(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178094
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】複合材料、ボロメータ、及び複合材料形成方法
(51)【国際特許分類】
H10N 15/00 20230101AFI20241217BHJP
【FI】
H10N15/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024028280
(22)【出願日】2024-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2023096015
(32)【優先日】2023-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、防衛装備庁 安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100181135
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 隆史
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 明信
(57)【要約】
【課題】カーボンナノチューブのネットワークを形成しやすい、複合材料、ボロメータ、及び複合材料形成方法を提供する。
【解決手段】複合材料は、少なくとも粒子径0.4μm以上の酸化物粒子を含む膜と、酸化物粒子の表面にネットワークを形成したカーボンナノチューブと、を含む。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも粒子径0.4μm以上の酸化物粒子を含む膜と、
前記酸化物粒子の表面にネットワークを形成したカーボンナノチューブと、
を含む
複合材料。
【請求項2】
前記酸化物粒子は、少なくともピロリン酸塩を含む
請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記ピロリン酸塩の組成が、Zn2-xMgxP2O7(0≦x≦2)である
請求項2に記載の複合材料。
【請求項4】
負の値を示す抵抗温度係数を有する
請求項1から3のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の複合材料と、
上方に前記複合材料が配置された基板と、
前記カーボンナノチューブに電気的に接続される電極と、
を備える
ボロメータ。
【請求項6】
シランカップリング剤を含む溶解液を作成するステップと、
前記溶解液に、酸化物粒子からなる粉体を加え、第一懸濁液を作成するステップと、
カーボンナノチューブを含む第二懸濁液を作成するステップと、
前記カーボンナノチューブと前記粉体とを含む第三懸濁液を作成するステップと、
前記第三懸濁液を滴下し、少なくとも粒子径0.4μm以上の酸化物粒子を含む膜を形成するステップと、
を含む
複合材料形成方法。
【請求項7】
前記第二懸濁液において、カーボンナノチューブ濃度は、0.0019wt%から0.0039wt%であり、
前記第三懸濁液において、前記酸化物粒子の濃度は、0.02vol%から0.25vol%である
請求項6に記載の複合材料形成方法。
【請求項8】
少なくとも粒子径0.4μm以上の酸化物粒子を含む懸濁液を滴下し、乾燥することにより、前記酸化物粒子を含む多孔質膜を形成するステップと、
前記多孔質膜に、カーボンナノチューブを含む懸濁液を含浸させるステップと、
を含む
複合材料形成方法。
【請求項9】
前記含浸させるステップにおいて、前記多孔質膜に対し、カーボンナノチューブを含む懸濁液を滴下することにより、含浸させる
請求項8に記載の複合材料形成方法。
【請求項10】
前記含浸させるステップにおいて、前記多孔質膜を、カーボンナノチューブを含む懸濁液に浸漬させることにより、含浸させ、
浸漬させた前記多孔質膜を、引き上げる
請求項8に記載の複合材料形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合材料、ボロメータ、及び複合材料形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボロメータをはじめとする赤外線センサに、カーボンナノチューブを使用することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、半導体型カーボンナノチューブと負熱膨張材とが混合された薄膜をボロメータ材料に適用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたボロメータ材料は、半導体型カーボンナノチューブと負熱膨張材とを混合した薄膜を形成する際に、カーボンナノチューブのネットワークを形成しにくいことがある。
【0006】
本開示の目的は、上述した課題を解決する複合材料、ボロメータ、及び複合材料形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る複合材料は、少なくとも粒子径0.4μm以上の酸化物粒子を含む膜と、前記酸化物粒子の表面にネットワークを形成したカーボンナノチューブと、を含む。
【0008】
本開示の一態様に係る複合材料形成方法は、シランカップリング剤を含む溶解液を作成するステップと、前記溶解液に、酸化物粒子からなる粉体を加え、第一懸濁液を作成するステップと、カーボンナノチューブを含む第二懸濁液を作成するステップと、前記カーボンナノチューブと前記粉体とを含む第三懸濁液を作成するステップと、前記第三懸濁液を滴下し、少なくとも粒子径0.4μm以上の酸化物粒子を含む膜を形成するステップと、を含む。
【0009】
本開示の一態様に係る複合材料形成方法は、少なくとも粒子径0.4μm以上の酸化物粒子を含む懸濁液を滴下し、乾燥することにより、前記酸化物粒子を含む多孔質膜を形成するステップと、前記多孔質膜に、カーボンナノチューブを含む懸濁液を含浸させるステップと、を含む。
【発明の効果】
【0010】
上記一態様によれば、カーボンナノチューブのネットワークを形成しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第一実施形態における複合材料の側面図である。
【
図2】第一実施形態における複合材料形成方法のフローチャートである。
【
図3】第一実施形態における複合材料形成方法の形成手順を示す
図Iである。
【
図4】第一実施形態における複合材料形成方法の形成手順を示す
図IIである。
【
図5】第二実施形態におけるボロメータの側面図である。
【
図6】第三実施形態における複合材料の最小構成の側面図である。
【
図7】第四実施形態における複合材料形成方法の最小構成のフローチャートである。
【
図8】第五実施形態における複合材料形成方法のフローチャートである。
【
図9】第五実施形態における多孔質膜の側面
図Iである。
【
図11】第五実施形態における複合材料の側面図である。
【
図12】第六実施形態における複合材料形成方法の最小構成のフローチャートである。
【
図13】実施例における試験用素子の平面図である。
【
図14】実施例における試験用素子の断面図である。
【
図15】実施例における試験用素子の周辺温度が293K時点でのI-V測定結果を示すグラフである。
【
図16】実施例における試験用素子の周辺温度が313K時点でのI-V測定結果を示すグラフである。
【
図17】実施例における試験用素子の平均抵抗値と抵抗温度係数の関係を示すグラグである。
【
図18】実施例における試験用素子の付着状況を示すSEM画像である。
【
図19】実施例における試験用素子の付着状況を示すSEM画像である。
【
図20】実施例における試験用素子の付着状況を示すSEM画像である。
【
図21】実施例における試験用素子の付着状況を示すSEM画像である。
【
図22】実施例における試験用素子の付着状況を示すSEM画像である。
【
図23】実施例における試験用素子の側面図である。
【
図24】実施例2における試験用素子の付着状況を示すSEM画像である。
【
図25】実施例2における試験用素子の抵抗値と抵抗温度係数の関係を示すグラグである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示に係る各実施形態について、図面を用いて説明する。なお、各実施の形態において用いられた図面および具体的な構成を、開示の解釈に用いてはならない。すべての図面において同一または相当する構成には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【0013】
<第一実施形態>
以下、本開示に係る第一実施形態について、
図1~
図4を用いて説明する。
【0014】
(複合材料の構成)
図1、
図2に示すように、複合材料1は、膜10と、カーボンナノチューブ20と、を備える。
例えば、複合材料1は、負の値を示す抵抗温度係数を有する。
例えば、複合材料1は、絶対値が2.5%/K以上である抵抗温度係数を有し、複合材料1における抵抗温度係数は、周辺温度を20℃から25℃に変化させた時の値である。
例えば、複合材料1は、周辺温度が20℃において、30MΩ以下のシート抵抗を有する。
複合材料1の厚みは、適宜設定できる。例えば、複合材料1の厚みは、2μm~6μmである。
膜10は、酸化物粒子101を含む。
例えば、酸化物粒子101は、粒子状の形態を有してもよい。
また、酸化物粒子101の粒子径は、カーボンナノチューブ20の長さと同程度としてもよい。
酸化物粒子101の粒子径が大きいほど、長さが長いカーボンナノチューブ20にとって3次元構造を形成しやすい。
酸化物粒子101の粒子径が小さいほど、長さが短いカーボンナノチューブ20にとって3次元構造を形成しやすい。
例えば、酸化物粒子101は、後述する顕微鏡画像にて、少なくとも粒子径0.4μm以上の粒子径をもつ。例えば、酸化物粒子101は、0.4μm以上1.5μm以下でもよい。例えば、酸化物粒子101は、0.5μm以上1.5μm以下でもよい。例えば、酸化物粒子101は、0.6μm以上1.5μm以下でもよい。例えば、酸化物粒子101は、0.7μm以上1.5μm以下でもよい。例えば、酸化物粒子101は、1.2μm以上1.5μm以下でもよい。
酸化物粒子101は、上記範囲内の粒子径を含むことにより、後述するカーボンナノチューブ20のネットワーク構造が三次元的な網目構造をより形成しやすくなる。加えて、これにより、カーボンナノチューブ20の導電パスが増加し、複合材料1は低い抵抗値を得やすい。
例えば、膜10は、基板2の上部に積層されてもよい。
例えば、酸化物粒子101は、Li、Al、Fe、Ni、Co、Mn、Bi、La、Cu、Sn、Zn、V、Zr、Pb、Sm、Y、W、Si、P、Ru、Ti、Ge、Ca、Ga、Cr、Cd、Mg、Erのいずれか1種又は2種以上の元素を含んだ酸化物が挙げられるがこれに限定されない。例えば、酸化物粒子101は、2種以上の酸化物を含んでもよい。
例えば、酸化物粒子101は、Zn
2-xTxP
2O
7(Tは、Mg、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Sb、La、Ta、W、Biから選ばれる少なくとも1種の元素を含み、0<x<2を満たす。上記化学式で定義される酸化物は、ピロリン酸塩である。
例えば、酸化物粒子101は、Zn
2-zMg
zP
2O
7(0≦z≦2)(以下、ZMPOと記す)を含む。ZMPOはピロリン酸塩に含まれる。
例えば、酸化物粒子101は、Zn
2-zMg
zP
2O
7(z=0.4)を含む。
例えば、酸化物粒子101は、絶縁性を示す。ZMPOを含む酸化物粒子101は絶縁材料である。
例えば、膜10は、シランカップリング剤を含んでいてもよい。作業者は、シランカップリング剤を酸化物粒子101に修飾することで、酸化物粒子101へのカーボンナノチューブ20の付着性が向上する。
例えば、シランカップリング剤は、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)である。
例えば、カーボンナノチューブ20は単層、二層、多層カーボンナノチューブである。 例えば、カーボンナノチューブ20は、半導体型カーボンナノチューブである。
例えば、カーボンナノチューブ20は、直径0.7nm~1.5nmである。
例えば、カーボンナノチューブ20は、長さ100nm~1.5μmである。
本実施形態に係る複合材料1は、酸化物粒子101が集合して形成される膜10の中に、複数のカーボンナノチューブ20が酸化物粒子101の表面にネットワークを形成するように分散している。膜10は、複数のカーボンナノチューブが絡み合って形成されたネットワーク構造を構成する。このネットワークは、三次元的な網目構造を備えている。
【0015】
(複合材料形成方法)
本実施形態における複合材料の複合材料形成方法について説明する。
本実施形態における複合材料の複合材料形成方法は、
図2に示すフローに従って実施される。各フローにおける補足図を
図3、
図4に併せて示す。
【0016】
まず、作業者は、シランカップリング剤を含む溶解液を作成する(ST1)。
例えば、作業者は、エタノール溶液中に、シランカップリング剤を溶解させた溶解液Xを作製する。
例えば、シランカップリング剤は、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)である。
例えば、溶解液Xは、0.5wt%の濃度でAPTESを含んでいる。
【0017】
次に、作業者は、シランカップリング剤を含む溶解液に酸化物粒子101からなる粉体を加え、第一懸濁液を作製する(ST2)。
例えば、粉体には、少なくとも粒子径0.4μm以上の酸化物粒子101が含まれる。
第一懸濁液4に含まれる酸化物粒子101の粒子径は、レーザ光散乱で測定された体積粒径分布のD50(累積頻度50%の粒径)における平均粒子径である。
したがって、原料粉末の粒子が凝集している場合は、粒子一粒の粒子径である一次粒子径ではなく、凝集している粒子のサイズを反映している。
例えば、作業者は、シランカップリング剤を含む溶解液にZMPOからなる酸化物粒子101からなる粉体を加える。例えば、作業者は、シランカップリング剤を含む溶解液50mLにZMPOからなる粉体1gを添加している。
【0018】
次に、作業者は、粉体を加えたシランカップリング剤を含む溶解液(第一懸濁液4)を攪拌する(ST3)。
例えば、作業者は、室温環境下にて、シランカップリング剤を含む溶解液と、ZMPOからなる酸化物粒子101と、を6h攪拌する。
【0019】
次に、作業者は、第一懸濁液4を水洗、濾過し、乾燥する(ST4)。その結果、作業者は、シランカップリング剤で修飾されている酸化物粒子101からなる粉体を作成できる。シランカップリング剤による修飾により、酸化物粒子101に対するカーボンナノチューブ20の付着性が向上する。
【0020】
次に、作業者は、カーボンナノチューブ20を含む第二懸濁液5を作成する(ST5)。例えば、第二懸濁液5は、0.0019wt%から0.0039wt%の濃度でカーボンナノチューブを含んでいてもよい。例えば、第二懸濁液5は、0.0024wt%から0.0034wt%の濃度でカーボンナノチューブを含んでいてもよい。
例えば、作業者は、分散媒に界面活性剤を添加し、そこにカーボンナノチューブ20を分散させた第二懸濁液5を作成する。
分散媒は、カーボンナノチューブを後述するST7にて分散浮遊できる溶媒であれば特に限定されず、例えば水、重水、有機溶媒、イオン液体、又はこれらの混合物等を用いることができる。
作業者は、界面活性剤を用いることで、カーボンナノチューブ20を十分に分散させることができる。また、界面活性剤は非イオン性であってもよい。非イオン性の界面活性剤は、イオン性の界面活性剤よりも除去されやすい。
例えば、非イオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテル又はポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル溶液がある。
【0021】
次に、作業者は、カーボンナノチューブ20と、酸化物粒子101からなる粉体とを含む第三懸濁液6を作成する(ST6)。
例として、作業者は、第二懸濁液5に、ST4にて作成したシランカップリング剤で修飾されている酸化物粒子101からなる粉体を添加する。例えば、第三懸濁液6は、酸化物粒子101を0.02vol%から0.25vol%の割合で含んでいてもよい。
【0022】
次に、作業者は、ST6で作成した第三懸濁液6を超音波分散する(ST7)。
【0023】
次に、作業者は、基板2をシランカップリング剤にて処理する(ST8)。
例えば、基板2に用いるシランカップリング剤は、APTESである。作業者は、基板2をAPTESで処理することで、基板2の表面をアミノ基で修飾している。これにより、基板2に対するカーボンナノチューブ20の付着性が向上する。
【0024】
次に、作業者は、基板2上に、第三懸濁液6を滴下し、膜10を形成する(ST9)。 例えば、ノズル7は、ディスペンサーやインクジェット等に含まれる。
例えば、作業者は、ノズル7から基板2上にカーボンナノチューブ20と粉体中酸化物粒子101aとが混合された第三懸濁液6を塗布する。その後、作業者は、基板2を室温乾燥し、次いで基板2を110℃の環境下で2h乾燥する。乾燥後、作業者は、基板2を水洗浄し、次いで基板2を180℃環境下で2hベークする。これらの操作により基板2上に酸化物粒子101を含む複合材料1が形成される。(完了)
【0025】
(作用及び効果)
本実施形態の複合材料1によれば、カーボンナノチューブ20の長さに対しある程度の粒子径を有する酸化物粒子101を膜10に含むことで、カーボンナノチューブ20を酸化物粒子101の表面に立てかけるように付着させることができ、カーボンナノチューブ20を三次元的に配置しやすくできる。
従って、カーボンナノチューブ20を三次元的に配置することで、μmオーダーの厚みをもつ膜10が形成可能となり、CNTの三次元のネットワークが形成しやすくなる。
以上より、本開示に係る複合材料1は、カーボンナノチューブ20のネットワークを形成しやすい。
【0026】
また、複合材料1は、カーボンナノチューブ20を三次元的に配置しやすくできることで、ネットワーク構造におけるカーボンナノチューブ20の導電パスが増加する。このため、複合材料1は、低い抵抗値を得やすい。
【0027】
また、本実施形態の一によれば、カーボンナノチューブ20の吸着性に優れる酸化物粒子101によって形成された膜10が存在し、酸化物粒子101の表面にカーボンナノチューブネットワークが形成されている。
また、酸化物粒子101は、絶縁材料であることで、複合材料1は、カーボンナノチューブ20のネットワーク特性を活かしたネットワーク構造を形成しやすい。
【0028】
<変形例>
上述の実施形態の一例では、作業者は、カーボンナノチューブ20が分散した第二懸濁液5に酸化物粒子101を加えた第三懸濁液6を作成したが、作業者は、酸化物粒子101を分散させた懸濁液にカーボンナノチューブ20を加えてもよい。
【0029】
<第二実施形態>
第一実施形態は、カーボンナノチューブ20単体のネットワーク構造に、特定サイズの粒子径を含む酸化物粒子101を加えることで、三次元のネットワーク構造を形成させやすくする複合材料1を開示している。
これに対し、本実施形態に係るボロメータは、赤外線を検出する受光部に複合材料1を備える。本実施形態に係るボロメータは、複合材料1が、カーボンナノチューブ20を三次元的に配置しやすくできることで、ネットワーク構造におけるカーボンナノチューブ20の導電パスが増加し、低い抵抗値を得やすいことにも着目している。
以下、第二実施形態として本開示に係るボロメータ8について、
図5を用いて説明する。
【0030】
(ボロメータの構成)
ボロメータ8は、複合材料1と、基台99と、カーボンナノチューブ20に電気的に接続される電極9と、を備える。
ボロメータ8は、赤外線を検出するためのセンサに用いられる。
複合材料1は、赤外線の受光部である。
複合材料1は、基台99上に配置されている。
【0031】
(作用及び効果)
本実施形態によれば、ボロメータ8が備える複合材料1は、カーボンナノチューブ20の長さに対しある程度の粒子径を有する酸化物粒子101を膜10に含むことで、酸化物粒子101に付着するカーボンナノチューブ20を三次元的に配置しやすくできる。
したがって、ボロメータ8は、カーボンナノチューブのネットワークを形成しやすい。
【0032】
また、ボロメータ8が備える複合材料1は、カーボンナノチューブ20を三次元的に配置しやすくできることで、ネットワーク構造におけるカーボンナノチューブ20の導電パスが増加し、複合材料1は、低い抵抗値を得やすい。よって、複合材料1の抵抗値が低くなることで、ボロメータ8の低抵抗値化がしやすい。
【0033】
<第三実施形態>
以下、第三実施形態として本開示に係る複合材料の最小構成の実施形態について、
図6を用いて説明する。
【0034】
(構成)
複合材料1bは、少なくとも粒子径0.4μm以上の酸化物粒子101bを含む膜10bと、酸化物粒子101bの表面にネットワークを形成したカーボンナノチューブ20bと、を含む。
【0035】
(作用及び効果)
本実施形態によれば、複合材料1bが、カーボンナノチューブ20bの長さに対しある程度の粒子径を有する酸化物粒子101bを膜10bに含むことで、酸化物粒子101bに付着するカーボンナノチューブ20bを三次元的に配置しやすくできる。
したがって、カーボンナノチューブ20bのネットワークを形成しやすい。
【0036】
<第四実施形態>
以下、第四実施形態として本開示に係る複合材料形成方法の最小構成の実施形態について、
図7を用いて説明する。
本実施形態における複合材料形成方法は、
図7に示すフローに従って実施される。
【0037】
複合材料形成方法は、シランカップリング剤を含む溶解液を作成するステップ(ST101)と、シランカップリング剤を含む溶解液に、酸化物粒子からなる粉体を加え、第一懸濁液を作製するステップ(ST102)と、カーボンナノチューブを含む第二懸濁液を作成するステップ(ST103)と、カーボンナノチューブと粉体とを含む第三懸濁液を作成するステップ(ST104)と、第三懸濁液を滴下し、少なくとも粒子径0.4μm以上の酸化物粒子を含む膜を形成するステップ(ST105)と、を含む。
【0038】
(作用及び効果)
本実施形態の複合材料形成方法によれば、複合材料が、カーボンナノチューブの長さに対しある程度の粒子径を有する酸化物粒子を膜に含むことで、酸化物粒子に付着するカーボンナノチューブを三次元的に配置しやすくできる。
したがって、本開示に係る複合材料形成方法によれば、カーボンナノチューブのネットワークを形成しやすい。
【0039】
<第五実施形態>
第一実施形態は、カーボンナノチューブ20単体のネットワーク構造に、特定サイズの粒子径を含む酸化物粒子101を加えることで、三次元のネットワーク構造を形成させやすくする複合材料1を開示している。
これに対し、本実施形態に係る複合材料1Fは、同様の効果を得るが、複合材料1Fの複合材料形成方法が異なる。これにより、カーボンナノチューブ20のバンドル化を抑制できることにも着目している。
以下、第五実施形態として本開示に係る複合材料1Fについて、
図8~
図11を用いて説明する。
なお、上記開示と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0040】
(複合材料の構成)
図11に示すように、複合材料1Fは、多孔質膜10Fと、カーボンナノチューブ20と、絶縁被膜30とを備える。
例えば、複合材料1Fは、負の値を示す抵抗温度係数を有する。
例えば、複合材料1Fは、絶対値が2.5%/K以上である抵抗温度係数を有し、複合材料1Fにおける抵抗温度係数は、周辺温度を25℃から30℃に変化させた時の値である。
例えば、複合材料1Fは、周辺温度が25℃において、250MΩ以下のシート抵抗を有する。
複合材料1Fの厚みは、適宜設定できる。例えば、複合材料1Fの厚みは、2μm~6μmである。
多孔質膜10Fは、少なくとも粒子径0.4μm以上の酸化物粒子を含む膜である。
多孔質膜10Fは、酸化物粒子101を含む。
例えば、多孔質膜10Fは、シランカップリング剤を含んでいてもよい。
例えば、多孔質膜10Fは、基板2の上部に積層されてもよい。
【0041】
なお、以下の開示における酸化物粒子101の粒子径は、平均粒子径である。以下の複合材料1Fの複合材料形成方法においては、平均粒子径が0.8μm以上1.5μm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、1.0μm以上1.5μm以下である。
【0042】
(複合材料形成方法の要点)
複合材料1Fの複合材料形成方法は、酸化物粒子101を基板上に定着させ、定着後、形成された多孔質膜10Fに、カーボンナノチューブを含む懸濁液を含浸させている。懸濁液を含浸させる方法としては、浸漬による方法と、滴下含浸法と、がある。
以下に、滴下含浸法の一例を示す。
滴下含浸法の一例においては、酸化物粒子101を基板上に定着させ、定着後、カーボンナノチューブ20を含む懸濁液を滴下することにより、含浸させることとしている。
【0043】
(複合材料形成方法の概要)
本実施形態における複合材料の複合材料形成方法について説明する。
本実施形態における複合材料の複合材料形成方法は、
図8に示すフローに従って実施される。各フローにおける補足図を
図9、
図10、
図11に併せて示す。なお、ST103は、ST101あるいはST102と適宜入れ替えられてもよい。
【0044】
まず、作業者は、基板2を酸素プラズマ処理する(ST101)。
例えば、作業者は、酸化シリコンを被覆したシリコン基板を基板2として用い、酸素プラズマ処理によって基板2の表面にある有機物等を除去する。
【0045】
次に、作業者は、基板2をシランカップリング剤にて処理する(ST102)。これにより、基板2上に付着層22を形成する。
例えば、シランカップリング剤は、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)である。
【0046】
次に、作業者は、第一実施形態と同様に、酸化物粒子101からなる粉体を準備する(ST103)。
本開示において、ST103で準備される粉体は、後述するピロリン酸塩に含まれるZMPOからなる酸化物粒子101からなり、少なくとも粒子径0.4μm以上の酸化物粒子を含む膜を含む複合材料1Fを作成するための材料となる粉体である。
【0047】
次に、作業者は、酸化物粒子101を含む懸濁液を作製する(ST103A)。
例えば、作業者は、粉体を純水に加えた溶解液(以下、「第四懸濁液」とも称する。)を超音波分散する。
例えば、第四懸濁液は、酸化物粒子101を0.02vol%から0.25vol%の割合で含んでいてもよい。
ここで、第四懸濁液に含まれる酸化物粒子101の割合は、第四懸濁液の材料となる純水と、加えた粉体との総体積に対する、加えた粉体の体積割合とする。
【0048】
次に、作業者は、ST103Aで準備した懸濁液を滴下し、乾燥することにより、酸化物粒子101を含む多孔質膜10Fを形成する(ST104)。
例えば、ST104では、作業者は、基板2を室温乾燥し、次いで基板2を110℃の環境下で2h乾燥してもよい。
ST104で形成された多孔質膜10Fは、カーボンナノチューブ20を配置することのできる孔を多数有する。なお、この孔は、集合した複数の酸化物粒子101の各々の間に形成される。
ST104により、
図9に示すように、基板2の表面上にある付着層22に酸化物粒子101が定着する。
【0049】
なお、作業者は、懸濁液を滴下することにより、懸濁液を塗布する場合に比べて、酸化物粒子101を積層させやすくできる。
【0050】
次に、作業者は、乾燥後の酸化物粒子101を酸素プラズマ処理し、酸素プラズマ処理後シランカップリング剤にて処理する(ST105)。酸素プラズマ処理により、空気中で酸化物粒子101の表面に付着した有機分子を除去できるため、乾燥後の酸化物粒子101に対して、シランカップリング剤が均一に吸着しやすくなる。
例えば、作業者は、ST105のように、酸化物粒子101を、付着層22を介して基板2に定着させたあと、シランカップリング処理を行うことが好ましい。
例えば、ST105で用いられるシランカップリング剤は、APTESである。作業者は、酸素プラズマ処理後の酸化物粒子101をAPTESで処理することで、酸化物粒子101の表面をアミノ基で修飾している。これにより、酸化物粒子101に対するカーボンナノチューブ20の付着性が向上する。
なお、本開示の複合材料1Fの複合材料形成方法において、作業者は、酸化物粒子101に対するシランカップリングによる修飾を予め行わなくてもよい。
【0051】
次に、作業者は、多孔質膜10Fに対し、カーボンナノチューブを含む懸濁液(以下、「第五懸濁液」とも称する。)を滴下することにより、含浸させる(ST106)。
例えば、第五懸濁液は、0.0019wt%から0.0039wt%の濃度でカーボンナノチューブ20を含んでいてもよい。例えば、第五懸濁液は、0.0024wt%から0.0034wt%の濃度でカーボンナノチューブ20を含んでいてもよい。
例えば、作業者は、分散媒に界面活性剤を添加し、そこにカーボンナノチューブ20を分散させた第五懸濁液を作成する。
分散媒として、作業者は、カーボンナノチューブを分散浮遊できる溶媒であれば特に限定されず、例えば水、重水、有機溶媒、イオン液体、又はこれらの混合物等を用いることができる。
また、界面活性剤は非イオン性であってもよい。非イオン性の界面活性剤は、イオン性の界面活性剤よりも除去されやすい。
例えば、非イオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレン(100)ステアリルエーテル又はポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル溶液がある。
【0052】
次に、作業者は、含浸された多孔質膜10Fが積層された基板2を水洗する(ST108)。
【0053】
次に、作業者は、水洗後の基板2を180℃環境下で2hベークする。
こうして、
図10に示すように、酸化物粒子101にカーボンナノチューブ20が付着することで、多孔質膜10Fが多数有する孔に、カーボンナノチューブ20が配置される。
【0054】
次に、作業者は、ベーク後の基板2に、絶縁被膜30を形成し、ベークする(ST110)。
こうして、
図11に示すように、作業者は、カーボンナノチューブ20が配置された多孔質膜10Fに、絶縁被膜30を形成する。
絶縁被膜30は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、テフロン(登録商標)等である。例として、PMMA(poly methyl methacrylate)、P4VP(poly(4-vinylpyridine))とP4VBM(poly(4-vinylpyridine-co-bytyl methacrylate))等が挙げられる。これらの樹脂により、多孔質膜10Fが固定される。
例えば、絶縁被膜30は、PMMAを含んでもよい。本開示において、作業者は、アニソールに溶解したPMMA(poly methyl methacrylate)溶液を滴下し、ベークすることで絶縁被膜30を形成する。
作業者は、水洗後の基板2を200℃環境下で3hベークする。作業者は、基板2を200℃以上で加熱することで、余分な溶媒、不純物等を除去する。
これらの操作により基板2上に酸化物粒子101を含む複合材料1Fが形成される。(完了)
【0055】
(作用及び効果)
本実施形態の複合材料1Fによれば、カーボンナノチューブ20の長さに対しある程度の粒子径を有する酸化物粒子101を多孔質膜10Fに含むことで、カーボンナノチューブ20を酸化物粒子101の表面に立てかけるように付着させることができ、カーボンナノチューブ20を三次元的に配置しやすくできる。
従って、カーボンナノチューブ20を三次元的に配置することで、μmオーダーの厚みをもつ多孔質膜10Fが形成可能となり、CNTの三次元のネットワークが形成しやすくなる。
以上より、本開示に係る複合材料1Fは、カーボンナノチューブ20のネットワークを形成しやすい。
【0056】
また、複合材料1Fは、カーボンナノチューブ20を三次元的に配置しやすくできることで、ネットワーク構造におけるカーボンナノチューブ20の導電パスが増加する。このため、複合材料1Fは、低い抵抗値を得やすい。
【0057】
また、本実施形態の複合材料1Fによれば、カーボンナノチューブ20の吸着性に優れる酸化物粒子101によって形成された多孔質膜10Fが存在し、酸化物粒子101の表面にカーボンナノチューブネットワークが形成されている。
また、酸化物粒子101は、絶縁材料であることで、複合材料1Fは、カーボンナノチューブ20のネットワーク特性を活かしたネットワーク構造を形成しやすい。
【0058】
また、本実施形態の複合材料1Fによれば、酸化物粒子101による多孔質膜10Fの形成工程を、酸化物粒子101にカーボンナノチューブ20が付着する前に行っている。
これにより、多孔質膜10Fに滴下した第五懸濁液の乾燥時間を短くでき、カーボンナノチューブ20のバンドル化を抑制できる。
また、これによって、多孔質膜10Fに含まれる酸化物粒子101の表面にカーボンナノチューブを吸着させた後、水洗により余分なカーボンナノチューブを除去できる。
これらによって、後述するように、抵抗温度係数(TCR:TEMPERATURE COEFFICIENT OF RESISTANCE)の絶対値が大きいボロメータが実現できる。すなわち、カーボンナノチューブのバンドル化の抑制と、余分なカーボンナノチューブの除去と、によって、TCRが向上する。
【0059】
<第五実施形態の変形例>
カーボンナノチューブを含む懸濁液の含浸は滴下含浸法で行うとして、一例を説明してきたが、浸漬による方法を用いてもよい、
例えば、形成された多孔質膜10Fを、カーボンナノチューブを含む懸濁液に浸漬させることで、含浸させてもよい。その後、浸漬された多孔質膜10Fを、引き上げ、ST108の水洗工程以降を実施する。
【0060】
<第六実施形態>
以下、第六実施形態として本開示に係る複合材料形成方法の最小構成の実施形態について、
図12を用いて説明する。
本実施形態における複合材料形成方法は、
図12に示すフローに従って実施される。
【0061】
複合材料形成方法は、少なくとも粒子径0.4μm以上の酸化物粒子を含む懸濁液を滴下し、乾燥することにより、酸化物粒子を含む多孔質膜を形成するステップ(ST1000)と、多孔質膜に、カーボンナノチューブを含む懸濁液を含侵させるステップ(ST2000)と、を含む。
【0062】
(作用及び効果)
本実施形態の複合材料形成方法によれば、複合材料が、カーボンナノチューブの長さに対しある程度の粒子径を有する酸化物粒子を膜に含むことで、酸化物粒子に付着するカーボンナノチューブを三次元的に配置しやすくできる。
したがって、本開示に係る複合材料形成方法によれば、カーボンナノチューブのネットワークを形成しやすい。
【0063】
また、本実施形態の複合材料形成方法によれば、酸化物粒子を含む懸濁液を滴下し、乾燥することによる多孔質膜の形成工程を、カーボンナノチューブを含む懸濁液に多孔質膜を含侵する前に行っている。
このことは、多孔質膜に含まれる酸化物粒子にカーボンナノチューブが付着する前に、多孔質膜の形成工程を行っていることを意味する。
これにより、カーボンナノチューブ20のバンドル化を抑制できる。
さらに、後述するように、TCRの絶対値が大きいボロメータが実現できる。
【実施例0064】
以下、実施例により本開示の効果をさらに具体的に説明する。実施例での条件は、本開示の実施可能性および効果を確認するために採用した一条件例であり、本開示はこの一条件例に限定されるものではない。本開示は、本開示の要旨を逸脱せず、本開示の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0065】
図13に、試験用素子の平面図を示す。
図13は、A行、R列に存在する素子の下半分の拡大図である。チャネル部には、複合材料1が形成されており、測定部にてI-V測定を行う。試験用素子1つあたり、測定部は8か所存在する。
試験用素子のチャネル部のサイズは、500μm×100μmであり、アスペクト比5:1である。
図14に、試験用素子の断面図を示す。
図13-
図14に示すように、試験用素子の表面には、Ti/Au電極を一部露出させた窓部を設けた状態で、周囲に絶縁膜(SiO
2)を形成した。絶縁膜は、スパッタリングにて形成した。
【0066】
図15に、試験用素子の周辺温度が293K時点でのI-V測定結果を示した。試験用素子は、A行にある2つの試験用素子の測定結果を示している。
図16に、試験用素子の周辺温度が313K時点でのI-V測定結果を示した。試験用素子は、
図15と同様に、A行にある2つの試験用素子の測定結果を示している。
図15-
図16より、試験用素子の周囲環境が、293Kから313Kに上昇すると、Current(A)の値が上昇した。すなわち、試験用素子の周辺温度が上昇すると、抵抗値が減少する負の値を示す抵抗温度係数(TCR:TEMPERATURE COEFFICIENT OF RESISTANCE)が確認された。本実施例では、半導体型カーボンナノチューブを使用しているため、負のTCRを示している。
試験用素子のTCRを算出するにあたり、半導体パラメータアナライザで測定を行った。試験用素子をセラミックスキャリアに実装し、クライオスタットに入れ、真空引きし、温度制御を行いながらTCR測定を行った。
【0067】
図17に、試験用素子の平均抵抗値とTCRの関係を示す。
図17の関係にある各要素について、試験用素子のチャネル部が、酸化物(ZMPO、BNFO、ZnO、Er
2O
3)とカーボンナノチューブとの複合材料、あるいはカーボンナノチューブである。
ZMPOとカーボンナノチューブとの複合材料では、作成時に、各懸濁液の濃度を調整している。シランカップリング剤を含む溶解液は、0.5wt%の濃度でAPTESを含んでいる。このシランカップリング剤を含む溶解液50mLにZMPOからなる粉体1gを添加した第一懸濁液4から、シランカップリング剤で修飾された酸化物粒子101を作成した。第二懸濁液5は、0.0029wt%の濃度でカーボンナノチューブを含んでいる。第三懸濁液6は、酸化物粒子101を0.2vol%の割合で含んでいる。
第一懸濁液4に含まれる酸化物粒子101の平均粒子径は、レーザ光散乱で測定された体積粒径分布のD50(累積頻度50%の粒径)の値を用いた。本実施例におけるZMPOの平均粒子径は、1.0μmであった。
その他の酸化物(BNFO、ZnO、Er
2O
3)とカーボンナノチューブとの複合材料も、ZMPOと同様の手順で作成した。
BNFOは、BiNi
1-
yFe
yO
3である。(0<y<1)
本実施例で用いたカーボンナノチューブは、直径1nm、長さ1μmである。
各複合材料の平均厚みは、ZMPOとカーボンナノチューブとの複合材料が、5.2μmである。BNFOとカーボンナノチューブとの複合材料が、4.3μmである。ZnOとカーボンナノチューブとの複合材料が、2.6μmである。Er
2O
3とカーボンナノチューブとの複合材料が、5.2μmである。
【0068】
図17の各要素は、周辺温度を25℃から30℃に上昇させたときの測定値、周辺温度を20℃から25℃に上昇させたときの測定値、15℃から20℃に上昇させたときの測定値の3条件で測定した。各値は、2つある試験用素子の測定部計16か所での測定値の平均値である。各要素の抵抗値は、周辺温度上昇前の測定値の平均値を記録した。
図17から、ZMPOとカーボンナノチューブの複合材料は、カーボンナノチューブ単体に比べて同程度の絶対値を持つ負のTCR(絶対値2.5%/K以上)を取ることが分かった。また、抵抗値で比較を行うと、ZMPOとカーボンナノチューブの複合材料は、カーボンナノチューブ単体に比べて低い抵抗値をとることが分かった。ZMPOとカーボンナノチューブの複合材料は、周辺温度が20℃において、30MΩ以下のシート抵抗を有することが確認できた。シート抵抗は、
図17の抵抗値に、アスペクト比を乗算(×5)することで得られる。ZMPOが絶縁材料であることで、カーボンナノチューブ20のネットワーク特性を活かしたネットワーク構造を形成しやすくでき、これにより、カーボンナノチューブ単体と同等のTCRが得られたと考えられる。ZMPOとカーボンナノチューブの複合材料は、ZMPOが特定サイズの粒子径を含むことで、ネットワーク構造におけるカーボンナノチューブ20の導電パスが増加したため、低い抵抗値を実現していると考えられる。
BNFOとカーボンナノチューブの複合材料は、カーボンナノチューブ単体に比べて低い絶対値を持つ負のTCRを取ることが分かった。また、抵抗値で比較を行うと、BNFOとカーボンナノチューブの複合材料は、カーボンナノチューブ単体に比べてより低い抵抗値をとることが分かった。BNFOとカーボンナノチューブの複合材料は、ZMPOの場合と同様の理由から低い抵抗値を実現していると考えられる。
図18は、ZMPOとカーボンナノチューブの複合材料において、カーボンナノチューブの付着状況を示している。
図18から、複合材料1は、粒子径およそ0.4μmの粒子と、粒子径およそ0.5μmの粒子と、粒子径およそ0.6μmの粒子と、粒子径およそ0.7μmの粒子と、粒子径およそ1.2μmの粒子とを含む膜10を確認できた。
なお、本明細書において、酸化物粒子101の粒子径は、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)等が備える撮像装置から得られた顕微鏡画像にて確認できる粒子単体あるいは粒子群の概形の最大径である。
図19は、カーボンナノチューブ単体の付着状況を示している。
図20は、BNFOとカーボンナノチューブの複合材料において、カーボンナノチューブの付着状況を示している。
図20から、複合材料1は、粒子径およそ0.4μmの粒子と、粒子径およそ0.5μmの粒子と、粒子径およそ0.6μmの粒子と、粒子径およそ0.7μmの粒子とを含む膜10を確認できた。
図17-
図20から、カーボンナノチューブ単体の付着状況に比べ、複合材料1が特定サイズの酸化物粒子101を含むことで、三次元のネットワーク構造を形成しやすくなっていることが確認できた。
【0069】
図17において、ZnOとカーボンナノチューブの複合材料は、カーボンナノチューブ単体に比べて同程度の絶対値を持つ負のTCR(絶対値2.5%/K以上)を取ることが分かった。また、抵抗値で比較を行うと、ZnOとカーボンナノチューブの複合材料は、カーボンナノチューブ単体に比べてわずかであるが、低い抵抗値をとることが分かった。
図21は、ZnOとカーボンナノチューブの複合材料において、カーボンナノチューブの付着状況を示している。
図21から、複合材料1は、粒子径およそ0.4μm以上の粒子と、粒子径およそ0.5μmの粒子とを含む膜を確認できた。
図17、
図21より、カーボンナノチューブ単体の付着状況に比べ、複合材料1が特定サイズのZnOを含むことで、三次元のネットワーク構造を形成しやすくなっていることが確認できた。
図17において、Er
2O
3とカーボンナノチューブの複合材料は、カーボンナノチューブ単体に比べてわずかに低い絶対値を持つ負のTCRを取ることが分かった。また、抵抗値で比較を行うと、Er
2O
3とカーボンナノチューブの複合材料は、カーボンナノチューブ単体に比べてわずかであるが、高い抵抗値をとることが分かった。
図22は、Er
2O
3とカーボンナノチューブの複合材料において、カーボンナノチューブの付着状況を示している。
図17-
図22より、Er
2O
3は、他の酸化物粒子に比べて、酸化物粒子101の粒子径が小さいことが分かった。また、カーボンナノチューブ単体の付着状況に比べ、カーボンナノチューブが付着しにくいことが確認できた。これらにより、Er
2O
3とカーボンナノチューブの複合材料は、カーボンナノチューブ単体に比べてわずかであるが、高い抵抗値をとると考察された。
なお、本実施例において、作業者は、アニソールに溶解したPMMA溶液を滴下し、ベークすることで、カーボンナノチューブ20が配置された多孔質膜10Fに、絶縁被膜30を形成した。
なお、実施例1における試験用素子のチャネル部に、複合材料1Fが形成された状態で、測定部にてI-V測定がされたとしても、特性に大きな違いはないと考える。本実施例2において、ゲート電圧が固定されることで、ゲート電圧の変動を抑制し、測定値がより正確となることを目的とした。
以上、本開示の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として示したものであり、開示の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、本開示の範囲や要旨に含まれると同様に、本開示とその均等の範囲に含まれるものとする。