(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178087
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】気相中の物質の検出方法、検出ユニット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20241217BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20241217BHJP
C12M 3/02 20060101ALN20241217BHJP
C12M 3/06 20060101ALN20241217BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
C12Q1/02 ZNA
C12M1/34 Z
C12M3/02
C12M3/06
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023194979
(22)【出願日】2023-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2023095988
(32)【優先日】2023-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100177910
【弁理士】
【氏名又は名称】木津 正晴
(72)【発明者】
【氏名】風見 紗弥香
(72)【発明者】
【氏名】木村 祐史
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB11
4B029CC04
4B029CC10
4B029DG08
4B029HA06
4B063QA01
4B063QQ02
4B063QQ13
4B063QQ20
4B063QQ61
4B063QR59
4B063QR66
4B063QR72
4B063QR80
4B063QR84
4B063QS36
4B063QS38
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】気相中の物質を良好に検出することができる方法及び検出ユニットを提供すること。
【解決手段】気相中の物質を検出する方法であって、細胞を懸濁させた溶液である細胞懸濁液から細胞を分離する分離工程、細胞懸濁液から分離された細胞を、気相中の物質に曝露させる曝露工程、及び気相中の物質に曝露された細胞を評価する評価工程をこの順に含む、方法、並びに、気相中の物質を検出するために用いられる検出ユニットであって、細胞を懸濁させた溶液である細胞懸濁液を流すための流路を画定する流路部材、及び流路内の流れを遮るように流路内に配置されたトラップ部材を備え、トラップ部材は、溶液を通過させる一方で細胞をトラップするように構成された一つ以上の開口を画定している、検出ユニット。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相中の物質を検出する方法であって、
細胞を懸濁させた溶液である細胞懸濁液から前記細胞を分離する分離工程、
前記細胞懸濁液から分離された前記細胞を、前記気相中の物質に曝露させる曝露工程、及び
前記気相中の物質に曝露された前記細胞を評価する評価工程
をこの順に含む、方法。
【請求項2】
前記分離工程が、前記細胞懸濁液を細胞トラップ部に接触させることにより前記細胞を前記細胞懸濁液から分離することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞トラップ部が、前記溶液を通過させる一方で前記細胞をトラップするように構成された一つ以上の開口部を有し、
前記分離工程が、前記細胞トラップ部が設けられた流路に前記細胞懸濁液を流すことを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞トラップ部が、少なくとも一部が多孔質体からなるトラップ部材を含み、前記一つ以上の開口部が、前記多孔質体の孔である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記一つ以上の開口部の各々の最大幅が、30μm以下である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞トラップ部が、最大幅が5μm以上の細胞をトラップするように構成されている、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞トラップ部が、前記細胞懸濁液を流すための流路の表面に形成されたトラップ領域を含み、前記トラップ領域が、前記トラップ領域に前記細胞懸濁液が接触した場合に前記溶液がトラップされない一方で前記細胞が前記トラップ領域上にトラップされるように構成されており、
前記分離工程が、前記トラップ領域に接触するように前記流路に前記細胞懸濁液を流すことを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記評価工程の後に、前記細胞トラップ部に接触するように洗浄液を流すことにより、前記細胞トラップ部から前記細胞及び前記物質の少なくとも一方を除去する工程を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記分離工程が、前記細胞トラップ部が設けられた流路に前記細胞懸濁液を流すことを含み、
前記流路の体積が7000mm3以下である、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記曝露工程における曝露時間が1分以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記曝露工程における曝露時間が1分以上である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記曝露工程における曝露時間が1時間以上8時間以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
気相中の物質を検出するために用いられる検出ユニットであって、
細胞を懸濁させた溶液である細胞懸濁液を流すための流路を画定する流路部材、及び
前記流路内の流れを遮るように前記流路内に配置されたトラップ部材
を備え、
前記トラップ部材は、前記溶液を通過させる一方で前記細胞をトラップするように構成された一つ以上の開口を画定している、検出ユニット。
【請求項14】
前記トラップ部材は、前記流路内の空間を第1部分と第2部分とに隔てており、
前記流路部材は、前記第1部分に接続された、前記細胞懸濁液を供給するための第1開口と、前記第1部分に接続された、前記物質を含む気体を供給するための第2開口と、前記第2部分に接続された、前記溶液及び前記気体を排出するための第3開口と、を有する、請求項13に記載の検出ユニット。
【請求項15】
前記流路部材は、前記第2部分に接続された、前記気体を供給するための第4開口を更に有する、請求項14に記載の検出ユニット。
【請求項16】
前記トラップ部材は、第1トラップ部材及び第2トラップ部材を含み、
前記第1トラップ部材は、前記流路内の空間を第1部分と第2部分とに隔てており、前記第2トラップ部材は、前記流路内の空間を前記第2部分と第3部分とに隔てており、
前記流路部材は、前記第1部分に接続された、前記細胞懸濁液を供給するための第1開口と、前記第1部分に接続された、前記物質を含む気体を供給するための第2開口と、前記第2部分に接続された、前記溶液及び前記気体を排出するための第3開口と、前記第3部分に接続された、前記細胞懸濁液を供給するための第4開口と、前記第3部分に接続された、前記物質を含む気体を供給するための第5開口と、を有する、請求項13に記載の検出ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相中の物質の検出方法、及び気相中の物質を検出するための検出ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、難水溶性有機化合物である匂い物質を含む気体に向けて直径1μm以下の気泡を含む液滴を噴霧することにより、匂い物質を水溶液中に溶解させる技術が記載されている。特許文献1では、匂い物質を検出するための細胞は液中に配置される必要があり、気中に配置されることはできないとの知見に基づき、難水溶性有機化合物である匂い物質を水溶液中に溶解させるための技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような方法を用いて気相中の物質を検出する場合、当該物質を水溶液中に溶解させる必要があるが、物質によって水溶液への溶解性は異なることから、検出精度や検出に要する時間の観点において改善の余地がある。
【0005】
本発明は、気相中の物質を良好に検出することができる方法及び検出ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の気相中の物質の検出方法は、[1]「気相中の物質を検出する方法であって、細胞を懸濁させた溶液である細胞懸濁液から前記細胞を分離する分離工程、前記細胞懸濁液から分離された前記細胞を、前記気相中の物質に曝露させる曝露工程、及び前記気相中の物質に曝露された前記細胞を評価する評価工程をこの順に含む、方法」である。
【0007】
本発明の気相中の物質の検出方法では、細胞懸濁液から分離された細胞を気相中の物質に曝露させるため、液相中で細胞を物質に曝露させる場合と比較して、物質の溶液への溶解性に依存することなく、気相中の物質を検出することができる。また、本発明者らの検討によって、細胞を気相中の物質に曝露した場合、液相中で細胞を物質に曝露させる場合と比較して、細胞が物質に対して高感度に応答することが明らかとなった。よって、本発明の気相中の物質の検出方法によれば、気相中の物質を良好に検出することができる。なお、本発明は、細胞懸濁液から細胞を分離して気相中に配置した場合でも細胞は或る程度生存可能であるとの本発明者らが見出した知見に基づくものである。
【0008】
本発明の気相中の物質の検出方法は、[2]「前記分離工程が、前記細胞懸濁液を細胞トラップ部に接触させることにより前記細胞を前記細胞懸濁液から分離することを含む、[1]に記載の方法」であってもよい。この場合、細胞懸濁液から細胞を容易に分離することができる。
【0009】
本発明の気相中の物質の検出方法は、[3]「前記細胞トラップ部が、前記溶液を通過させる一方で前記細胞をトラップするように構成された一つ以上の開口部を有し、前記分離工程が、前記細胞トラップ部が設けられた流路に前記細胞懸濁液を流すことを含む、[2]に記載の方法」であってもよい。この場合、流路に細胞懸濁液を流すことで細胞懸濁液から細胞を分離させることができ、細胞懸濁液から細胞を容易に分離することができる。また、一つ以上の開口部にトラップされた細胞に対して開口部の両側から気相中の物質を曝露させることができ、細胞を物質に効率的に曝露させることができる。
【0010】
本発明の気相中の物質の検出方法は、[4]「前記細胞トラップ部が、少なくとも一部が多孔質体からなるトラップ部材を含み、前記一つ以上の開口部が、前記多孔質体の孔である、[3]に記載の方法」であってもよい。この場合、細胞懸濁液から細胞を容易に分離することができる。
【0011】
本発明の気相中の物質の検出方法は、[5]「前記一つ以上の開口部の各々の最大幅が、30μm以下である、[3]又は[4]に記載の方法」であってもよい。この場合、開口部において細胞を好適にトラップすることができる。
【0012】
本発明の気相中の物質の検出方法は、[6]「前記細胞トラップ部が、最大幅が15μm以上の細胞をトラップするように構成されている、[2]~[5]のいずれか一つに記載の方法」であってもよい。この場合、細胞トラップ部において最大幅が15μm以上の細胞をトラップすることができる。
【0013】
本発明の気相中の物質の検出方法は、[6-1]「前記細胞トラップ部が、最大幅が10μm以上の細胞をトラップするように構成されている、[2]~[5]のいずれか一つに記載の方法」であってもよい。この場合、細胞トラップ部において最大幅が10μm以上の細胞をトラップすることができる。
【0014】
本発明の気相中の物質の検出方法は、[6-2]「前記細胞トラップ部が、最大幅が5μm以上の細胞をトラップするように構成されている、[2]~[5]のいずれか一つに記載の方法」であってもよい。この場合、細胞トラップ部において最大幅が5μm以上の細胞をトラップすることができる。
【0015】
本発明の気相中の物質の検出方法は、[6-3]「前記細胞トラップ部が、最大幅が1μm以上の細胞をトラップするように構成されている、[2]~[5]のいずれか一つに記載の方法」であってもよい。この場合、細胞トラップ部において最大幅が1μm以上の細胞をトラップすることができる。
【0016】
本発明の気相中の物質の検出方法は、[6-4]「前記細胞トラップ部が、最大幅が0.5μm以上の細胞をトラップするように構成されている、[2]~[5]のいずれか一つに記載の方法」であってもよい。この場合、細胞トラップ部において最大幅が0.5μm以上の細胞をトラップすることができる。
【0017】
本発明の気相中の物質の検出方法は、[7]「前記細胞トラップ部が、前記細胞懸濁液を流すための流路の表面に形成されたトラップ領域を含み、前記トラップ領域が、前記トラップ領域に前記細胞懸濁液が接触した場合に前記溶液がトラップされない一方で前記細胞が前記トラップ領域上にトラップされるように構成されており、前記分離工程が、前記トラップ領域に接触するように前記流路に前記細胞懸濁液を流すことを含む、[2]に記載の方法」であってもよい。この場合、流路に細胞懸濁液を流すことで細胞懸濁液から細胞を分離させることができ、細胞懸濁液から細胞を容易に分離することができる。
【0018】
本発明の気相中の物質の検出方法は、[8]「前記評価工程の後に、前記細胞トラップ部に接触するように洗浄液を流すことにより、前記細胞トラップ部から前記細胞及び前記物質の少なくとも一方を除去する工程を含む、[2]~[7]のいずれか一つに記載の方法」であってもよい。この場合、評価工程の後に細胞トラップ部から細胞及び物質の少なくとも一方を除去することができる。
【0019】
本発明の気相中の物質の検出方法は、[9]「前記分離工程が、前記細胞トラップ部が設けられた流路に前記細胞懸濁液を流すことを含み、前記流路の体積が7000mm3以下である、[2]~[8]のいずれか一つに記載の方法」であってもよい。本発明者らの検討によって、細胞の培養空間の体積が小さいと、細胞が気相培養環境下で長時間生存できることが明らかとなった。よって、流路の体積が小さい場合、細胞を気相中の物質に長時間曝露させることができる。
【0020】
本発明の気相中の物質の検出方法は、[10]「前記曝露工程における曝露時間が1分以下である、[1]~[9]のいずれか一項に記載の方法」であってもよい。本発明者らの検討によって、細胞を気相中の物質に曝露した場合、液相中で細胞を物質に曝露させる場合と比較して、細胞が物質に対して高感度に応答することが明らかとなった。よって、本発明の気相中の物質の検出方法では、曝露時間が短時間であっても、気相中の物質を検出することができる。
【0021】
本発明の気相中の物質の検出方法は、[11]「前記曝露工程における曝露時間が1分以上である、[1]~[9]のいずれか一つに記載の方法」であってもよい。本発明者らの検討によって、細胞が気相培養環境下で1分以上生存できることが明らかとなった。よって、本発明の気相中の物質の検出方法では、曝露時間が1分以上であったとしても、細胞生存率の顕著な低下を伴うことなく細胞を気相中の物質に曝露させることができる。
【0022】
本発明の気相中の物質の検出方法は、[12]「前記曝露工程における曝露時間が1時間以上8時間以下である、[1]~[9]のいずれか一つに記載の方法」であってもよい。本発明者らの検討によって、細胞が気相培養環境下でも1時間以上生存できることが明らかとなった。よって、本発明の気相中の物質の検出方法では、曝露時間が1時間以上8時間以下であったとしても、細胞生存率の顕著な低下を伴うことなく細胞を気相中の物質に曝露させることができる。
【0023】
本発明の気相中の物質の検出方法は、[13]「前記曝露工程が、密閉環境において行われる、[1]~[12]のいずれか一つに記載の方法」であってもよい。本発明者らの検討によって、密閉環境において、開放環境と比較して、気相培養条件下で細胞がより長時間生存できることが明らかとなった。よって、曝露工程が密閉環境において行われる場合、細胞生存率の顕著な低下を伴うことなく細胞を気相中の物質に曝露させることができる。
【0024】
本発明の気相中の物質の検出方法は、[14]「前記評価工程が、前記細胞が発する蛍光を検出することを含む、[1]~[13]のいずれか一つに記載の方法」であってもよい。この場合、細胞が発する蛍光を検出することにより、気相中の物質に曝露された細胞を評価することができる。
【0025】
本発明の気相中の物質の検出方法は、[15]「前記細胞が、前記物質と結合する細胞膜受容体を発現する細胞である、[1]~[14]のいずれか一つに記載の方法」であってもよい。この場合、物質と結合する細胞膜受容体を発現した細胞を用いて気相中の物質を検出することができる。
【0026】
本発明の気相中の物質の検出方法は、[16]「前記物質が、分子量20以上400以下の分子からなる物質である、[1]~[15]のいずれか一つに記載の方法」であってもよい。この場合、分子量20以上400以下の分子からなる物質を検出することができる。
【0027】
本発明の気相中の物質の検出ユニットは、[17]「気相中の物質を検出するために用いられる検出ユニットであって、細胞を懸濁させた溶液である細胞懸濁液を流すための流路を画定する流路部材、及び前記流路内の流れを遮るように前記流路内に配置されたトラップ部材を備え、前記トラップ部材は、前記溶液を通過させる一方で前記細胞をトラップするように構成された一つ以上の開口を画定している、検出ユニット。」である。
【0028】
本発明の気相中の物質の検出ユニットでは、細胞懸濁液を流路に流すことにより、トラップ部材において細胞をトラップすることができる。そして、物質を含む気体を流路に流すことで、細胞懸濁液から分離された細胞を、気相中の物質に曝露させることができる。この場合、液相中で細胞を物質に曝露させる場合と比較して、物質の溶液への溶解性に依存することなく、気相中の物質を検出することができる。また、本発明者らの検討によって、細胞を気相中の物質に曝露した場合、液相中で細胞を物質に曝露させる場合と比較して、細胞が物質に対して高感度に応答することが明らかとなった。また、この気相中の物質の検出ユニットでは、一つ以上の開口にトラップされた細胞に対して開口の両側から気相中の物質を曝露させることができ、細胞を物質に効率的に曝露させることができる。よって、本発明の気相中の物質の検出ユニットによれば、気相中の物質を良好に検出することができる。なお、本発明は、細胞懸濁液から細胞を分離して気相中に配置した場合でも細胞は或る程度生存可能であるとの本発明者らが見出した知見に基づくものである。
【0029】
本発明の気相中の物質の検出ユニットは、[18]「前記トラップ部材の少なくとも一部は、多孔質体からなり、前記一つ以上の開口は、前記多孔質体の孔である、[17]に記載の検出ユニット」であってもよい。この場合、細胞懸濁液から細胞を容易に分離することができる。
【0030】
本発明の気相中の物質の検出ユニットは、[19]「前記一つ以上の開口の各々の最大幅が、30μm以下である、[17]又は[18]に記載の検出ユニット」であってもよい。この場合、開口部において細胞を好適にトラップすることができる。
【0031】
本発明の気相中の物質の検出ユニットは、[20]「前記トラップ部材が、最大幅が0.5μm以上、1μm以上、5μm以上、10μm以上又は15μm以上の細胞をトラップするように構成されている、[17]~[19]のいずれか一つに記載の検出ユニット」であってもよい。この場合、トラップ部材において最大幅が0.5μm以上、1μm以上、5μm以上、10μm以上又は15μm以上の細胞をトラップすることができる。
【0032】
本発明の気相中の物質の検出ユニットは、[21]「前記流路の体積が7000mm3以下である、[17]~[20]のいずれか一つに記載の検出ユニット」であってもよい。本発明者らの検討によって、細胞の培養空間の体積が小さいと、細胞が気相培養環境下で長時間生存できることが明らかとなった。よって、流路の体積が小さい場合、細胞を気相中の物質に長時間曝露させることができる。
【0033】
本発明の気相中の物質の検出ユニットは、[22]「前記トラップ部材は、前記流路内の空間を第1部分と第2部分とに隔てており、前記流路部材は、前記第1部分に接続された、前記細胞懸濁液を供給するための第1開口と、前記第1部分に接続された、前記物質を含む気体を供給するための第2開口と、前記第2部分に接続された、前記溶液及び前記気体を排出するための第3開口と、を有する、[17]~[21]のいずれか一つに記載の検出ユニット」であってもよい。この場合、第1開口から細胞懸濁液を供給してトラップ部材に細胞をトラップさせた後に、第2開口から物質を含む気体を供給して細胞を物質に曝露させることができる。また、第1開口及び第2開口から供給された溶液(細胞懸濁液)及び気体を第3開口から排出することができる。
【0034】
本発明の気相中の物質の検出ユニットは、[23]「前記流路部材は、前記第2部分に接続された、前記気体を供給するための第4開口を更に有する、[22]に記載の検出ユニット」であってもよい。この場合、第2開口(第1部分側)からだけでなく、第4開口(第2部分側)からも物質を含む気体を供給することができる。
【0035】
本発明の気相中の物質の検出ユニットは、[24]「前記トラップ部材は、第1トラップ部材及び第2トラップ部材を含み、前記第1トラップ部材は、前記流路内の空間を第1部分と第2部分とに隔てており、前記第2トラップ部材は、前記流路内の空間を前記第2部分と第3部分とに隔てており、前記流路部材は、前記第1部分に接続された、前記細胞懸濁液を供給するための第1開口と、前記第1部分に接続された、前記物質を含む気体を供給するための第2開口と、前記第2部分に接続された、前記溶液及び前記気体を排出するための第3開口と、前記第3部分に接続された、前記細胞懸濁液を供給するための第4開口と、前記第3部分に接続された、前記物質を含む気体を供給するための第5開口と、を有する、[17]~[21]のいずれか一つに記載の検出ユニット」であってもよい。この場合、第1トラップ部材及び第2トラップ部材の各々の位置において物質の検出を行うことができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、気相中の物質を、気相中で良好に検出することができる方法及び検出ユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1(a)は、実施形態の検出ユニットの斜視図である。
図1(b)は、
図1(a)に示されるB-B線に沿っての断面図である。
【
図2】
図2(a)は、第2基板の平面図である。
図2(b)は、
図2(a)に示されるB-B線に沿っての断面図である。
【
図3】
図3(a)は、第1基板の平面図である。
図3(b)は、
図3(a)に示されるB-B線に沿っての断面図である。
【
図4】
図4(a)~(d)は、細胞を細胞懸濁液から分離した後、気体中の物質に曝露させる様子を示す平面図である。
【
図5】
図5(a)及び(b)は、トラップ部材上の細胞を、溶液によって洗浄する様子を示す平面図である。
【
図6】
図6(a)及び(b)は、トラップ部材上の細胞を、細胞破砕液で破砕して除去する様子を示す平面図である。
【
図7】
図7(a)及び(b)は、トラップ部材上の細胞を、細胞剥離液によってトラップ部材から剥離して除去する様子を示す平面図である。
【
図8】
図8(a)~(d)は、トラップ部材上の細胞を、2か所の開口から導入した気体に曝露させる様子の一例を示す平面図である。
【
図9】
図9(a)~(d)は、トラップ部材上の細胞を、2か所の開口から導入した気体に曝露させる様子の別の例を示す平面図である。
【
図10】
図10(a)~(e)は、トラップ部材30の変形例を示す断面図である。
【
図11】
図11は、第1変形例の検出ユニットの斜視図である。
【
図12】
図12(a)及び(b)は、第1変形例において、細胞を細胞懸濁液から分離した後、気体中の物質に曝露させ、1つの検出位置で蛍光を測定する様子を示す平面図である。
【
図13】
図13(a)及び(b)は、第1変形例において、細胞を細胞懸濁液から分離した後、気体中の物質に曝露させ、3つの検出位置で蛍光を測定する様子を示す平面図である。
【
図14】
図14(a)~(d)は、第1変形例において、細胞を気体中の物質に曝露させて3つの検出位置で蛍光を測定することを、洗浄工程を行いつつ繰り返す様子を示す平面図である。
【
図15】
図15(a)~(d)は、第1変形例において、細胞を気体中の物質に曝露させて3つの検出位置で蛍光を測定することを、洗浄工程を行いつつ繰り返す様子を示す平面図である。
【
図16】
図16(a)~(c)は、第1変形例において、細胞を気体中の物質に曝露させて検出位置で蛍光を測定することを、気体を導入する開口ごとにそれぞれ異なる検出位置で行う様子を示す平面図である。
【
図17】
図17(a)は、第2変形例の検出ユニットの斜視図である。
図17(b)は、
図17(a)に示されるB-B線に沿っての部分断面図である。
【
図18】
図18(a)は、第2変形例の第2基板の平面図である。
図18(b)は、第2変形例の第1部材の平面図である。
図18(c)は、第2変形例の第2部材の平面図である。
【
図19】
図19(a)~(f)は、第2変形例のトラップ部材の形状を示す模式図である。
【
図20】
図20(a)及び(b)は、第2変形例において、細胞を細胞懸濁液から分離した後、気体中の物質に曝露させる様子を示す平面図である。
【
図21】
図21(a)及び(b)は、第2変形例において、トラップ部材に細胞をトラップさせて、細胞懸濁液から細胞を分離する様子を示す平面図である。
【
図22】
図22(a)は、第2変形例において、流路に気体を導入し、トラップ部材にトラップされた細胞を気体中の物質に曝露させる様子を示す平面図である。
図22(b)は、第2変形例において、トラップ部材上の細胞を洗浄する様子を示す平面図である。
【
図23】
図23は、第2変形例において、流路に気体を導入し、トラップ部材にトラップされた細胞を気体中の物質に曝露させる様子を示す平面図である。
【
図24】実施例1において、培養液(コントロール)又はエタノールをしみ込ませた濾紙を配置した場合の細胞生存率の、培養液(培養上清)の体積依存性を示す図である。
【
図25】
図25(a)~
図25(g)は、それぞれ、実施例1において、0%エタノール(100%培養液)、20%エタノール(80%培養液)、40%エタノール(60%培養液)、50%エタノール(50%培養液)、60%エタノール(40%培養液)、80%エタノール(20%培養液)、100%エタノール(0%培養液)をしみ込ませた濾紙を配置した場合の細胞生存率の、培養液(培養上清)の体積依存性を示す図である。
【
図26】
図26(a)は、実施例2において、気相培養後の細胞の、気相曝露における、気相中の物質に対する細胞の応答性を示す図である。
図26(b)は、実施例2において、気相培養後の細胞の、液相曝露における、気相中の物質に対する細胞の応答性を示す図である。
【
図27】
図27は、
図26(a)の曝露時間0分、1分及び
図26(b)の曝露時間1分、5分、7分の結果を示す棒グラフである。
【
図28】
図28は、実施例3において、気相培養したHeLa細胞の、培養時間依存的な細胞生存率の変化を示す図である。
【
図29】
図29は、実施例4において、気相培養したCHO-K1細胞の、培養時間依存的な細胞生存率の変化を示す図である。
【
図30】
図30は、実施例5において、密閉環境又は開放環境で気相培養した細胞の、培養時間依存的な細胞生存率の変化を示す図である。
【
図31】
図31(a)は、実施例6において、12ウェルプレート上で気相培養した細胞の、培養時間依存的な細胞生存率の変化を示す図である。
図31(b)は、実施例6において、96ウェルプレート上で気相培養した細胞の、時間依存的な細胞生存率の変化を示す図である。
【
図32】
図32(a)は、実施例7において、気相培養後の細胞のヒスタミン刺激前(0秒)及びヒスタミン刺激直後(6秒)の蛍光像を示す図である。
図32(b)は、
図32(a)中に示したROIにおける蛍光強度の時間変化を、観察開始時のROI内の平均輝度値により規格化して表示した結果を示す図である。
【
図33】
図33は、実施例8において、非透過性の通常のウェルプレート又は透過性のトランズウェルプレート上の細胞を気相中でエタノールに曝露した場合の、細胞生存率のエタノール濃度依存性を示す図である。
【
図34】
図34は、実施例9において、Or13aタンパク質とOrcoタンパク質を発現させるために用いたプラスミド(pIB-Or13a-Orcoプラスミド)のプラスミドマップである。
【
図35】
図35(a)は、実施例9において用いた計測容器の斜視図である。
図35(b)は、実施例9において用いた計測容器の分解斜視図である。
図35(c)は、実施例9において用いた計測容器のフタの上面図である。
図35(d)は、実施例9において用いた計測容器のディッシュ本体の下面図である。
【
図36】
図36(a)は、実施例9における、イメージング開始0秒後の蛍光像である。
図36(b)は、実施例9における、イメージング開始60秒後の蛍光像である。
図36(c)は、実施例9における、イメージング開始180秒後の蛍光像である。
【
図37】
図37は、実施例9における、Or13a-Orco発現Sf9細胞の蛍光強度の時間推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0039】
図1~
図3に示される検出ユニット1(検出装置)は、細胞5(
図4)を用いて気相中の物質を検出するために用いられる(
図4~
図9)。検出ユニット1を使用した気相中の物質の検出方法については後述する。以下ではまず、検出ユニット1の構成を説明する。
【0040】
<検出ユニット>
図1~
図3に示されるように、検出ユニット1は基体2を備えている。基体2は、第1基板10及び第2基板20を有している。第1基板10及び第2基板20は、例えば、ガラスにより矩形板状に形成されており、光透過性を有している。第1基板10は、平坦な表面10aを有している。
【0041】
図3(a)及び
図3(b)に示されるように、第1基板10の表面10aには、溝11が形成されている。溝11は、流路部分12と、第1接続部分13、第2接続部分14及び第3接続部分15と、を有している。流路部分12は、平面視において(表面10aに垂直な方向から見た場合に)T字状に形成されており、直線状の本体部12aと、本体部12aの中間部から分岐して直線状に延在する分岐部12bと、を有している。流路部分12は、延在方向に沿って一様な断面形状を有している。当該断面形状は、例えば矩形状である。この例では、延在方向に垂直な断面において、流路部分12の幅は0.5mmであり、流路部分12の深さは0.2mmである。
【0042】
第1接続部分13は、本体部12aの一端に接続されている。第3接続部分15は、本体部12aの他端に接続されている。第2接続部分14は、分岐部12bの一端(本体部12aとの接続端とは反対側の端部)に接続されている。平面視における第1接続部分13、第2接続部分14及び第3接続部分15の形状は、この例では円形状であるが、これに限られず、任意の形状であってよい。
【0043】
第2基板20は、第1基板10の表面10a上に配置されており、表面10aに密着している。このような密着は、例えば接着剤の使用等により達成される。これにより、溝11の流路部分12の開口部が第2基板20によって塞がれ、流路部分12と第2基板20との間に流路40が形成されている。すなわち、第1基板10及び第2基板20(基体2)は、流路40を画定する流路部材であり、第2基板20は、溝11を塞ぐ蓋部材である。
【0044】
流路40は、上述した流路部分12に対応した形状を有している。延在方向に垂直な断面における流路40の断面積は、特に限定されるものではないが、例えば0.0001mm2以上、0.0003mm2以上、0.001mm2以上、0.003mm2以上、0.01mm2以上、0.03mm2以上、0.1mm2以上、0.3mm2以上、1.0mm2以上、3.0mm2以上、10mm2以上、30mm2以上又は100mm2以上であってよく、1000mm2以下、300mm2以下、100mm2以下、30mm2以下、10mm2以下、3.0mm2以下又は1.0mm2以下であってもよい。好ましい一実施形態において、流路40の断面積は、300mm2以下である。また、流路40の体積は、特に限定されるものではないが、0.1mm3以上、1mm3以上、3mm3以上、10mm3以上、30mm3以上、100mm3以上、300mm3以上、500mm3以上、1000mm3以上又は2000mm3以上であってよく、100000mm3以下、30000mm3以下、10000mm3以下、7000mm3以下、5000mm3以下、3000mm3以下、2000mm3以下、1000mm3以下、500mm3以下、400mm3以下、100mm3以下、50mm3以下又は10mm3以下であってもよい。
【0045】
図2(a)及び
図2(b)に示されるように、第2基板20には、第1開口21、第2開口22及び第3開口23が形成されている。第1開口21、第2開口22及び第3開口23は、第2基板20を厚さ方向に貫通している。第1開口21、第2開口22及び第3開口23は、それぞれ、第1基板10の第1接続部分13、第2接続部分14及び第3接続部分15に接続されている。これにより、流路40は、第1開口21、第2開口22及び第3開口23において基体2の外部に接続されている。平面視における第1開口21、第2開口22及び第3開口23の形状は、この例では円形状であるが、これに限られず、任意の形状であってよい。
【0046】
流路40内には、トラップ部材30(支持体、細胞トラップ部)が配置されている。トラップ部材30は、例えば、多孔質体により矩形板状に形成されている。トラップ部材30は、流路40内の流れを遮るように流路40内に配置されている。この例では、トラップ部材30は、流路40内における流れ方向(流路40の延在方向)に垂直に配置されている。トラップ部材30は、トラップ部材30の外縁と流路40の表面とが接触するように(隙間無く)配置されている。トラップ部材30は、流路部分12の本体部12aにおける分岐部12bの接続箇所に対して第3接続部分15側に位置する部分に配置されている。
【0047】
トラップ部材30は、流路40内の空間を第1部分41と第2部分42とに隔てている。第1部分41は、流路部分12の本体部12aにおけるトラップ部材30に対して第1接続部分13側に位置する部分と、分岐部12bとに対応する。第2部分42は、流路部分12の本体部12aにおけるトラップ部材30に対して第3接続部分15側に位置する部分に対応する。第1部分41には第1開口21及び第2開口22が接続されており、第2部分42には第3開口23が接続されている。
【0048】
図1(b)に示されるように、トラップ部材30は、複数(多数)の貫通孔31(開口部)を有している。この例では、貫通孔31は、トラップ部材30を構成する多孔質体の孔(細孔)である。貫通孔31は、厚さ方向(流路40内の流れ方向)に沿ってトラップ部材30を貫通している。貫通孔31は、例えば円形状である。貫通孔31は、細胞5を懸濁させた溶液6である細胞懸濁液3(
図4)を流した場合に、溶液6を通過させる一方で細胞5をトラップする(捕捉する)ように構成されている。
【0049】
各々の貫通孔31の最大幅は、例えば30μm以下、25μm以下、20μm以下、15μm以下、10μm以下、7μm以下、4μm以下又は2μm以下であってよい。貫通孔31の最大幅が上記上限以下であると、貫通孔31が細胞5を通過させない一方で、溶液6を通過させることができる。なお、本開示において、「最大幅」とは、貫通孔31の縁上の任意の2点を通る線分の最大長さを意味する。例えば、貫通孔31が正円形状である場合、「最大幅」は該正円の直径を指す。また、例えば、貫通孔31が楕円形状である場合、「最大幅」は該楕円の長径を指す。また、貫通孔31が多角形状である場合、「最大幅」は該多角形の対角線のうち最も長いものの長さを意味する。
【0050】
トラップ部材30は、例えば最大幅が0.5μm以上、1μm以上、5μm以上、10μm以上、15μm以上、20μm以上、25μm以上又は30μm以上の細胞をトラップするように構成されていてよく、好ましい一実施形態においては、最大幅が15μm以上の細胞をトラップするように構成されている。
【0051】
以上で説明した検出ユニット1の貫通孔31にトラップされる細胞5(
図4)は、気相中への物質への曝露後に評価することによって気相中の物質を検出することができる細胞であれば特に限定されず、接着細胞又は浮遊細胞のいずれであってもよい。また、細胞5は、真核細胞であってよく、原核細胞(原核生物ともいう。)であってもよく、該原核細胞は細菌又はアーキアのいずれかに該当する微生物であってもよい。
【0052】
好ましい一実施形態において、細胞5は、検出対象の物質と結合する細胞膜受容体を発現した細胞である。このような細胞としては、例えば、標的物質と結合した場合に細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させる機能を有する細胞膜受容体と、カルシウムイオン検出蛍光プローブであるCaTM-3(Kazuhisa Hirabayashi et al., "Development of practical redfluorescent probe for cytoplasmic calcium ions with greatly improved cell-membranepermeability", Cell Calcium 60(4), 256-265 (2016)))を挙げることができる。このような細胞によると、細胞5が気体4(
図4)中の物質に曝露されると、細胞5内のカルシウムイオン濃度の上昇を介してCaTM-3の蛍光強度が上昇するため、これによって気体4中の物質を検出することができる。検出対象の物質と結合する細胞膜受容体を発現した細胞は、当業者が通常行う方法(例えばリポフェクション法又はエレクトロポレーション法)によって調製することができる。
【0053】
また、好ましい一実施形態において、検出ユニット1によって細胞5を用いて検出する対象となる気相中の物質は、例えば分子量20以上400以下の分子からなる物質であってよく、分子量30以上300以下、50以上200以下又は80以上150以下の分子からなる物質であってもよい。
【0054】
<気相中の物質の検出方法>
図4(a)~(d)を参照しつつ、検出ユニット1を用いて、細胞5を懸濁させた溶液6である細胞懸濁液3から細胞5を分離し(分離工程)、検出対象の物質を含む気体4に曝露させ(曝露工程)、物質に曝露された細胞5の発する蛍光を検出することによって細胞5を評価する(評価工程)方法の例を説明する。
【0055】
本開示において、「細胞懸濁液から細胞を分離する」とは、細胞懸濁液に含まれる溶液と細胞とを分離することを意味し、例えば、測定対象とする細胞の表面に溶液が多少残存しているとしても、一般的な方法によって当該溶液を更に取り除くことが難しい程度にまで、細胞を溶液から分離することを意味する。
【0056】
本開示における「細胞懸濁液」との用語は、細胞を懸濁させた溶液(溶液に細胞が分散した液体)を意味する。また、以下の例で用いる細胞懸濁液3は、当業者が通常行う方法によって用意することができる。例えば、細胞5が接着細胞である場合、細胞懸濁液3は、細胞5を培養するディッシュからトリプシン-EDTA又はセルスクレーパー等を用いて剥離させた細胞5を、細胞培養培地等で希釈することによって調製することができる。
【0057】
以下の例では、流路40には、第1開口21から細胞懸濁液3が供給され、第2開口22から気体4が供給される。細胞懸濁液3及び気体4は、第3開口23から基体の外部に外出される。
図4に示されるように、第1開口21からの細胞懸濁液3の供給、及び第2開口22からの気体4の供給は、例えばシリンジを用いて行われるが、チューブ等を用いて行われてもよい。第1開口21及び第2開口22は、弁を用いて開閉可能とされていてもよい。以下の説明において、第1開口21を閉じるとは、第1開口21から液体又は気体の供給又は排出を行わないことをいい、第1開口21を開けるとは、第1開口21から液体又は気体の供給又は排出を行うことをいう。この点は第2開口22及び第3開口23についても同様である。また、流路40内における液体又は気体の流れは、必要に応じて第1開口21又は第2開口22からのポンプを用いたパージ、あるいは第3開口23からのポンプを用いた吸引等によって促進してもよい。
【0058】
また、以下の例では、細胞5は、気体4中の物質と結合した場合に細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させる機能を有する細胞膜受容体と、CaAM-3で染色されている接着細胞であり、細胞5が気体4中の物質に曝露されると、細胞5が発する蛍光の強度が上昇するものとする。
【0059】
まず、第1開口21を開き、かつ第2開口22を閉じた状態で、
図4(b)に示すように、第1開口21から、細胞懸濁液3を導入する。第1開口21から導入された細胞懸濁液3は、流路40の第1部分41に導入される。
【0060】
第1部分41に導入された細胞懸濁液3は流路40内を流れて、トラップ部材30に到達する。細胞懸濁液3がトラップ部材30に接触すると、細胞懸濁液3に含まれる細胞5はトラップされてトラップ部材30上に留まる一方で、溶液6はトラップ部材30に設けられた貫通孔31を通過して第2部分42に到達し、最終的に第3開口23から排出される。これにより、細胞懸濁液3から細胞5が分離される(分離工程)。その後に、必要に応じて
図4(c)に示すように第1開口21から溶液6を導入してもよく、そうすると、第1部分41に残存していた細胞懸濁液3中の細胞5も押し流され、トラップ部材30にトラップされる。
【0061】
次に、第1開口21を閉じ、第2開口22を開いてから、
図4(d)に示すように、第2開口22から、検出対象の物質を含む気体4を導入する。第2開口22から導入された気体4は、流路40の第1部分41に導入される。
【0062】
第1部分41に導入された気体4は流路40内を流れて、トラップ部材30に到達し、トラップ部材30上にトラップされた細胞5が、気体4に含まれる物質に曝露される(曝露工程)。トラップ部材30に到達した気体4は、その後は流路40の第2部分42を介して最終的に第3開口23から排出される。
【0063】
最後に、トラップ部材30上の、気体4中の物質に曝露された細胞5に対して励起光を照射し、細胞5が発する蛍光の強度を指標に、気体4中の物質の有無及び/又は濃度を評価する(評価工程)。第1基板10及び第2基板20は励起光及び細胞5が発する蛍光が透過可能に構成されているため、細胞5に対する励起光の照射及び蛍光検出は、第1基板10及び第2基板20の外部から行うことができる。また、蛍光の測定は、細胞5が気体4に含まれる物質に曝露されることと同時に行ってもよく、曝露が終わった後に行ってもよい。
【0064】
細胞5をある検出対象の物質を含む気体4に曝露させる時間(曝露時間)は特に限定されず、例えば0.1秒以上、0.3秒以上、1秒以上、3秒以上、10秒以上、30秒以上、1分以上、10分以上、30分以上、1時間以上、2時間以上又は4時間以上であってよく、24時間以下、12時間以下、8時間以下、6時間以下、4時間以下、2時間以下、1時間以下、30分以下、15分以下、10分以下、6分以下、4分以下、2分以下、1分以下、45秒以下、35秒以下、30秒以下、15秒以下、10秒以下、5秒以下、3秒以下、1秒以下又は0.5秒以下であってもよい。好ましい一実施形態において、曝露時間は、1分以下である。他の好ましい一実施形態において、曝露時間は、1分以上である。他の好ましい一実施形態において、曝露時間は、1時間以上8時間以下である。また、曝露工程は、上記のような曝露時間での曝露を繰り返し行う工程であってもよく、その場合、それぞれの曝露の間に、細胞5を溶液6等の液体に接触させることを含んでもよい。
【0065】
また、第1開口21、第2開口22及び第3開口23は、弁を用いて開閉可能とされている代わりに、流路40内を密閉状態に保ったまま細胞懸濁液3及び/若しくは気体4を供給可能な供給機構、並びに/又は、その密閉状態を保ったまま細胞懸濁液3及び/若しくは気体4を排出可能な排出機構が取り付けられていてもよい。この場合にも、流路40内が密閉された状態になる。このような密閉しながらの供給機構は、例えば、ゴム製の栓によって密閉された第1開口21、第2開口22又は第3開口23に対して、細胞懸濁液3又は気体4をロードしたシリンジの注射針を穿刺すること、あるいは固化前の接着剤によって覆われた第1開口21、第2開口22又は第3開口23に対して、細胞懸濁液3又は気体4をロードしたシリンジの注射針を穿刺した後に、接着剤を固化させることによって実現できる。また、密閉しながらの排出機構は、例えば、ゴム製の栓によって密閉された第1開口21、第2開口22又は第3開口23に対して、ホースの一端に取り付けられた注射針を穿刺し、ホースの他端をポンプ等に接続して吸引することによって、実現できる。
【0066】
また、以上で説明した例では、評価工程が細胞の発する蛍光を検出することを含んでいたが、細胞の評価はそれ以外の方法によっても行うことができる。蛍光検出以外の評価方法としては、例えば発光検出、及び後述する洗浄工程において回収した細胞破砕物8(
図6)あるいは細胞5を評価する方法を挙げることができる。
【0067】
以上で説明した分離工程、曝露工程及び評価工程に加えて、本発明の気相中の物質の検出方法は、評価工程の後に、トラップ部材30に接触するように洗浄液を流すことにより、トラップ部材30から気体4由来の物質及び細胞5の少なくとも一方を除去する工程を含んでもよい。洗浄液は、少なくともトラップ部材30から気体4由来の物質を除去することができる溶液であり、例えば溶液6、細胞破砕液7(
図6)又は細胞剥離液9(
図7)であってよい。
【0068】
一実施形態において、洗浄工程は、トラップ部材30から細胞5は除去せず、気体4由来の物質を除去する工程であってよい。この場合、トラップ部材30上の細胞5から気体4由来の物質を除去すること(細胞状態のリセット)ができるため、トラップ部材30上の細胞5を曝露工程及び評価工程に再利用できる。以下では、
図5(a)及び(b)を参照しながら、細胞5が発する蛍光を検出することを含む評価工程の後に行われる洗浄工程について、気体4由来の物質が溶液6に対して不溶性の物質であり、洗浄液が溶液6である場合を例として説明する。
【0069】
まず、
図5(a)に示すように、評価工程の後、第1開口21を開き、第2開口22を閉じてから、第1開口21から溶液6を導入する。導入された溶液6は、流路40の第1部分41に導入され、トラップ部材30に到達する。トラップ部材30の表面及びトラップ部材30にトラップされている細胞5の表面に存在する気体4由来の物質は溶液6に押し流され、トラップ部材30から除去される。その後、
図5(b)に示すように、気体4を押し流した溶液6はトラップ部材30の貫通孔31を通過して第2部分42に到達し、最終的に第3開口23から排出される。
【0070】
上記の例では、気体4由来の物質が溶液6に対して不溶性の物質であり、洗浄液が溶液6である場合を例として説明したが、気体4由来の物質と洗浄液の組み合わせはこれに限定されない。例えば、上記の例のように、洗浄工程が、細胞5はトラップ部材30から除去されず、かつ気体4由来の物質がトラップ部材30から除去される工程である場合、洗浄液としては、細胞5を破砕、可溶化及び剥離せず、かつ気体4由来の物質を溶解させる溶液あれば特に限定されない。
【0071】
また、洗浄工程は、トラップ部材30から、気体4由来の物質及び細胞5の両方を除去する工程であってもよい。この場合、トラップ部材30から細胞5及び気体4由来の物質を除去することができるため、検出ユニット1を繰り返し本発明の検出方法に使用することができる。この場合、洗浄液は、例えば細胞破砕液7(
図6)又は細胞剥離液9(
図7)であってよい。
【0072】
洗浄工程で用いる洗浄液が細胞破砕液7である場合について、
図6(a)及び(b)を参照しながら、トラップ部材30から細胞5及び気体4由来の物質を除去する一例を説明する。本明細書において、細胞破砕液とは、細胞に接触させることによって、細胞の脂質二重膜を破壊して細胞内成分を遊離させることができる溶液を意味する。細胞5の破砕に用いる細胞破砕液7としては、例えばCHAPS又はTriton-X100等の界面活性剤を含む溶液を用いることができる。
【0073】
まず、評価工程の後に、
図6(a)に示すように、第1開口21を開いて第2開口22を閉じてから、第1開口21から細胞破砕液7(洗浄液)を導入する。導入された細胞破砕液7は、流路40の第1部分41に導入され、トラップ部材30に到達する。トラップ部材30にトラップされている細胞5は、細胞破砕液7の作用によって破砕され、細胞破砕物8になる。細胞破砕物8は細胞5と比較してサイズが小さいため、
図6(b)に示すように、細胞破砕物8(細胞破砕物8のうち貫通孔31を通過可能なサイズのもの)はトラップ部材30に設けられた貫通孔31を通過して、第2部分42に到達した後、最終的に第3開口23から排出される。
【0074】
なお、上記の例では、第1開口21から細胞破砕液7を導入して、細胞破砕物8を第3開口23から排出したが、細胞破砕液7を第3開口23から導入して、細胞破砕物8を第1開口21から排出してもよい。この場合、細胞破砕物8がトラップ部材30に設けられた貫通孔31を通過できなくてもよいため、より小さな貫通孔31を設けられたトラップ部材30も使用することができる。
【0075】
なお、洗浄工程で排出された細胞破砕物8を回収し、評価することによって気体4中の物質を検出してもよい。換言すると、洗浄液が細胞破砕液7である場合、洗浄工程は、曝露工程と評価工程の間に行われてよく、評価工程は、洗浄工程で除去された細胞5の破砕物(細胞破砕物8)を評価する工程であってもよい。細胞破砕物8の評価は、細胞破砕物を分析する際に当業者が通常用いる方法(例えばELISA法、免疫沈降法、ウエスタン・ブロッティング法、定量的PCR法又は高速液体クロマトグラフィー法)によって行うことができ、細胞5が気体4中の物質に曝露されたことに起因する細胞破砕物8の組成の変化の有無あるいはその程度を指標として、気相中の物質を検出することができる。
【0076】
洗浄工程で用いる洗浄液が細胞剥離液9である場合について、
図7(a)及び(b)を参照しながら、トラップ部材30から細胞5及び気体4由来の物質を除去する一例を説明する。本明細書において、細胞剥離液とは、足場に接着した状態の細胞に接触させることによって、細胞を足場から剥離させることができる溶液を意味する。トラップされた細胞5の回収に用いる細胞剥離液9としては、例えばトリプシン-EDTA溶液等を用いることができる。以下に、この場合の評価工程について説明する。
【0077】
まず、評価工程の後に、
図7(a)に示すように、第1開口21を開いて第2開口22を閉じてから、第3開口23から細胞剥離液9(洗浄液)を導入する。導入された細胞剥離液9は、流路40の第2部分42に導入され、トラップ部材30に到達する。トラップ部材30にトラップされている細胞5は、細胞剥離液9の作用によってトラップ部材30から剥離される。剥離された細胞5は、細胞剥離液9の流れに乗って第1部分41を流れ、最終的に第1開口21から排出される。
【0078】
なお、洗浄工程で排出された細胞5を回収し、評価することによって気体4中の物質を検出してもよい。換言すると、洗浄液が細胞剥離液9である場合、洗浄工程は、曝露工程と評価工程の間に行われてよく、評価工程は、洗浄工程で除去された細胞5を評価する工程であってもよい。回収された細胞5の評価は、細胞5を分析する際に当業者が通常用いる方法(例えばMTTアッセイ又はCCK-8アッセイによる細胞生存率測定)によって行うことができ、細胞5が気体4中の物質に曝露されたことに起因する細胞生存率の低下の程度を指標として、気相中の物質を検出することができる。
【0079】
また、この例では細胞5が接着細胞であるとして説明したが、細胞5が浮遊細胞である場合には、細胞5はトラップ部材30に接着しないため、第3開口23から導入する溶液が細胞剥離液9以外の溶液(例えば溶液6等の一般的な細胞培養培地)であっても、細胞5をトラップ部材30から除去することが可能である。
【0080】
以上では、気体4を1か所の開口(第2開口22)から導入する例を説明したが、気体は、2か所以上の開口から導入されてもよい。以下では、
図8(a)~(d)を参照しながら、第1気体4Aを第2開口22から、第2気体4Bを第4開口24から、それぞれ導入する場合を例として説明する。
図8(a)~(d)の例では、検出ユニット1は、第1開口21、第2開口22及び第3開口23に加えて、流路40の第2部分42に接続された、第2気体4Bを供給するための第4開口24を更に有している。このとき、第1開口21及び第2開口22だけでなく、第3開口23及び第4開口24も弁を用いて開閉可能とされていてもよく、以下の例では弁が設けられているものとする。なお、第1気体4A及び第2気体4Bは、組成が同じ気体であってもよく、組成が異なる気体であってもよい。
【0081】
まず、
図8(a)に示すように、第1開口21を開き、第2開口22及び第4開口24を閉じてから、第1開口21から細胞懸濁液3を導入し、細胞5をトラップ部材30にトラップさせる(分離工程)。次に、
図8(b)に示すように、第1開口21を閉じて第2開口22を開いてから、第2開口22から第1気体4Aを導入し、トラップ部材30上の細胞5を、第1気体4A中の物質に曝露させ(1回目の曝露工程)ながら、細胞の発する蛍光を検出する(1回目の評価工程)。次に、
図8(c)に示すように、第1開口21を開いて第2開口22を閉じてから、第3開口23から溶液6を導入し、トラップ部材30上から細胞5は除去せずに、第1気体4A由来の物質を除去する(洗浄工程、細胞状態のリセット)。最後に、
図8(d)に示すように、第3開口23を閉じて、第4開口24を開いてから、第4開口24から第2気体4Bを導入し、トラップ部材30上の細胞5を、第2気体4B中の物質に曝露させ(2回目の曝露工程)ながら、細胞の発する蛍光を検出する(2回目の評価工程)。
【0082】
なお、上記の例では、洗浄工程において溶液6を第3開口23から導入したが、洗浄工程において、溶液6は第1開口21から導入してもよい。
【0083】
また、
図8(c)に示すような、第3開口23から第1開口21に向けて洗浄液を流すことによる、細胞5は除去しない洗浄工程は、細胞5が接着細胞である場合などの、洗浄液によって細胞5がトラップ部材30上から第1部分41に流されてしまわない場合に好適に適用され得る。
【0084】
上記の例では、1回目の曝露工程と評価工程のあと、2回目の曝露工程と評価工程の前に洗浄工程を含んでいたが、
図9(a)~(d)に示すように、1回目の曝露工程と評価工程(
図9(b))のあと、洗浄工程の代わりに微量の第2気体4Bを導入して、流路40内に残存する溶液6を押し流すことによって流路40内の第1気体4Aを除去する工程(
図9(c))を行ってから、2回目の曝露工程と評価工程(
図9(d))を行ってもよい。
【0085】
<作用及び効果>
以上で説明したように、検出ユニット1及びそれを用いた気相中の物質の検出方法では、細胞懸濁液3から分離された細胞5を気体4中の物質に曝露させる。そのため、液相中で細胞を物質に曝露させる場合と比較して、気体4中の物質の溶液6への溶解性に依存することなく、気相中の物質を検出することができる。また、本発明者らの検討によって、細胞を気相中の物質に曝露した場合、液相中で細胞を物質に曝露させる場合と比較して、細胞が物質に対して高感度に応答することが明らかとなった。よって、検出ユニット1及びそれを用いた気相中の物質の検出方法によれば、気体4中の物質を良好に検出することができる。なお、本発明は、細胞の生存状態を維持する上では乾燥に注意することが必須であり、細胞の気相への曝露は数秒~数十秒であることが好ましいと従来考えられていたところ、細胞懸濁液から細胞を分離して気相中に配置した場合でも細胞は或る程度生存可能であるとの知見を本発明者らが見出したことに基づくものである。
【0086】
検出ユニット1及びそれを用いた気相中の物質の検出方法では、検出ユニット1がトラップ部材30を備えているため、細胞懸濁液3をトラップ部材30に接触させることによって細胞5を細胞懸濁液3から分離することができる。これによって、細胞懸濁液3から細胞5を容易に分離することができる。このようなトラップ部材30による細胞5のトラップは、トラップ部材30が多孔質体からなり、貫通孔31が該多孔質体の孔であること、貫通孔31の各々の最大幅が所定の上限以下であること、及び/又はトラップ部材30が最大幅が所定の下限以上の細胞をトラップするように構成されていることによって、より好適に行うことができる。
【0087】
検出ユニット1及びそれを用いた気相中の物質の検出方法では、流路40の体積が所定の上限以下(例えば7000mm3以下)である。本発明者らの検討によって、細胞の培養空間の体積が小さいと、細胞が気相培養環境下で長時間生存できることが明らかとなった。よって、流路40の体積が小さい場合、細胞5を気体4中の物質に長時間曝露させることができるため、連続測定及び低濃度の気相中の物質の検出等に好適に用いることができる。
【0088】
また、本発明者の検討によって、細胞を気相中の物質に曝露した場合、液相中で細胞を物質に曝露させる場合と比較して、細胞が物質に対して高感度に応答することが明らかとなった。よって、検出ユニット1を用いた気相中の物質の検出方法では、曝露工程における曝露時間が短時間(例えば1分以下)であっても、気相中の物質を検出することができる。
【0089】
また、本発明者らの検討によって、細胞が気相培養環境下で長時間生存できることが明らかとなった。よって、検出ユニット1を用いた気相中の物質の検出方法では、曝露工程における曝露時間が長時間(例えば1分以上、又は1時間以上8時間以下)であっても、細胞生存率の顕著な低下を伴うことなく細胞を気相中の物質に曝露させることができる。
【0090】
また、本発明者らの検討によって、密閉環境において、開放環境と比較して、気相培養条件下で細胞がより長時間生存できることが明らかとなった。よって、検出ユニット1を用いた気相中の物質の検出方法では、曝露工程が密閉環境において行われる場合、細胞生存率の顕著な低下を伴うことなく細胞を気相中の物質に曝露させることができるため、連続測定及び低濃度の気相中の物質の検出等に好適に用いることができる。
【0091】
検出ユニット1及びそれを用いた気相中の物質の検出方法では、検出ユニット1の第1基板10及び第2基板20が光透過性を有しているため、細胞5が発する蛍光を検出することができる。よって、細胞5の発する蛍光の強度に基づいて気体4中を検出することが可能である。
【0092】
トラップ部材30が、流路40内の空間を第1部分41と第2部分42とに隔てている。第1基板10及び第2基板20(流路部材)が、第1部分41に接続された、細胞懸濁液3を供給するための第1開口21と、第1部分41に接続された、物質を含む気体4を供給するための第2開口22と、第2部分42に接続された、溶液6及び気体4を排出するための第3開口23と、を有する。これにより、第1開口21から細胞懸濁液3を供給してトラップ部材30に細胞をトラップさせた後に、第2開口22から物質を含む気体4を供給して細胞5を物質に曝露させることができる。また、第1開口21及び第2開口22から供給された溶液6(細胞懸濁液3)及び気体4を第3開口23から排出することができる。
【0093】
<変形例>
以上で説明した例では、第1基板10及び第2基板20が共に光透過性のガラス製の基板であるとして説明したが、第1基板10及び第2基板20の材質はこれに限定されるものではない。例えば、評価工程が細胞の発する蛍光を検出することを含む場合、第1基板10及び第2基板20の少なくとも一方が光透過性であれば、細胞に対する励起光照射及び蛍光の検出は可能であるため、第1基板10及び第2基板20の一方が細胞の発する光に対して透過性に、他方が非透過性に形成されて(あるいは、シリコンウェハ等の光透過の低い部材により形成されて)いてもよい。また、評価工程が洗浄工程において回収した細胞破砕物8あるいは細胞5を評価することを含む場合、第1基板10及び第2基板20の両方が細胞の発する光に対して非透過性に形成されて(あるいは、シリコンウェハ等の光透過の低い部材により形成されて)いてもよい。
【0094】
トラップ部材30は、
図10(a)~(e)に示したような形状であってもよい。
図10(a)に示した例では、トラップ部材30に、円形状の貫通孔31(開口部)が1つ設けられている。
図10(b)に示した例では、トラップ部材30に、貫通孔31(開口部)が縞状に多数設けられている。なお、
図10(a)に示した例では、トラップ部材30に、貫通孔31とは別の排出口が更に形成されていてもよい。
図10(a)に示した例のように1つの貫通孔31が設けられている場合、貫通孔31に細胞5がトラップされると、細胞懸濁液3、気体4及び溶液6がトラップ部材30を通過することができなくなる可能性があるが、排出口を設けることで、貫通孔31に細胞5がトラップされた後でも、細胞懸濁液3、気体4及び溶液6がトラップ部材30を通過することができる。
【0095】
図10(c)~(e)に示した例では、トラップ部材30が流路40の流れの一部を遮るように配置されており、流路40の表面とトラップ部材30との間に隙間32(開口部)が形成されている。より具体的には、
図10(c)の例では、トラップ部材30が1辺において流路40の表面に接触しており、当該接触部分以外に1つの隙間32(開口部)が形成されている。
図10(d)の例では、トラップ部材30が対向する2辺において流路40の表面に接触しており、当該接触部分以外に2つの隙間32(開口部)が形成されている。
図10(e)の例では、トラップ部材30が3辺において流路40の表面に接触しており、当該接触部分以外(残りの1辺)に1つの隙間32(開口部)が形成されている。他の例として、トラップ部材30が4辺において流路40の表面に接触し、トラップ部材30の隅部に例えば三角形状の隙間32(開口部)が形成されていてもよい。
【0096】
また、
図1(b)に示した例では、複数(多数)の貫通孔31が規則的に配置されているが、複数の貫通孔31は不規則(ランダム)に配置されていてもよい。また、複数の貫通孔31の大きさは、一様でなくてもよい。
【0097】
また、
図1(b)に示したトラップ部材30では、貫通孔31の形状は厚さ方向に関して一様であり、トラップ部材30の表面上で細胞5がトラップされたが、貫通孔31の形状は厚さ方向に関して一様でなくてもよく、トラップ部材30の内部で細胞5がトラップされてもよい。トラップ部材30は、貫通孔31の形状が厚さ方向に関して一様でないトラップ部材として、例えばデプスフィルター又はメンブレンフィルターであってよい。デプスフィルターに設けられた細孔は、フィルター表面に近いほど口径が大きく、フィルター内部に存在するほど口径が小さくなっている。よって、トラップ部材30がデプスフィルターであると、トラップ部材30は、その表面だけでなく、内部でも細胞5をトラップすることができる。トラップ部材30は、繊維状であってもよいし、複数の層により構成されてもよい。トラップ部材30を構成する多孔質体は、
図1(b)の例では、貫通孔31(細孔)が規則的な方向(厚さ方向)に延びる構造を有していたが、貫通孔31が不規則な方向に延びると共に3次元上において不規則に分布している構造(不規則な多孔質構造)を有していてもよい。
【0098】
図11に示した第1変形例の検出ユニット1Aは、トラップ部材30を有しない。検出ユニット1Aでは、流路部分12の表面及び/又は第2基板20の流路40に対する接触面が、細胞懸濁液3が接触した場合に溶液6がトラップされない一方で細胞5がトラップされるように構成されている(すなわち、流路40の表面40aがトラップ領域33に相当する)。このようなトラップ領域33は、適切な材料の選択(例えばガラス)、あるいは流路40の表面40aに対する処理(例えば親水化処理)又は修飾(例えばコラーゲンコーディング、ポリリジンコーティング又はフィブロネクチンコーティング)等によって達成することができ、この場合の処理又は修飾は、接着細胞の接着性を高めるものであってもよく、浮遊細胞を基板上に接着させるためのものであってもよい。トラップ領域33は、細胞5をトラップするための細胞トラップ部を構成する。
【0099】
また、第2基板20の流路40に対する接触面が、細胞懸濁液3が接触した場合に溶液6がトラップされない一方で細胞5がトラップされるように構成されている場合には、検出ユニット1Aは、第2基板20が第1基板10に対して鉛直下側となるように用いてもよい。そうすると、重力によって細胞5が第2基板20の流路40に対する接触面に接着しやすくなるため、例えば第2基板20としてカバーガラスを用いると、曝露工程において気相中の物質に曝露した細胞5を倒立型顕微鏡等によって簡便に蛍光観察すること(評価工程)ができる。
【0100】
検出ユニット1Aを用いる場合の分離工程では、
図12(a)に示すように、第1開口21を開き、第2開口22を閉じた状態で、第1開口21から細胞懸濁液3を導入し、流路40中で細胞懸濁液3を或る程度の時間(例えば5分以上、10分以上、30分以上、1時間以上、2時間以上、4時間以上、8時間以上又は16時間以上)静置する又は緩やかに流す。これにより、細胞5が流路40の表面40aに接着する。次に、
図12(b)に示すように、第2開口22を開き、第1開口21を閉じてから、第2開口22から気体4を導入すると、流路40から溶液6は除去される一方で、表面40aに接着している細胞5は流路40中に留まる。これにより、細胞5が溶液6から分離され(分離工程)、代わりに細胞5が気体4中の物質に曝露される(曝露工程)ため、気体4中の物質の検出が可能である。
図12では1つの検出位置50のみにおいて細胞5の検出(分離、曝露及び評価)が行われたが、
図13に示されるように、細胞5の検出は複数の検出位置50で行われてもよい。
【0101】
検出ユニット1Aを用いた気相中の物質の検出方法は、
図14(a)~(d)に示すように、第2開口22から第1気体4Aを導入して複数の検出位置50で蛍光強度を測定(
図14(b))する工程、洗浄工程(
図14(c))、及び第2開口22から第2気体4Bを導入して複数の検出位置50で蛍光強度を測定(
図14(d))する工程を含んでもよい。
【0102】
なお、
図14の例では、第2開口22が第1気体4A及び第2気体4Bを導入するための開口であったが、第2開口22は、第1気体4A、第2気体4B及び溶液6を導入するための開口であってもよい。この場合、洗浄工程において、第1開口21に代わって第2開口22から溶液6を導入することによって、第2開口22に残存した第1気体4Aを除去できるため、弁が設けられていなかったとしても、洗浄工程の後に第2開口22から第2気体4Bを導入する際に、第1気体4Aと第2気体4Bが混ざってしまうこと(コンタミネーション)を防ぐことができる。
【0103】
また、検出ユニット1Aは、第2部分42に接続された、気体を供給する第4開口24をさらに有していてもよい。この場合、検出ユニット1Aを用いた気相中の物質の検出方法は、
図15(a)~(d)に示すように、第2開口22から第1気体4Aを導入して複数の検出位置50で蛍光強度を測定(
図15(b))する工程、洗浄工程(
図15(c))、及び第4開口24から第2気体4Bを導入して複数の検出位置50で蛍光強度を測定(
図15(d))する工程を含んでよい。
【0104】
また、検出ユニット1Aは、第2部分42に接続された、気体を供給するための第4開口24、流路40上の第2開口22に接続される部分と第4開口24に接続される部分との間に存在する第1検出位置51、及び流路40上の第4開口24に接続される部分と第3開口23との間に存在する第2検出位置52を有していてもよい。この場合、検出ユニット1Aを用いた気相中の物質の検出方法は、
図16(a)~(c)に示すように、分離工程(
図16(a))の後、曝露工程及び評価工程においては、第1検出位置51に位置する細胞5を第2開口22から導入した第1気体4A中の物質に曝露させる(
図16(b))。その後、第2検出位置52に位置する細胞5を第4開口24から導入した第2気体4B中の物質に曝露させる(
図16(c))。これにより、複数の気体中の物質に対して、互いに異なる細胞5を曝露させることができる。
【0105】
以上で説明した検出ユニット1Aにおいて、流路40は、表面40aの全体が、細胞懸濁液3が接触した場合に溶液6がトラップされている一方で細胞5がトラップされるように構成されて(すなわち、表面40aの全体がトラップ領域33であって)もよく、表面40aの一部のみ(例えば検出位置50に該当する部分のみ)が同様に構成されて(すなわち、表面40aの一部のみがトラップ領域33であって)もよい。
【0106】
検出ユニット1Aでは、流路40の表面40aが、細胞懸濁液3が接触した場合に溶液6がトラップされている一方で細胞5がトラップされるように構成されているため、流路40に細胞懸濁液3を流すことで細胞懸濁液3から細胞5を分離させることができ、細胞懸濁液3から細胞5を容易に分離することができる。
【0107】
図17に示した第2変形例の検出ユニット1Bの基体2は、第1部材10A、第2部材10B及び第2基板20を有している。
図18(a)に示すように、第2基板20は、
図1に示した検出ユニット1Aで説明したものと同様に構成されている。第1部材10A、第2部材10Bは、例えば、ガラスにより矩形状に形成されており、光透過性を有している。第1部材10Aは、平坦な表面10aを有している。
【0108】
図18(b)に示すように、第1部材10Aは、流路開口11A及び第3接続開口15Aを有する。流路開口11A及び第3接続開口15Aは、厚さ方向に貫通している。流路開口11Aは、第1流路本体部12A、流路分岐部12B、第1接続開口部13A、第2接続開口部14A及び第1トラップ保持部16Aを有する。第1流路本体部12Aは直線状であり、流路分岐部12Bは第1流路本体部12Aの中間部から分岐して直線状に延在する。第1流路本体部12Aは延在方向に沿って一様な断面形状を有している。当該断面形状は、例えば矩形状である。この例では、延在方向に垂直な断面において、第1流路本体部12Aの幅は0.5mmであり、流路部分12の高さは0.2mmである。平面視における第3接続開口15Aの形状は、この例では円形状であるが、これに限られず、任意の形状であってよい。
【0109】
第1接続開口部13Aは、第1流路本体部12Aの一端に接続されている。第1トラップ保持部16Aは、第1流路本体部12Aの他端に接続されている。第2接続開口部14Aは、流路分岐部12Bの一端(第1流路本体部12Aとの接続端とは反対側の端部)に接続されている。平面視における第1接続開口部13A、第2接続開口部14A及び第1トラップ保持部16Aの形状は、この例では円形状であるが、これに限られず、任意の形状であってよい。
【0110】
図18(c)に示すように、第2部材10Bの表面10aには、溝11Bが形成されている。溝11Bは、第2流路本体部12C、第2トラップ保持部16B及び第3接続部分15を有している。第2流路本体部12Cは直線状であり、第1流路本体部12Aに平行に存在する。第2流路本体部12Cは、延在方向に沿って一様な断面形状を有している。当該断面形状は、例えば矩形状である。この例では、延在方向に垂直な断面において、第2流路本体部12Cは0.5mmであり、第2流路本体部12Cの深さは0.2mmである。
【0111】
第2トラップ保持部16Bは、第2流路本体部12Cの一端に接続されている。第3接続部分15は、第2流路本体部12Cの他端に接続されている。平面視における第2トラップ保持部16B及び第3接続部分15の形状は、この例では円形状であるが、これに限られず、任意の形状であってよい。
【0112】
第1部材10Aは、第2部材10Bの表面10a上に配置されており、表面10aに密着している。第2基板20は、第1部材10Aにおける第2部材10Bとは反対側の表面に密着している。これらの密着は、例えば接着剤の使用等により達成される。これにより、第1流路本体部12Aの開口部が第2部材10B及び第2基板20によって塞がれると共に第2流路本体部12Cの開口部が第1部材10Aによって塞がれ、第1流路本体部12Aと第2部材10B及び第2基板20との間、並びに第2流路本体部12Cと第1部材10Aとの間に流路40が形成されている。すなわち、第1部材10A、第2部材10B及び第2基板20は、流路40を画定する流路部材である。
【0113】
第1部材10A、第2部材10B及び第2基板20に設けられた開口及び溝の位置関係について説明する。第1部材10Aの第1接続開口部13Aは、第2基板20の第1開口21に接続されている。第1部材10Aの第2接続開口部14Aは、第2基板20の第2開口22に接続されている。第1部材10Aの第1トラップ保持部16Aは、第2部材10Bの第2トラップ保持部16Bに接続されている。第1部材10Aの第3接続開口15Aは、第2基板20の第3開口23及び第2部材10Bの第3接続部分15に接続されている。
【0114】
第1トラップ保持部16Aと第2トラップ保持部16Bの間には、両者の間を仕切るようにトラップ部材30(細胞トラップ部)が配置されている。トラップ部材30は、この例では円形状である。トラップ部材30の形状は、
図19(a)~(f)に示すように、すでに説明した検出ユニット1におけるトラップ部材30と同様であってよい。すなわち、
図19(a)~(c)に示すように、トラップ部材30には、厚さ方向(流路40内の流れ方向)に沿ってトラップ部材30を貫通する貫通孔31(開口部)が形成されていてもよいし、
図19(d)~(f)に示すように、トラップ部材30と流路40表面との間に隙間32(開口部)を画が形成されていてもよい。
【0115】
検出ユニット1Bにおいても、トラップ部材30は、流路40内の空間を第1部分41と第2部分42とに隔てている。第1部分41は、第1流路本体部12Aと第2部材10B及び第2基板20との間に位置する部分である。第2部分42は、第2流路本体部12Cと第1部材10Aとの間に位置する部分である。
【0116】
このような検出ユニット1Bは、すでに説明した検出ユニット1と同様、例えば
図20(a)及び(b)に示すように、気体4中の物質の検出方法に用いることができる。なお、
図20(a)に示す工程と
図20(b)に示す工程との間に、第1開口21から溶液6を導入する工程を含んでもよい。そうすると、第1部分41に残存していた細胞懸濁液3中の細胞5も押し流され、トラップ部材30にトラップされるため、曝露工程において、第1部分41に残存した細胞5に起因して流路40内に気体4中の物質に曝露された細胞と曝露されていない細胞が混在してしまうことを防ぐことができる。
【0117】
変形例として、
図21~23に示されるように、検出ユニット1Bは、複数の箇所に設けられた細胞トラップ部で測定が行えるように構成されていてもよい。
図21~23の例では、検出ユニット1Bは、4か所の細胞トラップ部(第1トラップ部材30A、第2トラップ部材30B、第3トラップ部材30C及び第4トラップ部材30D)、いずれかの細胞トラップ部に接触させるように細胞懸濁液3を導入するための4つの開口(第1開口21A、第4開口21B、第6開口21C及び第8開口21D)、いずれかの細胞トラップ部に接触させるように第1気体4Aを導入するための4つの開口(第2開口22A、第5開口22B、第7開口22C及び第9開口22D)、いずれかの細胞トラップ部に接触させるように第2気体4Bを導入するための4つの開口(第10開口24A、第11開口24B、第12開口24C及び第13開口24D)、並びに細胞懸濁液3由来の溶液6、第1気体4A及び第2気体4Bを排出するための第3開口23を備えている。流路40は、4つのトラップ部材(第1トラップ部材30A、第2トラップ部材30B、第3トラップ部材30C及び第4トラップ部材30D)によって、5つの部分(第1部分41、第2部分42、第3部分43、第4部分44及び第5部分45)に隔てられている。このうち、第2部分42は、4つのトラップ部材(第1トラップ部材30A、第2トラップ部材30B、第3トラップ部材30C及び第4トラップ部材30D)の全てに面しており、かつ細胞懸濁液3由来の溶液6、第1気体4A及び第2気体4Bを排出するための第3開口23が接続されている。第1部分41は、4つのトラップ部材のうち第1トラップ部材30Aのみに面しており、細胞懸濁液3を導入するための第1開口21A、第1気体4Aを導入するための第2開口22A及び第2気体4Bを導入するための第10開口24Aが接続されている。第3部分43は、4つのトラップ部材のうち第2トラップ部材30Bのみに面しており、細胞懸濁液3を導入するための第4開口21B、第1気体4Aを導入するための第5開口22B及び第2気体4Bを導入するための第11開口24Bが接続されている。第4部分44は、4つのトラップ部材のうち第3トラップ部材30Cのみに面しており、細胞懸濁液3を導入するための第6開口21C、第1気体4Aを導入するための第7開口22C及び第2気体4Bを導入するための第12開口24Cが接続されている。第5部分45は、4つのトラップ部材のうち第4トラップ部材30Dのみに面しており、細胞懸濁液3を導入するための第8開口21D、第1気体4Aを導入するための第9開口22D及び第2気体4Bを導入するための第13開口24Dが接続されている。このような検出ユニット1Bを使用した気体4中の物質の検出方法の一例について、
図21~23を参照しながら、以下に説明する。
【0118】
まず、
図21(a)に示すように、第1開口21A、第4開口21B、第6開口21C、第8開口21D及び第3開口23を開き、その他の流路40に設けられた開口を閉じてから、細胞懸濁液3を、第1開口21A、第4開口21B、第6開口21C及び第8開口21Dから導入する。導入された細胞懸濁液3は、第1トラップ部材30A、第2トラップ部材30B、第3トラップ部材30C又は第4トラップ部材30Dに到達し、
図21(b)に示すように、細胞5はこれらのトラップ部材にトラップされる一方、溶液6はこれらを通過して第3開口23から排出される(分離工程)。次に、第1開口21A、第4開口21B、第6開口21C及び第8開口21Dを閉じ、第2開口22A、第5開口22B、第7開口22C及び第9開口22Dを開いてから、第2開口22A、第5開口22B、第7開口22C及び第9開口22Dから第1気体4Aを導入する。
図22(a)に示すように、導入された第1気体4Aが、流路40の第1部分41、第3部分43、第4部分44又は第5部分45を通過して第1トラップ部材30A、第2トラップ部材30B、第3トラップ部材30C又は第4トラップ部材30Dに到達すると、これらのトラップ部材にトラップされた細胞5が第1気体4A中の物質に曝露される(1回目の曝露工程)。これにより、細胞が発する蛍光を測定する(1回目の評価工程)ことで、第1気体4A中の物質を検出することができる。これらのトラップ部材を通過して流路40の第2部分42に到達した第2気体4Bは、最終的に第3開口23から排出される。次に、第2開口22A、第5開口22B、第7開口22C及び第9開口22Dを閉じ、第1開口21A、第4開口21B、第6開口21C及び第8開口21Dを開いてから、
図22(b)に示すように、第1開口21A、第4開口21B、第6開口21C及び第8開口21Dから溶液6を導入し、第1トラップ部材30A、第2トラップ部材30B、第3トラップ部材30C又は第4トラップ部材30D及びそれらにトラップされた細胞5から、気体4中の物質を除去する(洗浄工程)。最後に、第1開口21A、第4開口21B、第6開口21C及び第8開口21Dを閉じ、第10開口24A、第11開口24B、第12開口24C及び第13開口24Dを開いてから、
図23に示すように、第10開口24A、第11開口24B、第12開口24C及び第13開口24Dから第2気体4Bを導入することによって、第1トラップ部材30A、第2トラップ部材30B、第3トラップ部材30C又は第4トラップ部材30Dにトラップされた細胞5が第2気体4B中の物質に曝露される(2回目の曝露工程)。これにより、細胞が発する蛍光を測定する(2回目の評価工程)ことで、第2気体4B中の物質を検出することができる。
【0119】
以上で説明した例では、4か所のトラップ部材にトラップされた細胞5を、1回目の曝露工程では第1気体4Aの一種類に対して、2回目の曝露工程では第2気体4Bの一種類に対して曝露させたが、4か所のトラップ部材にトラップされた細胞5毎に曝露される気体が異なってもよい。この場合、1回の曝露工程ごとに4種類の気体について、気体中の物質を検出することができるため、よりハイスループットに検出を行うことができる。
【0120】
上記の例では、4つのトラップ部材全てに細胞を配置するとして説明したが、一部のトラップ部材のみに細胞5をトラップさせ、曝露工程及び評価工程に使用してもよい。この場合、例えば第1開口21及び第3開口23を開き、それ以外の開口を閉じた状態で、第1開口21から細胞懸濁液3を導入することによって、4つのトラップ部材のうち第1トラップ部材30Aのみに細胞をトラップさせることができる。
【0121】
なお、
図21(a)に示す工程の後に、第1開口21A、第4開口21B、第6開口21C及び第8開口21Dから溶液6を導入する工程を含んでもよい。そうすると、第1部分41、第3部分43、第4部分44及び第5部分45に残存していた細胞懸濁液3中の細胞5も押し流され、第1トラップ部材30A、第2トラップ部材30B、第3トラップ部材30C及び第4トラップ部材30Dにトラップされるため、曝露工程において、第1部分41、第3部分43、第4部分44及び第5部分45に残存した細胞5に起因して流路40内に気相中の物質に曝露された細胞と曝露されていない細胞が混在してしまうことを防ぐことができる。
【0122】
なお、上記の例では、第2開口22A、第5開口22B、第7開口22C及び第9開口22Dは、第1気体4Aを導入するための開口であったが、これらの開口は、第1気体4A及び溶液6を導入するための開口であってもよい。この場合、洗浄工程において、第1開口21A、第4開口21B、第6開口21C及び第8開口21Dに代わって第2開口22A、第5開口22B、第7開口22C及び第9開口22Dから溶液6を導入することによって、第2開口22A、第5開口22B、第7開口22C及び第9開口22Dに残存した第1気体4Aも除去することができるため、弁が設けられていなかったとしても、2回目の曝露工程において、第1気体4Aと第2気体4Bが混ざってしまうこと(コンタミネーション)を防ぐことができる。また、コンタミネーションを防ぐ観点では、まず流路40の上流に位置する第2開口22A、第5開口22B、第7開口22C及び第9開口22Dから第2気体4Bを導入して1回目の曝露工程及び1回目の評価工程を行い、第1開口21A、第4開口21B、第6開口21C及び第8開口21Dから溶液6を導入して洗浄工程を行った後に、流路40の下流に位置する第1開口21A、第4開口21B、第6開口21C及び第8開口21Dから第1気体4Aを導入して2回目の曝露工程及び2回目の評価工程を行ってもよい。
【0123】
以上で説明した検出ユニット1Bでは、第1トラップ部材30Aは、流路40内の空間を第1部分41と第2部分42に隔てており、第2トラップ部材30Bは、流路40内の空間を第2部分42と第3部分43に隔てており、第3トラップ部材30Cは、流路40内の空間を第2部分42と第4部分44に隔てており、第4トラップ部材30Dは、流路40内の空間を第2部分42と第5部分45に隔てている。基体2(流路部材)は、第1部分41に接続された、細胞懸濁液3を導入するための第1開口21Aと、第1部分41に接続された、第1気体4Aを導入するための第2開口22Aと、第2部分42に接続された、溶液6及び第1気体4Aを排出するための第3開口23と、第3部分43に接続された、細胞懸濁液3を導入するための第4開口21Bと、第3部分43に接続された、第1気体4Aを導入するための第5開口22Bと、第3部分43に接続された、細胞懸濁液3を導入するための第4開口21Bと、第3部分43に接続された、第1気体4Aを導入するための第5開口22Bと、第5部分45に接続された、細胞懸濁液3を導入するための第8開口21Dと、第5部分45に接続された、第1気体4Aを導入するための第9開口22Dと、を有する。よって、第1トラップ部材30A~第4トラップ部材30Dの各々の位置において物質の検出を行うことができる。なお、第4部分44及び第5部分45は省略されてもよい。
【実施例0124】
以下、本発明について実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0125】
<細胞培養>
HeLa細胞(ヒト子宮頸がん細胞)の培養には、Dulbecco’smodified Eagle’s medium(Nacalai tesque #08456-65、以下ではDMEMとも表記する)に非働化したFetal bovine serum(MP Biomedicals #2916754、以下ではFBSとも表記する)を10vol%添加した培養液を用いた。CHO-K1細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞)の培養には、Ham's F-12 Nutrient Mix, GlutaMAX(Gibco#31765-035)に非働化した10%FBS(Gibco #10099-141)を添加した培養液を用いた。細胞の剥離には、0.25%Trypsin-EDTA(Gibco #25200-056)を用いた。培養器は、CO2インキュベーター(Panasonic #MCO-170AICUVD-PJ)、もしくは、顕微鏡(Olympus#IX83)上の培養システム(東海ヒット #STXG-IX3WX)を37℃、5%CO2、加湿バットによる自然蒸発に設定して用いた。
【0126】
<培養容器、濾紙>
96ウェルプレートはポリスチレン製の平底ボトム(TPP #92096)、12ウェルプレートはポリスチレン製の平底ボトム(IWAKI #3815-012)、トリプルウェルディッシュはガラス製の平底ボトム(IWAKI#3970-103)、トランズウェルインサート一体型96ウェルプレートはポリエステルメンブレン製のポアサイズ1.0μmインサート(CORNING #3380)、濾紙(ADVANTEC #00021185)はウェルを覆うサイズに切り出してUV殺菌したものを用いた。
【0127】
<細胞生存率測定>
生細胞数測定試薬Cell Count Reagent SF(Nacalai tesque #07553-44)を10%添加した培養液にて細胞を2時間培養した後、マイクロプレートリーダー(Thermo Scientific #Varioskan Lux)を用いて450nmの吸光度を測定した。
【0128】
<細胞と溶液の分離>
細胞からの培養液の除去には、マイクロピペット用のチップ(日京テクノス株式会社 #NT-200G)を先端に配置したアスピレーター(日東工器株式会社 #LV-435A)を用いた。
【0129】
<実施例1:気相及び液相での曝露における、気相中の物質に対する細胞の応答性>
1ウェルあたり0.5×104個のHeLa細胞を96ウェルプレートに播種し、翌日まで静置して細胞を接着させた。培養液(培養上清)量を0~35μLに調整し、培養液(コントロール)、エタノール(富士フィルム和光純薬株式会社 #057-00456)又はその混合液をしみ込ませた濾紙をプレート上面に配置した。フタを被せてCO2インキュベーター内に1分間静置することで揮発成分を曝露した。濾紙を除去し、培養液量を100μLに調整して翌日まで静置した後、細胞生存率を測定した。
【0130】
培養液(コントロール)又はエタノールをしみ込ませた濾紙を配置した場合の結果を
図24に示す。培養液量0μLの条件においてはコントロール群と比較してエタノール群で生存率が低下したのに対し、培養液が5μL以上存在する条件ではエタノール群における生存率の低下が見られなかった。このことから、細胞は、培養液が0μLでの曝露、すなわち気相での曝露において、気相中の物質に対して高い応答性を示すことが明らかとなった。
【0131】
培養液、エタノール又はその種々の割合の混合液をしみ込ませた濾紙を配置した場合の結果を
図25(a)~(g)に示す。
図25(a)は0%エタノール(100%培養液)の結果を示す。
図25(b)は20%エタノール(80%培養液)の結果を示す。
図25(c)は40%エタノール(60%培養液)の結果を示す。
図25(d)は50%エタノール(50%培養液)の結果を示す。
図25(e)は60%エタノール(40%培養液)の結果を示す。
図25(f)は80%エタノール(20%培養液)の結果を示す。
図25(g)は100%エタノール(0%培養液)の結果を示す。これらのうち、
図25(g)に示すように、培養液(培養上清)が0μLの条件で100%エタノールをしみ込ませた濾紙を配置した場合において、細胞の生存率の低下が見られた。
【0132】
<実施例2:気相培養後の細胞の、気相及び液相での曝露における、気相中の物質に対する細胞の応答性>
1ウェルあたり0.5×104個のHeLa細胞を96ウェルプレートに播種し、翌日まで静置して細胞を接着させた。培養液を除去し、フタを被せてCO2インキュベーター内に3時間静置した。気相曝露は培養液量を0μL、液相曝露は培養液量を100μLに調整し、培養液(コントロール)もしくはエタノールを含む濾紙をプレート上面に配置した。フタを被せてCO2インキュベーター内に1~10分間静置することで揮発成分を曝露した。濾紙を除去し、培養液量を100μLに調整して翌日まで静置した後、細胞生存率を測定した。
【0133】
気相曝露した場合の結果を
図26(a)に示す。液層曝露した場合の結果を
図26(b)に示す。また、
図26(a)の曝露時間0分、1分及び
図26(b)の曝露時間1分、5分、7分の結果を
図27に示す。まず、
図26(a)と(b)の両方において、細胞がエタノール曝露に対して応答したことから、気相培養3時間後も細胞は生存しており、かつ気相中の物質への応答性を維持していることが明らかとなった。
【0134】
また、
図26(a)、(b)及び
図27に示すように、液相で曝露した場合と比較して、気相で曝露した場合において、より短い曝露時間で顕著な生存率の低下が見られ、特に曝露時間1分でも細胞生存率が20%程度まで低下した。このことから、気相中の物質に対して気相中で細胞を曝露させると、液相中で曝露させるよりも高い感度を示し、1分以下の時間の曝露であったとしても、細胞の応答に基づいて気相中の物質を検出可能であることが明らかとなった。
【0135】
<実施例3:気相培養時間に依存した細胞生存率の変化>
1ウェルあたり0.5×104個のHeLa細胞を96ウェルプレートに播種し、翌日まで静置して細胞を接着させた。培養液を除去し、CO2インキュベーター内に0~8時間静置した。培養液量を100μLに調整して翌日まで静置した後、細胞生存率を測定した。
【0136】
結果を
図28に示す。気相培養の時間が8時間以下の条件では、細胞生存率の顕著な低下は見られなかった。したがって、気相中の物質に対する気相中での細胞の曝露は、細胞死を誘発するような物質でない限りにおいては、少なくとも8時間は行うことができることが示唆された。
【0137】
<実施例4:気相培養における細胞生存率の変化の細胞種依存性>
1ウェルあたり0.5×104個のCHO-K1細胞を96ウェルプレートに播種し、翌日まで静置して細胞を接着させた。培養液を除去し、CO2インキュベーター内に0~8時間静置した。培養液量を100μLに調整して翌日まで静置した後、細胞生存率を測定した。
【0138】
結果を
図29に示す。CHO-K1細胞においても、8時間の気相培養後に60%近い細胞が生存していたことから、長時間の気相曝露実験は、実施例3で使用したHeLa細胞に限らない細胞種で行うことができることが示唆された。
【0139】
<実施例5:密閉環境/開放環境での気相培養における細胞生存率の変化の比較>
1ウェルあたり0.5×104個のCHO-K1細胞を96ウェルプレートに播種し、翌日まで静置して細胞を接着させた。培養液を除去し、フタを被せず、もしくは、フタを被せてCO2インキュベーター内に0~8時間静置した。培養液量を100μLに調整して翌日まで静置した後、細胞生存率を測定した。
【0140】
結果を
図30に示す。開放環境で長時間培養した場合、密閉環境で培養した場合と比較して、細胞生存率が低下した。このことから、長時間の気相曝露実験は、密閉環境でより好適に行うことができることが示唆された。
【0141】
<実施例6:気相培養における細胞生存率の培養体積への依存性>
1ウェルあたり0.5×104個のHeLa細胞を96ウェルプレート(1ウェル当たりの体積:約400mm3)に播種、又は、1ウェルあたり0.2×105個のHeLa細胞を12ウェルプレート(1ウェル当たりの体積:約7000mm3)に播種し、翌日まで静置して細胞を接着させた。培養液を除去し、CO2インキュベーター内に~7時間静置した。96ウェルプレートは培養液量を100μL、12ウェルプレートは培養液量を500μLに調整して翌日まで静置した後、細胞生存率を測定した。
【0142】
12ウェルプレートを使用した場合の結果を
図31(a)に示す。96ウェルプレートを使用した場合の結果を
図31(b)に示す。1ウェル当たりの体積が大きい12ウェルプレートを使用した場合と比較して、1ウェル当たりの体積が小さい96ウェルプレートを使用した場合において、長時間培養後の細胞の生存率が高く維持された。このことから、気相中の物質に対する気相曝露実験は、細胞の培養空間の体積が小さい環境でより好適に行うことができることが明らかとなった。
【0143】
<実施例7:気相培養した細胞に発現する細胞膜受容体の活性の蛍光に基づく評価>
1ウェルあたり0.5×104個のHeLa細胞をトリプルウェルディッシュに播種し、翌日まで静置して細胞を接着させた。培養液を除去し、CO2インキュベーター内に3時間静置した後、細胞膜の受容体活性を評価した。
【0144】
細胞膜の受容体活性はヒスタミン刺激による細胞内カルシウム濃度の変動を蛍光観察することで評価した。1M HEPES(Gibco #15630-080)を2%添加したHBSS(-)(富士フィルム和光純薬株式会社 #085-09355)(以後、緩衝液と表記)にて気相中で静置した後の細胞を3回洗浄した後、3μM CaTM-3AM(五稜化薬株式会社#GC507)を含む緩衝液を添加し、CO2インキュベーター内に30分間静置した。緩衝液にて3回洗浄した後、顕微鏡上の培養システム内に設置した。2秒間隔でライブイメージングを開始し(開始時の観察像0秒)、観察開始から5秒後に終濃度が1μMとなるようにHistamine(Sigma-Aldrich #H7125)を含む緩衝液を添加した後(添加直後の観察像6秒)、観察を10分間継続した。
【0145】
ヒスタミン刺激前(0秒)及びヒスタミン刺激直後(6秒)の蛍光像を
図32(a)に示す。また、
図32(a)中に示したROIにおける蛍光強度の時間変化を、観察開始時のROI内の平均輝度値により規格化して表示した結果を
図32(b)に示す。気相中で静置した細胞であっても、ヒスタミン受容体に対するヒスタミンの結合に応じたカルシウムオシレーションを蛍光検出できたことから、気相培養した細胞に発現する細胞膜受容体は活性を維持していること、かつその活性は蛍光によって検出可能であることが明らかとなった。
【0146】
<実施例8:多孔質性の細胞トラップ上で気相曝露した場合の細胞の応答性>
1ウェルあたり1.0×104個のCHO-K1細胞を96ウェルプレート(非透過性)、もしくは、トランズウェルインサート一体型96ウェルプレート(透過性)に播種し、1時間静置して細胞を接着させた。培養液を除去し、培養液とエタノールの混合溶液を容器内に10μL配置した後、CO2インキュベーター内に1分間静置することで揮発成分を曝露した。Trypsin-EDTAを用いて回収した細胞を新しい96ウェルプレートに播種して翌日まで静置した後、細胞生存率を測定した。
【0147】
結果を
図33に示す。非透過性の通常のウェルプレートを用いた場合と比較して、透過性のトランズウェルプレートを使用した場合に、より低濃度のエタノールに対する曝露によっても細胞生存率の低下が生じた。このことから、多孔質性の細胞トラップ上の細胞を気相中の物質に曝露させると、物質に対して相対的に高い応答性を示すことが明らかとなった。
【0148】
<実施例9:検出対象の物質と結合する細胞膜受容体を発現した細胞による、気相中の検出対象の物質の検出>
検出対象の物質と結合する細胞膜受容体として機能するOr13aタンパク質(キイロショウジョウバエの嗅覚受容体)とOrcoタンパク質(カイコガの共受容体)のヘテロ複合体を細胞膜上に発現した細胞によって、気相中の検出対象の物質を検出できるかを検討した。細胞としては、ツマジロクサヨトウ卵巣細胞であるSf9細胞を使用した。評価としては、Or13a-Orco嗅覚受容体は、リガンドの結合によって細胞内へのカルシウムの流入を促進するリガンド依存性イオンチャネルであるため、揮発したにおい化学物質1-Octen-3-ol(Sigma-Aldrich #O5284)を気相培養環境下のOr13a-Orco嗅覚受容体を発現したSf9細胞に曝露し、におい化学物質が細胞膜上の嗅覚受容体に結合した際の細胞内カルシウム濃度の変動を蛍光観察することによって検討した。
【0149】
[Or13a-Orco発現Sf9細胞の作製]
Or13aタンパク質とOrcoタンパク質のヘテロ複合体を細胞膜上に発現したSf9細胞(Or13a-Orco発現Sf9細胞)を、文献(ManeeratTermtanasombat et al., "Cell-Based Odorant Sensor Array for OdorDiscrimination Based on Insect Odorant Receptors", Journal of ChemicalEcology volume 42, 716-724 (2016).)に記載の方法にしたがって作成した。
【0150】
1.人工遺伝子の合成
Or13a遺伝子(Fruit fly(Drosophila melanogaster)のOdorant receptor 13a、NCBI Gene ID:32562)またはOrco遺伝子(Silkworm(Bombyx mori)のOdorant receptor coreceptor、GenBank accession number:AB100454.1)の開始コドン(ATG)上流にNot I制限酵素配列(GCGGCCGC)とコザック配列(GCCGCC)を、終止コドン(TAA or TAG)下流にXba I制限酵素配列(TCTAGA)を付加した下記の遺伝子をユーロフィンジェノミクス社にて人工合成した。Or13a遺伝子に対して付加して作成した人工遺伝子Not I-Or13a-Xba Iの配列を配列番号1に示した。Orco遺伝子に対して付加して作成した人工遺伝子Not I-Orco-Xba Iの配列を配列番号2に示した。
【0151】
2.発現ベクターの作成
昆虫細胞における組換えタンパク質の発現ベクターであるpIB/V5-Hisベクター(Invitrogen#V802001)のNot I-Xba Iサイトに、Not I-Or13a-Xba I(配列番号1)を挿入したプラスミド(pIB-Or13a)、および同サイトにNot I-Orco-Xba I(配列番号2)を挿入したプラスミド(pIB-Orco)を、それぞれ作製した。続いて、pIB-Or13aのBspH Iサイトに対して、pIB-Or13aのBspH I-Or13a-Pci I断片を挿入し、Or13aタンパク質とOrcoタンパク質を発現させるためのプラスミド(pIB-Or13a-Orcoプラスミド)を作製した。pIB-Or13a-Orcoプラスミドのプラスミドマップを
図34に示す。
【0152】
3.Or13a-Orco発現Sf9細胞の作製
遺伝子導入装置(BTX #ECM630)を用いたエレクトロポレーション法によりSf9細胞をpIB-Or13a-Orcoプラスミドにて形質転換した。ブラストサイジンS耐性を指標として、Or13aタンパク質とOrcoタンパク質のヘテロ複合体を細胞膜上に発現するSf9細胞(Or13a-Orco発現Sf9細胞)を取得した。このようにして作製したOr13a-Orco発現Sf9細胞の培養は、Grace’s Insect medium(Gibco #11605094)に非働化した10% Fetal bovine serum(HyClone # SH30070.03)、10μg/mlゲンタマイシン(Gibco #15710064)および10μg/ml ブラストサイジンS(Gibco #A1113903)を添加した培養液を用いて行い、培養器としてはクールインキュベーター(アズワン株式会社 #ICI-100)を27℃に設定して用いた。
【0153】
[気相曝露用計測容器の作製]
本実施例において用いた計測容器の斜視図を
図35(a)に示し、該計測容器の分解斜視図を
図35(b)に示す。
図35(a)及び(b)に示すように、本実施例において用いた計測容器は、フタとディッシュ本体からなり、これらはコラーゲンIコート ガラスベースディッシュ(以後ガラスディッシュと表記、IWAKI #4970-011、容器直径35mm、ガラス底部直径27mm)を加工して作製した。
【0154】
フタは、
図35(a)、(b)および
図35(c)の上面図に示すとおり、ガラスディッシュのフタ直径22mmの円形の孔を空け、その孔をポリプロピレン製のフィルムで覆った。フィルムは、該フィルムの下側(ディッシュ本体の底面と向かい合う側)の面が、ディッシュ本体の底面から2mmの高さかつディッシュ本体の底面と平行になるように、フタの上面に対して陥没した形状とした。この際、フィルムには、
図35(c)に示すように、直径6mmの円孔及び3mm×7mmの長方形の孔を設けた。さらに、フィルムのディッシュ本体の底面と平行な面には、15mm四方の濾紙(ADVANTEC #00021185)を下側から張り付け、かつその濾紙には、フィルムの円孔と重なるように直径6mmの円孔を設けた。これによって、計測容器内部の空間は、外部と直径6mmの円孔(溶液導入部孔)を介して連通しており、該円孔はイオノマイシン溶液の添加に用いた。また、計測容器内部の空間は、フィルムに設けられた3mm×7mmの長方形の孔に箇所において、外部と濾紙一枚を隔てて接しており、その濾紙で隔てた箇所(濾紙露出部)は、検出対象の物質を含む溶液を濾紙に対してしみ込ませることによって、計測容器内部の気相に検出対象の物質を導入することに用いた。
【0155】
ディッシュ本体は、細胞が接着された状態の一例を示す下面図が
図35(d)に示されており、コラーゲンIコートされたガラス底部表面を、Biocompatible Anchor for cell Membrane(以後BAMと表記、油化産業株式会社 #SUNBRIGHT OE-020CS)でさらにコーティングして用いた。
【0156】
[気相物質の検出]
Or13a-Orco発現Sf9細胞をセルスクレーパー(IWAKI #9020-250)にて剥離し、遠心により回収した。イメージング緩衝液(5mM HEPES pH7.2、9.4mM D-Glucose、140mM NaCl、5.6mM KCl、4.5mM CaCl2、11.26mM MgCl2、11.32mM MgSO4)にて2回洗浄した後、3μM CaTM-3 AM(五稜化薬株式会社 #GC507)を含むイメージング緩衝液を添加し、クールインキュベーター内に30分間静置して細胞を染色した。緩衝液にて3回洗浄した後、ディッシュ本体のBAMコートしたガラス上に播種し、クールインキュベーター内に10分間静置して染色細胞を底面に接着させた。細胞をイメージング緩衝液で満たし、顕微鏡上に静置して1時間安定化させた。
【0157】
イメージング緩衝液を除き、気相曝露用計測容器のフタをディッシュ本体にかぶせた。計測容器を顕微鏡上に再設置して2秒間隔でライブイメージングを開始した。イメージング開始時の蛍光像を
図36(a)に示す。イメージング開始20秒後に25μM 1-Octen-3-olを含むイメージング緩衝液50μlを、濾紙露出部における濾紙に染み込ませ、Or13a-Orco発現Sf9細胞を揮発した1-Octen-3-ol(におい化学物質)に曝露した。イメージング開始60秒後(1-Octen-3-olへの曝露40秒後)における蛍光像を
図36(b)に示す。イメージング開始140秒後、5μM イオノマイシン(カルシウムイオノフォア、Nacalai tesque #19444-91)を含むイメージング緩衝液200μlを、溶液導入孔を介してガラスディッシュに添加し、カルシウムを細胞内に流入させた。イメージング開始180秒後(イオノマイシン添加40秒後)の蛍光像を
図36(c)に示す。また、
図36(a)~(c)に示したROIにおける蛍光の平均輝度値の時間変化を、観察開始時のROI内の平均輝度値により規格化して示した結果を
図37に示す。
【0158】
図36及び
図37によれば、細胞を気相中の検出対象物質(1-Octen-3-ol)に曝露させた場合に、細胞に対してイオノマイシンを添加した場合と同様の、カルシウムの流入に起因した蛍光強度の上昇が観測された。以上から、溶液と分離された状態の細胞に対して、気相中の物質を曝露した後に評価することによって、気相中の物質を検出可能であることが明らかとなった。
1,1A,1B…検出ユニット、2…基体(流路部材)、3…細胞懸濁液、4…気体(物質を含む気体)、5…細胞、6…溶液、7…細胞破砕液(洗浄液)、9…細胞剥離液(洗浄液)、10…第1基板(流路部材)、10A…第1部材(流路部材)、10B…第2部材(流路部材)、20…第2基板(流路部材)、21,21A…第1開口、21B…第4開口、22,22A…第2開口、22B…第5開口、23…第3開口、30…トラップ部材(細胞トラップ部)、31…貫通孔(開口部)、32…隙間(開口部)、33…トラップ領域(細胞トラップ部)、40…流路、40a…表面、41…第1部分、42…第2部分。