(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178045
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】自動変速機の油圧制御装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/12 20100101AFI20241217BHJP
【FI】
F16H61/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096541
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】笠野 剛史
(72)【発明者】
【氏名】菅野 和光
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA02
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA54
3J552PB02
3J552PB06
3J552QA06C
3J552QA14C
3J552QA26C
3J552RA02
3J552SA07
3J552SA52
3J552VA07W
3J552VA53W
(57)【要約】
【課題】油圧制御回路に設けられたフェールセーフ弁の誤作動を抑制しつつ、オイルポンプの損失を抑制できる自動変速機の油圧制御回路を提供する。
【解決手段】(a)自動変速機16の変速制御後は、自動変速機16の変速制御中に一時的に増圧された所定のライン圧PLを漸減させて元に戻すライン圧漸減制御が実行され、(b)ライン圧漸減制御中において、ソレノイド弁SL1~SL5からフェールセーフ弁74に供給される係合圧がライン圧PL以下となるように制御する、係合圧過渡制御が実行される。これにより、油圧制御回路60に設けられたフェールセーフ弁74の誤作動が抑制されつつ、オイルポンプ40の損失(オイルポンプ40の駆動に伴う燃費や電費)が抑制される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧制御回路に設けられた複数のソレノイド弁の係合圧がそれぞれ供給される複数の油圧式摩擦係合装置を有し、前記複数のソレノイド弁から所定数の前記係合圧が供給されて前記複数の油圧式摩擦係合装置のうち前記所定数が係合されることで、複数の変速段のうちから所定の変速段が選択的に形成させられる自動変速機の、油圧制御装置であって、
前記複数のソレノイド弁の元圧は、それぞれ所定のライン圧とされ、
前記複数のソレノイド弁のうち少なくとも一部の前記係合圧が対応する前記油圧式摩擦係合装置のそれぞれに供給される正常接続状態と、前記少なくとも一部の前記係合圧が対応する前記油圧式摩擦係合装置へそれぞれ供給されるのを遮断するフェール接続状態と、を切替可能なフェールセーフ弁が前記油圧制御回路に設けられ、
前記正常接続状態が選択されるように作動させる前記所定のライン圧と、フェール接続状態が選択されるように作動させる前記少なくとも一部の前記係合圧と、が前記フェールセーフ弁に供給され、
前記自動変速機の変速制御後は、前記自動変速機の変速制御中に一時的に増圧された前記所定のライン圧を漸減させて元に戻すライン圧漸減制御を実行し、
前記ライン圧漸減制御中において、前記複数のソレノイド弁から前記フェールセーフ弁に供給される前記係合圧が前記所定のライン圧以下となるように制御する、係合圧過渡制御を実行する
ことを特徴とする自動変速機の油圧制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
複数の変速段のうちから所定の変速段が選択的に形成させられる自動変速機の油圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧制御回路に設けられた複数のソレノイド弁の出力圧がそれぞれ供給される複数の油圧式摩擦係合装置(以下、「変速用係合装置」と記す。)を有し、複数のソレノイド弁のうち所定数から出力圧として係合圧が供給されて複数の変速用係合装置のうち所定数が係合されることで、複数の変速段のうちから所定の変速段が選択的に形成させられる自動変速機の、油圧制御装置が知られている。例えば、特許文献1に記載のものがそれである。特許文献1に記載の油圧制御装置では、油路に油圧スイッチが設けられた変速用係合装置において、非変速時に係合圧を供給するソレノイド弁の指示圧をライン圧よりも低く設定することで、油圧スイッチがライン圧の油振の影響を受けないようにされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動変速機の変速制御中は、変速用係合装置への作動油の供給量が増加するため、ライン圧が一時的に増圧される。変速制御後は、オイルポンプの損失を抑制するために一時的に増圧されたライン圧は漸減させられて元に戻される。また、変速制御中において変速用係合装置のうち係合されたものに供給された係合圧は、変速制御後において最大圧とされる。このように、変速制御後において、変速用係合装置に供給される係合圧が最大圧とされる一方、ライン圧は漸減させられる。なお、DレンジからNレンジへのシフトレンジの切替時において変速用係合装置が係合状態から解放状態へ切り替えられる際のショック対策のため、変速用係合装置は供給された係合圧が抜けにくい排圧特性とされている。この排圧特性のために、変速制御後において、係合圧がライン圧を超過して高くなるおそれがある。例えば、油圧制御回路に、正常接続状態が選択されるように作動させるライン圧と、複数のソレノイド弁から所定数を超過して係合圧が供給されるとフェール接続状態が選択されるように作動させる複数のソレノイド弁のうち少なくとも一部の出力圧と、が供給されるフェールセーフ弁が設けられている場合、変速制御後において係合圧がライン圧を超過して高くなることでフェールセーフ弁が誤作動するおそれがある。なお、特許文献1に記載の油圧制御装置は、ライン圧の油振による油圧スイッチの耐久性低下を抑制するのを目的とし、自動変速機の変速制御を実行する油圧制御回路に設けられたフェールセーフ弁の誤作動を抑制するものではない。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、油圧制御回路に設けられたフェールセーフ弁の誤作動を抑制しつつ、オイルポンプの損失を抑制できる自動変速機の油圧制御回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨とするところは、油圧制御回路に設けられた複数のソレノイド弁の係合圧がそれぞれ供給される複数の油圧式摩擦係合装置を有し、前記複数のソレノイド弁から所定数の前記係合圧が供給されて前記複数の油圧式摩擦係合装置のうち前記所定数が係合されることで、複数の変速段のうちから所定の変速段が選択的に形成させられる自動変速機の、油圧制御装置であって、(a)前記複数のソレノイド弁の元圧は、それぞれ所定のライン圧とされ、(b)前記複数のソレノイド弁のうち少なくとも一部の前記係合圧が対応する前記油圧式摩擦係合装置のそれぞれに供給される正常接続状態と、前記少なくとも一部の前記係合圧が対応する前記油圧式摩擦係合装置へそれぞれ供給されるのを遮断するフェール接続状態と、を切替可能なフェールセーフ弁が前記油圧制御回路に設けられ、(c)前記正常接続状態が選択されるように作動させる前記所定のライン圧と、フェール接続状態が選択されるように作動させる前記少なくとも一部の前記係合圧と、が前記フェールセーフ弁に供給され、(d)前記自動変速機の変速制御後は、前記自動変速機の変速制御中に一時的に増圧された前記所定のライン圧を漸減させて元に戻すライン圧漸減制御を実行し、(e)前記ライン圧漸減制御中において、前記複数のソレノイド弁から前記フェールセーフ弁に供給される前記係合圧が前記所定のライン圧以下となるように制御する、係合圧過渡制御を実行することにある。
【発明の効果】
【0007】
本発明の自動変速機の油圧制御装置によれば、(a)前記自動変速機の変速制御後は、前記自動変速機の変速制御中に一時的に増圧された前記所定のライン圧を漸減させて元に戻すライン圧漸減制御が実行され、(b)前記ライン圧漸減制御中において、前記複数のソレノイド弁から前記フェールセーフ弁に供給される前記係合圧が前記所定のライン圧以下となるように制御する、係合圧過渡制御が実行される。これにより、油圧制御回路に設けられたフェールセーフ弁の誤作動が抑制されつつ、オイルポンプの損失が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明が適用される自動変速機の説明図であって、(a)は、自動変速機の骨子図であり、(b)は、自動変速機の変速作動とそれに用いられる変速用係合装置の断接状態の組み合わせとの関係を説明する係合作動表であり、(c)は、自動変速機の変速制御に関連する油圧制御回路の構成を説明する図である。
【
図2】
図1(c)に示す電子制御装置の制御作動を説明するフローチャートの一例である。
【
図3】
図2のフローチャートが実行された場合におけるタイムチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例0010】
図1は、本発明が適用される自動変速機16の説明図であって、(a)は、自動変速機16の骨子図であり、(b)は、自動変速機16の変速作動とそれに用いられる変速用係合装置の断接状態の組み合わせとの関係を説明する係合作動表であり、(c)は、自動変速機16の変速制御に関連する油圧制御回路60の構成を説明する図である。なお、自動変速機16は軸線Cに対して略対称的に構成されており、
図1(a)では軸線Cの下半分が省略されている。
【0011】
図1(a)に示すように、車両10は、動力源であるエンジン12と、不図示の一対の駆動輪と、の間の動力伝達経路において、エンジン12側から順に、クランク軸22、トルクコンバータ14、入力軸24、自動変速機16、出力歯車26が連結され、これらは周知の構成である。自動変速機16は、非回転部材であるケース18内に収容されている。
【0012】
自動変速機16は、複数の変速用係合装置CBを有し、変速用係合装置CBのいずれかの掴み替えによる所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される遊星歯車式の多段変速機である。変速用係合装置CBは、複数の油圧式摩擦係合装置であるクラッチC1,C2及びブレーキB1,B2,B3を含み、本発明における「油圧式摩擦係合装置」に相当する。複数の変速用係合装置CBと一方向クラッチF1とは、
図1(a)に示すように連結されている。自動変速機16は、複数の変速用係合装置CBのうち2つが選択的に係合されることにより変速比γが異なる複数の変速段が形成させられる。この選択的に係合される「2つ」は、本発明における「所定数」に相当する。
図1(b)に示す係合作動表において、「○」は係合状態、「◎」はエンジンブレーキ時に係合状態、「△」は駆動時のみ係合状態、「空欄」は解放状態をそれぞれ表している。最もロー側の第1速変速段1stの変速比γが最も大きく、ハイ側の変速段ほど変速比γが小さい。
【0013】
油圧制御回路60は、自動変速機16の変速制御に関する油圧制御回路である。油圧制御回路60は、ソレノイド弁(例えばリニアソレノイド弁)SLT,SL1~SL5を備える。オイルポンプ40から圧送された作動油は、リリーフ型の調圧弁64で調圧されてライン圧PL[Pa]とされる。調圧弁64は、ソレノイド弁SLTから供給されるパイロット圧PSLT[Pa]に応じて調圧動作する。ライン圧PLは、例えば自動変速機16の入力トルクTin[Nm]或いはその代用値であるスロットル弁開度θth[%]に応じて調圧される。ライン圧PLは、シフトレバー50に連動させられるマニュアル弁70に供給される。シフトレバー50が「D」ポジション等の前進走行ポジションへ操作されている場合には、マニュアル弁70はDレンジ圧PD(ライン圧PLと同じ圧力)[Pa]を供給する。シフトレバー50が「R」ポジションすなわち後進走行ポジションへ操作されている場合には、マニュアル弁70はRレンジ圧PR(ライン圧PLと同じ圧力)[Pa]をシャトル弁72を介してブレーキB3へ供給する。モジュレータ弁68は、ライン圧PLを元圧としてそのライン圧PLに拘わらず一定のモジュレータ圧PM[Pa]を、ソレノイド弁SLTなどへ供給する。
【0014】
ソレノイド弁SL1~SL5は、それぞれ複数の変速用係合装置CBに対応して設けられ、本発明における「ソレノイド弁」に相当する。ソレノイド弁SL1~SL5は、ライン圧PLを元圧とし、電子制御装置90から出力される油圧制御信号Spに従ってそれぞれ制御される。ソレノイド弁SL1~SL5から出力される実圧である出力圧PC1~PC2,PB1~PB3[Pa](以下、「出力圧PC1等」と記す。)はそれぞれ独立に制御され、クラッチC1,C2、ブレーキB1,B2,B3にそれぞれ供給される。以下、出力圧PC1等が係合圧となっている場合には、それぞれ係合圧PC1~PC2,PB1~PB3と記す場合がある。係合圧とは、出力圧PC1等において、それぞれの変速用係合装置CBを係合状態とする油圧のことである。
【0015】
油圧制御回路60内のフェールセーフ弁74は、公知のものであり、例えば特開2008-190667号公報の
図6に記載されたものと同様の構成である。フェールセーフ弁74には、後述の正常接続状態が選択されるように作動させるライン圧PLと、ソレノイド弁SL1~SL5から前述の「所定数」である2つよりも多い3つ以上の係合圧が出力されると後述のフェール接続状態が選択されるように作動させるソレノイド弁SL1~SL5の出力圧PC1等と、が供給される。
【0016】
例えば、前進走行の際の正常時には、フェールセーフ弁74は、フェールセーフ弁74に設けられたスプリング74a及びライン圧PL(又はライン圧PLと同じ圧力であるDレンジ圧PD)に基づいて、フェールセーフ弁74内に設けられた1又は複数のスプール弁子74bが正常位置に向かうように付勢されている。スプール弁子74bが正常位置とされることで、フェールセーフ弁74は正常接続状態とされる。「正常接続状態」とは、ソレノイド弁SL1~SL5の出力圧PC1等がそれぞれ対応する変速用係合装置CBに供給される接続状態である。
【0017】
前進走行の際の異常時すなわちソレノイド弁SL1~SL5の出力圧PC1等のうち少なくとも3つから係合圧が供給された時には、フェールセーフ弁74は、それら少なくとも3つからの係合圧の供給に基づいて、スプリング74a及びライン圧PLの付勢力に抗してスプール弁子74bがフェール位置とされる。スプール弁子74bがフェール位置とされることで、フェールセーフ弁74はフェール接続状態とされる。「フェール接続状態」とは、正常接続状態でない状態すなわち異常時において変速用係合装置CBのうち少なくとも一部への出力圧PC1等の供給が遮断された接続状態である。例えば、フェール接続状態において、ブレーキB1~B3への係合圧PB1~PB3の供給が全て遮断され、ブレーキB1~B3へ供給される作動油の圧力はドレイン圧EXとされる。
【0018】
このように、フェールセーフ弁74は、正常接続状態とフェール接続状態とが切替可能であって、出力圧PC1等のうち少なくとも3つから係合圧が同時に供給されることに基づいてフェール作動し、自動変速機16のインターロックを回避させる。
【0019】
電子制御装置90は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、自動変速機16の変速制御を実行する。電子制御装置90は、本発明における「油圧制御装置」に相当する。電子制御装置90からは、変速制御を実行するために、油圧制御回路60に油圧制御信号Spが出力される。油圧制御信号Spは、ソレノイド弁SLT,SL1~SL5の出力圧PC1等のそれぞれの指示圧を指定する信号である。
【0020】
図2は、
図1(c)に示す電子制御装置90の制御作動を説明するフローチャートの一例である。例えば、2ndスタートスイッチがオン状態であって車両10が減速して停止する場合に自動変速機16が第3速変速段3rdから第2速変速段2ndに切り替えられる場合に実行される。2ndスタートスイッチがオン状態の場合には、自動変速機16において、第1速変速段1stの形成が禁止され、第2速変速段2nd乃至第6速変速段6thから一の変速段が形成させられる。
【0021】
まず、ステップS10(以下、「ステップ」を省略する。)において、変速制御後であるか否かが判定される。変速比γが変速後のものになった時点以降は、変速制御後である。S10の判定がNOの場合、リターンとなる。S10の判定がYESの場合、S20において、変速制御中において一時的に増圧されたライン圧PLを、変速制御後に緩やかに元のライン圧PLに戻す制御(以下、「ライン圧漸減制御」と記す。)が開始され、S30において、ライン圧漸減制御が終了したか否かが判定される。S30の判定がYESの場合、S40において指示圧PB1_cmd[Pa]が最大指示圧PB1_maxとされる制御(以下、「最大圧出力制御」と記す。)が実行され、そしてリターンとなる。
【0022】
S30の判定がNOの場合、S50において、指示圧PB1_cmdとしてライン圧PLの指示圧である指示圧PL_cmd[Pa]から所定の第1オフセット圧Offset1[Pa]を減じたものが算出され、S60において、S50での算出値がガード圧PB1_gdを超過しているか否かが判定される。第1オフセット圧Offset1は、例えば作動油の温度や変速用係合装置CBの排圧特性などを考慮してもライン圧漸減制御中に出力圧PB1がライン圧PLを超過しないように、実験的に或いは設計的に予め定められた指示圧PB1_cmdの所定のオフセット圧である。ガード圧PB1_gdは、ブレーキB1に要求される係合力が達成できる係合圧PB1を実現できる指示圧PB1_cmdの最小指示圧PB1_minに、所定の第2オフセット圧Offset2[Pa]を加えたものである。第2オフセット圧Offset2は、例えば作動油の温度や変速用係合装置CBの係合特性などを考慮してもブレーキB1に要求される係合力が確実に達成されるように、実験的に或いは設計的に予め定められた指示圧PB1_cmdの所定のオフセット圧である。S60の判定がNOである場合、S70において、指示圧PB1_cmdがガード圧PB1_gdとして算出される。S60の判定がYESの場合及びS70の実行後、S80において、ソレノイド弁SL3へS50又はS70で算出された指示圧PB1_cmdがソレノイド弁SL3に出力され、そしてS30が再度実行される。S30の判定がYESとなるまでの期間におけるS80での指示圧PB1_cmdの制御は、本発明における「係合圧過渡制御」に相当する。係合圧過渡制御は、指示圧PB1_cmdがガード圧PB1_gdを超過している場合には、係合圧PB1がライン圧PL以下となるように、指示圧PB1_cmdを制御する。なお、本実施例の係合圧過渡制御ではS60~S70が実行される態様であったが、本発明はこれらが実行されない態様であっても良い。フェールセーフ弁74の接続状態の切替応答性が低いため、S70が実行されず短期間だけ係合圧PB1がライン圧PLを超過してもフェールセーフ弁74は誤作動しにくい。
【0023】
図3は、
図2のフローチャートが実行された場合におけるタイムチャートの一例である。
図3において、本実施例に係る指示圧PB1_cmd及び出力圧PB1が実線で示され、比較例に係る指示圧PB1_cmd及び出力圧PB1が破線で示されている。
図3の横軸は、時間t[sec]である。比較例は、変速制御後に係合圧過渡制御が実行されず、最大圧出力制御が変速制御終了直後に開始される点が本実施例とは異なる。
【0024】
変速制御中は、ライン圧PLを一時的に増圧するライン圧増圧制御が実行される。変速制御の終了時点から所定期間(時刻t1~t3)は、ライン圧漸減制御が実行される。ライン圧漸減制御の実行期間T(=t3-t1)は、オイルポンプ40の損失を抑制するために、実験的に或いは設計的に予め定められた期間である。ライン圧漸減制御の実行後は、変速制御中に一時的に増圧されたライン圧PLが元に戻されて、例えば入力トルクTinに応じて調圧されるライン圧出力制御が実行される。変速制御において、例えばブレーキB1を係合させる一定圧に指示圧PB1_cmdが制御される係合圧出力制御が実行され、出力圧PB1が次第に高くなる。
【0025】
比較例では、変速制御終了直後から最大圧出力制御が実行される。これにより係合圧PB1がライン圧PLまで上昇する。ところで、DレンジからNレンジへのシフトレンジの切替時において変速用係合装置CBが係合状態から解放状態へ切り替えられる際のショック対策のため、ライン圧PLの低下に比較して変速用係合装置CBは供給された係合圧が抜けにくい排圧特性とされている。そのため、ライン圧PLの低下に比較して係合圧PB1が低下しにくく、時刻t1から時刻t4までの期間において係合圧PB1がライン圧PLよりも高くなってしまう。これにより、例えばフェールセーフ弁74に供給される係合圧が係合圧PC1,PB1の2つにもかかわらず、スプール弁子74bがフェール位置とされる場合がある。このフェールセーフ弁74の誤作動によってブレーキB1~B3への係合圧PB1~PB3の供給が全て遮断されることにより、車両停止時においてブレーキB1が係合状態から解放状態へ切り替えられることでショックが発生するおそれがある。実行期間Tが長くなるほどオイルポンプ40の損失が増大し、実行期間Tが短くなるほどフェールセーフ弁74が誤作動しやすくなる。
【0026】
本実施例では、ライン圧漸減制御の実行中は、係合圧過渡制御が実行される。ライン圧出力制御の実行中は、最大圧出力制御が実行される。係合圧過渡制御によって時刻t1から時刻t2までの期間において係合圧PB1が確実にライン圧PL以下となるように制御されるため、フェールセーフ弁74の誤作動が抑制される。
【0027】
本実施例によれば、(a)自動変速機16の変速制御後は、変速制御中に一時的に増圧されたライン圧PLを漸減させて元に戻すライン圧漸減制御が実行され、(b)ライン圧漸減制御中において、ソレノイド弁SL3からフェールセーフ弁74に供給される係合圧PB1がライン圧PL以下となるように制御する、係合圧過渡制御が実行される。これにより、油圧制御回路60に設けられたフェールセーフ弁74の誤作動が抑制されつつ、オイルポンプ40の損失(オイルポンプ40の駆動に伴う燃費や電費)が抑制される。
【0028】
なお、上述したのは本発明の実施例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【0029】
前述の実施例では、2ndスタートスイッチがオン状態であって自動変速機16が第3速変速段3rdから第2速変速段2ndに切り替えられる態様を例に説明したが、本発明はこの態様に限らない。
16:自動変速機、60:油圧制御回路、74:フェールセーフ弁、90:電子制御装置(油圧制御装置)、CB:変速用係合装置(油圧式摩擦係合装置)、PL:ライン圧、SL1~SL5:ソレノイド弁(ソレノイド弁)