(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178090
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】植物油脂含有飲食品の香味改善剤
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20241217BHJP
A23D 9/007 20060101ALI20241217BHJP
A23L 27/60 20160101ALI20241217BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23D9/007
A23L27/60 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2024009551
(22)【出願日】2024-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上敷領 俊
(72)【発明者】
【氏名】阿部 幸司
【テーマコード(参考)】
4B026
4B047
【Fターム(参考)】
4B026DC01
4B026DG01
4B026DG03
4B026DG05
4B026DG07
4B026DG08
4B026DL02
4B026DP01
4B026DX01
4B047LB08
4B047LG08
4B047LG11
4B047LP02
(57)【要約】
【課題】植物油脂含有飲食品の香味改善に有効な剤および植物油脂含有飲食品の香味改善に有効な方法を提供する。
【解決手段】植物油脂含有飲食品の香味改善に有効な剤として、パルミトレイン酸を有効成分として含む植物油脂含有飲食品の香味改善剤を、植物油脂含有飲食品の香味改善に有効な方法として、当該香味改善剤を植物油脂含有飲食品に添加することを含む植物油脂含有飲食品の香味改善方法を提供する。当該方法は、好ましくは、当該香味改善剤を、パルミトレイン酸の濃度が1ppb~1%となるように植物油脂含有飲食品に添加することを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルミトレイン酸を有効成分として含む、植物油脂含有飲食品の香味改善剤。
【請求項2】
請求項1に記載の植物油脂含有飲食品の香味改善剤を含む、植物油脂含有飲食品添加用組成物。
【請求項3】
パルミトレイン酸を含む、植物油脂含有飲食品添加用組成物。
【請求項4】
植物油脂含有飲食品の香味改善用である、請求項2または3に記載の植物油脂含有飲食品添加用組成物。
【請求項5】
パルミトレイン酸、請求項1に記載の植物油脂含有飲食品の香味改善剤、または請求項2もしくは3に記載の植物油脂含有飲食品添加用組成物を植物油脂含有飲食品に添加することを含む、植物油脂含有飲食品の香味改善方法。
【請求項6】
パルミトレイン酸、請求項1に記載の植物油脂含有飲食品の香味改善剤、または請求項2もしくは3に記載の植物油脂含有飲食品添加用組成物を、植物油脂含有飲食品の全体質量に対してパルミトレイン酸の濃度が1ppb~1%となるように植物油脂含有飲食品に添加することを含む、請求項5に記載の植物油脂含有飲食品の香味改善方法。
【請求項7】
パルミトレイン酸、請求項1に記載の植物油脂含有飲食品の香味改善剤、または請求項2もしくは3に記載の植物油脂含有飲食品添加用組成物を植物油脂含有飲食品に添加することを含む、植物油脂含有飲食品の製造方法。
【請求項8】
パルミトレイン酸、請求項1に記載の植物油脂含有飲食品の香味改善剤、または請求項2もしくは3に記載の植物油脂含有飲食品添加用組成物を、植物油脂含有飲食品の全体質量に対してパルミトレイン酸の濃度が1ppb~1%となるように植物油脂含有飲食品に添加することを含む、請求項7に記載の植物油脂含有飲食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物油脂飲含有食品の香味改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の嗜好性の多様化により、消費者のニーズに合うような様々な商品の開発が望まれている。その中で、油脂を含有する加工飲食品は、油脂に由来する食べ応えや満足感などが重要な訴求点となる場合があるが、加工処理や素材価格などの面で、満足できる香味の製品を製造することが困難な場合があった。そのため、油脂含有食品に対し、乳脂感、油脂感などの香気・香味を付与および増強を目的とした香味改善の要求も多い。油脂には、主成分のトリグリセリドのほか、種々の遊離脂肪酸、アルコール類、アルデヒド類、モノグリセリド、ジグリセリド、ビタミン類などが含まれており、これらの成分が一体となって油脂の風味を構成していると考えられる。
【0003】
油脂含有飲食品の香味の特徴を構成する成分のうち、例えば油脂については、その香気・香味を付与する目的で使用する化合物がいくつか提案されている。例えば、特許文献1には、δ-トリデカラクトン、δ-テトラデカラクトン、δ-ヘキサデカラクトン、δ-オクタデカラクトンといったδ-ラクトン類が油脂感増強剤として有用であることが記載されている。しかしながら、この化合物は油脂感以外の香気も有し、油脂感増強剤として必ずしも満足できるものではなかった。また、特許文献2には、2-メチル-3-チオフェンチオールからなるゴマ様の煎りたて感、擂りたて感、油脂感増強剤が、特許文献3には、3-メルカプト-3-メチルブチルフォーメートからなるゴマ様の煎りたて感、擂りたて感、油脂感増強剤が記載されている。しかしながらこれらの化合物は特定の油脂感、すなわちゴマ様の油脂感を増強するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-83264号公報
【特許文献2】特開2010-148411号公報
【特許文献3】特開2010-148412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の素材では、植物油脂含有飲食品の香味を有効に改善する効果が十分でなく、さらなる素材の開発が求められていた。従って、本発明の課題は、植物油脂含有飲食品の香味改善に有効な剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、驚くべきことに、特定の脂肪酸が植物油脂含有飲食品の香味改善に優れることを見出した。かくして、本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次の通りである。
[1] パルミトレイン酸を有効成分として含む、植物油脂含有飲食品の香味改善剤。
[2] [1]に記載の植物油脂含有飲食品の香味改善剤を含む、植物油脂含有飲食品添加用組成物。
[3] パルミトレイン酸を含む、植物油脂含有飲食品添加用組成物。
[4] 植物油脂含有飲食品の香味改善用である、[2]または[3]に記載の植物油脂含有飲食品添加用組成物。
[5] パルミトレイン酸、[1]に記載の植物油脂含有飲食品の香味改善剤、または[2]もしくは[3]に記載の植物油脂含有飲食品添加用組成物を植物油脂含有飲食品に添加することを含む、植物油脂含有飲食品の香味改善方法。
[6] パルミトレイン酸、[1]に記載の植物油脂含有飲食品の香味改善剤、または[2]もしくは[3]に記載の植物油脂含有飲食品添加用組成物を、植物油脂含有飲食品の全体質量に対してパルミトレイン酸の濃度が1ppb~1%となるように植物油脂含有飲食品に添加することを含む[5]に記載の植物油脂含有飲食品の香味改善方法。
[7] パルミトレイン酸、[1]に記載の植物油脂含有飲食品の香味改善剤、または[2]もしくは[3]に記載の植物油脂含有飲食品添加用組成物を植物油脂含有飲食品に添加することを含む、植物油脂含有飲食品の製造方法。
[8] パルミトレイン酸、[1]に記載の植物油脂含有飲食品の香味改善剤、または[2]もしくは[3]に記載の植物油脂含有飲食品添加用組成物を、植物油脂含有飲食品の全体質量に対してパルミトレイン酸の濃度が1ppb~1%となるように植物油脂含有飲食品に添加することを含む、[7]に記載の植物油脂含有飲食品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、植物油脂含有飲食品の香味改善に有効な剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について、具体例を挙げつつさらに詳細に説明する。本明細書において、「~」は下限値および上限値を含む範囲を意味し、濃度(ppt、ppb、ppmなど)、%は特に断りのない限りそれぞれ質量濃度、質量%を表し、濃度とは特に断りのない限り最終濃度とする。
【0009】
[植物油脂含有飲食品の香味改善剤]
本発明の一態様に係る植物油脂含有飲食品の香味改善剤(本明細書では、本件香味改善剤ということもある。)は、パルミトレイン酸を有効成分として含み、各種の植物油脂を含有する飲食品(本明細書では、植物油脂含有飲食品ということもある。)に添加してその飲食品の香味を改善できるものである。なお、パルミトレイン酸とは、特に断りのない限り遊離パルミトレイン酸を意味する。パルミトレイン酸は必ずしも植物油脂に多く含まれる構成脂肪酸ではないところ、この脂肪酸が植物油脂含有飲食品の香味改善に有効であることは、驚くべき発見であった。
【0010】
本明細書において、「香味」とは、嗅覚および/または味覚によって変化し得る1種または複数種の感覚を意味する。また、飲食品の香味を風味という場合がある。
【0011】
本明細書において、「添加」とは、ある対象に噴霧、滴下などによって単に加えること、およびある対象と混ぜ合わせることの、少なくとも1つを含む。
【0012】
本明細書において、「植物油脂」とは、植物の種子、実、茎、葉、その他部位から採取される、植物から得られる任意の油脂を意味する。代表的には、アボカド油、亜麻仁油、アーモンド油、エゴマ油、オリーブ油、カカオ脂(カカオバター)、カシュー油、マカダミアナッツ油、クルミ油、グレープシード油、ココナッツ油、胡麻油、米油、コーン油、大豆油、菜種油、パーム油、パーム核油、ヒマワリ油、ピーナッツ油、ヘーゼルナッツ油、紅花油、綿実油、ココアバターなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
本明細書において、「植物油脂含有飲食品」とは、前掲の植物油脂を含有する飲食品を意味し、飲食品とは、喫食可能な任意の物品を意味する。飲食品中の植物油脂の含有量は特に限定されず、好ましくは、植物油脂由来の香味が喫食者に感じられる程度の含有量であり、例えば0.01~100%(100%の場合は植物油脂そのものを意味する。)が例示でき、好ましくは0.1%以上、1%以上、3%以上、5%以上、8%以上、10%以上、13%以上、15%以上、18%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上または90%以上であることができるが、これらに限定されない。具体例としては、アボカド、ナッツ(代表的にはアーモンド、ピーナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、カシューナッツ、マカダミアナッツなどが挙げられる。)大豆、オリーブ、ココナッツ、胡麻、米、コーン、カカオ豆などの、植物油脂を含有する各種の飲食品素材を使用した飲食品が挙げられる。より具体的な飲食品例は後述する。
【0014】
本明細書において、「植物油脂含有飲食品の香味改善」とは、本件香味改善剤を添加した植物油脂含有飲食品の香味を嗜好性の高い香味とすることを含み、好ましくは、本件香味改善剤を添加した植物油脂含有飲食品の香味に、濃厚さ、ジューシーさ、コク感、満足感、クリーミー感、なめらかさ、しっとり感、甘味、口どけの良さ、芳醇さ、香味のまとまり、満足感、および余韻の1つ以上を付与することにより、嗜好性の高い香味とすることを含む。さらに好ましくは、本件香味改善剤を添加した植物油脂含有飲食品に植物油脂感を付与することで、植物油脂含有飲食品の香味を改善することを含む。
【0015】
本明細書において、「植物油脂感」とは、まろやかでさらりとした油脂感を含み、より好ましくは、なめらかで、くどさがないまたはあっさりとして、まろやかながらも舌に残る油脂様の香味を含む感覚を含むが、特に、動物油脂のようにやや癖のある動物油脂特有の香りや味、ねっとりとした重い油脂感とは異なる感覚を意味することが好ましい。また、本明細書において、「植物油脂感付与(植物油脂感を付与する)」とは、本件香味改善剤の添加によって添加対象に植物油脂感を新たに加える、および/または、添加対象の植物油脂感を増強することを含み、例えば、植物油脂感を付与した結果、添加対象の植物油脂感が改善(特に増強)されること、または添加対象の香味全体が改善されることを含む。本発明の好ましい一態様では、本件香味改善剤の付与によって、植物油脂を実際より多く使用したような感覚(植物油脂感が増強された感覚)を感じさせることができる。そのため、本件香味改善剤は、植物油脂含有飲食品への植物油脂感付与剤として使用することもできる。
【0016】
本件香味改善剤は、パルミトレイン酸に加えて、溶媒、抗酸化成分などの補助成分など任意の他の成分(具体例は後述の[植物油脂含有飲食品の香味改善剤の製造方法]の項で示す。)を含み得るが、実質的にパルミトレイン酸のみからなるものであってもよい。本件香味改善剤がパルミトレイン酸以外の成分も含む場合、本件香味改善剤中のパルミトレイン酸の濃度は、香味改善効果の程度に応じて任意に決定できる。
【0017】
本件香味改善剤中のパルミトレイン酸の濃度の例として、本件香味改善剤が実質的にパルミトレイン酸のみ、またはパルミトレイン酸およびその溶媒または分散媒のみを含む場合は、100ppb~100%の範囲内が例示でき、好ましい例として10ppm~99%の範囲内が挙げられる。例えば、市販の純度95%以上(例えば98%、99%など)のパルミトレイン酸を本件香味改善剤として使用することができる。
【0018】
本件香味改善剤の有効成分であるパルミトレイン酸は油溶性であるため、本件香味改善剤を水中油型の乳化製剤とすることで、各種飲食品に添加しても水分からのパルミトレイン酸の分離を起こさず、広範な飲食品に使用することができる。また、乳化製剤とする(その方法は後述の[植物油脂含有飲食品の香味改善剤の製造方法]の項で例示する。)ことで、パルミトレイン酸自体またはパルミトレイン酸を溶剤に単に溶解させた溶液よりも、香味改善効果が持続する場合がある。
【0019】
本件香味改善剤を植物油脂含有飲食品に添加する場合、有効成分であるパルミトレイン酸の植物油脂含有飲食品中の濃度は、所望の香味改善効果に応じて任意に決定できるが、本発明者らは、当該濃度が植物油脂含有飲食品の全体質量に対して1ppb~1%の範囲内であれば各種植物油脂含有飲食品の香味を改善できることを少なくとも確認している。そのため、本発明の一態様において、当該濃度は、1ppb~1%の範囲内に適当な濃度にすればよく、例えば、下限値を1ppb、10ppb、100ppb、1ppm、10ppm、100ppm、1000ppmのいずれかとし、上限値を1%、1000ppm、100ppm、10ppm、1ppm、100ppb、10ppbのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせによる範囲内とすることができ、好ましくは1ppm~100ppmの範囲内が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
[植物油脂含有飲食品添加用組成物]
本発明の一態様において、パルミトレイン酸を、飲食品に添加可能な任意の成分と混合して、パルミトレイン酸を含有する植物油脂含有飲食品添加用組成物とすることができ、また、本発明の他の一態様において、本件香味改善剤を、飲食品に添加可能な任意の成分と混合して、本件香味改善剤を含有する植物油脂含有飲食品添加用組成物とすることができる(以下、これらをまとめて本件飲食品添加用組成物ということがある。)。
【0021】
本件飲食品添加用組成物は、パルミトレイン酸を含有することにより、植物油脂含有飲食品に対して添加することで、植物油脂含有飲食品の香味の改善に使用することができる。そのため本件飲食品添加用組成物は、植物油脂含有飲食品の香味改善用組成物として使用することができる。また、本発明の他の一態様において、パルミトレイン酸を有効成分とする本件香味改善剤が上述の通り植物油脂感付与剤として使用できることから、本件植物油脂含有飲食品添加用組成物は、パルミトレイン酸を含有することにより、植物油脂含有飲食品の植物油脂感付与用組成物として使用することができる。
【0022】
本件飲食品添加用組成物中のパルミトレイン酸の濃度は、本件飲食品添加用組成物の添加対象や香味特性に応じて任意に決定でき、植物油脂含有飲食品の香味改善効果が奏される濃度(例えば上述の1ppb~1%の範囲)で添加可能なように適当な濃度にすればよく、例えば、10ppm~90%、より具体的には、下限値を10ppm、100ppm、1000ppm、1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%のいずれかとし、上限値を90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、1%、1000ppm、100ppmのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせによる範囲内とすることができるが、これらに限定されない。好ましくは1%~60%、より好ましくは5%~55%、さらに好ましくは10~50%、さらに好ましくは15~35%の範囲内が挙げられる。なお、本件飲食品添加用組成物の処方などにも依存するが、本件飲食品添加用組成物中のパルミトレイン酸の濃度を10ppm~90%とすると、パルミトレイン酸由来の香味が過度に突出することなく植物油脂含有飲食品への香味改善効果が得られやすくなる。しかし、本件飲食品添加用組成物やその添加対象の香味その他条件によっては、パルミトレイン酸を10ppm~90%の範囲外の濃度で含んでよい。
【0023】
本件飲食品添加用組成物の例として、各種飲食品に添加できる香料組成物、各種動植物エキス、または、各種動植物原料の発酵品、酵素処理品もしくは加熱処理品などが挙げられ、これらの形態としては、水溶性または油溶性溶媒、乳化製剤、粉末製剤、その他固体製剤(固形脂など)が挙げられるが、本発明は以上の例に限定されない。
【0024】
本件飲食品添加用組成物において、本件香味改善剤に加えてさらに含み得る任意の他の成分の具体例として、各種類の香料化合物、香料組成物、色素類、ビタミン類、機能性物質、魚肉エキス類、畜肉エキス類、動植物エキス類、動植物油脂、酵母エキス類、動植物タンパク質類、動植物タンパク質分解物類、澱粉、デキストリン、糖類、アミノ酸類、核酸類、有機酸類、溶剤、乳化剤、比重調整剤、抗酸化剤などを例示することができる。例えば、「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品用香料、平成12年1月14日発行」、「日本における食品香料化合物の使用実態調査」(平成12年度厚生科学研究報告書、日本香料工業会、平成13年3月発行)、および「合成香料 化学と商品知識」(2016年12月20日増補新版発行、合成香料編集委員会編集、化学工業日報社)に記載されている天然精油、天然香料、香料化合物などを挙げることができる。
【0025】
香料化合物のその他の例として、炭化水素化合物としては、α-ピネン、β-ピネン、ミルセン、カンフェン、リモネンなどのモノテルペン、バレンセン、セドレン、カリオフィレン、ロンギフォレンなどのセスキテルペン、1,3,5-ウンデカトリエンなどが挙げられる。
【0026】
アルコール化合物としては、ブタノール、ペンタノール、3-オクタノール、ヘキサノール、(Z)-3-ヘキセン-1-オール、プレノール、2,6-ノナジエノールなどの飽和または不飽和アルコール、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、テトラヒドロミルセノール、ファルネソール、ネロリドール、セドロール、テルピネオールなどのテルペンアルコール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、シンナミルアルコールなどの芳香族アルコールが挙げられる。
【0027】
アルデヒド化合物としては、アセトアルデヒド、ヘキサナール、オクタナール、デカナール、(E)-2-ヘキセナール、2,4-オクタジエナールなどの飽和または不飽和アルデヒド、シトロネラール、ヒドロキシシトロネラール、シトラール、ミルテナール、ペリルアルデヒドなどのテルペンアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、アミルシンナムアルデヒド、バニリン、エチルバニリン、ヘリオトロピン、p-トリルアルデヒドなどの芳香族アルデヒドが挙げられる。
【0028】
ケトン化合物としては、2-ヘプタノン、2-ウンデカノン、1-オクテン-3-オン、アセトインなどの飽和または不飽和ケトン、ジアセチル、2,3-ペンタンジオン、マルトール、エチルマルトール、シクロテン、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノンなどのジケトンおよびヒドロキシケトン、カルボン、メントン、ヌートカトンなどのテルペンケトン、α-イオノン、β-イオノン、β-ダマセノンなどのテルペン分解物に由来するケトン、ラズベリーケトンなどの芳香族ケトンが挙げられる。
【0029】
フランまたはエーテル化合物としては、フルフリルアルコール、フルフラール、ローズオキシド、リナロールオキシド、メントフラン、テアスピラン、エストラゴール、オイゲノール、1,8-シネオールなどが挙げられる。
【0030】
エステル化合物としては、酢酸エチル、酢酸イソアミル、酪酸エチル、イソ酪酸エチル、酪酸イソアミル、2-メチル酪酸エチル、3-メチル酪酸エチル、イソ酪酸2-メチルブチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸アリル、ヘプタン酸エチル、カプロン酸エチル、イソ吉草酸イソアミル、ノナン酸エチルなどの脂肪族エステル、酢酸リナリル、酢酸ゲラニル、酢酸ラバンジュリル、酢酸テルペニルなどのテルペンアルコールエステル、酢酸ベンジル、酪酸ベンジル、サリチル酸メチル、サリチル酸ベンジル、ケイ皮酸メチル、プロピオン酸シンナミル、安息香酸エチル、イソ吉草酸シンナミル、3-メチル-2-フェニルグリシド酸エチルなどの芳香族エステルが挙げられる。
【0031】
ラクトン化合物としては、γ-デカラクトン、γ-ドデカラクトン、δ-デカラクトン、δ-ドデカラクトン、7-デセン-4-オリド、2-デセン-5-オリドなどの飽和または不飽和ラクトンが挙げられる。
【0032】
酸化合物としては、酢酸、酪酸、オクタン酸、イソバレル酸、カプロン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの飽和または不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0033】
含窒素化合物としては、ピリジン、アルキル置換ピラジン、アントラニル酸メチル、トリメチルピラジンなどが挙げられる。
【0034】
含硫化合物としては、メタンチオール、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、アリルイソチオシアネート、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、3-メチル-2-ブタンチオール、3-メチル-1-ブタンチオール、2-メチル-1-ブタンチオール、およびフルフリルメルカプタンなどが挙げられる。
【0035】
天然精油としては、スイートオレンジ、ビターオレンジ、プチグレン、レモン、ベルガモット、マンダリン、ネロリ、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミール、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ヒヤシンス、ライラック、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、スギ、ヒノキ、ベチバー、パチョリ、ラブダナム、エルダーフラワー、クラリセージなどが挙げられる。
【0036】
各種動植物エキスとしては、ハーブまたはスパイスの抽出物、コーヒー、緑茶、紅茶、またはウーロン茶などの各種茶抽出物や、乳または乳加工品およびこれらのリパーゼおよび/またはプロテアーゼなどの各種酵素分解物などが挙げられる。
【0037】
本件飲食品添加用組成物が含有する本件香味改善剤の有効成分であるパルミトレイン酸は油溶性であるため、本件香味改善剤の項で述べたとおり、本件香味改善剤を水中油型の乳化製剤として本件飲食品添加用組成物に含有させる、または、本件飲食品添加用組成物を水中油型の乳化製剤とすることで、各種飲食品に添加しても水分からのパルミトレイン酸の分離を起こさず、広範な飲食品に使用することができ、パルミトレイン酸を溶剤に単に溶解させた溶液よりも、香味改善効果が持続する場合がある。本件飲食品添加用組成物を乳化製剤とする方法は、以下の[植物油脂含有飲食品の香味改善剤の製造方法]の項で例示する。
【0038】
[植物油脂含有飲食品の香味改善剤の製造方法]
本発明の一態様において、パルミトレイン酸を、適宜消費財に添加可能な溶媒その他の成分と混合することを含む、本件香味改善剤の製造方法(以下、本件香味改善剤の製造方法ということがある。)が提供される。本件香味改善剤の製造方法において、パルミトレイン酸の入手方法は特に限定されない。例えば市販のパルミトレイン酸を購入してもよいし、パルミトレイン酸をその分子内に内包する化合物から遊離させることでパルミトレイン酸を入手してもよい。
【0039】
パルミトレイン酸をその分子内に内包する化合物から遊離させることで、パルミトレイン酸を入手する場合は、例えば、下記工程1および2を含む方法を採用できる。
(工程1) パルミトレイン酸を分子中に含む化合物を含む組成物を用意する工程
(工程2) 前記工程1で用意した前記組成物を酵素処理することによって前記化合物から遊離したパルミトレイン酸を含む酵素処理物を得る工程
本方法の代表例としては、パルミトレイン酸をその分子内に内包する化合物(以下、パルミトレイン酸内包化合物ということがある。)として、パルミトレイン酸のカルボキシル基がグリセロールのヒドロキシ基とエステル結合した構造を有するグリセリド類(トリグリセリド、1,2-または1,3-ジグリセリド、1-または2-モノグリセリド)を用意し、リパーゼを触媒とした前記エステル結合の加水分解によってパルミトレイン酸を遊離させて入手する例が挙げられる。グリセリド類の具体例としては、トリグリセリドであって、3箇所のエステル結合中、少なくとも1箇所のエステル結合がパルミトレイン酸とのエステル結合であるものが挙げられる。
【0040】
パルミトレイン酸内包化合物を含む組成物は、特に限定されず、動物油脂であっても植物油脂であってもよい。例として、牛脂、豚脂、鶏油、鴨油、鯨油、魚油、カシューナッツオイル、ヘーゼルナッツオイル、ピスタチオオイル、マカダミアナッツオイル、アボカドオイル、アーモンドオイル、大豆油、綿実油、オリーブオイルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
本件香味改善剤の製造方法において、パルミトレイン酸の添加対象である、各種飲食品に添加可能な組成物の例としては、飲食品に添加することが可能な溶媒、抗酸化剤、色素、およびその他添加物から選択される1種以上を含む組成物が例示できる。また、さらにそれを乳化製剤、粉末製剤、その他固体製剤(固形脂など)としたものを本件香味改善剤としてもよい。
【0042】
使用する溶媒の種類に特に制限はない。水溶性溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、2-プロパノール、メチルエチルケトン、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシルグリコール、ベンジルベンゾエート、トリエチルシトレート、ジエチルフタレートなどを例示することができる。これらのうち、飲食品へ使用する場合には、エタノールまたはプロピレングリコールが特に好ましい。油溶性溶媒としては、植物油脂、動物油脂、精製油脂類(例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどの加工油脂や、トリアセチン、トリプロピオニンなどの短鎖脂肪酸トリグリセリドが挙げられる)、ハーコリン、各種精油、トリエチルシトレートなどを例示することができる。
【0043】
本件香味改善剤の製造方法において、本件香味改善剤を乳化製剤とするためには、パルミトレイン酸またはパルミトレイン酸を含む組成物を、適宜植物油脂で希釈して、さらに必要に応じて比重調整剤(ショ糖酢酸イソ酪酸エステルなど)、油溶性抗酸化剤を含有させたのち、水溶性溶媒および乳化剤と共に乳化して得ることができる。乳化方法としては特に制限されるものではなく、従来から飲食品などに用いられている各種類の乳化剤、例えば、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、脂肪酸トリグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、加工でん粉、ソルビタン脂肪酸エステル、キラヤ抽出物、アラビアガム、トラガントガム、グアーガム、カラヤガム、キサンタンガム、ペクチン、アルギン酸及びおよびその塩類、カラギーナン、ゼラチン、カゼイン、キラヤサポニン、カゼインナトリウムなどの乳化剤を使用してホモミキサー、コロイドミル、回転円盤型ホモジナイザー、高圧ホモジナイザーなどを用いて乳化処理することにより安定性の優れた乳化液を得ることができる。これら乳化剤の使用量は厳密に制限されるものではなく、使用する乳化剤の種類などに応じて広い範囲にわたり変えることができるが、通常、パルミトレイン酸1質量部に対し、約0.01~約100質量部、好ましくは約0.1~約50質量部の範囲内が適当である。また、乳化を安定させるため、かかる水溶性溶媒液は水の他に、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール、ショ糖、グルコース、トレハロース、糖液、還元水飴などの多価アルコール類の1種類または2種類以上の混合物を添加することができる。
【0044】
また、かくして得られた乳化液は、所望ならば乾燥することにより粉末製剤とすることができる。粉末化に際して、さらに必要に応じて、アラビアガム、トレハロース、デキストリン、砂糖、乳糖、ブドウ糖、水飴、還元水飴などの糖類を適宜添加することもできる。これらの使用量は粉末製剤に望まれる特性などに応じて適宜に選択することができる。
【0045】
さらに、本発明の別の一態様として、本件香味改善剤を他の香味付与剤に添加することで、添加対象の香味付与剤を別の植物油脂含有飲食品の香味改善剤として製造することもできる。このように製造された本件香味改善剤も、上述の通り、各種飲食品の添加用組成物として、各種飲食品の製造に用いることができる。
【0046】
[植物油脂含有飲食品の香味改善方法・製造方法]
本発明の一態様において、パルミトレイン酸自体、本件香味改善剤、または本件飲食品添加用組成物を、各種植物油脂含有飲食品に添加することによって、添加対象の植物油脂含有飲食品の香味を改善する方法(以下、本件香味改善方法ということがある。)が提供される。本件香味改善方法は、パルミトレイン酸、本件香味改善剤または本件飲食品添加用組成物を添加することで香味が改善された植物油脂含有飲食品が製造できるため、植物油脂含有飲食品の製造方法(以下、本件飲食品の製造方法ということもある。)ともいえる。本件香味改善方法および本件飲食品の製造方法によって、植物油脂含有飲食品を優れた香味の飲食品とすることができ、好ましくは、植物油脂感に富む植物油脂含有飲食品とすることができる。
【0047】
パルミトレイン酸、本件香味改善剤または本件飲食品添加用組成物の各種植物油脂含有飲食品への添加タイミングは任意であり、1種または2種以上の他の香味付与剤(例えば、水溶性香料組成物、乳化香料組成物、任意の香料化合物、天然精油(例えば、前掲の「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品香料」、「日本における食品香料化合物の使用実態調査」、および「合成香料 化学と商品知識」に記載される香料化合物)、から選択される1種以上)と併せて各種植物油脂含有飲食品に添加してもよい。
【0048】
パルミトレイン酸、本件香味改善剤または本件飲食品添加用組成物を添加可能な飲食品は特に限定されず、いかなる香味(風味ともいう)を有していてもよいが、植物油脂を含有するもの、および植物油脂を含有することで好ましい香味となる飲食品が好適な例として挙げられ、特に好適な具体例としては、パン、ショートニング、マーガリン、ファットスプレッド、ドレッシング、マヨネーズ、ホイップクリーム、チョコレート、コーンフレーク、揚げ物(天ぷら、フライ、唐揚げ、コロッケ、メンチカツ、ドーナツチュロス、かりんとう、揚げ餅など)、炒め物(惣菜、炒飯など)、植物肉(大豆肉など)、コーヒー、植物ミルク(豆乳、オーツミルク、ライスミルク、アーモンドミルクなど)、氷菓、冷菓(アイスミルク、ラクトアイスなど)、スナック菓子、インスタントラーメン、ケーキ、プリン、焼き菓子(ビスケット、パイ、プレッツェル、ラスク、ショートブレッドなど)、キャンディー(キャラメル、チューイングキャンディーなど)、シュークリーム生地、パイ生地、コーヒーホワイトナー、などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0049】
パルミトレイン酸、本件香味改善剤または本件飲食品添加用組成物の飲食品への添加濃度は、所望の香味改善効果に応じて任意に決定できるが、本発明者らは、上述の通り、植物油脂含有飲食品の全体質量に対してパルミトレイン酸の濃度が1ppb~1%の範囲内となるよう添加すれば植物油脂含有飲食品の香味を改善できることを少なくとも確認している。そのため、本発明の一態様において、パルミトレイン酸の濃度が1ppb~1%となるように、パルミトレイン酸、本件香味改善剤または本件飲食品添加用組成物を植物油脂含有飲食品に添加するようにすればよい。より具体的には、下限値を1ppb、10ppb、100ppb、1ppm、10ppm、100ppm、1000ppmのいずれかとし、上限値を1%、1000ppm、100ppm、10ppm、1ppm、100ppb、10ppbのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせによる範囲内とすることができ、香味改善効果を十分に発揮すること、および植物油脂含有飲食品への添加量(当該飲食品の製造コスト)の観点から、好ましくは1ppm~100ppmの範囲内が挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例0050】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
[実施例1] 植物油脂含有飲食品の香味改善効果1
市販のパルミトレイン酸(純度98%)を用意して、本発明品1とした(本件香味改善剤の一態様)。一方で、比較例として、市販のオレイン酸(純度98%、比較品1)を用意した。
【0052】
また、市販の米油、大豆油、ヒマワリ油を用意し、それぞれ、基本米油、基本大豆油、基本ヒマワリ油とした。本実施例において、基本米油、基本大豆油、基本ヒマワリ油を基本品という場合がある。
【0053】
そして、市販の米油30%、プロピレングリコール69%およびグリセリン脂肪酸エステル1.0%を混合して、希釈米油を得た。同様に、市販の大豆油30%、プロピレングリコール69%およびグリセリン脂肪酸エステル1.0%を混合して希釈大豆油を、市販のヒマワリ油30%、プロピレングリコール69%およびグリセリン脂肪酸エステル1.0%を混合して希釈ヒマワリ油を得た。本実施例において、希釈米油、希釈大豆油、希釈ヒマワリ油を希釈品という場合がある。
【0054】
次いで、希釈米油に、本発明品1を1ppb、1ppm、100ppm、1%となるように添加して、植物油脂組成物(本発明品1-1~1-4)を調製した。また、希釈米油に、比較品1を1ppmとなるように添加して、植物油脂組成物(比較品1-1)を調製した。
【0055】
また、希釈大豆油に、本発明品1を1ppb、1ppm、100ppm、1%となるように添加して、植物油脂組成物(本発明品1-5~1-8)を調製した。また、希釈大豆油に、比較品1を1ppmとなるように添加して、植物油脂組成物(比較品1-2)を調製した。
【0056】
また、希釈ヒマワリ油に、本発明品1を1ppb、1ppm、100ppm、1%となるように添加して、植物油脂組成物(本発明品1-9~1-12)を調製した。また、希釈ヒマワリ油に、比較品1を1ppmとなるように添加して、植物油脂組成物(比較品1-3)を調製した。
【0057】
そして、本発明品1-1~1-12および比較品1-1~1-3について、官能評価を行った。官能評価は、よく訓練された経験年数10年以上のパネリスト10名によって実施し、各種植物油脂組成物について、その基本品(本発明品を添加していない、市販品のままの基本米油、基本大豆油、基本ヒマワリ油)と同等の植物油脂感を4点、その希釈品と同等の植物油脂感を1点とした下記評価基準に従って点数付けするとともに、感じられた香味についてコメントした。なお、評価基準中、植物油脂感とは、対照品が米油の場合は米油様の香味、対照品が大豆油の場合は大豆油様の香味、対照品がヒマワリ油の場合はヒマワリ油様の香味を意味する。
(評価基準1)
基本品と同等の植物油脂感である:4
希釈品より明らかに植物油脂感を感じるが、基本品には劣る:3
希釈品よりわずかに植物油脂感を強く感じる:2
希釈品と同等の植物油脂感である:1
(評価基準2)
希釈品より顕著に強くコク感を感じる:4
希釈品より明らかにコク感を感じる:3
希釈品よりわずかにコク感を強く感じる:2
希釈品と同等のコク感である:1
表1~表3に、パネリスト10名の点数平均および代表的なコメントを示す。
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
表1~3に示すように、本件香味改善剤は、各種植物油脂について、その植物油脂様の香味を付与し、コク感を付与することができる。
【0062】
[実施例2] 植物油脂含有飲食品の香味改善効果2
大豆油および菜種油を用い、かつ「オイル50%カット」と表示される市販のオニオン風味ドレッシングを用意した。そこに、本発明品1(純度98%のパルミトレイン酸)を下記1ppb、1ppm、100ppmとなるように添加して、本発明の一態様に係る飲食品を調製した(本発明品2-1~2-4)。また、市販のオニオン風味ドレッシングに、比較品1(純度98%のオレイン酸)を10ppmとなるように添加して、植物油脂組成物(比較品1-3)を調製した。
【0063】
そして、本発明品2-1~2-4および比較品2-1について、よく訓練された経験年数10年以上のパネリスト10名による官能評価を行った。官能評価は、市販のオニオン風味ドレッシングを対照品として、対照品と比べた本発明品2-1~2-4および比較品2-1の香味についてコメントさせた。得られたコメントを表4に示す。
【0064】
【0065】
[実施例3] 植物油脂含有飲食品の香味改善効果3
市販のパルミトレイン酸(純度98%)の30%MCTオイル(中鎖脂肪酸油、ヤシ科植物中の中鎖脂肪酸からなるもの)溶液を調製して(本発明品3-1)、オイルスプレーボトル(ワンプッシュで約0.5mLが噴出されるもの)に入れた。また、市販のオレイン酸(純度98%)の30%MCTオイルを、本発明品3-1と同じオイルスプレーボトルに入れて、比較品とした(比較品3-1)。さらに、MCTオイルを、本発明品3-1および比較品3-2と同じオイルスプレーボトルに入れて、対照品とした(対照品3-1)。
【0066】
また、常法に従って、天ぷら粉をまぶしたシイタケ(約15g)を用意した。
【0067】
次いで、この天ぷら粉をまぶしたシイタケに、本発明品3-1、比較品3-1、対照品3のそれぞれをオイルスプレーボトルにより3回吹き付けたのち、ノンフライオーブンで加熱し、パルミトレイン酸を含有するMCTオイルが添加された天ぷら(本発明品3-2、パルミトレイン酸の添加量は約10ppm)、オレイン酸を含有するMCTオイルが添加された天ぷら(比較品3-2、オレイン酸の添加量は約10ppm)、MCTオイルが添加された天ぷら(対照品3-2)を得た。
【0068】
そして、本発明品3-2および比較品3について、よく訓練された経験年数10年以上のパネリスト5名による官能評価を行った。官能評価は、対照品3-2の天ぷらと比べた本発明品3-2および比較品3-2の香味についてコメントさせた。その結果、パネリスト5名全員が、本発明品3-2は、パルミトレイン酸の添加により、対照品3-2の天ぷらの衣部分にまろやかでさらりとしたジューシーな油脂感が付与され、コクのある満足感が得られたと回答し、一方で、比較品3-2は、対照品3-2と差がほとんど感じられなかったと回答した。
【0069】
[実施例4] 植物油脂含有飲食品の香味改善効果4
市販のカカオ60%のブラックチョコレート(カカオ油脂を含むもの)を湯煎により溶かした。これを基本チョコレートとする。次いで、前記基本チョコレートに、実施例1で用意した市販のパルミトレイン酸(純度98%)および市販のMCTオイルのそれぞれを、パルミトレイン酸濃度が10ppmとなるように添加し、パルミトレイン酸が添加されたチョコレート(本発明品4)およびMCTオイルが添加されたチョコレート(比較品4)を得た。
【0070】
そして、本発明品4および比較品4について、よく訓練された経験年数10年以上のパネリスト5名による官能評価を行った。官能評価は、基本チョコレートを対照品として、対照品と比べた本発明品4および比較品4の香味についてコメントさせた。その結果、パネリスト5名全員が、本発明品4は、パルミトレイン酸の添加により、チョコレートの油脂感が増強されて濃厚さが増し、コクのある満足感、しっとりとした口どけの良さ、カカオ独特の芳醇な香味が増強されたと回答し、比較品4よりもチョコレート風味のまとまり、満足感、および余韻に優れると回答した。
【0071】
[実施例5] 植物油脂含有飲食品の香味改善効果5
市販の豆乳(大豆油脂を含むもの)を用意した。これを基本豆乳とする。次いで、前記基本豆乳に、実施例1で用意した市販のパルミトレイン酸(純度98%)および市販のMCTオイルのそれぞれを、パルミトレイン酸濃度が1ppmとなるように添加し、パルミトレイン酸が添加された豆乳(本発明品5)およびMCTオイルが添加された豆乳(比較品5)を得た。
【0072】
そして、本発明品5および比較品5について、よく訓練された経験年数10年以上のパネリスト5名による官能評価を行った。官能評価は、基本豆乳を対照品として、対照品と比べた本発明品5および比較品5の香味についてコメントさせた。その結果、パネリスト5名全員が、パルミトレイン酸の添加により、豆乳に、コクのある満足感、油脂様のクリーミーさ、甘味、なめらかさが増強されたと回答し、比較品5よりも大豆風味のまとまり、満足感および余韻に優れると回答した。
【0073】
[実施例6] 植物油脂含有飲食品の香味改善効果6
下記表5に記載の処方に従って、ココナッツ様香料組成物を調製した。これを対照品6-1とする。そして、対照品6-1に対し、実施例1で用意した市販のパルミトレイン酸(純度98%)を、パルミトレイン酸の濃度が100ppmおよび2000ppmとなるように添加して、本発明の一態様に係るココナッツ様香料組成物2種を調製した(それぞれ、本発明品6-1および本発明品6-2とする。)。また、対照品6-1に対し、実施例1で用意した市販のオレイン酸(純度98%)を、オレイン酸の濃度が100ppmとなるように添加して、比較例のココナッツ様香料組成物を調製した(比較品6-1)。
【0074】
【0075】
次いで、本発明品6-1および6-2、比較品6-1ならびに対照品6-1のそれぞれを、市販のココナッツミルクに、ココナッツミルク全量に対して0.1%となるように添加して、本発明の一態様に係る飲料(本発明品6-3および6-4)、比較例の飲料(比較品6-2)、および対照品の飲料(対照品6-2)を得た。本発明および比較例の各飲料の添加成分(脂肪酸)の濃度は表6に示すとおりである。
【0076】
【0077】
そして、本発明品6-3および6-4、比較品6-2、ならびに対照品6-2について、よく訓練された経験年数10年以上のパネリスト5名による官能評価を行った。官能評価は、対照品6-2の飲料と比べた本発明品6-3、本発明品6-4、比較品6-2のそれぞれの香味についてコメントさせた。その結果、パネリスト5名全員が、本発明品6-3および6-4は、パルミトレイン酸の添加により、対照品6-2のまろやかな油脂様のコクと甘みが増強されて香味のまとまりがあり、コクのある満足感が得られたと回答し、一方で、比較品6-2は、対照品6-2と差がほとんど感じられなかったと回答した。
【0078】
[実施例のまとめ]
以上の実施例に例示したように、有効成分であるパルミトレイン酸を植物油脂含有飲食品に微量添加することで、当該飲食品の香味を改善すること、特に好ましくは実際より植物油脂を多く使用したような感覚を得ることができ、植物油脂の使用量を少量としても満足感のある飲食品が得られるという優れた効果が奏される。