(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178026
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ゾノトライト系珪酸カルシウム成形体
(51)【国際特許分類】
C04B 35/16 20060101AFI20241217BHJP
C04B 35/622 20060101ALI20241217BHJP
C01B 33/24 20060101ALI20241217BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C04B35/16
C04B35/622 130
C01B33/24 101
E04B1/94 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096510
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000149136
【氏名又は名称】日本インシュレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 浩平
(72)【発明者】
【氏名】寺井 徹
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 茉央
(72)【発明者】
【氏名】小川 晴久
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 吉昭
【テーマコード(参考)】
2E001
4G073
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001FA03
2E001FA11
2E001FA14
2E001FA16
2E001GA12
2E001HA21
2E001JA01
2E001JA22
2E001JA28
2E001JA29
2E001JB07
2E001JC06
2E001JD04
2E001JD05
4G073BA11
4G073BA63
4G073BA75
4G073BA76
4G073BB34
4G073BD26
4G073CC15
4G073FA03
4G073FB01
4G073FB10
4G073FB17
4G073FB18
4G073FC03
4G073FD27
4G073GA02
4G073UB60
(57)【要約】
【課題】高温領域であっても加熱収縮が起こりにくい珪酸カルシウム成形体を提供する。
【解決手段】本発明のゾノトライト系珪酸カルシウム成形体は、ゾノトライトを含有する珪酸カルシウム成形体であって、前記ゾノトライトは、粉末X線回折法によって測定される(400)面の結晶子サイズが40nm以上である。前記ゾノトライトは、珪酸質成分及び石灰質成分に由来するものであることが好ましく、前記珪酸質成分は、珪石及びもみ殻灰からなる群より選ばれる少なくとも1種である。本発明のゾノトライト系珪酸カルシウム成形体は、高温領域であっても加熱収縮が起こりにくい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゾノトライトを含有する珪酸カルシウム成形体であって、
前記ゾノトライトは、粉末X線回折法によって測定される(400)面の結晶子サイズが40nm以上である、ゾノトライト系珪酸カルシウム成形体。
【請求項2】
前記ゾノトライトは、珪酸質成分及び石灰質成分に由来するものであり、
前記珪酸質成分は、珪石及びもみ殻灰からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のゾノトライト系珪酸カルシウム成形体。
【請求項3】
前記(400)面の結晶子サイズが60nm以下である、請求項1又は2に記載のゾノトライト系珪酸カルシウム成形体。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のゾノトライト系珪酸カルシウム成形体の製造方法であって、
珪酸質成分、石灰質成分及び水を含む原料を用いてゾノトライト系珪酸カルシウムを得る工程を具備する、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゾノトライト系珪酸カルシウム成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ゾノトライト系珪酸カルシウム成形体は、機械的強度、耐火性、不燃性、耐熱性等の各種性能に優れ、工業的に容易に利用することができることから、様々な用途に適用されており、その利用価値は極めて高いといえる。ゾノトライト系珪酸カルシウム成形体は、例えば、屋根材、天井材、壁材、床材等の各種建築材料に使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ゾノトライトを主成分とするケイ酸カルシウム水和物等を含有する原料を用いて、珪酸カルシウム系成形体を製造する技術が開示されている。斯かる珪酸カルシウム系成形体は、耐熱性及び耐酸性の両者を兼ね備えることができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、近年では珪酸カルシウム成形体に対し、更なる機能の向上を要求されることも多く、例えば、高温領域(例えば1100℃)での加熱収縮率を更に小さくすることも求められている。特に、従来の珪酸カルシウム成形体は1000℃を超えると収縮しやすい傾向にあったことから、珪酸カルシウム成形体の耐熱性を向上することで、新たな用途への展開も十分期待される。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、高温領域であっても加熱収縮が起こりにくい珪酸カルシウム成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、(400)面の結晶子サイズが特定の大きさに制御されたゾノトライトを主成分とすることで上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
ゾノトライトを含有する珪酸カルシウム成形体であって、
前記ゾノトライトは、粉末X線回折法によって測定される(400)面の結晶子サイズが40nm以上である、ゾノトライト系珪酸カルシウム成形体。
項2
前記ゾノトライトは、珪酸質成分及び石灰質成分に由来するものであり、
前記珪酸質成分は、珪石及びもみ殻灰からなる群より選ばれる少なくとも1種である、項1に記載のゾノトライト系珪酸カルシウム成形体。
項3
前記(400)面の結晶子サイズが60nm以下である、項1又は2に記載のゾノトライト系珪酸カルシウム成形体。
項4
項1又は2に記載のゾノトライト系珪酸カルシウム成形体の製造方法であって、
珪酸質成分、石灰質成分及び水を含む原料を用いてゾノトライト系珪酸カルシウムを得る工程を具備する、製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゾノトライト系珪酸カルシウム成形体は、高温領域であっても加熱収縮が起こりにくい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0011】
本発明のゾノトライト系珪酸カルシウム成形体は、珪酸カルシウムを含有し、前記ゾノトライトは、粉末X線回折法によって測定される(400)面の結晶子サイズが40nm以上である。これにより、本発明のゾノトライト系珪酸カルシウム成形体は、高温領域であっても加熱収縮が起こりにくく、例えば、1100℃雰囲気下で24時間加熱されたとしても、成形体の収縮が起こりにくいものとなる。
【0012】
前記ゾノトライトの(400)面の結晶子サイズは、粉末X線回折法によって測定することができる。具体的には、ゾノトライト系珪酸カルシウムの粉末X線回折法によって得られるX線回折スペクトルにおいて、(400)面の結晶に由来するピーク強度(2θ=20.9°±0.5に認められるピーク強度)の値に基づいて、ゾノトライトの(400)面の結晶子サイズを導き出すことができる。本明細書において、結晶子サイズは、シェラーの式(下記式(1))により求められたものをいう。
D=Kλ/(βcоsθ) (1)
(1)式において、「D」は、結晶子サイズを示す。
「K」は、シェラー定数を示す。本実施形態においては「K=1.05」とされる。
「λ」は、X線の波長を示す。本実施形態においては「λ=0.154」とされる。
「β」は、回折線の半値幅を示す。
「θ」は、ブラッグ(Bragg)角である。
また、「β」および「θ」は、X線回折(XRD)プロファイルから求められる。例えば、島津社製のXRD装置「XRD-6100」、またはこれと同等品により、XRD測定が実施されてもよい。XRD測定の条件は、例えば、下記のとおりである。
X線源 :Cu-Kα線(波長λ=0.154nm)(モノクロメータ)
管電圧 :40kV
管電流 :30mA
測定範囲 :2θ=20°~50°
スキャンスピード:0.25°/min
ステップ幅 :0.02°
XRDプロファイルから、001,040,400回折線の半値幅(β)、および001,040,400回折線のブラッグ角(θ)が求められる。「λ」、「β」および「θ」の値が、上記式(1)に代入されることにより、結晶子サイズが求められる。
【0013】
前記(400)面の結晶子サイズが40nm未満になると、1100℃雰囲気下で加熱されたときのゾノトライト系珪酸カルシウム成形体の収縮率が大きく、耐熱性に劣るものとなる。前記(400)面の結晶子サイズは、45nm以上であることが好ましく、47nm以上であることがより好ましく、49nm以上であることがさらに好ましく、50nm以上であることがよりさらに好ましく、51nm以上であることが特に好ましい。前記(400)面の結晶子サイズは、60nm以下であることが好ましい。
【0014】
本発明のゾノトライト系珪酸カルシウム成形体において、ゾノトライトの(400)面の結晶子サイズは種々の方法で調節することができ、その方法は特に限定されない。例えば、ゾノトライト系珪酸カルシウム成形体に含まれるゾノトライトの生成条件を変更することで、(400)面の結晶子サイズを調節することができる。その調節方法の一例として、ゾノトライト系珪酸カルシウムを製造するために行われる後記水熱合成反応の条件を変更する方法が挙げられる。
【0015】
ゾノトライトは(400)面以外に(040)面及び(001)面も存在し得る。(040)面の結晶子サイズは特に限定されず、例えば、15~50nmであり、好ましくは20~40nmである。(001)面の結晶子サイズは特に限定されず、例えば、10~40nmであり、好ましくは15~35nmである。(040)面及び(001)面も前述と同様の条件の粉末X線回折法によって測定される。
【0016】
本発明のゾノトライト系珪酸カルシウム成形体に含まれるゾノトライトは、前記結晶子サイズを有する限り、その種類は特に限定されない。例えば、ゾノトライトは、珪酸質成分及び石灰質成分に由来するものであることが好ましい。すなわち、珪酸カルシウムは、珪酸質成分を含む原料と、石灰質成分を含む原料とを反応させて得られた生成物を含むことが好ましい。従って、ゾノトライト系珪酸カルシウム成形体に含まれるゾノトライトは、珪酸質成分、石灰質成分及び水を含む原料(以下、当該原料を「原料A」と表記する。)を用いて生成させることが好ましい。
【0017】
前記珪酸質成分としては、珪石、珪砂、シリカゲル、ホワイトカーボン、珪藻土、フェロシリコンダスト、シラス、もみ殻灰等が例示される。珪石は、鉱物資源であり、もみ殻灰は、バイオマス資源である。
【0018】
前記石灰質成分としては、生石灰(酸化カルシウム)、消石灰(水酸化カルシウム)、カーバイド滓、塩化カルシウム等が例示される。
【0019】
原料Aにおいて、前記珪酸質成分及び前記石灰質成分の含有割合は特に限定されない。例えば、前記珪酸質成分及び前記石灰質成分の全質量に対し、前記珪酸質成分の含有割合が40~60質量%であることが好ましく、45~55質量%であることがより好ましく、48~52質量%であることがさらに好ましい。
【0020】
原料Aにおいて、水の含有量も特に限定されない。原料Aにおいて、水の含有量は、前記珪酸質成分及び前記石灰質成分の全質量に対し、0.5倍以上、好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上であり、また、好ましくは50倍以下、より好ましくは30倍以下、さらに好ましくは25倍以下である。
【0021】
原料Aは、さらに有機酸を含むことも好ましい。有機酸を含む原料Aを用いることで、生成するゾノトライトの(400)面の結晶子サイズが40nm以上となりやすい。
【0022】
有機酸の種類は特に限定されず、例えば、公知の有機酸を広く挙げることができる。有機酸は水溶性であることが好ましく、酢酸、乳酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、ジアセチル酒石酸、グリコール酸、グルタル酸等を挙げることができる。中でも、有機酸は、クエン酸が好ましい。この場合、前記(400)面の結晶子サイズを40nm以上に制御することがより容易になる。原料Aに含まれる有機酸は1種単独又は2種以上とすることができる。
【0023】
原料Aが有機酸を含む場合、その含有量も特に限定されない。前記(400)面の結晶子サイズを40nm以上に制御しやすい点で、原料Aに含まれる前記珪酸質成分及び前記石灰質成分の全質量に対する有機酸の含有割合は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましく、0.8質量%以上であることが特に好ましい。また、前記(400)面の結晶子サイズを40nm以上に制御しやすい点で、原料Aに含まれる前記珪酸質成分及び前記石灰質成分の全質量に対する有機酸の含有割合は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましく、2質量%以下であることが特に好ましい。
【0024】
原料Aには本発明の効果が阻害されない程度において、さらに他の成分を含むことができる。他の成分としては、石膏を挙げることができる。原料Aが石膏を含む場合、石膏の含有割合は、前記珪酸質成分及び前記石灰質成分の全質量に対して0.1~5質量%、好ましくは、0.3~3質量%である。
【0025】
原料Aを用いてゾノトライト系珪酸カルシウムを得る方法は特に限定されず、例えば、公知の珪酸カルシウムを得る方法と同様の方法を採用することができる。例えば、原料Aの水熱合成反応によって、ゾノトライトを生成させることができ、これにより、ゾノトライト系珪酸カルシウムを得ることができる。水熱合成反応の温度は、例えば、175~260℃とすることができ、また、水熱合成反応の圧力は8~50kgf/cm2程度とすることができる。水熱合成反応は、例えば、公知の耐圧容器内で行うことができる。
【0026】
水熱合成反応の時間も特に限定されず、温度等に応じて適宜設定することができる。例えば、水熱合成反応の時間は、1~20時間とすることができ、前記(400)面の結晶子サイズを40nm以上に制御しやすい点で、2~10時間であることが好ましく、3~7時間であることがより好ましい。
【0027】
前記原料Aを用いることで、例えば、ゾノトライト系珪酸カルシウムを含む水性スラリーが得られる。斯かるゾノトライト系珪酸カルシウムは、例えば、水和物の形態となり得る。
【0028】
ゾノトライトは、珪酸質成分及び石灰質成分に由来するものであることが好ましく、前記珪酸質成分は、珪石及びもみ殻灰からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。この場合、ゾノトライト系珪酸カルシウムが生成しやすい上に、前記(400)面の結晶子サイズが40nm以上である珪酸カルシウムが得られやすい。
【0029】
前記原料Aを用いて得られる水性スラリー中のゾノトライト(ゾノトライト系珪酸カルシウム)は、二次粒子を形成した状態になり得る。二次粒子の粒径は限定的ではなく、例えば、5~150μm程度である。
【0030】
本発明のゾノトライト系珪酸カルシウム成形体は、前記原料Aを用いて得られたゾノトライト系珪酸カルシウムを成形することで得ることができる。例えば、前述のゾノトライトを含有する水性スラリーを脱水成形することで、ゾノトライト系珪酸カルシウム成形体が得られる。すなわち、本発明のゾノトライト系珪酸カルシウム成形体は、珪酸質成分、石灰質成分及び水を含む原料を用いて前記ゾノトライトを得る工程を具備する製造方法によって得ることができる。
【0031】
水性スラリーを脱水成形する方法は特に限定されず、例えば、公知の脱水成形方法を広く採用することができる。
【0032】
水性スラリーを脱水成形するにあたって、水性スラリーには、必要に応じて、種々の添加剤を添加することもできる。添加剤としては、繊維質材料、セメント、充填剤、顔料、染料、重合体(樹脂)、凝集剤、撥水剤等が挙げられる。
【0033】
前記繊維質材料としては、パルプ、ガラス繊維、木綿、セラミックファイバー、ビニロン繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、スチール繊維、炭素繊維等の公知の有機繊維や無機繊維が例示される。セメントとしては、ポルトランドセメント、ホワイトセメント、アルミナセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、混合セメント等が例示される。充填剤としては、例えば、クレー、ベントナイト、タルク、炭酸カルシウム等が例示される。
【0034】
繊維質材料の含有割合は、水性スラリー中の固形分の全質量に対して、例えば、20質量%以下とすることができ、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0035】
水性スラリーの脱水成形方法は、例えば、プレス脱水成形法、抄造法、ロール脱水成形法、遠心成形法等が挙げられる。脱水成形条件も特に限定的ではなく、公知の条件を本発明でも広く採用することができる。
【0036】
脱水成形の後は、必要に応じて乾燥処理を行うこともできる。乾燥処理の方法は公知の方法を採用することができ、風乾、加熱乾燥、熱風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、真空凍結乾燥、調湿乾燥、雰囲気制御置換型乾燥、超臨界乾燥等の乾燥方法が例示される。乾燥温度及び乾燥度合(含水率)は成形体の組成や目的、用途に応じて適宜設定すればよい。
【0037】
水性スラリーの脱水成形により、本発明のゾノトライト系珪酸カルシウム成形体が得られる。このように形成されるゾノトライト系珪酸カルシウム成形体は、例えば、前述の珪酸カルシウム二次粒子及び/又はこの二次粒子の圧縮変形物を含有する。
【0038】
本発明のゾノトライト系珪酸カルシウム成形体中のゾノトライト系珪酸カルシウムの含有割合は、例えば、50質量%以上であり、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。
【0039】
本発明のゾノトライト系珪酸カルシウム成形体の密度は特に限定されない。例えば、本発明のゾノトライト系珪酸カルシウム成形体の密度は、120~900kg/m3の範囲である。成形体の形状や大きさも特に制限は無く、用途に応じて適宜設計することができる。
【0040】
本発明のゾノトライト系珪酸カルシウム成形体は、粉末X線回折法によって測定される(400)面の結晶子サイズが40nm以上である珪酸カルシウムを含有する。これにより、本発明のゾノトライト系珪酸カルシウム成形体は、高温領域であっても加熱収縮が起こりにくく、例えば、1100℃雰囲気下で24時間加熱されたとしても成形体の収縮が起こりにくい。
【0041】
もっとも、当然ながらゾノトライト系珪酸カルシウム成形体は、ゾノトライト以外の他の成分(例えば、添加剤の種類や有無)によって加熱収縮の起こりやすさは異なる。この点、本発明において、同組成のゾノトライト系珪酸カルシウム成形体で比較すると、(400)面の結晶子サイズが40nm以上である珪酸カルシウムを含有する成形体の方が、これ以外の珪酸カルシウムを含有する成形体に比べて成形体の加熱収縮は顕著に抑制されるものである。つまり、ゾノトライトの(400)面の結晶子サイズが異なることを除いて同じ組成であるゾノトライト系珪酸カルシウム成形体どうしを比べると、ゾノトライトの(400)面の結晶子サイズが40nm以上である珪酸カルシウムを含有する成形体の方が加熱収縮の発生が顕著に抑制される。
【実施例0042】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
生石灰49質量部、珪石49.4重量部、石膏0.6質量部及び水1600質量部に、さらに有機酸としてクエン酸を、生石灰及び珪石の全質量に対して1質量%となるように加えて混合して原料Aを調製した。この原料Aをオートクレーブ中で、圧力14kgf/cm2、温度200℃の条件下で撹拌しながら、5時間にわたって水熱合成反応を行った。これにより、ゾノトライト系珪酸カルシウムを含む水性スラリーを得た。次いで、斯かる水性スラリーを固形分換算で95質量部準備し、該水性スラリーにパルプを5質量部添加した後、型枠内に流し込み、150kgf/cm2の圧力下で脱水成形を行った。得られた成形体を乾燥することで、ゾノトライト系珪酸カルシウム成形体を得た。
【0044】
(比較例1)
クエン酸を使用せずに原料Aを調製したこと以外は実施例1と同様の方法でゾノトライト系珪酸カルシウム成形体を得た。
【0045】
(実施例2)
生石灰47.2質量部、もみ殻灰51.2質量部、石膏0.6質量部及び水1600質量部に、さらに有機酸としてクエン酸を、生石灰及びもみ殻灰の全質量に対して1質量%となるように加えて混合して、原料Aを調製した。この原料Aをオートクレーブ中で、圧力14kgf/cm2、温度200℃の条件下で撹拌しながら、5時間にわたって水熱合成反応を行った。これにより、ゾノトライト系珪酸カルシウムを含む水性スラリーを得た。次いで、斯かる水性スラリーを固形分換算で95質量部準備し、該水性スラリーにパルプを5質量部添加した後、型枠内に流し込み、150kgf/cm2の圧力下で脱水成形を行った。得られた成形体を乾燥することで、ゾノトライト系珪酸カルシウム成形体を得た。
【0046】
(比較例2)
クエン酸を使用せずに原料Aを調製したこと以外は実施例2と同様の方法でゾノトライト系珪酸カルシウム成形体を得た。
【0047】
(実施例3)
水熱合成反応を10時間にわたって行ったこと以外は実施例2と同様の方法でゾノトライト系珪酸カルシウム成形体を得た。
【0048】
(比較例3)
クエン酸を使用せずに原料Aを調製したこと以外は実施例3と同様の方法でゾノトライト系珪酸カルシウム成形体を得た。
【0049】
(実施例4)
生石灰47.2質量部、もみ殻灰51.2質量部、石膏0.6質量部及び水1600質量部に、さらに有機酸としてクエン酸を、生石灰及びもみ殻灰の全質量に対して1質量%となるように加えて混合して、原料Aを調製した。この原料Aをオートクレーブ中で、圧力14kgf/cm2、温度200℃の条件下で撹拌しながら、5時間にわたって水熱合成反応を行った。これにより、ゾノトライト系珪酸カルシウムを含む水性スラリーを得た。次いで、斯かる水性スラリーを固形分換算で95質量部準備し、該水性スラリーにパルプを2.6質量部、セメント18.5質量部及びガラス繊維4.4質量部を添加した後、型枠内に流し込み、150kgf/cm2の圧力下で脱水成形を行った。得られた成形体を乾燥することで、ゾノトライト系珪酸カルシウム成形体を得た。
【0050】
(評価方法)
粉末X線回折法、成形体密度、成形体曲げ強さ、加熱収縮率の評価は以下の方法で行った。
【0051】
<粉末X線回折法>
粉末X線回折法では、島津社製のXRD装置「XRD-6100」を用いた。XRD測定の条件は、下記のとおりとした。
X線源 :Cu-Kα線(波長λ=0.154nm)(モノクロメータ)
管電圧 :40kV
管電流 :30mA
測定範囲 :2θ=20°~50°
スキャンスピード:0.25°/min
ステップ幅:0.02°
【0052】
<成形体密度>
各実施例及び比較例で得られた成形体を105℃で恒量になるまで乾燥させた後、絶乾重量を測定した。また、長さ、幅、厚さの寸法を計測し、下記式(2)
成形体密度(kg/m3)=絶乾重量/(長さ×幅×厚さ) (2)
より成形体密度を求めた。
【0053】
<成形体曲げ強さ>
各実施例及び比較例で得られた成形体から150mm×37mm×20mmの試験片を切り出し、試験体とした。この試験体を支持台の上に置き、支点間距離(12cm)の中央部の加圧帯を10~30mm/minの荷重速度で移動させて、試験体が破壊する力(最大荷重)を測定し、破壊したときの力を曲げ強さ(N/cm2)とした。曲げ強さは下記式(3)
曲げ強さ(N/cm2)=3・F・L/(2・b・t2) (3)
(F:最大荷重(N)、L:支点間距離(cm)b:試験片の幅(cm)、t:試験片の厚さ(cm))
より求めた。
【0054】
<加熱収縮率>
各実施例及び比較例で得られた成形体から150mm×37mm×20mmの試験片を切り出し、これを電気炉に入れ、150分かけて1100℃まで昇温させた後、1100℃で12時間保持した。その後、成形体を電気炉から取り出し、長尺方向の寸法を計測し、下記(4)式より成形体の加熱収縮率を算出した。
加熱収縮率(%)={(加熱前寸法-加熱後寸法)/加熱前寸法}×100 (4)
【0055】
表1には、実施例1及び比較例1で得られたゾノトライト系珪酸カルシウムにおけるゾノトライトの(400)面の結晶子サイズ、(040)面の結晶子サイズ、(001)面の結晶子サイズ、加熱収縮率(%)、密度及び曲げ強さの評価結果を示している。
【0056】
ゾノトライトの(400)面の結晶子サイズが異なることを除いては、実施例1及び比較例1は同組成で構成されるゾノトライト系珪酸カルシウム成形体ではある。それにもかかわらず、実施例1の方が比較例1よりも、高温領域であっても加熱収縮が起こりにくいものであることが表1からわかる。
【0057】
【0058】
表2には、実施例2及び比較例2で得られたゾノトライト系珪酸カルシウム成形体の(400)面の結晶子サイズ、(040)面の結晶子サイズ、(001)面の結晶子サイズ、加熱収縮率(%)、密度及び曲げ強さの評価結果を示している。
【0059】
ゾノトライトの(400)面の結晶子サイズが異なることを除いては、実施例2及び比較例2は同組成で構成されるゾノトライト系珪酸カルシウム成形体ではある。それにもかかわらず、実施例2の方が比較例2よりも、高温領域であっても加熱収縮が起こりにくいものであることが表2からわかる。
【0060】
【0061】
表3には、実施例3及び比較例3で得られたゾノトライト系珪酸カルシウム成形体の(400)面の結晶子サイズ、(040)面の結晶子サイズ、(001)面の結晶子サイズ、加熱収縮率(%)、密度及び曲げ強さの評価結果を示している。
【0062】
ゾノトライトの(400)面の結晶子サイズが異なることを除いては、実施例3及び比較例3は同組成で構成されるゾノトライト系珪酸カルシウム成形体ではある。それにもかかわらず、実施例3の方が比較例3よりも、高温領域であっても加熱収縮が起こりにくいものであることが表3からわかる。
【0063】
【0064】
表4には、実施例4で得られたゾノトライト系珪酸カルシウム成形体の(400)面の結晶子サイズ、(040)面の結晶子サイズ、(001)面の結晶子サイズ、加熱収縮率(%)、密度及び曲げ強さの評価結果を示している。
【0065】
【0066】
以上の実施例及び比較例の結果から、(400)面の結晶子サイズが40nm以上であるゾノトライトを含有するゾノトライト系珪酸カルシウム成形体の方が、高温領域であっても加熱収縮が起こりにくいものであることがわかった。