(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178069
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】一酸化炭素を製造する方法、合成ガスまたはそれを用いた化学製品の製造方法、および、反応装置
(51)【国際特許分類】
C01B 32/40 20170101AFI20241217BHJP
C01B 3/26 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C01B32/40
C01B3/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096631
(22)【出願日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】000139735
【氏名又は名称】株式会社伊原工業
(74)【代理人】
【識別番号】100180057
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】伊原 良碩
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 涼太
【テーマコード(参考)】
4G140
4G146
【Fターム(参考)】
4G140DA03
4G146JA01
4G146JB04
4G146JB05
4G146JC01
(57)【要約】
【課題】 水の生成懸念が少ない新規の一酸化炭素製造方法、ならびに、一酸化炭素と水素とを任意のH
2/CO比で製造する方法および小型装置を提供する。
【解決手段】 下記(1)式および(2)式で表される反応を実質的に無水環境下で逐次進行させることにより、反応系から水を副生せずにH2とCOを別々に生成させることができる、一酸化炭素の製造方法である。モル流量調整により一定比率で混合すれば任意のH
2/CO比で合成ガスを製造する方法になる。メタン熱分解反応の触媒作用を有する構造体触媒を収容した反応炉と該反応炉のガス排出口に接続した流路上にCO検知器とを備えた反応装置も提供される。
CH4→C+2H2・・・・(1)
C+CO2→2CO・・・・(2)
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)式および(2)式で表される反応を実質的に無水環境下で逐次進行させることを含む、一酸化炭素または一酸化炭素と水素とを製造する方法。
CH4→C+2H2・・・・(1)
C+CO2→2CO・・・・(2)
【請求項2】
二酸化炭素(CO2)が二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術で貯留したCO2である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(1)式の反応が、メタン熱分解反応の触媒作用を有する触媒を用いて行われ、前記(2)式の反応が、前記(1)式の反応で生成した炭素の存在下で行われる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法で得られた水素と一酸化炭素とをモル流量調整により一定比率で混合することを含む合成ガスまたはそれを用いた化学製品の製造方法。
【請求項5】
さらに再生可能エネルギー由来の水素を加えてH2/CO比を調整することを含む請求項4に記載の合成ガスまたはそれを用いた化学製品の製造方法。
【請求項6】
メタン熱分解反応の触媒作用を有する構造体触媒を収容した反応炉と該反応炉のガス排出口に接続した流路上にCO検知器とを備えた反応装置。
【請求項7】
反応炉がガス供給口とガス排出口とを1つずつ備え、さらにガス供給口への供給路を切り替える供給側三方弁と、ガス排出口からの排出路を切り替える排出側三方弁とを備えた請求項6に記載の装置。
【請求項8】
反応炉からの水素および/またはCOの排出を管理する排出側弁を備え、排出側弁より反応炉のガス排出口に近い位置に、反応炉に残留するガスを大気放出可能な主弁、または、水素またはCOの各流路とは別の流路に逃がすことが可能な主弁を設けた請求項6に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水の生成懸念が少ない新規の一酸化炭素合成方法および水素と一酸化炭素を製造する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然ガス改質から生成する一酸化炭素と水素とを主成分とする合成ガスは、燃料、合成樹脂、医薬品など様々な合成化合物を作る原料になっている。
合成ガスの生成反応は数多く提案されているが、以下のように生成する合成ガスのH
2/CO比によって適した用途が決まっている。
【0003】
スチームリフォーミング法(SRM、水蒸気改質法)は、合成ガスの製造方法としては最も実用化が進んだ手法といえる。一方、合成燃料やメタノールの製造用途としては合成ガスのH2/CO比が高すぎるため、他の手法と組み合わせてH2/CO比を下げる必要がある。また装置が大型化する問題もある。
【0004】
接触部分酸化法(D-CPOX法)および無触媒部分酸化法(POX法)は、発熱反応であり、投入エネルギーの観点では、理想的な合成ガス製造方法であるとされているが、反応制御が困難であり、熱効率が低く、重質炭化水素や炭素が析出し、連続運転が困難であるという問題がある。
【0005】
昨今、温室効果ガスの原因となるメタンと二酸化炭素を原料にした環境的にもグリーンな改質としてメタンのドライリフォーミングが注目されている(非特許文献1等)。
【0006】
メタン及び二酸化炭素から合成ガスを製造する伝統的ドライリフォーミング反応((3)式)は高温で行われるために、用いられている担持体触媒では担体表面の触媒粒子の凝集や炭素析出によるため触媒活性が低下しやすい等の問題があり、その為に触媒活性の維持が困難であることが知られている(特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。またCO2を原料とする化学品製造の反応では多くのケースで、目的物とともに副生成物として水が発生する。生成物の水素が酸化し水になる逆水性ガスシフト反応((4)式)を主な原因とするものである。
CH4+CO2 → 2CO+2H2 ・・・(3)
CO2+H2 → CO+H2O ・・・・(4)
副生する水は、1)逆反応の進行による平衡転化率の低下、2)触媒と水との反応による触媒の失活(触媒被毒)を引き起こし、反応の効率的な進行を妨げる(非特許文献4)。
【0007】
メタノール合成、あるいはポリカーボネート原料の合成などは、水の副生が課題となる典型的な例である。従って、反応系から副生する水を効率的に除去する反応システム開発は、CO2を原料とする有用化学品製造の基盤技術開発の一つと考えられている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】小河ら、「メタン・二酸化炭素・水素のための触媒」、化学と教育 66 巻 2 号、2018年(URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/66/2/66_68/_pdf)
【非特許文献2】内閣府、「エネルギー・環境分野における有望技術の技術課題に関する包括的調査」報告書、2018年3月(URL: https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/houkokusho.pdf)
【非特許文献3】福原ら、「CH4のドライ改質場と炭素捕集場を併せもつNi系構造体触媒反応システム」、公益社団法人石油学会第66回研究発表会プログラム、2017年5月(URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/sekiyu/2017/0/2017_5/_pdf)
【非特許文献4】内閣府、「CO2 利用に当たってのボトルネック課題及び研究開発の方向性」、18頁、2018年2月(URL: https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/20180221bottleneck.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記現状に鑑み、本発明は、水の生成懸念が少ない新規の一酸化炭素製造方法、一酸化炭素と水素とを製造する方法、ならびに、一酸化炭素と水素とを任意のH2/CO比で製造する方法および小型の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、(3)式のメタンドライフォーミング反応が(1)式、(2)式に分けられることに着目した。
CH4 + CO2 → 2CO + 2H2 ・・・(3)
CH4 → C + 2H2・・・・(1)
C + CO2 ⇔ 2CO・・・・(2)
(1)式は、メタンの熱分解であり、本発明者らはこれまで、銅を中間層とするニッケル系構造体触媒を輻射加熱することで、高転化率で反応が推進されることを明らかにしてきたところである(例えば、国際公開第2021/079660号パンフレット、国際公開第2023/013182号パンフレット)。
(2)式は、一般にブードアール(Boudouard)反応と称される可逆反応であることが知られている。
【0012】
ここで、(1)(2)式の反応を円滑に右側に進めることができれば、水を生成する(4)式の反応進行を回避しながら実質的に(3)式のメタンドライフォーミング反応を進められることが期待される。
【0013】
上記目的を達成するためになされた本発明の1つの側面は、下記(1)式および(2)式で表される反応を実質的に無水環境下で逐次進行させることを含む、一酸化炭素または一酸化炭素と水素とを製造する方法である。
CH4→C+2H2・・・・(1)
C+CO2→2CO・・・・(2)
本方法(逐次ドライリフォーミング法、Sequential Dry Reforming of Methane (SDRM))によれば、(1)と(2)の反応を逐次行うものであることから、反応系から逆水性ガスシフト反応等による水を副生せずにH2とCOを別々に生成させることができる。
【0014】
上記方法において、二酸化炭素(CO2)が二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術で貯留したCO2であることが好ましい。現状では、CCSで採取した大量のCO2の利用法が課題となっており(非特許文献4)、分離精製せずに得られる高濃度のCO2の1つの利用法として有望であるうえ、得られるCOは、CO2を還元し、唯一工業的に使用可能な化合物であるからである(非特許文献2,95頁)。
【0015】
上記(1)式の反応が、メタン熱分解を触媒する触媒を用いて行われ、上記(2)式の反応が、上記(1)式の反応で生成した炭素の存在下で行われることが好ましい。これにより、同一の触媒を交換することなく各反応で使用できる利点がある。また、上記(1)式の反応で生成した炭素の存在下で(2)式の反応を行うことで、生成炭素がCOの原料として有効に消費・活用できる。
【0016】
本発明の他の側面は、上記方法で得られた水素と一酸化炭素とをモル流量調整により一定比率で混合することを含む合成ガスまたはそれを用いた化学製品の製造方法である。また上記合成ガスまたはそれを用いた化学製品の製造方法は、さらに、再生可能エネルギー由来の水素を加えてH2/CO比を調整することを含んでいてもよい。これにより、H2/CO比をSDRM法で得られる1付近から2を超える任意のレベルまで調整可能となる。
【0017】
本発明の他の側面は、メタン熱分解反応の触媒作用を有する構造体触媒を収容した反応炉と該反応炉のガス排出口に接続した流路上にCO検知器とを備えた反応装置である。斯かる構成であると、メタンの熱分解反応の触媒作用によって生成する炭素を活用して一酸化炭素を生成するSDRM法の実施に適した小型の装置が得られる。また構造体触媒を使用していることから、担持体を用いた触媒のように生成炭素による反応炉の閉塞により、生成炭素(フィラメンタスカーボン、カーボンナノチューブ等)の一時保存量が減少し、反応ガス等の送付エネルギーが増大するおそれも低減する。
【0018】
上記反応装置は、反応炉がガス供給口とガス排出口とを1つずつ備え、さらにガス供給口への供給路を切り替える供給側三方弁と、ガス排出口からの排出路を切り替える排出側三方弁とを備えたものであることが好ましい。斯かる構成であると、装置に直接接続する配管の数が減り、供給側三方弁がCH4の供給方向に開および排出側三方弁がH2の排出方向に開のときは、自動的にCO2の供給方向およびCOの排出方向に閉となり、供給側三方弁がCO2の供給方向に開および排出側三方弁がCOの排出方向に開のときは、自動的にCH4の供給方向およびH2の排出方向に閉となるように交互に切り換えて運転することになり、SDRM法の実施にさらに適した装置となる。
【0019】
上記反応装置では、反応炉からの水素および/またはCOの排出を管理する排出側弁を備え、排出側弁より反応炉のガス排出口に近い位置に、反応炉に残留するガスを大気放出可能な主弁、または、水素またはCOの各流路とは別の流路に逃がすことが可能な主弁を設けたものであることが好ましい。斯かる主弁があると、原料ガスを用いた主弁でのパージ操作により、主弁より後流側にある排出側弁によって管理される生成ガスの純度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法によれば、反応系から水を副生せずにH2とCOが別々に生成するので、別々に利用することもできるし、合成ガスを製造する場合も目的生成物に応じてH2/CO比を自由に調整可能となる。
メタンの熱分解反応は、水素ガスのほか副生する「固体炭素」の有効利用によるコスト回収が検討されているが、本発明に係る反応装置を使用すれば、固定炭素の相場が低い時は、反応炉内にCO2を取り込み、ブードアール反応を起こすことで、CO合成に使用できる柔軟性がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実験例1の反応装置の(a)鉛直方向に沿った断面図および(b)A-A断面図。
【
図2】実験例1の水素濃度の時間的推移を示したグラフ。
【
図3】生成物が付着した触媒のSEM画像とEDSの測定結果。
【
図4】炉内温度とCOとCO
2の平衡濃度レベルとの関係を示したグラフ。
【
図5】N
2ガスからCO
2に切替後のCOおよびCO
2濃度レベルの経時変化を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下では、本明細書で使用する「用語」について定義する。
本明細書において「実質的に無水環境下で」とは、反応に関与させる目的で水や水蒸気(スチーム)を人為的に原料に含ませたり、投入したりすることがない環境のもとで、を意味する。したがって、原料と不純物の反応、複数の不純物同士の反応等により、水が偶発的または不可避的に入ってくることは「実質的に無水環境下で」許容されるが、乾燥剤に接触させる等により、原料の水分や湿度を減らしておくことが好ましい。
本明細書において「反応を逐次進行させる」とは、複数の反応を順番および/または交互に、可逆反応の場合は望ましい方向に、進行させることを意味する。
本明細書において「構造体触媒」とは、構造体それ自体が触媒として機能する触媒であるか、または、当該構造体をベースとする触媒である。構造体をベースとする触媒としては、触媒成分を含むスラリー中にハニカム等の形状を有する基材を含浸して得られるものを指すのが一般的であるが、溶射、めっき等によって露出した非担持触媒層(めっき層、溶射層)を構造体上に形成したものであってもよい。
本明細書において「構造体」とは、形状を保つ型がなくても、一定の形状を有している物体を意味する。構造体の形状としては特に限定されず、例えば、板(平板のみならず、曲げ、折り曲げ、パンチング、切り欠き、エンボス加工等、平板に対して任意の加工を施したものを含む)、棒、円筒、多孔体、ハニカム(モノリス型)、フェルト、メッシュ、ファブリックまたはエキスパンドメタル等が挙げられる。
本明細書において「二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術」とは、発電所や化学工場などから排出されたCO2を、大気中に排出する前に回収したり、大気中から回収したりして、CO2を貯留または資源として有効利用する技術を意味する。
本明細書において「再生可能エネルギー」とは、非化石エネルギー源のうち、エネルギー源として永続的に利用できると認められるものを意味する(エネルギー供給事業者によるエネルギー源の環境適合利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律第二条3項)。例えば、(ア)太陽光、(イ)風力、(ウ)水力、(エ)地熱、(オ)太陽熱、(カ)大気中の熱その他の自然界に存在する熱、(キ)バイオマス(動植物に由来する有機物)の7種類が挙げられる(同法施行令4条)。
本明細書において「化学製品」とは、合成ガスを用いて化学工業で製造されるあらゆる製品を意味する。例えば、メタクリル酸、メタノール、酢酸、アルデヒド類等の工業薬品;合成燃料;化学肥料;合成繊維;ゴム;ポリカーボネート、ウレタン等の合成樹脂;医薬品;染料;石鹸;化粧品等が挙げられる。
【0023】
本発明の1つの側面は、下記(1)式および(2)式で表される反応を実質的に無水環境下で逐次進行させることを含む、一酸化炭素または一酸化炭素と水素とを製造する方法である。
CH4→C+2H2・・・・(1)
C+CO2→2CO・・・・(2)
【0024】
(1)式の反応温度は、無触媒の場合には1200℃以上の高温を必要とするが、触媒を用いる場合、通常800℃以上に設定される。本明細書における反応温度は、熱電対により測定して得られる値である。
(2)式の反応温度は、触媒を用いる場合、通常400℃以上に設定されるが、反応をCO生成側が優勢になるように進めるためには650℃以上であることが好ましく、800℃以上であることがより好ましい。
【0025】
上記(1)式および(2)式で表される反応を進行させるにあたり、触媒を使用しても使用しなくてもよいが、上記反応温度で進行させる場合は、触媒を使用することが好ましい。
【0026】
上記(1)式の反応は、通常メタン熱分解反応の触媒作用を有する触媒を用いて行う。「メタン熱分解反応の触媒作用を有する」触媒として、厚さ1μm~200μm程度の露出したニッケル含有層とその支持層として厚さ0.5mm~10mm程度の鉄、銅、ニッケル、鋼鉄、鋳鉄、鉄ニッケル合金、または、銅合金からなる層を備えた触媒が好適に採用され、支持層とニッケル含有層との間に厚さ1~1000μm程度の銅を含む中間層を備えた触媒がより好適に採用される。
ここで「露出した」とは、メタン分子が接触可能であれば足り、目視で露出しているものには限定されない。ニッケル含有層は、非担持ニッケル含有層であってもよい。「非担持」とは、触媒成分としてのニッケル含有成分が、活性炭や多孔性酸化物等の多孔性担体上で粒子として分散して存在しているのではなく、互いに組織化されて存在することを意味する。「組織化」とは、粒子同士が一部領域において溶着していることであってもよいし、全部領域で溶着していることであってもよいし、全体が溶融した後、冷却固化していることであってもよい。
なお、本発明に係る製造方法の実施にあたって使用する触媒は、構造体触媒に限定されず、形状を保つ型がないと一定の形状を保てない粉体触媒であってもよい。
【0027】
上記触媒は、ニッケル含有層の支持層として厚さ0.5mm~10mm程度の鉄、銅、ニッケル、鋼鉄、鋳鉄、鉄ニッケル合金、または、銅合金からなる層を備えた触媒がより好適に採用され、支持層とニッケル含有層との間に厚さ1~1000μm程度の銅を含む中間層を備えた触媒がさらに好適に採用される。支持層は、ニッケル含有層を積層する前の構造体そのものであってもよいし、構造体上に積層した層であってもよい。
【0028】
上記(2)式の反応は、通常上記(1)式の反応で生成した炭素の存在下で行う。
ここでの生成した炭素は、あくまでいくらか残っていれば足り、一部除去してもよい。ここでの生成した炭素は、ナノファイバー(
図3のSEM画像に示すように先端に白い点として表れているニッケルナノ粒子が付着したTip-growth形態のもの)が主に観察される傾向にある。これらの触媒微粒子を含んだ生成炭素は、原料としての役割だけでなく、触媒作用を有している可能性もあるが、どのような形態、役割で存在しているかによらず、本発明の製造方法を実施するうえでは、あくまで存在していれば足りる。即ち、何が触媒作用を有しているかは本発明の製造方法の技術的範囲を何ら制約するものではない。
【0029】
一酸化炭素を製造する方法として本発明を捉える場合、上記(1)式で生成する炭素や水素の取り扱いについては、一切問わない。即ち、一酸化炭素が関与する後続の反応に使用しても使用しなくてもよく、単独で使用してもよく、廃棄してもよい。
【0030】
一酸化炭素を製造する方法として本発明を捉える場合も、一酸化炭素には水素やメタン、その他不純物が混じっていてよい。本製法で後段((2)式)の反応を進行させるに際して、前段((1)式)の反応で残存している水素やメタンの除去が必要かどうかは、生成するCOがどの程度の純度が要求されるかにより、これは用途によることになる。但し、上記(1)式および(2)式で表される反応は、実質的に無酸素環境下(O2を含まない環境下)で逐次進行させることが好ましい。
【0031】
一酸化炭素と水素とを製造する方法として本発明を捉える場合、一酸化炭素と水素からなる合成ガスの製造方法に限定されず、一酸化炭素の用途と水素の用途とが全く異なっている場合も本発明に含まれる。合成ガス以外の一酸化炭素の用途としては、金属酸化物の還元剤等が挙げられ、合成ガス以外の水素の用途としては、上記(1)式または(2)式の反応を進行させるための燃料、都市ガスとの混合、タービン燃料、燃料電池の原料等が挙げられる。
【0032】
上記(1)式で使用するメタン(CH4)は、天然ガス由来であることが好ましい。天然ガスはメタン(CH4)を高濃度で含んでおり、供給量が豊富であるうえ同じく天然ガス由来である都市ガスも、脱硫器を通せば簡単に高濃度のメタン含有源となるからである。天然ガスとしては、都市ガス、ガス田から産出される非随伴ガス、油田から原油と共に生産される随伴ガス、シェールガス、メタンハイドレート等が挙げられる。カーボンネガティブの世界的潮流に鑑みてバイオガス由来、即ちバイオガスからCO2を分離して得られたメタンを使用してもよいが、供給量的に限度がある。石炭ガス由来のメタンを使用してもよいが、石炭ガスは本来混合したガスであり、メタンとCO2を別々に供給することが出来ないので難点がある。
【0033】
上記二酸化炭素(CO2)が二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術で貯留したCO2であることが好ましい。ここでの二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術で貯留したCO2としては、既に地中深くに貯留・圧入したものであっても、貯留・圧入に備えて地上に一時保管しているものであっても、ほかの気体から分離してすぐのものであってもよい。バイオガス由来、即ちバイオガスからメタンを分離して得られたCO2を使用してもよいが、供給量的に限度がある。
【0034】
本発明のもう1つの側面は、上記方法で得られた水素と一酸化炭素とをモル流量調整により一定比率で混合することを含む合成ガスまたはそれを用いた化学製品の製造方法である。
モル流量調整は、水素と一酸化炭素との混合ガスである合成ガスを用いた後続の反応における水素と一酸化炭素との化学量論比を意識した、一酸化炭素と水素とのモル比基準での流量調整のことである。ここでの一定比率は、厳密に化学量論比と等しくなくてもよく、合成ガスを用いた後続の反応について確立した知見に基づき、化学量論比と比べて高くすることも低くすることも許容される。一定比率は、後続の反応の化学量論比と比べて例えば、±50%、±20%、±5%等に設定することができる。
【0035】
上記合成ガスまたはそれを用いた化学製品の製造方法では、さらに再生可能エネルギー由来の水素を加えてH2/CO比を調整することを含んでいてもよい。
再生可能エネルギー由来の水素としては、特に限定されないが、例えば、太陽光発電や風力発電の余剰電力を使用した水電気分解で発生した水素等が挙げられる。
【0036】
図6に示す本実施形態の反応装置1は、メタンガス供給口12とCO
2供給口14と水素ガス排出口16とCOガス排出口18とを有する反応炉3、反応炉3の上部から炉内に挿入・固定された加熱装置5、反応炉3内で加熱装置5を取り囲むように配置されたメタン熱分解反応の触媒作用を有する構造体触媒7、メタンガス供給口12へのCH
4の供給を管理する第1開閉弁9、CO
2供給口14へのCO
2の供給を管理する第2開閉弁11、水素ガス排出口16からの水素の排出を管理する第3開閉弁13、および、COガス排出口18からのCOの排出を管理する第4開閉弁15を備えている。
【0037】
加熱装置5としては、反応炉3内に挿入して内部から加熱する内部加熱式を採用している。具体的には水素を燃料としたレキュペレイティブバーナを採用しているが、これに代えてバイオガスを燃料としてもよい。また反応炉3を外部から加熱する(外部加熱式の)ヒーターを採用することもできる。
【0038】
メタン熱分解反応の触媒作用を有する構造体触媒7としては、支持層(構造体)としてのニッケル板触媒上に銅を含む中間層としての銅層とニッケル含有層としてのニッケル層とをこの順に電解めっきしたものを採用している。
【0039】
第1乃至第4開閉弁9,11,13,15としては、全開または全閉の切替え動作が可能な仕切弁を採用しているが、これに代えてボール弁等のその他任意の弁を採用することができる。特に流量調整が必要なときはバタフライ弁や玉形弁を採用することもできる。なお、開閉弁の切替え動作は手動としたが、電磁弁等を用いて自動で行ってもよい。
【0040】
CH4供給源17と第1開閉弁9との間には、都市ガスに含まれる微量の硫黄系化合物を除去するための脱硫器4を備えている。脱硫器4としては、従来公知の固体の触媒や吸着剤を用いることができる。
【0041】
本実施形態においてはH2の精製装置6として、圧力変動吸着法(PSA法)を採用しているが、これに代えてパラジウム合金膜透過による精製方法を採用することもできる。
【0042】
本実施形態においてはCOの精製装置8として、アミンを多孔質支持体に担持させたCO2を吸収する性質を持つ交換可能な固体吸収剤を採用しているが、これに代えて液体吸収剤や膜分離法、PSA法を採用することもできる。
なお、求められる純度が低い場合は、精製装置6,8を設けなくてもよい。
【0043】
本実施形態においては反応炉のガス排出口と第4開閉弁15とを接続する流路、または、第4開閉弁15とCOの精製装置8とを接続する流路上に図示しないCO検知器を備えている。CO検知器とは、一酸化炭素濃度またはこの変化を反映する指標(例えば、電位変化や吸光度変化等)を特異的に検知可能な計器である。本実施形態ではCO検知器として、NDIR式ガスセンサを採用しているが、計測手法については特に限定されない。また一酸化炭素以外のガスの濃度を同時に測定できる検知器であってもよい。
【0044】
精製装置6,8の後段には、それぞれ圧縮器10a,10bを設けている。
【0045】
実際の運転方法としては、第1開閉弁9および第3開閉弁13が開のときは、第2開閉弁11および第4開閉弁15を閉とし、第2開閉弁11および第4開閉弁15が閉のときは、第1開閉弁9および第3開閉弁13を閉とするように切り換えて運転する。各弁の開閉の手順としては、第2開閉弁11を閉→第4開閉弁15を閉→第1開閉弁9を開→第3開閉弁13を開として(1)式に示すメタン直接分解工程を行い、第1開閉弁9を閉→第3開閉弁13を閉→第2開閉弁11を開→第4開閉弁15を開として(2)式に示すCO2還元工程を行う。
【0046】
(実験例1-反応装置の製造とメタン熱分解)
図1に示す反応装置21は、Ni板の両面にCuを概ね1μm厚になるように電解メッキした後、Niを概ね10μm厚になるように電解メッキをして得られた金属板触媒27(サイズ:幅30mm×長さ300mm×厚み0.6mm)を反応炉23(容量Φ30*300mm、0.2L)内に触媒吊るしステー24から吊した状態で収容した。炉23の周壁上部に設けたメタン供給口32から常温のメタンを10mL/分で上から下に向かって流しながら炉内温度が800℃になるまで炉23の外周に設けたヒーター(図示せず)で加熱して、1日8時間保持し、水素ガス排出口36から排出される水素濃度の推移を観察した。安全性のため、各日8時間連続運転後は、炉心を冷却し、翌日室温から再度800℃まで加熱した。水素濃度の時間的推移を
図2に、生成物が付着した触媒のSEM画像とEDSの測定結果を
図3に示す。
なお、炉内温度は炉の上蓋を貫通して中心部に達するように挿入した熱電対25によって計測を行った。水素濃度は炉の周壁下端に設けた大気放出する生成ガス排出パイプにホイートストンブリッジタイプの気体熱伝導式ガスアナライザ(ゼロガス:都市ガス13A、スパンガス:水素100%、ガス流量:0.2L/min、チノー社製)を取付けて計測した。SEM画像とEDSは、走査型電子顕微鏡(品番:JCM-7000 日本電子株式会社製)による二次電子検出(入射電圧 15.0kV、WD 12.5mm、倍率 x5,000、照射電流モード Std.-PC、真空モード HighVac.)によった。
図2から分かるように、1日目から2日目にかけて、メタンの直接分解反応による水素濃度(転化率)は上昇を続け、2日目の最後には水素濃度は理論上の平衡濃度である80%に到達し、以降6日目以降も安定して80%程度で推移した。
図3から、生成物は、ファイバー状で、CとNiを主成分としていることがわかった。また別途実施した元素マッピングの検討により、ファイバー先端もしくは途中に見える白い点状の物は、Niの微粒子であった。
【0047】
(実験例2-生成炭素残存下でのブードアール反応の実証と実施温度検討)
実施例1の実験後、メタンの供給を止め、反応炉内の生成炭素の重量を測定した。生成炭素の重量を測定後、再度生成炭素が付着した金属触媒板と生成炭素を反応炉に戻した。その際、反応炉内に入った空気を除去するために反応炉内に常温の窒素ガスを流量0.4L/minで30分間充填し、炉内に残留する空気をパージした。
次に、窒素ガスの供給を止める代わりに常温のCO
2を流量0.4L/minで供給しながら、炉内温度が一定のヒーター温度近傍になるまで加熱し、CO濃度レベルとCO
2濃度レベルを平衡に達するまで計測した。炉内温度とCOとCO
2の平衡濃度レベルとの関係を
図4に示す。この際のCOとCO
2の濃度は、炉の周壁下端に設けた大気放出する排出パイプから生成ガスをサンプリングし、NDIR式ガスセンサ(ガス流量:0.5L/min AWIT社製)にて計測した。
図4から分かるように、ヒーター温度が400℃から800℃まで上昇するにつれてCOは0%から85%近くまで上昇する一方、CO
2は100%から15%まで減少した。
800℃における平衡濃度は、
C + CO
2 ⇔ 2CO
を前提としたときの理論的濃度87%(RTlnK=-ΔG°、ΔG°=-17.5kJ・mol
-1@800℃から計算、データ出典:電力中央研究所報告M19002 円筒型セルを用いた溶融炭酸塩型ダイレクトカーボン燃料電池の基礎特性)に近く、触媒に付着した生成炭素とCO
2が反応し、COが生成するブードアール反応が起きていることが示唆された。
【0048】
(実験例3-ブードアール反応の経時変化)
実施例1において、メタンの供給を止め、生成炭素が付着した金属触媒板を設置したままの反応炉内に常温の窒素ガスを流量0.4L/minで30分間充填し、炉内に残留するメタンや水素をパージした。
次に、窒素ガスの供給を止めると同時に、常温のCO
2を流量0.4L/minで炉内に供給した。窒素からCO
2へ切り替えた瞬間を0秒として、COおよびCO
2濃度レベルの経時変化を秒単位で観測した。その結果を
図5に示す。
図5からわかるように、窒素からCO
2へ切り替え後22秒で還元が始まり、1分41秒後にCO濃度が83%で安定した。このことから、CO
2を導入開始当初は温度低下があるものの、ほどなくして炉内温度が800℃近傍に戻ることでCO還元が急激に進行し、供給されているCO
2の濃度はほとんど上昇することなくCOに転化したものと考えられた。この状態では、CO
2を還元するだけの生成炭素がまだ炉内に存在しているものと考えられた。
【0049】
なお、本発明の実施の形態は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、また、上記実施形態に説明される構成のすべてが本発明の必須要件であるとは限らない。本発明は、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当該技術的範囲に属する限り種々の改変等の形態を採り得る。
【0050】
代替的な実施形態では、精製装置6と圧縮器10aの間には、精製装置6で分離された原料ガスであるメタンを反応炉3またはメタン供給口12に返送する管を設け、精製装置8と圧縮器10bの間には、精製装置8で分離された原料ガスであるCO2を反応炉3またはCO2供給口14に返送する管を設けてもよい。
【0051】
代替的な実施形態では、精製装置6,8の前段(ガス排出口に近い側)にも圧縮器を設けてもよい。
【0052】
代替的な実施形態では、第3開閉弁および第4開閉弁より反応炉のガス排出口に近い位置に、反応炉に残留するガスを大気放出可能な主弁や、生成ガスの各流路とは別の流路に逃がす主弁を設けることができる。原料ガスを用いた主弁でのパージ操作により、主弁より後流側にある第3開閉弁および第4開閉弁によって管理される生成ガスの純度を向上させることができる。
【0053】
別の代替的な実施形態では、ガス供給口とガス排出口とを1つずつに減らして、ガス供給口から各原料ガスの供給源に向かう流路やガス排出口から第3開閉弁および第4開閉弁に向かう流路を途中まで一本化する構成とし、各分岐点に第1開閉弁および第2開閉弁に代えて1つの供給側三方弁を用い、第3開閉弁および第4開閉弁に代えて1つの排出側三方弁を用いる構成も採用しうる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、一酸化炭素または合成ガスの製造工程で水が生成する懸念が少なく、CO2を原料とする有用化学品製造に適していることから産業上の利用可能性は大きい。特に、酢酸(CH3COOH)、アクリル酸(C3H4O2)や安息香酸(C7H6O2)、ポリカーボネート(C16H14O3)n等の含酸素化合物の合成に好適に適用可能である。本発明はまた毒性が高い一酸化炭素の使用現場(オンサイト)での製造供給、CCSで大量に余ったCO2の活用に好適に適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1、21 反応装置
3、23 反応炉
4 脱硫器
5 加熱装置
6 H2の精製装置
7、27 構造体触媒
8 COの精製装置
9 第1開閉弁
10a,10b 圧縮器
11 第2開閉弁
12、32 メタン供給口
13 第3開閉弁
14、34 CO2供給口
15 第4開閉弁
16、36 水素ガス排出口
17 CH4供給源
18、38 COガス排出口
19 CO2供給源
24 触媒吊るしステー
25 熱電対