(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178093
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20241217BHJP
【FI】
B60L15/20 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024023740
(22)【出願日】2024-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2023096533
(32)【優先日】2023-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野沢 智
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 奨
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 裕介
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC12
5H125BA05
5H125CA02
5H125CB02
5H125EE09
5H125EE51
(57)【要約】
【課題】車両の走行中に創熱制御を行いつつ車両の挙動に影響を与えることを防止すること。
【解決手段】車両用駆動装置の制御部は、創熱制御を実行する際、第1打消し駆動力を第1回転電機から発生するように制御し、かつ第1打消し駆動力に対して車両の進行方向の反対側に作用する第2打消し駆動力を第2回転電機から発生させる。創熱制御を実行する際であって要求駆動力(Trq)が切換え制限範囲(SWlim)よりも大きい場合、車両の加速時は第1回転電機を回生制御すると共に第2回転電機を力行制御し、車両の減速時は第1回転電機を力行制御すると共に第2回転電機を回生制御する。創熱制御を実行する際であって要求駆動力が切換え制限範囲(SWlim)の範囲内となった場合、直前に実行していた創熱制御における第1回転電機及び第2回転電機の回生制御又は力行制御を切換えずに継続させる。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前輪及び後輪の一方に駆動連結される第1回転電機と、
前記第1回転電機と独立して駆動され、前記前輪及び前記後輪の他方に駆動連結される第2回転電機と、
前記第1回転電機と前記第2回転電機とを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記車両の暖機を行う創熱制御を実行する際、第1打消し駆動力を前記第1回転電機から発生するように制御し、かつ前記第1打消し駆動力に対して前記車両の進行方向の反対側に作用する第2打消し駆動力を前記第2回転電機から発生するように制御し、
前記車両の加速時において前記創熱制御を実行する際にあって、要求駆動力が前記車両の加速方向に対して切換え制限範囲よりも大きい場合には、前記第1回転電機を回生制御すると共に前記第2回転電機を力行制御し、
前記車両の減速時において前記創熱制御を実行する際にあって、要求減速力が前記車両の減速方向に対して前記切換え制限範囲よりも大きい場合には、前記第1回転電機を力行制御すると共に前記第2回転電機を回生制御し、
前記創熱制御を実行する際にあって、かつ要求駆動力が前記切換え制限範囲の範囲内となった場合には、直前に実行していた前記創熱制御における前記第1回転電機及び前記第2回転電機の回生制御又は力行制御を切換えずに継続させる、
車両用駆動装置。
【請求項2】
前記制御部は、要求駆動力が前記切換え制限範囲の範囲内となった場合には、前記第1回転電機の駆動力及び前記第2回転電機の駆動力の大きさを駆動力制限範囲の範囲内となるように制限する、
請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記制御部は、要求駆動力が前記切換え制限範囲より大きい場合に前記切換え制限範囲を第1範囲に設定し、要求駆動力が前記切換え制限範囲の範囲内ある場合に前記切換え制限範囲を前記第1範囲よりも大きい第2範囲に設定する、
請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記第1回転電機は、前記車両の後輪に駆動連結され、
前記第2回転電機は、前記車両の前輪に駆動連結された、
請求項1に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前輪及び後輪の一方に駆動連結される第1回転電機と他方に駆動連結される第2回転電機を備える車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電気自動車に搭載される車両用駆動装置においては、バッテリの温度が低温であると充放電の効率が低下し、特にバッテリが極低温(例えば0度以下)であると充電することが困難になり、例えば車両の走行中に減速した時でも回生を行うことができずに電費が低下するという問題がある。そのため、例えば低温環境で長時間に亘って放置された車両を走行させる際には、素早く暖機することが求められるが、発熱源としての内燃エンジンを搭載しているハイブリッド自動車よりも電気自動車の方が暖機することが難しい。そこで、停車中或いは走行中に、走行用モータに駆動力となるq軸電流とは別にd軸電流を流して、走行用モータを余計に暖めることでバッテリの暖機の促進を図ったものが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のようにd軸電流を流して走行用モータを暖めるものでは、走行用モータの発熱量の増加が限られており、特に極低温のような環境で暖機の時間が長くなり、実用性として不十分であった。そのため、例えば高電圧ヒータ等を搭載してバッテリの暖機を行うことも考えられるが、高電圧ヒータは高価であり、車両のコストダウンの妨げになる。そのため、前輪を駆動するフロントモータと後輪を駆動するリヤモータとを備える車両用駆動装置にあって、それらのモータにおいて互いに打ち消し合う駆動力を発生させる制御(以下、「創熱制御」という)を行うことで、車両の暖機を行うことが考えられる。
【0005】
ところで、フロントモータとリヤモータとを備える車両用駆動装置が搭載された車両では、車両の前輪に車重がかかり易い。このため、車両の加速時にフロントモータ(前輪)で力行制御を行い、車両の減速時にフロントモータで回生制御を行うことで電費の向上を図ることができる。しかしながら、例えば走行中に上記のような創熱制御を実行している場合において、要求駆動力が加速方向と減速方向とで切換ると、互いに打ち消し合うように発生させる駆動力の方向も切換ることになり、車両の挙動に影響を与える虞がある。
【0006】
そこで本発明は、車両の走行中に創熱制御を行いつつ車両の挙動に影響を与えることを防止することが可能な車両用駆動装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、車両の前輪及び後輪の一方に駆動連結される第1回転電機と、前記第1回転電機と独立して駆動され、前記前輪及び前記後輪の他方に駆動連結される第2回転電機と、前記第1回転電機と前記第2回転電機とを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記車両の暖機を行う創熱制御を実行する際、第1打消し駆動力を前記第1回転電機から発生するように制御し、かつ前記第1打消し駆動力に対して前記車両の進行方向の反対側に作用する第2打消し駆動力を前記第2回転電機から発生するように制御し、前記車両の加速時において前記創熱制御を実行する際にあって、要求駆動力が前記車両の加速方向に対して切換え制限範囲よりも大きい場合には、前記第1回転電機を回生制御すると共に前記第2回転電機を力行制御し、前記車両の減速時において前記創熱制御を実行する際にあって、要求減速力が前記車両の減速方向に対して前記切換え制限範囲よりも大きい場合には、前記第1回転電機を力行制御すると共に前記第2回転電機を回生制御し、前記創熱制御を実行する際にあって、かつ要求駆動力が前記切換え制限範囲の範囲内となった場合には、直前に実行していた前記創熱制御における前記第1回転電機及び前記第2回転電機の回生制御又は力行制御を切換えずに継続させる、車両用駆動装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、車両の走行中に創熱制御を行いつつ車両の挙動に影響を与えることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る車両とその車両用駆動装置の構成を示す模式図である。
【
図2】第1実施形態に係る車両の停車時における状態を示す模式図である。
【
図3】第1実施形態に係る車両の前進走行中の加速時及び定常走行時における状態を示す模式図である。
【
図4】第1実施形態に係る車両の前進走行中の減速時における状態を示す模式図である。
【
図5】第1実施形態に係る車両の停車中の充電時における状態を示す模式図である。
【
図6】第1実施形態に係る車両の後進走行中の加速時における状態を示す模式図である。
【
図7】第1実施形態に係る創熱制御のON/OFF制御を示すフローチャートである。
【
図8】第1実施形態に係る車両の状態制御を示すフローチャートである。
【
図9】第2実施形態に係る創熱制御の実行時における走行例を示すタイムチャートである。
【
図10】比較例に係る創熱制御の実行時における走行例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1実施形態>
以下、第1実施の形態に係る車両用駆動装置1について
図1乃至
図8を用いて説明する。
【0011】
[車両の構成]
まず、本車両用駆動装置1が搭載される車両100の構成について
図1に沿って説明する。
図1は第1実施形態に係る車両とその車両用駆動装置の構成を示す模式図である。
図1に示すように、車両用駆動装置1が搭載される四輪駆動の電気自動車である車両100は、図中上方を前進の走行方向としており、左右の前輪7FL,7FR、左右の後輪7RL,7RR、バッテリユニット20、バッテリユニット20の電力により前輪7FL,7FR及び後輪7RL,7RRを駆動する車両用駆動装置1、車内を空調するためのコンプレッサ30等を備えている。また、左右の前輪7FL,7FR及び左右の後輪7RL,7RRのそれぞれには、ブレーキ装置の一例として例えばディスクブレーキ等のブレーキ9が設けられている。
【0012】
また、車両100には、図示を簡略化して示した運転席50が備えられており、その運転席50には、シフトレバー51、アクセルペダル52、ブレーキペダル53等が設けられている。シフトレバー51は、運転者により、例えばパーキングレンジ、ニュートラルレンジ、ドライブレンジ、リバースレンジのようなシフトレンジが選択可能に構成されており、詳しくは後述するECU10に選択されたシフトレンジの信号を送信する。また、アクセルペダル52は、アクセル開度を検知可能に構成されており、ECU10にアクセル開度の信号を送信し、それを受信したECU10は運転者による車両100の加速方向に対する要求駆動力(以下、加速方向に対する要求駆動力については「要求駆動力Trq」という。)をアクセル開度に基づき検知する。さらに、ブレーキペダル53は、ブレーキ踏圧を検知可能に構成されており、ECU10にブレーキ踏圧の信号を送信し、それを受信したECU10は運転者による車両100の減速方向に対する要求駆動力(以下、減速方向に対する要求駆動力については「要求減速力Tdec」という。)をブレーキ踏圧に基づき検知する。
【0013】
なお、パーキングレンジ及びニュートラルレンジは、車両100を走行させない状態にする非走行レンジであり、ドライブレンジは車両100を前進走行させる状態にする前進レンジ(走行レンジ)であり、リバースレンジは車両100を後進走行させる状態にする後進レンジ(走行レンジ)である。
【0014】
また、本実施形態においては、要求駆動力Trqを運転者によりアクセルペダル52を操作した操作量であるアクセル開度により検知するものとして説明するが、これに限らず、要求駆動力Trqは、例えば自動運転やクルーズコントロール等によって制御部が決定するものであっても構わない。
【0015】
同様に、本実施形態においては、要求減速力Tdecを運転者によりブレーキペダル53を操作した操作量であるブレーキ踏圧により検知するものとして説明するが、これに限らず、要求減速力Tdecは、例えば自動運転やクルーズコントロール等によって制御部が決定するものであっても構わない。
【0016】
上記車両用駆動装置1は、前輪7FL,7FRに駆動連結された第1回転電機(モータ・ジェネレータ)としての三相ブラシレスDCモータであるフロントモータ2と、フロントモータ2とは独立して駆動され、左右の後輪7RL,7RRに駆動連結された第2回転電機(モータ・ジェネレータ)としての三相ブラシレスDCモータであるリヤモータ3と、それらフロントモータ2及びリヤモータ3に駆動電流(電力)を供給することで駆動力(回生力)を制御自在な駆動回路5と、その駆動回路5を制御可能な制御部(ECU)10と、を有して構成されている。即ち、フロントモータ2は、前輪7FL,7FRを回転駆動或いは回生することが可能に構成され、また、リヤモータ3は、左右の後輪7RL,7RRを回転駆動或いは回生することが可能に構成されている。また、駆動回路5からは、バッテリユニット20を介さずに直接的にコンプレッサ30に駆動電流(電力)を供給可能に構成されている。
【0017】
なお、
図1において、フロントモータ2及びリヤモータ3は、単にモータとして簡略的に示しているが、一般的には、図示を省略した減速歯車機構やディファレンシャル装置等を備えた駆動ユニットとして構成されているものである。また、本実施形態における各種の制御を行う制御部10は、車両用駆動装置1に備えられたものとして説明するが、車両100に備えられた他の制御部であっても構わない。
【0018】
[車両の状態制御]
次に、第1実施形態において、車両用駆動装置1の制御部10により制御される、車両100の状態に応じて各モードの遷移を行う状態制御について
図8を用いて説明する。
図8は第1実施形態に係る車両の状態制御を示すフローチャートである。なお、この
図8に示す車両の状態制御は、例えば制御部10の処理速度に応じた所定時間の間隔で繰り返し実行され、判定が変わることで、各モードに設定された状態が遷移することになる。
【0019】
詳細には、
図8に示すように、制御部10は、例えば車両100のスタートスイッチがONされると、本状態制御を開始し、まず、シフトレバー51の位置が不図示の位置検知センサによる信号に基づきパーキングレンジ又はニュートラルレンジの非走行レンジであるか否かを判定する(S11)。続いて、制御部10は、非走行レンジであると判定した場合(S11のYES)、充電中であるか否か判定する(S12)。制御部10は、例えば車両100が外部の充電器200(
図5)に接続されていることを判定し、つまり充電中であることを判定すると(S12のYES)、車両100の状態を充電モードに設定する(S14)。また、制御部10は、充電中ではないと判定すると(S12のNO)、車両100の状態を停車モードに設定する(S15)。
【0020】
一方、制御部10は、シフトレバー51の位置に基づき、非走行レンジではないと判定した場合(S11のNO)、シフトレバー51の位置に基づき、ドライブレンジ(前進レンジ)であるか否かを判定する(S13)。制御部10は、ドライブレンジであると判定した場合(S13のYES)、車両100の状態を前進モードに設定し(S16)、ドライブレンジではない判定した場合(S13のNO)、つまりリバースレンジ(後進レンジ)であるので、車両100の状態を後進モードに設定する(S17)。なお、車両100が前進モード又は後進モードである場合においては、要求駆動力Trqに基づき車両100が加速走行或いは定常走行している状態と、要求減速力Tdecに基づき車両100が減速している状態とに区別することができる。
【0021】
[創熱制御のON/OFF制御]
続いて、第1実施形態において、車両用駆動装置1の制御部10により制御される、車両100の暖機を行うための創熱制御のON/OFF制御について
図7を用いて説明する。
図7は第1実施形態に係る創熱制御のON/OFF制御を示すフローチャートである。なお、この
図7に示す創熱制御のON/OFF制御も、例えば制御部10の処理速度に応じた所定時間の間隔で繰り返し実行され、判定が変わることで、創熱制御のON/OFFが切換ることになる。
【0022】
詳細には、
図7に示すように、制御部10は、例えば車両100のスタートスイッチがONされると、本創熱制御のON/OFF制御を開始し、まず、車両100の車内の空調がONであるか否かを判定する(S1)。また、制御部10は、空調がONである場合(S1のYES)、フロントモータ2,リヤモータ3、バッテリユニット20、駆動回路5、コンプレッサ30等を循環する冷却水の温度が40度未満であるか否かを判定する(S2)。そして、制御部10は、空調がONであり(S1のYES)、かつ水温が40度未満である場合(S2のYES)、空調で暖房に用いる熱が冷却水から得られないため、創熱制御のONを判定し、つまり創熱制御を実行する(S4)。
【0023】
また、制御部10は、空調がONではない場合(S1のNO)、或いは空調がONであるが水温が40度以上である場合(S1のYES、かつS2のNO)、バッテリユニット20(つまり電池)の温度が0度未満であるか否かを判定する(S3)。制御部10は、この場合でもバッテリユニット20の温度が0度未満である場合(S3のYES)、創熱制御のONを判定し、つまり創熱制御を実行する(S4)。そして、制御部10は、バッテリユニット20の温度が0度以上である場合(S3のNO)、創熱制御のOFFを判定し、つまり創熱制御を実行せずに(S5)、通常の走行状態にする。
【0024】
[一般的なモータの発熱制御の問題点]
ここで、一般的なモータの発熱制御の問題点について説明する。第1実施形態に係るフロントモータ2やリヤモータ3は、三相ブラシレスDCモータで構成されているが、一般的に三相ブラシレスDCモータでトルクを出力せずに発熱させる場合には、例えば車両の停車中に単相のコイルだけに通常より大きな電流を流して発熱させることが行われる。しかしながら、このように車両の停車中に単相のコイルに大きな電流を流している場合、例えば何らかの外因で車両が僅かに動く等して、モータに回転変化が生じると、そのモータに大きな駆動力の出力が生じて、ショック等が生じる虞があるという問題がある。また、車両の発進を行おうとしても、単相のコイルによる局所的な駆動力が生じて、滑らかに回転制御させるように指令しても、電流制御を追従させることが困難という問題もある。さらに、単相のコイルだけに電流を流す制御であるため、発熱量が小さく、モータ、バッテリユニット、冷却水等が極低温である場合には、暖機に時間がかかってしまうという問題もある。そこで、上記のように創熱制御のONが判定されて創熱制御を実行することを決定した場合、第1実施形態においては、各モードで以下のような創熱制御を実行するものである。
【0025】
[創熱制御の実行時]
ついで、第1実施形態における創熱制御の実行時の詳細な動作について
図2乃至
図6を用いて説明する。なお、以下の説明においては、基本的にフロントモータ2とリヤモータ3とにより車両進行方向に対する駆動力の出力方向を反対にして相殺させることで創熱を行うものであるが、各走行状態(各モード)における詳細な動作が異なるため、各走行状態(各モード)に分けて説明を行う。また、一般的にバッテリユニット20は、0度未満の低温状態にあると、充電することが難しい反面、充電残量があれば電気を出力することができるという性質を有している。このため、制御部10は、以下に説明する創熱制御において、バッテリユニット20から電力の出力は行うが、バッテリユニット20への充電は行わないように制御するものである。
【0026】
(停車時の創熱制御)
まず、車両100が充電を行わずに停車している状態(停車モード)における創熱制御の動作について
図2を用いて説明する。
図2は第1実施形態に係る車両の停車時における状態を示す模式図である。なお、
図2に示す停車モードでは、ブレーキペダル53が踏圧されてブレーキ9がON(作動して係止)されている状態(BRK ON)、或いはブレーキペダル53が踏圧されていなくても、ブレーキホールド等によって車両100のブレーキ9がON(係止)されている状態、或いは不図示のその他のブレーキ(所謂パーキングブレーキやサイドブレーキ)がON(係止)されている状態の何れかであって、車両100の左右の前輪7FL,7FR及び左右の後輪7RL,7RRが強制的に固定されている状態である。
【0027】
制御部10は、上記車両の状態制御で停車モードを判定し、かつ創熱制御のON/OFF制御で創熱制御のONを判定すると、
図2に示すように、フロントモータ2によって左右の前輪7FL,7FRに第1打消し駆動力Tcan1として後進方向の駆動力TF1が生じるようにバッテリユニット20の電力を用いてフロントモータ2を力行制御し、かつフロントモータ2に同期させつつリヤモータ3によって左右の後輪7RL,7RRに、上記前輪7FL,7FRの駆動力TF1と同じ大きさで車両100の進行方向の反対側に作用する第2打消し駆動力Tcan2としての前進方向の駆動力TR1が生じるようにバッテリユニット20の電力を用いてリヤモータ3を力行制御する。
【0028】
なお、この際のフロントモータ2により出力される前輪7FL,7FRの駆動力TF1と、リヤモータ3により出力される後輪7RL,7RRの駆動力TR1とは、例えばブレーキ9のONにより前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRの回転を停止する制動力よりも小さい方が安全性は高いが、これら駆動力TF1と駆動力TR1とは打ち消し合う方向であるため、ブレーキ9の制動力よりも大きくても構わない。また、図示を省略したABSセンサ等によって前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRの回転速度を検知し、前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRが回転していないことを判定した場合に、この創熱制御によるフロントモータ2の駆動とリヤモータ3の駆動とを許可するようにし、例えばスリップ等によって前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRが回転した場合にフロントモータ2の駆動とリヤモータ3の駆動とを中止するようにした方が好ましい。
【0029】
また、この停車モードでは、フロントモータ2とリヤモータ3とを力行制御するため、詳しくは後述する走行モードのようにフロントモータ2の回生による電力が生じないので、コンプレッサ30を駆動していないが、バッテリユニット20の電力を用いてコンプレッサ30を駆動し、室内の暖房を行うようにしても構わない。
【0030】
以上説明したように、停車モードにおける創熱制御にあって、フロントモータ2による前輪7FL,7FRの駆動力TF1とリヤモータ3による後輪7RL,7RRの駆動力TR1とを、車両100の進行方向に対して打ち消し合うように出力することで、フロントモータ2及びリヤモータ3に、例えば単相のコイルに電流を流す場合よりも大きな電流を流すことを可能にするので、暖機時における発熱量を大きくすることができ、暖機時間の短縮化を図ることができる。
【0031】
(前進走行中の加速時及び定常走行時の創熱制御)
次に、車両100が前進走行中に加速或いは定常走行している状態(前進モード)における創熱制御の動作について
図3を用いて説明する。
図3は第1実施形態に係る車両の前進走行中の加速時及び定常走行時における状態を示す模式図である。なお、
図3に示す前進モードでは、ブレーキペダル53が踏圧されずにブレーキ9がOFF(解放)されている状態であって(BRK OFF)、特に不図示のその他のブレーキ(所謂パーキングブレーキやサイドブレーキ)もOFF(解放)されている状態であって、車両100の左右の前輪7FL,7FR及び左右の後輪7RL,7RRが回転可能にされている状態である。また、定常走行時とは、車両100の走行抵抗と加速方向の駆動力(要求駆動力Trq)とが均衡している状態であり、広義として車両100の動作は加速時と同じ状態である言える。さらに、車両100の走行抵抗が加速方向の駆動力(要求駆動力Trq)よりも大きければ、車両100の車速は低下することになるが、広義として車両100の動作は加速時と同じ状態と言える。
【0032】
制御部10は、上記車両の状態制御で前進モードを判定し、かつ創熱制御のON/OFF制御で創熱制御のONを判定している状態で、アクセルペダル52のアクセル開度等に基づき要求駆動力Trqがあることを判定すると、
図3に示すように、リヤモータ3によって左右の後輪7RL,7RRに、第2打消し駆動力Tcan2に要求駆動力Trqを加えた前進方向の駆動力TR2が生じるようにバッテリユニット20の電力を用いてリヤモータ3を制御し、かつリヤモータ3の力行制御に同期させつつフロントモータ2によって左右の前輪7FL,7FRに、第1打消し駆動力Tcan1としての後進方向の駆動力TF2が生じるようにフロントモータ2を回生制御する。換言すると、制御部10は、リヤモータ3による後輪7RL,7RRの駆動力TR2と、フロントモータ2による前輪7FL,7FRの駆動力TF2との差分が、上記要求駆動力Trqとなるようにリヤモータ3の力行とフロントモータ2の回生との大きさを設定する。つまり、フロントモータ2から前輪7FL,7FRの駆動力TF2を発生させつつ、前輪7FL,7FRの駆動力TF2よりも大きい駆動力となるように、リヤモータ3から後輪7RL,7RRの駆動力TR2を発生させる。なお、フロントモータ2とリヤモータ3との出力性能にもよるが、何れか一方の限界値に応じて上記要求駆動力Trqが車両100の駆動力として生じるように設定することが好ましい。
【0033】
この前進走行中の加速或いは定常走行においては、リヤモータ3には、バッテリユニット20から電力が供給されるが、フロントモータ2により回生された電力も駆動回路5を介してリヤモータ3に供給する。このため、バッテリユニット20の電力消費量は、例えばフロントモータ2とリヤモータ3との両方を力行制御する場合に比して、大幅に低減することができる。また、フロントモータ2により回生された電力の一部をコンプレッサ30に供給することで、バッテリユニット20の電力を用いることなく、車内の空調(暖房)を行うことができる。特に、例えば車両100が降坂路を走行する場合の加速時では、フロントモータ2により回生を行うことができているので、低温状態のバッテリユニット20に充電することができなくとも、コンプレッサ30に電力供給することができ、バッテリユニット20の電力消費量を増加させることなく、車内の空調(暖房)を行うことができる。従って、このようにフロントモータ2を回生制御することで、車両の電費向上を図ることができる。
【0034】
なお、この前進走行中の加速時及び定常走行時であっても、図示を省略したABSセンサ等によって前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRの回転速度を検知し、前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRにおける回転速度の偏差が小さいことを判定した場合に、この創熱制御によるフロントモータ2の回生とリヤモータ3の駆動(力行)とを許可するようにし、例えばスリップ等によって前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRにおける回転速度の偏差が大きくなった場合にフロントモータ2の回生とリヤモータ3の駆動とを中止するようにした方が好ましい。
【0035】
また、第1実施形態においては、フロントモータ2により回生を行いつつリヤモータ3により力行を行うものを説明したが、反対にリヤモータ3により回生を行いつつフロントモータ2により力行を行うものであっても構わない。但し、車両100の前輪7FL,7FRと後輪7RL,7RRとの重量配分にもよるが、一般的にフロントモータ2により回生を行う方が回生効率が高く、電費向上を図ることができる。また、フロントモータ2とリヤモータ3とにおける力行と回生とは、後述する前進走行中の減速時を含め、旋回走行、登坂路の走行、降坂路の走行等の走行状況に応じて、制御部10が走行中に入れ替えるように制御しても構わない。
【0036】
以上説明したように、前進走行中(走行モード)の加速時及び定常走行時における創熱制御にあって、フロントモータ2による前輪7FL,7FRの駆動力TF2とリヤモータ3による後輪7RL,7RRの駆動力TR2とを、車両100の進行方向に対して打ち消し合うように出力することで、フロントモータ2及びリヤモータ3に、例えば単相のコイルに電流を流す場合よりも大きな電流を流すことを可能にするので、暖機時における発熱量を大きくすることができ、暖機時間の短縮化を図ることができる。また、この前進走行中(走行モード)の加速時及び定常走行時における創熱制御にあって、フロントモータ2により回生を行うことで、車両の電費向上を図ることができる。
【0037】
(前進走行中の減速時の創熱制御)
続いて、車両100が前進走行中に減速している状態(前進モード)における創熱制御の動作について
図4を用いて説明する。
図4は第1実施形態に係る車両の前進走行中の減速時における状態を示す模式図である。なお、
図4に示す前進モードでは、ブレーキペダル53が踏圧されてブレーキ9がON(作動してスリップ)されている状態であって(BRK ON)、特に不図示のその他のブレーキ(所謂パーキングブレーキやサイドブレーキ)はOFF(解放)されている状態であって、車両100の左右の前輪7FL,7FR及び左右の後輪7RL,7RRが回転されている状態である。
【0038】
制御部10は、上記車両の状態制御で前進モードを判定し、かつ創熱制御のON/OFF制御で創熱制御のONを判定している状態で、ブレーキペダル53の踏圧量等に基づき要求減速力Tdecがあることを判定すると、
図4に示すように、リヤモータ3によって左右の後輪7RL,7RRに、第2打消し駆動力Tcan2としての前進方向の駆動力TR3が生じるようにバッテリユニット20の電力を用いてリヤモータ3を制御し、かつリヤモータ3の力行制御に同期させつつフロントモータ2によって左右の前輪7FL,7FRに、第1打消し駆動力Tcan1としての後進方向の駆動力TF3が生じるようにフロントモータ2を回生制御する。即ち、制御部10は、リヤモータ3による後輪7RL,7RRの駆動力TR3と、フロントモータ2による前輪7FL,7FRの駆動力TF3とが、同じ大きさとなるように制御することで、ブレーキ9による制動力によって上記要求減速力Tdecが生じるように制御する。また、フロントモータ2とリヤモータ3との出力性能にもよるが、何れか一方の限界値に応じてフロントモータ2の回生とリヤモータ3の力行との大きさを設定することが好ましい。
【0039】
この前進走行中の減速走行においては、リヤモータ3には、バッテリユニット20から僅かに電力が供給されることになるが、基本的にフロントモータ2により回生された電力を駆動回路5を介してリヤモータ3に供給する。このため、バッテリユニット20の電力消費量は僅かであり、例えばフロントモータ2とリヤモータ3との両方を力行制御する場合に比して、大幅に低減することができる。また前進走行中の加速時と同様に、フロントモータ2により回生された電力の一部をコンプレッサ30に供給することで、バッテリユニット20の電力を用いることなく、車内の空調(暖房)を行うことができる。従って、このようにフロントモータ2を回生制御することで、車両の電費向上を図ることができる。
【0040】
なお、この前進走行中の減速時であっても、図示を省略したABSセンサ等によって前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRの回転速度を検知し、前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRにおける回転速度の偏差が小さいことを判定した場合に、この創熱制御によるフロントモータ2の回生とリヤモータ3の駆動(力行)とを許可するようにし、例えばスリップ等によって前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRにおける回転速度の偏差が大きくなった場合にフロントモータ2の回生とリヤモータ3の駆動とを中止するようにした方が好ましい。
【0041】
また同様に、第1実施形態においては、フロントモータ2により回生を行いつつリヤモータ3により力行を行うものを説明したが、反対にリヤモータ3により回生を行いつつフロントモータ2により力行を行うものであっても構わない。但し、車両100の前輪7FL,7FRと後輪7RL,7RRとの重量配分にもよるが、一般的にフロントモータ2により回生を行う方が回生効率が高く、電費向上を図ることができる。また、フロントモータ2とリヤモータ3とにおける力行と回生とは、上述した前進走行中の加速時及び定常走行時を含め、旋回走行、登坂路の走行、降坂路の走行等の走行状況に応じて、制御部10が走行中に入れ替えるように制御しても構わない。
【0042】
以上説明したように、前進走行中(走行モード)の減速時における創熱制御にあって、フロントモータ2による前輪7FL,7FRの駆動力TF3とリヤモータ3による後輪7RL,7RRの駆動力TR3とを、車両100の進行方向に対して打ち消し合うように出力することで、フロントモータ2及びリヤモータ3に、例えば単相のコイルに電流を流す場合よりも大きな電流を流すことを可能にするので、暖機時における発熱量を大きくすることができ、暖機時間の短縮化を図ることができる。また、この前進走行中(走行モード)の減速時における創熱制御にあって、フロントモータ2により回生を行うことで、車両の電費向上を図ることができる。
【0043】
(充電時の創熱制御)
次に、車両100が充電を行って停車している状態(充電モード)における創熱制御の動作について
図5を用いて説明する。
図5は第1実施形態に係る車両の停車中の充電時における状態を示す模式図である。なお、
図5に示す充電モードでは、上述した停車時と同様に、ブレーキペダル53が踏圧されてブレーキ9がON(係止)されている状態(BRK ON)、或いはブレーキペダル53が踏圧されていなくても、ブレーキホールド等によって車両100のブレーキ9がON(係止)されている状態、或いは不図示のその他のブレーキ(所謂パーキングブレーキやサイドブレーキ)がON(係止)されている状態の何れかであって、車両100の左右の前輪7FL,7FR及び左右の後輪7RL,7RRが強制的に固定されている状態である。
【0044】
上述したようにバッテリユニット20は、低温時であると充電することが困難である。そこで本充電モードでは、充電器200によるバッテリユニット20の充電を可能にするために、充電器200の電力で特にバッテリユニット20を暖機することを目的とするものである。
【0045】
制御部10は、上記車両の状態制御で充電モードを判定し、かつ創熱制御のON/OFF制御で創熱制御のONを判定すると、
図5に示すように、フロントモータ2によって左右の前輪7FL,7FRに、第1打消し駆動力Tcan1としての後進方向の駆動力TF1が生じるように充電器200の電力を用いてフロントモータ2を力行制御し、かつフロントモータ2に同期させつつリヤモータ3によって左右の後輪7RL,7RRに、上記前輪7FL,7FRの駆動力TF1と同じ大きさの第2打消し駆動力Tcan2としての前進方向の駆動力TR1が生じるように充電器200の電力を用いてリヤモータ3を力行制御する。
【0046】
なお、上記停車時と同様に、この際のフロントモータ2により出力される前輪7FL,7FRの駆動力TF1と、リヤモータ3により出力される後輪7RL,7RRの駆動力TR1とは、例えばブレーキ9のONにより前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRの回転を停止する制動力よりも小さい方が安全性は高いが、これら駆動力TF1と駆動力TR1とは打ち消し合う方向であるため、ブレーキ9の制動力よりも大きくても構わない。また、図示を省略したABSセンサ等によって前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRの回転速度を検知し、前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRが回転していないことを判定した場合に、この創熱制御によるフロントモータ2の駆動とリヤモータ3の駆動とを許可するようにし、例えばスリップ等によって前輪7FL,7FRや後輪7RL,7RRが回転した場合にフロントモータ2の駆動とリヤモータ3の駆動とを中止するようにした方が好ましい。
【0047】
また、この充電モードでは、フロントモータ2による前輪7FL,7FRの駆動力TF1とリヤモータ3による後輪7RL,7RRの駆動力TR1とが、上記停車時と同じ大きさである方が、充電を終了して停車モードに移行する際に、電力供給元を充電器200からバッテリユニット20に移行するだけの簡単な制御にすることができる。しかしながら、これに限らず、この充電モードでは、例えば急速充電のように充電器200からバッテリユニット20の出力性能よりも大きな電力を受け入れることができるため、停車モードよりも前輪7FL,7FRと後輪7RL,7RRとに生じさせる駆動力を大きくしてもよく、この場合の方が暖機期間を短縮化することができる。
【0048】
また、この充電モードでは、上記停車モードと同様に、フロントモータ2とリヤモータ3とを力行制御するため、つまりフロントモータ2の回生による電力が生じないので、コンプレッサ30を駆動していないが、充電器200の電力を用いてコンプレッサ30を駆動し、室内の暖房を行うようにしても構わない。
【0049】
以上説明したように、充電モードにおける創熱制御にあっても、フロントモータ2による前輪7FL,7FRの駆動力TF1とリヤモータ3による後輪7RL,7RRの駆動力TR1とを、車両100の進行方向に対して打ち消し合うように出力することで、フロントモータ2及びリヤモータ3に、例えば単相のコイルに電流を流す場合よりも大きな電流を流すことを可能にするので、暖機時における発熱量を大きくすることができ、暖機時間の短縮化を図ることができる。
【0050】
(後進走行中の創熱制御)
最後に、車両100が後進走行中に加速或いは定常走行している状態(後進モード)における創熱制御の動作について
図6を用いて説明する。
図6は第1実施形態に係る車両の後進走行中の加速時における状態を示す模式図である。なお、
図6に示す後進モードでは、ブレーキペダル53が踏圧されずにブレーキ9がOFF(解放)されている状態であって(BRK OFF)、特に不図示のその他のブレーキ(所謂パーキングブレーキやサイドブレーキ)もOFF(解放)されている状態であって、車両100の左右の前輪7FL,7FR及び左右の後輪7RL,7RRが回転可能にされている状態である。
【0051】
この後進走行中の加速時及び定常走行時の創熱制御においては、上述した前進走行中の加速時及び定常走行時の創熱制御(
図3参照)に比して、フロントモータ2とリヤモータ3との役割(関係)を反対にしたものである。
【0052】
即ち、制御部10は、上記車両の状態制御で後進モードを判定し、かつ創熱制御のON/OFF制御で創熱制御のONを判定している状態で、アクセルペダル52のアクセル開度等に基づき要求駆動力Trqがあることを判定すると、
図6に示すように、フロントモータ2によって左右の前輪7FL,7FRに、第1打消し駆動力Tcan1に要求駆動力Trqを加えた後進方向の駆動力TF4が生じるようにバッテリユニット20の電力を用いてフロントモータ2を制御し、かつフロントモータ2の力行制御に同期させつつリヤモータ3によって左右の後輪7RL,7RRに、第2打消し駆動力Tcan2としての前進方向の駆動力TR4が生じるようにリヤモータ3を回生制御する。
【0053】
これ以外の動作は、フロントモータ2とリヤモータ3との動作を反対にするだけで、上記前進モードの加速時及び定常走行時の創熱制御(
図3参照)と同様である。また、後進走行中の減速時については、図示を省略したが、これもフロントモータ2とリヤモータ3との動作を反対にするだけで、上記前進モードの加速時及び定常走行時の創熱制御(
図4参照)と同様である。
【0054】
このように、後進走行中(走行モード)における創熱制御にあって、フロントモータ2による前輪7FL,7FRの駆動力TF4とリヤモータ3による後輪7RL,7RRの駆動力TR4とを、車両100の進行方向に対して打ち消し合うように出力することで、フロントモータ2及びリヤモータ3に、例えば単相のコイルに電流を流す場合よりも大きな電流を流すことを可能にするので、暖機時における発熱量を大きくすることができ、暖機時間の短縮化を図ることができる。また、この後進走行中(走行モード)における創熱制御にあって、リヤモータ3により回生を行うことで、車両の電費向上を図ることができる。
【0055】
<第2実施形態>
ついで、上記第1実施形態を一部変更した第2実施形態について、
図9及び
図10を用いて説明する。
図9は第2実施形態に係る創熱制御の実行時における走行例を示すタイムチャートである。
図10は比較例に係る創熱制御の実行時における走行例を示すタイムチャートである。なお、本第2実施形態の説明においては、上記第1実施形態と同様な部分に同符号を用いて、その説明を省略する。
【0056】
なお、上述した第1実施形態に係る車両用駆動装置1では、前進走行中の加速時及び定常走行時の創熱制御において(
図3参照)、リヤモータ3から第2打消し駆動力Tcan2に要求駆動力Trqを加えて出力するものを説明し、つまり後輪駆動タイプの車両として駆動制御されるものと説明した。一方、本第2実施形態に係る車両用駆動装置1では、以下に説明する要求駆動力が制限範囲の範囲内となる場合を除き、フロントモータ2から力行制御によって第1打消し駆動力Tcan1に要求駆動力Trqを加えて出力し、リヤモータ3から回生制御によって第2打消し駆動力Tcan2を発生させ、つまり前輪駆動タイプの車両として駆動制御されるものを説明する。なお、この場合、前輪7FL,7FRの駆動力TF2は車両100の前方に向けて出力され、後輪7RL,7RRの駆動力TR2は車両100の後方に向けて出力されることになる。
【0057】
また、本第2実施形態に係る車両用駆動装置1でも、以下に説明する要求駆動力が制限範囲の範囲内となる場合を除き、上記第1実施形態と同様に、前進走行中の減速時の創熱制御においては(
図4参照)、フロントモータ2から回生制御によって第1打消し駆動力Tcan1を発生させ、リヤモータ3から力行制御によって第2打消し駆動力Tcan2を発生させるものである。
【0058】
(比較例における走行例)
ここで、
図10を用いて比較例における走行例を説明すると共に、比較例における問題を説明する。
図10に示すように、例えば前進レンジが選択された車両100の前進走行中にあって、創熱制御の非作動状態では、アクセルペダル52の踏量(アクセル開度)に基づく要求駆動力Trqに応じて、ECU10が前輪の駆動力TFと後輪の駆動力TRとの合計が要求駆動力Trqとなるように算出し、フロントモータ2から駆動力TFが出力されるように力行制御すると共にリヤモータ3から駆動力TRが出力されるように力行制御する。これにより、前輪7FL,7FRから算出された駆動力TFに応じて前輪実駆動力TFrが出力されると共に、後輪7RL,7RRから算出された駆動力TRに応じて後輪実駆動力TRrが出力される。つまり、この創熱制御の非作動状態における前進走行の加速時には、車両100が四輪駆動で加速される状態となっている。
【0059】
例えば時点t31において、ECU10が創熱制御の開始を判定すると(
図7のS4参照)、走行中の加速時の創熱制御を開始する。すると、ECU10は、要求駆動力Trq(つまり加速方向の要求駆動力)に応じて、ECU10が前輪の駆動力TFと後輪の駆動力TRとの合計が要求駆動力Trqとなるように算出する。即ち、ECU10は、上述したように前進走行中の加速時の創熱制御においては、フロントモータ2を力行制御することにより前輪7FL,7FRから第1打消し駆動力Tcan1及び要求駆動力Trqを発生させつつ、リヤモータ3を回生制御することにより後輪7RL,7RRから第2打消し駆動力Tcan2を発生させるように設定する。この際の第1打消し駆動力Tcan1及び要求駆動力Trqの合計(つまり前輪の駆動力TF)はフロントモータ2の性能限界(或いはバッテリユニット20の充電残量等できまる限界)である力行限界駆動力TlimPに設定され、かつ第2打消し駆動力Tcan2は、第1打消し駆動力Tcan1と同じ大きさとなるように設定される。これにより、時点t31から時点t32までに、前輪実駆動力TFrは加速方向の駆動力で力行限界駆動力TlimPとなり、後輪実駆動力TRrは減速方向の駆動力である第2打消し駆動力Tcan2となる。
【0060】
その後、例えば時点t32から時点t33までに運転者がアクセルペダル52の踏量を小さくしていき、時点t33にブレーキペダル53を踏圧してブレーキ9をONすると、走行中の加速時の創熱制御から走行中の減速時の創熱制御に移行する。すると、ECU10は、時点t33から時点t37までの間は、要求減速力Tdec(つまり減速方向の要求駆動力)に応じて、ECU10が前輪の駆動力TFと後輪の駆動力TRとの合計が要求減速力Tdecとなるように算出する。即ち、ECU10は、上述したように前進走行中の減速時の創熱制御においては、フロントモータ2を回生制御することにより前輪7FL,7FRから第1打消し駆動力Tcan1及び要求減速力Tdecを発生させつつ、リヤモータ3を力行制御することにより後輪7RL,7RRから第1打消し駆動力Tcan1と同じ大きさの第2打消し駆動力Tcan2を発生させるように設定する。この際の第1打消し駆動力Tcan1及び要求減速力Tdecの合計(つまり前輪の駆動力TF)はフロントモータ2の性能限界(或いはバッテリユニット20の充電残量等できまる限界)である回生限界駆動力TlimRに設定される。また、フロントモータ2が発生できる駆動力TFは、回生限界駆動力TlimR以上とはならないので、時点t34から時点t36までのように要求減速力Tdecが大きくなると、その分、第1打消し駆動力Tcan1が小さくなり、第2打消し駆動力Tcan2を出力する後輪の駆動力TRも、その分、小さくなる。これにより、時点t33から時点t35までに、前輪実駆動力TFrは減速方向の駆動力である回生限界駆動力TlimRとなり、後輪実駆動力TRrは加速方向の駆動力である第2打消し駆動力Tcan2となる。
【0061】
続いて、例えば時点t36から運転者がブレーキペダル53の踏量を小さくしていき、時点t37にブレーキ9をOFFし、アクセルペダル52を踏圧すると、要求駆動力Trqが大きくなって、走行中の減速時の創熱制御から走行中の加速時の創熱制御に移行する。すると、時点T31から時点t33までと同様に、フロントモータ2を力行制御することにより前輪7FL,7FRから第1打消し駆動力Tcan1及び要求駆動力Trqを発生させつつ、リヤモータ3を回生制御することにより後輪7RL,7RRから第2打消し駆動力Tcan2を発生させるように設定する。さらに、その後、例えば時点t38から運転者がアクセルペダル52の踏量を小さくしていき、時点t39にブレーキペダル53を踏圧してブレーキ9をONすると、走行中の加速時の創熱制御から走行中の減速時の創熱制御に移行する。これにより、時点t37から時点t39までは、前輪実駆動力TFrが加速方向の駆動力である力行限界駆動力TlimPに向かっていくと共に、後輪実駆動力TRrが減速方向の駆動力である第2打消し駆動力Tcan2に向かっていき、さらに、時点t39に、反転して、前輪実駆動力TFrが減速方向の駆動力である回生限界駆動力TlimRに向かっていくと共に、後輪実駆動力TRrが加速方向の駆動力である第2打消し駆動力Tcan2に向かっていくことになる。
【0062】
なお、その後、時点t39から時点t41に向けて運転者がブレーキペダル53の踏量を大きくしていき、つまり要求減速力Tdecが大きくしていくと、時点t40に、前輪実駆動力TFrが減速方向の駆動力である回生限界駆動力TlimRとなり、かつ後輪実駆動力TRrが加速方向の駆動力である第2打消し駆動力Tcan2となる。また、フロントモータ2が発生できる駆動力TFは、回生限界駆動力TlimR以上とはならないので、時点t39から時点t41までのように要求減速力Tdecが大きくなると、その分、第1打消し駆動力Tcan1が小さくなり、第2打消し駆動力Tcan2を出力する後輪の駆動力TRも、その分、小さくなる。
【0063】
以上説明したように、比較例の走行例では、ECU10は、要求駆動力Trqが正の値であって加速方向の要求駆動力であると、走行中の加速時の創熱制御を実行し、要求駆動力Trqが負の値であって減速方向の要求駆動力であると(要求減速力Tdecが生じると)、走行中の減速時の創熱制御を実行する。つまり、要求駆動力Trqが加速方向と減速方向とで切換ると、互いに打ち消し合うように発生させる第1打消し駆動力Tcan1及び第2打消し駆動力Tcan2の方向も切換ることになり、車両の挙動に影響を与える虞がある。
【0064】
(第2実施形態における走行例)
ついで、本第2実施形態における走行例について
図9を用いて説明する。
図9は第2実施形態に係る創熱制御の実行時における走行例を示すタイムチャートである。
【0065】
本第2実施形態では、車両100の加速方向に対して要求駆動力Trqが切換え制限範囲SWlimの範囲(例えば20Nm~-20Nmの範囲)よりも大きい場合には、上述したようにフロントモータ2を力行制御すると共にリヤモータ3を回生制御しつつ第1打消し駆動力Tcan1及び第2打消し駆動力Tcan2を発生させる。また、車両100の減速方向に対して要求駆動力Trq(つまり要求減速力Tdec)が切換え制限範囲SWlimの範囲よりも大きい場合には、上述したようにフロントモータ2を回生制御すると共にリヤモータ3を力行制御しつつ第1打消し駆動力Tcan1及び第2打消し駆動力Tcan2を発生させる。そして、要求駆動力Trqが切換え制限範囲SWlimの範囲内となった場合は、直前に実行していた創熱制御におけるフロントモータ2及びリヤモータ3の回生制御又は力行制御を切換えずにそのまま継続させるものである。
【0066】
なお、切換え制限範囲SWlimの範囲は、フロントモータ2と前輪7FL,7FRとの間における減速比及びリヤモータ3と後輪7RL,7RRとの間における減速比や、フロントモータ2及びリヤモータ3のトルク応答性やトルク精度等に応じて生じるハンチングの頻度に応じて決定することが好ましい。
【0067】
また、要求駆動力Trqが切換え制限範囲SWlimの範囲内になった場合には、フロントモータ2の駆動力(つまり前輪の駆動力TF)及びリヤモータ3の駆動力(つまり後輪の駆動力TR)の大きさを駆動力制限範囲TlimSWの範囲内となるように制限するものである。
【0068】
詳細には、
図9に示すように、例えば前進レンジが選択された車両100の前進走行中にあって、創熱制御の非作動状態では、アクセルペダル52の踏量(アクセル開度)に基づく要求駆動力Trqに応じて、ECU10が前輪の駆動力TFと後輪の駆動力TRとの合計が要求駆動力Trqとなるように算出し、フロントモータ2から駆動力TFが出力されるように力行制御すると共にリヤモータ3から駆動力TRが出力されるように力行制御する。これにより、前輪7FL,7FRから算出された駆動力TFに応じて前輪実駆動力TFrが出力されると共に、後輪7RL,7RRから算出された駆動力TRに応じて後輪実駆動力TRrが出力される。つまり、この創熱制御の非作動状態における前進走行の加速時には、車両100が四輪駆動で加速される状態となっている。
【0069】
例えば時点t11において、ECU10が創熱制御の開始を判定すると(
図7のS4参照)、走行中の加速時の創熱制御を開始する。すると、ECU10は、要求駆動力Trq(つまり加速方向の要求駆動力)に応じて、ECU10が前輪の駆動力TFと後輪の駆動力TRとの合計が要求駆動力Trqとなるように算出する。即ち、ECU10は、上述したように前進走行中の加速時の創熱制御においては、フロントモータ2を力行制御することにより前輪7FL,7FRから第1打消し駆動力Tcan1及び要求駆動力Trqを発生させつつ、リヤモータ3を回生制御することにより後輪7RL,7RRから第2打消し駆動力Tcan2を発生させるように設定する。この際の第1打消し駆動力Tcan1及び要求駆動力Trqの合計(つまり前輪の駆動力TF)はフロントモータ2の性能限界(或いはバッテリユニット20の充電残量等できまる限界)である力行限界駆動力TlimPに設定され、かつ第2打消し駆動力Tcan2は、第1打消し駆動力Tcan1と同じ大きさとなるように設定される。これにより、時点t11から時点t12までに、前輪実駆動力TFrは加速方向の駆動力で力行限界駆動力TlimPとなり、後輪実駆動力TRrは減速方向の駆動力である第2打消し駆動力Tcan2となる。
【0070】
その後、例えば時点t12から時点t13までに運転者がアクセルペダル52の踏量を小さくしていき、時点t13に要求駆動力Trqが切換え制限範囲SWlimの範囲内となると、ECU10は、前輪の駆動力TF及び後輪の駆動力TRの大きさを駆動力制限範囲TlimSWの範囲内となるように制限する。これにより、フロントモータ2は力行制御されつつ、前輪7FL,7FRから出力される第1打消し駆動力Tcan1及び要求駆動力Trqの合計の駆動力は、駆動力制限範囲TlimSWの範囲内に制限されて、つまり第1打消し駆動力Tcan1は大幅に小さく制限される。また、第1打消し駆動力Tcan1が小さく制限されるため、第1打消し駆動力Tcan1と同じ大きさに設定される第2打消し駆動力Tcan2も駆動力制限範囲TlimSWの範囲内に収まることになる。これにより、時点t13から時点t14までに、前輪実駆動力TFrは加速方向の駆動力で駆動力制限範囲TlimSWの限界の駆動力となり、後輪実駆動力TRrは減速方向の駆動力である第2打消し駆動力Tcan2となる。
【0071】
続いて、例えば時点t14に運転者がブレーキペダル53を踏圧してブレーキ9をONすると、要求駆動力Trqは負の値となり、つまり要求減速力Tdecが生じて車両100は減速時の状態となるが、ECU10は、要求駆動力Trqが切換え制限範囲SWlimの範囲内であるため、要求駆動力Trqが切換え制限範囲SWlimの範囲内となる直前に実行していた状態のまま、つまり加速時の創熱制御のままとして、フロントモータ2の力行制御とリヤモータ3の回生制御とを継続する。そのため、ECU10は、前輪7FL,7FRから第1打消し駆動力Tcan1が出力され、後輪7RL,7RRから第2打消し駆動力Tcan2及び要求減速力Tdecが発生されるように制御する。また、この状態では、後輪7RL,7RRから出力される第2打消し駆動力Tcan2及び要求減速力Tdecの合計の駆動力は、駆動力制限範囲TlimSWの範囲内に制限されて、つまり第2打消し駆動力Tcan2は大幅に小さく制限される。また、第2打消し駆動力Tcan2が小さく制限されるため、第2打消し駆動力Tcan2と同じ大きさに設定される第1打消し駆動力Tcan1も駆動力制限範囲TlimSWの範囲内に収まることになる。
【0072】
また、例えば時点t17から運転者がブレーキペダル53の踏量を小さくしていき、時点t18にブレーキ9をOFFし、アクセルペダル52を踏圧すると、要求駆動力Trqが大きくなっていくと、時点t18からt19まで要求駆動力Trqが大きくなって要求駆動力Trqは時点t20まで正の値となり、つまり車両100は加速時の状態となるが、ECU10は、加速時の創熱制御を継続しているため、引き続き、フロントモータ2の力行制御とリヤモータ3の回生制御とを継続する。さらに、その後、例えば時点t20で再び運転者がブレーキペダル53を踏圧してブレーキ9をONすると、要求駆動力Trqは負の値となり、つまり要求減速力Tdecが生じて車両100は減速時の状態となるが、ECU10は、要求駆動力Trqが切換え制限範囲SWlimの範囲内のままであるので、要求駆動力Trqが切換え制限範囲SWlimの範囲内となる直前に実行していた状態のまま、つまり加速時の創熱制御のままとして、フロントモータ2の力行制御とリヤモータ3の回生制御とを継続する。
【0073】
そして、例えば運転者がブレーキペダル53の踏量を大きくしていき、時点t21に要求減速力Tdec(減速方向の要求駆動力Trq)が切換え制限範囲SWlimの範囲よりも大きくなると、ECU10は、走行中の加速時の創熱制御と同様の状態から上述した走行中の減速時の創熱制御に移行する。つまり、フロントモータ2を力行制御すると共にリヤモータ3を回生制御する状態から、フロントモータ2を回生制御すると共にリヤモータ3を力行制御する状態に切換える。すると、ECU10は、時点t21以降、要求減速力Tdec(つまり減速方向の要求駆動力)に応じて、ECU10が前輪の駆動力TFと後輪の駆動力TRとの合計が要求減速力Tdecとなるように算出する。即ち、ECU10は、上述したように前進走行中の減速時の創熱制御においては、フロントモータ2を回生制御することにより前輪7FL,7FRから第1打消し駆動力Tcan1及び要求減速力Tdecを発生させつつ、リヤモータ3を力行制御することにより後輪7RL,7RRから第1打消し駆動力Tcan1と同じ大きさの第2打消し駆動力Tcan2を発生させるように設定する。この際の第1打消し駆動力Tcan1及び要求減速力Tdecの合計(つまり前輪の駆動力TF)はフロントモータ2の性能限界(或いはバッテリユニット20の充電残量等できまる限界)である回生限界駆動力TlimRに設定される。また、フロントモータ2が発生できる駆動力TFは、回生限界駆動力TlimR以上とはならないので、時点t21から時点t22までのように要求減速力Tdecが大きくなると、その分、第1打消し駆動力Tcan1が小さくなり、第2打消し駆動力Tcan2を出力する後輪の駆動力TRも、その分、小さくなる。これにより、時点t21から時点t22までに、前輪実駆動力TFrは減速方向の駆動力である回生限界駆動力TlimRとなり、後輪実駆動力TRrは加速方向の駆動力である第2打消し駆動力Tcan2となる。
【0074】
なお、その後、フロントモータ2を回生制御すると共にリヤモータ3を力行制御する状態で、要求駆動力Trqが切換え制限範囲SWlimの範囲よりも大きくなると、走行中の減速時の創熱制御と同様の状態から上述した走行中の加速時の創熱制御に移行する。つまり、フロントモータ2を回生制御すると共にリヤモータ3を力行制御する状態から、フロントモータ2を力行制御すると共にリヤモータ3を回生制御する状態に切換える。この状態は、時点t11から時点t21までの状態と同様であるので、その説明は省略する。
【0075】
以上説明したように、本第2実施形態においては、要求駆動力Trqが切換え制限範囲SWlimの範囲内となった場合は、直前に実行していた創熱制御におけるフロントモータ2及びリヤモータ3の回生制御又は力行制御を切換えずにそのまま継続させる。これにより、前輪7FL,7FRと後輪7RL,7RRとで駆動力を出力する方向が頻繁に切換ることを低減することができ、創熱制御の実行時の走行中にあって車両の挙動に影響を与えることの防止を図ることができる。
【0076】
また、本第2実施形態においては、要求駆動力Trqが切換え制限範囲SWlimの範囲内になった場合には、フロントモータ2の駆動力(つまり前輪の駆動力TF)及びリヤモータ3の駆動力(つまり後輪の駆動力TR)の大きさを駆動力制限範囲TlimSWの範囲内となるように制限する。これにより、要求駆動力Trqが切換え制限範囲SWlimの範囲内から範囲外となった場合には、前輪7FL,7FRと後輪7RL,7RRとで駆動力を出力する方向が切換る場合が生じるが、その場合にも駆動力が駆動力制限範囲TlimSWの範囲内に制限されていることで、大きな駆動力の切換りを防止することができ、これによっても創熱制御の実行時の走行中にあって車両の挙動に影響を与えることの防止を図ることができる。
【0077】
なお、本第2実施形態においては、切換え制限範囲SWlimの大きさを一定に設定しているものを説明した。しかしながら、要求駆動力Trq(要求減速力Tdec)が切換え制限範囲SWlimの範囲内と範囲外との間でハンチングする虞もある。そこで、ECU10が、要求駆動力Trqが切換え制限範囲SWlimより大きい場合に切換え制限範囲SWlimを第1範囲(例えば10Nm~-10Nmの範囲)に設定し、要求駆動力Trqが切換え制限範囲SWlimの範囲内ある場合に切換え制限範囲SWlimを第1範囲よりも大きい第2範囲(例えば20Nm~-20Nmの範囲)に設定するように構成してもよい。要するに、要求駆動力Trqが切換え制限範囲SWlimの範囲外から範囲内に入ることが判定される閾値と、範囲内から範囲外に出ることが判定される閾値と、に差分を持たせることで、切換え制限範囲SWlimの範囲内と範囲外との判定においてもハンチングが生じることの防止を図ることができる。
【0078】
<他の実施形態の可能性>
なお、以上説明した第1及び第2実施形態の説明においては、フロントモータ2を第1回転電機、リヤモータ3を第2回転電機、として説明したが、その反対でもよく、つまり第1回転電機は車両100の前輪7FL,7FR及び後輪7RL,7RRの一方に駆動連結され、第2回転電機は車両100の前輪7FL,7FR及び後輪7RL,7RRの他方に駆動連結されていればよい。具体的には、フロントモータ2とリヤモータ3との役割として、詳しくは後述する車両の進行方向に対する駆動力の出力方向が逆であったり、力行と回生とが逆であったりしても構わない。
【0079】
また、第1及び第2実施形態においては、車両100の状態として、停車中、前進走行中、充電中、後進走行中、等の状態の全てで創熱制御を実行するものとして説明した。しかしながら、これらの状態のうちの一部で創熱制御を実行するものであれば、他の状態で創熱制御を実行しないものでも構わない。特に後進走行中においても創熱制御を行うものとして説明したが、後進走行は他の走行状態に比して時間的に使用頻度が少ないため、後進モードの創熱制御は行わないようにしたものでも構わない。
【0080】
また、第1及び第2実施形態においては、フロントモータ2とリヤモータ3との大きさや性能について特に限定するものではないが、特に駆動力の打ち消し合いが可能な範囲であれば、これらのモータの大きさや性能が異なるものでも構わない。
【0081】
また、第1及び第2実施形態において説明した車両100には、冷却水やバッテリユニット20を直接的に暖めるヒータ(高電圧ヒータ等)を備えていないものとして説明したが、これに限らず、このようなヒータを搭載することを除外するものではない。このようなヒータを搭載した場合には、特に前進走行中の創熱制御においてフロントモータ2で回生した電力、或いは後進走行中の創熱制御においてリヤモータ3で回生した電力を、当該ヒータに供給することで電費向上を図ることが考えられる。
【0082】
また、第1及び第2実施形態においては、前輪7FL,7FRをフロントモータ2により駆動し、後輪7RL,7RRをリヤモータ3により駆動する、所謂四輪駆動の電気自動車である車両100を一例に説明したが、これに限らず、例えば前輪と後輪との一方又は両方がエンジンとモータ(回転電機)を駆動源とするハイブリッド駆動装置で構成されたものであっても、そのハイブリッド駆動装置のモータを第1回転電機又は第2回転電機として用いて第1打消し駆動力又は第2打消し駆動力を出力するように構成することができる。
【0083】
また、第2実施形態においては、要求駆動力Trq(要求減速力Tdec)が切換え制限範囲SWlimの範囲内になった場合に、前輪の駆動力TF及び後輪の駆動力TRを駆動力制限範囲TlimSWの範囲内に制限するものを説明したが、これに限らず、前輪の駆動力TF及び後輪の駆動力TRを特に制限せず、力行限界駆動力TlimP或いは回生限界駆動力TlimRまで出力するものであっても構わない。
【符号の説明】
【0084】
1…車両用駆動装置/2…フロントモータ(第1回転電機)/3…リヤモータ(第2回転電機)/7FL,7FR…前輪/7RL,7RR…後輪/10…制御部/100…車両/SWlim…切換え制限範囲/Tcan1…第1打消し駆動力/Tcan2…第2打消し駆動力/Trq…要求駆動力/TlimSW…駆動力制限範囲