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特開2024-1779264-ヒドロキシ安息香酸組成物およびポリマー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177926
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】4-ヒドロキシ安息香酸組成物およびポリマー
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/42 20060101AFI20241217BHJP
   C08G 63/60 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C12P7/42
C08G63/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096338
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】510242668
【氏名又は名称】グリーンケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】村田 隆一
(72)【発明者】
【氏名】井上 雄介
(72)【発明者】
【氏名】橘 賢也
(72)【発明者】
【氏名】藤原 大輔
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 正義
(72)【発明者】
【氏名】乾 将行
(72)【発明者】
【氏名】平賀 和三
(72)【発明者】
【氏名】北出 幸広
(72)【発明者】
【氏名】須田 雅子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 龍馬
【テーマコード(参考)】
4B064
4J029
【Fターム(参考)】
4B064AD56
4B064AD57
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA16
4J029AA06
4J029AD09
4J029AE02
4J029AE15
4J029AE18
4J029BB10A
4J029CB06A
4J029EB05A
4J029HA01
4J029HB01
4J029KC06
4J029KD02
4J029KE03
4J029KE08
4J029KE12
4J029KE15
4J029KF04
(57)【要約】
【課題】環境適合性と重合性のバランスが向上した4-ヒドロキシ安息香酸組成物およびポリマーを提供する。
【解決手段】ASTM D6866-20に基づいて測定される、1950年代の循環炭素中の放射性炭素の濃度を基準として求まるバイオマス資源由来の放射性炭素14Cの割合を示す実測バイオ化率が、80%以上100%以下である4-ヒドロキシ安息香酸(A)を少なくとも含み、4-ヒドロキシ安息香酸組成物全体を100質量%としたとき、シキミ酸の含有量が0.012質量%以下である、4-ヒドロキシ安息香酸組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ASTM D6866-20に基づいて測定される、1950年代の循環炭素中の放射性炭素の濃度を基準として求まるバイオマス資源由来の放射性炭素14Cの割合を示す実測バイオ化率が、80%以上100%以下である4-ヒドロキシ安息香酸(A)を少なくとも含み、
シキミ酸の含有量が、4-ヒドロキシ安息香酸組成物全体を100質量%としたとき、0.012質量%以下である、4-ヒドロキシ安息香酸組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の4-ヒドロキシ安息香酸組成物において、
前記4-ヒドロキシ安息香酸(A)の含有量が、前記4-ヒドロキシ安息香酸組成物全体を100質量%としたとき、95質量%以上100質量%以下である、4-ヒドロキシ安息香酸組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の4-ヒドロキシ安息香酸組成物において、
前記4-ヒドロキシ安息香酸(A)の前記実測バイオ化率が95%以上100%以下である、4-ヒドロキシ安息香酸組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の4-ヒドロキシ安息香酸組成物において、
前記シキミ酸の含有量が、前記4-ヒドロキシ安息香酸組成物全体を100質量%としたとき、0.008質量%以下である、4-ヒドロキシ安息香酸組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の4-ヒドロキシ安息香酸組成物において、
前記4-ヒドロキシ安息香酸(A)は、形質転換体HBA-2(受託番号:NITE BP-01838)および形質転換体HBA-47(受託番号:NITE BP-01849)から選択される1つまたは2つの形質転換体の生成物を少なくとも含む、4-ヒドロキシ安息香酸組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載の4-ヒドロキシ安息香酸組成物由来の前記4-ヒドロキシ安息香酸(A)の構造を少なくとも含む、ポリマー。
【請求項7】
液晶ポリマーである、請求項6に記載のポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4-ヒドロキシ安息香酸組成物およびポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化や化石資源の枯渇問題を背景に、再生可能なバイオマス資源を原料とした化学品の製造は、低炭素社会の実現に向けた新しい産業として注目されている。
【0003】
4-ヒドロキシ安息香酸(4-HBA)は、液晶のポリマー原料や、防腐剤であるパラベンの合成原料等に利用されている有用な化学物質である。
現在、4-ヒドロキシ安息香酸は、原油を原料として化学的に生産されている。化学的な4-ヒドロキシ安息香酸の製造方法は、たとえばフェノールと水酸化カリウムと二酸化炭素を用いて高圧条件下で反応させる方法などがある。
【0004】
しかし、こうした方法では、原料とするフェノールが化石原料に依存しているだけでなく、反応プロセス中で強アルカリや二酸化炭素、高温高圧条件を必要としており、製造過程において生じる有害な廃液・排ガスが生じるなど、環境に多大な負荷を与えている。
このような背景を踏まえ、そのため、再生可能資源を原料として、省エネルギー、且つ、有害廃液を削減した、環境調和型のバイオ法による4-ヒドロキシ安息香酸の製造技術の確立が強く望まれている。
【0005】
たとえば、非特許文献1,2および特許文献1,2には、4-HBAは、芳香族アミノ酸などの合成に関わるシキミ酸経路の中間体であるコリスミ酸からubiCによってコードされるコリスメート-ピルベート リアーゼによって合成されることが大腸菌を用いて明らかにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Bacteriol., 174, 5309-5316 (1992)
【非特許文献2】Microbiology, 140, 897-904 (1994)
【特許文献1】米国特許6030819号
【特許文献2】米国特許6114157号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らの検討によれば、上記のようなバイオマス由来の4-ヒドロキシ安息香酸を下流製品である樹脂の重合に用いた場合、重合性に改善の余地があることが明らかになった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、環境適合性と重合性のバランスが向上した4-ヒドロキシ安息香酸組成物およびポリマーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を重ねた。その結果、4-ヒドロキシ安息香酸組成物中に含まれるシキミ酸を所定の濃度以下にすることにより、環境適合性と重合性のバランスが向上することを見出して、本発明を完成させた。
【0010】
[1]
ASTM D6866-20に基づいて測定される、1950年代の循環炭素中の放射性炭素の濃度を基準として求まるバイオマス資源由来の放射性炭素14Cの割合を示す実測バイオ化率が、80%以上100%以下である4-ヒドロキシ安息香酸(A)を少なくとも含み、
シキミ酸の含有量が、4-ヒドロキシ安息香酸組成物全体を100質量%としたとき、0.012質量%以下である、4-ヒドロキシ安息香酸組成物。
[2]
上記[1]に記載の4-ヒドロキシ安息香酸組成物において、
上記4-ヒドロキシ安息香酸(A)の含有量が、上記4-ヒドロキシ安息香酸組成物全体を100質量%としたとき、95質量%以上100質量%以下である、4-ヒドロキシ安息香酸組成物。
[3]
上記[1]または[2]に記載の4-ヒドロキシ安息香酸組成物において、
上記4-ヒドロキシ安息香酸(A)の上記実測バイオ化率が95%以上100%以下である、4-ヒドロキシ安息香酸組成物。
[4]
上記[1]~[3]のいずれかに記載の4-ヒドロキシ安息香酸組成物において、
上記シキミ酸の含有量が、上記4-ヒドロキシ安息香酸組成物全体を100質量%としたとき、0.008質量%以下である、4-ヒドロキシ安息香酸組成物。
[5]
上記[1]~[4]のいずれかに記載の4-ヒドロキシ安息香酸組成物において、
前記4-ヒドロキシ安息香酸(A)は、形質転換体HBA-2(受託番号:NITE BP-01838)および形質転換体HBA-47(受託番号:NITE BP-01849)から選択される1つまたは2つの形質転換体の生成物を少なくとも含む、4-ヒドロキシ安息香酸組成物。
[6]
上記[1]~[5]のいずれかに記載の4-ヒドロキシ安息香酸組成物由来の上記4-ヒドロキシ安息香酸(A)の構造を少なくとも含む、ポリマー。
[7]
液晶ポリマーである、上記[6]に記載のポリマー。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、環境適合性と重合性のバランスが向上した4-ヒドロキシ安息香酸組成物およびポリマーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
本明細書における「液晶ポリマー」という用語は、一般に、それがその溶融状態において液晶質の挙動(例えばサーモトロピックネマチック状態)を示すことを可能にする棒状の構造を有することができるポリマーを指す。
【0013】
[4-ヒドロキシ安息香酸組成物]
本実施形態の4-ヒドロキシ安息香酸組成物は、ASTM D6866-20に基づいて測定される、1950年代の循環炭素中の放射性炭素の濃度を基準として求まるバイオマス資源由来の放射性炭素14Cの割合を示す実測バイオ化率が、80%以上100%以下である4-ヒドロキシ安息香酸(A)を少なくとも含み、シキミ酸の含有量が、上記4-ヒドロキシ安息香酸組成物全体を100質量%としたとき、0.012質量%以下である。
【0014】
このような4-ヒドロキシ安息香酸組成物において、実測バイオ化率は、4-ヒドロキシ安息香酸(A)中に含まれる植物由来の炭素の量を示し、この値が大きいほど4-ヒドロキシ安息香酸組成物が自然由来の原料により構成されていることを表す。そのため、実測バイオ化率が大きいほど、カーボンニュートラルの観点から環境適合性が良好である。また、シキミ酸の含有量が0.012質量%以下であると、重合性がより好適となった4-ヒドロキシ安息香酸組成物を得ることができる。
【0015】
このような4-ヒドロキシ安息香酸組成物は、後述する製造方法によって、特に(i)原料化合物として特定の植物由来の原料を用いること、(ii)反応液に吸着材を添加させることによって不純物を除去すること、および(iii)回収時に純水にて洗浄を行うことによって作製することができる。
【0016】
本実施形態の4-ヒドロキシ安息香酸組成物中の4-ヒドロキシ安息香酸(A)において、ASTM D6866-20に基づいて測定される、1950年代の循環炭素中の放射性炭素の濃度を基準として求まるバイオマス資源由来の放射性炭素14Cの割合を示す上記実測バイオ化率は、80%以上100%以下であり、85%以上100%以下が好ましく、90%以上100%以下がより好ましく、95%以上100%以下がさらに好ましい。上記実測バイオ化率が上記数値範囲内であることにより、カーボンニュートラルの観点から環境適合性がより良好になる。
【0017】
このとき、4-ヒドロキシ安息香酸組成物中の4-ヒドロキシ安息香酸(A)の全炭素原子中における放射性炭素14Cの割合を示す実測バイオ化率は、米国試験材料協会(ASTM)が定めるバイオベース濃度試験規格ASTM D6866-20に基づいて試料中の放射性炭素14Cの含有量を測定し、その測定結果と、1950年時点の循環炭素中の放射性炭素14Cの濃度と、から算出される。なお、この試験規格には、複数の分析法が示されているが、このうち、分析法B(AMS法)が好ましく用いられる。分析法Bには、例えば、NEC社製、加速器質量分析装置ペレトロンAMS等の分析装置が用いられる。
【0018】
本実施形態の4-ヒドロキシ安息香酸組成物において、シキミ酸の含有量の上限値は、4-ヒドロキシ安息香酸組成物全体を100質量%としたとき、0.012質量%以下であり、0.008質量%以下が好ましく、0.006質量%以下がより好ましく、0.003質量%以下がさらに好ましく、0.001質量%以下がさらに好ましい。シキミ酸の含有量が上記上限値以下であることにより、本実施形態の4-ヒドロキシ安息香酸組成物の重合性がより好適となる。
また、シキミ酸の含有量の下限値は特に限定されないが、例えば0.000質量%以上である。このとき、0.000質量%というのは、シキミ酸の含有量が検出下限以下であり、定量によって検出できない場合も含む。
【0019】
本実施形態の4-ヒドロキシ安息香酸組成物において、上記4-ヒドロキシ安息香酸(A)の含有量は、4-ヒドロキシ安息香酸組成物全体を100質量%としたとき、95質量%以上100質量%以下が好ましく、96質量%以上100質量%以下がより好ましく、97質量%以上100質量%以下がさらに好ましく、98質量%以上100質量%以下がさらに好ましく、99質量%以上100質量%以下がさらに好ましい。上記4-ヒドロキシ安息香酸(A)の含有量が上記数値範囲内であることにより、カーボンニュートラルの観点から環境適合性がより良好になることに加え、本実施形態の4-ヒドロキシ安息香酸組成物の重合性がより好適となる。
なお、上記4-ヒドロキシ安息香酸(A)の含有量が100質量%であるときは、上述したシキミ酸の含有量および後述するその他の成分の含有量は0.000質量%である。このとき、シキミ酸およびその他の成分の含有量が検出下限以下であり、定量によって検出できない場合も含む。
【0020】
本実施形態の4-ヒドロキシ安息香酸組成物において、上記4-ヒドロキシ安息香酸(A)は、形質転換体HBA-2(受託番号:NITE BP-01838)および形質転換体HBA-47(受託番号:NITE BP-01849)から選択される1つまたは2つの形質転換体の生成物を少なくとも含むことが好ましい。上記4-ヒドロキシ安息香酸(A)が上記生成物を少なくとも含むことにより、カーボンニュートラルの観点から環境適合性がより良好になることに加え、本実施形態の4-ヒドロキシ安息香酸組成物の重合性がより好適となる。
【0021】
本実施形態の4-ヒドロキシ安息香酸組成物において、4-ヒドロキシ安息香酸(A)が形質転換体HBA-2および形質転換体HBA-47から選択される1つまたは2つ以上の形質転換体の生成物を少なくとも含むことにより、重合性がより好適となる理由としては、重合性に悪影響を及ぼし得る極微量の成分の存在が比較的低く抑えられているからだと推測される。
ここで、形質転換体由来の極微量の成分は極めて多数にのぼり、かつ、上記極微量の成分の含有量は検出限界未満であり分析することができない。そのため、本実施形態の4-ヒドロキシ安息香酸組成物において、4-ヒドロキシ安息香酸(A)が形質転換体HBA-2および形質転換体HBA-47から選択される1つまたは2つ以上の形質転換体の生成物を少なくとも含む態様は、本態様の特徴部分を物の構造又は特性により直接特定することは不可能であり、およそ実際的ではないといえ、いわゆる「不可能・非実際的事情」が存在すると考えられる。
【0022】
(その他の成分)
本実施形態の4-ヒドロキシ安息香酸組成物において、環境適合性と重合性のバランスを低下させない範囲であれば、上述した成分以外のその他の成分を含んでもよい。
その他の成分としては、以下の化合物からなる群から選択される一種又は二種以上が挙げられる。
フルクトース、マンノース、アラビノース、キシロース、ガラクトースなどの単糖類;セロビオース、ショ糖、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース、キシロビオースなどの二糖類;デキストリン又は可溶性澱粉などの多糖類などの糖類等。
マンニトール、ソルビトール、キシリトール、グリセリンのような糖アルコール;酢酸、クエン酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、グルコン酸のような有機酸;エタノール、プロパノールのようなアルコール;ノルマルパラフィンのような炭化水素等。
塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、酢酸アンモニウムのような無機又は有機アンモニウム化合物、尿素、アンモニア水、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、コーンスティープリカー、肉エキス、ペプトン、NZ-アミン、蛋白質加水分解物、アミノ酸等の含窒素有機化合物等。
リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硝酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸コバルト、炭酸カルシウム等。
【0023】
本実施形態の4-ヒドロキシ安息香酸組成物において、その他の上記成分の含有量は、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましく、2質量%以下がさらに好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。その他の上記成分の含有量が上記上限値以下であることにより、本実施形態の4-ヒドロキシ安息香酸組成物の重合性がより好適となる。
また、その他の上記成分の含有量の下限値は特に限定されないが、例えば0.000質量%以上である。このとき、0.000質量%というのは、その他の上記成分の含有量が検出下限以下であり、定量によって検出できない場合も含む。
なお、本実施形態の4-ヒドロキシ安息香酸組成物において、その他の上記成分を複数含む場合は、その他の上記成分を合計した含有量が上記上限値以下および上記下限値以上であればよい。
【0024】
このようなシキミ酸、4-ヒドロキシ安息香酸(A)およびその他の成分の含有量を定量する方法としては、例えば、UV検出器を備えた高速液体クロマトグラフ(株式会社日立ハイテクサイエンス製、Chromaster(登録商標))を用いた高速液体クロマトグラフィー、イオンクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)等が挙げられる。
【0025】
[4-ヒドロキシ安息香酸組成物の製造方法]
次に、本実施形態の4-ヒドロキシ安息香酸組成物の製造方法を説明する。
【0026】
本実施形態の4-ヒドロキシ安息香酸組成物の製造方法としては、以下の工程(A)~(C)を含むことが好ましい。
(A)形質転換体と、糖類、上記形質転換体が代謝によりコリスミ酸を生成し得る化合物またはコリスミ酸およびそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の原料化合物と、を含有する反応液中で反応させる工程。
(B)反応液の不純物を除去する工程。
(C)反応液中の4-ヒドロキシ安息香酸組成物を回収する工程。
【0027】
〔(A)形質転換体と、糖類、上記形質転換体が代謝によりコリスミ酸を生成し得る化合物またはコリスミ酸およびそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の原料化合物と、を含有する反応液中で反応させる工程〕
本実施形態の4-ヒドロキシ安息香酸組成物の製造方法としては、まず(A)形質転換体と、糖類、上記形質転換体が代謝によりコリスミ酸を生成し得る化合物またはコリスミ酸およびそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の原料化合物と、を含有する反応液中で反応させる工程を行う。
本工程にて用いる各化合物と、反応条件について以下に詳述する。
【0028】
(形質転換体)
本実施形態の4-ヒドロキシ安息香酸組成物の製造方法において、形質転換体としては、糖類から代謝により4-ヒドロキシ安息香酸を生成できる形質転換体であれば、いずれの形質転換体を用いることができる。このような形質転換体としては、例えば、特許第6327653号に記載のコリネ型細菌形質転換体HBA-2(受託番号:NITE BP-01838)または特許第6327654号に記載のコリネ型細菌形質転換体HBA-47(受託番号:NITE BP-01849)等が挙げられる。
【0029】
反応に先立ち、形質転換体を好気条件下で培養させることが好ましい。培養温度および培養時間としては、形質転換体を培養することができ、かつ必要量以上の形質転換体を得ることができれば特に限定されない。培養温度としては、例えば25℃以上38℃以下である。培養時間としては、例えば12時間以上48時間以下である。
【0030】
(培養用培地)
反応に先立つ形質転換体の好気的培養に用いる培地は、炭素源、窒素源、無機塩類およびその他の栄養物質等を含有する天然培地または合成培地を用いることができる。
炭素源として、糖類(グルコース、フルクトース、マンノース、キシロース、アラビノース、ガラクトースのような単糖;スクロース、マルトース、ラクトース、セロビオース、キシロビオース、トレハロースのような二糖;澱粉のような多糖;糖蜜等)、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、グリセリンのような糖アルコール;酢酸、クエン酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、グルコン酸のような有機酸;エタノール、プロパノールのようなアルコール;ノルマルパラフィンのような炭化水素等も用いることができる。
炭素源は、1種を単独で、又は2種以上を混合して使用できる。炭素源の培地中の濃度は、使用する化合物によっても異なるが、例えば、0.1w/v%以上20w/v%以下とすればよい。
【0031】
窒素源としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、酢酸アンモニウムのような無機又は有機アンモニウム化合物、尿素、アンモニア水、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等を使用できる。また、コーンスティープリカー、肉エキス、ペプトン、NZ-アミン、蛋白質加水分解物、アミノ酸等の含窒素有機化合物等も使用できる。窒素源は、1種を単独で、又は2種以上を混合して使用できる。窒素源の培地中の濃度は、使用する窒素化合物によっても異なるが、例えば、0.1w/v%以上10w/v%以下とすればよい。
無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硝酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸コバルト、炭酸カルシウム等が挙げられる。無機塩類は、1種を単独で、又は2種以上を混合して使用できる。無機塩類の培地中の濃度は、使用する無機塩類によっても異なるが、例えば、0.01w/v%以上1w/v%以下とすればよい。
【0032】
栄養物質としては、肉エキス、ペプトン、ポリペプトン、酵母エキス、乾燥酵母、コーンスティープリカー、脱脂粉乳、脱脂大豆塩酸加水分解物、動植物又は微生物菌体のエキスやそれらの分解物等が挙げられる。栄養物質の培地中の濃度は、使用する栄養物質によっても異なるが、例えば、0.1w/v%以上10w/v%以下とすればよい。
さらに、必要に応じて、ビタミン類を添加することもできる。ビタミン類としては、ビオチン、チアミン(ビタミンB1)、ピリドキシン(ビタミンB6)、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等が挙げられる。
培地のpHは6以上8以下が好ましい。
【0033】
具体的な好ましい培地としては、A培地〔Inui, M. et al., Metabolic analysis of Corynebacterium glutamicum during lactate and succinate productions under oxygen deprivation conditions. J. Mol. Microbiol. Biotechnol. 7:182-196 (2004)〕、BT培地〔Omumasaba, C.A. et al., Corynebacterium glutamicum glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase isoforms with opposite, ATP-dependent regulation. J. Mol. Microbiol. Biotechnol. 8:91-103 (2004)〕等が挙げられる。これらの培地において、糖類濃度を上記範囲にして用いればよい。
【0034】
(原料化合物)
原料化合物は形質転換体が細胞内に取り込める化合物であることが好ましく、植物に多く含まれる等、工業的に利用し易いものであることがより好ましい。
上記原料化合物のうち、糖類としては、形質転換体の代謝によりグルコースを生成し得る糖類が好ましく、グルコースがより好ましい。このような糖類にはグルコース単位を有するオリゴ糖および多糖類が含まれる。上記オリゴ糖および上記多糖類としては、フルクトース、マンノース、アラビノース、キシロース、ガラクトースなどの単糖類;セロビオース、ショ糖、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース、キシロビオースなどの二糖類;デキストリン又は可溶性澱粉などの多糖類などが挙げられる。また、グルコースを用いることにより、本実施形態の4-ヒドロキシ安息香酸組成物の製造効率を向上させることができる観点から好ましい。
また、上記原料化合物のうち、形質転換体が代謝によりコリスミ酸を生成し得る化合物としては、キナ酸、シキミ酸などが挙げられる。
また、例えばこれらの原料化合物を含む原料として、植物由来の原料を用いることができる。植物由来の原料としては、例えば、糖蜜や、わら(稲わら、大麦わら、小麦わら、ライ麦わら、オート麦わら等)、バガス、コーンストーバー等の非可食農産廃棄物や、スイッチグラス、ネピアグラス、ミスキャンサス等のエネルギー作物や、木くず、古紙などを糖化酵素などで糖化した、グルコースなどの複数の糖を含む糖化液を用いることもできる。
中でも、原料化合物としては、グルコース、コリスミ酸、キナ酸、シキミ酸が好ましく、これらを含む原料として、植物由来の原料を用いることが好ましい。
【0035】
(反応液)
反応液としては、炭素源、窒素源、及び無機塩類等を含有する天然反応液または合成反応液を用いることができる。
炭素源としては、上記説明した原料化合物又はそれを含む糖蜜や糖化液などを用いればよい。また、炭素源として、糖類の他に、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、グリセリンのような糖アルコール;酢酸、クエン酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、グルコン酸のような有機酸;エタノール、プロパノールのようなアルコール;ノルマルパラフィンのような炭化水素等も用いることができる。
炭素源は、1種を単独で、又は2種以上を混合して使用できる。
反応液中の原料化合物の濃度は、1w/v%以上20w/v%以下が好ましく、2w/v%以上10w/v%以下がより好ましく、2w/v%以上5w/v%以下がさらに好ましい。
また、原料化合物を含む全炭素源の濃度は、2w/v%以上5w/v%以下とすればよい。
【0036】
窒素源としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、酢酸アンモニウムのような無機又は有機アンモニウム化合物、尿素、アンモニア水、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等を使用できる。また、コーンスティープリカー、肉エキス、ペプトン、NZ-アミン、蛋白質加水分解物、アミノ酸等の含窒素有機化合物等も使用できる。窒素源は、1種を単独で、又は2種以上を混合して使用できる。窒素源の反応液中の濃度は、使用する窒素化合物によっても異なるが、例えば、0.1w/v%以上10w/v%以下とすればよい。
無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硝酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸コバルト、炭酸カルシウム等が挙げられる。無機塩類は、1種を単独で、又は2種以上を混合して使用できる。無機塩類の反応液中の濃度は、使用する無機塩類によっても異なるが、例えば、0.01w/v%以上1w/v%以下とすればよい。
【0037】
栄養物質としては、肉エキス、ペプトン、ポリペプトン、酵母エキス、乾燥酵母、コーンスティープリカー、脱脂粉乳、脱脂大豆塩酸加水分解物、動植物又は微生物菌体のエキスやそれらの分解物等が挙げられる。栄養物質の培地中の濃度は、使用する栄養物質によっても異なるが、例えば、0.1w/v%以上10w/v%以下とすればよい。
さらに、必要に応じて、ビタミン類を添加することもできる。ビタミン類としては、ビオチン、チアミン(ビタミンB1)、ピリドキシン(ビタミンB6)、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等が挙げられる。
反応液のpHは6以上8以下が好ましい。
【0038】
具体的な好ましい反応液としては、前述したA培地およびBT培地等が挙げられる。これらの反応液において、糖類濃度を上記範囲にして用いればよい。
【0039】
(反応条件)
反応温度、即ち形質転換体の生存温度は、4-ヒドロキシ安息香酸組成物の製造効率の観点から、20℃以上が好ましく、23℃以上がより好ましく、25℃以上がさらに好ましい。また、上記生存温度は、同様の観点から、50℃以下が好ましく、48℃以下がより好ましく、47℃以下がさらに好ましい。
反応時間は、4-ヒドロキシ安息香酸組成物の製造効率の観点から、7日間以下が好ましく、5日間以下がより好ましく、3日間以下がさらに好ましい。また、上記反応時間は、反応が十分に進行すれば特に限定されないが、例えば、1日間以上である。
培養は、バッチ式、流加式、連続式の何れでもよい。中でも、4-ヒドロキシ安息香酸組成物の製造効率の観点から、バッチ式が好ましい。
反応は、好気的条件で行ってもよく、還元条件で行ってもよい。形質転換体自体の4-ヒドロキシ安息香酸組成物の生産能力は、好気的条件下の方が高い。しかし、好気的条件下では形質転換体が増殖するため、原料化合物が増殖のために消費され、その分、4-ヒドロキシ安息香酸組成物の製造効率が低下する。
従って、好気的、かつ形質転換体が増殖しない条件下で反応を行うのが好ましい。本明細書において「増殖しない」ことには、実質的に増殖しないこと、又は殆ど増殖しないことが含まれる。例えば、微生物の増殖に必須の化合物であるビオチン、チアミンなどのビタミン類、窒素源などの1種以上を欠乏、或いは制限させた反応液を用いることにより、形質転換体の増殖を回避または抑制できる。
【0040】
また、還元条件では、形質転換体は実質的に増殖しないため、原料化合物が増殖のために消費されない分、4-ヒドロキシ安息香酸組成物の製造効率が高くなる。
還元条件は、反応液の酸化還元電位で規定される。反応液の酸化還元電位は、-500mV以上-200mV以下が好ましく、-500mV以上-150mV以下がより好ましい。
反応液の還元状態は簡便にはレサズリン指示薬(還元状態であれば、青色から無色への脱色)で推定できるが、正確には酸化還元電位差計(例えば、BROADLEY JAMES社製、ORP Electrodes)を用いて測定できる。
【0041】
還元条件にある反応液の調整方法は、公知の方法を制限なく使用できる。例えば、反応液の液体媒体として、蒸留水などの代わりに反応液用水溶液を使用してもよく、反応液用水溶液の調整方法は、例えば硫酸還元微生物などの絶対嫌気性微生物用の培養液調整方法(Pfennig, N. et al., (1981):The dissimilatory sulfate-reducing bacteria,In The Prokaryotes,A Handbook on Habitats Isolation and Identification of Bacteria,Ed.by Starr,M.P.et al., p926-940, Berlin,Springer Verlag.)や「農芸化学実験書 第三巻、京都大学農学部 農芸化学教室編、1990年第26刷、産業図書株式会社出版」などが参考となり、所望する還元条件下の水溶液を得ることができる。
具体的には、蒸留水などを加熱処理や減圧処理して溶解ガスを除去することにより、還元条件の反応液用水溶液を得ることができる。この場合、好ましくは10mmHg以下、より好ましくは5mmHg以下、さらに好ましくは3mmHg以下の減圧下で、好ましくは1分以上60分以下、より好ましくは5分以上40分以下の条件で、蒸留水などを処理することにより、溶解ガス、特に溶解酸素を除去して還元条件下の反応液用水溶液を作成することができる。
【0042】
また、適当な還元剤(例えば、チオグリコール酸、アスコルビン酸、システィン塩酸塩、メルカプト酢酸、チオール酢酸、グルタチオン、硫化ソーダ等)を添加して還元条件の反応液用水溶液を調整することもできる。
これらの方法を適宜組み合わせることも有効な還元条件の反応液用水溶液の調整方法である。
【0043】
還元条件下で反応させる場合は、反応中も反応液を還元条件に維持することが好ましい。反応途中での還元条件を維持するために、反応系外からの酸素の混入を可能な限り防止することが望ましく、具体的には、反応系を窒素ガス等の不活性ガスや炭酸ガス等で封入する方法が挙げられる。酸素混入をより効果的に防止する方法としては、反応途中において本実施形態の第1の形質転換体内の代謝機能を効率よく機能させるために、反応系のpH維持調整液の添加や各種栄養素溶解液を適宜添加する必要が生じる場合もあるが、このような場合には添加溶液から酸素を予め除去しておくことが有効である。
【0044】
〔(B)反応液の不純物を除去する工程〕
次に、(B)反応液の不純物を除去する工程を行う。上記のようにして培養することにより、反応液中に4-ヒドロキシ安息香酸組成物が生産される。反応液を回収することにより4-ヒドロキシ安息香酸組成物を回収できるが、反応液中には形質転換体、未反応の原料化合物および反応液そのものに含まれる成分といった4-ヒドロキシ安息香酸組成物の重合性に影響する成分が含まれている。そのため、反応液からこれらの成分を除去することによって、4-ヒドロキシ安息香酸組成物の重合性をより向上させることができる。
【0045】
本実施形態の4-ヒドロキシ安息香酸組成物を作製する際の反応液の不純物を除去する方法としては、形質転換体の分離と、化学成分の吸着の両方を行う。この両方を行うことにより、4-ヒドロキシ安息香酸組成物から不純物をより除去することができ、結果として4-ヒドロキシ安息香酸組成物の重合性をより向上させることができる。
【0046】
まず、形質転換体の分離方法について説明する。
形質転換体の分離方法としては、公知の分離方法を用いることができるが、例えば、静置による上澄みの採取、膜ろ過、遠心分離などが挙げられる。これらの方法は、1種又は2種以上を適宜組み合わせて行うことができる。
【0047】
膜ろ過による処理条件としては、一般的なろ過条件で処理することができる。膜孔径は、4-ヒドロキシ安息香酸組成物の製造効率を向上させる観点から、0.01μm以上が好ましく、0.03μm以上がより好ましく、0.05μm以上がさらに好ましく、0.07μm以上がさらに好ましく、0.10μm以上がさらに好ましく、0.15μm以上がさらに好ましく、0.20μm以上がさらに好ましい。また、同様の観点から、3μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましい。なお、膜孔径の測定方法としては、水銀圧入法、バブルポイント試験、細菌ろ過法等を用いた一般的な測定方法が挙げられるが、バブルポイント試験で求めた値を用いることが好ましい。膜ろ過で使用する膜の材質としては、例えば、高分子膜、セラミック膜、ステンレス膜等が挙げることができる。
【0048】
遠心分離に用いる遠心分離機としては、分離板型、円筒型、デカンター型等の一般的な機器を使用することができる。遠心分離する際の温度の下限値は、4-ヒドロキシ安息香酸組成物の製造効率を向上させる観点から、好ましくは5℃以上であり、より好ましくは10℃以上であり、さらに好ましくは20℃以上である。また、遠心分離する際の温度の上限値は、同様の観点から、好ましくは70℃以下であり、より好ましくは60℃以下であり、さらに好ましくは40℃以下である。
【0049】
また、遠心分離する際の相対遠心力と時間は適宜設定可能であるが、相対遠心力の下限値は、4-ヒドロキシ安息香酸組成物の重合性を向上させる観点から、好ましくは3000g以上であり、より好ましくは5000g以上であり、さらに好ましくは7000g以上であり、さらに好ましくは10000g以上であり、さらに好ましくは15000g以上である。また、相対遠心力の上限値は、4-ヒドロキシ安息香酸組成物の製造効率を向上させる観点から、好ましくは50000g以下であり、より好ましくは25000g以下であり、さらに好ましくは20000g以下である。
同様に、時間の下限値は、4-ヒドロキシ安息香酸組成物の重合性を向上させる観点から、好ましくは0.2分以上であり、より好ましくは0.5分以上であり、さらに好ましくは1分以上である。また、時間の上限値は、4-ヒドロキシ安息香酸組成物の製造効率を向上させる観点から、好ましくは75分以下、より好ましくは60分以下、さらに好ましくは30分以下である。
【0050】
次に、化学成分の吸着方法について説明する。
化学成分の吸着方法としては、例えば、上記の方法によって形質転換体を除去した後の反応液に対して、4-ヒドロキシ安息香酸に活性を持たない吸着材を添加することが挙げられる。
上記吸着材としては、4-ヒドロキシ安息香酸に活性を持たず、かつ未反応の原料化合物および反応液そのものに含まれる成分を吸着できるものであれば特に限定されない。このような吸着材としては、例えば、天然物系吸着材(天然ゼオライト、銀ゼオライト、酸性白土等)、又は合成物系吸着材(合成ゼオライト、モレキュラーシーブ、細菌吸着ポリマー、ヒドロキシアパタイト、リン鉱石、チタン珪酸塩、シリカゲル、シリカアルミナゲル、多孔質ガラス等)等の無機系吸着材;粉末状活性炭、粒状活性炭、繊維状活性炭、ブロック状活性炭、押出成形活性炭、成形活性炭、合成物系粒状活性炭、合成物系繊維状活性炭等の活性炭;例えば、分子吸着樹脂、イオン交換樹脂、イオン交換繊維、キレート樹脂、キレート繊維等の有機系吸着材が挙げられる。
これらの中でも、環境適合性の観点から、活性炭を用いることが好ましい。
【0051】
添加する吸着材の量としては、4-ヒドロキシ安息香酸組成物の色調をより向上させる観点から、反応液100gに対して、好ましくは0.1g以上であり、より好ましくは0.2g以上であり、さらに好ましくは0.3g以上であり、さらに好ましくは0.4g以上である。
また、添加する吸着材の量の上限値は特に限定されないが、後述する(C)反応液中の4-ヒドロキシ安息香酸組成物を回収する工程の作業効率の観点から、反応液100gに対して、好ましくは5.0g以下であり、より好ましくは4.0g以下であり、さらに好ましくは3.0g以下であり、さらに好ましくは2.0g以下であり、さらに好ましくは1.0g以下であり、さらに好ましくは0.5g以下である。
【0052】
〔(C)反応液中の4-ヒドロキシ安息香酸組成物を回収する工程〕
そして、(C)反応液中の4-ヒドロキシ安息香酸組成物を回収する工程を行う。上記のように不純物を除去することにより比較的純度の高い4-ヒドロキシ安息香酸組成物を含む反応液とすることができるが、さらに、公知の方法で4-ヒドロキシ安息香酸組成物を反応液から分離することもできる。そのような公知の方法として、晶析法、膜分離法、有機溶媒抽出法、各種吸着法(イオン交換樹脂、合成吸着材などを使用)等が挙げられる。
【0053】
また、4-ヒドロキシ安息香酸組成物の回収後、必要に応じて、4-ヒドロキシ安息香酸組成物を洗浄する工程や精製する工程を設けるようにしてもよい。
【0054】
4-ヒドロキシ安息香酸組成物を洗浄する工程としては、公知の洗浄方法を用いることができる。公知の洗浄方法としては、例えば、超音波洗浄、撹拌洗浄、流通洗浄、浸漬洗浄等が挙げられる。これらの中でも、撹拌洗浄が好ましい。
洗浄溶媒としては、4-ヒドロキシ安息香酸組成物を溶解させず、不純物のみを溶解させる洗浄溶媒が好ましい。そのような洗浄溶媒としては、例えば、純水が好ましい。ここで、純水とは導電率が1MΩ・cm以上の水を指す。上記導電率を満たす水は純度が高く、含有される塩素や塩類等の不純物が非常に少ない。
【0055】
4-ヒドロキシ安息香酸組成物を洗浄する工程における洗浄溶媒の量は、4-ヒドロキシ安息香酸組成物の重合性をより向上させる観点から、得られた4-ヒドロキシ安息香酸組成物の質量に対して7倍量以上が好ましく、8倍量以上がより好ましく、9倍量以上がさらに好ましく、10倍量以上がさらに好ましい。
また、洗浄溶媒の量は、4-ヒドロキシ安息香酸組成物の製造効率を向上させる観点から、50倍量以下が好ましく、25倍量以下がより好ましく、15倍量以下がさらに好ましく、12倍量以下がさらに好ましい。
【0056】
4-ヒドロキシ安息香酸組成物を洗浄する工程における洗浄回数は、4-ヒドロキシ安息香酸組成物の重合性をより向上させる観点から、1回以上が好ましく、2回以上がより好ましく、3回以上がさらに好ましい。
また、洗浄回数は、4-ヒドロキシ安息香酸組成物の製造効率を向上させる観点から、10回以下が好ましく、7回以下がより好ましく、5回以下がさらに好ましく、4回以下がさらに好ましい。
【0057】
[用途]
本実施形態における4-ヒドロキシ安息香酸組成物は、化石資源を原料とした従来の石油化学プロセスにより合成された4-ヒドロキシ安息香酸組成物と同様の用途に用いることができる。すなわち、本実施形態における4-ヒドロキシ安息香酸組成物の用途としては、ポリエステル、ポリエステル樹脂、ポリエステル繊維、液晶ポリエステル、液晶ポリエステル樹脂、液晶ポリエステル繊維等のポリマー原料、防腐剤であるパラベンの合成原料、染料、顔料、接着性樹脂、可塑剤などが挙げられる。
これらのうち、ポリマー用途に用いることが好ましい。すなわち、本実施形態における4-ヒドロキシ安息香酸組成物を用いたポリマーは、本実施形態における4-ヒドロキシ安息香酸組成物由来の4-ヒドロキシ安息香酸(A)の構造を少なくとも含むポリマーである。
【0058】
本実施形態における4-ヒドロキシ安息香酸組成物は、上述のように環境適合性と重合性のバランスが向上したものである。そのため、環境適合性と重合性を高度に両立した、バイオマスプラスチック用のポリマー(バイオベースポリマー)に好ましく用いることができる。
【0059】
本実施形態における4-ヒドロキシ安息香酸組成物を用いたポリマーを用いた製品の例としては、各種電源コード、電気機器、各種部品、建材、家具、釣り糸などの釣り具、漁網、ロープ、液晶ポリマー等が挙げられる。
【0060】
本実施形態のポリマーとしては、液晶ポリマーであることが好ましい。本実施形態のポリマーに含まれる4-ヒドロキシ安息香酸(A)の構造は、その分子形状が細長く、扁平で分子の長鎖に沿って剛性が高い分子鎖(この剛性が高い分子鎖は例えば「メソゲン骨格」と呼称されている)を有する。そして、本実施形態における4-ヒドロキシ安息香酸組成物は、上述のように環境適合性と重合性のバランスが向上したものである。すなわち、本実施形態のポリマーは、4-ヒドロキシ安息香酸組成物の環境適合性と重合性のバランスが向上したことに由来する、環境適合性、熱伝導性および機械的強度のバランスが向上した液晶ポリマーとして好適に用いることができる。
【0061】
ここで、液晶ポリマーとしては、液晶ポリマーを用いて得られる下流製品の特性を著しく損なわない範囲であれば、本実施形態のポリマーに加えて、必要な特性に応じて補強剤等の添加剤が含有されていてもよい。
ここで添加剤としては、例えばガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維などの繊維状補強剤;ホウ酸アルミニウムウィスカー、チタン酸カリウムウィスカーなどの針状の補強剤;ガラスビーズ、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイトなどの無機充填剤;フッ素樹脂、金属石鹸類などの離型改良剤;染料、顔料などの着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤などが挙げられる。これらの添加剤は二種以上を併用してもよい。
【0062】
また、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤等の外部滑剤効果を有する添加剤を用いることも可能である。更に、少量であれば、本実施形態のポリマー以外の熱可塑性樹脂(たとえば、ポリアミド、結晶性ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド等)や熱硬化性樹脂(たとえば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等)を含有させてもよい。このような本実施形態のポリマー以外の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を使用する場合、本実施形態のポリマー自身の液晶性や成形性を損なわないようにして、その種類や添加量を選択することが必要である。
【0063】
本実施形態の4-ヒドロキシ安息香酸組成物を用いたポリマーを用いた製品においては、所定の加工物(製品)の原料に用いられる4-ヒドロキシ安息香酸全体に対する、本実施形態の4-ヒドロキシ安息香酸組成物の割合を、製造業者ごとに規定してもよい。
本実施形態の4-ヒドロキシ安息香酸組成物の割合を、製造業者ごとに規定することにより、排出、廃棄された製品の実測バイオ化率を計測することで、かかる製品の回収義務が課せられる製造業者が特定可能となる。また、ある製造業者において、自社製品の製造ロットごとに、4-ヒドロキシ安息香酸全体に対する、本実施形態の4-ヒドロキシ安息香酸組成物の割合を規定してもよく、こうすれば、製造ロットをトレースできるようになる。従来のトレーサビリティ付与手段(例えば、顔料などの混合)では、各種製品の強度が低下するおそれがあったところ、本実施形態の4-ヒドロキシ安息香酸組成物によれば、所望の重合性が得られるため、各種製品の強度が担保されつつ、製造業者を特定可能となる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【0065】
具体的には、本実施形態において、バイオマス資源を原料とした化学物質として4-ヒドロキシ安息香酸を一例に挙げたが、本開示の技術思想は、フェノールなども含め、バイオマス資源を原料として生産される、様々な物質に適用可能である。
【0066】
また、本実施形態において、4-ヒドロキシ安息香酸に含有されるシキミ酸の濃度を規定した実施形態を一例に挙げたが、形質転換体が生産する様々な中間代謝物質、前述した「その他の成分」、「培地」などに含有される物質および特定の元素の含有量等について規定した発明等も、本開示の技術思想の範疇に含まれる。
なお、上記中間代謝物質としては、例えば、シキミ酸、デヒドロシキミ酸、キナ酸、プロトカテク酸、アミノ酸等が挙げられるが、これらに限定されない。また、上記特定の元素としては、例えば、窒素、リン、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、鉄、マンガン、亜鉛、コバルト等が挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例0067】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0068】
<実施例、比較例>
(実施例1)
カナマイシン50μg/mlを含むA液体培地[(NHCO 2g、(NHSO 7g、KHPO 0.5g、KHPO 0.5g、MgSO・7HO 0.5g、0.06%(w/v) FeSO・7HO + 0.042%(w/v) MnSO・2HO 1ml、0.02%(w/v)biotin solution 1ml、0.01%(w/v) thiamin solution 2ml、yeast extract 2g、vitamin assay casamino acid 7g、glucose 40gを蒸留水1Lに溶解したもの]10mlに、更に2質量%の割合で炭酸カルシウムの入った試験管に、特許第6327654号に記載のコリネ型細菌形質転換体HBA-47(受託番号:NITE BP-01849)を一白金耳植菌し、33℃、24時間、200rpmの条件下にて好気的に振とう培養を行った。これにより、グルコースから合成された4-ヒドロキシ安息香酸を含む試験液を得た(4-ヒドロキシ安息香酸濃度:7.3質量%)。
上記試験液に対して孔径0.22μmのメンブレンフィルター(メルクミリポア社製、ステリトップ 0.22μm×33mm)を用いた真空ろ過を行うことで、上記試験液から上記HBA-47を分離した。次いで、上記試験液に粉末活性炭を添加し、活性炭処理を施した。なお、粉末活性炭は、試験液100gに対して0.4g使用した。次に、活性炭処理を施した試験液に硫酸25%を添加して、pHを8から3まで低下させることにより、溶質を析出させる晶析操作を行った。次に、析出した溶質をろ過分離し、固体の析出物を回収した。次に、得られた析出物を、上記析出物の質量に対して10倍量の純水で3回、撹拌子を用いて200rpmで撹拌洗浄した後、乾燥させ、固体の4-ヒドロキシ安息香酸組成物を得た。
【0069】
(実施例2)
得られた析出物を、上記析出物の質量に対して10倍量の純水で撹拌洗浄する回数を2回に変更した以外は、実施例1に記載の方法と同様の方法にて固体の4-ヒドロキシ安息香酸組成物を得た。
【0070】
(実施例3)
得られた析出物を、上記析出物の質量に対して10倍量の純水で撹拌洗浄する回数を1回に変更した以外は、実施例1に記載の方法と同様の方法にて固体の4-ヒドロキシ安息香酸組成物を得た。
【0071】
(比較例1)
得られた析出物の洗浄方法を5倍量の純水で1回撹拌洗浄する方法に変更した以外は、実施例1に記載の方法と同様の方法にて固体の4-ヒドロキシ安息香酸組成物を得た。
【0072】
(比較例2)
得られた析出物の洗浄方法を次のように変更した以外は、実施例1に記載の方法と同様の方法にて固体の4-ヒドロキシ安息香酸組成物を得た。
得られた析出物を10倍量のメタノールに溶解させ、不溶分をろ過により除去した。その後、40℃で100hPa以下まで徐々に減圧させ、メタノールの液体成分がなくなるまでメタノールを気化させることにより、固体の4-ヒドロキシ安息香酸組成物を得た。
【0073】
(比較例3)
市販の4-ヒドロキシ安息香酸(東京化成工業社製、製品コード:H0207)を準備した。
【0074】
(物性評価)
各実施例および各比較例で得られた4-ヒドロキシ安息香酸組成物の各物性を、以下の方法で評価した。
【0075】
(濃度分析)
各実施例および各比較例の4-ヒドロキシ安息香酸組成物中の4-ヒドロキシ安息香酸とシキミ酸濃度の定量は、UV検出器を備えた高速液体クロマトグラフ(株式会社日立ハイテクサイエンス製、Chromaster(登録商標))を用いて、以下の<分析条件>にて高速液体クロマトグラフィーにて行った。結果を表1に示す。
<分析条件>
カラム:COSMOSIL 5C18-AR-II(φ4.6mm×250mm)ナカライテスク社製
移動相:水/メタノール/過塩素酸=4/1/0.0075(vol/vol/vol)イソクラティック溶出
流量:1mL/mmin
カラム温度:40℃
検出方法:フォトダイオードアレイ(PDA)検出器(210nm)
【0076】
(実測バイオ化率)
各実施例および各比較例の4-ヒドロキシ安息香酸組成物中の4-ヒドロキシ安息香酸(A)について、米国試験材料協会(ASTM)が定めるバイオベース濃度試験規格ASTM D6866-20に基づき、全炭素原子中における放射性炭素14Cの含有量を測定した。そして、その測定結果と、1950年時点の循環炭素中の放射性炭素14Cの濃度とから、各実施例および各比較例の4-ヒドロキシ安息香酸組成物中の4-ヒドロキシ安息香酸(A)の1950年時点の循環炭素中の放射性炭素14Cの濃度を100%としたときの全炭素原子中における放射性炭素14Cの濃度を実測バイオ化率として算出し、環境適合性の指標として評価した。算出結果を表1に示す。
【0077】
(重合性)
蒸留装置、撹拌機、窒素導入管を装備した1L重合器に各実施例および各比較例の4-ヒドロキシ安息香酸組成物241.7g(4-ヒドロキシ安息香酸含有量:1.75mol)、ビフェノール(東京化成工業社製、製品コード:B0464)93.1g(0.5mol)、テレフタル酸(東京化成工業社製、製品コード:T0166)83.0g(0.5mol)、無水酢酸(東京化成工業社製、製品コード:A2036)326.4g(3.2mol)を仕込んだ。150℃で3時間アセトキシ化反応を行った後、240℃に昇温し6時間、さらに300℃まで昇温し、内容物が固化するまで重合を続けた。取り出した重合物(プレポリマー)を微粉砕後、窒素中、300℃で固相重合させ、所定の攪拌トルクに達した時点で重縮合を完結させ、液晶ポリマーを得た。
得られた液晶ポリマーを、樹脂温度340℃、金型温度150℃、射出圧力110MPaの条件で射出成形し、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの曲げ試験片を作製した。作製した曲げ試験片を用いてASTM D790に準拠し、曲げ強度の測定をおこなった。
得られた曲げ強度から重合性を以下のように評価した。結果を表1に示す。
A:曲げ強度が100MPa以上
B:曲げ強度が90MPa以上100MPa未満
C:曲げ強度が90MPa未満
【0078】
【表1】
【0079】
表1に示したように、4-ヒドロキシ安息香酸組成物中に含まれるシキミ酸を所定の濃度以下にすることにより、環境適合性と重合性のバランスが向上した。
【0080】
コリネバクテリウム グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)HBA-2は、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818)の独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託した(国内寄託の受託日:2014年3月27日、ブダペスト条約に基づく国際寄託の受託日:2015年2月23日、受託番号:NITE BP-01838)。
【0081】
コリネバクテリウム グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)HBA-47は、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818)の独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託した(ブダペスト条約に基づく国際寄託の受託日:2014年4月25日、受託番号:NITE BP-01849)。
これらの株は、ブダペスト条約の下で国際寄託されており、37 CFR1.808に規定される条件の下で公に利用可能である。