実施例3で得られた水溶性量子ドットの水分散液の発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<疎水性量子ドット分散液>
本発明で使用する疎水性量子ドット分散液は、溶媒中に疎水性量子ドットが分散してなるものであり、該疎水性量子ドットとは、表面に疎水性の配位子を有する量子ドットである。前記疎水性量子ドット分散液は、疎水性量子ドットを構成する元素からなる原料化合物を溶媒中で反応させて得られたものであってもよく、市販の疎水性量子ドットを溶媒中に分散したものであってもよい。
【0016】
前記分散液の溶媒は、非極性有機溶媒であることが好ましく、脂肪族炭化水素からなる溶媒がより好ましい。脂肪族炭化水素としては、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ドデカン、n-ヘキサデカン、n-オクタデカン等の飽和炭化水素;1-ウンデセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン等の不飽和脂肪族炭化水素が挙げられる。溶媒として用いる脂肪族炭化水素は1種でもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0017】
前記疎水性量子ドットを構成する量子ドットとしては、CdSe、CdTe、CdS等のカドミウム系量子ドットや、InP、CuInS、ZnTeSe等のカドミウムフリー量子ドット等が挙げられる。本発明においては、コアの表面にシェルが形成されたコアシェル構造の量子ドットであることが好ましく、コアに少なくともリン源とインジウム源との反応により得られたInP系量子ドットを有し、シェルにInP系以外の被覆化合物を有するコアシェル構造の量子ドットであることが特に好ましい。
【0018】
前記疎水性量子ドットを構成する疎水性の配位子としては、カルボン酸誘導体、ホスフィン誘導体、アミン誘導体、ホスホン酸等が挙げられる。
【0019】
前記カルボン酸誘導体としては、分子中のアルキル基が炭素原子数2以上24以下の直鎖状のものが好ましく挙げられる。アルキル基が炭素原子数2以上24以下の直鎖状であるカルボン酸としては、具体的には、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、エライジン酸、オレイン酸、リノレン酸、エルカ酸が挙げられる。中でも、得られる疎水性量子ドットの品質向上の点で、分子中のアルキル基の炭素原子数が12以上20以下のものが特に好ましく、オレイン酸が最も好ましい。
【0020】
前記ホスフィン誘導体としては、1級以上3級以下のアルキルホスフィンであることが好ましく、分子中のアルキル基が炭素原子数2以上18以下の直鎖状のものが好ましく挙げられる。分子中のアルキル基は同一であっても異なっていてもよい。アルキル基が炭素原子数2以上18以下の直鎖状であるアルキルホスフィンとしては、具体的には、モノエチルホスフィン、モノブチルホスフィン、モノデシルホスフィン、モノヘキシルホスフィン、モノオクチルホスフィン、モノドデシルホスフィン、モノヘキサデシルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジブチルホスフィン、ジデシルホスフィン、ジヘキシルホスフィン、ジオクチルホスフィン、ジドデシルホスフィン、ジヘキサデシルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリデシルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリドデシルホスフィン、トリヘキサデシルホスフィンが挙げられる。中でも、得られる疎水性量子ドットの品質向上の点で、分子中のアルキル基の炭素原子数が4以上12以下のものが特に好ましく、トリアルキルホスフィンであるものが好ましく、トリオクチルホスフィンが最も好ましい。
【0021】
前記アミン誘導体としては、1級以上3級以下のアルキルアミンであることが好ましく、分子中のアルキル基が炭素原子数2以上18以下の直鎖状アルキルアミン、及び炭素原子数6以上12以下の芳香族アルキルアミンが好ましく挙げられる。分子中のアルキル基は同一であっても異なっていてもよい。アルキル基が炭素原子数2以上18以下の直鎖状であるアルキルアミンとしては、具体的には、モノエチルアミン、モノブチルアミン、モノデシルアミン、モノヘキシルアミン、モノオクチルアミン、モノドデシルアミン、モノヘキサデシルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジデシルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジドデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリデシルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリドデシルアミン、トリヘキサデシルアミンが挙げられる。アルキル基が炭素原子数6以上12以下の芳香族アルキルアミンとしては、具体的には、アニリン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミン、モノベンジルアミン、ジベンジルアミン、トリベンジルアミン、ナフチルアミン、ジナフチルアミン、トリナフチルアミンが挙げられる。
また、前記ホスホン酸としては、分子中のアルキル基が炭素原子数2以上18以下の直鎖状のアルキル基を有するモノアルキルホスホン酸が好ましい。
【0022】
本発明で用いる疎水性量子ドットがコアシェル構造を有するものである場合、シェルとして好適な被覆化合物としては、AlN、AlP、Al2O3、GaN、GaP、Ga2O3、SiO2、CdS、CdSe、CdSeS、CdTe、CdSeTe、CdTeS、ZnS、ZnSe、ZnSeS、ZnTe、ZnSeTe、ZnTeS、ZnO、ZnOS、ZnSeO及びZnTeO等が挙げられる。本発明においては、被覆化合物が少なくとも亜鉛源との反応により得られるものであることが好ましい。
【0023】
本発明で用いる疎水性量子ドット分散液は、公知の方法、例えば、特開2023-033157号公報に記載されている方法で製造することができる。
【0024】
<配位子交換工程>
本発明における配位子交換反応は、疎水性量子ドット分散液に親水性の配位子を加え、量子ドットの表面に結合している配位子を親水性の配位子に交換して、親水性量子ドットを得る工程である。
【0025】
親水性の配位子としては、チオール類、アミン含有チオール類、アミン類、アルコール類、チオール含有アルコール類、セレノール類、ホスファイト類、ホスフィン酸類、ホスホン酸類、リン酸類、ホスフィンオキサイド類、ホスフィンスルフィド類、ホスフィンセレナイド類、カルボン酸類、チオール含有カルボン酸類、チオカルボン酸類、チオノカルボン酸類、ジチオカルボン酸類、スルフェン酸類、スルフィン酸類及びスルホン酸類等が挙げられる。これらの中でも、親水性量子ドットの安定性、量子収率向上の観点からチオール類、アミン含有チオール類、アミン類、アルコール類、チオール含有アルコール類、ホスホン酸類、カルボン酸類及びチオール含有カルボン酸類が好ましく、特にチオール含有カルボン酸類が好ましい。
【0026】
前記チオール含有カルボン酸としては、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオりんご酸、システイン、アセチルシステイン、ホモシステイン、ペニシラミン等が挙げられる。これらの中でも、量子ドットの水分散性、量子収率向上の観点から、チオグリコール酸、3-メルカプトプロピオン酸、システイン及びアセチルシステインが好ましく、3-メルカプトプロピオン酸がより好ましい。
【0027】
量子ドット分散液に親水性の配位子を加えるときの温度は、配位子の交換を首尾よく進める観点から、好ましくは0℃以上350℃以下、更に好ましくは20℃以上300℃以下であり、処理時間は、好ましくは1分以上600分以下、更に好ましくは5分以上240分以下である。また、配位子の添加量は、配位子の種類にもよるが、量子ドットを含む反応液に対して、0.01g/L以上100000g/L以下が好ましく、0.1g/L以上2000g/L以下がより好ましい。
【0028】
量子ドット分散液に親水性の配位子を加えるときの雰囲気は、不活性ガス雰囲気下、減圧下、又は真空下といった非酸化性雰囲気であることが、量子ドットの変性や酸化物の副生を防止できる観点から好ましい。前記非酸化性雰囲気としては、作業容易性の観点から、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
以上の工程により、親水性量子ドットを含む分散液が得られる。
【0029】
次に、前記親水性量子ドットを含む分散液から、親水性量子ドットを分離する。分離方法としては、遠心分離、デカンテーション及び吸引ろ過等の一般的な方法が挙げられる。このとき、不要な疎水性の配位子を取り除くため、該配位子を溶解可能な溶媒を添加し、遠心分離等で親水性量子ドットを分離する操作を複数回繰り返すことが好ましい。
以上の工程により、親水性量子ドットが得られる。
【0030】
<分散工程>
本発明における分散工程は、前記親水性量子ドットを水性溶媒に分散して、親水性量子ドットの水性溶媒分散液を得る工程である。
【0031】
前記水性溶媒としては、水溶性の溶媒であれば特に制限はなく、例えば、水、メタノール、エタノール、2-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、アセトン、アセトニトリル、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド及びテトラヒドロフラン等が挙げられるが、水であることが好ましい。
【0032】
前記親水性量子ドット水性溶媒分散液は、前記親水性量子ドットを前記水性溶媒中に分散することで得られる。前記親水性量子ドットをそのまま前記水性溶媒中に分散することもできるが、例えば、親水性の配位子がチオールを含有するカルボン酸である場合、均一な分散液を得る観点から、これらをアンモニア水又はテトラエチルアンモニウムヒドロキシド等と反応させ、アンモニウム塩の形態に変換してから前記水性溶媒に分散することが好ましい。
【0033】
また、分散工程を行う前の親水性量子ドットは、副生成物や未反応の不純物を含んでいることもあるため、精製処理を施してもよい。この精製処理は、親水性量子ドットを含む溶液に、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等の有機溶媒を添加して親水性量子ドットを沈降させ、不純物を含んだ溶液と親水性量子ドットとに分離し、分離した親水性量子ドットを水性溶媒に分散することで行うことができる。不純物を含んだ溶液と親水性量子ドットとの分離は、遠心分離、デカンテーション、吸引ろ過等の操作により行うことができる。
以上の工程により、親水性量子ドットの水性溶媒分散液が得られる。
【0034】
<表面処理工程>
本発明における表面処理工程は、前記水性溶媒分散液に表面処理剤を加えて、水性溶媒中で親水性量子ドットの表面処理を行い、表面処理親水性量子ドットの水性溶媒分散液を得る工程である。
【0035】
表面処理工程では、前記配位子交換工程により量子ドット表面に生じた欠陥を、表面処理剤により水性溶媒中で修復することで、量子ドットが安定となり、また表面が均一になるため、後述するシェル形成工程において安定したシェル形成が可能となる。このため、最終的に得られる本発明の水溶性量子ドットは、有機溶媒中で得られた量子ドットと同等のFWHMを有しており、量子収率の低下も抑えられたものとなる。
【0036】
前記表面処理剤としては、Li、Na、K、Be、Mg、Ca、Sr、Cu、Ag、Au、Hg、In、Sn、Pb、Zn、Cd、Al及びGaのハロゲン化物等の金属ハロゲン化物;HF、HCl、HBr及びHI等のハロゲン化水素;NF3等のハロゲン化窒素;NR4F及びPR4F(Rは、H、炭素数1~8の直鎖又は分岐していても良い飽和・不飽和・芳香族炭化水素を表し、官能基が置換していてもよい。)等の第4級アンモニウム化合物及び第4級ホスホニウム化合物のハロゲン化物;カルボン酸、ホスホン酸、スルホン酸、及びこれらの酸ハロゲン化物;Li、Na、K、Be、Mg、Ca、Sr、Cu、Ag、Au、Hg、In、Sn、Pb、Zn、Cd、Al及びGa等の金属を含有した金属カルボン酸塩、金属カルバミン酸塩、金属チオカルボン酸塩等が挙げられる。これらのうち、より量子収率の向上が図れる観点から、前記表面処理剤は金属ハロゲン化物及び金属カルボン酸塩であることが好ましい。前記金属ハロゲン化物としては、フッ化亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛及びヨウ化亜鉛等が挙げられ、塩化亜鉛が特に好ましい。また、前記金属カルボン酸塩としては、酢酸亜鉛、トリフルオロ酢酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛及び安息香酸亜鉛等が挙げられ、酢酸亜鉛が特に好ましい。
【0037】
親水性量子ドットの表面処理は、前記親水性量子ドット水性溶媒分散液に、表面処理剤を加えることで行うことができる。表面処理は、好ましくは-20℃以上200℃以下、より好ましくは0℃以上150℃以下、特に20℃以上120℃以下で、好ましくは1分以上600分以下、より好ましくは5分以上240分以下、特に10分以上120分以下、の条件で行うことが好ましい。また、表面処理剤の添加量は、表面処理剤の種類にもよるが、前記親水性量子ドット水性溶媒分散液に対して、0.01g/L以上10000g/L以下が好ましく、0.1g/L以上1000g/L以下がより好ましい。
【0038】
表面処理工程での雰囲気は、不活性ガス雰囲気下、減圧下、又は真空下といった非酸化性雰囲気であることが、量子ドットの変性や酸化物の副生を防止できる観点から好ましい。前記非酸化性雰囲気としては、作業容易性の観点から、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【0039】
表面処理工程での表面処理剤の添加方法としては、反応液に表面処理剤を直接添加する方法、表面処理剤を溶媒に溶解又は分散した状態で反応液に添加する方法が挙げられる。表面処理剤を溶媒に溶解又は分散した状態で反応液に添加する方法で添加する場合の溶媒としては、水溶性の溶媒であれば特に制限はなく、例えば、水、メタノール、エタノール、2-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、アセトン、アセトニトリル、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド及びテトラヒドロフラン等が挙げられるが、水であることが特に好ましい。
以上の工程により、表面処理親水性量子ドットの水性溶媒分散液が得られる。
【0040】
<シェル形成工程>
本発明におけるシェル形成工程は、前記表面処理親水性量子ドットの水性溶媒分散液にシェル形成剤を加えて、表面処理親水性量子ドット表面にシェルを形成して水溶性量子ドットの水性溶媒分散液を得る工程である。
【0041】
シェル形成剤としては、チオール類、チオール含有カルボン酸類、チオ尿素類、チオカルバメート類、チオ炭酸類、チオカルボン酸類、チオノカルボン酸類、ジチオカルボン酸類、ホスフィンスルフィド類、並びにLi、Na、K、Be、Mg、Ca及びSrの硫化物から選ばれる少なくとも一つの硫黄源と、カルボン酸亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、次亜塩素酸亜鉛、亜塩素酸亜鉛、塩素酸亜鉛、過塩素酸亜鉛、臭素酸亜鉛、ヨウ素酸亜鉛、炭酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、次亜リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、リン酸亜鉛、トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛又は亜鉛のハロゲン化物との混合物であることが好ましい。特に量子収率向上の観点から、硫黄源として、チオール含有カルボン酸類、亜鉛源として、カルボン酸亜鉛、過塩塩素酸亜鉛、亜鉛のハロゲン化物との混合物であることが好ましく、チオール含有カルボン酸類と亜鉛のハロゲン化物との混合物であることが特に好ましい。
【0042】
前記チオール含有カルボン酸類としては、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオりんご酸、システイン、アセチルシステイン、ホモシステイン、ペニシラミン等を挙げることができる。これらの中でも、量子ドットの水分散性、量子収率の観点から、チオグリコール酸、3-メルカプトプロピオン酸、システイン及びアセチルシステインが好ましく、3-メルカプトプロピオン酸がより好ましい。
【0043】
前記亜鉛のハロゲン化物としては、フッ化亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛及びヨウ化亜鉛が好ましく、塩化亜鉛が特に好ましい。
【0044】
シェルの形成は、前記表面処理親水性量子ドットの水性溶媒分散液にシェル形成剤を加えることで行うことができる。シェル形成剤の添加後、好ましくは30℃以上200℃以下、より好ましくは50℃以上150℃以下、特に70℃以上120℃以下で、好ましくは1分以上600分以下、より好ましくは5分以上240分以下、特に10分以上120分以下、処理を行うことで表面処理親水性量子ドット表面にシェルを形成することができる。
【0045】
シェル形成工程での雰囲気は、不活性ガス雰囲気下、減圧下、又は真空下といった非酸化性雰囲気であることが、量子ドットの変性や酸化物の副生を防止できる観点から好ましい。前記非酸化性雰囲気としては、作業容易性の観点から、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【0046】
シェル形成工程でのシェル形成剤の添加方法としては、反応液にシェル形成剤を直接添加する方法、シェル形成剤を溶媒に溶解又は分散した状態で反応液に添加する方法が挙げられる。シェル形成剤を溶媒に溶解又は分散した状態で反応液に添加する方法で添加する場合の溶媒としては、水溶性の溶媒であれば特に制限はなく、例えば、水、メタノール、エタノール、2-プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、アセトン、アセトニトリル、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド及びテトラヒドロフラン等が挙げられるが、水が特に好ましい。
以上の工程により、水溶性量子ドットの水性溶媒分散液が得られる。
【0047】
得られた水溶性量子ドットの水性溶媒分散液から、遠心分離、デカンテーション及び吸引ろ過等の一般的な方法で水溶性量子ドットを分離することができる。得られた水溶性量子ドットを再度水性溶媒に分散させ、不溶性の不純物を取り除くことで、精製された水溶性量子ドットの水性溶媒分散液が得られる。
【0048】
本発明の製造方法により得られる水溶性量子ドットは、水溶化させる前の疎水性量子ドットからの量子収率の低下が抑えられたものであるため、水性溶媒中でも優れた発光特性を示す。すなわち、水溶化させる前の量子ドットの量子収率(A%)に対する、水溶化した量子ドットの量子収率(B%)の割合(B%/A%)を量子収率の維持値とすると、該維持値が0.8超、好ましくは0.82以上となるため、疎水性量子ドットでは使用できなかった分野、例えば、蛍光プローブとしてバイオイメージングの分野で好適に使用することができる。
【実施例0049】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、例中の特性は以下の方法により測定した。
(1)発光スペクトル、極大蛍光波長、半値全幅(FWHM)及び量子収率(PLQY)
絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス(株)製、Quantaurus-QY)にて励起波長400nm、測定波長200~950nmの測定条件で、得られた量子ドットの水分散液を測定した。
(2)量子収率の維持値
下記式により算出した。
(量子収率の維持値)=
(水溶性量子ドットの量子収率)/(合成例で得られた量子ドットの量子収率)
【0050】
[合成例1] 緑色InP/ZnSe/ZnS量子ドットの合成
ミリスチン酸インジウム1.04g、ミリスチン酸亜鉛0.31g、酢酸インジウム0.06gを、1-オクタデセン14.25gに加えて、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して1.5時間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して40℃まで冷却し、ミリスチン酸インジウム亜鉛の1-オクタデセン溶液を得た。
得られたミリスチン酸インジウム亜鉛の1-オクタデセン溶液を窒素雰囲気下、40℃とした状態で、10質量%のトリス(トリメチルシリル)ホスフィンを含有したトリオクチルホスフィン溶液2.51gを加え、10分間保持した後、20℃まで自然冷却した。これにより、InP量子ドット前駆体を含む黄色の液を得た。
続いて、InP量子ドット前駆体溶液を250℃まで加熱することにより、InP量子ドットの反応溶液を得た。
オレイン酸亜鉛7.54g、塩化亜鉛4.09g、トリオクチルホスフィンセレニド5.40g、トリオクチルホスフィン8.90g、オレイルアミン16.26g、ジオクチルアミン16.26gを200mL反応容器で混合し、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して30分間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して窒素雰囲気下で180℃まで昇温し、前記で得られたInP量子ドットの反応溶液18.17gを加え、230℃まで昇温して30分間保持した後、更に300℃に昇温して60分間保持することにより、コアにInP、シェルにZnSeを有するInP/ZnSe量子ドットのオレイルアミン/ジオクチルアミン分散液を得た。得られた分散液を240℃に冷却後、オレイン酸亜鉛7.54g、トリオクチルホスフィン7.54g、トリオクチルホスフィンスルフィド4.35gを注入し、90分間保持することにより、コアにInPを有し、シェルにZnSe及びZnSが積層されたマルチシェル型量子ドットのオレイルアミン/ジオクチルアミン分散液を得た。
得られた分散液を室温まで冷却後、アセトン50gを加えて撹拌し、遠心分離によりInP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInP/ZnSe/ZnS量子ドットを、トルエン8.67gに懸濁してInP/ZnSe/ZnS量子ドットのトルエン分散液を得た。この分散液に更にアセトン50gを加えて撹拌し、遠心分離によりInP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInP/ZnSe/ZnS量子ドットをオクタン7.03gに懸濁して、精製InP/ZnSe/ZnS量子ドットのオクタン分散液を得た。得られた分散液の発光特性を測定した結果を表1に示す。
【0051】
[合成例2] 橙色InP/ZnSe/ZnS量子ドットの合成
ミリスチン酸インジウム1.43gを、1-オクタデセン14.25gに加えて、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して1.5時間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して40℃まで冷却し、ミリスチン酸インジウムの1-オクタデセン溶液を得た。
得られたミリスチン酸インジウムの1-オクタデセン溶液を窒素雰囲気下、40℃とした状態で、10質量%のトリス(トリメチルシリル)ホスフィンを含有したトリオクチルホスフィン溶液2.51gを加え、10分間保持した後、20℃まで自然冷却した。これにより、InP量子ドット前駆体を含む黄色の液を得た。
続いて、InP量子ドット前駆体溶液を280℃まで加熱することによりInP量子ドットの反応溶液を得た。
オレイン酸亜鉛7.54g、塩化亜鉛4.09g、トリオクチルホスフィンセレニド5.40g、トリオクチルホスフィン8.90g、オレイルアミン16.26g、ジオクチルアミン16.26gを200mL反応容器で混合し、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して30分間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して窒素雰囲気下で180℃まで昇温し、前記で得られたInP量子ドットの反応溶液18.19gを加え、230℃まで昇温して30分間保持した後、更に300℃に昇温して60分間保持することにより、コアにInP、シェルにZnSeを有するInP/ZnSe量子ドットのオレイルアミン/ジオクチルアミン分散液を得た。得られた分散液を240℃に冷却後、オレイン酸亜鉛7.54g、トリオクチルホスフィン7.54g、トリオクチルホスフィンスルフィド4.35gを注入し、90分間保持することにより、コアにInPを有し、シェルにZnSe及びZnSが積層されたマルチシェル型量子ドットのオレイルアミン/ジオクチルアミン分散液を得た。
得られた分散液を室温まで冷却後、アセトン50gを加えて撹拌し、遠心分離によりInP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInP/ZnSe/ZnS量子ドットを、トルエン8.67gに懸濁してInP/ZnSe/ZnS量子ドットのトルエン分散液を得た。この分散液に更にアセトン50gを加えて撹拌し、遠心分離によりInP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInP/ZnSe/ZnS量子ドットをオクタン7.03gに懸濁して、精製InP/ZnSe/ZnS量子ドットのオクタン分散液を得た。得られた分散液の発光特性を測定した結果を表1に示す。
【0052】
[合成例3] 赤色InP/ZnSe/ZnS量子ドットの合成
ミリスチン酸インジウム1.59gを、1-オクタデセン14.25gに加えて、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して1.5時間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して40℃まで冷却し、ミリスチン酸インジウムの1-オクタデセン溶液を得た。
得られたミリスチン酸インジウムの1-オクタデセン溶液を窒素雰囲気下、40℃とした状態で、10質量%のトリス(トリメチルシリル)ホスフィンを含有したトリオクチルホスフィン溶液2.51gを加え、10分間保持した後、20℃まで自然冷却した。これにより、InP量子ドット前駆体を含む黄色の液を得た。
続いて、InP量子ドット前駆体溶液を280℃まで加熱することによりベースとなるInP量子ドットの反応溶液を得た。
別の反応容器にミリスチン酸インジウム2.39gを、1-オクタデセン21.37gに加えて、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して1.5時間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して40℃まで冷却し、ミリスチン酸インジウムの1-オクタデセン溶液を得た。
得られたミリスチン酸インジウムの1-オクタデセン溶液を窒素雰囲気下、40℃とした状態で、10質量%のトリス(トリメチルシリル)ホスフィンを含有したトリオクチルホスフィン溶液3.76gを加え、10分間保持した後、20℃まで自然冷却した。これにより、InP量子ドット前駆体を含む黄色の液を得た。
先に調整したベースとなるInP量子ドットの反応溶液を260℃に再加熱し、新たに調整したInP量子ドット前駆体溶液を60分かけて添加することによりInP量子ドットの反応溶液を得た。
オレイン酸亜鉛7.54g、塩化亜鉛4.09g、トリオクチルホスフィンセレニド5.40g、トリオクチルホスフィン8.90g、オレイルアミン16.26g、ジオクチルアミン16.26gを200mL反応容器で混合し、減圧下、撹拌しながら120℃に加熱して30分間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して窒素雰囲気下で180℃まで昇温し、前記で得られたInP量子ドットの反応溶液から15.29gを加え、230℃まで昇温して30分間保持した後、更に300℃に昇温して60分間保持することにより、コアにInP、シェルにZnSeを有するInP/ZnSe量子ドットのオレイルアミン/ジオクチルアミン分散液を得た。得られた分散液を240℃に冷却後、オレイン酸亜鉛7.54g、トリオクチルホスフィン7.54g、トリオクチルホスフィンスルフィド4.35gを注入し、90分間保持することにより、コアにInPを有し、シェルにZnSe及びZnSが積層されたマルチシェル型量子ドットのオレイルアミン/ジオクチルアミン分散液を得た。
得られた分散液を室温まで冷却後、アセトン50gを加えて撹拌し、遠心分離によりInP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInP/ZnSe/ZnS量子ドットを、トルエン8.67gに懸濁してInP/ZnSe/ZnS量子ドットのトルエン分散液を得た。この分散液に更にアセトン50gを加えて撹拌し、遠心分離によりInP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInP/ZnSe/ZnS量子ドットをオクタン7.03gに懸濁して、精製InP/ZnSe/ZnS量子ドットのオクタン分散液を得た。得られた分散液の発光特性を測定した結果を表1に示す。
【0053】
[実施例1]
(配位子交換工程)
合成例1で得られた緑色InP/ZnSe/ZnS量子ドットのオクタン分散液(量子ドット濃度0.100mmol/ml)2ml、ヘキサデカン10mlを50ml二口ナスフラスコへ計量した。減圧下、撹拌しながら90℃に加熱して30分間脱気した。脱気後、窒素ガスにより大気圧に戻して窒素雰囲気下で220℃まで昇温し、3-メルカプトプロピオン酸4mlを加え、10分間保持することにより、配位子が3-メルカプトプロピオン酸に置換したInP/ZnSe/ZnS量子ドットを得た。160℃まで冷却後、オクタン40mlを加えて室温まで冷却した。上澄み液を除去し、ヘキサン30mlを加えて撹拌し、再び上澄み液を除去した。これを3回繰り返して固形物を得た。この固形物をエタノール5mlに懸濁させ、遠心分離によりInP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。
(分散工程)
回収したInP/ZnSe/ZnS量子ドットを、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド40%水溶液3.6mlを加えて分散させた後、テトラヒドロフラン6mlと2-プロパノール60mlを加えて撹拌し、遠心分離によりInP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInP/ZnSe/ZnS量子ドットを、純水1.6mlを加えて分散させた後、2-プロパノール60mlを加え撹拌し、遠心分離によりInP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。これを2回繰り返して得られた沈殿物を、純水10mlに分散させて精製InP/ZnSe/ZnS量子ドットの水分散液を得た。
(表面処理工程)
InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液(量子ドット濃度0.020mmol/ml)3ml、無水塩化亜鉛0.082g、純水5mlを蓋付ガラスフラスコへ計量した。減圧後、窒素ガスにより大気圧へ戻して窒素雰囲気下とし、撹拌しながら内温を80℃から100℃の間で加熱し、30分間保持した後、室温まで冷却して、表面処理InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液を得た。
(シェル形成工程)
得られた表面処理InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液に、4.0mlの純水に溶解した無水塩化亜鉛0.090gと3-メルカプトプロピオン酸1.0mlを加えた。減圧後、窒素ガスにより大気圧へ戻して窒素雰囲気下とし、撹拌しながら内温を80℃から100℃の間で加熱し、30分間保持した後、室温まで冷却して、水溶性InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液を得た。
得られた水溶性InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液を、遠心分離により水溶性InP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収した沈殿物を、純水2.25ml、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド35%水溶液0.10mlを加えて分散させた後、遠心分離により不溶性不純物を取り除き、精製した水溶性InP/ZnSe/ZnS量子ドットの水分散液を得た。得られた水分散液の発光特性を測定した結果を表1に示す。また、得られた水分散液の発光スペクトルを測定した結果を
図1に示す。
【0054】
[実施例2]
配位子交換工程において、合成例2で得られた橙色InP/ZnSe/ZnS量子ドットのオクタン分散液を使用すること以外は、実施例1と同じ操作を行い、精製した水溶性InP/ZnSe/ZnS量子ドットの水分散液を得た。得られた水分散液の発光特性を測定した結果を表1に示す。また、得られた水分散液の発光スペクトルを測定した結果を
図2に示す。
【0055】
[実施例3]
配位子交換工程において、合成例3で得られた赤色InP/ZnSe/ZnS量子ドットのオクタン分散液を使用すること以外は、実施例1と同じ操作を行い、精製した水溶性InP/ZnSe/ZnS量子ドットの水分散液を得た。得られた水分散液の発光特性を測定した結果を表1に示す。また、得られた水分散液の発光スペクトルを測定した結果を
図3に示す。
【0056】
[実施例4]
配位子交換工程において、合成例3で得られた赤色InP/ZnSe/ZnS量子ドットのオクタン分散液を使用すること以外は、分散工程まで実施例1と同じ操作を行い、InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液を得た。
(表面処理工程)
無水塩化亜鉛0.12gを0.60mlの純水に溶解して無水塩化亜鉛水溶液を得た。この無水塩化亜鉛水溶液0.05ml、γ-ブチロラクトン2.0ml及びInP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液(量子ドット濃度0.025mmol/ml)0.03mlを蓋付ガラスフラスコへ計量した。減圧後、窒素ガスにより大気圧へ戻して窒素雰囲気下とし、撹拌しながら内温を80℃から100℃の間で加熱し、30分間保持した後、室温まで冷却して、表面処理InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液を得た。
(シェル形成工程)
得られた表面処理InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液に、無水塩化亜鉛水溶液0.05mlと3-メルカプトプロピオン酸0.02mlを加えた。減圧後、窒素ガスにより大気圧へ戻して窒素雰囲気下とし、撹拌しながら内温を190℃から205℃の間で加熱し、30分間保持した後、室温まで冷却して、水溶性InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液を得た。
得られた水溶性InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液を、遠心分離により水溶性InP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収した沈殿物を、純水1.0ml、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド35%水溶液0.1mlを加えて分散させた後、遠心分離により不溶性不純物を取り除き、精製した水溶性InP/ZnSe/ZnS量子ドットの水分散液を得た。得られた水分散液の発光特性を測定した結果を表1に示す。
【0057】
[実施例5]
配位子交換工程において、合成例2で得られた橙色InP/ZnSe/ZnS量子ドットのオクタン分散液を使用すること以外は、分散工程まで実施例1と同じ操作を行い、InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液を得た。
(表面処理工程)
酢酸亜鉛二水和物0.044gを2.0mlの純水に溶解して酢酸亜鉛水溶液を得た。この酢酸亜鉛水溶液1.0ml、純水5.0ml及びInP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液(量子ドット濃度0.020mmol/ml)0.5mlを蓋付ガラスフラスコへ計量した。減圧後、窒素ガスにより大気圧へ戻して窒素雰囲気下とし、撹拌しながら内温を80℃から100℃の間で加熱し、30分間保持した後、室温まで冷却して、表面処理InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液を得た。
(シェル形成工程)
得られた表面処理InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液に、酢酸亜鉛水溶液1.0mlと3-メルカプトプロピオン酸0.16mlを加えた。減圧後、窒素ガスにより大気圧へ戻して窒素雰囲気下とし、撹拌しながら内温を80℃から100℃の間で加熱し、30分間保持した後、室温まで冷却して、水溶性InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液を得た。
得られた水溶性InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液を、遠心分離により水溶性InP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収した沈殿物を、純水0.30ml、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド35%水溶液0.03mlを加えて分散させた後、遠心分離により不溶性不純物を取り除き、精製した水溶性InP/ZnSe/ZnS量子ドットの水分散液を得た。得られた水分散液の発光特性を測定した結果を表1に示す。
【0058】
[比較例1]
実施例1における分散工程で得られた精製InP/ZnSe/ZnS量子ドットの水分散液を、水溶性量子ドットとして発光特性を測定した結果を表1に示す。
【0059】
[比較例2]
実施例2における分散工程で得られた精製InP/ZnSe/ZnS量子ドットの水分散液を、水溶性量子ドットとして発光特性を測定した結果を表1に示す。
【0060】
[比較例3]
実施例3における分散工程で得られた精製InP/ZnSe/ZnS量子ドットの水分散液を、水溶性量子ドットとして発光特性を測定した結果を表1に示す。
【0061】
[比較例4]
合成例3で得られた橙色InP/ZnSe/ZnS量子ドットのオクタン分散液(量子ドット濃度0.020mmol/ml)0.5mlを遠心分離して、InP/ZnSe/ZnS量子ドットを沈殿物として回収した。回収したInP/ZnSe/ZnS量子ドットをn-ヘキサン1mlに分散させ、InP/ZnSe/ZnS量子ドットのn-ヘキサン分散液(量子ドット濃度10mg/ml)を得た。
得られた分散液1mlを、窒素雰囲気中で一口フラスコに入れ、28%アンモニア水1ml、1-ブタノール0.5ml、メルカプトプロピオン酸0.25mlを加えて、内温を55℃から65℃の間で撹拌しながら加熱し、冷却後、アセトニトリル7.5mlを加えて遠心分離し、得られた固形物を純水1.5mlに分散してInP/ZnSe/ZnS量子ドットの混合分散液を得た。
得られたInP/ZnSe/ZnS量子ドットの混合分散液に、無水塩化亜鉛0.14g、メルカプトプロピオン酸1ml及び純水4mlを混合したZn-メルカプトプロピオン酸水溶液1mlを加え、内温が70℃から80℃となるように撹拌しながら加熱し、撹拌しながら紫外線(波長365nm)を40分間照射した。照射を止め、撹拌開始から1時間経過した後、反応液を室温まで冷却し、アセトニトリル4.5mlを加えて遠心分離する操作を2回行い、得られた固形物を純水1mlに分散して水溶性InP/ZnSe/ZnS量子ドット水分散液を得た。得られた水分散液の発光特性を測定した結果を表1に示す。
【0062】
【0063】
表1に示す通り、本発明の製造方法で水溶化した量子ドットは、原料である疎水性量子ドットに対して同等のFWHMを有しており、量子収率の低下も抑制されたものであることが判る。