(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178063
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】電極触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/96 20060101AFI20241217BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20241217BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20241217BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20241217BHJP
【FI】
H01M4/96 B
H01M4/88 C
H01M4/86 B
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096576
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】竹下 朋洋
(72)【発明者】
【氏名】清水 瞭
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB01
5H018EE03
5H018EE05
5H018HH01
5H018HH04
5H018HH05
5H018HH08
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】低湿度環境下における性能低下が少ない電極触媒及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】電極触媒は、細孔径が6nm超20nm以下である多孔質担体と、前記多孔質担体の細孔内に担持された触媒粒子と、前記細孔内に充填された炭素とを備えている。電極触媒は、相対炭素充填量が0g/mL超0.23g/mL未満である。このような電極触媒は、細孔径が6nm超20nm以下である多孔質担体の細孔内に触媒粒子を担持し、細孔内に炭素源を充填し、炭素源を固定及び炭化させることにより得られる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔径が6nm超20nm以下である多孔質担体と、
前記多孔質担体の細孔内に担持された触媒粒子と、
前記細孔内に充填された炭素と
を備え、
次の式(1)で表される相対炭素充填量Wが0g/mL超0.23g/mL未満である
電極触媒。
W=R1/{V×(100/R2)} …(1)
但し、
R1は、前記多孔質担体の質量あたりの炭素充填量[g/g]、
Vは、前記多孔質担体の細孔内に前記触媒粒子が担持された触媒前駆体Aの細孔容量[mL/g]、
R2は、前記触媒前駆体Aに含まれる前記多孔質担体の質量比率[%]。
【請求項2】
前記多孔質担体の細孔容量は、0.05mL/g以上2.0mL/g以下である請求項1に記載の電極触媒。
【請求項3】
前記多孔質担体の平均粒径は、20nm以上500nm以下である請求項1に記載の電極触媒。
【請求項4】
細孔径が6nm超20nm以下である多孔質担体の細孔内に触媒粒子が担持された触媒前駆体Aを準備する第1工程と、
炭素源を含む液状炭素前駆体を準備し、前記触媒前駆体Aの細孔容量の1.5倍以下の前記液状炭素前駆体を前記触媒前駆体Aに滴下し、前記細孔内に前記液状炭素前駆体が充填された触媒前駆体Bを得る第2工程と、
前記触媒前駆体Bを熱処理し、前記細孔内に前記炭素源が固定された触媒前駆体Cを得る第3工程と、
前記触媒前駆体Cを、非酸化雰囲気中、500℃以上1000℃以下の温度で熱処理し、前記炭素源を炭化させる第4工程と
を備えた電極触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極触媒及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、低湿度環境下における性能低下が少ない電極触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両面に触媒を含む電極(触媒層)が接合された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)を備えている。触媒層の外側には、通常、ガス拡散層が配置される。さらに、ガス拡散層の外側には、ガス流路を備えた集電体(セパレータ)が配置される。固体高分子形燃料電池は、通常、このようなMEA、ガス拡散層及び集電体からなる単セルが複数個積層された構造(燃料電池スタック)を備えている。
【0003】
固体高分子形燃料電池において、触媒層は、電極触媒と、触媒層アイオノマとの複合体からなる。触媒層アイオノマは、電極触媒にプロトンを供給するために必要な成分である。しかしながら、触媒層アイオノマは、触媒粒子の表面に吸着しやすい。触媒層アイオノマの酸基が触媒粒子の表面に吸着すると、触媒活性の低下を引き起こす。このような触媒層アイオノマの酸基の触媒粒子表面への吸着及びこれによる触媒活性の低下は、高湿度環境下よりも低湿度環境下において起きやすい。
【0004】
そこでこの問題を解決するために従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、直径が100nm以上300nm以下であり、細孔径が3nm以上6nm以下であり、比表面積が800m2/g以上である単分散球状炭素多孔体が開示されている。
同文献には、単分散球状炭素多孔体を用いて触媒層を作製する場合において、単分散球状炭素多孔体の直径、細孔径、及び比表面積を最適化すると、触媒被毒による性能低下を抑制できる点が記載されている。
【0005】
特許文献2には、触媒粒子と、前記触媒粒子の表面を被覆する含窒素炭素膜とを備え、前記含窒素炭素膜は、マイクロ孔を含む電極触媒が開示されている。
同文献には、このような電極触媒は、触媒粒子の表面がポリドーパミン由来の炭素膜で被覆された電極触媒に比べて初期活性及び耐久性が向上する点が記載されている。
【0006】
特許文献3には、触媒粒子と、前記触媒粒子の表面を被覆する炭素膜とを備え、前記触媒粒子の単位表面積当たりの塩化物イオンの含有量が12.5μg/m2未満である電極触媒が開示されている。
同文献には、触媒粒子の表面が有機物由来の炭素膜で被覆されている電極触媒を洗浄すると、触媒粒子表面に吸着している塩化物イオンが除去されるために、洗浄なしの電極触媒に比べて初期活性が向上する点が記載されている。
【0007】
特許文献1に記載されているように、炭素多孔体の細孔内に触媒粒子を担持させると、触媒被毒による性能低下をある程度抑制することができる。しかしながら、炭素多孔体の細孔径が過度に大きくなると、触媒被毒による性能低下が生じる場合がある。これは、細孔径が大きくなるほど、細孔内にアイオノマが侵入しやすくなるためと考えられる。
【0008】
一方、特許文献2、3には、中実担体の外表面に触媒粒子が担持されている場合において、触媒粒子の表面を含窒素炭素膜又は炭素膜で被覆すると、電極触媒の性能が向上する点が記載されている。
しかしながら、相対的に大きな細孔径を持つ多孔質担体表面に触媒粒子を担持させた電極触媒において、低湿度環境下における性能低下を抑制することが可能な方法が提案された例は、従来にはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第7116564号公報
【特許文献2】特開2022-142887号公報
【特許文献3】特開2020-136109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、低湿度環境下における性能低下が少ない電極触媒及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明に係る電極触媒は、
細孔径が6nm超20nm以下である多孔質担体と、
前記多孔質担体の細孔内に担持された触媒粒子と、
前記細孔内に充填された炭素と
を備え、
後述する式(1)で表される相対炭素充填量Wが0g/mL超0.23g/mL未満である。
【0012】
本発明に係る電極触媒の製造方法は、
細孔径が6nm超20nm以下である多孔質担体の細孔内に触媒粒子が担持された触媒前駆体Aを準備する第1工程と、
炭素源を含む液状炭素前駆体を準備し、前記触媒前駆体Aの細孔容量の1.5倍以下の前記液状炭素前駆体を前記触媒前駆体Aに滴下し、前記細孔内に前記液状炭素前駆体が充填された触媒前駆体Bを得る第2工程と、
前記触媒前駆体Bを熱処理し、前記細孔内に前記炭素源が固定された触媒前駆体Cを得る第3工程と、
前記触媒前駆体Cを、非酸化雰囲気中、500℃以上1000℃以下の温度で熱処理し、前記炭素源を炭化させる第4工程と
を備えている。
【発明の効果】
【0013】
細孔径が6nmを超える多孔質担体に触媒粒子を担持させた電極触媒を用いて触媒層を作製した場合、低湿度環境下における性能低下が起きやすい。これは、アイオノマが細孔内に侵入し、細孔内にある触媒粒子を被毒するためと考えられる。
これに対し、細孔径が6nmを超える多孔質担体の細孔内に触媒粒子を担持させた後、細孔内に炭素を充填すると、低湿度環境下における性能低下が抑制される。これは、細孔内に充填された炭素が細孔内へのアイオノマの侵入を抑制しているためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1、2、及び、比較例2で得られた電極触媒の相対炭素充填量である。
【
図2】実施例1、2、及び、比較例1、2で得られた電極触媒の温度:82℃、湿度:30%RHでのIR補正電圧:0.84Vにおける質量活性である。
【
図3】実施例1、2、及び、比較例1、2で得られた電極触媒の温度:60℃、湿度:80%RHでのIR補正電圧:0.84Vにおける質量活性である。
【0015】
【
図4】相対炭素充填量と、温度:82℃、湿度:30%RHでのIR補正電圧:0.84Vにおける質量活性と、温度:60℃、湿度:80%RHでのIR補正電圧:0.84Vにおける質量活性との関係を示す図である。
【
図5】実施例1、2、及び、比較例1、2で得られた電極触媒の白金の電気化学有効表面積である。
【0016】
【
図6】実施例1、2、及び、比較例1、2で得られた電極触媒の温度:82℃、湿度:30%RHでの触媒層プロトン移動抵抗である。
【
図7】実施例1、及び、比較例3、4で得られたセルの性能比である。
【
図8】空気極触媒担体のモード直径に対する温度:82℃、湿度:30%RHでのIR補正電圧:0.84Vにおける質量活性である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[構成1]
細孔径が6nm超20nm以下である多孔質担体と、
前記多孔質担体の細孔内に担持された触媒粒子と、
前記細孔内に充填された炭素と
を備え、
次の式(1)で表される相対炭素充填量Wが0g/mL超0.23g/mL未満である
電極触媒。
W=R1/{V×(100/R2)} …(1)
但し、
R1は、前記多孔質担体の質量あたりの炭素充填量[g/g]、
Vは、前記多孔質担体の細孔内に前記触媒粒子が担持された触媒前駆体Aの細孔容量[mL/g]、
R2は、前記触媒前駆体Aに含まれる前記多孔質担体の質量比率[%]。
【0018】
[構成2]
前記多孔質担体の細孔容量は、0.05mL/g以上2.0mL/g以下である構成1に記載の電極触媒。
【0019】
[構成3]
前記多孔質担体の平均粒径は、20nm以上500nm以下である構成1又は2に記載の電極触媒。
【0020】
[構成4]
細孔径が6nm超20nm以下である多孔質担体の細孔内に触媒粒子が担持された触媒前駆体Aを準備する第1工程と、
炭素源を含む液状炭素前駆体を準備し、前記触媒前駆体Aの細孔容量の1.5倍以下の前記液状炭素前駆体を前記触媒前駆体Aに滴下し、前記細孔内に前記液状炭素前駆体が充填された触媒前駆体Bを得る第2工程と、
前記触媒前駆体Bを熱処理し、前記細孔内に前記炭素源が固定された触媒前駆体Cを得る第3工程と、
前記触媒前駆体Cを、非酸化雰囲気中、500℃以上1000℃以下の温度で熱処理し、前記炭素源を炭化させる第4工程と
を備えた電極触媒の製造方法。
【0021】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 電極触媒]
本発明に係る電極触媒は、
細孔径が6nm超20nm以下である多孔質担体と、
前記多孔質担体の細孔内に担持された触媒粒子と、
前記細孔内に充填された炭素と
を備えている。
【0022】
[1.1. 多孔質担体]
[1.1.1. 材料]
多孔質担体の材料は、導電性材料である限りにおいて、特に限定されない。多孔質担体の材料としては、例えば、
(a)メソポーラスカーボンなどの多孔質カーボン、
(b)SnO2、不定比酸化チタン(TiOx)などの導電性を有する金属酸化物又は複合金属酸化物からなる多孔質導電性酸化物
などがある。
【0023】
[1.1.2. 細孔径]
「細孔径」とは、モード直径、すなわち、多孔質担体の窒素吸着等温線の吸着側のデータをBJH法で解析することにより得られる、細孔容量が最大となるときの細孔径(最頻出ピーク値)をいう。
【0024】
細孔径が6nmを超える多孔質担体は、通常、低湿度環境下における性能低下が起きやすい。これは、
(a)細孔内にアイオノマが侵入し、細孔内に担持された触媒粒子がアイオノマにより被毒されるため、及び、
(b)細孔外のアイオノマが不足し、電極厚さ方向のプロトン伝導パスのつながりが悪くなるため
と考えられる。
これに対し、細孔径が6nmを超える多孔質担体に本発明を適用すると、低湿度環境下における性能低下が抑制される。これは、多孔質担体の細孔内に適量の炭素を充填することによって、細孔内にアイオノマが侵入しにくくなるためと考えられる。細孔径は、8nm以上、あるいは、10nm以上であっても良い。
【0025】
但し、細孔径が大きくなりすぎると、熱処理時に炭素源の分解や気化が生じやすくなり、炭化率が低下し、アイオノマ侵入抑制に必要な量の炭素を充填できない場合がある。従って、細孔径は、20nm以下である必要がある。細孔径は、好ましくは、18nm以下、16nm以下、あるいは、14nm以下である。
【0026】
[1.1.3. 細孔容量]
多孔質担体の「細孔容量」とは、多孔質担体について測定された窒素吸着等温線において、P/P0=0~0.95であるときの窒素の吸収量から算出された細孔の体積をいう。
【0027】
多孔質担体の細孔容量が小さくなりすぎると、細孔内に触媒粒子を担持するのが困難となる。従って、細孔容量は、0.05mL/g以上が好ましい。細孔容量は、さらに好ましくは、0.10mL/g以上、あるいは、0.50mL/g以上である。
一方、細孔容量が大きくなりすぎると、多孔質担体の体積に占める細孔壁の体積の割合が小さくなる。その結果、細孔構造の強度が低下し、耐久上、問題となる場合がある。従って、細孔容量は、2.0mL/g以下が好ましい。細孔容量は、さらに好ましくは、1.8mL/g以下、あるいは、1.6mL/g以下である。
【0028】
[1.1.4. 平均粒径]
多孔質担体の「粒径」とは、SEM観察下において測定された、多孔質担体を構成する個々の1次粒子の短軸方向の長さをいう。
多孔質担体の「平均粒径」とは、無作為に選択された50個以上の1次粒子の粒径の平均値をいう。
【0029】
多孔質担体の平均粒径が小さくなりすぎると、多孔質担体間の隙間が小さくなり、反応ガス(水素や酸素)の移動抵抗が大きくなる場合がある。また、反応で生じる水の排水性が低下することで、電池性能が低下する場合がある。従って、平均粒径は、20nm以上が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、50nm以上、あるいは、75nm以上である。
【0030】
一方、多孔質担体の平均粒径が大きくなりすぎると、多孔質担体内部のプロトンや反応ガス(水素や酸素)の移動距離が長くなり、移動抵抗が大きくなる場合がある。また、反応で生じる水の排水性が低下することで、電池性能が低下する場合がある。従って、平均粒径は、500nm以下が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、400nm以下、300nm以下、あるいは、200nm以下である。
【0031】
[1.1.5. 構造]
多孔質担体は、孤立した粒子であっても良く、あるいは、多孔質の一次粒子が連結している構造を備えているものでも良い。
多孔質担体は、特に、多孔質の一次粒子が数珠状に連結している構造(以下、これを「連珠状構造」ともいう)を備えているものが好ましい。連珠状構造を備えた多孔質担体を用いて電極触媒を作製し、これを用いて触媒層を形成すると、触媒層内に多量の空隙を導入することができる。その結果、反応ガスの移動抵抗が小さくなり、あるいは、水の排水性が向上する。
【0032】
[1.2. 触媒粒子]
[1.2.1. 担持場所]
触媒粒子は、少なくとも、多孔質担体の細孔内に担持されている。触媒粒子は、多孔質担体の細孔内に加えて、多孔質担体の外表面に担持されていても良い。アイオノマによる触媒粒子の被毒を抑制するためには、多孔質担体の細孔内に担持されている触媒粒子の割合は、大きいほど良い。
【0033】
[1.2.2. 材料]
本発明において、触媒粒子の材料は、酸素還元反応活性又は水素酸化反応活性を示す材料である限りにおいて、特に限定されない。触媒粒子の材料としては、例えば、
(a)貴金属(Pt、Au、Ag、Pd、Rh、Ir、Ru、Os)、
(b)2種以上の貴金属元素を含む合金、
(c)1種又は2種以上の貴金属元素と、1種又は2種以上の卑金属元素(例えば、Fe、Co、Ni、Cr、V、Tiなど)とを含む合金、
(d)金属酸窒化物、
(e)カーボンアロイ
などがある。
【0034】
[1.2.3. 平均粒径]
触媒粒子の「平均粒径」とは、顕微鏡観察下において無作為に選択された20個以上の触媒粒子について測定された、触媒粒子の最大寸法の平均値をいう。
【0035】
触媒粒子の平均粒径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な平均粒径を選択することができる。一般に、触媒粒子の平均粒径が小さすぎると、触媒粒子が溶解しやすくなる。従って、平均粒径は、1nm以上が好ましい。
一方、触媒粒子の平均粒径が大きくなりすぎると、質量活性が低下する。従って、触媒粒子の平均粒径は、20nm以下が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、10nm以下、あるいは、5nm以下である。
【0036】
[1.2.4. 担持量]
触媒粒子の「担持量」とは、多孔質担体及び触媒粒子の総質量に対する触媒粒子の質量の割合をいう。
【0037】
本発明において、触媒粒子の担持量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な担持量を選択することができる。一般に、触媒粒子の担持量が少なくなりすぎると、所定の目付量を得るために必要な触媒層の厚さが厚くなり、触媒層の電子抵抗、プロトン抵抗、及び/又は、ガス拡散抵抗が増大する場合がある。従って、触媒粒子の担持量は、5mass%以上が好ましい。担持量は、さらに好ましくは、10mass%以上、あるいは、15mass%以上である。
【0038】
一方、触媒粒子の担持量が過剰になると、担体表面において触媒粒子が凝集し、かえって電極触媒の活性が低下する場合がある。従って、触媒粒子の担持量は、60mass%以下が好ましい。担持量は、さらに好ましくは、50mass%以下、あるいは、40mass%以下である。
【0039】
[1.3. 細孔内に充填された炭素]
[1.3.1. 機能]
本発明に係る電極触媒において、細孔内には、炭素が充填されている。この点が従来とは異なる。
細孔内に充填された炭素は、細孔内に担持された触媒粒子の表面を適度に被覆し、アイオノマの酸基が触媒粒子表面に吸着するのを防ぐためのものである。このような炭素を含む燃料電池触媒は、触媒粒子を担持した多孔質担体の細孔内に炭素源を充填し、炭素源を炭化させることにより得られる。炭素の充填方法の詳細については、後述する。
【0040】
[1.3.2. 相対炭素充填量]
「相対炭素充填量」とは、多孔質担体の質量あたりの細孔の容積(すなわち、多孔質担体の細孔容量)に対する、多孔質担体の質量あたりの炭素充填量をいう。
より具体的には、「相対炭素充填量」とは、次の式(1)で表される値をいう。
W=R1/{V×(100/R2)} …(1)
但し、
R1は、前記多孔質担体の質量あたりの炭素充填量[g/g]、
Vは、前記多孔質担体の細孔内に前記触媒粒子が担持された触媒前駆体Aの細孔容量[mL/g]、
R2は、前記触媒前駆体Aに含まれる前記多孔質担体の質量比率[%]。
【0041】
「炭素充填量」とは、触媒粒子を担持した多孔質担体(触媒前駆体A)に新に導入された炭素の総質量をいう。
「多孔質担体の質量あたりの炭素充填量」とは、炭素充填量を、触媒前駆体Aに含まれる多孔質担体の総質量で除した値をいう。
後述する方法を用いて多孔質担体に炭素を導入する場合において、過剰の炭素源を用いた時には、生成した炭素の一部が多孔質担体の外表面に存在する場合がある。本発明において、「炭素充填量」というときは、多孔質担体の細孔内に充填された炭素だけでなく、多孔質担体の外表面に付着している炭素も含まれる。
【0042】
一般に、相対炭素充填量が多くなるほど、細孔内に担持された触媒粒子がアイオノマで被毒されにくくなるために、質量活性が向上する。このような効果を得るためには、相対炭素充填量は、0g/mL超である必要がある。相対炭素充填量は、好ましくは、0.01g/mL以上、0.02g/mL以上、あるいは、0.03g/mL以上である。
【0043】
一方、相対炭素充填量が過剰になると、触媒粒子の表面を被覆する炭素が厚くなるために、質量活性がかえって低下する場合がある。従って、相対炭素充填量は、0.23g/mL未満である必要がある。相対炭素充填量は、好ましくは、0.21g/mL以下、0.175g/mL以下、0.150g/mL以下、0.125g/mL以下、あるいは、0.120g/mL以下である。
【0044】
[2. 電極触媒の製造方法]
本発明に係る電極触媒の製造方法は、
細孔径が6nm超20nm以下である多孔質担体の細孔内に触媒粒子が担持された触媒前駆体Aを準備する第1工程と、
炭素源を含む液状炭素前駆体を準備し、前記触媒前駆体Aの細孔容量の1.5倍以下の前記液状炭素前駆体を前記触媒前駆体Aに滴下し、前記細孔内に前記液状炭素前駆体が充填された触媒前駆体Bを得る第2工程と、
前記触媒前駆体Bを熱処理し、前記細孔内に前記炭素源が固定された触媒前駆体Cを得る第3工程と、
前記触媒前駆体Cを、非酸化雰囲気中、500℃以上1000℃以下の温度で熱処理し、前記炭素源を炭化させる第4工程と
を備えている。
【0045】
[2.1. 第1工程]
まず、細孔径が6nm超20nm以下である多孔質担体の細孔内に触媒粒子が担持された触媒前駆体Aを準備する(第1工程)。
【0046】
[2.1.1. 多孔質担体]
多孔質担体は、市販の材料をそのまま用いても良く、あるいは、種々の方法を用いて製造されたものでも良い。
【0047】
例えば、メソポーラスカーボンは、
(a)メソポーラスシリカを準備し、
(b)メソポーラスシリカの細孔内にカーボンを析出させて、シリカ/カーボン複合体を作製し、
(c)シリカ/カーボン複合体からシリカを除去する
ことにより製造することができる(例えば、参考文献1、2参照)。
[参考文献1]特開2022-154694号公報
[参考文献2]特開2021-084852号公報
【0048】
また、多孔質導電性酸化物は、
(a)メソポーラスカーボンを準備し、
(b)メソポーラスカーボンの細孔内に導電性酸化物を析出させて、カーボン/導電性酸化物複合体を作製し、
(c)カーボン/導電性酸化物複合体からカーボンを除去する
ことにより製造することができる(例えば、参考文献3参照)。
[参考文献3]特開2022-077821号公報
【0049】
メソポーラスシリカは、シリカ源、界面活性剤、及び、触媒を含む反応溶液中においてシリカ源を重縮合させることにより製造することができる。この場合において、反応溶液に含まれる原料の種類や濃度を制御すると、メソポーラスシリカの細孔壁の厚さや細孔径を制御することができる。
【0050】
メソポーラスシリカを鋳型に用いてメソポーラスカーボンを製造する場合において、メソポーラスシリカの細孔壁の厚さは、メソポーラスカーボンの細孔径と強い相関がある。
また、メソポーラスシリカを第1鋳型に用いてメソポーラスカーボンを製造し、得られたメソポーラスカーボンを第2鋳型に用いて多孔質導電性酸化物を製造する場合において、メソポーラスシリカの細孔径は、多孔質導電性酸化物の細孔径と強い相関がある。
そのため、メソポーラスシリカを鋳型に用いてメソポーラスカーボン又は多孔質導電性酸化物を製造する場合において、メソポーラスシリカの製造条件を最適化すると、細孔径が6nm超20nm以下である多孔質担体を得ることができる。
【0051】
[2.1.2. 触媒粒子の担持]
多孔質担体への触媒粒子の担持方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。
例えば、多孔質担体とPt前駆体とを溶媒に分散させ、分散液に還元剤を添加すると、多孔質担体の表面にPt微粒子を担持させることができる。
【0052】
[2.2. 第2工程]
次に、炭素源を含む液状炭素前駆体を準備し、前記触媒前駆体Aの細孔容量の1.5倍以下の前記液状炭素前駆体を前記触媒前駆体Aに滴下する(第2工程)。これにより、前記細孔内に前記液状炭素前駆体が充填された触媒前駆体Bが得られる。
【0053】
[2.2.1. 液状炭素前駆体]
「液状炭素前駆体」とは、
(a)液体の炭素源、
(b)液体の炭素源を溶媒で希釈した溶液、又は、
(c)固体の炭素源を溶媒に溶解させた溶液
をいう。
【0054】
「炭素源」とは、熱分解によって炭素を生成可能なものをいう。このような炭素源としては、具体的には、
(1) 常温で液体であり、かつ、熱重合性のポリマー前駆体(例えば、フルフリルアルコール、アニリン等)、
(2) 炭水化物の水溶液と酸の混合物(例えば、スクロース(ショ糖)、キシロース(木糖)、グルコース(ブドウ糖)などの単糖類、あるいは、二糖類、多糖類と、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸などの酸との混合物)、
(3) 2液硬化型のポリマー前駆体の混合物(例えば、フェノールとホルマリン等)、
などがある。
【0055】
溶媒は、炭素源を希釈又は溶解させることができ、かつ、多孔質担体の細孔内に液状炭素前駆体を導入することが可能なものであれば良い。例えば、多孔質担体の表面が親水性である場合、炭素源を希釈又は溶解させる溶媒には、親水性溶媒を用いるのが好ましい。一方、多孔質担体の表面が疎水性である場合、炭素源を希釈又は溶解させる溶媒には、疎水性溶媒を用いるのが好ましい。
【0056】
炭素源を溶媒で希釈又は溶解させる場合、溶液中の炭素源の濃度は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な濃度を選択することができる。一般に、溶液中の炭素源の濃度が低くなるほど、1回の充填で細孔内に導入される炭素量を少なくすることができる。そのため、熱分解によって相対的に多量の炭素を生成させる物質を炭素源として用いる場合、炭素源を適量の溶媒で希釈するのが好ましい。
【0057】
[2.2.2. 滴下量]
「触媒前駆体A」とは、細孔径が6nm超20nm以下である多孔質担体の細孔内に触媒粒子が担持されているもの(すなわち、炭素充填前の電極触媒)をいう。
触媒前駆体Aの「細孔容量」とは、触媒前駆体Aについて測定された窒素吸着等温線において、P/P0=0~0.95であるときの窒素の吸収量から算出された細孔の体積をいう。
【0058】
液状炭素前駆体を触媒前駆体Aに滴下すると、細孔内に液状炭素前駆体が充填された触媒前駆体Bが得られる。この場合において、液状炭素前駆体の滴下量が少なくなりすぎると、細孔内に充填される液状炭素前駆体の量(すなわち、細孔内に充填される炭素の量)が過度に少なくなる場合がある。従って、液状炭素前駆体の滴下量は、触媒前駆体Aの細孔容量の0.1倍以上が好ましい。滴下量は、さらに好ましくは、触媒前駆体Aの細孔容量の0.3倍以上、あるいは、0.5倍以上である。
【0059】
一方、液状炭素前駆体の滴下量が過剰になると、細孔内に過剰の炭素が充填され、電極触媒の質量活性が低下する場合がある。また、過剰の炭素が細孔外に析出する場合もある。従って、液状炭素前駆体の滴下量は、触媒前駆体Aの細孔容量の1.5倍以下が好ましい。滴下量は、さらに好ましくは、触媒前駆体Aの細孔容量の1.3倍以下、1.1倍以下、あるいは、1.0倍以下である。
【0060】
[2.3. 第3工程]
次に、前記触媒前駆体Bを熱処理する(第3工程)。これにより、前記細孔内に前記炭素源が固定された触媒前駆体Cが得られる。
【0061】
熱処理は、炭素源を重合させ、不揮発性の化合物に変換するために行われる。熱処理条件は、炭素源を重合させることが可能な条件である限りにおいて、特に限定されない。最適な熱処理条件は、炭素源の種類により異なる。
例えば、炭素源としてフルフリルアルコールを用いた場合、触媒前駆体Bを110℃~130℃で5~15時間加熱するのが好ましい。
また、炭素源としてショ糖と硫酸の混合物を用いる場合、90℃~110℃で1~3時間加熱し、次いで、150℃~170℃で5~7時間加熱するのが好ましい。
【0062】
[2.4. 第4工程]
次に、前記触媒前駆体Cを、非酸化雰囲気中、500℃以上1000℃以下の温度で熱処理し、前記炭素源を炭化させる(第4工程)。これにより、本発明に係る燃料電池触媒が得られる。
【0063】
熱処理は、炭素の酸化を抑制するために、非酸化雰囲気中において行う必要がある。「非酸化雰囲気中」とは、
(a)N2、Arなどの不活性ガス雰囲気中、又は、
(b)真空中
をいう。
【0064】
加熱温度が低すぎると、炭素源の炭化が不十分となる。従って、加熱温度は、500℃以上である必要がある。加熱温度は、好ましくは、550℃以上、あるいは、600℃以上である。
一方、加熱温度が高くなりすぎると、触媒粒子が凝集又は粗大化し、触媒反応面積が低下する場合がある。従って、加熱温度は、1000℃以下である必要がある。加熱温度は、好ましくは、900℃以下、あるいは、800℃以下である。
【0065】
なお、1回の炭素源の充填、固定、及び、炭化で細孔内に十分な量の炭素を充填することができないときは、充填(第2工程)、固定(第3工程)、及び、炭化(第4工程)を複数回繰り返しても良い。
【0066】
[3. 作用]
細孔径が6nmを超える多孔質担体に触媒粒子を担持させた電極触媒を用いて触媒層を作製した場合、低湿度環境下における性能低下が起きやすい。これは、アイオノマが細孔内に侵入し、細孔内にある触媒粒子を被毒するためと考えられる。
これに対し、細孔径が6nmを超える多孔質担体の細孔内に触媒粒子を担持させた後、細孔内に炭素を充填すると、低湿度環境下における性能低下が抑制される。これは、細孔内に充填された炭素が細孔内へのアイオノマの侵入を抑制しているためと考えられる。
【0067】
一般に、低湿度であるほど、触媒粒子表面にアイオノマの酸基が吸着しやすくなる。そのため、低湿度であるほど、炭素充填による触媒粒子への酸基吸着の抑制効果が高い。
さらに、触媒粒子が担持された多孔質担体の細孔内に炭素を充填した場合において、相対炭素充填量を最適化すると、高加湿条件下における性能低下も抑制される。そのため、本発明に係る電極触媒は、低湿度環境から高湿度環境までの幅広い湿度環境下、あるいは、幅広い電流密度域において高い性能を示す。
【実施例0068】
(実施例1~2、比較例1~8)
[1. 試料の作製]
[1.1. 電極触媒の作製]
[1.1.1. 実施例1]
触媒前駆体Aには、細孔径7.7nmの多孔質カーボンにPtが担持された白金担持カーボン(Pt担持量:40mass%)を用いた。
液状炭素前駆体には、ショ糖を0.25Mの硫酸水溶液に溶解させたショ糖溶液(ショ糖量:30mass%)を用いた。
【0069】
触媒前駆体Aに液状炭素前駆体を滴下し、細孔内に液状炭素前駆体を充填し、触媒前駆体Bを得た。液状炭素前駆体の滴下量は、予め求めておいた触媒前駆体Aの細孔容量と同量とした。
次に、触媒前駆体Bに対し、炭素源を固定するための熱処理を行い、触媒前駆体Cを得た。炭素源を固定するための熱処理は、触媒前駆体Bを大気中、100℃で2時間加熱し、さらに160℃に昇温して6時間加熱することにより行った。
次に、触媒前駆体Cに対し、炭素源を炭化するための熱処理を行い、電極触媒を得た。炭化のための熱処理は、触媒前駆体Cを窒素フロー(1L/min)下で、550℃で6時間加熱し、さらに700℃に昇温して6時間加熱することにより行った。
【0070】
[1.1.2. 実施例2]
触媒前駆体Aには、実施例1と同一の白金担持カーボンを用いた。
液状炭素前駆体には、フルフリルアルコール(FA)を水で希釈したFA溶液(FA量:30vol%)を用いた。
【0071】
触媒前駆体Aに液状炭素前駆体を滴下し、細孔内に液状炭素前駆体を充填し、触媒前駆体Bを得た。液状炭素前駆体の滴下量は、予め求めておいた触媒前駆体Aの細孔容量と同量とした。
次に、触媒前駆体Bに対し、炭素源を固定するための熱処理を行い、触媒前駆体Cを得た。炭素源を固定するための熱処理は、触媒前駆体Bを大気中、120℃で10時間加熱することにより行った。
次に、触媒前駆体Cに対し、炭素源を炭化するための熱処理を行い、電極触媒を得た。炭化のための熱処理条件は、実施例1と同一とした。
【0072】
[1.1.3. 比較例1]
実施例1で用いた炭素未充填の白金担持カーボンをそのまま試験に供した。
【0073】
[1.1.4. 比較例2]
液状炭素前駆体として、FAを水で希釈したFA溶液(FA量:50vol%)を用いた以外は、実施例2と同様にして、炭素源の充填、固定、及び、炭化を行い、電極触媒を得た。
【0074】
[1.1.5. 比較例3]
特許文献3の実施例3と同様にして、中実カーボン担体の表面にPtが担持されており、さらにPtの表面がドーパミン由来の炭素膜で被覆された電極触媒を作製した。
【0075】
[1.1.6. 比較例4]
特許文献2の実施例1と同様にして、中実カーボン担体の表面にPtが担持されており、さらにPtの表面がドーパミン及びポリメラミン由来の含窒素炭素膜で被覆された電極触媒を作製した。
【0076】
[1.1.7. 比較例5~8]
特許文献1の実施例1と同様にして、細孔径が3.8nmである単分散球状炭素多孔体を作製した。これにPtを担持させ、電極触媒を得た(比較例5)。
特許文献1の実施例2と同様にして、細孔径が4.8nmである単分散球状炭素多孔体を作製した。これにPtを担持させ、電極触媒を得た(比較例6)。
特許文献1の比較例1と同様にして、細孔径が7.8nmである単分散球状炭素多孔体を作製した。これにPtを担持させ、電極触媒を得た(比較例7)。
特許文献1の比較例2と同様にして、細孔径が9.9nmである単分散球状炭素多孔体を作製した。これにPtを担持させ、電極触媒を得た(比較例8)。
【0077】
[1.2. 膜電極接合体(MEA)の作製]
炭素を充填した電極触媒又は炭素未充填の電極触媒を用いて、空気極触媒層を作製した。アイオノマには、ナフィオン(登録商標)溶液(D2020)を用いた。電極触媒に含まれるカーボン量(C)に対するアイオノマ量(I)の比(I/C)は、1.3とした。
また、市販の白金担持カーボンと、ナフィオン(登録商標)溶液(D2020)を用いて、燃料極触媒層を作製した。
電解質膜(ナフィオン(登録商標)膜、NR211)の両面に、空気極触媒層及び燃料極触媒層をホットプレスにより接合し、MEAを得た。表1に、実施例1~2及び比較例1~2で得られた空気極触媒層のPt目付量及び液状炭素前駆体の種類を示す。
【0078】
【0079】
[2. 試験方法]
[2.1. 炭素充填量の測定]
電極触媒の炭素充填量を求めるため、空気フロー(100mL/min)下、昇温速度:10℃/minで室温から900℃までTG測定を行った。さらに、以下の式(1)~式(6)を用いて炭素充填量(W1)を算出した。
得られた炭素充填量(W1)を多孔質カーボンの質量で除すことで「多孔質担体の質量あたりの炭素充填量」を算出し、さらにこれを多孔質カーボンの細孔容量で除すことで、相対炭素充填量(g/mL)を算出した。
【0080】
炭素充填量(W1)=W2-W3-W4-W5 …(1)
試料質量(W2)=炭素を充填した電極触媒の総質量 …(2)
水分量(W3)=TG減少量@200℃ …(3)
Pt質量(W4)=W2-TG減少量@900℃ …(4)
カーボン担体の質量(W5)=W4×(100-R)/R …(5)
R=炭素未充填の電極触媒のPt担持率(%) …(6)
【0081】
[2.2. 電極特性及びセル性能の評価]
MEAを電極面積:1cm2のセルにセットし、評価ベンチに組み付けた。さらに、以下の手順で電極特性及びセル性能を評価した。
(1)温度:60℃、湿度:80%RHでの慣らし運転、及び、質量活性評価
(2)温度:82℃、湿度:30%RHでの質量活性評価
(3)温度:60℃、湿度:80%RHでのPtの電気化学有効表面積評価、及び、触媒層プロトン移動抵抗評価
(4)温度:82℃、湿度:30%RHでのPtの電気化学有効表面積評価、及び、触媒層プロトン移動抵抗評価
以下に、各評価の詳細を記す。
【0082】
[2.2.1. 質量活性評価]
I-V特性を評価し、0.84V(IR補正電圧)における電流値をPt目付量で除することで質量活性を求めた。測定条件は、以下の通りである。
空気極: Air、2L/min、大気圧+50kPa
燃料極: H2、0.5L/min、大気圧+30kPa
電圧掃引: 10mV/s、0~1.0V
【0083】
[2.2.2. Ptの電気化学有効表面積(ECSA)評価]
サイクリックボルタモグラム(CV)の測定を行い、水素脱離の電気量を単位白金面積あたりの水素吸脱着の電気量(210μC/cm2)で除することでPtのECSAを求めた。測定条件は、以下の通りである。
空気極: N2、1L/min、大気圧、
燃料極: 10%H2/N2、1L/min、大気圧
電圧掃引: 50mV/s、115~1000mV vs RHE
【0084】
[2.2.3. 触媒層プロトン移動抵抗評価]
交流インピーダンス法で、周波数に対するインピーダンスを測定し、Nyquistプロットから触媒層内のプロトン移動抵抗を求めた。測定条件は、以下の通りである。
空気極: N2、1000mL/min、大気圧
燃料極: 10%H2/N2、1000mL/min、大気圧
電位: 400mV vs RHE
周波数: 15kHz~1Hz
振幅: 5mV
【0085】
[3. 結果]
[3.1. 相対炭素充填量]
図1に、実施例1、2、及び、比較例2で得られた電極触媒の相対炭素充填量を示す。
図1より、相対炭素充填量の序列は、実施例1<実施例2<比較例2であることが分かる。
【0086】
[3.2. 電極特性及びセル性能の評価]
[3.2.1. 質量活性評価]
図2に、実施例1、2、及び、比較例1、2で得られた電極触媒の温度:82℃、湿度:30%RHでのIR補正電圧:0.84Vにおける質量活性を示す。
図3に、実施例1~2、及び、比較例1~2で得られた電極触媒の温度:60℃、湿度:80%RHでのIR補正電圧:0.84Vにおける質量活性を示す。さらに、
図4に、相対炭素充填量と、温度:82℃、湿度:30%RHでのIR補正電圧:0.84Vにおける質量活性と、温度:60℃、湿度:80%RHでのIR補正電圧:0.84Vにおける質量活性との関係を示す。
【0087】
図2より、実施例1、2の低加湿条件下での質量活性は、炭素未充填の比較例1のそれよりも高いことが分かる。また、
図3より、実施例1、2の高加湿条件下での質量活性は、炭素未充填の比較例1のそれと同等、あるいは、それより少し低い程度であり、炭素充填による顕著な質量活性の低下は見られないことが分かる。
他方、炭素充填量の多い比較例2は、炭素充填による低加湿条件下での質量活性の向上が見られなかった。また、比較例2は、高加湿条件下での質量活性が著しく低下した。
【0088】
図4より、低加湿条件下における質量活性を比較例1と同等以上にするためには、相対炭素充填量を0.21g/mL以下にすれば良いことが分かる。
また、比較例1の高加湿条件下における質量活性をMA
1とし、評価対象の高加湿条件下における質量活性をMA
2とし、高加湿条件下における活性低下率(%)を(MA
1-MA
2)×100/MA
1と定義する。
図4より、高加湿条件下における活性低下率を20%以下にするためには、相対炭素充填量を0.12g/mL以下にすれば良いことが分かる。
【0089】
[3.2.2. Ptの電気化学有効表面積(ECSA)評価]
図5に、実施例1、2、及び、比較例1、2で得られた電極触媒の白金の電気化学有効表面積を示す。
図5より、実施例1、2のECSAは、比較例1のそれと同等であることが分かる。これは、細孔内に炭素を充填しても、細孔内のPtにプロトンが伝導することを示している。
他方、比較例2のECSAは、比較例1のそれより小さくなった。これは、炭素充填量が過剰になると、細孔内のPtにプロトンが伝導しにくくなることを示している。そのため、比較例2は、比較例1に比べて低加湿条件下及び高加湿条件下における質量活性が低かったと考えられる。
【0090】
[3.2.3. 触媒層プロトン移動抵抗評価]
図6に、実施例1、2、及び、比較例1、2で得られた電極触媒の温度:82℃、湿度:30%RHでの触媒層プロトン移動抵抗を示す。
図6より、実施例1、2及び比較例2の触媒層プロトン移動抵抗は、比較例1のそれより低いことが分かる。また、炭素充填量が多くなるほど、触媒層プロトン移動抵抗が低くなることが分かる。炭素充填量が多くなるほど触媒層プロトン抵抗が低くなるのは、炭素充填量が多くなるほど細孔内へのアイオノマの侵入が抑制され、多孔質担体外周部のアイオノマが増えるためと考えられる。
【0091】
[3.2.4. 相対性能]
図7に、実施例1、及び、比較例3、4で得られたセルの性能比を示す。ここで、「性能比」とは、実施例1のセル性能に対する比較例3、4のセル性能の比を表す。
また、「セル性能」は、
(a)温度:82℃、湿度:30%RHでのIR補正電圧:0.84Vにおける質量活性(MA-30%RH)、若しくは、電流密度(CD-30%RH)、又は、
(b)温度:60℃、湿度:80%RHでのIR補正電圧:0.84Vにおける質量活性(MA-80%RH)、若しくは、電流密度(CD-80%RH)
をいう。
【0092】
図7より、比較例3、4の30%RHのMAは、いずれも、実施例1のそれより高いが、その他のセル性能は、いずれも、実施例1より低いことが分かる。
図7より、本発明に係る電極触媒は、比較例3、4に比べて、低湿度から高湿度までの幅広い湿度域、及び、幅広い電流密度域で高い性能を示すといえる。
【0093】
[3.2.5. 質量活性に及ぼす細孔径の影響]
図8に、空気極触媒担体のモード直径に対する温度:82℃、湿度:30%RHでのIR補正電圧:0.84Vにおける質量活性を示す。ここで、
図8の横軸は、触媒担体の細孔径(窒素吸着測定のBJH解析で求めた細孔径分布のモード直径)を表す。
図8より、炭素充填を行わない場合において、細孔径が大きくなるほど、MAが低下することが分かる。これは、炭素充填を行わない場合、細孔径が大きいほど細孔内に侵入するアイオノマ量が増加するためと考えられる。また、これによってアイオノマで被毒されるPtの割合(すなわち、触媒活性が低下するPtの割合)が増えるためと考えられる。
【0094】
以上の結果から、細孔径が大きい担体の細孔内に単にPtを担持するだけでは、低湿度環境下における質量活性が低下することが分かった。
一方、細孔径が大きい担体の細孔内にPtを担持し、細孔内に適量の炭素を充填すると、アイオノマ被毒による活性低下が抑制され、細孔径が大きい担体の利用が可能になることが分かった。
【0095】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。