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特開2024-178000脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法、及び覆工コンクリートの脱型時期判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178000
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法、及び覆工コンクリートの脱型時期判定方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/10 20060101AFI20241217BHJP
   E04G 21/02 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
E21D11/10 A
E04G21/02 104
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096462
(22)【出願日】2023-06-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトの掲載日 :2022年8月1日 ウェブサイトのアドレス:https://confit.atlas.jp/guide/event/jsce2022/participant_login?lang=ja
(71)【出願人】
【識別番号】000172813
【氏名又は名称】佐藤工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】歌川 紀之
(72)【発明者】
【氏名】早川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】北川 真也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 謙吾
(72)【発明者】
【氏名】黒田 千歳
【テーマコード(参考)】
2D155
2E172
【Fターム(参考)】
2D155BA05
2D155BB02
2D155CA03
2D155DA08
2D155LA05
2D155LA13
2D155LA14
2E172AA05
2E172EA00
2E172HA03
(57)【要約】
【課題】より簡易に、脱型前における覆工コンクリートの強度を推定する。
【解決手段】上記課題は、強度推定領域におけるセントル2内面に、打撃位置2Hを設定するとともに、打撃位置2Hから離れた位置に振動測定器10を設置し、覆工コンクリート3を打設した後、脱型前に、セントル2内面における打撃位置2Hをハンマー5等で打撃してセントル2及び覆工コンクリート3を振動させるとともに振動測定器10で打設後振動を計測し、打設後振動から、覆工コンクリート3の圧縮強度と相関を有する振動特性値を求め、この振動特性値から強度推定領域における覆工コンクリート3の圧縮強度を推定する、 ことを特徴とする脱型前における覆工コンクリート3の強度推定方法により解決される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強度推定領域におけるセントル内面に、打撃位置を設定するとともに、前記打撃位置から離れた位置に振動測定器を設置し、
覆工コンクリートを打設した後、脱型前に、前記セントル内面における前記打撃位置を打撃して前記セントル及び前記覆工コンクリートを振動させるとともに前記振動測定器で打設後振動を計測し、
前記打設後振動から、前記覆工コンクリートの圧縮強度と相関を有する振動特性値を求め、
この振動特性値から前記強度推定領域における前記覆工コンクリートの圧縮強度を推定する、
ことを特徴とする脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法。
【請求項2】
前記覆工コンクリートの打設前に、前記セントル内面における前記打撃位置を打撃して前記セントル及び前記覆工コンクリートを振動させるとともに前記振動測定器で打設前振動を計測し、
前記打設前振動及び前記打設後振動から、打設前周波数スペクトル及び打設後周波数スペクトルをそれぞれ求め、
材齢tにおける記録波形をY(f)とし、打設前における記録波形をY(f)とし、打撃をX(f)とし、材齢tにおける振動媒体をD(f)とし、打設前における振動媒体をD(f)とし、振動測定器をU(f)とし、セントルをS(f)とし、材齢tにおけるコンクリートをC(f)とし、「・」を周波数領域での積としたとき、下記式(1)で示される周波数応答関数H(f)の特徴量であってかつコンクリートの圧縮強度と相関する特徴量を、前記打設前周波数スペクトル及び前記打設後周波数スペクトルから求め、
(f)=Y(f)/Y(f)
={X(f)・D(f)・U(f)}/{X(f)・D(f)・U(f)}
=D(f)/D(f)
={S(f)・C(f)}/S(f)
=C(f) …(1)
前記特徴量から前記強度推定領域における前記覆工コンクリートの圧縮強度を推定する、
請求項1記載の脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法。
【請求項3】
前記覆工コンクリートの打設前に、前記セントル内面における前記打撃位置を打撃して前記セントル及び前記覆工コンクリートを振動させるとともに前記振動測定器で打設前振動を計測し、
前記打設前振動及び前記打設後振動から、打設前周波数スペクトル及び打設後周波数スペクトルをそれぞれ求め、
材齢tにおける記録波形をY(f)とし、打設前における記録波形をY(f)とし、打撃をX(f)とし、材齢tにおける振動媒体をD(f)とし、打設前に置ける振動媒体をD(f)とし、振動測定器をU(f)とし、セントルをS(f)とし、材齢tにおけるコンクリートをC(f)とし、「・」を周波数領域での積としたとき、下記式(1)で示される周波数応答関数における対数近似曲線の式の係数として定まるゲイン増加率を、前記打設前周波数スペクトル及び前記打設後周波数スペクトルから求め、
(f)=Y(f)/Y(f)
={X(f)・D(f)・U(f)}/{X(f)・D(f)・U(f)}
=D(f)/D(f)
={S(f)・C(f)}/S(f)
=C(f) …(1)
前記ゲイン増加率から前記強度推定領域における前記覆工コンクリートの圧縮強度を推定する、
請求項1記載の脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法。
【請求項4】
前記覆工コンクリートの巻厚が200~800mmである、
請求項1又は2記載の脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法。
【請求項5】
前記打撃は、打撃面が直径30~70mmの球面からなる鋼製の頭部を備えたハンマーである、
請求項1又は2記載の脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法。
【請求項6】
強度推定領域におけるセントル内面に、打撃位置を設定するとともに、前記打撃位置から離れた位置に振動測定器を設置し、
覆工コンクリートを打設した後、脱型前に、前記セントル内面における前記打撃位置を打撃して前記セントル及び前記覆工コンクリートを振動させるとともに前記振動測定器で打設後振動を計測し、
前記打設後振動から、前記覆工コンクリートの圧縮強度と相関を有する振動特性値を求め、
この振動特性値が、予め設定された目標の圧縮強度と対応する振動特性値に達した時に脱型時期と判定する、
ことを特徴とする脱型前における覆工コンクリートの脱型時期判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法、及び覆工コンクリートの脱型時期判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネル工事における覆工コンクリートの施工において、普通コンクリートの打設は、側壁から天端へ向けて順に行われるため、最終打込み箇所となる天端が最も若材齢となる。したがって、若材齢となる天端において脱型時のコンクリートの強度発現が乏しくなりやすく、コンクリートの剥離や剥落の懸念がある。また、打設条件や環境条件によっては天端以外のコンクリートの強度発現が遅れることもありうる。さらに、高流動(自己充填)コンクリートを低位置から圧入する場合には、天端が最も若材齢になるとは限らない。
【0003】
このため、例えば、脱型前における覆工コンクリートの積算温度を測定し、これと圧縮強度との相関に基づいて覆工コンクリートの圧縮強度を測定する方法(特許文献1参照)等が提案されている。
【0004】
しかし、この方法はセントル(鋼製型枠)内のコンクリートの温度を直接計測するため、セントルの一部改造を伴う、若しくは硬化後のコンクリート内部にセンサ等の機器を残置させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-26734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の主たる課題は、より簡易に、脱型前における覆工コンクリートの強度を推定できる方法を提供すること、等にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決した脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法は以下のとおりである。
<第1の態様>
強度推定領域におけるセントル内面に、打撃位置を設定するとともに、前記打撃位置から離れた位置に振動測定器を設置し、
覆工コンクリートを打設した後、脱型前に、前記セントル内面における前記打撃位置を打撃して前記セントル及び前記覆工コンクリートを振動させるとともに前記振動測定器で打設後振動を計測し、
前記打設後振動から、前記覆工コンクリートの圧縮強度と相関を有する振動特性値を求め、
この振動特性値から前記強度推定領域における前記覆工コンクリートの圧縮強度を推定する、
ことを特徴とする脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法。
【0008】
(作用効果)
本脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法によれば、セントル内面のうち上記打撃及び振動計測が可能な場所であれば任意の場所で覆工コンクリートの強度推定を行うことができ、かつコンクリートに直接アクセスする必要もない。また、本方法のようにセントル内面を打撃すると、未硬化の覆工コンクリートであっても破損なしに確実に打撃を与えて振動を測定できる。よって、従来よりも簡易に脱型前における覆工コンクリートの強度を推定することができる。
【0009】
<第2の態様>
前記覆工コンクリートの打設前に、前記セントル内面における前記打撃位置を打撃して前記セントル及び前記覆工コンクリートを振動させるとともに前記振動測定器で打設前振動を計測し、
前記打設前振動及び前記打設後振動から、打設前周波数スペクトル及び打設後周波数スペクトルをそれぞれ求め、
材齢tにおける記録波形をY(f)とし、打設前における記録波形をY(f)とし、打撃をX(f)とし、材齢tにおける振動媒体をD(f)とし、打設前における振動媒体をD(f)とし、振動測定器をU(f)とし、セントルをS(f)とし、材齢tにおけるコンクリートをC(f)とし、「・」を周波数領域での積としたとき、下記式(1)で示される周波数応答関数H(f)の特徴量であってかつコンクリートの圧縮強度と相関する特徴量を、前記打設前周波数スペクトル及び前記打設後周波数スペクトルから求め、
(f)=Y(f)/Y(f)
={X(f)・D(f)・U(f)}/{X(f)・D(f)・U(f)}
=D(f)/D(f)
={S(f)・C(f)}/S(f)
=C(f) …(1)
前記特徴量から前記強度推定領域における前記覆工コンクリートの圧縮強度を推定する、
第1の態様の脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法。
【0010】
(作用効果)
圧縮強度を推定するための指標は、セントル打撃による振動計測から求めることができるものであって、覆工コンクリートの圧縮強度と相関を有する振動特性値であれば特に限定されるものではないが、本態様の周波数応答関数のゲインの周波数分布とすると、セントルの打撃位置における鋼板の厚みの影響や打撃方向の影響も受けることなく、覆工コンクリートの圧縮強度を推定することができるため好ましい。
【0011】
<第3の態様>
前記覆工コンクリートの打設前に、前記セントル内面における前記打撃位置を打撃して前記セントル及び前記覆工コンクリートを振動させるとともに前記振動測定器で打設前振動を計測し、
前記打設前振動及び前記打設後振動から、打設前周波数スペクトル及び打設後周波数スペクトルをそれぞれ求め、
材齢tにおける記録波形をY(f)とし、打設前における記録波形をY(f)とし、打撃をX(f)とし、材齢tにおける振動媒体をD(f)とし、打設前における振動媒体をD(f)とし、振動測定器をU(f)とし、セントルをS(f)とし、材齢tにおけるコンクリートをC(f)とし、「・」を周波数領域での積としたとき、下記式(1)で示される周波数応答関数における対数近似曲線の式の係数として定まるゲイン増加率を、前記打設前周波数スペクトル及び前記打設後周波数スペクトルから求め、
(f)=Y(f)/Y(f)
={X(f)・D(f)・U(f)}/{X(f)・D(f)・U(f)}
=D(f)/D(f)
={S(f)・C(f)}/S(f)
=C(f) …(1)
前記ゲイン増加率から前記強度推定領域における前記覆工コンクリートの圧縮強度を推定する、
第1の態様の脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法。
【0012】
(作用効果)
圧縮強度を推定するための指標は、セントル打撃による振動計測から求めることができるものであって、覆工コンクリートの圧縮強度と相関を有する振動特性値であれば特に限定されるものではないが、本態様のゲイン増加率とすると、セントルの打撃位置における鋼板の厚みの影響や打撃方向の影響も受けることなく、覆工コンクリートの圧縮強度を推定することができるため好ましい。
【0013】
<第4の態様>
前記覆工コンクリートの巻厚が200~800mmである、
第1~3のいずれか1つの態様の脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法。
【0014】
(作用効果)
上述の覆工コンクリートの強度推定方法は、覆工コンクリートの巻厚が本態様の範囲内である場合に特に有効である。
【0015】
<第5の態様>
前記打撃は、打撃面が直径30~70mmの球面からなる鋼製の頭部を備えたハンマーである、
第1~4のいずれか1つの態様の脱型前における覆工コンクリートの強度推定方法。
【0016】
(作用効果)
鋼板及びその裏側に位置する覆工コンクリートを一体的に振動させるため、及び打撃位置を中心とした綺麗な振動を発生させるため、上述の覆工コンクリートの強度推定方法では、本態様のハンマーが好適である。
【0017】
<第6の態様>
強度推定領域におけるセントル内面に、打撃位置を設定するとともに、前記打撃位置から離れた位置に振動測定器を設置し、
覆工コンクリートを打設した後、脱型前に、前記セントル内面における前記打撃位置を打撃して前記セントル及び前記覆工コンクリートを振動させるとともに前記振動測定器で打設後振動を計測し、
前記打設後振動から、前記覆工コンクリートの圧縮強度と相関を有する振動特性値を求め、
この振動特性値が、予め設定された目標の圧縮強度と対応する振動特性値に達した時に脱型時期と判定する、
ことを特徴とする脱型前における覆工コンクリートの脱型時期判定方法。
【0018】
(作用効果)
本脱型前における覆工コンクリートの脱型時期判定方法によれば、セントル内面のうち上記打撃及び振動計測が可能な場所であれば任意の場所で覆工コンクリートの脱型時期を判定することができ、かつコンクリートに直接アクセスする必要もない。また、本方法のようにセントル内面を打撃すると、未硬化の覆工コンクリートであっても破損なしに確実に打撃を与えて振動を測定できる。よって、従来よりも簡易に脱型前における覆工コンクリートの脱型時期を判定することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、より簡易に、脱型前における覆工コンクリートの強度を推定できるようになる、等の利点がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】覆工コンクリート打設時のトンネル断面を示す概略図である。
図2】天端部の計測状況を示す断面概略図である。
図3】供試体の(a)平面図及び(b)断面図である。
図4】ゲイン増加率の算出方法を示す説明図である。
図5】(a)s6c100、(b)s6c300、(c)s9c100、及び(d)s9c300の場合の、材齢とゲイン増加率及び一軸圧縮強度との関係を示すグラフである。
図6】(a)c100、及び(b)c300の場合の、材齢とゲイン増加率及び一軸圧縮強度との関係との関係を示すグラフである。
図7】(a)s6、及び(b)s9の場合の、材齢とゲイン増加率及び一軸圧縮強度との関係との関係を示すグラフである。
図8】(a)c100、及び(b)c300の場合の、一軸圧縮強度とゲイン増加率との関係を示すグラフである。
図9】Δtごとの周波数スペクトルである。
図10】Δtごとの周波数応答関数のグラフである。
図11】c100の場合の、Δtごとのゲイン増加率のグラフである。
図12】c300の場合の、Δtごとのゲイン増加率のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、セントル2が設置されたトンネル1の断面を示しており、覆工コンクリート3の打設が完了した後、脱型前の状態を想定している。図中の符号1Aは天端部、1Bは左肩部、1Cは右肩部、1Dは左スプリングライン部、及び1Eは右スプリングライン部をそれぞれ示しており、符号4は地山を示している。
【0022】
脱型前に覆工コンクリート3の圧縮強度(一軸圧縮強度)を推定するために、強度推定領域におけるセントル2内面に、図2に示すように、打撃位置2Hを設定するとともに、打撃位置2Hから離れた位置に振動測定器10を設置する。打撃位置2Hの設定及び振動測定器10の設置は、振動測定前であれば、覆工コンクリート3の打設前に限られず、覆工コンクリート3の打設後に行うこともできる。強度推定領域は、強度推定の実施対象領域であり、例えば天端部1A、左肩部1B、右肩部1C、左スプリングライン部1D、及び右スプリングライン部1Eの中から、打設条件や環境条件によって一箇所若しくは複数箇所を選択したり、又は全箇所としたりすることができる。1つの強度推定領域には1つ又は複数の打撃位置2Hを定めることができ、また、1つ又は複数の振動測定器を設置することができる。強度推定領域が複数箇所ある場合には各箇所に振動測定器10をそれぞれ設置することができる。周知のように、通常はラップ側から妻部側にかけて、及びスプリングライン部から天端部1Aにかけて普通コンクリートが充填され、最終打設箇所となる天端部1A(特に妻部)が脱型時に最も若材齢になるため、少なくとも天端部1Aの覆工コンクリート3の圧縮強度を推定することにより、脱型時期を判定することができる。一方、高流動(自己充填)コンクリートを低位置から圧入する場合には、天端部1Aが最も若材齢になるとは限らないため、強度推定領域を複数箇所(例えば天端部1A、左肩部1B、右肩部1C、左スプリングライン部1D、及び右スプリングライン部1Eの全箇所)として、各部の覆工コンクリート3の圧縮強度を推定することにより、脱型時期を判定することができる。打撃位置2H及び振動測定器10の設置位置は、強度推定領域内である限り適宜定めればよいが、可能な限り強度推定領域の中央とすることが望ましい。
【0023】
振動測定器10は、衝撃弾性波の測定で広く用いられている加速度計の他、速度計、変位計、マイクロフォン等を用いることができる。振動測定器10の性能は特に限定されるものではないが、加速度計を用いる場合、その感度は5~20mV/(m/s)程度、周波数範囲±3dB:3Hz~10kHz程度、又はこれらより広い範囲のものを好適に用いることができる。振動測定器10は、圧縮強度の推定に用いる振動特性値によっては間隔を空けて複数設置することもできる。
【0024】
圧縮強度の推定に際しては、覆工コンクリート3を打設した後、脱型前に、強度推定領域におけるセントル2内面の打撃位置2Hをハンマー5等で打撃してセントル2及び覆工コンクリート3を振動させるとともに振動測定器10で打設後振動を計測し、計測した打設後振動から、覆工コンクリート3の圧縮強度と相関を有する振動特性値を求めた後、この振動特性値から強度推定領域における覆工コンクリート3の圧縮強度を推定する。各材齢における圧縮強度の変化を記録する場合や、圧縮強度が脱型に必要な強度に達していない場合等、必要に応じて所定の時間間隔で同位置での打撃及び振動計測を繰り返したり、所望の時間経過後に再び同位置での打撃及び振動計測を行ったりすることができる。また、測定のばらつきの影響を回避する等の目的で、同材齢かつ同位置で複数回の打撃及び振動計測を行い、その平均値としての圧縮強度を求めることもできる(後述のゲイン増加率等の特徴量の平均値に基づいて圧縮強度を推定することはもちろん、圧縮強度の平均値を最終的な推定値とすることを含む)。この場合、打撃位置2Hと振動測定器10の位置との距離は一定とすることは当然である。本推定方法によれば、セントル2内面のうち上記打撃及び振動計測が可能な場所であれば任意の場所で非破壊で覆工コンクリート3の強度推定を行うことができ、かつ覆工コンクリート3に直接アクセスする必要もない。よって、従来よりも簡易に脱型前における覆工コンクリート3の強度を推定することができる。
【0025】
覆工コンクリート3の圧縮強度と、打撃により計測される振動特性値(後述するゲイン増加率等)との相関は、現場の条件により変化するため、現場又は現場と同条件(例えば気温)での事前実験により相関を求めておくことが望ましい。すなわち、事前に現場又は現場と同条件(例えば気温)で、覆工に使用するのと同配合のコンクリートを用いて必要数の供試体を作製するとともに、これら供試体を所定の時間間隔(例えば1時間)で順番に振動特性値及び圧縮強度を測定し、これら測定データに基づいて振動特性値と圧縮強度の関係式(例えば近似直線)を求めておき、実施工でセントルの打撃及び振動測定に基づいて求まる振動特性値をこの関係式に代入することにより施行中の覆工コンクリートの圧縮強度を推定することができる。また、この関係式から脱型目標強度(例えば2N/mm)のときの目標振動特性値を求めておき、実施工でセントルの打撃及び振動測定に基づいて求まる振動特性値が目標振動特性値に達した時に脱型時期と判定することができる。
【0026】
覆工コンクリート3の巻厚Tは特に限定されるものではないが、200~800mmである場合に特に有効である。また、セントル2の打撃位置2Hにおける鋼板の厚みSも特に限定されるものではないが、6~9mmであると好ましい。
【0027】
打撃によりセントル2及び覆工コンクリート3を振動させることができる限り、打撃手段は特に限定されるものではなく、作業員が柄を持って腕力で打撃する手動式のハンマー5や、ソレノイド等の駆動源により打撃を行うハンマー装置等を用いることができる。ハンマー5としては、衝撃弾性波の測定で広く用いられているものであれば特に限定なく用いることができるが、ハンマー5の材質や重さ等の影響を低減するため、圧縮強度の推定に用いる振動特性値に適したハンマー5を事前実験等により選定することが望ましい。後述の実験結果からは、打撃面が直径30~70mmの球面からなる鋼製の頭部を備えたハンマー5を好適に用いることができる。
【0028】
覆工コンクリート3の圧縮強度と相関を有する振動特性値は、計測工程で計測した振動から求めることができるものであれば特に限定されるものではないが、以下に述べるゲイン増加率は好ましい。
【0029】
(ゲイン増加率に基づく圧縮強度の推定)
ゲイン増加率を求めるに際しては、覆工コンクリート3の打設前と、打設後かつ脱型前に、図2に示すようにセントル2内面における打撃位置2Hをハンマー5等で打撃してセントル2及び覆工コンクリート3を振動させるとともに振動測定器10で打設前振動及び打設後振動を計測する。図4(a)はその一例を示しており、0hが打設前振動の波形であり、1hは1時間後、24hは24時間後の打設後振動である。そして、打設前振動及び打設後振動から、FFT処理等により図4(b)に示すように打設前周波数スペクトル及び打設後周波数スペクトルをそれぞれ求め、これら打設前周波数スペクトル及び打設後周波数スペクトルに基づいて、材齢tにおける記録波形をY(f)とし、打設前における記録波形をY(f)とし、打撃をX(f)とし、材齢tにおける振動媒体をD(f)とし、打設前に置ける振動媒体をD(f)とし、振動測定器をU(f)とし、セントルをS(f)とし、材齢tにおけるコンクリートをC(f)とし、「・」を周波数領域での積としたとき、下記式(1)で示される周波数応答関数における対数近似曲線の式の係数として定まるゲイン増加率を求めることができる。
(f)=Y(f)/Y(f)
={X(f)・D(f)・U(f)}/{X(f)・D(f)・U(f)}
=D(f)/D(f)
={S(f)・C(f)}/S(f)
=C(f) …(1)
なお、図4(c)は、打設前を基準とした打設後の周波数スペクトルを示す周波数応答関数のグラフであり、打設前に対する振幅変化(ゲイン)が大きい周波数が高周波側にあるほど、周波数応答関数の対数近似曲線の式の係数aとして定まるゲイン増加率は大きくなる。図4(d)は材齢によるゲイン増加率の変化を示すグラフである。周波数応答関数の対数近似曲線を求める際の周波数範囲は、係数aと圧縮強度とが相関を有する範囲であれば適宜定めることができ、例えば振動測定器10の仕様で定められた振動検出可能な周波数範囲(後述の加速度計では3Hz~10kHz)又はそれよりも狭い範囲(例えば後述するように1~10kHz)とすることができる。
【0030】
後述する実験例からも分かるように、ゲイン増加率は材齢の進行に伴い圧縮強度2N/mm(実施工での脱型の目安となる圧縮強度)以上まで増加傾向を示す。これは覆工コンクリート3の硬化に伴う弾性係数の変化に応じて、1kHz付近では周波数応答(ゲイン)が低下し、10kHz付近の周波数応答が高くなることによると考えられる。よって、上述のゲイン増加率を指標とすることにより、圧縮強度を推定することができる。また、脱型時期も判定することができる。また、式(1)からも分かるように、周波数応答関数の算出する際に鋼板の振動に関する項が消えるため、本ゲイン増加率を指標として覆工コンクリート3の圧縮強度を推定する場合には、セントル2の打撃位置2Hにおける鋼板の厚みの影響を受けずに済むという利点がある。
【0031】
ゲイン増加率は、コンクリートの圧縮強度と相関する周波数応答関数の特徴量の一つということができる。よって、ゲイン増加率は指標として効果的なものであるが、圧縮強度と相関する周波数応答関数の他の特徴量、例えば重心周波数や、最大振幅周波数を用いることもできる。
【0032】
ゲイン増加率を指標とする場合、打撃位置2Hと振動測定器10との離間距離Xは特に限定されるものではないが、例えば100mm以下であると好ましい。
【0033】
<ゲイン増加率を指標とする圧縮強度推定実験>
(供試体)
図3に示すように、セントル2を模した縦650×横650mmの平坦な鋼板21上に四周を取り囲む型枠22を立て、型枠22内にコンクリートを打ち込むことにより、覆工コンクリート3の天端を模した天端供試体20を作製した。なお、鋼板21の厚みは6mmと9mmの2水準(s6、s9と称す)、コンクリートの厚みTは100mmと覆工の設計巻厚の標準である300mmの2水準(c100、c300と称す)とした。天端供試体20は、鋼板21下面の打撃及び振動測定が可能なように、架台23を用いて持ち上げて支持した。
【0034】
コンクリートの配合を表1に示した。各天端供試体20はコンクリートの打設後に20℃、60%R.H.の恒温恒湿環境に静置した。また、天端供試体20の作製に用いたものと同一のコンクリートを用いて直径100×高さ200mmの円柱供試体を作製し、圧縮強度試験に用いた。
【0035】
【表1】
【0036】
(計測)
計測に際しては、図3に示す天端供試体20の鋼板21下面の中央部を、鋼球からなる頭部に柄(取手)を取り付けたハンマー5で打撃し、打撃位置2Hから100mm離れた位置に設置した振動測定器10(富士セラミックス社製の加速度計「SAF51A」、感度:5mV/(m/s)、周波数範囲±3dB:3~10,000Hz)で信号を記録した。
【0037】
表2に実験パラメータ、試験材齢及び水準(略称)、表3に各水準での試験項目をそれぞれ示した。s6c100(鋼板厚6mm、巻厚100mm)ではφ19、30、40mmの鋼球、s6c300(鋼板厚6mm、巻厚300mm)ではより大きなエネルギーの入力を目的としφ40、63mmの鋼球、s9c100(鋼板厚9mm、巻厚100mm)及びs9c300(鋼板厚9mm、巻厚300mm)ではφ30、40、63mmの鋼球を用いて鋼板を打撃した。
【表2】
【表3】
【0038】
ここで、FFT(高速フーリエ変換)により算出される周波数スペクトルの分解能Δfは、サンプリング時間長:T、サンプリング数:S、サンプリング時間間隔:Δtから下記の式(2)で示される。
Δf = 1/T = 1/(S・Δt) …(2)
【0039】
式(2)より周波数分解能はサンプリング数と時間間隔に依存する。s6シリーズではS:20,000個、Δt:0.1μsで信号を記録し、FFTを16、384個のサンプル数で実施したため、Δf≒0.61kHzであった。s9シリーズではS:20,000個、Δt:0.1、0.5、及び2.5μsで波形を記録したため、周波数分解能Δfは0.61、0.12、及び0.024kHzであった。
【0040】
また、衝撃弾性波法による計測と並行して、表2下線部に示すs6c100及びs9c100の材齢で圧縮強度試験を実施した。圧縮強度試験は、円柱供試体打込み面を石膏でキャッピングし、載荷速度を0.01N/mm/sとして実施した。
【0041】
(ゲイン増加率の算出結果)
図5(a)~(d)に、振動計測結果(サンプリング時間間隔0.1μs、周波数分解能0.61kHz)に基づいて算出した、s6c100(鋼球直径19,30,40mm)、s6c300(鋼球直径40,63mm)、s9c100(鋼球直径30,40,63mm)及びs9c300(鋼球直径30,40,63mm)の、材齢によるゲイン増加率の変化と、圧縮強度(圧縮強度試験により計測)の変化をそれぞれ示した。
【0042】
これら結果の全体的な傾向として、材齢経過に伴いゲイン増加率は増加傾向を示しており、ゲイン増加率はコンクリートの圧縮強度と相関することが判明した。また、図8に示すように、c100及びc300のいずれの場合も、ゲイン増加率は2N/mmまで増加傾向となり、2N/mm以降でほぼ一定となったため、ゲイン増加率から実施工の脱型目標強度である2N/mmまでの強度推定及び脱型時期の判定(例えば、巻厚300mmではゲイン増加率が40dB/dec程度になったときに覆工コンクリートの圧縮強度を2N/mm程度と推定、又は覆工コンクリートの脱型時期と判定)が可能であることが判明した。
【0043】
ただし、図6に示すように、ゲイン増加率はコンクリート厚100mmでは-10~30dB/decの範囲で緩やかに増加するのに対し、コンクリート厚300mmでは-10~50dB/decの範囲でやや急激な増加傾向を示した。ここで、加速度計で得られた振動の主成分が全体(鋼板とコンクリート)のたわみ振動と仮定すると、四辺固定された矩形薄板の四辺固定された薄板の振動は曲げ剛性の平方根に比例し、曲げ剛性は板厚の3乗に比例する。すなわち、コンクリート厚300mm(c300)はコンクリート厚100mm(c100)と比較して同一材齢時に曲げ剛性は27倍高く、c300はc100に比べて高い周波数を示すと考えられる。このため、c300ではc100と比較し周波数スペクトルが高周波側に移行し、ゲイン増加率が大きく評価されたと考えられる。また、材齢経過に伴うコンクリートの強度発現によりコンクリートと鋼板の付着特性(一体性)が高くなると仮定すると、若材齢時にはコンクリートと鋼板の付着特性が乏しく、鋼板の振動の影響が卓越することで、いずれの条件のゲイン増加率も同程度の値を示し、材齢経過及びコンクリートの強度発現に伴い鋼板とコンクリートが一体となって振動することで、コンクリート厚の違いによりゲイン増加率が異なる傾向を示したと考えられる。よって、ゲイン増加率を圧縮強度や脱型時期の判定指標とする場合、その指標はコンクリート厚さに応じて変わる可能性があるため、事前実験によりゲイン増加率と圧縮強度との相関を求めておくことが好ましい。
【0044】
一方、コンクリート厚の影響と比較すると、図7に示すように鋼板厚及び使用した鋼球径が周波数応答関数に及ぼす影響は明確に確認されなかった。これは、式(1)に示したように、周波数応答関数を算出する際に、コンクリート打込み前と打込み後で共通する項の影響は相殺されたことが要因であると考えられる。
【0045】
他方、サンプリング時間間隔Δt別に各材齢で得られた周波数スペクトル及び周波数応答関数(s9c300、鋼球径40mmの場合)を図9及び図10に示した。図9より、本計測では0.1kHz以下の成分はほとんど含まれていないことが分かる。これは、加速度計の一定感度を有する周波数範囲が0.003kHz以上であることを考慮すると、0.1kHz以下の振動は生じていないと判断できる。
【0046】
次に、図10より、周波数応答関数は1kHz付近で最小となり、コンクリートの強度発現に伴い約2kHz以下の周波数領域では周波数応答が低下し、それ以上の領域では周波数応答が10kHz付近まで増加する傾向が確認された。この傾向は、コンクリート厚及び鋼球径によらず同様であった。このため、周波数応答関数において1~10kHzのゲインの対数近似曲線から係数を算出し(ゲイン増加率)、このゲイン増加率を強度推定指標として以下の検討を行った。すなわち、図11及び図12にΔtを変えた各水準で得られたゲイン増加率と天端供試体20の推定強度の関係をコンクリート厚ごとに示した。ここで、凡例をφ(鋼球径)Δt(サンプリング時間間隔)とした。図11及び図12図8と同様なゲイン増加率の増加傾向を示しており、周波数分解能Δfの違いによるゲイン増加率の明確な変化はみられなかった。このため、図9及び図10で示される周波数の取得領域を考慮し、サンプリング数20,000個ではサンプリング時間間隔0.5~2.5μs、すなわちサンプリング時間長10~50msで計測することが望ましいと考えられる。
【0047】
なお、実施工で使用されるセントルを用意し、セントルの外周面に対して一定の間隔(巻厚400mm)を空けて地山を模した模擬地山型枠を設置して模擬環境を構築し、実施工同様に覆工コンクリートを打設した以外は、上述のゲイン増加率を指標とする圧縮強度推定実験と同様の条件で、同様の実験を行ったところ、ゲイン増加率はc300の場合と類似の増加傾向を示した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、脱型前における覆工コンクリートの強度推定、つまり脱型時期の判定に利用できるものである。なお、上述のセントル打撃による圧縮強度の推定を行う場合であっても、必要に応じて従来の覆工コンクリートの積算温度に基づく圧縮強度の推定を併用することもできる。
【符号の説明】
【0049】
1…トンネル、1A…天端部、1B…左肩部、1C…右肩部、1D…左スプリングライン部、1E…右スプリングライン部、2…セントル、3…覆工コンクリート、4…地山、2H…打撃位置、10…振動測定器、T…巻厚、5…ハンマー、X…離間距離、11…第1振動測定器、L…第2距離、12…第2振動測定器、21…鋼板、22…型枠、23…架台、20…天端供試体。
図1
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図12