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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177918
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】1液型水性塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/00 20060101AFI20241217BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20241217BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D5/02
C09D163/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096328
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦野 翔輝
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG141
4J038CG142
4J038DB001
4J038GA01
4J038KA08
4J038KA09
4J038MA10
4J038MA13
4J038MA14
4J038MA15
4J038NA12
4J038NA26
4J038PA07
4J038PB05
4J038PB07
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】インターバルを空けた場合でも、樹脂塗膜に対する付着性に優れ、また塗膜状態に優れる上塗り塗膜を形成可能な水性塗料組成物を提供する。
【解決手段】バーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位を有する水性(メタ)アクリル樹脂(A)と、バーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位を有しない水性(メタ)アクリル樹脂(B)と、水と、を含有する、1液型水性塗料組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位を有する水性(メタ)アクリル樹脂(A)と、バーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位を有しない水性(メタ)アクリル樹脂(B)と、水と、を含有する、1液型水性塗料組成物。
【請求項2】
前記水性(メタ)アクリル樹脂(A)において、全構成単位100質量%中の前記バーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位の含有割合が、20質量%以上である、請求項1に記載の1液型水性塗料組成物。
【請求項3】
前記水性(メタ)アクリル樹脂(A)において、全構成単位100質量%中の前記バーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位の含有割合が、30質量%以上である、請求項1に記載の1液型水性塗料組成物。
【請求項4】
前記水性(メタ)アクリル樹脂(A)が、0℃以上のガラス転移温度(Tg)を有する、請求項1に記載の1液型水性塗料組成物。
【請求項5】
(メタ)アクリルポリオール(C)をさらに含有する、請求項1に記載の1液型水性塗料組成物。
【請求項6】
前記(メタ)アクリルポリオール(C)の含有割合が、前記水性(メタ)アクリル樹脂(A)、前記水性(メタ)アクリル樹脂(B)および前記(メタ)アクリルポリオール(C)の含有量の合計100質量部中、5~40質量部である、請求項5に記載の1液型水性塗料組成物。
【請求項7】
前記水性塗料組成物が、(メタ)アクリルポリオール(C)を所望によりさらに含有し、前記水性(メタ)アクリル樹脂(A)、前記水性(メタ)アクリル樹脂(B)および前記(メタ)アクリルポリオール(C)の含有量の合計100質量部中における前記水性(メタ)アクリル樹脂(A)の含有量が、30~80質量部である、請求項1に記載の1液型水性塗料組成物。
【請求項8】
前記1液型水性塗料組成物における前記水の含有割合が、20~70質量%である、請求項1に記載の1液型水性塗料組成物。
【請求項9】
樹脂塗膜の表面上に上塗り塗膜を形成するために用いられる、請求項1に記載の1液型水性塗料組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の1液型水性塗料組成物から形成された塗膜。
【請求項11】
樹脂塗膜と、
前記樹脂塗膜の表面上に設けられた請求項10に記載の塗膜と、
を有する積層塗膜。
【請求項12】
前記樹脂塗膜が、エポキシ樹脂塗膜を含む、請求項11に記載の積層塗膜。
【請求項13】
基材と、請求項10に記載の塗膜と、を有する塗装品。
【請求項14】
前記基材と前記塗膜との間に樹脂塗膜をさらに有する、請求項13に記載の塗装品。
【請求項15】
前記樹脂塗膜が、エポキシ樹脂塗膜を含む、請求項14に記載の塗装品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、1液型水性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶、橋梁およびタンク等の鉄鋼構造物は、目的に応じた各種機能を発揮するために、様々な仕様の積層塗膜で被覆されている。例えば、鉄鋼構造物等の基材の表面に、下塗り塗料としての防食塗料組成物(例えばエポキシ樹脂系防食塗料組成物)からなる防食塗膜が設けられており、該防食塗膜上に、意匠性または耐候性等を高める目的で、上塗り塗料組成物からなる上塗り塗膜が設けられている。上塗り塗料組成物としては、例えば、ウレタン樹脂系塗料組成物などの2液反応硬化型組成物、および(メタ)アクリル樹脂系塗料組成物などの1液型組成物が知られている。
【0003】
自然環境および塗装作業環境への配慮を目的として、近年では有機溶剤の排出規制が強化されている。このため、塗料組成物の分野では、揮発性有機化合物(VOC)の含有量が少ない水性塗料組成物の開発が進められている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-222901号公報
【特許文献2】特開2022-157093号公報
【特許文献3】国際公開第2020-022073号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、基材の表面に、防食塗料組成物(例えばエポキシ樹脂系防食塗料組成物)などの塗料組成物を塗布して樹脂塗膜を形成し、該樹脂塗膜に上塗り塗料として水性塗料組成物を塗布して上塗り塗膜を形成することが求められることがある。
【0006】
通常、基材に対して塗料組成物を塗布して樹脂塗膜を形成した後、所定の塗装間隔(インターバル)を空けて上塗り塗料組成物が塗布される。鉄鋼構造物が船舶である場合は、このインターバルが長い傾向にある。したがって、インターバルが長い場合でも樹脂塗膜に対する上塗り塗膜の付着性(密着性)が高いことが望ましい。また、このような上塗り塗膜は、塗膜状態に優れることが望ましい。本開示は、インターバルを空けた場合でも、樹脂塗膜に対する付着性に優れ、また塗膜状態に優れる上塗り塗膜を形成可能な水性塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、以下の組成を有する水性塗料組成物により上記課題を解決できることを見出した。すなわち本開示の水性塗料組成物は、バーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位を有する水性(メタ)アクリル樹脂(A)と、バーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位を有しない水性(メタ)アクリル樹脂(B)と、水と、を含有する、1液型水性塗料組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、インターバルを空けた場合(例えばインターバルが長期に亘る場合)でも、樹脂塗膜に対する付着性に優れ、また塗膜状態に優れる上塗り塗膜を形成可能な水性塗料組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施形態に係る積層塗膜の模式断面図である。
図2図2は、一実施形態に係る塗装品の模式断面図である。
図3図3は、碁盤目テープ剥離試験の評価基準を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の一実施形態について詳細に説明する。
本明細書中で説明する各成分は、それぞれ1種または2種以上を用いることができる。
「重合体」は、単独重合体および共重合体を包含する意味で用いる。
「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートを総称する語句である。「(メタ)アクリル」は、アクリルおよびメタクリルを総称する語句である。「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸およびメタクリル酸を総称する語句である。その他の例についても同様である。
【0011】
本開示において、数値範囲n1~n2は、n1以上n2以下を意味する。ここでn1およびn2は、n1<n2を満たす任意の数である。本開示において、ある要素について下限値および上限値がそれぞれ複数記載されている場合は、記載された下限値から任意に選ばれる値と、記載された上限値から任意に選ばれる値と、を組み合わせてなる数値範囲もまた、記載されているものとする。
【0012】
「XXに由来する構成単位」とは、XXをA12C=CA34(C=Cは重合性炭素-炭素二重結合であり、A1~A4はそれぞれ炭素原子に結合する原子または基である)と表すならば、例えば下記式で表される構成単位である。
【0013】
【化1】
【0014】
[1液型水性塗料組成物]
本開示の1液型水性塗料組成物(以下「本開示の組成物」ともいう)は、バーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位を有する水性(メタ)アクリル樹脂(A)と、バーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位を有しない水性(メタ)アクリル樹脂(B)と、水と、を含有する。
【0015】
本明細書において「水性(メタ)アクリル樹脂」とは、親水性の高い(メタ)アクリル樹脂をいい、水中に溶解可能な「水溶性」の(メタ)アクリル樹脂、または水中に分散可能な「水分散性」の(メタ)アクリル樹脂を意味する。このような(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、カルボキシ基およびヒドロキシ基などの親水性基を有し、水中に均一に溶解し得る水溶性樹脂および微粒子の形態で水中に均一に分散し得る水分散性樹脂が挙げられる。
【0016】
以下、本開示の組成物の効果について説明する。
近年、塗料組成物の水性化が進んではいるものの、鉄鋼構造物の殆どは長期に亘る高い防食性能を必要とするなどの観点から、防食塗料組成物に関しては、溶媒として有機溶剤を含有する有機溶剤型が依然として主として用いられている。例えば鉄鋼構造物において、防食塗料組成物から形成された防食塗膜上に、意匠性や耐候性の向上等を目的として、上塗り塗料組成物が塗布されることがある。従来、上塗り塗料組成物は、防食塗料組成物と同様に、溶媒として有機溶剤を含有する有機溶剤型が主流であったが、近年は水性塗料組成物の需要が高まっている。しかしながら、従来の水性塗料組成物から形成された塗膜は、有機溶剤型塗料組成物から形成された塗膜と比較して、樹脂塗膜に対する付着性(密着性)が低い傾向にある。特に有機溶剤型塗料組成物(例えば有機溶剤型エポキシ樹脂塗料組成物)から形成された樹脂塗膜上に水性塗料組成物を上塗りとして塗布した場合は、付着性の低下が顕著に見られる。これは、水性塗料組成物は、有機溶剤を含有しないか含有しても少量であることから、下層の樹脂塗膜の表面を溶解または膨潤させることができない上に、下層の樹脂塗膜の表面が疎水性である場合は水に濡れにくいためであると推測される。したがって、水性(メタ)アクリル樹脂(B)を含有し、水性(メタ)アクリル樹脂(A)を含有しない組成物を用いて、樹脂塗膜上に上塗り塗膜を形成した場合、該樹脂塗膜に対する上塗り塗膜の付着性が充分ではない傾向にある。
【0017】
本開示の組成物は、水性(メタ)アクリル樹脂(B)に加えて水性(メタ)アクリル樹脂(A)を含有する。本開示の組成物から形成された上塗り塗膜は、樹脂塗膜、特に有機溶剤型塗料組成物(例えば有機溶剤型エポキシ樹脂塗料組成物)から形成された樹脂塗膜、に対する付着性およびインターバル付着性に優れる。ここで、基材の表面に樹脂塗膜を形成した後、所定期間を空けて樹脂塗膜上に上塗り塗膜を形成する際の、該樹脂塗膜に対する上塗り塗膜の付着性を、本明細書において「インターバル付着性」ともいう。
【0018】
本開示の組成物から形成された上塗り塗膜は、粘着性が小さく、塗膜状態に優れる。本開示の組成物から形成された上塗り塗膜は、従来の有機溶剤型(メタ)アクリル樹脂系上塗り塗料組成物から形成された上塗り塗膜と同等以上の光沢を示すことができ、外観に優れる。
【0019】
<水性(メタ)アクリル樹脂(A)>
水性(メタ)アクリル樹脂(A)は、バーサチック酸ビニルエステル(以下「ベオバ」ともいう)由来の構成単位を有する。バーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位は、適度な疎水性および適度な柔軟性を塗膜に付与できると推測される。水性(メタ)アクリル樹脂(A)は、一実施形態において、バーサチック酸ビニルエステル共重合体である。バーサチック酸ビニルエステル共重合体は、例えば、ランダム共重合体でよく、ブロック共重合体でもよい。
【0020】
バーサチック酸ビニルエステル共重合体は、バーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位と、(メタ)アクリル系モノマー由来の構成単位と、を有してもよく、バーサチック酸ビニルエステルおよび/または(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能なその他のエチレン性不飽和モノマー由来の構成単位をさらに有してもよい。バーサチック酸ビニルエステル共重合体は、バーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位を2種以上有してもよい。バーサチック酸ビニルエステル共重合体は、(メタ)アクリル系モノマー由来の構成単位を2種以上有してもよい。バーサチック酸ビニルエステル共重合体は、その他のエチレン性不飽和モノマー由来の構成単位を2種以上有してもよい。
【0021】
バーサチック酸ビニルエステルは、下記式(1)で表される化合物である。
【化2】
【0022】
式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立して炭素数1~7のアルキル基であり、RおよびRが相互に結合して環を形成していてもよい。RおよびRの合計の炭素数は、好ましくは6~10、より好ましくは6~8である。式(1)全体の合計炭素数は、好ましくは11~15、より好ましくは11~13である。
【0023】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基およびイソプロピル基などのプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基およびイソブチル基などのブチル基、n-ペンチル基、tert-ペンチル基、イソペンチル基およびsec-ペンチル基などのペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、1,1-ジメチルブチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、3-エチルブチル基、ならびに1-メチル-1-エチルプロピル基が挙げられる。アルキル基は、直鎖状でもよく、分岐状でもよい。RおよびRの少なくとも一方は、分岐状のアルキル基であることが好ましく、RおよびRの両方が、分岐状のアルキル基でもよい。
【0024】
一実施形態において、Rはプロピル基であり、Rはプロピル基、ブチル基またはペンチル基である。一実施形態において、Rはn-ブチル基であり、Rはイソブチル基である。
【0025】
(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸アミドおよび(メタ)アクリル酸が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートおよびラウリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート等のアラルキル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートおよび4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリレート;アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート;トリメトキシシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリエトキシシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリブトキシシリルプロピル(メタ)アクリレート、ジメトキシメチルシリルプロピル(メタ)アクリレートおよびメトキシジメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート等のアルコキシシリル基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。(メタ)アクリル酸アミドとしては、例えば、アミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリルアミドおよびメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリル酸アミノアルキルアミド;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、メトキシブチル(メタ)アクリルアミドおよびジアセトン(メタ)アクリルアミド等のその他のアミド基含有(メタ)アクリル系モノマーが挙げられる。
【0026】
バーサチック酸ビニルエステルおよび/または(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能なその他のエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレンおよび1-ブテン等のα-オレフィン;1,3-ブタジエン、イソプレンおよびクロロプレン等の共役ジエン;スチレン、α-メチルスチレンおよびハロゲン化スチレン等のスチレン系モノマー;酢酸ビニルおよびプロピオン酸ビニル等のビニルエステル(ただし、バーサチック酸ビニルエステルを除く);(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸およびイタコン酸等の不飽和ジカルボン酸;マレイン酸エチルおよびマレイン酸ブチル等の不飽和ジカルボン酸のモノエステル;マレイン酸ジエチルおよびマレイン酸ジブチル等の不飽和ジカルボン酸のジエステル;ならびにビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルジメトキシメチルシラン、ビニルメトキシジメチルシランおよびビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン等のアルコキシシリル基含有エチレン性不飽和モノマーが挙げられる。
【0027】
水性(メタ)アクリル樹脂(A)としては、例えば、バーサチック酸ビニルエステル-(メタ)アクリル系モノマー共重合体、バーサチック酸ビニルエステル-(メタ)アクリル系モノマー-スチレン系モノマー共重合体、およびバーサチック酸ビニルエステル-ビニルエステル共重合体が挙げられる。
【0028】
水性(メタ)アクリル樹脂(A)は、バーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位を有するシリコン変性(メタ)アクリル樹脂でもよい。
【0029】
シリコン変性(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂骨格とポリシロキサン樹脂骨格とが共有結合により結合された樹脂が挙げられ、例えば、(メタ)アクリル樹脂とポリシロキサン樹脂との端部同士が結合したブロック共重合体、ポリシロキサン樹脂を主骨格として有し、該主骨格に(メタ)アクリル樹脂が側鎖として結合した共重合体、および(メタ)アクリル樹脂を主骨格として有し、該主骨格にポリシロキサン樹脂が側鎖として結合した共重合体が挙げられる。これらの例示における(メタ)アクリル樹脂は、バーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位を有する。
【0030】
シリコン変性(メタ)アクリル樹脂を構成する(メタ)アクリル樹脂骨格とポリシロキサン樹脂骨格との質量基準での含有比率((メタ)アクリル樹脂骨格/ポリシロキサン樹脂骨格)は、例えば、1/10~50/1である。
【0031】
シリコン変性(メタ)アクリル樹脂は、また、バーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位と、(メタ)アクリル系モノマー由来の構成単位(シリル基含有不飽和モノマー由来の構成単位を除く)と、シリル基含有不飽和モノマー由来の構成単位と、を有するバーサチック酸ビニルエステル共重合体でもよい。シリル基含有不飽和モノマーとしては、例えば、それぞれ上述したアルコキシシリル基含有(メタ)アクリレートおよびアルコキシシリル基含有エチレン性不飽和モノマーが挙げられる。バーサチック酸ビニルエステル共重合体は、シリル基含有不飽和モノマー由来の構成単位を2種以上有してもよい。
【0032】
水性(メタ)アクリル樹脂(A)としては、耐候性に優れた塗膜を形成できる等の観点から、バーサチック酸ビニルエステル-(メタ)アクリル系モノマー共重合体、およびバーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位を有するシリコン変性(メタ)アクリル樹脂が好ましい。
【0033】
水性(メタ)アクリル樹脂(A)において、全構成単位100質量%中のバーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位の含有割合は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、よりさらに好ましくは35質量%以上、特に好ましくは40質量%以上、45質量%以上、50質量%以上または55質量%以上である。このような水性(メタ)アクリル樹脂(A)を含有する組成物は、塗膜に適度な疎水性および適度な柔軟性を付与できるため、耐水性、および樹脂塗膜に対する付着性、特にインターバル付着性に優れた塗膜を形成できる。特に、バーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位の含有割合が30質量%以上であると、インターバル付着性がより優れる傾向にある。本明細書において各構成単位の含有割合は、核磁気共鳴分光法(NMR)により測定される。
【0034】
水性(メタ)アクリル樹脂(A)において、全構成単位100質量%中のバーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位の含有割合は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下、よりさらに好ましくは75質量%以下、特に好ましくは70質量%以下である。このような水性(メタ)アクリル樹脂(A)は、水性(メタ)アクリル樹脂(B)との相溶性に優れる傾向にある。水性(メタ)アクリル樹脂(A)において、全構成単位100質量%中のバーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位の含有割合は、例えば20~90質量%である。
【0035】
水性(メタ)アクリル樹脂(A)において、全構成単位100質量%中の(メタ)アクリル系モノマー由来の構成単位の含有割合は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上、よりさらに好ましくは25質量%以上、特に好ましくは30質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下、よりさらに好ましくは65質量%以下、特に好ましくは60質量%以下、55質量%以下、50質量%以下または45質量%以下であり、例えば10~80質量%である。
【0036】
水性(メタ)アクリル樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは0℃以上、より好ましくは5℃以上、さらに好ましくは10℃以上であり、好ましくは100℃以下、より好ましくは60℃以下、さらに好ましくは50℃以下、よりさらに好ましくは40℃以下、特に好ましくは30℃以下であり、例えば0~100℃である。本明細書においてTgは、JIS K7121:2012に準拠して、示差走査熱量測定(DSC)により得られる中間点ガラス転移温度である。Tgが下限値以上の樹脂(A)を含有する組成物は、強度および耐水性に優れる塗膜を形成でき、また、高温環境下に晒される場合等においても軟化したりフクレが発生したりすることが抑制された塗膜を形成できる。Tgが上限値以下の樹脂(A)を含有する組成物は、被塗装物への付着性に優れる塗膜を形成でき、また、冬季などの低温環境下において塗布される場合等においても成膜性に優れ、ワレの発生などが抑制された塗膜を形成できる。
【0037】
水性(メタ)アクリル樹脂(A)は、0mgKOH/g超の酸価を有してもよい。水性(メタ)アクリル樹脂(A)の酸価(単位:mgKOH/g)は、好ましくは1以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上であり、好ましくは35以下、より好ましくは30以下、さらに好ましくは25以下であり、例えば1~35である。酸価が該範囲内の水性(メタ)アクリル樹脂(A)は、適度な親水性を有し、水性塗料組成物中において安定に存在することができる。酸価が下限値以上の樹脂(A)は、水性塗料組成物中における安定性に優れる。酸価が上限値以下の樹脂(A)を含有する組成物は、耐水性に優れる塗膜を形成でき、該塗膜は、例えば降雨など、水と触れた際に白化・フクレなどの塗膜欠陥を生じにくい。本明細書において酸価は、試料の不揮発分1g当たりの、カルボキシ基等の酸基を中和するために必要な水酸化カリウムの量(mg)であり、JIS K0070:1992に準拠して測定される。
【0038】
水性(メタ)アクリル樹脂(A)は、組成物中に粒子状で存在してもよい。例えば、組成物の塗布および乾燥時に、水が蒸発して粒子同士が結着して、造膜する。この場合の水性(メタ)アクリル樹脂(A)の平均粒子径は、特に制限はないが、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、さらに好ましくは30nm以上、特に好ましくは50nm以上であり、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは500nm以下、よりさらに好ましくは300nm以下、特に好ましくは200nm以下であり、例えば10nm~2μmである。平均粒子径が該範囲内の水性(メタ)アクリル樹脂(A)は、水性塗料組成物中で安定して存在できる傾向にあり、塗膜物性が均一な塗膜を形成できる傾向にある。本明細書において平均粒子径は、温度25℃でレーザー回折法により測定される体積基準の平均粒子径である。
【0039】
本開示の組成物を製造する際には、水を含む分散媒(以下「水性媒体」ともいう)中に水性(メタ)アクリル樹脂(A)が分散された水性分散体を用いて、該水性分散体と他の構成成分とを混合することが好ましい。これにより、本開示の組成物中に水性(メタ)アクリル樹脂(A)が安定して均一に存在しやすくなり、塗膜物性が均一な塗膜を形成できる傾向にある。水性分散体は、好ましくはエマルションである。水性分散体中における水性(メタ)アクリル樹脂(A)の含有割合は、例えば20~60質量%である。
【0040】
水性媒体としては、水を含んでいれば特に制限されないが、水性媒体中の水の含有割合は、好ましくは50~100質量%、より好ましくは60~100質量%、さらに好ましくは70~100質量%、よりさらに好ましくは80~100質量%、特に好ましくは90~100質量%である。水性媒体には、水以外の媒体が含まれていてもよく、このような媒体としては、例えば、アセトン、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジアセトンアルコール、ジオキサン、エチレングリコール、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテルおよびエチレングリコールモノヘキシルエーテルが挙げられる。
【0041】
水性(メタ)アクリル樹脂(A)は、自己架橋型であってもよい。
水性(メタ)アクリル樹脂(A)の合成方法としては、公知の方法が挙げられ、例えば、ラジカル重合開始剤の存在下で、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法または乳化重合法等でモノマーを重合する方法が挙げられる。
【0042】
水性(メタ)アクリル樹脂(A)、水性(メタ)アクリル樹脂(B)および所望により含まれる(メタ)アクリルポリオール(C)の含有量の合計100質量部中における水性(メタ)アクリル樹脂(A)の含有量は、好ましくは30質量部以上、より好ましくは35質量部以上、さらに好ましくは38質量部以上であり、好ましくは80質量部以下、より好ましくは75質量部以下、さらに好ましくは70質量部以下、よりさらに好ましくは65質量部以下、特に好ましくは60質量部以下であり、例えば30~80質量部である。水性(メタ)アクリル樹脂(A)の含有量が該範囲内の組成物から形成された塗膜は、粘着性が小さく、また、有機溶剤型樹脂塗膜などの樹脂塗膜との付着性およびインターバル付着性に優れ、上塗り塗膜として好適である。
【0043】
<水性(メタ)アクリル樹脂(B)>
水性(メタ)アクリル樹脂(B)は、(メタ)アクリル系モノマー由来の構成単位を有し、バーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位を有しない。ただし、本開示において、水性(メタ)アクリル樹脂(B)には、後述する(メタ)アクリルポリオール(C)は含まれないものとする。
【0044】
水性(メタ)アクリル樹脂(B)は、(メタ)アクリル系モノマーの単独重合体でもよく、2種以上の(メタ)アクリル系モノマーの共重合体でもよく、(メタ)アクリル系モノマーと、(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能なその他のエチレン性不飽和モノマーと、の共重合体でもよい。該共重合体は、例えば、ランダム共重合体でよく、ブロック共重合体でもよい。水性(メタ)アクリル樹脂(B)は、(メタ)アクリル系モノマー由来の構成単位を2種以上有してもよい。水性(メタ)アクリル樹脂(B)は、その他のエチレン性不飽和モノマー由来の構成単位を2種以上有してもよい。
【0045】
(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸アミドおよび(メタ)アクリル酸が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルおよび(メタ)アクリル酸アミドの具体例は、上述したとおりである。その他のエチレン性不飽和モノマーの具体例は、上述したとおりである。
【0046】
水性(メタ)アクリル樹脂(B)において、全構成単位100質量%中の(メタ)アクリル系モノマー由来の構成単位の含有割合は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、よりさらに好ましくは40質量%以上、特に好ましくは50質量%以上である。
【0047】
水性(メタ)アクリル樹脂(B)としては、例えば、ノニオン性(メタ)アクリル樹脂、アニオン性(メタ)アクリル樹脂およびカチオン性(メタ)アクリル樹脂が挙げられる。水性(メタ)アクリル樹脂(B)としては、例えば、(メタ)アクリル系モノマーの単独または共重合体である(メタ)アクリル系モノマー重合体、(メタ)アクリル系モノマー-スチレン系モノマー共重合体、(メタ)アクリル系モノマー-ビニルエステル共重合体、シリコン変性(メタ)アクリル樹脂、およびウレタン変性(メタ)アクリル樹脂が挙げられる。
【0048】
シリコン変性(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂骨格とポリシロキサン樹脂骨格とが共有結合により結合された樹脂が挙げられ、例えば、(メタ)アクリル樹脂とポリシロキサン樹脂との端部同士が結合したブロック共重合体、ポリシロキサン樹脂を主骨格として有し、該主骨格に(メタ)アクリル樹脂が側鎖として結合した共重合体、および(メタ)アクリル樹脂を主骨格として有し、該主骨格にポリシロキサン樹脂が側鎖として結合した共重合体が挙げられる。シリコン変性(メタ)アクリル樹脂を構成する(メタ)アクリル樹脂骨格とポリシロキサン樹脂骨格との質量基準での含有比率((メタ)アクリル樹脂骨格/ポリシロキサン樹脂骨格)は、例えば、1/10~50/1である。
【0049】
シリコン変性(メタ)アクリル樹脂は、また、(メタ)アクリル系モノマー由来の構成単位(シリル基含有不飽和モノマー由来の構成単位を除く)と、シリル基含有不飽和モノマー由来の構成単位と、を有する共重合体でもよい。シリル基含有不飽和モノマーとしては、例えば、それぞれ上述したアルコキシシリル基含有(メタ)アクリレートおよびアルコキシシリル基含有エチレン性不飽和モノマーが挙げられる。シリコン変性(メタ)アクリル樹脂は、シリル基含有不飽和モノマー由来の構成単位を2種以上有してもよい。
【0050】
水性(メタ)アクリル樹脂(B)としては、耐候性に優れた塗膜を形成できる等の観点から、(メタ)アクリル系モノマー重合体、(メタ)アクリル系モノマー-ビニルエステル共重合体、シリコン変性(メタ)アクリル樹脂、およびウレタン変性(メタ)アクリル樹脂が好ましい。
【0051】
水性(メタ)アクリル樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは0℃以上、より好ましくは5℃以上、さらに好ましくは8℃以上であり、好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下、さらに好ましくは50℃以下であり、例えば0~70℃である。Tgが該範囲内の樹脂(B)を含有する組成物は、外観が良好かつ耐水性および被塗装物への付着性に優れる塗膜を形成できる。Tgが下限値以上の樹脂(B)を含有する組成物は、高温環境下に晒される場合等においても軟化したりフクレが発生したりすることが抑制された塗膜を形成できる。Tgが上限値以下の樹脂(B)を含有する組成物は、冬季などの低温環境下において塗布される場合等においても成膜性に優れ、ワレの発生などが抑制された塗膜を形成できる。
【0052】
水性(メタ)アクリル樹脂(B)の水酸基価(単位:mgKOH/g)は、好ましくは30未満である。本明細書において水酸基価は、試料の不揮発分1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するために必要な水酸化カリウムの量(mg)であり、JIS K0070:1992に準拠して測定される。
【0053】
水性(メタ)アクリル樹脂(B)は、組成物中に粒子状で存在してもよい。例えば、組成物の塗布および乾燥時に、水が蒸発して粒子同士が結着して、造膜する。この場合の水性(メタ)アクリル樹脂(B)の平均粒子径は、特に制限はないが、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、さらに好ましくは30nm以上、特に好ましくは50nm以上であり、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは500nm以下、よりさらに好ましくは300nm以下、特に好ましくは200nm以下であり、例えば10nm~2μmである。平均粒子径が該範囲内の水性(メタ)アクリル樹脂(B)は、水性塗料組成物中で安定して存在できる傾向にあり、塗膜物性が均一な塗膜を形成できる傾向にある。
【0054】
本開示の組成物を製造する際には、水性(メタ)アクリル樹脂(B)が水性媒体中に分散された水性分散体を用いて、該水性分散体と他の構成成分とを混合することが好ましい。これにより、本開示の組成物中に水性(メタ)アクリル樹脂(B)が安定して均一に存在しやすくなり、塗膜物性が均一な塗膜を形成できる傾向にある。水性分散体は、好ましくはエマルションである。水性分散体中における水性(メタ)アクリル樹脂(B)の含有割合は、例えば20~60質量%である。
【0055】
水性(メタ)アクリル樹脂(B)は、自己架橋型であってもよい。
水性(メタ)アクリル樹脂(B)の合成方法としては、公知の方法が挙げられ、例えば、ラジカル重合開始剤の存在下で、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法または乳化重合法等でモノマーを重合する方法が挙げられる。
【0056】
水性(メタ)アクリル樹脂(A)、水性(メタ)アクリル樹脂(B)および所望により含まれる(メタ)アクリルポリオール(C)の含有量の合計100質量部中における水性(メタ)アクリル樹脂(B)の含有量は、好ましくは20質量部以上、より好ましくは25質量部以上、さらに好ましくは30質量部以上であり、好ましくは65質量部以下、より好ましくは60質量部以下、さらに好ましくは55質量部以下であり、例えば20~65質量部である。水性(メタ)アクリル樹脂(B)の含有量が該範囲内の組成物は、外観が良好、かつ耐水性ならびに被塗装物への付着性およびインターバル付着性に優れる塗膜を形成できる。
【0057】
<(メタ)アクリルポリオール(C)>
本開示の組成物は、(メタ)アクリルポリオール(C)をさらに含有してもよい。(メタ)アクリルポリオール(C)は、複数のヒドロキシ基を有する、比較的低分子量の水性(メタ)アクリル樹脂である。このような組成物から形成された塗膜は、上述した付着性および長期のインターバル付着性に加えて、初期の光沢およびレベリング性に優れる傾向にある。
【0058】
(メタ)アクリルポリオール(C)としては、例えば、ヒドロキシ基を有するエチレン性不飽和モノマーと、これと共重合可能なその他のエチレン性不飽和モノマーと、の共重合体が挙げられる。(メタ)アクリルポリオール(C)は、ヒドロキシ基を有するエチレン性不飽和モノマー由来の構成単位を2種以上有してもよい。(メタ)アクリルポリオール(C)は、その他のエチレン性不飽和モノマー由来の構成単位を2種以上有してもよい。
【0059】
ヒドロキシ基を有するエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、上述したヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。その他のエチレン性不飽和モノマーしては、例えば、上述した(メタ)アクリル系モノマー(上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを除く)、および(メタ)アクリル系モノマー以外の上述したその他のエチレン性不飽和モノマーが挙げられる。
【0060】
(メタ)アクリルポリオール(C)の水酸基価(単位:mgKOH/g)は、好ましくは30以上、より好ましくは50以上、さらに好ましくは70以上であり、好ましくは300以下、より好ましくは250以下、さらに好ましくは200以下であり、例えば30~300である。(メタ)アクリルポリオール(C)の水酸基価が該範囲内であることにより、水性(メタ)アクリル樹脂(A)と水性(メタ)アクリル樹脂(B)との相溶性を向上させ、本開示の組成物の貯蔵安定性をより向上させることができる。
【0061】
(メタ)アクリルポリオール(C)は、0mgKOH/g超の酸価を有してもよい。(メタ)アクリルポリオール(C)の酸価(単位:mgKOH/g)は、好ましくは1以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは5以上であり、好ましくは30以下、より好ましくは25以下、さらに好ましくは20以下であり、例えば1~30である。
【0062】
(メタ)アクリルポリオール(C)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上、さらに好ましくは5,000以上であり、好ましくは100,000以下、より好ましくは50,000以下、さらに好ましくは30,000以下であり、例えば1,000~100,000である。このような比較的低分子量の(メタ)アクリルポリオール(C)を含有する組成物は、初期の光沢およびレベリング性により優れる塗膜を形成できる。
【0063】
Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により下記条件にて測定される、ポリスチレン換算の値である。
(GPC測定条件)
装置:「HLC-8320GPC」(東ソー株式会社製)
カラム:「TSKgel guardcolumn SuperMP(HZ)-M+TSKgel SuperMultiporeHZ-M+TSKgel SuperMultiporeHZ-M」(いずれも東ソー株式会社製)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:0.35ml/min
検出器:示差屈折率(RI)検出器
カラム恒温槽温度:40℃
検量線:標準ポリスチレン
サンプル調製法:重合体溶液にTHFを加えて希釈した後、メンブレンフィルターで濾過して得られた濾液をGPC測定サンプルとする。
【0064】
(メタ)アクリルポリオール(C)は、組成物中に粒子状で存在してもよい。例えば、組成物の塗布および乾燥時に、水が蒸発して粒子同士が結着して、造膜する。この場合の(メタ)アクリルポリオール(C)の平均粒子径は、特に制限はないが、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、さらに好ましくは30nm以上、特に好ましくは50nm以上であり、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは500nm以下、よりさらに好ましくは300nm以下、特に好ましくは200nm以下であり、例えば10nm~2μmである。平均粒子径が該範囲内の(メタ)アクリルポリオール(C)は、水性塗料組成物中で安定して存在できる傾向にあり、塗膜物性が均一な塗膜を形成できる傾向にある。
【0065】
本開示の組成物を製造する際には、(メタ)アクリルポリオール(C)が水性媒体中に分散された水性分散体を用いて、該水性分散体と他の構成成分とを混合することが好ましい。これにより、本開示の組成物中に(メタ)アクリルポリオール(C)が安定して均一に存在しやすくなり、塗膜物性が均一な塗膜を形成できる傾向にある。水性分散体は、好ましくはエマルションである。水性分散体中における(メタ)アクリルポリオール(C)の含有割合は、例えば20~60質量%である。
【0066】
本開示の組成物が(メタ)アクリルポリオール(C)を含有する場合における(メタ)アクリルポリオール(C)の含有割合は、水性(メタ)アクリル樹脂(A)、水性(メタ)アクリル樹脂(B)および(メタ)アクリルポリオール(C)の含有量の合計100質量部中、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは15質量部以上であり、好ましくは40質量部以下、より好ましくは35質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下であり、例えば5~40質量部である。(メタ)アクリルポリオール(C)の含有量が該範囲内の組成物は、光沢およびレベリング性により優れる塗膜を形成できる。また、(メタ)アクリルポリオール(C)の含有量が上限値以下の組成物は、ワレの発生が抑制され、また付着性に優れる塗膜を形成できる。
【0067】
本開示の組成物において、組成物中の固形分総量に対する、水性(メタ)アクリル樹脂(A)、水性(メタ)アクリル樹脂(B)および(メタ)アクリルポリオール(C)の合計の割合は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下であり、例えば40~90質量%である。
【0068】
<その他の成分>
本開示の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、顔料、防錆剤および添加剤などの、その他の成分を含有してもよい。添加剤としては、例えば、分散剤、湿潤剤、たれ止め剤(沈降防止剤、揺変剤、レオロジーコントロール剤)、消泡剤、造膜助剤、レベリング剤、界面活性剤、増粘剤、防カビ剤、防腐剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、酸化防止剤およびフラッシュラスト抑制剤が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0069】
顔料は、塗膜の強度、防食性、色相等の付与のために用いることができる。顔料としては、例えば、体質顔料、着色顔料および防錆顔料が挙げられ、有機系および無機系のいずれの顔料でもよい。本開示の組成物が顔料を含有する場合、顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0070】
体質顔料としては、例えば、タルク、マイカ、(沈降性)硫酸バリウム、(カリ)長石、カオリン、アルミナホワイト、ベントナイト、ウォラストナイト、クレー、ガラスフレーク、アルミフレーク、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、ドロマイトおよびシリカが挙げられる。
【0071】
本開示の組成物が体質顔料を含有する場合における体質顔料の含有割合は、該組成物中の固形分総量100質量%中、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下であり、例えば1~50質量%である。
【0072】
着色顔料としては、従来公知の着色顔料を用いることができ、例えば、酸化チタン、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄およびカーボンブラック等の無機顔料、ナフトールレッド、シアニンブルーおよびシアニングリーン等の有機顔料、ならびに、アルミニウムフレーク、鱗片状酸化鉄およびステンレスフレーク等の光沢顔料が挙げられる。
【0073】
本開示の組成物が着色顔料を含有する場合における着色顔料の含有割合は、該組成物中の固形分総量100質量%中、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下であり、例えば1~50質量%である。
【0074】
防錆顔料としては、例えば、リン酸亜鉛系化合物、リン酸カルシウム系化合物、リン酸アルミニウム系化合物、リン酸マグネシウム系化合物、亜リン酸亜鉛系化合物、亜リン酸カルシウム系化合物、亜リン酸アルミニウム系化合物、亜リン酸ストロンチウム系化合物、トリポリリン酸アルミニウム系化合物、モリブデン酸塩系化合物、シアナミド亜鉛系化合物、ホウ酸塩化合物、ニトロ化合物および複合酸化物が挙げられる。
【0075】
本開示の組成物が防錆顔料を含有する場合における防錆顔料の含有割合は、該組成物中の固形分総量100質量%中、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%であり、例えば1~20質量%である。
【0076】
防錆剤は、防錆顔料以外の、防錆性能を有する化合物である。防錆剤としては、従来公知の化合物を用いることができる。本開示の組成物中における防錆剤の含有割合は、特に限定されない。
【0077】
本開示の組成物は、該組成物における顔料等の分散性を向上させ、外観が良好な塗膜を容易に形成でき、耐クラック性に優れる塗膜を容易に形成できるなどの観点から、分散剤を含有することが好ましい。分散剤としては、例えば、顔料吸着性基(顔料親和性基)を有し、脂肪酸、ポリアミノ、ポリエーテル、ポリエステル、ポリウレタンおよびポリアクリレート等の相溶性鎖を有する重合体が挙げられる。顔料吸着性基としては、例えば、カルボキシ基、リン酸基、アミノ基、これらの塩の基、およびアンモニウム塩基が挙げられる。
【0078】
本開示の組成物が分散剤を含有する場合における分散剤の含有割合は、該組成物中の固形分総量100質量%中、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上であり、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下であり、例えば0.1~3質量%である。
【0079】
本開示の組成物は、塗布時の厚塗り性およびたれ止め性の向上や、水に対する顔料等の不溶分の沈降抑制という観点から、たれ止め剤を含有することが好ましい。たれ止め剤としては、例えば、水添ヒマシ油系揺変剤、アマイドワックス系揺変剤、酸化ポリエチレン系揺変剤およびウレタン系揺変剤等の有機系揺変剤;ならびに粘土鉱物(例:ベントナイト、スメクタイトおよびヘクトライト)および合成微粉シリカ等の無機系揺変剤が挙げられる。
【0080】
本開示の組成物がたれ止め剤を含有する場合におけるたれ止め剤の含有割合は、該組成物中の固形分総量100質量%中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下であり、例えば0.01~3質量%である。
【0081】
消泡剤としては、塗料組成物の製造時および塗布時に泡の発生を抑制できる材料、または、塗料組成物中に発生した泡を破泡できる材料が好ましい。消泡剤を用いることにより、例えば、塗膜中での気泡痕またはピンホールの発生を抑制でき、したがって塗膜の成膜性および耐クラック性を向上できる。消泡剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤、ポリマー系(非シリコーン系)消泡剤およびミネラルオイル系消泡剤が挙げられる。
【0082】
本開示の組成物が消泡剤を含有する場合における消泡剤の含有割合は、該組成物中の固形分総量100質量%中、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下であり、例えば0.05~5質量%である。
【0083】
本開示の組成物は、水を含有することに起因して、冬季に組成物が凍結することがあるため、また、低温下における成膜性や得られる塗膜の仕上がり外観を向上させるなどの観点から、造膜助剤を含有することが好ましい。造膜助剤としては、例えば、アルコール類、グリコールエーテル類およびエステル類が挙げられ、具体的には、イソプロピルアルコール等の炭素数1~3のアルコールおよび2,2,4-トリメチルペンタンジオール、ベンジルアルコール等のアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテルおよびエチレングリコールモノフェニルエーテル等のグリコールエーテル類;ならびに2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート等のエステル類が挙げられる。
【0084】
本開示の組成物が造膜助剤を含有する場合における造膜助剤の含有量は、該組成物中の水性(メタ)アクリル樹脂(A)、水性(メタ)アクリル樹脂(B)および所望により含まれる(メタ)アクリルポリオール(C)の含有量の合計100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、好ましくは30質量部以下、より好ましくは25質量部以下であり、例えば0.5~30質量部である。
【0085】
本開示の組成物は、該組成物を塗布した際の塗膜のハジキを改善して、被塗装物面への濡れ性を向上させ、厚さの均一な塗膜を容易に得ることができる等の観点から、レベリング剤を含有することが好ましい。レベリング剤としては、例えば、フッ素系、アクリル系、シリコーン系等の各種レベリング剤が挙げられる。
【0086】
本開示の組成物がレベリング剤を含有する場合におけるレベリング剤の含有割合は、該組成物中の固形分総量100質量%中、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上であり、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下であり、例えば0.005~2質量%である。
【0087】
増粘剤としては、例えば、一般的に増粘剤として販売されている市販品を用いることができる。増粘剤としては、例えば、アルカリ増粘型、ノニオン性会合型、アクリル型、ウレタン型、水溶性高分子型、ポリアミド型またはヒドロキシエチルセルロースなどの増粘剤が挙げられる。
【0088】
本開示の組成物が増粘剤を含有する場合における増粘剤の含有割合は、該組成物中の固形分総量100質量%中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下であり、例えば0.01~5質量%である。
【0089】
水性塗料組成物を活性な鋼材表面などに塗布する場合、塗布直後から乾燥過程において、該鋼材表面から鉄イオンが溶出することなどに起因する発錆、およびその錆などが塗膜表面に浮き出てくるフラッシュラストが起こる場合がある。このようなフラッシュラストを抑制する目的で、本開示の組成物は、フラッシュラスト抑制剤を含有することが好ましい。
【0090】
フラッシュラスト抑制剤としては、例えば、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸ストロンチウム、亜硝酸バリウムおよび亜硝酸アンモニウムなどの亜硝酸塩;安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸カルシウムおよび安息香酸アンモニウムなどの安息香酸塩;フィチン酸ナトリウムおよびフィチン酸カリウムなどのフィチン酸塩;セバシン酸およびドデカン酸などの有機カルボン酸塩;アルキルリン酸およびポリリン酸などのリン酸誘導体;タンニン酸塩;スルホン酸金属塩;N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、プロピレンジアミン四酢酸(PDTA)、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸(DTPMP)、およびこれらのアルカリ金属塩などのアミン系キレート剤;4-メチル-γ-オキソ-ベンゼンブタン酸とN-エチルモルホリンの付加反応物;モノアルキルアミンやポリアミン、第四級アンモニウムイオンなどをトリポリリン酸二水素アルミニウムなどの層状リン酸塩にインターカレートしてなる層間化合物;ヒドラジド化合物、セミカルバジド化合物およびヒドラゾン化合物などのヒドラジン誘導体;ベンゾトリアゾール、その誘導体、さらにその塩などのアゾール系化合物が挙げられる。これらの中でも、耐フラッシュラスト性に優れ、安価である等の観点から、亜硝酸塩(例:ナトリウム、カリウム、カルシウム等の金属塩、アンモニウム塩)、安息香酸塩(例:ナトリウム、カリウム、カルシウム等の金属塩、アンモニウム塩)が好ましく、使用量が少なくても高い耐フラッシュラスト性を示す組成物を容易に得ることができるなどの観点から、亜硝酸塩がより好ましく、亜硝酸ナトリウムが特に好ましい。
【0091】
本開示の組成物がフラッシュラスト抑制剤を含有する場合におけるフラッシュラスト抑制剤の含有割合は、該組成物中の固形分総量100質量%中、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下であり、例えば0.05~5質量%である。
【0092】
<水>
本開示の組成物は、水性塗料組成物である。本開示において「水性」塗料組成物とは、水を含有する塗料組成物のことをいう。水としては特に制限されず、例えば、水道水、イオン交換水および脱イオン水が挙げられ、イオン交換水および脱イオン水が好ましい。上記水には、水性(メタ)アクリル樹脂(A)、水性(メタ)アクリル樹脂(B)および所望により含まれる(メタ)アクリルポリオール(C)を水性媒体中に分散させた際の分散媒である水、ならびに添加剤中に含まれる水も含まれる。本開示の組成物における水の含有割合は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上であり、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下であり、例えば20~70質量%である。
【0093】
本開示の組成物中の固形分総量の含有割合は、塗装作業性に優れた組成物にできる観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下であり、例えば30~80質量%である。
【0094】
<VOC>
本開示の組成物における揮発性有機化合物(VOC)の含有量は、環境保全および作業環境の安全性などの観点から、好ましくは150g/L以下、より好ましくは100g/L以下である。本開示の組成物におけるVOCの含有量は、低いほど好ましいが、該含有量は、例えば1g/L以上でもよく、5g/L以上でもよく、10g/L以上でもよく、20g/L以上でもよく、30g/L以上でもよい。
【0095】
VOCとしては、例えば、有機溶剤が挙げられる。有機溶剤としては、例えば、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、エチルベンゼンおよびメシチレン等の芳香族炭化水素系溶剤;エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノールおよびイソブタノール等のアルコール系溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテルおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトンおよびシクロヘキサノン等のケトン系溶剤;ならびに酢酸エチル、酢酸ブチルおよびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤が挙げられる。
【0096】
本開示において、上記組成物中のVOCの含有量は、以下の組成物比重、固形分濃度および水分濃度の値を用いて、下記式(1)に基づき算出される。
VOCの含有量(g/L) =
組成物比重×1000×(100-固形分濃度-水分濃度)/100 ・・・(1)
【0097】
組成物比重(g/mL)は、23℃の温度条件下で、組成物を内容積100mLの比重カップに充満させ、該組成物の質量を計量することで算出される値である。
固形分濃度(質量%)は、後述の実施例欄に記載の方法で算出される値である。本開示において、組成物中の固形分とは、後述の実施例欄に記載の通り、組成物を108℃の恒温器中で3時間乾燥したときの加熱残分(不揮発分)を意味する。同様に、各成分(例:水性分散体)中の固形分とは、後述の実施例欄に記載の通り、各成分を108℃の恒温器中で3時間乾燥したときの加熱残分(不揮発分)を意味する。
水分濃度(質量%)は、組成物100質量%中に含まれる水の量(質量%)であり、カールフィッシャー法に従い、水分測定装置(例えばCA-310、日東精工アナリテック株式会社製)を用いて測定される。
【0098】
<組成物の製造方法>
本開示の組成物は、公知の方法を適宜利用して製造できる。例えば、水性(メタ)アクリル樹脂(A)と、水性(メタ)アクリル樹脂(B)と、必要に応じて(メタ)アクリルポリオール(C)と、必要に応じてその他の成分とを、一度にまたは任意の順序で攪拌容器に添加し、公知の攪拌・混合手段で各成分を混合して、水中に分散または溶解させて製造できる。上記混合において、水性(メタ)アクリル樹脂(A)が水性媒体中に分散された水性分散体を用いてもよく、水性(メタ)アクリル樹脂(B)が水性媒体中に分散された水性分散体を用いてもよく、(メタ)アクリルポリオール(C)が水性媒体中に分散された水性分散体を用いてもよい。
【0099】
混合(混練)の際には、従来公知の混合機、分散機および攪拌機等の装置を使用できる。該装置としては、例えば、ディスパー、混合・分散ミル、モルタルミキサー、ロール、ペイントシェーカー、ホモジナイザーが挙げられる。混合(混練)は、季節および環境等に応じて加温または冷却等しながら行ってもよい。
【0100】
本開示の組成物は、水性塗料組成物であることから、環境および人体への悪影響が極めて少なく、また、貯蔵安定性にも優れる。本開示の組成物を塗り重ねても形成される塗膜は下地塗膜に対する付着性(密着性)に優れ、塗膜のクラックや剥離が生じにくいことから、該組成物は、上塗り塗装または補修塗装に好適である。
【0101】
[塗料組成物の用途、積層塗膜および塗装品]
本開示の組成物は、例えば、被塗装物に塗布される。被塗装物とは、本開示の組成物が塗布される物品をいう。被塗装物における上記組成物が塗布される表面の材質としては、例えば、樹脂塗膜、金属材料、木材、プラスチック、ゴム、石材、コンクリート、モルタル、ガラス、磁器、陶器およびこれらの複合体が挙げられる。樹脂塗膜としては、例えば、下塗り塗膜、中塗り塗膜や、補修対象の樹脂塗膜(旧塗膜)が挙げられる。金属材料としては、例えば、鉄鋼(鉄、鋼、合金鉄、炭素鋼、マイルドスチール、合金鋼等)、非鉄金属(亜鉛、アルミニウム、銅、真鍮、亜鉛メッキ、亜鉛溶射等)、およびステンレス(SUS304、SUS410等)が挙げられる。
【0102】
被塗装物は、例えば、基材と、該基材の表面上に設けられた樹脂塗膜と、を有してもよい。樹脂塗膜が設けられる箇所における基材の材質としては、例えば、金属材料、木材、プラスチック、ゴム、石材、コンクリート、モルタル、ガラス、磁器、陶器およびこれらの複合体が挙げられ、金属材料が好ましい。基材としては、具体的には、船舶、車両、航空機、建築物、橋梁、プラント、タンク、コンテナ、パイプ、鋼管および鋳鉄管が挙げられ、例えば鉄鋼構造物などの構造物である。基材は、陸上構造物でもよく、海洋構造物でもよい。
【0103】
基材上の錆、油脂、水分、塵埃、塩分および旧塗膜等を除去するために、また、基材と塗膜との付着性を向上させるために、必要に応じて、基材表面に対して処理(例えば、ブラスト処理(ISO8501-1 Sa2 1/2)、脱脂による油分、粉塵を除去する処理)等を行ってもよい。基材の表面には、1次防錆を目的として、ショッププライマー等が塗装されていてもよい。
【0104】
本開示の塗膜は、本開示の組成物から形成される。本開示の塗膜は、外観、塗膜状態および耐候性等に優れることから、樹脂塗膜上に積層される上塗り塗膜として好適である。本開示の塗膜の厚さ(乾燥膜厚)は、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは30μm以上であり、好ましくは1,000μm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは300μm以下であり、例えば10~1,000μmである。上記組成物を複数回塗り重ねて所望の厚さを有する塗膜を形成してもよい。1回の塗布で所望の厚さを有する塗膜を形成(1回塗り)してもよく、2回以上の塗布(2回以上塗り)で所望の厚さを有する塗膜を形成してもよい。
【0105】
本開示の組成物を被塗装物に塗布し、乾燥させることによって、本開示の塗膜を形成できる。塗布方法としては、例えば、エアレススプレー塗装およびエアスプレー塗装等のスプレー塗装、はけ塗り、ならびにローラー塗りが挙げられる。本開示の組成物の乾燥は、自然乾燥によって行ってもよく、加熱乾燥によって行ってもよい。自然乾燥の場合、乾燥塗膜を得るための乾燥時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは1日以上、さらに好ましくは5日以上である。加熱乾燥の場合、熱風乾燥機を用いてもよい。加熱乾燥の場合、乾燥塗膜を得るための乾燥時間は、例えば5分~60分であり、乾燥温度は、好ましくは30℃以上100℃未満、より好ましくは40~80℃である。
【0106】
本開示の積層塗膜は、樹脂塗膜と、該樹脂塗膜の表面上に設けられた本開示の塗膜と、を有する。図1に、本開示の積層塗膜の一実施形態の模式断面図を示す。図1の積層塗膜1は、樹脂塗膜10と、樹脂塗膜10の表面上に設けられた本開示の塗膜20と、を有する。樹脂塗膜は、一実施形態において、エポキシ樹脂系防食塗膜などのエポキシ樹脂塗膜を含む。
【0107】
樹脂塗膜は、例えば、基材への付着性または防食性の向上を目的とした下塗り塗膜でもよく、下塗り塗膜と、該下塗り塗膜上に設けられた中塗り塗膜と、を有してもよい。すなわち樹脂塗膜は、積層構造を有してもよい。本開示の積層塗膜は、例えば、下塗り塗膜と、上塗り塗膜としての本開示の塗膜と、を厚さ方向にこの順に有してもよく、下塗り塗膜と、中塗り塗膜と、上塗り塗膜としての本開示の塗膜と、を厚さ方向にこの順に有してもよい。
【0108】
下塗り塗膜としては、例えば、エポキシ樹脂系防食塗料組成物等の各種防食塗料組成物から形成される塗膜が挙げられる。下塗り塗膜の厚さは、好ましくは20~300μm、より好ましくは20~250μmである。
【0109】
中塗り塗膜としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂系塗料組成物、エポキシ樹脂系塗料組成物およびウレタン樹脂系塗料組成物等の各種中塗り塗料組成物から形成される塗膜が挙げられる。中塗り塗膜の厚さは、好ましくは10~300μm、より好ましくは10~250μmである。
【0110】
本開示の塗膜は、上述したように、エポキシ樹脂塗膜(例えばエポキシ樹脂系防食塗膜)などの樹脂塗膜、特に有機溶剤型塗料組成物(例えば有機溶剤型エポキシ樹脂塗料組成物)から形成された樹脂塗膜、に対する付着性およびインターバル付着性に優れる。
【0111】
本開示の塗装品は、基材と本開示の塗膜とを有する。本開示の塗装品は、好ましくは、基材と本開示の積層塗膜とを有し、具体的には、基材と、樹脂塗膜と、本開示の塗膜と、を厚さ方向にこの順に有する。図2に、本開示の塗装品の一実施形態の模式断面図を示す。図2の塗装品2は、基材30と、基材30上に設けられた本開示の積層塗膜1と、を有する。樹脂塗膜の詳細は上述したとおりである。本開示の塗装品は、例えば、本開示の組成物を被塗装物に塗布する工程と、塗布された該組成物を乾燥させて塗膜を形成する工程と、を有する製造方法により、製造できる。
【0112】
[本開示の態様]
本開示は、例えば以下の[1]~[15]に関する。
[1]バーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位を有する水性(メタ)アクリル樹脂(A)と、バーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位を有しない水性(メタ)アクリル樹脂(B)と、水と、を含有する、1液型水性塗料組成物。
[2]前記水性(メタ)アクリル樹脂(A)において、全構成単位100質量%中の前記バーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位の含有割合が、20質量%以上である、前記[1]に記載の1液型水性塗料組成物。
[3]前記水性(メタ)アクリル樹脂(A)において、全構成単位100質量%中の前記バーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位の含有割合が、30質量%以上である、前記[1]または[2]に記載の1液型水性塗料組成物。
[4]前記水性(メタ)アクリル樹脂(A)が、0℃以上のガラス転移温度(Tg)を有する、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の1液型水性塗料組成物。
[5](メタ)アクリルポリオール(C)をさらに含有する、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の1液型水性塗料組成物。
[6]前記(メタ)アクリルポリオール(C)の含有割合が、水性(メタ)アクリル樹脂(A)、水性(メタ)アクリル樹脂(B)および(メタ)アクリルポリオール(C)の含有量の合計100質量部中、5~40質量部である、前記[5]に記載の1液型水性塗料組成物。
[7]前記水性塗料組成物が、(メタ)アクリルポリオール(C)を所望によりさらに含有し、前記水性(メタ)アクリル樹脂(A)、前記水性(メタ)アクリル樹脂(B)および前記(メタ)アクリルポリオール(C)の含有量の合計100質量部中における前記水性(メタ)アクリル樹脂(A)の含有量が、30~80質量部である、前記[1]~[6]のいずれか一項に記載の1液型水性塗料組成物。
[8]前記1液型水性塗料組成物における前記水の含有割合が、20~70質量%である、前記[1]~[7]のいずれか一項に記載の1液型水性塗料組成物。
[9]樹脂塗膜の表面上に上塗り塗膜を形成するために用いられる、前記[1]~[8]のいずれか一項に記載の1液型水性塗料組成物。
[10]前記[1]~[9]のいずれか一項に記載の1液型水性塗料組成物から形成された塗膜。
[11]樹脂塗膜と、前記樹脂塗膜の表面上に設けられた前記[10]に記載の塗膜と、を有する積層塗膜。
[12]前記樹脂塗膜が、エポキシ樹脂塗膜を含む、前記[11]に記載の積層塗膜。
[13]基材と、前記[10]に記載の塗膜と、を有する塗装品。
[14]前記基材と前記塗膜との間に樹脂塗膜をさらに有する、前記[13]に記載の塗装品。
[15]前記樹脂塗膜が、エポキシ樹脂塗膜を含む、前記[14]に記載の塗装品。
【実施例0113】
以下、実施例に基づき本開示の1液型水性塗料組成物をさらに具体的に説明するが、本開示の1液型水性塗料組成物は以下の実施例に何ら限定されない。以下の実施例および比較例において、「部」は「質量部」を示す。
【0114】
[成分]
実施例および比較例で用いた各成分を以下に記載する。
・フラッシュラスト抑制剤:亜硝酸ナトリウム(分子量69)、関東化学株式会社製
・分散剤(湿潤分散剤):DISPERBYK-190、不揮発分:40質量%、
BYK-Chemie GmbH製
・たれ止め剤(揺変剤):Primal RM-12W、不揮発分:19質量%、
Dow Chemical Company製
・消泡剤A:BYK-024、不揮発分:100質量%、
BYK-Chemie GmbH製
・消泡剤B:BYK-1770、不揮発分:100質量%、
BYK-Chemie GmbH製
・酸化チタン:Tipaque R-930、石原産業株式会社製
・造膜助剤:ダワノールDPnB、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル、
Dow Chemical Company製
・レベリング剤:TEGO Glide A 116、不揮発分:100質量%、
Evonik社製
・樹脂エマルション(A-1):DSV-4116、バーサチック酸ビニルエステル(ベオバ)変性(メタ)アクリル樹脂(組成比率 (メタ)アクリル:40質量%、ベオバ:60質量%)のエマルション、不揮発分:45質量%、Tg:22℃、酸価:19.5mgKOH/g、平均粒子径:100nm、自己架橋性、VANORA製
・樹脂エマルション(A-2):DXV-4051、バーサチック酸ビニルエステル(ベオバ)変性(メタ)アクリル樹脂(組成比率 (メタ)アクリル:40質量%、ベオバ:60質量%)のエマルション、不揮発分:50質量%、Tg:10℃、酸価:15.5mgKOH/g、平均粒子径:100nm、非自己架橋性、VANORA製
・樹脂エマルション(A-3):DSV-4176、バーサチック酸ビニルエステル(ベオバ)変性(メタ)アクリル樹脂(組成比率 (メタ)アクリル:72質量%、ベオバ:25質量%、SiO:3質量%)のエマルション、不揮発分:45質量%、Tg:10℃、酸価:17mgKOH/g、平均粒子径:120nm、自己架橋性、VANORA製
・樹脂エマルション(A-4):M.1630.AV、バーサチック酸ビニルエステル(ベオバ)変性アクリル樹脂(組成比率 (メタ)アクリル:40質量%、ベオバ:60質量%)のエマルション、不揮発分:45質量%、Tg:19℃、酸価:16mgKOH/g、平均粒子径:100nm、非自己架橋性、VANORA製
・樹脂エマルション(B-1):ポリゾール AP-3900、(メタ)アクリル樹脂エマルション、不揮発分:50質量%、Tg:10℃、株式会社レゾナック製
・樹脂エマルション(B-2):ポリゾール AP-3720N、(メタ)アクリル樹脂エマルション、不揮発分:50質量%、Tg:8℃、株式会社レゾナック製
・樹脂エマルション(B-3):ポリゾール AP-3770、スチレン-(メタ)アクリル樹脂エマルション、不揮発分:50質量%、Tg:10℃、株式会社レゾナック製
・樹脂エマルション(B-4):ユーダブル E-135、(メタ)アクリル樹脂エマルション、不揮発分:50質量%、Tg:10℃、株式会社日本触媒製
・樹脂エマルション(B-5):ユーダブル E-015、(メタ)アクリル樹脂エマルション、不揮発分:50質量%、Tg:15℃、株式会社日本触媒製
・樹脂エマルション(B-6):VONCOAT SA-6340、シリコン変性(メタ)アクリル樹脂エマルション、不揮発分:50質量%、Tg:20℃、DIC株式会社製
・樹脂エマルション(B-7):VONCOAT YG-651、(メタ)アクリル樹脂エマルション、不揮発分:47質量%、Tg:47℃、DIC株式会社製
・樹脂エマルション(B-8):VONCOAT CC-6180、(メタ)アクリル樹脂エマルション、不揮発分:50質量%、Tg:34℃、DIC株式会社製
・(メタ)アクリルポリオールエマルション(C-1):SETAQUA6515、アクリルポリオールエマルション、水酸基価:108.9mgKOH/g、酸価:9.9mgKOH/g、不揮発分:45質量%、Allnex社製
【0115】
[固形分濃度]
組成物および各成分の固形分または不揮発分とは、組成物および各成分をそれぞれ108℃の恒温器中で3時間乾燥したときの加熱残分を意味する。加熱残分は、具体的には、試料1.0gを平底皿に量り採り、質量既知の針金を使って均一に広げ、恒温器内で、1気圧かつ108℃の条件で3時間乾燥させて得られる試料の残渣である。加熱残分の量から、組成物および各成分の固形分の含有割合(固形分濃度)(質量%)を算出した。
【0116】
[実施例1]
容器に、7部のイオン交換水、0.1部のフラッシュラスト抑制剤、1部の分散剤、0.4部のたれ止め剤、0.3部の消泡剤A、および24部の酸化チタンを装入し、ペイントシェーカーを用いて、ツブゲージがJIS K5600-2-5:1999の方法にて30μm以下になるまで各成分をイオン交換水中に分散させた。このようにして、顔料分散液を調製した。
【0117】
顔料分散液に、40部の樹脂エマルション(A-1)、36部の樹脂エマルション(B-1)、および5.4部の造膜助剤を加え、ハイスピードディスパーサーを用いて、容器内の内容物を15分間攪拌した。次いで、容器に、0.4部の消泡剤B、0.4部のレベリング剤を加え、ハイスピードディスパーサーを用いて、容器内の内容物をさらに1分間攪拌した。このようにして、塗料組成物を調製した。
【0118】
[実施例2~22および比較例1~12]
表1~表3に記載の各成分を、各表に記載の量で用いたこと以外は実施例1と同様にして、塗料組成物をそれぞれ調製した。
【0119】
[塗膜の外観、粘着性および光沢値]
寸法が縦150mm、横70mmおよび厚さ1.6mmのSS400のサンドブラスト鋼板を準備した。サンドブラスト鋼板の表面の算術平均粗さ(Ra、JIS B0601:2013に準拠)は、30~75μmの範囲にあった。サンドブラスト鋼板の表面に、有機溶剤型エポキシ樹脂系塗料(バンノー1500ライトグレー、中国塗料株式会社製)を乾燥膜厚が約200μmとなるようエアスプレー塗装機(W-77、アネスト岩田株式会社製)を用いて塗装し、温度23℃、湿度50%の条件下で1日間乾燥させて、下塗り塗膜を形成した。下塗り塗膜の表面に、アプリケーターを用いて、実施例および比較例の各塗料組成物を乾燥膜厚が約60μmとなるよう塗装し、温度23℃、湿度50%の条件下で7日間乾燥させて、上塗り塗膜を形成した。このようにして、サンドブラスト鋼板、下塗り塗膜および上塗り塗膜をこの順に有する試験片Iを作製した。
【0120】
試験片Iの上塗り塗膜の外観および粘着性を、下記評価基準に従って評価した。試験片Iの上塗り塗膜の光沢値については、JIS K5600-4-7:1999に準拠して、表面光沢測定器(型式:マイクロトリグロス 4446、BYK-Gardner社製)を用いて、塗膜表面の垂直方向から60°の角度で入射させた光の反射率(60°光沢)を測定した。
【0121】
(塗膜外観の目視での評価基準)
3:ピンホール、クレーター等の異常が見られず、かつ、
レベリング性も良好であった。
2:ピンホール、クレーター等の異常が僅かに見られる、かつ/または、
レベリング性が僅かに不良であった。
1:ピンホール、クレーター等の異常が多数見られる、かつ/または、
レベリング性が不良であった。
【0122】
(塗膜の粘着性の評価基準)
3:塗膜に指を押しあてても、指に貼り付きが見られなかった。
1:塗膜に指を押しあてたとき、指に貼り付きが見られた。
【0123】
[耐候性試験]
試験片Iを、QUV促進耐候性試験機(型式:QUV/SE 200V、UVA-340型ランプ、Q-Lab社製)内に設置し、ASTM G154 CYCLE1に準拠して、200時間、400時間、600時間および1,200時間の耐候性試験を行った。その後、表面光沢測定器(型式:マイクロトリグロス 4446、BYK-Gardner社製)を用いて、耐候性試験後の塗膜表面の垂直方向から60°の角度で入射させた光の反射率(60°光沢)を測定した。耐候性試験を実施する前の塗膜の60°光沢の値に対する、耐候性試験後の60°光沢の光沢保持率(%)を算出した。
【0124】
[インターバル付着性試験]
寸法が縦150mm、横70mmおよび厚さ1.6mmのSS400のサンドブラスト鋼板を準備した。サンドブラスト鋼板の表面の算術平均粗さ(Ra)は、30~75μmの範囲にあった。サンドブラスト鋼板の表面に、有機溶剤型エポキシ樹脂系塗料(バンノー1500ライトグレー、中国塗料株式会社製)を乾燥膜厚が約200μmとなるようエアスプレー塗装機(W-77、アネスト岩田株式会社製)を用いて塗装し、温度23℃、湿度50%の条件下で1日間乾燥させて、下塗り塗膜を形成した。このようにして、塗装片を得た。塗装片を、1日間、7日間、14日間、21日間、30日間および60日間、屋外暴露した。屋外暴露した塗装片を軽く水洗し、充分乾燥させた。次いで、下塗り塗膜の表面に、アプリケーターを用いて、実施例および比較例の各塗料組成物を乾燥膜厚が約60μmとなるよう塗装し、温度23℃、湿度50%の条件下で7日間乾燥させて、上塗り塗膜を形成した。このようにして、サンドブラスト鋼板、下塗り塗膜および上塗り塗膜をこの順に有し、屋外暴露日数の異なる、インターバル付着性試験用の試験片IIを作製した。
【0125】
(評価方法)
・初期付着性
試験片IIについて、碁盤目テープ剥離試験(2mm×2mm、25マス、クロスカット法)を行った。試験片IIの塗膜面にカッターガイドを使用して素地である鋼板に達するまでの深さで、縦6本×横6本の切り込み(カット)をつけて直角の格子パターンを有する25マスの碁盤目を形成した。切り込みの間隔は、2mmとした。次いで、試験片IIの碁盤目の部分にセロハンテープを強く圧着させ、該セロハンテープの端を塗膜面に対して90°の角度で一気に引き剥がし、25マス中、残存・付着しているマスの数を図3に記載の評価基準(10点満点)で評価した。点数が6点以上であれば良好(合格)とした。
・2次付着性
試験片IIを30日間屋外暴露した。30日間経過後、塗膜面を軽く水洗し、充分乾燥させた後、初期付着性試験で実施した碁盤目テープ剥離試験と同様の試験を行った。
【0126】
【表1】
【0127】
【表2】
【0128】
【表3】
【符号の説明】
【0129】
1:積層塗膜
2:塗装品
10:樹脂塗膜
20:塗膜
30:基材
図1
図2
図3