(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177983
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】定着装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20241217BHJP
【FI】
G03G15/20 515
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096435
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】小林 憲明
(72)【発明者】
【氏名】村松 弘紀
【テーマコード(参考)】
2H033
【Fターム(参考)】
2H033AA23
2H033BA25
2H033BA30
2H033BB03
2H033BB05
2H033BB06
2H033BB12
2H033BB13
2H033BB14
2H033BB15
2H033BB18
2H033BB29
2H033BB30
2H033BB33
2H033BB39
(57)【要約】
【課題】摺動シートの削れを防止し、その寿命の低下抑制する定着装置を提供する。
【解決手段】第1回転体と、第2回転体と、該第1回転体の内部に該第1回転体を該第2回転体に付勢する加圧部材と、該加圧部材と該第1回転体との間に介在し、該第1回転体と摺動する定着摺動シートと、を備える定着装置であって、該定着摺動シートは、樹脂を含み、該第1回転体の内周面のビッカース硬さをHVAとし、該定着摺動シートの該第1の回転体に対向する側の面のビッカース硬さをHVBとしたとき、HVA>HVBであり、該定着摺動シートは、該第1回転体の内周面に対向する側の面に、周方向に複数個の凸部が周期的に設けられており、該第1回転体の内周面の算術平均粗さRaは、0.10μm以上、0.25μm以下であり、該定着摺動シートの該凸部の周方向の幅Wが、該第1回転体の内周面の凹凸の平均間隔Rsmよりも大きいことを特徴とする定着装置。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面層、基層、及び、内面摺動層を有する第1回転体と、
表面層、及び基層を有する第2回転体と、
該第1回転体の内部に該第1回転体を該第2回転体に対して付勢する加圧部材と、
該加圧部材と該第1回転体との間に介在し、該第1回転体と摺動する定着摺動シートと、
を備える定着装置であって、
該定着摺動シートは、樹脂を含み、
該第1回転体の内周面において測定されるビッカース硬さをHVAとし、該定着摺動シートの該第1の回転体に対向する側の面において測定されるビッカース硬さをHVBとしたとき、HVA>HVBであり、
該定着摺動シートは、該第1回転体の内周面に対向する側の面に、周方向に複数個の凸部が周期的に設けられており、
該第1回転体の内周面の算術平均粗さRaは、0.10μm以上、0.25μm以下であり、
該定着摺動シートの該凸部の周方向の幅Wが、該第1回転体の内周面の凹凸の平均間隔Rsmよりも大きいことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記定着摺動シートの該凸部の周方向の幅Wが、20μm以上、3000μm以下である、請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記平均間隔Rsmが、10μm以上、1000μm以下である、請求項1に記載の定着装置。
【請求項4】
前記HVAが、9.45HV超、94.55HV以下であり、前記HVBが、9.45HV以上、56.73HV以下である、請求項1に記載の定着装置。
【請求項5】
前記定着摺動シートの該凸部の高さをTとし、前記第1回転体の内周面の断面曲線における最大高さ粗さをRzとしたとき、T>Rzである、請求項1に記載の定着装置。
【請求項6】
前記定着摺動シートは、前記第1回転体の内周面に対向する側の面を構成する層を有し、該層は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及び、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体からなる群から選択される少なくとも一つを含む、請求項1に記載の定着装置。
【請求項7】
前記第1回転体の前記内面摺動層は、ポリアミドイミド及びポリイミドからなる群から選択される少なくとも一方を含む、請求項1に記載の定着装置。
【請求項8】
前記定着摺動シートの前記第1回転体の内周面に対向する側の面に潤滑剤が塗布されてなる、請求項1に記載の定着装置。
【請求項9】
前記第1回転体の前記内面摺動層に、体積粒径D50が1.0~3.5μmであり、アスペクト比が1~50であるフィラーが添加されてなる、請求項1に記載の定着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、画像形成装置に用いられる定着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置、静電記録装置などの画像形成装置においては、記録材(シート)上に未定着のトナー画像を形成し、これを定着装置により加熱、加圧して定着させることにより画像を形成している。定着装置としては、内部にヒータを有する定着ローラに加圧ローラを圧接して定着ニップを形成し、定着を行うローラ定着方式が採用されている。ところで、画像の高光沢化や画像形成の高速化を図るためには、記録材の定着ニップ通過時間を長くし、トナーを充分に溶融することが好ましい。ローラ定着方式の場合、これを達成するためにはローラ径を大きくする必要があり、定着装置の大型化を招来する。
【0003】
特許文献1は、定着装置の大型化を抑えつつ、充分なニップ幅(シート搬送方向の長さ)を得ることができる定着方式として、ベルト定着方式を開示している。ベルト定着方式は、互いに対向する定着ベルトと加圧ベルトを設け、これら両ベルト間でシートを挟持搬送しながら定着を行う構成とされている。これにより、従来に比して充分なニップ幅を得ている。ベルト定着方式においては、定着ニップ部で充分な圧力を得るために圧力付与部材が必要となる。定着装置を大型化することなく幅の広い定着ニップを得ようとする場合には、パッド状の圧力付与部材(以降、単に「パッド」ともいう)の使用が有効である。しかしながら、パッドは、ベルトの内周面と摺擦することとなり、ベルト内周面とパッドとの間での摺動抵抗の低減が求められる。
【0004】
特許文献2では、ベルト内周面とパッドの間に低摩擦シートを介在させ、低摩擦シートにエンボス状の凹凸を設け、低摩擦シートと無端ベルトとの接触面積を小さくすることで磨耗を防ぐと共に、摺動抵抗を低減させる定着装置が開示されている。また、特許文献3では、摺動パッドの粗さを小さくして摺動抵抗を低減させる定着装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-341346号公報
【特許文献2】特開2002-148970号公報
【特許文献3】特開2007-079034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、粗面化した定着ベルト内周面と摺動シートの表面の形状の組み合わせによっては、摺動シートが徐々に削れ、定着装置の寿命を低下させることがあった。
本開示の少なくとも一つの態様は、より一層の高い耐久性を備えた定着装置の提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の少なくとも一の態様によれば、
表面層、基層、及び、内面摺動層を有する第1回転体と、
表面層、及び基層を有する第2回転体と、
該第1回転体の内部に該第1回転体を該第2回転体に対して付勢する加圧部材と、
該加圧部材と該第1回転体との間に介在し、該第1回転体と摺動する定着摺動シートと、
を備える定着装置であって、
該定着摺動シートは、樹脂を含み、
該第1回転体の内周面において測定されるビッカース硬さをHVAとし、該定着摺動シートの該第1の回転体に対向する側の面において測定されるビッカース硬さをHVBとしたとき、HVA>HVBであり、
該定着摺動シートは、該第1回転体の内周面に対向する側の面に、周方向に複数個の凸部が周期的に設けられており、
該第1回転体の内周面の算術平均粗さRaは、0.10μm以上、0.25μm以下であり、
該定着摺動シートの該凸部の周方向の幅Wが、該第1回転体の内周面の凹凸の平均間隔Rsmよりも大きい定着装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本開示の少なくとも一つの態様によれば、より一層の高い耐久性を備えた定着装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示における画像形成装置の概略断面図である。
【
図2】本開示における定着装置の概略断面図である。
【
図4】本開示におけるリングコート装置の概略図である。
【
図5】本開示における内面摺動層の乾燥装置の概略図である。
【
図6】本開示における内面摺動層と定着摺動シートの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示において、数値範囲を表す「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味し、数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限の任意の組み合わせをも開示しているものである。
【0011】
本発明者らは、より一層の高い耐久性を備えた定着装置を得るべく検討を重ねた。その結果、以下の構成を備える定着装置が、上記の目的を良く達成し得ることを見出した。
<構成>
表面層、基層、及び、内面摺動層を有する第1回転体と、
表面層、及び基層を有する第2回転体と、
該第1回転体の内部に該第1回転体を該第2回転体に対して付勢する加圧部材と、
該加圧部材と該第1回転体との間に介在し、該第1回転体と摺動する定着摺動シートと、
を備える定着装置であって、
該定着摺動シートは、樹脂を含み、
該第1回転体の内周面において測定されるビッカース硬さをHVAとし、該定着摺動シートの該第1の回転体に対向する側の面において測定されるビッカース硬さをHVBとしたとき、HVA>HVBであり、
該定着摺動シートは、該第1回転体の内周面に対向する側の面に、周方向に複数個の凸部が周期的に設けられており、
該第1回転体の内周面の算術平均粗さRaは、0.10μm以上、0.25μm以下であり、
該定着摺動シートの該凸部の周方向の幅Wが、該第1回転体の内周面の凹凸の平均間隔Rsmよりも大きい定着装置。
【0012】
上記の構成に係る定着装置が、より一層の高い耐久性を示す理由としては、以下のように考えられる。すなわち、第1回転体の内周面の凹凸の平均間隔Rsmよりも、定着摺動シートの凸部の周方向の幅Wが大きい。このことにより、定着摺動シートの凸部が、第1回転体の内周面の周方向の凹部に入り込むことを防止できる。その結果、定着摺動シートの凸部が、相対的に硬い第1回転体の内周面によって削られ、摩耗することを防止することができる。
【0013】
以下、本開示の一態様に係る定着装置及び画像形成装置について、具体例を挙げて説明する。なお、本開示の範囲はこの実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を損ねない範囲で変更されたものも本開示に含まれる。
【0014】
(1)画像形成装置
図1は、本実施形態における画像形成装置1の概略構成図であり、シートSの搬送方向Dに沿った断面模式図である。この画像形成装置1は、中間転写インライン方式の4色フルカラー電子写真プリンタ(以下、プリンタと記す)である。画像形成装置1は、プリンタ制御部(以下、CPUと記す)10にインターフェース32を介して接続される外部ホスト装置33から入力する画像データ(電気的な画像情報)に対応した画像をシートSに形成して画像形成物を出力することができる。
CPU10は画像形成装置1の動作を統括的に制御する制御手段であり、外部ホスト装置33やプリンタ操作部34と各種の電気的情報信号の授受をする。また、各種のプロセス機器やセンサなどから入力する電気的情報信号の処理、各種のプロセス機器への指令信号の処理、所定のイニシャルシーケンス制御、所定の作像シーケンス制御を司る。外部ホスト装置33は、パーソナルコンピュータ、ネットワーク、イメージリーダ、ファクシミリなどである。
【0015】
画像形成装置1内には、図面上、左側から右側に第1~第4の画像形成部U(UY、UM、UC、UK)が並設されている。各画像形成部Uは、それぞれの現像器5に収容した現像剤であるトナーの色が、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)と異なるだけで、構成は互いに同じ画像形成機構である。
各画像形成部Uは、それぞれ、第1の像担持体としての電子写真感光体ドラム(以下、単にドラムと記す)2を有する。このドラム2に作用するプロセス手段としての帯電ローラ3、レーザスキャナ4、現像器5、一次転写ローラ6などを有する。
各画像形成部Uのドラム2は、それぞれ矢印の反時計方向に所定の速度で回転駆動される。そして、第1の画像形成部UYのドラム2には形成するフルカラー画像のY色成分像に対応するY色トナー画像が形成される。第2の画像形成部UMのドラム2にはM色成分像に対応するM色トナー画像が形成される。また、第3の画像形成部UCのドラム2にはC色成分像に対応するC色トナー画像が形成される。第4の画像形成部UKのドラム2にはK色成分像に対応するK色トナー画像が形成される。各画像形成部Uのドラム2に対するトナー画像の形成プロセス・原理は公知に属するからその説明は省略する。
各画像形成部Uの下側には中間転写ベルトユニット(以下、単にユニットと記す)7が配設されている。このユニット7は、第2の像担持体としての可撓性を有する無端状の中間転写ベルト(以下、単にベルトと記す)8を有する。ベルト8は、駆動ローラ11と、テンションローラ12と、二次転写対向ローラ13の3本のローラ間に懸回張設されている。ベルト8は駆動ローラ11が駆動されることで矢印の時計方向にドラム2の回転速度に対応した速度で循環移動される。二次転写対向ローラ13にはベルト8を介して二次転写ローラ14が所定の押圧力で当接している。ベルト8と二次転写ローラ14との当接部が二次転写ニップ部である。
各画像形成部Uの一次転写ローラ6はベルト8の内側に配設されており、それぞれ、ベルト8を介してドラム2の下面に当接している。各画像形成部Uにおいてドラム2とベルト8との当接部が一次転写ニップ部である。一次転写ローラ6には所定の制御タイミングで所定の一次転写バイアスが印加される。
各画像形成部Uのドラム2にそれぞれ形成されたY色トナー、M色トナー、C色トナー、K色トナーが循環移動するベルト8の表面に各一次転写ニップ部において順次に重畳されて一次転写される。これにより、ベルト8上に4色重ね合わせの未定着のフルカラートナー画像が合成形成されて、二次転写ニップ部に搬送される。
【0016】
一方、第1のカセット15または第2のカセット16に収容されている用紙などのシート(記録材)Sが給送機構(不図示)の動作により1枚ずつ分離給送され、搬送路17を通ってレジストローラ対18に送られる。レジストローラ対18は、シートSを一旦受け止めて、シートSが斜行している場合、真っ直ぐに直す。そして、レジストローラ対18は、ベルト8上のトナー画像と同期を取って、シートSを二次転写ニップ部に搬送する。
シートSが二次転写ニップ部で挟持搬送される間、二次転写ローラ14には所定の二次転写バイアスが印加される。これにより、シートSに対してベルト8側のフルカラートナー画像が一括して順次に二次転写される。
そして、二次転写ニップ部を出たシートSはベルト8の面から分離され、搬送路19を通って、画像処理装置としての画像定着装置(以下、定着装置と記す)100に導入される。シートSは定着装置100において加熱・加圧されて未定着トナー画像が固着画像として定着される。定着装置100を出たシートSはフルカラー画像形成物として排出ローラ対30によって排出トレイ31へ搬送されて排出される。
【0017】
(2)定着装置
図2は、本実施形態に係わる定着装置の要部の断面模式図である。ここで、定着装置またはこれを構成している部材について長手または長手方向とは、記録材搬送路面内において、記録材搬送方向に直交する方向に並行な方向である。定着装置について正面とは記録材導入側の面である。定着装置について左右とは装置を正面から見て左または右である。ベルトの幅とは記録材搬送方向に直交する方向のベルト寸法(=ベルト長手方向の寸法)である。記録材の幅とは記録材面において記録材搬送方向に直交する方向の記録材寸法である。また、上流または下流とは記録材の搬送方向に関して上流または下流である。
【0018】
この定着装置は、第1のエンドレスベルト(第1の回転体)としての定着ベルト(定着手段)20と、第2のエンドレスベルト(第2の回転体)としての加圧ベルト(加圧手段)21とを備えている。
【0019】
定着ベルト20は、例えば、内径が80mmで、厚みが40μmのニッケルを基層とし、内面に15μmの厚みのポリイミドで形成された内面摺動層を有し、基層の外周には弾性層が350μmの厚みで設けられている。弾性層の材料としては、公知の弾性材料を使用することができ、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴム等を用いることができる。一つの好ましい態様として、弾性層の材料としてシリコーンゴムを用いることができる。さらに、断層層の硬度を、日本産業規格(JIS)K6301:1995(旧JIS K6301)に準拠した硬度計で測定される硬度(以降、JIS-A硬度)で、20度、熱伝導率を0.8W/m・Kとすることができる。弾性層の厚さは、画像を印刷する場合に記録材の凹凸或いはトナー層の凹凸に加熱面が追従できないことによる光沢ムラを予防するために、弾性層の厚さは100μm以上が好ましい。弾性層の厚さが100μm以上であれば、弾性部材としての機能が発揮され、定着時の圧力分布が略均一となることによって、特にフルカラー画像定着時に二次色の未定着トナーを十分に加熱定着でき、定着画像のグロスにおいてムラの発生を抑制できる。また、トナーが十分に溶融することによって、トナーの混色性が良化し、高精細なフルカラー画像が得られるため、好ましい。弾性層の厚みの上限については特に制限はなく過度に厚くする必要は無いが、材料の熱伝導率や硬度から適宜最適となる範囲を設定すればよい。
この弾性層の変形によって、定着ベルト20へのシートの巻きつきを防止し、ベルトからの良好な分離性能を得ることができる。更に弾性層の外周には、表面離型層としてフッ素樹脂(例えばパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE))表面層が、例えば、30μmの厚みで設けられている。
【0020】
加圧ベルト21は、定着ベルトと同様の構成にでき、例えば、内径が80mmで、厚みが40μmのニッケルを基層とし、内面に15μmの厚みのポリイミド(PI)で形成された内面摺動層を有し、基層の外周には弾性層が350μmの厚みで設けられている。弾性層の外周には、表面離型層としてフッ素樹脂表面層であるPFAチューブが、例えば、30μmの厚みで設けられている。
【0021】
定着ベルト20は、ベルト懸架部材としての加熱ローラ22並びに定着ローラ23によって張架されている。加熱ローラ22と定着ローラ23はそれぞれ装置の左右の側板(不図示)間に回転自由に軸受させて支持させてある。
加熱ローラ22には、例えば、外径が20mmで、内径が18mmである厚さ1mmの鉄製の中空ローラを用い、内部に加熱手段としてのハロゲンヒータ22aを配置している。また、加熱ローラ22は定着ベルト20に張力を与えるテンションローラとしての機能も有している。
【0022】
定着ローラ23には、例えば、外径が20mmで、径が18mmである鉄合金製の芯金の周囲に、弾性層が設けられた弾性ローラを用いることができる。この定着ローラ23は駆動ローラとして駆動源(モータ)Mから駆動ギア列(不図示)を介して駆動力が入力されて、矢印の時計方向に所定の速度で回転駆動される。この定着ローラ23に上記のような弾性ローラを用いることで、定着ローラ23に入力された駆動力を定着ベルト20へ良好に伝達することができるとともに、定着ベルト20からの記録材の分離性を確保するための定着ニップを形成できる。弾性層は、例えば、シリコーンゴムを含むことができ、弾性層は、例えば、JIS-A硬度で、15度の如き硬度と、例えば、0.8W/m・Kの如き熱伝導性を有する。このような弾性層を備えることによって、ウォーミングアップタイムの短縮を図ることができる。
定着ベルト20は、定着ローラ23が回転駆動されると、定着ローラ23のシリコーンゴム表面と定着ベルト20の内面ポリイミド層との摩擦によって定着ローラ23と共に回転する。
【0023】
加圧ベルト21は、ベルト懸架部材としてのテンションローラ25と加圧ローラ26によって張架されている。テンションローラ25と加圧ローラ26はそれぞれ装置の左右の側板(不図示)間に回転自由に軸受させて支持させてある。
テンションローラ25は、例えば、外径が20mmで、径が16mmである鉄合金製の芯金に、熱伝導率を小さくして加圧ベルト21からの熱伝導を少なくするためにシリコーンスポンジ層を設けてある。
加圧ローラ26は、例えば、外径が20mmで、内径が16mmである厚さ2mmの鉄合金製とされた低摺動性の剛性ローラである。
【0024】
ここで、定着ベルト20と加圧ベルト21との間に画像加熱ニップとしての定着ニップNを形成するために、加圧ローラ26は、回転軸の左右両端側が加圧機構(不図示)により矢印Fの方向に所定の加圧力にて定着ローラ23に向けて加圧されている。
【0025】
また、定着装置を大型化することなく幅広い定着ニップNを得るために、加圧パッド(加圧部材)を採用している。すなわち、定着ベルト20を加圧ベルト21に向けて加圧(付勢)する第1の加圧パッドとしての定着パッド24と、加圧ベルト21を定着ベルト20に向けて加圧(付勢)する第2の加圧パッドとしての加圧パッド27である。定着パッド24及び加圧パッド27は装置の左右の側板間(不図示)に支持させて配設してある。加圧パッド27は、加圧機構(不図示)により矢印Gの方向に所定の加圧力にて定着パッド24に向けて加圧されている。
定着パッド24と定着ベルト20間には定着摺動シート24aを、加圧パッド27と加圧ベルト21の間には加圧摺動シート27aを介在させている。定着摺動シート24a及び加圧摺動シート27aは、樹脂を含んでいる。本実施形態では、定着摺動シート24aと加圧摺動シート27aは、ポリイミド(PI)シートの表面にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を塗工し、周方向に周期的に複数個の凸部を形成している。凸部は、例えば、頂点が直径200μm、高さ10μmの円柱状のエンボス形状がプレス加工によって付与されている。定着摺動シート24aの表面(摺動面)への塗工物としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の他に、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)からなる群から選択される少なくとも一つが好ましく用いられる。定着摺動シート24aの定着ベルト20の内周面に対向する側の面には、周方向に周期的に凸部を有している。そして、
図6に例示するように、定着摺動シート24aの凸部の周方向の幅をWとしたとき、Wは20μm以上、3000μm以下であることが好ましい。幅Wは、より好ましくは50~1000μmであり、さらに好ましくは100~500μmである。本実施形態では、定着摺動シート24aの凸部の形状は円柱形のエンボス形状としたが、凸部の形状はこの形状に限定されるものではない。凸部の形状としては、三角錐型で頂点が四角く平面になっているものや四角柱でもよい。また、「周期的」とは、所定の間隔で周方向に凸部が繰り返し形成されていることを意味し、凸部間の間隙の周方向の距離をGとすると、上記W+Gを一周期としてこれが周方向に繰り返している状態を示す。間隙Gとしては、10~1000μmが好ましく、20~500μmがより好ましく、100~400μmが特に好ましい。
定着摺動シート24aには、潤滑剤を塗布することが好ましい。塗布する潤滑剤としては、具体的にはシリコーンオイルなどが挙げられる。
【0026】
定着ベルト20の内周面のビッカース硬さをHVAとし、定着摺動シート24aの該定着ベルト20に対向する側の面のビッカース硬さをHVBとしたとき、HVA>HVBである。このとき、HVAとHVBとの差は、特には限定されないが、例えば、0より大きく37.82以下、特には、3.78であることが好ましい。また、ビッカース硬さHVAは、9.45HV超、94.55HV以下、特には、34.98HV以上77.31HV以下であることが好ましい。さらに、ビッカース硬さHVBは9.45HV以上、56.73HV以下、特には、33.09HV以上56.73HV以下であることが好ましい。本開示において、ビッカース硬さは、マイクロビッカース硬度計を用いて、ISO6507-1に準拠した方法で測定される値である。ビッカース硬度の測定の際の試験温度は、23℃±5℃とする。また、ビッカース硬さは、例えば、測定対象物そのもの、具体的には、第1回転体の内周面、または、定着摺動シートの第1回転体の内周面に対向する側の面にダイヤモンド製のビッカース圧子を接触させる。そして、該ビッカース圧子を、それらの厚さ方向に押し込むことによって測定することができる。または、第1回転体及び/又は定着摺動シートから各々の全厚みを有する測定サンプルを切り出す。そして、得られた測定サンプルにおける第1回転体の内周面、または、定着摺動シートの第1回転体の内周面に対向する側の面に対応する面にダイヤモンド製のビッカース圧子を接触させ、該サンプルの厚さ方向に押し込むことによって測定してもよい。
【0027】
本開示の一態様に係る定着ベルトにおいては、内面摺動層に一定の粒子径の添加剤(フィラー)を添加することで定着ベルト20の内周面に一定の粗さを付与している。添加剤の種類、粒子径、内面摺動層への添加方法については後述する。定着ベルト20の内周面の算術平均粗さRaは0.10μm以上、0.25μm以下である。また、定着ベルト20の内周面の算術平均粗さRaは0.15以上、0.20μm以下であることが好ましい。
さらに、
図6に示すように、定着ベルト20の内周面の凹凸の平均間隔をRsmとしたとき、定着摺動シート24aの凸部の周方向の幅Wが、Rsmよりも大きい。なお、定着ベルト20の内周面とは内面摺動層20bの基層に対向する側とは反対側の表面を指す。また、凹凸の平均間隔Rsmとは凹部の周方向の幅を指す。これにより、定着摺動シート24aの凸部が内面摺動層の周方向の表面の凹部に入り込むことを防止することができ、定着摺動シート24aの凸部が定着ベルトの内周面の凹凸によって削られることを防止することができる。このとき、Rsmは、10μm以上、1000μm以下であることが好ましい。なお、算術平均粗さRa及び内周面の凹凸の平均間隔Rsmは、日本産業規格(JIS)B0601:2013で規定されているパラメータである。本開示における凹凸の平均間隔Rsmは、JIS B0601:2013における「粗さ曲線要素の平均長さ」に対応するものである。Ra及びRsmは、JIS B0601:2013の準拠した表面粗さ計を用いて測定することができる。また、Ra及びRsmの測定に際して、定着ベルトの内周面の周方向における測定長さ及び評価長さは、日本産業規格(JIS) B0633:2001の表1及び表3に基づき決定すればよい。
【0028】
図6に示すように、定着摺動シート24aの凸部の高さをTとし、定着ベルトの内周面の断面曲線における最大高さ粗さをRzとしたとき、T>Rzであることが好ましい。本開示の一態様に係る定着装置においては、例えば、T=10μm、Rz=0.3μmとすることが好ましい。
なお、ここでいう最大高さ粗さRzとは、日本産業規格(JIS)B0601:2013で規定されているものである。Rzの測定も、日本産業規格(JIS)B0601:2013に準拠した表面粗さ計を用いて測定することができる。また、Rzの測定に際して、定着ベルトの内周面の周方向における測定長さ及び評価長さも、日本産業規格(JIS)B0633:2001の表2に基づき決定すればよい。
【0029】
制御回路部100は、少なくとも画像形成実行時にはモータMを駆動する。これにより定着ローラ23が回転駆動され、定着ベルト20が定着ローラ23と同じ方向に回転駆動される。定着ベルト20の周速度は、記録材にループを形成するため画像形成部側から搬送されてくるシートSの搬送速度に比して僅かに遅い周速とされている。
加圧ベルト21は、定着ベルト20に従動して回転する。ここで、定着ニップ最下流の部分をローラ対23及び26により定着ベルト20と加圧ベルト21を挟んで搬送する構成としたことで、ベルトのスリップを防止することができる。定着ニップ最下流の部分は定着ニップでの圧分布(記録材搬送方向)が最大となる部分である。
【0030】
また、制御回路部100は、電源回路101からハロゲンヒータ22aへ電力を供給する。これにより加熱ローラ22が加熱される。そして、この加熱ローラ22によって、回動する定着ベルト20が加熱される。定着ベルト20の表面温度がサーミスタ等の温度検知素子THにより検知される。この温度検知素子THで検知される定着ベルト20の温度に関する信号を制御回路部100に入力する。制御回路部100は温度検知素子THから入力する温度情報が所定の定着温度に維持されるように、電源回路101からハロゲンヒータ22aに対する供給電力を制御して、定着ベルト20の温度を所定の定着温度に温調する。
【0031】
定着ベルト20が所定の定着温度に立ち上がって温調された状態において、定着ベルト20と加圧ベルト21間の定着ニップNに、未定着トナー画像Tを有する記録材Sが搬送される。記録材Sは、未定着トナー画像Tを担持した面を、定着ベルト20側に向けて導入される。そして、記録材Sが定着ベルト20の外周面に密着したまま挟持搬送されていくことにより、定着ベルト20から熱が付与され、また、加圧力を受けて記録材Sの未定着トナー画像Tが記録材Sの表面に定着される。
定着ベルト20内の定着ローラ23がゴム層を有する弾性ローラであり、加圧ベルト21内の加圧ローラ26は鉄合金製の剛性ローラであるため、定着ベルト20と加圧ベルト21との定着ニップ出口では定着ローラ23の変形が大きくなっている。その結果、定着ベルト20も大きく変形し、トナー画像を担持した記録材Sは定着ベルト20から自らのこしにより曲率分離される。
【0032】
(3)定着ベルト及び加圧ベルト
図3は本実施形態で得られた定着ベルト20の概略図である。20cは円筒状基体、20bは円筒状基体20cの内周面に配された内面摺動層であり、接着剤層を介して配してある。20aは内面摺動層に配合された針状の形状異方性フィラー(添加剤)であり、定着ベルトの長手方向に沿って配してある。20dは円筒状基体20cの外周面を被覆したシリコーンゴム弾性層であり、プライマー層(不図示)を介して配してある。20eはフッ素樹脂表面層としてのフッ素樹脂チューブであり、シリコーンゴム弾性層20d上にシリコーンゴム接着剤層(不図示)を介して配してある。定着ベルト20と加圧ベルト21は同じ構成であるため、加圧ベルトの構成についての説明は省略する。
【0033】
(4)円筒状基体
定着ベルトには耐熱性が要求される為、円筒状基体20cは、耐熱、耐屈曲性に配慮されたものを用いることが好ましい。例えば、金属基体としては、特開2002-258648号公報、WO05/054960、特開2005-120825号公報等のようにニッケル電鋳やステンレス鋼といった金属材料を用いることができる。
【0034】
(5)内面摺動層
内面摺動層20bとしては、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)のような高耐久性、高耐熱性を持つ樹脂を含むことが好ましい。特に、製造の容易さ、耐熱性、弾性率、強度等の面から、ポリイミドが好ましい。
また、摺動性能改善のため、内面摺動層20bに凹凸を発生させることができるように、グラファイト、二硫化モリブデン、フッ素樹脂、などの粒子を添加剤として添加することが好ましい。製造の容易さ、耐熱性、潤滑性、などの面から、雲母が好ましい。
【0035】
(5-1)ポリイミド前駆体溶液
内面摺動層20bは芳香族テトラカルボン酸二無水物或いはその誘導体と、芳香族ジアミンとの略等モルを有機極性溶媒中で反応させて得られるポリイミド前駆体溶液を、円筒状基体20cの内面に塗布、乾燥、加熱し、脱水閉環反応することより形成される。
芳香族テトラカルボン酸二無水物の代表例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7,-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、などが挙げられる。これら芳香族テトラカルボン酸二無水物は、単独あるいは2種以上組合せて用いることができる。
芳香族ジアミンとしての代表例としては、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、パラフェニレンジアミン、ベンジジンなどが挙げられる。これら芳香族ジアミンは、単独あるいは2種以上組合せて用いることができる。
前記の有機極性溶媒としては、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、フェノール、O-,M-,P-クレゾール、などが挙げられる。
【0036】
(5-2)添加剤
添加剤(フィラーと称することもある)としては、内面摺動層に凹凸を発生させる目的から、粒子径を選定する必要がある。粒子径としては、8~20μmの内面摺動層膜厚に対してセルの発現の観点から4.5μm未満の粒径が好ましい。
さらに、定着ベルトの前記内面摺動層に添加される添加剤は、体積粒径D50が1.0~3.5μmであり、アスペクト比が1~50であることが好ましい。なお、体積粒径D50はレーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定される。また、本開示において、アスペクト比とは、添加剤の長径と短径の比(長径/短径)である。走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した1000個以上の粉体について、各粒子の長径と短径を測定し、長径/短径を算出した後、算術平均することにより、アスペクト比を求めた。
内面摺動層に潤滑性を発生させる目的から、潤滑能を有する材質を選定する必要がある。また、摩耗性および、内面摺動層から脱離した場合に摺動関係部材の摩耗を誘発しないことも求められるため、適度な硬さを有する材質を選定する必要がある。これらの条件を考慮し、添加剤としては、4フッ化エチレン(PTFE)、グラファイト、二硫化モリブデン、雲母、などが好適である。
添加剤の量は、本開示の目的とする内面摺動層の凹凸の発生を満たす量であれば、特に限定されない。具体的には、ポリイミド前駆体溶液を100部としたときに添加剤の量は1部であることが挙げられる。
【0037】
(5-3)内面摺動層の形成
塗工方法はリングコート法等の方法が可能である。
図4はリングコート法の塗工装置の概略図である。基盤41上に支柱201及び202が形成されている。塗工ヘッド42は、支柱201上に塗工ヘッド42が固定されており、塗工液供給装置が接続(不図示)されている。
支柱202には、円筒状基体20cを保持するワークハンド45がワーク移動装置56に形成されている。支柱202上に設けられたモータによりワーク移動装置46は、上下に移動することができ、ワーク移動装置46に形成されたワークハンド45もワーク移動装置46の移動により上下に移動することができる。
塗工ヘッド42の外周囲に円柱の軸と直行するスリット(不図示)が形成されており、該スリット部から均等に添加剤を配合したポリイミド前駆体溶液が供給される。そして、円筒状基体20cを塗工ヘッド42の外周に沿って移動させ、円筒状基体20cの内面に塗工を行なう。この装置において、内面摺動層の厚みは塗布量によって決定し、クリアランス、ポリイミド前駆体溶液の供給速度、ワーク移動装置46の移動速度を変更することで任意の塗布量(膜厚さ)を得ることができる。
【0038】
塗工後は、内面塗工された円筒状基体20cを
図5の加熱乾燥炉50に入れて乾燥させる。加熱乾燥炉50は120~200℃に加熱された高温油を、油注入口51から加熱筒52に通して、油排出口53から排出されることで、加熱乾燥炉50内の温度を100~180℃にする。そして、炉内に内面塗工された円筒状基体20cを入れることでポリイミド前駆体溶液に含まれる有機極性溶媒を揮発させる役割がある。ポリイミド前駆体溶液に含まれる有機極性溶媒を約90容量%から約30容量%未満まで減らすことで、ポリイミド前駆体溶液の粘度を上げ、円筒状基体20cの内面からポリイミド前駆体溶液が流出することを防止する。加熱乾燥炉50内でポリイミド前駆体溶液に含まれる有機極性溶媒が揮発されるため、乾燥炉内部に揮発した有機極性溶媒濃度が乾燥炉の上下で異なる。そこで、吸気口54から内部に換気のために流す排気の風速を上げることで内部の有機極性溶媒を排気口55から排気し、乾燥炉内の有機極性溶媒の蒸気濃度の上下差を減らす。
ポリイミド前駆体溶液に含まれる有機極性溶媒を約30容量%未満に減らした後、円筒状基体20cを例えば200℃の熱風循環炉に30min放置乾燥する。その後、円筒状基体20cの疲労強度を下げない温度範囲である200℃~300℃の熱風循環炉内に20~120分放置焼成する。これにより、脱水閉環反応によりフィラーが分散したポリイミド樹脂の内面摺動層20bを形成することができる。
【0039】
(6)シリコーンゴム弾性層
シリコーンゴム弾性層20dは、定着時にトナー画像と用紙の凹凸に対して均一な圧力を与えるために定着部材に担持させる弾性層として機能する。かかる機能を発現させる上で、シリコーンゴム弾性層20dの材料としては、加工が容易であり、高い寸法精度で加工でき、加熱硬化時に反応副生成物が発生しないなどの理由から、付加反応架橋型の液状シリコーンゴムを用いるのが好ましい。また、後述するシリコーンゴム弾性層20dに含有させるフィラーの種類や添加量に応じて、その架橋度を調整することで、弾性を調整することができることからも付加反応架橋型の液状シリコーンゴムを用いるのが好ましい。
一般に、付加反応架橋型の液状シリコーンゴムは、不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサンと、ケイ素に結合した活性水素を有するオルガノポリシロキサン、および架橋触媒として白金化合物が含まれている。
ケイ素に結合した活性水素を有するオルガノポリシロキサンは白金化合物の触媒作用により、不飽和脂肪族基(アルケニル基)を有するオルガノポリシロキサン成分との反応によって架橋構造を形成する。
【0040】
シリコーンゴム弾性層20dは、定着ベルト20の熱伝導性の向上、補強、耐熱性の向上等のためにフィラーを含んでいてもよい。
特に、熱伝導性を向上させる目的では、フィラーとしては高熱伝導性である無機物、特に金属、金属化合物等が好ましい。
高熱伝導性のフィラーの具体例としては、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al2O3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化マグネシウム(MgO)、シリカ(SiO2)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)などが挙げられる。
これらは単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。高熱伝導性フィラーの平均粒径は、取り扱い上、および分散性の観点から1μm以上50μm以下が好ましい。また、形状は、球状、粉砕塊状、板状、ウィスカ状などが用いられるが、分散性の観点から球状のものが好ましい。
【0041】
定着ベルトの表面硬度への寄与、及び定着時の未定着トナーへの熱伝導の効率から、シリコーンゴム弾性層の厚みは100μm以上500μm以下が好ましく、200μm以上400μm以下がより好ましい。
【0042】
(7)フッ素樹脂表面層
フッ素樹脂表面層としては、例えば、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などの樹脂をチューブ状に成形したものが用いられる。上記例示列挙した材料中、成形性やトナー離型性の観点からPFAが好ましい。
フッ素樹脂離型層の厚みは、50μm以下とするのが好ましい。積層した際に下層のシリコーンゴム弾性層の弾性を維持し、定着部材としての表面硬度が高くなりすぎることを抑制できるからである。
フッ素樹脂チューブの内面は、予め、ナトリウム処理やエキシマレーザ処理、アンモニア処理等を施すことで、接着性を向上させることができる。
本実施形態においては、押出成形で得られた厚み30μmのPFAチューブを使用した。チューブ内面は、後述する接着剤との濡れ性を向上させるためアンモニア処理が施されている。
【0043】
シリコーンゴム弾性層20dに、フッ素樹脂表面層としてのPFAチューブ20eを固定しているシリコーンゴム接着剤層(不図示)は、シリコーンゴム弾性層20dの表面に塗工した付加硬化型シリコーンゴム接着剤の硬化物からなっている。そして、付加硬化型シリコーンゴム接着剤は、アクリロキシ基、ヒドロシリル基(SiH基)、エポキシ基、アルコキシシリル基等の官能基を有するシランに代表される自己接着成分が配合された付加硬化型シリコーンゴムを含む。
【0044】
電気炉などの加熱手段にて所定の時間加熱することで、付加硬化型シリコーンゴム接着剤を硬化・接着させ、両端部を所望の長さに切断することで、本実施形態の定着部材としての定着ベルトを得ることができる。
【実施例0045】
以下、実施例及び比較例により本開示に係る定着装置について更に具体的に説明するが、本開示はこれらの例のみに限定されるものではない。また、「部」は「質量部」を示す。
(実施例1)
本実施例で用いる定着ベルトの作製方法について詳述する。
まず、添加剤について記載する。本実施例ではフィラーとして、MK-100(商品名、片倉コープアグリ社)の雲母を使用した。MK-100はアスペクト比が30~50であり、体積粒径はD50が4.5μmである。雲母の量は、ポリイミド前駆体溶液を100部としたときに1部を添加した。前記ポリイミド前駆体溶液はユピア(登録商標)-ST(U-ワニス-S)(商品名、UBE社製)を使用した。使用した前記ポリイミド前駆体溶液中の溶媒は、NMPである。ポリイミド前駆体溶液中で、雲母を3本ロールで分散させることにより塗工液を調製した。調製した塗工液を円筒状基体20cの内面に塗工厚みが77μmとなるようにリングコート法で塗工した。このとき、クリアランスを100μmとし、ポリイミド前駆体溶液の供給速度を5mm/sとし、ワーク移動装置46の移動速度を100mm/sとした。円筒状基体20cとしては、内径がΦ80mmであり、厚みが40μmであるニッケル電鋳品を使用した。
【0046】
塗工後は、内面塗工された円筒状基体20cを
図5の加熱乾燥炉50に入れて乾燥させる。加熱乾燥炉50は乾燥炉内の高温油を180℃に設定した。この場合の乾燥炉内部の温度は160~140℃である。ポリイミド前駆体溶液に含まれる有機極性溶媒であるNMPを揮発させ、ポリイミド前駆体溶液に含まれるNMPを約90容量%から約30容量%未満まで減らした。加熱乾燥炉50内にNMPが揮発されるため、乾燥炉内部に揮発したNMP濃度が乾燥炉の上下で異なる。吸気口54から内部に換気のために流す排気の風速を上げることで内部のNMPを排気口55から排気し、乾燥炉内のNMPの蒸気濃度の上下差を減らした。実施例1では加熱乾燥炉内部に流れる換気風速を1.0m/sにし、300秒乾燥させた。乾燥した円筒状基体20cは270℃の熱風循環炉に60min焼成した。これにより、円筒状基体20cの内面にフィラーが分散し、ポリイミドで形成された、厚さ15μmの内面摺動層20bを形成した。
【0047】
円筒状基体20cの表面にはヒドロシリル系のシリコーンプライマー(商品名:DY39-051 A/B、東レ・ダウコーニング社製)を塗工し、200℃にて5分間加熱硬化した。その外周面に、300μm厚の高熱伝導性フィラーとしてのアルミナを含む付加反応架橋型液状シリコーンゴムを塗工し、200℃にて30分間加熱硬化して、シリコーンゴム弾性層20dを形成した。このとき、シリコーンゴム弾性層20dの熱伝導率は0.8W/mKであった。更にその外周面に、シリコーン接着剤(商品名:SE1819 CV A/B、東レ・ダウコーニング社製)を介してフッ素樹脂表面層20eとして、20μm厚のPFAチューブを円筒状に押出成型した)を被覆し、200℃にて2分間加熱硬化させた。PFAチューブは、フッ素樹脂ペレット「(商品名:テフロン(登録商標)PFA959HPPlus、三井・デュポンフロロケミカル社製)」を用いて、押出成形法によって成形したものである。
【0048】
図6に定着ベルト20の内面摺動層20aと定着摺動シート24aの断面図を示す。
作製した定着ベルト20は、表面粗さ計(商品名:SE-600、小坂製作所、)を使用し、内周面の算術平均粗さRaが0.15μmであり、内周面の凹凸の平均間隔Rsmは100μmであった。定着ベルト20の内面摺動層20aの表面粗さの最大高さ粗さRzは0.3mmであり、定着摺動シート24aの凸部高さTは10μmであった。また、定着ベルト20の内面摺動層20aのビッカース硬さHVAはマイクロビッカース硬度計(商品名:HMV、島津製作所製)で測定され、60.51HVであった。
【0049】
定着摺動シート24aは、ポリイミド(PI)シートの表面にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(商品名:PJ―BN910、三井・ケマーズフロロプロダクツ社製)を塗工した材料を用い、頂点が直径200μm、高さ10μmの円柱状のエンボス形状をプレス加工によって付与した。つまり、
図6における、定着摺動シート24aの凸部の周方向の幅Wは200μmであり、凸部高さTは10μmであった。定着摺動シート24aの定着ベルト20に対向する側の面のビッカース硬さHVBは56.73HVであった。定着摺動シート24aには潤滑剤(商品名:KF96、信越化学社製)を塗布した。
【0050】
(実施例2)
実施例1で使用した雲母の添加量を0.7部に変更し、定着ベルト20を実施例1と同様の方法で作製した。定着ベルト20の内周面の算術平均粗さRaが0.1μmであり、内周面の凹凸の平均間隔Rsmは100μmであった。
【0051】
(実施例3)
実施例1で使用した雲母の添加量を1.3部に変更し、定着ベルト20を実施例1と同様の方法で作製した。定着ベルト20の内周面の算術平均粗さRaが0.25μmであり、内周面の凹凸の平均間隔Rsmは100μmであった。
【0052】
(実施例4)
実施例1で使用した雲母をジェットミルで粉砕することで体積粒形D50を3.0μmにし、添加量を1.5部にして、定着ベルト20を実施例1と同様の方法で作製した。定着ベルト20の内周面の算術平均粗さRaが0.15μmであり、内周面の凹凸の平均間隔Rsmは150μmであった。
【0053】
(実施例5)
実施例1の定着摺動シート24aのエンボス形状を直径200μm、高さ0.2μmの円柱状に変更し、定着ベルト20を実施例1と同様の方法で作製した。定着摺動シート24aの凸部の高さTは0.2μmであった。
【0054】
(比較例1)
実施例1で使用した雲母の添加量を0.3部に変更し、定着ベルト20を実施例1と同様の方法で作製した。定着ベルト20の内周面の算術平均粗さRaが0.09μmであり、内周面の凹凸の平均間隔Rsmは100μmであった。
【0055】
(比較例2)
実施例1で使用した雲母の添加量を1.5部に変更し、定着ベルト20を実施例1と同様の方法で作製した。定着ベルト20の内周面の算術平均粗さRaが0.26μmであり、内周面の凹凸の平均間隔Rsmは100μmであった。
【0056】
(比較例3)
実施例1の定着摺動シート24aをエンボスシートではなくガラス製のクロスに変更し、定着ベルト20を実施例1と同様の方法で作製した。ガラス製のクロスは表面層にPTFEのコートをされている。ガラス製のクロスのビッカース硬さHVBは122.92HVであった。
【0057】
(比較例4)
実施例1の定着摺動シート24aのエンボス形状を直径90μmの円柱状に変更し、定着ベルト20を実施例1と同様の方法で作製した。つまり、
図6における、定着摺動シートの凸部の周方向の幅Wは90μmであった。
【0058】
(比較例5)
実施例1で使用した雲母をアスペクト比が50~150のものに変更し、定着ベルト20を実施例1と同様の方法で作製した。定着ベルト20の内周面の算術平均粗さRaが0.15μmであり、粗さ曲線要素の平均長さRsmは200μmであった。
【0059】
実施例1~4と比較例1~5の定着ベルト20を用いて、通紙試験による評価を行った。評価はH/H環境(温度30℃、湿度80%)で普通紙(坪量70g/m2)をA3用紙を通紙し、定着ベルト20の内周面の削れによる寿命を評価した。表1に実施例1~4と比較例1~5の定着装置での通紙耐久の結果を示す。寿命は下記のようにランクを付けた(K=1000とする)。
ランクA:700K枚以上
ランクB:600K枚以上700K枚未満
ランクC:500K枚以上600K枚未満
ランクD:500K枚未満
【0060】
【0061】
実施例1~5では、定着摺動シート24aのエンボス形状の削れが抑制され、定着摺動シート24aと定着ベルト20の内面摺動層20bの潤滑剤の経時流出により、寿命に到達した。
比較例1では、内面摺動層20bの粗さが小さく潤滑剤の保持力がなくなり、実施例よりも先に寿命を迎えた。
比較例2は、内面摺動層20bの粗さが大きく内面摺動層20bの削れ粉が発生し、潤滑剤と混ざることで潤滑剤の粘土上昇を加速させ、300K枚で寿命を迎えた。
比較例3は、ガラス製の定着摺動シート24aにより内面摺動層20bが急峻に削れてしまい、200Kで寿命を迎えた。
比較例4は、定着摺動シート24aのエンボス部が内面摺動層20bの粗面の凹に入ることで削れてしまい、潤滑剤が保持できなくなり、600Kで寿命を迎えた。
比較例5も比較例4と同様に、定着摺動シート24aのエンボス部が削れてしまい、潤滑剤が保持できなくなり、600Kで寿命を迎えた。
実施例では、寿命の律速となる定着摺動シート24aの削れと内面摺動層20bの削れを抑制することが確認できた。
本実施例では、定着ベルト20と定着摺動シート24aに限定したが、加圧ベルト21と加圧摺動シート27aにも適用でき、本実施例の範囲に限定されない。
【0062】
本開示には、以下の構成が含まれる。
[構成1]
表面層、基層、及び、内面摺動層を有する第1回転体と、
表面層、及び基層を有する第2回転体と、
該第1回転体の内部に該第1回転体を該第2回転体に対して付勢する加圧部材と、
該加圧部材と該第1回転体との間に介在し、該第1回転体と摺動する定着摺動シートと、
を備える定着装置であって、
該定着摺動シートは、樹脂を含み、
該第1回転体の内周面において測定されるビッカース硬さをHVAとし、該定着摺動シートの該第1の回転体に対向する側の面において測定されるビッカース硬さをHVBとしたとき、HVA>HVBであり、
該定着摺動シートは、該第1回転体の内周面に対向する側の面に、周方向に複数個の凸部が周期的に設けられており、
該第1回転体の内周面の算術平均粗さRaは、0.10μm以上、0.25μm以下であり、
該定着摺動シートの該凸部の周方向の幅Wが、該第1回転体の内周面の凹凸の平均間隔Rsmよりも大きいことを特徴とする定着装置。
[構成2]
前記定着摺動シートの該凸部の周方向の幅Wが、20μm以上、3000μm以下である、[構成1]に記載の定着装置。
[構成3]
前記平均間隔Rsmが、10μm以上、1000μm以下である[構成1]又は[構成2]に記載の定着装置。
[構成4]
前記HVAが、9.45HV超、94.55HV以下であり、前記HVBが、9.45HV以上、56.73HV以下である、[構成1]~[構成3]のいずれか1項に記載の定着装置。
[構成5]
前記定着摺動シートの該凸部の高さをTとし、前記第1回転体の内周面の断面曲線における最大高さ粗さをRzとしたとき、T>Rzである、[構成1]~[構成4]のいずれか1項に記載の定着装置。
[構成6]
前記定着摺動シートは、前記第1回転体の内周面に対向する側の面を構成する層を有し、該層は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及び、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体からなる群から選択される少なくとも一つを含む、[構成1]~[構成5]のいずれか1項に記載の定着装置。
[構成7]
前記第1回転体の前記内面摺動層は、ポリアミドイミド及びポリイミドからなる群から選択される少なくとも一方を含む、[構成1]~[構成6]のいずれか1項に記載の定着装置。
[構成8]
前記定着摺動シートの前記第1回転体の内周面に対向する側の面に潤滑剤が塗布されてなる、[構成1]~[構成7]のいずれか1項に記載の定着装置。
[構成9]
前記第1回転体の前記内面摺動層に、体積粒径D50が1.0~3.5μmであり、アスペクト比が1~50であるフィラーが添加されてなる、[構成1]~[構成8]のいずれか1項に記載の定着装置。