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特開2024-178121インクジェット記録方法、インクジェット記録装置、及び水性インク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178121
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法、インクジェット記録装置、及び水性インク
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20241217BHJP
   B41J 2/18 20060101ALI20241217BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20241217BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41J2/18
C09D11/322
B41M5/00 120
B41M5/00 112
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024087055
(22)【出願日】2024-05-29
(31)【優先権主張番号】P 2023096029
(32)【優先日】2023-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】山上 英樹
(72)【発明者】
【氏名】真田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】石田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】戸田 恭輔
(72)【発明者】
【氏名】竹田 翔一
(72)【発明者】
【氏名】金子 義之
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FA10
2C056KB16
2H186AB12
2H186BA08
2H186DA10
2H186DA12
2H186FA07
2H186FA13
2H186FA16
2H186FA18
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB28
2H186FB29
2H186FB30
2H186FB48
2H186FB55
2H186FB56
4J039AE04
4J039BA13
4J039BA35
4J039BB01
4J039BD02
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE19
4J039BE22
4J039BE28
4J039BE30
4J039BE32
4J039CA06
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】 粒子径の大きい色材を用いても、インクの吐出安定性に優れるインクジェット記録方法などの提供。
【解決手段】 記録ヘッドを、記録媒体の搬送方向と交差する方向に往復走査しながら、水性インクを複数の吐出口から吐出して記録媒体の単位領域に複数回の往復走査で画像を記録するインクジェット記録方法である。記録ヘッドは、水性インクを吐出するための複数の吐出口、吐出口と連通する圧力室、及び、圧力室に配置され、かつ、複数の吐出口から水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子を有する吐出ユニット、並びに、吐出ユニットの圧力室に水性インクを供給するための供給流路、及び、吐出ユニットの圧力室から水性インクを回収するための回収流路を有する循環ユニットを備える。水性インクは、その体積基準の累積50%粒子径D50(nm)が160nm以上である色材を含有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性インクを吐出するための複数の吐出口、
前記吐出口と連通する圧力室、及び、
前記圧力室に配置され、かつ、前記複数の吐出口から水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子を有する吐出ユニット、並びに、
前記吐出ユニットの前記圧力室に前記水性インクを供給するための供給流路、及び、
前記吐出ユニットの前記圧力室から前記水性インクを回収するための回収流路を有する循環ユニットを備える記録ヘッドを、前記記録媒体の搬送方向と交差する方向に往復走査しながら、前記水性インクを前記複数の吐出口から吐出して記録媒体の単位領域に複数回の前記往復走査で画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記水性インクが、その体積基準の累積50%粒子径D50(nm)が160nm以上である色材を含有することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記往復走査における前記記録ヘッドの移動速度(インチ/s)が、25インチ/s以上である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
循環経路における前記水性インクの流速(mm/s)が、10mm/s以上30mm/s以下である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記色材が、その体積基準の累積50%粒子径D50(nm)が500nm以下である酸化チタン粒子である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記水性インク中の前記酸化チタン粒子の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、5.0質量%以上20.0質量%以下である請求項4に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記水性インクがさらに、体積基準の累積50%粒子径D50(nm)が160nm以上350nm以下であるワックス粒子を含有する請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記水性インク中の前記ワックス粒子の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.5質量%以上5.0質量%以下である請求項6に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記ワックス粒子の融点T(℃)が、70℃以上である請求項6に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
前記水性インクがさらに、樹脂粒子を含有するとともに、
前記ワックス粒子の含有量(質量%)が、前記樹脂粒子の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.05倍以上である請求項6に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
前記循環ユニットが、前記供給流路の圧力を調整する第1圧力調整手段を有し、
前記第1圧力調整手段が、第1バルブ室、第1圧力制御室、並びに、前記第1バルブ室及び前記第1圧力制御室を連通させる第1開口を有し、
前記第1バルブ室が、前記第1圧力制御室の圧力変化に応じて、前記第1開口を開閉させる第1バルブを備える請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項11】
前記循環ユニットがさらに、前記回収流路の圧力を調整する第2圧力調整手段を有し、
前記第2圧力調整手段が、第2バルブ室、第2圧力制御室、並びに、前記第2バルブ室及び前記第2圧力制御室を連通させる第2開口を有し、
前記第2バルブ室が、前記第2圧力制御室の圧力変化に応じて、前記第2開口を開閉させる第2バルブを備える請求項10に記載のインクジェット記録方法。
【請求項12】
前記記録ヘッドがさらに、前記回収流路の前記水性インクを前記供給流路に流入させる循環ポンプを有する請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項13】
前記記録媒体が、ブリストー法において接触開始から30msec1/2までの水の吸収量が、10mL/m以下である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項14】
水性インクを吐出するための複数の吐出口、
前記吐出口と連通する圧力室、及び、
前記圧力室に配置され、かつ、前記複数の吐出口から水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子を有する吐出ユニット、並びに、
前記吐出ユニットの前記圧力室に前記水性インクを供給するための供給流路、及び、
前記吐出ユニットの前記圧力室から前記水性インクを回収するための回収流路を有する循環ユニットを備える記録ヘッドを、前記記録媒体の搬送方向と交差する方向に往復走査しながら、前記水性インクを前記複数の吐出口から吐出して記録媒体の単位領域に複数回の前記往復走査で画像を記録するために用いるインクジェット記録装置であって、
前記水性インクが、その体積基準の累積50%粒子径D50(nm)が160nm以上である色材を含有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項15】
水性インクを吐出するための複数の吐出口、
前記吐出口と連通する圧力室、及び、
前記圧力室に配置され、かつ、前記複数の吐出口から水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子を有する吐出ユニット、並びに、
前記吐出ユニットの前記圧力室に前記水性インクを供給するための供給流路、及び、
前記吐出ユニットの前記圧力室から前記水性インクを回収するための回収流路を有する循環ユニットを備える記録ヘッドを、前記記録媒体の搬送方向と交差する方向に往復走査しながら、前記水性インクを前記複数の吐出口から吐出して記録媒体の単位領域に複数回の前記往復走査で画像を記録するインクジェット記録方法に用いられる、水性インクであって、
前記水性インクが、その体積基準の累積50%粒子径D50(nm)が160nm以上である色材を含有することを特徴とする水性インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法、インクジェット記録装置、及び水性インクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録方法は、ポスターや大判の広告の印刷など、サインアンドディスプレイと呼ばれる分野で使用されることが増えている。この分野では、家庭用のインクジェット記録装置と比べ、記録面積が広いことを特徴として挙げることができる。また、これらの記録物は、屋外での掲示に利用されることもあるため、耐光性や耐水性などの耐候性に加えて、耐擦過性に優れる画像を記録することができるインクとすることが求められる。
【0003】
画像の耐候性を向上させる手法としては、添加剤を含有するインクを用いる方法が一般的である。この手法では、画像を記録するために必要な成分に加えて、添加剤を用いることで、その種類や添加量に程度の違いはあれ、画像を形成する色材層が弱くなりやすい。その結果、耐擦過性が低下しやすい傾向にある。つまり、画像の耐候性及び耐擦過性はトレードオフの関係にある。
【0004】
インク中の成分を増やさずに耐擦過性を向上させる手法としては、色材の粒子径を大きくすることが挙げられる。但し、粒子径の大きい色材は、吐出安定性を低下させやすい。
【0005】
吐出安定性を向上するために、流路内のインクを流動(循環)させる構成が知られている。また、画像の耐擦過性や密着性を向上するために、変性シリコーンオイルを含有するインクの検討(特許文献1参照)や、ポリアミド系樹脂粒子を含有するインクの検討(特許文献2参照)が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-208073号公報
【特許文献2】特開2017-101232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、特許文献1や2に記載のインクを、流路内でインクを循環させるインクジェット記録装置に適用して、各種特性を検討した。その結果、耐擦過性及び吐出安定性はある程度得られることがわかった。しかし、耐擦過性を向上するために、粒子径の大きい色材を用いると、吐出安定性が得られにくいことがわかった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、粒子径の大きい色材を用いても、インクの吐出安定性に優れるインクジェット記録方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、このインクジェット記録方法に用いるインクジェット記録装置、及び水性インクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明にかかるインクジェット記録方法は、水性インクを吐出するための複数の吐出口、前記吐出口と連通する圧力室、及び、前記圧力室に配置され、かつ、前記複数の吐出口から水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子を有する吐出ユニット、並びに、前記吐出ユニットの前記圧力室に前記水性インクを供給するための供給流路、及び、前記吐出ユニットの前記圧力室から前記水性インクを回収するための回収流路を有する循環ユニットを備える記録ヘッドを、前記記録媒体の搬送方向と交差する方向に往復走査しながら、前記水性インクを前記複数の吐出口から吐出して記録媒体の単位領域に複数回の前記往復走査で画像を記録するインクジェット記録方法であって、前記水性インクが、その体積基準の累積50%粒子径D50(nm)が160nm以上である色材を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、粒子径の大きい色材を用いても、インクの吐出安定性に優れるインクジェット記録方法が提供される。また、本発明の別の実施態様によれば、上記のインクジェット記録方法に用いる、インクジェット記録装置、及び、水性インクが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】インクジェット記録装置を説明する図である。
図2】記録ヘッドの分解斜視図である。
図3】記録ヘッドの縦断面及び吐出モジュールの拡大断面図である。
図4】循環ユニットの外観概略図である。
図5】循環経路を示す縦断面図である。
図6】循環経路を模式的に示すブロック図である。
図7】圧力調整手段の例を示す断面図である。
図8】循環ポンプの外観斜視図である。
図9図8(a)に示した循環ポンプのIX-IX線断面図である。
図10】記録ヘッド内のインクの流れを説明する図である。
図11】吐出ユニットにおける循環経路を示した模式図である。
図12】開口プレート330を示した図である。
図13】吐出素子基板の一例を示した図である。
図14】吐出ユニットのインク流れを示した断面図である。
図15】吐出口の近傍の一例を示す断面図である。
図16】吐出口の近傍の他の例を示す断面図である。
図17】吐出素子基板の他の例を示した図である。
図18】記録ヘッドの流路構成を示した図である。
図19】インクジェット記録装置の本体部と記録ヘッドとの接続状態を示した図である。
図20】ライン状の記録ヘッドの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、さらに本発明を詳細に説明する。本発明においては、化合物が塩である場合は、インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。酸化チタンや酸化チタン粒子のことを、単に「顔料」と記載することがある。また、インクジェット用の水性インクのことを、単に「インク」と記載することがある。物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリレート」と記載した場合は、それぞれ「アクリル酸、メタクリル酸」、「アクリレート、メタクリレート」を意味する。
【0013】
本発明者らは、粒子径の大きい色材を含有するインクを用いて画像を記録する際に、インクの流路内でインクを循環させていても吐出安定性が低下する理由について検討を行った。吐出口近傍でのインクの循環は、インクの局所的な蒸発などを抑制し、吐出安定性を向上させるために行われる。しかし、耐擦過性を向上させるために、粒子径の大きい色材を用いると、吐出安定性が低下する傾向にあることがわかった。吐出安定性が低下した記録ヘッドの内部を確認したところ、粒子径の大きい色材を用いることで、色材の沈降が生じた箇所があることがわかった。沈降が発生した理由を、本発明者らは以下のように考えている。近年のインクジェット方式の記録ヘッドは、高画質な画像を記録するべく、微小量の吐出を行うための吐出口の小サイズ化がなされている。小サイズの吐出口の近傍においてムラなくインク循環を行うためには、分岐した循環流路の構造が必要となる。なかでも、各吐出口へインクを循環させる流路の分岐部などでは、局所的なインクの流れのよどみが生じやすくなる。また、粒子径が大きい顔料は、ストークスの式にしたがい、そのよどみによって沈降速度が大きくなり、沈降が生じやすいと考えられる。ストークスの式を以下に示す。
V={g(ρS-ρ)d}/18μ
V:沈降速度
d:粒子径
g:重力加速度
ρS:粒子の密度
ρ:分散媒体の密度
μ:分散媒体の粘度
【0014】
本発明者らは、粒子径の大きい色材を用いる場合でも、吐出安定性の低下を抑制するために、検討を行った。その結果、記録ヘッド内でインクを循環させることに加えて、記録ヘッドを揺動させることで、上記の課題を解決できるという知見を得た。
【0015】
すなわち、本発明のインクジェット記録方法は以下の特徴を有する。まず、記録ヘッドは、水性インクを吐出するための複数の吐出口、吐出口と連通する圧力室、及び、圧力室に配置され、かつ、複数の吐出口から水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子を有する吐出ユニット、並びに、吐出ユニットの圧力室に水性インクを供給するための供給流路、及び、吐出ユニットの圧力室から水性インクを回収するための回収流路を有する循環ユニットを備える記録ヘッドである。また、水性インクは、その体積基準の累積50%粒子径D50(nm)が160nm以上である色材を含有する。そして、上記の記録ヘッドを記録媒体の搬送方向と交差する方向に往復走査するとともに、記録媒体の単位領域に複数回の往復走査で上記の水性インクを吐出して画像を記録する。上記の構成によって、粒子径の大きい色材を含有するインクでも、吐出安定性の低下を抑制できるメカニズムを、本発明者らは以下のように推測している。
【0016】
記録ヘッドは、水性インクを吐出するための複数の吐出口、吐出口と連通する圧力室、及び、圧力室に配置され、かつ、複数の吐出口から水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子を有する吐出ユニット、並びに、吐出ユニットの圧力室に水性インクを供給するための供給流路、及び、吐出ユニットの圧力室から水性インクを回収するための回収流路を有する循環ユニットを備える。上記の記録ヘッドを用いることで、インクの局所的な蒸発による吐出安定性の低下を抑制できる。
【0017】
インクは、その体積基準の累積50%粒子径D50(nm)が160nm以上である色材を含有する。この色材は、粒子径が比較的大きいため、耐擦過性の向上に寄与する一方で、ストークスの式にしたがい流路内での沈降を引き起こしやすい成分である。そして、上記の記録ヘッドでは、循環流路のよどみが発生しやすい場所で色材が沈降してしまい、吐出安定性が得られない。一方で、D50(nm)が160nm未満の色材を用いると、吐出安定性の観点で好ましい一方で、耐擦過性が得られない。
【0018】
本発明では、吐出口列の配列方向と交差する方向に上記の記録ヘッドを走査する、いわゆる、シリアル方式とする。シリアル方式で画像を記録する際には、記録ヘッドが主走査方向に往復走査することで、記録ヘッド内のインクが揺動するため、インク中の成分が撹拌される。特に、粒子径の大きい色材は、循環ユニットによる循環に加えて、揺動の作用によって慣性力が働くことで撹拌されやすくなるため、循環流路のよどみが発生しやすい箇所でも色材の沈降及びそれに伴う流路内での色材の堆積が抑制される。また、沈降が発生した場合にも、粒子径が大きい色材が循環ユニットによる循環に加えて、揺動により撹拌されていると、沈降して堆積した色材を含む成分に衝突して、堆積を解消しやすくなる。その結果、吐出安定性が向上する。一方で、水溶性の材料のみを含有し、粒子の形状を持たない成分を含有しないインクや、D50(nm)が160nm未満の色材を含有するインクの場合、循環流路のよどみが発生しやすい場所でも、沈降がそもそも起こらない、又は、問題にならないと考えられる。つまり、吐出安定性の課題は、耐擦過性を向上すべく粒子径が大きい色材を用いる場合に顕著に生ずる課題である。
【0019】
<インクジェット記録方法、インクジェット記録装置、及び水性インク>
本発明のインクジェット記録方法は、インクジェット方式の記録ヘッドから熱エネルギーの作用により水性インクを吐出し、記録媒体に付与して画像を記録する方法である。記録ヘッドは、水性インクを吐出するための複数の吐出口、吐出口と連通する圧力室、及び、圧力室に配置され、かつ、複数の吐出口から水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子を有する吐出ユニット、並びに、吐出ユニットの圧力室に水性インクを供給するための供給流路、及び、吐出ユニットの圧力室から水性インクを回収するための回収流路を有する循環ユニットを備える。また、上記記録ヘッドを記録媒体の搬送方向と交差する方向に走査しながら、水性インクを複数の吐出口から吐出して記録媒体の単位領域に複数回の往復走査で画像を記録する。水性インクは、その体積基準の累積50%粒子径D50(nm)が160nm以上である色材を含有する。なお、活性エネルギー線などを照射して画像を硬化する工程を設ける必要はない。
【0020】
また、本発明のインクジェット記録装置は、インクジェット方式の記録ヘッドから熱エネルギーの作用により水性インクを吐出し、記録媒体に付与して画像を記録するインクジェット記録方法に用いる装置である。本発明のインクジェット記録装置は、上記の記録方法に好適に用いられる装置である。
【0021】
本発明の水性インクは、インクジェット方式の記録ヘッドから吐出され、記録媒体に付与されて画像を記録するインクジェット記録方法に用いられる、水性インクであり、上記の記録方法に好適に用いられる水性インクである。
【0022】
以下、本発明のインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置(以下、単に「記録方法及び記録装置」とも記す)について詳細に説明する。ここで、以下の好ましい実施の形態では、インクを吐出する吐出素子として、電熱変換素子により気泡を発生させてインクを吐出するサーマル方式を採用した例を用いて説明するが、これに限られない。例えば、圧電素子(ピエゾ)を用いてインクを吐出する吐出方式、又は、他の吐出方式が採用された記録ヘッドにも適用することができる。さらに、以下に説明するポンプ及び圧力調整手段なども、好ましい実施の形態及び図面に記載されている構成に限定されるものではない。
【0023】
図1は、インクジェット記録装置を説明するための図であり、インクジェット記録装置の記録ヘッド及びその周辺の拡大図である。まず、本実施形態におけるインクジェット記録装置50の概略構成を、図1を参照しつつ説明する。図1(a)は、記録ヘッド1を用いるインクジェット記録装置を模式的に示す斜視図である。本実施形態のインクジェット記録装置50は、記録ヘッド1を走査しつつ液体としてのインクを吐出して記録媒体Pへの記録を行うシリアル型のインクジェット記録装置を構成している。
【0024】
記録ヘッド1は、キャリッジ60に搭載されている。キャリッジ60は、ガイド軸51に沿って主走査方向(X方向)に沿って往復移動する。記録媒体Pは、搬送ローラ55、56、57、58によって、主走査方向と交差(本例の場合は、直交)する副走査方向(Y方向)に搬送される。なお、以下で参照する各図において、Z方向は鉛直方向を示しており、X方向及びY方向によって規定されるX-Y平面と交差(本例の場合は、直交)している。記録ヘッド1は、ユーザによって、キャリッジ60に対し取り外し及び取り付けが可能に構成されている。
【0025】
記録ヘッド1は、循環ユニット54と、後述する吐出ユニット3(図2参照)とを含み構成されている。具体的な構成については後述するが、吐出ユニット3には、複数の吐出口と、各吐出口からインクを吐出するための吐出エネルギーを発するエネルギー発生素子(以下、吐出素子と称す)とが設けられている。
【0026】
記録ヘッド1は、記録ヘッドから吐出する水性インクを加熱する機構(温調機構)を備えていてもよい。温調機構を備える場合、記録ヘッドから吐出するインクの加熱温度は、35℃以上70℃以下とすることが好ましい。
【0027】
また、インクジェット記録装置50には、インクの供給源であるインクタンク2及び外部ポンプ21が設けられており、インクタンク2に貯留されたインクは、外部ポンプ21の駆動力によってインク供給チューブ59を介して循環ユニット54に供給される。
【0028】
インクジェット記録装置50は、キャリッジ60に搭載された記録ヘッド1が主走査方向へと移動しつつインクを吐出して記録を行う記録走査と、記録媒体Pを副走査方向へと搬送する搬送動作とを繰り返すことにより、記録媒体Pに所定の画像を記録する。つまり、記録ヘッド1を、記録媒体の搬送方向と交差する方向に往復走査しながら、記録媒体の単位領域に複数回の往復走査で水性インクを吐出して画像を記録する。ここで、単位領域とは、1画素や1バンドなどの任意の領域として設定することができる。なお、本実施形態における記録ヘッド1は、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の4種類のインクを吐出可能としており、これらのインクによってフルカラー画像を記録することが可能である。但し、記録ヘッド1から吐出可能とするインクは、上記の4種類のインクに限定されない。他の種類のインクを吐出するための記録ヘッドにも本開示は適用可能である。すなわち、記録ヘッドから吐出するインクの種類及びその数は限定されない。なかでも、酸化チタンを用いるホワイト(W)のインクであることが好ましい。酸化チタンは、白さのために粒子径を大きくすることがあり、かつ、一般的にインクに用いられる色材と比べてその比重が大きい。そのようなインクにおいても、上記で説明した記録ヘッドを用いることで、吐出安定性を向上できる。
【0029】
往復走査における記録ヘッドの移動速度(走査速度、インチ/s)は、25インチ/s以上であることが好ましい。より具体的には、記録を行う際に、記録媒体Pに対して記録ヘッドが移動する速度が25インチ/s以上であることが好ましい。走査速度が25インチ/s未満であると、流路内の沈降の抑制効果が低くなる場合がある。その結果、吐出安定性が十分に得られない場合がある。走査速度は、100インチ/s以下であることが好ましく、80インチ/s以下であることがさらに好ましい。走査速度が100インチ/s超であると、インクの泡立ちが顕著になりやすく、吐出安定性が十分に得られない場合がある。
【0030】
また、インクジェット記録装置50には記録媒体Pの搬送路からX方向に外れた位置に、記録ヘッドの吐出口が形成された吐出口面を覆うことが可能なキャップ部材(不図示)が設けられている。キャップ部材は、非記録動作時において記録ヘッド1の吐出口面を覆い、吐出口の乾燥防止や保護、吐出口からのインク吸引動作などに使用される。
【0031】
図1(a)に示す記録ヘッド1は、4種類のインクに応じた4つの循環ユニット54が記録ヘッド1に備えられている例を示しているが、吐出するインクの種類に応じた循環ユニット54が備えられていればよい。また、同種類のインクに対して複数の循環ユニット54が備えられていてもよい。すなわち、記録ヘッド1は、1つ以上の循環ユニットを備える構成とすることができる。4種類のインク全てを循環せず、少なくとも1つのインクのみ循環する構成でもよい。
【0032】
図1(b)は、インクジェット記録装置50の制御系を示すブロック図である。CPU103は、ROM101に格納された処理手順などのプログラムに基づいてインクジェット記録装置50の各部の動作を制御する制御手段としての機能を果す。RAM102は、CPU103が処理を実行する際のワークエリアなどとして用いられる。CPU103は、インクジェット記録装置50の外部のホスト装置400からの画像データを受信してヘッドドライバ1Aを制御し、吐出ユニット3に設けられた吐出素子の駆動を制御する。また、CPU103は、インクジェット記録装置に設けられた種々のアクチュエータのドライバの制御も行う。例えば、CPU103は、キャリッジ60を移動させるためのキャリッジモータ105のモータドライバ105A、及び、記録媒体Pを搬送させるための搬送モータ104のモータドライバ104Aなどの制御を行う。さらに、CPU103は、後述の循環ポンプ500の駆動を行うポンプドライバ500A、及び、外部ポンプ21のポンプドライバ21Aなどの制御を行う。なお、図1(b)では、ホスト装置400からの画像データを受信した処理を行う形態を示しているが、ホスト装置400からのデータに拠らずにインクジェット記録装置50で処理が行われてもよい。
【0033】
<記録ヘッドの基本構成>
図2は、本実施形態の記録ヘッド1の分解斜視図である。図3図2に示す記録ヘッド1のIIIA-IIIA線断面図である。図3(a)は記録ヘッド1の全体的な縦断面図、図3(b)は図3(a)に示す吐出モジュールの拡大図である。以下、図2及び図3を中心に、図1を適宜参照しつつ、本実施形態における記録ヘッド1の基本構成を説明する。
【0034】
図2に示すように、記録ヘッド1は、循環ユニット54と、循環ユニット54から供給されたインクを記録媒体Pに吐出するための吐出ユニット3とを含み構成されている。本実施形態における記録ヘッド1は、インクジェット記録装置50のキャリッジ60に設けられている不図示の位置決め手段及び電気的接点によってキャリッジ60に固定支持される。記録ヘッド1は、キャリッジ60とともに図1に示す主走査方向(X方向)に移動しながらインクを吐出し、記録媒体Pへの記録を行う。
【0035】
インクの供給源となるインクタンク2に接続された外部ポンプ21には、インク供給チューブ59が設けられている(図1参照)。このインク供給チューブ59の先端には、不図示の液体コネクタが設けられている。インクジェット記録装置50に記録ヘッド1が搭載された際、記録ヘッド1のヘッド筐体53に設けられた、インクの導入口である液体コネクタ挿入口53aに、インク供給チューブ59の先端に設けられた液体コネクタが気密接続される。これにより、インクタンク2から外部ポンプ21を経て記録ヘッド1に至るインク供給路が形成される。本実施形態では、4種類のインクを用いるため、インクタンク2、外部ポンプ21、インク供給チューブ59、及び循環ユニット54が、それぞれのインクに対応して4組設けられており、各インクに対応した4本のインク供給路が独立して形成されている。このように、本実施形態のインクジェット記録装置50には、記録ヘッド1の外部に設けられたインクタンク2からインクが供給されるインク供給系が備えられている。なお、本実施形態のインクジェット記録装置50には、記録ヘッド1内のインクをインクタンク2に回収するようなインク回収系は備えられていない。したがって、記録ヘッド1には、インクタンク2のインク供給チューブ59を接続するための液体コネクタ挿入口53aは設けられているが、記録ヘッド1のインクをインクタンク2に回収するためのチューブを接続させるコネクタ挿入口は設けられていない。液体コネクタ挿入口53aは、インクごとに設けられている。
【0036】
図3において、54Bはブラックインク用の循環ユニットを、54Cはシアンインク用の循環ユニットを、54Mはマゼンタインク用の循環ユニットを、54Yはイエローインク用のインク循環ユニットを、それぞれ示している。各循環ユニットは略同様の構成を有しており、本実施形態において各循環ユニットを特に区別しない場合には、いずれも循環ユニット54と表記する。
【0037】
図2及び図3(a)において、吐出ユニット3は、2つの吐出モジュール300、第1支持部材4、第2支持部材7、電気配線部材(電気配線テープ)5、及び電気コンタクト基板6を備える。図3(b)に示すように、吐出モジュール300は、厚さ0.5~1mmのシリコン基板310と、シリコン基板310の片面に設けられた複数の吐出素子15とを備えている。本実施形態における吐出素子15は、インクを吐出するための吐出エネルギーとして熱エネルギーを発生する電気熱変換素子(ヒータ)により構成されている。
【0038】
各吐出素子15には、シリコン基板310上に成膜技術によって形成された電気配線を介して電力が供給される。
【0039】
また、シリコン基板310の表面(図3(b)において下面)には、吐出口形成部材320が形成されている。吐出口形成部材320には、複数の吐出素子15に対応する複数の圧力室12と、インクを吐出する複数の吐出口13とがフォトリソグラフィ技術によってそれぞれ形成されている。さらに、シリコン基板310には、共通供給流路18と共通回収流路19とが形成されている。また、シリコン基板310には、共通供給流路18と各圧力室12とを連通する供給接続流路323と、共通回収流路19と各圧力室12とを連通する回収接続流路324が形成されている。本実施形態では、1つの吐出モジュール300が、2種類のインクの吐出を行うように構成されている。すなわち、図3(a)に示す2つの吐出モジュールのうち、図中の左側に位置する吐出モジュール300は、ブラックインクとシアンインクの吐出を行い、図中の右側に位置する吐出モジュール300は、マゼンタインクとイエローインクの吐出を行う。なお、この組み合わせは一例であり、インクの組み合わせはいずれであってもよい。1つの吐出モジュールが1種類のインクを吐出する構成でもよいし、3種類以上のインクを吐出する構成としてもよい。2つの吐出モジュール300が同じ種類数のインクを吐出するものでなくてもよい。1つの吐出モジュール300が備えられる構成としてもよいし、3つ以上の吐出モジュール300が備えらえる構成としてもよい。さらに、図3に示す例では、1色のインクに対して、Y方向に延在する2つの吐出口列が形成されている。各吐出口列を構成する複数の吐出口13のそれぞれに対し、圧力室12、共通供給流路18及び共通回収流路19がそれぞれ形成されている。
【0040】
シリコン基板310の裏面(図3(b)において上面)側には、後述するインク供給口及びインク回収口が形成されている。インク供給口は複数の共通供給流路18にインク供給流路48からインクを供給し、インク回収口は複数の共通回収流路19からインク回収流路49にインクを回収する。
【0041】
ここでいうインク供給口及びインク回収口は、後述する順方向のインク循環時においてインクの供給及び回収を行う開口を指す。すなわち、順方向へのインク循環時にはインク供給口から各共通供給流路18にインクが供給されるとともに、各共通回収流路19からインク回収口へとインクが回収される。但し、逆方向へインクを流すインク循環を行う場合もある。この場合には、上記で説明したインク回収口から共通回収流路19にインクが供給されるとともに、共通供給流路18からインク供給口へとインクが回収されることになる。
【0042】
図3(a)に示すように、吐出モジュール300は、その裏面(図3(a)における上面)が、第1支持部材4の一方の面(図3(a)において下面)に接着固定されている。
【0043】
第1支持部材4には、その一方の面から他方の面に亘って貫通するインク供給流路48とインク回収流路49とが形成されている。インク供給流路48の一方の開口はシリコン基板310における前述のインク供給口に、インク回収流路49の一方の開口はシリコン基板310における前述のインク回収口に、それぞれ連通している。なお、インク供給流路48及びインク回収流路49は、インクの種類ごとに独立して設けられている。
【0044】
また、第1支持部材4の一方の面(図3(a)における上面)には、吐出モジュール300を挿通させる開口7a(図2参照)を有する第2支持部材7が接着固定されている。
【0045】
第2支持部材7には、吐出モジュール300に対して電気的に接続される電気配線部材5が保持されている。電気配線部材5は、インクを吐出するための電気信号を吐出モジュール300に印加するための部材である。吐出モジュール300と電気配線部材5との電気接続部分は、封止材(不図示)により封止され、インクによる腐食や外的衝撃から保護されている。
【0046】
また、電気配線部材5の端部5a(図2参照)には、不図示の異方性導電フィルムを用いて電気コンタクト基板6が熱圧着され、電気配線部材5と電気コンタクト基板6とは電気的に接続されている。電気コンタクト基板6は、インクジェット記録装置50からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子(不図示)を有している。
【0047】
さらに、第1支持部材4と循環ユニット54との間にはジョイント部材8(図3(a))が設けられている。ジョイント部材8には、供給口88と回収口89とがインクの種類ごとに形成されている。供給口88及び回収口89は、第1支持部材4のインク供給流路48及びインク回収流路49と循環ユニット54に形成される流路とを連通させる。なお、図3(a)において、供給口88B及び回収口89Bはブラックインクに対応し、供給口88C及び回収口89Cはシアンインクに対応する。また、供給口88M及び回収口89Mはマゼンタインクに対応し、供給口88Y及び回収口89Yはイエローインクに対応している。
【0048】
第1支持部材4のインク供給流路48及びインク回収流路49のそれぞれの一端部の開口は、シリコン基板310におけるインク供給口及びインク回収口に合わせた小さな開口面積を有している。これに対し、第1支持部材4のインク供給流路48及びインク回収流路49のそれぞれの他端部の開口は、循環ユニット54の流路に合わせて形成されたジョイント部材8の大きな開口面積と同一の開口面積にまで拡大させた形状を有している。このような構成を採ることにより、各回収流路から集められたインクに対する流路抵抗の上昇を抑制することができる。但し、インク供給流路48及びインク回収流路49のそれぞれの一端部及び他端部の開口の形状は、上記の例に限定されない。
【0049】
上記構成を有する記録ヘッド1において、循環ユニット54に供給されたインクは、ジョイント部材8の供給口88及び第1支持部材4のインク供給流路48を経て、吐出モジュール300のインク供給口から共通供給流路18に流入する。続いてインクは共通供給流路18から供給接続流路323を介して圧力室12に流入し、圧力室内に流入したインクの一部は、吐出素子15の駆動によって吐出口13から吐出される。吐出されなかった残りのインクは、圧力室12から回収接続流路324、共通回収流路19を経てインク回収口から第1支持部材4のインク回収流路49に流入する。そして、インク回収流路49に流入したインクは、ジョイント部材8の回収口89を経て循環ユニット54へと流入し、回収される。
【0050】
<循環ユニットの構成要素>
図4は、本実施形態の記録装置に適用される1種類のインクに対応する1つの循環ユニット54の外観概略図である。循環ユニット54は、循環ポンプ500の他に、フィルタ110、第1圧力調整手段120、第2圧力調整手段150、を有していることが好ましい。これらの構成要素は、図5及び図6に示すように各流路によって接続され、記録ヘッド1内において、吐出モジュール300に対してインクの供給及び回収を行う循環経路を構成している。記録ヘッド1は、回収流路のインクを供給流路に流入させる循環ポンプ500を有することが好ましい。つまり、キャリッジ60上に循環ポンプを有する記録ヘッド1が固定支持されていることが好ましい。循環ポンプが記録ヘッドに搭載されていることで、ポンプから流路までの距離が短くなり、インクの沈降する可能性のある箇所が減り、吐出安定性をより向上することができる。
【0051】
<記録ヘッド内の循環経路>
図5は、記録ヘッド1内に構成される1種類のインク(1色のインク)の循環経路を模式的に示す縦断面図である。循環経路をより明確に説明するため、図5における各構成(第1圧力調整手段120、第2圧力調整手段150、循環ポンプ500など)の相対位置は簡略化している。そのため各構成の相対位置は後述する図19の構成とは異なる。また、図6は、図5に示した循環経路を模式的に示すブロック図である。図5及び図6に示すように、第1圧力調整手段120は、第1バルブ室121及び第1圧力制御室122を備えている。第2圧力調整手段150は、第2バルブ室151及び第2圧力制御室152を備えている。第1圧力調整手段120は、第2圧力調整手段150よりも相対的に制御圧力が高くなるように構成されている。本実施形態では、この二つの圧力調整手段120、150を用いることで、循環経路内において一定の圧力範囲での循環を実現している。また、第1圧力調整手段120と第2圧力調整手段150との圧力差に応じた流量で圧力室12(吐出素子15)をインクが流れるように構成されている。以下、図5及び図6を参照しつつ、記録ヘッド1における循環経路及び循環経路内におけるインクの流れを説明する。各図中の矢印はインクの流れる方向を示している。
【0052】
まず、記録ヘッド1における各構成要素の接続状態を説明する。
【0053】
記録ヘッド1の外部に設けられたインクタンク2(図6)に収容されたインクを記録ヘッド1へ送る外部ポンプ21は、インク供給チューブ59(図1)を介して循環ユニット54と接続されている。循環ユニット54の上流側に位置するインク流路(流入流路)にはフィルタ110が設けられている。フィルタ110の下流側に位置するインク供給路(流入流路)は、第1圧力調整手段120の第1バルブ室121に接続されている。第1バルブ室121は、図5に示す第1バルブ190Aにより開閉可能な第1連通口191Aを介して第1圧力制御室122に連通している。流入流路とは、記録ヘッド1の外部に設けられたインクタンク2内のインクを、圧力室12に供給するために記録ヘッド1に流入する流路である。
【0054】
第1圧力制御室122は、供給流路130、バイパス流路160、及び循環ポンプ500のポンプ出口流路180に接続されている。供給流路130は、吐出モジュール300に設けられた前述のインク供給口を介して共通供給流路18に接続されている。また、バイパス流路160は、第2圧力調整手段150に設けられた第2バルブ室151に接続されている。第2バルブ室151は、図5に示す第2バルブ190Bによって開閉する第2連通口191Bを介して第2圧力制御室152に連通している。図5及び図6では、バイパス流路160の一端を第1圧力調整手段120の第1圧力制御室122に接続し、且つバイパス流路160の他端を第2圧力調整手段150の第2バルブ室151に接続した例を示している。バイパス流路160の一端を供給流路130に接続し、バイパス流路の他端を第2バルブ室151に接続してもよい。
【0055】
第2圧力制御室152は、回収流路140に接続されている。回収流路140は、吐出モジュール300に設けられた前述のインク回収口を介して共通回収流路19に接続されている。さらに、第2圧力制御室152は、ポンプ入口流路170を介して循環ポンプ500に接続されている。図5において、170aはポンプ入口流路170の流入口を示している。
【0056】
次に、上記構成を有する記録ヘッド1におけるインクの流れについて説明する。図6に示すように、インクタンク2に収容されているインクは、インクジェット記録装置50に設けられた外部ポンプ21によって加圧され、正圧のインク流となって記録ヘッド1の循環ユニット54に供給される。
【0057】
循環ユニット54に供給されたインクは、フィルタ110を通過することにより塵埃などの異物や気泡が除去された後、第1圧力調整手段120に設けられた第1バルブ室121に流入する。フィルタ110を通過する際の圧力損失によってインクの圧力は低下するが、この段階でのインクの圧力は正圧の状態にある。その後、第1バルブ室121に流入したインクは、第1バルブ190Aが開状態にあるとき、第1連通口191Aを通過して第1圧力制御室122に流入する。第1連通口191Aを通過する際の圧力損失によって、第1圧力制御室122に流入したインクは、正圧から負圧へと切り替わる。
【0058】
ここで、フィルタ110のポアサイズ(μm)は、1μm以上10μm以下であることが好ましい。ポアサイズが1μm未満になると、インク中の色材などの粒子径が1μm以下の粒子も捕集されることになり、インクの安定的な供給が十分に維持できない場合がある。その結果、吐出安定性が十分に得られない場合がある。一方、ポアサイズが10μm超であると、インク中の粗大粒子などの不純物を除去することが困難となる。その結果、インク流路内に上記の不純物が侵入しやすくなり、吐出安定性が十分に得られない場合がある。
【0059】
インクの局所的な蒸発を抑制するために、循環経路における水性インクの流速(循環流速、mm/s)は、10mm/s以上30mm/s以下であることが好ましい。ここで、循環経路とは、供給流路から回収流路までの領域を指す。また、後述する実施例においては、循環経路における水性インクの流速は、吐出口のメニスカス付近でも変化なかった。
【0060】
循環流速が10mm/s未満であると、インクの局所的な蒸発の影響で、吐出安定性が十分に得られない場合がある。一方で、循環速度が30mm/s以上であると、連続して吐出を行う際に、インクの吐出量の変化が大きくなってしまい、正常な吐出が行えない場合がある。その結果、吐出安定性が十分に得られない場合がある。循環流速は、簡易的には、供給流路における圧力と、回収流路における圧力の差を調整することで制御することができる。後述する実施例においては、第1圧力制御室122、及び、第2圧力制御室152における圧力を制御することで、循環流速を調整した。
【0061】
次に、循環経路内におけるインクの流れを説明する。循環ポンプ500は、その上流側となるポンプ入口流路170から吸引したインクを下流側となるポンプ出口流路180へとインクを送り出すように動作する。したがって、ポンプが駆動されることにより、第1圧力制御室122に供給されたインクは、ポンプ出口流路180から送液されたインクとともに、供給流路130及びバイパス流路160に流入する。詳細は後述するが、本実施形態では送液可能な循環ポンプとして、ダイヤフラムに貼り付けた圧電素子を駆動源とする圧電ダイヤフラムポンプを用いている。圧電ダイヤフラムポンプは、圧電素子に駆動電圧を入力することでポンプ室内の容積を変化させ、圧力変動によって2つの逆止弁が交互に動くことにより送液を行うポンプである。
【0062】
供給流路130に流入したインクは、吐出モジュール300のインク供給口から共通供給流路18を介して圧力室12に流入し、その一部のインクは吐出素子15の駆動(発熱)によって吐出口13から吐出される。また、吐出に使用されなかった残りのインクは、圧力室12を流動し、共通回収流路19を通過した後、吐出モジュール300に接続されている回収流路140に流入する。回収流路140に流入したインクは、第2圧力調整手段150の第2圧力制御室152に流入する。
【0063】
一方、第1圧力制御室122からバイパス流路160に流入したインクは、第2バルブ室151に流入した後、第2連通口191Bを通過して第2圧力制御室152に流入する。バイパス流路160を経由して第2圧力制御室152に流入したインクと回収流路140から回収されたインクとは、循環ポンプ500の駆動によってポンプ入口流路170を経て循環ポンプ500内に吸引される。そして、循環ポンプ500内に吸引されたインクは、ポンプ出口流路180へと送られ、第1圧力制御室122に再び流入する。以降では、第1圧力制御室122から供給流路130を介して吐出モジュール300を経て第2圧力制御室152に流入したインクと、バイパス流路160を介して第2圧力制御室152に流入したインクとが、循環ポンプ500に流入する。そして、循環ポンプ500から第1圧力制御室122に送られる。このようにして循環経路内でのインクの循環が行われることになる。
【0064】
以上のように、本実施形態では、循環ポンプ500によって、記録ヘッド1内に形成した循環経路に沿ってインクを循環させることが可能になる。このため、吐出モジュール300内でのインクの増粘や色材などのインクの沈降成分(固体の成分)の堆積を抑制することが可能となり、吐出モジュール300におけるインクの流動性及び吐出口における吐出特性を良好な状態に保つことが可能になる。
【0065】
本実施形態における循環経路は、記録ヘッド1内で完結する構成を採るため、記録ヘッドの外部に設けられたインクタンク2と記録ヘッド1との間でインクの循環を行う場合に比べ、循環経路長を大幅に短縮することができる。このため、インクの循環を小型な循環ポンプで行うことが可能になる。
【0066】
さらに、記録ヘッド1とインクタンク2との接続流路としては、インクを供給する流路のみを備える構成となっている。すなわち、記録ヘッド1からインクタンク2へとインクを回収するための流路を不要とする構成を採る。このため、インクタンク2と記録ヘッド1との接続にはインク供給用のチューブのみを設ければよく、インク回収用のチューブを設ける必要はない。したがって、インクジェット記録装置50の内部を、チューブの本数が削減された簡潔な構成とすることができ、装置全体の小型化を実現することができる。
【0067】
さらに、チューブの本数が削減されることにより、記録ヘッド1の主走査に伴うチューブの揺動に起因するインクの圧力変動を軽減することが可能になる。また、記録ヘッド1の主走査時におけるチューブの揺動は、キャリッジ60を駆動するキャリッジモータの駆動負荷となる。このため、チューブの本数削減によってキャリッジモータの駆動負荷が低減され、キャリッジモータなどを含む主走査機構の簡略化を図ることが可能になる。さらに、記録ヘッドからインクタンクへのインクの回収が不要となるため、外部ポンプ21の小型化も可能となる。このように、本実施形態によれば、インクジェット記録装置50の小型化及びコスト低減を実現することができる。
【0068】
<圧力調整手段>
図7は、圧力調整手段の例を示す図である。図7を参照して、上述の記録ヘッド1に内蔵される圧力調整手段(第1圧力調整手段120、第2圧力調整手段150)の構成及び作用を、より詳細に説明する。第1圧力調整手段120と第2圧力調整手段150とは、実質的に同一の構成を有している。このため、以下では、第1圧力調整手段120を例に採り説明し、第2圧力調整手段150については、図7において第1圧力調整手段に対応する部分の符号を併記するにとどめる。第2圧力調整手段150の場合には、以下で説明する第1バルブ室121を第2バルブ室151と読み替え、第1圧力制御室122を第2圧力制御室152と読み替えることとする。
【0069】
第1圧力調整手段120は、円筒状の筐体125内に形成された第1バルブ室121と第1圧力制御室122とを有する。第1バルブ室121と第1圧力制御室122とは、円筒状の筐体125内に設けられた隔壁123によって隔てられている。但し、第1バルブ室121は、隔壁123に形成された連通口191を介して第1圧力制御室122に連通している。第1バルブ室121には、連通口191における第1バルブ室121と第1圧力制御室122との連通及び遮断を切り替えるバルブ190が設けられている。バルブ190は、バルブばね200によって、連通口191に対向する位置に保持されており、バルブばね200の付勢力によって隔壁123と密接可能な構成を有している。バルブ190が隔壁123に密接することにより、連通口191におけるインクの流通は遮断される。隔壁123との密接性を高めるため、バルブ190の隔壁123との接触部分は弾性部材によって形成されることが好ましい。また、バルブ190の中央部には連通口191に挿通されるバルブシャフト190aが突設されている。このバルブシャフト190aをバルブばね200の付勢力に抗して押圧することにより、バルブ190は隔壁123から離間し、連通口191におけるインクの流通が可能になる。以下、バルブ190によって連通口191におけるインクの流通が遮断される状態を「閉状態」、連通口191におけるインクの流通が可能な状態を「開状態」と称す。
【0070】
円筒状の筐体125の開口部は、可撓性部材230と圧力板210とにより閉塞されている。この可撓性部材230と、圧力板210と、筐体125の周壁と、隔壁123とにより、第1圧力制御室122が形成されている。圧力板210は、可撓性部材230の変位に伴って変位可能に構成されている。圧力板210及び可撓性部材230の材質は、特に限定されないが、例えば、圧力板210を樹脂成形部品で構成し、可撓性部材230を樹脂フィルムで構成することが可能である。この場合、圧力板210は可撓性部材230に熱溶着によって固定することができる。
【0071】
圧力板210と隔壁123との間には、圧力調整ばね220(付勢部材)が設けられている。圧力調整ばね220の付勢力によって、圧力板210及び可撓性部材230は、図7(a)に示すように、第1圧力制御室122の内容積が広がる方向に付勢されている。
【0072】
また、第1圧力制御室122内の圧力が減少すると、圧力板210及び可撓性部材230は、圧力調整ばね220の圧力に抗して、第1圧力制御室122の内容積が減少する方向に変位する。そして、第1圧力制御室122の内容積が一定量まで減少すると、圧力板210がバルブ190のバルブシャフト190aに当接する。その後、さらに第1圧力制御室122の内容積が減少すると、バルブばね200の付勢力に抗してバルブシャフト190aとともにバルブ190が移動し、隔壁123から離間する。これにより、連通口191が開状態(図7(b)の状態)となる。
【0073】
本実施形態では、連通口191が開状態となったときの第1バルブ室121の圧力を第1圧力制御室122の圧力よりも高くなるように、循環経路内における接続設定をする。
【0074】
これにより、連通口191が開状態となると、第1バルブ室121から第1圧力制御室122へとインクが流入する。このインク流入により、第1圧力制御室122の内容積が増加する方向へ可撓性部材230及び圧力板210が変位する。その結果、圧力板210がバルブ190のバルブシャフト190aから離間し、バルブ190はバルブばね200の付勢力によって隔壁123に密接し、連通口191は閉状態(図7(c)の状態)となる。
【0075】
このように、本実施形態における第1圧力調整手段120では、第1圧力制御室122内の圧力が一定圧力以下まで減少すると(例えば負圧が強くなると)、第1バルブ室121から連通口191を介してインクが流入する。これにより、第1圧力制御室122の圧力がそれ以上減少しないように構成されている。したがって、第1圧力制御室122は一定範囲内の圧力に保たれるよう制御される。
【0076】
次に、第1圧力制御室122の圧力についてより詳細に説明する。前述のように第1圧力制御室122の圧力に応じて可撓性部材230及び圧力板210が変位し、圧力板210がバルブシャフト190aに当接して連通口191が開状態となった状態(図7(b)の状態)を考える。このとき、圧力板210に働く力の関係は、次の式1によって表される。
P2×S2+F2+(P1-P2)×S1+F1=0・・・式1
【0077】
さらに、式1をP2について整理すると、以下のようになる。
P2=-(F1+F2+P1×S1)/(S2-S1)・・・式2
P1:第1バルブ室121の圧力(ゲージ圧)
P2:第1圧力制御室122の圧力(ゲージ圧)
F1:バルブばね200のばね力
F2:圧力調整ばね220のばね力
S1:バルブ190の受圧面積
S2:圧力板210の受圧面積
【0078】
ここで、バルブばね200のばね力F1及び圧力調整ばね220のばね力F2は、バルブ190及び圧力板210を押す方向を正(図7において左方向)とする。また、第1バルブ室121の圧力P1及び第1圧力制御室122の圧力P2に関し、P1が、P1≧P2の関係となるように構成する。
【0079】
連通口191が開状態となるときの第1圧力制御室122の圧力P2は、式2によって決定され、連通口191が開状態となると、P1≧P2の関係に構成したことにより、第1バルブ室121から第1圧力制御室122へインクが流入する。その結果、第1圧力制御室122の圧力P2はそれ以上減少せず、P2は一定範囲内の圧力に保たれる。
【0080】
一方、図7(c)に示すように、圧力板210がバルブシャフト190aと非当接状態となり、連通口191が閉状態となったときの圧力板210に働く力の関係は、式3のようになる。
P3×S3+F3=0・・・式3
【0081】
ここで、式3をP3について整理すると以下のようになる。
P3=-F3/S3・・・式4
F3:圧力板210とバルブシャフト190aとが非当接状態にあるときの圧力調整ばね220のばね力
P3:圧力板210とバルブシャフト190aとが非当接状態にあるときの第1圧力制御室122の圧力(ゲージ圧)
S3:圧力板210とバルブ190が非当接状態にあるときの圧力板210の受圧面積
【0082】
ここで図7(c)では、圧力板210及び可撓性部材230が変位可能な限界まで図右方向へ変位した状態を表している。圧力板210及び可撓性部材230が図7(c)の状態へと変位する間の変位量に応じて、第1圧力制御室122の圧力P3、圧力調整ばね220のばね力F3、圧力板210の受圧面積S3は変化する。具体的には、図7(c)よりも圧力板210及び可撓性部材230が図7において右方向にあるとき、圧力板210の受圧面積S3は小さくなり、圧力調整ばね220のばね力F3は大きくなる。その結果、式4の関係により第1圧力制御室122の圧力P3は小さくなる。したがって、式2及び式4により、図7(b)の状態から図7(c)の状態になるまでの間に、第1圧力制御室122の圧力は徐々に上昇していく(つまり、負圧が弱くなり、正圧側に近づく値になる)。すなわち、連通口191が開状態となっている状態から、圧力板210及び可撓性部材230が左方向に徐々に変位していき、最終的に第1圧力制御室122の内容積が変位可能な限界に達するまでの間に、第1圧力制御室の圧力は徐々に上昇していく。つまり、負圧が弱まっていくことになる。
【0083】
<循環ポンプ>
次に、図8及び図9を参照して、上述の記録ヘッド1に内蔵される循環ポンプ500の構成及び作用を詳細に説明する。
【0084】
図8は、循環ポンプ500の外観斜視図である。図8(a)は循環ポンプ500の正面側を示す外観斜視図、図8(b)は循環ポンプ500の背面側を示す外観斜視図である。
【0085】
循環ポンプ500の外殻は、ポンプ筐体505と、ポンプ筐体505に固定されたカバー507とにより構成されている。ポンプ筐体505は、筐体部本体505aと、筐体部本体505aの外面に接着固定された流路接続部材505bとにより構成されている。筐体部本体505aと流路接続部材505bとのそれぞれには、互いに連通する一対の貫通孔が異なる2つの位置に設けられている。一方の位置に設けられた一対の貫通孔はポンプ供給孔501を形成し、他方の位置に設けられた一対の貫通孔はポンプ排出孔502を形成している。ポンプ供給孔501は、第2圧力制御室152に接続されたポンプ入口流路170に接続され、ポンプ排出孔502は、第1圧力制御室122に接続されたポンプ出口流路180に接続されている。ポンプ供給孔501から供給されたインクは、後述のポンプ室503(図9参照)を通過してポンプ排出孔502から排出される。
【0086】
図9は、図8(a)に示した循環ポンプ500のIX-IX線断面図である。ポンプ筐体505の内面にはダイヤフラム506が接合されており、このダイヤフラム506とポンプ筐体505の内面に形成された凹部との間にポンプ室503が形成されている。ポンプ室503は、ポンプ筐体505に形成されたポンプ供給孔501及びポンプ排出孔502に連通している。また、ポンプ供給孔501の中間部分には、逆止弁504aが設けられ、ポンプ排出孔502の中間部分には、逆止弁504bが設けられている。具体的には、逆止弁504aは、その一部がポンプ供給孔501の中間部分に形成されている空間512aにおいて図中の左方へと移動しうるように配置されている。また、逆止弁504bは、その一部がポンプ排出孔502の中間部分に形成されている空間512bにおいて図中の右方へと移動しうるように配置されている。
【0087】
ダイヤフラム506が変位してポンプ室503の容積が増加することでポンプ室503が減圧されると、逆止弁504aは空間512a内のポンプ供給孔501の開口から離間する(つまり、図中の左方へと移動する)。逆止弁504aが空間512a内のポンプ供給孔501の開口から離間することで、ポンプ供給孔501におけるインクの流通を可能とする開状態となる。また、ダイヤフラム506が変位してポンプ室503の容積が減少することでポンプ室503が加圧されると、逆止弁504aはポンプ供給孔501の開口の周囲の壁面に密接する。この結果、ポンプ供給孔501におけるインクの流通を遮断する閉状態となる。
【0088】
一方、逆止弁504bは、ポンプ室503が減圧されると、ポンプ筐体505の開口の周囲の壁面に密接して、ポンプ排出孔502におけるインクの流通を遮断する閉状態となる。また、ポンプ室503が加圧されると、逆止弁504bは、ポンプ筐体505の開口から離間して空間512b側に移動し(つまり、図中の右方へと移動し)、ポンプ排出孔502におけるインクの流通を可能とする。
【0089】
各逆止弁504a、504bの材質は、ポンプ室503内の圧力に応じて変形可能なものであればよく、例えば、EPDM(エチレンプロピレンゴム)やエラストマなどの弾性部材やポリプロピレンなどのフィルムや薄板で形成することが可能である。但し、これらに限定されるものではない。
【0090】
前述のように、ポンプ室503はポンプ筐体505とダイヤフラム506との接合によって形成されている。したがって、ダイヤフラム506が変形することによりポンプ室503の圧力は変化する。例えば、ダイヤフラム506がポンプ筐体505側に変位して(図中、右側に変位して)ポンプ室503の容積が減少すると、ポンプ室503内の圧力は上昇する。これによりポンプ排出孔502に対向して配置した逆止弁504bが開状態となり、ポンプ室503のインクが排出される。このとき、ポンプ供給孔501に対向して配置された逆止弁504aは、ポンプ供給孔501の周囲の壁面に密接するためポンプ室503からポンプ供給孔501へのインクの逆流は抑制される。
【0091】
また、ダイヤフラム506が、ポンプ室503が広がる方向に変位した場合には、ポンプ室503の圧力は減少する。これにより、ポンプ供給孔501に対向して配置された逆止弁504aが開状態となり、ポンプ室503にインクが供給される。このとき、ポンプ排出孔502に配置された逆止弁504bは、ポンプ筐体505に形成された開口の周囲の壁面に密接して当該開口を閉塞する。このため、ポンプ排出孔502からポンプ室503へのインクの逆流は抑制される。
【0092】
このように、循環ポンプ500では、ダイヤフラム506が変形し、ポンプ室503内の圧力を変化させることにより、インクの吸引と排出を行う。この際、ポンプ室503内に泡が混入すると、ダイヤフラム506が変位しても、泡の膨張・収縮によってポンプ室503内の圧力変化が小さくなり送液量が低下する。そこでポンプ室503を重力と平行に配置してポンプ室503に混入した泡をポンプ室503の上方に集まりやすくするとともに、ポンプ排出孔502をポンプ室503の中心よりも上方に配置する。これにより、ポンプ内の泡の排出性を向上させることが可能となり、流量の安定化を図ることができる。
【0093】
<記録ヘッド内のインクの流れ>
図10は、記録ヘッド内のインクの流れを説明する図である。図10を参照しつつ記録ヘッド1内で行われるインクの循環について説明する。インク循環経路をより明確に説明するため、図10における各構成(第1圧力調整手段120、第2圧力調整手段150、循環ポンプ500など)の相対位置は簡略化している。そのため各構成の相対位置は後述する図19の構成とは異なる。図10(a)は吐出口13からインクを吐出して記録を行う記録動作を行っているときのインクの流れを模式的に示したものである。図中の矢印はインクの流れを示している。本実施形態において、記録動作を行う際には外部ポンプ21及び循環ポンプ500の両方が駆動を開始する。記録動作に関わらず、外部ポンプ21及び循環ポンプ500が駆動していてもよい。また、外部ポンプ21と循環ポンプ500との駆動は、連動して行われなくてもよく、別個に独立して駆動されてもよい。
【0094】
記録動作中は循環ポンプ500がONの状態(駆動状態)となっており、第1圧力制御室122から流出したインクは供給流路130及びバイパス流路160に流入する。供給流路130に流入したインクは、吐出モジュール300を通過した後、回収流路140に流入し、その後、第2圧力制御室152に供給される。
【0095】
一方、第1圧力制御室122からバイパス流路160に流入したインクは、第2バルブ室151を経て第2圧力制御室152に流入する。第2圧力制御室152に流入したインクは、ポンプ入口流路170、循環ポンプ500、及びポンプ出口流路180を通過した後、再び第1圧力制御室122に流入する。このとき、第1バルブ室121による制御圧力は、前述した式2の関係に基づいて、第1圧力制御室122の制御圧力よりも高く設定されている。したがって、第1圧力制御室122内のインクは、第1バルブ室121に流れずに再度供給流路130を介して吐出モジュール300に供給される。吐出モジュール300に流入したインクは、回収流路140、第2圧力制御室152、ポンプ入口流路170、循環ポンプ500、及びポンプ出口流路180を経て、再び第1圧力制御室122に流入する。以上により記録ヘッド1内で完結するインク循環が行われる。
【0096】
以上のインク循環において、吐出モジュール300内のインクの循環量(流量)は第1圧力制御室122及び第2圧力制御室152の制御圧力の差圧によって決定される。そして、この差圧は、吐出モジュール300内の吐出口近傍のインクの増粘を抑制可能な循環量となるように設定される。また、記録によって消費された分のインクは、インクタンク2からフィルタ110、第1バルブ室121を介して第1圧力制御室122に供給される。消費されたインクが供給される仕組みを、詳細に説明する。記録によって消費されたインクの分だけ循環経路内からインクが減ることで、第1圧力制御室内の圧力が減少し、結果として第1圧力制御室122内のインクも減少する。第1圧力制御室122内のインクの減少に伴い、第1圧力制御室122の内容積が減少する。この第1圧力制御室122の内容積の減少により、第1連通口191Aが開状態となり、第1バルブ室121から第1圧力制御室122にインクが供給される。この供給されるインクには、第1バルブ室121から第1連通口191Aを通過する際に圧力損失が発生し、第1圧力制御室122に流入することで、正圧のインクは、負圧の状態に切り替わる。そして、第1圧力制御室122に第1バルブ室121からインクが流入することで、第1圧力制御室内の圧力が上昇することで第1圧力制御室の内容積が増加し、第1連通口191Aが閉状態となる。このように、インクの消費に応じて第1連通口191Aは、開状態と閉状態とを繰り返すことになる。また、インクが消費されない場合には、第1連通口191Aは、閉状態に維持される。
【0097】
図10(b)は、記録動作が終了し、循環ポンプ500がOFFの状態(停止状態)となった直後のインクの流れを模式的に示したものである。記録動作が終了し、循環ポンプ500がOFFとなった時点では、第1圧力制御室122の圧力及び第2圧力制御室152の圧力は、いずれも記録動作中の制御圧となっている。このため、第1圧力制御室122の圧力と第2圧力制御室152の圧力との差圧に応じて、図10(b)に示すようなインクの移動が生ずる。具体的には第1圧力制御室122から供給流路130を介して吐出モジュール300に供給され、その後、回収流路140を経て第2圧力制御室152に至るインクの流れが引き続き発生する。また、第1圧力制御室122からバイパス流路160及び第2バルブ室151を経て第2圧力制御室152に至るインクの流れも引き続き発生する。
【0098】
これらのインクの流れによって第1圧力制御室122から第2圧力制御室152へ移動したインク量が、インクタンク2からフィルタ110及び第1バルブ室121を経て第1圧力制御室122に供給される。このため第1圧力制御室122内の内容量は一定に保たれる。前述した式2の関係から、第1圧力制御室122の内容量が一定であると、バルブばね200のばね力F1、圧力調整ばね220のばね力F2、バルブ190の受圧面積S1、圧力板210の受圧面積S2は一定に保たれる。このため、第1バルブ室121の圧力(ゲージ圧)P1の変化に応じて第1圧力制御室122の圧力が決定される。よって第1バルブ室121の圧力P1の変化がない場合には、第1圧力制御室122の圧力P2は記録動作中の制御圧と同じ圧力に保たれる。
【0099】
一方、第2圧力制御室152の圧力は、第1圧力制御室122からのインクの流入に伴う内容量の変化に応じて経時的に変化する。具体的には、図10(b)の状態から、図10(c)に示すように、連通口191が閉状態となって第2バルブ室151と第2圧力制御室152とが非連通状態となるまでの間は、式2にしたがって第2圧力制御室152の圧力は変化する。その後、圧力板210とバルブシャフト190aとが非当接状態となって連通口191が閉状態となる。そして、図10(d)に示すように、回収流路140から第2圧力制御室152へインクが流入する。このインク流入によって圧力板210及び可撓性部材230が変位し、第2圧力制御室152の内容積が最大に達するまでの間は、式4にしたがって第2圧力制御室152の圧力は変化する。すなわち上昇する。
【0100】
図10(c)の状態になると、第1圧力制御室122からバイパス流路160及び第2バルブ室151を経て第2圧力制御室152に至るインクの流れは発生しない。したがって、第1圧力制御室122内のインクが、供給流路130を介して吐出モジュール300に供給された後、回収流路140を経て第2圧力制御室152に至る流れのみが生ずる。
【0101】
前述のように、第1圧力制御室122から第2圧力制御室152へのインクの移動は、第1圧力制御室122内の圧力と第2圧力制御室152内の圧力との差圧に応じて生ずる。
【0102】
このため、第2圧力制御室152内の圧力が第1圧力制御室122内の圧力と等しくなるとインクの移動は停止する。
【0103】
また、第2圧力制御室152内の圧力が第1圧力制御室122内の圧力と等しくなる状態においては、第2圧力制御室152が、図10(d)に示す状態まで拡張する。図10(d)に示すように第2圧力制御室152が拡張した場合、第2圧力制御室152には、インクを貯留できる貯留部が形成される。循環ポンプ500の停止から図10(d)の状態に移行するまでは、流路の形状及びサイズ並びにインクの性質に応じて変わりうるが、概ね1~2分程度の時間で移行する。貯留部にインクを貯留した図10(d)に示す状態から循環ポンプ500を駆動すると、貯留部のインクは循環ポンプ500によって第1圧力制御室122に供給される。これにより図10(e)に示すように第1圧力制御室122のインク量は増加し、可撓性部材230及び圧力板210は拡張方向へと変位する。そして、循環ポンプ500の駆動が引き続き行われると、図10(a)に示すように、循環経路内の状態が変化することになる。
【0104】
上記説明においては、図10(a)は、記録動作の際の例として説明したが、前述したように、記録動作を伴わずにインクの循環が行われてもよい。この場合であっても、循環ポンプ500の駆動及び停止に応じて、図10(a)~(e)に示すようなインクの流れが生ずることになる。
【0105】
また、上述の通り、本実施形態では、第2圧力調整手段150における第2連通口191Bは、循環ポンプ500が駆動されてインクの循環が行われる場合に開状態になり、インクの循環が停止すると、閉状態になる例を用いるが、これに限られない。第2圧力調整手段150における第2連通口191Bは、循環ポンプ500が駆動されてインクの循環が行われている場合であっても、閉状態であるように制御圧力を設定してもよい。以下、バイパス流路160の役割と併せて具体的に説明する。
【0106】
第1圧力調整手段120と第2圧力調整手段150とを接続するバイパス流路160は、例えば循環経路内に生じた負圧が既定値よりも強まる場合に、その影響を吐出モジュール300に及ぼさないようにするために設けられている。また、バイパス流路160は、供給流路130及び回収流路140の両側から圧力室12にインクを供給するためにも設けられている。
【0107】
まず、負圧が既定値よりも強まる場合に、バイパス流路160を設けていることで、その影響を吐出モジュール300に及ぼさないようにする例を説明する。例えば、環境温度の変化によりインクの特性(例えば粘度)が変化することがある。インクの粘度が変化すると、循環経路内の圧力損失も変化する。例えば、インクの粘性が下がると、循環経路内の圧力損失分が減少する。この結果、一定の駆動量で駆動している循環ポンプ500の流量が増加し、吐出モジュール300を流れる流量が増えることになる。一方で、吐出モジュール300は、不図示の温度調整機構により一定温度に保たれるため、吐出モジュール300内のインクの粘度は、環境温度が変化しても一定に維持される。吐出モジュール300内のインクの粘度に変化がない一方で吐出モジュール300内を流れるインクの流量が増加する分、流抵抗により、吐出モジュール300における負圧が強まる。このようにして、吐出モジュール300における負圧が既定値よりも強まると、吐出口13のメニスカスが破壊され、外部の空気が循環経路内に引き込まれて、正常な吐出が行えなくなる場合がある。また、メニスカスが破壊されないとしても、圧力室12の負圧が所定よりも強まり、吐出に影響を及ぼす場合がある。
【0108】
このため、本実施形態では、バイパス流路160を循環経路内に形成している。バイパス流路160を設けることで、負圧が既定値よりも強まる場合には、バイパス流路160にもインクが流れるため、吐出モジュール300の圧力を一定に保つことができる。したがって、例えば第2圧力調整手段150における第2連通口191Bは、循環ポンプ500を駆動中の場合であっても、閉状態を維持するような制御圧力で構成してもよい。そして、既定値よりも負圧が強まる場合に、第2圧力調整手段150における第2連通口191Bが開状態となるように、第2圧力調整手段における制御圧力を設定してもよい。つまり、環境変化などの粘度変化によるポンプの流量変化によってもメニスカスが崩壊しないか、または、所定の負圧が維持されるのであれば、循環ポンプ500が駆動している場合に、第2連通口191Bが閉状態であってもよい。
【0109】
次に、バイパス流路160が、供給流路130及び回収流路140の両側から圧力室12にインクを供給するために設けられている例を説明する。循環経路内の圧力変動は、吐出素子15による吐出動作によっても生じうる。吐出動作に伴い、圧力室にインクを引き込む力が生ずるからである。
【0110】
以下、高いデューティの記録を続ける場合に、圧力室12に供給されるインクが、供給流路130側と回収流路140側との両側供給となる点を説明する。デューティは、各種条件によって定義が変わりうる。ここでは一例として、1200dpi×1200dpiの単位領域に1滴当たりの体積が4pLであるインク滴を1滴付与する条件で記録した画像を記録デューティが100%であるとして扱うものとする。高いデューティの記録とは、例えば100%のデューティで記録が行われるものとする。
【0111】
高いデューティの記録を続けると、圧力室12から回収流路140を通じて第2圧力制御室152内に流入するインク量が減る。一方で、循環ポンプ500は一定量でインクの流出を行うため、第2圧力制御室152内での流入と流出とのバランスが崩れ、第2圧力制御室152内のインクが減少し、第2圧力制御室152内の負圧が強くなり、第2圧力制御室152が縮小する。そして、第2圧力制御室152内の負圧が強くなることで、バイパス流路160を介して第2圧力制御室152へ流入するインクの流入量が増え、流出と流入とがバランスした状態で第2圧力制御室152が安定する。このように、結果的に、デューティに応じて第2圧力制御室152内の負圧は強くなっていく。また、上述したように、循環ポンプ500が駆動している場合に、第2連通口191Bが閉状態である構成においては、デューティに応じて第2連通口191Bが開状態となり、バイパス流路160から第2圧力制御室152にインクが流入することになる。
【0112】
そして、さらに高いデューティの記録を続けると、圧力室12から回収流路140を通じて第2圧力制御室152に流入する量が減り、代わりに、バイパス流路160を経由して第2連通口191Bから第2圧力制御室152内に流入する量が増えていく。この状態がさらに進むと、圧力室12から回収流路140を通じて第2圧力制御室152に流入するインク量が、ゼロになり、循環ポンプ500に流出するインクは全て第2連通口191Bから流入するインクとなる。この状態がさらに進むと、今度は第2圧力制御室152から回収流路140を通じて圧力室12にインクが逆流する。この状態では、第2圧力制御室152から循環ポンプ500に流出するインクと圧力室12に流出するインクとが、バイパス流路160を通じて第2連通口191Bから第2圧力制御室152に流入することになる。この場合、圧力室12には、供給流路130のインク及び回収流路140のインクが充填されて、吐出されることになる。
【0113】
この記録デューティが高い場合に生ずるインクの逆流は、バイパス流路160を設けていることで生ずる現象である。また、上記では、インクの逆流に応じて第2圧力調整手段における第2連通口191Bが開状態となる例を説明したが、第2圧力調整手段における第2連通口191Bが開状態となっている状態においてインクの逆流が生ずることもある。また、第2圧力調整手段を設けない構成においても、バイパス流路160を設けていることで、上記のインクの逆流は発生しうるものである。
【0114】
<吐出ユニットの構成>
図11は、本実施形態の吐出ユニット3におけるインク1色分の循環経路を示した模式図である。図11(a)は、吐出ユニット3を第1支持部材4側から見た分解斜視図であり、図11(b)は、吐出ユニット3を吐出モジュール300側から見た分解斜視図である。図中のIN、OUTで示した矢印はインクの流れを示しており、インクの流れは1色分のみ説明するが、他の色も同様の流れである。また、図11では第2支持部材7と電気配線部材5との記載を省略し、以下の吐出ユニットの構成の説明においてもその省略している。また、図11(a)における第1支持部材4については、図3のXI-XIにおける断面を示している。吐出モジュール300は、吐出素子基板340と開口プレート330とを備えている。図12は、開口プレート330を示した図であり、図13は、吐出素子基板340の一例を示した図である。
【0115】
吐出ユニット3には、循環ユニット54からジョイント部材8(図3参照)を介してインクが供給される。インクがジョイント部材8を通過した後から、ジョイント部材8に戻るまでのインクの経路について説明する。以下の図面では、ジョイント部材8の記載を省略する。
【0116】
吐出モジュール300は、シリコン基板310である吐出素子基板340と開口プレート330とを備えており、さらに、吐出口形成部材320を備えている。吐出素子基板340と開口プレート330と吐出口形成部材320とは、各インクの流路が連通するように重なり接合されることで吐出モジュール300となり、第1支持部材4に支持される。
【0117】
吐出モジュール300が第1支持部材4に支持されることで、吐出ユニット3が形成される。吐出素子基板340は、吐出口形成部材320を備えており、吐出口形成部材320は、複数の吐出口13が列を成した複数の吐出口列を備えており、吐出モジュール300内のインク流路を介して供給されたインクの一部を吐出口13から吐出する。吐出されなかったインクは、吐出モジュール300内のインク流路を介して回収される。
【0118】
図11及び図12に示すように、開口プレート330は、複数の配列されたインク供給口311と複数の配列されたインク回収口312とを備えている。図13及び図14に示すように、吐出素子基板340は、複数の配列された供給接続流路323と、複数の配列された回収接続流路324とを備えている。さらに、吐出素子基板340は、複数の供給接続流路323と連通する共通供給流路18と、複数の回収接続流路324と連通する共通回収流路19とを備えている。吐出ユニット3内のインク流路は、第1支持部材4に設けられたインク供給流路48やインク回収流路49(図3参照)と、吐出モジュール300に設けられた流路と、を連通させることで形成されている。支持部材供給口211は、インク供給流路48を形成している断面開口であり、支持部材回収口212は、インク回収流路49を形成している断面開口である。
【0119】
吐出ユニット3に供給されるインクは、循環ユニット54(図3(a)参照)側から第1支持部材4のインク供給流路48(図3(a)参照)に供給される。インク供給流路48内の支持部材供給口211を経て流れたインクは、インク供給流路48(図3(a)参照)と開口プレート330のインク供給口311とを介して吐出素子基板340の共通供給流路18に供給され、供給接続流路323に入る。ここまでが供給側流路となる。その後、インクは、吐出口形成部材320の圧力室12(図3(b)参照)を経て回収側流路の回収接続流路324へと流れる。圧力室12におけるインクの流れの詳細は後述する。
【0120】
回収側流路において、回収接続流路324に入ったインクは、共通回収流路19に流れる。その後、インクは、共通回収流路19から開口プレート330のインク回収口312を介して第1支持部材4のインク回収流路49に流れ、支持部材回収口212を経て、循環ユニット54に回収される。
【0121】
開口プレート330におけるインク供給口311やインク回収口312が無い領域は、第1支持部材4において支持部材供給口211及び支持部材回収口212を仕切るための領域と対応している。また、当該領域は、第1支持部材4も開口を有さない。そのような領域は、吐出モジュール300と第1支持部材4とを接着する場合の接着領域として使用される。
【0122】
図12において開口プレート330は、X方向に配列された複数の開口の列が、Y方向に複数列設けられており、供給用(IN)の開口と回収用(OUT)の開口とが、X方向に半ピッチずれるように、Y方向に交互に配列されている。図13において吐出素子基板340は、Y方向に配列された複数の供給接続流路323と連通する共通供給流路18と、Y方向に配列された複数の回収接続流路324と連通する共通回収流路19と、がX方向に交互に配列されている。共通供給流路18、共通回収流路19はインクの種類ごとに分かれており、さらに、各色の吐出口列の数に応じて共通供給流路18及び共通回収流路19の配置数が決まる。また、供給接続流路323及び回収接続流路324も吐出口13に対応した数だけ配置される。必ずしも1対1対応していなくてもよく、複数の吐出口13に対して一つの供給接続流路323及び回収接続流路324が対応してもよい。
【0123】
このような開口プレート330と、吐出素子基板340とが各インクの流路が連通するように重なり接合されることで吐出モジュール300となり、第1支持部材4に支持されることで、上記のような供給流路と回収流路とを備えたインク流路が形成される。
【0124】
図14(a)から(c)は、吐出ユニット3の異なる部分におけるインク流れを示した断面図である。図14(a)は、図11(a)のXIVa-XIVaで示す断面であり、吐出ユニット3におけるインク供給流路48とインク供給口311とが連通した部分の断面を示している。また、図14(b)は、図11(a)のXIVb-XIVbで示す断面であり、吐出ユニット3におけるインク回収流路49とインク回収口312とが連通した部分の断面を示している。また、図14(c)は、図11(a)のXIVc-XIVcで示す断面であり、インク供給口311とインク回収口312とが第1支持部材4の流路と連通していない部分の断面を示している。
【0125】
インクを供給する供給流路では、図14(a)のように、第1支持部材4のインク供給流路48と開口プレート330のインク供給口311とが重なり連通した部分からインクが供給される。また、インクを回収する回収流路では、図14(b)のように、第1支持部材4のインク回収流路49と開口プレート330のインク回収口312とが重なり連通した部分からインクが回収される。また、図14(c)のように、吐出ユニット3では、部分的に開口プレート330に開口が設けられていない領域もある。そのような領域では、吐出素子基板340と第1支持部材4間でのインクの供給や回収は成されない。図14(a)のようにインク供給口311が設けられた領域でインクの供給が成され、図14(b)のようにインク回収口312が設けられた領域でインクの回収が成される。本実施形態では、開口プレート330を用いた構成を例に説明したが、開口プレート330を用いない形態としてもよい。例えば、インク供給流路48及びインク回収流路49に対応した流路を第1支持部材4に形成し、第1支持部材4に吐出素子基板340を接合する構成であってもよい。
【0126】
図15(a)、(b)は、吐出モジュール300における吐出口13の近傍の一例を示す断面図であり、図16は、共通供給流路18と共通回収流路19とをX方向に広げた構成の吐出モジュールを示した断面図である。図15図16における共通供給流路18、共通回収流路19内に示した太矢印は、シリアル型のインクジェット記録装置50を用いる形態におけるインクの揺動を示すものである。共通供給流路18、供給接続流路323を経て圧力室12に供給されたインクは、吐出素子15が駆動されることで吐出口13から吐出される。吐出素子15が駆動されない場合は、インクは、圧力室12から回収流路である回収接続流路324を経て共通回収流路19へと回収される。
【0127】
シリアル型のインクジェット記録装置50を用いる形態において、このように循環するインクから吐出を行う場合、インクの吐出は、少なからず記録ヘッド1の主走査によるインク流路内におけるインクの揺動の影響を受ける。インクの揺動は、上述の通り沈降を抑制する効果がある一方で、大きな揺動は吐出への影響を及ぼす場合がある。具体的には、インク流路内のインクの揺動の影響は、インクの吐出量の違いや吐出方向のずれとなって現れることがある。図16のように、共通供給流路18と共通回収流路19とが、主走査方向であるX方向に幅広の断面形状を備えている場合、共通供給流路18、共通回収流路19内のインクは、主走査方向に慣性力を受け易くなりインクに大きな揺動が生じる。その結果、インクの揺動が吐出口13からのインクの吐出に影響を及ぼす場合がある。また、共通供給流路18と共通回収流路19とをX方向に広げてしまうと、色同士の距離を広げることとなり、記録効率が落ちる可能性がある。
【0128】
そこで、本実施形態の共通供給流路18及び共通回収流路19は、図15に示す断面において、ともにY方向に延在しているが、主走査方向であるX方向に対して垂直であるZ方向にも延在する構成としている。このような構成とすることで、共通供給流路18及び共通回収流路19の主走査方向における各流路幅を小さくすることができる。共通供給流路18及び共通回収流路19の主走査方向における各流路幅を小さくすることで、主走査中における共通供給流路18及び共通回収流路19内のインクに作用する主走査方向と反対側に働く慣性力(図中黒太矢印)によるインクの揺動を少なくしている。これによって、インクの揺動によるインクの吐出への影響を抑制することができる。また、共通供給流路18及び共通回収流路19をZ方向に延在させることでの断面積を増やし、流路圧損を低減させている。
【0129】
上述の通り、共通供給流路18及び共通回収流路19の主走査方向における各流路幅を小さくすることで、主走査時の共通供給流路18及び共通回収流路19内のインクの揺動が少なくなるように構成されているが、揺動がなくなるわけではない。そこで、少なくなった揺動によってもなお生じうるインク種類ごとの吐出に差が生ずることを抑制すべく、本実施形態では、共通供給流路18と共通回収流路19とは、X方向に対して重なる位置に配置されるよう構成されている。
【0130】
前述した通り本実施形態では、供給接続流路323及び回収接続流路324は吐出口13に対応して設けられ、かつ供給接続流路323と回収接続流路324とは吐出口13を挟んでX方向に並んで配置される対応関係となっている。そのため、共通供給流路18と共通回収流路19とがX方向において重ならない部分があり、X方向における供給接続流路323と回収接続流路324との対応関係が崩れると、圧力室12におけるX方向へのインクの流れや吐出に影響を及ぼす。そこにインクの揺動の影響が加わることで、さらに、吐出口ごとのインクの吐出に影響を及ぼす場合がある。
【0131】
そのため、共通供給流路18と共通回収流路19とをX方向に対して重なる位置に配置することで、吐出口13が配列されるY方向におけるどの位置においても、共通供給流路18と共通回収流路19とにおける主走査時のインク揺動がほぼ同等となる。その結果、圧力室12内で生ずる共通供給流路18側と共通回収流路19側との圧力差が大きくばらつくことはなく、安定した吐出を行うことができる。
【0132】
また、インクを循環させる記録ヘッドでは、記録ヘッドへインクを供給する流路と回収する流路とが同じ流路で構成されているものもあるが、本実施形態においては、共通供給流路18と共通回収流路19とがそれぞれ別流路になっている。そして、供給接続流路323と圧力室12とが連通しており、圧力室12と回収接続流路324とが連通しており、圧力室12の吐出口13からインクが吐出される。つまり供給接続流路323と回収接続流路324とをつなぐ経路である圧力室12が、吐出口13を備えた構成となっている。そのため圧力室12には供給接続流路323側から回収接続流路324側へ流れるインク流れが発生しており、圧力室12内のインクは効率よく循環されている。圧力室12内のインクが効率よく循環されることで、吐出口13からのインクの蒸発による影響を受けやすい圧力室12のインクをフレッシュな状態に保つことができる。
【0133】
また、共通供給流路18及び共通回収流路19の2つ流路が、圧力室12と連通していることで、もし高流量で吐出を行うことが必要になった場合には、両方の流路からインクを供給することも可能となる。つまり、インクの供給と回収とを1流路だけで構成する構成と比べて、本実施形態における構成は、循環を効率的に行えるだけでなく、高流量の吐出にも対応することができるというメリットがある。
【0134】
また、共通供給流路18と共通回収流路19とは、X方向において近い位置に配置された方が、よりインクの揺動による影響が生じにくい。望ましくは、流路間が75μm以上100μm以下で構成されているとよい。
【0135】
図17は、吐出素子基板340の他の例を示した図である。図17では、供給接続流路323と回収接続流路324との記載を省略している。共通回収流路19には、圧力室12で吐出素子15による熱エネルギーを受けたインクが流れ込むため、共通供給流路18内のインクの温度に対して、比較的温度の高いインクが流れる。このとき、図17の一点鎖線で囲んだα部のように、吐出素子基板340のX方向における一部分において、共通回収流路19だけが存在している部分がある。この場合、その部分で局所的に温度が高まり、吐出モジュール300内に温度ムラが生じ、吐出に影響を与える可能性がある。
【0136】
共通供給流路18には、共通回収流路19に対して比較的低い温度のインクが流れている。そのため、共通供給流路18と共通回収流路19とが隣接していると、その近傍では、共通供給流路18と共通回収流路19とで一部の温度が相殺されることから、温度上昇が抑えられる。よって、共通供給流路18と共通回収流路19とは、略同じ長さで互いにX方向において重なり合う位置に存在し、隣接していることが好ましい。
【0137】
図18(a)、(b)は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の3色のインクに対応した記録ヘッド1の流路構成を示した図である。記録ヘッド1には、図18(a)のようにインクの種類ごとに循環経路が設けられている。圧力室12は、記録ヘッド1の主走査方向であるX方向に沿って設けられている。また、図18(b)のように、共通供給流路18と共通回収流路19とは、吐出口13が配列された吐出口列に沿って設けられており、共通供給流路18と共通回収流路19とで吐出口列を挟むようにY方向に延在して設けられている。
【0138】
<本体部と記録ヘッドとの接続>
図19は、本実施形態のインクジェット記録装置50の本体部に設けられたインクタンク2及び外部ポンプ21と記録ヘッド1との接続状態、及び循環ポンプなどの配置をより詳細に示す概略構成図である。本実施形態におけるインクジェット記録装置50は、記録ヘッド1に不具合が発生した際に、記録ヘッド1のみを簡単に交換できるような構成を備える。具体的には、外部ポンプ21に接続されているインク供給チューブ59と記録ヘッド1との接続、離脱を簡単に行いうる液体接続部700を有している。これにより、インクジェット記録装置50に対し記録ヘッド1のみを簡単に着脱することが可能になっている。
【0139】
液体接続部700は、図19に示すように、記録ヘッド1のヘッド筐体53に突設された液体コネクタ挿入口53aと、この液体コネクタ挿入口53aを差し込むことが可能な円筒状の液体コネクタ59aとを有する。液体コネクタ挿入口53aは記録ヘッド1内に形成されたインク供給流路(流入流路)に流体的に接続されており、前述のフィルタ110を介して第1圧力調整手段120に接続されている。また、液体コネクタ59aは、インクタンク2のインクを記録ヘッド1に加圧供給する外部ポンプ21に接続されたインク供給チューブ59の先端に設けられている。
【0140】
上記のように図19に示す記録ヘッド1は、液体接続部700によって、記録ヘッド1の着脱及び交換作業を容易に行うことが可能となっている。但し、液体コネクタ挿入口53aと液体コネクタ59aとのシール性が低下した場合、外部ポンプ21によって加圧供給されたインクが液体接続部700から漏出する場合がある。液漏出したインクが循環ポンプ500などに付着した場合、電気系統に不具合が発生する可能性がある。そこで、本実施形態では、以下のように循環ポンプなどを配置している。
【0141】
<循環ポンプなどの配置>
図19に示すように、本実施形態では、液体接続部700から漏出したインクが循環ポンプ500に付着するのを避けるため、液体接続部700より重力方向上方に循環ポンプ500を配置している。つまり循環ポンプ500を、記録ヘッド1の液体の導入口である液体コネクタ挿入口53aより重力方向における上方に配置している。さらに、循環ポンプ500が、液体接続部700を構成する部材と非接触となる位置に配置されている。これにより、液体接続部700からインクが漏出したとしても、インクは液体コネクタ59aの開口方向である水平方向または重力方向下方に流れていくため、重力方向上方にある循環ポンプ500にインクが到達するのを抑制することができる。また、循環ポンプ500を、液体接続部700から離れた位置に配置されているため、インクが部材を伝って循環ポンプ500に到達する可能性も低減される。
【0142】
また、循環ポンプ500と電気コンタクト基板6とをフレキシブル配線部材514を介して電気的に接続する電気接続部515を、液体接続部700より重力方向上方に設けている。このため、液体接続部700からインクによる電気的なトラブルを起こす可能性を低減することができる。
【0143】
また、本実施形態では、ヘッド筐体53の壁部52bが設けられているため、液体接続部700の開口59bからインクが噴出したとしても、そのインクを遮断し、循環ポンプ500や電気接続部515に到達する可能性を低減することができる。
【0144】
(加熱工程)
本発明の記録方法は、インクが付与された記録媒体を加熱(加熱処理)する工程を有してもよい。インクが付与された記録媒体を加熱することで、乾燥を促進したり、画像の強度を高めたりすることができる。
【0145】
記録媒体を加熱する手段としては、例えば、ヒータなどの公知の加温手段、ドライヤなどの送風を利用した送風手段、及びこれらを組み合わせた手段などの加熱手段を挙げることができる。加熱手段としては、上記の加温手段、送風手段、及びこれらを組み合わせた手段などを挙げることができる。加熱処理の方法としては、例えば、記録媒体の記録面(インクの付与面)とは反対側(裏面)からヒータなどで熱を与える方法、記録媒体の記録面に温風又は熱風を当てる方法、記録面又は裏面から赤外線ヒータを用いて加熱する方法などを挙げることができる。また、これらの複数を組み合わせてもよい。
【0146】
画像の耐擦過性を高めることができるため、インク及び反応液が付与された記録媒体の加熱温度は、50℃以上90℃以下とすることが好ましい。インクが付与された記録媒体の加熱温度は、記録装置の加熱手段に対応する位置に組み込んだセンサにより読み取ってもよいし、インクと記録媒体の種類に応じて定めておいた熱量と記録媒体の温度との関係から判断してもよい。
【0147】
(記録媒体)
本発明の記録方法及び記録装置では、非吸収性の記録媒体(低~非吸収性の記録媒体)を用いることが好ましい。低~非吸収性の記録媒体は、JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法No.51の「紙及び板紙の液体吸収性試験方法」に記載のブリストー(Bristow)法において、接触開始から30msec1/2までの水吸収量が0mL/m以上10mL/m以下の記録媒体である。本発明においては、上記水吸収量の条件を満たす記録媒体を「低~非吸収性の記録媒体」と定義する。無機粒子で形成されたコート層(インク受容層)を有するインクジェット記録用の記録媒体(光沢紙、マット紙など)や、コート層を有しない普通紙は、上記水吸収量が10mL/mを超える「吸収性の記録媒体」である。
【0148】
低~非吸収性の記録媒体としては、プラスチックフィルム;基材の記録面にプラスチックフィルムが接着された記録媒体;セルロースパルプを含有する基材の記録面に樹脂コート層が設けられた記録媒体;などを用いることができる。これらのなかでも、プラスチックフィルムが好ましく、また、セルロースパルプを含有する基材の記録面に樹脂コート層が設けられた記録媒体も好ましい。
【0149】
<インク>
本発明の記録方法に用いるインクは、その体積基準の累積50%粒子径D50(nm)が160nm以上である色材を含有するインクジェット用の水性インクである。以下、インクを構成する各成分などについて詳細に説明する。
【0150】
(色材)
インクは、その体積基準の累積50%粒子径D50(nm)が160nm以上である色材を含有する。インク中の色材の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上25.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上25.0質量%以下であることがさらに好ましく、1.0質量%以上20.0質量%以下であることが特に好ましい。
【0151】
色材の体積基準の累積50%粒子径は、粒子径積算曲線において、測定された粒子の総体積を基準として、小粒子径側から積算して50%となる粒子の直径である。色材の体積基準の累積50%粒子径は、後述する動的光散乱法による粒度分析計を用いて、同様の測定条件で測定することができる。
【0152】
色材の具体例としては、カーボンブラック、酸化チタンなどの無機顔料;アゾ、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、イミダゾロン、ジケトピロロピロール、ジオキサジンなどの有機顔料を挙げることができる。また、色材(染料や顔料)を内包した樹脂粒子や、染着された樹脂粒子を用いてもよい。なかでも、色材が顔料であることが好ましい。
【0153】
顔料の分散方式としては、分散剤として樹脂(樹脂分散剤)を用いた樹脂分散顔料や、顔料の粒子表面に親水性基が結合している自己分散顔料などを用いることができる。また、顔料の粒子表面に樹脂を含む有機基を化学的に結合させた樹脂結合型顔料や、顔料の粒子の表面を樹脂などで被覆したマイクロカプセル顔料などを用いることができる。なかでも、樹脂結合型顔料やマイクロカプセル顔料ではなく、分散剤としての樹脂を顔料の粒子表面に物理吸着させた樹脂分散顔料を用いることが好ましい。すなわち、顔料は、樹脂分散剤の作用によって分散される顔料であることが好ましい。
【0154】
顔料を水性媒体中に分散させるための樹脂分散剤としては、アニオン性基の作用によって顔料を水性媒体中に分散させうるものを用いることが好ましい。樹脂分散剤としては、後述の樹脂、なかでも水溶性樹脂を用いることができる。インク中の顔料の含有量(質量%)は、樹脂分散剤の含有量に対する質量比率で、0.3倍以上10.0倍以下であることが好ましい。
【0155】
自己分散顔料としては、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基などのアニオン性基が、顔料の粒子表面に直接又は他の原子団(-R-)を介して結合しているものを用いることができる。アニオン性基は、酸型及び塩型のいずれであってもよく、塩型である場合は、その一部が解離した状態及び全てが解離した状態のいずれであってもよい。アニオン性基が塩型である場合において、カウンターイオンとなるカチオンとしては、アルカリ金属カチオン、アンモニウム、有機アンモニウムなどを挙げることができる。他の原子団(-R-)の具体例としては、炭素原子数1乃至12の直鎖又は分岐のアルキレン基;フェニレン基やナフチレン基などのアリーレン基;カルボニル基;イミノ基;アミド基;スルホニル基;エステル基;エーテル基などを挙げることができる。また、これらの基を組み合わせた基であってもよい。
【0156】
なかでも、色材としては、酸化チタン(酸化チタン粒子)を用いることが好ましい。色材が酸化チタン粒子である場合、インク中の酸化チタン粒子の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、5.0質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以上15.0質量%以下であることがさらに好ましい。含有量が5.0質量%未満であると、耐擦過性が十分に得られない場合がある。一方、含有量が20.0質量%超であると、往復走査及びインク循環の作用があっても流路内の沈降の抑制を十分に抑制できない場合がある。その結果、吐出安定性が十分に得られない場合がある。
【0157】
酸化チタンなどの無機酸化物は、水性インク中の水性媒体を構成する水分子と反応して、その表面にヒドロキシ基(以下、「表面ヒドロキシ基」と記載することがある)を生ずる。このため、インクジェット用の水性インクにおいては、生成した表面ヒドロキシ基を活用しながら、インクの保存安定性をさらに向上するために、アルミナやシリカなどの無機酸化物で表面処理が施された状態で利用されることが一般的である。酸化チタン粒子の表面ヒドロキシ基は、表面処理に用いた無機化合物に対応した無機酸化物に固有の性質を持ち、無機化合物の種類によって酸としての強さの指標である等電点がそれぞれ異なる。
【0158】
したがって、酸化チタンはそれそのものも無機酸化物ではあるが、酸化チタン粒子の表面は、表面処理に用いた無機化合物に対応した無機酸化物の性質を示し、酸化チタン粒子の表面電荷は、水性媒体のpH、表面処理剤の種類、表面処理剤の使用量に強く依存する。
【0159】
酸化チタンは、白色顔料であり、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型の3つの結晶形が存在する。なかでも、ルチル型の酸化チタンが好ましい。酸化チタンの工業的製造方法としては、硫酸法及び塩素法が挙げられ、本発明で用いる酸化チタンはいずれの製造方法によるものであってもよい。
【0160】
色材として、その体積基準の累積50%粒子径D50(nm)が500nm以下である酸化チタン粒子を用いることが好ましい。粒子径が500nm超であると、往復走査及び循環ユニットの作用でも十分に沈降の抑制ができない場合がある。その結果、吐出安定性が十分に得られない場合がある。また、耐擦過性も十分に得られない場合がある。酸化チタン粒子は、白色顔料として用いられることがあるため、画像の白さを高める観点から、体積基準の累積50%粒子径D50(nm)は、200nm以上400nm以下であることがさらに好ましい。
【0161】
酸化チタンは、無機酸化物や有機物で表面を被覆(表面処理)されていてもよい。なかでも、アルミナ及びシリカで表面処理が施されているものを用いることが好ましい。表面処理により光触媒活性能の抑制や分散性の向上が期待される。本明細書において、「アルミナ」は、酸化アルミニウムのようなアルミニウムの酸化物の総称である。また、本明細書において、「シリカ」は、二酸化ケイ素、又は二酸化ケイ素によって構成される物質の総称である。酸化チタンを被覆するアルミナ及びシリカの大部分は、二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムの形態で存在している。
【0162】
酸化チタン粒子に占める、アルミナ及びシリカの割合、すなわち、アルミナ及びシリカの被覆量を測定する方法としては、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析によるアルミニウム及びケイ素元素の定量分析が挙げられる。この場合、表面に被覆している原子がすべて酸化物になっていると仮定し、得られたアルミニウム及びケイ素の値をその酸化物、つまり、アルミナ及びシリカに換算することで算出できる。
【0163】
酸化チタンの表面処理方法としては、湿式処理、乾式処理などが挙げられる。例えば、酸化チタンを液媒体に分散させた後、アルミン酸ナトリウムやケイ酸ナトリウムなどの表面処理剤と反応させて表面処理を行うことができ、これら表面処理剤の比率を適宜変更することによって所望の特性に調整することもできる。表面処理には、本発明の効果が損なわれない限り、アルミナ及びシリカ以外にも、酸化亜鉛やジルコニアなどの無機酸化物、ポリオールなどの有機物を利用することができる。
【0164】
インクは、酸化チタンに加えて、その他の顔料を含有してもよい。この場合、白インク以外の色のインクとすることもできる。インク中のその他の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上1.0質量%以下であることがさらに好ましい。また、その他の顔料のD50(nm)は、160nm未満であってもよい。
【0165】
(樹脂粒子)
インクは、樹脂粒子を含有することが好ましい。樹脂粒子は、記録媒体上に定着して被膜を形成し、記録媒体と画像の密着性を高めるとともに、画像に耐擦過性などの物理的強度を付与することができる成分である。インク中の樹脂粒子の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましい。インク中の樹脂粒子の含有量(質量%)は、顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.5倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがさらに好ましく、1.7倍以上であることが特に好ましい。また、10.0倍以下であることが好ましい。樹脂粒子は、分散状態、すなわち、樹脂エマルションの形態でインク中に存在する。ここで、樹脂粒子の含有量には、染料で染着された樹脂粒子などの色材としての役割を有するものを含めないものとする。
【0166】
本明細書における「樹脂粒子」とは、インクを構成する水性媒体に溶解しない樹脂をいい、具体的には、動的光散乱法により粒子径を測定可能な粒子を形成した状態で水性媒体中に存在しうる樹脂を意味する。一方、「水溶性樹脂」とは、インクを構成する水性媒体に溶解しうる樹脂をいい、具体的には、動的光散乱法により粒子径を測定可能な粒子を形成しない状態で水性媒体中に存在しうる樹脂を意味する。「樹脂粒子」を「水分散性樹脂(水不溶性樹脂)」と言い換えることもできる。動的光散乱法による樹脂が水溶性樹脂か樹脂粒子かの判断については、詳細は後述する。
【0167】
樹脂粒子を構成する樹脂の構成ユニットとしては、後述する樹脂(水溶性樹脂)を構成するユニットと同様のものから適宜選択して用いることができる。樹脂粒子を構成する樹脂の酸価は、5mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることが好ましい。樹脂粒子を構成する樹脂の重量平均分子量は、1,000以上3,000,000以下であることが好ましく、100,000以上3,000,000以下であることがさらに好ましい。動的光散乱法により測定される樹脂粒子の体積基準の累積50%粒子径(D50)は、50nm以上500nm以下であることが好ましい。樹脂粒子の体積基準の累積50%粒子径は、粒子径積算曲線において、測定された粒子の総体積を基準として、小粒子径側から積算して50%となる粒子の直径である。樹脂粒子の体積基準の累積50%粒子径は、後述する動的光散乱法による粒度分析計を用いて、同様の測定条件で測定することができる。また、ある樹脂が樹脂粒子であるか否かも、動的光散乱法による粒度分析計を用いて、同様の測定条件で測定した際に、粒子径が測定されるか否かで判断することができる。樹脂粒子のガラス転移温度は、40℃以上120℃以下であることが好ましく、50℃以上100℃以下であることがさらに好ましい。樹脂粒子のガラス転移温度(℃)は、示差走査熱量計(DSC)を使用して測定することができる。
【0168】
(樹脂)
インクには、樹脂を含有させることができる。インク中の樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上15.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0169】
樹脂は、(i)顔料の分散状態を安定化させるため、すなわち、樹脂分散剤やその補助としてインクに添加することができる。また、(ii)記録される画像の各種特性を向上させるためにインクに添加することができる。樹脂の形態としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、及びこれらの組み合わせなどを挙げることができる。また、樹脂は、水性媒体に溶解しうる水溶性樹脂であってもよく、水性媒体中に分散する樹脂粒子であってもよい。
【0170】
[樹脂の組成]
樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂などを挙げることができる。なかでも、アクリル系樹脂やウレタン樹脂が好ましく、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリレートに由来するユニットで構成されるアクリル系樹脂がさらに好ましい。
【0171】
アクリル系樹脂としては、親水性ユニット及び疎水性ユニットを構成ユニットとして有するものが好ましい。なかでも、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットと、芳香環を有するモノマー、及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマーからなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する疎水性ユニットと、を有する樹脂が好ましい。特に、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットと、スチレン、及びα-メチルスチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマーに由来する疎水性ユニットとを有する樹脂が好ましい。これらの樹脂は、顔料との相互作用が生じやすいため、顔料を分散させるための樹脂分散剤として好適に利用することができる。
【0172】
親水性ユニットは、アニオン性基などの親水性基を有するユニットである。親水性ユニットは、例えば、親水性基を有する親水性モノマーを重合することで形成することができる。親水性基を有する親水性モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボン酸基を有する酸性モノマー、これらの酸性モノマーの無水物や塩などのアニオン性モノマーなどを挙げることができる。酸性モノマーの塩を構成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、有機アンモニウムなどのイオンを挙げることができる。疎水性ユニットは、アニオン性基などの親水性基を有しないユニットである。疎水性ユニットは、例えば、アニオン性基などの親水性基を有しない、疎水性モノマーを重合することで形成することができる。疎水性モノマーの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、(メタ)アクリル酸ベンジルなどの芳香環を有するモノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸エステル系モノマーなどを挙げることができる。
【0173】
ウレタン系樹脂は、例えば、ポリイソシアネートとポリオールとを反応させて得ることができる。また、鎖延長剤をさらに反応させたものであってもよい。オレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレンなどを挙げることができる。
【0174】
[樹脂の性状]
本明細書において「樹脂が水溶性である」とは、その樹脂を酸価と当量のアルカリで中和した場合に、動的光散乱法により粒子径を測定しうる粒子を形成しない状態で水性媒体中に存在することを意味する。樹脂が水溶性であるか否かについては、以下に示す方法にしたがって判断することができる。まず、酸価相当のアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)により中和された樹脂を含む液体(樹脂固形分:10質量%)を用意する。次いで、用意した液体を純水で10倍(体積基準)に希釈して試料溶液を調製する。
【0175】
そして、試料溶液中の樹脂の粒子径を動的光散乱法により測定した場合に、粒子径を有する粒子が測定されない場合に、その樹脂は水溶性であると判断することができる。この際の測定条件は、例えば、SetZero:30秒、測定回数:3回、測定時間:180秒、とすることができる。また、粒度分布測定装置としては、動的光散乱法による粒度分析計(例えば、商品名「UPA-EX150」、日機装製)などを使用することができる。
【0176】
勿論、使用する粒度分布測定装置や測定条件などは上記に限られるものではない。
【0177】
水溶性樹脂の酸価は、100mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが好ましい。水溶性樹脂の重量平均分子量は、3,000以上15,000以下であることが好ましい。
【0178】
(ワックス粒子)
インクには、ワックスで形成される粒子(ワックス粒子)を含有させることができる。
【0179】
ワックス粒子を含有するインクを用いることで、耐擦過性がさらに向上した画像を記録することができる。ワックスは、ワックス以外の成分が配合された組成物であっても、ワックスそのものであってもよい。ワックス粒子は、界面活性剤や水溶性樹脂などの分散剤によって分散されるものであってもよい。耐擦過性向上の観点から、水性インク中のワックス粒子の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.5質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。含有量が0.5質量%未満であると、記録された画像の全体にワックス粒子がいきわたりづらく、耐擦過性が十分に得られない場合がある。一方で、含有量が5.0質量%超であると、インクに占めるワックス粒子の割合が多くなり、沈降が起こりやすくなる場合がある。その結果、吐出安定性が十分に得られない場合がある。
【0180】
ワックス(蝋)は、狭義には、水に不溶な高級1価又は2価アルコールと、脂肪酸とのエステルであり、動物系ワックス及び植物系ワックスは含まれるが、油脂及び脂肪は含まない。広義には、高融点の脂肪、鉱物系ワックス、石油系ワックス、及び各種ワックスの配合物や変性物が含まれる。本発明の記録方法では、広義のワックスであれば特に制限なく用いることができる。広義のワックスは、天然ワックス、合成ワックス、これらの配合物(配合ワックス)、及びこれらの変性物(変性ワックス)に分類することができる。
【0181】
天然ワックスとしては、蜜蝋、鯨蝋、羊毛蝋(ラノリン)などの動物系ワックス;木蝋、カルナバワックス、サトウキビワックス、パームワックス、キャンデリラワックス、ライスワックスなどの植物系ワックス;モンタンワックスなどの鉱物系ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトローラタムなどの石油系ワックス;を挙げることができる。合成ワックスとしては、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリオレフィンワックス(例:ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス)などの炭化水素系ワックスを挙げることができる。配合ワックスは、上記の各種ワックスの混合物である。変性ワックスは、上記の各種ワックスを、酸化、水素添加、アルコール変性、アクリル変性、ウレタン変性などの変性処理をしたものである。ワックスは、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、及びこれらの変性物や配合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。なかでも、複数種のワックスの配合物であることがさらに好ましく、石油系ワックス及び合成ワックスの配合物であることが特に好ましい。
【0182】
ワックス粒子は、常温(25℃)で固体であることが好ましい。耐擦過性の観点から、ワックス粒子の融点T(℃)は、70℃以上120℃以下であることが好ましく、80℃以上100℃以下であることがさらに好ましい。融点が70℃未満であると、定着工程などの適切なタイミング以外でワックス粒子が液体状になりやすくなり、ワックス粒子による耐擦過性の向上効果が得られづらくなる。その結果、耐擦過性が十分に得られない場合がある。ワックス粒子のワックスの融点は、JIS K2235:1991(石油ワックス)の5.3.1(融点試験方法)に記載の試験法に準拠して測定することができる。
【0183】
マイクロクリスタリンワックス、ペトローラタム、及び複数種のワックスの混合物の場合は、5.3.2に記載の試験法を利用すると、より精度よく測定することができる。ワックスの融点は、分子量(大きいほど高融点)、分子構造(直鎖だと高融点、分岐があると下がる)、結晶性(高いほど高融点)、密度(高いほど高融点)など特性の影響を受けやすい。このため、これらの特性を制御することで、所望の融点を有するワックスとすることができる。
【0184】
ワックス粒子の体積基準の累積50%粒子径D50(nm)は、160nm以上350nm以下であることが好ましい。粒子径が160nm未満であると、ワックス粒子の滑り性付与による耐擦過性の向上効果が十分に得られない場合がある。一方で、粒子径が350nm超であると、ワックス粒子の流路内の沈降の影響も大きくなり、吐出安定性が十分に得られない場合がある。
【0185】
インク中のワックス粒子の含有量(質量%)は、樹脂粒子の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.05倍以上であることが好ましい。質量比率が、0.05倍未満であると、樹脂粒子に対してワックス粒子がかなり少ないため、耐擦過性の向上効果が十分に得られない場合がある。質量比率は、0.50倍以下であることが好ましい。
【0186】
(水性媒体)
インクは、水性媒体として水を含有する水性のインクである。インクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができる。水としては、脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。
【0187】
水溶性有機溶剤としては、水溶性(好ましくは、25℃において水に任意の割合で溶解するもの)であれば特に制限はない。具体的には、1価又は多価のアルコール類、アルキレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素極性化合物類、含硫黄極性化合物類などを用いることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましく、10.0質量%以上40.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0188】
(その他の添加剤)
インクには、上記の添加剤以外に、必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、及びキレート化剤などの種々の添加剤を含有させることができる。なかでも、インクは界面活性剤を含有することが好ましい。インク中の界面活性剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上2.0質量%以下であることがさらに好ましい。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などが挙げられる。なかでも、インクの各種物性の調整に用いるため、少量で効果をもたらすノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0189】
(インクの物性)
インクは、インクジェット方式に適用するインクであるので、その物性を適切に制御することが好ましい。25℃におけるインクの表面張力は、10mN/m以上60mN/m以下であることが好ましく、20mN/m以上40mN/m以下であることがさらに好ましい。インクの表面張力は、インク中の界面活性剤の種類や含有量を適宜決定することで、調整できる。また、25℃におけるインクの粘度は、1.0mPa・s以上10.0mPa・s以下であることが好ましい。25℃におけるインクのpHは、7.0以上9.0以下であることが好ましい。インクのpHはガラス電極などを搭載した一般的なpHメータで測定することができる。
【実施例0190】
以下、実施例、比較例、及び参考例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。また、酸化チタン粒子の分散液を「顔料分散液」と記載する。
【0191】
<物性値の測定方法>
(樹脂が樹脂粒子であるか否かの判断、樹脂粒子、ワックス粒子の体積基準の累積50%粒子径)
樹脂を含む液体をイオン交換水で希釈し、樹脂の含有量が約1.0%である試料を調製した。この試料について、動的光散乱法による粒度分布計を使用し、以下に示す測定条件にしたがって樹脂粒子の体積基準の累積50%粒子径D50を測定した。粒度分布計としては、商品名「ナノトラックWAVEII-Q」(マイクロトラック・ベル製)を使用した。この測定方法によって粒子径を有する粒子が測定された場合、その樹脂は「樹脂粒子」である(「水分散性樹脂」である)と判断した。一方、この測定方法によって粒子径を有する粒子が測定されなかった場合、その樹脂は「樹脂粒子」ではない(「水溶性樹脂」である)と判断した。また、後述する蛍光染料が染着した樹脂粒子についても同様に測定した。ワックス粒子の粒子径を測定する際は、樹脂を含む液体の代わりにワックス粒子を含む液体を用いる以外は、上記と同様の操作を行い、ワックス粒子の体積基準の累積50%粒子径D50を測定した。
【0192】
[測定条件]:
・SetZero:30s
・測定回数:3回
・測定時間:120秒
・形状:真球形
・屈折率:1.6
・密度:1.0
【0193】
(顔料の体積基準の累積50%粒子径)
顔料分散液をイオン交換水で希釈し、顔料の含有量が約0.01%である試料を調製した。この試料について、上記の粒度分布計を使用し、以下に示す測定条件にしたがって顔料の平均粒子径D50(体積基準の累積50%粒子径)を測定した。
【0194】
[測定条件]:
・SetZero:30s
・測定回数:3回
・測定時間:120秒
・形状:非球形
・屈折率:1.5(酸化チタン粒子の場合は、2.6)
・密度:1.0(酸化チタン粒子の場合は、4.0)
【0195】
(酸化チタン粒子の表面処理の確認)
酸化チタン粒子を硝酸に添加した液体を試料として、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光装置によるアルミニウム及びケイ素元素の定量分析を行った。この際、表面に被覆している原子がすべて酸化物になっていると仮定し、得られたアルミニウム及びケイ素の値をその酸化物、つまりアルミナ及びシリカに換算して質量比率を算出した。つまり、アルミニウムやケイ素の値が得られていれば、アルミナやシリカで表面処理が施されていることを意味する。
【0196】
(ワックス粒子の融点)
単一の成分で構成されるワックスの融点T(℃)は、JIS K2235:1991(石油ワックス)の5.3.1(融点試験方法)に記載の試験法に準拠して測定した。複数の成分で構成されるワックス(ワックス混合物)の融点は、JIS K2235:1991の5.3.2に記載の試験法に準拠して測定した。ワックスのヘイズ値は、ポリエチレンテレフタレート製のフィルム上にワックスを付与して形成した厚さ8μmのワックス層を測定対象物とし、JIS K7136:2000に記載の試験法に準拠して、ヘーズメーターを用いて測定した。ヘーズメーターとしては、商品名「NDH2000」(日本電色工業製)を使用した。
【0197】
<色材の準備>
(酸化チタン粒子1)
酸化チタンの表面処理を湿式法により行い、酸化チタン粒子1を製造した。湿式法による表面処理は、未処理の酸化チタンに、表面処理剤(アルミン酸ナトリウムやケイ酸ナトリウムなど)を接触させるもので、表面処理剤の使用量や比率を適宜調整することで、任意の比率に表面処理を施した。
【0198】
具体的には、表面処理が施されていない、ルチル型の酸化チタン(商品名「TITANIX JR」、テイカ製、D50:270nm)300部、及び、純水700部をホモジナイザーで混合した。そして、撹拌しながら90℃に昇温し、水酸化カリウム(pH調整剤)を添加して、pHを10.5に調整した。次に、ケイ酸ナトリウムを添加して、希硫酸(pH調整剤)を約1時間かけて添加することで、pHを5.0に調整した。約1時間反応を継続させた。その後、90℃で、アルミン酸ナトリウムを少量ずつ添加した。この際、pHを維持するために、希硫酸を併用してpHを6.0以上8.0以下に維持した。
【0199】
アルミン酸ナトリウムの添加後、約1時間反応を継続し、分散液を得た。分散液を25℃まで冷却した後、遠心分離機による沈降と、イオン交換水への再分散を繰り返すことで精製し、120℃で乾燥させることで、アルミナ及びシリカで表面処理が施された酸化チタン粒子1を得た。
【0200】
<顔料分散液の調製>
(顔料分散液1、4~6)
酸化チタン粒子1 40.0部、3-(メトキシ(ポリオキシエチレン)9-12)プロピルトリメトキシシラン1.2部、及び成分の合計が100.0部となるイオン交換水を混合し、ホモジナイザーを用いて予備分散を行った。その後、0.5mmジルコニアビーズを用いて25℃、ペイントシェーカーで分散処理を行った。ジルコニアビーズをろ別し、必要に応じてイオン交換水を適量加え、酸化チタン粒子の含有量が40.0%である各分散液を調製した。ここで、分散処理の時間は、後述する表2~4の体積基準の累積50%粒子径となるように適宜調整した。
【0201】
(顔料分散液2、7)
酸価200mgKOH/g、重量平均分子量10,000のスチレン-アクリル酸共重合体(樹脂1)を用意した。樹脂1 20.0部を、その酸価と等モルの水酸化カリウムで中和するとともに、適量の純水を加え、樹脂(固形分)の含有量が20.0%である樹脂1の水溶液を調製した。顔料(C.I.ピグメントイエロー74)10.0部、樹脂分散剤(樹脂1)15.0部、及びイオン交換水75.0部を混合して混合物を得た。得られた混合物及び0.3mm径のジルコニアビーズ200部をバッチ式の縦型サンドミル(アイメックス製)に入れ、水冷しながら分散処理を行った。顔料の平均粒子径が160nmになるまで分散処理を行った。遠心分離して粗大粒子を除去した後、ポアサイズ3.0μmのセルロースアセテートフィルタ(アドバンテック製)にて加圧ろ過して、顔料の含有量が10.0%、樹脂分散剤(樹脂1)の含有量が3.0%の各顔料分散液を調製した。ここで、分散処理の時間は、後述する表2~4の体積基準の累積50%粒子径となるように適宜調整した。
【0202】
(顔料分散液3)
顔料分散液3は、色材として、蛍光染料が染着した樹脂粒子を用いた。その調製方法を以下に示す。ここで、顔料分散液3中の色材は染料が染着した樹脂粒子であるので、顔料ではないが、便宜上、顔料分散液と記載する。
【0203】
撹拌装置を取り付けた反応容器を温水槽にセットした。反応容器中に水1,178部を入れ、内温を70℃に保持した。芳香族基含有ユニットとなるモノマーとしてスチレン47.5部、シアノ基含有ユニットとなるモノマーとしてアクリロニトリル50.0部、及び反応性界面活性剤ユニットとなる反応性界面活性剤として、商品名「アデカリアソープSR-10」(ADEKA製、エーテルサルフェート型、アニオン性界面活性剤)2.5部を混合した。これにより、コア部用のモノマー混合液を調製した。また、過硫酸カリウム1.9部及びイオン交換水659.0部を混合して重合開始剤の水溶液を調製した。コア部用のモノマー混合液及び重合開始剤の水溶液1を、60分かけながら並行して反応容器内に滴下した。滴下終了後、撹拌を継続してさらに30分間反応させて、樹脂粒子のコア部となる粒子を合成した。
【0204】
次いで、芳香族基含有ユニットとなるモノマーとしてスチレン19.0部、アニオン性基含有ユニットとなるモノマーとしてメタクリル酸15.0部、架橋剤ユニットとなる架橋剤としてエチレングリコールジメタクリレート40.0部、エチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名「デナコールEX-810」、ナガセケムテックス製)25.0部、及び反応性界面活性剤ユニットとなる上記の反応性界面活性剤1.0部を混合して、シェル部用のモノマー混合液を調製した。また、過硫酸カリウム0.1部及びイオン交換水133.0部を混合して重合開始剤の水溶液2を調製した。コア部となる粒子が入った反応容器内に、シェル部用のモノマー混合液及び重合開始剤の水溶液2を10分かけながら並行して滴下した。滴下終了後、80℃で10分間撹拌して反応を継続させてシェル部を合成し、コア部となる粒子がシェル部となる樹脂で被覆された、コアシェル構造を有する樹脂粒子を合成した。
【0205】
その後、8mol/L水酸化カリウム水溶液の適量を反応容器内に添加し、液体のpH8.5に調整した。さらに、蛍光染料としてC.I.ベーシックレッド1 18.2部、C.I.ベーシックバイオレット11 5.8部を添加し、80℃に昇温した。その後、2時間撹拌し、樹脂粒子に蛍光染料を染着させた。次いで、8mol/L水酸化カリウム水溶液の適量を反応容器内に添加し、液体のpHを8.5に調整した。適量のイオン交換水をさらに添加して、染着された樹脂粒子の含有量が20.0%である顔料分散液3を得た。得られた樹脂粒子のD50(nm)は、200nmであった。
【0206】
(顔料分散液8)
メタクリル酸ブチル81.6部、及びメタクリル酸18.4部を常法により重合して、水溶性のアクリル樹脂を合成した。酸価と等モルの水酸化カリウムを含むイオン交換水を添加して酸基を中和した後、適量のイオン交換水をさらに添加して、樹脂の含有量が40.0%である水溶性樹脂の水溶液を得た。この水溶性樹脂の酸価は、120.0mgKOH/gであった。3-(メトキシ(ポリオキシエチレン)9-12)プロピルトリメトキシシラン1.2部を、上記で得られた水溶性樹脂の水溶液20.0部に変更したこと以外は、顔料分散液1~3、5と同様の手順で、酸化チタン粒子の含有量が40.0%、樹脂(水溶性樹脂)の含有量が8.0%である顔料分散液8を調製した。
【0207】
<ワックス粒子の水分散液の調製>
(ワックス粒子1~9の水分散液)
表1に示す各成分を混合するとともに、温度及び圧力を適宜調整しワックスを分散させた。適量の純水を添加して希釈し、ワックス及び分散剤の合計含有量が30.0%であるワックス粒子1~9の水分散液をそれぞれ得た。分散剤としては、商品名「Rhodafac RS 710」(Rhodia Novecare製)に、適量のイオン交換水を添加して分散剤の含有量が40.0%である分散剤の水溶液を用いた。得られた水分散液中のワックス粒子の特性を表1に示す。また、表1中のワックスの詳細を以下に示す。
・ワックス1:フィッシャー・トロプシュワックス(融点:90℃)
・ワックス2:パラフィンワックス(融点:90℃)
・ワックス3:ポリエチレンワックス(融点:90℃)
・ワックス4:フィッシャー・トロプシュワックス(融点:70℃)
・ワックス5:フィッシャー・トロプシュワックス(融点:80℃)
【0208】
【表1】
【0209】
<樹脂粒子の製造>
(樹脂粒子1)
撹拌機、還流冷却装置、及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、イオン交換水74.0部、及び過硫酸カリウム0.2部を入れ、窒素ガスを導入した。モノマーとしてBMA(メタクリル酸ブチル)98.5部、MAA(メタクリル酸)1.5部、及び乳化剤(商品名「NIKKOL BC15」、日光ケミカルズ製)0.3部を混合し、混合物を得た。得られた混合物を、四つ口フラスコに撹拌下で1時間かけて滴下した後、温度80℃で2時間反応させた。内容物を25℃まで冷却した後、樹脂の酸価と等モルの中和剤、及び適量のイオン交換水を加え、樹脂粒子の含有量が40.0%であり、樹脂粒子の体積基準の累積50%粒子径が100nmである樹脂粒子1の水分散液を得た。
【0210】
(樹脂粒子2)
撹拌機、温度調節器、分水器、及び窒素ガス導入管を備えた容量1リットルの4つ口フラスコに、アジピン酸112.5部(0.77モル)及びキシレン16.9部を添加し、50℃に加温した。次いで、ダイマージアミン308部(0.62モル)を徐々に加え、150℃で60分間撹拌した。その後、175℃まで緩やかに加温して、150分間脱水反応を行い、ポリアミド系樹脂を得た。上記で得られたポリアミド系樹脂20部、ポリオキシエチレン-2-エチルヘキシルエーテル5部、及びプロピレングリコールモノメチルエーテル15部を混合した後、120℃まで加温し、成分を溶解させた。その後、N,N’-ジメチルエタノールアミン2部を添加して混合した。この混合物を、40℃に加温した高純水203部を入れた容量500ミリリットルの4つ口フラスコに徐々に添加した。次いで、40℃で10分間撹拌し、さらに、80℃の恒温槽内に24時間静置して、樹脂粒子の含有量が10.0%である樹脂粒子2の水分散液を得た。
【0211】
<インクの調製>
表2~表4の上段に示す種類及び量の各成分を混合し、撹拌した。その後、ポアサイズ5.0μmのメンブレンフィルタ(ザルトリウス製)にて加圧ろ過を行い、各インクを調製した。アセチレノールE60(商品名)は、川研ファインケミカル製のノニオン性界面活性剤である。また、ポリウレタン系樹脂としては、商品名「ハイドランAPX-101H」(DIC製)を使用した。
【0212】
【表2】
【0213】
【表3】
【0214】
【表4】
【0215】
<評価>
上記で得られた各インクについて、以下の各項目の評価を行った。調製した各インクを、それぞれ表5の左側に示す記録ヘッドを有するインクジェット記録装置のインクタンクに充填した。表5中、記録ヘッドの欄に「1」と記載した例は、図1に示す主要部を有するインクジェット記録装置(吐出口列の配列方向に交差する方向に前記記録ヘッドが往復走査するもの)のインク収容部にインクを充填した。
【0216】
記録ヘッドの欄に「2」と記載した例は、図20に示すラインヘッド800を、吐出口列が記録媒体の搬送方向と交差するように組み込んだインクジェット記録装置のインク収容部にインクを充填した。記録媒体Pに記録を行う際に、ラインヘッド800は記録媒体Pに対して相対移動しない。
【0217】
記録ヘッドの欄に「3」と記載した例は、吐出素子の間で連通してその内部にインクが流通する供給流路を備えるが、回収流路を有しない記録ヘッドのインク収容部にインクを充填した。ここで、図20は、ライン状の記録ヘッドの斜視図であり、吐出口列が配置された吐出素子基板810を直線状に配列したラインヘッドである。
【0218】
上記の構成を有するインクジェット記録装置を利用して、表5の左側に示す条件で、インクの記録デューティが120%である10cm×10cmのベタ画像を記録した。記録環境は、温度25℃、相対湿度50%とした。ベタ画像の記録の際には、インクを付与した後の記録媒体の表面を80℃になるように加熱し、定着させたうえで、下記の耐擦過性の評価を行った。本実施例では、1/1,200インチ×1/1,200インチの単位領域に4.0pLのインクを1滴付与する条件で記録した画像を、記録デューティが100%であると定義する。比較例2においては、図5に示す循環ポンプ500を作動させずに画像の記録を行った。比較例3においては、特開2017-101232号公報を想定し、記録ヘッド「2」を用いて前述の画像パターンを記録し評価を行った。本発明においては、以下に示す各項目の評価基準で、「A」及び「B」を許容できるレベルとし、「C」を許容できないレベルとした。評価結果を表5に示す。
【0219】
用いた記録媒体を、以下に示す。
・記録媒体1:商品名「スコッチカル グラフィックフィルム IJ1220N」、3M製、材質=ポリ塩化ビニル、ブリストー法における接触開始から30msec1/2までの水の吸収量=0mL/m以上10mL/m以下
・記録媒体2:商品名「再生色画用紙(フレッシュカラー)C-57 くま(こいくろ)」、大王製紙製、サイズ:ワイドロール、ブリストー法における接触開始から30msec1/2までの水の吸収量=10mL/m
【0220】
(吐出安定性)
まず、各吐出口からインクを吐出し、各吐出口ごとに、長さ5mmの罫線を記録した。
【0221】
その後、各吐出口からインクを1.0×10回連続で吐出した後、上記と同様の罫線を再度記録した。連続吐出前後の罫線を目視で確認し、以下に示す評価基準にしたがってインクの吐出安定性を評価した。
A:連続吐出前後で罫線に違いが見られなかった。
B:連続吐出後の罫線にヨレが確認されたが、不吐出が生じた吐出口はなかった。
C:連続吐出後の罫線にヨレが確認され、不吐出が生じた吐出口もあった。
【0222】
(耐擦過性)
JIS L0849に準拠した摩擦試験機II(学振型)である耐摩耗試験機(テスター産業製)を使用し、JIS L0803で規定される摩擦用白布(綿)を用いて、記録した画像の表面を荷重250gで5回往復する摩擦試験を行った。摩擦試験後の画像を目視で確認し、以下に示す評価基準にしたがって画像の耐擦過性を評価した。
A:5回往復後の画像に擦過痕が認められなかった。
B:5回往復後の画像に擦過痕が認められたが、記録媒体の白地は見えなかった。
C:5回往復後の画像に擦過痕が認められ、記録媒体の白地が見えていた。
【0223】
【表5】
【0224】
実施例6及び実施例7の吐出安定性の評価結果は、実施例1と同じ「A」であったが、実施例1の方が優れていた。また、実施例20の耐擦過性の評価結果は、実施例21、25、29、及び32と同じ「B」であったが、実施例20の方が劣っていた。そして、実施例31の耐擦過性の評価結果は、実施例20と同じ「B」であったが、実施例31の方が劣っていた。
【0225】
なお、本実施形態の開示は、以下の方法及び構成を含む。
【0226】
(方法1)
水性インクを吐出するための複数の吐出口、
前記吐出口と連通する圧力室、及び、
前記圧力室に配置され、かつ、前記複数の吐出口から水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子を有する吐出ユニット、並びに、
前記吐出ユニットの前記圧力室に前記水性インクを供給するための供給流路、及び、
前記吐出ユニットの前記圧力室から前記水性インクを回収するための回収流路を有する循環ユニットを備える記録ヘッドを、前記記録媒体の搬送方向と交差する方向に往復走査しながら、前記水性インクを前記複数の吐出口から吐出して記録媒体の単位領域に複数回の前記往復走査で画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記水性インクが、その体積基準の累積50%粒子径D50(nm)が160nm以上である色材を含有することを特徴とするインクジェット記録方法。
【0227】
(方法2)
前記往復走査における前記記録ヘッドの移動速度(インチ/s)が、25インチ/s以上である方法1に記載のインクジェット記録方法。
【0228】
(方法3)
循環経路における前記水性インクの流速(mm/s)が、10mm/s以上30mm/s以下である方法1又は2に記載のインクジェット記録方法。
【0229】
(方法4)
前記色材が、その体積基準の累積50%粒子径D50(nm)が500nm以下である酸化チタン粒子である方法1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【0230】
(方法5)
前記水性インク中の前記酸化チタン粒子の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、5.0質量%以上20.0質量%以下である方法4に記載のインクジェット記録方法。
【0231】
(方法6)
前記水性インクがさらに、体積基準の累積50%粒子径D50(nm)が160nm以上350nm以下であるワックス粒子を含有する方法1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【0232】
(方法7)
前記水性インク中の前記ワックス粒子の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.5質量%以上5.0質量%以下である方法6に記載のインクジェット記録方法。
【0233】
(方法8)
前記ワックス粒子の融点T(℃)が、70℃以上である方法6又は7に記載のインクジェット記録方法。
【0234】
(方法9)
前記水性インクがさらに、樹脂粒子を含有するとともに、
前記ワックス粒子の含有量(質量%)が、前記樹脂粒子の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.05倍以上である方法6乃至8のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【0235】
(方法10)
前記循環ユニットが、前記供給流路の圧力を調整する第1圧力調整手段を有し、
前記第1圧力調整手段が、第1バルブ室、第1圧力制御室、並びに、前記第1バルブ室及び前記第1圧力制御室を連通させる第1開口を有し、
前記第1バルブ室が、前記第1圧力制御室の圧力変化に応じて、前記第1開口を開閉させる第1バルブを備える方法1乃至9のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【0236】
(方法11)
前記循環ユニットがさらに、前記回収流路の圧力を調整する第2圧力調整手段を有し、
前記第2圧力調整手段が、第2バルブ室、第2圧力制御室、並びに、前記第2バルブ室及び前記第2圧力制御室を連通させる第2開口を有し、
前記第2バルブ室が、前記第2圧力制御室の圧力変化に応じて、前記第2開口を開閉させる第2バルブを備える方法10に記載のインクジェット記録方法。
【0237】
(方法12)
前記記録ヘッドがさらに、前記回収流路の前記水性インクを前記供給流路に流入させる循環ポンプを有する方法1乃至11のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【0238】
(方法13)
前記記録媒体が、ブリストー法において接触開始から30msec1/2までの水の吸収量が、10mL/m以下である方法1乃至12のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
【0239】
(構成1)
水性インクを吐出するための複数の吐出口、
前記吐出口と連通する圧力室、及び、
前記圧力室に配置され、かつ、前記複数の吐出口から水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子を有する吐出ユニット、並びに、
前記吐出ユニットの前記圧力室に前記水性インクを供給するための供給流路、及び、
前記吐出ユニットの前記圧力室から前記水性インクを回収するための回収流路を有する循環ユニットを備える記録ヘッドを、前記記録媒体の搬送方向と交差する方向に往復走査しながら、前記水性インクを前記複数の吐出口から吐出して記録媒体の単位領域に複数回の前記往復走査で画像を記録するために用いるインクジェット記録装置であって、
前記水性インクが、その体積基準の累積50%粒子径D50(nm)が160nm以上である色材を含有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【0240】
(構成2)
水性インクを吐出するための複数の吐出口、
前記吐出口と連通する圧力室、及び、
前記圧力室に配置され、かつ、前記複数の吐出口から水性インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子を有する吐出ユニット、並びに、
前記吐出ユニットの前記圧力室に前記水性インクを供給するための供給流路、及び、
前記吐出ユニットの前記圧力室から前記水性インクを回収するための回収流路を有する循環ユニットを備える記録ヘッドを、前記記録媒体の搬送方向と交差する方向に往復走査しながら、前記水性インクを前記複数の吐出口から吐出して記録媒体の単位領域に複数回の前記往復走査で画像を記録するインクジェット記録方法に用いられる、水性インクであって、
前記水性インクが、その体積基準の累積50%粒子径D50(nm)が160nm以上である色材を含有することを特徴とする水性インク。
【符号の説明】
【0241】
1 記録ヘッド
12 圧力室
15 吐出素子
120 第1圧力調整手段
130 供給流路
140 回収流路
160 バイパス流路
500 循環ポンプ
800 吐出素子基板
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