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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177953
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】回転電機用ステータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/24 20060101AFI20241217BHJP
   H02K 1/20 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
H02K3/24 Z
H02K1/20 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096397
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】藤森 琢也
(72)【発明者】
【氏名】大図 達也
(72)【発明者】
【氏名】山口 直志
【テーマコード(参考)】
5H601
5H603
【Fターム(参考)】
5H601AA16
5H601BB20
5H601CC01
5H601CC13
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD11
5H601DD30
5H601GA02
5H601GA22
5H601GB05
5H601GB12
5H601GB33
5H601GE02
5H601GE12
5H601HH23
5H603AA13
5H603BB01
5H603BB07
5H603BB09
5H603BB12
5H603CA01
5H603CA05
5H603CB02
5H603CB26
5H603CC05
5H603CD02
5H603CD22
5H603CE05
5H603FA21
(57)【要約】
【課題】回転電機用ステータのコイルの全体を効率よく冷却する。
【解決手段】回転電機用ステータ2は、軸方向に延在する周方向複数のスロット22が設けられたステータコア20と、スロット22に配置されたコイル21と、コイル21を包囲するようにスロット22に配置された絶縁部材40と、を備える。ステータコア20は、スロット22の互いに対向する一対の側面222a,222bを有し、側面222aは、側面222bに向けて突出し、絶縁部材40を介してコイル21の周方向一端部が当接する凸部25を有し、回転電機用ステータ2は、コイル21の周方向他端部と側面222bとの間に絶縁部材40を介して充填された発泡体45をさらに備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延在する周方向複数のスロットが設けられたステータコアと、
前記スロットに配置されたコイルと、
前記コイルを包囲するように前記スロットに配置された絶縁部材と、を備える回転電機用ステータであって、
前記ステータコアには、前記スロットの内部に冷却媒体を導く流路が設けられ、
前記ステータコアは、前記スロットの互いに対向する一対の内側の側面を構成する第1内側面および第2内側面を有し、
前記第1内側面は、前記第2内側面に向けて突出し、前記絶縁部材を介して前記コイルの周方向一端部が当接する凸部を有し、
前記回転電機用ステータは、前記コイルの周方向他端部と前記第2内側面との間に前記絶縁部材を介して充填された発泡体をさらに備えることを特徴とする回転電機用ステータ。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機用ステータにおいて、
前記絶縁部材は、前記第1内側面に対向する第1対向部と前記第2内側面に対向する第2対向部とを有し、
前記発泡体は、前記第1対向部と前記第2対向部のうち、予め前記第2対向部のみに設けられた発泡層により構成されることを特徴とする回転電機用ステータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の回転電機用ステータにおいて、
前記凸部は、径方向の複数箇所に設けられ、これら複数の凸部は、軸方向に延設されることを特徴とする回転電機用ステータ。
【請求項4】
請求項3に記載の回転電機用ステータにおいて、
前記ステータコアは、軸方向で互いに隣接する第1ステータコア部と第2ステータコア部とを有し、
前記複数の凸部は、前記第1ステータコア部に設けられた第1凸部と、前記第2ステータコア部に設けられた第2凸部と、を含み、
前記第1凸部と前記第2凸部とは、径方向の互いに異なる位置に設けられることを特徴とする回転電機用ステータ。
【請求項5】
請求項3に記載の回転電機用ステータにおいて、
前記コイルは、前記スロットの最も内径側に配置された最内径コイル部を含む軸方向に延在する複数のコイル部を有し、
前記凸部は、前記最内径コイル部の内径側端部に沿って前記ステータコアの軸方向に延在することを特徴とする回転電機用ステータ。
【請求項6】
請求項3に記載の回転電機用ステータにおいて、
前記コイルは、径方向に互いに隣り合ってそれぞれ軸方向に延在する第1コイル部と第2コイル部とを有し、
前記凸部は、前記第1コイル部と前記第2コイル部との境界部に沿って軸方向に延在することを特徴とする回転電機用ステータ。
【請求項7】
請求項2に記載の回転電機用ステータにおいて、
前記絶縁部材には、前記第1対向部を貫通し、前記流路に連通成する開口が設けられ、
前記凸部は、前記開口から前記凸部までの距離が所定距離以上となるように前記開口から径方向および軸方向に位置をずらして設けられることを特徴とする回転電機用ステータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機用ステータに関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機用ステータに含まれるコイルを冷却する技術として、従来、コイルエンドの上方に、軸方向に延在する冷却管を配置し、冷却管を介してコイルエンドの上方から冷却媒体を滴下するようにしたステータが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-34873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載のように、コイルエンドに向けて冷却媒体を滴下する構成では、スロット内の部位を含めたコイル全体を十分に冷却することが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様である回転電機用ステータは、軸方向に延在する周方向複数のスロットが設けられたステータコアと、スロットに配置されたコイルと、コイルを包囲するようにスロットに配置された絶縁部材と、を備える。ステータコアには、スロットの内部に冷却媒体を導く流路が設けられる。ステータコアは、スロットの互いに対向する一対の内側の側面を構成する第1内側面および第2内側面を有し、第1内側面は、第2内側面に向けて突出し、絶縁部材を介してコイルの周方向一端部が当接する凸部を有し、回転電機用ステータは、コイルの周方向他端部と第2内側面との間に絶縁部材を介して充填された発泡体をさらに備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ステータのコイル全体を十分に冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係る回転電機用ステータを含む回転電機の要部構成を示す断面図。
図2】スロットの構成を示す図1の要部拡大図。
図3A】スロットに配置される絶縁部材を構成するシート状基材の構成を示す斜視図。
図3B】スロットに配置される絶縁部材の構成を示す斜視図。
図4】本発明の実施形態に係る回転電機用ステータの製造工程を説明する斜視図。
図5】加熱前および加熱後の絶縁部材の側壁の構成を模式的に示す図。
図6図4のVI-VI線に沿ったステータコアの断面図。
図7】本発明の実施形態に係る回転電機用ステータの要部断面図であり、冷却油の流れを示す図。
図8図7の矢視VIII図。
図9図2の参考例を示す図。
図10図8の変形例を示す図。
図11A図10のA-A線に沿った断面図。
図11B図10のB-B線に沿った断面図。
図12図8の他の変形例を示す図。
図13A図12のA-A線に沿った断面図。
図13B図12のB-B線に沿った断面図。
図14図6とは異なる、スロットに至る流路の構成を示す図。
図15図14のスロットに収容される絶縁部材の斜視図。
図16図14の矢視XVI図。
図17】スロットに収容される絶縁部材の変形例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図1図17を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る回転電機用ステータを含む回転電機100の要部構成を示す断面図である。回転電機100は、ハイブリッド車両や電気自動車に搭載され、車両駆動用の電動機として用いることができ、発電機として用いることもできる。なお、回転電機100は、車両以外に搭載し、種々の用途に用いることもできる。
【0009】
図1は、回転電機100の要部構成を示す軸線CL0に直交する断面図である。図1に示すように、回転電機100は、軸線CL0を中心に回転するロータ1と、ロータ1の外周面1aを包囲するようにロータ1の外側に設けられたステータ2とを備える。ステータ2の周囲にはケース3が配置される。以下では、軸線CL0の延在する方向を軸方向、軸線CL0から放射状に延びる方向を径方向、軸線CL0を中心とした円の円周に沿った方向を周方向と定義する。
【0010】
回転電機100は、例えば埋込磁石型同期モータとして構成される。したがって、ロータ1は、軸線CL0を中心とした略円環形状のロータコア10と、ロータコア10に形成された周方向複数の磁極部(不図示)と、を有する。磁極部には永久磁石が埋設される。ロータコア10の内周面10aには、例えば回転電機100の出力軸を構成する不図示のロータシャフトが嵌合され、ロータ1はロータシャフトと一体に回転する。ロータ1の外周面1aはロータコア10の外周面に相当する。ロータコア10は、磁性体である金属製の複数枚(例えば数十枚)の電磁鋼板を軸方向に積層して形成される。1枚の電磁鋼板の厚さは1mm以下(例えば0.2mmないし0.3mm程度)である。
【0011】
ステータ2は、ロータ1の外周面1aから径方向に所定の間隔を隔てて配置された内周面20aを有する軸線CL0を中心とした略円環状のステータコア20と、ステータコア20に取り付けられたコイル21と、を有する。ステータコア20は、磁性体である金属製の複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成される。
【0012】
ステータコア20は、略円筒形状のヨーク24から径方向内側に向けて周方向等間隔に突設された周方向複数のティース23を有する。周方向に隣り合うティース23の間には、内周面20aから径方向外側に向けて周方向複数のスロット22が設けられ、各スロット22にコイル21が装着される。スロット22は、内周面20aの全周にわたって設けられるが、図1では、便宜上、周方向一部のスロット22のみを示す。スロット22の総数は例えば48である。スロット22の総数は48より多くてもよく、少なくてもよい。ステータコア20の外周面20bは、ケース3の内周面31に液密に嵌合される。
【0013】
コイル21は、略矩形断面を有する導体である。なお、コイル21は円形断面を有する導体であってもよい。コイル21は、U相コイル、V相コイルおよびW相コイルを含み、3相コイルとして構成される。U相コイル、V相コイルおよびW相コイルは、それぞれU相引き出し線、V相引き出し線およびW相引き出し線を介して不図示の電力変換装置と電気的に接続される。回転電機100を電動機として用いる場合には、電力変換装置から各コイル21に3相の交流電力が供給される。これにより、ステータ2に磁界が発生し、この磁界とロータ1の磁極部の永久磁石によって発生する磁界とが相互作用することにより、ロータ1が回転する。その結果、走行駆動力が発生し、車両が走行する。回転電機100を発電機として用いる場合には、回転電機100の駆動によって生じた3相の交流電力を、不図示の電力変換装置等に供給する。
【0014】
図2は、ステータ2の要部拡大図である。図2では、主に単一のスロット22とその周辺部の構成を示す。図2に示すように、スロット22は、ステータコア20の内周面20aに設けられた開口221と、開口221の径方向外側に設けられた収容部222とを有する。収容部222は、径方向に延在して互いに対向する一対の側面222a,222bと、周方向に延在し、一対の側面222a,222bの外径側の端部同士を接続する底面222cとを有する。収容部222の幅、すなわち一対の側面222a,222b間の距離(周方向長さ)は、径方向にかけて一定であり、収容部222は、径方向に細長の断面略矩形状に形成される。ティース23は、径方向内側の先端部に、周方向両側に突設された突出部231を有し、一対の突出部231(ティース先端部)の間に開口221が設けられる。収容部222の幅は、開口221の幅よりも大きい。
【0015】
スロット22には、断面略矩形枠形状の絶縁部材40が配置される。絶縁部材40は、内側に略直方体形状の収容空間を形成し、収容空間に、コイル21を形成する6本の導体セグメント210が径方向に一列に並べて配置される。なお、スロット内の導体セグメント210の本数は6本より多くてもよく、少なくてもよい。導体セグメント210は、絶縁被膜により被覆される。
【0016】
ステータコア20のスロット22の一方の側面222aには、コイル21(導体セグメント210)の位置に対応して径方向複数(6個)の凸部25が設けられ、側面222aは凹凸状に形成される。凸部25は、軸方向に所定長さにわたって延設される(図8参照)。なお、図2では、便宜上、径方向に配置された全ての凸部25を示しているが、実際の凸部25の配置は後述する。
【0017】
凸部25の先端部は、略円弧状(例えば半円状)に形成される。この場合、凸部25の直径を、例えば0.5mm程度とすることが好ましい。なお、スロット22の他方の側面222bは平坦面である。スロット22は、例えば電磁鋼板を打ち抜き加工することで形成され、その際に凸部25を同時に形成することができる。
【0018】
絶縁部材40は、シート状の基材を折り曲げて形成される。図3Aは、折り曲げ前のシート状基材400の全体構成を示す斜視図であり、図3Bは、シート状基材400の折り曲げによって形成された絶縁部材40の全体構成を示す斜視図である。なお、図3A図3BのX方向は軸方向に相当し、図3BのY方向およびZ方向は、それぞれ周方向および径方向に相当する。図3Aに示すように、シート状基材400は、接着層41と絶縁層42と発泡層43の3層構造である。
【0019】
絶縁層42は、電気絶縁性を有する樹脂材によって構成され、全体が略矩形状を呈する。絶縁層42の一方の面には、その全面にわたって接着層41が形成される。接着層41には予め接着剤が塗布される。絶縁層42の他方の面には、一部の領域に発泡層43が形成される。発泡層43は、例えばエポキシ系発泡樹脂材料等の熱硬化型発泡性樹脂材料によって構成される。発泡層43は、熱可塑性樹脂材料によって構成されてもよい。発泡層43は、所定温度まで加熱されることにより発泡して膨張し、発泡体となる。
【0020】
シート状基材400は、接着層41が絶縁部材40の内側に、発泡層43が絶縁部材40の外側に配置されるように折り曲げられる。具体的には、図3AのX方向に延在する一点鎖線L1~L3に沿って折り曲げられる。これにより図3Bに示すように、略直方体の枠形状の絶縁部材40が形成される。
【0021】
絶縁部材40は、径方向(Z方向)に延在する一対の側壁401,402と、周方向(Y方向)に延在する一対の周壁403、404とを有する。絶縁部材40の軸方向一端部40aおよび他端部40bはそれぞれ開口され、これら開口を介して絶縁部材40から軸方向にコイル21(図2)が突出し、コイルエンドとなる。一方の側壁402の外側表面には、その全域にわたって発泡層43が設けられる。他方の側壁401の外側表面には、ステータコア20の凸部25(図2)が当接する位置に、凹状の折り筋46(図3Aに一部のみ図示)が設けられる。
【0022】
図3Aに示すシート状基材400の一端部400Aと他端部400Bとは、径方向外側の周壁403の端部で互いに当接される。これに代えて、シート状基材400の一端部400Aと他端部400Bとを互いに重ね合わせてもよい。例えば外径側端部で一端部400Aと他端部400Bとを重ね合わせ、周壁403を構成してもよい。周壁403の軸方向(X方向)の中央部には、周壁403を貫通する略矩形状の開口400cが設けられる。開口400cを介して絶縁部材40の内側の空間と径方向外側の空間とが連通する。
【0023】
図4は、絶縁部材40のステータコア20への挿入工程を示す斜視図である。図4に示すように、ステータコア20のスロット22には、ステータコア20の一端面200aから他端面200bに向けて軸方向(矢印X1)に沿って絶縁部材40が挿入される。絶縁部材40の軸方向長さはステータコア20の軸方向長さと同一であり、絶縁部材40はステータコア20の軸方向端面から突出せずにステータコア20の内側に配置される。なお、絶縁部材40の軸方向長さがステータコア20の軸方向長さより長くてもよく、短くてもよい。
【0024】
絶縁部材40が挿入された後、絶縁部材40の内側に、軸方向に沿って複数の導体セグメント210(図4で2つのみ図示)が挿入される。例えば略U字状の導体セグメント210の一対の脚が、異なるスロット22に配置された絶縁部材40にそれぞれ挿入される。なお、導体セグメント210の構成は略U字状に限らない。
【0025】
導体セグメント210の挿入後、絶縁部材40は加熱される。図5は、加熱前および加熱後の絶縁部材40の側壁402の構成を模式的に示す図である。図5に示すように、絶縁部材40の加熱前は、発泡層43は発泡体とならず、側壁402の板厚は、シート状基材400(図3A)の板厚のままである。このため、絶縁部材40の内側には、側壁402とコイル21との間に比較的大きな空間SP1が形成され、軸方向に沿って空間SP1内に導体セグメント210を容易に挿入できる。
【0026】
絶縁部材40が所定温度まで加熱されると、発泡層43が膨張し、発泡体45となる。発泡体45は絶縁部材40の一部であるが、以下では、発泡体45と絶縁部材40とを便宜上、別部材として扱う。すなわち、絶縁機能を有しない発泡体45を絶縁部材40とは異なる部材として扱う。なお、発泡体45を絶縁部材40の一部として扱い、絶縁部材40が発泡体45を有するとしてもよい。
【0027】
発泡層43が膨張して発泡体45になると、側壁402の一端面(発泡層43側)はスロット22の側面222bに当接したまま、他端面(接着層41側)が導体セグメント210に向けて移動する。これにより、側壁402(接着層41)が導体セグメント210(コイル21)の端面に当接し、コイル21に矢印に示すような押圧力Fが付与される。その結果、図2に示すように、コイル21の端面が絶縁部材40の側壁401を介して凸部25に当接し、コイル21が拘束される。なお、図が煩雑になるのを避けるため、図2では、接着層41の図示を省略する。
【0028】
側壁401には、凸部25の位置に対応して予め折り筋46(図3A)が設けられる。このため、図2に示すように、側壁401はスロット22の側面222aに沿って径方向に凹凸状となり、側壁401とコイル21との間に空隙SP2が設けられる。なお、折り筋46の代わりに、予め側壁401の外側表面に凸部25の位置に対応して複数の凹部を設け、凹部が凸部25に係合するようにしてもよい。スロット内には、絶縁部材40の周壁403の開口400cを介して、ステータコア20の外部から冷却油が供給される。
【0029】
図4に示すように、ステータコア20の外周面20bには、ステータコア20の軸方向中央部に、全周にわたって所定深さの溝200が設けられる。図1に示すように、ステータコア20の外周面20bはケース3の内周面31によって液密に覆われる。これにより、溝200(図1の点線)とケース3の内周面31との間に、軸線CL0を中心とした円環状の流路PA0が形成される。ケース3の外周面には、冷却油供給用のフランジ部32が設けられる。フランジ部32は、例えばケース3の外周面の重力方向最上部に設けられる。フランジ部32には、ケース3を径方向に貫通する貫通孔32aが穿設され、貫通孔32aを介してケース3の外部空間と流路PA0とが連通する。フランジ部32をケース3の軸方向端面に設けるとともに、ケース3に、軸方向に延在して流路PA0に連通するような流路を形成してもよい。
【0030】
図6は、図4のVI-VI線に沿ったステータコア20の単体の断面図である。なお、図6では、ステータコア20の周方向の一部(3スロット分)のみを示す。図6に示すように、ステータコア20の溝200の底面200cには、周方向複数のスロット22の底面222cに向けて延在し、ステータコア20を径方向に貫通する複数の貫通孔202が設けられる。換言すると、ステータコア20には、スロット22の径方向外側のヨーク24に、径方向に延在する貫通孔202が設けられる。貫通孔202は、冷却油供給用の油路を構成する。
【0031】
貫通孔202は、溝200の底面200cから径方向内側に延在する切り欠き202aと、スロット22の底面222cから径方向外側に延在する切り欠き202bとにより構成される。すなわち、切り欠き202aと切り欠き202bとは、軸方向に互いに隣接する電磁鋼板にそれぞれ形成され(図8参照)、切り欠き202aの底部(内径側端部)と切り欠き202bの底部(外径側端部)とが軸方向で連通することで、溝200の底面200cからスロット22の底面222cに至る貫通孔202とされる。
【0032】
図7は、発明の実施形態に係る回転電機用ステータ2の要部断面図であり、冷却油の流れを示す図である。図7に矢印で示すように、ケース3の外部から供給された冷却油は、ケース3の貫通孔32a介してステータコア20の外周面に設けられた円環状の流路PA0に流入する。流路PA0に流入した冷却油は、流路PA0に沿って周方向に流れるとともに、ステータコア20の周方向複数の貫通孔202および絶縁部材40の開口400cを介して絶縁部材40の内側に流入する。
【0033】
スロット22の側面222aの凸部25は、側面222aの軸方向全長にわたって設けられるのではなく、図7に矢印で示すように、スロット内を径方向に冷却油が流れるように、軸方向に断続的に設けられる。図8は、スロット内の凸部25の配置を示す、図7の矢視VIII図である。図8では、絶縁部材40と発泡体45の図示を省略し、便宜上、コイル21を2点鎖線で示す。
【0034】
図中、複数のコイル21を、内径側から順番に、便宜上、1段目コイル~6段目コイルと呼び、それぞれC1~C6で表す。ステータコア20は、n枚(例えば20枚)の電磁鋼板を積層した電磁鋼板群を、軸方向に複数(例えば6つ)重ねて構成される。複数の電磁鋼板群を、ステータコア20の一端面200aから順番に、便宜上、第1電磁鋼板群~第6電磁鋼板群と呼び、それぞれS1~S6で表す。
【0035】
図8に示すように、ステータコア20には、電磁鋼板群S3のスロット22の径方向外側に貫通孔202(図6)が設けられる。奇数の電磁鋼板群S1、S3、S5には、2段目コイルC2、4段目コイルC4および6段目コイルC6に面して、各電磁鋼板群S1、S3、S5の軸方向全長にわたって凸部25が設けられる。偶数の電磁鋼板群S2、S4、S6には、1段目コイルC1、3段目コイルC3および5段目コイルC5に面して、各電磁鋼板群S2、S4、S6の軸方向全長にわたって凸部25が設けられる。このようにスロット22の側面222aには、軸方向所定長さにわたって延在する複数の凸部25が、径方向および軸方向に互い違いに、つまり千鳥状に配置される。
【0036】
これにより、図8に矢印で示すように、貫通孔202を介してスロット内に流入した冷却油は、径方向内側に向けて、かつ、軸方向外側に向けて流れる。したがって、コイル21に沿って冷却油が流れるようになり、スロット内のコイル21を効率よく冷却することができる。軸方向に流れた冷却油は、図3Bに示す絶縁部材40の軸方向一端部40aおよび他端部40bから流出する。したがって、コイルエンドに沿って冷却油が流れ、コイルエンドを効率よく冷却することもできる。
【0037】
図9は、図2の参考例を示す図である。図9の例では、スロット22の両方の側面222a,222bに対向してそれぞれ発泡体45が設けられる。このため、コイル21と絶縁部材40Aとの間に、冷却油が流れるための十分な隙間が設けられず、コイル21に沿って軸方向均一に冷却油を流すことが難しい。これに対し本実施形態では、スロット22の一方の側面222aに凸部25を設けたことにより、コイル21の端面と絶縁部材40の側壁401との間に、軸方向にわたって均一な空隙SP2(図2)が設けられる。このため、スロット内を軸方向にスムーズに冷却油が流れ、コイル21を均一に冷却することができる。
【0038】
スロット22の側面222aにおける凸部25の配置は図8に示したものに限らない。図10は、図8の変形例を示す図であり、図11A図11Bは、それぞれ図10のA-A線およびB-B線に沿った断面図である。なお、図10では、スロット22の径方向外側のヨーク24の図示を省略する。図10に示すように、奇数の電磁鋼板群S1、S3、S5には、2段目コイルC2、4段目コイルC4および6段目コイルC6に面して、各電磁鋼板群S1、S3、S5の軸方向全長にわたって凸部25が設けられる。偶数の電磁鋼板群S2、S4、S6には、1段目コイルC1、3段目コイルC3および5段目コイルC5に面して、各電磁鋼板群S2、S4、S6の軸方向全長にわたって凸部25が設けられる。
【0039】
さらに、図10の例では、1段目コイルC1の内径側角部211に面して、全ての電磁鋼板群S1~S6の軸方向全長にわたって凸部25が設けられる。これら最内径側の複数の凸部25は、互いに径方向の同一位置に位置する。このため、ステータコア20の一端面200aから他端面200bにかけて凸部25が一直線で延在し、全体として長尺の凸部25(便宜上、内径側凸部251と呼ぶ)となる。図11A図11Bに示すように、内径側凸部251の先端部は、厳密には、1段目コイルC1の径方向内側の端面212よりもわずかに内径側に位置する。したがって、1段目コイルC1の内径側角部211は、内径側凸部251の傾斜面に当接し、これによりコイル21の径方向内側への移動を阻止することができる。
【0040】
図12は、図8のさらなる変形例を示す図であり、図13A図13Bは、それぞれ図12のA-A線およびB-B線に沿った断面図である。図12に示すように、電磁鋼板群S1、S5には、2段目コイルC2、4段目コイルC4および6段目コイルC6に面して、各電磁鋼板群S1、S5の軸方向全長にわたって凸部25が設けられる。電磁鋼板群S2、S6には、1段目コイルC1、3段目コイルC3および5段目コイルC5に面して、各電磁鋼板群S2、S6の軸方向全長にわたって凸部25が設けられる。
【0041】
さらに、図12の例では、軸方向中央の電磁鋼板群S3,S4に、1段目コイルC1と2段目コイルC2との境界部、2段目コイルC2と3段目コイルC3との境界部等、径方向に隣り合うコイル21の境界部213に面して、電磁鋼板群S3,S4の軸方向全長にわたって凸部25(便宜上、境界凸部252と呼ぶ)が設けられる。図13Bに示すように、境界凸部252は、コイル21の境界部213に当接する。これにより、各コイル21の径方向の移動を阻止することができる。この場合、図13Aに示すように、ステータコア20の軸方向中央部以外で、絶縁部材40を介して凸部25とコイル21の端面とが当接するので、コイル21と絶縁部材40との間に十分な空隙SP2を確保することができ、冷却油のスムーズな流れが可能である。
【0042】
以上では、スロット22の径方向外側のヨーク24に流路(貫通孔202)を設け、スロット22の径方向外側から、スロット22の径方向外側の底面222cを介してスロット内に冷却油を導くようにしたが、流路の構成はこれに限らない。例えばスロット22の一方の側面222aからスロット内に冷却油を導くようにしてもよい。図14は、その一例を示すスロット22の断面図であり、図15は、図14のスロット22に収容される絶縁部材40の斜視図である。図15に示すように、絶縁部材40には、スロット22の凸部25側である側壁401の軸方向中央部に略矩形状の開口400cが設けられる。
【0043】
図14に示すように、ステータコア20には、外周面における溝200の底面から径方向内側に延在し、スロット22の側面222aの開口222dに至る貫通孔202が設けられる。なお、この貫通孔202も、図6と同様、溝200の底面200cから径方向内側に延在する切り欠き(点線)と、開口222dから径方向外側に延在する切り欠き(実線)とにより構成される。図16は、凸部25の配置を示す図14の矢視XVI図である。図16に示すように、スロット22の開口222dは、電磁鋼板群S3の5段目コイルC5と6段目コイルC6との境界部213に面して設けられる。この開口222dの位置とスロット22に挿入された絶縁部材40の開口400cの位置とは一致し、これにより貫通孔202を介して絶縁部材40の内側に冷却油を導くことができる。
【0044】
図16に示すように、電磁鋼板群S3の5段目コイルC5に面する位置には、図8と異なり凸部25(点線)はなく、その代わりに、その両側の電磁鋼板群S2、S4の5段目コイルC5に面する位置に、凸部25が設けられる。すなわち、図16では、スロット22の側面222aに開口222dが設けられることにより、開口222dから凸部25(点線)までの距離が所定距離未満となる。そこで、開口222dから凸部25までの距離が所定距離以上となるように凸部25(点線)が軸方向にずらされる。これにより、絶縁部材40の開口400cを介したコイル21と凸部25との間の十分な絶縁距離(所定距離以上の絶縁距離)を確保することができる。なお、十分な絶縁距離を確保するために、電磁鋼板群S2,S4の5段目コイルC5に面する位置の凸部25を、径方向内側にずらすとともに、6段目コイルC6に面する位置の凸部25を、径方向外側にずらすようにしてもよい。電磁鋼板群S3の凸部25(点線)を径方向内側にずらして、絶縁距離を確保するようにしてもよい。
【0045】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)回転電機用のステータ2は、軸方向に延在する周方向複数のスロット22が設けられたステータコア20と、スロット22に配置されたコイル21と、コイル21を包囲するようにスロット22に配置された絶縁部材40と、を備える(図1図2)。ステータコア20には、スロット22の内部に冷却油を導く油路(貫通孔202)が設けられる(図6)。ステータコア20は、スロット22の互いに対向する一対の側面222a,222bを有し、側面222aは、側面222bに向けて突出し、絶縁部材40を介してコイル21の周方向一端部が当接する凸部25を有する(図2)。ステータ2は、コイル21の周方向他端部と側面222bとの間に絶縁部材40を介して充填された発泡体45をさらに備える(図2)。
【0046】
このようにスロット22の側面222aに凸部25を設けることにより、発泡体45により凸部側に押圧されたコイル21と、側面222aとの間に、空隙SP2を設けることができる。これにより、油路(貫通孔202)を介してスロット内に導かれた冷却油を、軸方向にスムーズに流すことができ、コイル全体を十分に冷却することができる。
【0047】
(2)絶縁部材40は、スロット22の側面222aに対向する側壁401と側面222bに対向する側壁402とを有する(図2)。発泡体45は、一対の側壁401,402のうち、予め側壁402のみに設けられた発泡層43により構成される(図3B)。この構成によれば、発泡層43の発泡前に、絶縁部材40の内側の空間に隙間が設けられる。このため、絶縁部材40の内側にコイル21を容易に挿入できる。また、発泡層43の発砲後は、発泡体45によりコイル21が押圧され、コイル21の位置を拘束できる。
【0048】
(3)凸部25は、径方向の複数箇所に設けられ、複数の凸部25は、軸方向に延設される(図8図10図12)。これによりスロット内を軸方向にスムーズに冷却油が流れ、コイル21を効率よく冷却することができる。
【0049】
(4)ステータコア20は、軸方向で互いに隣接する電磁鋼板群(例えば電磁鋼板群S1,S2)を有する(図8)。複数の凸部25は、電磁鋼板群S1に設けられた凸部25と、電磁鋼板群S2に設けられた凸部25と、を含む(図8)。これら電磁鋼板群S1,S2の凸部25は、径方向の互いに異なる位置に設けられる(図8)。より詳しくは、複数の凸部25は千鳥状に配置される(図8)。これによりスロット内の径方向および軸方向の全域に冷却油を行き渡らせることができ、コイル21を均一に冷却することができる。
【0050】
(5)コイル21は、スロット22の最も内径側に配置された1段目コイルC1(最内径コイル部)を含む軸方向に延在する複数のコイル21を有する(図2図10)。凸部25、特に最内径側の凸部25(内径側凸部251)は、1段目コイルC1の内径側端部(内径側角部211)に沿ってステータコア20の軸方向に延在する(図10)。これにより、コイル21の内径側端部の位置を、凸部25によって規制することができる。
【0051】
(6)コイル21は、径方向に互いに隣り合ってそれぞれ軸方向に延在する複数のコイル21(例えば1段目コイルC1と2段目コイルC2)を有する(図12)。凸部25、特に境界凸部252は、1段目コイルC1と2段目コイルC2との境界部213に沿って軸方向に延在する(図12)。これにより、各段のコイル21の径方向の位置を規制することができる。
【0052】
(7)絶縁部材40には、側壁401を貫通し、油路(貫通孔202)に連通する開口400cが設けられる(図15)。凸部25は、開口400cから凸部25までの距離が所定距離以上となるように開口400cから径方向および軸方向に位置をずらして設けられる(図16)。これにより、開口400cを介したコイル21から凸部25までの十分な絶縁距離を確保することができる。
【0053】
本実施形態は種々の形態に変形することができる。以下、いくつかの変形例について説明する。図17は、絶縁部材40の変形例を示す斜視図である。図17では、シート状基材400(図3A)の一端部400A側および他端部400B側が側壁402の径方向中央部で側壁401側に折り曲げられ、絶縁部材40の内部が径方向2つの空間SP11,SP12に分割される。側壁402は径方向に2分割され(側壁部402a,402b)、側壁部402a,402bの表面にそれぞれ発泡層43が設けられる。空間SP12,SP12には、それぞれ径方向3本のコイル21が挿入される。
【0054】
側壁401と周壁403の軸方向中央部には、側壁401の径方向内側端部の近傍から周壁403の周方向中央部ないし周方向中央部よりも側壁402側にかけて開口400cが設けられる。開口400cには、スロット22の径方向外側の貫通孔202(図6)が連通する。これにより、スロット内の空間SP11,SP12に、それぞれ貫通孔を介して冷却油が導かれる。その結果、絶縁部材40の内側の空間SP11,SP12を軸方向に冷却油が流れ、コイル21を冷却することができる。
【0055】
上記実施形態(図3A)では、絶縁部材40を構成するシート状基材400を、接着層41と絶縁層42と発泡層43の3層構造としたが、接着層41を省略し、2層構造としてもよい。上記実施形態では、コイル21と絶縁層42との間に接着層41を設けたが、絶縁層42と凸部25との間に接着層41を設けるようにしてもよい。上記実施形態では、絶縁部材40の一対の側壁401,402のうち、すなわちスロット22の一方の側面222a(第1内側面)に対向する側壁401(第1対向部)と、他方の側面222b(第2内側面)に対向する側壁402(第2対向部)のうち、側壁402の外側の表面に発泡層43を設け、発泡層43を発泡して発泡体45を構成したが、発泡体の構成はこれに限らない。
【0056】
上記実施形態(図8)では、ステータコア20を構成する電磁鋼板群S1~S6のうちの軸方向に隣接する2つ、例えば電磁鋼板群S1(第1ステータコア部)と電磁鋼板群S2(第2ステータコア部)に着目すると、電磁鋼板群S1に設けられた凸部25(第1凸部)と電磁鋼板群S2に設けられた凸部25(第2凸部)の径方向の位置を互いに異ならせるようにしたが、図10図12の凸部251、252のように、径方向位置が同一である凸部25が含まれてもよい。上記実施形態では、軸方向に所定長さにわたって凸部25が延在するようにしたが、凸部の形状は上述したものに限らない。
【0057】
上記実施形態(図12)では、径方向複数のコイル21のうち、径方向に隣り合って軸方向に延在するコイル21、例えば1段目コイルS1(第1コイル部)と2段目コイルS2(第2コイル部)とに着目すると、1段目コイルS1と2段目コイルS2との境界部213に沿って電磁鋼板群S3,S4の凸部25(境界凸部252)が軸方向に延在するようにしたが、境界凸部が軸方向他の位置(例えばステータコア20の軸方向端部)に配置されてもよい。上記実施形態では、絶縁部材40の側壁402とコイル21との間に、冷却油が流れる空隙SP2を設けたが、他の冷却媒体が流れる空隙を設けてもよく、冷却媒体は冷却油に限らない。上記実施形態(図1)では、ステータ2の径方向外側の1箇所からスロット内に冷却油を供給するようにしたが、冷却媒体の供給経路は上述したものに限らない。例えばステータの径方向外側の複数箇所からスロット内に冷却媒体を供給するようにしてもよく、ステータの軸方向外側からスロット内に冷却媒体を供給するようにしてもよい。
【0058】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0059】
2 ステータ、20 ステータコア、21 コイル、22 スロット、25 凸部、40 絶縁部材、42 絶縁層、43 発泡層、45 発泡体、202 貫通孔、222a,222b 側面、251 内径側凸部、252 境界凸部、400c 開口、401,402 側壁、S1~S6 電磁鋼板群、C1~C6 1段目コイル~6段目コイル
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16
図17