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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178046
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】逐次比較型A/Dコンバータ
(51)【国際特許分類】
   H03M 1/08 20060101AFI20241217BHJP
   H03M 1/38 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
H03M1/08 A
H03M1/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096542
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】常村 祥弘
【テーマコード(参考)】
5J022
【Fターム(参考)】
5J022AA02
5J022AB04
5J022BA02
5J022CA10
5J022CB06
5J022CF01
5J022CF04
(57)【要約】
【課題】変換精度を改善した逐次比較型A/Dコンバータを提供する。
【解決手段】SAR-ADC100は、コンパレータ120と、CMOSスイッチ200を備える。CMOSスイッチ200の一端202は、コンパレータ120の入力ノードと接続される。CMOSスイッチ200は、PMOSトランジスタMP1、NMOSトランジスタMN1、第1ドライバ210、第2ドライバ220を備える。第1ドライバ210は、電流ソース能力が電流シンク能力より低くなるように構成され、第2ドライバ220は、電流シンク能力が電流ソース能力より低くなるように構成される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
逐次比較型A/Dコンバータであって、
コンパレータと、
一端が前記コンパレータの入力ノードと接続されたCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)スイッチと、
を備え、
前記CMOSスイッチは、
並列に接続されたPチャンネルMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)およびNチャンネルMOSFETと、
前記PチャンネルMOSFETのゲート電圧を制御する第1ドライバと、
前記NチャンネルMOSFETのゲート電圧を制御する第2ドライバと、
を備え、
前記第1ドライバは、電流ソース能力が電流シンク能力より低くなるように構成され、
前記第2ドライバは、電流シンク能力が電流ソース能力より低くなるように構成される、逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項2】
前記第1ドライバは、
第1インバータと、
前記第1インバータのP型トランジスタと接続された第1電流源と、
を含む、請求項1に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項3】
前記第1ドライバは、第1インバータを有し、
前記第1インバータのP型トランジスタのサイズは、N型トランジスタのサイズより小さい、請求項1に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項4】
前記第1ドライバは、
第1インバータと、
前記第1インバータのP型トランジスタと直列に接続された第1抵抗と、
を含む、請求項1に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項5】
前記第1ドライバは、電源ラインと前記PチャンネルMOSFETのゲートの間に接続された第1パワーダウンスイッチをさらに含む、請求項1から4のいずれかに記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項6】
前記第2ドライバは、
第2インバータと、
前記第2インバータのNMOSトランジスタと接続された第2電流源と、
を含む、請求項1から4のいずれかに記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項7】
前記第2ドライバは、第2インバータを有し、
前記第2インバータのNMOSトランジスタのサイズは、PMOSトランジスタのサイズより小さい、請求項1から4のいずれかに記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項8】
前記第2ドライバは、
第2インバータと、
前記第2インバータのNMOSトランジスタと直列に接続された第2抵抗と、
を含む、請求項1から4のいずれかに記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項9】
前記第2ドライバは、接地ラインと前記NチャンネルMOSFETのゲートの間に接続された第2パワーダウンスイッチをさらに含む、請求項1から4のいずれかに記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項10】
ひとつの半導体基板に一体集積化された、請求項1から4のいずれかに記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、逐次比較型A/Dコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
中分解能~高分解能(たとえば8ビット以上)のA/Dコンバータ(ADC:Analog Digital Converter)として、逐次比較型(SAR:Successive Approximation Register)が使用される。SAR-ADCは、入力電圧をサンプルホールドし、それを1回目のしきい値電圧と比較する。そして比較結果に応じて、2回目のしきい値電圧を決定し、再び比較を行う。この動作を繰り返すことにより、バイナリ探索によって、アナログ電圧がデジタル信号に変換される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-96375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
SAR-ADCは、サンプルホールド回路や容量性D/Aコンバータ(CDAC)を備え、これらは、キャパシタとスイッチの組み合わせで構成される。スイッチは、CMOSスイッチ(トランスファゲートともいう)で構成される。
【0005】
CMOSスイッチは、PチャンネルMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)とNチャンネルMOSFETの並列接続回路である。MOSFETは、寄生容量を有しており、クロックフィードスルーやチャージインジェクションによって、誤差電荷が混入する。
【0006】
クロックフィードスルーの影響は、CMOSスイッチの一端が、ハイインピーダンスノードと接続されているときに顕著となる。SAR-ADCにおいては、電圧コンパレータの入力ノード(反転入力端子や非反転入力端子)と接続されるCMOSスイッチにおいて特に顕著に現れる。具体的には、CMOSスイッチがターンオフする際に、ハイインピーダンスノード、つまりコンパレータの入力端子からMOSFETのゲートに向かって電荷が抜け、コンパレータの入力電圧を変化させる。これにより、SAR-ADCの変換精度が低下する。
【0007】
クロックフィードスルーの影響を低減するために、CMOSスイッチと直列にダミースイッチを挿入し、誤差電荷をキャンセルする手法が知られているが、SAR-ADCにこの方法を採用すると、しきい値電圧を生成するD/Aコンバータの出力に接続される容量が増えてしまい、しきい値電圧の電圧範囲が狭められる。
【0008】
本開示は係る状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、変換精度を改善した逐次比較型A/Dコンバータの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のある態様は、逐次比較型A/Dコンバータに関する。逐次比較型A/Dコンバータは、コンパレータと、一端がコンパレータの入力ノードと接続されたCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)スイッチと、を備える。CMOSスイッチは、並列に接続されたPチャンネルMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)およびNチャンネルMOSFETと、PチャンネルMOSFETのゲート電圧を制御する第1ドライバと、NチャンネルMOSFETのゲート電圧を制御する第2ドライバと、を備える。第1ドライバは、電流ソース能力が電流シンク能力より低くなるように構成され、第2ドライバは、電流シンク能力が電流ソース能力より低くなるように構成される。
【0010】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、あるいは本開示の表現を、方法、装置などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本開示のある態様によれば、変換精度を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態に係る逐次比較型A/Dコンバータ(SAR-ADC)100のブロック図である。
図2図2は、実施形態に係るSAR-ADCの一部分の回路図である。
図3図3は、図2のCMOSスイッチの動作波形図である。
図4図4は、実施例1に係るCMOSスイッチの回路図である。
図5図5は、ドライバの能力を変化させたときのCMOSスイッチの動作波形図(シミュレーション結果)である。
図6図6は、実施例2に係るCMOSスイッチの回路図である。
図7図7は、実施例3に係るCMOSスイッチの回路図である。
図8図8は、SAR-ADCの回路図である。
図9図9は、SAR-ADCの回路図である。
図10図10は、SAR-ADCの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。この概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、すべての実施形態の重要な要素を特定することも、一部またはすべての態様の範囲を線引きすることも意図していない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0014】
一実施形態に係る逐次比較型A/Dコンバータは、コンパレータと、一端がコンパレータの入力ノードと接続されたCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)スイッチと、を備える。CMOSスイッチは、並列に接続されたPチャンネルMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)およびNチャンネルMOSFETと、PチャンネルMOSFETのゲート電圧を制御する第1ドライバと、NチャンネルMOSFETのゲート電圧を制御する第2ドライバと、を備える。第1ドライバは、電流ソース能力が電流シンク能力より低くなるように構成され、第2ドライバは、電流シンク能力が電流ソース能力より低くなるように構成される。
【0015】
この構成によると、CMOSスイッチがターンオフするときに、PチャンネルMOSFETおよびNチャンネルMOSFETそれぞれのゲート電圧の変化速度(スルーレート)が制限される。これにより、ハイインピーダンスノードであるコンパレータの入力端子から、MOSFETのゲートへの電荷の抜けを抑制することができ、コンパレータの入力電圧の変動を抑制でき、ひいては、SAR-ADCの変換精度を改善できる。
【0016】
一実施形態において、第1ドライバは、第1インバータと、第1インバータのP型トランジスタと接続された第1電流源と、を含んでもよい。この構成では、第1電流源の電流量に応じて、PMOSトランジスタのターンオフの速度を制限できる。
【0017】
一実施形態において、第1ドライバは、第1インバータを有してもよい。第1インバータのP型トランジスタのサイズは、N型トランジスタのサイズより小さくてもよい。この構成では、P型トランジスタのサイズに応じて、PMOSトランジスタのターンオフの速度を制限できる。
【0018】
一実施形態において、第1ドライバは、第1インバータと、第1インバータのP型トランジスタと直列に接続された第1抵抗と、を含んでもよい。この構成では、第1抵抗の抵抗値に応じて、PMOSトランジスタのターンオフの速度を制限できる。
【0019】
一実施形態において、第1ドライバは、電源ラインとPチャンネルMOSFETのゲートの間に接続された第1パワーダウンスイッチをさらに含んでもよい。この構成によれば、第1パワーダウンスイッチをオンすることにより、PチャンネルMOSFETをオフ状態に固定できる。
【0020】
一実施形態において、第2ドライバは、第2インバータと、第2インバータのNMOSトランジスタと接続された第2電流源と、を含んでもよい。この構成では、第2電流源の電流量に応じて、NMOSトランジスタのターンオフの速度を制限できる。
【0021】
一実施形態において、第2ドライバは、第2インバータを有してもよい。第2インバータのNMOSトランジスタのサイズは、PMOSトランジスタのサイズより小さくてもよい。この構成では、N型トランジスタのサイズに応じて、NMOSトランジスタのターンオフの速度を制限できる。
【0022】
一実施形態において、第2ドライバは、第2インバータと、第2インバータのNMOSトランジスタと直列に接続された第2抵抗と、を含んでもよい。この構成では、第2抵抗の抵抗値に応じて、NMOSトランジスタのターンオフの速度を制限できる。
【0023】
一実施形態において、第2ドライバは、接地ラインとNチャンネルMOSFETのゲートの間に接続された第2パワーダウンスイッチをさらに含んでもよい。この構成によれば、第2パワーダウンスイッチをオンすることにより、NチャンネルMOSFETをオフ状態に固定できる。
【0024】
一実施形態において、逐次比較型A/Dコンバータは、ひとつの半導体基板に一体集積化されてもよい。「一体集積化」とは、回路の構成要素のすべてが半導体基板上に形成される場合や、回路の主要構成要素が一体集積化される場合が含まれ、回路定数の調節用に一部の抵抗やキャパシタなどが半導体基板の外部に設けられていてもよい。回路を1つのチップ上に集積化することにより、回路面積を削減することができるとともに、回路素子の特性を均一に保つことができる。
【0025】
(実施形態)
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0026】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に接続された(設けられた)状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0027】
図1は、実施形態に係る逐次比較型A/Dコンバータ(SAR-ADC)100のブロック図である。SAR-ADC100は、一つの半導体基板に一体集積化される。SAR-ADC100は、A/Dコンバータの専用のチップであってもよいし、他の機能を有するIC(Integrated Circuit)に集積化されてもよい。あるいは、SAR-ADC100は、デジタル部とアナログ部が別々のチップで構成されてもよい。
【0028】
SAR-ADC100は、サンプルホールド回路110、コンパレータ120、コントローラ130、容量型DAC140、を備える。容量型DAC140は、入力電圧VINをサンプリングする。そして容量型DAC140は、制御コードCODEに応じたしきい値電圧VTHkを生成する。kは、逐次比較処理のサイクルを示す。コンパレータ120は、容量型DAC140の状態にもとづいて、入力電圧VINとしきい値電圧VTHkの大小関係を示す比較信号compを発生する。たとえば比較信号compは、入力信号VINがしきい値電圧VTHkより大きいときにH(ハイ)、小さいときにL(ロー)である。コントローラ130は、コンパレータ120の出力compにもとづいて、次のサイクルk+1の制御コードCODEk+1を決定する。SAR-ADC100はこの動作を繰り返す。
【0029】
なお、図1のブロック図は、SAR-ADC100の処理を簡潔に示した機能ブロックであり、SAR-ADC100の具体的な構成を限定するものではない。たとえばサンプルホールド回路110および容量型DAC140は、スイッチドキャパシタ回路を用いて一体に構成されてもよい。またコンパレータ120は、サンプルホールドされた入力電圧VINとしきい値電圧VTHkの差分を、0と比較することにより、VINとVTHkの大小関係を判定してもよい。
【0030】
図2は、実施形態に係るSAR-ADC100の一部分の回路図である。SAR-ADC100は、コンパレータ120およびCMOSスイッチ200を含む。CMOSスイッチ200は、一端202がコンパレータ120の入力ノードに接続されている。CMOSスイッチ200の一端202は、ハイインピーダンスノードであるといえる。CMOSスイッチ200の他端204には、何らかの電圧Vが供給されている。CMOSスイッチ200は、サンプルホールド回路110の一部であってもよいし、容量型DAC140の一部であってもよい。
【0031】
CMOSスイッチ200は、PチャンネルMOSFET(以下、PMOSトランジスタ)MP1およびNチャンネルMOSFET(以下、NMOSトランジスタ)MN1、第1ドライバ210、第2ドライバ220を備える。PMOSトランジスタMP1とNMOSトランジスタMN1は並列に接続される。
【0032】
第1ドライバ210は、制御信号CTRLに応じて、PMOSトランジスタMP1のゲート電圧VGPを制御する。具体的には第1ドライバ210は、制御信号CTRLが第1レベル(たとえばハイ)のときに、PMOSトランジスタMP1のゲート電圧VGPをローレベル(接地電圧0V)とし、制御信号CTRLが第2レベル(たとえばロー)のときに、PMOSトランジスタMP1のゲート電圧VGPをハイレベル(電源電圧VDD)とする。
【0033】
第2ドライバ220は、制御信号CTRLに応じて、NMOSトランジスタMN1のゲート電圧を制御する。具体的には第2ドライバ220は、制御信号CTRLが第1レベルのときに、NMOSトランジスタMN1のゲート電圧VGNをハイレベル(VDD)とし、制御信号CTRLが第2レベルのときに、PMOSトランジスタMP1のゲート電圧VGNをローレベル(0V)とする。
【0034】
第1ドライバ210は、電流ソース能力が電流シンク能力より低くなるように構成される。すなわち、第1ドライバ210のソース電流ISRC1は、シンク電流ISNK1よりも小さい。
【0035】
第2ドライバ220は、電流シンク能力が電流ソース能力より低くなるように構成される。すなわち第2ドライバ220のシンク電流ISNK2は、ソース電流ISRC2よりも小さい。
【0036】
以上がCMOSスイッチ200の構成である。続いてその動作を説明する。
【0037】
図3は、図2のCMOSスイッチ200の動作波形図である。時刻tより前は、制御信号CTRLは第2レベル(ロー)であり、PMOSトランジスタMP1のゲート電圧VGPは電源電圧VDD、NMOSトランジスタMN1のゲート電圧VGNは0Vであり、CMOSスイッチ200はオフ状態である。
【0038】
時刻tに、制御信号CTRLは第2レベル(ロー)から第1レベル(ハイ)に遷移する。この遷移に応答して、第1ドライバ210は、PMOSトランジスタMP1のゲート電圧VGPを0Vに向かって変化させ、第2ドライバ220は、NMOSトランジスタMN1のゲート電圧VGNを電源電圧VDDに向かって変化させる。
【0039】
時刻tに、制御信号CTRLは第1レベル(ハイ)から第2レベル(ロー)に遷移する。この遷移に応答して、第1ドライバ210は、PMOSトランジスタMP1のゲート電圧VGPを電源電圧VDDに向かって変化させ、第2ドライバ220は、NMOSトランジスタMN1のゲート電圧VGNを0Vに向かって変化させる。
【0040】
上述のように、第1ドライバ210の電流ソース能力は、その電流シンク能力に比べて低い。したがって、PMOSトランジスタMP1のゲート電圧VGPは、上昇速度が下降速度に比べて低い。そのため、PMOSトランジスタMP1は、ターンオフ時間が、ターンオン時間に比べて長い。
【0041】
また、第2ドライバ220の電流シンク能力は、その電流ソース能力に比べて低い。したがって、NMOSトランジスタMN1のゲート電圧VGNは、下降速度が上昇速度に比べて低い。そのため、NMOSトランジスタMN1についても、PMOSトランジスタMP1と同様に、ターンオフ時間が、ターンオン時間に比べて長い。
【0042】
以上がCMOSスイッチ200の動作である。CMOSスイッチ200のターンオフの速度(スルーレート)を制限することにより、CMOSスイッチ200の一端202から、PMOSトランジスタMP1のゲート容量CpおよびNMOSトランジスタMN1のゲート容量Cnを介して抜けた電荷を吸い込む時間が長くなるため、結果として、一端202の電圧Vの変動が小さくなる。コンパレータ120の入力電圧Vの変動を抑制することにより、ひいてはSAR-ADC100の変換精度を改善できる。
【0043】
本開示は、図2のブロック図や回路図として把握され、あるいは上述の説明から導かれるさまざまな装置、方法に及ぶものであり、特定の構成に限定されるものではない。以下、本開示の範囲を狭めるためではなく、本開示や本発明の本質や動作の理解を助け、またそれらを明確化するために、より具体的な構成例や実施例を説明する。
【0044】
(実施例1)
図4は、実施例1に係るCMOSスイッチ200Aの回路図である。第1ドライバ210Aは、第1インバータ212、第1電流源214、第1パワーダウンスイッチ216を含む。
【0045】
第1インバータ212は、P型トランジスタMP11およびN型トランジスタMN11を含む。第1電流源214は、第1インバータ212のP型トランジスタMP11と接続される。第1電流源214は、トランジスタMP12,MP13、電流源CS1を含む。トランジスタMP12,MP13はカレントミラー回路を形成しており、電流源CS1が生成する基準電流を折り返して、電流Ib1をP型トランジスタMP11に供給する。
【0046】
第1パワーダウンスイッチ216は、電源ラインとPMOSトランジスタMP1のゲートの間に接続される。第1パワーダウンスイッチ216は、P型トランジスタMP14で構成される。
【0047】
第2ドライバ220Aは、第2インバータ222、第2電流源224、第2パワーダウンスイッチ226を含む。第2インバータ222は、P型トランジスタMP21およびN型トランジスタMN21を含む。第2電流源224は、第2インバータ222のN型トランジスタMN21と接続される。第2電流源224は、トランジスタMN22,MN23、電流源CS2を含む。トランジスタMN22,MN23はカレントミラー回路を形成しており、電流源CS2が生成する基準電流を折り返して、電流Ib2をN型トランジスタMN21に供給する。
【0048】
図5は、ドライバの能力を変化させたときのCMOSスイッチ200Aの動作波形図(シミュレーション結果)である。(i)~(v)は、第1ドライバ210A(220B)のトランジスタMP13,MP12(MN23,MN22)からなるカレントミラー回路のミラー比を1倍、2倍、4倍、8倍、16倍としたときの波形を表している。CMOSスイッチ200Aの他端204には、固定電圧V=2.5Vが印加されている。図5から分かるように、カレントミラー回路のミラー比を小さくし、電流Ib1,Ib2を小さくしていくと、CMOSスイッチ200Aがオフのときの、CMOSスイッチ200の一端202の電圧Vの変化が小さくなっていくことが分かる。
【0049】
この構成によれば、第1ドライバ210Aにおいては、第1インバータ212のP型トランジスタMP11に供給される電流Ib1によって、第1ドライバ210Aの電流ソース能力を制限でき、電圧Vの変動を抑制できる。
【0050】
また、第1パワーダウンスイッチ216をオンすることにより、PMOSトランジスタMP1をオフ状態に固定できる。
【0051】
同様に、第2ドライバ220Aにおいては、第2インバータ222のN型トランジスタMN21に供給される電流Ib2によって、第2ドライバ220Aの電流シンク能力を制限でき、電圧Vの変動を抑制できる。
【0052】
また、第2パワーダウンスイッチ226をオンすることにより、NMOSトランジスタMN1をオフ状態に固定できる。
【0053】
(実施例2)
図6は、実施例2に係るCMOSスイッチ200Bの回路図である。第1ドライバ210Bは、第1インバータ212および第1パワーダウンスイッチ216を含む。第1インバータ212のP型トランジスタMP11のサイズW/L(ゲート幅/ゲート長)は、N型トランジスタMN11のサイズW/Lよりも小さく構成される。
【0054】
第2ドライバ220Bは、第2インバータ222および第2パワーダウンスイッチ226を含む。第2インバータ222のN型トランジスタMN21のサイズW/Lは、P型トランジスタMP21のサイズW/Lよりも小さく構成される。
【0055】
実施例2によれば、第1ドライバ210BのP型トランジスタMP11のサイズW/Lを小さくすることで、電流ソース能力を制限できる。同様に、第2ドライバ220BのN型トランジスタMN11のサイズW/Lを小さくすることで、電流シンク能力を制限できる。
【0056】
(実施例3)
図7は、実施例3に係るCMOSスイッチ200Cの回路図である。第1ドライバ210Cは、第1インバータ212、第1抵抗R1、パワーダウンスイッチ216を含む。第1抵抗R1は、第1インバータ212のP型トランジスタMP11と直列に接続される。
【0057】
第2ドライバ220Cは、第2インバータ222、第2抵抗R2、パワーダウンスイッチ226を含む。第2抵抗R2は、第2インバータ222のN型トランジスタMN11と直列に接続される。
【0058】
実施例3によれば、第1抵抗R1の抵抗値によって、第1ドライバ210Cの電流ソース能力を制限できる。同様に、第2抵抗R2の抵抗値によって、第2ドライバ220Cの電流シンク能力を制限できる。
【0059】
SAR-ADCにはさまざまな回路構成が提案されており、本開示に係る技術の適用は、特定の構成に限定されるものではない。以下では、SAR-ADC100の構成例を説明する。
【0060】
図8は、SAR-ADC100aの回路図である。SAR-ADC100aは、差動形式であり、差動入力信号VINP,VINNをデジタル信号に変換する。コンパレータ120、コントローラ130およびスイッチドキャパシタ回路300を備える。スイッチドキャパシタ回路300は、図1のサンプルホールド回路110および容量型DAC140の機能を有する。
【0061】
この構成においては、スイッチSW1,SW2の一端がコンパレータ120の入力端子と接続されている。したがってスイッチSW1,SW2について、上述のCMOSスイッチ200の構成を採用することができる。
【0062】
図9は、SAR-ADC100bの回路図である。SAR-ADC100bは、図8のSAR-ADC100aをシングルエンド形式に変更したものである。この構成においては、スイッチSW3,SW4の一端がコンパレータ120の入力端子と接続されている。したがってスイッチSW3,SW4について、上述のCMOSスイッチ200の構成を採用することができる。
【0063】
図10は、SAR-ADC100cの回路図である。SAR-ADC100cは、図8のSAR-ADC100aと同様に、差動形式である。この構成においては、スイッチSW5,SW6の一端がコンパレータ120の入力端子と接続されている。したがってスイッチSW5,SW6について、上述のCMOSスイッチ200の構成を採用することができる。
【0064】
当業者によれば、本開示の適用が、ここで例示したSAR-ADC100a~100cに限定されないこと、またそれ以外の公知の、あるいは将来利用可能なさまざま構成のSAR-ADCに適用可能であることが理解される。
【0065】
(付記)
本明細書には以下の技術が開示される。
【0066】
(項目1)
逐次比較型A/Dコンバータであって、
コンパレータと、
一端が前記コンパレータの入力ノードと接続されたCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)スイッチと、
を備え、
前記CMOSスイッチは、
並列に接続されたPチャンネルMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)およびNチャンネルMOSFETと、
前記PチャンネルMOSFETのゲート電圧を制御する第1ドライバと、
前記NチャンネルMOSFETのゲート電圧を制御する第2ドライバと、
を備え、
前記第1ドライバは、電流ソース能力が電流シンク能力より低くなるように構成され、
前記第2ドライバは、電流シンク能力が電流ソース能力より低くなるように構成される、逐次比較型A/Dコンバータ。
【0067】
(項目2)
前記第1ドライバは、
第1インバータと、
前記第1インバータのP型トランジスタと接続された第1電流源と、
を含む、項目1に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【0068】
(項目3)
前記第1ドライバは、第1インバータを有し、
前記第1インバータのP型トランジスタのサイズは、N型トランジスタのサイズより小さい、項目1に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【0069】
(項目4)
前記第1ドライバは、
第1インバータと、
前記第1インバータのP型トランジスタと直列に接続された第1抵抗と、
を含む、項目1に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【0070】
(項目5)
前記第1ドライバは、電源ラインと前記PチャンネルMOSFETのゲートの間に接続された第1パワーダウンスイッチをさらに含む、項目1から4のいずれかに記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【0071】
(項目6)
前記第2ドライバは、
第2インバータと、
前記第2インバータのNMOSトランジスタと接続された第2電流源と、
を含む、項目1から5のいずれかに記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【0072】
(項目7)
前記第2ドライバは、第2インバータを有し、
前記第2インバータのNMOSトランジスタのサイズは、PMOSトランジスタのサイズより小さい、項目1から5のいずれかに記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【0073】
(項目8)
前記第2ドライバは、
第2インバータと、
前記第2インバータのNMOSトランジスタと直列に接続された第2抵抗と、
を含む、項目1から5のいずれかに記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【0074】
(項目9)
前記第2ドライバは、接地ラインと前記NチャンネルMOSFETのゲートの間に接続された第2パワーダウンスイッチをさらに含む、項目1から5のいずれかに記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【0075】
(項目10)
ひとつの半導体基板に一体集積化された、項目1から9のいずれかに記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【符号の説明】
【0076】
100 SAR-ADC
110 サンプルホールド回路
120 コンパレータ
130 コントローラ
140 容量型DAC
200 CMOSスイッチ
210 第1ドライバ
212 第1インバータ
214 第1電流源
216 第1パワーダウンスイッチ
R1 第1抵抗
220 第2ドライバ
222 第2インバータ
224 第2電流源
226 第2パワーダウンスイッチ
R2 第2抵抗
MP1 PMOSトランジスタ
MN1 NMOSトランジスタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10