IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイエスピーの特許一覧

特開2024-178032積層体、耐火パネルおよび積層体の製造方法
<>
  • 特開-積層体、耐火パネルおよび積層体の製造方法 図1
  • 特開-積層体、耐火パネルおよび積層体の製造方法 図2
  • 特開-積層体、耐火パネルおよび積層体の製造方法 図3
  • 特開-積層体、耐火パネルおよび積層体の製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178032
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】積層体、耐火パネルおよび積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 13/06 20060101AFI20241217BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20241217BHJP
   C04B 38/02 20060101ALI20241217BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
B32B13/06
B32B5/18
C04B38/02 G
F27D1/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096520
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】内藤 直記
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 祥子
【テーマコード(参考)】
4F100
4K051
【Fターム(参考)】
4F100AA03B
4F100AA08B
4F100AA17B
4F100AA18B
4F100AA19B
4F100AA20B
4F100AB01A
4F100AB03A
4F100AB04A
4F100AB10A
4F100AC03
4F100AC05
4F100AC05B
4F100AC10
4F100AC10B
4F100AK51
4F100AK79B
4F100BA02
4F100CA01B
4F100CA24B
4F100CB00
4F100DG00
4F100DJ01B
4F100DJ04B
4F100EJ02B
4F100EJ42
4F100EJ86
4F100GB07
4F100GB31
4F100JA06
4F100JA11
4F100JA13B
4F100JJ07
4F100JK02
4F100JK06
4F100YY00A
4F100YY00B
4K051BC01
4K051BC05
(57)【要約】
【課題】ジオポリマー発泡体部分と金属体との接着性に優れるとともに、耐火性が良好である積層体を提供する。
【解決手段】金属体と、ジオポリマー発泡体とが接着している積層体であり、前記ジオポリマー発泡体の密度が100kg/m以上600kg/m以下であり、前記金属体のうち前記ジオポリマー発泡体が積層された部分における、前記金属体と前記ジオポリマー発泡体とが接着している領域の面積割合が50%以上である、積層体。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属体と、ジオポリマー発泡体とが接着している積層体であり、
前記ジオポリマー発泡体の密度が100kg/m以上600kg/m以下であり、
前記金属体のうち前記ジオポリマー発泡体が積層された部分における、前記金属体と前記ジオポリマー発泡体とが接着している領域の面積割合が50%以上である、
積層体。
【請求項2】
前記ジオポリマー発泡体が、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩との反応物と、骨材とを含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記ジオポリマー発泡体における、Al元素とSi元素との合計に対する、Ca元素のモル比が0.4以下である、請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の積層体を備える耐火パネル。
【請求項5】
ジオポリマー発泡体と金属体との積層体の製造方法であって、
アルミノケイ酸塩、アルカリ金属ケイ酸塩、骨材、水、発泡剤を含む発泡性組成物スラリーを、前記金属体が配置された成形型内又は、前記金属体が成形型面の少なくとも一部を構成している成形型内に導入した後、前記発泡性組成物スラリーを発泡させ、密度100kg/m以上600kg/m以下のジオポリマー発泡体を形成して、前記金属体とジオポリマー発泡体とを接着させる工程を含む、積層体の製造方法。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、耐火パネルおよび積層体の製造方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から金属と無機材料との複合材料が知られている。このような複合材料は、例えば建築物の壁や床などの建材や、乗物等の構成部材として用いられている。建材や乗物などの部材等として複合材料を用いる場合には、十分な耐火性も必要になる場合がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、金属板とモルタルとが積層された気泡コンクリート複合パネルが開示されている。具体的には、特許文献1の技術では、補強鉄筋を設置した金属枠中にモルタルを注入して高温高圧蒸気養生することで金属枠とモルタルとを一体化することで、気泡コンクリート複合パネルが得られる。
【0004】
また、特許文献2には、金属板と、無機繊維材および無機材料で構成される芯材とが積層された断熱耐火パネルが開示されている。特許文献2では、金属板と芯材とは接着剤による接着層を介して積層されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60-010041号公報
【特許文献2】特開2014-134071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の気泡コンクリート複合部材においては、高温で加熱されると気泡コンクリートが崩壊して、金属板と気泡コンクリートとが剥離してしまうという問題があった。同様に、特許文献2の耐熱耐火パネルにおいても、接着剤を使用していることから、高温で加熱されると、金属材と芯材とが剥離する場合があった。以上の通り、特許文献1と特許文献2の技術では、耐火性に改善の余地があった。以上の事情を考慮して、本発明では、金属板と無機発泡体との積層体において、耐火性を良好にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]金属体と、ジオポリマー発泡体とが接着している積層体であり、前記ジオポリマー発泡体の密度が100kg/m以上600kg/m以下であり、前記金属体のうち前記ジオポリマー発泡体が積層された部分における、前記金属体と前記ジオポリマー発泡体とが接着している領域の面積割合が50%以上である、積層体。
【0008】
[2]前記ジオポリマー発泡体が、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩との反応物と、骨材とを含む、[1]に記載の積層体。
【0009】
[3]前記ジオポリマー発泡体における、Al元素とSi元素との合計に対する、Ca元素のモル比が0.4以下である、[2]に記載の積層体。
【0010】
[4][1]から[3]のいずれかに記載の積層体を備える耐火パネル。
【0011】
[5]ジオポリマー発泡体と金属体との積層体の製造方法であって、アルミノケイ酸塩、アルカリ金属ケイ酸塩、骨材、水、発泡剤を含む発泡性組成物スラリーを、前記金属体が配置された成形型内又は、前記金属体が成形型面の少なくとも一部を構成している成形型内に導入した後、前記発泡性組成物スラリーを発泡させ、密度100kg/m以上600kg/m以下のジオポリマー発泡体を形成して、前記金属体とジオポリマー発泡体とを接着させる工程を含む、積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の積層体は、ジオポリマー発泡体部分と金属体との接着性に優れるとともに、耐火性が良好である。本発明の製造方法によれば、ジオポリマー発泡体と金属体とを良好に接着させることが可能であり、耐火性が良好である積層体が得られる。また、本発明の積層体は、耐火パネルとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る積層体の一例に係る断面図である。
図2】実施形態に係る製造方法(第3工程)の一例を示す説明図である。
図3】実施例に係る積層体の一例に係る写真である。
図4】積層部分における接着領域の面積割合を算出するのに用いる画像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[積層体]
図1は、本発明に係る積層体の断面図の一例である。図1に例示される通り、本発明の積層体は、金属体とジオポリマー発泡体とが接着し、積層された構造体である。積層体において、ジオポリマー発泡体は、接着剤を用いずに直接的に金属体に接着されている。積層体の製造方法については、後述する。
【0015】
ジオポリマー発泡体は、多数の気泡を有するジオポリマーであり、ジオポリマーは、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩との反応物である。具体的には、ジオポリマーは、SiOとAlOとから形成される四面体構造を有し、当該四面体構造によるネットワーク中に、AlOの負電荷を補償する陽イオンを保有している構造を有する無機高分子である。なお、ジオポリマー発泡体は、多数の気泡を有するので、断熱性にも優れたものとなる。
【0016】
具体的には、ジオポリマー発泡体は、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩との反応物(すなわちジオポリマー)と、骨材とを含む。
【0017】
<アルミノケイ酸塩>
アルミノケイ酸塩(xMO・yAl・zSiO・nHO、Mはアルカリ金属)は、ケイ酸塩中にあるケイ素原子の一部をアルミニウム原子に置き換えた構造を持つ化合物である。
【0018】
アルミノケイ酸塩におけるSiO(二酸化ケイ素)の含有量は、20質量%以上80質量%以下であることが好ましく、30質量%以上70質量%以下であることがより好ましい。アルミノケイ酸塩中のSiOの含有量がこの範囲であると、ジオポリマー発泡体は、多数の気泡による良好な気泡構造が形成されやすい。
【0019】
アルミノケイ酸塩におけるAlの含有量は、アルミノケイ酸塩の総質量100質量%に対して20質量%以上70質量%以下であることが好ましく、30質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。Alの含有量がこの範囲であると、ジオポリマー発泡体の圧縮強度を向上させやすい。
【0020】
アルミノケイ酸塩におけるSiOの含有量およびAlの含有量は、蛍光X線分析装置(例えば日立ハイテクサイエンス製EA6000V)などを用いて各元素を定量することにより求めることができる。
【0021】
具体的には、アルミノケイ酸塩としては、例えば、バイデライト、ベントナイト、メタカオリン、カオリナイト、ハロイサイト、モンモリロナイト、パイロフィライト、バーミキュライト、雲母、緑泥石、サポナイト、セピオライト、酸性白土等の粘土鉱物、フライアッシュ、赤泥、シリカフューム、高炉スラグ、籾殻、及び、下水汚泥焼却灰等の産業廃棄物;天然アルミノシリケート鉱物及びそれらの仮焼物(例えばメタカオリン:Al・2SiO)、火山灰、および、その他のアルミニウムを含むケイ酸塩鉱物等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて使用してよい。アルミノケイ酸塩として2種以上を組み合わせて使用する場合には、SiOの含有量とAlの含有量が上記の範囲を満足するように配合することが好ましい。これらの中でも、アルミノケイ酸塩としてはメタカオリンが好ましい。これらの物質を適宜粉砕分級して特定の画分を用いることにより、所望の組成のアルミノケイ酸塩に調整することができる。
【0022】
メタカオリンをアルミノケイ酸塩として用いる場合、アルミノケイ酸塩中のメタカオリンの割合は50質量%以上であることが好ましい。アルミノケイ酸塩中のメタカオリンの割合が上記の範囲であると、多数の気泡による良好な気泡構造が形成されやすくなる。以上の観点から、アルミノケイ酸塩中のメタカオリンの割合は60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。
【0023】
アルミノケイ酸塩の平均粒子径は、0.1μm以上50μm以下であることが好ましく、0.3μm以上30μm以下であることがより好ましく、0.5μm以上10μm以下であることがさらに好ましい。アルミノケイ酸塩の平均粒子径がこの範囲であると、製造されたジオポリマー発泡体は、良好な気泡構造が形成される。なお、平均粒子径は、粒子と同体積を有する仮想球の直径を意味する。
【0024】
アルミノケイ酸塩の結晶化度は、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。アルミノケイ酸塩の結晶化度がこの範囲であると、水溶液中で後述するアルカリ金属ケイ酸塩と反応させた際に、アルカリ金属ケイ酸塩に由来するアルカリ成分によって、アルミノケイ酸塩源からアルミニウムイオンが溶出しやすくなるとともに、ケイ酸モノマーが生じやすくなり、重縮合が安定して行われるため、良好な気泡構造を形成させやすくなる。
【0025】
結晶化度は、JIS K0131-1996に記載の方法(絶対法)に基づき求めることができる。例えば、二次元検出器を有するX線解析装置(例えば、株式会社リガク製、SmartLab)を使用し、室温にて2θ範囲を10~40°に設定し、アルミノケイ酸塩の粉末に対してX線回折測定を行うことで、結晶化度を測定することができる。なお、結晶化度は、X線回折測定により測定される回折パターンに対してプロファイルフィッティングを行い、得られたX線回折から、全ピーク面積([結晶質成分のピーク面積]+[非晶質成分のハローパターン面積])に対する結晶質成分のピーク面積の比を算出することで求めることができる。
【0026】
<アルカリ金属ケイ酸塩>
アルカリ金属ケイ酸塩としては、ケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウム(水ガラス)およびケイ酸リチウムなどが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を用いることができる。これらの中でもアルカリ金属ケイ酸塩は、ケイ酸カリウムであることが好ましい。ケイ酸カリウムにおける、SiOとKOのモル比(SiO/KO比)は、1以上5以下であることが好ましく、1.5以上4.5以下であることがより好ましく、3以上4以下であることがさらに好ましい。モル比(SiO/KO比)を上記の範囲にすることにより、ジオポリマー発泡体の強度をより向上させることができる。
【0027】
ジオポリマー発泡体は、上記のアルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩との反応物(すなわちジオポリマー)を基材とする。具体的には、ジオポリマー発泡体におけるジオポリマーの含有量は、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは50%以上であり、さらに好ましくは60%以上である。
【0028】
<骨材>
骨材としては、マイカ、ウォラストナイト、チョーク、タルク、モロカイト、コージエライト、玄武岩、長石、ジルコン、グラファイト、及び、ホウ砂等のうちの1種又は2種以上を例示することができ、これらの中でもマイカが好ましい。マイカは、一般的に白雲母(muscovite、マスコバイト)と呼ばれるケイ酸塩鉱物であり、KAl(AlSi10)(F,OH)の化学組成で示される。なお、本発明において、「マイカ」の用語は、物理的及び化学的に類似しているシート状ケイ酸塩(フィロケイ酸塩)鉱物を包含する。骨材にマイカを含む場合、マイカは、良好な気泡構造を形成する観点から、平均粒径が50μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0029】
ジオポリマー発泡体における骨材の含有量は、好ましくは5質量%以上60質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上50質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以上40質量%以下である。
【0030】
ジオポリマー発泡体は、ジオポリマーおよび骨材の他に、その他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、例えば、気泡連通剤、補強繊維や発泡核剤である。補強繊維は、ジオポリマー発泡体の強度向上やクラック防止を図る目的で含有される。補強繊維としては、例えば、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維、アクリル繊維、レーヨン繊維、カーボン繊維、ガラス繊維、チタン酸カリウムウイスカー、アルミナ繊維、スチールウール、スラグウール等が挙げられる。補強繊維をジオポリマー発泡体が含有することで、ジオポリマー発泡体の強度を高めることができる。気泡連通剤としては、例えば、酵母や藻類などの微生物、タンパク質、界面活性剤などを使用することができる。発泡核剤としては、例えば、タルクや炭酸カルシウムなどの無機粉体を用いることが好ましく、タルクがより好ましい。
【0031】
ジオポリマー発泡体におけるその他の成分の含有量は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以下である。ジオポリマー発泡体における発泡核剤の含有量は、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0032】
本発明のジオポリマー発泡体の密度は、100kg/m以上600kg/m以下である。ジオポリマー発泡体の密度が高すぎる場合には、積層体を得た後に養生する際に、乾燥によりジオポリマー発泡体が収縮し、金属体とジオポリマー発泡体との収縮率の差により、金属体とジオポリマー発泡体との接着性が低下してしまう恐れがある。また、軽量化の観点からもジオポリマー発泡体の密度は高すぎないことが好ましい。一方で、ジオポリマー発泡体の密度が低すぎる場合には、ジオポリマー発泡体の気泡膜部分の強度が低下して、接着性が保たれなくなる恐れがある。以上の観点から、ジオポリマー発泡体の密度は、120kg/m以上500kg/m以下であることが好ましく、160kg/m以上400kg/m以下であることがより好ましい。
【0033】
ジオポリマー発泡体における、Al元素とSi元素との合計モル数に対する、Ca元素のモル数の比(Ca/(Al+Si))は、好ましくは0.4以下であり、より好ましくは0.2以下であり、さらに好ましくは0.1以下であり、特に好ましくは0.05以下であり、最も好ましくは0.01以下である。モル比率(Ca/(Al+Si))が上記の範囲にあることで、耐火性がより良好になる。モル比率(Ca/(Al+Si))の下限は、特に限定されないが、概ね0.001以上であるか、またはCaが含有されない場ことが好ましい。(Ca/(Al+Si))は、使用するアルミノケイ酸塩の種類や含有量を変更したり、添加剤の種類を調整することで、調整できる。また、ジオポリマー発泡体におけるモル比率(Si/Al)は、好ましくは0.5以上5以下であり、より好ましくは1以上3以下である。
【0034】
積層体におけるジオポリマー発泡体の厚み(積層方向における厚み)は、用途に応じて適宜に変更し得るが、例えば1cm以上50cm以下が想定される。
【0035】
積層体におけるジオポリマー発泡体の平均気泡径は、0.1mm以上4mmであることが好ましい。平均気泡径を上記の範囲内にすることにより、強度に優れる気泡壁が形成され加熱時に割れにくくなる。以上の観点から、平均気泡径は、より好ましくは0.3mm以上3mm以下であり、さらに好ましくは0.5mm以上2mm以下である。
【0036】
積層体で用いられる金属体としては、特に限定されないが、例えば、板状の金属体、鋼板、アルミニウム合金板、ステンレス板などが用いられる。これらの中でも鋼板、アルミニウム合金板が好ましい。なお、表面がメッキ加工されている金属体を用いてもよい。金属体が板状である場合の厚さは、用途に応じて適宜に変更し得るが、例えば0.05cm以上0.2cm以下が想定される。なお、金属体の形状は、板状には限定されず、用途に応じて適宜に変更し得る。
【0037】
上述した通り、本発明の積層体は、ジオポリマー発泡体が金属体に直接的に接着される。以下の説明では、金属体のうちジオポリマー発泡体が積層された部分を「積層部分」と表記する。図1に例示される通り、積層部分は、金属体とジオポリマー発泡体とが対向して配置されている部分であり、金属体とジオポリマー発泡体とが直接的に接触しているかは問わない領域である。なお、金属体の表面のうちジオポリマー発泡体が形成されていない領域(積層していない領域)は、積層部分には含まれない。したがって、金属体の表面の一部の領域Aに、ジオポリマー発泡体を積層した場合において、積層部分は領域Aであり、領域A以外の発泡体が形成されていない領域は、積層部分には含まれない。
【0038】
金属体とジオポリマー発泡体との接着強度は、好ましくは3N/cm以上であり、より好ましくは5N/cm以上であり、さらに好ましくは10N/cm以上である。接着強度の上限は特に設定されないが、接着強度試験においてジオポリマー発泡体自体が材料破壊してしまうほどの接着強度を有することが上限の接着強度となる。
【0039】
金属体とジオポリマー発泡体との接着強度は、以下の通り求めることができる。まず、積層体を積層方向に沿って切ることで、所定のサイズ(例えば5×5cm)のサンプルを得る。そして、ジオポリマー発泡体における金属体とは反対側の面と、金属体におけるジオポリマー発泡体とは反対側の面とに、それぞれ金属製の引張試験用の治具を接着剤で固定して、剥離試験を実施することで、接着強度を確認する。剥離試験は、JIS K6849-1994接着剤の引張り接着強さ試験方法を参考に、卓上試験機(オートグラフ)を用い、試験速度2mm/分で積層体の界面に垂直な引張り荷重をかけジオポリマー発泡体が破壊されるまで、または、金属とジオポリマー発泡体との界面で界面剥離が起こるまで実施する。
【0040】
本発明では、金属体とジオポリマー発泡体との積層部分において、当該金属体とジオポリマー発泡体とが接着している領域(以下「接着領域」と表記する)の面積割合が50%以上である。積層部分における接着領域の面積割合は、以下の通り、測定される値である。
【0041】
まず、積層体の積層部分を切り出し、所定のサイズ(例えば5×5cm)のサンプルを得る。次に、サンプルについてジオポリマー発泡体の厚みが0.01mm以上0.1mm以下になるまで、ジオポリマー発泡体部分を削る。すなわち、金属体の積層部分においてジオポリマー発泡体の高さが0.01mm以上0.1mm以下になるように当該ジオポリマー発泡体を削る。そして、ジオポリマー発泡体を削った後のサンプルの表面を画像解析により、金属体の積層部分に残存するジオポリマー発泡体のジオポリマー部分の面積を測定する。具体的には、サンプルの表面の全エリアが含むように撮像装置(オリンパス製OLYMPUS STYLUS TG-4 Tough)で撮像したサンプルの画像を、公知の画像解析ソフト(例えばWinroof2021:三谷商事製)で画像解析する。撮像した画像は、モノクロ画像化(8bit)する。次に、モノクロ画像化した画像を、モード法により二値化することで、ジオポリマー発泡体を表す部分(すなわちジオポリマー発泡体が残存している部分)と、金属体を表す部分(すなわち金属体の表面が露出している部分)とを区別できるようにする。二値化後の画像は、例えば、ジオポリマー発泡体を表す部分は、白色で表され、金属体を表す部分は白以外の色で表される。そして、画像におけるジオポリマー発泡体を表す部分の面積を算出することで、金属体の積層部分における接着領域の面積割合を算出する。
【0042】
積層部分における接着領域の面積割合が50%以上であると、金属体からジオポリマー発泡体が脱離することを抑制することができる。以上の観点から、積層部分における接着領域の面積割合は、好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上である。
【0043】
なお、本発明の積層体の形状は、積層部分を含んでいて、当該積層部分における接着領域の面積割合が50%以上であれば、特に限定されない。したがって、例えば、金属体が底部と側壁部とを含むような容器型であり、底部と側壁部との内側にジオポリマー発泡体が位置する積層体であってもよい。このような積層体においては、屈曲部分を除いた、底部又は側壁部分におけるジオポリマー発泡体との積層部分において接着領域の面積割合が50%以上になることが好ましい。なお、サンプルに平面部分がない場合には、サンプルの中で屈曲部分などを除いた、なだらかな平面部分を選択し、測定することが好ましい。この場合には、接着領域の面積は投影面積の割合で算出する。
【0044】
本発明の積層体は、例えば建築用や鉄道などの車両(例えば床下面)用の耐火パネルとして好適に用いられる。また、本発明の積層体は、ジオポリマー発泡体を含むので、その気泡構造によって、耐熱性に優れるものとなるので、耐熱パネルとしても利用できる。
【0045】
[積層体の製造方法]
以上に説明した積層体の製造方法の一例について説明する。本発明の製造方法は、以下の第1工程と第2工程と第3工程とを含む。本発明の製造方法では、密度100kg/m以上600kg/m以下のジオポリマー発泡体が金属体に接着した積層体を製造する。
【0046】
第1工程:アルミノケイ酸塩、アルカリ金属ケイ酸塩、骨材および水を含む反応スラリーを得る工程。
第2工程:反応スラリーに発泡剤を添加することで発泡性組成物スラリーを得る工程。
第3工程:発泡性組成物スラリーからジオポリマー発泡体を形成するとともに、当該ジオポリマー発泡体を金属体に直接的に接着させる工程。
【0047】
以下、第1工程から第3工程についてそれぞれ詳述する。
【0048】
<第1工程>
具体的には、第1工程では、アルミノケイ酸塩と骨材とを含有する混合物(以下「原料混合物」と表記する)と、アルカリ金属ケイ酸塩水溶液と、必要に応じて粘度調製用の水とを混合することで、反応スラリーを得る。反応スラリーにおいて、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩とが反応することで、ジオポリマーが形成される。
【0049】
反応スラリーに含まれるアルミノケイ酸塩としては、積層体について例示した各種のアルミノケイ酸塩に加えて、当該アルミノケイ酸塩を成分として含有するものが使用される。
【0050】
アルミノケイ酸塩は、アルカリ金属ケイ酸塩との反応時に、反応スラリー中で、アルミニウムイオンを水溶液中に溶出させるとともに、ケイ酸モノマー(ケイ酸、Si(OH))を生じさせる。このようにして生じたケイ酸モノマーと反応スラリー中に存在する陽イオンとが重縮合することにより、SiO・AlOの四面体構造によるポリマーネットワークのジオポリマーが形成される。
【0051】
反応スラリーに含まれるアルカリ金属ケイ酸塩としては、積層体について例示した各種のアルカリ金属ケイ酸塩に加えて、当該アルカリ金属のケイ酸塩を成分として含有するものが使用される。アルカリ金属ケイ酸塩を水に溶解させてアルカリ金属ケイ酸塩水溶液とすると高アルカリ性の水溶液となるので、反応スラリーは高アルカリ性となる。
【0052】
反応スラリーにおいて、このアルカリ金属ケイ酸塩水溶液中のアルカリ金属ケイ酸塩が、アルミノケイ酸塩と反応することにより、アルミノケイ酸塩からAl等の陽イオンが反応スラリーに溶出する。また、反応スラリーにはケイ酸モノマーが存在するものとなる。したがって、アルカリ金属ケイ酸塩は、重縮合によりジオポリマーを形成するケイ酸モノマーの供給源になる。
【0053】
アルカリ金属ケイ酸塩は、アルカリ金属ケイ酸塩水溶液として添加して反応スラリーとすることが好ましい。例えば、アルカリ金属ケイ酸塩水溶液におけるアルカリ金属ケイ酸塩の濃度は、20質量%以上60質量%以下であることが好ましく、22質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、25質量%以上45質量%以下であることがさらに好ましい。アルカリ金属ケイ酸塩の濃度が上記の範囲内であると、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩水溶液とを混合した反応スラリーの発泡成形性を向上させることができる。ただし、アルカリ金属ケイ酸とアルミノケイ酸塩との反応が起これば、アルカリ金属ケイ酸をアルカリ金属ケイ酸塩水溶液として用いることは必須ではない。
【0054】
アルカリ性となる反応スラリーのpHを調整し、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩との反応を促進させるために、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物を添加することができる。特に、反応スラリーに水酸化カリウムを添加することが好ましい。水酸化カリウムの添加量は、アルカリ金属ケイ酸塩100質量部に対して、10質量部以上90質量部以下が好ましく、50質量部以上80質量部以下がより好ましい。
【0055】
アルカリ金属ケイ酸塩の添加量は、ジオポリマーを良好に形成し、発泡性組成物スラリーにおける各成分を均質に分散させる観点から、アルミノケイ酸塩中のSiO成分100質量部に対して、アルカリ金属ケイ酸塩のSiO成分の添加量が、好ましくは20質量部以上200質量部以下であり、より好ましくは40質量部以上100質量部以下である。アルカリ金属ケイ酸塩の添加量が以上の範囲内になるように、アルカリ金属ケイ酸塩水溶液を添加することが好ましい。
【0056】
耐火性をより良好にする観点からは、反応スラリーにおけるモル比率(Ca/(Al+Si))が、好ましくは0.4以下であり、より好ましくは0.2以下であり、さらに好ましくは0.1以下であり、特に好ましくは0.05以下であり、最も好ましくは0.01以下になるように、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩とを添加する。なお、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩には、不純物や副成分としてカルシウムが含まれる場合がある。また、反応スラリーにおけるモル比率(Si/Al)は、好ましくは0.5以上5以下であり、より好ましくは1以上3以下である。
【0057】
反応スラリーに含まれる骨材としては、積層体について例示した各種の骨材が使用される。骨材の添加量は、アルミノケイ酸塩中のSiO成分100質量部に対して、好ましくは100質量部以上500質量部以下である。骨材の添加量が少なすぎるとジオポリマー発泡体に割れが生じやすくなる。一方で、骨材の添加量が多すぎるとジオポリマー発泡体の圧縮強度が低下するという問題がある。骨材の添加量が上記の範囲内であると、ジオポリマー発泡体に割れが生じるのを抑制しつつ、圧縮強度を良好にすることができる。以上の観点からは、骨材の添加量は、アルミノケイ酸塩中のSiO成分100質量部に対して、より好ましくは150質量部以上400質量部以下であり、さらに好ましくは180質量部以上300質量部以下である。
【0058】
なお、アルミノケイ酸塩、アルカリ金属ケイ酸塩および骨材には、その他の成分が含まれていてもよい。ただし、この場合には、アルミノケイ酸塩、アルカリ金属ケイ酸塩および骨材のそれぞれについてその他の成分を除いた有効成分量として、アルミノケイ酸塩、アルカリ金属ケイ酸塩および骨材の添加量などを計算する。また、アルミノケイ酸塩やアルカリ金属ケイ酸塩中のSiO成分の含有量は、例えば、X線などを用いた組成分析により、その存在比率を求めることができる。
【0059】
第1工程においては、アルミノケイ酸塩と骨材との原料混合物の中に、その他の各種の添加剤を添加してもよい。その他の添加剤としては、積層体について例示した各種の成分が使用される。その他の成分として発泡核剤を添加する場合には、アルミノケイ酸塩中のSiO成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上40質量部以下である。
【0060】
その他の添加剤の添加量は、本発明の目的を達成できる範囲であれば、特に限定されず、アルミノケイ酸塩、アルカリ金属ケイ酸塩および骨材の合計100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。
【0061】
反応スラリーの粘度を調整するための水の添加量は、特に限定されないが、例えば、後述する第2工程で得られる発泡性組成物スラリー100質量%中、20質量%以上50質量%以下であることが好ましく、25質量%以上45質量%以下であることがより好ましい。水は、独立して添加してもよいし、アルカリ金属ケイ酸塩として水ガラスを使用する場合等には溶媒として添加してもよい。
【0062】
第1工程で得られる反応スラリーの粘度は、スピンドルの回転数6rpmで測定したときに100Pa・s以下であることが好ましく、60rpmで測定したときに1Pa・s以上15Pa・s以下であることがより好ましい。反応スラリーの粘度が上記の範囲内であると、骨材が分散した反応スラリーにおいて剪断力が加えられることによる急激な粘度上昇が生じずに、気泡の形成が容易になる。
【0063】
反応スラリーの粘度は、粘度計(例えば、アタゴ製ATAGO VISCO、A3スピンドル装着)を使用して測定される。なお、粘度の測定は、アルミノケイ酸塩と骨材とを含む原料混合物と、アルカリ金属ケイ酸塩水溶液(またはアルカリ金属ケイ酸塩および水)とを混合した直後(加熱前)に行う。
【0064】
第1工程で得られる反応スラリーは、固体成分が水に分散または一部溶解して存在している流動体を意味する。固体成分には、原料混合物の粒子、骨材、および、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩との反応により生じたジオポリマー等の粒子が含まれる。なお、反応スラリーにおいて、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩とが完全に反応してジオポリマーが形成されている必要は無く、反応スラリーの一部として、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩とから形成されたジオポリマーが存在していればよい。反応スラリーの固体成分の割合は、30%以上90%以下であることが好ましく、50%以上80%以下であることがより好ましい。反応スラリーの媒体は水を主成分とするものであるが、副成分として水溶性のアルコールなどを添加してもよい。
【0065】
なお、第1工程における混合方法は、特に限定されず、例えば、室温(25℃)において公知の撹拌機(例えば、モルタルミキサー、可傾式ミキサー、トラックミキサー、2軸式ミキサー、オムニミキサー、パンミキサー、プラネタリーミキサー及びアイリッヒミキサー等)を用いて各材料を混合する。各材料をミキサー等に投入する順序は特に限定されない。
【0066】
<第2工程>
第2工程では、上述した通り、第1工程で得られた反応スラリーに発泡剤を添加することで発泡性組成物スラリーを得る。発泡剤としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化カリウム、過ほう酸ナトリウム、非鉄金属粉末などを例示することができる。非鉄金属粉末としては、アルミニウム粉末を例示することができる。これらの中でも、過酸化水素、非鉄金属粉末の少なくともいずれかを用いることが好ましく、過酸化水素を用いることがより好ましい。
【0067】
発泡剤として過酸化水素を用いる場合には、過酸化水素水として用いるのが好ましい。この場合、過酸化水素水中の過酸化水素の濃度は、10質量%以上50質量%以下であることが好ましい。過酸化水素水中の過酸化水素の濃度が以上の範囲内であると、発泡性組成物スラリーを安定して発泡させることができ、良好な気泡構造を有する無機発泡体を得やすくできる。以上の観点から、過酸化水素水中の過酸化水素の濃度は20質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。
【0068】
発泡剤の添加量は、製造するジオポリマー発泡体の設計に応じて適宜設定することができ、特に限定されない。発泡剤の添加量は、アルミノケイ酸塩中のSiO成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上100質量部以下であり、より好ましくは1質量部以上50質量部以下であり、さらに好ましくは2質量部以上20質量部以下である。なお、過酸化水素を発泡剤として用いる場合には、過酸化水素の添加量は、アルミノケイ酸塩中のSiO成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上200質量部以下であり、より好ましくは1質量部以上150質量部以下であり、さらに好ましくは2質量部以上10質量部以下である。発泡剤の添加量が上記の範囲内であることで、発泡性組成物スラリーが十分に発泡し、優れた断熱性を有するジオポリマー発泡体を安定して得ることができる。なお、発泡性組成物スラリーにおいても、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩とが完全に反応してジオポリマーが形成されている必要は無く、反応スラリーの一部として、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩とから形成されたジオポリマーが存在していればよい。
【0069】
<第3工程>
具体的には、第3工程では、発泡性組成物スラリーを、金属体が配置された成形型内又は金属体が型面の少なくとも一部を構成している成形型内に導入した後、発泡性組成物スラリーを発泡させ、密度100kg/m以上600kg/m以下のジオポリマー発泡体を形成して、金属体とジオポリマー発泡体とを直接的に接着させる。なお、第3工程においては、必ずしも、ジオポリマーが形成された後に発泡が行われる必要はなく、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩とが発泡段階において同時並行的に反応してジオポリマーが形成され発泡体となっていてもよい。
【0070】
図2は、第3工程の一例を説明する説明図である。図2では、コの字型(底部と相互に対向する2つの側壁部とを具備する形状)の金属体を例示する。ただし、金属体の形状は、用途に応じて適宜に変更し得る。
【0071】
まず、第3工程では、金属体第2工程で得られた発泡性組成物スラリーを成形型内に導入する。成形型の形状は、所望する積層体の形状に応じて適宜に変更され、内部に金属体を配置できるか、または、成形型の一部が金属体を兼ね備えており、ジオポリマー発泡体が漏出することを防止できれば、特に限定されない。なお、図2では、金属体が型面の一部(成形型の底部)として機能する場合を例示する。ただし、金属体そのものが成形型全体として機能する場合も想定される。金属体が成形型全体として機能する場合には、金属体と別個の成形型は必須ではない。
【0072】
成形型内に発泡性組成物スラリーを導入した後は、加熱などにより発泡性組成物スラリーを発泡させることでジオポリマー中に多数の気泡を形成して、固化することにより、多数の気泡を有するジオポリマー発泡体を得る。
【0073】
発泡性組成物スラリーを発泡させる際に、発泡圧によってジオポリマーが金属体に押し付けられることにより、ジオポリマー発泡体と金属体との接触部分が広くなり、面接着に近い状態となり、金属体とジオポリマー発泡体との接着性が良好になると考えられる。
【0074】
第3工程では、各種の成形方法により、発泡性組成物スラリーから所望する形状のジオポリマー発泡体を成形することができる。例えば、成形型内に発泡性組成物スラリーを流し込み成形する注型法、または、成形型内で発泡性組成物スラリーをプレスして水分を吸引することにより脱水して成形する脱水成形法などで、ジオポリマー発泡体を所望する形状に成形する。
【0075】
発泡性組成物スラリーを発泡させる際の条件は、所望とするジオポリマー発泡体の物性に応じて、適宜に設定される。例えば、注型法により発泡性組成物スラリーを発泡させる場合、温度20~100℃(好ましくは50~80℃)で、保持持間30分~24時間の条件で、発泡性組成物スラリーを成形型内で反応および発泡させることで、ジオポリマー発泡体を得ることができる。
【0076】
注型法を採用した場合には、第3工程において、発泡性組成物スラリーが発泡することにより形成される気泡は、発泡剤添加後から30分~1時間程度経過するまでの間に成長して大きくなる。なお、ジオポリマー発泡体は、通常、ジオポリマー構造に由来するメソ孔を有するが、このようなメソ孔と発泡剤により形成される多数の気泡とは区別される。
【0077】
本発明における製造方法においては、撹拌等により気泡を形成する物理的な発泡とは異なり、発泡剤の添加により徐々に気泡を成長させて発泡させるため、気泡の微細化が起こりにくく、気泡径のムラが少ない、均一な気泡構造を有するジオポリマー発泡体を得やすい。
【0078】
なお、ジオポリマー発泡体の製造方法は、第1工程と第2工程と第3工程とに加えて、その他の工程を含んでもよい。例えば、成形工程により得られたジオポリマー発泡体を焼成する工程を製造方法が含んでもよい。焼成後のジオポリマー発泡体は、高温時の寸法変化を防止することが可能である。
【実施例0079】
本発明を実施例とともに詳述する。ただし、本発明は実施例には限定されない。
【0080】
表1に示す配合で、積層体を製造した。積層体におけるジオポリマー発泡体の原料の詳細は、以下の通りである。なお、積層体に用いた金属体は、表1の通り、SS400(鉄鋼)で厚さ1mmの板状である。
【0081】
[アルミノケイ酸塩]
メタカオリン(兵庫クレー製:HC-K-1300W アルミノケイ酸塩含有量99質量%)
フライアッシュ(日本製紙製:CfFA アルミノケイ酸塩含有量69質量%、酸化カルシウム含有量1質量%未満)
高炉スラグ(日本製紙製:二水石膏無添加 アルミノケイ酸塩含有量49質量%、酸化カルシウム含有量42質量%)
[アルカリ金属ケイ酸塩]
ケイ酸カリウム(日本化学工業製:2K珪酸カリ)
[発泡核剤]
タルク(松村産業製:Hi-filler5000PJS)
[骨材]
マイカ(セイシン企業製:C100M)
[発泡剤]
過酸化水素水(富士フィルム和光純薬製:過酸化水素濃度30質量%)
【0082】
実施例1~5および比較例1,2は、以下の通り、製造した。
【0083】
まず、アルミノケイ酸塩(メタカオリン、フライアッシュ、高炉スラグ)と発泡核剤と骨材とを表1に示す割合で混合して原料混合物を調整した。なお、表1について、アルミノケイ酸塩、発泡核剤、アルカリ金属ケイ酸塩、骨材、および発泡剤の添加量は、アルミノケイ酸塩中のSiO成分100質量部を基準としたときの値である。なお、原料としては、アルカリ金属ケイ酸塩水溶液、及び過酸化水素水が用いられているが、添加量としては濃度で換算された、アルカリ金属ケイ酸塩、及び過酸化水素の添加量を記載した。また、ケイ酸カリウムと水酸化カリウムと蒸留水とを混合することで、アルカリ金属ケイ酸塩水溶液(濃度37%、pH=14)を調製した。
【0084】
次に、原料混合物とアルカリ金属ケイ酸塩水溶液とを、アルカリ金属ケイ酸塩成分が表1に示す割合になるように混合し、必要に応じ蒸留水を添加し、撹拌速度60rpmで撹拌することにより、スピンドル回転数60rpm時の粘度1~15Pa・sの反応スラリーを調製した。次に、反応スラリーに、表1に示す割合で発泡剤を添加して、撹拌ベラを用いて、撹拌速度60rpmで1分間撹拌することで発泡性組成物スラリーを調製した。
【0085】
板状の金属体を配置した成形型を準備した。金属体は、内寸で30cm×30cmの底部と高さ3cmの側壁部とを具備するコの字型の金属体を用いた。成形型は、図2の例示にように、金属体を内部に配置できる形状のものを用いた。そして、成形型内に発泡性組成物スラリーを導入することで、金属体に発泡性組成物スラリーを接触させた。次に、成形型を密閉し、オーブンにて温度60℃で1時間保持することで、発泡性組成物スラリーを反応させるとともに発泡させて、金属体とジオポリマー発泡体とが直接的に接着した積層体を得た。積層体におけるジオポリマー発泡体の厚さは、30mmとなるように表面をカットした。この際、成形型内の圧力は大気圧で、約30分で発泡は完了し、約1時間で固化が完了した。その後、成形型を取り外した積層体を、さらに60℃で約1日保持することで乾燥させた。図3は、実施例に係る積層体の一例の写真である。
【0086】
比較例3では、ジオポリマー発泡体を接着剤(シリル化ウレタン樹脂100%)を用いて金属体に接着したことで積層体を得た。具体的には、表1の配合で反応スラリーを調整した後に、発泡剤を添加して発泡性組成物スラリーを調整した。40cm×40cm×5cmの成形型内に発泡性組成物スラリーを導入して、発泡性組成物スラリーを発泡および成形することで、ジオポリマー発泡体を得た。反応スラリーおよび発泡性組成物スラリーの調整と、ジオポリマー発泡体の製造条件は、実施例1~5および比較例1,2と同様である。そして、30cm×30cm×3cmに切り出したジオポリマー発泡体を金属体(30cm×30cm)に接着剤で接着した。
【0087】
比較例4では、ジオポリマー発泡体に代えて、軽量気泡コンクリート(ALC)を用いて、比較例3と同様に、接着剤(シリル化ウレタン樹脂100%)により金属体に接着したことで積層体を得た。軽量気泡コンクリートは、市販のALCパネル(一般平パネル、600×1800mm、厚み50mm)を使用した。そして、30cm×30cmに切り出した軽量気泡コンクリートを金属体(30cm×30cm)に接着剤で接着した。
【0088】
以下の通り、得られた積層体について以下の項目で評価を行った。なお、得られた積層体の大きさは、横30cm、高さ30cm、厚さ3cmである。また、実施例1~5の積層体において、ジオポリマー発泡体中のジオポリマーの含有量は、アルミノケイ酸塩とアルカリ金属ケイ酸塩の配合量を踏まえると、40質量%以上となる。
【0089】
【表1】
【0090】
[密度]
ジオポリマー発泡体の密度は、ジオポリマー発泡体の重量をジオポリマー発泡体の外径寸法で割ることにより求めた。
【0091】
[接着強度]
金属体とジオポリマー発泡体との接着強度は、以下の通り、測定した。まず、積層体を積層方向に沿って切ることで、5×5cmサイズのサンプルを得た。そして、ジオポリマー発泡体における金属体とは反対側の面と、金属体におけるジオポリマー発泡体とは反対側の面とに、それぞれ金属製の引張試験用の治具を接着剤で固定して、剥離試験を実施することで、接着強度を確認した。剥離試験は、JIS K6849-1994接着剤の引張り接着強さ試験方法を参考に、卓上試験機(オートグラフ)を用い、試験速度2mm/分で積層体の界面に垂直な引張り荷重をかけジオポリマー発泡体が破壊されるまで、または、界面剥離が起こるまで実施した。
【0092】
[接着率]
金属体の積層部分における接着領域の面積割合を以下の方法で測定した。上述した引張試験後のサンプルについて、ジオポリマー発泡体の厚みが0.01mm以上0.1mm以下になるまで、金属体側に向けて発泡体を削った。そして、ジオポリマー発泡体を削った後のサンプルの表面を画像解析により、金属体の積層部分に残存するジオポリマー発泡体のジオポリマー部分の面積を測定した。具体的には、サンプルの表面の全エリアが含むように撮像装置(オリンパス製OLYMPUS STYLUS TG-4 Tough)で撮像したサンプルの画像を、画像解析ソフト(例えばWinroof2021:三谷商事製)で画像解析した。撮像した画像は、モノクロ画像化(8bit)した。次に、モノクロ画像化した画像を、モード法により二値化することで、ジオポリマー発泡体を表す部分(すなわちジオポリマー発泡体が残存している部分)と、金属体を表す部分(金属体が露出している部分)とを色で区別した。図4は、二値化後の画像の一例である。図4において、色が薄い部分がジオポリマー発泡体を表す部分であり、色が濃い部分が金属体を表す部分である。そして、画像におけるジオポリマー発泡体を表す部分の面積を算出することで、金属体の積層部分における接着領域の面積割合を算出して接着率とした。
【0093】
[耐火性]
積層体の耐火性は、耐火試験を行うことで評価した。耐火試験は、加熱炉に30cm×30cm×3cmの積層体をN=2で設置した。金属体側が炉内を向くように積層体を設置する。次に、JIS A 1304に記載の昇温条件にて炉内を昇温(1時間まで)して、積層体を金属体側から加熱した。積層体の表面(ジオポリマー発泡体側の表面)温度の変化を、30秒毎に測定した。各積層体において2か所で表面温度を測定した。そして、1時間後の割れの様子と、1時間後の表面温度(ジオポリマー発泡体の表面の温度)を確認した。なお、表面温度は、2箇所の平均値とした。
【0094】
1時間後の割れは、以下の基準で評価した。
〇:ジオポリマー発泡体の形状が保持されていた。
△:ジオポリマー発泡体にわずかに亀裂が発生した。
×:ジオポリマー発泡体に亀裂が発生し、かつ、ジオポリマー発泡体が金属体から脱落していた。
【0095】
なお、比較例2~4については、ジオポリマー発泡体が金属体から脱落したため、表面温度の測定は不可能であった。
【0096】
[平均気泡径]
ジオポリマーの平均気泡径の求め方は、以下の通りである。具体的に、試験片の断面について、拡大倍率20倍で画像データを測定装置(株式会社キーエンス製 デジタルマイクロスコープ VHX-7000)を用いて取得する。この画像データにおいて、ナノシステム株式会社製の画像処理ソフトNS2K-proを用いることにより個々の気泡の面積を測定する。得られた個々の気泡の面積を気泡が円であると換算し、更にその円に換算した場合の直径を求め、それらの値の各々を算術平均して求める。
なお、気泡壁内に存在する気泡は、気泡径の測定からは除外して算出する。また、試験片の断面を作製した際に気泡壁が欠落したと考えられる気泡についても、上記気泡径の測定からは除外して算出する。
画像データを取得するための詳細な設定条件は、以下の条件とする(モノクロ変換、平滑化フィルタ(3×3、8近傍、処理回数=1)、濃度ムラ補正(背景より明るい、大きさ=5)、NS法2値化(背景より暗い、鮮明度=9、感度=1、ノイズ除去、濃度範囲=0~255)、収縮(8近傍、処理回数=1)、特徴量(面積)による画像の選択(10000~∞μm2のみ選択、8近傍)、隣と接続されない膨張(8近傍、処理回数=3)、各円相当径計測(面積から計算、8近傍)))。
【0097】
表1に示される通り、実施例1~5は、比較例1~4と比較して、接着率および接着強度の双方が良好であり、耐火性も向上した。特に、実施例1~3と実施例4,5との対比により、モル比率(Ca/(Al+Si))が0.01以下であると、耐火性がより良好になることが確認できた。
【0098】
比較例1では、ジオポリマー発泡体の密度が低すぎることから、接着強度が低下して、耐火性が劣った。一方で、比較例2では、ジオポリマー発泡体の密度が高すぎることから、接着率が低下して、耐火性が劣った。比較例3では、比較例2と同様のジオポリマー発泡体を用いているものの、接着剤を用いたことで、耐火性が劣る結果となった。比較例4では、ジオポリマー発泡体を用いていないことや接着剤を用いたことで、耐火性が劣った。
【0099】
以上の説明から理解される通り、金属体と、ジオポリマー発泡体とが直接的に接着している積層体であって、ジオポリマー発泡体の密度が100kg/m以上600kg/m以下であり、接着率が50%以上であることで、耐火性が良好になる。
図1
図2
図3
図4