(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178027
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ポリテトラフルオロエチレン造粒粉末及び、その製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/16 20060101AFI20241217BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20241217BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20241217BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20241217BHJP
C08K 3/20 20060101ALI20241217BHJP
C08K 5/541 20060101ALI20241217BHJP
C08J 3/215 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C08J3/16 CEW
C08L27/18
C08K3/00
C08K3/08
C08K3/20
C08K5/541
C08J3/215
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096511
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000174851
【氏名又は名称】三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 大将
(72)【発明者】
【氏名】越前 恒雄
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA24
4F070AC07
4F070AC12
4F070AC33
4F070AC52
4F070AC53
4F070AC63
4F070AC84
4F070AE27
4F070AE28
4F070DA33
4F070DC05
4F070DC07
4F070FA01
4F070FA05
4F070FC03
4J002BD151
4J002DA076
4J002DC006
4J002EX017
4J002EX027
4J002EX037
4J002EX067
4J002EX077
4J002FD016
4J002FD207
4J002GJ02
4J002GM05
(57)【要約】
【課題】
本発明は、比重の大きい金属粉末等を充填材として使用した場合でも、充填材の脱離の少ないポリテトラフルオロエチレン造粒粉末及び、その製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、充填材、ポリテトラフルオロエチレン粉末、多加水分解基型シランカップリング剤、及び単加水分解基型シランカップリング剤を含有する混合物を、水と水不溶性有機液体の混合液中で撹拌して混合造粒を行うことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填材、ポリテトラフルオロエチレン粉末、多加水分解基型シランカップリング剤、及び単加水分解基型シランカップリング剤を含有する混合物を、水と水不溶性有機液体の混合液中で撹拌して混合造粒を行うことを特徴とする、ポリテトラフルオロエチレン造粒粉末の製造方法。
【請求項2】
多加水分解基型シランカップリング剤が、下記の式(1)で示されるビスシラン型シランカップリング剤、又は、下記の式(2)の繰り返しモノマー単位を含む高分子型シランカップリング剤である請求項1に記載の造粒粉末の製造方法。
X-R
1-X (1)
[Xは、加水分解性シリル基(-Si(OR
2)
n(R
3)
3-n)(n=1~3)であり、R
2及びR
3は、それぞれ-CH
3又は、-C
2H
5であり、
R
1は、置換基を含んでいても良く、水素がハロゲンに置換されていても良い、直鎖又は分岐鎖の炭素数2~12個の炭化水素である。]
【化1】
[Xは加水分解性シリル基(-Si(OR
2)
n(R
3)
3-n)(n=1~3)であり、R
2及びR
3は、それぞれ-CH
3又は、-C
2H
5であり、
AはCH又はNであり、
R
a及びR
bはそれぞれ独立に、置換基を含んでいても良く、水素がハロゲンに置換されていても良い、炭素数1~10個の炭化水素であり、
R
cは水素がハロゲンに置換されていても良い炭素数1~5個の炭化水素であり、
p=3~30である。]
【請求項3】
単加水分解基型シランカップリング剤が、下記の式(3)で示されるシランカップリング剤である、請求項1に記載の造粒粉末の製造方法。
X-R4 (3)
[Xは、加水分解性シリル基(-Si(OR2)n(R3)3-n)(n=1~3)であり、R2及びR3は、それぞれ-CH3又は、-C2H5であり、
R4は、置換基を含んでいても良く、水素がハロゲンに置換されていても良い、直鎖又は分岐鎖の炭素数2~12個の炭化水素である。]
【請求項4】
加水分解基型シランカップリング剤が、下記の式(3)で示されるシランカップリング剤である、請求項2に記載の造粒粉末の製造方法。
X-R4(3)
[Xは、加水分解性シリル基(-Si(OR2)n(R3)3-n)(n=1~3)であり、R2及びR3は、それぞれ-CH3又は、-C2H5であり、
R4は、置換基を含んでいても良く、水素がハロゲンに置換されていても良い、直鎖又は分岐鎖の炭素数2~12個の炭化水素である。]
【請求項5】
充填材は、表面が親水性の充填材である請求項1~4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
充填材が、金属又は、金属酸化物である請求項1~4の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
3~40体積%の充填材と
60~97体積%のポリテトラフルオロエチレン粉末と、を含む造粒粉末であって、
充填材とポリテトラフルオロエチレン粉末の合計100質量部に対して、1質量部以下の多加水分解基型シランカップリング剤及び単加水分解基型シランカップリング剤を含むポリテトラフルオロエチレン造粒粉末。
【請求項8】
多加水分解基型シランカップリング剤が、式(1)で示されるビスシラン型シランカップリング剤、又は、式(2)の繰り返しモノマー単位を含む高分子型シランカップリング剤である、請求項7に記載のポリテトラフルオロエチレン造粒粉末。
X-R
1-X (1)
[Xは、加水分解性シリル基(-Si(OR
2)
n(R
3)
3-n)(n=1~3)であり、R
2及びR
3は、それぞれ-CH
3又は、-C
2H
5であり、
R
1は、置換基を含んでいても良く、水素がハロゲンに置換されていても良い、直鎖又は分岐鎖の炭素数2~12個の炭化水素である。]
【化2】
[Xは加水分解性シリル基(-Si(OR
2)
n(R
3)
3-n)(n=1~3)であり、R
2及びR
3は、それぞれ-CH
3又は、-C
2H
5であり、
AはCH又はNであり、
R
a及びR
bはそれぞれ独立に、置換基を含んでいても良く、水素がハロゲンに置換されていても良い、炭素数1~10個の炭化水素であり、
R
cは水素がハロゲンに置換されていても良い炭素数1~5個の炭化水素であり、
p=3~30である。]
【請求項9】
単加水分解基型シランカップリング剤が、下記の式(3)で示されるシランカップリング剤である、請求項7に記載のポリテトラフルオロエチレン造粒粉末。
X-R4(3)
[Xは、加水分解性シリル基(-Si(OR2)n(R3)3-n)(n=1~3)であり、R2及びR3は、それぞれ-CH3又は、-C2H5であり、
R4は、置換基を含んでいても良く、水素がハロゲンに置換されていても良い、直鎖又は分岐鎖の炭素数2~12個の炭化水素である。]
【請求項10】
単加水分解基型シランカップリング剤が、下記の式(3)で示されるシランカップリング剤である、請求項8に記載のポリテトラフルオロエチレン造粒粉末。
X-R4(3)
[Xは、加水分解性シリル基(-Si(OR2)n(R3)3-n)(n=1~3)であり、R2及びR3は、それぞれ-CH3又は、-C2H5であり、
R4は、置換基を含んでいても良く、水素がハロゲンに置換されていても良い、直鎖又は分岐鎖の炭素数2~12個の炭化水素である。]
【請求項11】
平均粒径が200~800μmである、請求項7~10の何れか一項に記載の造粒粉末。
【請求項12】
充填材は、表面が親水性の充填材である、請求項7~10の何れか一項に記載の造粒粉末。
【請求項13】
充填材が、金属又は、金属酸化物である、請求項7~10の何れか一項に記載の造粒粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造時や使用時において、比重の大きい金属粉末等を充填材として使用した場合でも、充填材の脱離の少ないポリテトラフルオロエチレン造粒粉末及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は摩擦係数が低く、耐熱性や耐薬品性が非常に優れているが、摩耗やクリープ変形しやすいという特徴を有する。そこで、耐摩耗性や耐クリープ性を改善するために各種の充填材を配合した組成物が、摺動部材やシール部材として多く利用されている。PTFE組成物は、PTFEの粉末と充填材とを混合することで得られるが、粉末の取り扱い性や粉末流動性を改善するため、見かけ密度の大きい造粒粉末が製造されている。また、造粒はPTFE粉末単体についても、取り扱い性改善のために行なわれる。
【0003】
造粒粉末の製造方法としては、粉末を有機溶剤で濡らしてスラリー化し、転動させて造粒する方法(特許文献1)が知られているが、バッチごとに完全排出がし難いことから、連続的に生産する場合には品質上好ましくない。また、粉末と非水溶性有機溶剤の混合物を水中で撹拌する方法(特許文献2)も生産性が良いことから用いられている。このような方法を水中造粒という。しかしながら、この方法では充填材粒子の表面が親水性のものを用いた時に、充填材が水中に脱離してしまうという課題がある。その結果、脱離した充填材はプロセス中に凝集して、製品内に混入して不良品を発生させ、また、充填材のロスにより目的値よりも含有比率を低下させるという問題になる。
【0004】
そこで、親水性充填材をアミノ基含有シラン(アミノシラン)やシリコーン樹脂で処理する方法(特許文献3)、親水性充填材をアミノ基含有シリコーン樹脂で処理する方法(特許文献4)、溶剤として、特定のフッ素含有溶剤を用いる方法(特許文献5)などが提案されている。しかしながら、表面の親水性が大きく、比重の大きい金属粉や金属化合物(金属塩や金属酸化物など)を充填材として使用する場合、特に小さい粒径の充填材を使用する場合には、上記の方法を用いても脱離が起きてしまう。小さい粒径の充填材は、少量でも充填材の効果が得られ、この点では好ましく用いられるが、脱離しやすい点が課題となっている。
【0005】
また、PTFEは表面の非粘着性に優れるが、そのために得られる造粒粉末からの充填材の脱離も起こりやすいという問題もある。この問題は、表面が親水性の充填材を用いた時だけでなく、表面が疎水性の充填材を用いた場合でも起こり、表面が疎水性の充填材についてもPTFEとの接着性の向上が求められる。また、大きい粒径の充填材を使用する場合、造粒中の脱離は起きにくいが、得られた造粒粉末からは相対的に脱離しやすいという問題もある。
【0006】
発明者らは、特定の加水分解性シリル基を複数持つ多加水分解基型シランカップリング剤が充填材の脱離抑制に効果があることを見出したが、親水性であり、比重の大きい金属粉の脱離を抑制するには必ずしも十分ではないことも確認している。このため、充填材が金属粉や金属化合物(金属塩や金属酸化物など)のような、表面の親水性が大きく比重の大きいものであっても、水中造粒時に脱離せず、取り扱い性の良い造粒粉末が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭44-22620号公報
【特許文献2】特公昭60-21694号公報
【特許文献3】特開昭51-549号公報
【特許文献4】特開2001-220482号公報
【特許文献5】特開2002-201287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、金属粉や金属化合物を充填材として使用した場合においても、製造時(造粒時)や使用時に充填材の脱離の少ない、取り扱い性が良好な造粒粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、PTFE粉末と、金属粉末の充填材との混合時に、2種類の特定のシランカップリング剤を使用することにより、充填材の脱離が顕著に低減され、更に得られた造粒粉末から充填材の脱離も抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明の一つの実施形態は、充填材、PTFE粉末、多加水分解基型シランカップリング剤、及び単加水分解基型シランカップリング剤を含有する混合物を、水と水不溶性有機液体の混合液中で撹拌して混合造粒を行うことを特徴とする、PTFE組成物造粒粉末の製造方法である。
【0011】
多加水分解基型シランカップリング剤は、下記の式(1)で示されるビスシラン型シランカップリング剤、又は、下記の式(2)の繰り返しモノマー単位を含む高分子型シランカップリング剤であることが好ましい。
X-R1-X (1)
[Xは、加水分解性シリル基(-Si(OR2)n(R3)3-n)(n=1~3)であり、R2及びR3は、それぞれ-CH3又は、-C2H5であり、
R1は、置換基を含んでいても良く、水素がハロゲンに置換されていても良い、直鎖又は分岐鎖の炭素数2~12個の炭化水素である。]
【0012】
【化1】
[Xは加水分解性シリル基(-Si(OR
2)
n(R
3)
3-n)(n=1~3)であり、R
2及びR
3は、それぞれ-CH
3又は、-C
2H
5であり、
AはCH又はNであり、
R
a及びR
bはそれぞれ独立に、置換基を含んでいても良く、水素がハロゲンに置換されていても良い、炭素数1~10個の炭化水素であり、
R
cは水素がハロゲンに置換されていても良い炭素数1~5個の炭化水素であり、
p=3~30である。]
【0013】
単加水分解基型シランカップリング剤は、下記の式(3)で示されるシランカップリング剤であることが好ましい。
X-R4(3)
[Xは、加水分解性シリル基(-Si(OR2)n(R3)3-n)(n=1~3)であり、R2及びR3は、それぞれ-CH3又は、-C2H5であり、
R4は、置換基を含んでいても良く、水素がハロゲンに置換されていても良い、直鎖又は分岐鎖の炭素数2~12個の炭化水素である。]
【0014】
充填材は、表面が親水性の充填材であることが好ましく、金属又は、金属酸化物であることがより好ましい。
【0015】
本発明の別の実施形態は、3~40体積%の充填材と
60~97体積%のポリテトラフルオロエチレン粉末と、を含む造粒粉末であって、
充填材とポリテトラフルオロエチレン粉末の合計100質量部に対して、1質量部以下の多加水分解基型シランカップリング剤及び単加水分解基型シランカップリング剤を含むポリテトラフルオロエチレン造粒粉末である。
【0016】
多加水分解基型シランカップリング剤は、式(1)で示されるビスシラン型シランカップリング剤、又は、式(2)の繰り返しモノマー単位を含む高分子型シランカップリング剤であることが好ましい。
X-R1-X (1)
[Xは、加水分解性シリル基(-Si(OR2)n(R3)3-n)(n=1~3)であり、R2及びR3は、それぞれ-CH3又は、-C2H5であり、
R1は、置換基を含んでいても良く、水素がハロゲンに置換されていても良い、直鎖又は分岐鎖の炭素数2~12個の炭化水素である。]
【0017】
【化2】
[Xは加水分解性シリル基(-Si(OR
2)
n(R
3)
3-n)(n=1~3)であり、R
2及びR
3は、それぞれ-CH
3又は、-C
2H
5であり、
AはCH又はNであり、
R
a及びR
bはそれぞれ独立に、置換基を含んでいても良く、水素がハロゲンに置換されていても良い、炭素数1~10個の炭化水素であり、
R
cは水素がハロゲンに置換されていても良い炭素数1~5個の炭化水素であり、
p=3~30である。]
【0018】
単加水分解基型シランカップリング剤は、下記の式(3)で示されるシランカップリング剤であることが好ましい。
X-R4(3)
[Xは、加水分解性シリル基(-Si(OR2)n(R3)3-n)(n=1~3)であり、R2及びR3は、それぞれ-CH3又は、-C2H5であり、
R4は、置換基を含んでいても良く、水素がハロゲンに置換されていても良い、直鎖又は分岐鎖の炭素数2~12個の炭化水素である。]
【0019】
造粒粉末の平均粒径は200~800μmであることが好ましい。充填材は、表面が親水性の充填材であることが好ましく、金属又は、金属酸化物であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のPTFE造粒粉末は、生産性の高い水中造粒法により製造できる。また、本発明のPTFE造粒粉末の製造方法では、金属粉末等の親水性充填材を使用しても、充填材が水相へ脱離することなく、かつ、充填材が均一に分散した造粒が可能である。得られた造粒粉末は、充填材の脱離が起きにくく取り扱い性に優れたものであるため、圧縮成形により成形品を作りやすく、摺動部材、シール材など各種の用途に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のPTFE造粒粉末は、充填材と、PTFE粉末と、2種類の特定のシランカップリング剤とから製造される。まず、各成分について、以下に説明する。
【0022】
(1)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)
本発明に使用されるPTFE粉末としては、テトラフルオロエチレン(TFE)の単独重合体(ホモPTFE)若しくは、TFEと共重合可能な単量体が1重量%以下の範囲で含まれるTFE共重合体(変性PTFE)、又は、これらの混合物を使用することができる。
【0023】
変性PTFEに含まれるTFEと共重合可能な単量体(コモノマー)としては、不飽和結合を含みラジカル重合が可能な単量体が使用できる。耐熱性・耐薬品性などのPTFEの優れた性能を維持するためには、コモノマーとして、含フッ素単量体を使用することが好ましい。コモノマーの具体例としては、炭素数3以上、好ましくは炭素数3~6個のパーフルオロアルケン、炭素数1~6個のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、クロロトリフルオロエチレンなどが挙げられる。これらの中では、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)、およびパーフルオロ(ブチルビニルエーテル)(PBVE)、クロロトリフルオロエチレンを使用することが好適である。
【0024】
変性PTFEを使用した場合、コモノマーの存在により、分子鎖同士が滑りにくくなるため、樹脂の強度や弾性係数が大きくなり、耐クリープ性も改善される。しかし、コモノマーの量が1重量%を超えると、PTFEの摺動性が低下すると共に、融点以上の温度で流動性を示すようになるため、高温下での使用には適さなくなる。また、圧縮成形した組成物を融点以上で加熱焼成する、フリーベーキング法による成形品の作製が困難となってしまう。このため、コモノマー含有量は、コモノマー単位が0.001~1重量%の範囲であることが好ましい。
【0025】
PTFEの重合方法としては、懸濁重合や乳化重合等の公知の重合方法を利用できる。本発明の樹脂組成物には、以下の理由から、懸濁重合によって得られた粉末PTFE(モールディングパウダー)が好ましく用いられる。乳化重合で得られたPTFEと比較し、懸濁重合によって得られたPTFEは、せん断応力による繊維化を引起しにくいため、常温の乾式混合が可能である。また、懸濁重合は、成形時の投入作業においても、粉が固まることがなく取り扱い性に優れており、また、低コストという点でも優れている。
【0026】
PTFEは、圧縮成形等の手段で成形可能な分子量を有していれば、成形材料として使用することができる。PTFEの融点は分子量と相関していることが知られており、融点が約327℃の重合体は、機械的強度および耐熱性が良好な摺動部品用の成形樹脂として好適に使用することができる。
【0027】
また、このPTFEは、通常パウダー状態で各種製品の成形に使用される。その平均粒径は100μm以下、好ましくは5~100μm、より好ましくは10~50μmの範囲が望ましい。平均粒径がこの範囲にあるPTFE粉末は、各種充填材との均一混合性に優れている。そのようなPTFEは、懸濁重合法によって直接パウダー状に製造することができる。また、このような平均粒径を有しているものであれば、市販のモールディングパウダーを使用することもできる。
【0028】
このようなPTFEモールディングパウダーとしては、三井・ケマーズ フロロプロダクツ(株)製 テフロン(登録商標)PTFE 7-J(ホモPTFE 平均粒径:50μm)、三井・ケマーズ フロロプロダクツ(株)製 テフロン(登録商標)PTFE 7A-J(ホモPTFE 平均粒径:30μm)、三井・ケマーズ フロロプロダクツ(株)製 テフロン(登録商標)PTFE 70-J(変性PTFE 平均粒径:35μm)が挙げられる。
【0029】
(2)充填材
本発明において「充填材」とは、成形品の各種物性を改善するために用いられる粉状の物質であり、本発明において使用される充填材としては、成形用PTFE粉末と混合使用されている各種の有機物・無機物が含まれる。有機物としては、例えば、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンポリエステル樹脂などのエンジニアリングプラスチックが挙げられる。無機物としては、金属、金属酸化物(酸化アルミ、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン(チタン酸塩)等)、ガラス、セラミックス、炭化珪素、酸化珪素、弗化カルシウム、カーボンブラック、炭素繊維、グラファイト、コークス、マイカ、タルク、硫酸バリウム、二硫化モリブデンなどが挙げられる。必要に応じてこれらを複数組み合わせて用いることもできる。
【0030】
本発明では、従来は水中造粒法で取り扱いが困難であった粒子表面が親水性を有している充填材も使用することができる。粒子表面が親水性である充填材としては、具体的には、金属(青銅(ブロンズ)、アルミなど)、金属化合物(金属酸化物、金属塩、金属ハロゲン化物)、無機塩(炭化珪素、酸化珪素、窒化ホウ素、弗化カルシウムなど)、ガラス、シリカなどが挙げられる。本発明では、特定のシランカップリング剤を使用することにより、粒子表面が親水性の充填材に対しても、水中造粒において水相への充填材の移行による脱離が防止でき、また、金属や金属化合物のように比重が大きく特に水中造粒時に水相に移行しやすい充填材に対しても、脱離を抑制できる。本発明では、後述するように、2種類の特定のシランカップリング剤を使用することにより、表面が親水性を有する充填材、より具体的には、金属又は金属酸化物を充填材として使用した場合においても、その脱離を十分抑制することができる。
【0031】
また、全芳香族ポリエステル樹脂などの表面が疎水性のエンジニアリングプラスチックの粒子や、カーボンブラック、炭素繊維、グラファイト、コークス等の粒子表面が疎水性を有している、グラフェン構造を有する炭素系の充填材を使用しても良く、特定のシランカップリング剤を使用することにより、造粒粉体に充填材を十分な強度で付着させることができ、造粒後の工程や、造粒粉末の使用においても、振動などによる充填材の脱離を抑制できる。更に、極性官能基を有するシランカップリング剤を使用することにより、造粒粉末の静電気帯電防止の効果も得られる。
【0032】
充填材の粒子形状としては、粒子状、繊維状、フレーク状など、各種の形状のものがあり、何れの形状のものも使用可能である。粒径が小さいと少量でも充填材による物性改善の効果が得られるが、水中造粒時に水中に移行しやすいという課題があった。本発明では、特定のシランカップリング剤を使用することにより、小粒径の表面が親水性の充填材の脱離を抑制できるため、0.1μm~100μmの小粒径の充填材も使用することができる。
【0033】
ただ、品質の良好な造粒粒子を効率良く製造するという観点から、充填材の平均粒径は、好ましくは1μm~500μmであり、より好ましくは、3μm~300μmである。充填材の平均粒径は、レーザー回折・散乱法によって測定された粒度分布における積算値50%(体積基準)での粒径を意味する。
【0034】
(3)2種類のシランカップリング剤
本発明では、2種類のシランカップリング剤、即ち、多加水分解基型シランカップリング剤(「シランカップリング剤1」とも言う)と、単加水分解基型シランカップリング剤(「シランカップリング剤2」とも言う)を含むことを特徴とする。これらの2つの種類のシランカップリング剤を含むことによって、従来は困難であった金属又は金属酸化物等の表面が親水性を有する充填材を使用した場合にも、その脱離を十分に抑制することができる。
【0035】
(3―1)多加水分解基型シランカップリング剤(シランカップリング剤1)
一般にシランカップリング剤とは、無機材料と反応して共有結合を形成する、下記の式(4)のような加水分解性シリル基を持つ化合物である。
【0036】
R-Si(OR2)n(R3)3-n(n=1~3) (4)
【0037】
R2、R3は、それぞれ独立して、メチル基又はエチル基であり、Rは有機置換基と呼ばれ、求める特性に応じてビニル基、エポキシ基(脂環式エポキシ基、グリシジル基)、メタクリル基、アクリル基、スチリル基、アミノ基、イミノ基、スルフィド基、ジスルフィド基、アリール基、ジアミノ基、メルカプト基、ウレイド基、イソシアネート基等の反応基を一つ若しくは複数含んでいても良い飽和又は不飽和アルキル基である。
【0038】
本発明に用いる多加水分解基型シランカップリング剤は、加水分解性シリル基:-Si(OR2)n(R3)3-n)(n=1~3)を複数持つシランカップリング剤である。多加水分解基型シランカップリング剤としては、具体的には、有機置換基の両末端に加水分解性シリル基を持つ構造のビスシラン型シランカップリング剤、又は、有機置換基が繰り返し構造を持つ高分子であり、その側鎖に加水分解性シリル基を持つ構造の高分子型シランカップリング剤が挙げられ、これらを使用することが好ましい。
【0039】
(3-1-1)ビスシラン型シランカップリング剤
本発明で使用するビスシラン型シランカップリング剤は、分子内に2個の加水分解性シリル基を有する下記の式(1)で示される化合物である。
【0040】
X-R1-X (1)
【0041】
Xは、加水分解性シリル基[-Si(OR2)n(R3)3-n](n=1~3)であり、好ましくは、トリアルコキシシリル基:-Si(OR2)3又は、ジアルコキシシリル基:-SiR3(OR2)2である。R2及びR3は、それぞれアルキル基を示し、好ましくは、-CH3又は、-C2H5である。n=3であるトリアルコキシシリル基が好ましく、トリメトキシシリル基がより好ましい。
【0042】
R1は、置換基を含んでいても良く、水素がハロゲンに置換されていても良い、直鎖又は分岐鎖の炭素数2~12個の炭化水素である。炭化水素の炭素数は5~10が好ましく、炭化水素は直鎖であることが好ましい。炭化水素の炭素数は多い方が、疎水性が高くなり、PTFEとの親和性を改善するため好ましい。R1は置換基を有しないものが、疎水性が強くなることで、PTFEとの親和性を改善すると考えられ、また、充填材の水相への脱離を抑制する効果も高くなるため好ましい。置換基が存在する場合、置換基は、炭化水素の炭素-炭素間に、例えば、-NH-(イミノ基)、-S-、-S-S-、-C6H4-等として存在しても良く、また、カルボニル基を含んでいても良い。分子中に極性官能基(イミノ基、カルボニル基など)を有すると、帯電防止に寄与することができ、結果として、分子の水溶性が良くなり、多くの充填材に少量で効果が得られるため、造粒時の混合が良くなる。炭化水素の水素はハロゲンに置換されていても良く、例えば、塩素等で置換されていても良い。
【0043】
ビスシラン型シランカップリング剤の具体例としては、これらに限定するものではないが、例えば、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エチレン、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,8-ビス(トリメトキシシリル)オクタン、1,8-ビス(トリエトキシシリル)オクタン、ビス[3-トリ(メトキシシリル)プロピル]アミン、ビス[3-トリ(エトキシシリル)プロピル]アミン、N,N’-ビス[3-トリ(メトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、1,4-ビス(トリメトキシシリルエチル)ベンゼン、1,3-ビス(トリメトキシシリルプロピル)ベンゼン、1,6-ビス(トリメトキシシリル)-2,5-ジメチルヘキサン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、これらから選択される2種以上の混合物等が挙げられる。これらの中では、好ましくは、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,8-ビス(トリメトキシシリル)オクタン又は、ビス[3-トリ(メトキシシリル)プロピル]アミンであり、より好ましくは、1,8-ビス(トリメトキシシリル)オクタンである。本発明で使用するビスシラン型シランカップリング剤は、2個以上の加水分解性シリル基を有することから混合される充填材と結合してその分離を抑制するように作用すると考えられる。
【0044】
このようなビスシラン型シランカップリング剤は、特開平5-194551号公報や、特表2005-509683号公報や、US6242627号公報に記載の方法により製造することもできるし、また、市販されている、Gelest,Inc.製:SIB1824.0、SIB1832.7、Evonik Industries AG製:Dynasilane 1124、信越化学工業(株)製:KBM-3086等を使用することができる。
【0045】
(3-1-2)高分子型シランカップリング剤
高分子型シランカップリング剤は、下記の式(2)の繰り返しモノマー単位を含むシランカップリング剤である。
【0046】
【0047】
Xは加水分解性シリル基(-Si(OR2)n(R3)3-n)(n=1~3)であり、好ましくは、トリアルコキシシリル基:-Si(OR2)3又は、ジアルコキシシリル基:-SiR3(OR)2である。R2及びR3は、それぞれアルキル基を示し、好ましくは、-CH3又は、-C2H5である。n=3であるトリアルコキシシリル基が好ましく、トリメトキシシリル基がより好ましい。AはCH又はNである。
【0048】
Ra及びRbはそれぞれ独立に、置換基を含んでいても良く、水素がハロゲンに置換されていても良い、炭素数1~10個の炭化水素であり、好ましくは、炭素数は2~8個であり、より好ましくは、炭素数は2~6個である。炭化水素の炭素数は2個以上であると、疎水性が強くなり、PTFEとの親和性が改善されると考えられるため好ましい。Ra及びRbは置換基を有しないものが、疎水性が強くなり、PTFEとの親和性が改善され、充填材の水相への脱離を抑制する効果も高くなると考えられるため好ましい。Ra及びRbは、主骨格中に、-NH-(イミノ基)、-S-、-S-S-、-C6H4-等の置換基を含んでいても良く、また側鎖としてアクリル基やエポキシ基、メルカプト基などの置換基を含んでいても良い。分子中に極性官能基(イミノ基、アクリル基、エポキシ基など)を有すると、帯電防止に寄与することができ、結果として、分子の水溶性が良くなり、多くの充填材に少量で効果が得られるため、造粒時の混合が良くなる。Rcは水素がハロゲンに置換されていても良い炭素数1~5個の炭化水素であり、好ましくは直鎖の炭化水素である。
【0049】
高分子型シランカップリング剤の分子量は、基本骨格の分子構造に依存するが、例えば、500~5000であり、好ましくは、900~3000、より好ましくは、1200~2000である。高分子型シランカップリング剤の重合度pは、基本単位の分子構造に依存するが、p=3~30であり、好ましくは、3~20であり、より好ましくは、3~10である。
【0050】
具体例としては、例えば、高分子型シランカップリング剤として、トリメトキシシリルプロピル修飾ポリエチレンイミンを挙げることができ、下記の式(5)の基本単位を有する修飾ポリエチレンイミンポリマーが挙げられる。
【0051】
【0052】
上記のポリマー単位中のアミン構造部は、アンモニウムイオンとなり任意のアニオン(例えば、Cl-)と塩を形成していても良い。
【0053】
このような加水分解性シリル基側鎖を有する各種の高分子型シランカップリング剤としては、例えば、信越化学工業(株)製:X-12-1048、X-12-1050、X-12-972F、Gelest,Inc.製:SSP-060、SSP-065、SSP-050等を使用することができる。
【0054】
本発明で使用する高分子型シランカップリング剤は、複数の加水分解性シリル基を有することから混合される充填材及び/又はPTFEと結合してその分離を抑制するように作用し、また、疎水性のポリマー主鎖を有することから、造粒工程において、充填材が水相に移行することによる脱離が抑制されると考えられる。
【0055】
本発明で使用されるシランカップリング剤は、特に極性官能基を持つものは、PTFEと充填材の接着を強くさせるだけでなく、造粒後の粒子の帯電防止効果を与えると考えられる。その結果、造粒された粒子は、篩に詰まりにくくなると考えられる。
【0056】
本発明で使用するシランカップリング剤は、混合工程において均一に分散させるという観点から、溶媒に溶解させた溶液として使用するのが好ましい。溶媒は特に限定されるものではないが、例えば、トルエン、イソプロピルアルコール、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン等の各種の有機溶媒が挙げられ、例えば、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンを使用できる。
【0057】
(3―2)単加水分解基型シランカップリング剤(シランカップリング剤2)
本発明では、上記の多加水分解基型シランカップリング剤(シランカップリング剤1)に加えて、単加水分解基型シランカップリング剤(シランカップリング剤2)を含むことを特徴とする。本発明の単加水分解基型シランカップリング剤とは、加水分解性シリル基を分子内に1個有するシランカップリング剤である。具体的には、下記の式(3)で示される化合物であることが好ましい。
【0058】
X-R4 (3)
[Xは、加水分解性シリル基(-Si(OR2)n(R3)3-n)(n=1~3)であり、R2及びR3は、それぞれ-CH3又は、-C2H5であり、
R4は、置換基を含んでいても良く、水素がハロゲンに置換されていても良い、直鎖又は分岐鎖の炭素数2~12個の炭化水素である。]
【0059】
炭化水素の炭素数は4~8が好ましく、炭化水素は直鎖であることが好ましい。炭化水素の炭素数は多い方が、疎水性が高くなり、PTFEとの親和性を改善するため好ましい。R4は置換基を有しないものが、疎水性が強くなることで、PTFEとの親和性が改善し、充填材の水相への脱離が抑制されるため好ましい。置換基が存在する場合、置換基は、炭化水素の炭素-炭素間に、例えば、-NH-(イミノ基)、-O-、-C(=O)-(カルボニル基)等の2価の基として存在しても良く、末端基として、例えば、アミノ基、エポキシ基、アクリル基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基などの極性官能基として存在しても良い。中でも、カルボニル基(-C(=O)-)、アミノ基、イミノ基、エポキシ基、アクリル基のいずれかを置換基として含むものが好ましい。帯電防止に寄与することができ、結果として、分子の水溶性が良くなり、多くの充填材に少量で効果が得られるため、造粒時の混合が良くなる。炭化水素の水素はハロゲンに置換されていても良く、例えば、塩素等で置換されていても良い。
【0060】
単加水分解基型シランカップリング剤の具体例としては、これらに限定するものではないが、例えば、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン等から選択される2種以上の混合物等が挙げられる。これらの中では、好ましくは、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン又は、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランである。
【0061】
このような単加水分解基型シランカップリング剤は、例えば、信越化学工業(株)製:KBM-5103、KBM-503、KBM-403、KBM-603、KBM-7103等を使用することができる。
【0062】
(4)本発明の造粒粉末及び、その製造方法
本発明の造粒粉末は、充填材とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末と多加水分解基型シランカップリング剤を含有する混合物から作成される。PTFE:充填材の組成比は、体積比で、99~20体積%:1~80体積%であり、好ましくは、97~60体積%:3~40体積%であり、より好ましくは、94~75体積%:6~25体積%である。この混合物中の充填材の含有量が少ないと、充填材による物性改善の効果が得られ難くなる一方、充填材の含有量が多過ぎると、得られる造粒粉末から製造した成形品の伸びなどの物性が低下してしまう。
【0063】
また、本発明で使用するシランカップリング剤の含有量は、充填材とポリテトラフルオロエチレン粉末の合計100質量部に対して、好ましくは0.001~1.0質量部であり、より好ましくは0.01~0.3質量部、更に好ましくは0.01~0.2質量部である。また、0.02~0.1質量部という低濃度でも良い。このシランカップリング剤の含有量は、シランカップリング剤1と、シランカップリング剤2の合計量を意味する。シランカップリング剤1と、シランカップリング剤2の比率に関しては、シランカップリング剤1の含有量は、シランカップリング剤2の含有量よりも少ない方が好ましい。シランカップリング剤1とシランカップリング剤2の比率は、1:1~1:3程度(質量比)とすることにより、十分な充填材の脱離抑制効果が得られることができるため好ましい。なお、混合物には、任意成分として、その他の添加剤を加えることもできる。
【0064】
添加剤としては、例えば、固体潤滑剤、酸化安定剤、耐熱安定剤、耐摩耗材、耐候安定剤、難燃剤、顔料などの1種または2種以上を挙げることができ、造粒粒子の物性に影響を与えない範囲(例えば、5重量%以下)で含有しても良い。
【0065】
充填材とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末と2種類のシランカップリング剤の混合方法としては、PTFE粉末と充填材を混合して混合粉末とし、その混合粉末をシランカップリング剤含有溶液で処理することにより製造できる。代わりに、充填材を、シランカップリング剤を含む溶液と混合して表面処理し、そして、PTFE粉末と混合することにより製造しても良い。また、PTFE粉末と充填材と、シランカップリング剤の溶液とを同時に混合して製造しても良い。
【0066】
本発明の造粒粉末は、上記混合物から各種公知の造粒方法により製造されるが、水中造粒法によって製造されることが好ましい。具体的な水中造粒法としては、充填材とPTFE粉末と2種類のシランカップリング剤を含有する混合物を、水不溶性有機液体と水との混合液体中に添加して、撹拌することにより製造できる。また、水不溶性有機液体と上記混合物を混合してスラリーを得て、スラリーを多量の水で高速撹拌することにより、造粒しても良い。その後、水中から造粒粉末を取り出し乾燥して、造粒粉末を得ることができる。水中で高速撹拌時に、水に界面活性剤を添加して造粒粉末を製造しても良い。更に、乳化重合により得られたPTFE水性分散液と充填材とを混合して得られた複合化粒子を用いて、本発明の造粒粒子を製造することもできる。
【0067】
本発明で使用される水不溶性有機液体は、表面エネルギーが小さく水と非相溶である各種の有機溶剤を使用することができるが、例えばヘキサン、灯油、シクロヘキサン、べンゼン、トルエン、キシレンのような炭化水素、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテルのようなエーテル、メチレンクロライド、ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、フルオロトリクロロメタン、フルオロジクロロエタン、ジクロロトリフルオロエタン、トリクロロトリフルオロエタン、ジフルオロテトラクロロエタン、ジクロロペンタフルオロプロパン、デカフルオロペンタンなどのハロゲン化炭化水素、パーフルオロプロピルメチルエーテル、パーフルオロブチルメチルエーテル、パーフルオロブチルエチルエーテル、パーフルオロペンチルメチルエーテル、パーフルオロペンチルエチルエーテルなどのフルオロエーテルなどを挙げることができる。2種以上混合して使用することもできる。
【0068】
本発明の造粒粉末の平均粒径は、200μm~800μmであることが好ましい。大き過ぎると、圧縮成形した時にボイドが残り、引張、圧縮特性を劣化させる。小さすぎると、造粒粉末の粒子から外れたフィラーが凝集し、欠陥ができやすい。本発明において造粒粉末の平均粒径は、乾式ふるい分け試験での累積50%(重量基準)の粒径を意味する。
【実施例0069】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、実施例及び比較例において使用した原料及び得られたPTFE成形用粉末の評価方法は以下の通りである。
【0070】
1.原料
(a)PTFE原料粉末:三井・ケマーズ フロロプロダクツ(株)製 テフロン(登録商標)PTFE 7-J(ホモPTFE 平均粒径:50μm)
(b)充填材: ブロンズ粉末(福田金属箔粉工業株式会社製 AtW-350、平均粒径:30μm)
【0071】
(c)シランカップリング剤:
【0072】
【0073】
【0074】
2.物性評価方法
(a)充填材脱離量測定
後述する実施例・比較例において、造粒粉末を篩で捕集した際の排水(約15L)をバケツに捕集しておき、更に造粒に用いた撹拌機付き密閉容器を10L程度の純水ですすぎ、それも同じバケツに入れ、60分間静置することで脱離した充填材(ブロンズ粉末)を沈降させ、一方で、水面に浮上するPTFEモールディングパウダーと、充填材が沈降することで透明となった水層をバケツからできるだけ取り除き、残った充填材が沈降した層をガラスシャーレに移し、オーブンで170℃・11時間加熱することで乾燥し、得られた乾燥後の充填材(ブロンズ)の重量を電子天秤で測定した。また、各実施例・比較例において、添加した充填材量を用いて脱離度(脱離した充填材量/添加した充填材量)を算出した。
(b)造粒粉末の平均粒径
(株)セイシン企業製RPS-02型を用いて、上から順に、14、16、20、28、35、48、70、100メッシュの標準篩(ASTM E11)を8段重ねて測定し、各篩上に残る粉末の重量を求め、この各重量に基づいて、16重量%、50重量%及び84重量%の粒径を求めた。
【0075】
<1>シランカップリング剤1としてビスシラン型シランカップリング剤を使用した場合(実施例1)
PTFEモールディングパウダー(商品名テフロン(登録商標)7-J、融点327℃)とブロンズ粉末を、PTFEが60重量%(85.7体積%)、ブロンズ粉末が40重量%(14.3体積%)で、合計が4.5kgになるように、それぞれヘンシェルミキサーに投入して、5分間混合し、次いで純水40gを加えて更に15分間混合した。次いで、シランカップリング剤1として、ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アミン(ビスシラン型シランカップリング剤B-1)2.3g及び、シランカップリング剤2として、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(単加水分解基型シランカップリング剤M-1)4.5gを、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン(AGC(株)製 AMOLEA(登録商標)AS-300)40gに溶解させた溶液を投入して55分間混合することで均一な混合物を得た。
【0076】
内容積50Lの撹拌機付き密閉容器に、水15Lを加え、70℃に保ち、上記で得られた混合物を投入して、混合物100重量部に対しテトラクロロエチレンを40重量部加え、回転数500rpmで5分間撹拌した後、回転数を350rpmに落とし、さらに35分間撹拌し整粒した。これを150メッシュの篩で液相を分離し(排水については、上記の充填材脱離量測定を行った)、オーブンで170℃・11時間乾燥し造粒粉末を得た。
【0077】
(実施例2)
シランカップリング剤2として、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(単加水分解基型シランカップリング剤M-1)の代わりに、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(単加水分解基型シランカップリング剤M-2)を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、造粒粉末を得た。
【0078】
(実施例3)
シランカップリング剤2として、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(単加水分解基型シランカップリング剤M-1)の代わりに、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(単加水分解基型シランカップリング剤M-3)を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、造粒粉末を得た。
【0079】
(実施例4)
シランカップリング剤2として、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(単加水分解基型シランカップリング剤M-1)の代わりに、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(単加水分解基型シランカップリング剤M-4)を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、造粒粉末を得た。
【0080】
(実施例5)
シランカップリング剤2として、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(単加水分解基型シランカップリング剤M-1)の代わりに、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(単加水分解基型シランカップリング剤M-5)を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、造粒粉末を得た。
【0081】
(実施例6)
シランカップリング剤1として、ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アミン(ビスシラン型シランカップリング剤B-1)の代わりに、1,8-ビス(トリメトキシシリル)オクタン(ビスシラン型シランカップリング剤B-2)を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、造粒粉末を得た。
【0082】
(比較例1)
シランカップリング剤として、ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アミン(ビスシラン型シランカップリング剤B-1)6.8gのみを使用した以外は、実施例1と同様の方法により、造粒粉末を得た。
【0083】
実施例1~6及び、比較例1の組成及び結果を以下の表3にまとめた。シランカップリング剤として、ビスシラン型シランカップリング剤B-1のみを使用した比較例1では、造粒排水中の脱離度は、3.9%であり、目視による評価でも多量の脱離した充填材を確認した。一方、2種類のシランカップリング剤(シランカップリング剤1及び2)を併用した、実施例1~4では、造粒排水中の脱離度は、顕著に低下し、目視による評価でもほとんど脱離した充填材を確認しなかった。また、シランカップリング剤2として、単加水分解基型シランカップリング剤M-5を使用した実施例5では、造粒排水中の脱離度は、2.1%に減少した。シランカップリング剤1として、ビスシラン型シランカップリング剤B-2を使用した実施例6では、造粒排水中の脱離度は、1.4%に減少した。
【0084】
【0085】
<2>シランカップリング剤1として高分子型シランカップリング剤を使用した場合
(実施例7)
PTFEモールディングパウダー(商品名テフロン(登録商標)7-J、融点327℃)とブロンズ粉末を、PTFEが60重量%(85.7体積%)、ブロンズ粉末が40重量%(14.3体積%)で、合計が4.5kgになるように、それぞれヘンシェルミキサーに投入して、5分間混合し、次いで純水40gを加えて更に15分間混合した。次いで、シランカップリング剤1として、トリメトキシシリルプロピル修飾ポリエチレンイミン(高分子型シランカップリング剤P-1)2.3g及び、シランカップリング剤2として、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(単加水分解基型シランカップリング剤M-1)4.5gを、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン(AGC(株)製 AMOLEA(登録商標)AS-300)40gに溶解させた溶液を投入して55分間混合することで均一な混合物を得た。
【0086】
内容積50Lの撹拌機付き密閉容器に、水15Lを加え、70℃に保ち、上記で得られた混合物を投入して、混合物100質量部に対しテトラクロロエチレンを40質量部加え、回転数500rpmで5分間撹拌した後、回転数を350rpmに落とし、さらに35分間撹拌し整粒した。これを150メッシュの篩で液相を分離し(排水については、上記の充填材脱離量測定を行った)、オーブンで170℃・11時間乾燥し造粒粉末を得た。
【0087】
(実施例8)
シランカップリング剤2として、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(単加水分解基型シランカップリング剤M-1)の代わりに、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(単加水分解基型シランカップリング剤M-2)を使用した以外は、実施例7と同様の方法により、造粒粉末を得た。
【0088】
(実施例9)
シランカップリング剤2として、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(単加水分解基型シランカップリング剤M-1)の代わりに、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(単加水分解基型シランカップリング剤M-3)を使用した以外は、実施例7と同様の方法により、造粒粉末を得た。
【0089】
(実施例10)
シランカップリング剤1の量を0.9gに、シランカップリング剤2の量を2.3gに変更して使用した以外は、実施例7と同様の方法により、造粒粉末を得た。
【0090】
(実施例11)
シランカップリング剤1の量を0.5gに、シランカップリング剤2の量を、0.9gに変更して使用した以外は、実施例7と同様の方法により、造粒粉末を得た。
【0091】
(実施例12)
シランカップリング剤1として、トリメトキシシリルプロピル修飾ポリエチレンイミン(高分子型シランカップリング剤P-1)の代わりに、別の高分子型シランカップリング剤P-2(信越化学工業(株)X-12-1050)を使用した以外は、実施例7と同様の方法により、造粒粉末を得た。
【0092】
(比較例2)
シランカップリング剤として、トリメトキシシリルプロピル修飾ポリエチレンイミン(高分子型シランカップリング剤P-1)6.8gのみを使用した以外は、実施例7と同様の方法により、造粒粉末を得た。
【0093】
実施例7~12及び、比較例2の組成及び結果を以下の表4にまとめた。高分子型シランカップリング剤P-1のみを使用した比較例2では、造粒排水中の脱離度は、16.0%であり非常に高く、目視による評価でも多量の脱離した充填材を確認した。一方、2種類のシランカップリング剤(シランカップリング剤1及び2)を併用した、実施例7~9では、造粒排水中の脱離度は大幅に低下し、目視による評価でも脱離した充填材は大幅に低下したことを確認した。
【0094】
これらの中では、特に、シランカップリング剤2として、単加水分解基型シランカップリング剤M-1を使用した実施例7の効果は、顕著に優れていた。シランカップリング剤(シランカップリング剤1及び2)の添加量を減少させた、実施例10及び11においても、同程度の顕著な充填材の脱離抑制効果を確認した。また、シランカップリング剤2として、単加水分解基型シランカップリング剤M-1を使用し、シランカップリング剤1を高分子型シランカップリング剤P-2に代えた実施例12においても、高い末充填材の脱離抑制効果を確認した。
【0095】
【0096】
上記実施例及び、比較例で製造された造粒粉末に関して、その一部の粒径分布(d16、d50及びd84)を測定したところ、下記のような結果となった。実施例6及び10-12、並びに、比較例1~2の何れの場合も、200~800μm程度の分布範囲にある粒径を有する粉末を造粒することができた。
【0097】
本発明の造粒粉末を製造する方法では、造粒粉末からの充填材の脱離を減少させることができる。本発明の造粒粉末を製造する方法は、水中造粒法であるため高い生産性で、効率良く造粒粉末を製造できる。本発明のPTFE造粒粉末は、圧縮成形により成形品を製造しやすく、摺動部材、シール材など各種の用途に使用できる。