(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178034
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】正極及び蓄電素子
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20241217BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096523
(22)【出願日】2023-06-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】中島 要
(72)【発明者】
【氏名】川本 浩二
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA12
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA02
5H050DA13
5H050EA01
5H050EA12
5H050EA15
5H050EA23
5H050FA17
5H050HA05
5H050HA07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】良好なイオン伝導度を有する正極、及び、該正極を備える蓄電素子を提供する。
【解決手段】固体電解質と、粒子状の正極活物質とを含む正極活物質層を備え、横軸が粒径の対数であり且つ縦軸が体積比率である正極活物質の粒度分布図は、粒径が0.2~10.0μmの範囲内にピークトップの高さが互いに異なる複数のピークを有し、最も高い第1ピークは、ピークトップに対応する粒径を3.0~10.0μmの範囲内に有し、2番目に高い第2ピークは、ピークトップに対応する粒径を0.2~1.0μmの範囲内に有し、正極活物質のうち、0.05~20.0μmの粒子径を有する正極活物質の体積の合計(Va)が正極活物質の総体積(Vt)に占める割合(Va/Vt)は、95体積%以上であり、正極活物質のうち、0.05~2.0μmの粒子径を有する正極活物質の合計体積(Vb)が(Va)に占める割合(Vb/Va)は、15体積%以下である。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質と、粒子状の正極活物質とを含む、正極活物質層を備え、
横軸が粒径の対数であり且つ縦軸が体積比率である前記正極活物質の粒度分布図は、前記横軸の粒径値が0.2μm以上10.0μm以下の範囲内に、ピークトップの高さが互いに異なる複数のピークを有し、
前記複数のピークのうちピークトップの高さが最も高い第1ピークは、ピークトップ(P1)に対応する粒径値(L1)を3.0μm以上10.0μm以下の範囲内に有し、
前記複数のピークのうちピークトップの高さが2番目に高い第2ピークは、ピークトップ(P2)に対応する粒径値(L2)を0.2μm以上1.0μm未満の範囲内に有し、
前記正極活物質のうち、0.05μm以上20.0μm以下の粒子径を有する正極活物質の体積の合計(Va)が、前記正極活物質の総体積(Vt)に占める割合(Va/Vt)は、95体積%以上であり、
前記正極活物質のうち、0.05μm以上2.0μm以下の粒子径を有する正極活物質の合計体積(Vb)が、0.05μm以上20.0μm以下の粒子径を有する正極活物質の合計体積(Va)に占める割合(Vb/Va)は、15体積%以下である、
正極。
【請求項2】
前記第2ピークのピークトップ(P2)に対応する粒径値(L2)に対する、前記第1ピークのピークトップ(P1)に対応する粒径値(L1)の比(L1/L2)は、5以上30以下である、請求項1に記載の正極。
【請求項3】
前記固体電解質は、粒子状であり、前記固体電解質の平均粒径は、1.0μm以下である、請求項1又は2に記載の正極。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の正極を備える、蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極、及び、該正極を備える蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、硫化物系固体電解質を含む全固体二次電池用正極であって、前記全固体二次電池用正極は、平均粒径が15ないし20μmである第1正極活物質、平均粒径が2ないし6μmである第2正極活物質、及び固体電解質を含み、前記第1正極活物質及び前記第2正極活物質からなる群から選択される1以上は、リチウムイオン伝導体を含むコーティング膜を含み、前記第1正極活物質及び前記第2正極活物質は、それぞれコア及びシェルを含み、前記シェルは、コバルト(Co)を含むニッケル系活物質を含む、全固体二次電池用正極が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一の目的は、良好なイオン伝導度を有する正極、及び、該正極を備える蓄電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面に係る正極は、固体電解質と、粒子状の正極活物質とを含む、正極活物質層を備え、
横軸が粒径の対数であり且つ縦軸が体積比率である前記正極活物質の粒度分布図は、前記横軸の粒径値が0.2μm以上10.0μm以下の範囲内に、ピークトップの高さが互いに異なる複数のピークを有し、
前記複数のピークのうちピークトップの高さが最も高い第1ピークは、ピークトップ(P1)に対応する粒径値(L1)を3.0μm以上10.0μm以下の範囲内に有し、
前記複数のピークのうちピークトップの高さが2番目に高い第2ピークは、ピークトップ(P2)に対応する粒径値(L2)を0.2μm以上1.0μm未満の範囲内に有し、
前記正極活物質のうち、0.05μm以上20.0μm以下の粒子径を有する正極活物質の体積の合計(Va)が、前記正極活物質の総体積(Vt)に占める割合(Va/Vt)は、95体積%以上であり、
前記正極活物質のうち、0.05μm以上2.0μm以下の粒子径を有する正極活物質の合計体積(Vb)が、0.05μm以上20.0μm以下の粒子径を有する正極活物質の合計体積(Va)に占める割合(Vb/Va)は、15体積%以下である。
【0006】
本発明の他の一側面に係る蓄電素子は、上記の正極を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一側面に係る正極は、良好なイオン伝導度を有する。
本発明の他の一側面に係る蓄電素子において、正極は良好なイオン伝導度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る蓄電素子の斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1の蓄電素子に収容される電極体の斜視図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る蓄電素子を構成する電極体の模式断面図である。
【
図4】
図4は、正極活物質層の作製における様子の一例を表す模式図である。
【
図5】
図5は、固体電解質層の作製における様子の一例を表す模式図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る蓄電素子を複数備えた蓄電装置の概略図である。
【
図7】
図7は、具体的一例の正極活物質の粒度分布図である。
【
図8A】
図8Aは、作製した正極活物質層評価用セルの断面を模式的に表す概略断面図である。
【
図8B】
図8Bは、製造した蓄電素子(全固体型二次電池)の断面を模式的に表す概略断面図である。
【
図8C】
図8Cは、製造した蓄電素子(全固体型二次電池)の断面を模式的に表す概略断面図である。
【
図9】
図9は、正極活物質層評価用セルの交流インピーダンス測定によって得られるcole-coleプロットの一例を表すグラフである。
【
図10】
図10は、各正極活物質層のイオン伝導度を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書によって開示される正極40、及び、蓄電素子1の概要について説明する。
【0010】
(1)本発明の一側面に係る正極40は、固体電解質と、粒子状の正極活物質とを含む、正極活物質層42を備え、
横軸が粒径の対数であり且つ縦軸が体積比率である前記正極活物質の粒度分布図は、前記横軸の粒径値が0.2μm以上10.0μm以下の範囲内に、ピークトップの高さが互いに異なる複数のピークを有し、
前記複数のピークのうちピークトップの高さが最も高い第1ピークは、ピークトップ(P1)に対応する粒径値(L1)を3.0μm以上10.0μm以下の範囲内に有し、
前記複数のピークのうちピークトップの高さが2番目に高い第2ピークは、ピークトップ(P2)に対応する粒径値(L2)を0.2μm以上1.0μm未満の範囲内に有し、
前記正極活物質のうち、0.05μm以上20.0μm以下の粒子径を有する正極活物質の体積の合計(Va)が、前記正極活物質の総体積(Vt)に占める割合(Va/Vt)は、95体積%以上であり、
前記正極活物質のうち、0.05μm以上2.0μm以下の粒子径を有する正極活物質の合計体積(Vb)が、0.05μm以上20.0μm以下の粒子径を有する正極活物質の合計体積(Va)に占める割合(Vb/Va)は、15体積%以下である。
【0011】
上記(1)に記載の正極40では、良好なイオン伝導度を有することができる。
【0012】
(2)上記(1)に記載の正極40において、前記第2ピークのピークトップ(P2)に対応する粒径値(L2)に対する、前記第1ピークのピークトップ(P1)に対応する粒径値(L1)の比(L1/L2)は、5以上30以下であってもよい。
【0013】
上記(2)に記載の正極40では、イオン伝導度がより良好となり得る。
【0014】
(3)上記(1)又は(2)に記載の正極40では、前記固体電解質は、粒子状であり、前記固体電解質の平均粒径は、1.0μm以下であってもよい。
【0015】
上記(3)に記載の正極40では、イオン伝導度がより良好となり得る。
【0016】
(4)本発明の他の一側面に係る蓄電素子1は、上記の(1)乃至(3)のいずれかに記載の正極40を備える。上記(4)に記載の蓄電素子1では、少なくとも正極におけるイオン伝導度が良好となり得る。従って、蓄電素子1が、より大きい充電容量を有し得る。
【0017】
本発明の一実施形態に係る正極40の構成、蓄電素子1の構成、蓄電装置100の構成、並びにその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0018】
<蓄電素子の構成>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子1は、
図1から
図3に示すように、正極40、負極50、及び固体電解質層60を有する電極体2と、上記電極体2を収容する容器3と、を備える。本実施形態に係る蓄電素子1は、電解液を実質的に含まないため、以下、「全固体型蓄電素子」と称される場合がある。本実施形態において、電極体2は、正極40と負極50と固体電解質層60とが積層された積層型電極体である。容器3は、2枚のシート状物で電極体2を両側から挟み込むように、電極体2を内部に収容している。換言すると、容器3は、扁平形状のいわゆるパウチ容器である。正極40は、固体電解質と正極活物質とを含む正極活物質層42を有し、負極50は、少なくとも負極活物質を含む負極活物質層52を有する。固体電解質層60は、正極40と負極50との間に配置され、主に固体電解質を含む。全固体型蓄電素子の一例として、全固体型リチウムイオン二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。
【0019】
詳しくは、本実施形態の蓄電素子1は、
図1から
図3に示すように、正極40と負極50とが固体電解質層60を介して積層された積層型の電極体2と、電極体2を収容する上記の容器3と、2つの外部端子(正極端子4及び負極端子5)とを備える。正極端子4は、正極40の正極基材41(後述)の一部が外方へ延びたタブ部によって構成されている。同様に、負極端子5は、負極50の負極基材51(後述)の一部が外方へ延びたタブ部によって構成されている。
蓄電素子1は、電極体2と任意の外部機器との間において、正極端子4及び負極端子5を介して充放電時に電気が流れるように構成されている。本実施形態の蓄電素子1では、1つの電極体2が容器3内に収容され、電極体2が充放電反応するように構成される。
また、容器3は、厚さ方向(電極体2における電極の積層方向)において、外方から内部へ向けて圧縮力を受けた状態であることが好ましい。これにより、正極40及び負極50と、固体電解質層60との間における界面抵抗をより下げることができる。なお、容器3に収容される電極体2は、1つであっても複数であってもよい。
【0020】
電極体2では、矩形シート状の正極40と、矩形シート状の負極50とが固体電解質層60を介して重ねられて積層されている。
図3に示すように、固体電解質層60は、正極40及び負極50を電気的に絶縁するように配置されている。固体電解質層60は、正極活物質及び負極活物質のいずれも含まない。本実施形態では、電極体2及び容器3は、いずれも扁平形状を有する。電極体2における電極の積層方向と、容器3の厚さ方向とが同じ方向になるように、電極体2が容器3内に配置されており、電極体2の少なくとも一部が容器3の内面に直接又は所定の部材などを介して接している。
【0021】
本実施形態の電極体2において、少なくとも正極40の正極活物質層42は、固体電解質を含む。詳しくは、本実施形態において、少なくとも正極活物質層42は、固体電解質の粒子を含む。
【0022】
(正極)
正極40は、正極基材41と、当該正極基材41に直接又は所定の層などを介して重なる正極活物質層42とを有する。本実施形態では、正極40において正極基材41と正極活物質層42とが直接重なり合っている。また、本実施形態では、正極基材41の一方の面(片面)に正極活物質層42が重ねられている。正極活物質層42と負極活物質層52とは、互いの間で充放電反応を起こす。
【0023】
正極基材41は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が107Ω・cmを閾値として判定する。正極基材41の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材41としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材41としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)に規定されるA1085、A3003等が例示できる。
【0024】
正極基材41の平均厚さは、1μm以上50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、15μm以下がさらに好ましい。正極基材41の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材41の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0025】
本実施形態において、正極活物質層42は、少なくとも、正極活物質と固体電解質(後に詳述)とを含む。正極活物質層42は、バインダーを含んでもよい。正極活物質層42は、必要に応じて、導電剤、増粘剤等の任意成分を含んでもよい。
【0026】
正極活物質としては、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LixNi(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγCo(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixCo(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LiNiMn(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)、Li[LixNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LixMn2O4、LixNiγMn(2-γ)O4等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4,Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化コバルト、硫化銅、硫化ニッケル、銅シェブレル等が挙げられる。なお、硫黄、酸化ビスマス、鉛酸ビスマス、酸化銅、酸化バナジウム等を正極活物質として用いることもできる。
これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層42においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
正極活物質として、リチウムイオン伝導性酸化物等の材料を含有するコート層によって被覆された状態のものを選択することが好ましい。リチウムイオン伝導性酸化物として、LiNbO3、Li2WO4、Li4Ti5O12、Li3PO4等が挙げられる。この中でも、LiNbO3を選択することが好ましい。コート層は、正極活物質の表面全体を被覆していてもよく、又は、表面を部分的に被覆していてもよい。
【0027】
正極活物質は、粒子状である。正極活物質の平均粒径は、例えば、0.05μm以上20.0μm以下であることが好ましい。正極活物質の平均粒径が上記の下限以上であることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径が上記の上限以下であることで、正極活物質層42の電子伝導性が向上する。なお、正極活物質と他の材料との複合体を用いる場合(例えば、正極活物質の表面をコート層によって被覆している場合)、該複合体の平均粒径を正極活物質の平均粒径とする。平均粒径の測定方法については、後に詳しく説明する。
【0028】
正極活物質の粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶媒を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0029】
正極活物質層42における正極活物質の含有量は、好ましくは10質量%以上95質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上90質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以上80質量%以下である。正極活物質の含有量が上記の範囲であることで、正極活物質層42の高エネルギー密度化と、正極活物質層42の比較的簡便な製造とを両立できる。
【0030】
正極活物質層42は、後に詳述する固体電解質を含む。固体電解質は、例えば、不定形の塊状であってもよく、特定形状の粒子状であってもよい。固体電解質は、後に詳述する固体電解質層60の説明において例示される固体電解質の中から適宜選択される。正極活物質層42に含まれる固体電解質は、固体電解質層60に含まれる固体電解質と同じ種類のものであってもよく、異なる種類のものであってもよい。正極活物質層42における固体電解質の含有量は、好ましくは5質量%以上90質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上80質量%以下であり、さらに好ましくは15質量%以上70質量%以下である。正極活物質層42における固体電解質の含有量が上記範囲であることによって、当該蓄電素子が比較的大きい電気容量を有することができる。なお、正極活物質層42は、異なる複数種の固体電解質を含んでもよい。
【0031】
正極活物質層42に含まれる固体電解質は、粒子状であることが好ましい。固体電解質の平均粒径は、5.0μm以下であってもよく、4.0μm以下であってもよい。
固体電解質の平均粒径は、3.0μm以下であることが好ましく、1.0μm以下であることがより好ましい。これにより、正極活物質層42に含まれる各材料間の接触性が良好となり得る。固体電解質の平均粒径は、0.1μm以上であってもよい。
なお、固体電解質の平均粒径の測定方法の詳細については、後述する。固体電解質の材質についても後に詳述する。
【0032】
正極活物質層42に含まれる粒子状の正極活物質の粒度分布図は、以下の規定を満たしている。
詳しくは、横軸が粒径の対数であり且つ縦軸が体積比率である正極活物質の粒度分布図は、横軸の粒径値が0.2μm以上10.0μm以下の範囲内に、ピークトップの高さが互いに異なる複数のピークを有する。
また、複数のピークのうちピークトップの高さが最も高い第1ピークは、ピークトップ(P1)に対応する粒径値(L1)を3.0μm以上10.0μm以下の範囲内に有し、且つ、複数のピークのうちピークトップの高さが2番目に高い第2ピークは、ピークトップ(P2)に対応する粒径値(L2)を0.2μm以上1.0μm未満の範囲内に有する。
さらには、正極活物質のうち、0.05μm以上20.0μm以下の粒子径を有する正極活物質の体積の合計(Va)が、正極活物質の総体積(Vt)に占める割合(Va/Vt)は、95体積%以上であり、且つ、正極活物質のうち、0.05μm以上2.0μm以下の粒子径を有する正極活物質の合計体積(Vb)が、0.05μm以上20.0μm以下の粒子径を有する正極活物質の合計体積(Va)に占める割合(Vb/Va)は、15体積%以下である。
【0033】
本実施形態の蓄電素子1では、正極40の正極活物質層42に含まれる正極活物質の粒度分布図が上記の規定を満たすため、正極40のイオン伝導度が良好である。正極40のイオン伝導度が良好であるため、本実施形態の蓄電素子1は、比較的大きい充電容量を有し得る。
【0034】
例えば、平均粒径が5.0μm程度の正極活物質の粉体と、平均粒径が0.5μm程度の正極活物質の粉体とを、後者よりも前者の方が多くなるように混合した混合粉体を用いて正極活物質層42を作製することによって、上記のごとき構成の正極活物質層42を得ることができる。
【0035】
上記の割合(Vb/Va)は、10体積%以下であってもよく、5体積%以下であってもよい。上記の割合(Vb/Va)は、1体積%以上であってもよい。上記の割合(Vb/Va)が上記のごとき範囲内であることによって、正極40のイオン伝導度がより良好となり得る。
【0036】
第2ピークのピークトップ(P2)に対応する粒径値(L2)に対する、第1ピークのピークトップ(P1)に対応する粒径値(L1)の比(L1/L2)は、5以上30以下であってもよい。これにより、蓄電素子1がより大きい充電容量を有し得る。
なお、上記の比(L1/L2)は、20以下であってもよい。
【0037】
・正極活物質及び固体電解質の粒度分布測定等の測定用試料の調製(前処理方法を含む)
各種測定(粒度分布測定、平均粒径測定等)に供する正極活物質の粒子は、以下のようにして準備する。
正極を作製する前に粉体状態の正極活物質の粒度分布等を測定する場合、正極活物質の粉末をそのまま測定に供する。具体的には、正極活物質の粒度分布を測定する場合、正極活物質層42を構成するための正極活物質をすべて混合し、斯かる混合物について粒度分布を測定する。
一方、蓄電素子を解体して正極から取り出した正極活物質について粒度分布等を測定する場合、蓄電素子(二次電池など)を解体する前に、以下に説明する手順によって蓄電素子(二次電池など)を放電状態とする。以下では二次電池について詳しく説明しているが、二次電池以外の蓄電素子であっても同様な手順で進める。
まず、0.1CmAの電流で、通常使用時に充電を終止する電池電圧となるまで定電流充電を行い、さらに、同じ電池電圧にて電流値が0.01CmAに減少するまで定電圧充電を行い、満充電状態とする。30分間の休止後、0.1CmAの電流で、通常使用時に放電を終止する電池電圧に至るまで定電流放電を行い、完全放電状態とする。なお、「通常使用時」とは、当該二次電池について推奨される又は指定される充放電条件を採用して当該二次電池を使用する場合である。金属リチウム電極を負極に用いた二次電池であれば、当該二次電池を完全放電状態とした後に二次電池を解体して正極を取り出す。一方、金属リチウム電極を負極に用いていない二次電池であれば、正極電位を正確に制御するため、二次電池を解体して正極を取り出した後に、金属リチウム電極を対極とした試験電池を組立て、その後上記の手順に沿って、完全放電状態に調整し、試験電池を解体して正極を取り出すことが望ましい。二次電池の解体から正極活物質層の取り出しまでの作業は、露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中で行う。二次電池を解体して取り出した正極から正極活物質層を取り出し、正極活物質層に含まれる正極活物質と固体電解質とを分離し、正極活物質を採取する。例えば、固体電解質を溶解させる溶媒を用いて、超音波洗浄処理等の方法によって、適宜、固体電解質を除去して正極活物質を採取する。固体電解質を溶解させることが可能な溶媒としては、固体電解質が硫化物系固体電解質である場合、水等が挙げられる。固体電解質を溶解可能な溶媒が無い場合、固体電解質と正極活物質などとの比重差を利用して、沈降分離法等を採用することによって、正極活物質を採取できる。
必要に応じてさらに以下の手順を実施する。固体電解質を除去した後に、依然として正極活物質以外の他材料が混在する場合、例えば他材料を焼失させる処理を施す。具体的には、室温にて一昼夜の乾燥処理を実施した後、導電剤として用いられている可能性のある炭素質材料、又は、バインダー等として用いられている可能性のある有機物等を除去するため、例えば小型電気炉を用いて空気中において600℃で4時間加熱する。このようにして、正極活物質を採取する。
【0038】
各種測定(粒度分布測定、平均粒径測定等)に供する固体電解質は、以下のようにして準備する。
蓄電素子を作製する前に粉体状態の固体電解質の平均粒径等を測定する場合、固体電解質の粉末をそのまま測定に供する。
一方、蓄電素子を解体して得られた正極の正極活物質層等に含まれる固体電解質について平均粒径等を測定する場合、固体電解質が不溶な溶媒中に、蓄電素子を解体して取り出した正極活物質層を分散させることで、固体電解質の粒子を採取する。固体電解質と、固体電解質以外の他材料とを分離するためには、例えば、上記のごとき沈降分離法等を採用できる。
固体電解質が不溶な溶媒としては、固体電解質が硫化物系固体電解質である場合、テトラリンとアニソールとの混合溶媒、酪酸ブチル、超脱水ヘプタン、デカン、又は、その他各種の無極性溶媒等が挙げられる。
【0039】
・粒度分布の測定
正極活物質の粒子の粒度分布、又は、固体電解質の粒子の粒度分布の各測定は、以下の方法で実施する。
測定装置として、バッチ式レーザー回折散乱粒度分布測定装置(HORIBA社製、型番:LA-960)を用いる。測定対象試料が分散溶媒中に分散している分散液を、バッチ式ガラスセル内でスターラー撹拌しながら、粒度分布を測定する。
水に可溶な固体電解質の粒子の粒度分布を測定する場合、分散溶媒として、固体電解質が不溶な溶媒を用いる。また、露点-40℃以下の乾燥空気雰囲気内に測定装置一式を設置した状態で、測定を行う。
そして、測定装置に付属された標準ソフトウェアを用いて且つ標準設定されている条件(1オーダーあたりのプロット数;17)を採用して、粒度分布図を出力する。
ここで、任意の粒子径範囲における粒子の合計体積は、上記標準ソフトウェアを用いて且つ標準設定されている条件を採用して出力されるデータから算出する。
【0040】
・平均粒径の測定(必要に応じて)
JIS-Z-8825(2013年)の「粒子径解析-レーザ回折・散乱法」に準拠しつつ上記の方法により測定した粒径分布に基づいて、JIS-Z-8819-2(2001年)「粒子径測定結果の表現-第2部:粒子径分布からの平均粒子径又は平均粒子直径及びモーメントの計算」に準拠して計算される値、すなわち、体積基準積算分布50%となる値(メジアン径)を平均粒径として採用する。
【0041】
本実施形態の正極活物質層42に含まれ得るバインダーとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー(ゴム系バインダー);多糖類高分子等が挙げられる。バインダーを含む正極活物質層42では、バインダーを介して、少なくとも正極活物質及び固体電解質の粒子(塊)が互いに結着している。
【0042】
正極活物質層42がバインダーを含む場合、正極活物質層42におけるバインダーの含有量は、好ましくは0.01質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上7.0質量%以下である。バインダーの含有量が上記の範囲であることで、正極活物質及び固体電解質を安定して保持することができる。
【0043】
本実施形態の正極活物質層42に含まれ得る導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛、非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、カーボンファイバー(例えば気相成長炭素繊維など)、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状は、粒状又は繊維状等であってもよい。導電剤のうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、上記の材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。
【0044】
正極活物質層42が導電剤を含む場合、正極活物質層42における導電剤の含有量は、好ましくは1質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは3質量%以上9質量%以下である。導電剤の含有量が上記の範囲であることで、二次電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0045】
正極活物質層42が増粘剤を含む場合、増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0046】
(負極)
負極50は、負極基材51と、当該負極基材51に直接又は所定の層などを介して重なる負極活物質層52とを有する。本実施形態では、負極50において負極基材51と負極活物質層52とが直接重なり合っている。また、本実施形態では、負極基材51の片面(一方の面)に負極活物質層52が重ねられている。
【0047】
負極基材51は、導電性を有する。負極基材51の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でもステンレス鋼、ニッケル若しくはニッケル合金又は銅若しくは銅合金が好ましい。負極基材51としては、金属箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの観点から金属箔が好ましい。負極基材51としては、例えば、ステンレス箔、ニッケル箔若しくはニッケル合金箔、又は、銅箔若しくは銅合金箔が挙げられる。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0048】
負極基材51の平均厚さは、1μm以上50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、15μm以下がさらに好ましい。負極基材51の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材51の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0049】
負極活物質層52は、負極活物質を含む。負極活物質層52は、固体電解質(後に詳述)及びバインダーを含んでもよい。負極活物質層52は、必要に応じて導電剤、増粘剤等の任意成分を含んでもよい。バインダーは、上記正極40で例示された材料から選択できる。導電剤、増粘剤等の任意成分は、上記正極40で例示された材料から選択できる。バインダーを含む負極活物質層52では、バインダーを介して、少なくとも負極活物質及び固体電解質の粒子(塊)が互いに結着している。
【0050】
負極活物質層52は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を、負極活物質、固体電解質、導電剤、バインダー、増粘剤以外の成分として含有してもよい。
【0051】
負極活物質としては、公知の負極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;Li4Ti5O12、LiTiO2、TiNb2O7等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。これらの材料の中でも、黒鉛及び非黒鉛質炭素が好ましい。負極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、X線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。
【0053】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてX線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチまたは石油ピッチ由来の材料、石油コークスまたは石油コークス由来の材料、植物由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0054】
ここで、炭素材料の「放電状態」とは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されるように放電された状態を意味する。例えば、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態である。
【0055】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。
【0056】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0057】
負極活物質は、通常、粒子(粉体)である。負極活物質の平均粒径は、例えば、1nm以上100μm以下とすることができる。負極活物質が炭素材料、チタン含有酸化物又はポリリン酸化合物である場合、その平均粒径は、1μm以上100μm以下であってもよい。負極活物質が、Si、Sn、Si酸化物、又は、Sn酸化物等である場合、その平均粒径は、1nm以上1μm以下であってもよい。負極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、活物質層の電子伝導性が向上する。粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び分級方法は、例えば、上記正極で例示した方法から選択できる。負極活物質が金属Li等の金属である場合、負極活物質は、箔状であってもよい。この場合、負極活物質層52は負極活物質のみからなっていてもよい。
【0058】
負極活物質層52における負極活物質の含有量は、好ましくは10質量%以上95質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上90質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以上80質量%以下である。負極活物質の含有量が上記の範囲であることで、負極活物質層52の高エネルギー密度化と、負極活物質層52の比較的簡便な製造とを両立できる。なお、負極活物質が金属Li等の金属である場合、負極活物質層52における負極活物質の含有量は、100質量%であってもよい。
【0059】
負極活物質層52に含まれ得る固体電解質は、後に詳述する固体電解質層60の説明において例示される固体電解質の中から適宜選択できる。固体電解質は、例えば、不定形の塊状であってもよく、特定形状の粒子状であってもよい。負極活物質層52に含まれ得る固体電解質は、固体電解質層60に含まれる固体電解質と同じ種類のものであってもよく、異なる種類のものであってもよい。負極活物質層52が固体電解質を含む場合、負極活物質層52における固体電解質の含有量は、好ましくは5質量%以上90質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上80質量%以下であり、さらに好ましくは15質量%以上70質量%以下である。負極活物質層52における固体電解質の含有量が上記範囲であることによって、当該蓄電素子が比較的大きい電気容量を有することができる。なお、負極活物質層52は、異なる複数種の固体電解質を含んでもよい。
【0060】
本実施形態の電極体2では、固体電解質層60を介して正極活物質層42及び負極活物質層52が向き合っている。電極体2を積層方向(厚さ方向)の一方から見たときに、負極活物質層52の面積が、正極活物質層42の面積よりも大きくてもよい。換言すると、負極活物質層52の周縁部の少なくとも一部は、厚さ方向において正極活物質層42と対向していなくてもよい。
【0061】
(固体電解質層)
本実施形態の電極体2において、固体電解質を含み且つ活物質を含まない固体電解質層60が、正極40と負極50との間に配置されている。固体電解質層60の厚さは、5μm以上200μm以下であってもよく、10μm以上100μm以下であってもよい。
【0062】
固体電解質層60は、特定形状の粒子状、又は、不定形状の塊状の固体電解質を含み、上記正極40で例示されたバインダーをさらに含んでもよい。
【0063】
上記の固体電解質は、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等の電荷輸送イオンを伝導するイオン伝導性材料であり、且つ、1気圧25℃の窒素雰囲気下においても固体状を保つ化合物である。上記の固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、硫化物固体電解質以外の他の固体電解質などが挙げられる。
【0064】
固体電解質層60に含まれる固体電解質としては、硫化物固体電解質が好ましい。また、固体電解質層60に含まれる固体電解質と、正極活物質層42及び負極活物質層52に含まれる固体電解質とは、同じであってもよく、それぞれ異なっていてもよいが、好ましくは、いずれも硫化物固体電解質である。固体電解質が硫化物固体電解質であることによって、固体電解質層のリチウム等の電荷輸送イオンの伝導度をより高くできるという利点がある。また、硫化物固体電解質の粒子は、より変形しやすいことから、固体電解質の粒子同士及び固体電解質と活物質との接触面積が、より大きくなり得る。よって、固体電解質と活物質との間における界面抵抗をより低くすることができるという利点がある。
【0065】
硫化物固体電解質は、硫黄元素を必須成分として含み、1気圧25℃の窒素雰囲気下においても固体状を保つ化合物である。硫化物固体電解質としては、リチウムイオン二次電池で用いられる場合、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-GeS2、LiI-Li2S-P2S5、Li10Ge-P2S12、Li6PS5X(X=Cl、Br、I)等が挙げられる。ここで、Li10Ge-P2S12は、LGPS型硫化物固体電解質と称され、Li6PS5Xは、アルジロダイト型硫化物固体電解質と称される。
【0066】
固体電解質層60などに含まれ得る他の固体電解質としては、酸化物固体電解質、又は、窒化物固体電解質などが挙げられる。なお、固体電解質層60などは、上記の硫化物固体電解質又は酸化物固体電解質といった無機固体電解質を含み、さらにポリマー固体電解質を含んでもよい。
【0067】
酸化物固体電解質は、酸素を必須成分として含み、1気圧25℃の窒素雰囲気下においても固体状を保つ化合物である。酸化物固体電解質としては、例えば、ペロブスカイト型酸化物、NASICON型酸化物、LISICON型酸化物、ガーネット型酸化物等が挙げられる。
ペロブスカイト型酸化物としては、例えば、LixLa1-xTiO3等で表される酸化物(Li-La-Ti-O系ペロブスカイト型酸化物)等が挙げられる。斯かる酸化物としては、例えば、Li0.29La0.57TiO3、Li0.35La0.55TiO3等が挙げられる。
NASICON型酸化物としては、例えば、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3等が挙げられる。
LISICON型酸化物としては、例えば、Li4SiO4-Li3PO4、Li3BO3-Li3PO4等が挙げられる。
ガーネット型酸化物としては、例えば、Li7La3Zr2O12等のLi-La-Zr-O系酸化物等が挙げられる。
【0068】
窒化物固体電解質としては、例えば、Li3N等が挙げられる。
【0069】
ポリマー固体電解質としては、イオン伝導性ポリマーが挙げられる。斯かるイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリアミン系、又は、ポリスルフィド系の各ポリマーの化学修飾体及び架橋体などが挙げられる。
【0070】
電極体2の正極活物質層42、負極活物質層52、固体電解質層60に含まれる固体電解質のうち硫化物固体電解質が占める割合は、95質量%以上であってもよい。
【0071】
なお、固体電解質層60は、溶媒と固体電解質の粒子とを含む固体電解質層用ペーストの塗布物(活物質は含まない)が乾燥処理されたものであってもよい。
【0072】
<全固体型蓄電素子の製造方法>
本実施形態の蓄電素子の製造方法は、例えば、電極体を作製すること(工程)と、電極体を容器3に収容して蓄電素子を組み立てること(工程)と、を備える。
【0073】
電極体を作製すること(工程)は、例えば、正極合剤ペースト、負極合剤ペースト、及び固体電解質層用ペーストをそれぞれ調製することと、正極合剤ペーストの塗布物から正極活物質層を作製することと、負極合剤ペーストの塗布物から負極活物質層を作製することと、固体電解質層用ペーストの塗布物から固体電解質層を作製することと、を備える。
【0074】
(各ペーストの調製)
正極合剤ペーストは、正極活物質の粒子と固体電解質の粒子と溶媒とを少なくとも含み、負極合剤ペーストは、負極活物質の粒子と溶媒とを少なくとも含み、固体電解質層用ペーストは、固体電解質の粒子と溶媒とを少なくとも含む。
【0075】
上記の溶媒は、特に限定されず、例えば、有機溶媒であってもよく、水であってもよい。上記の溶媒としては、例えば、採用する固体電解質を劣化させない溶媒を適宜選択できる。固体電解質は、水によって劣化し得ることから、上記の溶媒は、有機溶媒であってもよい。
【0076】
(正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層の作製)
前記正極活物質層を作製すること(工程)において、正極合剤ペーストの塗布物から溶媒を揮発させる乾燥処理を前記塗布物に施し、さらにプレス処理を施す。
前記負極活物質層を作製すること(工程)、及び、固体電解質層を作製すること(工程)も、同様にして実施できる。
【0077】
・正極活物質層の作製
正極基材41として、例えば上述したような金属箔又は合金箔を用意する。
図4に示すように、下記の操作を実施して正極活物質層42を作製できる。
(I)正極基材41の金属箔又は合金箔に、正極合剤ペースト(PTと表示)を塗布する。これにより、正極基材41に塗布物が重ねられる。塗布方法(塗工方法)としては、従来の一般的な方法を採用できる。
(II)塗布された正極合剤ペーストに含まれる溶媒を揮発させる乾燥処理を塗布物に施す。例えば、加熱処理によって塗布物から溶媒を揮発させて除去する。加熱処理時の設定温度は、例えば40℃以上150℃以下であってもよい。加熱処理は、減圧下で実施してもよい。
(III)溶媒が揮発した後の塗布物(正極活物質層42)にプレス処理を施す(破線矢印で表示)。必要に応じて、加熱しつつプレス処理を実施する。
(IV)プレス処理された正極活物質層42が形成される。
【0078】
・固体電解質層の作製
図5に示すように、下記の操作を実施して固体電解質層60を作製できる。
(i)正極活物質層42に、固体電解質層用ペースト(PT’と表示)を塗布する。これにより、正極活物質層42に塗布物が重ねられる。塗布方法(塗工方法)としては、従来の一般的な方法を採用できる。
(ii)塗布された固体電解質層用ペーストに含まれる溶媒を揮発させる乾燥処理を塗布物に施す。例えば、加熱処理によって塗布物から溶媒を揮発させて除去する。加熱処理時の設定温度は、例えば正極活物質層42の作製時に採用される温度範囲であってもよい。
(iii)溶媒が揮発した後の塗布物(固体電解質層60)にプレス処理を施す(破線矢印で表示)。必要に応じて、加熱しつつプレス処理を実施する。
(iv)プレス処理された固体電解質層60が形成される。
【0079】
・負極活物質層の作製
図示しないが、上述した正極活物質層の作製、又は、固体電解質層の作製と同様の方法によって、負極活物質層52を作製できる。
【0080】
なお、上記では、正極合剤ペースト、負極合剤ペースト、及び固体電解質層用ペーストを用いて、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層をそれぞれ作製する例を説明したが、例えば、溶媒を含まない正極合剤から正極活物質層を作製してもよく、溶媒を含まない負極合剤から負極活物質層を作製してもよく、溶媒を含まない固体電解質の粉体から固体電解質層を作製してもよい。
【0081】
電極体を作製する工程では、上記のごとき正極活物質層42、固体電解質層60、及び負極活物質層52の積層体を作製した後に、さらに負極基材51を重ね、厚さ方向の両側からプレス処理を施すことによって、電極体2を作製できる。
なお、電極体を作製する工程では、正極基材41に正極活物質層42を重ねた正極40を作製することと、負極基材51に負極活物質層52を重ねた負極50と固体電解質層60との積層体を作製することとをそれぞれ実施した後、この積層体と正極40とを重ね合わせ、さらに、厚さ方向の両側からプレス処理を施すことによって、電極体2を作製してもよい。また、正極基材41に正極活物質層42を重ねた正極40を作製することと、負極基材51に負極活物質層52を重ねた負極50を作製することと、固体電解質層60を作製することとをそれぞれ実施した後、正極40と固体電解質層60と負極50とを重ね合わせ、さらに、厚さ方向の両側からプレス処理を施すことによって、電極体2を作製してもよい。
【0082】
(蓄電素子を組み立てる工程)
斯かる工程では、作製した電極体2を容器3に収容し、電極体2の正極40及び負極50と、蓄電素子1の外部端子とが電気的にそれぞれ接続されるように蓄電素子1を組み立てる。蓄電素子を組み立てる方法としては、一般的な方法を採用できる。
【0083】
以上のようにして、本実施形態の蓄電素子1を製造することができる。
【0084】
<蓄電装置の構成>
本実施形態の蓄電素子1は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の蓄電素子1を集合して構成した蓄電装置100(バッテリーモジュール)として搭載することができる。この場合、蓄電装置100に含まれる少なくとも一つの蓄電素子1に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
図6に、電気的に接続された二以上の蓄電素子1が集合した蓄電ユニット10をさらに集合した蓄電装置100の一例を示す。蓄電装置100は、二以上の蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット10を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット10又は蓄電装置100は、一以上の蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0085】
<その他の実施形態>
尚、本発明の蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0086】
上記実施形態では、蓄電素子1が充放電可能な全固体型二次電池(例えば全固体型リチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。
【0087】
上記実施形態では、正極基材41の片面に正極活物質層42が重ねられた正極40、及び、負極基材51の片面に負極活物質層52が重ねられた負極50について説明したが、正極では、正極基材41の両面に正極活物質層がそれぞれ重ねられてもよく、また、負極では、負極基材の両面に負極活物質層がそれぞれ重ねられてもよい。
【0088】
上記実施形態の蓄電素子1では、正極40が良好なイオン伝導度を有する。従って、斯かる正極40を備える蓄電素子1は、比較的大きい充電容量を有し得る。
詳しくは、粒子状の正極活物質中に、粒径が所定値よりも大きい大粒子と、粒径が特定値よりも小さい小粒子とが混在し、小粒子の占める割合が設定値以下であるため、大粒子同士が隣り合う充填構造の空隙に小粒子が配置されることで、正極活物質全体における充填密度が高まっている。また、正極活物質の大粒子と小粒子との間に固体電解質が存在する。正極活物質の充填密度が高まっている分、正極活物質層内において、固体電解質と正極活物質とで形成されるイオン伝導経路の幅がより均一に近づき、また、それらイオン伝導経路の数も多くなる。従って、正極40が良好なイオン伝導度を有することとなる。これに伴い、蓄電素子1の充電特性が向上し得る。
【0089】
上記実施形態の蓄電素子1は、全固体型蓄電素子であることが好ましい。すなわち、上記実施形態の蓄電素子1は、正極活物質層42、負極活物質層52、及び固体電解質層60に、電解液を含まないことが好ましい。
【0090】
なお、上記実施形態では、蓄電素子のうち全固体型蓄電素子について詳しく説明したが、本発明の蓄電素子は、全固体型蓄電素子に限定されない。本発明の蓄電素子を構成する正極活物質層、負極活物質層、及び固体電解質層は、電解液を実質的に含まないことが好ましいが、電解液を含んでいてもよい。電解液としては、公知の電解液の中から適宜選択できる。本発明の蓄電素子がリチウムイオン二次電池である場合、例えば、電解液としては、環状カーボネート及び鎖状カーボネートを混合した溶媒にLiPF6を電解質塩として溶解させたものを用いることができる。
【実施例0091】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0092】
以下のようにして、各正極活物質層を作製し、作製した各正極活物質層を備える正極活物質層評価用セルを製造した。そして、各正極のイオン伝導度について評価した。
【0093】
(実施例1-1)
<正極合剤の調製>
下記の第1正極活物質と第2正極活物質とを体積割合が98%(第1):2%(第2)となるように混合した。
・第1正極活物質(LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、平均粒径:5.0μm)市販製品
・第2正極活物質(LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、平均粒径:0.5μm)市販製品
上記の混合によって調製された正極活物質とアルジロダイト型硫化物固体電解質(平均粒径:0.7μm)とを、体積割合が68%(活物質):32%(電解質)となるよう混合し、正極合剤を調製した。
【0094】
<正極活物質層評価用セルの作製>
以下のようにして、正極活物質層評価用セルを作製した。詳しくは、上記のごとく調製した正極合剤(100mg)を、ステンレス鋼(SUS)製の圧粉成型セル内に内包した。次に、6tf/cm
2の圧力で圧粉化処理を実施し、正極活物質層を形成すると共に、正極活物質層評価用セルを作製した(
図8Aを参照)。電極面積は1cm
2であった。
【0095】
(実施例1-2)
第1正極活物質と第2正極活物質とを体積割合が96%(第1):4%(第2)となるように混合した点以外は、実施例1-1と同様にして正極活物質層評価用セルを作製した。
【0096】
(比較例1-1)
第2正極活物質をすべて第1正極活物質に置き換え、正極活物質として第1正極活物質のみを含む正極合剤を調製した点以外は、実施例1-1と同様にして正極活物質層評価用セルを作製した。
【0097】
(実施例1-3)
第1正極活物質と第2正極活物質とを体積割合が88%(第1):12%(第2)となるように混合した点以外は、実施例1-1と同様にして正極活物質層評価用セルを作製した。
【0098】
(実施例1-4)
平均粒径0.7μmのアルジロダイト型硫化物固体電解質に代えて、平均粒径2.3μmのアルジロダイト型硫化物固体電解質を用いた点以外は、実施例1-1と同様にして正極活物質層評価用セルを作製した。
【0099】
(比較例1-2)
第1正極活物質と第2正極活物質とを体積割合が80%(第1):20%(第2)となるように混合した点以外は、実施例1-1と同様にして正極活物質層評価用セルを作製した。
【0100】
<性能評価>
(正極活物質層のイオン伝導度)
上記実施例および比較例のそれぞれの正極活物質層評価用セルに対して交流インピーダンス測定を実施し、測定結果から正極活物質層のイオン伝導度を算出した。測定条件の詳細は、以下の通りである。
・ 周波数: 0.01Hzから7MHz
・ 振幅: 10.0mV
・ 測定温度:25℃
各正極活物質層を用いた正極活物質層評価用セルの交流インピーダンス測定によって得られるCole-Coleプロットの一例を
図9に示す。
図9から得られたR1からR3の各値を下記の各式に代入し、計算によって実施例及び比較例の正極活物質層のイオン伝導度(σ
ion)を求めた。
イオン伝導度の算出結果を表1に示す。また、実施例(1-1から1-3)及び比較例(1-1、1-2)の各正極活物質層について、算出されたイオン伝導度をグラフ化したものを
図10に示す。
【数1】
イオン伝導度σ
ion = L / (r
ion ×A)
(r
ion:正極活物質層中の(固体電解質の)有効イオン抵抗、
r
e:正極活物質層中の(正極活物質の)有効電子抵抗、
r
e,bulk:正極活物質層のバルク電子抵抗、
L:正極活物質層の厚さ、
A:正極活物質層の断面積)
【0101】
【0102】
下記のような操作を行って、上記のごとく作製した各正極活物質層評価用セルから正極活物質を取り出し、粒度分布測定を実施した。
【0103】
<正極活物質の粒度分布>
(測定前の前処理)
上記のごとく作製したそれぞれの正極活物質評価用セルから正極活物質層を採取し、水で十分に水洗し、水中に分散して超音波洗浄処理することにより、固体電解質を除去した。濾過処理し、さらに濾物を水洗し、室温にて一昼夜の乾燥処理を行った。その後、小型電気炉を用いて空気流通雰囲気下、600℃で4時間加熱処理することにより、有機物(例えば不純物など)を除去した。このようにして、正極活物質の粒子を採取し、これを正極活物質の粒度分布測定用試料とした。
【0104】
(粒度分布測定)
バッチ式レーザー回折散乱粒度分布測定装置(HORIBA製、型番:LA-960)を測定装置として用いた。水を分散媒として、上記のごとく採取した測定用試料を分散させた分散液を調製した。バッチ式ガラスセル内で分散液をスターラー撹拌しながら測定を行った。上記測定装置に付属の標準ソフトにて標準設定されている条件(1オーダーあたりのプロット数;17)を採用して、粒度分布図を出力した。実施例1-1の正極活物質の粒度分布図を
図7に一例として示す。
【0105】
得られた実施例及び比較例の正極活物質の粒度分布図から、粒径値が0.2μm以上10.0μm以下の範囲内において、最も高い第1ピークのピークトップP1に対応する粒径値L1と、2番目に高い第2ピークのピークトップP2に対応する粒径値L2とを求めた。また、正極活物質のうち、0.05μm以上2.0μm以下の粒子径を有する正極活物質の合計体積(Vb)が、0.05μm以上20.0μm以下の粒子径を有する正極活物質の合計体積(Va)に占める割合(Vb/Va)を計算した。結果を表1に示す。なお、上記の全ての実施例及び比較例において、正極活物質のうち、0.05μm以上20.0μm以下の粒子径を有する正極活物質の体積の合計(Va)が、正極活物質の総体積(Vt)に占める割合(Va/Vt)は、95体積%以上であった。以下の実施例及び比較例においても同様であった。
【0106】
<固体電解質の平均粒径>
(測定前の前処理)
露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中にて、上記のごとく作製したそれぞれの正極活物質評価用セルから正極活物質層を採取した。テトラリンとアニソールとを混合した混合溶媒によって上記正極活物質層を十分に洗浄した。洗浄後の固形物を同雰囲気中にて、室温にて一昼夜放置した。その後、同雰囲気中に設置した小型電気炉を用いて、露点-60℃以下のアルゴンガス流通下において、600℃で4時間、上記固形物を加熱処理することにより、有機物(例えば不純物など)を除去した。次いで、上記と同じ組成の混合溶媒中に上記固形物を分散させ、比重差を用いた沈殿分離法により、固体電解質粒子を分取し、これを固体電解質の粒度分布測定用試料とした。
【0107】
(粒度分布測定に基づく平均粒径)
露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中に設置したバッチ式レーザー回折散乱粒度分布測定装置(HORIBA製、型番:LA-960)を測定装置として用いた。上記と同じ組成の混合溶媒を分散媒として、上記のごとく採取した測定用試料を分散させた分散液を調製した。バッチ式ガラスセル内で分散液をスターラーで撹拌しながら測定を行った。上記測定装置に付属の標準ソフトに標準設定されている条件(1オーダーあたりのプロット数;17)を採用して、粒度分布図を出力した。JIS-Z-8825(2013年)に準拠した上記の方法によって測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠して計算される体積基準積算分布50%となる値(メジアン径)を平均粒径として採用した。結果を表1に併せて示す。
【0108】
続いて、以下のようにして各正極を作製し、作製した各正極を備える蓄電素子(全固体型二次電池)を製造した。そして、各蓄電素子(全固体型二次電池)の充電容量について評価した。
【0109】
(実施例2-1)
<正極合剤の調製>
下記の第1正極活物質と第2正極活物質とを体積割合が98%(第1):2%(第2)となるように混合した。
・第1正極活物質(LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、平均粒径:5.0μm)市販製品
・第2正極活物質(LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、平均粒径:0.5μm)市販製品
上記の混合によって調製された正極活物質とアルジロダイト型硫化物固体電解質(平均粒径:0.7μm)とを、体積割合が68%(活物質):32%(電解質)となるよう混合し、正極合剤を調製した。
【0110】
<正極及び蓄電素子(全固体型二次電池)の製造>
充電容量を測定するために、以下のようにして、蓄電素子(全固体型二次電池)を製造した。
詳しくは、まず、アルジロダイト型硫化物固体電解質の粉末(100mg)を、SUS製の圧粉成型セル内に内包した。次に、1tf/cm
2の圧力で圧粉化処理を実施することで、固体電解質層(セパレータ)を形成した。次に、上記のごとく調製した正極合剤(20mg)を圧粉成型セル内の固体電解質層(セパレータ)の上に乗せた。続けて、上記正極合剤及び固体電解質層(セパレータ)に対して6tf/cm
2の圧力で圧粉化処理及び接合処理を実施し、正極活物質層を形成した。そして、In-Li合金製の対極を、固体電解質層(セパレータ)の正極活物質層が接合されていない側の上に乗せた。続けて、上記正極合剤、固体電解質層(セパレータ)及び対極に対して1tf/cm
2の圧力で接合処理を実施し、蓄電素子(全固体型二次電池)を製造した(
図8Bを参照)。電極面積は1cm
2であった。
【0111】
(実施例2-2)
第1正極活物質と第2正極活物質とを体積割合が96%(第1):4%(第2)となるように混合した点以外は、実施例2-1と同様にして蓄電素子(全固体型二次電池)を製造した。
【0112】
(実施例2-3)
第1正極活物質と第2正極活物質とを体積割合が88%(第1):12%(第2)となるように混合した点以外は、実施例2-1と同様にして蓄電素子(全固体型二次電池)を製造した。
【0113】
(比較例2-1)
第1正極活物質と第2正極活物質とを体積割合が80%(第1):20%(第2)となるように混合した点以外は、実施例2-1と同様にして蓄電素子(全固体型二次電池)を製造した。
【0114】
(比較例2-2)
平均粒径が0.5μmの第2正極活物質に代えて、平均粒径が0.15μmの第2正極活物質を用いた点以外は、実施例2-1と同様にして蓄電素子(全固体型二次電池)を製造した。
【0115】
<性能評価>
(充電容量)
下記の充放電試験によって各蓄電素子(全固体型二次電池)の充電容量を測定した。充放電試験の試験方法の詳細は、以下の通りである。
・充電条件:0.1、0.2、0.5、1、2 C定電流充電
(1C:2.83 mAh/cm2)
・充電カットオフ電圧:4.4 V vs. Li+/Li
・放電条件:0.1C定電流定電圧放電
・放電カットオフ電圧:3.0 V vs. Li+/Li
・測定温度:25℃
0.1C充電容量および2C充電容量の測定値を正極活物質の質量で除し、0.1C充電容量および2C充電容量とした。結果を表2に示す。
【0116】
【0117】
さらに、以下のようにして各正極を作製し、作製した各正極を備える蓄電素子(全固体型二次電池)を製造した。そして、各蓄電素子(全固体型二次電池)の充電容量について評価した。
【0118】
(実施例3-1)
<正極合剤スラリーの調製>
下記の第1正極活物質と第2正極活物質とを体積割合が98%(第1):2%(第2)となるように混合した。
・第1正極活物質(LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、平均粒径:5.0μm)市販製品
・第2正極活物質(LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、平均粒径:0.5μm)市販製品
上記の混合によって調製された正極活物質とアルジロダイト型硫化物固体電解質(平均粒径:0.7μm)と導電剤(気相成長炭素繊維)とゴム系バインダーとを、体積割合が65%(活物質):30%(電解質):2%(導電剤):3%(バインダー)となるよう混合し、さらに溶媒としてテトラリン/アニソール混合溶媒を混合して、正極合剤スラリーを調製した。
【0119】
<正極及び蓄電素子(全固体二次電池)の製造>
上記のごとく調製された正極合剤スラリーをAl集電箔上に、卓上アプリケーターを用いて塗工し、さらに乾燥処理を行った。このようにしてシート型の正極を作製した。
作製された正極をプレス処理した後、正極を1cm
2の面積に打ち抜いた。充電容量を測定するために、以下のようにして、蓄電素子(全固体型二次電池)を製造した。
詳しくは、まず、アルジロダイト型硫化物固体電解質の粉末(100mg)を、SUS製の圧粉成型セル内に内包した。次に、1tf/cm
2の圧力で圧粉化処理を実施することで、固体電解質層(セパレータ)を形成した。次に、上記のごとく作製したシート型の正極を圧粉成型セル内の固体電解質層(セパレータ)の上に載せた。続いて、上記正極及び固体電解質層(セパレータ)に対して6tf/cm
2の圧力で接合処理を実施した。そして、In-Li合金製の対極を、固体電解質層(セパレータ)の正極が接合されていない側の上に乗せた。続けて、上記正極、固体電解質層(セパレータ)及び対極に対して1tf/cm
2の圧力で接合処理を実施し、蓄電素子(全固体型二次電池)を製造した(
図8Cを参照)。電極面積は1cm
2であった。
【0120】
(比較例3-1)
第2正極活物質をすべて第1正極活物質に置き換え、正極活物質として第1正極活物質のみを含む正極合剤スラリーを調製した点以外は、実施例3-1と同様にして蓄電素子(全固体型二次電池)を製造した。
【0121】
<性能評価>
(充電容量)
下記の充放電試験によって各蓄電素子(全固体型二次電池)の充電容量を測定した。充放電試験の試験方法の詳細は、以下の通りである。
・充電条件:0.1、0.2、0.5、1、2、3 C定電流充電
(1C:2.83 mAh/cm2)
・充電カットオフ電圧:4.4 V vs. Li+/Li
・放電条件:0.1C定電流定電圧放電
・放電カットオフ電圧:3.0 V vs. Li+/Li
・測定温度:25℃
0.1C充電容量、2C充電容量および3C充電容量の測定値を正極活物質の質量で除し、0.1C充電容量および2C充電容量とした。結果を表3に示す。
【0122】
【0123】
表1から把握されるように、実施例1-1及び1-2の正極では、正極活物質層のイオン伝導度が良好であった。一方、比較例1-1乃至1-3の正極では、正極活物質層のイオン伝導度が良好でなかった。
また、表2から把握されるように、実施例2-1及び2-2の蓄電素子では、比較例2-2乃至2-4の蓄電素子と比べて、充電容量が大きかった。表3から把握されるように、実施例3-1の蓄電素子では、比較例3-1の蓄電素子と比べて、充電容量が大きかった。