(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178117
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】インク充填方法、インクジェット記録方法、インクジェット記録装置、及び水性インク
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20241217BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20241217BHJP
B41J 2/19 20060101ALI20241217BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241217BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20241217BHJP
【FI】
B41J2/175 143
B41M5/00 120
B41J2/19
B41J2/01 501
C09D11/322
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024085302
(22)【出願日】2024-05-27
(31)【優先権主張番号】P 2023096378
(32)【優先日】2023-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】杉江 美紗貴
(72)【発明者】
【氏名】西野 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】政田 愛子
(72)【発明者】
【氏名】荒木 和彦
(72)【発明者】
【氏名】若尾 咲名
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA15
2C056EA26
2C056EC49
2C056FA10
2C056FC01
2C056KC01
2C056KC10
2C056KC14
2C056KD02
2H186FA18
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB55
2H186FB58
4J039AE04
4J039BA02
4J039BC07
4J039BC13
4J039BC60
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA44
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】インク循環式の記録ヘッドを備えながらも、インクの吐出安定性に優れたインクジェット記録装置を準備することが可能なインク充填方法を提供する。
【解決手段】吐出口13と、吐出口13と連通する圧力室12と、吐出素子15と、圧力室13と接続する第1流路130及び第2流路140と、を具備する記録ヘッド1を有するインク供給系を備えるインクジェット記録装置のインク供給系内に、溶存酸素量が3.0mg/L以下である水性インクを収容するインク収容体から水性インクを初期充填するインク充填方法である。インク収容体の水性インクと接触する層が、樹脂で形成されており、水性インク中の水溶性有機溶剤の平均SP値と、インク収容体の層を形成する樹脂のSP値との差が、6.5(cal/cm
3)
1/2以下であり、水性インクの25℃における表面張力が、25mN/m以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット用の水性インクを吐出するための吐出口と、前記吐出口と連通する圧力室と、前記圧力室に配置され、かつ、前記吐出口から前記水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子と、前記圧力室と接続する第1流路と、前記吐出素子を挟んで前記第1流路と反対側の位置で前記圧力室と接続する第2流路と、を具備する記録ヘッドを有するインク供給系を備えるインクジェット記録装置の前記インク供給系内に、
溶存酸素量が3.0mg/L以下である前記水性インクを収容するインク収容体から前記水性インクを初期充填するインク充填方法であって、
前記水性インクが、顔料、及び水溶性有機溶剤を含有し、
前記インク収容体の前記水性インクと接触する層が、樹脂で形成されており、
前記水溶性有機溶剤の平均SP値と、前記インク収容体の前記層を形成する前記樹脂のSP値との差が、6.5(cal/cm3)1/2以下であり、
前記水性インクの25℃における表面張力が、25mN/m以上であることを特徴とするインク充填方法。
【請求項2】
前記樹脂が、ポリエチレン又はポリプロピレンである請求項1に記載のインク充填方法。
【請求項3】
前記インク収容体の形状が、袋状である請求項1に記載のインク充填方法。
【請求項4】
前記インク収容体が、金属層を有する請求項1に記載のインク充填方法。
【請求項5】
前記水溶性有機溶剤が、その比誘電率が28.0以下である第1水溶性有機溶剤を含む請求項1に記載のインク充填方法。
【請求項6】
前記水性インク中、前記第1水溶性有機溶剤の含有量(質量%)が、前記水溶性有機溶剤の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.25倍以上である請求項5に記載のインク充填方法。
【請求項7】
前記水性インク中、前記第1水溶性有機溶剤の含有量(質量%)が、前記水溶性有機溶剤の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.35倍以上である請求項5に記載のインク充填方法。
【請求項8】
前記第1水溶性有機溶剤が、ポリエチレングリコールを含む請求項5に記載のインク充填方法。
【請求項9】
前記ポリエチレングリコールの数平均分子量が、200以上である請求項8に記載のインク充填方法。
【請求項10】
前記水性インクが、さらに、ノニオン性界面活性剤を含有する請求項1に記載のインク充填方法。
【請求項11】
前記ノニオン性界面活性剤が、エチレンオキサイド基の付加モル数が4以上のアセチレングリコール系のノニオン性界面活性剤である請求項10に記載のインク充填方法。
【請求項12】
前記水性インクが、さらに、水溶性ウレタン樹脂を含有する請求項1乃至11のいずれか1項に記載のインク充填方法。
【請求項13】
前記水溶性ウレタン樹脂が、ポリアミンに由来するユニットを有し、
前記水溶性ウレタン樹脂中のウレタン結合と前記ポリアミンに由来するウレア結合の合計に占める、前記ウレタン結合の割合が、85.0モル%以上99.0モル%以下である請求項12に記載のインク充填方法。
【請求項14】
インクジェット用の水性インクを吐出するための吐出口と、前記吐出口と連通する圧力室と、前記圧力室に配置され、かつ、前記吐出口から前記水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子と、前記圧力室と接続する第1流路と、前記吐出素子を挟んで前記第1流路と反対側の位置で前記圧力室と接続する第2流路と、を具備する記録ヘッドを有するインク供給系を備えるインクジェット記録装置の前記インク供給系内に、
溶存酸素量が3.0mg/L以下である前記水性インクを収容するインク収容体から前記水性インクを初期充填した前記インクジェット記録装置を使用し、
前記吐出口から吐出した前記水性インクを記録媒体に付与して画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記水性インクが、顔料、及び水溶性有機溶剤を含有し、
前記インク収容体の前記水性インクと接触する層が、樹脂で形成されており、
前記水溶性有機溶剤の平均SP値と、前記インク収容体の前記層を形成する前記樹脂のSP値との差が、6.5(cal/cm3)1/2以下であり、
前記水性インクの25℃における表面張力が、25mN/m以上であることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項15】
インクジェット用の水性インクを吐出するための吐出口と、前記吐出口と連通する圧力室と、前記圧力室に配置され、かつ、前記吐出口から前記水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子と、前記圧力室と接続する第1流路と、前記吐出素子を挟んで前記第1流路と反対側の位置で前記圧力室と接続する第2流路と、を具備する記録ヘッドを有するインク供給系を備える、
溶存酸素量が3.0mg/L以下である前記水性インクを収容するインク収容体から前記供給系内に前記水性インクを初期充填したインクジェット記録装置であって、
前記水性インクが、顔料、及び水溶性有機溶剤を含有し、
前記インク収容体の前記水性インクと接触する層が、樹脂で形成されており、
前記水溶性有機溶剤の平均SP値と、前記インク収容体の前記層を形成する前記樹脂のSP値との差が、6.5(cal/cm3)1/2以下であり、
前記水性インクの25℃における表面張力が、25mN/m以上であることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項16】
インクジェット用の水性インクを吐出するための吐出口と、前記吐出口と連通する圧力室と、前記圧力室に配置され、かつ、前記吐出口から前記水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子と、前記圧力室と接続する第1流路と、前記吐出素子を挟んで前記第1流路と反対側の位置で前記圧力室と接続する第2流路と、を具備する記録ヘッドを有するインク供給系を備えるインクジェット記録装置の前記インク供給系内に、
溶存酸素量が3.0mg/L以下である前記水性インクを収容するインク収容体から前記水性インクを初期充填した前記インクジェット記録装置を使用し、
前記吐出口から吐出した前記水性インクを記録媒体に付与して画像を記録するインクジェット記録方法に用いられる水性インクであって、
前記水性インクが、顔料、及び水溶性有機溶剤を含有し、
前記インク収容体の前記水性インクと接触する層が、樹脂で形成されており、
前記水溶性有機溶剤の平均SP値と、前記インク収容体の前記層を形成する前記樹脂のSP値との差が、6.5(cal/cm3)1/2以下であり、
前記水性インクの25℃における表面張力が、25mN/m以上であることを特徴とする水性インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク充填方法、インクジェット記録方法、インクジェット記録装置、及び水性インクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録装置は、オフィスでの記録や商業記録の分野における利用機会が増加している。また、インクの高粘度化などに対応すべく、インクの吐出安定性をさらに向上させるための技術が求められている。しかし、これまでのインクジェット記録装置では、吐出口からの吐出が行われない期間(不使用期間)が長くなるとインクが徐々に固着し、インクの吐出性に影響が及ぶことがあった。
【0003】
このような課題に対応すべく、いわゆるインク循環方式の記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置が提案されている。例えば、吐出口、吐出素子、及び吐出口と吐出素子の間で連通してその内部にインクが流通する第1流路と第2流路を具備するインク循環式の記録ヘッドが提案されている(特許文献1)。この記録ヘッドは、吐出素子とは別の、第1流路内のインクを第2流路へと流動させる流動手段を備えている。
【0004】
また、これまでのインクジェット記録装置では、装置の使用開始時にインクボトルやインクカートリッジなどのインク収容体からインクが初期充填されると、充填されたインク中に気泡が発生し、インク収容部やインク供給系内の部材の内表面に付着しやすい。この気泡がインク供給系内を流通して記録ヘッドに供給されると、インクの吐出よれや不吐出が生ずる。このような初期充填による気泡の発生を抑制するには、加熱や減圧などの脱気処理を施し、溶存気体の量を可能な限り予め低減したインクを収容したインク収容体を用いることが有効である。例えば、気体透過性の膜を利用してインク中の溶存気体を除去する方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-014238号公報
【特許文献2】特開平5-017712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、特許文献1で提案されたインク循環式の記録ヘッドを有するインク供給系に脱気処理したインクを初期充填したインクジェット記録装置を用意し、その特性について検討した。その結果、脱気処理したインクを初期充填したにもかかわらず、インク供給系内に気泡が発生するとともに、発生した気泡が吐出口まで到達し、インクが不吐出になりやすいといった新たな課題が生ずることが判明した。
【0007】
したがって、本発明の目的は、インク循環式の記録ヘッドを備えながらも、インクの吐出安定性に優れたインクジェット記録装置を準備することが可能なインク充填方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、インク循環式の記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置を使用しながらも、インクの吐出安定性に優れたインクジェット記録方法を提供することにある。さらに、本発明の別の目的は、このインクジェット記録方法に用いるインクジェット記録装置及び水性インクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、インクジェット用の水性インクを吐出するための吐出口と、前記吐出口と連通する圧力室と、前記圧力室に配置され、かつ、前記吐出口から前記水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子と、前記圧力室と接続する第1流路と、前記吐出素子を挟んで前記第1流路と反対側の位置で前記圧力室と接続する第2流路と、を具備する記録ヘッドを有するインク供給系を備えるインクジェット記録装置の前記インク供給系内に、溶存酸素量が3.0mg/L以下である前記水性インクを収容するインク収容体から前記水性インクを初期充填するインク充填方法であって、前記水性インクが、顔料、及び水溶性有機溶剤を含有し、前記インク収容体の前記水性インクと接触する層が、樹脂で形成されており、前記水溶性有機溶剤の平均SP値と、前記インク収容体の前記層を形成する前記樹脂のSP値との差が、6.5(cal/cm3)1/2以下であり、前記水性インクの25℃における表面張力が、25mN/m以上であることを特徴とするインク充填方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インク循環式の記録ヘッドを備えながらも、インクの吐出安定性に優れたインクジェット記録装置を準備することが可能なインク充填方法を提供することができる。また、本発明によれば、インク循環式の記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置を使用しながらも、インクの吐出安定性に優れたインクジェット記録方法を提供することができる。さらに、本発明によれば、このインクジェット記録方法に用いるインクジェット記録装置及び水性インクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】本発明のインクジェット記録装置の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【
図3】本発明のインクジェット記録装置の一実施形態の内部構成を示す概略図である。
【
図4】インク収容体及びインク供給系内におけるインクの状態の一例を示す模式図である。
【
図5】インク収容体及びインク供給系内におけるインクの状態の一例を示す模式図である。
【
図6】インク収容体の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、さらに本発明を詳細に説明する。本発明においては、化合物が塩である場合は、水性インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。また、インクジェット用の水性インクのことを、単に「インク」と記載することがある。物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。
【0012】
脱気して溶存酸素量が少ない状態のインクを用いる場合、初期充填時にインク中に気泡が発生したとしても、発生した気泡はインクに吸収されやすい。インク循環式ではない記録ヘッドの場合、
図4(a)に示すように、インク収容体の層を形成する樹脂部材32の表面で成長した気泡34のほとんどは、溶存酸素量の少ないインク30に吸収される。このため、インクの不吐出は生じにくく、インクの吐出安定性は低下しにくい。これに対して、インク循環式の記録ヘッドの場合、
図4(b)に示すように、樹脂部材32の表面で成長した気泡のうち、インクに吸収されなかった一部の気泡44が、吐出口に連通するインク流路40にまで到達する。そして、記録ヘッドのインク流路38内をインクが循環するうちに、インク流路40内に気泡44がたまり、インクの吐出安定性に大きく影響を及ぼすことになる。このように、インク循環式の記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置を使用する場合には、脱気して溶存酸素量が少ない状態のインクを用いたとしても、インクの不吐出が生じやすくなると考えられる。
【0013】
本発明者らは、インク収容体からインク供給系にインクを初期充填する際の気泡の発生を抑制して、インクの吐出安定性を向上させるべく検討した。その結果、以下に示す(i)~(v)の要件を満たすことが重要であることを見出し、本発明に至った。
(i)溶存酸素量が3.0mg/L以下である水性インクを収容するインク収容体からインク供給系に水性インクを初期充填する。
(ii)水性インクが、顔料、及び水溶性有機溶剤を含有する。
(iii)インク収容体の水性インクと接触する層が、樹脂で形成されている。
(iv)水溶性有機溶剤の平均SP値と、インク収容体の層を形成する樹脂のSP値との差が、6.5(cal/cm3)1/2以下である。
(v)水性インクの25℃における表面張力が、25mN/m以上である。
【0014】
SP値は、一般的に、二成分系溶液の相溶性の指標として利用される物性値である。SP値の差が小さい成分同士ほど、相互の溶解度(親和性)が大きい。上記(iv)の関係を満たす場合、相互の親和性が良好であり、インク収容体の最内層(インクとの接触面)を形成する樹脂に対するインクの濡れ性が高まっている。このため、
図5(a)に示すように、インク収容体の内部に透過した空気により形成される気泡34が樹脂部材32に付着しにくくなり、気泡34が成長せず、溶存酸素量が少ないインク30中に吸収される。その結果、
図5(b)に示すように、記録ヘッドのインク流路38内をインクが循環しても、インク流路40内に気泡がたまりにくく、インクの吐出安定性が向上すると考えられる。
【0015】
一般的に、インク供給系を構成する部材の表面張力(界面張力)が大きいほど、当該部材に対するインクの濡れ速度は大きくなる。インク供給系を構成する部材に対するインクの濡れ速度が大きくなると、これらの部材を透過した空気により形成される気泡が部材の内表面に付着しにくくなる。このため、気泡は成長せずに脱離し、溶存酸素量の少ないインクに吸収されることになる。その結果、初期充填時におけるインク供給系内での気泡の発生が抑制され、インクの吐出安定性が向上すると考えられる。
【0016】
「初期充填」とは、製造後のインクジェット記録装置をユーザが最初に使用するタイミングでインク供給系内にインクを充填することを意味する。つまり、インクジェット記録装置のインク供給系(インク収容部から記録ヘッド)にインクが最初に接触する状況下で上記(i)~(v)の要件を満たすことで、インクの吐出安定性の向上効果を得ることができる。すなわち、上記(i)~(v)の要件は、初期充填において特に有効な条件である。インク供給系内へのインクの充填が初期充填ではない場合、インク供給系を構成する部材から透過した空気がインクに混入することで、インク中の溶存酸素量が徐々に増加する。すると、インクに吸収されなかった一部の空気が気泡44を形成し、吐出口に連通するインク流路40にまで到達する。そして、記録ヘッドのインク流路38内をインクが循環するうちに、インク流路40内に気泡44がたまり、インクの吐出安定性に大きく影響を及ぼすことになる。このように、インク供給系内へのインクの充填が初期充填ではない場合、上記(i)~(v)の要件を満たしていても、インクの不吐出が生じやすくなると考えられる。
【0017】
<インク充填方法、インクジェット記録方法、インクジェット記録装置、及び水性インク>
本発明のインク充填方法は、特定の構成を有する記録ヘッドを有するインク供給系を備えるインクジェット記録装置のインク供給系内に、溶存酸素量が3.0mg/L以下である水性インクを収容するインク収容体から水性インクを初期充填する方法である。記録ヘッドは、水性インクを吐出するための吐出口と、吐出口と連通する圧力室と、吐出素子と、第1流路と、第2流路と、を具備する。吐出素子は、圧力室に配置され、かつ、吐出口から水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する素子である。第1流路は、圧力室と接続する水性インクの流路である。第2流路は、吐出素子を挟んで第1流路と反対側の位置で圧力室と接続する水性インクの流路である。水性インクは、顔料、及び水溶性有機溶剤を含有し、インク収容体の水性インクと接触する層は、樹脂で形成されている。そして、水溶性有機溶剤の平均SP値と、インク収容体の最内層を形成する樹脂のSP値との差が、6.5(cal/cm3)1/2以下であり、水性インクの25℃における表面張力が、25mN/m以上である。
【0018】
また、本発明のインクジェット記録方法は、特定の構成を有する記録ヘッドを有するインク供給系を備えるインクジェット記録装置のインク供給系内に水性インクを初期充填したインクジェット記録装置を使用する。そして、吐出口から吐出した水性インクを記録媒体に付与して画像を記録するインクジェット記録方法である。インク供給系内には、溶存酸素量が3.0mg/L以下である水性インクを収容するインク収容体から、水性インクが初期充填されている。水性インクは、顔料、及び水溶性有機溶剤を含有し、インク収容体の水性インクと接触する層は、樹脂で形成されている。そして、水溶性有機溶剤の平均SP値と、インク収容体の最内層を形成する樹脂のSP値との差が、6.5(cal/cm3)1/2以下であり、水性インクの25℃における表面張力が、25mN/m以上である。
【0019】
さらに、本発明のインクジェット記録装置は、特定の構成を有する記録ヘッドを有するインク供給系を備える、溶存酸素量が3.0mg/L以下である水性インクを収容するインク収容体から供給系内に水性インクを初期充填した装置である。記録ヘッドは、水性インクを吐出するための吐出口と、吐出口と連通する圧力室と、吐出素子と、第1流路と、第2流路と、を具備する。吐出素子は、圧力室に配置され、かつ、吐出口から水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する素子である。第1流路は、圧力室と接続する水性インクの流路である。第2流路は、吐出素子を挟んで第1流路と反対側の位置で圧力室と接続する水性インクの流路である。水性インクは、顔料、及び水溶性有機溶剤を含有し、インク収容体の水性インクと接触する層は、樹脂で形成されている。そして、水溶性有機溶剤の平均SP値と、インク収容体の最内層を形成する樹脂のSP値との差が、6.5(cal/cm3)1/2以下であり、水性インクの25℃における表面張力が、25mN/m以上である。
【0020】
また、本発明の水性インクは、特定の構成を有する記録ヘッドを有するインク供給系を備えるインクジェット記録装置のインク供給系内に水性インクを初期充填したインクジェット記録装置を使用するインクジェット記録方法に用いられる水性インクである。インクジェット記録方法は、吐出口から吐出した水性インクを記録媒体に付与して画像を記録する方法である。インク供給系内には、溶存酸素量が3.0mg/L以下である水性インクを収容するインク収容体から、水性インクが初期充填されている。水性インクは、顔料、及び水溶性有機溶剤を含有し、インク収容体の水性インクと接触する層は、樹脂で形成されている。そして、水溶性有機溶剤の平均SP値と、インク収容体の最内層を形成する樹脂のSP値との差が、6.5(cal/cm3)1/2以下であり、水性インクの25℃における表面張力が、25mN/m以上である。
【0021】
(インクジェット記録装置)
図2は、本発明のインクジェット記録装置の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2に示すように、記録装置1000の給送ユニット20は、複数の記録媒体を積載可能であり、不図示の給送ローラによって記録媒体を給送する。記録媒体601(
図3)は、所定サイズにカットされたカット紙を例に説明するが、これに限らず、ロール紙に記録する形態にも適用可能である。給送ユニット20により給送された記録媒体は、不図示の搬送ローラを含む搬送ユニットによって、Y方向(搬送方向)に向けて搬送され、インクを吐出する記録ヘッド200(
図3(b))と対向する記録位置へと移動する。キャリッジ100は記録ヘッド200を搭載し、キャリッジモータ4の駆動により、タイミングベルト2を介してガイドシャフト3に沿ってY方向と交差するX方向(主走査方向)に往復走査する。
【0022】
キャリッジ100のX方向への移動と記録ヘッド200によるインクの吐出動作によって単位領域分の画像が記録されると、記録媒体は搬送ユニットによりY方向に搬送される。単位領域としては、記録ヘッド200においてY方向に沿って配置された吐出口列の配列幅と、記録ヘッド200のX方向の1回の移動とで記録可能な「1バンド」や、記録ヘッドの解像度に対応した「1画素」など、任意に設定することができる。シリアル方式では、1バンド分のインクの吐出動作と記録媒体の間欠的な搬送動作を繰り返す記録動作によって、記録媒体の全体にわたって画像を記録可能である。本実施形態においてX方向とY方向は直交する。
【0023】
また、記録ヘッド200と対向する位置であって、記録ヘッド200により記録が行われる記録領域には、記録媒体を垂直方向の下方から支持するプラテン10が配されている。プラテン10によって、記録媒体の記録面と、インクを吐出する吐出口が配列された記録ヘッド200の吐出口面と、が所定距離に保たれる。
【0024】
図3は、本発明のインクジェット記録装置1000の一実施形態の内部構成を示す概略図である。
図3(a)は記録装置1000(
図2)を上から見たときの上面模式図であり、
図3(b)は記録装置1000(
図2)を前面から見たときの模式的な側面図である。キャリッジ100は、記録ヘッド200へ供給されるインクを収容するインクカートリッジを着脱可能に搭載している。インクカートリッジ211から214は、それぞれの吐出口列にインクを供給する。
【0025】
また、キャリッジ100の移動領域内であって、記録媒体601が通過する領域(記録領域)の外側には、記録ヘッド200の吐出口面をキャッピングするためのキャップ302が配されている。記録ヘッド200の吐出口面がキャップ302と対向するキャリッジ100(記録ヘッド200)の位置を、ホームポジション301とも称する。キャップ302は、不図示の吸引手段と接続されており、吐出口面をキャッピングした状態で吸引手段を駆動することで、記録ヘッド200からインクが吸引される。
【0026】
(記録ヘッド)
図1を参照しつつ記録ヘッド1内で行われるインクの循環について説明する。本実施形態の記録装置に適用される1種類のインクに対応する1つの循環ユニット54には、フィルタ110、第1圧力調整手段120、第2圧力調整手段150、及び循環ポンプ500が配置されている。これらの構成要素は、
図1に示すように各流路によって接続され、記録ヘッド1内において、吐出モジュール300に対してインクの供給及び回収を行う循環経路を構成している。
図1では、圧力室12内に配置された吐出素子15と対向する位置に設けられた吐出口13からインクを吐出して画像を記録する記録動作時のインクの流れを模式的に示している。図中の矢印はインクの流れを示している。本実施形態において、記録動作を行う際には外部ポンプ(不図示)及び循環ポンプ500の両方が駆動を開始する。記録動作に関わらず、外部ポンプ及び循環ポンプ500が駆動していてもよい。また、外部ポンプと循環ポンプ500との駆動は、連動して行われなくてもよく、別個に独立して駆動されてもよい。
【0027】
第1圧力調整手段120は、第1流路130に接続して配置されており、第1流路130から圧力室12へとインクを供給するために負荷する圧力を調整する手段である。循環ポンプ500は、第1圧力調整手段120から第1流路130を介して圧力室12内にインクを供給するとともに、第2流路140を介して圧力室12内のインクを回収するようにインクを送液可能なポンプである。バイパス流路は、圧力室12を介さずに第1流路130と第2流路140を接続するインク流路である。そして、第2圧力調整手段150は、第2流路140に接続して配置されている。第1圧力調整手段120は、第1バルブ室121及び第1圧力制御室122を有し、第1バルブ室121は、バルブ190Aにより開閉可能な連通口191Aを介して第1圧力制御室122に連通している。
【0028】
記録動作中は、循環ポンプ500がONの状態(駆動状態)となっている。インクジェット記録装置は、インクを収容するインクカートリッジなどのインク収容部(不図示)を備える。インク収容部から供給されたインクは、フィルタ110を通じて第1圧力調整手段120の第1バルブ室121及び第1圧力制御室122へと流入する。そして、第1圧力制御室122から流出したインクは、第1流路130及びバイパス流路160に流入する。第1流路130に流入したインクの一部は、吐出モジュール300を通過する際に吐出口13から吐出される。吐出口13から吐出されなかった残りのインクは第2流路140に流入した後、第2圧力制御室152に供給される。そして、第2圧力制御室152に供給されたインクは、循環ポンプ500を介して第1流路130へと循環する。
【0029】
一方、第1圧力制御室122からバイパス流路160に流入したインクは、第2バルブ室151を経て第2圧力制御室152に流入する。第2圧力制御室152に流入したインクは、ポンプ入口流路170、循環ポンプ500、及びポンプ出口流路180を通過した後、再び第1圧力制御室122に流入する。このとき、第1バルブ室121による制御圧力は、第1圧力制御室122の制御圧力よりも高く設定されている。このため、第1圧力制御室122内のインクは、第1バルブ室121に流れずに再度第1流路130を介して吐出モジュール300に供給される。吐出モジュール300に流入したインクは、第2流路140、第2圧力制御室152、ポンプ入口流路170、循環ポンプ500、及びポンプ出口流路180を経て、再び第1圧力制御室122に流入する。以上により記録ヘッド1内で完結するインク循環が行われる。
【0030】
また、記録によって消費された分のインクは、インクカートリッジなどのインク収容部(不図示)からフィルタ110及び第1バルブ室121を介して第1圧力制御室122に供給される。
【0031】
以下、ベタ画像のような高い「デューティ」の記録を続ける場合に、圧力室の負圧が上昇すること、及び、それにより、圧力室12に供給されるインクが、第1流路130側と第2流路140側との両側供給となる点を説明する。デューティは、各種条件によって定義が変わりうる。ここでは一例として、1,200dpi×1,200dpiの単位領域に1滴当たりの体積が4pLであるインク滴を1滴付与して記録した画像を記録デューティが100%であるとして扱うものとする。高いデューティの記録とは、例えば100%のデューティで記録が行われるものとする。
【0032】
高いデューティの記録を続けると、圧力室12から第2流路140を通じて第2圧力制御室152内に流入するインク量が減る。一方で、循環ポンプ500は一定量でインクの流出を行うため、第2圧力制御室152内での流入と流出とのバランスが崩れ、第2圧力制御室152内のインクが減少し、第2圧力制御室152内の負圧が強くなり、第2圧力制御室152が縮小する。そして、第2圧力制御室152内の負圧が強くなることで、バイパス流路160を介して第2圧力制御室152へ流入するインクの流入量が増え、流出と流入とのバランスがとれた状態で第2圧力制御室152が安定する。このように、結果的に、記録デューティに応じて第2圧力制御室152内の負圧は強くなっていく。また、循環ポンプ500が駆動している場合に、連通口191Bが閉状態である構成においては、記録デューティに応じて連通口191Bが開状態となり、バイパス流路160から第2圧力制御室152にインクが流入することになる。
【0033】
そして、さらに高いデューティの記録を続けると、圧力室12から第2流路140を通じて第2圧力制御室152に流入する量が減り、代わりに、バイパス流路160を経由して連通口191Bから第2圧力制御室152内に流入する量が増えていく。この状態がさらに進むと、圧力室12から第2流路140を通じて第2圧力制御室152に流入するインク量がゼロになり、循環ポンプ500に流出するインクはすべて連通口191Bから流入するインクとなる。この状態がさらに進むと、第2圧力制御室152から第2流路140を通じて圧力室12にインクが逆流する(
図1(b))。この状態では、第2圧力制御室152から循環ポンプ500に流出するインクと圧力室12に流出するインクとが、バイパス流路160を通じて連通口191Bから第2圧力制御室152に流入することになる。この場合、圧力室12には、第1流路130のインク及び第2流路140のインクが供給されて、吐出口13からインクが吐出されることになる。
【0034】
この記録デューティが高い場合に生ずるインクの逆流は、バイパス流路160を設けていることで生ずる現象である。また、上記では、インクの逆流に応じて第2圧力調整手段における連通口191Bが開状態となる例を説明したが、第2圧力調整手段における連通口191Bが開状態となっている状態においてインクの逆流が生ずることもある。また、第2圧力調整手段を設けない構成においても、バイパス流路160を設けていることで、上記のインクの逆流は発生しうる。
【0035】
上述のように、本実施形態のインクジェット記録方法は、好ましくは以下の工程を有する。すなわち、インク収容部(不図示)から供給されたインクが、第1圧力調整手段120及び第1流路130を介して吐出口13から吐出される。そして、吐出口13から吐出されなかったインクが、第2流路140及び循環ポンプ500を介して第1流路130へと循環する工程である。また、本実施形態のインクジェット記録方法は、好ましくは以下の工程をさらに有する。すなわち、インク収容部(不図示)から供給されたインクが、第1圧力調整手段120及び第1流路130を介して吐出口13から吐出される。これに加えて、インク収容部(不図示)から供給されたインクは、第1圧力調整手段120、バイパス流路160、及び第2流路140を介して吐出口13から吐出される工程である。
【0036】
また、記録ヘッド1が、第2圧力調整手段150をさらに具備する場合において、本実施形態のインクジェット記録方法は、好ましくは以下の工程を有する。すなわち、インク収容部(不図示)から供給されたインクが、第1圧力調整手段120及び第1流路130を介して吐出口13から吐出される。そして、吐出口13から吐出されなかったインクが、第2流路140、第2圧力調整手段150、及び循環ポンプ500を介して第1流路130へと循環する工程である。また、本実施形態のインクジェット記録方法は、好ましくは以下の工程をさらに有する。すなわち、インク収容部(不図示)から供給されたインクが、第1圧力調整手段120及び第1流路130を介して吐出口13から吐出される。これに加えて、インク収容部(不図示)から供給されたインクは、第1圧力調整手段120、バイパス流路160、第2圧力調整手段150、及び第2流路140を介して吐出口13から吐出される工程である。
【0037】
吐出素子15は、圧電素子(ピエゾ)及びヒータなどの発熱素子のいずれであってもよい。なかでも、吐出素子は、発熱素子であることが好ましい。そして、記録ヘッドは、発熱素子によってインクを加熱し、インク内に気泡を発生させてインクを吐出するサーマル方式の記録ヘッドであることが好ましい。
【0038】
(インク収容体)
図6は、インク収容体の一例を模式的に示す断面図である。
図6に示すインク収容体50は、袋状の形態を有し、袋55、及び袋55内に収容されたインク45を備える。袋55は、インク45と接触する層を有する。この最内層は、フィルム層47などの、樹脂で形成された層である。袋55は、インク45と接触する層以外の層として、金属層52を有する。
【0039】
袋55内に収容されたインク45は、溶存酸素量が低減された、いわゆる脱気インクである。溶存酸素量が低減されたインク(脱気インク)は、常法にしたがって調製したインクを脱気処理して製造することができる。脱気処理には、例えば、中空糸を用いた脱気モジュールなどを使用することができる。
【0040】
袋55内に収容されたインク45の溶存酸素量は3.0mg/L以下であり、好ましくは0.1mg/L以上2.8mg/L以下である。インクの溶存酸素量が3.0mg/L超であると、初期充填時に生じた気泡がインクに十分に吸収されず、吸収されなかった気泡が吐出口に連通するインク流路にまで到達しやすくなり、インクの吐出安定性を向上させることが困難になる。インク収容体内のインクの溶存酸素量は、ガルバニ電池法(隔膜電極法)などよる溶存酸素計によって測定することができる。本発明では、インクに溶存する気体(空気)を代表して、溶存「酸素」量を利用している。
【0041】
インク中の水溶性有機溶剤の平均SP値と、インク収容体のインクと接触する層を形成する樹脂のSP値との差は、6.5(cal/cm3)1/2以下である。インク収容体の最内層を形成する樹脂の特性については、以下に示す方法にしたがって検証することができる。インク収容体の最内層(樹脂層)を適切な大きさに切り出したものを測定サンプルとし、熱分解ガスクロマトグラフィー/質量分析(Py-GC/MS)で分析する。これにより、樹脂を構成するユニットの種類を確認することができる。また、確認したユニットの種類、及び核磁気共鳴(NMR)の化学シフトから、ユニットの組成比を求めることができる。そして、求めた樹脂のユニット及びその組成比から、Fedors法によって樹脂のSP値を求めることができる。例えば、ポリエチレンのSP値は8.6(cal/cm3)1/2であり、ポリプロピレンのSP値は8.0(cal/cm3)1/2、ポリ塩化ビニルのSP値は11.0(cal/cm3)1/2である。インク収容袋を構成する樹脂のSP値は、5.0(cal/cm3)1/2以上15.0(cal/cm3)1/2以下であることが好ましく、7.0(cal/cm3)1/2以上10.0(cal/cm3)1/2以下であることがさらに好ましい。
【0042】
記録ヘッドを有するインク供給系を備えるインクジェット記録装置のインク供給系内にインクを初期充填するには、例えば、
図6に示すインク収容体50のインク供給口60をインク供給系の一端に接続する。次いで、インク収容体50を適度に加圧し、収容されたインク45をインク供給系に注入することで、インク供給系内にインクを初期充填することができる。
【0043】
インク収容体の最内層を形成する樹脂の具体例としては、以下のようなものを挙げることができる。すなわち、ポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、及びポリエチレンテレフタレートなどの熱可塑性樹脂;これらの熱可塑性樹脂の混合物及び改質物;熱硬化性樹脂;などが挙げられる。なかでも、インク収容体の最内層を形成する樹脂は、ポリエチレン又はポリプロピレンであることが好ましい。ポリエチレンやポリプロピレンはインクとの濡れ性が良好であるため、インク収容体内に空気の層が形成されにくく、初期充填時の気泡発生をさらに抑制することができる。
【0044】
インク収容体の形状としては、箱状及び袋状などを挙げることができる。なかでも、インク収容体の形状は、袋状であることが好ましい。インク収容体の形状が袋状であると、インク供給系にインクが充填されるにしたがって収縮するため、インク収容体内に空気の層が生じにくくなり、初期充填時の気泡発生をさらに抑制することができる。
【0045】
図6に示すように、インク収容体50は、インク45と接触する層以外の層として、金属層52を有することが好ましい。金属層を形成する金属としては、アルミニウム、銀、銅などの金属;酸化ケイ素、アルミナなどの金属化合物;などを挙げることができる。などを挙げることができる。金属層を有するとガスバリア性が向上し、インク収容体内に空気が透過しにくくなる。これにより、空気の層が形成されにくくなり、初期充填時の気泡発生をさらに抑制することができる。
【0046】
(水性インク)
本発明のインク充填方法及びインクジェット記録方法では、顔料、及び水溶性有機溶剤を含有する水性インクを使用する。以下、インクを構成する成分及びインクの物性などについて説明する。
【0047】
[顔料]
インクは、顔料を含有する。インク中の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0048】
顔料としては、カーボンブラック及び酸化チタンなどの無機顔料;アゾ、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、イミダゾロン、ジケトピロロピロール、ジオキサジン、及びペリノンなどの有機顔料を挙げることができる。インクの調色や顔料の分散性向上などのために、染料を併用してもよい。
【0049】
顔料の分散方式は特に限定されない。例えば、樹脂分散剤により分散させた樹脂分散顔料、界面活性剤により分散させた顔料、及び顔料の粒子表面の少なくとも一部を樹脂などで被覆したマイクロカプセル顔料などを用いることができる。また、顔料の粒子表面にアニオン性基などの親水性基を含む官能基を結合させた自己分散顔料や、顔料の粒子表面に高分子を含む有機基を化学的に結合させた顔料(樹脂結合型の自己分散顔料)などを用いることもできる。また、分散方式の異なる顔料を組み合わせて用いてもよい。なかでも、樹脂分散剤により分散させた樹脂分散顔料が好ましい。
【0050】
樹脂分散剤としては、アニオン性基の作用によって顔料を水性媒体中に分散させうる水溶性樹脂を用いることが好ましい。インク中の顔料の含有量(質量%)は、樹脂分散剤の含有量に対する質量比率で、0.3倍以上10.0倍以下であることが好ましい。
【0051】
樹脂分散剤としては、アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂などを用いることができる。なかでも、アクリル系樹脂が好ましく、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸エステルに由来するユニットで構成されるアクリル系樹脂がさらに好ましい。
【0052】
アクリル系樹脂としては、親水性ユニット及び疎水性ユニットをセグメントとして有するものが好ましい。なかでも、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットと、芳香環を有するモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマーの少なくとも一方に由来する疎水性ユニットと、を有する樹脂が好ましい。なかでも、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットと、スチレン及びα-メチルスチレンからなる群より選択される少なくとも一方のモノマーに由来する疎水性ユニットとを有する樹脂が好ましい。これらの樹脂は顔料と相互作用しやすいため、顔料を分散させるための樹脂分散剤として好適である。
【0053】
親水性ユニットは、アニオン性基などの親水性基を有するユニットである。親水性ユニットは、例えば、親水性基を有する親水性モノマーを重合することで形成することができる。親水性基を有する親水性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、及びフマル酸などのカルボン酸基を有する酸性モノマー;これらの酸性モノマーの無水物や塩などのアニオン性モノマー;などを挙げることができる。酸性モノマーの塩を構成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、及び有機アンモニウムなどのイオンを挙げることができる。疎水性ユニットは、アニオン性基などの親水性基を有しないユニットである。疎水性ユニットは、アニオン性基などの親水性基を有しない疎水性モノマーを重合することで形成することができる。疎水性モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、及び(メタ)アクリル酸ベンジルなどの芳香族基を有するモノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、及び(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸エステルなどを挙げることができる。
【0054】
樹脂分散剤の重量平均分子量は、1,000以上30,000以下であることが好ましく、3,000以上15,000以下であることがさらに好ましい。また、樹脂分散剤の酸価は、80mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが好ましい。
【0055】
自己分散顔料としては、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基などのアニオン性基が、顔料の粒子表面に直接又は他の原子団(-R-)を介して結合しているものを用いることができる。アニオン性基は、酸型及び塩型のいずれであってもよく、塩型である場合は、その一部が解離した状態及びすべてが解離した状態のいずれであってもよい。アニオン性基が塩型である場合において、カウンターイオンとなるカチオンとしては、アルカリ金属カチオン、アンモニウム、及び有機アンモニウムなどを挙げることができる。他の原子団(-R-)としては、炭素原子数1乃至12の直鎖状又は分岐状のアルキレン基;フェニレン基やナフチレン基などのアリーレン基;カルボニル基;イミノ基;アミド基;スルホニル基;エステル基;エーテル基などを挙げることができる。また、これらの基を組み合わせた基であってもよい。
【0056】
[水性媒体]
インクは、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有する水性インクである。水としては脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、10.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましく、50.0質量%以上90.0質量%以下であることがさらに好ましい。水溶性有機溶剤としては、アルコール類、グリコール類、(ポリ)アルキレングリコール類、含窒素化合物類、及び含硫黄化合物類などのインクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。通常、「水溶性有機溶剤」は液体であるが、本発明においては、便宜上、25℃(常温)で固体であるものも水溶性有機溶剤に含めることとする。水性インクに汎用であり、25℃で固体である水溶性有機溶剤としては、例えば、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、エチレン尿素、尿素、数平均分子量1,000のポリエチレングリコールなどを挙げることができる。
【0057】
水溶性有機溶剤の平均SP値と、インク収容体の最内層を形成する樹脂のSP値との差は、6.5(cal/cm3)1/2以下であり、好ましくは3.0(cal/cm3)1/2以上6.0(cal/cm3)1/2以下である。
【0058】
本明細書におけるSP値(δ:溶解度パラメータ)は、下記式(A)に基づき、Fedors法により算出される値(単位:(cal/cm3)1/2)である。SI単位系に換算する際には、「(cal/cm3)1/2=2.046×103(J/m3)1/2」の関係を利用すればよい。なお、樹脂のΔEvap及びVは、例えば、コーティング時報No.193号(1992)などに記載された数値を用いることができる。
δ=(ΔEvap/V)1/2 ・・・(A)
(式(A)中、ΔEvapは化合物のモル蒸発熱(cal/mol)を表し、Vは25℃における化合物のモル体積(cm3/mol)を表す)
【0059】
インクジェット用の水性インクは、通常、複数種の水溶性有機溶剤を含有する。このため、インク中の水溶性有機溶剤のSP値は、「平均SP値」の概念で捉えることが適している。平均SP値とは、水溶性有機溶剤に固有のSP値に、インク中の水溶性有機溶剤の合計量に占める当該水溶性有機溶剤の割合(質量%)を乗じた値を、各水溶性有機溶剤について算出し、積算した値を意味する。インク中の水溶性有機溶剤が1種のみである場合は、その水溶性有機溶剤のSP値が「平均SP値」である。例えば、後述する「実施例」で調製した「インク1」の場合、水溶性有機溶剤の組成(合計20.0質量部)は以下の通りである。括弧内の数値は、各水溶性有機溶剤のSP値(単位は省略)である。
・グリセリン(16.4):10.0質量部
・数平均分子量600のポリエチレングリコール(10.5):10.0質量部
【0060】
この「インク1」中の水溶性有機溶剤の平均SP値は、下記式(B)のように算出することができる。
平均SP値=(16.4×10.0/20.0)+(10.5×10.0/20.0)=13.5 ・・・(B)
【0061】
インクジェット用の水性インクに汎用の水溶性有機溶剤のFedors法によるSP値を、単位(cal/cm3)1/2を省略して以下に示す。グリセリン(16.4)、1,3-プロパンジオール(16.1)、トリメチロールプロパン(15.9)、1,4-ブタンジオール(15.0)、ジエチレングリコール(15.0)、エチレングリコール(14.8)、1,3-ブタンジオール(14.8)、2-メチル-1,3-プロパンジオール(14.8)、1,2,6-ヘキサントリオール(14.5)、尿素(14.4)、エチレン尿素(14.2)、1,5-ペンタンジオール(14.2)、トリエタノールアミン(13.7)、メタノール(13.8)、トリエチレングリコール(13.6)、1,6-ヘキサンジオール(13.5)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール(13.4)、テトラエチレングリコール(12.8)、数平均分子量200のポリエチレングリコール(12.8)、2-ピロリドン(12.6)、エタノール(12.6)、1,2-ペンタンジオール(12.2)、エチレングリコールモノメチルエーテル(12.0)、n-プロパノール(11.8)、1,2-ヘキサンジオール(11.8)、イソプロパノール(11.6)、N-メチル-2-ピロリドン(11.5)、エチレングリコールモノエチルエーテル(12.0)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(11.4)、n-ブタノール(11.3)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(11.2)、2-ブタノール(11.1)、イソブタノール(11.1)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(10.9)、tert-ブタノール(10.9)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(10.6)、数平均分子量600のポリエチレングリコール(10.5)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(10.5)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(10.3)、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(10.2)、数平均分子量1,000のポリエチレングリコール(10.1)、アセトン(9.1)、メチルエチルケトン(9.0)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(8.5)、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル(8.4)、エチレングリコールジメチルエーテル(7.6)。
【0062】
インク中の水溶性有機溶剤の平均SP値は、8.0(cal/cm3)1/2以上15.5(cal/cm3)1/2以下であることが好ましく、12.0(cal/cm3)1/2以上15.0(cal/cm3)1/2以下であることがさらに好ましい。
【0063】
水溶性有機溶剤の特性については、以下に示す方法にしたがって検証することができる。適量のインクをメタノールで希釈し、ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)で定性分析することで、水溶性有機溶剤の種類を確認することができる。さらに、分析対象成分の標準液を用いる絶対検量線法により、水溶性有機溶剤の含有量を確認することができる。そして、確認した水溶性有機溶剤の種類及び含有量から、インク中の水溶性有機溶剤の平均SP値を求めることができる。
【0064】
インク中の水溶性有機溶剤は、その比誘電率が28.0以下である第1水溶性有機溶剤を含むことが好ましい。比誘電率28.0以下の第1水溶性有機溶剤を含有するインクを用いると、インク収容体の最内層を構成する樹脂に対する濡れ性が高まるため、収容体内に空気の層がさらに形成されにくくなり、初期充填による気泡発生をより抑制することができる。なお、第1水溶性有機溶剤の比誘電率が28.0超であると、インクの吐出安定性がやや低下する場合がある。第1水溶性有機溶剤の比誘電率は、3.0以上20.0以下であることがさらに好ましい。
【0065】
水溶性有機溶剤の比誘電率は、誘電率計(例えば、商品名「BI-870」、BROOKHAVEN INSTRUMENTS CORPORATION製など)を使用し、周波数10kHzの条件で測定することができる。25℃で固体の水溶性有機溶剤の比誘電率は、50質量%水溶液の比誘電率を測定し、下記式(1)から算出した値とする。
εsol=2ε50%-εwater ・・・(1)
εsol:25℃で固体の水溶性有機溶剤の比誘電率
ε50%:25℃で固体の水溶性有機溶剤の50質量%水溶液の比誘電率
εwater:水の比誘電率
【0066】
ここで、25℃で固体の水溶性有機溶剤の比誘電率を、50質量%水溶液の比誘電率から求める理由は次の通りである。25℃で固体の水溶性有機溶剤のうち、水性インクの構成成分となり得るもののなかには、50質量%を超えるような高濃度の水溶液を調製することが困難なものがある。一方、10質量%以下であるような低濃度の水溶液では、水の比誘電率が支配的となり、当該水溶性有機溶剤の確からしい(実効的な)比誘電率の値を得ることができない。そこで、本発明者らが検討を行った結果、25℃で固体の水溶性有機溶剤のうち、インクに用いることが可能なほとんどのもので測定対象の水溶液を調製することができ、かつ、求められる比誘電率も本発明の効果と整合することが判明した。このような理由から、50質量%水溶液を利用することとした。25℃で固体の水溶性有機溶剤であって、水への溶解度が低いために50質量%水溶液を調製できないものについては、飽和濃度の水溶液を利用し、上記εsolを求める場合に準じて算出した比誘電率の値を便宜的に用いることとする。
【0067】
インクジェット用の水性インクに汎用の水溶性有機溶剤のうち、比誘電率が28.0以下の水溶性有機溶剤の具体例としては、2-ピロリドン(28.0)、1,5-ペンタンジオール(27.0)、3-メチル-1,3-ブタンジオール(24.0)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール(23.9)、エタノール(23.8)、1-(ヒドロキシメチル)-5,5-ジメチルヒダントイン(23.7)、トリエチレングリコール(22.7)、テトラエチレングリコール(20.8)、数平均分子量200のポリエチレングリコール(18.9)、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(18.5)、イソプロパノール(18.3)、1,2-ヘキサンジオール(14.8)、n-プロパノール(12.0)、数平均分子量600のポリエチレングリコール(11.4)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(9.8)、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(9.4)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(8.5)、1,6-ヘキサンジオール(7.1)、数平均分子量1,000のポリエチレングリコール(4.6)などを挙げることができる(括弧内の数値は25℃における比誘電率である)。
【0068】
その他のインクジェット用の水性インクに汎用の水溶性有機溶剤(比誘電率28.0超の水溶性有機溶剤)の具体例としては、尿素(110.3)、エチルイソプロピルスルホン(59.0)、エチレン尿素(49.7)、ジメチルスルホキシド(48.9)、グリセリン(42.3)、γ-ブチロラクトン(41.9)、エチレングリコール(40.4)、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン(37.6)、トリメチロールプロパン(33.7)、メタノール(33.1)、N-メチル-2-ピロリドン(32.0)、トリエタノールアミン(31.9)、ジエチレングリコール(31.7)、1,4-ブタンジオール(31.1)、1,3-ブタンジオール(30.0)、3-メチルスルホラン(29.0)、1,2-プロパンジオール(28.8)、1,2,6-ヘキサントリオール(28.5)、2-メチル-1,3-プロパンジオール(28.3)などを挙げることができる。
【0069】
インク中、第1水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、水溶性有機溶剤の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.25倍以上であることが好ましく、0.35倍以上であることがさらに好ましく、0.35倍以上0.70倍以下であることが特に好ましい。上記の質量比率が0.25倍未満であると、インクの吐出安定性の向上効果がやや低下する場合がある。インク中の第1水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.0質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以上15.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0070】
第1水溶性有機溶剤はポリエチレングリコールを含むことが好ましく、第1水溶性有機溶剤はポリエチレングリコールであることがさらに好ましい。第1水溶性有機溶剤としてのポリエチレングリコールは、「式:HO-(CH2-CH2-O)n-H」で表される構造を有する(式中、「n」は3以上の数を示す)。インク収容体の最内層を形成する樹脂がポリエチレン又はポリプロピレンである場合、ポリエチレングリコールはポリエチレンやポリプロピレンに対する濡れ性が高い。このため、ポリエチレングリコールを含有するインクを用いることで、収容体内に空気の層がさらに形成されにくくなり、初期充填による気泡発生をより抑制することができる。
【0071】
ポリエチレングリコールの数平均分子量は、200以上であることが好ましく、200以上1,000以下であることがさらに好ましい。ポリエチレングリコールの数平均分子量が200未満であると、気泡発生を抑制する効果がやや低下する場合がある。ポリエチレングリコールの数平均分子量は、テトラヒドロフランを移動相とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の値である。
【0072】
[ウレタン樹脂]
インクは、ウレタン樹脂を含有することが好ましい。ウレタン樹脂は、水溶性ウレタン樹脂であることがさらに好ましい。水溶性ウレタン樹脂などのウレタン樹脂を含有するインクを用いることで、インクの吐出安定性をさらに向上させることができる。インク中の水溶性ウレタン樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上1.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0073】
本明細書において「樹脂が水溶性である」とは、その樹脂を酸価と当量のアルカリで中和した場合に、動的光散乱法により粒子径を測定しうる粒子を形成しない状態で水性媒体中に存在することを意味する。樹脂が水溶性であるか否かについては、以下に示す方法にしたがって判断することができる。まず、酸価相当のアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)により中和された樹脂を含む液体(樹脂固形分:10質量%)を用意する。次いで、用意した液体を純水で10倍(体積基準)に希釈して試料溶液を調製する。そして、試料溶液中の樹脂の粒子径を動的光散乱法により測定した場合に、粒子径を有する粒子が測定されない場合に、その樹脂は水溶性であると判断することができる。一方、粒子径を有する粒子が測定されれば、その樹脂は「樹脂粒子」である(すなわち「水分散性樹脂」である)と判断することができる。この際の測定条件は、例えば、以下のようにすることができる。
[測定条件]
SetZero:30秒
測定回数:3回
測定時間:180秒
【0074】
粒度分布測定装置としては、動的光散乱法による粒度分析計(例えば、商品名「UPA-EX150」、日機装製)などを使用することができる。勿論、使用する粒度分布測定装置や測定条件などは上記に限られるものではない。
【0075】
ウレタン樹脂としては、例えば、ポリイソシアネート、酸基を有しないポリオール、酸基を有するポリオール、ポリアミンなどにそれぞれ由来するユニットを有するウレタン樹脂を用いることができる。
【0076】
〔ポリイソシアネート〕
ポリイソシアネートは、その分子構造中に2以上のイソシアネート基を有する化合物である。ポリイソシアネートとしては、脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネートを挙げることができる。ウレタン樹脂に占める、ポリイソシアネートに由来するユニットの割合(モル%)は、10.0モル%以上80.0モル%以下であることが好ましく、20.0モル%以上60.0モル%以下であることがさらに好ましい。
【0077】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、3-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネートなどの鎖状構造を有するポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンなどの環状構造を有するポリイソシアネート;などを挙げることができる。
【0078】
芳香族ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどを挙げることができる。
【0079】
上記のポリイソシアネートのなかでも、環状構造を有するポリイソシアネートを用いることが好ましい。また、環状構造を有するポリイソシアネートのなかでも、イソホロンジイソシアネートを用いることがさらに好ましい。
【0080】
〔ポリオール、ポリアミン〕
ポリオールは、その分子構造中に2以上のヒドロキシ基を有する化合物である。ポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどの酸基を有しないポリオール;酸基を有するポリオール;などを挙げることができる。また、ポリアミンは、その分子構造中に2以上の「アミノ基、イミノ基」を有する化合物である。ウレタン樹脂に占める、ポリオール及びポリアミンに由来するユニットの割合(モル%)は、10.0モル%以上80.0モル%以下であることが好ましく、20.0モル%以上60.0モル%以下であることがさらに好ましい。
【0081】
(1)酸基を有しないポリオール
ポリエーテルポリオールとしては、アルキレンオキサイド及びポリオール類の付加重合物;(ポリ)アルキレングリコールなどのグリコール類;などを挙げることができる。アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、α-オレフィンオキサイドなどを挙げることができる。アルキレンオキサイドと付加重合させるポリオール類としては、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、4,4-ジヒドロキシフェニルプロパン、4,4-ジヒドロキシフェニルメタン、水素添加ビスフェノールA、ジメチロール尿素及びその誘導体などのジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,5-ヘキサントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、トリメチロールメラミン及びその誘導体、ポリオキシプロピレントリオールなどのトリオール;などを挙げることができる。グリコール類としては、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、(ポリ)テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどの(ポリ)アルキレングリコール;エチレングリコール-プロピレングリコール共重合体;などを挙げることができる。
【0082】
ポリエステルポリオールとしては、酸エステルなどを挙げることができる。酸エステルを構成する酸成分としては、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;これらの芳香族ジカルボン酸の水素添加物などの脂環族ジカルボン酸;マロン酸、コハク酸、酒石酸、シュウ酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、アルキルコハク酸、リノレイン酸、マレイン酸、フマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸などの脂肪族ジカルボン酸;などを挙げることができる。これらの無水物、塩、誘導体(アルキルエステル、酸ハライド)なども酸成分として用いることができる。また、酸成分とエステルを形成する成分としては、ジオール、トリオールなどのポリオール類;(ポリ)アルキレングリコールなどのグリコール類;などを挙げることができる。ポリオール類やグリコール類としては、上記のポリエーテルポリオールを構成する成分として例示したものを挙げることができる。
【0083】
ポリカーボネートポリオールとしては、公知の方法で製造されるポリカーボネートポリオールを用いることができる。具体的には、ポリヘキサメチレンカーボネートジオールなどのアルカンジオール系ポリカーボネートジオールなどを挙げることができる。また、アルキレンカーボネート、ジアリールカーボネート、ジアルキルカーボネートなどのカーボネート成分やホスゲンと、脂肪族ジオール成分と、を反応させて得られるポリカーボネートジオールなどを挙げることができる。
【0084】
ウレタン樹脂中の、ポリオールに由来するユニットの合計量に占める、酸基を有しないポリオールに由来するユニットの割合(モル%)は、以下のようにすることが好ましい。すなわち、5.0モル%以上50.0モル%以下であることが好ましく、10.0モル%以上30.0モル%以下であることがさらに好ましい。
【0085】
酸基を有しないポリオールとして、ポリプロピレングリコールを用いることが好ましい。すなわち、インク中に含まれるウレタン樹脂は、ポリプロピレングリコールに由来するユニットを有する水溶性ウレタン樹脂であることが好ましい。ポリプロピレングリコールに由来するユニットを有する水溶性ウレタン樹脂は親水性が高いため、インク供給系の内表面にインクが馴染みやすくなり、生じた気泡がインク供給系の内表面により付着しにくくなる。
【0086】
(2)酸基を有するポリオール
酸基を有するポリオールとしては、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基などの酸基を有するポリオールを挙げることができる。酸基は、カルボン酸基であることが好ましい。カルボン酸基を有するポリオールとしては、ジメチロール酢酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロール酪酸などを挙げることができる。なかでも、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸が好ましい。
【0087】
酸基を有するポリオールの酸基は塩型であってもよい。塩を形成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属のイオン;アンモニウムイオン、ジメチルアミンなどの有機アミンのカチオンなどを挙げることができる。汎用の酸基を有するポリオールの分子量は大きくても400程度であるので、酸基を有するポリオールに由来するユニットは、基本的にはウレタン樹脂のハードセグメントとなる。ウレタン樹脂の酸価は、例えば、酸基を有するポリオールの使用量によって調整することができる。
【0088】
ウレタン樹脂中の、ポリオールに由来するユニットの合計量に占める、酸基を有するポリオールに由来するユニットの割合(モル%)は、以下のようにすることが好ましい。すなわち、30.0モル%以上90.0モル%以下であることが好ましく、50.0モル%以上90.0モル%以下であることがさらに好ましい。
【0089】
(3)ポリアミン
ポリアミンとしては、ジメチロールエチルアミン、ジエタノールメチルアミン、ジプロパノールエチルアミン、ジブタノールメチルアミンなどの複数のヒドロキシ基を有するモノアミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキシレンジアミン、イソホロンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、水素添加ジフェニルメタンジアミン、ヒドラジンなどの2官能ポリアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリアミドポリアミン、ポリエチレンポリイミンなどの3官能以上のポリアミン;などを挙げることができる。便宜上、複数のヒドロキシ基と、1つの「アミノ基、イミノ基」を有する化合物も「ポリアミン」として列挙した。ポリアミンの分子量は大きくても400程度であるので、ポリアミンに由来するユニットは、基本的にはウレタン樹脂のハードセグメントとなる。ウレタン樹脂に占める、ポリアミンに由来するユニットの割合(モル%)は、10.0モル%以下であることが好ましく、5.0モル%以下であることがさらに好ましい。ウレタン樹脂に占める、ポリアミンに由来するユニットの割合(モル%)は、0.0モル%であってもよい。
【0090】
水溶性ウレタン樹脂は、ポリアミンに由来するユニットを有することが好ましい。そして、水溶性ウレタン樹脂中のウレタン結合とポリアミンに由来するウレア結合の合計に占める、ウレタン結合の割合が、85.0モル%以上99.0モル%以下であることが好ましい。ウレタン結合の割合が上記の範囲内であると、水溶性ウレタン樹脂の親水度が適度に向上し、インクの親水性が適度に高まる。これにより、インク収容体の最内層やインク供給系の内表面とインクがさらに濡れやすくなり、空気の層が形成されにくくなって、インク吐出安定性がより向上する。一方、ウレタン結合の割合が上記の範囲外であると、水溶性ウレタン樹脂の親水性が適当な範囲から外れるため、インク吐出安定性がやや低下する場合がある。
【0091】
〔架橋剤、鎖延長剤〕
ウレタン樹脂を合成する際には、架橋剤や鎖延長剤を用いることができる。通常、架橋剤はプレポリマーの合成の際に用いられ、鎖延長剤は予め合成されたプレポリマーに対して鎖延長反応を行う際に用いられる。基本的には、架橋剤や鎖延長剤としては、架橋や鎖延長など目的に応じて、水や、ポリイソシアネート、ポリオール、ポリアミンなどから適宜に選択して用いることができる。鎖延長剤として、ウレタン樹脂を架橋させることができるものを用いることもできる。
【0092】
〔分析方法〕
(1)ウレタン樹脂の組成
ウレタン樹脂の組成は、以下に示す方法により分析することができる。まず、インクからウレタン樹脂を抽出する方法について説明する。インクからウレタン樹脂を抽出するには、インクを80,000rpmで遠心分離して分取した上澄み液に、過剰の酸(塩酸など)を添加して、樹脂を析出させる。析出した樹脂にクロロホルムを添加すると、ウレタン樹脂が溶解するので、液相からウレタン樹脂を抽出することができる。さらに、クロロホルム以外にも、顔料や他の樹脂を溶解しないが、ウレタン樹脂は溶解するようなヘキサンなどのような有機溶剤を用いてもよい。インクの状態でもウレタン樹脂を解析することはできるが、インクから抽出したウレタン樹脂を解析すると、測定精度を高めることができるために好ましい。
【0093】
ウレタン樹脂を重水素化ジメチルスルホキシド(重DMSO)に溶解し、プロトン核磁気共鳴法(1H-NMR)により分析する。そして、得られたピークの位置から、ポリイソシアネート、酸基を有しないポリオール、酸基を有するポリオール、及びポリアミンの種類を確認することができる。また、乾燥させたウレタン樹脂を熱分解ガスクロマトグラフィーにより分析することによっても、ポリイソシアネート、酸基を有しないポリオール、酸基を有するポリオール、及びポリアミンの種類を確認することができる。さらに、各ピークの積算値の比率から、組成比を算出することができる。
【0094】
(2)ウレタン結合の割合
ウレタン樹脂中の、ウレタン結合とポリアミンに由来するウレア結合の合計に占める、ウレタン結合の割合は、以下のようにして測定することができる。すなわち、重水素化ジメチルスルホキシドにウレタン樹脂を溶解させて測定用試料を調製する。そして、カーボン核磁気共鳴法(13C-NMR)により調製した試料を分析し、得られたウレタン結合とポリアミンに由来するウレア結合のそれぞれのピークの積算値から、ウレタン樹脂中のウレタン結合の割合を算出することができる。但し、ウレタン結合とポリアミンに由来するウレア結合のそれぞれのピークの位置は、ウレタン樹脂の合成に用いた化合物の種類によって異なる。このため、ウレタン樹脂の合成に使用した化合物ごとに、ウレタン結合とポリアミンに由来するウレア結合のピークの位置を調べる必要がある。以下、その方法について説明する。
【0095】
まず、ウレタン樹脂の原料となる化合物(ポリイソシアネート、ポリオール、ポリアミン)を用意する。そして、(i)ポリイソシアネートとポリオールの反応物、(ii)ポリイソシアネートとポリアミンの反応物、(iii)ポリイソシアネートと酸基を有するポリオールの反応物、(iv)ポリイソシアネートと水の反応物それぞれ調製する。調製した反応物を乾燥したものを重DMSOに溶解させ、カーボン核磁気共鳴法(13C-NMR)により分析する。
【0096】
上記の例の場合、(i)の反応物と(iii)の反応物からウレタン結合の化学シフトを確認し、(ii)の反応物と(iv)の反応物からポリアミンに由来するウレア結合の化学シフトを確認する。確認したそれぞれの化学シフトから、ウレタン結合のピークとウレア結合のピークを特定し、これらのピークの積算値の比から、ウレタン樹脂中のウレタン結合とポリアミンに由来するウレア結合の合計に占める、ウレタン結合の割合を算出する。例えば、イソホロンジイソシアネートを用いて得たウレタン樹脂の場合、測定条件やウレタン樹脂の組成により多少のずれは生ずるが、ウレタン結合のピークは155ppm付近に検出される。また、ポリアミンに由来するウレア結合のピークは159ppm付近に検出される。水に由来するウレア結合のピークは、158ppm付近に検出される。
【0097】
[界面活性剤]
インクは、界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤などを挙げることができる。なかでも、ノニオン性界面活性剤を含有するインクを用いることで、吐出安定性の向上効果をより高めることができるために好ましい。
【0098】
ノニオン性界面活性剤としては、炭化水素系ノニオン性界面活性剤、フッ素系ノニオン性界面活性剤、及びシリコーン系ノニオン性界面活性剤などを挙げることができる。なかでも、ノニオン性界面活性剤は、アセチレングリコール系のノニオン性界面活性剤であることが好ましく、エチレンオキサイド基の付加モル数が4以上のアセチレングリコール系のノニオン性界面活性剤であることがさらに好ましい。エチレンオキサイド基の付加モル数が4以上であると、分子量が大きいポリエチレングリコールとの相溶性が高まり、インク収容体内に空気の層が形成されにくくなり、初期充填時の気泡発生をさらに抑制することができる。これに対して、エチレンオキサイド基の付加モル数が4未満であると、インクの吐出安定性の向上効果がやや低下する場合がある。なお、ノニオン性界面活性剤以外の界面活性剤を用いると、インクの吐出精度がやや低下することがあり、インクの吐出安定性の向上効果がやや低下する場合がある。アセチレングリコール系のノニオン性界面活性剤におけるエチレンオキサイド基の付加モル数は、20以下であることが好ましい。
【0099】
インク中の界面活性剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上1.5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0100】
[その他の成分]
インクには、上記成分以外にも必要に応じて、消泡剤、pH調整剤、粘度調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤などの種々の添加剤を含有させてもよい。
【0101】
[インクの物性]
インクの25℃における表面張力は25mN/m以上であり、好ましくは45mN/m以下、さらに好ましくは30mN/m以上40mN/m以下である。インクの表面張力が25mN/m未満であると、インク供給系内に空気の層ができやすくなり、インクの吐出安定性が低下する。本明細書におけるインクの表面張力は、25℃の温度条件下、プレート法により測定される「静的表面張力」である。インクの表面張力は、例えば、界面活性剤や水溶性有機溶剤を用いて調整することができる。
【0102】
インクは、インクジェット方式に適用する水性インクである。したがって、信頼性の観点から、その物性値を適切に制御することが好ましい。具体的には、25℃におけるインクの粘度は、1.0mPa・s以上10.0mPa・s以下であることが好ましく、1.0mPa・s以上5.0mPa・s以下であることがさらに好ましい。25℃におけるインクのpHは、5.0以上10.0以下であることが好ましく、7.0以上9.5以下であることがさらに好ましい。
【実施例0103】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0104】
<顔料分散液の製造>
(顔料分散液1)
中和当量1となる10%水酸化カリウム水溶液で水溶性樹脂を中和してイオン交換水に溶解させ、樹脂の含有量が10.0%である樹脂分散剤の水溶液を調製した。水溶性樹脂としては、スチレン/アクリル酸共重合体(酸価160mgKOH/g、重量平均分子量10,000)を用いた。顔料(C.I.ピグメントイエロー74)10.0部、樹脂分散剤の水溶液50.0部、及び水40.0部を混合して混合物を得た。サンドグラインダーを用いて得られた混合物を1時間分散した後、遠心分離処理して粗大粒子を除去した。ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過した後、適量のイオン交換水を加えて顔料分散液1を得た。得られた顔料分散液1中の顔料の含有量は10.0%、樹脂分散剤の含有量は5.0%であった。
【0105】
(顔料分散液2)
顔料としてC.I.ピグメントレッド122を用いたこと以外は、前述の顔料分散液1の場合と同様にして、顔料分散液2を得た。得られた顔料分散液2中の顔料の含有量は10.0%、樹脂分散剤の含有量は5.0%であった。
【0106】
(顔料分散液3)
顔料としてC.I.ピグメントブルー15:3を用いたこと以外は、前述の顔料分散液1の場合と同様にして、顔料分散液3を得た。得られた顔料分散液3中の顔料の含有量は10.0%、樹脂分散剤の含有量は5.0%であった。
【0107】
(顔料分散液4)
顔料としてカーボンブラック(比表面積210m2/g、DBP吸油量74mL/100g)を用いたこと以外は、前述の顔料分散液1の場合と同様にして、顔料分散液4を得た。得られた顔料分散液4中の顔料の含有量は10.0%、樹脂分散剤の含有量は5.0%であった。
【0108】
(顔料分散液5)
水5.5gに濃塩酸5.0gを溶かした溶液を5℃に冷却し、4-アミノフタル酸(処理剤)1.6gを加えた。この溶液の入った容器をアイスバスに入れて溶液を撹拌し、液温を10℃以下に保った状態で、5℃の水9.0gに亜硝酸ナトリウム1.8gを溶かして得た溶液を加えた。15分間撹拌後、カーボンブラック(比表面積220m2/g、DBP吸油量105mL/100g)6.0gを撹拌下で加えた。さらに15分間撹拌して得られたスラリーをろ紙(商品名「標準用濾紙No.2」、アドバンテック製)でろ過して粒子を得た。得られた粒子を十分に水洗した後、110℃のオーブンで乾燥させた。イオン交換法によりカウンターイオンをナトリウムイオンからカリウムイオンに置換した後、適量のイオン交換水を添加して顔料の含有量を調整した。このようにして、カウンターイオンがカリウムイオンであるフタル酸基がカーボンブラックの粒子表面に結合した自己分散顔料を含有する顔料分散液5を得た。得られた顔料分散液5中の顔料の含有量は10.0%であった。
【0109】
<ウレタン樹脂の合成>
(ウレタン樹脂1~5)
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、及び還流管を備えた4つ口フラスコを用意した。この4つ口フラスコに、表1に示す種類及び量のポリイソシアネート、酸基を有しないポリオール、酸基を有するポリオール、及びメチルエチルケトン300.0部を入れた。そして、窒素ガス雰囲気下、80℃で6時間反応させた。次いで、表1に示す量のポリアミンを添加し、80℃で反応させて反応液を得た。得られた反応液を40℃まで冷却した後、イオン交換水を添加し、ホモミキサーで高速撹拌しながら水酸化カリウム水溶液を添加して液体を得た。加熱減圧して得られた液体からメチルエチルケトンを留去し、ウレタン樹脂(固形分)の含有量が20.0%である、ウレタン樹脂1~5を含む液体をそれぞれ得た。ウレタン樹脂の特性を表1に示す。ウレタン樹脂中のウレタン結合とウレア結合の合計に占める、ウレタン結合の割合(モル%)は、13C-NMRにより測定及び算出した(表1中、「ウレタン結合の割合(モル%)」と記載した)。また、表1中の各成分の詳細を以下に示す。
・IPDI:イソホロンジイソシアネート
・PPG:ポリプロピレングリコール
・DMPA:ジメチロールプロピオン酸
・EDA:エチレンジアミン
【0110】
得られたウレタン樹脂中のウレタン結合とポリアミンに由来するウレア結合の合計に占める、ウレタン結合の割合は、以下のようにして測定した。まず、ウレタン樹脂を含む液体に塩酸を添加してウレタン樹脂を析出させた。乾燥させた樹脂を重DMSOに溶解して測定用試料を調製した。そして、13C-NMR(装置名「Avance500」、BRUKER Bio Spin製)により調製した試料を分析し、ウレタン結合とポリアミンに由来するウレア結合のそれぞれのピークの積算値を得た。得られた各積算値から、ウレタン樹脂中のウレタン結合とポリアミンに由来するウレア結合の合計に占める、ウレタン結合の割合(モル%)を算出した。
【0111】
【0112】
<アクリル樹脂の合成>
(アクリル樹脂1)
スチレン81.0部及びアクリル酸19.0部を常法により共重合させて、アクリル樹脂1を合成した。酸価と等モル量の水酸化カリウムでアクリル樹脂1中のカルボン酸基を中和した後、適量の純水を添加して、樹脂の含有量が20.0%である、アクリル樹脂1を含む液体を得た。
【0113】
<インクの調製>
表2-1~2-3の上段に示す各成分(単位:%)を混合し、十分撹拌して分散した後、ポアサイズ2.5μmのポリプロピレンフィルター(ポール製)にて加圧ろ過し、各インクを調製した。表2-1~2-3中、「アセチレノールE60」、「アセチレノールE100」、「アセチレノールE40」、及び「アセチレノールE00」は、いずれも川研ファインケミカル製のノニオン性界面活性剤の商品名である。これらのノニオン性界面活性剤の商品名に付した括弧内の数値は、エチレンオキサイド基の付加モル数である。「NIKKOL SCS」は、日光ケミカルズ製のアニオン性界面活性剤の商品名である。水溶性有機溶剤に付した括弧内の数値は、25℃における比誘電率である。また、インクの特性を表2-1~2-3の下段に示す。なお、インクの表面張力は、自動表面張力計(商品名「DY-300」、協和界面科学製)を使用し、25℃の条件で測定した。
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
<インク収容体>
表3に示す構成のインク収容体を製造した。表3中の略号の意味は以下に示す通りである。
・PE:ポリエチレン
・PP:ポリプロピレン
・PVC:ポリ塩化ビニル
【0118】
【0119】
<評価>
調製した各インクを表4に示す溶存酸素量(mg/L)となるまで脱気モジュール(商品名「ジェットインク用脱気モジュールSEPAREL EF-G4」、DIC製)を使用して脱気した。脱気後のインクの溶存酸素量は、溶存酸素計(商品名「ポータブル型溶存酸素計OM-71-L1」、HORIBA製)を使用して測定した。その後、表4に示すインク収容体に脱気したインクを初期充填し、温度25℃、相対湿度50%の環境でインクの吐出安定性を評価した。但し、参考例3及び4は、初期充填のインクを使い切った後に、脱気インクを新たに充填して評価した。記録ヘッドとしては、
図1に示す構成を有する、インク循環式のライン型の記録ヘッドを使用し、記録ヘッド内のインクの温度が40℃となるように加温してインクを吐出させた。吐出口密度は600dpi、1つの吐出口当たりのインク吐出量は5ngである。
【0120】
吐出口列を2列分使用し、1/600インチ×1/600インチの単位領域にインク滴を3滴付与する条件で、15インチ/秒の速度で記録媒体を搬送して、A4サイズの記録媒体の全面にベタ画像を10枚分記録した。記録媒体としては、普通紙(商品名「CS-064F A4」、キヤノン製)を用いた。記録した10枚目のベタ画像を目視で確認した。ベタ画像に乱れが生じていた場合、記録ヘッドを光学顕微鏡で観察し、気泡による不吐出が生じた吐出口の数を計測し、以下に示す評価基準にしたがってインクの吐出安定性を評価した。本発明においては、以下に示す評価基準で、「AAA」、「AA」、「A」、及び「B」を許容できるレベル、「C」を許容できないレベルとした。評価条件を表4に示し、評価結果を表5に示す。
AAA:ベタ画像に乱れがなく、気泡による不吐出は生じていなかった。
AA:気泡による不吐出が生じた吐出口の数が1~9個であった。
A:気泡による不吐出が生じた吐出口の数が10~49個であった。
B:気泡による不吐出が生じた吐出口の数が50~99個であった。
C:気泡による不吐出が生じた吐出口の数が100個以上であった。
【0121】
【0122】
【0123】
参考例1及び2は、吐出工程とは別の、第1流路内のインクを第2流路へと流動させる流動工程を行わない条件で記録した例である。いずれの例でも、泡に起因する吐出安定性のレベルは許容できるものであったが、インクの固着が生じやすかった。