(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177948
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】エレクトロクロミックレンズおよびエレクトロクロミック装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/161 20060101AFI20241217BHJP
G02F 1/15 20190101ALI20241217BHJP
G02C 7/10 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
G02F1/161
G02F1/15 503
G02C7/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096391
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】西野 哲史
(72)【発明者】
【氏名】北村 昌弘
【テーマコード(参考)】
2H006
2K101
【Fターム(参考)】
2H006BE01
2K101AA22
2K101DA01
2K101DB04
2K101DB05
2K101DC04
2K101DC05
2K101DC06
2K101DC12
2K101DC42
2K101DC43
2K101DC52
2K101DC53
2K101DC55
2K101EB42
2K101EC55
2K101EC58
2K101EC63
2K101EG27
2K101EG37
2K101EK04
(57)【要約】
【課題】良好な外観が得られるエレクトロクロミックレンズを提供する。
【解決手段】エレクトロクロミックレンズ300は、エレクトロクロミック素子10と、エレクトロクロミック素子10の側面を覆う封止材8と、エレクトロクロミック素子10と封止材8を挟む一対の透明基材層(第1の透明基材層1、および第2の透明基材層7)と、を備え、所定の要件aを満たすものである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロクロミック素子と、
当該エレクトロクロミック素子の側面を覆う封止材と、
前記エレクトロクロミック素子と前記封止材を挟む一対の透明基材層と、
を備えるエレクトロクロミックレンズであって、
以下の要件aを満たす、エレクトロクロミックレンズ。
(要件a)当該エレクトロクロミックレンズの上面から前記透明基材層を介して前記封止材をみた時の正射影において測定される、前記封止材の内周側の縁の長さをL(mm)、前記封止材が占める領域の面積をS(mm2)、S/LをW(mm)としたとき、
Wが1mm未満となる第1領域と、Wが1.5mm以上となる第2領域とが存在し、
前記第1領域の面積をS1(mm2)とし、前記第2領域の面積をS2(mm2)としたとき、S1/S(百分率)が50%以上であり、S2/S(百分率)が1~40%であり、
前記第2領域は、前記封止材の内周側の縁の任意の位置での4mmの長さをLaとし、当該Laを含む前記封止材が占める領域の面積をSa(mm2)とし、Sa/LaをWa(mm)としたとき、Wa(mm)が1.5mm以上となる領域を含む。
【請求項2】
請求項1に記載のエレクトロクロミックレンズであって、
前記エレクトロクロミックレンズは、前記第2領域において前記封止材を貫通する貫通電極を有する、エレクトロクロミックレンズ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエレクトロクロミックレンズであって、
前記エレクトロクロミックレンズは、前記第2領域において把持部を有する、エレクトロクロミックレンズ。
【請求項4】
請求項1または2に記載のエレクトロクロミックレンズであって、
前記封止材は、硬化性樹脂を含む樹脂組成物から形成される、エレクトロクロミックレンズ。
【請求項5】
請求項1または2に記載のエレクトロクロミックレンズであって、
前記エレクトロクロミック素子は、電解質層とエレクトロクロミック層とが積層した積層構造を備える、固体またはゲルである、エレクトロクロミックレンズ。
【請求項6】
請求項5に記載のエレクトロクロミックレンズであって、
前記電解質層は固体またはゲルである、エレクトロクロミックレンズ。
【請求項7】
請求項1または2に記載のエレクトロクロミックレンズであって、
前記エレクトロクロミックレンズは、前記透明基材層と前記エレクトロクロミック素子との間に電極層をさらに備える、エレクトロクロミックレンズ。
【請求項8】
請求項1または2に記載のエレクトロクロミックレンズであって、
前記透明基材層は、エピスルフィド系樹脂、チオウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ノルボルネン系樹脂、およびシリコーン系樹脂の中から選ばれる1種または2種以上を含む、エレクトロクロミックレンズ。
【請求項9】
請求項1または2に記載のエレクトロクロミックレンズを用いた、エレクトロクロミック装置。
【請求項10】
エレクトロクロミック素子と、
当該エレクトロクロミック素子の側面を覆う封止材と、
前記エレクトロクロミック素子と前記封止材を挟む一対の透明基材層と、
を備える、エレクトロクロミックシートの使用方法であって、
当該エレクトロクロミックシートを用いて、以下の要件bを満たすエレクトロクロミックレンズとなるように加工する工程を含む、エレクトロクロミックシートの使用方法。
(要件b)当該エレクトロクロミックレンズの上面から前記透明基材層を介して前記封止材をみた時の正射影において測定される、前記封止材の内周側の縁の長さをL(mm)、前記封止材が占める領域の面積をS(mm2)、S/LをW(mm)としたとき、
Wが1mm未満となる第1領域と、Wが1.5mm以上となる第2領域とが存在し、
前記第1領域の面積をS1(mm2)とし、前記第2領域の面積をS2(mm2)としたとき、S1/S(百分率)が50%以上であり、S2/S(百分率)が1~40%であり、
前記第2領域は、前記封止材の内周側の縁の任意の位置での4mmの長さをLaとし、当該Laを含む前記封止材が占める領域の面積をSa(mm2)とし、Sa/LaをWa(mm)としたとき、Wa(mm)が1.5mm以上となる領域を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミックレンズおよびエレクトロクロミック装置に関する。より詳細には、エレクトロクロミックレンズ、エレクトロクロミック装置およびエレクトロクロミックシートの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、眼鏡、サングラスのようなアイウエアが備えるレンズとして、偏光性を有する偏光膜や、特定の波長領域の光を選択的に反射することで意匠性を付与することが可能なハーフミラー層を備える光学シートを、その表面に有するレンズが提案されている。
【0003】
一方で、エレクトロクロミック素子は、電圧を印加することで、可逆的に酸化還元反応が起こり、可逆的に透過率が変化する現象であるエレクトロクロミズムを利用した素子として知られる。例えば、エレクトロクロミック素子にプラス電圧を印加することで発色がえられ、マイナス電圧を印加することで消色して透明にすることができることから、プラス電圧とマイナス電圧との印加の切り替えを行うことが可能なスイッチを設けることで、エレクトロクロミック素子における発色と消色とを、任意のタイミングで行い得るようになる。
【0004】
そこで、エレクトロクロミック素子を光学シートとして、眼鏡、サングラスのようなアイウエアが備えるレンズに適用することで、スイッチによる任意のタイミングで、発色と消色の切り替えが可能なレンズが得られることが期待される。
【0005】
例えば、特許文献1には、エレクトロクロミック素子を利用したアイウエア用のレンズが開示されている。具体的には、当該レンズは、2つの透明層により、エレクトロクロミック組成物で充填された封止されたキャビティを上下方向から挟持しつつ、当該キャビティの周囲を接着材料から形成されたシールによって封止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、特許文献1に開示される技術について検討を行ったところ、当該技術はキャビティを囲うシール(封止材)によってレンズの視界が狭められたり、レンズの使用者に視認され視覚的快適性が低下することから、当該シールを1000マイクロメートル未満の幅に限定することに着目しているため、シールによる水分バリア性や酸素ガスバリア性が低下するものであった。そのため、エレクトロクロミックシートの色味、速度、発色の安定性等の発消色性能が低減する場合があることを判明した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、エレクトロクロミックレンズとしての性能を保持しつつ良好な外観が得られるエレクトロクロミックレンズの新たな要件を具現化し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明によれば、以下のエレクトロクロミックレンズおよびこれに関する技術が提供される。
【0010】
[1] エレクトロクロミック素子と、
当該エレクトロクロミック素子の側面を覆う封止材と、
前記エレクトロクロミック素子と前記封止材を挟む一対の透明基材層と、
を備えるエレクトロクロミックレンズであって、
以下の要件aを満たす、エレクトロクロミックレンズ。
(要件a)当該エレクトロクロミックレンズの上面から前記透明基材層を介して前記封止材をみた時の正射影において測定される、前記封止材の内周側の縁の長さをL(mm)、前記封止材が占める領域の面積をS(mm2)、S/LをW(mm)としたとき、
Wが1mm未満となる第1領域と、Wが1.5mm以上となる第2領域とが存在し、
前記第1領域の面積をS1(mm2)とし、前記第2領域の面積をS2(mm2)としたとき、S1/S(百分率)が50%以上であり、S2/S(百分率)が1~40%であり、
前記第2領域は、前記封止材の内周側の縁の任意の位置での4mmの長さをLaとし、当該Laを含む前記封止材が占める領域の面積をSa(mm2)とし、Sa/LaをWa(mm)としたとき、Wa(mm)が1.5mm以上となる領域を含む。
[2] [1]に記載のエレクトロクロミックレンズであって、
前記エレクトロクロミックレンズは、前記第2領域において前記封止材を貫通する貫通電極を有する、エレクトロクロミックレンズ。
[3] [1]または[2]に記載のエレクトロクロミックレンズであって、
前記エレクトロクロミックレンズは、前記第2領域において把持部を有する、エレクトロクロミックレンズ。
[4] [1]乃至[3]いずれか一つに記載のエレクトロクロミックレンズであって、
前記封止材は、硬化性樹脂を含む樹脂組成物から形成される、エレクトロクロミックレンズ。
[5] [1]乃至[4]いずれか一つに記載のエレクトロクロミックレンズであって、
前記エレクトロクロミック素子は、電解質層とエレクトロクロミック層とが積層した積層構造を備える、固体またはゲルである、エレクトロクロミックレンズ。
[6] [5]に記載のエレクトロクロミックレンズであって、
前記電解質層は固体またはゲルである、エレクトロクロミックレンズ。
[7] [1]乃至[6]いずれか一つに記載のエレクトロクロミックレンズであって、
前記エレクトロクロミックレンズは、前記透明基材層と前記エレクトロクロミック素子との間に電極層をさらに備える、エレクトロクロミックレンズ。
[8] [1]乃至[7]いずれか一つに記載のエレクトロクロミックレンズであって、
前記透明基材層は、エピスルフィド系樹脂、チオウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ノルボルネン系樹脂、およびシリコーン系樹脂の中から選ばれる1種または2種以上を含む、エレクトロクロミックレンズ。
[9] [1]乃至[8]いずれか一つに記載のエレクトロクロミックレンズを用いた、エレクトロクロミック装置。
[10] エレクトロクロミック素子と、
当該エレクトロクロミック素子の側面を覆う封止材と、
前記エレクトロクロミック素子と前記封止材を挟む一対の透明基材層と、
を備える、エレクトロクロミックシートの使用方法であって、
当該エレクトロクロミックシートを用いて、以下の要件bを満たすエレクトロクロミックレンズとなるように加工する工程を含む、エレクトロクロミックシートの使用方法。
(要件b)当該エレクトロクロミックレンズの上面から前記透明基材層を介して前記封止材をみた時の正射影において測定される、前記封止材の内周側の縁の長さをL(mm)、前記封止材が占める領域の面積をS(mm2)、S/LをW(mm)としたとき、
Wが1mm未満となる第1領域と、Wが1.5mm以上となる第2領域とが存在し、
前記第1領域の面積をS1(mm2)とし、前記第2領域の面積をS2(mm2)としたとき、S1/S(百分率)が50%以上であり、S2/S(百分率)が1~40%であり、
前記第2領域は、前記封止材の内周側の縁の任意の位置での4mmの長さをLaとし、当該Laを含む前記封止材が占める領域の面積をSa(mm2)とし、Sa/LaをWa(mm)としたとき、Wa(mm)が1.5mm以上となる領域を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、エレクトロクロミックレンズとしての性能を保持しつつ良好な外観が得られるエレクトロクロミックレンズを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態のエレクトロクロミックシートの一例を示す模式断面図である。
【
図2】本実施形態のエレクトロクロミックシートを用いてレンズを製造する方法を示す模式図である。
【
図3】本実施形態のエレクトロクロミックレンズを側面からみたときの模式断面図である。
【
図4】本実施形態のエレクトロクロミックシートを用いたレンズの一例を示す模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
煩雑さを避けるため、同一図面内に同一の構成要素が複数ある場合には、その1つのみに符号を付し、全てには符号を付さない場合がある。すべての図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比等は、必ずしも現実の物品と対応するものではない。
【0014】
本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。また、数値範囲の下限値および上限値は、それぞれ他の数値範囲の下限値および上限値と任意に組み合わせられる。
【0015】
本明細書に例示する各成分および材料は、特に断らない限り、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
本実施形態において「覆う」とは連続的である場合に限られず、一部に非連続的な部分があってもよいことを意味する。
【0017】
本実施形態のエレクトロクロミックレンズは、エレクトロクロミックシートを用いて所望のレンズに対応するように加工されたものである。
そこで、まず、本実施形態のエレクトロクロミックシート100について説明する。
【0018】
<エレクトロクロミックシート>
図1は、エレクトロクロミックシート100の実施形態の一例を示す模式断面図である。
図1に示すように、エレクトロクロミックシート100は、電解質層4、第1のエレクトロクロミック層3および第2のエレクトロクロミック層5が順に積層した積層体(以下、「エレクトロクロミック素子10」ともいう)と、エレクトロクロミック素子10の側面を覆う封止材8と、エレクトロクロミック素子10と封止材8の上下面を挟む一対の透明基材層(第1の透明基材層1、および第2の透明基材層7)と、を備える。
換言すると、エレクトロクロミックシート100は、第1の透明基材層1上に、順次積層された第1のエレクトロクロミック層3、電解質層4、第2のエレクトロクロミック層5、および第2の透明基材層7を備え、第1のエレクトロクロミック層3、電解質層4および第2のエレクトロクロミック層5の側面がそれぞれ封止材8により覆われている。
【0019】
本実施形態において、エレクトロクロミックシート100はさらに、第1の透明基材層1と第1のエレクトロクロミック層3との間に第1の電極2を有し、第2の透明基材層7と第2のエレクトロクロミック層5との間に第2の電極6を有している。
【0020】
さらに、エレクトロクロミックシート100は、封止材8の厚み方向に貫通する第1の柱状導電部22および第2の柱状導電部62を有する。第1の柱状導電部22および第2の柱状導電部62はいずれも電解質層4と電気的に接続している。
また、第1の柱状導電部22は、封止材8を貫通し、第1の電極2上に設けられた第1の補助電極層21から、第2の透明基材層7まで到達している。同様に、第2の柱状導電部62は、封止材8を貫通し、第2の電極6上に設けられた第2の補助電極層61から、第1の透明基材層1まで到達している。
【0021】
本実施形態において、エレクトロクロミックシート100は、電解質層4の両面に第1のエレクトロクロミック層3および第2のエレクトロクロミック層5が積層された例を挙げて説明するが、エレクトロクロミック層はいずれか一方のみであってもよい。
各構成の詳細は、後述する。
【0022】
また、
図1は、エレクトロクロミックシート100の一部であり、単一のエレクトロクロミック素子10とそれを囲う封止材9部分を取り上げて示しているが、エレクトロクロミックシート100は、複数のエレクトロクロミック素子10が、各エレクトロクロミック素子10の側面を覆う封止材8によって区画されたものであってもよい。
【0023】
次に、エレクトロクロミックシートを用いて本実施形態のエレクトロクロミックレンズ300を製造する方法について説明する。
【0024】
<エレクトロクロミックレンズの製造方法>
以下、本発明のエレクトロクロミックシート100を曲形状とした湾曲シート120を備えるレンズ30の製造方法の各工程を詳述する。
図2は、本実施形態のエレクトロクロミックシートを用いてレンズを製造する方法を示す模式図である。
図2の上側を「上」、
図2の下側を「下」として、以下、説明する。
図2に示すように、エレクトロクロミックシート110は、複数のエレクトロクロミック素子10と、これを囲う封止材8とを有する、換言すると封止材8により区画された複数のエレクトロクロミック素子10を有する。
【0025】
(工程1)
まず、エレクトロクロミックシート110の両面に、保護フィルム50(マスキングテープ)を貼付することで、エレクトロクロミックシート110の両面に保護フィルム50が貼付された連結シート積層体210を得る(
図2(a)参照)。
【0026】
(工程2)
次に、
図2(b)に示すように、連結シート積層体210を、各エレクトロクロミック素子10に対応するようにして、その厚さ方向に打ち抜くことで、連結シート積層体210が平面視で略長方形形状をなすものに個片化された、素子積層体250を得る。すなわち、両面に保護フィルム50を貼付した状態をなして、各エレクトロクロミック素子10およびこの外縁を覆う封止材9に対応して、略長方形形状に個片化されたエレクトロクロミックシート100を得る(
図1参照)。
【0027】
個片化されたエレクトロクロミックシート100の形状として、長方形形状、円形形状、楕円形状等各種の形状を採用しうる。どのような形状を採用するかは最終的なレンズ30に応じて、適宜選択されうる。
【0028】
(工程3)
次に、
図2(c)に示すように、個片化された素子積層体250に対して、加熱下で熱曲げ加工を施すことで、素子積層体250を、一方の面側が湾曲凹面とされ、他方の面側が湾曲凸面とされた湾曲形状をなす湾曲素子積層体220とする。これにより、平板状をなすエレクトロクロミックシート100を、両面に保護フィルム50が貼付された状態で、湾曲形状をなす湾曲シート120とすることができる。
【0029】
この熱曲げ加工は、通常、プレス成形または真空成形により実施される。
この際の素子積層体250(エレクトロクロミックシート100)の加熱温度(成形温度)は、好ましくは110℃以上170℃以下程度、より好ましくは130℃以上160℃以下程度に設定される。加熱温度をかかる範囲内に設定することにより、エレクトロクロミックシート100の変質・劣化を防止しつつ、エレクトロクロミックシート100を軟化または溶融状態として、エレクトロクロミックシート100を確実に熱曲げして、湾曲形状をなす湾曲シート120とすることができる。
【0030】
(工程4)
次に、熱曲げがなされた湾曲シート120から、保護フィルム50を剥離させる。その後、
図2(d)に示すように、湾曲形状とされた湾曲凹面を備える金型40に、金型40の湾曲凹面と湾曲シート120の湾曲凸面とが当接するようにして、湾曲シート120を吸着させた状態で、例えば、インサート射出成形法等を用いて、この湾曲シート120の湾曲凹面に、樹脂材料を主材料として構成される樹脂層35(成形層)を射出成形する。より詳細には、湾曲シート120を下型42に吸着させた状態で、上型41を取り付け、例えば、インサート射出成形法等を用いて、下型42と上型41とにより形成された空間であるキャビティ43に、樹脂材料を主材料として構成される樹脂層35を成形する。
すなわち、溶融状態とされた樹脂層35の構成材料を、湾曲シート120の湾曲凹面に、接触させた状態で冷却して固化させることにより、湾曲シート120の湾曲凹面に、接着剤層等を介することなく、樹脂層35を、直接、接触させた状態で成形する。これにより、熱曲げがなされた湾曲シート120と、樹脂層35とを備える素レンズ30が製造される。
【0031】
この樹脂層35を射出成形する際における、溶融状態とするための樹脂層35の構成材料の加熱温度(成形温度)は、樹脂層35の構成材料の種類に応じて適宜設定されるが、樹脂層35の構成材料が、湾曲シート120が備える透明基材層(第1の透明基材層1、および第2の透明基材層7)の構成材料と、同種もしくは同一である場合、好ましくは180℃以上320℃以下程度、より好ましくは230℃以上300℃以下程度に設定される。加熱温度をかかる範囲内に設定することにより、湾曲シート120の湾曲凹面に、溶融状態とされた樹脂層35の構成材料を、確実に供給することができる。
【0032】
また、インサート射出成形法の中でも、射出圧縮成形法が好ましく用いられる。射出圧縮成形法は、金型40の中に樹脂層35を形成するための樹脂材料を低圧で射出した後、金型を40高圧で閉じてこの樹脂材料に圧縮力を加える方法をとるため、成形体としての樹脂層35ひいては素レンズ30に成形歪みや成形時の樹脂分子の局所的配向に起因する光学的異方性が生じにくいことから好ましく用いられる。また、樹脂材料に対して均一に加わる金型圧縮力を制御することにより、一定比容で樹脂材料を冷却することができるので、寸法精度の高い樹脂層35を得ることができる。
【0033】
そして、製造された素レンズ30の縁部を切削するトリミング加工を施す。これにより、封止材8を外縁とし、内部にエレクトロクロミック素子10を有する、所望の形状のエレクトロクロミックレンズ300を得ることができる(
図3)。
【0034】
<エレクトロクロミックレンズ>
本実施形態のエレクトロクロミックレンズ300は、エレクトロクロミック素子10と、エレクトロクロミック素子10の側面を覆う封止材8と、エレクトロクロミック素子10と封止材8を挟む一対の透明基材層(第1の透明基材層1、および第2の透明基材層7)と、を備え、以下の要件aを満たすものである。
【0035】
(要件a)エレクトロクロミックレンズ300の上面から第1の透明基材層1または第2の透明基材層7を介して封止材8をみた時の正射影において測定される、封止材8の内周側の縁の長さをL(mm)、封止材8が占める領域の面積をS(mm2)、S/LをW(mm)としたとき、
Wが1mm未満となる第1領域と、Wが1.5mm以上となる第2領域とが存在し、
前記第1領域の面積をS1(mm2)とし、前記第2領域の面積をS2(mm2)としたとき、S1/S(百分率)が50%以上であり、S2/S(百分率)が1~40%であり、
前記第2領域は、封止材8の内周側の縁の任意の位置での4mmの長さをLaとし、当該Laを含む封止材8が占める領域の面積をSa(mm2)とし、Sa/LaをWa(mm)としたとき、Wa(mm)が1.5mm以上となる領域を含む。
【0036】
すなわち、エレクトロクロミックレンズ300は、その外縁に位置する封止材8の正射影における幅が、1mm以下である領域と、1.5mm以上となる領域とを所定の割合で有するものである。これにより、封止材8に水分および酸素バリア性を保持しつつ、エレクトロクロミックレンズ300を使用した際に第1の透明基材層1または第2の透明基材層7を介して視認される封止材8による意匠性の低下を低減できる。すなわち、封止材8の幅が狭い領域と広い領域とを有することで、幅が狭い領域においては封止材8が視認されにくくなり外観の意匠性を高めつつ、幅が広い領域においては封止材8によるバリア機能をより発揮できるため、エレクトロクロミックレンズ300全体としての良好な外観を得つつ、性能を保持しやすくなる。
【0037】
エレクトロクロミックレンズ300の正射影とは、エレクトロクロミックレンズ300が全体に湾曲している場合、凸部が上方となるように水平面上に配置したとき、その垂直方向から見た時に観察される外観を意図する。
【0038】
上記要件aにおいて、S1/S(百分率)が50%以上であり、S2/S(百分率)が1~40%であり、好ましくはS1/S(百分率)が70~99%であり、S2/S(百分率)が1~30%である。
【0039】
上記要件aにおいて、W(=S/L)は特に限定されないが、0.3~10mmであることが好ましく、0.8~8.0mmであることがより好ましい。
【0040】
前記第2領域は、Wが1.5mm以上となる領域であるが、Wが2.0mm以上であってもよく、W3.0mm以上であってもよい。
【0041】
例えば、第2領域は、Wが3.0mm以上となる領域とした場合、S2/S(百分率)が1~10%であることが好ましい。
【0042】
また、エレクトロクロミックレンズ300は、前記第2領域において封止材8を貫通する貫通電極(第1の柱状導電部22、または、第2の柱状導電部62)を有することが好ましい。これにより、エレクトロクロミックレンズ300の外観の低下を抑制しつつ、発消色性能を保持することができる。
第1の柱状導電部22、または、第2の柱状導電部62の詳細は、後述するが、これらメガネレンズ形状となるように加工した際、メガネレンズの端部に露出するように位置される。具体的には、メガネレンズのブリッジ側またはメガネレンズのテンプル側(ブリッジ側とは反対側)が挙げられる。すなわち、第2領域はメガネレンズのブリッジとの接続部近傍またはメガネレンズのテンプルとの接続部近傍とすることが好ましい。
【0043】
また、エレクトロクロミックレンズ300は、第2領域において把持部を有することが好ましい。把持部とは、エレクトロクロミックレンズ300をアイウエア用のフレームにはめ込む際の溝部または凸部、あるいは、アイウエア用フレームにとりつける前のエレクトロクロミックレンズ300を把持するための溝部または凸部を意図する。例えば、フレーム上部に穴部を設け、凸状の把持部をはめ込むことで、エレクトロクロミックレンズ300をアイウエア用のフレームにとりつけてもよく、着脱自在としてもよい。
【0044】
また、把持部は、エレクトロクロミックレンズ300において1または2以上であってもよく、良好なデザイン性を得つつバランスよく保持する点から、把持部は2以上であって、エレクトロクロミックレンズ300において線対称となる位置に配置されることが好ましい。
【0045】
エレクトロクロミックレンズ300は、エレクトロクロミックレンズ300の中心からみて1~3時の方向、および9~11時の方向に第2の領域または把持部を有することが好ましい。なお、12時の方向は、エレクトロクロミックレンズ300を使用時に鉛直方向としたときの上方向である。
具体的には、
図4に、本実施形態のエレクトロミックレンズ300に把持部を設けた一例が示されている。
図4(a)は、エレクトロクロミックレンズ300の中心からみて2時の方向および10時の方向にそれぞれ把持部70aが設けられた例である。
図4(b)は、エレクトロクロミックレンズ300の中心からみて1時の方向および11時の方向であって、エレクトロクロミックレンズ300の上辺に一対の把持部70bが設けられた例である。
図4(c)は、エレクトロクロミックレンズ300の中心からみて2時の方向および10時の方向であって、エレクトロクロミックレンズ300の上辺角部に一対の把持部70cが設けられた例である。
【0046】
エレクトロクロミックレンズ300の平面視における形状は特に限定されず、公知の形状とすることができる。たとえば、ボストン(丸みのある逆三角形型)、ウエリントン(下辺より上辺の方が長い逆台形)、オーバル(玉子型)、スクエア(略四角型)、ラウンド(丸型)等が挙げられる。
【0047】
上記の要件aを満たすエレクトロクロミックレンズ300は、封止材9を構成する封止材料の選択やエレクトロクロミックシート100の製造方法を工夫したり、素レンズ30のトリミング方法を工夫すること等により実現することができる。
【0048】
<エレクトロクロミックシートの各構成>
以下、エレクトロクロミックシート100の各構成の詳細について説明する。
【0049】
[封止材]
封止材8は、電解質層4の側面と、第1のエレクトロクロミック層3および第2のエレクトロクロミック層5の側面とを一体に覆い、外部からエレクトロクロミック素子10への水分や酸素ガスの侵入を防ぐとともに、第1の透明基材層1および第2の透明基材層7と接着しエレクトロクロミック素子10との剥離を防ぐために用いられる。また、対向する第1の電極2および第2の電極6の間に形成された第1のエレクトロクロミック層3および第2のエレクトロクロミック層5の位置がずれると、動作時に発色品質が低下してしまうため、これを抑止するために用いられる。
【0050】
封止材8の平均厚さ(積層方向の長さ)は、エレクトロクロミック素子10の平均厚さに応じて調整されるが、例えば、好ましくは20μm以上100μm以下程度、より好ましくは40μm以上80μm以下程度に設定される。
【0051】
封止材8は、後述の封止材料を用いて形成される。
【0052】
(封止材料)
本実施形態の封止材料としては、絶縁性材料であれば、特に限定されないが、硬化性樹脂を含むことが好ましい。
【0053】
・硬化性樹脂
硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、マレイミド樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、シアネート樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、および不飽和ポリエステル樹脂の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。紫外線反応性官能基、および熱反応性官能基の少なくとも一方を有するものが好ましく、(メタ)アクリロイル基および/またはエポキシ基を有するものがより好ましい。硬化性樹脂としては、例えば、(メタ)アクリレート、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。
【0054】
上記(メタ)アクリレートとしては特に限定されず、例えば、ウレタン結合を有するウレタン(メタ)アクリレート、グリシジル基を有する化合物と(メタ)アクリル酸とから誘導されるエポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0055】
上記ウレタン(メタ)アクリレートとしては特に限定されず、例えば、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネートと、アクリル酸、ヒドロキシエチルアクリレート等のイソシアネートと付加反応する反応性化合物との誘導体等が挙げられる。これらの誘導体はカプロラクトンやポリオール等で鎖延長させてもよい。
【0056】
上記エポキシ(メタ)アクリレートとしては特に限定されず、例えば、エポキシ化合物と(メタ)アクリル酸とを、常法に従って塩基性触媒の存在下で反応することにより得られるもの等が挙げられる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂やプロピレングリコールジグリシジルエーテル等のエポキシ樹脂と、(メタ)アクリル酸とから誘導されたエポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0057】
その他の(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、(ポリ)エチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリストールトリアクリレート、およびグリセリンジメタクリレート等の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0058】
上記エポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジルトルイジン、ジアミノジフェニルメタン型グリシジルアミン、アミノフェノール型グリシジルアミンなどの芳香族グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリフェノールプロパン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェニレンおよび/またはビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレンおよび/またはビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂などのアラルキル型エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、アリサイクリックジエポキシ-アジペイドなどの脂環式エポキシなどの脂肪族エポキシ樹脂等の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0059】
本実施形態の封止材料は、さらに無機粒子を含んでもよい。
【0060】
・無機粒子
無機粒子としては、シリカ、タルク、ガラスビーズ、石綿、石膏、珪藻土、スメクタイト、ベントナイト、モンモリロナイト、セリサイト、活性白土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化錫、酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化珪素、硫酸バリウム、珪酸カルシウム等の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0061】
無機粒子は、表面を疎水処理したものであってもよい。例えば、エポキンシラン、アミノシラン、(メタ)アクリルシラン、ビニルシラン、メチルクロロシラン、ジメチルポリシロキサン等を用いて、無機粒子を公知の方法で表面処理できる。無機粒子としては、疎水処理をしたものと、そうでないものとを混合して用いてもよい。
【0062】
無機粒子の含有量は、封止材料全量に対して、1~80質量%であり、好ましくは3~70質量%であり、20~60質量%である。
【0063】
・その他
本実施形態の封止材料は、上記硬化性樹脂、無機粒子の他、有機粒子、重合開始剤、熱硬化剤等を含んでもよい。
【0064】
上記有機粒子としては、例えば、ポリエステル微粒子、ポリウレタン微粒子、ビニル重合体微粒子、アクリル重合体微粒子、シリコーン微粒子、コアシェル型ゴム微粒子等の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0065】
上記重合開始剤としては、例えば、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤等が挙げられる。
【0066】
上記ラジカル重合開始剤としては、光照射によりラジカルを発生する光ラジカル重合開始剤、加熱によりラジカルを発生する熱ラジカル重合開始剤等が挙げられる。
【0067】
上記光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、アセトフェノン系化合物、アシルフォスフィンオキサイド系化合物、チタノセン系化合物、オキシムエステル系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、チオキサントン等が挙げられる。
【0068】
上記熱ラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾ化合物、有機過酸化物等からなるものが挙げられる。なかでも、高分子アゾ化合物からなる高分子アゾ開始剤が好ましい。
【0069】
上記カチオン重合開始剤としては、光カチオン重合開始剤を好適に用いることができる。
上記光カチオン重合開始剤は、光照射によりプロトン酸またはルイス酸を発生するものであれば特に限定されず、イオン性光酸発生タイプのものであってもよいし、非イオン性光酸発生タイプであってもよい。
上記光カチオン重合開始剤としては、例えば、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ハロニウム塩、芳香族スルホニウム塩等のオニウム塩類、鉄-アレン錯体、チタノセン錯体、アリールシラノール-アルミニウム錯体等の有機金属錯体類等が挙げられる。
【0070】
上記重合開始剤の含有量は、硬化性樹脂100重量部に対して、好ましくは0.1~30重量部であり、より好ましくは1~10重量部である。
上記重合開始剤の含有量が上記下限値以上であることにより、封止材料が硬化性により優れるものとなる。一方、上記重合開始剤の含有量が上記上限値以下であることにより、封止材料が保存安定性により優れるものとなる。
【0071】
上記熱硬化剤は、加熱により上記硬化性樹脂中の熱反応官能基を反応させ、架橋させるためのものであり、硬化後の硬化性樹脂組成物の接着性、耐湿性を向上させる役割を有する。
上記熱硬化剤としては、例えば、有機酸ヒドラジド、イミダゾール誘導体、アミン化合物、多価フェノール系化合物、酸無水物等が挙げられる。なかでも、固形の有機酸ヒドラジドが好適に用いられる。
【0072】
上記熱硬化剤の含有量は、硬化性樹脂100重量部に対して、好ましくは0.1~50重量部であり、より好ましくは1~30重量部である。
上記重合開始剤の含有量が上記下限値以上であることにより、封止材料が硬化性により優れるものとなる。一方、上記重合開始剤の含有量が上記上限値以下であることにより、封止材料の塗布性がより優れるものとなる。
【0073】
その他、必要に応じて、シランカップリング剤、遮光剤、反応性希釈剤、スペーサー、硬化促進剤、消泡剤、レベリング剤、重合禁止剤、その他のカップリング剤等の添加剤を含有してもよい。
【0074】
(封止材料の製法)
本実施形態の封止材料を製造する方法としては、例えば、混合機を用いて、硬化性樹脂と、必要に応じて添加する、無機粒子と、重合開始剤および/または熱硬化剤やシランカップリング剤等の添加剤とを混合する方法等が挙げられる。
上記混合機としては、例えば、ホモディスパー、ホモミキサー、万能ミキサー、プラネタリーミキサー、ニーダー、3本ロール、自転公転式ミキサー等が挙げられる。
【0075】
[電解質層]
電解質層4は、第1のエレクトロクロミック層3と第2のエレクトロクロミック層5との間に配置され、イオン電導性を有する電解質を含有するものである。
【0076】
電解質層4の平均厚さは、特に限定されないが、好ましくは20μm以上100μm以下程度、より好ましくは40μm以上80μm以下程度に設定される。
【0077】
電解質層4は、バインダー樹脂、および電解質を含む。
【0078】
前記バインダー樹脂は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、重合膜としての相分離温度、膜強度の点で、ウレタン樹脂ユニットを含むことが好ましい。またポリエチレンオキシド(PEO)鎖を含むことで、電解質との相溶性が向上し、相分離温度を高めることができる。また、ポリメチルメタリクレート(PMMA)鎖を含むことで、PEO鎖を含むのと同様に、電解質との相溶性が向上し、相分離温度を高めることができる。
【0079】
電解質としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機イオン塩、4級アンモニウム塩や酸類、アルカリ類の支持塩等が挙げられ、具体的には、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3COO、KCl、NaClO3、NaCl、NaBF4、NaSCN、KBF4、Mg(ClO4)2、Mg(BF4)2等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0080】
これらの他、電解質の材料としては、イオン性液体を用いることもできる。このイオン性液体の中でも、有機のイオン性液体は、室温を含む幅広い温度領域で液体を示す分子構造を有していることから、取り扱いが容易であるため好ましく用いられる。
【0081】
有機のイオン性液体の分子構造として、カチオン成分としては、例えば、N,N-ジメチルイミダゾール塩、N,N-メチルエチルイミダゾール塩、N,N-メチルプロピルイミダゾール塩等のイミダゾール誘導体;N,N-ジメチルピリジニウム塩、N,N-メチルプロピルピリジニウム塩等のピリジニウム誘導体;トリメチルプロピルアンモニウム塩、トリメチルヘキシルアンモニウム塩、トリエチルヘキシルアンモニウム塩等の脂肪族4級アンモニウム系等が挙げられる。また、アニオン成分としては、大気中での安定性を考慮して、フッ素を含んだ化合物を用いることが好ましく、例えば、BF4
-、CF3SO3
-、PF4
-、(CF3SO2)2N-等が挙げられる。
【0082】
このような電解質の材料としては、カチオン成分とアニオン成分とを任意に組み合わせたイオン性液体であることが好ましい。
【0083】
イオン性液体は、光重合性モノマー、オリゴマー、および液晶材料のいずれかに直接溶解させてもよい。なお、これらの材料に対する溶解性が悪い場合には、少量の溶媒に溶解させた溶液を得た後に、この溶液を光重合性モノマー、オリゴマー、および液晶材料のいずれかと混合することで溶解させてもよい。
【0084】
溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、γ-ブチロラクトン、エチレンカーボネート、スルホラン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,2-ジメトキシエタン、1,2-エトキシメトキシエタン、ポリエチレングリコール、アルコール類、またはこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0085】
電解質層4として充填される電解質は、固体、液体のいずれであってもよいが、電解質が低粘性の液体である場合の他、例えば、ゲル状や高分子架橋型、液晶分散型等の様々な形態をとることが可能である。中でも、電解質は、ゲル状、固体状に形成することが好ましい。これによりエレクトロクロミック素子10の素子強度向上や、信頼性向上等を図ることができる。
【0086】
電解質層4を、固体状をなすものとする方法としては、例えば、電解質と溶媒とを含む液体をバインダー樹脂中に保持する方法が好ましい。これにより、電解質層4の高いイオン伝導度と固体強度との双方を得ることができる。また、ポリマー樹脂としては、例えば、光硬化性樹脂であることが好ましい。これにより、熱重合や、溶媒の気化により固体状をなす電解質層4を得る場合と比較して、低温かつ短時間で、固体状をなす電解質層4を得ることができる。
【0087】
電解質層4がゲル状である場合、例えば、以下のようにして作製することができる。
まず、組成物溶液を作製し、作製した組成物溶液を型やフィルムに挟んで重合させるキャスト重合法等を用いた重合反応により製造することができる。前記組成物溶液は、前記イオン液体あるいは固体電解質を溶媒と混合した電解液と、重合性材料とウレタンアクリレートモノマー、及び必要に応じて、PEO鎖を有するアクリレートモノマー、及び必要に応じて、PMMA鎖を有するアクリレートモノマーを所望比率で混合し、必要に応じて、前記重合開始剤、及びその他の成分を混合することができる。
その他の作製方法としては、重合前の組成物溶液を、一方のエレクトロクロミック層上に塗布し、紫外線照射や加熱によって重合させる方法も用いることができる。また、前記エレクトロクロミック層を形成した前記支持体を5μm以上150μm以下のギャップを保持した状態で対向させ、組成物溶液を充填した後で紫外線照射や加熱によって重合させる方法も用いることができる。
【0088】
[エレクトロクロミック層]
第1のエレクトロクロミック層3および第2のエレクトロクロミック層5は、エレクトロクロミック材料を含む層であり、電解質層4の上下面において電解質層4を挟むように配置される。
【0089】
以下、第2のエレクトロクロミック層5が金属ナノ粒子と、エレクトロクロミック材料を含む場合について説明するが、第1のエレクトロクロミック層3が金属ナノ粒子と、エレクトロクロミック材料を含む場合であっても、酸化還元の作用が異なるものの、その他の構成、効果等は同様である。
【0090】
(金属ナノ粒子)
金属ナノ粒子は、優れた導電性をし、エレクトロクロミック材料を通電することができる。
金属ナノ粒子としては、導電性を有する金属粒子であればよく、具体的には、例えば酸化錫、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン(V)、酸化ジルコニウム、および酸化イットリウムの中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。なかでも、酸化錫、酸化チタンが好ましい。
【0091】
金属ナノ粒子の平均一次粒子径(以下、「粒径」とも称する)は、1nm~100nmであることが好ましく、3~8nmであることがより好ましい。
粒径を上記下限値以上とすることで良好な発消色性能を得ることができる。一方、粒径を上記上限値以下とすることで、第2のエレクトロクロミック層5の透明性を保持したり、比表面積を高めることでエレクトロクロミック材料の担持量を増加させることができる。
【0092】
金属ナノ粒子が担持するエレクトロクロミック材料は、1種類または2種以上の化合物であってもよい。
【0093】
なお、第2のエレクトロクロミック層5は、金属ナノ粒子のゾル溶液から形成することが好ましい。これにより、良好なヘイズ値を得たり、反射率を高めることができる。
【0094】
(エレクトロクロミック材料)
エレクトロクロミック材料は、電圧により、酸化還元反応を生じ、発色および消色を可逆的に行うことができるエレクトロクロミック化合物により構成されるものである。
【0095】
エレクトロクロミック材料としては、無機エレクトロクロミック化合物、有機エレクトロクロミック化合物のいずれであってもよく、色素系、ポリマー系、金属錯体系、および金属酸化物系等の公知のエレクトロクロミック化合物を用いることができる。
【0096】
上記エレクトロクロミック材料としては、無機エレクトロクロミック化合物及び有機エレクトロクロミック化合物のいずれであっても構わない。また、エレクトロクロミズムを示すことで知られる導電性ポリマーを用いてもよい。
第1のエレクトロクロミック層3と第2のエレクトロクロミック層5には、これらエレクトロクロミック材料から適宜選択することが可能であるが、一方が酸化発色性を有するエレクトロクロミック材料を用いた場合には、他方は還元発色性を有するエレクトロクロミック材料を用いることが好ましい。
酸化発色性を有するエレクトロクロミック材料としては、ラジカル重合性化合物を含む酸化発色性エレクトロクロミック組成物を重合した重合物が好ましく、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含有するエレクトロクロミック組成物が特に好ましい。
【0097】
エレクトロクロミック材料の単分子の長さは、5nm以下であることが好ましい。
【0098】
(第1のエレクトロクロミック層)
第1のエレクトロクロミック層3は、酸化反応によって着色を呈するエレクトロクロミック材料を主材料として含有し、これにより、着色がなされる層である。
【0099】
第1のエレクトロクロミック層3の平均厚さは、特に限定されないが、0.1μm以上30μm以下程度であるのが好ましく、0.4μm以上10μm以下程度であるのがより好ましい。
【0100】
第1のエレクトロクロミック層3に、主材料として含まれる、酸化反応によって着色を呈するエレクトロクロミック材料としては、特に限定されず、例えば、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含む組成物を重合した重合物、ビスアクリダン化合物、プルシアンブルー型錯体、および酸化ニッケルが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0101】
トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含む組成物を重合した重合物としては、例えば、特開2022-25243号公報、特開2016-45464号公報、特開2020-138925号公報等に記載のものが挙げられる。
【0102】
また、プルシアンブルー型錯体としては、例えば、Fe(III)4[Fe(II)(CN)6]3からなる材料が挙げられる。
【0103】
これらの中でも、定電圧で動作可能であり、繰返し耐久性に優れ、高コントラストなエレクトロクロミック素子が得られる点から、特に、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含む組成物を重合した重合物が好ましく用いられる。
【0104】
なお、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含む組成物は、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物とは異なる他のラジカル重合性化合物を含み、かかる組成物を重合した重合物は、これらのラジカル重合性化合物が架橋した架橋物で構成されていてもよい。
【0105】
(第2のエレクトロクロミック層)
第2のエレクトロクロミック層5は、還元反応によって透明から着色を呈するエレクトロクロミック材料を主材料として含有し、これにより、着色がなされる層である。
【0106】
第2のエレクトロクロミック層5の平均厚さは、特に限定されないが、0.2μm以上5.0μm以下程度であるのが好ましく、1.0μm以上4.0μm以下程度であるのがより好ましい。前記平均厚さが、0.2μm未満であると、エレクトロクロミック材料の種類によっては、発色濃度が得にくくなるおそれがあり、5.0μmを超えると、製造コストが増大すると共に、エレクトロクロミック材料の種類によっては、着色によって視認性が低下するおそれがある。
【0107】
第2のエレクトロクロミック層5は、第1のエレクトロクロミック層3と同じ色調のエレクトロクロミック材料を用いることが好ましい。これにより、最大発色濃度の向上が図られ、その結果、コントラストを改善することできる。
【0108】
また、これに対して、異なる色調の材料を用いた場合には、混色が可能となる。また、第1の電極2および第2の電極6との両極側で、酸化反応と還元反応とにより着色させることで、エレクトロクロミック層3、電解質層4、および第2のエレクトロクロミック層5における駆動電圧を効果的に低減し得ることから、エレクトロクロミックシート100の繰返し耐久性の向上が図れる。
【0109】
第2のエレクトロクロミック層5に、主材料として含まれる、還元反応によって着色を呈するエレクトロクロミック材料としては、特に限定されず、例えば、無機エレクトロクロミック化合物、有機エレクトロクロミック化合物、導電性ポリマー等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0110】
無機エレクトロクロミック化合物としては、例えば、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化イリジウム、酸化チタン等が挙げられ、中でも、酸化タングステンが好ましい。酸化タングステンは、還元電位が低いことに基づいて、発消色電位が低く、さらに、無機材料であるため耐久性に優れることから、好ましく用いられる。
【0111】
また、有機エレクトロクロミック化合物としては、例えば、アゾベンゼン系、アントラキノン系、ジアリールエテン系、ジヒドロプレン系、ジピリジン系、スチリル系、スチリルスピロピラン系、スピロオキサジン系、スピロチオピラン系、チオインジゴ系、テトラチアフルバレン系、テレフタル酸系、トリフェニルメタン系、トリフェニルアミン系、ナフトピラン系、ビオロゲン系、ピラゾリン系、フェナジン系、フェニレンジアミン系、フェノキサジン系、フェノチアジン系、フタロシアニン系、フルオラン系、フルギド系、ベンゾピラン系、メタロセン系等の低分子系有機エレクトロクロミック化合物等が挙げられ、中でも、ビオロゲン系化合物、ジピリジン系化合物が好ましい。これらの化合物は、発消色電位が低く、良好な色値を示すことから好ましく、用いられる。
【0112】
ビオロゲン系化合物としては、例えば、特開2022-025243号公報、特許第3955641号公報、特開2007-171781号公報等に記載のものが挙げられる。また、ジピリジン系化合物としては、例えば、特開2007-171781号公報、特開2008-116718号公報等に記載のものが挙げられる。
【0113】
導電性ポリマーとしては、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、またはこれらの誘導体等が挙げられる。
【0114】
[透明基材層]
第1の透明基材層1および第2の透明基材層7は、第1の電極2、第1のエレクトロクロミック層3、電解質層4、第2のエレクトロクロミック層5、第2の電極6、および封止材8を支持する機能を有する。また、エレクトロクロミックシート100の最外層となる。
【0115】
また、第1の透明基材層1および第2の透明基材層7は、エレクトロクロミックシート100の最外層を構成する。すなわち、少なくとも第1のエレクトロクロミック層3、電解質層4、第2のエレクトロクロミック層5は、外部に露出しないこととなる。そのため、第1のエレクトロクロミック層3、電解質層4、第2のエレクトロクロミック層5を外部からの水分や酸素ガス、物理的な衝撃・摩擦等から保護することができる。
【0116】
第1の透明基材層1および第2の透明基材層7は、透明性を有する樹脂材料を主材料で構成されるものであれば、特に限定されないが、熱可塑性を有する透明樹脂(ベース樹脂)を主材料として含有するものであることが好ましい。
【0117】
透明樹脂としては、特に限定されないが、例えば、エピスルフィド系樹脂、チオウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ノルボルネン系樹脂、シリコーン系樹脂の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0118】
これらの中でも、ポリカーボネート系樹脂またはポリアミド系樹脂であるのが好ましく、特にポリカーボネート系樹脂であるのが好ましい。ポリカーボネート系樹脂は、透明性(透光性)や剛性等の機械的強度に富み、さらに耐熱性も高いため、透明樹脂にポリカーボネート系樹脂を用いることで、第1の透明基材層1および第2の透明基材層7における透明性や耐衝撃性、耐熱性を向上させることができる。
【0119】
このポリカーボネート系樹脂としては、各種の樹脂を用いることができるが、中でも、芳香族系ポリカーボネート系樹脂であることが好ましい。芳香族系ポリカーボネート系樹脂は、その主鎖に芳香族環を備えており、これにより、より優れた強度を有する第1の透明基材層1および第2の透明基材層7を得ることができる。
【0120】
この芳香族系ポリカーボネート系樹脂は、例えば、ビスフェノールとホスゲンとの界面重縮合反応、ビスフェノールとジフェニルカーボネートとのエステル交換反応等により合成される。
【0121】
ビスフェノールとしては、例えば、ビスフェノールAや、以下の式(1A)に示すポリカーボネートの繰り返し単位の起源となるビスフェノール(変性ビスフェノール)等が挙げられる。
【0122】
【0123】
(式(1A)中、Xは、炭素数1~18のアルキル基、芳香族基または環状脂肪族基であり、RaおよびRbは、それぞれ独立して、炭素数1~12のアルキル基であり、mおよびnは、それぞれ0~4の整数であり、pは、繰り返し単位の数である。)
【0124】
なお、式(1A)に示すポリカーボネートの繰り返し単位の起源となるビスフェノールとしては、具体的には、例えば4,4’-(ペンタン-2,2-ジイル)ジフェノール、4,4’-(ペンタン-3,3-ジイル)ジフェノール、4,4’-(ブタン-2,2-ジイル)ジフェノール、1,1’-(シクロヘキサンジイル)ジフェノール、2-シクロヘキシル-1,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、2,3-ビスシクロヘキシル-1,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1’-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、2,2’-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0125】
なかでもポリカーボネート系樹脂としては、ビスフェノールに由来する骨格を有するビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂を主成分とするのが好ましい。かかるビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂を用いることにより、第1の透明基材層1および第2の透明基材層7は、さらに優れた強度を発揮する。
【0126】
本実施形態において、積層体Aを構成する第2の透明基材層7の波長320nmにおける吸光度は、好ましくは1以下であり、より好ましくは0.8以下である。
第2の透明基材層7の波長295nmにおける吸光度は、好ましくは1以下であり、より好ましくは0.8以下である。
また、本実施形態において、積層体Aを構成する第2の透明基材層7は紫外線吸収剤を含まないものとしてもよい。この場合、本実施形態のエレクトロクロミックシート100を用いたアイウエア等において、紫外線カット機能を付与することができる。
一方、本実施形態において、第1の透明基材層1は、公知の紫外線吸収剤を含んでもよい。
【0127】
・着色剤
第1の透明基材層1および第2の透明基材層7は、光透過性を有していれば、さらに着色剤を含んでもよく、その色は、無色であっても、赤色、青色、黄色等、如何なる色であってもよい。
【0128】
これらの色の選択は、第1の透明基材層1および第2の透明基材層7に染料または顔料といった着色剤を含有させることにより可能になる。
染料としては、例えば、酸性染料、直接染料、反応性染料、および塩基性染料等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0129】
染料の具体例としては、例えば、C.I.アシッドイエロー17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブルー9,45,249、C.I.アシッドブラック1,2,24,94、C.I.フードブラック1,2、C.I.ダイレクトイエロー1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクトブラック19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック3,4,35等が挙げられる。
【0130】
第1の透明基材層1および第2の透明基材層7は、必要に応じて、上述した、透明樹脂、染料または顔料の他に、さらに、酸化防止剤、フィラー、可塑剤、光安定剤、紫外線吸収剤、熱線吸収剤、難燃剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0131】
また、第1の透明基材層1および第2の透明基材層7は、延伸されたものであってもよいし、非延伸のものであってもよい。
【0132】
さらに、第1の透明基材層1および第2の透明基材層7の波長589nmでの屈折率は、1.3以上1.8以下であるのが好ましく、1.4以上1.65以下であるのがより好ましい。第1の透明基材層1および第2の透明基材層7の屈折率n1を上記数値範囲とすることにより、エレクトロクロミックシート100の発消色機能が視認されやすくなる。
【0133】
第1の透明基材層1および第2の透明基材層7の平均厚さは、好ましくは0.01mm以上10.0mm以下、より好ましくは0.05mm以上5.0mm以下に設定される。
第1の透明基材層1および第2の透明基材層7の平均厚さがかかる範囲内に設定されることで、エレクトロクロミックシート100の薄型化を図りつつ、エレクトロクロミックシート100に撓みが生じるのを的確に抑制または防止することができる。
【0134】
第1の透明基材層と第2の透明基材層7は、互いに同じ構成材料としてもよく、また、異なるものとしてもよい。また、いずれも延伸されたものであってもよいし、一方のみを未延伸のものとしてもよい。
【0135】
第1の透明基材層と第2の透明基材層7は、互いに同じ屈折率としてもよく、また、異なるものとしてもよい。また、第1の透明基材層と第2の透明基材層7は、互いに同じ厚みとしてもよく、また、異なるものとしてもよい。
【0136】
[電極]
第1の電極2および第2の電極6は、それぞれ第1のエレクトロクロミック層3、電解質層4、第2のエレクトロクロミック層5にプラス電圧またはマイナス電圧を印加した際に、第1の電極2と第2の電極6との間に電子を供給するか、または、第1の電極2と第2の電極6との間から電子を受け取る電極である。
第1の電極2は第1のエレクトロクロミック層3の電解質層4側とは反対側の面上に設けられている。第2の電極6は第2のエレクトロクロミック層5の電解質層4側とは反対側の面上に設けられている。
【0137】
これら第1の電極2および第2の電極6の構成材料としては、透明性を有する導電材料であれば、特に限定されるものではないが、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)、FTO(F-doped Tin Oxide)、ATO(Antimony Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、In2O3、SnO2、Sb含有SnO2、Al含有ZnO等の酸化物、Au、Pt、Ag、Cuまたはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0138】
第1の電極2および第2の電極6の各々の作製方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等が挙げられる。また、第1の電極2および第2の電極6の各々の材料が塗布形成できるものであれば、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の各種印刷法等が挙げられる。
【0139】
第1の電極2および第2の電極6は、その平均厚さが、第1のエレクトロクロミック層3、および第2のエレクトロクロミック層5の酸化還元反応に必要な電気抵抗値が得られるように調整され、例えば、第1の電極2および第2の電極6の構成材料としてITOを用いた場合には、それぞれ独立して、好ましくは50nm以上200nm以下程度、より好ましくは100nm以上150nm以下程度に設定される。
【0140】
なお、第1の電極2および第2の電極6との間における各層の間には、例えば、絶縁性多孔質層、保護層等の中間層が設けられていてもよい。
【0141】
[柱状導電部]
第1の柱状導電部22は、配線として、エレクトロクロミック素子10から延伸して設けられた第1の電極2に、平面視で重なり、封止材8を貫通して設けられている(
図1参照)。そして、第1の柱状導電部22は、第1の補助電極層21を介して、第1の電極2に、電気的に接続されている。
【0142】
第1の柱状導電部22は、エレクトロクロミックシート100をメガネレンズに適用するためエレクトロクロミックシート100の外形をメガネレンズ形状となるように加工した際、メガネレンズの端部に露出するものである。これにより、第1の柱状導電部22を介して、エレクトロクロミック素子10に外部から通電することができる。
第2の柱状導電部62も、第1の柱状導電部22と同様に、エレクトロクロミックシート100をメガネレンズに適用するためエレクトロクロミックシート100の外形をメガネレンズ形状となるように加工した際、メガネレンズの端部に露出するものである。これにより、第2の柱状導電部62を介して、エレクトロクロミック素子10に外部から通電することができる。
この場合、メガネレンズのブリッジ側に第1の柱状導電部22が位置し、メガネレンズのテンプル側(ブリッジ側とは反対側)に第2の柱状導電部62を位置することができる。
【0143】
また、第1の柱状導電部22および第2の柱状導電部62は、それぞれ独立して、その平均厚さが好ましくは10μm以上100μm以下程度、より好ましくは20μm以上80μm以下、更に好ましくは30μm以上70μm以下程度に設定される。
【0144】
第1の柱状導電部22および第2の柱状導電部62の構成材料としては、導電性を有する導電性ペーストであればよい。これにより、第1の柱状導電部22および第2の柱状導電部62と封止材8との密着性を高めることができる。
【0145】
(その他の電極)
第1の補助電極層21は、配線として、第1の電極2の第1の透明基材層1とは反対側の表面において積層して設けられ、第1の柱状導電部22に、電気的に接続されている。
同様に、第2の補助電極層61は、配線として、第2の電極6の第2の透明基材層7とは反対側の表面において積層して設けられ、かつ、第2の柱状導電部62に、電気的に接続されている。
【0146】
第1の補助電極層21および第2の補助電極層61は、それぞれ、第1の電極2および第2の電極6の抵抗値よりも、その抵抗値が低く設定されている。そのため、第1の電極2と第1の補助電極層21との積層体、および、第2の電極6と第2の補助電極層61との積層体で、それぞれ、エレクトロクロミック素子10に電気的に接続された配線を構成することで、これら配線(積層体)に、より優れた電気導電性を付与することができる。
【0147】
第1の補助電極層21および第2の補助電極層61の構成材料としては、それぞれ、第1の電極2および第2の電極6よりも抵抗値が低いものであれば、特に限定されないが、優れた導電性を備えるものが用いられ、例えば、銀、アルミニウム、銅、クロムおよびモリブデン等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0148】
また、第1の補助電極層21および第2の補助電極層61は、それぞれ独立して、その平均厚さが好ましくは1nm以上100nm以下程度、より好ましくは5nm以上50nm以下程度に設定される。これにより、第1の補助電極層21および第2の補助電極層61に、補助電極としての機能を確実に付与することができる。
【0149】
[エレクトロクロミックシートの構成、厚み等]
本実施形態のエレクトロクロミックシート100の総厚は、特に限定されないが、0.3mm以上10.0mm以下であるのが好ましく、0.5mm以上5.0mm以下であるのがより好ましい。
エレクトロクロミックシート100の総厚を上記下限値以上とすることにより、強度を保持しつつ、層厚を上記上限値以下とすることで、エレクトロクロミックシート100を切断したり、湾曲させる等の加工性を良好にすることができる。
【0150】
なお、エレクトロクロミックシート100が備える各層は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換し、または他の層をさらに備えるものであってもよい。
【0151】
<エレクトロクロミックシートの製造方法>
エレクトロクロミックシート100の製造方法は、以下の工程を有する。
第1の透明基材層1上に第1の電極2を形成し、第1の電極2上に第1のエレクトロクロミック層3を積層する工程と、
第2の透明基材層7上に第2の電極6を形成し、第2の電極6上に、第2のエレクトロクロミック層5を形成する工程と、
第1のエレクトロクロミック層3の外縁を囲うように第1の電極2上に封止材料を塗布する、または、第2のエレクトロクロミック層5の外縁を囲うように第2の電極6上に封止材料を塗布する工程と、
電解質層4を準備し、電解質層4が介在するように第1のエレクトロクロミック層3および第2のエレクトロクロミック層5を対向させて、第1の透明基材層1および第2の透明基材層2を貼り合わせる工程と、
前記封止材料を硬化させて封止材8を形成する工程と、
を有し、
前記貼り合わせる工程において、前記封止材料を押し広げることによって、第1のエレクトロクロミック層3および第2のエレクトロクロミック層5が当該封止材料によって覆われるものである。
これにより、エレクトロクロミックシート100が得られる。
【0152】
<エレクトロクロミックシートの使用方法>
本実施形態のエレクトロクロミックシート100の使用方法は、
エレクトロクロミック素子10と、エレクトロクロミック素子10の側面を覆う封止材8と、エレクトロクロミック素子10と封止材8を挟む一対の透明基材層)と、を備える、エレクトロクロミックシート100の使用方法であって、
エレクトロクロミックシート100を用いて、以下の要件bを満たすエレクトロクロミックレンズ300となるように加工する工程を含む。
【0153】
(要件b)エレクトロクロミックレンズ300の上面から、第1の透明基材層1または第2の透明基材層7を介して封止材8をみた時の正射影において測定される、封止材8の内周側の縁の長さをL(mm)、封止材8が占める領域の面積をS(mm2)、S/LをW(mm)としたとき、
Wが1mm未満となる第1領域と、Wが1.5mm以上となる第2領域とが存在し、
前記第1領域の面積をS1(mm2)とし、前記第2領域の面積をS2(mm2)としたとき、S1/S(百分率)が50%以上であり、S2/S(百分率)が1~40%であり、
前記第2領域は、封止材8の内周側の縁の任意の位置での4mmの長さをLaとし、当該Laを含む封止材8が占める領域の面積をSa(mm2)とし、Sa/LaをWa(mm)としたとき、Wa(mm)が1.5mm以上となる領域を含む。
【0154】
エレクトロクロミックレンズ300となるように加工する工程は、公知の方法を用いることができるが、例えば、封止材9により区画されたエレクトロクロミック素子10を含むエレクトロクロミックシート110を所望の形状に打ち抜いたり、所望の形状に打ち抜かれたエレクトロクロミック素子10を含み、外縁を封止材9とする素レンズ30の外縁をさらにトリミング加工すること、などにより行われる。
【0155】
要件bは、上記の要件aと同様に設定、制御することができる。
【0156】
本実施形態のエレクトロクロミックシート100の使用方法によれば、良好な外観を得つつも、発消色性能が保持されたエレクトロクロミックレンズ300を得ることができる。
【0157】
<エレクトロクロミック装置>
本実施形態のエレクトロクロミック装置は、上記のエレクトロクロミックレンズを有し、更に必要に応じてその他の手段を有する。
その他の手段としては、特に制限はなく、用途に応じて適宜選択することができ、例えば、電源、固定手段、制御手段などが挙げられる。
【0158】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0159】
1 第1の透明基材層
2 第1の電極
3 第1のエレクトロクロミック層
4 電解質層
5 第2のエレクトロクロミック層
6 第2の電極
7 第2の透明基材層
8 封止材
10 エレクトロクロミック素子
21 補助電極層
22 柱状導電部
30 素レンズ
35 樹脂層
40 金型
41 上金型
42 下金型
50 保護フィルム
61 補助電極層
62 柱状導電部
70a 把持部
70b 把持部
70c 把持部
100 エレクトロクロミックシート
110 エレクトロクロミックシート
120 湾曲シート
210 連結シート積層体
220 湾曲素子積層体
250 素子積層体
300 エレクトロクロミックレンズ