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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178021
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】水硬性硬化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20241217BHJP
   C04B 28/08 20060101ALI20241217BHJP
   C04B 24/06 20060101ALI20241217BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20241217BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20241217BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C04B28/02 ZAB
C04B28/08
C04B24/06 A
C04B22/10
C04B18/08 Z
C04B18/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096504
(22)【出願日】2023-06-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発 CO2有効利用拠点における技術開発 CO2有効利用コンクリートの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501061319
【氏名又は名称】学校法人 東洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】向 俊成
(72)【発明者】
【氏名】取違 剛
(72)【発明者】
【氏名】関 健吾
(72)【発明者】
【氏名】河内 友一
(72)【発明者】
【氏名】井上 丈揮
(72)【発明者】
【氏名】横関 康祐
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB06
4G112PA27
4G112PA29
4G112PB08
4G112PB17
4G112PC05
(57)【要約】
【課題】COの固定量が多く、作業性に優れる、水硬性硬化体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の水硬性硬化体の製造方法は、水、混合セメント、炭酸塩および有機系凝結遅延剤を混錬して流動性組成物を得る混錬工程と、前記混錬工程で得られた前記流動性組成物を硬化して水硬性硬化体を得る硬化工程とを有し、前記混合セメントは、セメント、および高炉スラグ微粉末とγ-CSとフライアッシュとからなる群より選択される1種以上を含み、前記流動性組成物において、前記混合セメントに対する前記炭酸塩の含有割合(炭酸塩の含有量×100/混合セメントの含有量)は、8.0%以上60.0%以下であり、前記混合セメントに対する前記有機系凝結遅延剤の含有割合(有機系凝結遅延剤の含有量×100/混合セメントの含有量)は、0.05%以上2.00%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、混合セメント、炭酸塩および有機系凝結遅延剤を混錬して流動性組成物を得る混錬工程と、
前記混錬工程で得られた前記流動性組成物を硬化して水硬性硬化体を得る硬化工程と
を有し、
前記混合セメントは、セメント、および高炉スラグ微粉末とγ-CSとフライアッシュとからなる群より選択される1種以上を含み、
前記流動性組成物において、
前記混合セメントに対する前記炭酸塩の含有割合(炭酸塩の含有量×100/混合セメントの含有量)は、8.0%以上60.0%以下であり、
前記混合セメントに対する前記有機系凝結遅延剤の含有割合(有機系凝結遅延剤の含有量×100/混合セメントの含有量)は、0.05%以上2.00%以下である、水硬性硬化体の製造方法。
【請求項2】
前記炭酸塩は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸ルビジウムおよび炭酸セシウムからなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載の水硬性硬化体の製造方法。
【請求項3】
前記炭酸塩は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸リチウムからなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載の水硬性硬化体の製造方法。
【請求項4】
前記有機系凝結遅延剤は、酒石酸ナトリウム、AE減水剤、高性能AE減水剤およびオキシカルボン酸からなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載の水硬性硬化体の製造方法。
【請求項5】
前記有機系凝結遅延剤は、酒石酸ナトリウムである、請求項1に記載の水硬性硬化体の製造方法。
【請求項6】
前記流動性組成物中の炭酸イオン濃度は、0.34%以上6.00%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の水硬性硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリートへのCO固定化が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ナトリウム、カリウムおよびマグネシウムから選択される金属の炭酸塩を、金属の水酸化物と二酸化炭素を反応させることによって調製すること、炭酸塩と水の混合物を調製すること、および混合物とセメントを混合してレディーミクストコンクリートを調製することを含み、混合物の調製は、金属がナトリウムの場合、混合物中のナトリウムイオンの濃度が1.0重量%以上9.5重量%以下となるように、金属がカリウムの場合、混合物中のカリウムイオンの濃度が2.0重量%以上65重量%以下となるように、金属がマグネシウムの場合、混合物中のマグネシウムイオンの濃度が1.0重量ppm以上16.5重量ppm以下となるように行われる、二酸化炭素を固定可能なコンクリートの作製方法が記載されている。このように、特許文献1では、所定の種類の炭酸塩と水との混合物における金属イオンの濃度を所定範囲に設定して、混合物とセメントとを混合している。
【0004】
しかしながら、特許文献1の製造方法で製造したコンクリートに固定されるCOの量は少量である。そのため、コンクリートなどの水硬性硬化体へのCO固定量を増加できる技術が求められている。また、特許文献1では、コンクリートの製造時における作業性とCO固定量との関係について、何ら検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-155311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、COの固定量が多く、作業性に優れる、水硬性硬化体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] 水、混合セメント、炭酸塩および有機系凝結遅延剤を混錬して流動性組成物を得る混錬工程と、前記混錬工程で得られた前記流動性組成物を硬化して水硬性硬化体を得る硬化工程とを有し、前記混合セメントは、セメント、および高炉スラグ微粉末とγ-CSとフライアッシュとからなる群より選択される1種以上を含み、前記流動性組成物において、前記混合セメントに対する前記炭酸塩の含有割合(炭酸塩の含有量×100/混合セメントの含有量)は、8.0%以上60.0%以下であり、前記混合セメントに対する前記有機系凝結遅延剤の含有割合(有機系凝結遅延剤の含有量×100/混合セメントの含有量)は、0.05%以上2.00%以下である、水硬性硬化体の製造方法。
[2] 前記炭酸塩は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸ルビジウムおよび炭酸セシウムからなる群より選択される1種以上である、上記[1]に記載の水硬性硬化体の製造方法。
[3] 前記炭酸塩は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸リチウムからなる群より選択される1種以上である、上記[1]または[2]に記載の水硬性硬化体の製造方法。
[4] 前記有機系凝結遅延剤は、酒石酸ナトリウム、AE減水剤、高性能AE減水剤およびオキシカルボン酸からなる群より選択される1種以上である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の水硬性硬化体の製造方法。
[5] 前記有機系凝結遅延剤は、酒石酸ナトリウムである、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の水硬性硬化体の製造方法。
[6] 前記流動性組成物中の炭酸イオン濃度は、0.34%以上6.00%以下である、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の水硬性硬化体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、COの固定量が多く、作業性に優れる、水硬性硬化体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1~4および比較例1の流動性組成物のフロー値を測定した結果を示すグラフである。
図2図2は、実施例1~4および比較例1の水硬性硬化体のCO固定量を測定した結果を示すグラフである。
図3図3は、実施例1~4および比較例1における20℃で養生した水硬性硬化体の圧縮強度を測定した結果を示すグラフである。
図4図4は、実施例1~4および比較例1における50℃で養生した水硬性硬化体の圧縮強度を測定した結果を示すグラフである。
図5図5は、実施例5および比較例2の水硬性硬化体のCO固定量を測定した結果を示すグラフである。
図6図6は、実施例5および比較例2における材齢1日、材齢3日、材齢7日、材齢14日および材齢28日の水硬性硬化体の圧縮強度を測定した結果を示すグラフである。
図7図7は、実施例6~7、10~13、16~17および比較例3の流動性組成物の0打のフロー値を測定した結果を示すグラフである。
図8図8は、実施例6~7、10~13、16~17および比較例3の流動性組成物の15打のフロー値を測定した結果を示すグラフである。
図9図9は、練り上がり直後の実施例9の流動性組成物を用いたスランプ試験のデジカメ写真である。
図10図10は、練り上がり30分後の実施例9の流動性組成物を用いたスランプ試験のデジカメ写真である。
図11図11は、練り上がり90分後の実施例9の流動性組成物を用いたスランプ試験のデジカメ写真である。
図12図12は、実施例6~7、10~13、16~17および比較例3の水硬性硬化体のCO固定量を測定した結果を示すグラフである。
図13図13は、実施例8~9、15の水硬性硬化体のCO固定量を測定した結果を示すグラフである。
図14図14は、実施例6~7、10~13、16~17および比較例3における材齢2日、材齢7日、材齢28日および材齢33日の水硬性硬化体の圧縮強度を測定した結果を示すグラフである。
図15図15は、実施例18~20および比較例4の流動性組成物のフロー値を測定した結果を示すグラフである。
図16図16は、実施例18~20および比較例4~5の水硬性硬化体のCO固定量を測定した結果を示すグラフである。
図17図17は、実施例18~20および比較例4~5における材齢2日、材齢7日および材齢14日の水硬性硬化体の圧縮強度を測定した結果を示すグラフである。
図18図18は、実施例21~27および比較例6~8の流動性組成物のフロー値を測定した結果を示すグラフである。
図19図19は、実施例21~27および比較例6~8の水硬性硬化体のCO固定量を測定した結果を示すグラフである。
図20図20は、実施例21~27および比較例6~8における材齢5日、材齢7日、材齢14日および材齢28日の水硬性硬化体の圧縮強度を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0011】
本発明者らは、水硬性硬化体にCOを固定させるためのCO源として、炭酸塩を流動性組成物の原料に用いることを検討した。しかしながら、COの固定量を増やすために、流動性組成物に含まれる炭酸塩の含有割合を従来よりも多くすると、流動性組成物の短時間での流動性が著しく低下することがわかった。このような新たな問題に対して、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、流動性組成物に所定量の有機系凝結遅延剤を加えることで、炭酸塩の含有割合が従来よりも多くても、炭酸塩量の増加に伴う流動性組成物の短時間での流動性低下を抑制できることから、優れた作業性でCO固定量の多い水硬性硬化体を製造できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成させるに至った。
【0012】
本発明の水硬性硬化体の製造方法は、水、混合セメント、炭酸塩および有機系凝結遅延剤を混錬して流動性組成物を得る混錬工程と、混錬工程で得られた流動性組成物を硬化して水硬性硬化体を得る硬化工程とを有し、混合セメントは、セメント、および高炉スラグ微粉末とγ-CSとフライアッシュとからなる群より選択される1種以上を含み、流動性組成物において、混合セメントに対する炭酸塩の含有割合(炭酸塩の含有量×100/混合セメントの含有量)は、8.0%以上60.0%以下であり、混合セメントに対する有機系凝結遅延剤の含有割合(有機系凝結遅延剤の含有量×100/混合セメントの含有量)は、0.05%以上2.00%以下である。
【0013】
水硬性硬化体の製造方法は、混錬工程と硬化工程とを有する。この製造方法で製造される水硬性硬化体は、コンクリートまたはモルタルである。
【0014】
水硬性硬化体の製造方法における混錬工程では、水、混合セメント、炭酸塩、および有機系凝結遅延剤を混錬して流動性組成物を得る。流動性組成物は、セメント組成物であり、流動性を有する。
【0015】
流動性組成物を構成する混合セメントは、セメントを含む。さらに、混合セメントは、高炉スラグ微粉末とγ-CS(γ-2CaO・SiO、γビーライトともいう)とフライアッシュとからなる群より選択される1種以上を含む。
【0016】
混合セメントを構成するセメントは、ポルトランドセメントであることが好ましい。ポルトランドセメントには、普通ポルトランドセメント(OPC)の他、早強、超早強、中庸熱、低熱、耐硫酸塩等の種類があり、これらはJIS R 5210:2019に規定されている。流動性組成物においては、これら種々のポルトランドセメントの1種又は2種以上を配合するものを用いることができる。これらの中でも、普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントの1種又は2種を使用したものを用いることが好ましい。
【0017】
高炉スラグ微粉末は、JIS A 6206:2013「コンクリート用高炉スラグ微粉末」に規定される微粉末である。高炉で、せん鉄と同時に生成する溶融状態の高炉スラグを水や空気によって急冷したものが高炉水砕スラグであり、その塩基度は1.60以上である。この高炉水砕スラグを乾燥・粉砕したもの、又はこれに、石膏を添加したものが、高炉スラグ微粉末である。ポルトランドセメントの一部を高炉スラグ微粉末で代替することにより、セメント製造段階での炭酸ガス排出量を低減させることができる。
【0018】
高炉スラグ微粉末の種類は、比表面積(cm/g)によって次の4種類が存在するが、本発明においてはいずれを用いてもよい。
a)高炉スラグ微粉末3000:比表面積が2750以上3500未満
b)高炉スラグ微粉末4000:比表面積が3500以上5000未満
c)高炉スラグ微粉末6000:比表面積が5000以上7000未満
d)高炉スラグ微粉末8000:比表面積が7000以上10000未満
【0019】
セメントの一部を高炉スラグ微粉末に代替し、製造時のCO排出量の多いセメントの使用量を削減して、CO排出量を削減する観点から、混合セメントに含まれる高炉スラグ微粉末の含有割合は、40.0%以上65.0%以下であることが好ましい。
【0020】
流動性組成物を構成する炭酸塩は、水硬性硬化体にCOを固定させるためのCO源である。使用する炭酸塩としては、大気中のCOを効率的に削減する観点から、大気中のCOを直接回収する技術であるDAC(Direct Air Capture)の過程で得られた炭酸塩、または水酸化物の水溶液をCOでバブリングして得られた炭酸塩であることが好ましい。COのバブリングでは、バブリング時間やバブリング中の水溶液のpHを制御して、水溶液中に炭酸水素塩を沈殿させない条件に管理することが好ましい。
【0021】
大気中のCOを効率的に削減する観点から、CO(炭酸ガス)の供給源は、火力発電所の排ガス、ボイラーからの排ガス、他の製品の製造工程で排出される二酸化炭素を含む排ガス、排ガス中の二酸化炭素濃度を高めた高濃度ガスなどであることが好ましい。また、これらのガスは、湿度や温度を調整してもよい。
【0022】
炭酸塩の形態としては、特に限定されるものではなく、粉末状でもよいし、水溶液(炭酸塩水溶液)でもよい。例えば、流動性組成物に使用する水、いわゆる練混ぜ水に炭酸塩を添加してもよい。
【0023】
水硬性硬化体へのCO固定量の増加および水硬性硬化体の製造方法における作業性向上の観点から、炭酸塩は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸ルビジウムおよび炭酸セシウムからなる群より選択される1種以上であることが好ましく、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸リチウムからなる群より選択される1種以上であることがより好ましい。炭酸塩は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
流動性組成物を構成する有機系凝結遅延剤は、炭酸塩に起因する流動性組成物の凝結時間を遅延させて、流動性組成物の短時間での流動性低下を抑制する。炭酸塩を構成する金属イオンや炭酸イオンによって、水と接触した直後の混合セメントの水和反応が促進されるのに対して、有機系凝結遅延剤が流動性組成物に含まれると、混合セメントの水和反応の促進を有機系凝結遅延剤によって抑制できる。有機系凝結遅延剤が流動性組成物に含まれていないと、炭酸塩に起因する流動性組成物の短時間での急激な硬化が発生し、水硬性硬化体の施工が困難になる。
【0025】
水硬性硬化体の短時間での流動性低下を抑制し、水硬性硬化体の製造方法における作業性を向上させる観点から、有機系凝結遅延剤は、酒石酸ナトリウム、AE減水剤、高性能AE減水剤およびオキシカルボン酸からなる群より選択される1種以上であることが好ましく、酒石酸ナトリウムであることがより好ましい。有機系凝結遅延剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
また、水硬性硬化体の製造方法の作業性を低下させなければ、水硬性硬化体や流動性組成物の所望の特性に応じて、流動性組成物は、上記した水、混合セメント、炭酸塩、および有機系凝結遅延剤の必須成分に加えて、骨材(細骨材、粗骨材)などの任意成分を含有してもよい。混錬工程では、任意成分を必須成分と共に混錬してもよいし、必須成分の混錬物に任意成分を添加して混錬してもよい。
【0027】
細骨材とは、JIS A 5308、JIS A 5005、JIS A 5002及びJIS A 5011で定義される骨材である。細骨材としては、例えば砕砂、砂、川砂、海砂、石灰砕砂、再生骨材、軽量骨材、重量骨材等が挙げられる。
【0028】
粗骨材とは、JIS A 5308、JIS A 5005、JIS A 5002及びJIS A 5011で定義される骨材であり、粒の大きさにより上記の細骨材とは区別されるもので、5mmふるいを通るか否かで区分する。実用上、10mmふるいをすべて通り5mmふるいを重量で85%以上通るものを細骨材、5mmふるいに重量で85%以上とどまるものを粗骨材としている。
【0029】
流動性組成物に含まれる混合セメントおよび炭酸塩について、混合セメントに対する炭酸塩の含有割合(炭酸塩の含有量×100/混合セメントの含有量)は、8.0%以上であり、11.0%以上であることが好ましく、20.0%以上であることがより好ましい。上記の炭酸塩の含有割合が8.0%以上であると、十分な量のCOを水硬性硬化体に固定できる。
【0030】
また、混合セメントに対する炭酸塩の含有割合は、60.0%以下であり、56.0%以下であることが好ましく、35.0%以下であることがより好ましい。上記の炭酸塩の含有割合が60.0%以下であると、硬化後の表面が常時濡れた状態とならないため、水硬性硬化体の製造方法における作業性を向上できる。
【0031】
流動性組成物に含まれる混合セメントおよび有機系凝結遅延剤について、混合セメントに対する有機系凝結遅延剤の含有割合(有機系凝結遅延剤の含有量×100/混合セメントの含有量)は、0.05%以上であり、0.20%以上であることが好ましく、0.50%以上であることがより好ましい。上記の有機系凝縮遅延剤の含有割合が0.05%以上であると、流動性組成物の凝結時間を遅延化し、水硬性硬化体の製造方法における作業性を向上できる。
【0032】
また、混合セメントに対する有機系凝結遅延剤の含有割合は、2.00%以下であり、1.50%以下であることが好ましく、1.00%以下であることがより好ましい。上記の有機系凝縮遅延剤の含有割合が2.00%以下であると、流動性組成物の凝結時間の過剰な遅延化を抑制し、水硬性硬化体の製造方法における作業性を向上できる。
【0033】
特に、流動性組成物のスランプロスの大きさは流動性組成物の温度の影響を受けることから、流動性組成物の温度が20℃の場合には、上記の有機系凝縮遅延剤の含有割合は0.40%以上0.50%以下であることが好ましく、流動性組成物の温度が30℃の場合には、上記の有機系凝縮遅延剤の含有割合は0.65%以上0.75%以下であることが好ましい。
【0034】
流動性組成物中の炭酸イオン濃度は、0.34%以上であることが好ましく、1.34%以上であることがより好ましく、1.75%以上であることがさらに好ましい。流動性組成物中の炭酸イオン濃度が0.34%以上であると、十分な量のCOを水硬性硬化体に固定できる。
【0035】
また、流動性組成物中の炭酸イオン濃度は、6.00%以下であることが好ましく、5.00%以下であることがより好ましく、4.65%以下であることがさらに好ましい。流動性組成物中の炭酸イオン濃度が6.00%以下であると、硬化後の水硬性硬化体の圧縮強度の低下を抑制することができる。
【0036】
混錬工程の後に実施する硬化工程では、混錬工程で得られた流動性組成物を硬化して水硬性硬化体を得る。硬化工程における流動性組成物の硬化の方法は、特に限定されるものではない。例えば、コンクリートやモルタルの分野で実施されている既知の方法を適用できる。
【0037】
このように、本発明の水硬性硬化体の製造方法では、CO源として炭酸塩を流動性組成物に混入させる。そのため、大気中のCO濃度(0.04%)よりも十分に高いCO濃度環境下で水硬性硬化体の炭酸化を強制的に促進させる、いわゆる強制炭酸化養生を水硬性硬化体に施さなくても、十分な量のCOを固定している水硬性硬化体を製造できる。また、本発明の製造方法では、強制炭酸化養生を施さなくてもCO固定量の多い水硬性硬化体を製造できることから、炭酸化養生に要する時間を短縮できる。さらには、強制炭酸化養生を行うコンテナなどの設備に水硬性硬化体を入れることが不要になるため、炭酸化養生設備の大きさに合わせた水硬性硬化体のサイズ制限がなく、従来よりも大きいサイズのCO固定化水硬性硬化体を製造できる。さらには、水硬性硬化体のアルカリ性を維持でき、鉄筋腐食を抑制できる。
【0038】
以上説明した実施形態によれば、流動性組成物に所定量の炭酸塩および有機系凝結遅延剤を加えることで、炭酸塩の含有量が従来よりも多くても、炭酸塩の含有量の増加に伴う流動性組成物の短時間での流動性低下を抑制でき、その結果、優れた作業性でCO固定量の多い水硬性硬化体を製造することができる。
【0039】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本開示の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0040】
次に、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1~4)
炭酸塩である炭酸カリウム(K)を水道水(W)に添加して常温程度に冷却した水溶液に対して表1に示す各種原料を混錬して、表2に示す組成の流動性組成物を調製した。流動性組成物中の炭酸イオン濃度は、原料の炭酸塩に含まれているイオンを流動性組成物重量で除して算出した。続いて、流動性組成物を直径50mm×高さ100mmの円柱型枠に打設し、材齢2日で脱型し、所定の材齢まで気中養生(温度20℃、湿度60%または温度50℃、湿度40%)を行った。こうして、水硬性硬化体を得た。
【0042】
(比較例1)
炭酸塩を用いずに表1に示す各種原料を混錬して、表2に示す組成の流動性組成物を調製したこと以外は実施例1と同様にして、水硬性硬化体を得た。
【0043】
流動性組成物の流動性として、流動性組成物のフロー値を測定した結果を図1に示す。フロー値は、JIS R 5201に準拠して、流動性組成物のフロー試験を行って測定した。図1に示すように、実施例1~4の流動性組成物では、混合セメントに対する有機系凝結遅延剤の含有割合を0.05%以上にすることで、所望のフロー値が得られた。また、炭酸塩を含まない比較例1では、粉体量の1.0%に相当する量以上のAE減水剤を含むことで、所望のフロー値が得られた。
【0044】
また、水硬性硬化体のCO固定量の測定結果を図2に示す。測定としては、材齢7日の水硬性硬化体をアセトンに浸漬して水和反応を停止した後、水硬性硬化体を150μm以下に粉砕して得られた粉末試料に対して窒素ガス環境下で1000℃まで熱重量分析を行った。熱重量分析で得られた600~800℃の間での重量減少について、炭酸カルシウムの脱炭酸反応によるものであって、COが炭酸カルシウムとして水硬性硬化体中に固定化されているとして、水硬性硬化体中に固定化されているCO量を算出した。
【0045】
図2に示すように、比較例1の水硬性硬化体に比べて、炭酸塩を含む流動性組成物で得られた実施例1~4の水硬性硬化体では、CO固定量が増加した。なお、炭酸塩である炭酸カリウムを含まない流動性組成物で得られた比較例1においても、少量の炭酸カルシウムが検出された理由として、使用したセメントの混合成分として少量含まれる石灰石などの影響であると考えられる。
【0046】
また、20℃で養生した水硬性硬化体の圧縮強度の測定結果を図3に示し、50℃で養生した水硬性硬化体の圧縮強度の測定結果を図4に示す。具体的には、JIS A 1108:2018「コンクリートの圧縮強度試験方法」に従い、材齢2日、材齢7日および材齢14日の水硬性硬化体の圧縮強度を測定した。図3~4に示すように、流動性組成物が炭酸塩を含有しても、実施例1~4の水硬性硬化体の圧縮強度は、比較例1と同等またはそれ以上であった。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
(実施例5)
炭酸塩である炭酸カリウム(K)を水道水(W)に添加して常温程度に冷却した水溶液に対して表1に示す各種原料を混錬して、表2に示す組成の流動性組成物を調製した。続いて、流動性組成物を直径100mm×高さ200mmの円柱型枠に打設し、所定の材齢まで封緘養生(温度20℃)を行った。こうして、水硬性硬化体を得た。
【0050】
(比較例2)
炭酸塩を用いずに表1に示す各種原料を混錬して、表2に示す組成の流動性組成物を調製したこと以外は実施例5と同様にして、水硬性硬化体を得た。
【0051】
水硬性硬化体のCO固定量の測定結果を図5に示す。測定としては、全有機炭素計(固体試料燃焼装置付き)により、全炭素量および無機炭素量の測定を行った。全炭素量の測定では、材齢7日の水硬性硬化体をアセトンに浸漬して水和反応を停止した後、水硬性硬化体を150μm以下に粉砕して得られた粉末試料に対して酸素を通じながら900℃に加熱し、発生したCOを非分散型赤外分析計により測定した。無機炭素量の測定では、同様に作製した粉末試料にリン酸を加え、遊離したCOを測定した。図5に示すように、比較例2の水硬性硬化体に比べて、炭酸塩を含有する流動性組成物から得られた実施例5の水硬性硬化体では、CO固定量が増加した。
【0052】
また、JIS A 1108:2018「コンクリートの圧縮強度試験方法」に従い、材齢1日、材齢3日、材齢7日、材齢14日および材齢28日の水硬性硬化体の圧縮強度を測定した結果を図6に示す。図6に示すように、炭酸塩を含有する流動性組成物から得られた実施例5の水硬性硬化体は、比較例2と同等の圧縮強度を有していた。
【0053】
また、実施例1と同様に、JIS R 5201に準拠して、実施例5の流動性組成物のフロー試験を行った結果、所望のフロー値であった。
【0054】
(実施例6~17、比較例3)
炭酸塩である炭酸カリウム(K)を水道水(W)に添加して常温程度に冷却した水溶液に対して表1に示す各種原料を混錬して、表3に示す組成の流動性組成物を調製した。続いて、流動性組成物を直径100mm×高さ200mmの円柱型枠に打設し、所定の材齢まで封緘養生(温度20℃)を行った。こうして、水硬性硬化体を得た。
【0055】
【表3】
【0056】
JIS R 5201に準拠して、流動性組成物のフロー試験を行った結果、有機系凝結遅延剤を含んでいる実施例6~17の流動性組成物では、所望のフロー値であったのに対して、有機系凝結遅延剤を含んでいない比較例3の流動性組成物では、所望のフロー値よりも小さかった。例えば、図7~8に示すように、有機系凝結遅延剤を含んでいない比較例3に比べて、実施例6~7、10~13、16~17の流動性組成物では、フロー値が大きかった。
【0057】
また、実施例9について、フレッシュ性状の評価として、JIS A 1101:2005「コンクリートのスランプ試験方法」に準拠して流動性組成物のスランプ試験を行った。図9は、練り上がり直後の実施例9の流動性組成物を用いたスランプ試験のデジカメ写真である。図10は、練り上がり30分後の実施例9の流動性組成物を用いたスランプ試験のデジカメ写真である。図11は、練り上がり90分後の実施例9の流動性組成物を用いたスランプ試験のデジカメ写真である。
【0058】
図9~11に示すように、有機系凝結遅延剤を含む実施例9では、練り上がりから90分経過後であっても、スランプの低下が生じず、良好なフレッシュ性状を確保することができた。また、有機系凝結遅延剤を含まない比較例3では、練り上がりから30分経過後には既にスランプが0cmとなり、施工に必要な可使時間を確保できなかった。
【0059】
また、実施例6~17の水硬性硬化体についてもCO固定量を測定した結果、十分な量のCOを固定していた。例えば、図12は、実施例6~7、10~13、16~17および比較例3の水硬性硬化体のCO固定量を測定した結果を示すグラフである。また、図13は、実施例8~9、15の水硬性硬化体のCO固定量を測定した結果を示すグラフである。これらの測定としては、実施例1と同様にして、材齢7日の水硬性硬化体を用いて熱重量分析を行い、CO量を算出した。これらの結果のように、上記実施例の水硬性硬化体は、十分な量のCOを固定していた。なお、比較例3の水硬性硬化体についても、実施例6~17と同等のCO固定量であるが、上記のように良好なフレッシュ性状を確保できなかった。
【0060】
また、実施例6~17の水硬性硬化体についても圧縮強度試験を行った結果、良好な圧縮強度を有していた。例えば、図14は、JIS A 1108:2018「コンクリートの圧縮強度試験方法」に従い、実施例6~7、10~13、16~17および比較例3における材齢2日、材齢7日、材齢28日および材齢33日の水硬性硬化体の圧縮強度を測定した結果を示すグラフである。図14に示すように、炭酸塩を含有する流動性組成物から得られたこれら実施例の水硬性硬化体は、良好な圧縮強度を有していた。
【0061】
(実施例18~20、比較例5)
炭酸塩である炭酸カリウム(K)または炭酸ナトリウム(N)を水道水(W)に添加して常温程度に冷却した水溶液に対して表1に示す各種原料を混錬して、表4に示す組成の流動性組成物を調製した。続いて、流動性組成物を直径100mm×高さ200mmの円柱型枠に打設し、所定の材齢まで封緘養生(温度20℃)を行った。こうして、水硬性硬化体を得た。
【0062】
(比較例4)
炭酸塩を用いずに表1に示す各種原料を混錬して、表4に示す組成の流動性組成物を調製したこと以外は実施例18と同様にして、水硬性硬化体を得た。
【0063】
【表4】
【0064】
JIS R 5201に準拠して、実施例18~20および比較例4の流動性組成物のフロー試験を行った結果を図15に示す。図15に示すように、有機系凝結遅延剤を所定量含んでいる実施例18~20の流動性組成物は、所望のフロー値であった。また、比較例5の流動性組成物では、非常に硬く、フロー測定ができなかった。
【0065】
図16は、実施例18~20および比較例4~5の水硬性硬化体のCO固定量を測定した結果を示すグラフである。実施例1と同様にして、材齢7日の水硬性硬化体を用いて熱重量分析を行い、CO量を算出した。図16に示すように、実施例18~20の水硬性硬化体は十分な量のCOを固定していた。
【0066】
図17は、JIS A 1108:2018「コンクリートの圧縮強度試験方法」に従い、実施例18~20および比較例4~5における材齢2日、材齢7日および材齢14日の水硬性硬化体の圧縮強度を測定した結果を示すグラフである。このように、実施例18~20の水硬性硬化体についても圧縮強度試験を行った結果、良好な圧縮強度を有していた。
【0067】
(実施例21~27、比較例7~8)
炭酸塩である炭酸カリウム(K)および炭酸ナトリウム(N)の少なくとも一方を水道水(W)に添加して常温程度に冷却した水溶液に対して表1に示す各種原料を混錬して、表5に示す組成の流動性組成物を調製した。続いて、流動性組成物を直径100mm×高さ200mmの円柱型枠に打設し、所定の材齢まで封緘養生(温度20℃)を行った。こうして、水硬性硬化体を得た。
【0068】
(比較例6)
炭酸塩を用いずに表1に示す各種原料を混錬して、表5に示す組成の流動性組成物を調製したこと以外は実施例21と同様にして、水硬性硬化体を得た。
【0069】
【表5】
【0070】
JIS R 5201に準拠して、実施例21~27および比較例6~8の流動性組成物のフロー試験を行った結果を図18に示す。図18に示すように、有機系凝結遅延剤を所定量含んでいる実施例21~27の流動性組成物は、所望のフロー値であった。
【0071】
図19は、実施例21~27および比較例6~8の水硬性硬化体のCO固定量を測定した結果を示すグラフである。実施例1と同様にして、材齢7日の水硬性硬化体を用いて熱重量分析を行い、CO量を算出した。図19に示すように、実施例21~27の水硬性硬化体は十分な量のCOを固定していた。
【0072】
図20は、JIS A 1108:2018「コンクリートの圧縮強度試験方法」に従い、実施例21~27および比較例6~8における材齢5日、材齢7日、材齢14日および材齢28日の水硬性硬化体の圧縮強度を測定した結果を示すグラフである。このように、実施例21~27の水硬性硬化体についても圧縮強度試験を行った結果、良好な圧縮強度を有していた。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20