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特開2024-178123インクジェット記録方法、インクジェット記録装置、及び水性インク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178123
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法、インクジェット記録装置、及び水性インク
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20241217BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241217BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20241217BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41J2/01 501
C09D11/322
B41M5/00 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024087313
(22)【出願日】2024-05-29
(31)【優先権主張番号】P 2023096387
(32)【優先日】2023-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】荒木 和彦
(72)【発明者】
【氏名】西野 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】政田 愛子
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FA10
2C056FC01
2C056KB16
2H186BA08
2H186DA12
2H186FA16
2H186FA18
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB21
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB55
2H186FB58
4J039AD09
4J039BA21
4J039BD02
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE19
4J039BE22
4J039BE28
4J039BE30
4J039CA03
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】循環シリアルヘッドを用いて連続して画像記録した場合の吐出安定性と発色性に優れたインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】複数の吐出口と、吐出素子と、吐出口と吐出素子の間で連通してその内部にインクが流通する第1流路及び第2流路と、を具備する記録ヘッドからインクを吐出して画像を記録するインクジェット記録方法である。この方法は、吐出口からインクを吐出する吐出工程と、吐出工程とは別の、第1流路内のインクを第2流路へと流動させる流動工程と、を有する。記録ヘッドが、複数の吐出口が所定の方向に配列した吐出口列を有するとともに、吐出口列の配列方向と交差する方向に走査するシリアル方式である。第1流路及び第2流路は、記録ヘッドが走査する方向と平行に配置され、かつ、インクの流動方向が同一である。インクが、顔料及び球状粒子を含有する水性インクである。球状粒子は、短径b/長径aの比が0.7以上である。顔料と球状粒子の真比重差が0.2g/cm以上であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する複数の吐出口と、前記インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子と、前記吐出口と前記吐出素子の間で連通してその内部に前記インクが流通する第1流路及び第2流路と、を具備する記録ヘッドから前記インクを吐出して画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記吐出口から前記インクを吐出する吐出工程と、
前記吐出工程とは別の、前記第1流路内の前記インクを前記第2流路へと流動させる流動工程と、を有し、
前記記録ヘッドが、前記複数の吐出口が所定の方向に配列した吐出口列を有する吐出素子基板を備えるとともに、前記吐出口列の配列方向と交差する方向に走査するシリアル方式の記録ヘッドであり、
前記第1流路及び前記第2流路は、前記記録ヘッドが走査する方向と平行に配置され、かつ、前記インクの流動方向が同一であり、
前記インクが、顔料及び球状粒子を含有する水性インクであり、
前記球状粒子は、短径b/長径aの比が0.7以上であり、
前記顔料と前記球状粒子の真比重差が0.2g/cm以上であることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項2】
前記球状粒子が、樹脂粒子を含む請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項3】
前記樹脂粒子の真比重が、1.3g/cm以下である請求項2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項4】
前記樹脂粒子のコロイド滴定により求められる表面電荷密度(μeq/m)が、1.0μeq/m以上である請求項2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項5】
前記樹脂粒子の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径が、10nm以上250nm以下である請求項2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
前記樹脂粒子のガラス転移温度Tg(℃)が、50℃以上である請求項2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】
前記記録ヘッド内の前記インクを加温する工程をさらに有し、前記樹脂粒子のガラス転移温度Tgが、加温された前記インクの温度より高い請求項2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記インク中の前記樹脂粒子のアニオン性基が、カルボン酸基及びスルホン酸基を有する請求項2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
前記インク中の前記顔料の体積Dと前記樹脂粒子の体積Dの体積比D/Dが、0.4倍以上2.0倍以下である請求項2に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
前記球状粒子が、コロイダルシリカを含む請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項11】
前記コロイダルシリカの真比重が、2.1g/cm以上である請求項10に記載のインクジェット記録方法。
【請求項12】
前記コロイダルシリカの体積基準の粒度分布の累積50%粒子径が、10nm以上80nm以下である請求項10に記載のインクジェット記録方法。
【請求項13】
前記顔料の体積Dと前記コロイダルシリカの体積Dの体積比D/Dが、0.6倍以上4.0倍以下である請求項10に記載のインクジェット記録方法。
【請求項14】
前記顔料のコロイド滴定により求められる表面電荷密度(μeq/m)が、1.0μeq/m以上である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項15】
前記インク中の前記顔料のアニオン性基がカルボン酸基であり、前記カルボン酸基の対イオンがアルカリ金属イオンを含む請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項16】
前記インクが、温度25℃での比誘電率が20.0以上の第1水溶性有機溶剤を含有し、
前記インク中の前記第1水溶性有機溶剤の含有量(質量%)が、前記インク中の前記顔料及び前記球状粒子の合計含有量(質量%)に対する質量比率で、0.5倍以上である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項17】
前記記録ヘッド内の前記インクを加温する工程をさらに有する請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項18】
前記インクが付与された記録媒体を加熱する工程を有しない請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項19】
前記インクの前記流動の際の流速が、1.0mm/s以上100.0mm/s以下である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項20】
前記記録ヘッドの前記走査の際の移動速度が、70インチ/秒以下である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
【請求項21】
インクを吐出する複数の吐出口と、前記インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子と、前記吐出口と前記吐出素子の間で連通してその内部に前記インクが流通する第1流路及び第2流路と、を具備する記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置であって、
さらに、前記吐出素子とは別の、前記第1流路内の前記インクを前記第2流路へと流動させる流動手段を備え、
前記記録ヘッドが、前記複数の吐出口が所定の方向に配列した吐出口列を有する吐出素子基板を備えるとともに、前記吐出口列の配列方向と交差する方向に走査するシリアル方式の記録ヘッドであり、
前記第1流路及び前記第2流路は、前記記録ヘッドが走査する方向と平行に配置され、かつ、前記インクの流動方向が同一であり、
前記インクが、顔料及び球状粒子を含有する水性インクであり、
前記球状粒子は、短径b/長径aの比が0.7以上であり、
前記顔料と前記球状粒子の真比重差が0.2g/cm以上であることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項22】
インクを吐出する複数の吐出口と、前記インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子と、前記吐出口と前記吐出素子の間で連通してその内部に前記インクが流通する第1流路及び第2流路と、を具備する記録ヘッドから前記インクを吐出して画像を記録するインクジェット記録方法に用いられる水性インクであって、
前記インクジェット記録方法が、前記吐出口から前記インクを吐出する吐出工程と、前記吐出工程とは別の、前記第1流路内の前記インクを前記第2流路へと流動させる流動工程と、を有し、
前記記録ヘッドが、前記複数の吐出口が所定の方向に配列した吐出口列を有する吐出素子基板を備えるとともに、前記吐出口列の配列方向と交差する方向に走査するシリアル方式の記録ヘッドであり、
前記第1流路及び前記第2流路は、前記記録ヘッドが走査する方向と平行に配置され、かつ、前記インクの流動方向が同一であり、
前記水性インクが、顔料及び球状粒子を含有し、
前記球状粒子は、短径b/長径aの比が0.7以上であり、
前記顔料と前記球状粒子の真比重差が0.2g/cm以上であることを特徴とする水性インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法、インクジェット記録装置、及び水性インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法によれば、写真や文書などの画像を様々な記録媒体に記録することが可能である。また、写真画質の画像を光沢紙に記録するのに適したインクや、文書などを普通紙に記録するのに適したインクなど、用途に応じた種々のインクが提案されている。
【0003】
近年、文字や図表を含むビジネス文章を普通紙などの記録媒体に記録する場合にインクジェット記録方法が利用されており、このような用途への利用頻度が格段に増加している。そして、従来よりも高速に文書を記録可能であることが求められている。また、インクジェット記録装置に対しては、設置場所の制約などから、小型化への強いニーズもある。
【0004】
インクジェット記録装置の記録ヘッドの方式としては、シリアル方式とライン方式の2種類があるが、小型化の観点ではシリアル方式の記録ヘッド(シリアルヘッド)が有利である。シリアルヘッドを用いて記録速度を向上させるためには、記録ヘッドの走査速度を高速化することが必要となる。また、記録ヘッドの走査の間に行う回復処理の一種である、いわゆる予備吐出動作の頻度を減らすことや、複数のインクを記録ヘッドと記録媒体の1回の相対走査で単位領域に付与する1パス記録を行うことなどが必要となる。
【0005】
予備吐出動作の頻度を減らしつつ、インクの吐出安定性を向上させる方法として、例えば、吐出動作を一定時間休止した後でも液体中の固形分が吐出口の周縁付近に滞留することを抑制できる液体吐出ヘッドが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-124608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、記録速度の高速化と記録装置の小型化の両立を目的とし、特許文献1で提案された、吐出口近傍でインクを流動させる機構を採用したシリアル方式の記録ヘッド(循環シリアルヘッド)を用いて1パスで画像を記録することについて検討した。その結果、吐出動作を一定時間休止した後でもインクの吐出特性が向上し、記録ヘッドの走査の間に行う予備吐出動作の頻度を減らすことができた。
【0008】
しかし、循環シリアルヘッドを用いて検討を行ったところ、ある特定の走査条件と特定組成のインクの組み合わせにおいて、連続して画像記録した場合の吐出安定性に新たな課題が生ずることを見出した。
【0009】
したがって、本発明の目的は、循環シリアルヘッドを用いて連続して画像記録した場合の吐出安定性と発色性に優れたインクジェット記録方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、このインクジェット記録方法に用いるインクジェット記録装置及び水性インクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明によれば、インクを吐出する複数の吐出口と、前記インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子と、前記吐出口と前記吐出素子の間で連通してその内部に前記インクが流通する第1流路及び第2流路と、を具備する記録ヘッドから前記インクを吐出して画像を記録するインクジェット記録方法であって、前記吐出口から前記インクを吐出する吐出工程と、前記吐出工程とは別の、前記第1流路内の前記インクを前記第2流路へと流動させる流動工程と、を有し、前記記録ヘッドが、前記複数の吐出口が所定の方向に配列した吐出口列を有する吐出素子基板を備えるとともに、前記吐出口列の配列方向と交差する方向に走査するシリアル方式の記録ヘッドであり、前記第1流路及び前記第2流路は、前記記録ヘッドが走査する方向と平行に配置され、かつ、前記インクの流動方向が同一であり、前記インクが、顔料及び球状粒子を含有する水性インクであり、前記球状粒子は、短径b/長径aの比が0.7以上であり、前記顔料と前記球状粒子の真比重差が0.2g/cm以上であることを特徴とするインクジェット記録方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、循環シリアルヘッドを用いて連続して画像記録した場合の吐出安定性と発色性に優れたインクジェット記録方法を提供することができる。また、本発明によれば、このインクジェット記録方法に用いるインクジェット記録装置及び水性インクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】記録ヘッドの吐出口付近の状態を示す模式図である。
図2】インクジェット記録装置の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
図3】インクジェット記録装置の内部構成を示す概略図である。
図4】記録ヘッドにおける吐出口列の配置例とインクの循環流方向例を示す模式図である。
図5】記録ヘッドの走査時における記録ヘッド内のインクの状態を説明する模式図である。
図6】吐出素子基板の断面を示す斜視図である。
図7】インクの供給系を示す模式図である。
図8】吐出口近傍におけるインクの流動状態を説明する模式図である。
図9】記録ヘッドの一例を部分的に示す断面図である。
図10】実施例で記録した画像のパターンを説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、さらに本発明を詳細に説明する。本発明においては、化合物が塩である場合は、インク中では塩はイオンに解離して存在しているが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。また、インクジェット用の水性インクのことを、単に「インク」と記載することがある。第1流路及び第2流路を、まとめて「流路」と記載することがある。物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。
【0014】
<インクジェット記録方法、インクジェット記録装置>
本発明のインクジェット記録装置は、インクを吐出する複数の吐出口と、インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子と、吐出口と吐出素子の間で連通してその内部にインクが流通する第1流路及び第2流路と、を具備する記録ヘッドを備える。この記録ヘッドは、複数の吐出口が所定の方向に配列した吐出口列を有する吐出素子基板を備えるとともに、吐出口列の配列方向と交差する方向に走査するシリアル方式の記録ヘッド(シリアルヘッド)である。記録ヘッドにおける第1流路及び第2流路は、記録ヘッドが走査する方向と平行に配置され、かつ、インクの流動方向が同一である。さらに、本発明のインクジェット記録装置は、吐出素子とは別の、第1流路内のインクを第2流路へと流動させる流動手段を備える。また、本発明のインクジェット記録方法は、例えば、上記のインクジェット記録装置を使用し、上記の記録ヘッドからインクを吐出して画像を記録する方法である。すなわち、本発明のインクジェット記録方法は、吐出口からインクを吐出する吐出工程と、吐出工程とは別の、第1流路内のインクを第2流路へと流動させる流動工程と、を有する。また、本発明のインクは、上記のインクジェット記録方法に用いられる、顔料及び球状粒子を含有する水性インクである。
【0015】
図1は、記録ヘッドの吐出口付近の状態を示す模式図である。図1に示す記録ヘッドは、インクを吐出する吐出口1と、インクを吐出するためのエネルギーを発生する吐出素子4と、吐出口1と吐出素子4の間で連通してその内部にインクが流通する第1流路17及び第2流路18と、を備える。記録ヘッドにおける吐出素子基板の説明で後述するが、吐出口1は吐出口形成部材5に形成され、吐出素子4は基板3に配設されている。インクは、吐出口1と吐出素子4の間を通って、第1流路17から第2流路18(図1中の矢印の方向)へと流動している。インクが流動していないと、吐出口1におけるインクのメニスカス12からの水の蒸発が進行し、これに伴って吐出口1と吐出素子4の間に存在するインクが徐々に増粘する。このため、吐出休止時間が長い場合、次の吐出動作の際に、インクの流体抵抗が増大して吐出しづらくなる場合がある。これに対して、図1中の矢印の方向へとインクが流動していると、メニスカス12から水が蒸発しても、循環流により吐出口1と吐出素子4の間にインクが次々と供給されるので、インクの増粘が抑制され、吐出しづらい状態を生じにくくすることができる。
【0016】
本発明者らは、図1に示すような循環流を生じさせるシリアル方式の記録ヘッド(循環シリアルヘッド)にインクを搭載し、吐出口からインクを吐出させて画像を記録した。その結果、吐出動作を一定時間休止した後でもインクの吐出安定性が向上し、記録ヘッドの走査の間に行う予備吐出動作の頻度を減らすことができた。しかし、ある特定の走査条件と特定の組成を持つインクの組み合わせにおいて、連続して画像記録した場合、例えば、記録した罫線に乱れが発生して、吐出安定性が低下することがあるといった新たな課題が生ずることを見出した。吐出安定性が低下する理由について詳細に調べたところ、以下のような現象が生じていることが判明した。
【0017】
循環シリアルヘッドを搭載したインクジェット記録装置について説明する。図2はインクジェット記録装置1000の一実施形態を模式的に示す斜視図である。給送ユニット200は、複数の記録媒体を積載可能であり、不図示の給送ローラによって記録媒体を給送する。本実施形態の記録媒体P(図3参照)は、所定サイズにカットされたカット紙を例に説明するが、これに限らず、ロール紙に対して記録する形態にも採用可能である。
【0018】
給送ユニット200により給送された記録媒体は、不図示の搬送ローラを含む搬送ユニットによって、Y方向(搬送方向)に向けて搬送され、インクを吐出する吐出ユニット(記録ヘッド)300(図3(b)参照)と対向する記録位置へと移動する。キャリッジ100は吐出ユニット(記録ヘッド)300を搭載し、キャリッジモータ400の駆動により、タイミングベルト600を介してガイドシャフト700に沿ってY方向と交差するX方向(主走査方向)に往復走査する。
【0019】
キャリッジ100のX方向への移動と吐出ユニット(記録ヘッド)300によるインクの吐出動作によって単位領域分の画像が記録されると、記録媒体は搬送ユニットによりY方向に搬送される。単位領域としては、吐出ユニット300においてY方向に沿って配置された吐出口列の配列幅と、吐出ユニット300のX方向の1回の移動とで記録可能な「1バンド」や、記録ヘッドの解像度に対応した「1」画素など、任意に設定することができる。シリアル方式では、1バンド分のインクの吐出動作と間欠的な搬送動作を繰り返す記録動作によって、記録媒体の全体にわたって画像を記録可能である。本実施形態においてX方向とY方向は直交する。
【0020】
また、吐出ユニット(記録ヘッド)300と対向する位置であって、吐出ユニット(記録ヘッド)300により記録が行われる記録領域には、記録媒体を垂直方向の下方から支持するプラテン500が配されている。プラテン500によって、記録媒体の記録面と、インクを吐出する吐出口が配列された吐出ユニット(記録ヘッド)300の吐出口面2(図3)と、が所定距離に保たれる。
【0021】
図3は、本発明のインクジェット記録装置1000の一実施形態の内部構成を示す概略図である。図3(a)は記録装置1000を上から見たときの上面模式図であり、図3(b)は記録装置1000を前面から見たときの模式的な側面図である。キャリッジ100は、吐出ユニット(記録ヘッド)300へ供給されるインクを収容するインクカートリッジを着脱可能に搭載している。複数のインクカートリッジ111、112、113、114は、それぞれ吐出口列21、22、23、24(図4参照)に対応し、それぞれの吐出口列にインクを供給する。例えば、シアン、マゼンタ、イエロー、及びブラック(CMYK)の各インクに対応する吐出口列及びインクカートリッジが設けられる。
【0022】
また、キャリッジ100の移動領域内であって、記録媒体Pが通過する領域(記録領域)の外側には、吐出ユニット(記録ヘッド)300の吐出口面2をキャッピングするためのキャップ302が配されている。吐出ユニット(記録ヘッド)300の吐出口面2がキャップ302と対向するキャリッジ100(吐出ユニット〔記録ヘッド〕300)の位置を、ホームポジション301とも称する。キャップ302は、不図示の吸引手段と接続されており、吐出口面2をキャッピングした状態で吸引手段を駆動することで、吐出ユニット(記録ヘッド)300からインクが吸引される。
【0023】
図4は、吐出ユニット(記録ヘッド)300における吐出口列の配置例とインクの流動方向である循環流方向例を示す模式図である。図4図3(b)に示されている吐出ユニット(記録ヘッド)300を記録媒体P側から見た状態を示している。図4に示すように、吐出ユニット(記録ヘッド)300は、4列の吐出口列21、22、23、24を有する吐出素子基板10を備え、吐出口列21~24の配列方向と交差するX方向に走査するシリアル方式の記録ヘッドである。また、4列の吐出口列21~24の循環流方向はすべて右から左の同一方向であり、X方向(走査方向)と平行である。吐出ユニット(記録ヘッド)300は左から右の往方向と、右から左の復方向の往復移動を行うため、復方向の際は走査方向と循環流方向が同一方向となり、往方向の際は逆方向となる。
【0024】
次に、記録される画像の吐出安定性の低下が発生した箇所と発生理由について説明する。本発明者らは、上述したインクジェット記録装置を使用し、記録媒体に吐出口列24を用いて1パス記録で罫線を記録した。その結果、罫線を記録すると、記録ヘッドのX方向の往方向と復方向で吐出量がばらつく場合があった。本発明者らは、記録媒体に記録した罫線を詳細に観察した。その結果、吐出量がばらつく要因は、往方向記録において、吐出口24から吐出されたインクドットが、復方向記録において吐出口24から吐出されたインクドットより小さいことにあることが判明した。このような現象が発生した理由について、本発明者らは以下のように推測している。
【0025】
図5は、記録ヘッドの走査時における記録ヘッドにおいて、吐出口列24から吐出されるインクの状態を説明する模式図である。図5(a)は記録ヘッドが往方向に走査したときの吐出口列24の吐出口から吐出されるインク状態を説明する模式図である。図5(b)は記録ヘッドが復方向に走査したときの吐出口列24の吐出口から吐出されるインクの状態を説明する模式図である。
【0026】
図5(a)に示すように、記録ヘッドの走査方向とインクの循環流方向とが逆行している場合、吐出口列24における吐出口1において、メニスカスのインクと記録ヘッド近傍よりも相対的に湿度が低い装置本体内の空気との接触時間が長くなる。そのため、吐出口列24におけるメニスカスからインクの水の蒸発が著しく進み、インクの循環流による増粘抑制効果が低下してしまう場合がある。
【0027】
一方、図5(b)に示すように、記録媒体の走査方向とインクの循環流方向が同じ場合は、メニスカスのインクと記録ヘッド近傍よりも相対的に湿度が低い装置本体内の空気との接触時間が短くなる。そのため、メニスカスからのインクの水の蒸発は抑えられ、インクの循環流による増粘抑制効果が維持される。その結果、往方向で吐出口列24から吐出されるインクは、復方向で吐出口列24から吐出されるインクと比べて、インク滴の吐出量が小さくなりやすい。以上のように、往方向記録と復方向記録において、吐出量のばらつきが生じてしまうことにより、罫線の乱れが発生してしまうと考えられる。
【0028】
本発明者らは、上述した往復記録の吐出量のばらつきを抑制する手法について検討した。具体的には、記録ヘッドが往復走査する場合に有効な、インクの増粘抑制手段について検討した。その結果、顔料と球状粒子を含有し、球状粒子の短径b/長径aの比が0.7以上であり、顔料と球状粒子の真比重差が0.2g/cm以上であるインクを用いることによって、吐出量のばらつきが抑制でき、吐出安定性を向上することができることを見出した。このような効果が得られる理由について、本発明者らは以下のように推測している。
【0029】
インクが、短径b/長径aの比(すなわち、アスペクト比)が0.7以上である球状粒子を含有することで、粒子の表面積が小さくなって、粒子間の電荷反発が起こりやすいため、吐出口近傍での水の蒸発に伴うインク増粘が抑制される。また、顔料と球状粒子の真比重差が0.2g/cm以上であることで、インクの循環流及び記録ヘッドのシリアル走査に伴う循環経路内のインクの撹拌作用が高まり、インクの増粘が抑制されやすくなる。これらにより、上述のような吐出量のばらつきが生じにくく、吐出安定性が向上すると考えられる。
【0030】
図6は、吐出素子基板の断面を示す斜視図である。図6に示すように、吐出素子基板10は、吐出口1が形成された吐出口形成部材5と、吐出素子(不図示)が配設された基板3とを備える。吐出口形成部材5と基板3が積層されることで、インクが流動する第1流路17及び第2流路18が形成される。第1流路17は、流入路6中のインクが流入する流入口8から、吐出口1と吐出素子の間の部分(図7、液室213)までの領域である。また、第2流路18は、吐出口1と吐出素子との間の部分(図7、液室213)から、流出路7へとインクが流出する流出口9までの領域である。例えば、圧力の高い流入口8と圧力の低い流出口9といったように、流入口8と流出口9との間に圧力差を持たせれば、圧力の高い方から低い方へ(図6中の矢印の方向へ)とインクを流動させることができる。流入路6及び流入口8を通ったインクは、第1流路17内に入る。そして、吐出口1と吐出素子との間の部分(図7、液室213)を通ったインクは、第2流路18及び流出口9を通って、流出路7へと流れる。
【0031】
第1流路内のインクを第2流路へと流動させる流動工程は、吐出口からインクを吐出する吐出工程とは別の工程(異なる工程)である。また、流動工程における第1流路から第2流路へのインクの流動は、吐出口と吐出素子の間へのインクの充填とは別に行うことが好ましい。流動工程は、吐出口からインクを排出することなく、第1流路内のインクを第2流路へと流動させる工程であることが好ましい。吐出口からのインクの排出には、予備吐出や吸引などの回復動作が含まれる。記録ヘッドの回復動作の際には、第1流路から第2流路へのインクの流動は停止させてもよい。さらに、流動工程では、吐出素子とは別の流動手段によって、第1流路から第2流路へとインクを流動させることが好ましい。
【0032】
以下、熱エネルギーを発生する吐出素子を利用し、気泡を発生させてインクを吐出するサーマル方式の記録ヘッドを例に挙げて、本発明のインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置のさらなる詳細について説明する。但し、ピエゾ方式の記録ヘッドや、その他の吐出方式が採用された記録ヘッドであっても、本発明のインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に適用することができる。ここでは、インク収容部と記録ヘッドの間でインクを循環させる形態を例に挙げて説明するが、それ以外の形態であってもよい。例えば、記録ヘッドの上流側と下流側に2つのインク収容部を設け、一方のインク収容部から他方のインク収容部へとインクを流動させる形態であってもよい。さらに、CMYKの4色のインクを吐出可能な吐出口列が4列配置された吐出素子基板を組み込んだ記録ヘッドを例に挙げて説明するが、1種以上のインクを吐出可能な吐出口列がある記録ヘッドを用いることもできる。本発明では、サーマル方式でインクを吐出する記録ヘッドを用いることが特に好ましい。
【0033】
流動工程では、インクを連続的に流動させる又は間欠的に流動させることが好ましい。以下、インクを連続的に流動させる方法、及びインクを間欠的に流動させる方法の詳細について説明する。まず、図7を参照しつつ、インクを連続的に流動させる方法について説明する。図7は、インクの供給系を示す模式図である。図7に示す吐出ユニット(記録ヘッド)300は、第1循環ポンプ(高圧側)1001、第1循環ポンプ(低圧側)1002、サブタンク1003、及び第2循環ポンプ1004などに接続されている。説明を簡略化するために、図7では1色のインクが流動する経路のみを示しているが、実際にはCMYKの4色分の流動経路が吐出ユニット(記録ヘッド)300にそれぞれ設けられている。
【0034】
インク収容部であるメインタンク1006に接続されるサブタンク1003は、大気連通口(不図示)を有しており、インクに混入した気泡を外部に排出することが可能である。サブタンク1003は、補充ポンプ1005にも接続される。画像の記録や吸引回復など、吐出口からインクを吐出(排出)することにより、吐出ユニット(記録ヘッド)300でインクが消費される。補充ポンプ1005は、消費された量に対応する量のインクをメインタンク1006からサブタンク1003へと移送する。
【0035】
第1循環ポンプ(高圧側)1001及び第1循環ポンプ(低圧側)1002は、接続部1110から流出させた吐出ユニット(記録ヘッド)300内のインクを、サブタンク1003へと流す。第1循環ポンプ(高圧側)1001及び第1循環ポンプ(低圧側)1002としては、定量的な送液能力を有する容積型ポンプを用いることが好ましい。このような容積型ポンプの具体例としては、チューブポンプ、ギアポンプ、ダイヤフラムポンプ、シリンジポンプなどを挙げることができる。吐出ユニット300の駆動時には、第1循環ポンプ(高圧側)1001及び第1循環ポンプ(低圧側)1002によって、共通流入路211及び共通流出路212内にインクを流動させることができる。
【0036】
負圧制御ユニット230は、相互に異なる制御圧が設定された2つの圧力調整機構を備える。圧力調整機構(高圧側)H及び圧力調整機構(低圧側)Lは、それぞれ、インクから異物を取り除くフィルタ221を設けた供給ユニット220を経由して、吐出ユニット300内の共通流入路211及び共通流出路212に接続されている。
【0037】
供給ユニット220と吐出ユニット(記録ヘッド)300はインク供給経路であるインク供給チューブ(不図示)によって接続される。吐出ユニット(記録ヘッド)300はインクジェット記録装置内を往復走査するため、インク供給チューブは往復走査に耐えうる柔軟性を持つ樹脂材料で形成されている。
【0038】
吐出ユニット300には、共通流入路211、共通流出路212、並びに吐出口1及び吐出素子(不図示)との間の部分である液室213と連通する流入路6及び流出路7が設けられている。流入路6及び流出路7は、共通流入路211及び共通流出路212と連通しているため、共通流入路211から液室213内部を通過して共通流出路212へとインクの一部が流れる流れ(図7中の矢印)が発生する。図6中の矢印は液室213内部におけるインクの流れを示す。すなわち、図6に示すように、第1流路17内のインクは、吐出口1と吐出素子の間を経由して第2流路18へと流動する。
【0039】
図7に示すように、共通流入路211には圧力調整機構Hが接続されているとともに、共通流出路212には圧力調整機構Lが接続されているため、流入路6と流出路7の間には圧力差が生ずる。これにより、流入路6と連通する流入口8(図6)と、流出路7と連通する流出口9(図6)との間にも、圧力差が生じている。流入口と流出口の圧力差によりインクを流動させる場合、インクの流動の際の流速(mm/s)は、1.0mm/s以上100.0mm/s以下に制御することが好ましい。インクの流速が1.0mm/s以上である場合、インクの循環流による増粘抑制効果が奏されやすく、吐出安定性がさらに向上しやすい。一方、インクの流速が100.0mms/s以下である場合、吐出口からの水の蒸発量を抑えやすく、吐出安定性がさらに向上しやすい。
【0040】
本発明のインクジェット記録方法では、記録ヘッドの回復動作中にも、第1流路内のインクを第2流路へと流動させてもよい。記録ヘッドの回復動作中にインクが流動すると、定常的にインクが流動することになる。定常的にインクが流動すると水が蒸発しやすくなり、循環するインクの濃度が上昇しやすくなる。インクの濃度上昇を抑制すべく、一定時間の経過によりインクに水を加える機構をインクジェット記録装置に設けることが好ましい。さらに、インクの濃度を検出する検出器をインクジェット記録装置に配設し、検知したインクの濃度上昇と連動させてインクに水を加えることが好ましい。
【0041】
図8は、吐出口近傍におけるインクの流動状態を説明する模式図である。吐出口近傍におけるインクの流動状態は2種類に大別される。1つ目は、図8(a)に示すような、吐出口1のメニスカス12の近傍に循環流が生じない流動状態である。2つ目は、図8(b)に示すような、吐出口1のメニスカス12の近傍に循環流が生ずる流動状態である。流路内のインクの流速が同等であっても、メニスカス12の近傍におけるインクの流動状態は一定にならない場合がある。インクがいずれの流動状態になるのかは、流路内のインクの流速よりも、吐出口形成部材5の厚さ(c)、流路(第1流路17及び第2流路18)の高さ(d)、及び吐出口1の直径(e)に依存すると考えられる。例えば、流路の高さ(d)と吐出口1の直径(e)が同等である場合、吐出口形成部材5の厚さ(c)が大きいと、図8(b)に示すようにメニスカス12の近傍に循環流が生じやすくなる。
【0042】
次いで、図9を参照しつつ、インクを間欠的に流動させる方法について説明する。図9は、記録ヘッドの一例を部分的に示す断面図である。図9に示すように、流入口210から流入したインクは、インクの流動手段である循環ポンプ206の作用によって矢印の方向へと流動し、流出口214から流出する。また、循環ポンプ206は、インクを間欠的に流動させることができるポンプである。このため、循環ポンプ206を駆動させることで、吐出口1と吐出素子4の間にインクを間欠的に流動させることができる。
【0043】
本発明のインクジェット記録装置は、記録ヘッド内のインクの温度を調整する手段を備えていることが好ましい。また、本発明のインクジェット記録方法は、記録ヘッド内のインクを加温する工程をさらに有していてもよい。記録ヘッド内のインクの温度は、例えば、記録ヘッドの温度を制御する手段によって調整することができる。記録ヘッドの温度を制御する手段としては、例えば、記録ヘッドに直接接触させて設けられる温度調整用のヒータや、インク吐出用のヒータなどを挙げることができる。インク吐出用のヒータによって記録ヘッドの温度を制御(加熱又は加温)するには、例えば、インクが吐出しない程度の電流を繰り返し通電すればよい。記録ヘッド及び記録ヘッド内のインクの温度は、例えば、記録ヘッドに設けた温度センサーで読み取ることができる。記録ヘッド内のインクの温度は40℃以上60℃以下の範囲に調整されることが好ましい。
【0044】
インクを加温した場合、温度上昇に伴いインクの粘度が低下しやすい。この場合も、顔料と、短径b/長径aの比が0.7以上である球状粒子とを含有し、顔料と球状粒子の真比重差が0.2g/cm以上であるインクを用いることで、吐出安定性を向上することができる。
【0045】
本発明のインクジェット記録方法においては、画像を記録する際の記録ヘッドの走査速度、すなわち、記録ヘッドの走査の際の移動速度を、記録速度の高速化の観点で好ましくは30インチ/秒以上、さらに好ましくは35インチ/秒以上とすることができる。また、記録ヘッドの走査の際の移動速度は70インチ/秒以下とすることが好ましい。記録ヘッドの走査の際の移動速度が70インチ/秒以下であることにより、吐出口からの水の蒸発量を抑えやすく、インクの往方向記録の際の水の蒸発量を抑えやすい。その結果、吐出安定性をより向上しやすくなる。
【0046】
本発明のインクジェット記録方法に用いる記録ヘッドにおいて、吐出素子基板には吐出口列が複数列設けられていてもよく、隣接する吐出口列間の距離を1.8mm以下とすることができる。吐出口列間の距離が短いと、吐出口列近傍の湿度が上がりやすい。吐出口列間の距離を1.8mm以下とした場合でも、顔料と、短径b/長径aの比が0.7以上である球状粒子とを含有し、顔料と球状粒子の真比重差が0.2g/cm以上であるインクを用いることで、吐出安定性を向上することができる。吐出口列間の距離は、0.1mm以上とすることが好ましく、0.5mm以上とすることがさらに好ましい。
【0047】
本発明のインクジェット記録方法は、上記のインクジェット記録装置を使用して画像を記録する工程(記録工程)を有する。記録工程では、具体的には、記録ヘッドの吐出口から吐出したインクを記録媒体に付与して画像を記録する。画像を記録する対象の記録媒体としては、どのようなものを用いてもよい。なかでも、普通紙や非コート紙などのコート層を有しない記録媒体、及び、光沢紙やアート紙などのコート層を有する記録媒体のような、浸透性を有する紙を用いることが好ましい。
【0048】
本発明のインクジェット記録方法は、記録工程によってインクが付与された記録媒体を加熱する工程(加熱工程)を有しなくてもよい。インクが付与された記録媒体を加熱すると、その加熱工程に伴い、装置本体内の温度が上昇し、記録ヘッドのメニスカスからの水の蒸発が進みやすいと考えられる。温度上昇による影響を低減することで、吐出安定性を向上しやすいように、上記加熱工程を行わなくてもよい。
【0049】
<インク>
本発明のインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置では、インクを使用し、記録ヘッドの吐出口から吐出したインクを記録媒体に付与して画像を記録する工程を有する。本発明のインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置で用いるインクは、顔料及び球状粒子を含有する水性インクである。このインクは、球状粒子の短径b/長径aの比が0.7以上であること、及び顔料と球状粒子の真比重差が0.2g/cm以上であることを満たせばよい。インクは、活性エネルギー線硬化型である必要はないので、重合性基を有するモノマーなどを含有させる必要もない。以下、インクを構成する各成分やインクの物性について詳細に説明する。
【0050】
(色材)
インクは、色材として顔料を含有する。インク中の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましい。顔料の真比重は、1.0g/cm以上3.0g/cm以下であることが好ましい。顔料や球状粒子の真比重は、JISZ8807:2012 固体の密度及び比重の測定方法に基づき、ゲーリュサック型比重瓶を用いる方法(ピクノメータ法)などを利用して測定することができる。
【0051】
顔料の具体例としては、カーボンブラック、酸化チタンなどの無機顔料;アゾ、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、イミダゾロン、ジケトピロロピロール、ジオキサジンなどの有機顔料を挙げることができる。なかでも、カーボンブラックや有機顔料が好ましい。
【0052】
顔料の分散方式としては、分散剤として樹脂を用いた樹脂分散顔料や、顔料の粒子表面に親水性基が結合している自己分散顔料などを用いることができる。また、顔料の粒子表面に樹脂を含む有機基を化学的に結合させた樹脂結合型顔料や、顔料の粒子表面を樹脂などで被覆したマイクロカプセル顔料などを用いることができる。これらのなかでも、自己分散顔料やアニオン性樹脂により分散される樹脂分散顔料などのアニオン性基を有する顔料が好ましい。なかでも、吐出性の観点から、樹脂分散顔料がより好ましい。
【0053】
顔料を水性媒体中に分散させるための樹脂分散剤としては、アニオン性基の作用によって顔料を水性媒体中に分散させうるものを用いることが好ましい。樹脂分散剤としては、後述するような樹脂、なかでも水溶性樹脂を用いることができる。インク中の顔料の含有量(質量%)は、樹脂分散剤の含有量に対する質量比率で、0.3倍以上10.0倍以下であることが好ましい。
【0054】
自己分散顔料としては、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基などのアニオン性基が、顔料の粒子表面に直接又は他の原子団(-R-)を介して結合しているものを用いることができる。アニオン性基は、酸型及び塩型のいずれであってもよく、塩型である場合は、その一部が解離した状態及び全てが解離した状態のいずれであってもよい。アニオン性基が塩型である場合において、カウンターイオンとなるカチオンとしては、アルカリ金属カチオン、アンモニウム、有機アンモニウムなどを挙げることができる。他の原子団(-R-)の具体例としては、炭素原子数1乃至12の直鎖又は分岐のアルキレン基;フェニレン基やナフチレン基などのアリーレン基;カルボニル基;イミノ基;アミド基;スルホニル基;エステル基;エーテル基などを挙げることができる。また、これらの基を組み合わせた基であってもよい。
【0055】
負に帯電した顔料の単位面積当たりのアニオン量、すなわち表面電荷密度は、コロイド滴定により測定した表面電荷量から算出することができる。後述する実施例では、流動電位滴定ユニット(PCD-500)を搭載した電位差自動滴定装置(商品名「AT-510」、京都電子工業製)を使用し、電位差を利用したコロイド滴定によって荷電粒子のアニオン表面電荷量を測定し、表面電荷密度を算出した。より具体的には、顔料分散液を純水で約300倍(質量基準)に希釈した後、必要に応じて水酸化カリウムでpHを約10に調整し、5mmol/Lのメチルグリコールキトサンを滴定試薬として用いて電位差滴定を行った。インクから適切な方法により抽出した顔料を用いて表面電荷量を測定することも勿論可能である。
【0056】
負に帯電した顔料のコロイド滴定により求められる表面電荷密度(μeq/m)は、1.0μeq/m以上であることが好ましい。負に大きく帯電した顔料、すなわち、表面電荷密度の高い顔料を用いる程、顔料と球状粒子とが電気的に反発しやすく、インクの循環流及び記録ヘッドのシリアル走査に伴う循環経路内のインクの撹拌作用が高まるため、吐出安定性をさらに向上することができる。負に帯電した顔料のコロイド滴定により求められる表面電荷密度(μeq/m)は、10.0μeq/m以下であることが好ましい。
【0057】
吐出安定性のさらなる向上の観点から、インク中の顔料のアニオン性基は、カルボン酸基であり、前記カルボン酸基の対イオンがアルカリ金属イオンを含むことが好ましい。アルカリ金属イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及びリチウムイオンなどを挙げることができる。インク中の顔料のアニオン性基がカルボン酸基であると、記録媒体にインクが付着した後に速やかに凝集するため、画像の発色性を特に向上することができる。インク中の顔料のアニオン性基がカルボン酸基であり、その対イオンがアルカリ金属カチオンである場合、インク中の顔料の電気二重層が厚くなることで、さらに上述した効果が高まり、吐出安定性をさらに向上することができると推測される。インク中の顔料のアニオン性基は、例えば、樹脂分散顔料の場合には、樹脂分散剤のアニオン性基であり、自己分散顔料の場合には、顔料の粒子表面に直接又は他の原子団を介して結合しているアニオン性基である。
【0058】
(球状粒子)
インクは、顔料などの色材とは別に、球状粒子を含有する。球状粒子は、一次粒子が球形に近いことが重要である。トナーなどの分野で汎用の球形度測定法は、本発明において用いるような、インクジェット用の水性インクに適した粒子径が小さい球状粒子に適用するのは困難である。したがって、本発明においては、一次粒子が略球形であることを表す指標として、一次粒子の短径b/長径aの比を用いる。
【0059】
一次粒子の短径b/長径aの比を求めるためには、まず、上記の一次粒子の粒子径を測定する場合と同様にして、一次粒子の長径aと短径bを測定する。具体的には、球状粒子分散液やインクを純水により適宜希釈した後、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して、球状粒子を撮影する。そして、球状粒子を形成する最小単位の粒子の重心を通る最長径を長径a、及び最短径を短径bとする。このようにして測定した長径a及び短径bから、短径b/長径aの比を算出する。そして、30個以上の一次粒子についての短径b/長径aの比の平均値を、その一次粒子の短径b/長径aの比とする。後述する実施例においては、走査型電子顕微鏡(商品名「S-4800」、日立ハイテク製)を使用して上記の方法により、球状粒子の短径b/長径aの比を求めた。
【0060】
球状粒子における一次粒子の短径b/長径aの比は、0.7以上であることを要し、0.8以上であることが好ましく、0.9以上であることがさらに好ましい。また、短径b/長径aの比は、理論上1.0以下である。なお、上記のようにして測定される、一次粒子の粒子径や短径b/長径aの比は、球状粒子そのものについて測定される値である。また、インク中で分散されている状態の球状粒子が1個の一次粒子である場合は、その粒子が一次粒子となる。
【0061】
一次粒子が球形に近いということは、粒子の表面積が小さく、粒子間の電荷反発が起こりやすいため、吐出口近傍での水の蒸発に伴うインク増粘が抑制される。なかでも、吐出安定性のさらなる向上の観点から、アニオン性基を有する樹脂粒子や負に帯電したコロイダルシリカが好ましい。負に大きく帯電した球状粒子、すなわち、表面電荷密度の高い球状粒子を用いる程、粒子の電気泳動速度が速くなり、インクの循環流及び記録ヘッドのシリアル走査に伴う循環経路内のインクの撹拌作用が高まるため、吐出安定性をさらに向上することができる。
【0062】
(樹脂粒子)
球状粒子として樹脂粒子を用いることができる。樹脂粒子は、色材を内包する必要はない。樹脂粒子の単位面積当たりのアニオン量、すなわち表面電荷密度は、コロイド滴定により測定した表面電荷量から算出することができる。後述する実施例では、流動電位滴定ユニット(PCD-500)を搭載した電位差自動滴定装置(商品名「AT-510」、京都電子工業製)を使用し、電位差を利用したコロイド滴定によって樹脂粒子のアニオン表面電荷量を測定し、表面電荷密度を算出した。より具体的には、樹脂粒子分散液を純水で約300倍(質量基準)に希釈した後、必要に応じて水酸化カリウムでpHを約10に調整し、5mmol/Lのメチルグリコールキトサンを滴定試薬として用いて電位差滴定を行った。インクから適切な方法により抽出した樹脂粒子を用いて表面電荷量を測定することも勿論可能である。負に大きく帯電した球状粒子、すなわち、表面電荷密度の高い球状粒子を用いる程、粒子の電気泳動速度が速くなり、インクの循環流及び記録ヘッドのシリアル走査に伴う循環経路内のインクの撹拌作用が高まるため、吐出安定性をさらに向上することができる。このため、樹脂粒子のコロイド滴定により求められる表面電荷密度(μeq/m)は、1.0μeq/m以上であることが好ましい。また、樹脂粒子のコロイド滴定により求められる表面電荷密度(μeq/m)は、10.0μeq/m以下であることが好ましい。
【0063】
球状粒子として樹脂粒子を用いる場合、樹脂粒子の真比重は1.4g/cm以下であることが好ましく、1.3g/cm以下であることがより好ましい。真比重が1.3g/cm以下である樹脂粒子を用いる場合、顔料と球状粒子の真比重差を0.2g/cm以上とするために、真比重が1.4g/cm以上、好適には1.5g/cm以上である顔料を用いることができる。このような相対的に軽い樹脂粒子と相対的に重い顔料との組み合わせにより、インクの循環流及び記録ヘッドのシリアル走査に伴う循環経路内のインクの撹拌作用が高まり、インク増粘が抑制されやすくなり、吐出安定性をさらに向上することができる。樹脂粒子の真比重は1.0g/cm以上であることが好ましい。
【0064】
球状粒子として樹脂粒子を用いる場合、樹脂粒子の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径(以下、「D50」と記載することがある。)は、8nm以上270nm以下であることが好ましく、10nm以上250nm以下であることがより好ましい。樹脂粒子のD50が10nm以上であることにより、上述したインクの撹拌作用が高まりやすくなるとともに、樹脂粒子によって発色性を向上する効果が高まりやすくなる。発色性が向上する理由は以下のように考えられる。顔料インクで記録した画像は、記録媒体の表面上に顔料が存在した状態となる。顔料からの反射光が散乱し、顔料の本来の色味とは異なって見える、いわゆるブロンズ現象(現象)が発生すると、画像を形成する顔料層の本来の実力に比して光学濃度の測定値が低くなりやすい。したがって、ブロンズ現象を低減すれば発色性をさらに向上することができる。樹脂粒子のD50が10nm以上であることにより、画像を形成する顔料層が厚くなりやすいとともに、顔料層を形成する顔料が緻密になりすぎないため、ブロンズ現象が抑制されて、発色性を向上する効果が高まりやすくなる。また、樹脂粒子のD50が250nm以下であることにより、上述したインクの撹拌作用が高まりやすくなるとともに、反射光の散乱が適度に抑制されて、発色性を維持しやすくなる。樹脂粒子のD50は、動的光散乱法による体積基準の粒度分布測定により求めることができる。後述する実施例では、動的光散乱法による粒度分析計(商品名「UPA-EX150」、日機装製)を用いて、後述する樹脂についての動的光散乱法による粒度分布測定で採りうる測定条件にて、樹脂粒子のD50を測定した。
【0065】
球状粒子として樹脂粒子を用いる場合、樹脂粒子のガラス転移温度Tg(℃)は、インクの温度より高いことが好ましい。前述のように、記録ヘッド内のインクを加温する工程を行う場合、樹脂粒子のTgは、インクの加温温度以上であることがさらに好ましい。インクの加温温度は、加温によるインク粘度の低下による吐出量のばらつきの抑制と、加温による吐出口からの水の蒸発による吐出量のばらつきの増大のバランスによって、インクの温度が40℃以上60℃以下の範囲になるように調整されることが好ましい。樹脂粒子のTgがインクの加温温度以上である場合には、インクの流路内における保存安定性が高まるため、吐出安定性をさらに向上しやすくなる。なかでも、インクの加温温度及び樹脂粒子のTgがいずれも50℃以上であるとともに、樹脂粒子のTgが加温されたインクの温度より高いと、吐出安定性を特に向上しやすい点でより好ましい。樹脂粒子のTgは50℃以上であることが好ましく、100℃以下であることが好ましい。樹脂粒子のガラス転移温度Tgは、示差走査熱量計(DSC)などの熱分析装置を用いて測定することができる。後述する実施例では、示差走査熱量計(商品名「Q1000」、TA instruments製)を用いて樹脂粒子のガラス転移温度を測定した。
【0066】
樹脂粒子としては、例えば、アクリル系樹脂粒子、オレフィン系樹脂粒子、ウレタン系樹脂粒子などを挙げることができる。吐出安定性のさらなる向上の観点から、インク中の樹脂粒子のアニオン性基は、カルボン酸基及びスルホン酸基を有することが好ましい。この場合、カルボン酸基及びスルホン酸基の対イオンが、アルカリ金属イオン(ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオンなど)を含むことが好ましい。樹脂粒子が、カルボン酸基及びスルホン酸基を官能基として有し、その対イオンがアルカリ金属カチオンである場合、インク中の球状粒子である樹脂粒子の電気二重層が厚くなることで、上述した効果が高まり、吐出安定性をさらに向上することができる。
【0067】
また、球状粒子として樹脂粒子を用いる場合、顔料の体積Dと樹脂粒子の体積Dの体積比D/Dは、0.3倍以上4.0倍以下であることが好ましく、0.4倍以上2.0倍以下であることがより好ましい。相対的に重い顔料と相対的に軽い樹脂粒子の体積比D/Dが、0.4倍以上2.0倍以下であることにより、インクの循環流及び記録ヘッドのシリアル走査に伴う循環経路内のインクの撹拌作用が高まるため、吐出安定性をさらに向上することができる。加えて、より高いレベルの発色性を得ることもできる。
【0068】
インク中の樹脂粒子の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.0質量%以上12.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0069】
(コロイダルシリカ)
球状粒子としてコロイダルシリカを用いることができる。球状粒子としてコロイダルシリカを用いる場合、コロイダルシリカの真比重は、2.0g/cm以上であることが好ましく、2.1g/cm以上であることがより好ましく、2.2g/cm以上であることが特に好ましい。真比重が2.0g/cm以上であるコロイダルシリカを用いる場合、顔料と球状粒子の真比重差を0.2g/cm以上とするために、真比重が1.8g/cm以下である顔料を用いることができる。このような相対的に重いコロイダルシリカと相対的に軽い顔料との組み合わせにより、インクの循環流及び記録ヘッドのシリアル走査に伴う循環経路内のインクの撹拌作用が高まり、インク増粘が抑制されやすくなると考えられる。これにより、吐出安定性をさらに向上することができる。コロイダルシリカの真比重は、3.0g/cm以下であることが好ましい。
【0070】
球状粒子としてコロイダルシリカを用いる場合、コロイダルシリカの体積基準の粒度分布の累積50%粒子径(D50)は、8nm以上100nm以下であることが好ましく、10nm以上80nm以下であることがより好ましい。コロイダルシリカのD50が10nm以上であることにより、上述したインクの撹拌作用が高まりやすくなるとともに、コロイダルシリカによる記録媒体上での顔料の目止め効果による発色性を向上する効果が高まりやすい。また、コロイダルシリカのD50が80nm以下であることにより、上述したインクの撹拌作用が高まりやすくなるとともに、先に述べた反射光の散乱が適度に抑制されて、発色性を維持しやすくなる。コロイダルシリカのD50は、動的光散乱法による体積基準の粒度分布測定により求めることができる。後述する実施例では、動的光散乱法による粒度分析計(商品名「UPA-EX150」、日機装製)を用いて、後述する樹脂についての動的光散乱法による粒度分布測定で採りうる測定条件にて、樹脂粒子のD50を測定した。
【0071】
また、球状粒子としてコロイダルシリカを用いる場合、顔料の体積Dとコロイダルシリカの体積Dの体積比D/Dは、0.5倍以上7.3倍以下であることが好ましく、0.6倍以上4.0倍以下であることがより好ましい。相対的に軽い顔料と相対的に重いコロイダルシリカの体積比D/Dが0.6倍以上4.0倍以下であることにより、インクの循環流及び記録ヘッドのシリアル走査による循環経路内のインクの撹拌作用が高まるため、吐出安定性をさらに向上することができる。加えて、より高いレベルの発色性を得ることもできる。
【0072】
インク中のコロイダルシリカの含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.0質量%以上14.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以上12.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0073】
(樹脂)
インクには、樹脂を含有させることができる。インク中の樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上15.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0074】
樹脂は、(i)顔料の分散状態を安定化させるため、すなわち、樹脂分散剤やその補助としてインクに添加することができる。また、(ii)記録される画像の各種特性を向上させるためにインクに添加することができる。樹脂の形態としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、及びこれらの組み合わせなどを挙げることができる。また、樹脂は、水性媒体に溶解しうる水溶性樹脂であってもよく、水性媒体中に分散する樹脂粒子であってもよい。この樹脂粒子は、上述の「球状粒子」として用いるものであっても、それ以外の樹脂粒子であってもよい。樹脂粒子は、色材を内包する必要はない。顔料を分散するための分散剤として樹脂を用いている場合は、分散剤としての樹脂の他に、さらに別の樹脂を含有させることが好ましい。
【0075】
本明細書において「樹脂が水溶性である」とは、その樹脂を酸価と等モル量のアルカリで中和した場合に、動的光散乱法により粒子径を測定しうる粒子を形成しない状態で水性媒体中に存在することを意味する。樹脂が水溶性であるか否かについては、以下に示す方法にしたがって判断することができる。まず、酸価相当のアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)により中和された樹脂を含む液体(樹脂固形分:10質量%)を用意する。次いで、用意した液体を純水で10倍(体積基準)に希釈して試料溶液を調製する。そして、試料溶液中の樹脂の粒子径を動的光散乱法により測定した場合に、粒子径を有する粒子が測定されない場合に、その樹脂は水溶性であると判断することができる。この際の測定条件は、例えば、以下のようにすることができる。
[測定条件]
SETZERO:30秒
測定回数:3回
測定時間:180秒
【0076】
粒度分布測定装置としては、動的光散乱法による粒度分析計(例えば、商品名「UPA-EX150」、日機装製)などを使用することができる。勿論、使用する粒度分布測定装置や測定条件などは上記に限られるものではない。
【0077】
水溶性樹脂の酸価は、100mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが好ましい。樹脂粒子を構成する樹脂の酸価は、5mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることが好ましい。本明細書において、樹脂の酸価は、水酸化カリウム-メタノール滴定液を用いた電位差滴定装置により測定される値をとることができる。水溶性樹脂の重量平均分子量は、3,000以上15,000以下であることが好ましい。樹脂粒子を構成する樹脂の重量平均分子量は、1,000以上2,000,000以下であることが好ましい。本明細書において、樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の値として測定することができる。動的光散乱法により測定される樹脂粒子の体積平均粒子径は、100nm以上500nm以下であることが好ましい。
【0078】
樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂などを挙げることができる。なかでも、アクリル系樹脂やウレタン系樹脂が好ましい。
【0079】
アクリル系樹脂としては、親水性ユニット及び疎水性ユニットを構成ユニットとして有するものが好ましい。なかでも、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットと、芳香環を有するモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマーの少なくとも一方に由来する疎水性ユニットと、を有する樹脂が好ましい。特に、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットと、スチレン及びα-メチルスチレンの少なくとも一方のモノマーに由来する疎水性ユニットとを有する樹脂が好ましい。これらの樹脂は、顔料との相互作用が生じやすいため、顔料を分散させるための樹脂分散剤として好適に利用することができる。
【0080】
親水性ユニットは、アニオン性基などの親水性基を有するユニットである。親水性ユニットは、例えば、親水性基を有する親水性モノマーを重合することで形成することができる。親水性基を有する親水性モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボン酸基を有する酸性モノマー、これらの酸性モノマーの無水物や塩などのアニオン性モノマーなどを挙げることができる。酸性モノマーの塩を構成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、有機アンモニウムなどのイオンを挙げることができる。疎水性ユニットは、アニオン性基などの親水性基を有しないユニットである。疎水性ユニットは、例えば、アニオン性基などの親水性基を有しない、疎水性モノマーを重合することで形成することができる。疎水性モノマーの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、(メタ)アクリル酸ベンジルなどの芳香環を有するモノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸エステル系モノマーなどを挙げることができる。
【0081】
ウレタン系樹脂は、例えば、ポリイソシアネートと、それと反応する成分(ポリオールやポリアミン)とを反応させて得ることができる。また、架橋剤や鎖延長剤をさらに反応させたものであってもよい。
【0082】
ポリイソシアネートは、その分子構造中に2以上のイソシアネート基を有する化合物である。ポリイソシアネートとしては、脂肪族ポリイソシアネートや芳香族ポリイソシアネートなどを用いることができる。脂肪族ポリイソシアネートの具体例としては、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、3-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネートなどの鎖状構造を有するポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンなどの環状構造を有するポリイソシアネート;などを挙げることができる。
【0083】
芳香族ポリイソシアネートの具体例としては、トリレンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどを挙げることができる。
【0084】
上記のポリイソシアネートとの反応によってウレタン樹脂を構成するユニットとなる成分としては、ポリオールを用いることができる。本発明における「ポリオール」とは、分子中に2以上のヒドロキシ基を有する化合物を意味する。具体的には、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどの酸基を有しないポリオール;酸基を有するポリオール;などを挙げることができる。
【0085】
酸基を有しないポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどの数平均分子量が450~4,000程度である長鎖ポリオールなどを挙げることができる。
【0086】
酸基を有するポリオールとしては、構造中に、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基などの酸基を含むポリオールを挙げることができる。特に、酸基を有しないポリオールに加えて、ジメチロールプロピオン酸やジメチロールブタン酸などの酸基を有するポリオールをさらに用いて合成された水溶性ウレタン樹脂を用いることが好ましい。酸基は塩の形態であってもよい。塩を構成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、有機アンモニウムなどのイオンを挙げることができる。水溶性ウレタン樹脂が酸基を有する場合、通常、酸基がアルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウムなど)の水酸化物やアンモニア水などの中和剤により中和されることで水溶性を呈する。
【0087】
ポリアミンとしては、ジメチロールエチルアミン、ジエタノールメチルアミン、ジプロパノールエチルアミン、ジブタノールメチルアミンなどの複数のヒドロキシ基を有するモノアミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキシレンジアミン、イソホロンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、水素添加ジフェニルメタンジアミン、ヒドラジンなどの2官能ポリアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリアミドポリアミン、ポリエチレンポリイミンなどの3官能以上のポリアミン;などを挙げることができる。なお、便宜上、複数のヒドロキシ基と、1つの「アミノ基、イミノ基」を有する化合物も「ポリアミン」として列挙した。
【0088】
ウレタン樹脂を合成する際には、架橋剤や鎖延長剤を用いることができる。通常、架橋剤はプレポリマーの合成の際に用いられ、鎖延長剤は予め合成されたプレポリマーに対して鎖延長反応を行う際に用いられる。基本的には、架橋剤や鎖延長剤としては、架橋や鎖延長など目的に応じて、水や、ポリイソシアネート、ポリオール、ポリアミンなどから適宜に選択して用いることができる。鎖延長剤として、ウレタン樹脂を架橋させることができるものを用いることもできる。
【0089】
オレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのα-オレフィン重合体を挙げることができる。α-オレフィン重合体は、エチレン単位、プロピレン単位などのα-オレフィン単位を主構成単位とする。このα-オレフィン重合体は、エチレンの単独重合体やプロピレンの単独重合体であってもよく、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、及び4-メチル-1-ペンテンなどのα-オレフィンの共重合体であってもよい。共重合体としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、及びこれらの共重合体の組み合わせなどを挙げることができる。
【0090】
(界面活性剤)
インクは、界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤は、疎水性基が大気側に向くとともに、親水性基がインク側に向くようにして、気液界面に配向するため、メニスカスをさらに安定化することができる。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などを挙げることができる。なかでも、インクの信頼性の観点から、ノニオン性界面活性剤を用いることが好ましい。
【0091】
ノニオン性界面活性剤としては、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどの炭化水素系の界面活性剤;パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物などのフッ素系の界面活性剤;ポリエーテル変性シロキサン化合物などのシリコーン系の界面活性剤などを挙げることができる。なかでも、炭化水素系の界面活性剤が好ましく、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物がさらに好ましい。
【0092】
(水性媒体)
本発明のインクジェット記録方法で用いるインクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができる。水としては、脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上48.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、アルコール類、(ポリ)アルキレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類、含硫黄化合物類などのインクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができる。
【0093】
インクは、水溶性有機溶剤として、温度25℃での比誘電率が20.0以上の第1水溶性有機溶剤を含有することが好ましい。この場合、インク中の第1水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク中の顔料及び球状粒子の合計含有量(質量%)に対する質量比率で、0.5倍以上であることがより好ましい。比誘電率が20.0以上の水溶性有機溶剤は、アニオン性基を有するために親水性を持つ顔料及び球状粒子となじみやすい。そのため、記録ヘッドの吐出口からの水の蒸発が起きて、吐出口近傍の水溶性有機溶剤成分が増加した場合にも、顔料と球状粒子の吐出口近傍からの後退現象が発生しにくく、吐出安定性をさらに向上することができる。インク中の顔料及び球状粒子の合計含有量に対する第1水溶性有機溶剤の含有量の質量比率は、5.0倍以下であることが好ましく、1.5倍以下であることがより好ましい。
【0094】
水溶性有機溶剤や水の比誘電率は、誘電率計(例えば、商品名「BI-870」(BROOKHAVEN INSTRUMENTS CORPORATION製)など)を使用し、周波数10kHzの条件で測定することができる。本明細書において、比誘電率は25℃で測定した値である。後述する実施例では、前記誘電率計を用いて、水溶性有機溶剤の25℃における比誘電率を測定した。25℃で固体の水溶性有機溶剤の比誘電率は、50質量%水溶液の比誘電率を測定し、下記式(A)から算出した値とする。通常、「水溶性有機溶剤」とは液体を意味するが、本発明においては、25℃(常温)で固体であるものも水溶性有機溶剤に含めることとする。
εsol=2ε50%-εwater ・・・(A)
εsol:25℃で固体の水溶性有機溶剤の比誘電率
ε50%:25℃で固体の水溶性有機溶剤の50質量%水溶液の比誘電率
εwater:水の比誘電率
【0095】
ここで、25℃で固体の水溶性有機溶剤の比誘電率を、50質量%水溶液の比誘電率から求める理由は次の通りである。25℃で固体の水溶性有機溶剤のうち、水性インクの構成成分となりうるもののなかには、50質量%を超えるような高濃度の水溶液を調製することが困難なものがある。一方、10質量%以下であるような低濃度の水溶液では、水の比誘電率が支配的となり、当該水溶性有機溶剤の確からしい(実効的な)比誘電率の値を得ることは困難である。そこで、本発明者らが検討を行ったところ、25℃で固体の水溶性有機溶剤のうち、インクに用いることが可能な殆どのもので測定対象の水溶液を調製することができ、かつ、算出される比誘電率も本発明の効果と整合することが判明した。このような理由から、50質量%水溶液を利用することとした。25℃で固体の水溶性有機溶剤であって、水への溶解度が低いために50質量%水溶液を調製できないものについては、飽和濃度の水溶液を利用し、上記εsolを求める場合に準じて算出した比誘電率の値を便宜的に用いることとする。
【0096】
水性インクに汎用であり、25℃で固体である水溶性有機溶剤としては、例えば、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、エチレン尿素、尿素、及び数平均分子量1,000のポリエチレングリコールなどを挙げることができる。
【0097】
第1水溶性有機溶剤の具体例としては、括弧内に25℃での比誘電率を示すと、尿素(110.3)、エチルイソプロピルスルホン(59.0)、エチレン尿素(49.7)、ジメチルスルホキシド(48.9)、グリセリン(42.3)、γ-ブチロラクトン(41.9)、エチレングリコール(40.4)、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン(37.6)、トリメチロールプロパン(33.7)、メタノール(33.1)、N-メチル-2-ピロリドン(32.0)、トリエタノールアミン(31.9)、ジエチレングリコール(31.7)、1,4-ブタンジオール(31.1)、1,3-ブタンジオール(30.0)、3-メチルスルホラン(29.0)、1,2-プロパンジオール(28.8)、1,2,6-ヘキサントリオール(28.5)、2-メチル-1,3-プロパンジオール(28.3)、トリエチレングリコール(22.7)、及び数平均分子量150のポリエチレングリコール(20.8)などを挙げることができる。
【0098】
第1水溶性有機溶剤以外のその他の水溶性有機溶剤、すなわち、25℃での比誘電率が20.0未満の水溶性有機溶剤の具体例としては、括弧内に25℃での比誘電率を示すと、数平均分子量200のポリエチレングリコール(18.9)、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(18.5)、イソプロパノール(18.3)、1,2-ヘキサンジオール(14.8)、n-プロパノール(12.0)、数平均分子量600のポリエチレングリコール(11.4)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(9.8)、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(9.4)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(8.5)、1,6-ヘキサンジオール(7.1)、及び数平均分子量1,000のポリエチレングリコール(4.6)などを挙げることができる。水溶性有機溶剤のなかでも、特に、記録ヘッドにおけるインクの固着抑制の観点から、グリセリンをインクに含有させることが好ましい。
【0099】
(その他添加剤)
インクには、上記成分以外にも必要に応じて、消泡剤、その他の界面活性剤、PH調整剤、粘度調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤など種々の添加剤を含有させてもよい。
【実施例0100】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0101】
<顔料分散液の調製>
(顔料分散液1)
顔料30.0部、樹脂分散剤の水溶液33.0部、及び水37.0部を混合し、サンドグラインダーで1時間分散させた後、遠心分離して粗大粒子を含む非分散物を除去した。顔料としては、カーボンブラック(商品名「MONARCH 880」、Cabot製)を用いた。樹脂分散剤の水溶液としては、スチレン-アクリル酸共重合体(組成(モル比)=81:19)を酸価と等モル量の10%水酸化カリウム水溶液で中和し、適量のイオン交換水を添加して得た、樹脂の含有量が20.0%である水溶液を用いた。スチレン-アクリル酸共重合体の酸価は150mgKOH/gであり、重量平均分子量8,000であった。ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過した後、適量のイオン交換水を加えて顔料分散液1を調製した。調製した顔料分散液1の顔料の含有量は30.0%、樹脂分散剤の含有量は6.6%、pHは10.0であり、顔料の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径(D50)は100nmであった。D50は、動的光散乱法による粒度分析計(商品名「UPA-EX150」、日機装製)を用いて測定した。顔料分散液の表面電荷密度は、電位差自動滴定装置(商品名「AT-510」、京都電子工業製)を使用し、電位差を利用したコロイド滴定によって荷電粒子のアニオン表面電荷量を測定し、顔料の比表面積値を基に算出した。
【0102】
(顔料分散液2)
顔料の種類をC.I.ピグメントブルー15:3に変更したこと以外は、前述の顔料分散液1の場合と同様にして顔料分散液2を得た。調製した顔料分散液2の顔料の含有量は30.0%、樹脂分散剤の含有量は6.6%、pHは10.0であり、顔料の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径(D50)は120nmであった。
【0103】
(顔料分散液3)
顔料の種類をC.I.ピグメントレッド122に変更したこと以外は、前述の顔料分散液1の場合と同様にして顔料分散液3を得た。調製した顔料分散液3の顔料の含有量は30.0%、樹脂分散剤の含有量は6.6%、pHは10.0であり、顔料の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径(D50)は150nmであった。
【0104】
(顔料分散液4)
顔料の種類をC.I.ピグメントレッド74に変更したこと以外は、前述の顔料分散液3の場合と同様にして顔料分散液4を得た。調製した顔料分散液4の顔料の含有量は30.0%、樹脂分散剤の含有量は6.6%、pHは10.0であり、顔料の体積基準粒度分布の累積50%粒子径(D50)は100nmであった。
【0105】
(顔料分散液5)
樹脂分散剤の水溶液の使用量を9.9部に変更したこと以外は、前述の顔料分散液1の場合と同様にして顔料分散液5を得た。調製した顔料分散液5の顔料の含有量は30.0%、樹脂分散剤の含有量は2.0%、pHは10.0であり、顔料の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径(D50)は100nmであった。
【0106】
(顔料分散液6)
樹脂分散剤の水溶液の使用量を11.0部に変更したこと以外は、前述の顔料分散液1の場合と同様にして顔料分散液6を得た。調製した顔料分散液6の顔料の含有量は30.0%、樹脂分散剤の含有量は2.2%、pHは10.0であり、顔料の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径(D50)は100nmであった。
【0107】
(顔料分散液7)
樹脂の中和剤をアンモニア水溶液に変更したこと以外は、前述の顔料分散液1の場合と同様にして顔料分散液7を得た。調製した顔料分散液7の顔料の含有量は30.0%、樹脂分散剤の含有量は6.6%、pHは10.0であり、顔料の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径(D50)は100nmであった。
【0108】
(顔料分散液8)
樹脂の中和剤を水酸化ナトリウム水溶液に変更したこと以外は、前述の顔料分散液1の場合と同様にして顔料分散液8を得た。調製した顔料分散液8の顔料の含有量は30.0%、樹脂分散剤の含有量は6.6%、pHは10.0であり、顔料の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径(D50)は100nmであった。
【0109】
(顔料分散液9)
樹脂分散剤の水溶液をノニオン性界面活性剤(商品名「NIKKOL BC15」、日光ケミカルズ製)の20.0%水溶液に変更したこと以外は、前述の顔料分散液1の場合と同様にして顔料分散液9を得た。調製した顔料分散液9の顔料の含有量は30.0%、分散剤の含有量は6.6%、pHは8.0であり、顔料の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径(D50)は100nmであった。
【0110】
(顔料分散液10)
5.5gの水に5gの濃塩酸を溶かした溶液に、5℃に冷却した状態で4-アミノ-1,2-ベンゼンジカルボン酸1.5gを加えた。次に、この溶液の入った容器をアイスバスに入れることで溶液を常に10℃以下に保った状態にし、これに5℃の水9gに亜硝酸ナトリウム1.8gを溶かした溶液を加えた。この溶液をさらに15分間撹拌後、BET比表面積が90m/gであるカーボンブラック6gを撹拌下で加えた。その後、さらに15分間撹拌し、得られたスラリーをろ紙(商品名「標準用濾紙No.2」、アドバンティス製)でろ過した後、粒子を充分に水洗した。これを110℃のオーブンで乾燥させ、自己分散カーボンブラックを調製した。さらに、得られた自己分散カーボンブラックに水を加えて顔料の含有量が10.0%となるように分散させ、分散液を調製した。上記の方法により、カーボンブラックの粒子表面に-C-(COONa)基が導入されてなる自己分散カーボンブラックが水中に分散された状態の顔料分散液を得た。その後、イオン交換法を用いて顔料分散液のナトリウムイオンをカリウムイオンに置換した。次いで、限外ろ過法によって水の含有量を調整し、カーボンブラックの粒子表面に、カウンターイオンがカリウムであるベンゼンジカルボン酸基が結合した自己分散カーボンブラックが分散された顔料分散液10を得た。調製した顔料分散液10の顔料の含有量は30.0%、pHは10.0であり、顔料の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径(D50)は100nmであった。
【0111】
得られた顔料分散液1~10の特性を表1に示す。顔料及び後述する球状粒子の真比重はピクノメータ法で測定した。
【0112】
【0113】
<球状粒子の準備>
(球状粒子1及び5~14)
撹拌機、還流冷却装置、及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、表2に示す使用量の過硫酸カリウム及びイオン交換水を入れ、窒素ガスを導入した。また、表2に示す種類及び使用量のモノマー類を混合して得られた混合物を、上記の四つ口フラスコに撹拌下で1時間かけて滴下した後、温度80℃で2時間反応させた。その後、内容物を室温まで冷却し、水酸化カリウム、及び適量のイオン交換水を添加して、液体のpHを8.5に調整した。このようにして、アクリル系樹脂粒子である球状粒子の含有量が25.0%である水分散液を得た。表2に示すモノマー類の略称の意味は以下の通りである。
MMA:メタクリル酸メチル
BMA:メタクリル酸n-ブチル
MAA:メタクリル酸
BDDMA:1,4-ブタンジオールジメタクリレート
アクアロンKH-05:第一工業製薬製の反応性界面活性剤の商品名
NIKKOL BC15:日光ケミカルズ製のポリオキシエチレンセチルエーテルの商品名
【0114】
(球状粒子2)
球状粒子1の合成時に使用したイオン交換水及びアクアロンKH-05の使用量を、表2に示す通りに変更したこと以外は、球状粒子1の場合と同様にして、球状粒子を合成した。得られた球状粒子をビーズミルにて破砕し、アクリル系樹脂粒子である球状粒子の含有量が25.0%である、球状粒子2の水分散液を得た。
【0115】
(球状粒子3)
オートクレーブ内に、撹拌機、温度測定器、及び溶解液抜き出し管を装着した。抜き出し管にはバルブ開閉ができる連結管を装着し、冷却の受槽として、オートクレーブに撹拌機、コンデンサー、ガス通気管、及び溶解槽からの連結管の他端を装着した。溶解槽に、ポリブチレンテレフタレート樹脂3g、N-メチル-2-ピロリドン297gを入れ、窒素ガス置換して密封した。撹拌しながら溶解槽内の温度を160℃まで上昇させ、1時間撹拌した。窒素ガスを導入して、溶解槽の内圧を0.5MPaに加圧した。受槽に析出溶媒として水300gを入れ、氷水中で5℃に冷却し、撹拌しながら、大気圧下で微量の窒素ガスを通し、窒素ガス雰囲気にした。溶解槽の連結管のバルブを開き、溶解液を受槽の水中に添加し、冷却して、ポリブチレンテレフタレート樹脂で形成される粒子状の樹脂の懸濁液を得た。得られた樹脂粒子の懸濁液に、10%塩化ナトリウム水溶液3gを加えて凝集させた後、メンブレンフィルターを用いて、樹脂粒子をろ過により分取した後、水で洗浄し、脱イオン水を添加した。このようにして、ポリエステル系樹脂粒子である球状粒子3の含有量が25.0%である水分散液を得た。
【0116】
(球状粒子4)
オートクレーブ内に設置した撹拌装置を有する反応容器に、エチレングリコール60.0部、ネオペンジルグリコール40.0部、テレフタル酸54.5部、イソフタル酸54.5部のモノマーの混合物を入れた。220℃まで昇温し、撹拌速度100rpmで4時間エステル化反応を行った。240℃まで昇温し、オートクレーブ内の圧力を90分間かけて13Paまで減圧した。240℃、13Paの減圧状態を5時間保ってエステル化(脱水縮合)反応を継続した後、オートクレーブ内に窒素ガスを導入して常圧に戻した。反応容器内の温度を220℃まで下げた後、触媒(テトラ-n-ブチルチタネート)及びトリメリット酸1.0部を添加し、220℃で2時間加熱してエステル交換反応を行った。触媒の量(mol)は、「3×10-4×多価カルボン酸の合計使用量(mol)」とした。その後、オートクレーブ内に窒素ガスを導入して加圧状態とし、シート状の樹脂を取り出した。取り出した樹脂を25℃まで冷却した後、クラッシャーで粉砕してポリエステル樹脂を得た。
【0117】
容積2Lのビーカーに、撹拌機(商品名「トルネード撹拌機スタンダードSM-104」、アズワン製)をセットした。このビーカーに、ポリエステル樹脂200g及びメチルエチルケトン(MEK)を入れ、30℃で撹拌してポリエステル樹脂を溶解させた。次いで、5%水酸化カリウム水溶液15.9gを添加して30分間撹拌した。30℃で撹拌しながら、脱イオン水500gを20mL/minの速度で滴下した。60℃に昇温した後、MEK及び一部の水を留去した。25℃まで冷却後、150メッシュの金網でろ過し、脱イオン水を添加して、ポリエステル系樹脂粒子である球状粒子4の含有量が25.0%である水分散液を得た。
【0118】
(球状粒子15)
球状粒子1の水分散液の調製において使用した中和剤(水酸化カリウム)を水酸化ナトリウムに変更したこと以外は、前述の球状粒子1の場合と同様にして、アクリル系樹脂粒子である球状粒子15の含有量が25.0%である水分散液を得た。
【0119】
(球状粒子16)
球状粒子1の合成時に使用したイオン交換水及びアクアロンKH-05の使用量を、表2に示す通りに変更したこと以外は、球状粒子1の場合と同様にして、球状粒子を合成した。得られた球状粒子をビーズミルにて破砕し、アクリル系樹脂粒子である球状粒子の含有量が25.0%である、球状粒子16の水分散液を得た。
【0120】
【0121】
樹脂粒子である球状粒子1~16の特性として、真比重、短径b/長径aの比、表面電荷密度、体積基準の粒度分布の累積50%粒子径(D50)、ガラス転移温度(Tg)、及びアニオン性基の種類を表3に示す。
【0122】
【0123】
(球状粒子17~19、21~26)
球状粒子の水分散液として、以下の市販製品のコロイダルシリカの水分散液を用いた。
・球状粒子17の水分散液(商品名「スノーテックスST-30L」、日産化学工業製、粒子の含有量30.0%)
・球状粒子18の水分散液(商品名「スノーテックスST-OL」、日産化学工業製、粒子の含有量20.0%)
・球状粒子19の水分散液(商品名「クォートロンPL-3L」、扶桑化学工業製、粒子の含有量20.0%)
・球状粒子21の水分散液(商品名「スノーテックスST-S」、日産化学工業製、粒子の含有量30.0%)
・球状粒子22の水分散液(商品名「スノーテックスST-30」、日産化学工業製、粒子の含有量30.0%)
・球状粒子23の水分散液(商品名「スノーテックスST-ZL」、日産化学工業製、粒子の含有量30.0%)
・球状粒子24の水分散液(商品名「スノーテックスMP-1040」、日産化学工業製、粒子の含有量40.0%)
・球状粒子25の水分散液(商品名「スノーテックスST-UP」、日産化学工業製、粒子の含有量20.0%)
・球状粒子26の水分散液(商品名「クォートロンPL-3」、扶桑化学工業製、粒子の含有量20.0%)
【0124】
(球状粒子20)
触媒としての塩酸の存在下で、テトラアルコキシシランを加水分解及び脱水縮合させるアルコキシド法にてコロイダルシリカを合成し、コロイダルシリカの含有量が20.0%である球状粒子20の水分散液を得た。
【0125】
(球状粒子27)
ケイ酸ソーダを水で希釈し、加温した水酸化ナトリウム水溶液に少量ずつ添加する水ガラス法にてコロイダルシリカを合成し、コロイダルシリカの含有量が20.0%である球状粒子27の水分散液を得た。
【0126】
コロイダルシリカである球状粒子17~27の特性として、真比重、短径b/長径aの比、及び体積基準の粒度分布の累積50%粒子径(D50)を表4に示す。
【0127】
【0128】
(アクリル樹脂水溶液)
酸価150mgKOH/g、重量平均分子量8,000のスチレン-アクリル酸共重合体(水溶性樹脂)を、酸価と等モル量の10%水酸化カリウム水溶液で中和し、適量のイオン交換水を添加して、アクリル樹脂水溶液を調製した。このアクリル樹脂水溶液中の樹脂(固形分)の含有量は20.0%であった。
【0129】
<インクの調製>
表5(表5-1~表5-9)の上段に示す各成分(単位:%)を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ3.0μmのセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過して、各インクを調製した。ポリエチレングリコールに付した数値は数平均分子量を示す。「アセチレノールE60」は、川研ファインケミカル製の界面活性剤の商品名である。表5中の水溶性有機溶剤の括弧内の数値は25℃での比誘電率である。表5の下段にインクの特性を示す。
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
【0139】
<評価>
図2及び図3に示す主要部を有するインクジェット記録装置を用い、図3に示すインクカートリッジにインクを充填し、温度25℃、相対湿度50%の環境で、以下に示す各評価を行った。記録ヘッドとしては、図4に示す構成を有するシリアル方式の記録ヘッド(循環シリアルヘッド)を使用した。この記録ヘッドは、1つの吐出口につき、吐出口と吐出素子の間で連通する第1流路及び第2流路を具備し、ポンプを利用して第1流路内のインクを第2流路へと流動させるものである。吐出口列1列当たりの吐出口数は256個、吐出口密度は600dpi、1吐出口当たりのインク吐出量は8ngである。使用したインク、記録ヘッドにおける流動工程(循環流)の有無、インクの流速、走査方式、走査速度、及び記録ヘッド内のインクの加温有無については表6(表6-1及び表6-2)に記載した条件で画像を記録した。記録ヘッド内のインクの加温は、インクの温度が50℃となるように実施した。また、記録ヘッドの記録媒体領域外での予備吐出動作は実施しなかった。さらに、インクが付与された記録媒体への加熱工程は実施しなかった。
【0140】
【0141】
【0142】
(吐出安定性)
上記のインクジェット記録装置を使用し、記録ヘッドを往復走査させて、記録媒体の中央部にノズル列方向と同一方向の罫線(図10参照)を1パスで10枚連続記録した。記録媒体としては、商品名「高品位専用紙HR-101SA4」(キヤノン製)を使用した。記録した罫線を目視で確認して、以下に示す評価基準にしたがって吐出安定性を評価した。本発明においては、以下に示す評価基準で、「AA」、「A」、及び「B」を許容できるレベル、「C」を許容できないレベルとした。結果を表7に示す。
AA:10枚すべての罫線において、乱れがなかった。
A:10枚中1~2枚で、罫線の乱れが確認された。
B:10枚中3~4枚で、罫線の乱れが確認された。
C:10枚中5枚以上で、罫線の乱れが確認された。
【0143】
(発色性)
1/600インチ×1/600インチの領域に各吐出口列からインク滴を2滴付与する条件で、各吐出口からインクを吐出させて、2cm×2cmのベタ画像を3枚の記録媒体(普通紙、商品名「CS-068 A4」、キヤノン製)に記録した。1日経過後、蛍光分光濃度計(商品名「FD-7」、コニカミノルタ製)を使用し、照明条件:M1(D50)、観察光源:D50、視野:2°の条件でベタ画像の光学濃度を測定した。そして、3枚の記録媒体に記録した画像の光学濃度の平均値を算出し、以下に示す評価基準にしたがって画像の発色性を評価した。有機顔料を用いたインク(カラーインク)の場合は、括弧内の評価基準を利用した。本発明においては、以下に示す評価基準で、「A」、及び「B」を許容できるレベル、「C」を許容できないレベルとした。結果を表7に示す。
A:光学濃度が1.3以上(1.0以上)であった。
B:光学濃度が1.2以上1.3未満(0.9以上1.0未満)であった。
C:光学濃度が1.2未満(0.9未満)であった。
【0144】
【0145】
参考例1~4は、記録ヘッドとして記録媒体の幅相当のライン方式の記録ヘッドを用いた例である。参考例1~4では、記録ヘッドの往復運動をせずに画像を記録しているため、吐出安定性の低下は発生しなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10