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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177919
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】外科用テープ
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/06 20060101AFI20241217BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20241217BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20241217BHJP
   A61L 31/18 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
A61L31/06
A61L31/12
A61L31/14
A61L31/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096329
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】外所 厚史
(72)【発明者】
【氏名】菅野 渉
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AC05
4C081BB02
4C081BB05
4C081BB07
4C081BC02
4C081CA271
4C081DA02
4C081DA04
4C081DB08
4C081DC02
4C081EA03
(57)【要約】
【課題】手術者の操作性が高められた、シリコーン製の紐からなる外科用テープを提供する。
【解決手段】外科手術に使用されるシリコーン紐からなる外科用テープ(10)であり、長手方向に直交する断面の形状は楕円形であり、前記断面は、材料組成が互いに異なる第一領域(1)と第二領域(2)からなり、前記第一領域及び前記第二領域はそれぞれ前記楕円形の周を構成し、前記第一領域に含まれるX線造影剤の含有量c1と、前記第二領域に含まれるX線造影剤の含有量c2と、がc1<c2の関係を満たす、外科用テープ。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外科手術に使用されるシリコーン紐からなる外科用テープであり、
長手方向に直交する断面の形状は楕円形であり、
前記断面は、材料組成が互いに異なる第一領域と第二領域からなり、
前記第一領域及び前記第二領域はそれぞれ前記楕円形の周を構成し、
前記第一領域に含まれるX線造影剤の含有量c1と、
前記第二領域に含まれるX線造影剤の含有量c2と、
がc1<c2の関係を満たす、外科用テープ。
【請求項2】
前記第一領域を構成する第一材料からなる厚さ2mmの第一シートと、
前記第二領域を構成する第二材料からなる厚さ2mmの第二シートと、について、
30℃、40Hzの条件にて、貯蔵弾性率、損失弾性率及びtanδをそれぞれ測定したとき、下記(1)~(3)の関係を満たす、請求項1に記載の外科用テープ。
(1)前記第一シートの貯蔵弾性率>前記第二シートの貯蔵弾性率
(2)前記第一シートの損失弾性率>前記第二シートの損失弾性率
(3)前記第一シートのtanδ<前記第二シートのtanδ
【請求項3】
前記楕円形の周のうち、
前記第一領域に属する周長L1と、前記第二領域に属する周長L2と、
がL1>L2の関係を満たす、請求項1又は2に記載の外科用テープ。
【請求項4】
前記第一領域と前記第二領域の境界線が、前記楕円形の2つの焦点を結ぶ直線に沿い、その直線と交差しない曲線である、請求項3に記載の外科用テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科手術に使用されるシリコーン紐からなる外科用テープに関する。
【背景技術】
【0002】
開腹を伴う外科手術では、動脈、静脈、腱、神経、尿管等を一時的により分けて保持したり、牽引したりするために、ラテックスフリーで生体親和性に優れたシリコーン製の紐が使用されることがある(例えば非特許文献1)。赤、青、黄又は白に着色されており、適用箇所ごとに色分けが可能であり、手術者による視認性が優れる。また、断面が楕円形であり、血管に損傷を与える懸念が低減されている。さらに、X線不透過性であるので体内における位置を検知し得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】ヴェッセルテープ、一般医療機器、外科用テープ、JMDN(Japan Medical Device Nomenclature)コード:70419000、届出番号:13B1X00167000028、欧和通商株式会社、2017年6月(第5版)カタログ、[online]、[令和5年2月22日検索],インターネット<URL:https://www.info.pmda.go.jp/downfiles/md/PDF/180008/180008_13B1X00167000028_A_01_05.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、細長いシリコーン製の紐は表面が滑らかであり、しなやかであるため、必ずしも手術者の操作性が優れるものではなかった。本発明は、手術者の操作性が高められた、シリコーン製の紐からなる外科用テープを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1] 外科手術に使用されるシリコーン紐からなる外科用テープであり、長手方向に直交する断面の形状は楕円形であり、前記断面は、材料組成が互いに異なる第一領域と第二領域からなり、前記第一領域及び前記第二領域はそれぞれ前記楕円形の周を構成し、前記第一領域に含まれるX線造影剤の含有量c1と、前記第二領域に含まれるX線造影剤の含有量c2と、がc1<c2の関係を満たす、外科用テープ。
[2] 前記第一領域を構成する第一材料からなる厚さ2mmの第一シートと、前記第二領域を構成する第二材料からなる厚さ2mmの第二シートと、について、30℃、40Hzの条件にて、貯蔵弾性率、損失弾性率及びtanδをそれぞれ測定したとき、下記(1)~(3)の関係を満たす、[1]又は[2]に記載の外科用テープ。
(1)前記第一シートの貯蔵弾性率>前記第二シートの貯蔵弾性率
(2)前記第一シートの損失弾性率>前記第二シートの損失弾性率
(3)前記第一シートのtanδ<前記第二シートのtanδ
[3] 前記楕円形の周のうち、前記第一領域に属する周長L1と、前記第二領域に属する周長L2と、がL1>L2の関係を満たす、[1]又は[2]に記載の外科用テープ。
[4] 前記第一領域と前記第二領域の境界線が、前記楕円形の2つの焦点を結ぶ直線に沿い、その直線と交差しない曲線である、[1]~[3]の何れかに記載の外科用テープ。
【発明の効果】
【0006】
本発明の外科用テープは、一端部を長手方向に引っ張る(扱く)と、扱いた箇所がカールし(反り上がり)、その形状が維持されやすい剛性を呈するようになる。この一端部を操作して血管等の脇を通したり、狭い箇所をくぐらせたりすることが容易であるので、手術者の操作性が高められている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一例の外科用テープ10の断面の模式図。
図2】外科用テープ10の一端部を矢印方向に扱く操作を示す模式図。
図3】外科用テープ10の一端部が、扱きによって反り上がった様子を示す模式図。
図4】実施例で作製した第一シートの弾性特性を示すグラフ。
図5】実施例で作製した第二シートの弾性特性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の第一態様は外科手術に使用されるシリコーン紐からなる外科用テープである。外科用テープの長さは特に制限されず、例えば0.5~2m程度で巻かれた状態にあり、使用時に適当な長さに切断して使用することができる。
【0009】
外科用テープの長手方向(紐の長さに沿う軸線方向)に直交する断面の形状は楕円形である。ここで、楕円形とは、幾何学的に厳密な真円ではないことを意味し、実用的には限りなく円に近い楕円であってもよい。前記楕円形の扁平さは(長軸/短軸)の比で表すことができ、例えば1.0超10.0以下が好ましく、1.1以上8.0以下がより好ましく、1.5以上5.0以下が好ましい。
具体的には、前記楕円形の長軸は例えば1.0mm超5.0mm以下とされ、短軸は例えば1.0以上2.0mm以下とされる。これらの好適な範囲であると、使用時に血管等を損傷する懸念が低減され、手術者の操作性もさらに高まる。
【0010】
本態様の実施形態の一例である外科用テープ10の断面の楕円形を図1に示す。
前記断面は、材料組成が互いに異なる第一領域1と第二領域2に分かれている。第一領域1は楕円の面積全体の30~90%を占め、好ましくは40~80%を占め、より好ましくは55~70%を占める。第二領域2は楕円の面積全体の10~70%を占め、好ましくは20~60%を占め、より好ましくは30~45%を占める。
【0011】
第一領域1と第二領域2の境界線は一続きの曲線又は直線で表される。一例である外科用テープ10における前記境界線は、楕円の長軸上にある2つの焦点を結ぶ直線(不図示)に沿い、その直線と交差しない曲線である。第一領域1の面積s1が第二領域2の面積s2よりも大きい場合、境界線は楕円の2つの焦点よりも第二領域側にあることが好ましい。
【0012】
第一領域1及び第二領域2はそれぞれ前記楕円形の周を構成する。第一領域1の外部に面する周の長さと第二領域2の外部に面する周の長さの和は前記楕円形の周の長さに等しい。本実施形態の外科用テープ10において、第一領域1及び第二領域2の両方が外部に面する周を有し、何れか一方の領域が他方の領域に囲まれていることはない。
【0013】
前記楕円形の周のうち、第一領域1に属する周長L1と、第二領域2に属する周長L2とがL1>L2の関係を満たすことが好ましい。ここで、周長L1と周長L2の和は楕円の周の全長に等しい。この関係であると、図2~3に示すように、中央部aを保持し、中央部aから一端部bの任意の部位を指でつまみ、一端部bへ向けて矢印方向に扱いたときに、一端部bが一方向へ反り易くなる。この結果、手術者の操作性がより高まる。
【0014】
第一領域1及び第二領域2はそれぞれシリコーンゴムを含有する。第一領域1に含まれるX線造影剤の含有量c1と、第二領域2に含まれるX線造影剤の含有量c2とがc1<c2の関係を満たすことが好ましい。この関係であると、図2~3に示すように、中央部aを保持し、中央部aから一端部bの任意の部位を指でつまみ、一端部bへ向けて矢印方向に扱いたときに、一端部bが一方向へ反り易くなる。この結果、手術者の操作性がより高まる。
【0015】
第一領域1の総質量に対する、X線造影剤の含有量c1は、c1<c2の関係が成立する量であればよい。
第二領域2の総質量に対する、X線造影剤の含有量c2は、2~40質量%が好ましく、 5~30質量%がより好ましく、10~20質量%がさらに好ましい。
上記の好適な範囲であると、図2~3に示すように、扱いた一端部bが反り易くなり、手術者の操作性がより高まる。
【0016】
第一領域1及び第二領域2には同じX線造影剤が含まれてもよいし、異なるX線造影剤が含まれてもよい。X線造影剤としては、例えば、ヨウ素化合物、バリウム化合物、ガドリニウム化合物、酸化ビスマス、タングステン等の公知のものが適用される。なかでも、シリコーンゴムに分散させることが容易で、人体に対する影響も少なく、第一領域1及び第二領域2の貯蔵弾性率、損失弾性率及びtanδの調整を容易することも容易な、硫酸バリウムが好ましい。X線造影剤は、粉体として各領域において均一に分散されていることが好ましい。
【0017】
第一領域1の総質量に対する、第一領域1のシリコーンゴムの含有量は、X線造影剤の含有量c1<c2の関係が成立し、X線造影剤を除いた残部の量とすることができる。
第二領域2の総質量に対する、第二領域2のシリコーンゴムの含有量は、X線造影剤の含有量c1<c2の関係が成立し、X線造影剤を除いた残部の量とすることができ、例えば、30~90質量%が好ましく、40~80質量%がより好ましく、50~70質量%がさらに好ましい。
上記の好適な範囲であると、図2~3に示すように、扱いた一端部bが反り易くなり、手術者の操作性がより高まる。
【0018】
第一領域1及び第二領域2を形成するシリコーンゴムは同じであってもよいし、異なっていてもよい。
シリコーンゴムとしては、例えば、公知のものが適用される。X線造影剤を分散させることが容易で、人体に対する親和性が高く、第一領域1及び第二領域2の貯蔵弾性率、損失弾性率及びtanδの調整が容易なものが好ましい。
【0019】
外科用テープ10の第一領域1と第二領域2の弾性は互いに異なり、所定の温度及び周波数で測定したとき、次に説明する関係を有することが好ましい。これらの関係であると、図2~3に示すように、扱いた一端部bが反り易くなり、手術者の操作性がより高まる。
【0020】
第一領域1の貯蔵弾性率は第二領域2の貯蔵弾性率よりも大きいことが好ましい。
第一領域1の損失弾性率は第二領域2の損失弾性率よりも大きいことが好ましい。
第一領域1のtanδは第二領域2のtanδよりも小さいことが好ましい。
ここで、tanδは(損失弾性率/貯蔵弾性率)で表される比である。
【0021】
外科用テープ10の第一領域1と第二領域2の弾性に関する上記関係を調べる場合、外科用テープ10そのものを測定対象とすることが困難なことがある。この場合、
第一領域1を構成する第一材料からなる厚さ2mm±1mmの第一シートと、
第二領域2を構成する第二材料からなる厚さ2mm±1mmの第二シートと、
について、30℃、40Hzの条件にて、貯蔵弾性率、損失弾性率及びtanδをそれぞれ測定したとき、下記(1)~(3)のうち少なくとも1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つ全ての関係を満たすことが好ましい。
(1)前記第一シートの貯蔵弾性率>前記第二シートの貯蔵弾性率
(2)前記第一シートの損失弾性率>前記第二シートの損失弾性率
(3)前記第一シートのtanδ<前記第二シートのtanδ
【0022】
上記(1)~(3)の関係を満たすと、図2~3に示すように、中央部aを保持し、中央部aから一端部bの任意の部位を指でつまみ、一端部bへ向けて矢印方向に扱いたときに、一端部bが一方向へ反り易くなる。この結果、手術者の操作性がより高まる。
【0023】
外科用テープ10の製造方法は特に制限されず、例えば、第一領域1を構成する第一材料と、第二領域2を構成する第二材料とをそれぞれ準備し、公知の多色成型法を適用することにより製造することができる。なかでも、任意の長さで製造することが容易な押出成形が好ましい。外科用テープ10の断面の楕円形状はダイの形状によって調整することができる。
【0024】
前記第一材料及び前記第二材料は、シリコーンゴム及びX線造影剤を常法により混合して準備すればよい。これら材料の配合を上述の好ましい範囲に設定することにより、所望の弾性を備えた第一領域1及び第二領域2を形成することができる。
各材料には、酸化防止剤、着色剤等の任意成分が含まれていてもよい。
【実施例0025】
[第一シートの製造]
第一領域1を形成する第一材料として、各材料を下記の量で混合して準備した。
未加硫のシリコーンゴム(シリコーンゴム組成物)としてKE-561U(信越化学工業社製)100質量部に対し、加硫剤C-25A(信越化学工業社製)を0.5質量部、C-25B(信越化学工業社製)を2.0質量部加えて、2本ロールを用いてよく練った。
得られた未加硫状態のゴムコンパウンドを用い、Tダイ押し出し成形機によって、所定の厚さのシートを得た。これを200℃のオーブンに10分間投入し、HAV加硫を行い、目的の第一シート(厚さ2.0mm)を得た。
これを縦×横×厚さ=10mm×5mm×2.0mmのサイズに成形し、その弾性を試料に対して引っ張りの振動歪を与えた場合の応力や変位量をセンサリングする動的粘弾性測定の方法で、0~100℃の範囲で昇温速度5℃/minの条件で測定した。この際、動的粘弾性測定装置(株式会社ユービーエム、Rheogel-E4000)を用いた。この結果を図4に示す。
第一シート(厚さ2.0mm)の30℃、40Hzにおける貯蔵弾性率、損失弾性率及びtanδは、それぞれ8.2MPa、0.49MPa、0.06であった。
【0026】
[第二シートの製造]
上記の第一材料(未加硫のシリコーンゴム及び2種の加硫剤)に加えて、さらに硫酸バリウム12質量部を混合して、2本ロールでよく練り、第二領域2を形成する第二材料を得た。続いて、第一シートと同様の方法で第二シート(厚さ2.0mm)を得て、第一シートと同様にしてその弾性を測定した。この結果を図5に示す。
第二シート(厚さ2.0mm)の30℃、40Hzにおける貯蔵弾性率、損失弾性率及びtanδは、それぞれ0.37MPa、0.042MPa、0.11であった。
【0027】
[外科用テープの製造]
上記で準備した第一材料及び第二材料を用い、押出成形の方法で、外科用テープ10(長さを:10m)を製造した。その長手方向に直交する断面は楕円形であり、長軸:2.0mm、短軸:0.8mmであった。その断面の形状と各領域の範囲は図1に例示したものと概ね同じであった。
【0028】
製造した外科用テープ10の一方の端から10cmの箇所を一方の手でつまんで保持し、他方の手で一方の端へ向けて扱くと、図2~3に示すように、外科用テープ10の一端部bが反り上がり、その形状が維持された。保持した一方の手で操作し、約10cm離れたテープの先端を意図した位置へ運ぶことが容易であった。このようにして外科用テープ10の操作性が高いことを確認できた。
【符号の説明】
【0029】
10…外科用テープ、1…第一領域、2…第二領域
図1
図2
図3
図4
図5