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特開2024-178041車両の姿勢制御方法及び車両の姿勢制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178041
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】車両の姿勢制御方法及び車両の姿勢制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20241217BHJP
【FI】
B60W30/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096534
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】右手 潤二
(72)【発明者】
【氏名】劉 海博
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA18
3D241CA09
3D241CC03
3D241CC08
3D241CC17
3D241DA35Z
3D241DA36Z
3D241DB12Z
3D241DB13Z
3D241DB14Z
3D241DB32Z
3D241DB42B
(57)【要約】
【課題】一の車輪に空気圧異常が発生した場合に車両の姿勢を安定させるための車両の姿勢制御方法及びプログラムを提供すること。
【解決手段】本開示の車両の姿勢制御方法は、車体の前方及び後方の左右位置にそれぞれ配設された複数の車輪と、前記複数の車輪のそれぞれを回転駆動する駆動装置と、前記車体と前記複数の車輪との間を所定のアンチスクワット角が形成されるように連結する懸架装置と、を含む車両の姿勢制御方法であって、前記複数の車輪の空気圧異常を検出する工程と、前記複数の車輪のうちの第1の車輪に空気圧異常が検出された場合に、前記車体の前記第1の車輪が配設された部分を、前記懸架装置により作用するアンチスクワット力を利用して前記複数の車輪のうち前記第1の車輪を除く他の車輪に対して相対的に上昇させるために、前記他の車輪を回転駆動する前記駆動装置に駆動力を分配する工程と、を含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体(2)の前方及び後方の左右位置にそれぞれ配設された複数の車輪(11、12、13、14)と、前記複数の車輪のそれぞれを回転駆動する駆動装置(21、22、23、24)と、前記車体と前記複数の車輪との間を所定のアンチスクワット角(θf、θr)が形成されるように連結する懸架装置(41、42、43、44)と、を備える車両(1)の姿勢制御方法であって、
前記複数の車輪の空気圧異常を検出する工程(S12)と、
前記複数の車輪のうちの第1の車輪に空気圧異常が検出された場合に、前記車体の前記第1の車輪が配設された部分を、前記懸架装置により作用するアンチスクワット力を利用して前記複数の車輪のうち前記第1の車輪を除く他の車輪に対して相対的に上昇させるために、前記他の車輪を回転駆動する前記駆動装置に駆動力を分配する工程(S15)と、を備える、
車両の姿勢制御方法。
【請求項2】
前記駆動装置に駆動力を分配する工程は、
前記第1の車輪に空気圧異常が検出された場合に、前記第1の車輪の変形量を検出し、車体の傾き量を推定する工程(S13)と、
前記推定された傾き量に基づいて前記他の車輪を回転駆動する前記駆動装置への駆動力の分配量を調整する工程(S14)と、を備える、
請求項1に記載の車両の姿勢制御方法。
【請求項3】
前記駆動装置に駆動力を分配する工程は、
前記第1の車輪の空気圧異常によって前記車体に生じるヨーモーメントを検出する工程(S23)と、
検出された前記ヨーモーメントを補償するために必要なヨーレートを算出する工程(S24)と、
前記車体の前記第1の車輪側に位置する部分を前記他の車輪に対して相対的に上昇させるために、及び、前記必要なヨーレートを得るために、前記他の車輪を回転駆動する前記駆動装置に駆動力を分配する工程(S25)と、を備える、
請求項1又は請求項2に記載の車両の姿勢制御方法。
【請求項4】
前記車体の前記第1の車輪側に位置する部分を前記他の車輪に対して相対的に上昇させるために、及び、前記必要なヨーレートを得るために、制動装置(4)及び操舵装置(5)の少なくとも一方を動作させる工程(S35)をさらに備える、
請求項3に記載の車両の姿勢制御方法。
【請求項5】
前記制動装置は前記他の車輪を制動し、前記操舵装置は前記他の車輪を転舵する、
請求項4に記載の車両の姿勢制御方法。
【請求項6】
車体の前方及び後方の左右位置にそれぞれ配設された複数の車輪と、前記複数の車輪のそれぞれを回転駆動する駆動装置と、前記車体と前記複数の車輪との間を所定のアンチスクワット角が形成されるように連結する懸架装置と、を備える車両が備えるコンピュータの少なくとも1つのプロセッサ(51)に、
前記複数の車輪の空気圧異常を検出する処理と、
前記複数の車輪のうちの第1の車輪に空気圧異常が検出された場合に、前記車体の前記第1の車輪側に位置する部分を、前記懸架装置により作用するアンチスクワット力を利用して前記複数の車輪のうち前記第1の車輪を除く他の車輪に対して相対的に上昇させるために、前記他の車輪を回転駆動する前記駆動装置に駆動力を分配する処理と、を実行させる、
車両の姿勢制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の姿勢制御方法及び車両の姿勢制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両走行中に車輪のパンクが発生すると、正常な走行軌道を維持することが困難となり事故を引き起こす可能性が高まる。そのため、車両走行中に車輪がパンクした場合にも安全な走行を継続するための技術が開発されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、車輪のパンクによって生じるヨーモーメントを迅速に補償するために、追加すべきヨーモーメントを決定し各車輪を制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2021/0206383号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パンクの発生等により車輪の1つの空気圧が大きく低下すると、当該車輪の接地面の径が他の車輪に比べて小さくなる。このため、車両には上述したヨーモーメントが発生するだけでなく、パンクした車輪が潰れることで車体が部分的に沈み込み、車両の主にロール方向に傾きが発生する。このようなロール方向の傾きは、乗員の転倒や荷崩れの発生の要因となる。特に、近年実用化が進んでいる自動運転車両等では、乗員が前方を向いているとは限らないため、上述した乗員の転倒が生じる可能性が高い。
【0006】
上記特許文献1のものは、パンクによって生じるヨーモーメントを補償(あるいは相殺)することは記載されているものの、パンクによって生じる車両の傾きについては特に考慮されていない。したがって、車両のパンク発生時における姿勢制御には改善の余地がある。
【0007】
本開示は、上述した課題を考慮したものであり、一の車輪に空気圧異常が発生した場合に車両の姿勢を安定させるための車両の姿勢制御方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本開示の第1の態様に係る車両の姿勢制御方法は、車体(2)の前方及び後方の左右位置にそれぞれ配設された複数の車輪(11、12、13、14)と、前記複数の車輪のそれぞれを回転駆動する駆動装置(21、22、23、24)と、前記車体と前記複数の車輪との間を所定のアンチスクワット角(θf、θr)が形成されるように連結する懸架装置(41、42、43、44)と、を備える車両(1)の姿勢制御方法であって、前記複数の車輪の空気圧異常を検出する工程(S12)と、前記複数の車輪のうちの第1の車輪に空気圧異常が検出された場合に、前記車体の前記第1の車輪が配設された部分を、前記懸架装置により作用するアンチスクワット力を利用して前記複数の車輪のうち前記第1の車輪を除く他の車輪に対して相対的に上昇させるために、前記他の車輪を回転駆動する前記駆動装置に駆動力を分配する工程(S15)と、を含む。
【0009】
上述の車両の姿勢制御方法では、一の車輪に空気圧異常が発生した場合に、アンチスクワット力を利用して車体の傾きを低減あるいは解消するため、他の車輪の駆動力を分配するだけで車体の傾きの低減あるいは解消を実現することができる。そして、車体の傾きが低減あるいは解消されるため、車両内の乗員の転倒や荷崩れの発生を抑制することができる。
【0010】
本開示の第2の態様に係る車両の姿勢制御方法は、上記第1の態様に係る車両の姿勢制御方法において、前記駆動装置に駆動力を分配する工程は、前記第1の車輪に空気圧異常が検出された場合に、前記第1の車輪の変形量を検出し、車体の傾き量を推定する工程(S13)と、前記推定された傾き量に基づいて前記他の車輪を回転駆動する前記駆動装置への駆動力の分配量を調整する工程(S14)と、を含む。
【0011】
本開示の第3の態様に係る車両の姿勢制御方法は、上記第1の態様に係る車両の姿勢制御方法において、前記駆動装置に駆動力を分配する工程は、前記第1の車輪の空気圧異常によって前記車体に生じるヨーモーメントを検出する工程(S23)と、検出された前記ヨーモーメントを補償するために必要なヨーレートを算出する工程(S24)と、前記車体の前記第1の車輪側に位置する部分を前記他の車輪に対して相対的に上昇させるために、及び、前記必要なヨーレートを得るために、前記他の車輪を回転駆動する前記駆動装置に駆動力を分配する工程(S25)と、を含む。
【0012】
本開示の第4の態様に係る車両の姿勢制御方法は、上記第3の態様に係る車両の姿勢制御方法において、前記車体の前記第1の車輪側に位置する部分を前記他の車輪に対して相対的に上昇させるために、及び、前記必要なヨーレートを得るために、制動装置(4)及び操舵装置(5)の少なくとも一方を動作させる工程(S35)をさらに含む。
【0013】
本開示の第5の態様に係る車両の姿勢制御方法は、上記第4の態様に係る車両の姿勢制御方法において、前記制動装置は前記他の車輪を制動し、前記操舵装置は前記他の車輪を転舵する。
【0014】
本開示の第6の態様に係る車両の姿勢制御プログラムは、車体の前方及び後方の左右位置にそれぞれ配設された複数の車輪と、前記複数の車輪のそれぞれを回転駆動する駆動装置と、前記車体と前記複数の車輪との間を所定のアンチスクワット角が形成されるように連結する懸架装置と、を備える車両が備えるコンピュータの少なくとも1つのプロセッサ(51)に、前記複数の車輪の空気圧異常を検出する処理と、前記複数の車輪のうちの第1の車輪に空気圧異常が検出された場合に、前記車体の前記第1の車輪側に位置する部分を、前記懸架装置により作用するアンチスクワット力を利用して前記複数の車輪のうち前記第1の車輪を除く他の車輪に対して相対的に上昇させるために、前記他の車輪を回転駆動する前記駆動装置に駆動力を分配する処理と、を実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の第1の実施の形態に係る車両の姿勢制御方法を実施可能な車両の一例を模式的に示した模式図である。
図2図1に示す車両の制御系のハードウェア構成の一例を概略的に示した概略構成図である。
図3図1に示す車両が通常走行している状態を複数の視点から見た説明図である。
図4】本開示の第1の実施の形態に係る車両の姿勢制御方法の一例を示したフローチャートである。
図5図4に示す車両の姿勢制御方法を実行した場合の車両各部の変化の一例を示したグラフである。
図6図3に示す車両の左前輪がパンクした状態を複数の視点から見た説明図である。
図7図6に示す車両に図4に示した車両の姿勢制御方法を実施した後の状態を複数の視点から見た説明図である。
図8】本開示の第2の実施の形態に係る車両の姿勢制御方法の一例を示したフローチャートである。
図9図8に示す車両の姿勢制御方法を実行した場合の車両各部の変化の一例を示したグラフである。
図10図6に示す車両に図8に示した車両の姿勢制御方法を実施した後の状態を複数の視点から見た説明図である。
図11図1に示す車両の制御系のハードウェア構成の他の一例を概略的に示した概略構成図である。
図12】本開示の第3の実施の形態に係る車両の姿勢制御方法の一例を示したフローチャートである。
図13図12に示す車両の姿勢制御方法を実行した場合の車両各部の変化の一例を示したグラフである。
図14図6に示す車両に図12に示した車両の姿勢制御方法を実施した後の状態を複数の視点から見た説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本開示を実施するための実施形態について説明する。なお、以下では本開示の目的を達成するための説明に必要な範囲を模式的に示し、本開示の該当部分の説明に必要な範囲を主に説明することとし、説明を省略する箇所については公知技術によるものとする。
【0017】
<第1の実施の形態>
本開示の第1の実施の形態に係る車両の姿勢制御方法は、図1に示すような自動車等の車両1に採用されて、一の車輪の空気圧異常、より詳しくはパンクが発生した場合の車両の姿勢を制御するものであってよい。
【0018】
車両1は、図1に示すように、車体2と、車体2の前方及び後方の左右位置にそれぞれ配設された複数(本実施の形態では4つ)の車輪11、12、13、14と、複数の車輪11、12、13、14のそれぞれを回転駆動する駆動装置の一例としてのモータ21、22、23、24と、を含む。このうち、車体2は、運転者等の乗員が着座可能なシートを含む車室等を含むものであってよい。なお、図1では、車両1の足回りの構造が分かりやすいように、車体2は外縁のみが図示されている。このような図示は、後述する図3図6図7図10及び図14の上方に示した図においても同様である。また、図1には、車両1の進行方向を矢印D1で示しており、矢印D1が指す方向を前進方向、矢印D1が指す方向とは反対の方向を後進方向、矢印D1と交差する方向を左右方向と呼ぶことがある。
【0019】
車輪11、12、13、14は、車体2の底部の四隅に配設された、左前輪11、右前輪12、左後輪13及び右後輪14の2つの車輪を含んでいてよい。これらの車輪11、12、13、14には、ノーマルタイヤと呼ばれるような一般的な自動車に取り付けられるタイヤに加えて、ランフラットタイヤのようなパンクした際の変形量が相対的に小さなものも含まれ得る。
【0020】
モータ21、22、23、24は、例えば各車輪11、12、13、14の内側に配設され、車輪11、12、13、14のそれぞれを回転駆動するインホイールモータであってよい。したがって、これらのモータ21、22、23、24は、それぞれが回転駆動する各車輪11、12、13、14を、他の車輪とは独立して回転させることができるものであってよい。
【0021】
また、車両1には、主にモータ21、22、23、24を含む各種構成要素を制御するための電子制御装置の一例として、少なくとも1つのECU(Electronic Control Unit)3を含んでいてよい。
【0022】
ECU3は、少なくともモータ21、22、23、24に駆動力を分配することができるものであってよい。モータ21、22、23、24の駆動力は、例えばトルクや駆動電流を調整することで制御することができる。このECU3は、例えば周知のコンピュータで構成することができる。周知のコンピュータで構成されるECU3は、図2に示すように、少なくとも1つのプロセッサ51と、メモリの一例としてのROM(Read Only Memory)52及びRAM(Random Access Memory)53と、ストレージ54と、入出力インタフェース55とを少なくとも含んでいてよい。また、これらの構成は、内部バス56を介して相互に通信可能に接続されていてよい。
【0023】
少なくとも1つのプロセッサ51は、例えばCPU(Central Processing Unit)で構成することができ、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりすることができるものであってよい。具体的にいえば、このプロセッサ51は、ROM52又はストレージ54に格納されている種々のプログラムを読み出し、RAM53を作業領域として当該プログラムを実行することができるものであってよい。プロセッサ51は、上述のプログラムに従ってモータ21、22、23、24の制御や各種の演算処理を行うことができるものであってよい。
【0024】
ROM52は、各種プログラム及び各種データを格納することができるものであってよい。また、RAM53は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶することができるものであってよい。
【0025】
ストレージ54は、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリといった記録媒体で構成することができる。このストレージ54には、オペレーティングシステムを含む各種プログラムや、モータ21、22、23、24を動作させるために必要な各種データ等が少なくとも一時的に格納されていてよい。
【0026】
入出力インタフェース55は、車両1の各種構成要素に接続されてデータの送受信を行うものであってよい。本実施の形態の入出力インタフェース55は、モータ21、22、23、24と、後述する空気圧センサ31、32、33、34に接続されていてよい。なお、入出力インタフェース55は、上述の構成要素以外にも接続されていてよく、例えば車輪11、12、13、14の空気圧異常を報知するインストルメントパネル内の表示手段や、外部の記録媒体が接続可能なコネクタ、DVDドライブに代表される各種ドライブを含んでいてもよい。
【0027】
また、車両1は、車輪11、12、13、14の空気圧異常、例えばパンクを検出するために、空気圧異常検出手段を有していてよい。具体的には、車両1はタイヤ空気圧監視システム(TPMS)を有していてよい。TPMSは、各車輪11、12、13、14のそれぞれに設けられた空気圧異常が検出可能な空気圧センサ31、32、33、34を含み得る。この空気圧センサ31、32、33、34には、エアバルブ一体型のものや、ホイール内部に固定されたもの等を採用することができる。空気圧センサ31、32、33、34は、各車輪11、12、13、14の空気圧が予め設定された閾値TH(図5等参照)を下回った際に、当該車輪に空気圧異常が発生したとして、有線あるいは無線通信を介してECU3にその旨を通知することができる。
【0028】
本実施の形態では、車輪11、12、13、14の空気圧異常を空気圧センサ31、32、33、34により検出する場合を例示する。しかし、車両1が有する空気圧検出手段には、空気圧異常が検出可能であれば種々のセンサを採用することができる。具体的には、例えば空気圧センサ31、32、33、34に代えて、車輪の回転数を検出可能なセンサ等を採用することもできる。なお、車輪の回転数を検出するセンサを採用した場合には、車輪の空気圧をセンサが検出した車輪の回転数から計算により特定すればよい。
【0029】
上述した車両1は、図3に示すように、車体2と複数の車輪11、12、13、14とを連結する懸架装置41、42、43、44を含む。なお、図3は、車両1を上方から見た図、左側方から見た図、及び、前方から見た図が上から順に示している。また、後述する図6図7図10及び図14も同様である。
【0030】
懸架装置41、42、43、44は、車体2と各車輪11、12、13、14との間を所定のアンチスクワット角θf、θrが形成されるように連結したものである。この懸架装置41、42、43、44は、例えばショックアブソーバ等を含むものであってよい。所定のアンチスクワット角θf、θrを有する懸架装置41、42、43、44を介して車体2に連結された車輪11、12、13、14は、車両1の加速又は減速時に懸架装置41、42、43、44の基端部を中心に回動可能となる。そして、当該回動動作によって、車輪11、12、13、14と車体2との間の距離は可変し得るものである。なお、左前輪11及び右前輪12に連結した懸架装置41、42のアンチスクワット角(この角度は「アンチダイブ角」と呼ばれることもある)θfは、実質的に同一角度となるように設定されていてよい。同様に、左後輪13及び右後輪14に連結した懸架装置43、44のアンチスクワット角θrも、実質的に同一角度となるように設定されていてよい。
【0031】
上述した懸架装置41、42、43、44を含む車両1に関し、以下には、モータ21、22、23、24からの駆動力によって車体2と車輪11、12、13、14の間に作用する上下方向の力について簡単に説明する。各モータ21、22、23、24からの駆動力(例えばトルク)F11、F12、F13、F14によって各車輪11、12、13、14が回転するとき、各車輪11、12、13、14と車体2との間には、懸架装置41、42、43、44によって上下方向の力が発生する。この車輪11、12、13、14と車体2との間に発生する上下方向の力、すなわちアンチスクワット力FX11、FX12、FX13、FX14は、以下の式(1)で表すことができる。なお、下記式(1)では、駆動力F11、F12、F13、F14は車両1の前進方向に作用する場合を正、後進方向に作用する場合を負とし、アンチスクワット力FX11、FX12、FX13、FX14は、車輪11、12、13、14が車体2に近づく方向、すなわち上方向に移動する場合を正、下方向に移動する場合を負として示す。また、アンチスクワット力FX11、FX12は「アンチダイブ力」と呼ばれることもある。
【数1】
【0032】
上記式(1)から分かるように、左前輪11及び右前輪12に対して車両1が前進する方向に駆動力が作用する(すなわち、駆動力F11、F12が正)と、アンチスクワット力FX11、FX12は負となる。したがって、当該アンチスクワット力FX11、FX12は、車体2を左前輪11及び右前輪12に近づく方向に、すなわち車体2を下方に沈み込ませる方向に作用する。他方、左後輪13及び右後輪14に対して車両1が前進する方向に駆動力が作用する(すなわち、駆動力F13、F14が負)と、アンチスクワット力FX13、FX14は正となる。したがって、アンチスクワット力FX13、FX14は、車体2を左前輪11及び右前輪12から離れる方向、すなわち車体2を上方に持ち上げる方向に作用する。そして、各モータ21、22、23、24の駆動力F11、F12、F13、F14の大きさを調整すれば、各車輪11、12、13、14と車体2の間に作用するアンチスクワット力FX11、FX12、FX13、FX14の大きさが調整できる。ちなみに、本実施の形態に係る車両の姿勢制御方法では、上述のアンチスクワット力FX11、FX12、FX13、FX14を利用することにより、パンクの発生時に生じる車体2のロール方向の傾きを調整しようとするものである。
【0033】
本実施の形態に係る車両の姿勢制御方法は、上述した構成の車両1において実現することができる。以下には、本実施の形態に係る車両の姿勢制御方法を、主に図4乃至図7を用いて説明する。以下に説明する車両の姿勢制御方法は、ECU3を構成するコンピュータの少なくとも1つのプロセッサ51に所定の動作を実行させる制御プログラムを実行することにより実施されるものであってよい。この制御プログラムは、車両の姿勢制御プログラムとして、ストレージ54等の記録手段に格納され、あるいはコンピュータ読取可能な記録媒体の形態で提供され得る。
【0034】
また、以下の説明では、図1に示す車両1の左前輪11に空気圧異常が発生した場合の姿勢制御方法を例示している。さらに、図5には、上から順に空気圧異常が検出された第1の車輪(左前輪11)の空気圧の推移を示すグラフ、車両1に発生するロール方向の変移を示すグラフ、各モータ21、22、23、24への駆動力の推移を示すグラフがそれぞれ示されている。
【0035】
本実施の形態に係る車両の姿勢制御方法は、少なくとも、複数の車輪11、12、13、14の空気圧異常を検出する工程(S12)と、複数の車輪11、12、13、14のうちの第1の車輪(例えば左前輪11)に空気圧異常が検出された場合に、車体の第1の車輪11が配設された部分を、懸架装置により作用するアンチスクワット力を利用して複数の車輪11、12、13、14のうち第1の車輪11を除く他の車輪12、13、14に対して相対的に上昇させるために、他の車輪12、13、14を回転駆動するモータ22、23、24に駆動力を分配する工程(S15)と、を含むものである。以下、詳細に説明する。
【0036】
車両1が始動すると、先ず、空気圧センサ31、32、33、34による空気圧の監視動作が開始される(工程S11)。そして、例えば車両1走行中に4つの車輪11、12、13、14の1つ、例えば左前輪11がパンクすると、図6に示すように、左前輪11は、その空気圧が急激に低下することで変形し、直径が小さくなる。左前輪11の直径が小さくなると、モータ21の回転数に対する左前輪11の移動量が小さくなるから、左前輪11には所定の制動力Fが発生すると共に、左前輪11の直径が小さくなった分だけ、車体2の左前方部分が沈み込むように傾斜する。具体的には、車両1の重心Gを基準とするロール方向及びピッチ方向にそれぞれ傾く。以下、これらの傾きのうち、ロール方向に発生するものを、ロール方向の傾きRと呼ぶ。
【0037】
工程S11において空気圧センサ31、32、33、34による空気圧の監視が開始されているため、左前輪11の空気圧は、空気圧センサ31において監視されている。そして、左前輪11のパンクにより、ある時間T1に左前輪11の空気圧が閾値THを下回ったことが検出される(工程S12でYes)と、空気圧センサ31は、左前輪11に空気圧異常が発生した旨をECU3に通知する。
【0038】
左前輪11に空気圧異常が発生した旨の通知を取得したECU3では、空気圧異常の発生をインストルメントパネルによる表示や警告音で乗員に報知すると共に、空気圧異常に伴って車体2に生じる傾きを推定する(工程S13)。具体的には、左前輪11の変形量を検出することで、車体2の傾き量を推定する。左前輪11の変形量は、例えば車輪の回転数を検出可能なセンサ(図示省略)の出力を利用して検出することができる。
【0039】
車体2の傾き量が推定されると、次に、ECU3は、車体2の傾き量のうち、車両のロール方向の傾きRの少なくとも一部を相殺するために必要なアンチスクワット力を算出する(工程S14)。ここで、アンチスクワット力を利用して車体2の高さを調整する車輪は、パンクした左前輪11以外の車輪、詳しくは右前輪12、左後輪13及び右後輪14であってよい。したがって、本工程S14において、ECU3は、右前輪12、左後輪13及び右後輪14に作用させるアンチスクワット力FX12、FX13、FX14を推定する。
【0040】
必要なアンチスクワット力FX12、FX13、FX14の推定が完了すると、ECU3は、その推定結果に基づいて、右前輪12、左後輪13及び右後輪14を回転駆動する3つのモータ22、23、24への駆動力の分配量を特定する。駆動力の分配量は、例えば図5に示すように、右前輪12のモータ22には前進方向に作用する駆動力F12を、右後輪14のモータ24には後進方向に作用する駆動力F14をそれぞれ分配するとよい。モータ22及びモータ24に上述した駆動力F12、F14が分配されると、右前輪12及び右後輪14により支持された車体2の右側部分は、アンチスクワット力FX12、FX14により下方に沈み込む方向に変位する。したがって、車体2の左前輪11が配設された部分を、他の車輪に対して相対的に上昇させることができる。
【0041】
ここで、左後輪13には、左前輪11のパンクによって低下した車両1左側の推進力を維持するために、前進方向に作用する駆動力F13が分配されるとよい。他方、パンクした左前輪11のモータ21には、駆動力を分配しない。これは、パンクした車輪は安定した制御が困難であり、期待するアンチスクワット力等を得ることが難しいためである。
【0042】
3つのモータ22、23、24への駆動力の分配量の調整が完了すると、ECU3は、例えば時間T1から所定時間が経過した時間T2において、駆動力の分配指令を実行する(工程S15)。各モータ22、23、24に所定の駆動力F12、F13、F14が分配されると、車体2には、図7に示すように、特に車体2右側に作用するアンチスクワット力FX12、FX14によって、上述したロール方向の傾きRとは反対方向に傾く力R1が生じる。この力R1により、車体2に生じたロール方向の傾きRは少なくとも部分的に相殺され、車体2のロール方向の姿勢が安定する。
【0043】
上述した実施の形態では、左前輪11に空気圧異常が発生した場合を例示したが、他の車輪に空気圧異常が発生した場合にも同様の駆動力調整を行うとよい。なお、本実施の形態に係る車両の姿勢制御方法では、いずれの車輪に空気圧異常が発生した場合であっても、空気圧異常が発生した車輪とは左右方向における反対側に位置する2つの車輪を、アンチスクワット力によって車体2が沈み込む方向に変位させるように駆動力の分配量を調整するものである。したがって、空気圧異常が発生した車輪とは左右方向における反対側に位置する2つの車輪に分配する駆動力の向きは、パンクした車輪を問わず、また、以降に説明する第2及び第3の実施の形態においても常に同様である。
【0044】
以上説明した通り、本実施の形態に係る車両の姿勢制御方法によれば、一の車輪の空気圧異常に伴って生じるロール方向の傾きRの少なくとも一部を、他の車輪への駆動力の分配量を調整することで得られるアンチスクワット力によって相殺できる。したがって、車両1の乗員の転倒や荷崩れの発生を抑制することができる。また、車輪の空気圧異常に伴う車体の傾きを低減あるいは解消する際に、アクティブサスペンションのような車高調整機能を別途設ける必要がなく、駆動力の分配という簡単な制御で実現できるため、車両の懸架装置を簡素化できる。
【0045】
<第2の実施の形態>
1つの車輪がパンクすると、上述した車体2のロール方向の傾きだけでなく、車両1にヨーモーメントが生じる。このようなヨーモーメントは、正常な走行軌道を維持することを難しくし、交通事故の要因となり得る。そこで以下には、本開示の第2の実施の形態として、ロール方向の傾きに加えて、パンクによって生じるヨーモーメントをも抑制できる車両の姿勢制御方法を、主に図8乃至図10を参照して例示的に説明する。
【0046】
本実施の形態に係る車両の姿勢制御方法は、パンクによって生じるヨーモーメントを相殺するためのヨーレートを算出している点を除き、上述した第1の実施の形態に係る車両の姿勢制御方法と同様であってよい。そこで、以下には第1の実施の形態に係る車両の姿勢制御方法とは異なるプロセスを中心に説明し、第1の実施の形態に係る車両の姿勢制御方法と同様の工程については、同様の符号を付してその説明を省略するものとする。
【0047】
本実施の形態に係る車両の姿勢制御方法では、図8に示すように、第1の車輪、例えば左前輪11の空気圧異常が検出される(工程S12でYes)と、車体の傾きの推定(工程S13)及び必要なアンチスクワット力の算出(工程S14)を行う。また、工程S13及びS14と並行して、左前輪11の空気圧異常によって車体2に生じるヨーモーメントYを検出する(工程S23)。この車体2に生じるヨーモーメントYは、例えば、各車輪11、12、13、14に生じる駆動力、制動力、横力、トルクや車両1の平均軌道等から計算により検出することができる。なお、本実施の形態では、左前輪11がパンクするため、ヨーモーメントYは左に回転する方向(図1では反時計方向)に発生する。
【0048】
車体2に生じるヨーモーメントYが検出されると、次に、検出されたヨーモーメントを補償(あるいは相殺)するために必要なヨーレートを算出する(工程S24)。そして、算出されたヨーレートを得るために、左前輪11以外の他の車輪12、13、14を回転駆動するモータ22、23、24に分配する駆動力を特定する。車体2に生じるヨーモーメントYを相殺するためには、特に左後輪13を回転駆動するモータ23の駆動力を一時的に大きくすることが有効である。なお、ここでいう一時的とは、車体のヨーレートが左前輪11がパンクする前の状態と同程度に安定するまでの間であってよい。
【0049】
次に、車体2の左前輪11側に位置する部分を他の車輪12、13、14に対して相対的に上昇させるために、及び、上述した必要なヨーレートを得るために、他の車輪12、13、14を回転駆動するモータ22、23、24に駆動力を分配する工程を実行する(工程S25)。具体的には、工程S24にて必要なヨーレートに基づいて特定された駆動力と、工程S14にて必要なアンチスクワット力に基づいて特定された駆動力とに基づいて、各モータ22、23、24に分配する最終的な駆動力の分配量を決定する。そして、ECU3は、決定した最終的な駆動力F22、F23、F24の分配指令を実行する。
【0050】
各モータ22、23、24に所定の駆動力F22、F23、F24が分配されると、車体2には、図10に示すように、特に車体2右側に作用するアンチスクワット力によって、左前輪11のパンクによって生じたロール方向の傾きRとは反対方向に傾く力R2が生じる。この力R2により、車体2に生じたロール方向の傾きRは少なくとも部分的に相殺され、車体2のロール方向の姿勢が安定する。加えて、車体2には、駆動力F22、F23、F24により右前輪12、左後輪13及び右後輪14が回転駆動されることよって、左前輪11がパンクしたことで生じた左方向に回転するヨーモーメントYとは反対方向の力Y1が生じる。この力Y1により、車体2に生じるヨーモーメントYが少なくとも部分的に相殺され、車体のヨー方向の姿勢も安定させることができる。
【0051】
上述した通り、本実施の形態に係る車両の姿勢制御方法によれば、一の車輪の空気圧異常に伴って生じるロール方向の傾きRの少なくとも一部を、他の車輪への駆動力の分配量を調整することで得られるアンチスクワット力によって相殺することができる。加えて、一の車輪の空気圧異常に伴って生じるヨーモーメントYの少なくとも一部も、他の車輪へ所定の分配量で駆動力を分配することで相殺することができる。以上のことから、車輪の空気圧異常が発生した場合の車両の姿勢をより安定させることができる。
【0052】
<第3の実施の形態>
上述した第2の実施の形態では、空気圧異常が検出されていない他の車輪12、13、14のモータ22、23、24に分配する駆動力の分配量を調整することによって、必要なアンチスクワット力及びヨーレートを得たものを説示した。しかし、必要なヨーレートを確保する方法は、モータ22、23、24の駆動力の分配量の調整以外にもある。そこで以下には、本開示の第3の実施の形態として、ロール方向の傾きを抑制することに加えて、パンクによって生じるヨーモーメントを複数の手法を用いて抑制する車両の姿勢制御方法を、主に図11乃至図14を参照して例示的に説明する。
【0053】
本実施の形態に係る車両の姿勢制御方法を実現するために、本実施の形態に係る車両の姿勢制御方法が適用される車両1のECU3は、図11に示すように、モータ21、22、23、24及び空気圧センサ31、32、33、34に加えて、制動装置4及び操舵装置5にも通信可能に接続されていてよい。
【0054】
制動装置4は、各車輪11、12、13、14に取り付けられたブレーキ、例えばドラム式あるいはディスク式のブレーキを動作させることが可能な装置であってよい。また、操舵装置5は、ステアリングホイールを回転動作させることが可能な装置であってよい。なお、本実施の形態の車両1は、自動運転機能を搭載した車両のように、制動装置4によるブレーキ動作や操舵装置5による転舵動作がECU3からの制御信号によって実施可能なものであると好ましい。
【0055】
本実施の形態に係る車両の姿勢制御方法は、必要なヨーレートを得る際に駆動力の分配に加えて制動装置4及び操舵装置5を動作させる点を除き、上述した第2の実施の形態に係る車両の姿勢制御方法と同様であってよい。そこで、以下には第2の実施の形態に係る車両の姿勢制御方法とは異なるプロセスを中心に説明し、第2の実施の形態に係る車両の姿勢制御方法と同様の工程については、同様の符号を付してその説明を省略するものとする。
【0056】
本実施の形態に係る車両の姿勢制御方法では、図12に示すように、第1の車輪、例えば左前輪11の空気圧異常が検出される(工程S12でYes)と、車体の傾きの推定(工程S13)及び必要なアンチスクワット力の算出(工程S14)と並行して、車体2に生じるヨーモーメントYの検出(工程S23)及び必要なヨーレートの算出(工程S24)を行う。そして、工程S24にて算出されたヨーレートを得るために、左前輪11以外の他の車輪12、13、14を回転駆動するモータ22、23、24に分配する駆動力と、制動装置4を用いたブレーキ動作と、操舵装置5を用いた転舵動作の3つを調整する。
【0057】
制動装置4を用いたブレーキ動作、例えば右前輪12及び右後輪14のブレーキを動作させると、左方向に沿ったヨーモーメントYを低減させることができる。また、操舵装置5を用いた転舵動作、例えば右前輪12を右方向に転舵させる(図14参照)と、左方向に沿ったヨーモーメントYを低減させることができる。ここで、制動装置4からの制動力、及び操舵装置5からの転舵は、パンクした左前輪11には作用させないようにするとよい。これは、例えばパンクした車輪には、所望の制動力や転舵動作が必ずしも反映されず、車両1の走行の安定性を損なう恐れがあるためである。
【0058】
次に、車体2の左前輪11側に位置する部分を他の車輪12、13、14に対して相対的に上昇させるために、及び、必要なヨーレートを得るために、他の車輪12、13、14を回転駆動するモータ22、23、24に駆動力を分配すると共に、制動装置4及び操舵装置5を動作させる(工程S35)。具体的には、先ず、ECU3において、工程S24にて必要なヨーレートに基づいて特定された駆動力と、工程S14にて必要なアンチスクワット力に基づいて特定された駆動力とに基づいて、各モータ22、23、24に分配する最終的な駆動力の分配量を決定する。そして、ECU3は、決定した最終的な駆動力F32、F33、F34の分配指令を実行すると共に、工程S24にて調整された制動装置4に対するプレーキ指令及び操舵装置5に対する転舵指令を実行する。
【0059】
各モータ22、23、24に所定の駆動力F32、F33、F34が分配されると、車体2には、図10に示すように、特に車体2右側に作用するアンチスクワット力によって、左前輪11のパンクによって生じたロール方向の傾きRとは反対方向に傾く力R3が生じる。この力R3により、車体2に生じたロール方向の傾きRは少なくとも部分的に相殺され、車体2のロール方向の姿勢が安定する。加えて、車体2には、駆動力F32、F33、F34により右前輪12、左後輪13及び右後輪14が回転駆動されることで、左前輪11がパンクしたことによって生じた左方向に回転するヨーモーメントYとは反対方向の力Y2が生じる。この力Y2により、車体2に生じるヨーモーメントYが少なくとも部分的に相殺され、車体のヨー方向の姿勢も安定させることができる。加えて、制動装置4によるブレーキ動作及び操舵装置5による転舵動作が実行されることよって、車体2に生じるヨーモーメントYが低減されるため、駆動力F32、F33、F34に基づく力Y2は、上述した第2の実施の形態において得られる力Y1よりも小さな力でよくなる。これにより、最終的な駆動力F32、F33、F34の分配量を、工程S14にて特定された駆動力をより反映したものとすることができ、ロール方向の傾きRの相殺を効果的に行うことができる。
【0060】
上述した通り、本実施の形態に係る車両の姿勢制御方法によれば、第2の実施の形態において述べたのと同様の効果を期待できる。加えて、制動装置4及び操舵装置5を利用することにより、車両の姿勢をさらに安定させることができる。なお、本実施の形態では、必要なヨーレートを得るために、駆動力に加えて制動装置4及び操舵装置5の両方を動作させる指令を作成したが、制動装置4又は操舵装置5の一方のみを動作させるようにしてもよい。
【0061】
本開示は上述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。そして、それらはすべて、本開示の技術思想に含まれるものである。
【0062】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウェア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 車両 2 車体 3 ECU 4 制動装置 5 操舵装置 11、12、13、14 車輪 21、22、23、24 モータ(駆動装置の一例) 31、32、33、34 空気圧センサ 41、42、43、44 懸架装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14