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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177922
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】振動波モータ
(51)【国際特許分類】
   H02N 2/12 20060101AFI20241217BHJP
【FI】
H02N2/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096333
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】島田 亮
【テーマコード(参考)】
5H681
【Fターム(参考)】
5H681AA01
5H681AA19
5H681BB14
5H681BC01
5H681CC02
5H681DD23
5H681DD37
5H681DD39
5H681DD53
5H681DD65
5H681DD66
5H681DD74
5H681DD85
5H681DD92
5H681EE12
5H681FF02
5H681FF08
5H681GG42
(57)【要約】
【課題】容量が小さく且つ駆動力の大きい振動波モータを提供する。
【解決手段】振動波モータは、第1の弾性体1及び第2の弾性体2と、第1の弾性体1と第2の弾性体2との間に配置された電気-機械エネルギー変換素子3とを有する振動体15と、振動体15の振動により振動体15に対して相対的に移動する移動体16とを備えており、第1の弾性体1と電気-機械エネルギー変換素子3との接触面の外径は、第1の弾性体1と移動体16との摺動面の径よりも小さく、接触面の内径は、第1の弾性体1の内径及び電気-機械エネルギー変換素子3の内径よりも大きく、電気-機械エネルギー変換素子3の内部電極3-3の内径は、接触面の内径の±30%以内とされている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の弾性体及び第2の弾性体と、
前記第1の弾性体と前記第2の弾性体との間に配置された電気-機械エネルギー変換素子と、
を有する振動体と、
前記振動体の振動により前記振動体に対して相対的に移動する移動体と、
を備え、
前記第1の弾性体と前記電気-機械エネルギー変換素子との接触面の外径は、前記第1の弾性体と前記移動体との摺動面の径よりも小さく、
前記接触面の内径は、前記第1の弾性体の内径及び前記電気-機械エネルギー変換素子の内径よりも大きく、
前記電気-機械エネルギー変換素子の内部電極の内径は、前記接触面の内径の±30%以内である、
ことを特徴とする振動波モータ。
【請求項2】
前記内部電極の内径は、前記接触面の内径の±10%以内である、
請求項1に記載の振動波モータ。
【請求項3】
前記内部電極の内径は、前記接触面の内径と一致する、
請求項1に記載の振動波モータ。
【請求項4】
前記第1の弾性体は凸部を有しており、
前記接触面は、前記凸部と前記電気-機械エネルギー変換素子との接触部位である、
請求項1に記載の振動波モータ。
【請求項5】
前記電気-機械エネルギー変換素子は、前記内部電極に形成された貫通電極を有しており、
前記貫通電極は、前記内部電極の内縁よりも内側にある、
請求項1に記載の振動波モータ。
【請求項6】
前記電気-機械エネルギー変換素子は、前記内部電極と圧電体とが交互に積層された積層圧電素子であり、
前記貫通電極は、上下の層の前記内部電極を電気的に接続する、
請求項5に記載の振動波モータ。
【請求項7】
前記内部電極は、活性領域において内縁の一部に外縁に向かって凹部が形成された幅狭部を有する、
請求項1に記載の振動波モータ。
【請求項8】
レンズと、
前記レンズを駆動する請求項1~7のいずれか1項に記載の振動波モータと、
を備えた光学機器。
【請求項9】
部材と、
前記部材を駆動する請求項1~7のいずれか1項に記載の振動波モータと、
を備えた電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動波モータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電素子等の電気-機械エネルギー変換素子を用いた振動波モータとして、種々な構成のものが知られている。例えば、特許文献1や特許文献2のように、圧電素子をステンレス等の弾性体で挟持して構成するランジュバン型振動子に移動体であるロータを加圧接触させて駆動する振動波モータがある。この駆動原理は、圧電素子に所定の交流電圧(駆動電圧)を印加することによって、振動子に直交する2つの曲げ振動を発生させことで、弾性体表面に楕円運動又は円運動を起こし、摩擦力により移動体を回転運動させるというものである。
【0003】
特に最近では、単一の板状の圧電素子だけでなく、複数の圧電層と電極層とを交互に重ねて積層化し、一体焼成した積層圧電素子や単一板状に焼成した圧電素子を積み重ねて接着した素子が用いられている。これは、積層化によって、単一の板状の圧電素子と比べて低電圧で大きな変位や大きな力が得られるためである。とりわけ、小型化や薄層化には一体焼成した積層圧電素子が適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3526298号公報
【特許文献2】特開2014-54033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの振動波モータをカメラ等のバッテリーで駆動する携帯機器に適用する場合、バッテリーの消費を最小限にするために省電力で駆動することが望まれている。
圧電素子に印加される電圧が一定の場合、駆動回路の消費電力は容量の2乗に比例するため、容量の低減することで電力消費を抑えることが可能となる。この容量を減らすためには、電極面積を減少させる方法、或いは電極間の距離(厚み)を増加させる方法があるが、厚みを増加させると当然ながらモータサイズが大きくなってしまう。一方、単純に容量を減らすために電極面積を減少させると、モータサイズは大きくならないが、駆動に必要な力まで減少してしまう。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、容量が小さく且つ駆動力の大きい振動波モータを提供することを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の振動波モータは、第1の弾性体及び第2の弾性体と、前記第1の弾性体と前記第2の弾性体との間に配置された電気-機械エネルギー変換素子と、を有する振動体と、前記振動体の振動により前記振動体に対して相対的に移動する移動体と、を備え、前記第1の弾性体と前記電気-機械エネルギー変換素子との接触面の外径は、前記第1の弾性体と前記移動体との摺動面の径よりも小さく、前記接触面の内径は、前記第1の弾性体の内径及び前記電気-機械エネルギー変換素子の内径よりも大きく、前記電気-機械エネルギー変換素子の内部電極の内径は、前記接触面の内径の±30%以内である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、容量が小さく且つ駆動力の大きい振動波モータが実現する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施形態に係る振動波モータを分解して示す斜視図である。
図2】第1の実施形態に係る振動波モータを示す断面図である。
図3】第1の実施形態に係る振動波モータの振動モードを示す斜視図である。
図4】第1の実施形態に係る振動波モータにおける積層圧電素子の電極層を示す断面図である。
図5】内部電極の内径と力係数及び電極面積との関係を表した特性図である。
図6】第1の実施形態に係る振動波モータにおいてd2=d1の場合と、比較例としてd2=2.5mmの場合とにおける、振動波モータの回転数と電力との関係を表す特性図である。
図7】第2の実施形態に係る撮像装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の諸実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明において、複数の図面に亘って共通する構成部材については共通の符号を付している。そのため、複数の図面を相互に参照して共通する構成部材を説明し、共通の符号を付した構成部材については適宜説明を省略する。
【0011】
[第1の実施形態]
以下、第1の実施形態について説明する。
図1は、第1の実施形態に係る振動波モータを分解して示す斜視図である。図2は、第1の実施形態に係る振動波モータを示す断面図である。図1及び図2を用いて、本実施形態に係る振動波モータの基本原理について説明する。
【0012】
1は第1の弾性体、2は第2の弾性体、3は電気-機械エネルギー変換素子である積層圧電素子、4はフレキシブルプリント基板、5シャフト、6はナットである。第1の弾性体1、第2の弾性体2、積層圧電素子3、及びフレキシブルプリント基板4は、シャフト5及びナット6によって、所定の挟持力が付与されるように締め付けられ、振動体である棒状の振動子15を構成している。
【0013】
積層圧電素子3には、それぞれが2つの電極からなる電極群(A相とB相)が含まれる。不図示の電源から、フレキシブルプリント基板4を介して、それぞれの電極群に位相の異なる交流電圧が印加されると、振動子15に、直交する2つの曲げ振動が励振される。その振動モードを図3に示す。図3において、(a)は、電圧を印加していない状態を表す振動モードを表している。(b)は、X方向(紙面左右方向)に曲がる振動モードを表している。(c)は、Y方向(紙面鉛直方向)に曲がる振動モードを表している。
【0014】
更に、印加交流電界の位相を調整することにより、軸方向廻りの空間的な位相が90°ずれたこれら2つの振動モードに、90°の時間的な位相差を与えることができる。その結果、振動子15の曲げ振動が軸周りに回転し、第1の弾性体1上には楕円運動が発生する。そして、第1の弾性体1に後述する接触部7を加圧接触させることにより、摩擦力で接触部7がZ軸周りに回転する。
【0015】
接触部7は、第1の弾性体1との接触面積が小さく、且つ適度なバネ性を有する構造となっている。接触部7の材料は耐摩耗性や強度、耐食性を兼ね備えたステンレス鋼が好ましく、より好ましい具体例としてはSUS420J2である。旋盤加工や3Dプリンタ等を用いて加工可能であるが、プレス加工が加工精度、コストの点で好ましい。接触部7は、樹脂接着剤による接着や半田等の金属ろう付け、レーザ溶接、抵抗溶接等の溶接、圧入や、かしめ等の機械的接合で、ロータ本環8に固定され、振動子15に対して相対的に移動する移動体16を構成する。
【0016】
ロータ本環8は、ゴム9を介して加圧バネ10で加圧されている。このように加圧されることにより、接触部7と第1の弾性体1との間に摩擦力が生まれ、上述した楕円運動によって接触部7を駆動させることができる。なお、ゴム9は加圧力を均一化しつつ、バネ9及びロータ本環8の不要な振動を減衰する働きをしている。
【0017】
ロータ本環8の上部には、外部への出力伝達を担うギア11が設けられ、またロータ本環8の上面には凹部が形成され、ギア11に形成された凸部と係合している。上述のように、第1の弾性体1上の楕円運動と摩擦力により、接触部7がZ軸周りに回転する。これにより、接触部7に固定されたロータ本環8、ロータ本環8と係合しているギア11、及びそれらに挟まれた加圧バネ10、ゴム9が一体となってZ軸周りに回転し、ギア11が外部に出力を伝達する。なお、ギア11は、加圧を受けつつフランジキャップ12と摺動するため、強度と耐摩耗性を満たす材料が好ましく、コストと静音性を加味すると強化繊維入りの樹脂が最も好ましい。
【0018】
振動子15は、シャフト5とナット14によって固定部材であるフランジ13に固定される。ギア11とフランジ13との間には、加圧受け部材であるフランジキャップ12が設けられている。フランジキャップ12は、フランジ13に対して接着剤等で固定してもよい。フランジキャップ12の材料は、耐摩耗性がある材料が好ましい。ステンレスのプレス加工であると寸法精度も良く、生産性も良いのでより好ましい。また、フランジ13は複雑な形状のため、樹脂成型や亜鉛ダイキャスト、アルミダイキャスト、または金属焼結で構成する。本実施形態では、寸法精度・コストのバランスに優れた亜鉛ダイキャストを用いている。ギア11とフランジキャップ12とが軸方向に摺動、ギア11とフランジ13とが径方向に摺動する滑り軸受の役目を果たしている。
【0019】
図4は、本実施形態の振動波モータにおける積層圧電素子の電極層を示す断面図である。
積層圧電素子3は、分極された圧電体である活性層と内部電極3-3を有する電極層とがZ方向に交互に積層され、最下面及び最上面には分極されていない圧電体である不活性層が設けられている。内部電極3-3は、例えば複数、図4では4つに分割されており、内部電極3-3に覆われていない部分は不活性部3-2となっている。上下の内部電極3-3は、貫通電極(スルーホール電極)3-4によって導通されている。具体的には、図4で内部電極3-3に設けられているスルーホール電極3-4は、活性層を介して隣り合う電極層の不活性部3-2、活性層を介して隣り合う電極層の内部電極3-3等を順次通り、これらの内部電極3-3を電気的に接続している。図4で不活性部3-2に設けられているスルーホール電極3-4は、活性層を介して隣り合う電極層の内部電極3-3、活性層を介して隣り合う電極層の不活性部3-2等を順次通り、これらの内部電極3-3を電気的に接続している。
【0020】
活性層は、製造時に内部電極3-3に直流電圧を印加することにより分極され、駆動時には内部電極3-3に交流電圧を印加することで逆圧電効果によりZ方向に伸縮し、前述の振動を励振する。
【0021】
積層圧電素子3を製造するには、まず圧電材料と有機バインダから、ドクターブレード法により圧電層となるグリーンシートを作製し、このグリーンシート上の所定位置にスクリーン印刷によって電極材料のペーストからなる内部電極3―3を形成する。そして、このグリーンシートを所定の枚数平面状に重ね、加圧して積層化し、圧電層と電極層を一体化焼成した後、分極処理を行い、両面ラップ加工により仕上げる。
【0022】
なお、本実施形態では、積層された圧電素子を用いているが、圧電体の表裏に一対の電極が形成された単板の圧電素子を用いても構わない。また、本実施形態の積層圧電素子3の形状は直方体であるが、例えば円筒形状でもよい。
【0023】
ここで、図2に示すように、第1の弾性体1と積層圧電素子3との接触面の内径をd1、外径をD1とする。第1の弾性体1は、表面に環状の凸部1aを有しており、凸部1aで積層圧電素子3と接触している。凸部1aの外径、即ち第1の弾性体1と積層圧電素子3との接触面の外径D1は、第1の弾性体1と移動体16との摺動面の径(摺動径)よりも小さい。凸部1aの内径、即ち第1の弾性体1と積層圧電素子3との接触面の内径d1は、第1の弾性体1の内径(第1の弾性体1に形成されたシャフト5の挿通口の径)及び積層圧電素子3の内径(積層圧電素子3に形成されたシャフト5の挿通口の径)よりも大きい。このように、第1の弾性体1と積層圧電素子3とは全面で接触しておらず、内径、外径でそれぞれ逃げている構成となっている。これにより、第1の弾性体1と第2の弾性体2とで積層圧電素子3を挟持したときに、積層圧電素子3との接触部位となる凸部1aにおける内縁から外縁まで確実に積層圧電素子3と密着させることが可能となる。
【0024】
振動波モータを駆動する駆動型駆動装置において、トランス回路の1次側の熱損失Pは1次側の電流I1の2乗に比例し、以下の式で表すことができる。
P∝(I12 ・・・式(1)
また、印加電圧をV、静電容量をC、としたとき、上記の式は以下に変換できる。
1∝(C×V) ・・・式(2)
P∝(C×V)2 ・・・式(3)
【0025】
印加電圧が一定の場合、容量が小さいほど熱損失を低減することが可能となる。容量を減らすためには、電極面積を減少させるか、活性層の厚みを増加させることが必要になるが、活性厚みを増加させると振動波モータの全長が増加してしまう。その一方で、単純に電極面積を減少させると発生できる力が低下するので、それを補うために印加電圧を増加させる必要がある。例えば電極面積が半分となった場合、容量が半分(C÷2)となるが、発生する力も半分となり、2倍の電圧(2×V)が必要となる。これを式(3)に当てはめると、熱損失Pは変わらない値となる。
【0026】
本実施形態では、容量が小さく且つ駆動力の大きい振動波モータを実現すべく、力係数の低下を抑えつつ電気-機械エネルギー変換素子の内部電極の内径を拡大して電極面積を縮小することに想到した。以下、この点について説明する。
図4に示すように、内部電極3-3の内径をd2、外径をD2とする。図5は、内径d2と力係数及び電極面積との関係を表した特性図である。力係数とは、振動子が発生する印加電圧あたりの力であり、この値が大きいほど、一定電圧での発生する力が大きいことになる。図5では、内部電極3-3の外径を固定し、d2がφ2.5mmの場合の力係数及び電極面積の各値を1に正規化して示している。
【0027】
先ず、電極面積は当然ながら、内部電極の内径d2を大きくするとそれに比例して低下していく。容量は電極面積に比例するので、容量も同じ割合で低下する。一方、力係数に関しては、φ2.5mmからd1(φ3.7mm程度)までは低下の割合が電極面積よりも小さく、d1よりも大きい領域では電極面積よりも低下の割合が大きくなっている。即ち、内部電極3-3の内径d2を、第1の弾性体1と圧電素子3との接触面の内径d1に近づけるほど(d1とd2の差分の絶対値(|d1-d2|が小さくなるほど)力係数と電極面積との差が漸増してゆく。そして、内径d1と内径d2を一致させることで、力係数と電極面積との差を最も大きくすることができる。この状態では、印加電圧を大きく上げることなく、容量を低下させることができるので、回路損失を大きく低下させることが可能となる。
【0028】
本実施形態では、上記の知見に基づき、電気-機械エネルギー変換素子の内部電極の内径d2を、第1の弾性体1と積層圧電素子3との接触面の内径d1に近づける。具体的には、内径d2を、内径d1との差が±30%以内となる(換言すれば、(|d1-d2|/d1)×100≦30(%)となる)ように決定する。d1とd2との差が±30%以内であれば、十分な回路損失の低下が得られると評価することができる。
【0029】
ここで、内径d2を内径d1に近づけるほど、力係数と電極面積との差が漸増する関係にあることから、内径d1と内径d2との差を更に絞り込むことが考えられる。例えば、内径d2を、内径d1との差が更に狭い範囲、例えば±10%以内となる(換言すれば、(|d1-d2|/d1)×100≦10(%)となる)ように決定することが好ましい。これにより、回路損失の更なる低下の効果が得られる。更には、内径d2を内径d1と一致させる(d2=d1)ことにより、力係数と電極面積との差が最大となり、回路損失を最も低下させることができる。
【0030】
内径d1よりも内径側、即ち第1の弾性体1と積層圧電素子3とが接触していない部分は、積層圧電素子3のZ方向の歪が小さく、力の発生に寄与しておらず、有効に加振することができない部分である。上記のような電極面積と力係数との間の変化率の差は、内部電極の当該部分を削減しても力係数の低下が小さいことに起因して生じている。
【0031】
図6は、本実施形態の振動波モータにおいてd2=d1の場合と、比較例としてd2=2.5mmの場合とにおける、振動波モータの回転数と電力との関係を表す特性図である。
本実施形態では、比較例に比べて容量が低減しているため、回転数の全領域で電力が低下していることが判る。特に低速側では多くの電流が駆動回路に流れる傾向にあるために電力の低下が著しく大きくなる効果が得られる。
【0032】
本実施形態の振動波モータにおいては、電気-機械エネルギー変換素子の内部電極の内径を拡大して電極面積を縮小する。図4に示すように、内部電極3-3の内径d1を拡大することにより、内部電極3-3の内縁(内径をなす縁部分)には、スルーホール電極3-4の形成部分を残して、内部電極3-3の活性領域(活性部)において凹部3-3aが形成された状態となる。凹部3-3aは、内部電極3-3の内縁の一部における外縁(外径をなす縁部分)に向かって窪んだ部位である。活性領域には、凹部3-3aにより、内径d2の拡大量に応じた幅狭部位が形成される。この幅狭部位において内部電極3-3の内径及び外径が規定されるところ、スルーホール電極3-4は内部電極3-3の内縁よりも内側にある不活性部3-2に位置することになる。
【0033】
このように、本実施形態の振動波モータでは、スルーホール電極3-4が内縁よりも内側に位置する程度に内部電極3-3の内径が拡大されて電極面積が縮小されて、力係数と電極面積との差が大きく規定されている。この場合、印加電圧を大きく上げることなく、容量を低下させることができるので、回路損失を大きく低下させることが可能となる。
また、スルーホール電極3-4とその周辺部は分極できない不活性部となるため、スルーホール電極3-4を不活性部3-2に配置することは、空いたスペースの有効活用に寄与することにもなる。
【0034】
ここで、第2の弾性体2と積層圧電素子3との接触面の内径は、スルーホール電極3-3よりも内径側にある。これにより、スルーホール電極3-4をフレキシブルプリント基板4に確実に接触させることができる。
【0035】
以上説明したように、本実施形態によれば、力係数の低下を抑えつつ電気-機械エネルギー変換素子の内部電極の内径を適宜拡大して電極面積を縮小することにより、容量が小さく且つ駆動力の大きい振動波モータが実現する。この振動波モータにより、製造原価を低減しつつ、効率の良い駆動が可能となる。
【0036】
[第2の実施形態]
以下、第2の実施形態について説明する。
振動波モータは、光学機器や電子機器、例えば撮像装置の部材であるレンズの駆動用途等に用いることができる。そこで本実施形態では、一例として、レンズ鏡筒に配置されたレンズの駆動に第1の実施形態で開示した振動波モータを用いた撮像装置について説明する。
【0037】
図7は、第2の実施形態に係る撮像装置を示す図であり、(a)が撮像装置の概略構成を示す上面図、(b)が撮像装置の機能構成を説明するためのブロック図である。
図7(a)に示すように、撮像装置700は、撮像素子710及び電源ボタン720を搭載したカメラ本体730を備える。また、撮像装置700は、第1レンズ群(不図示)、第2レンズ群320、第3レンズ群(不図示)、第4レンズ群340、振動型駆動装置620,640を有するレンズ鏡筒740を備える。レンズ鏡筒740は、交換レンズとして取り換え可能であり、撮影対象に合わせて適したレンズ鏡筒740をカメラ本体730に取り付けることができる。撮像装置700では、2つの振動型駆動装置620,640によってそれぞれ、第2レンズ群320,第4レンズ群340の駆動が行われる。
【0038】
振動型駆動装置620の詳細な構成は不図示であるが、振動型駆動装置620は、第1の実施形態で開示した振動波モータと、この振動波モータの駆動回路とを有する。接触部7とロータ本環8で構成される移動体16であるロータは、ラジアル方向が光軸と略直交するように、レンズ鏡筒740内に配置される。振動型駆動装置620では、ロータを光軸回りに回転させ、不図示のギア等を介して接触体の回転出力を光軸方向での直進運動に変換することによって、第2レンズ群320を光軸方向に移動させる。振動型駆動装置640は、振動型駆動装置620と同様の構成を有することにより、第4レンズ群340を光軸方向に移動させる。
【0039】
図7(b)に示すように、第1レンズ群3a0、第2レンズ群320、第3レンズ群330、第4レンズ群340及び光量調節ユニット350が、レンズ鏡筒740内部の光軸上の所定位置に配置される。第1レンズ群3a0~第4レンズ群340と光量調節ユニット350とを通過した光は、撮像素子710に結像する。撮像素子710は、光学像を電気信号に変換して出力し、その出力は、カメラ処理回路750へ送られる。
【0040】
カメラ処理回路750は、撮像素子710からの出力信号に対して増幅やガンマ補正等を施す。カメラ処理回路750は、AEゲート755を介してCPU790に接続されると共に、AFゲート760とAF信号処理回路765とを介してCPU790に接続されている。カメラ処理回路750において所定の処理が施された映像信号は、AEゲート755と、AFゲート760及びAF信号処理回路765を通じてCPU790へ送られる。なお、AF信号処理回路765は、映像信号の高周波成分を抽出して、オートフォーカス(AF)のための評価値信号を生成し、生成した評価値をCPU790へ供給する。
【0041】
CPU790は、撮像装置700の全体的な動作を制御する制御回路であり、取得した映像信号から、露出決定やピント合わせのための制御信号を生成する。CPU790は、決定した露出と適切なフォーカス状態が得られるように、振動型駆動装置620,640及びメータ630の駆動を制御することによって、第2レンズ群320、第4レンズ群340及び光量調節ユニット350の光軸方向位置を調整する。CPU790による制御下において、振動型駆動装置620は第2レンズ群320を光軸方向に移動させ、振動型駆動装置640は第4レンズ群340を光軸方向に移動させ、光量調節ユニット350はメータ630により駆動制御される。
【0042】
振動型駆動装置620により駆動される第2レンズ群320の光軸方向位置は第1リニアエンコーダ770により検出され、検出結果がCPU790に通知されることで、振動型駆動装置620の駆動にフィードバックされる。同様に、振動型駆動装置640により駆動される第4レンズ群340の光軸方向位置は第2リニアエンコーダ775により検出され、検出結果がCPU790に通知されることで、振動型駆動装置640の駆動にフィードバックされる。光量調節ユニット350の光軸方向位置は、絞りエンコーダ780により検出され、検出結果がCPU790へ通知されることで、メータ630の駆動にフィードバックされる。
【0043】
本実施形態によれば、容量が小さく且つ駆動力の大きい振動波モータを備えた撮像装置が実現する。第1の実施形態に係る振動波モータは、撮像装置以外にも、振動波モータによる駆動対象として様々な部材に適用することが可能であり、各種の光学機器や電子機器に好適に適用することができる。
【0044】
本実施形態の開示は、以下の構成を含む。
(構成1)
第1の弾性体及び第2の弾性体と、
前記第1の弾性体と前記第2の弾性体との間に配置された電気-機械エネルギー変換素子と、
を有する振動体と、
前記振動体の振動により前記振動体に対して相対的に移動する移動体と、
を備え、
前記第1の弾性体と前記電気-機械エネルギー変換素子との接触面の外径は、前記第1の弾性体と前記移動体との摺動面の径よりも小さく、
前記接触面の内径は、前記第1の弾性体の内径及び前記電気-機械エネルギー変換素子の内径よりも大きく、
前記電気-機械エネルギー変換素子の内部電極の内径は、前記接触面の内径の±30%以内である、
ことを特徴とする振動波モータ。
(構成2)
前記内部電極の内径は、前記接触面の内径の±10%以内である、
構成1に記載の振動波モータ。
(構成3)
前記内部電極の内径は、前記接触面の内径と一致する、
構成1に記載の振動波モータ。
(構成4)
前記第1の弾性体は凸部を有しており、
前記接触面は、前記凸部と前記電気-機械エネルギー変換素子との接触部位である、
構成1に記載の振動波モータ。
(構成5)
前記電気-機械エネルギー変換素子は、前記内部電極に形成された貫通電極を有しており、
前記貫通電極は、前記内部電極の内縁よりも内側にある、
構成1~4のいずれか1項に記載の振動波モータ。
(構成6)
前記電気-機械エネルギー変換素子は、前記内部電極と圧電体とが交互に積層された積層圧電素子であり、
前記貫通電極は、上下の層の前記内部電極を電気的に接続する、
構成5に記載の振動波モータ。
(構成7)
前記内部電極は、活性領域において内縁の一部に外縁に向かって凹部が形成された幅狭部を有する、構成1~6のいずれか1項に記載の振動波モータ。
(構成8)
第1の弾性体及び第2の弾性体と、
前記第1の弾性体と前記第2の弾性体との間に配置された電気-機械エネルギー変換素子と、
を有する振動体と、
前記振動体の振動により前記振動体に対して相対的に移動する移動体と、
を備え、
前記電気-機械エネルギー変換素子は、前記内部電極に形成された貫通電極を有しており、
前記貫通電極は、前記内部電極の内縁よりも内側にある、
ことを特徴とする振動波モータ。
(構成9)
前記内部電極は、活性領域において内縁の一部に外縁に向かって凹部が形成された幅狭部を有する、
構成8に記載の振動波モータ。
(構成10)
レンズと、
前記レンズを駆動する構成1~9のいずれか1項に記載の振動波モータと、
を備えた光学機器。
(構成11)
部材と、
前記部材を駆動する構成1~9のいずれか1項に記載の振動波モータと、
を備えた電子機器。
【符号の説明】
【0045】
1:第1の弾性体
2:第2の弾性体
3:積層圧電素子
3-2:不活性部
3-3:内部電極
3-3a:凹部
3-4:スルーホール電極
4:フレキシブルプリント基板
5:シャフト
6:ナット
7:接触部
8:ロータ本環
9:ゴム
10:加圧バネ
11:ギア
12:フランジキャップ
13:フランジ
14:上ナット
15:振動子
16:移動体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7