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特開2024-17821板材の成形限界評価方法及び割れ予測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017821
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】板材の成形限界評価方法及び割れ予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/28 20060101AFI20240201BHJP
   B21D 22/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
G01N3/28
B21D22/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120726
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100218132
【弁理士】
【氏名又は名称】近田 暢朗
(72)【発明者】
【氏名】田口 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】前田 恭志
(72)【発明者】
【氏名】前田 康裕
【テーマコード(参考)】
2G061
4E137
【Fターム(参考)】
2G061AA07
2G061AA17
2G061AB01
2G061BA04
2G061BA07
2G061CB01
2G061DA11
2G061DA12
2G061EA04
2G061EB07
4E137AA08
4E137AA15
4E137AA21
4E137BB01
4E137CB01
4E137CB03
(57)【要約】
【課題】
板厚方向の局部くびれ発生の時点を基準とした高精度での板面内の曲げ割れ評価。
【解決手段】
同一組成の板状の試験片に対して、平面ひずみ状態となり、かつ板厚方向ひずみ勾配が異なるように曲げと引張の少なくとも一方をそれぞれ加え、前記板厚方向ひずみ勾配を取得し、成形限界ひずみを測定する複数種類の試験を行う(S1)。複数種類の試験で得られる成形限界ひずみと前記板厚方向ひずみ勾配から、前記板厚方向ひずみ勾配と成形限界ひずみの関係を求める(S2)。測定された前記成形限界ひずみは、前記試験片に板厚方向の局部くびれが検出された時点の前記試験片の表面の最大主ひずみである、
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一組成の板状の試験片に対して、平面ひずみ状態となり、かつ板厚方向ひずみ勾配が異なるように曲げと引張の少なくとも一方をそれぞれ加え、前記板厚方向ひずみ勾配を取得し、成形限界ひずみを測定する複数種類の試験を行い、
前記複数種類の試験で得られる前記成形限界ひずみと前記板厚方向ひずみ勾配から、前記板厚方向ひずみ勾配と成形限界ひずみの関係を求め、
測定された前記成形限界ひずみは、前記試験片に板厚方向の局部くびれが検出された時点の前記試験片の表面の最大主ひずみである、板材の成形限界評価方法。
【請求項2】
前記複数種類の試験のそれぞれにおいて前記試験片の表面を撮影し、Time-dependent法又はPosition-dependent法によって、前記試験片の板厚方向の局部くびれを検出する、請求項1に記載の板材の成形限界評価方法。
【請求項3】
前記複数種類の試験で得られた最大の前記板厚方向ひずみ勾配を超える前記板厚方向ひずみ勾配に対する前記成形限界ひずみは、前記最大の板厚方向ひずみ勾配に対する前記成形限界ひずみと同一であると推定する、請求項1に記載の板材の成形限界評価方法。
【請求項4】
前記複数種類の試験は、平面ひずみ引張試験、引張曲げ試験、及び潰し曲げ試験を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の板材の成形限界評価方法。
【請求項5】
同一の組成の板状の試験片に対して、平面ひずみ状態となり、板厚方向ひずみ勾配が異なるように曲げと引張の少なくとも一方をそれぞれ加え、前記板厚方向ひずみ勾配を取得し、成形限界ひずみを測定する複数種類の試験を行い、
前記複数種類の試験で得られる前記成形限界ひずみと前記板厚方向ひずみ勾配から、前記板厚方向ひずみ勾配と前記成形限界ひずみの関係を求め、
前記測定された前記成形限界ひずみは、前記試験片に板厚方向の局部くびれが検出された時点の前記試験片の表面の最大主ひずみであり、
前記試験片と同一組成のブランクに対する特定の加工について、想定される最大の板厚方向ひずみ勾配に対する前記ブランクの表面の最大主ひずみが前記成形限界ひずみを下回っていれば、前記加工によって前記ブランクに曲げ割れは発生しないと判断する、割れ予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板材の成形限界評価方法及び割れ予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板等のブランクのプレス成形性の予測のため、板材の成形限界評価、より具体的には曲げ割れ限界を評価する方法が知られている。
【0003】
特許文献1に開示された評価方法では、試験片の端面の曲げ割れ時の板表面の限界ひずみを、板厚方向ひずみ勾配(曲げ方向のひずみの板厚方向の勾配)と面内方向ひずみ勾配とで評価している。具体的には、V曲げ試験とHAT試験とを実施して試験片端面の曲げ割れ発生時のひずみを測定し、板厚方向ひずみ勾配と面内方向ひずみ勾配は数値解析により算出している。
【0004】
非特許文献1に開示された評価方法では、特殊な治具で引張曲げ試験を行い、曲げ割れの限界ひずみを板厚方向応力分布で評価している。限界ひずみと板厚方向応力分布はいずれも、引張曲げ試験での最大荷重時を対象とした数値解析により算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6547920号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】米林亮 中田匡浩,"高張力鋼板の引張曲げ加工性に及ぼす工具寸法および初期張力の影響"第62回塑性加工連合講演会講演論文集,2011年,p. 367-368
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の評価方法は、曲げ割れの発生箇所を試験片端面としているので、成形時の製品内の割れを予測するための板面内(ブランクの端面ではなくブランクの内部)の曲げ割れ評価には適さない。また、板厚方向ひずみ勾配と面内方向ひずみ勾配を数値解析により算出しているため、特許文献1の評価方法は精度の点で問題がある。
【0008】
非特許文献1の評価方法も、曲げ割れの限界ひずみと板厚方向応力分布を数値解析により算出しているため、精度の点で問題がある。
【0009】
非特許文献1の評価方法では、最大荷重到達時を曲げ割れ発生と評価している。しかし、ブランクのプレス成形時の割れの発生をより高精度で予測するためには、試験片に板厚方向の局部くびれが発生した時点を曲げ割れ発生と評価することが求められる。
【0010】
本発明は、板厚方向の局部くびれ発生の時点を基準とした高精度での板面内の曲げ割れ評価が可能な板材の成形限界評価方法、及びそれに基づく割れ予測方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、同一組成の板状の試験片に対して、平面ひずみ状態となり、かつ板厚方向ひずみ勾配が異なるように曲げと引張の少なくとも一方をそれぞれ加え、前記板厚方向ひずみ勾配を取得し、成形限界ひずみを測定する複数種類の試験を行い、前記複数種類の試験で得られる前記成形限界ひずみと前記板厚方向ひずみ勾配から、前記板厚方向ひずみ勾配と成形限界ひずみの関係を求め、測定された前記成形限界ひずみは、前記試験片に板厚方向の局部くびれが検出された時点の前記試験片の表面の最大主ひずみである、板材の成形限界評価方法を提供する。
【0012】
複数種類の試験のそれぞれにおいて、平面ひずみ状態となり、かつ板厚方向ひずみ勾配が複数種類の試験間で異なるように曲げと引張の少なくとも一方を板状の試験片に加える。そして、複数種類の試験のそれぞれについて、試験片の板厚方向の局部くびれが検出された時点の試験片の表面の最大主ひずみである成形限界ひずみを測定し、板厚方向ひずみ勾配との関係を求める。その結果、板面内の曲げ割れを板厚方向の局部くびれ発生の時点を基準として高精度で評価することができる。
【0013】
前記複数種類の試験のそれぞれにおいて前記試験片の表面を撮影し、Time-dependent法又はPosition-dependent法によって、前記試験片の板厚方向の局部くびれを検出してもよい。
【0014】
前記複数種類の試験で得られた最大の前記板厚方向ひずみ勾配を超える前記板厚方向ひずみ勾配に対する前記成形限界ひずみは、前記最大の板厚方向ひずみ勾配に対する前記成形限界ひずみと同一であると推定してもよい。
【0015】
前記複数種類の試験は、平面ひずみ引張試験、引張曲げ試験、及び潰し曲げ試験を含んでもよい。
【0016】
本発明の他の態様は、同一の組成の板状の試験片に対して、平面ひずみ状態となり、板厚方向ひずみ勾配が異なるように曲げと引張の少なくとも一方をそれぞれ加え、前記板厚方向ひずみ勾配を取得し、成形限界ひずみを測定する複数種類の試験を行い、前記複数種類の試験で得られる前記成形限界ひずみと前記板厚方向ひずみ勾配から、前記板厚方向ひずみ勾配と前記成形限界ひずみの関係を求め、前記測定された前記成形限界ひずみは、前記試験片に板厚方向の局部くびれが検出された時点の前記試験片の表面の最大主ひずみであり、前記試験片と同一組成のブランクに対する特定の加工について、想定される最大の板厚方向ひずみ勾配に対する前記ブランクの表面の最大主ひずみが前記成形限界ひずみを下回っていれば、前記加工によって前記ブランクに曲げ割れは発生しないと判断する、割れ予測方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、板厚方向の局部くびれ発生の時点を基準とした高精度での板面内の曲げ割れ評価が可能な板材の成形限界評価と、それに基づく曲げ割れ予測が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る板材の成形限界評価方法、及びそれに基づく割れ予測方法の概要を示すフローチャート。
図2A】平面ひずみ引張試験の試験機を示す模式的な正面図。
図2B図2Aの試験機の模式的な平面図。
図3】引張曲げ試験の試験機を示す模式的な正面図。
図4図3の試験機の模式的な平面図。
図5】U字曲げを説明するための模式図。
図6】潰し曲げ試験の試験機を示す模式的な正面図。
図7】板厚方向ひずみ勾配を説明するための概念図。
図8】板厚方向ひずみ勾配を説明するための模式的な側面図。
図9】板厚方向ひずみ勾配と成形限界ひずみの関係の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0020】
図1を参照すると、板材の成形限界評価方法(ステップS1,S2)で得られた板厚方向ひずみ勾配と成形限界ひずみの関係は、ブランクに対して特定の加工(例えばプレス成形)を行った際にブランクに曲げ割れが生じるか否かの数値解析(例えば有限要素法)による予測(割れ予測方法)に用いられる(ステップS3)。
【0021】
本実施形態では、3種類の試験、つまり平面ひずみ引張試験(図2A,B)、引張曲げ試験(図3,4)、及び潰し曲げ試験(図5,6)を実行する。これら3種類の試験のそれぞれで使用される板状の試験片1,2,3は同一組成の金属材料(例えば鋼板)からなる。試験片1~3はいずれも長手方向と幅方向を有する細長い矩形状であるが、試験片1~3のその他の具体的な形状は異なっていてもよい。
【0022】
平面ひずみ引張試験(図2A,B)、引張曲げ試験(図3,4)、及び潰し曲げ試験(図5,6)のいずれにおいても、平面ひずみ状態となるように試験片1~3が変形される。また、これら3種類の試験のいずれにおいても、板厚方向ひずみ勾配を取得し、成形限界ひずみを測定する。
【0023】
図7を参照すると、板厚方向ひずみ勾配SBは、同図において矢印BDで示す試験片1~3の曲げ方向(試験片1~3の長手方向と同じ方向)のひずみの板厚方向の勾配である。
【0024】
3種類の試験のいずれについても、試験片1~3の変形が進むにつれて、拡散くびれ後に局部くびれが発生する。組成不安定、つまり板厚方向の局部くびれが検出された時点が成形限界であり、成形限界に達した時点の試験片1~3の表面の最大主ひずみが成形限界ひずみである。後述するように、個々の試験では、Time-dependent法又はPosition-dependent法によって、試験片1~3の板厚方向の局部くびれが検出される。
【0025】
以下、平面ひずみ引張試験(図2A,B)、引張曲げ試験(図3,4)、及び潰し曲げ試験(図5,6)を順に説明する。
【0026】
図2A,Bは平面ひずみ引張試験に使用される試験機11を示す。
【0027】
試験機11は、板状の試験片1を保持するためのホルダ12とダイ13を備える。また、試験機11は、ホルダ12とダイ13で保持された試験片1の下方に、試験片1を変形させるためのパンチ14を備える。さらに、試験機11は、ホルダ12とダイ13で保持された試験片1に対してパンチ14とは反対側、つまりホルダ12とダイ13で保持された試験片1の上方に配置された2台のカメラ15A,5Bを備える。図2において、符号Bはダイ13が試験片1をホルダ12に押し付ける力、つまり試験片1の保持力を示し、符号Mはパンチが移動する向き(試験機11では上向き)を示している。
【0028】
この試験機11は、ISOで規定されたNakajima法と呼ばれる試験法を実施するためのものであり、パンチ14の先端は試験片1の板厚に対して十分な大きな直径(例えば100mm)を有する半球状である。そのため、試験片1に対しては実質的に張力のみが作用する。ISOで規定されたMarchiak法によって、実質的に張力のみが作用するように試験片1を変形させてもよい。この場合、パンチ14として平坦な先端を有するものが使用される。
【0029】
パンチ14は試験片1が成形限界に達するまで上昇する。その間、試験片1の表面(上面)1aがカメラ15A,15Bによって撮影される。
【0030】
この平面ひずみ引張試験では試験片1には張力のみが作用するので、板厚方向のひずみの分布はなく、板厚方向ひずみ勾配はほぼ0である。
【0031】
カメラ15A,15Bによって連続的に撮影される試験片1の表面1aの画像は演算部16に入力される。演算部16はTime-dependent法又はPosition-dependent法により、試験片1に所定量の板厚方向の局部くびれが発生したことを検出した時点で、成形限界であると判定する。また、演算部16が成形限界と判定した時点の試験片1の表面1aの最大主ひずみが、成形限界ひずみである。成形限界ひずみは、カメラ15A,15Bから入力される画像に基づいて演算部16がデジタル画像相関法(DIC: Digital Image Correlation)によって求めもよいし、スクライブドサークル法のような他の方法によって求めてもよい。図2Bを参照すると、試験片1の表面1aのうちカメラ15A,15Bによって撮影される部分において、板厚方向ひずみ勾配がほぼ0となるように、試験片1は、パンチ14が押し付けられる部分を帯状部1bとし、帯状部1bの両端のホルダ12とダイ13で挟持される部分が幅広部1cとしている。幅広部1cの幅Wは狭いと単軸引張となり、広いと等二軸引張となる。本実施形態では、幅広部1cの幅Wを、単軸引張となる狭い幅と等二軸引張となる広い幅の間の平面ひずみ引張変形となる幅、具体的には70mm以上100mm以下に設定している。
【0032】
図3及び図4は、引張曲げ試験に使用される試験機21を示す。
【0033】
試験機21は、試験片2を保持するためのホルダ22とダイ23を備える。また、試験機21は、ホルダ22とダイ23で保持された試験片2の下方に、試験片2を引張曲げ変形させるためのパンチ24を備える。さらに、試験機21は、ホルダ22とダイ23で保持された試験片2に対してパンチ24とは反対側、つまりホルダ22とダイ23で保持された試験片2の上方に配置された2台のカメラ25A,26Bを備える。
【0034】
パンチ24は、パンチ本体27と突起部28を備え、図において矢印Mで示すようにパンチ24が上昇することで、突起部28とパンチ本体27が試験片2に押圧され、それによって試験片2が引張曲げ変形する。
【0035】
パンチ本体27は先端の試験片2の幅方向(図においてX方向)の断面形状が一定である。パンチ本体27の頂面27aは、試験片2の長手方向(図においてY方向)の両端に凸曲面27b,27cをそれぞれ有している。本実施形態では、凸曲面27b,27cは、幅方向の断面形状が真円を4等分して部分円弧である。つまり、凸曲面27b,27cは、試験片2の幅方向に伸びる円筒面を4等分した曲面である。凸曲面27b,27cのアールRMと、凸曲面27b,27cの最外端間の試験片2の長手方向における離間距離、つまりパンチ本体27の先端の試験片2の長手方向における幅WMは、後述する試験片2がパンチ24になじんだ後の曲げ角度θを決定する要因である。凸曲面27b,27cの断面形状は、部分円弧に限定されない。例えば、凸曲面27b,27cの断面形状は、部分楕円弧であってもよいし、部分円弧と部分楕円弧を複合した曲面であってもよいし、断面形状の一部が直線であってもよい。
【0036】
突起部28は、試験片2の幅方向(図においてX方向)の断面形状が一定であり、頂面である凸曲面28aを有する。凸曲面28aの幅方向の断面形状は、真円を2等分した部分円弧、つまり半円弧である。つまり、突起部28の先端の凸曲面28aは、試験片2の幅方向伸びる円筒面を2等分した半円筒面である。凸曲面28aのアールRPと、パンチ本体27の頂面27aから凸曲面28aの頂点までの距離、つまり突起部28の高さHPは、後述する試験片2がパンチ24になじんだ後の曲げ角度θを決定する要因である。突起部28の試験片2の長手方向の寸法である幅WPは、パンチ本体27の先端の幅WMよりも狭く設定される。
【0037】
パンチ24の突起部28の凸曲面28aの最先端が試験片2の下面2に接触した初期状態から、パンチ24が矢印UPで示すように上昇していく。初期状態では、パンチ本体27の凸曲面27b,27cは、試験片2の下面に対して離れて位置して接触していない。
【0038】
パンチ24が初期状態から上昇していくと、試験片2の下面には、突起部28の凸曲面28aが接触して押し付けられるだけでなく、パンチ本体27の凸曲面27b,27cも接触する。この状態、つまり試験片2がパンチ24になじんだ状態では、試験片2の突起部28の凸曲面28aに接触している部分とパンチ本体27の凸曲面27b,27cに接触している部分との間がそれぞれ直線状となる。つまり、試験片2がパンチ24になじんだ状態では、試験片2には、突起部28の凸曲面28aと接触している部分とパンチ本体27一方の凸曲面27bとの間の直線状の部分と、突起部28の凸曲面28aと接触している部分とパンチ本体27の他方の凸曲面27cとの間の直線状の部分との間に曲げ角度θが付けられる。
【0039】
試験片2がパンチ24になじんだ状態となる高さ位置からパンチ24がさらに上昇しても、パンチ本体27の一対の凸曲面27b,27c間の領域における曲げ角度θは一定で維持される。つまり、いったん試験片2がパンチ24になじむと、パンチ24がさらに上昇しても、試験片2の凸曲面27b,27c間の領域では、曲げ角度θは変化せず、張力のみが増大する。
【0040】
平面ひずみ引張試験と同様に、カメラ25A,25Bから入力される試験片2の表面2aの画像に基づいて、演算部26がTime-dependent法又はPosition-dependent法によって成形限界を判定する。また、成形限界ひずみは、カメラ25A,25Bから入力される画像に基づいて演算部36がDICや他の方法(例えばスクライブドサークル法)によって求めることができる点も、平面ひずみ引張試験と同様である。
【0041】
図8を参照すると、演算部36が求めた成形限界ひずみ、つまり成形限界における試験片2の表面2aの長手方向ひずみ(最大主ひずみ)ε1を使用した数値解析(例えば有限要素法)による線形近似により、成形限界における板厚方向ひずみ勾配が求められる。
【0042】
図4を参照して、ブランク2の幅方向の両端に設けられた幅方向に互いに対向する一対の切欠2b,2cについて説明する。
【0043】
一般に試験片2の長手方向(図7において矢印BDで示す曲げ方向と一致する)の変形に対して、試験片2の幅方向の寸法が十分に長い場合に、幅方向の変形が抑制されて平面ひずみ状態となる。幅方向に対向する一対の切欠2b,2cを設けることで、試験片2の変形が切欠2b,2cの頂点を結ぶ狭い領域Aに集中する。この領域Aは幅方向に細長い形状(長手方向の幅が狭い形状)を有しており、長手方向の寸法に対して幅方向の寸法が十分に長い。従って、この領域Aでは平面ひずみ状態となる。このように、切欠2b,2cを設けることで、試験片2の変形が長手方向の寸法が幅方向の寸法よりも十分に小さい狭い領域に集中し、平面ひずみ状態を作り出すことができる。
【0044】
変形を狭い領域Aに集中させて平面ひずみ状態を作り出すために、本実施形態における切欠2b,2cの形状は、概ね半楕円状であり、パンチ24の突起部28の先端に向かって幅が曲線的に漸減し、かつ最先端における幅が最も狭くなっている。切欠2b,2cはパンチ24の突起部28の先端に向かって幅が直線的に漸減し、かつ最先端における幅が最も狭くなる形状であってもよい。また、切欠2b,2cの形状は、パンチ24の突起部28の先端に向かって幅が漸減し、かつ最先端における幅が最も狭くなっていれば、幅が直線的に漸減する部分と曲線的に漸減する部分の両方を含んでいてもよい。
【0045】
図6は、潰し曲げ試験に使用される試験機31を示す。試験機31は、ダイ33とパンチ34に加え、これらの側方に配置された2台のカメラ35A,35Bを備える。
【0046】
潰し曲げ試験の試験片3は、まず図5に示すU字曲げに供される。このU字曲げでは、一対の回転可能なローラ37A,37Bの上に支持された試験片3に向かって、符号Mで示すようにパンチ38が降下し、その結果、試験片3は張力が作用しない状態で曲げられる。パンチ38の先端は試験片3を幅方向に横切っている。パンチ38の先端の試験片3の幅方向の断面形状は、この例では半円状である。
【0047】
図5のU字曲げである程度曲げられた後、試験片3は図6の試験機31にセットされている。具体的には、試験片3は、横倒しの姿勢で、U字状に曲げられた部分の両端の直線状の部分の一方がダイ33上に載せられる。符号Mで示すように、試験片3の両端の直線状の部分の他方に接触しつつパンチ34がダイ33に向かって移動、つまり降下すると、試験片3が、引き続き張力が作用しない状態でさらに曲げられる。
【0048】
平面ひずみ引張試験及び引張曲げ試験と同様に、カメラ35A,35Bから入力される試験片3の表面3aの画像に基づいて、演算部36がTime-dependent法又はPosition-dependent法によって成形限界を判定する。また、成形限界ひずみは、カメラ35A,35Bから入力される画像に基づいて演算部36がDICや他の方法(例えばスクライブドサークル法)によって求めることができる点も、平面ひずみ引張試験及び引張曲げ試験と同様である。
【0049】
図8を参照すると、潰し曲げ試験では、試験片3に張力が作用しないので、成形限界における板厚方向ひずみ勾配は以下の式で算出できる。
【0050】
【数1】
【0051】
図9は、以上の3種類の試験、つまり平面ひずみ引張試験、引張曲げ試験、及び潰し曲げ試験を2種類の異なる材料(A材とB材)に実施した結果をまとめたグラフである。このグラフにおいて縦軸は成形限界ひずみで、横軸は成形限界ひずみに対応する板厚方向ひずみ分布である。
【0052】
平面ひずみ引張試験では板厚方向ひずみ勾配は0であるので、A材、B材のいずれについても成形限界ひずみは縦軸上に分布している。引張曲げ試験と潰し曲げ試験は、試験片に対して曲げが加えられるのでいずれも板厚方向ひずみ勾配を有する。引張曲げ試験は曲げ角度θ(図3参照)が一定であるのに対して、潰し曲げ試験では成形限界に達するまで試験片の曲がりは増大する。そのため、A材、B材のいずれについても、潰し曲げ試験の方が引張曲げ試験よりも板厚方向ひずみ勾配が大きい領域に成形限界ひずみが分布している。
【0053】
線La,Lbに示すように、A材、B材のいずれについても、3種類の試験で得られたデータから板厚ひずみ勾配と成形限界ひずみの関係が得られた。A材については線Laより下の領域の加工条件は成形限界とはならないことを意味し、線La上及びそれよりも上の領域の加工条件は成形限界となることを意味する。これらの点はB材について線Lbについても同様である。
【0054】
図9では、A材、B材のいずれについても、潰し曲げ試験により得られたデータが最大の板厚方向ひずみ勾配を有している。潰し曲げ試験により得られた最大の板厚方向ひずみ勾配を超える板厚方向ひずみ勾配に対する成形限界ひずみは、潰し曲げ試験により得られた最大の板厚方向ひずみ勾配における成形限界ひずみと同一であるとしている。つまり、線La,Lbのいずれについても、潰し曲げ試験により得られたデータよりも板厚方向ひずみ勾配が大きい領域では、横軸に平行(成形限界ひずみが一定)としている。
【0055】
本実施形態では、3種類の試験、つまり平面ひずみ引張試験(引張のみ)、引張曲げ試験(曲げ角度一定の引張曲げ)、及び潰し曲げ試験(曲げのみ)のそれぞれについて板厚方向ひずみ勾配を取得すると共に、試験片の板厚方向の局部的なくびれが検出された時点の試験片の表面の最大主ひずみである成形限界ひずみを測定する。その結果、板面内の曲げ割れを、ネッキング発生の時点を基準として高精度で評価することができる。
【0056】
図9の線La,Lbの関係を使用して、試験片と同一組成のブランクに対する特定の加工について数値解析(例えば有限要素法)を行い、当該数値解析の結果から想定される最大の板厚方向ひずみ勾配に対するブランクの表面の最大主ひずみが線La,Lbで示される成形限界ひずみを下回っていれば、加工によってブランクに曲げ割れは発生しないと判断できる。
【0057】
数値解析での評価に使用するにあたって、線La,Lbを関数としてもよいし、テーブルとしてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1,2,3 試験片
1a,2a,3a 表面
1b 帯状部
1c 幅広部
2b,2c 切欠
11 試験機(平面ひずみ引張試験)
12 ホルダ
13 ダイ
14 パンチ
15A,15B カメラ
16 演算部
21 試験機(引張試験)
22 ホルダ
23 ダイ
24 パンチ
25A,25B カメラ
26 演算部
27 パンチ本体
27a 頂面
27b,27c 凸曲面
28 突起部
28a 凸曲面
31 試験機(引張試験)
32 ホルダ
34 パンチ
35A,35B カメラ
36 演算部
37A,37B ローラ
38 パンチ
A 領域
B 保持力
BD 曲げ方向
HP 突起部28の高さ
M パンチが移動する向き
RM 凸曲面27b,27cのアール
RP 凸曲面28aのアール
SB 板厚方向ひずみ勾配
WM パンチ本体27の先端の幅
WP 突起部28の幅
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9