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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178092
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20241217BHJP
   B60L 7/14 20060101ALI20241217BHJP
   B60L 58/25 20190101ALI20241217BHJP
【FI】
B60L15/20 S
B60L7/14
B60L58/25
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024023739
(22)【出願日】2024-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2023096533
(32)【優先日】2023-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野沢 智
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 奨
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 裕介
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC12
5H125BA05
5H125CA02
5H125CA18
5H125CB02
5H125CB05
5H125DD01
5H125EE49
5H125EE51
(57)【要約】
【課題】第1回転電機及び第2回転電機における暖機時の発熱量を大きくすること。
【解決手段】車両用駆動装置(1)は、車両(100)の前輪(7FL,7FR)及び後輪(7RL,7RR)の一方に駆動連結される第1回転電機(2)と、第1回転電機(2)と独立して駆動され、前輪(7FL,7FR)及び後輪(7RL,7RR)の他方に駆動連結される第2回転電機(3)と、要求駆動力に応じて、第1回転電機(2)と第2回転電機(3)とを制御する制御部(10)と、を備える。制御部(10)は、車両(100)の暖機を行う創熱制御を実行する際、第1打消し駆動力(Tcan1)を第1回転電機(2)から発生するように制御し、かつ第1打消し駆動力(Tcan1)に対して車両(100)の進行方向の反対側に作用する第2打消し駆動力(Tcan2)を第2回転電機(3)から発生するように制御する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前輪及び後輪の一方に駆動連結される第1回転電機と、
前記第1回転電機と独立して駆動され、前記前輪及び前記後輪の他方に駆動連結される第2回転電機と、
前記第1回転電機と前記第2回転電機とを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記車両の暖機を行う創熱制御を実行する際、第1打消し駆動力を前記第1回転電機から発生するように制御し、かつ前記第1打消し駆動力に対して前記車両の進行方向の反対側に作用する第2打消し駆動力を前記第2回転電機から発生するように制御する、
車両用駆動装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記車両の走行中において前記創熱制御を実行する際、前記第2回転電機を力行制御することにより前記第2打消し駆動力を前記第2回転電機から発生し、前記第1回転電機を回生制御することにより前記第1打消し駆動力を前記第1回転電機から発生する、
請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記車両の加速時において前記創熱制御を実行する際、要求駆動力に応じて、前記第1打消し駆動力を前記第1回転電機から発生しつつ、前記第2打消し駆動力よりも大きい駆動力を前記第2回転電機から発生して、前記車両を走行させる、
請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記車両の減速時において前記創熱制御を実行する際、前記第1回転電機から発生する前記第1打消し駆動力と前記第2回転電機から発生する前記第2打消し駆動力とを同じ大きさに制御し、かつ要求減速力に応じて前記車両のブレーキ装置を作動して、前記車両を減速させる、
請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記車両の停車中において前記創熱制御を実行する際、前記第1回転電機を力行制御することにより前記第1打消し駆動力を前記第1回転電機から発生し、前記第2回転電機を力行制御することにより前記第1打消し駆動力と同じ大きさの前記第2打消し駆動力を前記第2回転電機から発生するように制御し、
前記車両の停車中において前記車両の発進が可能な状態を検出した場合に、前記創熱制御の実行を停止する、
請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記車両が目的地に到着するまでの距離と時間との少なくとも一方の情報を取得し、前記目的地に到着するまでに前記車両の暖機が完了しないことを判定した場合に、前記創熱制御の実行を停止する、
請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記車両の操舵性に影響を生じる状態を検知した場合に、前記創熱制御の実行を停止、又は前記第1打消し駆動力及び前記第2打消し駆動力を制限する、
請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項8】
前記制御部は、
前記車両の加速度特性として第1加速度特性を設定するノーマルモードと、前記車両の加速度特性として前記第1加速度特性よりも動的な走行を実現する第2加速度特性を設定するスポーツモードと、を含むモードの情報を取得し、
前記ノーマルモードである場合に前記創熱制御を実行可能であり、
前記スポーツモードである場合に前記創熱制御の実行を停止する、
請求項2に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前輪及び後輪の一方に駆動連結される第1回転電機と他方に駆動連結される第2回転電機を備える車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電気自動車に搭載される車両用駆動装置においては、バッテリの温度が低温であると充放電の効率が低下し、特にバッテリが極低温(例えば0度以下)であると充電することが困難になり、例えば車両の走行中に減速した時でも回生を行うことができずに電費が低下するという問題がある。そのため、例えば低温環境で長時間に亘って放置された車両を走行させる際には、素早く暖機することが求められるが、発熱源としての内燃エンジンを搭載しているハイブリッド自動車よりも電気自動車の方が暖機することが難しい。そこで、停車中或いは走行中に、走行用モータに駆動力となるq軸電流とは別にd軸電流を流して、走行用モータを余計に暖めることでバッテリの暖機の促進を図ったものが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-165526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のようにd軸電流を流して走行用モータを暖めるものでは、走行用モータの発熱量の増加が限られており、特に極低温のような環境で暖機の時間が長くなり、実用性として不十分であった。そのため、例えば高電圧ヒータ等を搭載してバッテリの暖機を行うことも考えられるが、高電圧ヒータは高価であり、車両のコストダウンの妨げになる。
【0005】
そこで本発明は、第1回転電機及び第2回転電機における暖機時の発熱量を大きくすることが可能な車両用駆動装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、車両の前輪及び後輪の一方に駆動連結される第1回転電機と、前記第1回転電機と独立して駆動され、前記前輪及び前記後輪の他方に駆動連結される第2回転電機と、前記第1回転電機と前記第2回転電機とを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記車両の暖機を行う創熱制御を実行する際、第1打消し駆動力を前記第1回転電機から発生するように制御し、かつ前記第1打消し駆動力に対して前記車両の進行方向の反対側に作用する第2打消し駆動力を前記第2回転電機から発生するように制御する、車両用駆動装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、第1回転電機及び第2回転電機における暖機時の発熱量を大きくすることができ、暖機時間の短縮化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る車両とその車両用駆動装置の構成を示す模式図である。
図2】第1実施形態に係る車両の停車時における状態を示す模式図である。
図3】第1実施形態に係る車両の前進走行中の加速時及び定常走行時における状態を示す模式図である。
図4】第1実施形態に係る車両の前進走行中の減速時における状態を示す模式図である。
図5】第1実施形態に係る車両の停車中の充電時における状態を示す模式図である。
図6】第1実施形態に係る車両の後進走行中の加速時における状態を示す模式図である。
図7】第1実施形態に係る創熱制御のON/OFF制御を示すフローチャートである。
図8】第1実施形態に係る車両の状態制御を示すフローチャートである。
図9】第2実施形態に係る創熱制御の実行時における走行例を示すタイムチャートである。
図10】比較例に係る創熱制御の実行時における走行例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1実施形態>
以下、第1実施の形態に係る車両用駆動装置1について図1乃至図8を用いて説明する。
【0010】
[車両の構成]
まず、本車両用駆動装置1が搭載される車両100の構成について図1に沿って説明する。図1は第1実施形態に係る車両とその車両用駆動装置の構成を示す模式図である。図1に示すように、車両用駆動装置1が搭載される四輪駆動の電気自動車である車両100は、図中上方を前進の走行方向としており、左右の前輪7FL,7FR、左右の後輪7RL,7RR、バッテリユニット20、バッテリユニット20の電力により前輪7FL,7FR及び後輪7RL,7RRを駆動する車両用駆動装置1、車内を空調するためのコンプレッサ30等を備えている。また、左右の前輪7FL,7FR及び左右の後輪7RL,7RRのそれぞれには、ブレーキ装置の一例として例えばディスクブレーキ等のブレーキ9が設けられている。
【0011】
また、車両100には、図示を簡略化して示した運転席50が備えられており、その運転席50には、シフトレバー51、アクセルペダル52、ブレーキペダル53、モードセレクトスイッチ54、カーナビゲーションシステム55、ステアリングセンサ56等が設けられている。また、車両100には、カメラ61、コーナーセンサ62等が設けられている。
【0012】
シフトレバー51は、運転者により、例えばパーキングレンジ、ニュートラルレンジ、ドライブレンジ、リバースレンジのようなシフトレンジが選択可能に構成されており、詳しくは後述するECU10に選択されたシフトレンジの信号を送信する。また、アクセルペダル52は、アクセル開度を検知可能に構成されており、ECU10にアクセル開度の信号を送信し、それを受信したECU10は運転者による要求駆動力Trqをアクセル開度に基づき検知する。さらに、ブレーキペダル53は、ブレーキ踏圧を検知可能に構成されており、ECU10にブレーキ踏圧の信号を送信し、それを受信したECU10は運転者による要求減速力Tdecをブレーキ踏圧(踏量)に基づき検知する。
【0013】
モードセレクトスイッチ54は、運転者により、例えば車両の特性、特に加速度特性を通常の第1加速度特性に設定するノーマルモードと、加速度特性を第1加速度特性より動的な走行を実現する第2加速度特性に設定するスポーツモードと、に選択して切換え可能に構成されている。つまり、モードセレクトスイッチ54は、運転者がスポーツ走行を行いたい場合に、ノーマルモードよりも加減速のレスポンスを早くしかつアクセル開度に対する駆動力の出力特性を大きくするスポーツモードが選択することが可能に構成されている。即ち、これらモードを選択したことの信号がECU10に送信され、ECU10は後述するフロントモータ2及びリヤモータ3を制御することで車両100の特性を変更する。なお、モードセレクトスイッチ54は、ノーマルモード、スポーツモードの他に、駆動力の出力特性をノーマルモードよりも低下させて燃費(電費)の消費を抑えるエコモードが選択可能に構成されていてもよい。
【0014】
カーナビゲーションシステム55は、運転者に対して現在位置や地図等を表示し、目的地が設定された場合に、目的地までのルートを案内することが可能に構成されている。また、カーナビゲーションシステム55は、目的地が設定された場合に、現在の車両100の位置から目的地までのルートの距離や目的地に到着するまでの時間(予想到着時刻)を算出できるように構成されている。カーナビゲーションシステム55には、不図示のCPU等の演算部が搭載されており、そこで演算された各種の情報は、ECU10に送信可能に構成されている。
【0015】
ステアリングセンサ56は、運転席50にある不図示のステアリングホイールを運転者が操舵した際における操舵角を検出するように構成されている。また、ステアリングセンサ56が検知した操舵角の信号は、ECU10に送信される。
【0016】
一方、カメラ61は、車両100の前方を撮像することが可能なように配置されている。後述するECU10は、カメラ61で撮像された画像を解析して、前方の車両、自転車、人、信号機等を識別し、解析結果に基づき車両100の走行おける運転支援や自動運転走行を可能にするように構成されている。
【0017】
また、コーナーセンサ62は、車両100の側面において複数配置されており、車両100の周囲(前方、後方、左右側方)に向けて例えば超音波やミリ波等を照射いて、その反射を検知する。後述するECU100は、コーナーセンサ62の検知結果を用いて、障害物等の距離を判定し、例えば人や車両等が近づいてきたことも判定することか可能に構成されている。
【0018】
なお、パーキングレンジ及びニュートラルレンジは、車両100を走行させない状態にする非走行レンジであり、ドライブレンジは車両100を前進走行させる状態にする前進レンジ(走行レンジ)であり、リバースレンジは車両100を後進走行させる状態にする後進レンジ(走行レンジ)である。
【0019】
また、本実施形態においては、要求駆動力Trqを運転者によりアクセルペダル52を操作した操作量であるアクセル開度により検知するものとして説明するが、これに限らず、要求駆動力Trqは、例えば自動運転やクルーズコントロール等によって制御部が決定するものであっても構わない。
【0020】
同様に、本実施形態においては、要求減速力Tdecを運転者によりブレーキペダル53を操作した操作量であるブレーキ踏圧により検知するものとして説明するが、これに限らず、要求減速力Tdecは、例えば自動運転やクルーズコントロール等によって制御部が決定するものであっても構わない。
【0021】
上記車両用駆動装置1は、前輪7FL,7FRに駆動連結された第1回転電機(モータ・ジェネレータ)としての三相ブラシレスDCモータであるフロントモータ2と、フロントモータ2とは独立して駆動され、左右の後輪7RL,7RRに駆動連結された第2回転電機(モータ・ジェネレータ)としての三相ブラシレスDCモータであるリヤモータ3と、それらフロントモータ2及びリヤモータ3に駆動電流(電力)を供給することで駆動力(回生力)を制御自在な駆動回路5と、その駆動回路5を制御可能な制御部(ECU)10と、を有して構成されている。即ち、フロントモータ2は、前輪7FL,7FRを回転駆動或いは回生することが可能に構成され、また、リヤモータ3は、左右の後輪7RL,7RRを回転駆動或いは回生することが可能に構成されている。また、駆動回路5からは、バッテリユニット20を介さずに直接的にコンプレッサ30に駆動電流(電力)を供給可能に構成されている。
【0022】
なお、図1において、フロントモータ2及びリヤモータ3は、単にモータとして簡略的に示しているが、一般的には、図示を省略した減速歯車機構やディファレンシャル装置等を備えた駆動ユニットとして構成されているものである。また、本実施形態における各種の制御を行う制御部10は、車両用駆動装置1に備えられたものとして説明するが、車両100に備えられた他の制御部であっても構わない。
【0023】
[車両の状態制御]
次に、第1実施形態において、車両用駆動装置1の制御部10により制御される、車両100の状態に応じて各モードの遷移を行う状態制御について図8を用いて説明する。図8は第1実施形態に係る車両の状態制御を示すフローチャートである。なお、この図8に示す車両の状態制御は、例えば制御部10の処理速度に応じた所定時間の間隔で繰り返し実行され、判定が変わることで、各モードに設定された状態が遷移することになる。
【0024】
詳細には、図8に示すように、制御部10は、例えば車両100のスタートスイッチがONされると、本状態制御を開始し、まず、シフトレバー51の位置が不図示の位置検知センサによる信号に基づきパーキングレンジ又はニュートラルレンジの非走行レンジであるか否かを判定する(S11)。続いて、制御部10は、非走行レンジであると判定した場合(S11のYES)、充電中であるか否か判定する(S12)。制御部10は、例えば車両100が外部の充電器200(図5)に接続されていることを判定し、つまり充電中であることを判定すると(S12のYES)、車両100の状態を充電モードに設定する(S14)。また、制御部10は、充電中ではないと判定すると(S12のNO)、車両100の状態を停車モードに設定する(S15)。
【0025】
一方、制御部10は、シフトレバー51の位置に基づき、非走行レンジではないと判定した場合(S11のNO)、シフトレバー51の位置に基づき、ドライブレンジ(前進レンジ)であるか否かを判定する(S13)。制御部10は、ドライブレンジであると判定した場合(S13のYES)、車両100の状態を前進モードに設定し(S16)、ドライブレンジではない判定した場合(S13のNO)、つまりリバースレンジ(後進レンジ)であるので、車両100の状態を後進モードに設定する(S17)。なお、車両100が前進モード又は後進モードである場合においては、要求駆動力Trqに基づき車両100が加速走行或いは定常走行している状態と、要求減速力Tdecに基づき車両100が減速している状態とに区別することができる。
【0026】
[創熱制御のON/OFF制御]
続いて、第1実施形態において、車両用駆動装置1の制御部10により制御される、車両100の暖機を行うための創熱制御のON/OFF制御について図7を用いて説明する。図7は第1実施形態に係る創熱制御のON/OFF制御を示すフローチャートである。なお、この図7に示す創熱制御のON/OFF制御も、例えば制御部10の処理速度に応じた所定時間の間隔で繰り返し実行され、判定が変わることで、創熱制御のON/OFFが切換ることになる。
【0027】
詳細には、図7に示すように、制御部10は、例えば車両100のスタートスイッチがONされると、本創熱制御のON/OFF制御を開始し、まず、車両100の車内の空調がONであるか否かを判定する(S1)。また、制御部10は、空調がONである場合(S1のYES)、フロントモータ2,リヤモータ3、バッテリユニット20、駆動回路5、コンプレッサ30等を循環する冷却水の温度が40度未満であるか否かを判定する(S2)。そして、制御部10は、空調がONであり(S1のYES)、かつ水温が40度未満である場合(S2のYES)、空調で暖房に用いる熱が冷却水から得られないため、創熱制御のONを判定し、つまり創熱制御を実行する(S4)。
【0028】
また、制御部10は、空調がONではない場合(S1のNO)、或いは空調がONであるが水温が40度以上である場合(S1のYES、かつS2のNO)、バッテリユニット20(つまり電池)の温度が0度未満であるか否かを判定する(S3)。制御部10は、この場合でもバッテリユニット20の温度が0度未満である場合(S3のYES)、創熱制御のONを判定し、つまり創熱制御を実行する(S4)。そして、制御部10は、バッテリユニット20の温度が0度以上である場合(S3のNO)、創熱制御のOFFを判定し、つまり創熱制御を実行せずに(S5)、通常の走行状態にする。
【0029】
[一般的なモータの発熱制御の問題点]
ここで、一般的なモータの発熱制御の問題点について説明する。第1実施形態に係るフロントモータ2やリヤモータ3は、三相ブラシレスDCモータで構成されているが、一般的に三相ブラシレスDCモータでトルクを出力せずに発熱させる場合には、例えば車両の停車中に単相のコイルだけに通常より大きな電流を流して発熱させることが行われる。しかしながら、このように車両の停車中に単相のコイルに大きな電流を流している場合、例えば何らかの外因で車両が僅かに動く等して、モータに回転変化が生じると、そのモータに大きな駆動力の出力が生じて、ショック等が生じる虞があるという問題がある。また、車両の発進を行おうとしても、単相のコイルによる局所的な駆動力が生じて、滑らかに回転制御させるように指令しても、電流制御を追従させることが困難という問題もある。さらに、単相のコイルだけに電流を流す制御であるため、発熱量が小さく、モータ、バッテリユニット、冷却水等が極低温である場合には、暖機に時間がかかってしまうという問題もある。そこで、上記のように創熱制御のONが判定されて創熱制御を実行することを決定した場合、第1実施形態においては、各モードで以下のような創熱制御を実行するものである。
【0030】
[創熱制御の実行時]
ついで、第1実施形態における創熱制御の実行時の詳細な動作について図2乃至図6を用いて説明する。なお、以下の説明においては、基本的にフロントモータ2とリヤモータ3とにより車両進行方向に対する駆動力の出力方向を反対にして相殺させることで創熱を行うものであるが、各走行状態(各モード)における詳細な動作が異なるため、各走行状態(各モード)に分けて説明を行う。また、一般的にバッテリユニット20は、0度未満の低温状態にあると、充電することが難しい反面、充電残量があれば電気を出力することができるという性質を有している。このため、制御部10は、以下に説明する創熱制御において、バッテリユニット20から電力の出力は行うが、バッテリユニット20への充電は行わないように制御するものである。
【0031】
(停車時の創熱制御)
まず、車両100が充電を行わずに停車している状態(停車モード)における創熱制御の動作について図2を用いて説明する。図2は第1実施形態に係る車両の停車時における状態を示す模式図である。なお、図2に示す停車モードでは、ブレーキペダル53が踏圧されてブレーキ9がON(作動して係止)されている状態(BRK ON)、或いはブレーキペダル53が踏圧されていなくても、ブレーキホールド等によって車両100のブレーキ9がON(係止)されている状態、或いは不図示のその他のブレーキ(所謂パーキングブレーキやサイドブレーキ)がON(係止)されている状態の何れかであって、車両100の左右の前輪7FL,7FR及び左右の後輪7RL,7RRが強制的に固定されている状態である。
【0032】
制御部10は、上記車両の状態制御で停車モードを判定し、かつ創熱制御のON/OFF制御で創熱制御のONを判定すると、図2に示すように、フロントモータ2によって左右の前輪7FL,7FRに第1打消し駆動力Tcan1として後進方向の駆動力TF1が生じるようにバッテリユニット20の電力を用いてフロントモータ2を力行制御し、かつフロントモータ2に同期させつつリヤモータ3によって左右の後輪7RL,7RRに、上記前輪7FL,7FRの駆動力TF1と同じ大きさで車両100の進行方向の反対側に作用する第2打消し駆動力Tcan2としての前進方向の駆動力TR1が生じるようにバッテリユニット20の電力を用いてリヤモータ3を力行制御する。
【0033】
なお、この際のフロントモータ2により出力される前輪7FL,7FRの駆動力TF1と、リヤモータ3により出力される後輪7RL,7RRの駆動力TR1とは、例えばブレーキ9のONにより前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRの回転を停止する制動力よりも小さい方が安全性は高いが、これら駆動力TF1と駆動力TR1とは打ち消し合う方向であるため、ブレーキ9の制動力よりも大きくても構わない。また、図示を省略したABSセンサ等によって前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRの回転速度を検知し、前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRが回転していないことを判定した場合に、この創熱制御によるフロントモータ2の駆動とリヤモータ3の駆動とを許可するようにし、例えばスリップ等によって前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRが回転した場合にフロントモータ2の駆動とリヤモータ3の駆動とを中止するようにした方が好ましい。
【0034】
また、この停車モードでは、フロントモータ2とリヤモータ3とを力行制御するため、詳しくは後述する走行モードのようにフロントモータ2の回生による電力が生じないので、コンプレッサ30を駆動していないが、バッテリユニット20の電力を用いてコンプレッサ30を駆動し、室内の暖房を行うようにしても構わない。
【0035】
以上説明したように、停車モードにおける創熱制御にあって、フロントモータ2による前輪7FL,7FRの駆動力TF1とリヤモータ3による後輪7RL,7RRの駆動力TR1とを、車両100の進行方向に対して打ち消し合うように出力することで、フロントモータ2及びリヤモータ3に、例えば単相のコイルに電流を流す場合よりも大きな電流を流すことを可能にするので、暖機時における発熱量を大きくすることができ、暖機時間の短縮化を図ることができる。
【0036】
(前進走行中の加速時及び定常走行時の創熱制御)
次に、車両100が前進走行中に加速或いは定常走行している状態(前進モード)における創熱制御の動作について図3を用いて説明する。図3は第1実施形態に係る車両の前進走行中の加速時及び定常走行時における状態を示す模式図である。なお、図3に示す前進モードでは、ブレーキペダル53が踏圧されずにブレーキ9がOFF(解放)されている状態であって(BRK OFF)、特に不図示のその他のブレーキ(所謂パーキングブレーキやサイドブレーキ)もOFF(解放)されている状態であって、車両100の左右の前輪7FL,7FR及び左右の後輪7RL,7RRが回転可能にされている状態である。また、定常走行時とは、車両100の走行抵抗と加速方向の駆動力(要求駆動力Trq)とが均衡している状態であり、広義として車両100の動作は加速時と同じ状態である言える。さらに、車両100の走行抵抗が加速方向の駆動力(要求駆動力Trq)よりも大きければ、車両100の車速は低下することになるが、広義として車両100の動作は加速時と同じ状態と言える。
【0037】
制御部10は、上記車両の状態制御で前進モードを判定し、かつ創熱制御のON/OFF制御で創熱制御のONを判定している状態で、アクセルペダル52のアクセル開度等に基づき要求駆動力Trqがあることを判定すると、図3に示すように、リヤモータ3によって左右の後輪7RL,7RRに、第2打消し駆動力Tcan2に要求駆動力Trqを加えた前進方向の駆動力TR2が生じるようにバッテリユニット20の電力を用いてリヤモータ3を制御し、かつリヤモータ3の力行制御に同期させつつフロントモータ2によって左右の前輪7FL,7FRに、第1打消し駆動力Tcan1としての後進方向の駆動力TF2が生じるようにフロントモータ2を回生制御する。換言すると、制御部10は、リヤモータ3による後輪7RL,7RRの駆動力TR2と、フロントモータ2による前輪7FL,7FRの駆動力TF2との差分が、上記要求駆動力Trqとなるようにリヤモータ3の力行とフロントモータ2の回生との大きさを設定する。つまり、フロントモータ2から前輪7FL,7FRの駆動力TF2を発生させつつ、前輪7FL,7FRの駆動力TF2よりも大きい駆動力となるように、リヤモータ3から後輪7RL,7RRの駆動力TR2を発生させる。なお、フロントモータ2とリヤモータ3との出力性能にもよるが、何れか一方の限界値に応じて上記要求駆動力Trqが車両100の駆動力として生じるように設定することが好ましい。
【0038】
この前進走行中の加速或いは定常走行においては、リヤモータ3には、バッテリユニット20から電力が供給されるが、フロントモータ2により回生された電力も駆動回路5を介してリヤモータ3に供給する。このため、バッテリユニット20の電力消費量は、例えばフロントモータ2とリヤモータ3との両方を力行制御する場合に比して、大幅に低減することができる。また、フロントモータ2により回生された電力の一部をコンプレッサ30に供給することで、バッテリユニット20の電力を用いることなく、車内の空調(暖房)を行うことができる。特に、例えば車両100が降坂路を走行する場合の加速時では、フロントモータ2により回生を行うことができているので、低温状態のバッテリユニット20に充電することができなくとも、コンプレッサ30に電力供給することができ、バッテリユニット20の電力消費量を増加させることなく、車内の空調(暖房)を行うことができる。従って、このようにフロントモータ2を回生制御することで、車両の電費向上を図ることができる。
【0039】
なお、この前進走行中の加速時及び定常走行時であっても、図示を省略したABSセンサ等によって前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRの回転速度を検知し、前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRにおける回転速度の偏差が小さいことを判定した場合に、この創熱制御によるフロントモータ2の回生とリヤモータ3の駆動(力行)とを許可するようにし、例えばスリップ等によって前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRにおける回転速度の偏差が大きくなった場合にフロントモータ2の回生とリヤモータ3の駆動とを中止するようにした方が好ましい。
【0040】
また、第1実施形態においては、フロントモータ2により回生を行いつつリヤモータ3により力行を行うものを説明したが、反対にリヤモータ3により回生を行いつつフロントモータ2により力行を行うものであっても構わない。但し、車両100の前輪7FL,7FRと後輪7RL,7RRとの重量配分にもよるが、一般的にフロントモータ2により回生を行う方が回生効率が高く、電費向上を図ることができる。また、フロントモータ2とリヤモータ3とにおける力行と回生とは、後述する前進走行中の減速時を含め、旋回走行、登坂路の走行、降坂路の走行等の走行状況に応じて、制御部10が走行中に入れ替えるように制御しても構わない。
【0041】
以上説明したように、前進走行中(走行モード)の加速時及び定常走行時における創熱制御にあって、フロントモータ2による前輪7FL,7FRの駆動力TF2とリヤモータ3による後輪7RL,7RRの駆動力TR2とを、車両100の進行方向に対して打ち消し合うように出力することで、フロントモータ2及びリヤモータ3に、例えば単相のコイルに電流を流す場合よりも大きな電流を流すことを可能にするので、暖機時における発熱量を大きくすることができ、暖機時間の短縮化を図ることができる。また、この前進走行中(走行モード)の加速時及び定常走行時における創熱制御にあって、フロントモータ2により回生を行うことで、車両の電費向上を図ることができる。
【0042】
(前進走行中の減速時の創熱制御)
続いて、車両100が前進走行中に減速している状態(前進モード)における創熱制御の動作について図4を用いて説明する。図4は第1実施形態に係る車両の前進走行中の減速時における状態を示す模式図である。なお、図4に示す前進モードでは、ブレーキペダル53が踏圧されてブレーキ9がON(作動してスリップ)されている状態であって(BRK ON)、特に不図示のその他のブレーキ(所謂パーキングブレーキやサイドブレーキ)はOFF(解放)されている状態であって、車両100の左右の前輪7FL,7FR及び左右の後輪7RL,7RRが回転されている状態である。
【0043】
制御部10は、上記車両の状態制御で前進モードを判定し、かつ創熱制御のON/OFF制御で創熱制御のONを判定している状態で、ブレーキペダル53の踏圧量等に基づき要求減速力Tdecがあることを判定すると、図4に示すように、リヤモータ3によって左右の後輪7RL,7RRに、第2打消し駆動力Tcan2としての前進方向の駆動力TR3が生じるようにバッテリユニット20の電力を用いてリヤモータ3を制御し、かつリヤモータ3の力行制御に同期させつつフロントモータ2によって左右の前輪7FL,7FRに、第1打消し駆動力Tcan1としての後進方向の駆動力TF3が生じるようにフロントモータ2を回生制御する。即ち、制御部10は、リヤモータ3による後輪7RL,7RRの駆動力TR3と、フロントモータ2による前輪7FL,7FRの駆動力TF3とが、同じ大きさとなるように制御することで、ブレーキ9による制動力によって上記要求減速力Tdecが生じるように制御する。また、フロントモータ2とリヤモータ3との出力性能にもよるが、何れか一方の限界値に応じてフロントモータ2の回生とリヤモータ3の力行との大きさを設定することが好ましい。
【0044】
この前進走行中の減速走行においては、リヤモータ3には、バッテリユニット20から僅かに電力が供給されることになるが、基本的にフロントモータ2により回生された電力を駆動回路5を介してリヤモータ3に供給する。このため、バッテリユニット20の電力消費量は僅かであり、例えばフロントモータ2とリヤモータ3との両方を力行制御する場合に比して、大幅に低減することができる。また前進走行中の加速時と同様に、フロントモータ2により回生された電力の一部をコンプレッサ30に供給することで、バッテリユニット20の電力を用いることなく、車内の空調(暖房)を行うことができる。従って、このようにフロントモータ2を回生制御することで、車両の電費向上を図ることができる。
【0045】
なお、この前進走行中の減速時であっても、図示を省略したABSセンサ等によって前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRの回転速度を検知し、前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRにおける回転速度の偏差が小さいことを判定した場合に、この創熱制御によるフロントモータ2の回生とリヤモータ3の駆動(力行)とを許可するようにし、例えばスリップ等によって前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRにおける回転速度の偏差が大きくなった場合にフロントモータ2の回生とリヤモータ3の駆動とを中止するようにした方が好ましい。
【0046】
また同様に、第1実施形態においては、フロントモータ2により回生を行いつつリヤモータ3により力行を行うものを説明したが、反対にリヤモータ3により回生を行いつつフロントモータ2により力行を行うものであっても構わない。但し、車両100の前輪7FL,7FRと後輪7RL,7RRとの重量配分にもよるが、一般的にフロントモータ2により回生を行う方が回生効率が高く、電費向上を図ることができる。また、フロントモータ2とリヤモータ3とにおける力行と回生とは、上述した前進走行中の加速時及び定常走行時を含め、旋回走行、登坂路の走行、降坂路の走行等の走行状況に応じて、制御部10が走行中に入れ替えるように制御しても構わない。
【0047】
以上説明したように、前進走行中(走行モード)の減速時における創熱制御にあって、フロントモータ2による前輪7FL,7FRの駆動力TF3とリヤモータ3による後輪7RL,7RRの駆動力TR3とを、車両100の進行方向に対して打ち消し合うように出力することで、フロントモータ2及びリヤモータ3に、例えば単相のコイルに電流を流す場合よりも大きな電流を流すことを可能にするので、暖機時における発熱量を大きくすることができ、暖機時間の短縮化を図ることができる。また、この前進走行中(走行モード)の減速時における創熱制御にあって、フロントモータ2により回生を行うことで、車両の電費向上を図ることができる。
【0048】
(充電時の創熱制御)
次に、車両100が充電を行って停車している状態(充電モード)における創熱制御の動作について図5を用いて説明する。図5は第1実施形態に係る車両の停車中の充電時における状態を示す模式図である。なお、図5に示す充電モードでは、上述した停車時と同様に、ブレーキペダル53が踏圧されてブレーキ9がON(係止)されている状態(BRK ON)、或いはブレーキペダル53が踏圧されていなくても、ブレーキホールド等によって車両100のブレーキ9がON(係止)されている状態、或いは不図示のその他のブレーキ(所謂パーキングブレーキやサイドブレーキ)がON(係止)されている状態の何れかであって、車両100の左右の前輪7FL,7FR及び左右の後輪7RL,7RRが強制的に固定されている状態である。
【0049】
上述したようにバッテリユニット20は、低温時であると充電することが困難である。そこで本充電モードでは、充電器200によるバッテリユニット20の充電を可能にするために、充電器200の電力で特にバッテリユニット20を暖機することを目的とするものである。
【0050】
制御部10は、上記車両の状態制御で充電モードを判定し、かつ創熱制御のON/OFF制御で創熱制御のONを判定すると、図5に示すように、フロントモータ2によって左右の前輪7FL,7FRに、第1打消し駆動力Tcan1としての後進方向の駆動力TF1が生じるように充電器200の電力を用いてフロントモータ2を力行制御し、かつフロントモータ2に同期させつつリヤモータ3によって左右の後輪7RL,7RRに、上記前輪7FL,7FRの駆動力TF1と同じ大きさの第2打消し駆動力Tcan2としての前進方向の駆動力TR1が生じるように充電器200の電力を用いてリヤモータ3を力行制御する。
【0051】
なお、上記停車時と同様に、この際のフロントモータ2により出力される前輪7FL,7FRの駆動力TF1と、リヤモータ3により出力される後輪7RL,7RRの駆動力TR1とは、例えばブレーキ9のONにより前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRの回転を停止する制動力よりも小さい方が安全性は高いが、これら駆動力TF1と駆動力TR1とは打ち消し合う方向であるため、ブレーキ9の制動力よりも大きくても構わない。また、図示を省略したABSセンサ等によって前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRの回転速度を検知し、前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRが回転していないことを判定した場合に、この創熱制御によるフロントモータ2の駆動とリヤモータ3の駆動とを許可するようにし、例えばスリップ等によって前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRが回転した場合にフロントモータ2の駆動とリヤモータ3の駆動とを中止するようにした方が好ましい。
【0052】
また、この充電モードでは、フロントモータ2による前輪7FL,7FRの駆動力TF1とリヤモータ3による後輪7RL,7RRの駆動力TR1とが、上記停車時と同じ大きさである方が、充電を終了して停車モードに移行する際に、電力供給元を充電器200からバッテリユニット20に移行するだけの簡単な制御にすることができる。しかしながら、これに限らず、この充電モードでは、例えば急速充電のように充電器200からバッテリユニット20の出力性能よりも大きな電力を受け入れることができるため、停車モードよりも前輪7FL,7FRと後輪7RL,7RRとに生じさせる駆動力を大きくしてもよく、この場合の方が暖機期間を短縮化することができる。
【0053】
また、この充電モードでは、上記停車モードと同様に、フロントモータ2とリヤモータ3とを力行制御するため、つまりフロントモータ2の回生による電力が生じないので、コンプレッサ30を駆動していないが、充電器200の電力を用いてコンプレッサ30を駆動し、室内の暖房を行うようにしても構わない。
【0054】
以上説明したように、充電モードにおける創熱制御にあっても、フロントモータ2による前輪7FL,7FRの駆動力TF1とリヤモータ3による後輪7RL,7RRの駆動力TR1とを、車両100の進行方向に対して打ち消し合うように出力することで、フロントモータ2及びリヤモータ3に、例えば単相のコイルに電流を流す場合よりも大きな電流を流すことを可能にするので、暖機時における発熱量を大きくすることができ、暖機時間の短縮化を図ることができる。
【0055】
(後進走行中の創熱制御)
最後に、車両100が後進走行中に加速或いは定常走行している状態(後進モード)における創熱制御の動作について図6を用いて説明する。図6は第1実施形態に係る車両の後進走行中の加速時における状態を示す模式図である。なお、図6に示す後進モードでは、ブレーキペダル53が踏圧されずにブレーキ9がOFF(解放)されている状態であって(BRK OFF)、特に不図示のその他のブレーキ(所謂パーキングブレーキやサイドブレーキ)もOFF(解放)されている状態であって、車両100の左右の前輪7FL,7FR及び左右の後輪7RL,7RRが回転可能にされている状態である。
【0056】
この後進走行中の加速時及び定常走行時の創熱制御においては、上述した前進走行中の加速時及び定常走行時の創熱制御(図3参照)に比して、フロントモータ2とリヤモータ3との役割(関係)を反対にしたものである。
【0057】
即ち、制御部10は、上記車両の状態制御で後進モードを判定し、かつ創熱制御のON/OFF制御で創熱制御のONを判定している状態で、アクセルペダル52のアクセル開度等に基づき要求駆動力Trqがあることを判定すると、図6に示すように、フロントモータ2によって左右の前輪7FL,7FRに、第1打消し駆動力Tcan1に要求駆動力Trqを加えた後進方向の駆動力TF4が生じるようにバッテリユニット20の電力を用いてフロントモータ2を制御し、かつフロントモータ2の力行制御に同期させつつリヤモータ3によって左右の後輪7RL,7RRに、第2打消し駆動力Tcan2としての前進方向の駆動力TR4が生じるようにリヤモータ3を回生制御する。
【0058】
これ以外の動作は、フロントモータ2とリヤモータ3との動作を反対にするだけで、上記前進モードの加速時及び定常走行時の創熱制御(図3参照)と同様である。また、後進走行中の減速時については、図示を省略したが、これもフロントモータ2とリヤモータ3との動作を反対にするだけで、上記前進モードの加速時及び定常走行時の創熱制御(図4参照)と同様である。
【0059】
このように、後進走行中(走行モード)における創熱制御にあって、フロントモータ2による前輪7FL,7FRの駆動力TF4とリヤモータ3による後輪7RL,7RRの駆動力TR4とを、車両100の進行方向に対して打ち消し合うように出力することで、フロントモータ2及びリヤモータ3に、例えば単相のコイルに電流を流す場合よりも大きな電流を流すことを可能にするので、暖機時における発熱量を大きくすることができ、暖機時間の短縮化を図ることができる。また、この後進走行中(走行モード)における創熱制御にあって、リヤモータ3により回生を行うことで、車両の電費向上を図ることができる。
【0060】
<第2実施形態>
ついで、上記第1実施形態を一部変更した第2実施形態について、図9及び図10を用いて説明する。図9は第2実施形態に係る創熱制御の実行時における走行例を示すタイムチャートである。図10は比較例に係る創熱制御の実行時における走行例を示すタイムチャートである。なお、本第2実施形態の説明においては、上記第1実施形態と同様な部分に同符号を用いて、その説明を省略する。
【0061】
なお、上述した第1実施形態に係る車両用駆動装置1では、創熱制御の実行中における前進走行中において、リヤモータ3から第2打消し駆動力Tcan2に要求駆動力Trqを加えて出力するものを説明し、つまり後輪駆動タイプの車両として駆動制御されるものと説明したが(図3参照)、本第2実施形態に係る車両用駆動装置1では、フロントモータ2から第1打消し駆動力Tcan1に要求駆動力Trqを加えて出力し、つまり前輪駆動タイプの車両として駆動制御されるものを説明する。また、この場合、前輪7FL,7FRの駆動力TF2は車両100の前方に向けて出力され、後輪7RL,7RRの駆動力TR2は車両100の後方に向けて出力されることになる。
【0062】
また、上述した第1実施形態に係る車両用駆動装置1では、創熱制御の実行中における停車中において、前輪7FL,7FRの駆動力TF2は車両100の後方に向けて出力され、後輪7RL,7RRの駆動力TR2は車両100の前方に向けて出力されるものを説明したが(図2参照)、本第2実施形態に係る車両用駆動装置1では、前輪7FL,7FRの駆動力TF2は車両100の前方に向けて出力され、後輪7RL,7RRの駆動力TR2は車両100の後方に向けて出力される。なお、第1実施形態においては、非走行レンジの場合に停車モードを判定するものを説明したが、本第2実施形態では、前進レンジであっても車速が0である場合に停車モードを実行するものである。
【0063】
(比較例における走行例)
ここで、図10を用いて比較例における走行例を説明すると共に、比較例における問題を説明する。図10に示すように、例えば前進レンジが選択された車両100の停車中にあって、創熱制御の非作動状態から、ECU10が、時点t21に創熱制御の開始を判定すると(図7のS4参照)、停車時の創熱制御を開始する。すると、ECU10は、時点t21から時点t22までに車両100のブレーキ9をONし、時点t22までにブレーキ9をONする。即ち、ブレーキ制動力を、例えばフロントモータ2又はリヤモータ3が停止してしまっても車両100が移動しないような制動力まで上昇する。ブレーキ9がONされると、ECU10は、フロントモータ2及びリヤモータ3を力行制御し、時点t23までに、前輪7FL,7FRから第1打消し駆動力Tcan1を、後輪7RL,7RRから第2打消し駆動力Tcan2を、互いに車両100の進行方向で逆となるように、かつ同じ大きさで出力する。
【0064】
時点t24において、例えば運転者がブレーキペダル53を開放してブレーキ踏量が0となると、ECU10は運転者による車両100の発進意図を判定する。上述したように車両100の走行中における創熱制御では、フロントモータ2を力行制御することにより前輪7FL,7FRから第1打消し駆動力Tcan1を出力し、リヤモータ3を回生制御することにより後輪7RL,7RRで第2打消し駆動力Tcan2を発生させる。これにより、走行中の創熱制御では、リヤモータ3の回生制御によって創熱制御による電力消費量の低減を図っている。しかしながら、リヤモータ3を力行制御から回生制御に切換える必要がある。このため、ECU10は、停車時の創熱制御から加速時の創熱制御に移行するため、切換え制御を実行する。この切換え制御では、リヤモータ3が回生制御を開始するまでの間、後輪7RL,7RRに対する駆動力の付与が途切れるため、フロントモータ2の力行制御による駆動力の出力も停止して、車両100が意図しない発進状態となることを防止する必要がある。
【0065】
詳細には、時点t24に切換え制御を開始すると、ECU10は、時点t25までにフロントモータ2とリヤモータ3との駆動力の出力を停止する。これにより、ブレーキ9をOFFすることが可能となるので、ECU10はブレーキ9を時点t26までにOFFし、加速時の創熱制御を開始できる状態とする。しかし、この時点t24からt26までの間に、例えば運転者がアクセルペダル52を踏圧してアクセル開度が上昇していると、それに応じて要求駆動力Trqが上昇している。ECU10は、この時点t26において、要求駆動力Trqに応じるため、フロントモータ2の力行制御を開始すると共にリヤモータ3の回生制御を開始し、時点t27までに、フロントモータ2による前輪7FL,7FRの駆動力TF1と、リヤモータ3による後輪7RL,7RRの駆動力TR1と、の合計が要求駆動力Trqに応じる駆動力となるように制御する。これにより、時点t26から車両100が発進されて、車両100の車速が上昇していく。
【0066】
しかしながら、この比較例においては、時点t24において運転者の発進意図の判断があってから、加速時の創熱制御を開始できるようになるまで、つまり車両100の発進が判断される時点t26まで、経過時間TBが経過してしまう。このため、運転者が車両100を発進させようとしてから、実際に車両100が発進するまでの遅れが発生し、運転者に違和感を与えてしまうという問題があった。
【0067】
(第2実施形態における走行例)
ついで、本第2実施形態における創熱制御の実行時について図9を用いて説明する。本第2実施形態においては、ECU10が、例えばカメラ61(図1参照)により、信号機が赤から青に変わったこと、或いは先行車両が発進したこと等を検知し、車両100の発進が可能な状態の検出、つまり車両100の発進の予測判断を行うものである。なお、信号機の状態を示す情報は、TSPS(Traffic Signal Prediction Systems)によって取得してもよいし、ITS(Intelligent Transport Systems)のようなシステムによって取得するようなことも考えられ、つまりカメラ61に撮像画像に限らず、どのように信号機の状態の情報を取得しても構わない。また、先行車両が発進したことも、例えばミリ波レーダやレーザ検知器等を用いて検知するものでもよいし、ITSのようなシステムによって情報を取得するものでもよく、つまりカメラ61に撮像画像に限らず、どのように先行車両の発進の情報を取得しても構わない。
【0068】
図9に示すように、例えば前進レンジが選択された車両100の停車中にあって、創熱制御の非作動状態から、ECU10が、時点t11に創熱制御の開始を判定すると(図7のS4参照)、停車時の創熱制御を開始する。すると、ECU10は、時点t11から時点t12までに車両100のブレーキ9をONし、時点t12までにブレーキ9をONする。即ち、ブレーキ制動力を、例えばフロントモータ2又はリヤモータ3が停止してしまっても車両100が移動しないような制動力まで上昇する。ブレーキ9がONされると、ECU10は、フロントモータ2及びリヤモータ3を力行制御し、時点t13までに、前輪7FL,7FRから第1打消し駆動力Tcan1を、後輪7RL,7RRから第2打消し駆動力Tcan2を、互いに車両100の進行方向で逆となるように、かつ同じ大きさで出力する。
【0069】
例えば時点t14において、ECU10が、例えば信号機が赤から青に変わったこと等で車両100の発進の予測判断を行う。すると、ECU10は、停車時の創熱制御から加速時の創熱制御に移行するため、切換え制御を開始する。時点t14に切換え制御を開始すると、ECU10は、時点t15までにフロントモータ2とリヤモータ3との駆動力の出力を停止する。これにより、ブレーキ9をOFFすることが可能となるので、ECU10はブレーキ9のOFFを開始する。
【0070】
一方、例えば時点t16に運転者がブレーキペダル53を開放してブレーキ踏量が0となると、ECU10は運転者による車両100の発進意図を判定する。しかしながら、この時点t16の前の時点t15にブレーキ9のOFFを開始しているので、時点t17までにブレーキ9がOFFされ、加速時の創熱制御を開始できる状態とする。
【0071】
そして、例えば時点t17に運転者がアクセルペダル52を踏圧してアクセル開度が上昇すると、それに応じて要求駆動力Trqが上昇する。ECU10は、この時点t17において、要求駆動力Trqに応じるため、フロントモータ2の力行制御を開始すると共にリヤモータ3の回生制御を開始し、時点t18までにアクセル開度及び要求駆動力Trqの上昇が止まり、時点t19までに、フロントモータ2による前輪7FL,7FRの駆動力TF1と、リヤモータ3による後輪7RL,7RRの駆動力TR1と、の合計が要求駆動力Trqに応じる駆動力となるように制御する。
【0072】
以上説明したように、本第2実施形態においては、運転者による発進意図の操作(ブレーキペダル53の開放)を検出する(時点t16)前に、車両100の発進が可能な状態の検出、つまり車両100の発進の予測判断を行う(時点t14)ので、発進意図の操作から車両100の発進までの経過時間TAを比較例の経過時間TBよりも短縮化することができ、つまり運転者の意図にレスポンス良く反応することができ、運転者に違和感を与えることの防止を図ることができる。
【0073】
なお、以上説明した第2実施形態における、それ以外の構成、作用、及び効果は、上記第1実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0074】
<第3実施形態>
ついで、上記第1実施形態を一部変更した第3実施形態について説明する。なお、本第3実施形態の説明においても、上記第1実施形態と同様な部分に同符号を用いて、その説明を省略する。
【0075】
上記第1実施形態では、創熱制御を実行するか否かを、空調の状態、水温、電池温度、等に基づき判定するものであったが(図7参照)、本第3実施形態では、これらに加えて、例えばカーナビゲーションシステム55の情報に基づき創熱制御を実行するか否かを判断するものである。即ち、バッテリユニット20は、例えば0度未満のような極低温であると充電することができず(或いは充電効率が悪く)、車両100の走行時にフロントモータ2或いはリヤモータ3で回生制御を行っても充電できないため、基本的に回生制御を行わずに電費の向上が図れない。そのため、バッテリユニット20の電力を使用して上述したような創熱制御を実行するものであるが、創熱制御を実行してバッテリユニット20の温度が上昇し、つまりバッテリユニット20の暖機が完了して充電が可能となったにも拘らず、その後、車両100が走行することがなければ、バッテリユニット20の温度を上昇した分の電力消費を回収できず、反って電費の悪化を招く虞がある。そこで、本第3実施形態では、以下のように創熱制御の実行可否を判断する。
【0076】
詳細には、例えば図1に示すカーナビゲーションシステム55に運転者が目的地を設定すると、カーナビゲーションシステム55は、現在の車両100の位置から目的地までのルートを算出し、そのルートに基づき予想到着時間も算出する。即ち、カーナビゲーションシステム55は、現在の車両100の位置から目的地までのルート上の距離と、目的地までの時間とを算出することになる。そして、ECU10は、カーナビゲーションシステム55から、それらの少なくとも一方の情報を取得する。
【0077】
一方、ECU10は、フロントモータ2、リヤモータ3、駆動回路5によって単位時間あたりに創熱することが可能な熱量と、現在のバッテリユニット20の温度と、各構成部品の間で生じる熱抵抗の情報と、に基づき、上述のように得られた目的地までの距離及び目的地までの時間の少なくとも一方の情報から、目的地に到着した場合のバッテリユニット20の温度を推定演算する。そして、ECU10は、目的地に到着したときのバッテリユニット20の推定温度が0度未満であるとき、つまり目的地に到着するまでにバッテリユニット20の暖機が完了しないことを判定した場合には、創熱制御を実行してバッテリユニット20の温度を上昇しても、走行中の回生制御による充電ができないため、創熱制御の実行を停止し、創熱制御を実行しないことを判定する。これにより、無駄に創熱制御を実行して電費の悪化を招くことの防止を図ることができる。
【0078】
なお、本第3実施形態においては、カーナビゲーションシステム55によって目的地までの距離や時間を算出するものを説明したが、これに限らず、例えばスマートフォン等の外部機器の地図アプリケーションで目的地までの距離や時間を算出したものを、情報としてECU10で取得するものでも構わない。特に外部機器が無線通信や有線接続されていれば、その情報を取得することが可能である。また、ナビゲーションシステム55によって目的地までの距離を算出する場合には、ルートの距離であってもよいし、直線距離であっても構わない。
【0079】
また、本第3実施形態において、目的地までの距離で創熱制御の実行可否を判定する場合には、例えば目的地までの5km以内のように予め設定した設定距離で判定してもよい。この場合、設定距離はバッテリユニット20の温度によって変更してもよく、つまりバッテリユニット20の温度が低いほど、設定距離を長くするように補正しても構わない。
【0080】
また同様に、本第3実施形態において、目的地までの時間で創熱制御の実行可否を判定する場合には、例えば目的地までの5分以内のように予め設定した設定時間で判定してもよい。この場合、設定時間はバッテリユニット20の温度によって変更してもよく、つまりバッテリユニット20の温度が低いほど、設定時間を長くするように補正しても構わない。
【0081】
また、本第3実施形態において、目的地の到着時におけるバッテリユニット20の推定温度を算出する場合には、バッテリの特性や、Win(充電制御制限電力)等も加味して算出するようにしても構わない。
【0082】
また、上記の第3実施形態の説明においては、基本的に目的地を設定したときに創熱制御の実行可否を判定するものを説明したが、これに限らず、例えば創熱制御の実行を開始した後、走行中に目的地までの到着予想時刻が変わった場合、或いはバッテリユニット20の温度が予想通り上昇していない場合等、目的地までの移動中に創熱制御を実行しても暖機が完了しないことを判定した場合に、実行中の創熱制御を停止(中止)するものでも構わない。
【0083】
なお、以上説明した第3実施形態における、それ以外の構成、作用、及び効果は、上記第1実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0084】
<第4実施形態>
続いて、上記第1実施形態を一部変更した第4実施形態について説明する。なお、本第4実施形態の説明においても、上記第1実施形態と同様な部分に同符号を用いて、その説明を省略する。
【0085】
上記第1実施形態では、創熱制御を実行するか否かを、空調の状態、水温、電池温度、等に基づき判定するものであったが(図7参照)、本第4実施形態では、これらに加えて、車両100の操舵性に影響を生じる状態に応じても、創熱制御を実行するか否かを判定するものである。
【0086】
即ち、例えば車両100の走行中の創熱制御の実行中に、前輪7FL,7FRの操舵角が大きくなると、創熱制御を実行していない場合に比して、前輪7FL,7FRに大きな駆動力がかかっているため、操舵性に影響を及ぼす虞がある。
【0087】
そこで、本第4実施形態においては、操舵性に影響を生じる状態を検知した場合に、創熱制御の実行を停止(中止)するものである。
【0088】
具体的には、車両100の前進走行中(加速時及び低速走行時、減速時)に創熱制御を実行している場合においては、フロントモータ2によって前輪7FL,7FRから出力される第1打消し駆動力Tcan1、及びリヤモータ3によって後輪7RL,7RRから出力される第2打消し駆動力Tcan2が出力されている。この状態で、ECU10は、上記ステアリングセンサ56(図1参照)により所定の旋回角度(例えば5度)以上の操舵角を検知すると、創熱制御を停止し、つまり通常の走行状態に戻す。これにより、車両100の旋回中において、創熱制御により生じている第1打消し駆動力Tcan1及び第2打消し駆動力Tcan2が無くなり、操舵性に影響を与えることを防止することができる。
【0089】
なお、創熱制御を停止している状態から、ステアリングセンサ56によって検知される操舵角が所定の旋回角度未満になったことを検知すると、創熱制御を開始して復帰させる。この際、創熱制御に復帰させる操舵角は、ハンチングが生じないように創熱制御を停止する場合の所定の旋回角度(例えば5度)に対して小さい角度(例えば3度)に設定することが望ましい。
【0090】
また、上記の制御では、ステアリングセンサ56によって検知される操舵角に応じて創熱制御の停止を判断するものを説明した。しかしながら、これに限らず、ECU10がカーナビゲーションシステム55の情報を取得し、その情報から、これから車両100が走行するルートにおいて、操舵角が所定の旋回角度以上となるカーブを検知したことを、操舵性に影響が生じる状態として検知し、その検知に基づき創熱制御を停止する判定を行うものでも構わない。
【0091】
また、上記の制御では、操舵性に影響が生じる状態を検知(ステアリングセンサ56による所定の旋回角度以上の検知、或いはカーナビゲーションシステム55によるカーブの検知)した場合に、創熱制御を停止するものを説明した。しかしながら、これに限らず、例えばフロントモータ2による前輪7FL,7FRから出力される第1打消し駆動力Tcan1及びリヤモータ3による後輪7RL,7RRから出力される第2打消し駆動力Tcan2を、通常の創熱制御よりも小さくなるように所定の駆動力以下に制限するようにしても構わない。
【0092】
以上説明したように、本第4実施形態においては、操舵性に影響が生じる状態を検知した場合に、創熱制御の実行を停止、又は第1打消し駆動力及び第2打消し駆動力を制限するので、車両100の旋回中において創熱制御の実行によって操舵性に影響を及ぼすことを防止することができる。
【0093】
なお、以上説明した第4実施形態における、それ以外の構成、作用、及び効果は、上記第1実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0094】
<第5実施形態>
続いて、上記第1実施形態を一部変更した第5実施形態について説明する。なお、本第5実施形態の説明においても、上記第1実施形態と同様な部分に同符号を用いて、その説明を省略する。
【0095】
上記第1実施形態では、創熱制御を実行するか否かを、空調の状態、水温、電池温度、等に基づき判定するものであったが(図7参照)、本第5実施形態では、これらに加えて、車両100のモードセレクトスイッチ54によるモードの選択に応じても、創熱制御を実行するか否かを判定するものである。
【0096】
即ち、例えば車両100は、車両100の加速度特性として第1加速度特性を設定するノーマルモードと、車両の加速度特性として第1加速度特性よりも動的な走行を実現する第2加速度特性を設定するスポーツモードと、を含む複数のモードから、モードセレクトスイッチ54によって1つのモードを選択可能に構成されている。つまり、スポーツモードを選択すると、ノーマルモードを選択した場合に比して、アクセルペダル52のアクセル開度に対するフロントモータ2及びリヤモータ3の出力が大きくなるように構成されている。これにより、運転者は、車両100の俊敏に走行させる、所謂スポーツ走行を行いたい場合に、モードセレクトスイッチ54によってスポーツモードを選択して、車両100の特性(挙動)をダイレクト感がある急峻な走行が可能な状態に変更することができる。しかしながら、このようなスポーツモードにおいて上述したような創熱制御を行うと、車両100の挙動に影響を与えてしまう虞がある。
【0097】
そこで、本第5実施形態においては、モードセレクトスイッチ54によってノーマルモードが選択された場合(車両100の加速度特性がノーマルモードである場合)に創熱制御の実行可能な状態とし、スポーツモードが選択された場合(車両100の加速度特性がスポーツモードである場合)に創熱制御の実行を停止するものである。なお、本実施形態では、モードとして、スポーツモードとノーマルモードとを有するものを説明しているが、この他に、エコモード等の他のモードを有するものでも構わない。但し、エコモードであっても、創熱制御を実行した方が早く車両100の暖機が完了し、バッテリユニット20の充電が可能となることで、フロントモータ2やリヤモータ3による回生制御が早期に可能となって、総じて電費が向上することが考えられる。
【0098】
このように、本第5実施形態においては、車両100がスポーツモードに設定された場合に創熱制御の実行を停止するので、つまり車両100の加速度特性がスポーツモードである場合の走行中において創熱制御の実行によって車両100の挙動に影響を及ぼすことを防止することができる。
【0099】
なお、以上説明した第4実施形態における、それ以外の構成、作用、及び効果は、上記第1実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0100】
<第6実施形態>
続いて、上記第1実施形態を一部変更した第6実施形態について説明する。なお、本第6実施形態の説明においても、上記第1実施形態と同様な部分に同符号を用いて、その説明を省略する。
【0101】
上記第1実施形態では、創熱制御を実行するか否かを、空調の状態、水温、電池温度、等に基づき判定するものであったが(図7参照)、本第6実施形態では、これらに加えて、車両100の周囲に接近しているもの(車両、人、自転車等)があるか否かに応じても、創熱制御を実行するか否かを判定するものである。
【0102】
即ち、例えば車両100が充電時に創熱制御を実行している場合(図5参照)にあっては、運転者が乗車していない状態で、ブレーキ9をONし、フロントモータ2によって前輪7FL,7FRから第1打消し駆動力Tcan1を出力し、かつリヤモータ3によって後輪7RL,7RRから第2打消し駆動力Tcan2を出力した状態に制御される。ここで、例えば何らかの異常が発生して、ブレーキ9の制動力が小さくなったり、第1打消し駆動力Tcan1又は第2打消し駆動力Tcan2が大きくなったりすると、車両100が動いてしまう可能性がある。この際、周囲に接近したものに車両100が接触することは防止したい。
【0103】
そこで、本第6実施形態においては、車両100の周囲に接近している物体(例えば車両、人、自転車等)を検知した場合に、創熱制御の実行を停止(中止)するものである。
【0104】
具体的には、例えば車両100が充電時の創熱制御の実行中において、ECU10が、カメラ61により撮像した画像を解析したり、或いはコーナーセンサ62が物体を検知したりして、物体が車両100の所定距離(例えば0.5~2m等)以内に接近したことを検知すると、創熱制御の停止を判定する。これにより、例えば何らかの異常が発生したとしても、創熱制御による車両100の移動を防止することができ、接近してきた物体に車両100が移動して接触することの防止を図ることができる。なお、ECU10は、カメラ61やコーナーセンサ62よって物体が所定距離よりも離れたことを判定した場合には、創熱制御を再開する。これにより、引き続き充電時の創熱制御を継続することができる。
【0105】
なお、以上説明した第6実施形態における、それ以外の構成、作用、及び効果は、上記第1実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0106】
<第7実施形態>
続いて、上記第1実施形態を一部変更した第7実施形態について説明する。なお、本第7実施形態の説明においても、上記第1実施形態と同様な部分に同符号を用いて、その説明を省略する。
【0107】
上記第1実施形態では、創熱制御を実行するか否かを、空調の状態、水温、電池温度、等に基づき判定するものであったが(図7参照)、本第7実施形態では、これらに加えて、車両100が他の車両や荷物等の牽引物を牽引している牽引状態であるか否かに応じても、創熱制御を実行するか否かを判定するものである。
【0108】
即ち、例えば車両100が上記のように牽引状態であると、フロントモータ2やリヤモータ3に対して高負荷が発生する状態での走行となり、例えば登坂路の走行では更なる高負荷が生じる虞がある。また、車両100の減速時においても牽引している牽引物の慣性力が生じるため、ブレーキ9の必要な制動力が増加する。このため、牽引状態において創熱制御を実行すると予期しない負荷が生じ、車両100の耐久性としても影響を受ける虞がある。
【0109】
そこで、本第7実施形態においては、ECU10が、車両100が牽引状態であることを判定した場合に、創熱制御の実行を停止(中止)するものである。
【0110】
具体的には、ECU10は、アクセル開度に応じた要求駆動力と車速とに応じて走行抵抗を常に算出している。つまり、前輪7FL,7FR及び後輪7RL,7RRの合計の駆動力が要求駆動力として出力されるように、フロントモータ2及びリヤモータ3を駆動制御するが、要求駆動力に応じて上昇するはずの車速の上昇率が低い場合は、走行抵抗が大きく算出され、この走行抵抗の値が閾値を超えたことを判定すると、牽引状態であることを判定する。そして、牽引状態を判定した場合には、創熱制御を実行しないように停止する。これにより、車両100に大きな負荷を生じさせることを防止でき、耐久性の向上も図ることができる。なお、牽引状態では、そもそもフロントモータ2及びリヤモータ3に高負荷がかかるため、創熱制御を実行しなくても、車両100の暖機は早く達成できる。
【0111】
なお、以上説明した第7実施形態における、それ以外の構成、作用、及び効果は、上記第1実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0112】
<他の実施形態の可能性>
なお、以上説明した第1乃至第7実施形態の説明においては、フロントモータ2を第1回転電機、リヤモータ3を第2回転電機、として説明したが、その反対でもよく、つまり第1回転電機は車両100の前輪7FL,7FR及び後輪7RL,7RRの一方に駆動連結され、第2回転電機は車両100の前輪7FL,7FR及び後輪7RL,7RRの他方に駆動連結されていればよい。具体的には、フロントモータ2とリヤモータ3との役割として、詳しくは後述する車両の進行方向に対する駆動力の出力方向が逆であったり、力行と回生とが逆であったりしても構わない。
【0113】
また、第1実施形態においては、車両100の状態として、停車中、前進走行中、充電中、後進走行中、等の状態の全てで創熱制御を実行するものとして説明した。しかしながら、これらの状態のうちの一部で創熱制御を実行するものであれば、他の状態で創熱制御を実行しないものでも構わない。特に後進走行中においても創熱制御を行うものとして説明したが、後進走行は他の走行状態に比して時間的に使用頻度が少ないため、後進モードの創熱制御は行わないようにしたものでも構わない。
【0114】
また、第1乃至第7実施形態においては、フロントモータ2とリヤモータ3との大きさや性能について特に限定するものではないが、特に駆動力の打ち消し合いが可能な範囲であれば、これらのモータの大きさや性能が異なるものでも構わない。
【0115】
また、第1乃至第7実施形態において説明した車両100には、冷却水やバッテリユニット20を直接的に暖めるヒータ(高電圧ヒータ等)を備えていないものとして説明したが、これに限らず、このようなヒータを搭載することを除外するものではない。このようなヒータを搭載した場合には、特に前進走行中の創熱制御においてフロントモータ2で回生した電力、或いは後進走行中の創熱制御においてリヤモータ3で回生した電力を、当該ヒータに供給することで電費向上を図ることが考えられる。
【0116】
また、第1乃至第7実施形態においては、前輪7FL,7FRをフロントモータ2により駆動し、後輪7RL,7RRをリヤモータ3により駆動する、所謂四輪駆動の電気自動車である車両100を一例に説明したが、これに限らず、例えば前輪と後輪との一方又は両方がエンジンとモータ(回転電機)を駆動源とするハイブリッド駆動装置で構成されたものであっても、そのハイブリッド駆動装置のモータを第1回転電機又は第2回転電機として用いて第1打消し駆動力又は第2打消し駆動力を出力するように構成することができる。
【符号の説明】
【0117】
1…車両用駆動装置/2…フロントモータ(第1回転電機)/3…リヤモータ(第2回転電機)/7FL,7FR…前輪/7RL,7RR…後輪/10…制御部/100…車両/Tcan1…第1打消し駆動力/Tcan2…第2打消し駆動力/Tdec…要求減速力/Trq…要求駆動力
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10