(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178106
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20241217BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20241217BHJP
B41J 2/17 20060101ALI20241217BHJP
B41J 2/165 20060101ALI20241217BHJP
C09D 11/38 20140101ALI20241217BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41M5/00 120
B41J2/18
B41J2/17
B41J2/165 303
C09D11/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024079384
(22)【出願日】2024-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2023096386
(32)【優先日】2023-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】中川 光平
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 貴史
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA06
2C056EA07
2C056FA10
2C056HA05
2C056JB04
2C056KB16
2H186BA11
2H186DA12
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB55
2H186FB58
4J039AE07
4J039BE22
4J039CA03
4J039EA41
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】循環シリアルヘッドを用いて、罫線のズレが抑制された高品質な画像を記録可能であるとともに、長期使用時にもインクの混色による画像の色調変化を抑制可能なインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】複数の吐出口と、吐出素子と、吐出口と吐出素子の間で連通してその内部にインクが流通する第1流路及び第2流路と、を具備する記録ヘッドからインクを吐出して画像を記録するインクジェット記録方法である。この方法は、吐出口からインクを吐出する吐出工程と、吐出工程とは別の、第1流路内のインクを第2流路へと流動させる流動工程と、記録ヘッド内のインクを加温する工程と、を有する。記録ヘッドが、複数の吐出口が所定の方向に配列した吐出口列を複数有するとともに、吐出口列の配列方向と交差する方向に走査するシリアル方式である。第1流路及び第2流路は、記録ヘッドが走査する方向と平行に配置され、かつ、インクの流動方向が同一である。複数の吐出口列は、インクの流動方向に対して、上流側に、第1インクを吐出する第1吐出口列と、下流側に、第2インクを吐出する第2吐出口列を含む。第1インクの静的表面張力γs1と、第2インクの静的表面張力γs2とが、γs1≧γs2の関係を満たすことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する複数の吐出口と、前記インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子と、前記吐出口と前記吐出素子の間で連通してその内部に前記インクが流通する第1流路及び第2流路と、を具備する記録ヘッドから前記インクを吐出して画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記吐出口から前記インクを吐出する吐出工程と、
前記吐出工程とは別の、前記第1流路内の前記インクを前記第2流路へと流動させる流動工程と、
前記記録ヘッド内の前記インクを加温する工程と、を有し、
前記記録ヘッドが、前記複数の吐出口が所定の方向に配列した吐出口列を複数有する吐出素子基板を備えるとともに、前記吐出口列の配列方向と交差する方向に走査するシリアル方式の記録ヘッドであり、
前記第1流路及び前記第2流路は、前記記録ヘッドが走査する方向と平行に配置され、かつ、前記インクの流動方向が同一であり、
前記複数の吐出口列は、第1インクを吐出する第1吐出口列及び第2インクを吐出する第2吐出口列を含むとともに、前記インクの流動方向に対して、前記第1吐出口列が上流側、前記第2吐出口列が下流側に配置され、
前記第1インクの静的表面張力γs1と、前記第2インクの静的表面張力γs2とが、γs1≧γs2の関係を満たすことを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記第1インクが、下記一般式(1)で表される化合物を含有する請求項1に記載のインクジェット記録方法。
(前記一般式(1)中、x及びyは、それぞれ独立に0以上の数を表し、x+yは、0以上50以下である)
【請求項3】
前記第1インクが、ガラス転移温度Tgが前記記録ヘッドの加温温度より高い樹脂粒子を含有する請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記第1インクの明度が、前記第2インクの明度より高い請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記第1インクの比重d1と、前記第2インクの比重d2とが、d1≧d2の関係を満たす請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記複数の吐出口列が所定の方向に配列した吐出口面をワイピングするクリーニング工程をさらに有し、
前記ワイピングの方式が、ワイパー部材を前記吐出口列の前記配列方向と平行方向に移動させる方式、又は不織布を前記吐出口面に押圧してインクを吸収させる方式である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記記録ヘッドの前記走査の際の移動速度が、70インチ/秒以下である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記インクの前記流動の際の流速が、1.0mm/s以上100.0mm/s以下である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
前記第1吐出口列と前記第2吐出口列との距離が、1.8mm以下である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
インクを吐出する複数の吐出口と、前記インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子と、前記吐出口と前記吐出素子の間で連通してその内部に前記インクが流通する第1流路及び第2流路と、を具備する記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置であって、
さらに、前記吐出素子とは別の、前記第1流路内の前記インクを前記第2流路へと流動させる流動手段と、
前記記録ヘッド内の前記インクを加温する機構と、を備え、
前記記録ヘッドが、前記複数の吐出口が所定の方向に配列した吐出口列を複数有する吐出素子基板を備えるとともに、前記吐出口列の配列方向と交差する方向に走査するシリアル方式の記録ヘッドであり、
前記第1流路及び前記第2流路は、前記記録ヘッドが走査する方向と平行に配置され、かつ、前記インクの流動方向が同一であり、
前記複数の吐出口列は、第1インクを吐出する第1吐出口列及び第2インクを吐出する第2吐出口列を含むとともに、前記インクの流動方向に対して、前記第1吐出口列が上流側、前記第2吐出口列が下流側に配置され、
前記第1インクの静的表面張力γs1と、前記第2インクの静的表面張力γs2とが、γs1≧γs2の関係を満たすことを特徴とするインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法によれば、写真や文書などの画像を様々な記録媒体に記録することが可能である。また、写真画質の画像を光沢紙に記録するのに適したインクや、文書などを普通紙に記録するのに適したインクなど、用途に応じた種々のインクが提案されている。
【0003】
近年、文字や図表を含むビジネス文章を普通紙などの記録媒体に記録する場合にインクジェット記録方法が利用されており、このような用途への利用頻度が格段に増加している。そして、従来よりも高速に文書を記録可能であることが求められている。また、インクジェット記録装置に対しては、設置場所の制約などから、小型化への強いニーズもある。
【0004】
インクジェット記録装置の記録ヘッドの方式としては、シリアル方式とライン方式の2種類があるが、小型化の観点ではシリアル方式の記録ヘッド(シリアルヘッド)が有利である。シリアルヘッドを用いて記録速度を向上させるためには、記録ヘッドの走査速度を高速化することが必要となる。また、記録ヘッドの走査の間に行う回復処理の一種である、いわゆる予備吐出動作の頻度を減らすことや、複数のインクを記録ヘッドと記録媒体の1回の相対走査で単位領域に付与する1パス記録を行うこと、インクの増粘物や泡などによる吐出性低下を抑制するための回復動作の頻度を低減すること、などの対処が必要となり、高画質化との両立が課題となる。
【0005】
複数のインクを1回の記録ヘッド走査で記録媒体に付与する1パス記録で画像を記録する場合、マルチパス記録と比較して、吐出口間の吐出量の違いが画質に影響を及ぼしやすい。吐出口間で吐出頻度の差がある場合、吐出頻度の低い吐出口でインクの増粘により吐出性が低下しやすく、これを予防するための予備吐出動作を減らした場合、吐出量低下がさらに顕著となる。また、吐出口間の使用頻度や記録ヘッド周囲の環境により、記録ヘッド内で吐出口間の温度に違いがある場合、インクの粘度差が生じ、それに伴う吐出量の変動も生じる。これらはともに吐出口間で吐出量がばらつく原因となり、特に1パスで記録した罫線において、ドット位置のばらつきによるズレの原因となる。
【0006】
予備吐出動作の頻度を減らしつつ、インクの吐出安定性を向上させる方法として、例えば、吐出動作を一定時間休止した後でも液体中の固形分が吐出口の周縁付近に滞留することを抑制できる液体吐出ヘッドが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、記録速度の高速化と記録装置の小型化の両立を図るため、特許文献1で提案された、吐出口近傍でインクを流動させる機構を採用したシリアル方式の記録ヘッド(循環シリアルヘッド)を用いて1パスで画像を記録することについて検討した。その結果、吐出動作を一定時間休止した後でもインクの吐出安定性が向上し、記録ヘッドの走査の間に行う予備吐出動作の頻度を減らすことができた。
【0009】
また、本発明者らは、記録速度の高速化及び記録装置の小型化と、さらに高画質化の両立を図るため、上述の循環シリアルヘッド内のインクを加温する機構(インク加温機構)を採用して1パスで画像を記録することについて検討した。その結果、インク加温機構により、吐出口間の温度の違いによるインクの粘度差の低減が図られ、それに伴う吐出量の変動が抑制されることで、吐出量のばらつきが抑制され、罫線のズレが抑制された高品質な画像を記録可能であることがわかった。しかし、長期間にわたり画像の記録を行った場合、記録した画像にインクの混色による画像の色調変化が生ずる場合があることが判明した。
【0010】
したがって、本発明の目的は、循環シリアルヘッドを用いて、罫線のズレが抑制された高品質な画像を記録可能であるとともに、長期使用時にもインクの混色による画像の色調変化を抑制可能なインクジェット記録方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、このインクジェット記録方法に用いるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明によれば、インクを吐出する複数の吐出口と、前記インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子と、前記吐出口と前記吐出素子の間で連通してその内部に前記インクが流通する第1流路及び第2流路と、を具備する記録ヘッドから前記インクを吐出して画像を記録するインクジェット記録方法であって、前記吐出口から前記インクを吐出する吐出工程と、前記吐出工程とは別の、前記第1流路内の前記インクを前記第2流路へと流動させる流動工程と、前記記録ヘッド内の前記インクを加温する工程と、を有し、前記記録ヘッドが、前記複数の吐出口が所定の方向に配列した吐出口列を複数有する吐出素子基板を備えるとともに、前記吐出口列の配列方向と交差する方向に走査するシリアル方式の記録ヘッドであり、前記第1流路及び前記第2流路は、前記記録ヘッドが走査する方向と平行に配置され、かつ、前記インクの流動方向が同一であり、前記複数の吐出口列は、第1インクを吐出する第1吐出口列及び第2インクを吐出する第2吐出口列を含むとともに、前記インクの流動方向に対して、前記第1吐出口列が上流側、前記第2吐出口列が下流側に配置され、前記第1インクの静的表面張力γs1と、前記第2インクの静的表面張力γs2とが、γs1≧γs2の関係を満たすことを特徴とするインクジェット記録方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、循環シリアルヘッドを用いて、罫線のズレが抑制された高品質な画像を記録可能であるとともに、長期使用時にもインクの混色による画像の色調変化を抑制可能なインクジェット記録方法を提供することができる。また、本発明によれば、このインクジェット記録方法に用いるインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】記録ヘッドの吐出口付近の状態を示す模式図である。
【
図2】インクジェット記録装置の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【
図3】インクジェット記録装置の内部構成を示す概略図である。
【
図4】記録ヘッドにおける吐出口列の配置例とインクの循環流方向例を示す模式図である。
【
図5】記録ヘッドの走査時における記録ヘッド内のインクの状態を説明する模式図である。
【
図8】吐出口近傍におけるインクの流動状態を説明する模式図である。
【
図9】記録ヘッドの一例を部分的に示す断面図である。
【
図10】実施例で記録した画像のパターンを説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、さらに本発明を詳細に説明する。本発明においては、化合物が塩である場合は、インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。また、インクジェット用の水性インクのことを、単に「インク」と記載することがある。第1流路及び第2流路を、まとめて「流路」と記載することがある。同様に、第1インク及び第2インクを、まとめて「インク」と記載することがある。2つのインクで記録する2次色罫線のことを、単に「罫線」と記載することがある。物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。
【0015】
<インクジェット記録方法、インクジェット記録装置>
本発明のインクジェット記録装置は、インクを吐出する複数の吐出口と、インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子と、吐出口と吐出素子の間で連通してその内部にインクが流通する第1流路及び第2流路と、を具備する記録ヘッドを備える。この記録ヘッドは、複数の吐出口が所定の方向に配列した吐出口列を複数有する吐出素子基板を備えるとともに、吐出口列の配列方向と交差する方向に走査するシリアル方式の記録ヘッド(シリアルヘッド)である。さらに、本発明のインクジェット記録装置は、吐出素子とは別の、第1流路内のインクを第2流路へと流動させる流動手段と、記録ヘッド内のインクを加温する機構とを備える。また、本発明のインクジェット記録方法は、例えば、上記のインクジェット記録装置を使用し、上記の記録ヘッドからインクを吐出して画像を記録する方法である。すなわち、本発明のインクジェット記録方法は、吐出口からインクを吐出する吐出工程と、吐出工程とは別の、第1流路内のインクを第2流路へと流動させる流動工程と、記録ヘッド内のインクを加温する工程とを有する。
【0016】
図1は、記録ヘッドの吐出口付近の状態を示す模式図である。
図1に示す記録ヘッドは、インクを吐出する吐出口1と、インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子4と、吐出口1と吐出素子4の間で連通してその内部にインクが流通する第1流路17及び第2流路18と、を備える。記録ヘッドにおける吐出素子基板の説明で後述するが、吐出口1は吐出口形成部材5に形成され、吐出素子4は基板3に配設されている。インクは、吐出口1と吐出素子4の間を通って、第1流路17から第2流路18(
図1中の矢印の方向)へと流動している。インクが流動していないと、吐出口1におけるインクのメニスカス12からの水の蒸発が進行し、これに伴って吐出口1と吐出素子4の間に存在するインクが徐々に増粘する。このため、吐出休止時間が長い場合、次の吐出動作の際に、インクの流体抵抗が増大して吐出しづらくなる場合がある。これに対して、
図1中の矢印の方向へとインクが流動していると、メニスカス12から水が蒸発しても、循環流により吐出口1と吐出素子4の間にインクが次々と供給されるので、インクの増粘が抑制され、吐出しづらい状態を生じにくくすることができる。
【0017】
上述の循環流を生じさせるシリアル方式の記録ヘッド(循環シリアルヘッド)を用いたインクジェット記録方法の構成により、吐出口間に吐出頻度に差がある場合にも、予備吐出動作による回復を行うことなく吐出量のばらつきを抑制することができる。
【0018】
また、本発明のインクジェット記録装置は、記録ヘッド内のインクを加温する機構(インク加温機構)を備える。本発明のインクジェット記録方法は、例えば、上記インク加温機構を備えたインクジェット記録装置を使用し、記録ヘッド内のインクを加温する工程(加温工程)を有する。記録ヘッド内のインクの加温は、例えば、記録ヘッドの温度を制御する手段によって調整することができる。記録ヘッドの温度を制御する手段としては、例えば、記録ヘッドに直接接触するように設けられる温度調整用のヒータや、インク吐出用のヒータなどを挙げることができる。インク吐出用のヒータによって記録ヘッドの温度を制御(加熱又は加温)するには、例えば、インクが吐出しない程度の電流を繰り返し通電すればよい。記録ヘッド及び記録ヘッド内のインクの温度は、例えば、記録ヘッドに設けた温度センサーで読み取ることができる。記録ヘッド内のインクの温度は40℃以上60℃以下の範囲に調整されることが好ましい。この加温手段により、吐出口間の温度を揃えることで吐出量のばらつきを抑制することができる。
【0019】
循環シリアルヘッドを搭載したインクジェット記録装置について説明する。
図2はインクジェット記録装置1000の一実施形態を模式的に示す斜視図である。給送ユニット200は、複数の記録媒体を積載可能であり、不図示の給送ローラによって記録媒体を給送する。本実施形態の記録媒体P(
図3参照)は、所定サイズにカットされたカット紙を例に説明するが、これに限らず、ロール紙に対して記録する形態にも採用可能である。
【0020】
給送ユニット200により給送された記録媒体は、不図示の搬送ローラを含む搬送ユニットによって、Y方向(搬送方向)に向けて搬送され、インクを吐出する吐出ユニット(記録ヘッド)300(
図3(b)参照)と対向する記録位置へと移動する。キャリッジ100は吐出ユニット(記録ヘッド)300を搭載し、キャリッジモータ400の駆動により、タイミングベルト600を介してガイドシャフト700に沿ってY方向と交差するX方向(主走査方向)に往復走査する。
【0021】
キャリッジ100のX方向への移動と吐出ユニット(記録ヘッド)300によるインクの吐出動作によって単位領域分の画像が記録されると、記録媒体は搬送ユニットによりY方向に搬送される。単位領域としては、吐出ユニット300においてY方向に沿って配置された吐出口列の配列幅と、吐出ユニット300のX方向の1回の移動とで記録可能な「1バンド」や、記録ヘッドの解像度に対応した「1」画素など、任意に設定することができる。シリアル方式では、1バンド分のインクの吐出動作と間欠的な搬送動作を繰り返す記録動作によって、記録媒体の全体にわたって画像を記録可能である。本実施形態においてX方向とY方向は直交する。
【0022】
また、吐出ユニット(記録ヘッド)300と対向する位置であって、吐出ユニット(記録ヘッド)300により記録が行われる記録領域には、記録媒体を垂直方向の下方から支持するプラテン500が配されている。プラテン500によって、記録媒体の記録面と、インクを吐出する吐出口が配列された吐出ユニット(記録ヘッド)300の吐出口面2(
図3)と、が所定距離に保たれる。
【0023】
図3は、本発明のインクジェット記録装置1000の一実施形態の内部構成を示す概略図である。
図3(a)は記録装置1000を上から見たときの上面模式図であり、
図3(b)は記録装置1000を前面から見たときの模式的な側面図である。キャリッジ100は、吐出ユニット(記録ヘッド)300へ供給されるインクを収容するインクカートリッジを着脱可能に搭載している。複数のインクカートリッジ111、112、113、114は、それぞれ吐出口列21、22、23、24(
図4参照)に対応し、それぞれの吐出口列にインクを供給する。例えば、シアン、マゼンタ、イエロー、及びブラック(CMYK)の各インクに対応する吐出口列及びインクカートリッジが設けられる。
【0024】
また、キャリッジ100の移動領域内であって、記録媒体Pが通過する領域(記録領域)の外側には、吐出ユニット(記録ヘッド)300の吐出口面2をキャッピングするためのキャップ302が配されている。吐出ユニット(記録ヘッド)300の吐出口面2がキャップ302と対向するキャリッジ100(吐出ユニット〔記録ヘッド〕300)の位置を、ホームポジション301とも称する。キャップ302は、不図示の吸引手段と接続されており、吐出口面2をキャッピングした状態で吸引手段を駆動することで、吐出ユニット(記録ヘッド)300からインクが吸引される。
【0025】
図4は、吐出ユニット(記録ヘッド)300における吐出口列の配置例とインクの流動方向である循環流方向例を示す模式図である。
図4は
図3(b)に示されている吐出ユニット(記録ヘッド)300を記録媒体P側から見た状態を示している。
図4に示すように、吐出ユニット(記録ヘッド)300は、4列の吐出口列21、22、23、24を有する吐出素子基板10を備え、吐出口列21~24の配列方向と交差するX方向に走査するシリアル方式の記録ヘッドである。また、4列の吐出口列21~24の循環流方向はすべて右から左の同一方向であり、X方向(走査方向)と平行である。吐出ユニット(記録ヘッド)300は左から右の往方向と、右から左の復方向の往復移動を行うため、復方向の際は走査方向と循環流方向が同一方向となり、往方向の際は逆方向となる。
【0026】
前述のように、インクを流動させるシリアルヘッドを用い、ヘッド内のインクを加温する工程を行って1パスで記録した画像において、予備吐出による回復動作を行うことなく、吐出口間の吐出頻度や温度の違いによる吐出量の変動を抑制することができる。しかし、上記のような構成であっても、長期使用時に、インクの混色による画像の色調変化が生ずる場合があることを見出した。この現象について、本発明者らは以下のように推測している。
【0027】
図5は記録ヘッドの走査時における記録ヘッド内のインクの流動状態を説明する模式図である。循環シリアルヘッドを用いて記録を開始した場合、記録ヘッドがホームポジションから往方向へ走査し、往方向から復方向に切り替わり記録媒体上を走査している際は、
図5(a)に示すように、吐出口1におけるメニスカス12が安定している。その後、記録ヘッドが復方向から往方向に切り替わった直後、すなわち、ホームポジション付近で記録ヘッドが瞬間的に停止した際には、吐出口1付近のインクに、循環流と同じ方向に慣性力が働くと考えられる。そのとき、その慣性力により、
図5(b)に示すように、吐出口1におけるメニスカスが破壊され、循環流の下流側にインクが溢れる現象が発生すると考えられる。こののち、溢れたインクは短時間で速やかに吐出口1内に引き込まれる。
【0028】
しかし、インクを加温する場合には、インクの粘度の低下によりメニスカスが変動しやすくなることによって、溢れが生じやすくなることに加え、インクの乾燥が速まることで、溢れが生じた部位に色材などの成分が析出しやすい。このように、循環シリアルヘッドを用いた、インクの流動工程と加温工程を有するインクジェット記録方法においては、吐出口の循環流下流側に色材などの成分が析出しやすくなると考えられる。色材などの成分が析出した部分はさらにインクが残存しやすくなり、乾燥による色材などの成分の析出が促進されることで、インクの溢れる範囲が広がっていくと考えられる。長期使用により、インクが溢れる範囲が、インクの流動方向に対して、上流側に位置する吐出口列から下流側に位置する吐出口列へ到達することで、下流側の吐出口列から吐出されるインクに対して上流側の吐出口列から吐出されるインクの混色が生じる。混色した上流側のインクは、吐出口1におけるメニスカスやその周辺に留まったり、循環流により下流側の吐出口列から流路内に継続的に入り込んだりすることで、色調変化の原因になると推測される。
【0029】
本明細書において、記録ヘッドにおける複数の吐出口列のうち、インクの流動方向に対して、上流側の吐出口列を「第1吐出口列」と記載することがあり、第1吐出口列から吐出されるインクを「第1インク」と記載することがある。また、インクの流動方向に対して、下流側の吐出口列を「第2吐出口列」と記載することがあり、第2吐出口列から吐出されるインクを「第2インク」と記載することがある。複数の吐出口列における、インクの流動方向に対する「上流側」及び「下流側」は、比較する2つの吐出口列の相対的な関係を意味する。
【0030】
本発明者らは、上記の長期使用時のインクの混色による画像の色調変化を抑制するため、インクの流動方向と、2つの吐出口列から吐出するインクの静的表面張力の関係に着目した。インクの混色においては、静的表面張力が相対的に低いインクが、静的表面張力が相対的に高いインク中に入り込みやすい。このため、インクの流動方向に対して、上流側に配置される第1吐出口列から吐出される第1インクの静的表面張力γs1と、下流側に配置される第2吐出口列から吐出される第2インクの静的表面張力γs2とを、γs1≧γs2の関係とする。γs1≧γs2の関係とすることで、上流側から溢れてきた第1吐出口列の第1インクが、第2吐出口列近傍及びインク流路内部の第2インクと接触した際、第2吐出口列の第2インクへの第1吐出口列の第1インクの混入を抑制することができる。これにより、画像の色調変化を小さくし、混色を目立ちにくくすることで、インクの混色による画像の色調変化を抑制することができる。
【0031】
図6は、吐出素子基板の断面を示す斜視図である。
図6に示すように、吐出素子基板10は、吐出口1が形成された吐出口形成部材5と、吐出素子(不図示)が配設された基板3とを備える。吐出口形成部材5と基板3が積層されることで、インクが流動する第1流路17及び第2流路18が形成される。第1流路17は、流入路6中のインクが流入する流入口8から、吐出口1と吐出素子の間の部分(
図7、液室213)までの領域である。また、第2流路18は、吐出口1と吐出素子との間の部分(
図7、液室213)から、流出路7へとインクが流出する流出口9までの領域である。例えば、圧力の高い流入口8と圧力の低い流出口9といったように、流入口8と流出口9との間に圧力差を持たせれば、圧力の高い方から低い方へ(
図6中の矢印の方向へ)とインクを流動させることができる。流入路6及び流入口8を通ったインクは、第1流路17内に入る。そして、吐出口1と吐出素子との間の部分(
図7、液室213)を通ったインクは、第2流路18及び流出口9を通って、流出路7へと流れる。
【0032】
第1流路内のインクを第2流路へと流動させる流動工程は、吐出口からインクを吐出する吐出工程とは別の工程(異なる工程)である。また、流動工程における第1流路から第2流路へのインクの流動は、吐出口と吐出素子の間へのインクの充填とは別に行うことが好ましい。流動工程は、吐出口からインクを排出することなく、第1流路内のインクを第2流路へと流動させる工程であることが好ましい。吐出口からのインクの排出には、予備吐出や吸引などの回復動作が含まれる。記録ヘッドの回復動作の際には、第1流路から第2流路へのインクの流動は停止させてもよい。さらに、流動工程では、吐出素子とは別の流動手段によって、第1流路から第2流路へとインクを流動させることが好ましい。
【0033】
以下、熱エネルギーを発生する吐出素子を利用し、気泡を発生させてインクを吐出するサーマル方式の記録ヘッドを例に挙げて、本発明のインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置のさらなる詳細について説明する。但し、ピエゾ方式の記録ヘッドや、その他の吐出方式が採用された記録ヘッドであっても、本発明のインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に適用することができる。ここでは、インク収容部と記録ヘッドの間でインクを循環させる形態を例に挙げて説明するが、それ以外の形態であってもよい。例えば、記録ヘッドの上流側と下流側に2つのインク収容部を設け、一方のインク収容部から他方のインク収容部へとインクを流動させる形態であってもよい。さらに、CMYKの4色のインクを吐出可能な吐出口列が4列配置された吐出素子基板を組み込んだ記録ヘッドを例に挙げて説明するが、2種以上のインクを吐出可能な吐出口列がある記録ヘッドを用いることもできる。本発明では、サーマル方式でインクを吐出する記録ヘッドを用いることが特に好ましい。
【0034】
流動工程では、インクを連続的に流動させる又は間欠的に流動させることが好ましい。以下、インクを連続的に流動させる方法、及びインクを間欠的に流動させる方法の詳細について説明する。まず、
図7を参照しつつ、インクを連続的に流動させる方法について説明する。
図7は、インクの供給系を示す模式図である。
図7に示す吐出ユニット(記録ヘッド)300は、第1循環ポンプ(高圧側)1001、第1循環ポンプ(低圧側)1002、サブタンク1003、及び第2循環ポンプ1004などに接続されている。説明を簡略化するために、
図7では1色のインクが流動する経路のみを示しているが、実際にはCMYKの4色分の流動経路が吐出ユニット(記録ヘッド)300にそれぞれ設けられている。
【0035】
インク収容部であるメインタンク1006に接続されるサブタンク1003は、大気連通口(不図示)を有しており、インクに混入した気泡を外部に排出することが可能である。サブタンク1003は、補充ポンプ1005にも接続される。画像の記録や吸引回復など、吐出口からインクを吐出(排出)することにより、吐出ユニット(記録ヘッド)300でインクが消費される。補充ポンプ1005は、消費された量に対応する量のインクをメインタンク1006からサブタンク1003へと移送する。
【0036】
第1循環ポンプ(高圧側)1001及び第1循環ポンプ(低圧側)1002は、接続部1110から流出させた吐出ユニット(記録ヘッド)300内のインクを、サブタンク1003へと流す。第1循環ポンプ(高圧側)1001及び第1循環ポンプ(低圧側)1002としては、定量的な送液能力を有する容積型ポンプを用いることが好ましい。このような容積型ポンプの具体例としては、チューブポンプ、ギアポンプ、ダイヤフラムポンプ、シリンジポンプなどを挙げることができる。吐出ユニット300の駆動時には、第1循環ポンプ(高圧側)1001及び第1循環ポンプ(低圧側)1002によって、共通流入路211及び共通流出路212内にインクを流動させることができる。
【0037】
負圧制御ユニット230は、相互に異なる制御圧が設定された2つの圧力調整機構を備える。圧力調整機構(高圧側)H及び圧力調整機構(低圧側)Lは、それぞれ、インクから異物を取り除くフィルタ221を設けた供給ユニット220を経由して、吐出ユニット300内の共通流入路211及び共通流出路212に接続されている。
【0038】
供給ユニット220と吐出ユニット(記録ヘッド)300はインク供給経路であるインク供給チューブ(不図示)によって接続される。吐出ユニット(記録ヘッド)300はインクジェット記録装置内を往復走査するため、インク供給チューブは往復走査に耐えうる柔軟性を持つ樹脂材料で形成されている。
【0039】
吐出ユニット300には、共通流入路211、共通流出路212、並びに吐出口1及び吐出素子(不図示)との間の部分である液室213と連通する流入路6及び流出路7が設けられている。流入路6及び流出路7は、共通流入路211及び共通流出路212と連通しているため、共通流入路211から液室213内部を通過して共通流出路212へとインクの一部が流れる流れ(
図7中の矢印)が発生する。
図6中の矢印は液室213内部におけるインクの流れを示す。すなわち、
図6に示すように、第1流路17内のインクは、吐出口1と吐出素子の間を経由して第2流路18へと流動する。
【0040】
図7に示すように、共通流入路211には圧力調整機構Hが接続されているとともに、共通流出路212には圧力調整機構Lが接続されているため、流入路6と流出路7の間には圧力差が生ずる。これにより、流入路6と連通する流入口8(
図6)と、流出路7と連通する流出口9(
図6)との間にも、圧力差が生じている。流入口と流出口の圧力差によりインクを流動させる場合、インクの流動の際の流速(mm/s)は、1.0mm/s以上100.0mm/s以下に制御することが好ましい。インクの流速が1.0mm/s以上である場合、吐出動作を一定時間休止した際の吐出口近傍のインクの粘度の上昇が抑えられ、インクの吐出安定性が高まりやすく、罫線のズレをさらに抑制しやすい。一方、インクの流速が100.0mm/s以下である場合、吐出口のメニスカスの安定性が高まりやすく、慣性力による吐出口からのインクの溢れの発生を抑えやすくなり、長期使用時の画像の色調変化をさらに抑制しやすい。
【0041】
本発明のインクジェット記録方法では、記録ヘッドの回復動作中にも、第1流路内のインクを第2流路へと流動させてもよい。記録ヘッドの回復動作中にインクが流動すると、定常的にインクが流動することになる。定常的にインクが流動すると水が蒸発しやすくなり、循環するインクの濃度が上昇しやすくなる。インクの濃度上昇を抑制すべく、一定時間の経過によりインクに水を加える機構をインクジェット記録装置に設けることが好ましい。さらに、インクの濃度を検出する検出器をインクジェット記録装置に配設し、検知したインクの濃度上昇と連動させてインクに水を加えることが好ましい。
【0042】
図8は、吐出口近傍におけるインクの流動状態を説明する模式図である。吐出口近傍におけるインクの流動状態は2種類に大別される。1つ目は、
図8(a)に示すような、吐出口1のメニスカス12の近傍に循環流が生じない流動状態である。2つ目は、
図8(b)に示すような、吐出口1のメニスカス12の近傍に循環流が生ずる流動状態である。流路内のインクの流速が同等であっても、メニスカス12の近傍におけるインクの流動状態は一定にならない場合がある。インクがいずれの流動状態になるのかは、流路内のインクの流速よりも、吐出口形成部材5の厚さ(c)、流路(第1流路17及び第2流路18)の高さ(d)、及び吐出口1の直径(e)に依存すると考えられる。例えば、流路の高さ(d)と吐出口1の直径(e)が同等である場合、吐出口形成部材5の厚さ(c)が大きいと、
図8(b)に示すようにメニスカス12の近傍に循環流が生じやすくなる。
【0043】
次いで、
図9を参照しつつ、インクを間欠的に流動させる方法について説明する。
図9は、記録ヘッドの一例を部分的に示す断面図である。
図9に示すように、流入口210から流入したインクは、インクの流動手段である循環ポンプ206の作用によって矢印の方向へと流動し、流出口214から流出する。また、循環ポンプ206は、インクを間欠的に流動させることができるポンプである。このため、循環ポンプ206を駆動させることで、吐出口1と吐出素子4の間にインクを間欠的に流動させることができる。
【0044】
本発明のインクジェット記録方法においては、画像を記録する際の記録ヘッドの走査速度、すなわち、記録ヘッドの走査の際の移動速度を、記録速度の高速化の観点で好ましくは30インチ/秒以上、さらに好ましくは35インチ/秒以上とすることができる。また、記録ヘッドの走査の際の移動速度は70インチ/秒以下とすることが好ましい。記録ヘッドの走査の際の移動速度が70インチ/秒以下であることにより、記録ヘッドが停止した際の慣性力が抑えられ、吐出口からインクが溢れにくくなる。その結果、長期使用時の画像の色調変化をより抑制しやすくなる。
【0045】
本発明のインクジェット記録方法に用いる記録ヘッドにおいて、第1吐出口列と第2吐出口列との距離を1.8mm以下とすることができる。第1吐出口列と第2吐出口列との間に別の吐出口列が配置されていてもよく、第1吐出口列と第2吐出口列が隣接していてもよい。吐出口列間の距離が短いと、吐出口列を密に配置できるため、小型化、高画質化が図りやすいものの、インクが混色しやすい。第1吐出口列と第2吐出口列との距離を1.8mm以下とした場合、第1インクの静的表面張力γs1と、第2インクの静的表面張力γs2とが、γs1≧γs2の関係を満たすことで、長期使用時にもインクの混色による画像の色調変化を抑制することができる。第1吐出口列と第2吐出口列との距離は、0.1mm以上とすることが好ましく、0.5mm以上とすることがさらに好ましい。
【0046】
本発明のインクジェット記録方法は、上記のインクジェット記録装置を使用して画像を記録する工程(記録工程)を有する。記録工程では、具体的には、記録ヘッドの吐出口から吐出したインクを記録媒体に付与して画像を記録する。画像を記録する対象の記録媒体としては、どのようなものを用いてもよい。なかでも、普通紙や非コート紙などのコート層を有しない記録媒体、及び、光沢紙やアート紙などのコート層を有する記録媒体のような、浸透性を有する紙を用いることが好ましい。
【0047】
本発明のインクジェット記録方法は、記録工程によってインクが付与された記録媒体を加熱する工程(加熱工程)を有しなくてもよい。インクが付与された記録媒体を加熱すると、その加熱工程に伴い、装置本体内の温度が上昇し、記録ヘッドのメニスカスからの水の蒸発が進みやすいと考えられる。したがって、温度上昇による影響を低減することで、長期使用時にもインクの混色による画像の色調変化を抑制しやすいように、上記加熱工程を行わなくてもよい。
【0048】
(クリーニング工程)
本発明のインクジェット記録方法は、記録ヘッドの複数の吐出口列が所定の方向に配列した吐出口面をワイピングするクリーニング工程をさらに有することが好ましい。クリーニング工程は、例えば、吐出口面をワイピングするクリーニング手段を備えたインクジェット記録装置を用いて行うことができる。ワイピングの方法としては、ゴムなどの弾性部材からなるワイパー部材を吐出口面に当接、移動させ払拭する方法や、不織布などの吸収性部材を吐出口面に押圧しインクを吸収する方法などが挙げられる。本発明においては、ワイピングの方式が、ワイパー部材を吐出口列の配列方向と平行方向に移動させる方式、又は不織布を吐出口面に押圧しインクを吸収させる方式であることが好ましい。これらの方式でワイピングを行うことで、隣接する吐出口列間のインクの溢れ及び析出した色材を効率的に除去でき、長期使用時にも混色による画像の色調変化を抑制することができる。
【0049】
<インク>
本発明のインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置では、複数のインクを使用し、記録ヘッドの吐出口から吐出したインクを記録媒体に付与して画像を記録する工程を有する。複数のインク(インクセット)は、インクの流動方向に対して、上流側の吐出口列(第1吐出口列)から吐出する第1インクと、下流側の吐出口列(第2吐出口列)から吐出する第2インクとを含む。また、第1インクの静的表面張力γs1と、第2インクの静的表面張力γs2とは、γs1≧γs2の関係を満たす。
【0050】
インクの静的表面張力は、後述するインクに含有させる界面活性剤や水溶性有機溶剤の種類及び量を調整することによって適宜制御することができる。界面活性剤と水溶性有機溶剤を併用してインクの静的表面張力を調整してもよい。インクの静的表面張力は、白金プレートを用いたプレート法によって測定することができる。後述する実施例においては、自動表面張力計(商品名「CBVP-Z型」、協和界面科学製)を使用してインクの静的表面張力を測定した。
【0051】
第1インクの静的表面張力γs1と、第2インクの静的表面張力γs2とが、γs1≧γs2の関係を満たす範囲において、γs1及びγs2の値は、24mN/m以上42mN/m以下であることが好ましい。第1インク及び第2インクの静的表面張力の差分(γs1-γs2)は3mN/m以下であることが好ましく、2mN/m以下であることがさらに好ましく、また、0mN/m以上である。
【0052】
以下、第1インク及び第2インクを構成する各成分やインクの物性について詳細に説明する。
【0053】
(色材)
インクに含有させる色材としては、顔料や染料を用いることができる。なかでも、顔料が好ましい。インク中の色材の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.10質量%以上15.00質量%以下であることが好ましく、0.30質量%以上10.00質量%以下であることがさらに好ましい。
【0054】
顔料の具体例としては、カーボンブラック、酸化チタンなどの無機顔料;アゾ、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、イミダゾロン、ジケトピロロピロール、ジオキサジンなどの有機顔料を挙げることができる。なかでも、カーボンブラックや有機顔料が好ましい。
【0055】
顔料の分散方式としては、分散剤として樹脂を用いた樹脂分散顔料や、顔料の粒子表面に親水性基が結合している自己分散顔料などを用いることができる。また、顔料の粒子表面に樹脂を含む有機基を化学的に結合させた樹脂結合型顔料や、顔料の粒子表面を樹脂などで被覆したマイクロカプセル顔料などを用いることができる。なかでも、吐出性の観点から、樹脂分散顔料がより好ましい。
【0056】
顔料を水性媒体中に分散させるための樹脂分散剤としては、アニオン性基の作用によって顔料を水性媒体中に分散させうるものを用いることが好ましい。樹脂分散剤としては、後述するような樹脂、なかでも水溶性樹脂を用いることができる。インク中の顔料の含有量(質量%)は、樹脂分散剤の含有量に対する質量比率で、0.3倍以上10.0倍以下であることが好ましい。
【0057】
自己分散顔料としては、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基などのアニオン性基が、顔料の粒子表面に直接又は他の原子団(-R-)を介して結合しているものを用いることができる。アニオン性基は、酸型及び塩型のいずれであってもよく、塩型である場合は、その一部が解離した状態及び全てが解離した状態のいずれであってもよい。アニオン性基が塩型である場合において、カウンターイオンとなるカチオンとしては、アルカリ金属カチオン、アンモニウム、有機アンモニウムなどを挙げることができる。他の原子団(-R-)の具体例としては、炭素原子数1乃至12の直鎖又は分岐のアルキレン基;フェニレン基やナフチレン基などのアリーレン基;カルボニル基;イミノ基;アミド基;スルホニル基;エステル基;エーテル基などを挙げることができる。また、これらの基を組み合わせた基であってもよい。
【0058】
染料としては、アニオン性基を有するものを用いることが好ましい。染料の具体例としては、アゾ、トリフェニルメタン、(アザ)フタロシアニン、キサンテン、アントラピリドンなどの染料を挙げることができる。
【0059】
(樹脂)
インクには、樹脂を含有させることができる。インク中の樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.10質量%以上20.00質量%以下であることが好ましく、0.50質量%以上15.00質量%以下であることがさらに好ましい。
【0060】
樹脂は、(i)顔料の分散状態を安定化させるため、すなわち、樹脂分散剤やその補助としてインクに添加することができる。また、(ii)記録される画像の各種特性を向上させるためにインクに添加することができる。樹脂の形態としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、及びこれらの組み合わせなどを挙げることができる。また、樹脂は、水性媒体に溶解しうる水溶性樹脂であってもよく、水性媒体中に分散する樹脂粒子であってもよい。樹脂粒子は、色材を内包する必要はない。顔料を分散するための分散剤として樹脂を用いている場合は、分散剤としての樹脂の他に、さらに別の樹脂を含有させることが好ましい。
【0061】
本明細書において「樹脂が水溶性である」とは、その樹脂を酸価と等モル量のアルカリで中和した場合に、動的光散乱法により粒子径を測定しうる粒子を形成しない状態で水性媒体中に存在することを意味する。樹脂が水溶性であるか否かについては、以下に示す方法にしたがって判断することができる。まず、酸価相当のアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)により中和された樹脂を含む液体(樹脂固形分:10質量%)を用意する。次いで、用意した液体を純水で10倍(体積基準)に希釈して試料溶液を調製する。そして、試料溶液中の樹脂の粒子径を動的光散乱法により測定した場合に、粒子径を有する粒子が測定されない場合に、その樹脂は水溶性であると判断することができる。この際の測定条件は、例えば、以下のようにすることができる。
[測定条件]
SetZero:30秒
測定回数:3回
測定時間:180秒
【0062】
粒度分布測定装置としては、動的光散乱法による粒度分析計(例えば、商品名「UPA-EX150」、日機装製)などを使用することができる。勿論、使用する粒度分布測定装置や測定条件などは上記に限られるものではない。
【0063】
水溶性樹脂の酸価は、100mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが好ましい。樹脂粒子を構成する樹脂の酸価は、5mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることが好ましい。本明細書において、樹脂の酸価は、水酸化カリウム-メタノール滴定液を用いた電位差滴定装置により測定される値をとることができる。水溶性樹脂の重量平均分子量は、3,000以上15,000以下であることが好ましい。樹脂粒子を構成する樹脂の重量平均分子量は、1,000以上2,000,000以下であることが好ましい。本明細書において、樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の値として測定することができる。動的光散乱法により測定される樹脂粒子の体積平均粒子径は、100nm以上500nm以下であることが好ましい。
【0064】
樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂などを挙げることができる。なかでも、アクリル系樹脂やウレタン系樹脂が好ましい。
【0065】
アクリル系樹脂としては、親水性ユニット及び疎水性ユニットを構成ユニットとして有するものが好ましい。なかでも、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットと、芳香環を有するモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマーの少なくとも一方に由来する疎水性ユニットと、を有する樹脂が好ましい。特に、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットと、スチレン及びα-メチルスチレンの少なくとも一方のモノマーに由来する疎水性ユニットとを有する樹脂が好ましい。これらの樹脂は、顔料との相互作用が生じやすいため、顔料を分散させるための樹脂分散剤として好適に利用することができる。
【0066】
親水性ユニットは、アニオン性基などの親水性基を有するユニットである。親水性ユニットは、例えば、親水性基を有する親水性モノマーを重合することで形成することができる。親水性基を有する親水性モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボン酸基を有する酸性モノマー、これらの酸性モノマーの無水物や塩などのアニオン性モノマーなどを挙げることができる。酸性モノマーの塩を構成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、有機アンモニウムなどのイオンを挙げることができる。疎水性ユニットは、アニオン性基などの親水性基を有しないユニットである。疎水性ユニットは、例えば、アニオン性基などの親水性基を有しない、疎水性モノマーを重合することで形成することができる。疎水性モノマーの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、(メタ)アクリル酸ベンジルなどの芳香環を有するモノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸エステル系モノマーなどを挙げることができる。
【0067】
ウレタン系樹脂は、例えば、ポリイソシアネートと、それと反応する成分(ポリオールやポリアミン)とを反応させて得ることができる。また、架橋剤や鎖延長剤をさらに反応させたものであってもよい。
【0068】
ポリイソシアネートは、その分子構造中に2以上のイソシアネート基を有する化合物である。ポリイソシアネートとしては、脂肪族ポリイソシアネートや芳香族ポリイソシアネートなどを用いることができる。脂肪族ポリイソシアネートの具体例としては、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、3-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネートなどの鎖状構造を有するポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンなどの環状構造を有するポリイソシアネート;などを挙げることができる。
【0069】
芳香族ポリイソシアネートの具体例としては、トリレンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどを挙げることができる。
【0070】
上記のポリイソシアネートとの反応によってウレタン樹脂を構成するユニットとなる成分としては、ポリオールを用いることができる。本発明における「ポリオール」とは、分子中に2以上のヒドロキシ基を有する化合物を意味する。具体的には、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどの酸基を有しないポリオール;酸基を有するポリオール;などを挙げることができる。
【0071】
酸基を有しないポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどの数平均分子量が450~4,000程度である長鎖ポリオールなどを挙げることができる。
【0072】
酸基を有するポリオールとしては、構造中に、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基などの酸基を含むポリオールを挙げることができる。特に、酸基を有しないポリオールに加えて、ジメチロールプロピオン酸やジメチロールブタン酸などの酸基を有するポリオールをさらに用いて合成された水溶性ウレタン樹脂を用いることが好ましい。酸基は塩の形態であってもよい。塩を構成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、有機アンモニウムなどのイオンを挙げることができる。水溶性ウレタン樹脂が酸基を有する場合、通常、酸基がアルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウムなど)の水酸化物やアンモニア水などの中和剤により中和されることで水溶性を呈する。
【0073】
ポリアミンとしては、ジメチロールエチルアミン、ジエタノールメチルアミン、ジプロパノールエチルアミン、ジブタノールメチルアミンなどの複数のヒドロキシ基を有するモノアミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキシレンジアミン、イソホロンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、水素添加ジフェニルメタンジアミン、ヒドラジンなどの2官能ポリアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリアミドポリアミン、ポリエチレンポリイミンなどの3官能以上のポリアミン;などを挙げることができる。なお、便宜上、複数のヒドロキシ基と、1つの「アミノ基、イミノ基」を有する化合物も「ポリアミン」として列挙した。
【0074】
ウレタン樹脂を合成する際には、架橋剤や鎖延長剤を用いることができる。通常、架橋剤はプレポリマーの合成の際に用いられ、鎖延長剤は予め合成されたプレポリマーに対して鎖延長反応を行う際に用いられる。基本的には、架橋剤や鎖延長剤としては、架橋や鎖延長など目的に応じて、水や、ポリイソシアネート、ポリオール、ポリアミンなどから適宜に選択して用いることができる。鎖延長剤として、ウレタン樹脂を架橋させることができるものを用いることもできる。
【0075】
オレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのα-オレフィン重合体を挙げることができる。α-オレフィン重合体は、エチレン単位、プロピレン単位などのα-オレフィン単位を主構成単位とする。このα-オレフィン重合体は、エチレンの単独重合体やプロピレンの単独重合体であってもよく、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、及び4-メチル-1-ペンテンなどのα-オレフィンの共重合体であってもよい。共重合体としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、及びこれらの共重合体の組み合わせなどを挙げることができる。
【0076】
[樹脂粒子]
インクは、樹脂粒子を含有することが好ましい。本発明では、樹脂粒子として、ガラス転移温度Tgが、記録ヘッドの加温温度より高い樹脂粒子を含有するインクを用いることが好ましい。特に、第1インクが、ガラス転移温度Tgが記録ヘッドの加温温度より高い樹脂粒子を含有することがより好ましい。樹脂粒子は、インクの乾燥時、色材同士の凝集を緩和することで、吐出口面への析出を抑制することにより、インクの混色による画像の色調変化を抑制できる。樹脂粒子としては、例えば、アクリル系樹脂粒子、オレフィン系樹脂粒子、ウレタン系樹脂粒子などを挙げることができる。樹脂粒子のガラス転移温度は、樹脂粒子そのものについて、示差走査熱量計(DSC)などの熱分析装置を用いて測定することができる。
【0077】
[水溶性ウレタン樹脂]
インクは、水溶性ウレタン樹脂を含有することが好ましい。水溶性樹脂のなかでも、水溶性ウレタン樹脂は、メニスカスの近傍において速やかに相互作用するとともに、安定な分子膜を形成する。このため、水溶性ウレタン樹脂を含有するインクを用いることで、慣性力による吐出口からのインクの溢れの発生を抑えやすくなり、長期使用時の画像の色調変化を抑制しやすい。
【0078】
[ブロック共重合体]
インクは、ブロック共重合体を含有することが好ましい。ブロック共重合体は、通常、同種又は同様の性質を有する単量体に由来する複数のブロックが配列された構造を有する。インクジェット用の水性インクに一般的に用いられるブロック共重合体は、以下のような構造を有する。例えば、疎水性ブロック(Aブロック)及びイオン性の親水性ブロック(Bブロック)を有するABブロック構造;このABブロック構造に、さらにノニオン性の親水性ブロック(Cブロック)が加わったABCブロック構造;などがある。すなわち、ブロック共重合体は、親水性ブロックと疎水性ブロックがそれぞれ局在化した構造を有するため、界面活性能が高く、メニスカスの近傍に速やかに配向する。このため、ブロック共重合体を含有するインクを用いると、メニスカスが安定化し、慣性力による吐出口からのインクの溢れの発生を抑えやすくなり、長期使用時の画像の色調変化を抑制しやすい。
【0079】
ブロック共重合体は、アニオンリビング重合法、カチオンリビング重合法、グループトランスファー重合法、原子移動ラジカル重合法、可逆的付加開裂連鎖移動重合法などの通常の合成方法によって合成することができる。ブロック共重合体は、樹脂粒子ではなく水溶性樹脂であることが好ましい。
【0080】
(界面活性剤)
インクは、界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤は、疎水性基が大気側に向くとともに、親水性基がインク側に向くようにして、気液界面に配向するため、メニスカスをさらに安定化することができる。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などを挙げることができる。なかでも、インクの信頼性の観点から、ノニオン性界面活性剤を用いることが好ましい。
【0081】
ノニオン性界面活性剤としては、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどの炭化水素系の界面活性剤;パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物などのフッ素系の界面活性剤;ポリエーテル変性シロキサン化合物などのシリコーン系の界面活性剤などを挙げることができる。なかでも、炭化水素系の界面活性剤が好ましく、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物がさらに好ましい。
【0082】
アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物のなかでも、下記一般式(1)で表される化合物を用いることが特に好ましい。第1インクは、下記一般式(1)で表される化合物を含有することが好ましい。第2インクも、下記一般式(1)で表される化合物を含有してもよい。
【0083】
(前記一般式(1)中、x及びyは、それぞれ独立に0以上の数を表し、x+yは、0以上50以下である)
【0084】
一般式(1)で表される化合物は、界面への配向速度が速い。このため、インクが乾燥する際に、色材に速やかに配向吸着し、析出を抑制することができるため、長期使用時に、インクの混色による画像の色調変化を抑制することができる。一般式(1)中、x及びyは、それぞれ独立に0以上の数を表し、1以上であることが好ましい。また、一般式(1)中、x+yは、0以上50以下であり、1以上50以下であることが好ましく、1.3以上10以下であることがさらに好ましい。インク中の一般式(1)で表される化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.05質量%以上5.00質量%以下であることが好ましく、0.10質量%以上3.00質量%以下であることがさらに好ましい。
【0085】
(水性媒体)
本発明のインクジェット記録方法で用いるインクは、水性媒体として少なくとも水を含有する水性のインクであることが好ましい。インクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができる。水としては、脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。水性インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.00質量%以上95.00質量%以下であることが好ましい。また、水性インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.00質量%以上48.00質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、アルコール類、(ポリ)アルキレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類、含硫黄化合物類などのインクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができる。
【0086】
(その他添加剤)
インクには、上記成分以外にも必要に応じて、消泡剤、その他の界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤など種々の添加剤を含有させてもよい。
【0087】
(明度)
本発明のインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置で用いるインクにおいては、第1インクの明度が、第2インクの明度より高いことが好ましい。インクの混色は、2種のインクのうち、明度の低いインクが明度の高いインクに入り込む場合に目立ちやすく、明度の高いインクが明度の低いインクに入り込む場合に目立ちにくい。したがって、隣接する2つの吐出口列から吐出するインクのうち、インク流動方向に対して上流側に位置する第1吐出口列の第1インクの明度を、下流側に位置する第2インクの明度より高くすることが好ましい。これにより、混色が生じた際にも明度の高いインクが明度の低いインクに入り込むため、画像の色調変化を小さくして、混色を目立ちにくくすることができ、インクの混色による画像の色調変化をさらに抑制できる。
【0088】
インクの明度の関係は、測定に適した吸光度の値となるように、適切な倍率に水で希釈したインクの明度を分光光度計で測定することにより把握できるが、インク中の色材の含有量によりインクの明度の関係が変わる場合もある。複数のインクの明度を比較する場合は、複数のインクを同じ倍率になるように、水で希釈する必要がある。
【0089】
第1インク及び第2インクは、異なる色相であっても、同一の色相であってもよく、どの色相の組み合わせであってもよい。なかでも、第1インク及び第2インクは、異なる色相であることが好ましい。色相が異なる場合、インクジェット記録方法に用いられる水性インクについての基本色の明度の高低の序列は、小さい方から大きい方に向かって順に、通常、ブラック、シアン、マゼンタ、及びイエローの順序となる。
【0090】
(比重)
第1インクの比重d1と、第2インクの比重d2とは、d1≧d2の関係を満たすことが好ましい。吐出口列から下向きにインクを吐出するよう記録ヘッドが配置されている場合、インクの混色は、第1インクが第2インクの吐出口に到達後、第2インクの吐出口内部へ重力と反対方向に移動することで発生する。ここで、第1インクの比重d1が第2インクの比重d2より低い場合、第1インクが相対的に重力と反対方向に移動しやすいため、吐出口内部に入り込むことで混色が促進されやすい。これに対し、第1インクの比重d1が第2インクの比重d2より高い場合、第1インクが第2インクの吐出口に到達した際にも、第2インクの吐出口内への第1インクの移動による混色をさらに抑制することができる。インクの比重は浮き型や振動型の比重計を用いて測定することができる。
【実施例0091】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0092】
<樹脂の準備>
(樹脂分散剤)
樹脂分散剤として用いる、酸価150mgKOH/g、重量平均分子量8,000のスチレン-アクリル酸エチル-アクリル酸共重合体(水溶性樹脂)を用意した。樹脂20.0部を、その酸価と等モルの水酸化カリウムで中和するとともに、適量の純水を加え、樹脂(固形分)の含有量が20.00%である樹脂分散剤の水溶液を調製した。
【0093】
(樹脂粒子1~3)
水1,160mLを反応器内で90℃に加熱した。また、水160mLに重合開始剤として過硫酸カリウム1.39gを混合し、開始剤溶液を調製した。調製した開始剤溶液のうち32mLを反応器に加えて撹拌した。これとは別個に、水159.4mLに、表1に示す種類及び使用量(g)のモノマー、連鎖移動剤としてイソオクチルチオグリコレート1.6g、及び乳化剤の30%水溶液9.98gを混合してモノマー混合液を調製した。乳化剤としては、商品名「Rhodafac RS 710」(Rhodia Novecare製)を用いた。調製したモノマー混合液を30分間かけて反応器内に滴下すると同時に、開始剤溶液129.4gを30分間かけて反応器内に滴下して撹拌した。得られた反応物を撹拌し、90℃で3時間維持した。50℃にまで冷却した後、50%水酸化カリウム水溶液を添加してpHを8.5に調整した。内容物を周囲温度にまで冷却した後、200メッシュのフィルタでろ過し、脱イオン水を添加して、樹脂粒子1~3の分散液(樹脂の含有量30.00%)を得た。得られた分散液中の樹脂粒子の組成を表1に示す。表1中のモノマーの略称の意味を以下に示す。
・αMSt:α-メチルスチレン
・St:スチレン
・BzA:アクリル酸ベンジル
・MAA:メタクリル酸
【0094】
(ガラス転移温度)
樹脂粒子を含む液体を60℃で乾固させて得た樹脂粒子2mgをアルミ容器に入れて封管し、測定用の試料を用意した。用意した試料につき、示差走査熱量計(商品名「Q1000」、TA instruments製)を使用し、以下に示す温度プログラムにしたがって熱分析して昇温曲線を作成した。作成した昇温曲線(横軸:温度、縦軸:熱量)における、低温側の曲線中の2点を通って高温側まで延長した直線と、曲線中の階段状の変化部分の勾配が最大になる点で引いた接線との交点における温度を「樹脂(粒子)のガラス転移温度(Tg)」とした。樹脂粒子1~3のTgを表1に示す。
[温度プログラム]:
(1)200℃まで10℃/分で昇温
(2)200℃から-50℃まで5℃/分で降温
(3)-50℃から200℃まで10℃/分で昇温
【0095】
【0096】
(ウレタン樹脂)
温度計、撹拌機、窒素導入管、及び還流管を備えた4つ口フラスコを準備した。このフラスコに、イソホロンジイソシアネート29部、数平均分子量2,000のポリプロピレングリコール39部、ジメチロールプロピオン酸12部、ジブチル錫ジラウリレート0.02部、及びメチルエチルケトン120部を添加した。そして、窒素ガス雰囲気下、80℃で6時間反応させた。その後、適量のメタノールを添加し、重量平均分子量が12,000になるまで80℃で反応させた。反応後、40℃まで冷却してイオン交換水を添加し、ホモミキサーで高速撹拌しながら、水酸化カリウム水溶液を添加した。この樹脂溶液から、加熱減圧下でメチルエチルケトンを留去し、樹脂(固形分)の含有量が20.00%である、ウレタン樹脂の水溶液を調製した。
【0097】
<顔料分散液の調製>
(顔料分散液1)
顔料(C.I.ピグメントブルー15:3)を10.0部、先に調製した樹脂分散剤の水溶液を15.0部、及び純水を75.0部混合して混合物を得た。得られた混合物と0.3mm径のジルコニアビーズ200部をバッチ式の縦型サンドミル(アイメックス製)に入れ、水冷しながら5時間分散させた後、遠心分離して粗大粒子を除去した。ポアサイズ3.0μmのセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過して、顔料の含有量が10.00%、樹脂分散剤(樹脂)の含有量が3.00%である顔料分散液1を調製した。
【0098】
(顔料分散液2)
水5.5gに濃塩酸5.0gを溶かした溶液に、温度5℃で、4-アミノ-1,2-ベンゼンジカルボン酸1.6gを加えた。温度10℃以下を維持するために、アイスバスで撹拌しながら、上記で得られた溶液に、水9.0gに亜硝酸ナトリウム1.8gを溶かした溶液を加えた。15分撹拌後、比表面積が220m2/gであり、DBP吸油量が105mL/100gであるカーボンブラック6.0gを加え、混合した。さらに、15分撹拌後、得られたスラリーをろ紙(標準用ろ紙No.2、アドバンテック製)でろ過し、カーボンブラックを十分に水洗し、温度110℃のオーブンで乾燥させた。得られたカーボンブラックに水を添加して、カーボンブラックの粒子表面に-C6H3-(COONa)2基が結合した自己分散顔料が水中に分散された状態の顔料分散液(顔料の含有量が10.00%)を得た。その後、イオン交換法を用いて、顔料分散液のナトリウムイオンをカリウムイオンに置換して、顔料分散液2を得た。
【0099】
(顔料分散液3)
市販の顔料分散液(商品名「CAB-O-JET250C」、キャボット製)に適量のイオン交換水を加えて、顔料の含有量が10.00%である顔料分散液3を調製した。顔料分散液3中の顔料は、顔料(C.I.ピグメントブルー15:4)の粒子表面に、ベンゼン環を介してスルホン酸基が結合した自己分散顔料である。
【0100】
(顔料分散液4)
顔料の種類をカーボンブラック(比表面積220m2/g、DBP吸油量105mL/100g)に変更したこと以外は、前述の顔料分散液1と同様の手順で、顔料の含有量が10.00%、樹脂分散剤(樹脂)の含有量が3.00%である顔料分散液4を得た。
【0101】
(顔料分散液5)
顔料の種類をC.I.ピグメントレッド122に変更したこと以外は、前述の顔料分散液1と同様の手順で、顔料の含有量が10.00%、樹脂分散剤(樹脂)の含有量が3.00%である顔料分散液5を得た。
【0102】
(顔料分散液6)
顔料の種類をC.I.ピグメントイエロー74に変更したこと以外は、前述の顔料分散液1と同様の手順で、顔料の含有量が10.00%、樹脂分散剤(樹脂)の含有量が3.00%である顔料分散液6を得た。
【0103】
<インクの調製>
表2(表2-1~表2-3)の上段に示す各成分(単位:%)を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ3.0μmのセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過して、各インクを調製した。「アセチレノールE60」、「アセチレノールE100」、及び「アセチレノールE40」は、川研ファインケミカル製の界面活性剤の商品名であり、それぞれ一般式(1)中の「x+y」の値は、「6」、「10」、及び「4」である。「ゾニールFS-3100」は、デュポン製のフッ素系のノニオン性界面活性剤の商品名である。表2の下段に、インクの静的表面張力(mN/m)、及び比重を示す。インクの静的表面張力は、自動表面張力計(商品名「CBVP-Z型」、協和界面科学製)を使用し、25℃の条件下で測定した。インクの比重は、振動型の測定法に基づくデジタル比重計(商品名「携帯型密度計DMA35」、アントンパール製)を使用して測定した。
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
<評価>
図2及び
図3に示す主要部を有するインクジェット記録装置を用い、
図3に示すインクカートリッジにインクを充填し、温度25℃、相対湿度50%の環境で、以下に示す各評価を行った。記録ヘッドとしては、
図4に示す構成を有するシリアル方式の記録ヘッド(循環シリアルヘッド)を使用した。この記録ヘッドは、1つの吐出口につき、吐出口と吐出素子の間で連通する第1流路及び第2流路を具備し、ポンプを利用して第1流路内のインクを第2流路へと流動させるものである。吐出口列1列当たりの吐出口数は256個、吐出口密度は600dpi、1吐出口当たりのインク吐出量は8ngである。以下の評価で記録する罫線は、吐出口列を2列分使用し、1/600インチ×1/600インチの領域に各吐出口列からインク滴を1滴付与する条件で記録した。使用したインク(第1インク及び第2インクのインクセット)と吐出口列(
図4中の符号)については表3(表3-1及び表3-2)に記載した条件で画像を記録した。また、記録ヘッドにおける流動工程(循環流)の有無、インクの流速、走査方式、走査速度、吐出口列間の距離、及び記録ヘッド内のインクの加温有無については表4(表4-1及び表4-2)に記載した条件で画像を記録した。記録ヘッド内のインクの加温は、インクの温度が60℃となるように実施した。また、記録ヘッドの記録媒体領域外での予備吐出動作は実施しなかった。さらに、インクが付与された記録媒体への加熱工程は実施しなかった。表3には、第1インクの静的表面張力γs
1と第2インクの静的表面張力γs
2との大小関係、及び第1インクの比重d
1と第2インクの比重d
2との大小関係を併せて示した。
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
(罫線乱れ)
上記のインクジェット記録装置を使用し、記録ヘッドを往復走査させて、
図10に示す記録媒体の中央部に吐出口列方向と同一方向の長さ25cmの罫線がある「パターン1」を、第1インクを用いて1パスで10枚連続記録した。記録媒体としては、商品名「高品位専用紙HR-101SA4」(キヤノン製)を使用した。記録した罫線を目視で確認して、以下に示す評価基準にしたがって、罫線のズレによる画質として、罫線乱れを評価した。本発明においては、以下に示す評価基準で、「A」及び「B」を許容できるレベル、「C」を許容できないレベルとした。結果を表5(表5-1及び表5-2)に示す。
A:10枚すべての罫線において、乱れがなかった。
B:10枚中1~2枚で、罫線の乱れが確認された。
C:10枚中3枚以上で、罫線の乱れが確認された。
【0113】
(混色)
本実施例では、1/600インチ×1/600インチの領域に1滴当たりの質量が8ngのインク滴を2滴付与する条件で記録したベタ画像を、記録デューティが100%であると定義する。第2インクを用いて、記録デューティが100%である単色のベタ画像を記録した。得られた画像を評価用画像1とした。その後、吐出口面を1回ワイピングした後、第1インクと第2インクを用いて、各インクの記録デューティが50%で合計の記録デューティが100%となるように2次色のベタ画像(
図10に示すパターン2)を20枚連続で記録した後、1分休止した。ワイピング、連続記録、休止の一連の動作を所定の回数繰り返した後、再び第2インクを用いて、記録デューティが100%である単色のベタ画像を記録し、評価用画像2とした。記録媒体には、A4サイズの普通紙(商品名「CS-068」、キヤノン製)を用い、パターン2のベタ画像はA4サイズの記録媒体の周囲に2cmの余白を設けて記録した。
【0114】
上記のワイピングの方法は、以下のようにして行った。実施例1~20、23~32、比較例1~6、及び参考例1では、ウレタン樹脂で形成されたブレード状のワイパーを吐出口列の配列方向と平行方向に移動させて払拭する方式でワイピングを行った。実施例21では、不織布を吐出口面に押圧し、インクを吸収させる方式でワイピングを行った。実施例22及び33では、ウレタン樹脂で形成されたブレード状のワイパーを吐出口列の配列方向と直交する方向に移動させて払拭する方式でワイピングを行った。
【0115】
評価用画像1と評価用画像2を目視で観察して、以下に示す評価基準にしたがって、評価用画像2に混色による色調変化が確認できるかを評価した。本発明においては、「A」及び「B」を許容できるレベル、「C」及び「D」を許容できないレベルとした。結果を表5(表5-1及び表5-2)に示す。
A:一連の動作を800回繰り返しても、評価用画像2に混色が発生しなかった。
B:一連の動作を600回以上800回未満繰り返すと、評価用画像2に混色が発生した。
C:一連の動作を400回以上600回未満繰り返すと、評価用画像2に混色が発生した。
D:一連の動作が400回未満で、評価用画像2に混色が発生した。
【0116】
【0117】
【0118】
比較例3~5では、インクを加温していないため、記録ヘッドを往復運動させて画像を記録しても、インクの混色による画像の色調変化が発生しなかったと考えられる。ただし、吐出安定性が不十分であり、予備吐出動作を行う必要があった。参考例1は、記録ヘッドとして記録媒体の幅相当のライン方式の記録ヘッドを用いた例である。参考例1では、記録ヘッドの往復運動をせずに画像を記録しているため、混色による色調低下は発生しなかった。参考例1では、記録ヘッドがシリアル方式の記録ヘッドと比較して大型化してしまい、記録装置を小型化することができなかった。
【0119】
なお、本実施形態の開示は、以下の方法及び構成を含む。
(方法1)インクを吐出する複数の吐出口と、前記インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子と、前記吐出口と前記吐出素子の間で連通してその内部に前記インクが流通する第1流路及び第2流路と、を具備する記録ヘッドから前記インクを吐出して画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記吐出口から前記インクを吐出する吐出工程と、
前記吐出工程とは別の、前記第1流路内の前記インクを前記第2流路へと流動させる流動工程と、
前記記録ヘッド内の前記インクを加温する工程と、を有し、
前記記録ヘッドが、前記複数の吐出口が所定の方向に配列した吐出口列を複数有する吐出素子基板を備えるとともに、前記吐出口列の配列方向と交差する方向に走査するシリアル方式の記録ヘッドであり、
前記第1流路及び前記第2流路は、前記記録ヘッドが走査する方向と平行に配置され、かつ、前記インクの流動方向が同一であり、
前記複数の吐出口列は、第1インクを吐出する第1吐出口列及び第2インクを吐出する第2吐出口列を含むとともに、前記インクの流動方向に対して、前記第1吐出口列が上流側、前記第2吐出口列が下流側に配置され、
前記第1インクの静的表面張力γs1と、前記第2インクの静的表面張力γs2とが、γs1≧γs2の関係を満たすことを特徴とするインクジェット記録方法。
(方法2)前記第1インクが、下記一般式(1)で表される化合物を含有する方法1に記載のインクジェット記録方法。
【0120】
(前記一般式(1)中、x及びyは、それぞれ独立に0以上の数を表し、x+yは、0以上50以下である)
【0121】
(方法3)前記第1インクが、ガラス転移温度Tgが前記記録ヘッドの加温温度より高い樹脂粒子を含有する方法1又は2に記載のインクジェット記録方法。
(方法4)前記第1インクの明度が、前記第2インクの明度より高い方法1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
(方法5)前記第1インクの比重d1と、前記第2インクの比重d2とが、d1≧d2の関係を満たす方法1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
(方法6)前記複数の吐出口列が所定の方向に配列した吐出口面をワイピングするクリーニング工程をさらに有し、
前記ワイピングの方式が、ワイパー部材を前記吐出口列の前記配列方向と平行方向に移動させる方式、又は不織布を前記吐出口面に押圧してインクを吸収させる方式である方法1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
(方法7)前記記録ヘッドの前記走査の際の移動速度が、70インチ/秒以下である方法1乃至6のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
(方法8)前記インクの前記流動の際の流速が、1.0mm/s以上100.0mm/s以下である方法1乃至7のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
(方法9)前記第1吐出口列と前記第2吐出口列との距離が、1.8mm以下である方法1乃至8のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
(構成1)インクを吐出する複数の吐出口と、前記インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子と、前記吐出口と前記吐出素子の間で連通してその内部に前記インクが流通する第1流路及び第2流路と、を具備する記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置であって、
さらに、前記吐出素子とは別の、前記第1流路内の前記インクを前記第2流路へと流動させる流動手段と、
前記記録ヘッド内の前記インクを加温する機構と、を備え、
前記記録ヘッドが、前記複数の吐出口が所定の方向に配列した吐出口列を複数有する吐出素子基板を備えるとともに、前記吐出口列の配列方向と交差する方向に走査するシリアル方式の記録ヘッドであり、
前記第1流路及び前記第2流路は、前記記録ヘッドが走査する方向と平行に配置され、かつ、前記インクの流動方向が同一であり、
前記複数の吐出口列は、第1インクを吐出する第1吐出口列及び第2インクを吐出する第2吐出口列を含むとともに、前記インクの流動方向に対して、前記第1吐出口列が上流側、前記第2吐出口列が下流側に配置され、
前記第1インクの静的表面張力γs1と、前記第2インクの静的表面張力γs2とが、γs1≧γs2の関係を満たすことを特徴とするインクジェット記録装置。