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特開2024-178116インクジェット記録方法、インクジェット記録装置、及び水性インク
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  • 特開-インクジェット記録方法、インクジェット記録装置、及び水性インク 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178116
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法、インクジェット記録装置、及び水性インク
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20241217BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20241217BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241217BHJP
   B41J 2/18 20060101ALI20241217BHJP
   B41J 2/17 20060101ALI20241217BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20241217BHJP
【FI】
B41J2/14 603
B41M5/00 120
B41J2/14 209
B41J2/01 501
B41J2/18
B41J2/17
C09D11/322
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024085301
(22)【出願日】2024-05-27
(31)【優先権主張番号】P 2023096380
(32)【優先日】2023-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023096381
(32)【優先日】2023-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023096379
(32)【優先日】2023-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】政田 愛子
(72)【発明者】
【氏名】西野 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】荒木 和彦
(72)【発明者】
【氏名】杉江 美紗貴
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA14
2C056EC16
2C056EC17
2C056EC21
2C056EC29
2C056EC32
2C056EC45
2C056FA03
2C056FA10
2C056HA05
2C056HA15
2C056HA17
2C056KB16
2C057AF71
2C057AG12
2C057AG46
2C057AG71
2C057AK01
2C057AN01
2H186BA11
2H186DA12
2H186FA18
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB55
2H186FB58
4J039AD10
4J039AE04
4J039BA04
4J039BC09
4J039BC13
4J039BC50
4J039BC60
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE22
4J039EA43
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】インク循環式の記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置を使用しながらも、泡によるインクの吐出安定性の低下を抑制することが可能なインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】吐出口13と、吐出口13と連通する圧力室12と、吐出素子15と、圧力室13と接続する第1流路130及び第2流路140と、を具備する記録ヘッド1を備えるインクジェット記録装置を使用し、吐出口13から吐出した水性インクを記録媒体に付与して画像を記録するインクジェット記録方法である。記録ヘッド1が、第1流路130及び第2流路140のいずれからも圧力室12へと水性インクを供給可能に構成されており、水性インクの寿命時間0ミリ秒における動的表面張力が、60mN/m以下であり、第1流路130及び第2流路140の内壁面と水性インクとの接触角が、60°以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性インクを吐出するための吐出口と、前記吐出口と連通する圧力室と、前記圧力室に配置され、かつ、前記吐出口から前記水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子と、前記圧力室と接続する第1流路と、前記吐出素子を挟んで前記第1流路と反対側の位置で前記圧力室と接続する第2流路と、を具備する記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置を使用し、前記吐出口から吐出した前記水性インクを記録媒体に付与して画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記記録ヘッドが、前記第1流路及び前記第2流路のいずれからも前記圧力室へと前記水性インクを供給可能に構成されており、
前記水性インクの寿命時間0ミリ秒における動的表面張力が、60mN/m以下であり、
前記第1流路及び前記第2流路の内壁面と前記水性インクとの接触角が、60°以下であることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記水性インクの寿命時間0ミリ秒における動的表面張力が、30mN/m以上である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記内壁面と前記水性インクとの接触角が、40°以下である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記内壁面と前記水性インクとの接触角が、10°以上である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記水性インクが、ノニオン性界面活性剤を含有する請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記ノニオン性界面活性剤が、アセチレングリコール系のノニオン性界面活性剤である請求項5に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記水性インクが、そのSP値が15.0以下である第1水溶性有機溶剤を含有する請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記第1水溶性有機溶剤が、アルキレングリコールである請求項7に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
前記水性インクが、ノニオン性界面活性剤、及びそのSP値が15.0以下である第1水溶性有機溶剤を含有し、
前記第1水溶性有機溶剤が、アルキレングリコールである請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
前記第1流路及び前記第2流路が、それぞれ樹脂で形成されており、
前記水性インク中の水溶性有機溶剤の平均SP値と、前記樹脂のSP値との差が、4.0以下である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項11】
前記水性インクが、ウレタン樹脂を含有する請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項12】
前記ウレタン樹脂が、ポリアミンに由来するユニットを有し、
前記ウレタン樹脂中のウレタン結合と前記ポリアミンに由来するウレア結合の合計に占める、ウレタン結合の割合が、85モル%以上99モル%以下である請求項11に記載のインクジェット記録方法。
【請求項13】
前記水性インクの静的表面張力が、25mN/m以上である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項14】
前記記録ヘッドが、さらに、前記第1流路から前記圧力室へと供給する前記水性インクに負荷する圧力を調整する、前記第1流路に接続して配置される第1圧力調整手段と、
前記第1圧力調整手段から前記第1流路を介して前記圧力室内に前記水性インクを供給するとともに、前記第2流路を介して前記圧力室内の前記水性インクを回収するように前記水性インクを送液可能な循環ポンプと、
前記圧力室を介さずに前記第1流路と前記第2流路を接続するバイパス流路と、を具備し、
前記インクジェット記録装置が、さらに、前記水性インクを収容するインク収容部を備え、
前記インク収容部から供給された前記水性インクが、前記第1圧力調整手段及び前記第1流路を介して前記吐出口から吐出されるとともに、前記吐出口から吐出されなかった前記水性インクが、前記第2流路及び前記循環ポンプを介して前記第1流路へと循環する工程と、
前記インク収容部から供給された前記水性インクが、前記第1圧力調整手段及び前記第1流路を介して前記吐出口から吐出されるとともに、前記第1圧力調整手段、前記バイパス流路、及び前記第2流路を介して前記吐出口から吐出される工程と、を有する請求項1乃至13のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【請求項15】
前記記録ヘッドが、さらに、前記第2流路に接続して配置される第2圧力調整手段を具備し、
前記インク収容部から供給された前記水性インクが、前記第1圧力調整手段及び前記第1流路を介して前記吐出口から吐出されるとともに、前記吐出口から吐出されなかった前記水性インクが、前記第2流路、前記第2圧力調整手段、及び前記循環ポンプを介して前記第1流路へと循環する工程と、
前記インク収容部から供給された前記水性インクが、前記第1圧力調整手段及び第1流路を介して前記吐出口から吐出されるとともに、前記第1圧力調整手段、前記バイパス流路、前記第2圧力調整手段、及び前記第2流路を介して前記吐出口から吐出される工程と、を有する請求項14に記載のインクジェット記録方法。
【請求項16】
前記吐出素子が、発熱素子であり、
前記記録ヘッドが、前記発熱素子によって前記水性インクを加熱し、前記水性インク内に気泡を発生させて前記水性インクを吐出するサーマル方式の記録ヘッドである請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項17】
前記記録ヘッドが、さらに、前記記録ヘッド内の前記水性インクを加温する加温手段を具備する請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項18】
前記記録ヘッドが、さらに、前記発熱素子に対応する位置に配置される、前記発熱素子と前記圧力室内の前記水性インクとの接触を遮断する第1保護層と、
前記発熱素子に対応し、かつ、前記水性インクと接触する位置に配置される、金属材料で形成された第2保護層と、
前記第2保護層を陰極とし、前記水性インクを介して導通する部位を陽極とする電圧印加手段と、を具備する請求項16に記載のインクジェット記録方法。
【請求項19】
水性インクを吐出するための吐出口と、前記吐出口と連通する圧力室と、前記圧力室に配置され、かつ、前記吐出口から前記水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子と、前記圧力室と接続する第1流路と、前記吐出素子を挟んで前記第1流路と反対側の位置で前記圧力室と接続する第2流路と、を具備する記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置であって、
前記記録ヘッドが、前記第1流路及び前記第2流路のいずれからも前記圧力室へと前記水性インクを供給可能に構成されており、
前記水性インクの寿命時間0ミリ秒における動的表面張力が、60mN/m以下であり、
前記第1流路及び前記第2流路の内壁面と前記水性インクとの接触角が、60°以下であることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項20】
水性インクを吐出するための吐出口と、前記吐出口と連通する圧力室と、前記圧力室に配置され、かつ、前記吐出口から前記水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子と、前記圧力室と接続する第1流路と、前記吐出素子を挟んで前記第1流路と反対側の位置で前記圧力室と接続する第2流路と、を具備する記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置を使用し、前記吐出口から吐出した前記水性インクを記録媒体に付与して画像を記録するインクジェット記録方法に用いられる水性インクであって、
前記記録ヘッドが、前記第1流路及び前記第2流路のいずれからも前記圧力室へと前記水性インクを供給可能に構成されており、
寿命時間0ミリ秒における動的表面張力が、60mN/m以下であり、
前記第1流路及び前記第2流路の内壁面と前記水性インクとの接触角が、60°以下であることを特徴とする水性インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法、インクジェット記録装置、及び水性インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクを吐出する記録ヘッドとインク収容部との間でインクを循環させることで、流路中の気泡を排出するとともに、吐出口近傍のインクの増粘を抑制するインク循環式のインクジェット記録装置が知られている。インク循環式のインクジェット記録装置のなかには、記録ヘッドの外に設けられたポンプを用いてインクを循環させるタイプのものや、記録ヘッド内に設けられたポンプを用いてインクを循環させるタイプのものがある。
【0003】
例えば、記録ヘッド内に搭載した圧電方式の循環ポンプで記録ヘッド内のインクを循環させる、インク循環式の記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-195932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で提案されたインク循環式の記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置では、循環ポンプから圧力制御機構へ供給されたインクは供給流路を介して吐出口に供給され、吐出されなかったインクは回収流路を介して循環ポンプに回収される。但し、ベタ画像の記録などで所定期間内のインクの吐出量が増大する場合、吐出口に供給されるインクが次第に減少し、画像に白抜けが生ずることがあった。
【0006】
インク循環式の記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置を使用する場合における画像の白抜けの発生を抑制すべく、本発明者らは、種々の構成を採用することについて検討した。しかし、吐出口付近のインク流路内で泡が発生しやすく、発生した泡によってインクの不吐出が生ずることがあり、インクの吐出安定性が低下しやすくなるといった新たな課題が生ずることが判明した。
【0007】
したがって、本発明の目的は、インク循環式の記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置を使用しながらも、泡によるインクの吐出安定性の低下を抑制することが可能なインクジェット記録方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、このインクジェット記録方法に用いるインクジェット記録装置及び水性インクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、水性インクを吐出するための吐出口と、前記吐出口と連通する圧力室と、前記圧力室に配置され、かつ、前記吐出口から前記水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子と、前記圧力室と接続する第1流路と、前記吐出素子を挟んで前記第1流路と反対側の位置で前記圧力室と接続する第2流路と、を具備する記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置を使用し、前記吐出口から吐出した前記水性インクを記録媒体に付与して画像を記録するインクジェット記録方法であって、前記記録ヘッドが、前記第1流路及び前記第2流路のいずれからも前記圧力室へと前記水性インクを供給可能に構成されており、前記水性インクの寿命時間0ミリ秒における動的表面張力が、60mN/m以下であり、前記第1流路及び前記第2流路の内壁面と前記水性インクとの接触角が、60°以下であることを特徴とするインクジェット記録方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インク循環式の記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置を使用しながらも、泡によるインクの吐出安定性の低下を抑制することが可能なインクジェット記録方法を提供することができる。また、本発明によれば、このインクジェット記録方法に用いるインクジェット記録装置及び水性インクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】記録ヘッドの一例を示す模式図である。
図2】本発明のインクジェット記録装置の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
図3】本発明のインクジェット記録装置の一実施形態の内部構成を示す概略図である。
図4】記録素子基板のヒータ付近を模式的に示す平面図である。
図5】記録素子基板を図4におけるX-Y線に沿って垂直に切断した状態で模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、さらに本発明を詳細に説明する。本発明においては、化合物が塩である場合は、インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。また、インクジェット用の水性インクのことを、単に「インク」と記載することがある。物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。
【0012】
本発明者らは、インク循環式の記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置を使用する場合における、泡によるインクの吐出安定性の低下を抑制すべく、種々の検討を行った。具体的には、まず、インクの吐出口、吐出口と連通する圧力室、圧力室に配置される吐出素子、圧力室と接続する第1流路、吐出素子を挟んで第1流路と反対側の位置で圧力室と接続する第2流路を具備する記録ヘッドを用意した。次いで、この記録ヘッドを、第1流路及び第2流路の両方から圧力室へとインクを供給可能な構成としたうえでインクジェット記録装置に搭載した。そして、このインクジェット記録装置を使用して画像を記録したところ、以下のことがわかった。すなわち、所定期間内のインクの吐出量が増大する場合、吐出口付近のインク流路(圧力室)内で泡が発生しやすく、発生した泡によってインクの不吐出が生じやすくなり、インクの吐出安定性が低下することがわかった。第1流路及び第2流路の両方から圧力室へとインクを供給可能な構成とした場合、回収流路としても機能する第2流路からのインクの供給量は、第1流路からのインクの供給量に応じて変動する。このため、吐出口からのインクの吐出量によってインクの流動方向が逐次変化するために泡が発生しやすくなり、インクの吐出安定性が低下したと考えられる。
【0013】
さらなる検討の結果、本発明者らは、以下の要件(i)及び(ii)を満たすことで、インクの流動方向が逐次変化した場合であっても泡が発生しにくく、インクの吐出安定性が向上することを見出し、本発明に至った。
(i)インクの寿命時間0ミリ秒における動的表面張力が、60mN/m以下である。
(ii)第1流路及び第2流路の内壁面とインクとの接触角が、60°以下である。
【0014】
インクの寿命時間0ミリ秒における動的表面張力が60mN/m超であると、第1流路及び第2流路の内壁面に対するインクの瞬間的な馴染みが不十分になり、圧力室内に泡が発生しやすくなる。また、第1流路及び第2流路の内壁面とインクとの接触角が60°超であると、圧力室内で生じた泡が第1流路及び第2流路の内壁面に付着しやすくなる。
【0015】
<インクジェット記録方法、インクジェット記録装置、及び水性インク>
本発明のインクジェット記録方法は、特定の構成を有する記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置を使用し、記録ヘッドの吐出口から吐出した水性インクを記録媒体に付与して画像を記録するインクジェット記録方法である。記録ヘッドは、水性インクを吐出するための吐出口と、吐出口と連通する圧力室と、吐出素子と、第1流路と、第2流路と、を具備する。吐出素子は、圧力室に配置され、かつ、吐出口から水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する素子である。第1流路は、圧力室と接続する水性インクの流路である。第2流路は、吐出素子を挟んで第1流路と反対側の位置で圧力室と接続する水性インクの流路である。記録ヘッドは、第1流路及び第2流路のいずれからも圧力室へと水性インクを供給可能に構成されている。そして、水性インクの寿命時間0ミリ秒における動的表面張力は60mN/m以下であり、第1流路及び第2流路の内壁面と水性インクとの接触角は60°以下である。
【0016】
また、本発明のインクジェット記録装置は、特定の構成を有する記録ヘッドを備える装置であり、記録ヘッドは、水性インクを吐出するための吐出口と、吐出口と連通する圧力室と、吐出素子と、第1流路と、第2流路と、を具備する。吐出素子は、圧力室に配置され、かつ、吐出口から水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する素子である。第1流路は、圧力室と接続する水性インクの流路である。第2流路は、吐出素子を挟んで第1流路と反対側の位置で圧力室と接続する水性インクの流路である。記録ヘッドは、第1流路及び第2流路のいずれからも圧力室へと水性インクを供給可能に構成されている。そして、水性インクの寿命時間0ミリ秒における動的表面張力は60mN/m以下であり、第1流路及び第2流路の内壁面と水性インクとの接触角は60°以下である。
【0017】
そして、本発明の水性インクは、特定の構成を有する記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置を使用し、記録ヘッドの吐出口から吐出した水性インクを記録媒体に付与して画像を記録するインクジェット記録方法に用いる水性インクである。記録ヘッドは、水性インクを吐出するための吐出口と、吐出口と連通する圧力室と、吐出素子と、第1流路と、第2流路と、を具備する。吐出素子は、圧力室に配置され、かつ、吐出口から水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する素子である。第1流路は、圧力室と接続する水性インクの流路である。第2流路は、吐出素子を挟んで第1流路と反対側の位置で圧力室と接続する水性インクの流路である。記録ヘッドは、第1流路及び第2流路のいずれからも圧力室へと水性インクを供給可能に構成されている。そして、水性インクの寿命時間0ミリ秒における動的表面張力は60mN/m以下であり、第1流路及び第2流路の内壁面と水性インクとの接触角は60°以下である。
【0018】
(インクジェット記録装置)
図2は、本発明のインクジェット記録装置の一実施形態を模式的に示す斜視図である。図2に示すように、記録装置1000の給送ユニット20は、複数の記録媒体を積載可能であり、不図示の給送ローラによって記録媒体を給送する。記録媒体601(図3)は、所定サイズにカットされたカット紙を例に説明するが、これに限らず、ロール紙に記録する形態にも適用可能である。給送ユニット20により給送された記録媒体は、不図示の搬送ローラを含む搬送ユニットによって、Y方向(搬送方向)に向けて搬送され、インクを吐出する記録ヘッド200(図3(b))と対向する記録位置へと移動する。キャリッジ100は記録ヘッド200を搭載し、キャリッジモータ4の駆動により、タイミングベルト2を介してガイドシャフト3に沿ってY方向と交差するX方向(主走査方向)に往復走査する。
【0019】
キャリッジ100のX方向への移動と記録ヘッド200によるインクの吐出動作によって単位領域分の画像が記録されると、記録媒体は搬送ユニットによりY方向に搬送される。単位領域としては、記録ヘッド200においてY方向に沿って配置された吐出口列の配列幅と、記録ヘッド200のX方向の1回の移動とで記録可能な「1バンド」や、記録ヘッドの解像度に対応した「1画素」など、任意に設定することができる。シリアル方式では、1バンド分のインクの吐出動作と記録媒体の間欠的な搬送動作を繰り返す記録動作によって、記録媒体の全体にわたって画像を記録可能である。本実施形態においてX方向とY方向は直交する。
【0020】
また、記録ヘッド200と対向する位置であって、記録ヘッド200により記録が行われる記録領域には、記録媒体を垂直方向の下方から支持するプラテン10が配されている。プラテン10によって、記録媒体の記録面と、インクを吐出する吐出口が配列された記録ヘッド200の吐出口面と、が所定距離に保たれる。
【0021】
図3は、本発明のインクジェット記録装置1000の一実施形態の内部構成を示す概略図である。図3(a)は記録装置1000(図2)を上から見たときの上面模式図であり、図3(b)は記録装置1000(図2)を前面から見たときの模式的な側面図である。キャリッジ100は、記録ヘッド200へ供給されるインクを収容するインクカートリッジを着脱可能に搭載している。インクカートリッジ211から214は、それぞれの吐出口列にインクを供給する。
【0022】
また、キャリッジ100の移動領域内であって、記録媒体601が通過する領域(記録領域)の外側には、記録ヘッド200の吐出口面をキャッピングするためのキャップ302が配されている。記録ヘッド200の吐出口面がキャップ302と対向するキャリッジ100(記録ヘッド200)の位置を、ホームポジション301とも称する。キャップ302は、不図示の吸引手段と接続されており、吐出口面をキャッピングした状態で吸引手段を駆動することで、記録ヘッド200からインクが吸引される。
【0023】
(記録ヘッド)
図1を参照しつつ記録ヘッド1内で行われるインクの循環について説明する。本実施形態の記録装置に適用される1種類のインクに対応する1つの循環ユニット54には、フィルタ110、第1圧力調整手段120、第2圧力調整手段150、及び循環ポンプ500が配置されている。これらの構成要素は、図1に示すように各流路によって接続され、記録ヘッド1内において、吐出モジュール300に対してインクの供給及び回収を行う循環経路を構成している。図1では、圧力室12内に配置された吐出素子15と対向する位置に設けられた吐出口13からインクを吐出して画像を記録する記録動作時のインクの流れを模式的に示している。図中の矢印はインクの流れを示している。本実施形態において、記録動作を行う際には外部ポンプ(不図示)及び循環ポンプ500の両方が駆動を開始する。記録動作に関わらず、外部ポンプ及び循環ポンプ500が駆動していてもよい。また、外部ポンプと循環ポンプ500との駆動は、連動して行われなくてもよく、別個に独立して駆動されてもよい。
【0024】
第1圧力調整手段120は、第1流路130に接続して配置されており、第1流路130から圧力室12へとインクを供給するために負荷する圧力を調整する手段である。循環ポンプ500は、第1圧力調整手段120から第1流路130を介して圧力室12内にインクを供給するとともに、第2流路140を介して圧力室12内のインクを回収するようにインクを送液可能なポンプである。バイパス流路160は、圧力室12を介さずに第1流路130と第2流路140を接続するインク流路である。そして、第2圧力調整手段150は、第2流路140に接続して配置されている。第1圧力調整手段120は、第1バルブ室121及び第1圧力制御室122を有し、第1バルブ室121は、バルブ190Aにより開閉可能な連通口191Aを介して第1圧力制御室122に連通している。
【0025】
記録動作中は、循環ポンプ500がONの状態(駆動状態)となっている。インクジェット記録装置は、インクを収容するインクカートリッジなどのインク収容部(不図示)を備える。インク収容部から供給されたインクは、フィルタ110を通じて第1圧力調整手段120の第1バルブ室121及び第1圧力制御室122へと流入する。そして、第1圧力制御室122から流出したインクは、第1流路130及びバイパス流路160に流入する。第1流路130に流入したインクの一部は、吐出モジュール300を通過する際に吐出口13から吐出される。吐出口13から吐出されなかった残りのインクは第2流路140に流入した後、第2圧力制御室152に供給される。そして、第2圧力制御室152に供給されたインクは、循環ポンプ500を介して第1流路130へと循環する。
【0026】
一方、第1圧力制御室122からバイパス流路160に流入したインクは、第2バルブ室151を経て第2圧力制御室152に流入する。第2圧力制御室152に流入したインクは、ポンプ入口流路170、循環ポンプ500、及びポンプ出口流路180を通過した後、再び第1圧力制御室122に流入する。このとき、第1バルブ室121による制御圧力は、第1圧力制御室122の制御圧力よりも高く設定されている。このため、第1圧力制御室122内のインクは、第1バルブ室121に流れずに再度第1流路130を介して吐出モジュール300に供給される。吐出モジュール300に流入したインクは、第2流路140、第2圧力制御室152、ポンプ入口流路170、循環ポンプ500、及びポンプ出口流路180を経て、再び第1圧力制御室122に流入する。以上により記録ヘッド1内で完結するインク循環が行われる。
【0027】
また、記録によって消費された分のインクは、インクカートリッジなどのインク収容部(不図示)からフィルタ110及び第1バルブ室121を介して第1圧力制御室122に供給される。
【0028】
以下、ベタ画像のような高い「デューティ」の記録を続ける場合に、圧力室の負圧が上昇すること、及び、それにより、圧力室12に供給されるインクが、第1流路130側と第2流路140側との両側供給となる点を説明する。デューティは、各種条件によって定義が変わりうる。ここでは一例として、1,200dpi×1,200dpiの単位領域に1滴当たりの体積が4pLであるインク滴を1滴付与して記録した画像を記録デューティが100%であるとして扱うものとする。高いデューティの記録とは、例えば100%のデューティで記録が行われるものとする。
【0029】
高いデューティの記録を続けると、圧力室12から第2流路140を通じて第2圧力制御室152内に流入するインク量が減る。一方で、循環ポンプ500は一定量でインクの流出を行うため、第2圧力制御室152内での流入と流出とのバランスが崩れ、第2圧力制御室152内のインクが減少し、第2圧力制御室152内の負圧が強くなり、第2圧力制御室152が縮小する。そして、第2圧力制御室152内の負圧が強くなることで、バイパス流路160を介して第2圧力制御室152へ流入するインクの流入量が増え、流出と流入とのバランスがとれた状態で第2圧力制御室152が安定する。このように、結果的に、記録デューティに応じて第2圧力制御室152内の負圧は強くなっていく。また、循環ポンプ500が駆動している場合に、連通口191Bが閉状態である構成においては、記録デューティに応じて連通口191Bが開状態となり、バイパス流路160から第2圧力制御室152にインクが流入することになる。
【0030】
そして、さらに高いデューティの記録を続けると、圧力室12から第2流路140を通じて第2圧力制御室152に流入する量が減り、代わりに、バイパス流路160を経由して連通口191Bから第2圧力制御室152内に流入する量が増えていく。この状態がさらに進むと、圧力室12から第2流路140を通じて第2圧力制御室152に流入するインク量がゼロになり、循環ポンプ500に流出するインクはすべて連通口191Bから流入するインクとなる。この状態がさらに進むと、第2圧力制御室152から第2流路140を通じて圧力室12にインクが逆流する(図1(b))。この状態では、第2圧力制御室152から循環ポンプ500に流出するインクと圧力室12に流出するインクとが、バイパス流路160を通じて連通口191Bから第2圧力制御室152に流入することになる。この場合、圧力室12には、第1流路130のインク及び第2流路140のインクが供給されて、吐出口13からインクが吐出されることになる。
【0031】
この記録デューティが高い場合に生ずるインクの逆流は、バイパス流路160を設けていることで生ずる現象である。また、上記では、インクの逆流に応じて第2圧力調整手段における連通口191Bが開状態となる例を説明したが、第2圧力調整手段における連通口191Bが開状態となっている状態においてインクの逆流が生ずることもある。また、第2圧力調整手段を設けない構成においても、バイパス流路160を設けていることで、上記のインクの逆流は発生しうる。
【0032】
上述のように、本実施形態のインクジェット記録方法は、好ましくは以下の工程を有する。すなわち、インク収容部(不図示)から供給されたインクが、第1圧力調整手段120及び第1流路130を介して吐出口13から吐出される。そして、吐出口13から吐出されなかったインクが、第2流路140及び循環ポンプ500を介して第1流路130へと循環する工程である。また、本実施形態のインクジェット記録方法は、好ましくは以下の工程をさらに有する。すなわち、インク収容部(不図示)から供給されたインクが、第1圧力調整手段120及び第1流路130を介して吐出口13から吐出される。これに加えて、インク収容部(不図示)から供給されたインクは、第1圧力調整手段120、バイパス流路160、及び第2流路140を介して吐出口13から吐出される工程である。
【0033】
また、記録ヘッド1が、第2圧力調整手段150をさらに具備する場合において、本実施形態のインクジェット記録方法は、好ましくは以下の工程を有する。すなわち、インク収容部(不図示)から供給されたインクが、第1圧力調整手段120及び第1流路130を介して吐出口13から吐出される。そして、吐出口13から吐出されなかったインクが、第2流路140、第2圧力調整手段150、及び循環ポンプ500を介して第1流路130へと循環する工程である。また、本実施形態のインクジェット記録方法は、好ましくは以下の工程をさらに有する。すなわち、インク収容部(不図示)から供給されたインクが、第1圧力調整手段120及び第1流路130を介して吐出口13から吐出される。これに加えて、インク収容部(不図示)から供給されたインクは、第1圧力調整手段120、バイパス流路160、第2圧力調整手段150、及び第2流路140を介して吐出口13から吐出される工程である。
【0034】
第1流路及び第2流路は、それぞれ、樹脂で形成されていることが好ましい。第1流路及び第2流路を形成する樹脂としては、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂などを挙げることができる。また、これらの樹脂のなかでも、感光性を有する樹脂を用いることが、複雑な構造を有する第1流路及び第2流路を形成しやすいために好ましい。
【0035】
吐出素子15は、圧電素子(ピエゾ)及びヒータなどの発熱素子のいずれであってもよい。なかでも、吐出素子は、発熱素子であることが好ましい。そして、記録ヘッドは、発熱素子によってインクを加熱し、水性インク内に気泡を発生させてインクを吐出するサーマル方式の記録ヘッドであることが好ましい。
【0036】
本実施形態のインクジェット記録方法では、記録ヘッド内のインクを記録環境温度(例えば25℃前後)より高い温度に加温することが好ましい。記録ヘッド内のインクを記録環境温度より高い温度に加温する加温手段としては、例えば、記録ヘッドに接触して配設されるインク温度調整用のヒータや、インク吐出用のヒータなどの発熱素子(電気熱変換素子)を挙げることができる。インク吐出用のヒータによってインクを加温するには、例えば、インクが吐出しない程度の電流を繰り返し通電すればよい。記録ヘッド内のインクを加温することで、インクの粘度が低下する。このため、インクの供給(リフィル)がしやすくなり、安定した連続吐出が可能となる。複数の吐出口に供給されるインクを温度のばらつきを低減して均一に加温し、画像のムラを有効に抑制することができるため、記録ヘッドに接触して配設されるインク温度調整用のヒータを用いてインクを加温することがより好ましい。
【0037】
記録ヘッド内のインクを記録環境温度より高い温度に加温して吐出する際には、インクを30℃以上80℃以下に加温して吐出することが好ましく、35℃以上70℃以下に加温して吐出することがさらに好ましい。吐出時のインクの温度、すなわち、加温後のインクの温度Ta(℃)は、30℃以上80℃以下であることが好ましく、35℃以上70℃以下であることが好ましい。
【0038】
[記録素子基板]
本実施形態のインクジェット記録方法では、以下の構成を具備する記録装置を用い、発熱素子に水性インクを介して電圧制御を加えることが好ましい。記録装置における記録ヘッドは、発熱素子に対応する位置に配置される、発熱素子と圧力室内の水性インクとの接触を遮断する第1保護層と、発熱素子に対応し、かつ、水性インクと接触する位置に配置される、金属材料で形成された第2保護層と、を備える。そして、記録装置は、第2保護層を陰極とし、水性インクを介して導通する部位を陽極とする電圧印加手段と、を具備することが好ましい。これにより、発熱素子上のコゲの堆積が抑制され、画像のムラを有効に抑制することができる。
【0039】
図4は、記録素子基板のヒータ付近を模式的に示す平面図である。図5は、記録素子基板を図4におけるX-Y線に沿って垂直に切断した状態で模式的に示す断面図である。
【0040】
記録ヘッド100の記録素子基板101の構成を説明する。記録素子基板101は、シリコン基体102、蓄熱層103、発熱抵抗体層104、及び電気配線層105で構成される。蓄熱層103は、シリコンの熱酸化膜、酸化シリコン膜、及び窒化シリコン膜などの材料で形成される。電気配線層105は、アルミニウム、アルミニウム-シリコン、及びアルミニウム-銅などの金属材料で形成される配線である。電気熱変換素子としての発熱部104aは、電気配線層105の一部を除去してギャップを形成し、その部分の発熱抵抗体層104を露出することで形成される。電気配線層105は駆動素子回路(不図示)又は外部電源端子(不図示)に接続されて、外部からの電力供給を受ける。図示した例では、発熱抵抗体層104に隣接する層として電気配線層105を配置している。但し、この構成に限られず、電気配線層105をシリコン基体102に隣接する層として形成し、その一部をギャップとして部分的に除去し、発熱抵抗体層104を配置する構成としてもよい。
【0041】
第1保護層106は、酸化シリコン及び窒化シリコンなどの材料で形成され、電気配線層105を部分的に介在させながら、発熱部104a及び電気配線層105に隣接して設けられる。また、第1保護層106は、発熱部104aとインク流路内のインクとの接触を遮断する絶縁層として機能する。
【0042】
第2保護層107は、インク流路内のインクと接触する最表層である。発熱部104aのインク流路側に位置し、かつ、発熱部104aにより発生した熱をインクに作用させる第2保護層107の領域が、ヒータ108に当たる。第2保護層107は、発熱部104aの発熱に伴って生ずる化学的衝撃や物理的衝撃からヒータ108を保護するとともに、電極としての機能を持つ必要がある。これらの特性を両立させるために、金属材料で形成される第2保護層107を利用する。
【0043】
キャビテーションによる衝撃などの物理的作用や、インクによる化学的作用に対して強い保護層となり得るため、イリジウム、ルテニウム、及びタンタルからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を含む金属材料を用いることが好ましい。このような金属材料としては、これらの金属元素と他の金属との合金などを挙げることができる。合金の場合、上記金属元素の割合が多いほど、物理的作用や化学的作用に対して強い保護層となりやすい。好適には、合金ではなく、イリジウム、ルテニウム、又はタンタルを用いる。加熱しても強固な酸化膜を形成しにくく、電位をより均一に生じさせることができるので、電極に付着したアニオン性成分を除去しやすい観点から、イリジウム又はルテニウムを用いることが特に好ましい。また、ヒータ108の発熱により第2保護層の表面は約300℃以上600℃以下に加熱されるが、インク中よりも酸素が豊富な条件である大気中であっても、イリジウムは800℃まで酸化膜を形成しないため、イリジウムを用いることがより好ましい。
【0044】
第2保護層107としては、イリジウム、ルテニウム、及びタンタルからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を含む金属材料を用いることができる。但し、このような金属材料は密着性が乏しい。このため、第1保護層106及び第2保護層107の間に密着層109を配置して、第1保護層106に対する第2保護層107の密着性を向上させる。密着層109は、導電性を有する材料で形成する。
【0045】
第2保護層107は貫通孔115に挿通され、密着層109を介して電気配線層105に電気的に接続される。電気配線層105は記録素子基板101の端部にまで延在し、その先端が外部との電気的接続を行うための外部電極111となる。
【0046】
上記の構成を有する記録素子基板101には、流路形成部材112が接合される。流路形成部材112は、ヒータ108に対応する位置に吐出口113を有するとともに、記録素子基板101を貫通して設けたインク供給口(116)からヒータ108を経て吐出口113に連通するインク流路を形成する。図5中の矢印は、第1流路130のインク及び第2流路140(いずれも図1(b))から供給されたインクが、吐出口113から吐出される際のインクの流れを示す。
【0047】
前述の記録ヘッドにおいて、電圧制御を行う手法を説明する。第2保護層107は、発熱部104aに対応する位置に形成されるヒータ108を含む領域(ヒータ側領域107a)、及びそれ以外の領域(対向電極側領域107b)の2つの領域で構成され、それぞれの領域に電気的接続が施される。インク流路内にインクが存在しない場合、ヒータ側領域107a及び対向電極側領域107bの間での電気的な接続はなされない。但し、インクには通常、色材(その分散剤)や樹脂などの電解質が含まれている。電解質はイオン解離してアニオン性成分とカチオン性成分とを生ずる。このため、インク流路内にインクが充填されると、ヒータ側領域107a及びインクを介して導通する部位としての対向電極側領域107bは、インクを介して導通する。
【0048】
この状態で、ヒータ側領域107aを陰極とするとともに、対向電極側領域107bを陽極として通電すると、これらの電極の間に電位差が生ずる。インク中の電解質のイオン解離が生ずると、アニオン性成分はヒータ側領域107aに対して、また、カチオン性成分は対向電極側領域107bに対して、それぞれ電気的な反発を生ずるので、各電極の帯電状態に対応して、各成分の分布状態が変化する。ヒータ側領域107aはマイナスに帯電するので、アニオン性成分は、電気的な反発によりヒータ108の近傍から離れて、ヒータに付着しづらくなり、画像のムラが抑制される。対向電極側領域107bはプラスに帯電するので、アニオン性成分はこれに近づく方向に移動し、その一部は対向電極側領域107bに一時的に付着する。但し、その近傍に存在しうる溶解性の金属イオンにより、アニオン性成分を除去できる。このように、ヒータ側領域107a及び対向電極側領域107bにおける挙動が相まって、記録ヘッドの電圧制御を行う場合の、吐出性の低下を抑制することができる。
【0049】
〔電圧制御の手順〕
電圧制御を行う手順について説明する。記録装置が画像データを受信すると、画像データを記録装置に適合するデータとして展開する。次に、記録ヘッド100における、第2保護層107のヒータ側領域107aと対向電極側領域107bとの間に電位差を生じさせる。この際、記録装置の電圧印加手段から、記録ヘッド100の記録素子基板101を介して、第2保護層107のヒータ側領域107aを陰極とするとともに、対向電極側領域107bを陽極とする電圧が印加され始める。その後、インクの吐出により記録が開始される。記録が終了した後、第2保護層107のヒータ側領域107aと対向電極側領域107bとの間への電圧の印加が停止され、これらの間に生じていた電位差が解除される。本実施形態における、インクの吐出による記録動作は、記録ヘッドがインクを吐出して記録を行っている間のみならず、記録開始命令を受けてからインクの吐出が終わるまでの間を含む。
【0050】
電圧制御は、ヒータへのコゲの原因となる物質の付着を抑制するために行う。したがって、記録データや予備吐出データなどに基づいたインクの吐出動作を行うタイミングを挟んで、その一定時間前から、一定時間後まで、継続的に電圧制御を実施することが好ましい。この際、電圧制御を継続する期間は、電力消費量などを考慮して適宜設定すればよい。電圧は、電解質を含有する水性インクの存在下で電圧制御を行うことを踏まえ、水の電気分解が生じない1V以上4V以下程度の電圧とすることが好ましい。
【0051】
(水性インク)
本発明のインクジェット記録方法は、寿命時間0ミリ秒における動的表面張力が60mN/m以下である水性インクを使用し、記録ヘッドの吐出口から吐出した水性インクを記録媒体に付与して画像を記録する記録方法である。以下、インクを構成する成分及びインクの物性などについて説明する。
【0052】
[色材]
インクは、色材を含有してもよい。色材としては、顔料や染料を用いることができる。なかでも、顔料が好ましい。インク中の色材の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.10質量%以上15.00質量%以下であることが好ましく、1.00質量%以上10.00質量%以下であることがさらに好ましい。
【0053】
顔料としては、カーボンブラック及び酸化チタンなどの無機顔料;アゾ、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、イミダゾロン、ジケトピロロピロール、ジオキサジン、及びペリノンなどの有機顔料を挙げることができる。なかでも、カーボンブラックや、アゾ及びキナクリドンなどの有機顔料が好ましい。
【0054】
顔料の分散方式は特に限定されない。例えば、樹脂分散剤により分散させた樹脂分散顔料、界面活性剤により分散させた顔料、及び顔料の粒子表面の少なくとも一部を樹脂などで被覆したマイクロカプセル顔料などを用いることができる。また、顔料の粒子表面にアニオン性基などの親水性基を含む官能基を結合させた自己分散顔料や、顔料の粒子表面に高分子を含む有機基を化学的に結合させた顔料(樹脂結合型の自己分散顔料)などを用いることもできる。また、分散方式の異なる顔料を組み合わせて用いてもよい。なかでも、樹脂分散剤により分散させた樹脂分散顔料が好ましい。
【0055】
樹脂分散剤としては、アニオン性基の作用によって顔料を水性媒体中に分散させうる水溶性樹脂を用いることが好ましい。インク中の顔料の含有量(質量%)は、樹脂分散剤の含有量に対する質量比率で、0.3倍以上10.0倍以下であることが好ましい。
【0056】
樹脂分散剤としては、アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂などを用いることができる。なかでも、アクリル系樹脂が好ましく、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸エステルに由来するユニットで構成されるアクリル系樹脂がさらに好ましい。
【0057】
アクリル系樹脂としては、親水性ユニット及び疎水性ユニットをセグメントとして有するものが好ましい。なかでも、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットと、芳香環を有するモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマーの少なくとも一方に由来する疎水性ユニットと、を有する樹脂が好ましい。なかでも、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットと、スチレン及びα-メチルスチレンからなる群より選択される少なくとも一方のモノマーに由来する疎水性ユニットとを有する樹脂が好ましい。これらの樹脂は顔料と相互作用しやすいため、顔料を分散させるための樹脂分散剤として好適である。
【0058】
親水性ユニットは、アニオン性基などの親水性基を有するユニットである。親水性ユニットは、例えば、親水性基を有する親水性モノマーを重合することで形成することができる。親水性基を有する親水性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、及びフマル酸などのカルボン酸基を有する酸性モノマー;これらの酸性モノマーの無水物や塩などのアニオン性モノマー;などを挙げることができる。酸性モノマーの塩を構成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、及び有機アンモニウムなどのイオンを挙げることができる。疎水性ユニットは、アニオン性基などの親水性基を有しないユニットである。疎水性ユニットは、アニオン性基などの親水性基を有しない疎水性モノマーを重合することで形成することができる。疎水性モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、及び(メタ)アクリル酸ベンジルなどの芳香族基を有するモノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、及び(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸エステルなどを挙げることができる。
【0059】
自己分散顔料としては、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基などのアニオン性基が、顔料の粒子表面に直接又は他の原子団(-R-)を介して結合しているものを用いることができる。アニオン性基は、酸型及び塩型のいずれであってもよく、塩型である場合は、その一部が解離した状態及びすべてが解離した状態のいずれであってもよい。アニオン性基が塩型である場合において、カウンターイオンとなるカチオンとしては、アルカリ金属カチオン、アンモニウム、及び有機アンモニウムなどを挙げることができる。他の原子団(-R-)としては、炭素原子数1乃至12の直鎖状又は分岐状のアルキレン基;フェニレン基やナフチレン基などのアリーレン基;カルボニル基;イミノ基;アミド基;スルホニル基;エステル基;エーテル基などを挙げることができる。また、これらの基を組み合わせた基であってもよい。
【0060】
染料としては、アニオン性基を有するものを用いることが好ましい。染料としては、アゾ、トリフェニルメタン、(アザ)フタロシアニン、キサンテン、及びアントラピリドンなどの染料を挙げることができる。
【0061】
[ウレタン樹脂]
インクは、ウレタン樹脂を含有することが好ましい。ウレタン樹脂は、水溶性ウレタン樹脂であることが好ましい。水溶性ウレタン樹脂などのウレタン樹脂を含有するインクを用いることで、泡によるインクの吐出安定性の低下をさらに抑制することができる。インク中のウレタン樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.10質量%以上20.00質量%以下であることが好ましく、1.00質量%以上10.00質量%以下であることがさらに好ましい。
【0062】
本明細書において「樹脂が水溶性である」とは、その樹脂を酸価と当量のアルカリで中和した場合に、動的光散乱法により粒子径を測定しうる粒子を形成しない状態で水性媒体中に存在することを意味する。樹脂が水溶性であるか否かについては、以下に示す方法にしたがって判断することができる。まず、酸価相当のアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)により中和された樹脂を含む液体(樹脂固形分:10質量%)を用意する。次いで、用意した液体を純水で10倍(体積基準)に希釈して試料溶液を調製する。そして、試料溶液中の樹脂の粒子径を動的光散乱法により測定した場合に、粒子径を有する粒子が測定されない場合に、その樹脂は水溶性であると判断することができる。一方、粒子径を有する粒子が測定されれば、その樹脂は「樹脂粒子」である(すなわち「水分散性樹脂」である)と判断することができる。この際の測定条件は、例えば、以下のようにすることができる。
[測定条件]
SetZero:30秒
測定回数:3回
測定時間:180秒
【0063】
粒度分布測定装置としては、動的光散乱法による粒度分析計(例えば、商品名「UPA-EX150」、日機装製)などを使用することができる。勿論、使用する粒度分布測定装置や測定条件などは上記に限られるものではない。
【0064】
ウレタン樹脂の酸価は、30mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることが好ましい。ウレタン樹脂の酸価が30mgKOH/g未満であると、親水性が低いため、第1流路及び第2流路の内壁面にインクが馴染みにくくなり、抑泡性がやや低下することがある。一方、ウレタン樹脂の酸価が100mgKOH/g超であると、親水性が高いため、インク中の気泡界面に吸着しにくくなり、抑泡性がやや低下することがある。
【0065】
ウレタン樹脂の重量平均分子量は、5,000以上20,000以下であることが好ましい。ウレタン樹脂の重量平均分子量が5,000未満であると、インクの起泡性がやや高くなることがある。一方、ウレタン樹脂の重量平均分子量が20,000超であると、親水性が低いため、第1流路及び第2流路の内壁面にインクが馴染みにくくなり、抑泡性がやや低下することがある。
【0066】
ウレタン樹脂としては、例えば、ポリイソシアネート、酸基を有しないポリオール、酸基を有するポリオール、アミンなどにそれぞれ由来するユニットを有するウレタン樹脂を用いることができる。
【0067】
〔ポリイソシアネート〕
ポリイソシアネートは、その分子構造中に2以上のイソシアネート基を有する化合物である。ポリイソシアネートとしては、脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネートを挙げることができる。ウレタン樹脂に占める、ポリイソシアネートに由来するユニットの割合(モル%)は、10.0モル%以上80.0モル%以下であることが好ましく、20.0モル%以上60.0モル%以下であることがさらに好ましい。
【0068】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、3-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネートなどの鎖状構造を有するポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンなどの環状構造を有するポリイソシアネート;などを挙げることができる。
【0069】
芳香族ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどを挙げることができる。
【0070】
上記のポリイソシアネートのなかでも、環状構造を有するポリイソシアネートを用いることが好ましい。また、環状構造を有するポリイソシアネートのなかでも、イソホロンジイソシアネートを用いることがさらに好ましい。
【0071】
〔ポリオール、ポリアミン〕
ポリオールは、その分子構造中に2以上のヒドロキシ基を有する化合物である。ポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどの酸基を有しないポリオール;酸基を有するポリオール;などを挙げることができる。また、ポリアミンは、その分子構造中に2以上の「アミノ基、イミノ基」を有する化合物である。ウレタン樹脂に占める、ポリオール及びポリアミンに由来するユニットの割合(モル%)は、10.0モル%以上80.0モル%以下であることが好ましく、20.0モル%以上60.0モル%以下であることがさらに好ましい。
【0072】
(1)酸基を有しないポリオール
ポリエーテルポリオールとしては、アルキレンオキサイド及びポリオール類の付加重合物;(ポリ)アルキレングリコールなどのグリコール類;などを挙げることができる。アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、α-オレフィンオキサイドなどを挙げることができる。アルキレンオキサイドと付加重合させるポリオール類としては、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、4,4-ジヒドロキシフェニルプロパン、4,4-ジヒドロキシフェニルメタン、水素添加ビスフェノールA、ジメチロール尿素及びその誘導体などのジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,5-ヘキサントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、トリメチロールメラミン及びその誘導体、ポリオキシプロピレントリオールなどのトリオール;などを挙げることができる。グリコール類としては、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、(ポリ)テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどの(ポリ)アルキレングリコール;エチレングリコール-プロピレングリコール共重合体;などを挙げることができる。
【0073】
ポリエステルポリオールとしては、酸エステルなどを挙げることができる。酸エステルを構成する酸成分としては、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;これらの芳香族ジカルボン酸の水素添加物などの脂環族ジカルボン酸;マロン酸、コハク酸、酒石酸、シュウ酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、アルキルコハク酸、リノレイン酸、マレイン酸、フマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸などの脂肪族ジカルボン酸;などを挙げることができる。これらの無水物、塩、誘導体(アルキルエステル、酸ハライド)なども酸成分として用いることができる。また、酸成分とエステルを形成する成分としては、ジオール、トリオールなどのポリオール類;(ポリ)アルキレングリコールなどのグリコール類;などを挙げることができる。ポリオール類やグリコール類としては、上記のポリエーテルポリオールを構成する成分として例示したものを挙げることができる。
【0074】
ポリカーボネートポリオールとしては、公知の方法で製造されるポリカーボネートポリオールを用いることができる。具体的には、ポリヘキサメチレンカーボネートジオールなどのアルカンジオール系ポリカーボネートジオールなどを挙げることができる。また、アルキレンカーボネート、ジアリールカーボネート、ジアルキルカーボネートなどのカーボネート成分やホスゲンと、脂肪族ジオール成分と、を反応させて得られるポリカーボネートジオールなどを挙げることができる。
【0075】
ウレタン樹脂中の、ポリオールに由来するユニットの合計量に占める、酸基を有しないポリオールに由来するユニットの割合(モル%)は、以下のようにすることが好ましい。すなわち、5.0モル%以上50.0モル%以下であることが好ましく、10.0モル%以上30.0モル%以下であることがさらに好ましい。
【0076】
酸基を有しないポリオールとして、ポリプロピレングリコールを用いることが好ましい。すなわち、インク中に含まれるウレタン樹脂は、ポリプロピレングリコールに由来するユニットを有するウレタン樹脂であることが好ましい。ポリプロピレングリコールに由来するユニットを有するウレタン樹脂は親水性が高いため、第1流路及び第2流路の内壁面にインクが馴染みやすくなり、インク内に生じた泡が第1流路及び第2流路の内壁面に付着しにくくなる。
【0077】
(2)酸基を有するポリオール
酸基を有するポリオールとしては、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基などの酸基を有するポリオールを挙げることができる。酸基は、カルボン酸基であることが好ましい。カルボン酸基を有するポリオールとしては、ジメチロール酢酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロール酪酸などを挙げることができる。なかでも、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸が好ましい。
【0078】
酸基を有するポリオールの酸基は塩型であってもよい。塩を形成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属のイオン;アンモニウムイオン、ジメチルアミンなどの有機アミンのカチオンなどを挙げることができる。汎用の酸基を有するポリオールの分子量は大きくても400程度であるので、酸基を有するポリオールに由来するユニットは、基本的にはウレタン樹脂のハードセグメントとなる。ウレタン樹脂の酸価は、例えば、酸基を有するポリオールの使用量によって調整することができる。
【0079】
ウレタン樹脂中の、ポリオールに由来するユニットの合計量に占める、酸基を有するポリオールに由来するユニットの割合(モル%)は、以下のようにすることが好ましい。すなわち、30.0モル%以上90.0モル%以下であることが好ましく、50.0モル%以上90.0モル%以下であることがさらに好ましい。
【0080】
(3)ポリアミン
ポリアミンとしては、ジメチロールエチルアミン、ジエタノールメチルアミン、ジプロパノールエチルアミン、ジブタノールメチルアミンなどの複数のヒドロキシ基を有するモノアミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキシレンジアミン、イソホロンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、水素添加ジフェニルメタンジアミン、ヒドラジンなどの2官能ポリアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリアミドポリアミン、ポリエチレンポリイミンなどの3官能以上のポリアミン;などを挙げることができる。便宜上、複数のヒドロキシ基と、1つの「アミノ基、イミノ基」を有する化合物も「ポリアミン」として列挙した。ポリアミンの分子量は大きくても400程度であるので、ポリアミンに由来するユニットは、基本的にはウレタン樹脂のハードセグメントとなる。ウレタン樹脂に占める、ポリアミンに由来するユニットの割合(モル%)は、10.0モル%以下であることが好ましく、5.0モル%以下であることがさらに好ましい。ウレタン樹脂に占める、ポリアミンに由来するユニットの割合(モル%)は、0.0モル%であってもよい。
【0081】
ウレタン樹脂は、ポリアミンに由来するユニットを有することが好ましい。そして、ウレタン樹脂中のウレタン結合とポリアミンに由来するウレア結合の合計に占める、ウレタン結合の割合が、85モル%以上99モル%以下であることが好ましい。ウレタン結合の割合が85モル%以上であると、ウレタン樹脂の親水度が向上し、第1流路及び第2流路を形成する樹脂などの材料との濡れ性が向上し、起泡性をさらに抑制することができる。ウレタン結合の割合が85モル%未満であると、吐出口周辺にインクの付着物が堆積しやすくなり、記録時に吐出安定性がやや低下することがある。一方、ウレタン結合の割合が99モル%超であると、親水性が高くなり、インク中の気泡界面に吸着しにくく、抑泡性がやや低下する場合がある。
【0082】
〔架橋剤、鎖延長剤〕
ウレタン樹脂を合成する際には、架橋剤や鎖延長剤を用いることができる。通常、架橋剤はプレポリマーの合成の際に用いられ、鎖延長剤は予め合成されたプレポリマーに対して鎖延長反応を行う際に用いられる。基本的には、架橋剤や鎖延長剤としては、架橋や鎖延長など目的に応じて、水や、ポリイソシアネート、ポリオール、ポリアミンなどから適宜に選択して用いることができる。鎖延長剤として、ウレタン樹脂を架橋させることができるものを用いることもできる。
【0083】
〔分析方法〕
(1)ウレタン樹脂の組成
ウレタン樹脂の組成は、以下に示す方法により分析することができる。まず、インクからウレタン樹脂を抽出する方法について説明する。インクからウレタン樹脂を抽出するには、インクを80,000rpmで遠心分離して分取した上澄み液に、過剰の酸(塩酸など)を添加して、樹脂を析出させる。析出した樹脂にクロロホルムを添加すると、ウレタン樹脂が溶解するので、液相からウレタン樹脂を抽出することができる。さらに、クロロホルム以外にも、顔料や他の樹脂を溶解しないが、ウレタン樹脂は溶解するようなヘキサンなどのような有機溶剤を用いてもよい。インクの状態でもウレタン樹脂を解析することはできるが、インクから抽出したウレタン樹脂を解析すると、測定精度を高めることができるために好ましい。
【0084】
ウレタン樹脂を重水素化ジメチルスルホキシド(重DMSO)に溶解し、プロトン核磁気共鳴法(H-NMR)により分析する。そして、得られたピークの位置から、ポリイソシアネート、酸基を有しないポリオール、酸基を有するポリオール、及びポリアミンの種類を確認することができる。また、乾燥させたウレタン樹脂を熱分解ガスクロマトグラフィーにより分析することによっても、ポリイソシアネート、酸基を有しないポリオール、酸基を有するポリオール、及びポリアミンの種類を確認することができる。さらに、各ピークの積算値の比率から、組成比を算出することができる。
【0085】
(2)ウレタン結合の割合
ウレタン樹脂中の、ウレタン結合とポリアミンに由来するウレア結合の合計に占める、ウレタン結合の割合は、以下のようにして測定することができる。すなわち、重水素化ジメチルスルホキシドにウレタン樹脂を溶解させて測定用試料を調製する。そして、カーボン核磁気共鳴法(13C-NMR)により調製した試料を分析し、得られたウレタン結合とポリアミンに由来するウレア結合のそれぞれのピークの積算値から、ウレタン樹脂中のウレタン結合の割合を算出することができる。但し、ウレタン結合とポリアミンに由来するウレア結合のそれぞれのピークの位置は、ウレタン樹脂の合成に用いた化合物の種類によって異なる。このため、ウレタン樹脂の合成に使用した化合物ごとに、ウレタン結合とポリアミンに由来するウレア結合のピークの位置を調べる必要がある。以下、その方法について説明する。
【0086】
まず、ウレタン樹脂の原料となる化合物(ポリイソシアネート、ポリオール、ポリアミン)を用意する。そして、(i)ポリイソシアネートとポリオールの反応物、(ii)ポリイソシアネートとポリアミンの反応物、(iii)ポリイソシアネートと酸基を有するポリオールの反応物、(iv)ポリイソシアネートと水の反応物それぞれ調製する。調製した反応物を乾燥したものを重DMSOに溶解させ、カーボン核磁気共鳴法(13C-NMR)により分析する。
【0087】
上記の例の場合、(i)の反応物と(iii)の反応物からウレタン結合の化学シフトを確認し、(ii)の反応物と(iv)の反応物からポリアミンに由来するウレア結合の化学シフトを確認する。確認したそれぞれの化学シフトから、ウレタン結合のピークとウレア結合のピークを特定し、これらのピークの積算値の比から、ウレタン樹脂中のウレタン結合とポリアミンに由来するウレア結合の合計に占める、ウレタン結合の割合を算出する。例えば、イソホロンジイソシアネートを用いて得たウレタン樹脂の場合、測定条件やウレタン樹脂の組成により多少のずれは生ずるが、ウレタン結合のピークは155ppm付近に検出される。また、ポリアミンに由来するウレア結合のピークは159ppm付近に検出される。水に由来するウレア結合のピークは、158ppm付近に検出される。
【0088】
(3)ウレタン樹脂の酸価
ウレタン樹脂をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、電位差自動滴定装置(商品名「AT510」、京都電子工業製)を使用して、水酸化カリウムエタノール滴定液を用いて電位差滴定することにより、ウレタン樹脂の酸価を測定することができる。
【0089】
(4)ウレタン樹脂の重量平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ウレタン樹脂の重量平均分子量を測定することができる。後述の実施例では、THFに溶解したウレタン樹脂を測定用試料とし、GPCにより測定した。GPCの測定条件は以下に示す通りである。
【0090】
・装置:Alliance GPC 2695(Waters製)
・カラム:Shodex KF-806Mの4連カラム(昭和電工製)
・移動相:テトラヒドロフラン(特級)
・流速:1.0mL/min
・オーブン温度:40.0℃
・試料溶液の注入量:0.1mL
・検出器:RI(屈折率)
・ポリスチレン標準試料:PS-1及びPS-2(Polymer Laboratories製、分子量:7,500,000、2,560,000、841,700、377,400、320,000、210,500、148,000、96,000、59,500、50,400、28,500、20,650、10,850、5,460、2,930、1,300、580の17種)
【0091】
[その他の樹脂]
インクには、前述のウレタン樹脂以外の樹脂(その他の樹脂)をさらに含有させることができる。その他の樹脂は、(i)顔料の分散状態を安定化させるため、すなわち、樹脂分散剤やその補助としてインクに添加することができる。また、(ii)記録される画像の各種特性を向上させるためにインクに添加することができる。樹脂の形態としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、及びこれらの組み合わせなどを挙げることができる。樹脂は、水性媒体に溶解しうる水溶性樹脂であってもよく、水性媒体中に分散する樹脂粒子であってもよい。樹脂粒子は、色材を内包する必要はない。インク中のその他の樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.10質量%以上20.00質量%以下であることが好ましく、1.00質量%以上10.00質量%以下であることがさらに好ましい。
【0092】
その他の樹脂は、酸基を有する樹脂であることが好ましい。その他の樹脂の具体例としては、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレア系樹脂、多糖類、ポリペプチド類などを挙げることができる。なかでも、インクの吐出安定性を確保しやすいことから、アクリル系樹脂が好ましい。
【0093】
その他の樹脂の酸価は、30mgKOH/g以上350mgKOH/g以下であることが好ましい。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるその他の樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量は、1,000以上100,000以下であることが好ましく、5,000以上50,000以下であることがさらに好ましい。
【0094】
[水性媒体]
インクは、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有する水性インクである。水としては脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.00質量%以上95.00質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、アルコール類、グリコール類、(ポリ)アルキレングリコール類、含窒素化合物類、及び含硫黄化合物類などのインクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.00質量%以上50.00質量%以下であることが好ましい。本明細書における水溶性有機溶剤は、水性インクに汎用であり、25℃で固体であるものを含む。このような水溶性有機溶剤としては、例えば、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、エチレン尿素、尿素、数平均分子量1,000のポリエチレングリコールなどを挙げることができる。
【0095】
インクは、そのSP値が15.0以下である第1水溶性有機溶剤を含有することが好ましい。一般的に、SP値が小さい水溶性有機溶剤ほど疎水性が高くなり、空気で形成される泡の界面に素早く吸着する。このため、そのSP値が15.0以下である第1水溶性有機溶剤を含有させることで、インクの抑泡性をより向上させることができる。第1水溶性有機溶剤のSP値は、14.0以下であることが好ましく、13.0以下であることがさらに好ましく、また、5.0以上であることが好ましい。インク中の第1水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.10質量%以上50.00質量%以下であることが好ましい。また、0.50質量%以上35.0質0量%以下であることがさらに好ましく、1.00質量%以上25.00質量%以下であることが特に好ましい。
【0096】
本明細書におけるSP値(δ:溶解度パラメータ)は、下記式(A)に基づき、Fedors法により算出される値(単位:(cal/cm1/2)である。SI単位系に換算する際には、「(cal/cm1/2=2.046×10(J/m1/2」の関係を利用すればよい。
δ=(ΔEvap/V)1/2 ・・・(A)
(式(A)中、ΔEvapは化合物のモル蒸発熱(cal/mol)を表し、Vは25℃における化合物のモル体積(cm/mol)を表す)
【0097】
SP値が15.0以下の第1水溶性有機溶剤の具体例としては、括弧内にSP値を示すと、1,4-ブタンジオール(15.0)、ジエチレングリコール(15.0)、エチレングリコール(14.8)、1,3-ブタンジオール(14.8)、2-メチル-1,3-プロパンジオール(14.8)、1,2,6-ヘキサントリオール(14.5)、尿素(14.4)、エチレン尿素(14.2)、1,5-ペンタンジオール(14.2)、N-(ヒドロキシメチル)-2-ピロリドン(14.2)、1,2,7-ヘプタントリオール(13.9)、トリエタノールアミン(13.7)、トリエチレングリコール(13.6)、1,6-ヘキサンジオール(13.5)、1,2-プロパンジオール(13.5)、N-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン(13.5)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール(13.4)、2-エチルプロパン-1,3-ジオール(13.2)、2-メチルペンタン-2,4-ジオール(13.1)、N-(3-ヒドロキシプロピル)-2-ピロリドン(12.9)、テトラエチレングリコール(12.8)、数平均分子量200のポリエチレングリコール(12.8)、1,2-ブタンジオール(12.8)、2-ピロリドン(12.6)、N-(4-ヒドロキシブチル)-2-ピロリドン(12.5)、1,2-ペンタンジオール(12.2)、エチレングリコールモノメチルエーテル(12.0)、1,2-ヘキサンジオール(11.8)、N-メチル-2-ピロリドン(11.5)、エチレングリコールモノエチルエーテル(11.5)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(11.4)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(11.2)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(10.9)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(10.6)、数平均分子量600のポリエチレングリコール(10.5)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(10.5)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(10.3)、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(10.2)、数平均分子量1,000のポリエチレングリコール(10.1)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(8.5)、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル(8.4)、及びエチレングリコールジメチルエーテル(7.6)などを挙げることができる。第1水溶性有機溶剤としては、水よりも蒸気圧の低いものを用いることが好ましい。第1水溶性有機溶剤のSP値は5.0以上であることが好ましい。これらのSP値が15.0以下である第1水溶性有機溶剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明において、第1水溶性有機溶剤には、界面活性剤や後述するような添加剤は含まれないものとする。界面活性剤や添加剤は、一般的に水性インク中の含有量もかなり少なく、本発明の効果への影響も小さいためである。
【0098】
第1水溶性有機溶剤は、アルキレングリコールであることが好ましい。本明細書における、水溶性有機溶剤として用いられるアルキレングリコールは、2以上の炭素原子を持った脂肪族炭化水素の異なる2つの炭素原子に1ずつのヒドロキシ基がそれぞれ結合した構造を有する化合物である。また、インクは、ノニオン性界面活性剤と、第1水溶性有機溶剤であるアルキレングリコールとを含有することが好ましい。アルキレングリコールは、ノニオン性界面活性剤と類似した構造を有する。このため、ノニオン性界面活性剤とアルキレングリコールを併用すると、インク中に生じた泡の界面に配向したノニオン性界面活性剤に対してアルキレングリコールが馴染みやすく、ノニオン性界面活性剤の消泡性をより向上させることができる。アルキレングリコールのなかでも、1,2-アルカンジオールが好ましく、1,2-ヘキサンジオールが特に好ましい。
【0099】
第1水溶性有機溶剤に加えて、SP値が15.0超の「その他の水溶性有機溶剤」を用いてもよい。「その他の水溶性有機溶剤」としては、ビス(2-ヒドロキシエチル)スルホン(20.5)、グリセリン(16.4)、N-ヒドロキシ-2-ピロリドン(16.4)、1,3-プロパンジオール(16.1)、及びトリメチロールプロパン(15.9)などを挙げることができる。
【0100】
また、インクジェット用の水性インクは、通常、複数種の水溶性有機溶剤を含有する。このため、インク中の水溶性有機溶剤のSP値は、「平均SP値」の概念で捉えることが適している。平均SP値とは、水溶性有機溶剤に固有のSP値に、インク中の水溶性有機溶剤の合計量に占める当該水溶性有機溶剤の割合(質量%)を乗じた値を、各水溶性有機溶剤について算出し、積算した値を意味する。インク中の水溶性有機溶剤が1種のみである場合は、その水溶性有機溶剤のSP値が「平均SP値」である。例えば、後述する「実施例」で調製した「インク1」の場合、水溶性有機溶剤の組成(合計21.00質量部)は以下の通りである。括弧内の数値は、各水溶性有機溶剤のSP値(単位は省略)である。
・グリセリン(16.4):10.00質量部
・1,2-ヘキサンジオール(11.8):1.00質量部
・数平均分子量600のポリエチレングリコール(10.5):10.00質量部
【0101】
この「インク1」中の水溶性有機溶剤の平均SP値は、下記式(B)のように算出することができる。
平均SP値=(16.4×10.00/21.00)+(10.5×10.00/21.00)+(11.8×1.00/21.00)=13.4 ・・・(B)
【0102】
記録ヘッドの第1流路及び第2流路が、それぞれ樹脂で形成されている場合に、インク中の水溶性有機溶剤の平均SP値と、第1流路及び第2流路を形成する樹脂のSP値との差は、4.0以下であることが好ましい。また、3.0以下であることがさらに好ましく、2.0以上3.0以下であることが特に好ましい。2つの成分のSP値の差の絶対値が小さいほど、溶解度が増大することが経験的に知られている。インク中の水溶性有機溶剤の平均SP値と、第1流路及び第2流路を形成する樹脂のSP値との差を4.0以下とすることで、第1流路及び第2流路とインクが馴染みやすくなり、第1流路及び第2流路の内壁面に泡がより付着しにくくなる。
【0103】
[界面活性剤]
インクは、界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤などを挙げることができる。なかでも、ノニオン性界面活性剤を含有するインクを用いることで、吐出安定性の向上効果をより向上させることができるために好ましい。
【0104】
ノニオン性界面活性剤としては、炭化水素系、フッ素系、及びシリコーン系などのノニオン性界面活性剤を挙げることができる。なかでも、アセチレングリコール系のノニオン性界面活性剤であることが好ましい。アセチレングリコール系のノニオン性界面活性剤を用いると、インク中の泡がより消滅しやすくなり、インクの吐出安定性をさらに向上させることができる。インク中の界面活性剤(ノニオン性界面活性剤及びその他の界面活性剤の合計)の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.10質量%以上5.00質量%以下であることが好ましく、0.20質量%以上1.50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0105】
[その他の成分]
インクには、上記成分以外にも必要に応じて、消泡剤、pH調整剤、粘度調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤などの種々の添加剤を含有させてもよい。これらの添加剤は、SP値を考慮する対象としない。
【0106】
[インクの物性]
インクの寿命時間0ミリ秒における動的表面張力は、60mN/m以下であり、好ましくは30mN/m以上60mN/m以下である。インクの寿命時間0ミリ秒における動的表面張力が30mN/m未満であると、インクが泡立ちやすくなるとともに、破泡性が低下しやすくなることがある。インクの寿命時間0ミリ秒における動的表面張力は、以下のようにして測定することができる。まず、顔料などの色材、樹脂、界面活性剤、及び添加剤を含有しないこと以外は、インクと同一組成の液体を用意する。すなわち、インク中の水(顔料などの色材、樹脂、界面活性剤、及び添加剤)及び水溶性有機溶剤に相当する組成の液体を用意する。次いで、プレート法による表面張力計を使用して用意した液体の静的表面張力を測定し、得られた値を「インクの寿命時間0ミリ秒における動的表面張力(mN/m)」とする。このような液体、つまり、「インク中の水性媒体についての静的表面張力」を利用してインクの特性を把握するのは、インクの動きが大きい状態では、顔料などの色材、樹脂、界面活性剤、及び添加剤の影響を考慮する必要がないためである。
【0107】
組成が不明なインクの寿命時間0ミリ秒における動的表面張力は、以下のようにして測定すればよい。一般的な組成分析を行ってインクの構成成分とその含有量を把握したうえで、水及び水溶性有機溶剤で構成される水性媒体を調製し、上記と同様にして静的表面張力を測定すればよい。インクの寿命時間0ミリ秒における動的表面張力は、水溶性有機溶剤の種類及び含有量によって調整することができる。水の静的表面張力は72mN/mであり、水分子間の水素結合を切断しやすいような水溶性有機溶剤を用いることによって、インクの寿命時間0ミリ秒における動的表面張力を下げることができる。
【0108】
第1流路及び第2流路の内壁面とインクとの接触角(静的接触角)は、60°以下であり、好ましくは40°以下、さらに好ましくは10°以上40°以下である。第1流路及び第2流路の内壁面とインクとの接触角が10°未満であると、第1流路及び第2流路の内壁面と、インクに生じた泡との接触角が大きくなり、破泡性が低下しやすく、インク中に泡が残存しやすくなることがある。
【0109】
インクは、インクジェット方式に適用する水性インクである。したがって、信頼性の観点から、その物性値を適切に制御することが好ましい。具体的には、25℃におけるインクの静的表面張力は、25mN/m以上であることが好ましく、30mN/m以上60mN/m以下であることがさらに好ましい。また、25℃におけるインクの粘度は、1.0mPa・s以上10.0mPa・s以下であることが好ましく、1.0mPa・s以上5.0mPa・s以下であることがさらに好ましい。25℃におけるインクのpHは、5.0以上10.0以下であることが好ましく、7.0以上9.5以下であることがさらに好ましい。
【実施例0110】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0111】
<顔料分散液の製造>
(顔料分散液1)
カーボンブラックの粒子表面にベンゼンカルボン酸基が結合している自己分散顔料(商品名「Cab-O-Jet300」、キャボット製)を用意した。用意した自己分散顔料を水で希釈し、十分撹拌して、顔料の含有量が15.00%である顔料分散液1を得た。
【0112】
(顔料分散液2)
C.I.ピグメントブルー15:4の粒子表面に-C-(COONa)基が結合している自己分散顔料(商品名「CAB-O-JET250C」、キャボット製)を用意した。用意した自己分散顔料を水で希釈し、十分撹拌して、顔料の含有量が15.00%である顔料分散液2を得た。
【0113】
(顔料分散液3)
顔料15.0部、樹脂分散剤の水溶液30.0部、及び水55.0部を混合し、サンドグラインダーで1時間分散させた後、遠心分離して粗大粒子を含む非分散物を除去した。顔料としては、カーボンブラック(商品名「Printex85」、オリオンエンジニアドカーボンズ製)を用いた。樹脂分散剤の水溶液としては、スチレン-アクリル酸共重合体を酸価と等モル量の10%水酸化カリウム水溶液で中和し、適量のイオン交換水を添加して得た、樹脂(固形分)の含有量が20.0%である水溶液を用いた。スチレン-アクリル酸共重合体の酸価は150mgKOH/gであり、重量平均分子量8,000であった。ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過した後、適量のイオン交換水を加えて顔料分散液3を調製した。顔料分散液3中の顔料の含有量は15.00%、樹脂の含有量は3.00%であった。
【0114】
(顔料分散液4)
顔料としてC.I.ピグメントブルー15:6を用いたこと以外は、前述の顔料分散液3の場合と同様にして、顔料分散液4を得た。顔料分散液4中の顔料の含有量は15.00%、樹脂の含有量は3.00%であった。
【0115】
(顔料分散液5)
顔料としてC.I.ピグメントレッド122を用いたこと以外は、前述の顔料分散液3の場合と同様にして、顔料分散液5を得た。顔料分散液5中の顔料の含有量は15.00%、樹脂の含有量は3.00%であった。
【0116】
(顔料分散液6)
顔料としてC.I.ピグメントレッド122を用いたこと以外は、前述の顔料分散液3の場合と同様にして、顔料分散液6を得た。顔料分散液6中の顔料の含有量は15.00%、樹脂の含有量は3.00%であった。
【0117】
<染料水溶液の製造>
染料(C.I.ダイレクトイエロー132)を純水に溶解させた後、過剰の酸を添加して染料を析出させた。析出した染料をろ過して分取し、アニオン性基を酸型とした染料をウェットケーキとして得た。得られたウェットケーキを純水に加え、染料のアニオン性基と等モル量となる水酸化ナトリウムの水溶液を添加してアニオン性基を中和し、染料を溶解させた。さらに適量の純水を加えて、染料の含有量が15.00%である染料水溶液を得た。
【0118】
<ウレタン樹脂の合成>
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、及び還流管を備えた4つ口フラスコを用意した。この4つ口フラスコに、表1に示す種類及び量のイソホロンジイソシアネート(IPDI)、ポリプロピレングリコール(PPG、数平均分子量2,000)、ジメチロールプロピオン酸(DMPA)、及びメチルエチルケトン300.0部を入れた。そして、窒素ガス雰囲気下、80℃で6時間反応させた。次いで、表1に示す量のエチレンジアミン(EDA)を添加し、生成物が所定の重量平均分子量となるまで80℃で反応させて反応液を得た。得られた反応液を40℃まで冷却した後、イオン交換水を添加し、ホモミキサーで高速撹拌しながら水酸化カリウム水溶液を添加して液体を得た。得られた液体を加熱減圧してメチルエチルケトンを留去し、ウレタン樹脂(固形分)の含有量が30.00%である、ウレタン樹脂1~5をそれぞれ含む液体を得た。得られたウレタン樹脂1~5は、いずれも水溶性であり、酸価65mgKOH/g、ポリスチレン換算の重量平均分子量15,000であった。ウレタン樹脂の酸価は、水酸化カリウム-メタノール滴定液を用いた電位差滴定により測定した。ウレタン樹脂の重量平均分子量は、GPCにより測定した。ウレタン樹脂中のウレタン結合とウレア結合の合計に占める、ウレタン結合の割合(モル%)は、13C-NMRにより測定及び算出した(表1中、「ウレタン結合の割合(モル%)」と記載した)。
【0119】
【0120】
<その他の樹脂>
(アクリル樹脂1)
酸価120mgKOH/g、重量平均分子量8,000のスチレン-アクリル酸共重合体(水溶性樹脂)を水酸化ナトリウム水溶液で中和して、樹脂(固形分)の含有量が20.00%である、アクリル樹脂1を含む液体を得た。
【0121】
(樹脂粒子1)
撹拌機、還流冷却装置、及び窒素ガス導入管を備えた4つ口フラスコに、ブチルメタクリレート18.0部、メタクリル酸0.35部、重合開始剤(2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル))2.0部、及びn-ヘキサデカン2.0部を入れた。反応系に窒素ガスを導入し、0.5時間撹拌した。乳化剤(商品名「NIKKOL BC15」、日光ケミカルズ製)の6.0%水溶液78.0部を反応系に滴下し、0.5時間撹拌して混合物を得た。超音波照射機で超音波を3時間照射して混合物を乳化させた後、窒素雰囲気下、80℃で4時間重合反応を行った。反応系を25℃まで冷却した後、ろ過し、適量の純水を添加して、樹脂粒子(固形分)の含有量が20.00%である、樹脂粒子1を含む液体を得た。
【0122】
<インク>
表2-1~2-4の上段に示す各成分を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過を行い、各インクを調製した。表2-1~2-4中、水溶性有機溶剤に付した括弧内の数値は、各水溶性有機溶剤のSP値である。各インクから色材、樹脂、及び界面活性剤を除き、これらを水に置き換えた液体を準備し、自動表面張力計(商品名「CBVP-Z型」、協和界面科学製)を使用して、寿命時間0ミリ秒における動的表面張力(γ(mN/m))を測定した。また、自動表面張力計(商品名「CBVP-Z型」、協和界面科学製)を使用して、各インクの静的表面張力(γ(mN/m))を測定した。測定結果を表2-1~2-4の下段に示す。表2-1~2-4中、界面活性剤の詳細を以下に示す。
・アセチレノールE60:アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物(ノニオン性界面活性剤、川研ファインケミカル製)
・プルロニック(登録商標)L31:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー(ノニオン性界面活性剤、BASF製)
・NIKKOL BC-20:ポリエチレングリコール(20)モノセチルエーテル(ノニオン性界面活性剤、日光ケミカルズ製)
・Zonyl FSO:パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物(ノニオン性界面活性剤、デュポン製)
・BYK348:ポリエーテル変性シロキサン化合物(ノニオン性界面活性剤、ビックケミー製)
・NIKKOL SCS:セチル硫酸ナトリウム(アニオン性界面活性剤、日光ケミカルズ製)
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
<記録ヘッド>
以下に示す構成を有する記録ヘッド1~7を用意した。用意した記録ヘッドの特徴を表3に示す。また、参考例4で用いた記録ヘッド8の特徴も表3に併せて示す。
(記録ヘッド1)
図1に示す構成を有する記録ヘッド1を用意した。第1流路及び第2流路は、いずれも、感光性エポキシ樹脂を含む材料で形成されている。
【0128】
(記録ヘッド2)
第1圧力調整手段(図1中、符号120で表される部材)を有しないこと以外は、前述の「記録ヘッド1」と同様の構成を有する記録ヘッド2を用意した。
【0129】
(記録ヘッド3)
第2圧力調整手段(図1中、符号150で表される部材)を有しないこと以外は、前述の「記録ヘッド1」と同様の構成を有する記録ヘッド3を用意した。
【0130】
(記録ヘッド4)
吐出素子が圧電素子(ピエゾ)であること以外は、前述の「記録ヘッド1」と同様の構成を有する記録ヘッド4を用意した。
【0131】
(記録ヘッド5)
図4及び5に示す構成を有する記録素子基板を備えた、図1に示す構成を有する記録ヘッド5を用意した。第2保護層の構成材料としては、イリジウムを用いた。記録ヘッド5は、電圧印加手段(図4及び5に示す構成)を有すること以外は、前述の「記録ヘッド1」と同様の構成を有する。記録ヘッド5を用いて後述する各項目の評価を行う際には、電圧制御した状態を維持してインクを吐出させた。具体的には、記録ヘッドのインク流路に各インクを充填し、陰極とする第2保護層107のヒータ側領域107a、及び陽極とする第2保護層107の対向電極側領域107bを導通させた(図4)。この状態で、第2保護層107のヒータ側領域107aをマイナス、対向電極側領域107bをプラスに帯電させる電圧制御を行った。そして、第2保護層107の対向電極側領域107bに接続している外部電極111側に+2VのDC電圧を印加しはじめ、電圧制御した状態を維持しながら、インクを吐出させるための電圧を発熱部104aに印加した。記録のためのインクの吐出が終了した後に電圧制御を停止した。
【0132】
(記録ヘッド6)
図1に示す構成を有する記録ヘッド6を用意した。第1流路及び第2流路は、いずれも、感光性アクリル樹脂を含む材料で形成されている。
【0133】
(記録ヘッド7)
第2流路、第1圧力調整手段(図1中、符号120で表される部材)、及び第2圧力調整手段(図1中、符号150で表される部材)を有しないこと以外は、「記録ヘッド1」と同様の構成を有する記録ヘッド7を用意した。第1流路は、感光性エポキシ樹脂を含む材料で形成されている。
【0134】
(記録ヘッド8)
記録ヘッド内の循環経路、第2流路、第1圧力調整手段(図1中、符号120で表される部材)、及び第2圧力調整手段(図1中、符号150で表される部材)を有しないこと以外は、「記録ヘッド1」と同様の構成を有する記録ヘッド8を用意した。第1流路は、感光性エポキシ樹脂を含む材料で形成されている。
【0135】
各記録ヘッドの特徴(循環の有無、供給の形態)、並びに第1流路及び第2流路を形成する樹脂のSP値((cal/cm1/2)を表3に示す。
【0136】
【0137】
<接触角の測定>
自動接触角計(商品名「DropMaster700」、協和界面科学株式会社)を使用して、用意した記録ヘッドの第1流路及び第2流路の内壁面と、各インクとの接触角(静的接触角(°))を測定した。結果を表4に示す。
【0138】
<評価>
参考例4以外の例では、インクジェット記録装置(商品名「WG7350」、キヤノン製)に、シリアル方式の記録ヘッド(図3)を組み込んだものを用いた。参考例4では、表3に示す記録ヘッド8を搭載したインクジェット記録装置である、商品名「GX6030」(キヤノン製)を用いた。また、表4に示す組み合わせの記録ヘッド及びインクを、用意したインクジェット記録装置に組み込んだ。評価にあたっては、記録ヘッドに接触して配設されたヒータを用いて、記録ヘッド内のインクの温度が40℃となるように加温した状態を保った。但し、実施例38では記録ヘッド内のインクを加温しなかった。評価結果を表4に示す。本発明では、以下に示す各項目の評価基準で、「AA」、「A」、及び「B」を許容できるレベルとし、「C」を許容できないレベルとした。
【0139】
(吐出安定性)
温度15℃、相対湿度10%の環境で以下に示す評価を行った。上記のインクジェット記録装置を用いて、記録媒体(商品名「キヤノン写真用紙・光沢ゴールド」、キヤノン製)に、各吐出口の吐出状態を確認するパターン(「WG7350」又は「GX6030」のノズルチェックパターン)を記録した。本実施例では、1/1,200インチ×1/1,200インチの単位領域に、1滴当たりの質量が4ngであるインク滴を2滴付与する条件で記録したベタ画像の記録デューティを100%と定義する。記録したノズルチェックパターンを目視で確認し、以下に示す評価基準にしたがってインクの吐出安定性を評価した。
AA:不吐出が生じた吐出口の割合が、全吐出口の1%以下であった。
A:不吐出が生じた吐出口の割合が、全吐出口の1%を超えて5%以下であった。
B:不吐出が生じた吐出口の割合が、全吐出口の5%を超えて8%以下であった。
C:不吐出が生じた吐出口の割合が、全吐出口の8%を超えていた。
【0140】
(画像ムラ)
温度25℃、相対湿度50%の環境で以下に示す評価を行った。上記のインクジェット記録装置を用いて、1パス記録で、A4サイズの記録媒体(商品名「高品位専用紙HR-101S」、キヤノン製)の全面に記録デューティが100%であるベタ画像を3枚分記録した。1パス記録とは、記録ヘッド及び記録媒体の1回の相対走査で単位領域(1バンド:記録ヘッドの1回の主走査で記録可能な領域)にインクを付与して記録することを意味する。1枚目のベタ画像と3枚目のベタ画像を目視て対比して確認し、以下に示す評価基準にしたがって画像ムラを評価した。
AA:ベタ画像のどの部分にもムラが生じていなかった。
A:吐出し始め(記録媒体の端部)の1バンド分の領域のうち、3cm以下の領域でムラが生じていた。
B:吐出し始め(記録媒体の端部)の1バンド分の領域のうち、3cmを超えて10cm以下の領域でムラが生じていた。
C:吐出し始め(記録媒体の端部)の1バンド分の領域のうち、10cmを超えた領域でムラが生じていた。
【0141】
【0142】
第2流路を有しない記録ヘッド7を用いた参考例1~3では、泡による吐出安定性の低下は確認されなかったが、画像ムラの評価で記録したベタ画像の一部に白抜けが生じていた。
【0143】
なお、本実施形態の開示は、以下の方法及び構成を含む。
(方法1)水性インクを吐出するための吐出口と、前記吐出口と連通する圧力室と、前記圧力室に配置され、かつ、前記吐出口から前記水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子と、前記圧力室と接続する第1流路と、前記吐出素子を挟んで前記第1流路と反対側の位置で前記圧力室と接続する第2流路と、を具備する記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置を使用し、前記吐出口から吐出した前記水性インクを記録媒体に付与して画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記記録ヘッドが、前記第1流路及び前記第2流路のいずれからも前記圧力室へと前記水性インクを供給可能に構成されており、
前記水性インクの寿命時間0ミリ秒における動的表面張力が、60mN/m以下であり、
前記第1流路及び前記第2流路の内壁面と前記水性インクとの接触角が、60°以下であることを特徴とするインクジェット記録方法。
(方法2)前記水性インクの寿命時間0ミリ秒における動的表面張力が、30mN/m以上である方法1に記載のインクジェット記録方法。
(方法3)前記内壁面と前記水性インクとの接触角が、40°以下である方法1又は2に記載のインクジェット記録方法。
(方法4)前記内壁面と前記水性インクとの接触角が、10°以上である方法1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
(方法5)前記水性インクが、ノニオン性界面活性剤を含有する方法1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
(方法6)前記ノニオン性界面活性剤が、アセチレングリコール系のノニオン性界面活性剤である方法5に記載のインクジェット記録方法。
(方法7)前記水性インクが、そのSP値が15.0以下である第1水溶性有機溶剤を含有する方法1乃至6のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
(方法8)前記第1水溶性有機溶剤が、アルキレングリコールである方法7に記載のインクジェット記録方法。
(方法9)前記水性インクが、ノニオン性界面活性剤、及びそのSP値が15.0以下である第1水溶性有機溶剤を含有し、
前記第1水溶性有機溶剤が、アルキレングリコールである方法1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
(方法10)前記第1流路及び前記第2流路が、それぞれ樹脂で形成されており、
前記水性インク中の水溶性有機溶剤の平均SP値と、前記樹脂のSP値との差が、4.0以下である方法1乃至9のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
(方法11)前記水性インクが、ウレタン樹脂を含有する方法1乃至10のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
(方法12)前記ウレタン樹脂が、ポリアミンに由来するユニットを有し、
前記ウレタン樹脂中のウレタン結合と前記ポリアミンに由来するウレア結合の合計に占める、ウレタン結合の割合が、85モル%以上99モル%以下である方法11に記載のインクジェット記録方法。
(方法13)前記水性インクの静的表面張力が、25mN/m以上である方法1乃至12のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
(方法14)前記記録ヘッドが、さらに、前記第1流路から前記圧力室へと供給する前記水性インクに負荷する圧力を調整する、前記第1流路に接続して配置される第1圧力調整手段と、
前記第1圧力調整手段から前記第1流路を介して前記圧力室内に前記水性インクを供給するとともに、前記第2流路を介して前記圧力室内の前記水性インクを回収するように前記水性インクを送液可能な循環ポンプと、
前記圧力室を介さずに前記第1流路と前記第2流路を接続するバイパス流路と、を具備し、
前記インクジェット記録装置が、さらに、前記水性インクを収容するインク収容部を備え、
前記インク収容部から供給された前記水性インクが、前記第1圧力調整手段及び前記第1流路を介して前記吐出口から吐出されるとともに、前記吐出口から吐出されなかった前記水性インクが、前記第2流路及び前記循環ポンプを介して前記第1流路へと循環する工程と、
前記インク収容部から供給された前記水性インクが、前記第1圧力調整手段及び前記第1流路を介して前記吐出口から吐出されるとともに、前記第1圧力調整手段、前記バイパス流路、及び前記第2流路を介して前記吐出口から吐出される工程と、を有する方法1乃至13のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
(方法15)前記記録ヘッドが、さらに、前記第2流路に接続して配置される第2圧力調整手段を具備し、
前記インク収容部から供給された前記水性インクが、前記第1圧力調整手段及び前記第1流路を介して前記吐出口から吐出されるとともに、前記吐出口から吐出されなかった前記水性インクが、前記第2流路、前記第2圧力調整手段、及び前記循環ポンプを介して前記第1流路へと循環する工程と、
前記インク収容部から供給された前記水性インクが、前記第1圧力調整手段及び第1流路を介して前記吐出口から吐出されるとともに、前記第1圧力調整手段、前記バイパス流路、前記第2圧力調整手段、及び前記第2流路を介して前記吐出口から吐出される工程と、を有する方法1乃至14のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
(方法16)前記吐出素子が、発熱素子であり、
前記記録ヘッドが、前記発熱素子によって前記水性インクを加熱し、前記水性インク内に気泡を発生させて前記水性インクを吐出するサーマル方式の記録ヘッドである方法1乃至15のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
(方法17)
前記記録ヘッドが、さらに、前記記録ヘッド内の前記水性インクを加温する加温手段を具備する方法1乃至16のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
(方法18)前記記録ヘッドが、さらに、前記発熱素子に対応する位置に配置される、前記発熱素子と前記圧力室内の前記水性インクとの接触を遮断する第1保護層と、
前記発熱素子に対応し、かつ、前記水性インクと接触する位置に配置される、金属材料で形成された第2保護層と、
前記第2保護層を陰極とし、前記水性インクを介して導通する部位を陽極とする電圧印加手段と、を具備する方法16又は17に記載のインクジェット記録方法。
(構成1)水性インクを吐出するための吐出口と、前記吐出口と連通する圧力室と、前記圧力室に配置され、かつ、前記吐出口から前記水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子と、前記圧力室と接続する第1流路と、前記吐出素子を挟んで前記第1流路と反対側の位置で前記圧力室と接続する第2流路と、を具備する記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置であって、
前記記録ヘッドが、前記第1流路及び前記第2流路のいずれからも前記圧力室へと前記水性インクを供給可能に構成されており、
前記水性インクの寿命時間0ミリ秒における動的表面張力が、60mN/m以下であり、
前記第1流路及び前記第2流路の内壁面と前記水性インクとの接触角が、60°以下であることを特徴とするインクジェット記録装置。
(構成2)水性インクを吐出するための吐出口と、前記吐出口と連通する圧力室と、前記圧力室に配置され、かつ、前記吐出口から前記水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子と、前記圧力室と接続する第1流路と、前記吐出素子を挟んで前記第1流路と反対側の位置で前記圧力室と接続する第2流路と、を具備する記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置を使用し、前記吐出口から吐出した前記水性インクを記録媒体に付与して画像を記録するインクジェット記録方法に用いられる水性インクであって、
前記記録ヘッドが、前記第1流路及び前記第2流路のいずれからも前記圧力室へと前記水性インクを供給可能に構成されており、
寿命時間0ミリ秒における動的表面張力が、60mN/m以下であり、
前記第1流路及び前記第2流路の内壁面と前記水性インクとの接触角が、60°以下であることを特徴とする水性インク。
図1
図2
図3
図4
図5