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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178218
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】改良されたシステイン産生株
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20241217BHJP
   C12P 13/12 20060101ALI20241217BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
C12P13/12 B
C12N1/20 A
C12N15/54
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024154309
(22)【出願日】2024-09-06
(62)【分割の表示】P 2022580253の分割
【原出願日】2020-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ルーペルト、ファラー
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンナ、コッホ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】L-システインの発酵生産に適した微生物株を提供する。
【解決手段】L-システインの発酵生産に適した微生物株であって、KEGGデータベースにおける番号EC2.7.9.2によって特定される酵素クラスの相対酵素活性が不活性化されているか、または野生型酵素の比活性と比較して低下しており、かつKEGGデータベースにおける番号EC2.7.9.2によって特定される酵素クラスが、野生型酵素活性を有する微生物株と比較して増大した量のL-システインを形成し、前記酵素活性をコードする遺伝子がppsAによって特定される微生物株が提供される。本発明はまた、それらの微生物細胞を用いたL-システインを製造する方法も提供する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
L-システインの発酵生産に適した微生物株であって、
-KEGGデータベースにおける番号EC2.7.9.2によって特定される酵素クラスの相対酵素活性が不活性化されているか、または野生型酵素の比活性と比較して低下しており、かつ
-KEGGデータベースにおける番号EC2.7.9.2によって特定される酵素クラスの野生型酵素活性を有する微生物株と比較して、増大した量のL-システインを形成し、
前記酵素活性をコードする遺伝子がppsAによって特定される、前記微生物株。
【請求項2】
前記微生物株が、腸内細菌科またはコリネバクテリア科の株である、請求項1に記載の微生物株。
【請求項3】
前記微生物株が、エシェリヒア・コリ(Echerichia coli)、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)およびコリネバクテリウム・グルタミカム。(Corynebacterium glutamicum)からなる群から選択される、請求項1または2に記載の微生物株。
【請求項4】
前記微生物株が、エシェリヒア・コリおよびパントエア・アナナティスからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の微生物株。
【請求項5】
前記微生物株が、エシェリヒア・コリ種の株である、請求項1~4のいずれか一項に記載の微生物株。
【請求項6】
前記ppsA遺伝子に少なくとも1つの変異を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の微生物株。
【請求項7】
前記変異遺伝子が、エシェリヒア・コリ由来のppsA遺伝子、パントエア・アナナティス由来のppsA遺伝子、およびこれらの遺伝子に相同な遺伝子からなる群から選択される、請求項6に記載の微生物株。
【請求項8】
前記ppsA遺伝子のコードDNA配列が配列番号5である、請求項6または7に記載の微生物株。
【請求項9】
前記菌株において、前記KEGGデータベースにおける番号EC2.7.9.2によって特定される酵素クラスの相対酵素活性が、前記野生型酵素の比活性と比較して少なくとも25%低下している、請求項1~8のいずれか一項に記載の微生物株。
【請求項10】
前記菌株において、前記KEGGデータベースにおける番号EC2.7.9.2によって特定される酵素クラスの相対酵素活性が、前記野生型酵素の比活性と比較して少なくとも70%低下している、請求項1~8のいずれか一項に記載の微生物株。
【請求項11】
前記KEGGデータベースにおける番号EC2.7.9.2によって特定される酵素クラスの酵素活性を有さない、請求項1~8のいずれか一項に記載の微生物株。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の微生物株が用いられる、システインを生産するための発酵プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L-システインの発酵生産に適した微生物株であって、KEGGデータベースにおける番号EC2.7.9.2によって特定される酵素クラスの相対酵素活性が不活性化されているか、野生型酵素の比活性と比較して低下しており、かつKEGGデータベースにおける番号EC2.7.9.2によって特定される酵素クラスの野生型酵素活性を有する微生物株と比較して、増大した量のL-システインを形成し、前記酵素活性をコードする遺伝子がppsAによって特定されることを特徴とする微生物株に関する。さらに、本発明は、これらの微生物細胞を用いたL-システインの製造方法を提供する。
【0002】
システイン、略してCysまたはCは、側鎖-CH-SHを有するα-アミノ酸である。天然に存在するエナンチオマー形態はL-システインであり、これだけがタンパクを形成するアミノ酸であるため、本発明の文脈においてシステインという用語が記述子なしで用いられる場合、L-システインが意味される。スルフヒドリル基の酸化により、2つのシステイン残基が一緒になってジスルフィド結合を形成し、結果としてシスチンが形成されるが、これには同じ記述が適用され、すなわち、記述子が存在しない場合、本発明においてはL-エナンチオマー(またはL-シスチン、または(R,R)-3,3’-ジチオビス(2-アミノプロピオン酸))が意味される。L-システインは、アミノ酸メチオニンから形成されるため、ヒトにとって準必須アミノ酸である。
【0003】
すべての生物において、システインは硫黄代謝において重要な位置を占めており、タンパク質、グルタチオン、ビオチン、リポ酸、チアミン、タウリン、メチオニンおよびその他の硫黄含有代謝産物の合成に用いられる。さらに、L-システインは補酵素Aの生合成の前駆体として機能する。
【0004】
システインの生合成は、細菌、特に腸内細菌においt詳細に研究されている。システイン生合成の概要は、Wada and Takagi, Appl. Microbiol. Biotechnol. (2006) 73: 48-54に見出すことができる。
【0005】
アミノ酸L-システインは経済的に重要である。アミノ酸L-システインは、例えば、食品添加剤(特に、製パン工業において)、化粧品の原材料として、医薬品有効成分の製造のための出発原料として(特に、N-アセチルシステインおよびS-カルボキシメチルシステイン)用いられる。
【0006】
毛、剛毛、角質、蹄および羽毛等のケラチン含有材料からの抽出による、または前駆体の酵素変換による生体内変化によるシステインの古典的な調製に加えて、システインの発酵生産のプロセスも存在する。微生物を用いたシステインの発酵生産に関する先行技術は、例えば、EP0858510B1、EP0885962B1、EP1382684B1、EP1220940B2、EP1769080B1およびEP2138585B1に開示される。用いられる細菌宿主生物としては、コリネバクテリウム属の株、および、例えば、エシェリヒア・コリまたはパントエア・アナナティス等の腸内細菌科のメンバーが挙げられる。
【0007】
微生物株におけるシステイン産生を改善するために、様々な方法が利用可能である。突然変異および選抜により改善されたシステイン産生体を得る古典的なアプローチに加えて、株はシステインの効果的な過剰生産を達成するために特別に遺伝子改変もされている。
【0008】
例えば、システインによるフィードバック阻害が低減したセリンO-アセチルトランスフェラーゼをコードするcysE対立遺伝子の導入により、システイン産生の増大がもたらされた(EP0858510B1;Nakamori et al., Appl. Env. Microbiol. (1998) 64: 1607-1611)。フィードバック耐性のCysE酵素により、システインの直接の前駆体であるO-アセチル-L-セリンの形成が、細胞内のシステインレベルから大幅に切り離された。
【0009】
O-アセチル-L-セリンは、L-セリンおよびアセチル-CoAから形成される。したがって、システインの産生に十分な量のL-セリンを提供することが非常に重要である。これは、L-セリンによるフィードバック阻害能が低下した3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼをコードするserA対立遺伝子を導入することによって達成することができる。その結果、L-セリンの生合成前駆体である3-ヒドロキシピルビン酸塩の形成が、細胞内のL-セリンレベルから大幅に切り離される。このようなSerA酵素の例は、EP0620853B1およびEP1496111B1に記載されている。あるいは、Bell et al., Eur. J. Biochem. (2002) 269: 4176-4184には、酵素活性を調節解除するためのserA遺伝子への改変が開示されている。
【0010】
発酵におけるシステイン収量は、例えば、トリプトファナーゼTnaAまたはシスタチオニンβ-リアーゼMalYもしくはMetC(EP1571223B1)等のシステイン分解酵素をコードする遺伝子を減弱化または破壊することによって増大され得ることが知られている。
【0011】
細胞外へのシステインの輸送を増大させることは、培地中の生成物収量を増大させる別の方法である。これは、いわゆる流出遺伝子を過剰発現させることによって達成することができる。前記遺伝子は、細胞外へのシステインの輸送を媒介する膜結合タンパク質をコードする。
【0012】
システイン輸出のための様々な流出遺伝子が記載されている(EP0885962B1、EP1382684B1)。細胞から発酵培地へのシステインの輸出には、いくつかの利点がある:
1)L-システインが細胞内反応平衡から継続的に引き出され、その結果、細胞内の該アミノ酸のレベルが低く維持され、L-システインによる感受性酵素のフィードバック阻害が停止する:
(1)L-システイン(細胞内) <-> L-システイン(培地)。
【0013】
2)培地に分泌されたL-システインは、培養中に培地に導入される酸素の存在下で酸化されてジスルフィドL-シスチンを形成する(EP0885962B1):
(2)2L-システイン+1/2O -> L-シスチン+HO。
【0014】
中性pHでの水溶液中のL-シスチンの溶解度はシステインと比較して非常に低いため、ジスルフィドはすでに低濃度で沈殿し、白色の沈殿物を形成する:
(3)L-シスチン(溶解) -> L-シスチン(沈殿)
【0015】
L-シスチンの沈殿は、培地中に溶解する生成物のレベルを低下させ、それによって(1)および(2)の反応平衡も生成物側に移動する。
【0016】
3)生成物が細胞内に蓄積し、細胞破壊が最初に必要とされる場合よりも、アミノ酸が発酵培地から直接得られる場合の方が、生成物の精製は大幅に複雑ではない。
【0017】
システイン産生株の遺伝子改変に加えて、発酵プロセスの最適化、すなわち細胞の培養方法も、効率的な産生プロセスの開発において重要な役割を果たす。例えば、炭素およびエネルギー源の性質および計測、温度、酸素の供給(EP2707492B1)、pHおよび培養培地の組成等の様々な培養パラメーターが、システインの発酵生産における生成物収量および/または生成物スペクトルに影響を及ぼし得る。
【0018】
原料およびエネルギーのコストが絶えず増大しているため、プロセスの経済的実行可能性を改善するために、システイン産生における生成物収率を増大させる必要性が常にある。
【0019】
本発明の目的は、システインの発酵生産のための微生物株を提供することであり、これにより、先行技術から既知の株と比較して、発酵においてL-システインまたはL-シスチンのより高い収量を達成することができる。
【0020】
この目的は、L-システインの発酵生産に適した微生物株によって達成され、該微生物株は、KEGGデータベースにおける番号EC2.7.9.2によって特定される酵素クラスの相対酵素活性が不活性化されているか、または野生型酵素の比活性と比較して低下しており、かつKEGGデータベースにおける番号EC2.7.9.2によって特定される酵素クラスの野生型酵素活性を有する微生物株と比較して、増大した量のL-システインを形成し、前記酵素活性をコードする遺伝子がppsAによって特定されることによって特徴付けられる。
【0021】
KEGGデータベースにおける番号EC2.7.9.2によって特定される酵素クラスの酵素活性は、式:
(4)ホスホエノールピルビン酸塩+リン酸塩+AMP <-> ピルビン酸塩+HO+ATP
(AMP:アデノシン一リン酸、ATP:アデノシン三リン酸)
の可逆反応によりホスホエノールピルビン酸塩からピルビン酸塩を生成できると定義される。
【0022】
したがって、この酵素活性は、ホスホエノールピルビン酸シンターゼ(PEPシンターゼ、EC2.7.9.2)または同義にピルビン酸-HOジキナーゼとも呼ばれる。このタンパク質をコードする遺伝子は、本発明の文脈においてppsAと略される。
【0023】
酵素活性の検出(酵素アッセイ、PEPシンターゼアッセイ):
微生物株のPEPシンターゼ活性は、液体培地中の培養物から細胞をペレット化し、該細胞を洗浄し、例えばFastPrep-24(商標)5G細胞ホモジナイザー(MP Biomedicals社製)を用いて細胞抽出物を調製することによって決定することができる。抽出物のタンパク質含有量は、“Qubit(登録商標)Protein Assay Kit”(Thermo Fisher Scientific社製)によって決定することができる。
【0024】
PEPシンターゼ酵素活性は、例えば“Malachite Green Phosphate Assay Kit”(Sigma Aldrich社製)を用いて、式(4)に従ってピルビン酸塩とATPとの反応からのリン酸の化学量論的生成によって測定することができる。あるいは、AMPまたはホスホエノールピルビン酸塩の化学量論的生成、またはピルビン酸塩またはATPの化学量論的消費も決定することができる(式4を参照されたい)。ピルビン酸塩のATP依存的消費を介してPEPシンターゼ酵素活性を決定するためのアッセイは、例えば、Berman and Cohn, J. Biol. Chem. (1970) 245: 5309-5318に記載されている。同様に、Berman and Cohn, J. Biol. Chem. (1970) 245: 5309-5318には、ホスホエノールピルビン酸塩のATP依存的形成のアッセイが記載されている。
【0025】
特定の酵素活性は、さらなる精製または処理が行われない細胞抽出物の総タンパク質1mgに基づく酵素活性に基づいて計算される(U/mgタンパク質)。異なるPEPシンターゼ酵素を比較するには、細胞抽出物を同じ方法で調製する必要があることに注意すべきである。すでに述べたように、細胞抽出物は、例えば、FastPrep-24(商標)5G細胞ホモジナイザー(MP Biomedicals社製)を用いて調製することができる。
【0026】
あるいは、異なる酵素は、同じ方法でそれぞれ精製された1mgの酵素の比活性に基づいて比較することもできる(U/mg精製タンパク質)。PEPシンターゼを精製し、精製されたタンパク質の比活性を測定する方法は、例えば、Berman and Cohn, J. Biol. Chem. (1970) 245: 5309-5318に記載されている。
【0027】
相対酵素活性は、PEPシンターゼをコードする遺伝子との関係で、Wt対立遺伝子を有する微生物株のPEPシンターゼアッセイで決定された特定の酵素活性を100%に設定することによって決定することができる。サンプルの特定の酵素活性についてのPEPシンターゼアッセイで測定された値は、Wt酵素を含む当該株に対するパーセンテージとして特定される。
【0028】
オープンリーディングフレーム(ORF、cdsまたはコード配列と同義)は、開始コドンで始まり停止コドンで終わり、かつタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNAまたはRNAの領域を指す。ORFは、コード領域または構造遺伝子とも呼ばれる。
【0029】
遺伝子とは、生物学的に活性なRNAを生成するためのすべての基本情報を含むDNAのセクションを指す。遺伝子には、転写によって一本鎖RNAコピーが生成されるDNAのセクションと、そのコピープロセスの調節に関与する発現シグナルが含まれる。発現シグナルは、例えば、少なくとも1つのプロモーター、転写開始点、翻訳開始点、およびリボソーム結合部位を含む。さらに、ターミネーターおよび1つ以上のオペレーターが発現シグナルであり得る。
【0030】
本発明の文脈において、タンパク質、例えばPpsAは大文字で始まるのに対し、該タンパク質をコードする配列(cds)は小文字で特定される(例えばppsA)。
【0031】
したがって、E.coliのppsAは、ヌクレオチド333~2711からの配列番号1で特定されるように、E.coli由来のppsA遺伝子のcdsを指す。E.coliのPpsAは、前記cds(E.coliのppsA)によってコードされるタンパク質であり、配列番号2で特定される。タンパク質は、ホスホエノールピルビン酸塩シンターゼである。
【0032】
P.ananatisのppsAは、ヌクレオチド417~2801からの配列番号3で特定されるように、P.ananatis由来のppsA遺伝子のcdsを指す。P.ananatisのPpsAは、前記cds(P.ananatisのppsA)によってコードされるタンパク質であり、配列番号4で特定される。
【0033】
略語WT(Wt)は野生型を指す。野生型遺伝子とは、進化によって自然に発生し、野生型ゲノム中に存在する遺伝子の形態を指す。Wt遺伝子のDNA配列は、NCBI等のデータベースにおいて公開されている。
【0034】
対立遺伝子は、突然変異によって、すなわちDNAのヌクレオチド配列の変化によって相互に変換され得る遺伝子の状態を定義する。微生物中に天然に存在する遺伝子は野生型対立遺伝子と呼ばれ、それに由来する変異体は遺伝子の突然変異対立遺伝子と呼ばれる。
【0035】
相同遺伝子または相同配列は、前記遺伝子のDNA配列またはDNAの部分が少なくとも80%同一、好ましくは少なくとも90%同一、特に好ましくは少なくとも95%同一であることを意味すると理解されるべきである。
【0036】
DNAの同一性の程度は、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/に見いだされるblastnアルゴリズムに基づく“nucleotide blast”プログラムによって決定される。デフォルトのパラメーターは、2つ以上のヌクレオチド配列のアラインメントのアルゴリズムパラメーターとして用いられる。デフォルトの一般パラメーターは:Max target sequences=100;Short queries=“Automatically adjust parameters for short input sequences”;Expect Threshold=10;Word size=28;Automatically adjust parameters for short input sequences=0である。対応するデフォルトのスコアリングパラメーターは:Match/Mismatch Scores=1、-2;Gap Costs=Linearである。
【0037】
タンパク質の配列は、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/の“protein blast”プログラムを用いて比較される。このプログラムは、blastpアルゴリズムを用いている。デフォルトのパラメーターは、2つ以上のタンパク質配列のアラインメントのアルゴリズムパラメーターとして用いられる。デフォルトの一般パラメーターは:Max target sequences=100;Short queries=“Automatically adjust parameters for short input sequences”;Expect Threshold=10;Word size=3;Automatically adjust parameters for short input sequences=0である。デフォルトのスコアリングパラメーターは:Matrix=BLOSUM62;Gap Costs=Existence:11 Extention:1;Compositional adjustments=Conditional compositional score matrix adjustmentである。
【0038】
本発明の微生物において、KEGGデータベースにおける番号EC2.7.9.2によって特定される酵素クラスの相対酵素活性は不活性化されているか、または野生型酵素の比活性と比較して好ましくは少なくとも10%、特に好ましくは少なくとも25%、特に好ましくは少なくとも60%、特に好ましくは少なくとも70%低下している。少なくとも10%(または25%/60%/70%)低下したppsA遺伝子によってコードされる酵素の酵素活性は、最大90%(または75%/40%/30%)の残存活性とも呼ばれる。
【0039】
好ましい実施形態において、微生物株は、KEGGデータベースにおける番号EC2.7.9.2によって特定される酵素クラスの酵素活性をもはや有していない、すなわちKEGGデータベースの番号EC2.7.9.2によって特定される酵素クラスの相対酵素活性が野生型酵素の比活性と比較して100%低下していることにより特徴付けられる。
【0040】
本発明の文脈において、「(対応する)野生型酵素との比較で/との比較において/と比較して」とは、微生物由来の遺伝子の非変異型によって、すなわち進化によって自然に生じ、前記微生物の野生型ゲノムに存在する遺伝子によってコードされるタンパク質の活性との比較であることを意味する。
【0041】
L-システインの発酵生産に適した微生物株には、システイン、シスチンまたはそれらに由来する誘導体の合成をもたらす調節解除された生合成代謝経路(同種または異種)を含むすべての微生物が包含される。このような菌株は、例えば、EP0885962B1、EP1382684B1、EP1220940B2、EP1769080B1およびEP2138585B1に記載されている。
【0042】
L-システインの発酵生産に適した微生物は、好ましくは、以下の改変の1つを有することを特徴とする。
a)微生物株は、対応する野生型酵素と比較して、L-セリンによるフィードバック阻害が少なくとも2倍低下した改変3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(serA)によって区別される(例えば、EP1950287B1に記載されている)。
【0043】
対応する野生型酵素と比較して、3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(serA)の特に好ましい変異体は、L-セリンによるフィードバック阻害が少なくとも5倍、特に好ましくは少なくとも10倍、より好ましい実施形態においては少なくとも50倍低下している。
【0044】
b)微生物株は、対応する野生型酵素と比較して、システインによるフィードバック阻害が少なくとも2倍低下したセリンO-アセチルトランスフェラーゼ(cysE)を含む(例えば、EP0858510B1またはNakamori et al., Appl. Env. Microbiol. (1998) 64: 1607-1611に記載されている)。
【0045】
対応する野生型酵素と比較して、セリンO-アセチルトランスフェラーゼ(cysE)の特に好ましい変異体は、システインによるフィードバック阻害が少なくとも5倍、特に好ましくは少なくとも10倍、より好ましい実施形態においては少なくとも50倍低下している。
【0046】
c)微生物株は、対応する野生型細胞と比較して、流出遺伝子の過剰発現に起因して細胞外へのシステインの輸送が少なくとも2倍増大している。
【0047】
野生型細胞と比較して、流出遺伝子の過剰発現は、細胞外へのシステインの輸送を好ましくは少なくとも5倍、特に好ましくは少なくとも10倍、特に好ましくは少なくとも20倍増大させる。
【0048】
流出遺伝子は、好ましくはE.coli由来のydeD(EP0885962B1を参照されたい)、yfiK(EP1382684B1を参照されたい)、cydDC(WO2004/113373A1を参照されたい)、bcr(US2005-221453AAを参照されたい)およびemrAB(US2005-221453AAを参照されたい)からなる群に由来するか、または異なる微生物由来の対応する相同遺伝子に由来する。
【0049】
そのような株は、例えば、EP0858510B1およびEP0885962B1において知られている。
【0050】
さらに、L-システインの発酵生産に適した微生物株は、好ましくは、野生型細胞と比較して少なくとも1種のシステイン分解酵素が、細胞がその酵素活性の最大50%しか含まない程度まで減弱化されていることを特徴とする。システイン分解酵素は、好ましくはトリプトファナーゼ(TnaA)およびシスタチオニンβリアーゼ(MalY、MetC)からなる群に由来する。
【0051】
前のパラグラフに記載されているL-システインの発酵生産に適した微生物株は、システイン代謝に関して調節解除されておらず、KEGGデータベースにおける番号EC2.7.9.2によって特定される酵素クラスの野生型酵素活性を有する微生物株と比較して増大した量のL-システインを形成するように、それらのシステイン代謝に関して調節解除されている。システイン代謝に関して調節解除されておらず、KEGGデータベースにおける番号EC2.7.9.2によって特定される酵素クラスの野生型酵素活性を有する微生物株の細胞においては、培養物中のL-システインの量は約0g/lであり(表2を参照されたい)、増大した量とは、培養24時間後の培養物中で測定されるL-システインが0.05g/lを超える量であることを意味する。
【0052】
微生物株は、該微生物株が腸内細菌科またはコリネバクテリア科の株、特に好ましくは腸内細菌科の株であることを特徴とする。このような株は、とりわけDSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH(ブラウンシュヴァイク)から市販されている。
【0053】
好ましくは、微生物株は、エシェリヒア・コリ、パントエア・アナナティスおよびコリネバクテリウム・グルタミカムからなる群から、特に好ましくはエシェリヒア・コリおよびパントエア・アナナティスからなる群から選択される。特に好ましくは、微生物株は、エシェリヒア・コリ種の株である。
【0054】
特に好ましくは、E.coli株はE.coli K12、特に好ましくはE.coli K12 W3110から選択される。このような株は、とりわけDSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH(ブラウンシュヴァイク)から市販されており、例えば、E.coli K12 W3110 DSM 5911(id. ATCC27325)およびパントエア・アナナティスDSM30070(id. ATCC11530)が挙げられる。PpsAは、好ましくは配列番号2を有するE.coli由来のPpsAであるか、または配列番号4を有するP.ananatis由来のPpsAである。
【0055】
好ましくは、微生物株は、ppsA遺伝子に少なくとも1つの変異を含むことを特徴とする。同時に、株はまた、この好ましい実施形態において、野生型細胞と比較して増大した量のL-システインを形成する。好ましくは、ppsA遺伝子における遺伝的改変は、該遺伝子によって発現されるタンパク質において、野生型酵素の比活性と比較してKEGGデータベースにおける番号EC2.7.9.2によって特定される酵素クラスの相対酵素活性の低下を引き起こすか、またはそのような酵素活性を有さないようにする。
【0056】
さらに、本発明の産生株は、システイン産生をさらに改善するためにさらに最適化することができる。
【0057】
最適化は、例えば、産生特性を改善するのに適した1種以上の遺伝子を追加的に発現させることによって、遺伝的に達成することができる。前記遺伝子は、別個の遺伝子構築物として、または発現単位として(いわゆるオペロンとして)組み合わせて、既知の方法により産生株において発現させることができる。
【0058】
さらに、産生株は、ppsA遺伝子に加えて、その遺伝子産物がシステイン産生に悪影響を及ぼすさらに別の遺伝子を不活性化することによって、産生株を最適化することができる。
【0059】
しかしながら、最適化はまた、既知の方法により、変異誘発および改善されたシステイン産生を有する株の選択によって可能である。
【0060】
本発明の文脈において、ppsA遺伝子における遺伝子改変は、
a)ppsA遺伝子のコード配列が部分的または完全に欠失している、
b)ppsA遺伝子のコード配列が1つ以上の挿入または5’および/または3’伸長によって改変されている、
c)ppsA構造遺伝子が1つ以上の突然変異、特に点突然変異を含み、その結果、発現されたホスホエノールピルビン酸シンターゼの酵素活性が減弱化するか、または完全に不活性化される、
d)ppsA構造遺伝子に、ppsA発現の強力な減弱化または完全に不活性化、またはmRNAの安定性の低下をもたらす1つ以上の突然変異、特に点突然変異が含まれている、または
e)ppsA遺伝子の発現またはppsA mRNAの翻訳が、5’および/または3’非コードppsA配列(プロモーター、5’-UTR、シャイン-ダルガルノ配列および/またはターミネーター)の遺伝的改変に起因して減弱化または完全に不活性化され、 当該配列によって発現されるタンパク質は、野生型酵素の比活性と比較して相対的PEPシンターゼ酵素活性が低下していることを意味するものとして定義される。
【0061】
本発明の文脈において、a)~e)に列挙されたppsA遺伝子における遺伝的改変の任意の組み合わせも可能である。したがって、要約すると、本発明の文脈において、より少ないPpsAタンパク質が形成されるか、または全く形成されず、および/または発現されたPpsAタンパク質がより活性が低くまたは不活性であることが可能である。
【0062】
別のアプローチでは、当業者に知られているいわゆる「アンチセンスRNA」戦略によって、遺伝子転写のレベルでppsA酵素活性を減弱化または完全に不活性化することも可能である。ppsA酵素活性は、化学的阻害剤またはタンパク質阻害剤である阻害剤を添加することによって減弱化または完全に不活性化されることも考えられる。
【0063】
好ましくは、本発明の株におけるppsA遺伝子の改変は、ppsA構造遺伝子の完全または部分的な欠失、酵素活性の減弱化または酵素の不活性化を引き起こす方法によるppsA構造遺伝子の変異、またはppsA構造遺伝子および/またはppsA遺伝子の発現または翻訳の減弱化または完全な抑制、またはppsA mRNAの安定性の低下を引き起こす方法により発現を調節し、かつ5’および3’側に存在するその非転写または非翻訳遺伝子領域の変異を含む。
【0064】
特に好ましくは、本発明の株におけるppsA遺伝子の不活性化は、ppsA cds(すなわち、E.coliのppsA cdsの場合、配列番号1のヌクレオチド333~2711、またはP.ananatisのppsA cdsの場合、配列番号3のヌクレオチド417~2801)の完全または部分的な欠失、または酵素活性の減弱化もしくは酵素の不活性化またはmRNAの安定性の低下を引き起こす方法によるppsA構造遺伝子の変異のいずれかによって引き起こされる。
【0065】
好ましい実施形態において、微生物株は、上述した変異遺伝子が、エシェリヒア・コリ由来のppsA遺伝子、パントエア・アナナティス由来のppsA遺伝子およびそれらの遺伝子に相同な遺伝子からなる群から選択されることを特徴とする。E.coli由来のppsA遺伝子は、遺伝子ID946209としてNCBI遺伝子データベースのエントリーに開示されており、P.ananatis由来のppsA遺伝子は、遺伝子ID11796889としえNCBI遺伝子データベースのエントリーに開示されている。「相同遺伝子」とう用語には、上述した定義が適用される。特に好ましくは、変異ppsA遺伝子は、E.coli由来のppsA遺伝子である。さらに好ましい実施形態において、cdsは、配列番号1のヌクレオチド333~2711(配列番号2を有するタンパク質をコードする)に開示されるE.coli由来のppsA遺伝子のcdsであるか、または配列番号3のヌクレオチド417~2801(配列番号4を有するタンパク質をコードする)に開示されるパントエア・アナナティス由来のppsA遺伝子のcdsである。
【0066】
好ましい実施形態において、微生物株は、ppsA遺伝子のコードDNA配列が配列番号5であるか、またはその相同配列、特に好ましくは配列番号5であることを特徴とする。「相同配列」という用語には、上述した定義が適用される。
【0067】
この場合、配列番号1で特定されるDNA配列中の変異は、配列番号6に開示されるようなアミノ酸配列を有するppsA-MHIタンパク質をコードする配列番号5で示されるDHA配列を有するppsA-MHI遺伝子にしたがって、配列番号2で特定されるWTタンパク質配列中の3つのアミノ酸の変異、すなわち126位のバリンのメチオニンへの変異(V126M)、427位のアルギニンのヒスチジンへの変異(R427H)、および434位のバリンのイソロイシンへの変異した(V434I)をもたらす。
【0068】
ppsA遺伝子を不活性化および突然変異させるための様々な方法が当業者に知られている。最も単純な場合、親株を既知の方法(例えば、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン等の突然変異誘発化学物質により化学的に、またはUV照射により物理的に)により突然変異誘発に供することができ、突然変異はゲノムDNAにランダムに生成され、次いで、例えば変異体がそれぞれ単一化された後、酵素活性に基づく呈色反応がないことによって、または正常に機能しないppsA遺伝子の検出を介する遺伝的手段によって、生成された多数の変異体から目的のppsA変異体が選択される。
【0069】
複雑な突然変異誘発およびppsA突然変異体の選択とは対照的に、ppsA遺伝子は、例えば相同組換えの既知のメカニズムによって、比較的簡単な方法で標的不活性化を受けることができる。相同組換えによる標的遺伝子の不活性化のためのクローニング系は当業者に知られており、市販されており、例えば、Gene Bridges GmbH社のRed(登録商標)/ET(登録商標)技術によるユーザーマニュアル「Quick and Easy E. coli Gene Deletion Kit」に開示されている(「Red(登録商標)/ET(登録商標)Recombination, Technical Protocol, Quick & Easy E. coli Gene Deletion Kit, by Red(登録商標)/ET(登録商標) Recombination, Cat. No. K006, Version 2.3, June 2012」およびその中の引用文献を参照されたい。)。
【0070】
先行技術によれば、ppsA遺伝子または該遺伝子の一部を単離し、外来DNAをppsA遺伝子にクローニングして、それによりppsA遺伝子のタンパク質定義オープンリーディングフレームを中断することができる。したがって、ppsA遺伝子の標的不活性化に適したDNA構築物は、ゲノムppsA遺伝子に相同なDNAの5’セクション、それに続く外来DNAを含む遺伝子セグメント、およびそれに続くゲノムppsA遺伝子に相同なDNAの3’セクションからなり得る。
【0071】
したがって、ppsA遺伝子における相同組換えの可能性のある領域は、ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする領域だけでなく含むことができる。可能な領域はまた、ppsA遺伝子に隣接するDNA配列、すなわちコード領域の開始前の5’領域(遺伝子転写プロモーター、例えば配列番号1のヌクレオチド1~332、または配列番号3のヌクレオチド1~416)およびコード領域の末端の後の3’領域(遺伝子転写ターミネーター、例えば、配列番号1のヌクレオチド2712~3000、または配列番号3のヌクレオチド2802~3062)を含むことができ、相同組換えによるその改変は、コード領域の改変と同様に、ppsA遺伝子の不活性化をもたらし得る。
【0072】
外来DNAは、好ましくは選択マーカー発現カセットである。それは、実際の選択マーカー遺伝子に機能的に連結された遺伝子転写プロモーターからなり、任意に遺伝子転写ターミネーターが続く。この場合、選択マーカーは、ppsA遺伝子の5’および3’に隣接する相同配列も含む。
【0073】
好ましくは、選択マーカーは、それぞれが少なくとも30ヌクレオチド、特に好ましくは少なくとも50ヌクレオチドの長さを有するppsA遺伝子の5’および3’に隣接する相同配列を含む。
【0074】
ppsA遺伝子を不活性化するためのDNA構築物は、5’末端から始まり、ppsA遺伝子に相同な配列からなり、その後に、例えば抗生物質耐性遺伝子のクラスから選択される選択マーカーの発現カセットが続き、ppsA遺伝子に相同なさらなる配列が続く。
【0075】
好ましい実施形態において、ppsA遺伝子を不活性化するためのDNA構築物は、5’末端から始まり、少なくとも30ヌクレオチドの長さ、特に好ましくは少なくとも50ヌクレオチドの長さのppsA遺伝子に相同な配列、それに続く抗生物質耐性遺伝子のクラスから選択された選択マーカーの発現カセット、およびそれに続く少なくとも30ヌクレオチドの長さ、特に好ましくは少なくとも50ヌクレオチドの長さのppsA遺伝子と相同なさらなる配列を含む。
【0076】
選択マーカー遺伝子は、一般的に遺伝子であり、その遺伝子産物は、元の親株が増殖できない選択的条件下で親株が増殖することを可能にする。
【0077】
好ましい選択マーカー遺伝子は、例えば、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子またはネオマイシン耐性遺伝子等の抗生物質耐性遺伝子の群から選択される。他の好ましい選択マーカー遺伝子は、上述した選択マーカー遺伝子の発現による代謝欠陥の修正の結果として、代謝欠陥(例えば、アミノ酸栄養要求性)を有する親株が選択条件下で増殖することを可能にする。最後に、別の可能性は選択マーカー遺伝子であり、その遺伝子産物は親株にとって本質的に有毒な化合物を化学的に変化させ、その化合物を不活性化する(例えば、多くの微生物にとって有毒な化合物アセトアミドを毒性のない生成物である酢酸塩およびアンモニアに分解する酵素アセトアミダーゼの遺伝子)。
【0078】
選択マーカー遺伝子のうち、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子が特に好ましい。テトラサイクリン耐性遺伝子およびカナマイシン耐性遺伝子が特に好ましい。
【0079】
標的遺伝子の不活性化に加えて、ゲノムから選択マーカーを除去し、それによって二重および多重の突然変異体を生成することを可能にする選択肢を提供する相同組換えに基づくシステムも存在する。このようなシステムは、例えば、Gene Bridges GmbH社のRed(登録商標)/ET(登録商標)技術による「Quick and Easy E. coli Gene Deletion Kit」として市販されている、いわゆるLambda Red技術である(「Technical Protocol, Quick & Easy E. coli Gene Deletion Kit, by Red(登録商標)/ET(登録商標) Recombination, Cat. No. K006, Version 2.3, June 2012」およびその中の引用文献を参照されたい。)。
【0080】
不活性化ppsA遺伝子を有する本発明の株の例は、実施例に開示されているE.coli W3110-ΔppsA株およびP.ananatis-ΔppsA::kan株である。いずれの株も相同組換えによりppsA遺伝子が不活性化されていることを特徴とする。
【0081】
相同組換えに基づく標的遺伝子不活性化のための別のそのようなシステムは、当業者に公知であり、実施例3に記載されており、Lamda Red組換えと対抗選択スクリーニングとの組み合わせに基づく、遺伝子不活性化または遺伝子改変のための方法である。
上述したシステムは、例えば、Sun et al., Appl. Env. Microbiol. (2008) 74: 4241-4245に記載されている。DNA構築物は、例えば、5’末端から始まり、ppsA遺伝子に相同な配列、それに続くa)抗生物質耐性遺伝子のクラスから選択される選択マーカーの発現カセットおよびb)酵素レバンスクラーゼをコードするsacB遺伝子の発現カセットからなる任意の順序の2つの発現カセット、ならびに最後に続くppsA遺伝子と相同なさらなる配列からなるppsA遺伝子の不活性化に用いられる。
【0082】
第一の工程においては、DNA構築物を産生株に形質転換し、抗生物質耐性クローンが単離される。得られたクローンは、共に組み込まれたsacB遺伝子によってスクロースで増殖できないという事実によって区別される。2つのマーカー遺伝子は、対抗選択の原理によって除去することができ、第二の工程において、適切なDNAフラグメントが相同組換えによって2つのマーカー遺伝子に置換される。次いで、この工程で得られるクローンは、スクロースで増殖する能力を回復し、次いで抗生物質に対する感受性も回復する。
この方法は、実施例3において、E.coliのppsA WT遺伝子(配列番号1)を、以下に記載する三重突然変異体ppsA-MHI(配列番号5)と交換するために用いられる。
【0083】
E.coli株W3110-ppsA-MHIは、ppsA遺伝子のコード配列の変異によりPpsA酵素活性が減弱化した本発明の株の例として実施例に開示されている。W3110-ppsA-MHIには、PpsA三重変異体PpsA-V126M-R427H-V434I(ppsA-MHI)のcdsが含まれている。ppsA-MHIの変異遺伝子のcdsは、配列番号5のDNA配列に対応し、配列番号6の配列を有するPpsAタンパク質をコードする。PpsA-MHIは、配列番号2で特定されるWT配列と比較して、配列番号6の配列を有するタンパク質がアミノ酸配列に以下の変更を含むことを特徴とする:126位のバリンがメチオニンに変異し(V126M)、427位のアルギニンがヒスチジンに変異し(R427H)、434位のバリンがイソロイシンに変異している(V434I)。
【0084】
これらの突然変異のために、PpsA-MHIタンパク質は、特定の野生型酵素活性と比較して26.8%の相対酵素活性しか有していなかった(実施例5の表1を参照されたい)。
【0085】
E.coliのppsA遺伝子の場合、cdsにおける変異の少なくとも1つが、配列番号2のアミノ酸配列における以下の変更の少なくとも1つをもたらすことが好ましい:126位のバリン、427位のアルギニンおよび/または434位のバリンの変更であって、これら3つのアミノ酸は他のいずれのアミノ酸とも交換することができる。
【0086】
配列番号2で特定されるWTタンパク質のアミノ酸配列中の3つのアミノ酸の同時突然変異をもたらす突然変異が特に好ましい。
【0087】
本発明によるppsA-MHI遺伝子の突然変異は、既知の方法で、例えば、Agilent社のQuickChange II Site-Directed Mutagenesis Kitのユーザーマニュアルに開示されているように、市販のクローニングキットを用いたいわゆる「部位特異的」な突然変異誘発によりppsA WT遺伝子に導入される。あるいは、本発明によるppsA-MHI遺伝子は、DNA合成によって既知の方法で生成することもできる。
【0088】
例えば、E.coliのppsA-MHI三重突然変異等の、酵素活性の減弱化を引き起こす方法によるppsA構造遺伝子の変異により特徴付けられる本発明の株は、実施例に開示されているように、上述したLambda Red組換えと遺伝子改変のための対立選択スクリーニングとを組み合わせて用いることによって作製することができる(例えば、Sun et al., Appl. Env. Microbiol. (2008) 74: 4241-4245を参照されたい)。
【0089】
特に好ましい株は、E.coli W3110ΔppsA(実施例1に記載される)およびE.coli W3110ppsA-MHI(実施例3に記載される)である。
【0090】
本発明はさらに、本発明の微生物細胞を用いることを特徴とする、L-システインを産生するための発酵プロセスを提供する。
【0091】
形成される本発明による方法の一次生成物はL-システインであり、これから化合物L-シスチンおよびチアゾリジンを形成することができる。L-シスチンおよびチアゾリジンは発酵中に形成され、培養上清および沈殿物の両方に蓄積する。チアゾリジンは、2-メチル-2,4-チアゾリジンジカルボン酸であり、システインとシステイン生成の副生成物として形成される可能性のあるピルビン酸との付加物である(EP0885962B1)。
【0092】
本発明の文脈において、総システインの収量は、生成されるシステイン、シスチンおよびチアゾリジンの合計として定義される。これは、実施例7に記載されるように、全培養物から決定される。例えば、Gaitonde (Gaitonde, M. K. (1967) Biochem. J. 104, 627-633)による比色アッセイを用いて定量化することができる。
【0093】
先行技術には、ホスホエノールピルビン酸シンターゼの酵素活性を減弱化または不活性化することによって、アミノ酸、特にシステインの産生を改善できるプロセスまたは産生株を開示されていない。
【0094】
本願の実施例に示されるように、システイン産生に適した微生物株におけるppsAの酵素活性の減弱化または不活性化は、発酵プロセスにおける総システインの収量、すなわち生成されるシステイン、シスチンおよびチアゾリジンの合計を有意に増大させる。これは、従来技術からは完全に予想外であった。
【0095】
対応する野生型株と比較して、E.coli W3110のppsA突然変異体の発酵において有意に高いシステイン収量が達成されたことは驚くべきことであった。先行技術に反して、また当業者にとって予想外なことに、ホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性の減弱化または不活性化により、改善されたシステイン産生株がもたらされた。
【0096】
システイン産生株を改善するためのこの新規かつ独創的な手段は、実施例6の表2および表3に要約される結果によって確認され、エシェリヒア・コリにおけるppsA遺伝子の不活性化または酵素活性が減弱されたPpsA酵素をもたらす変異ppsA遺伝子、ならびにパントエア・アナナティスにおけるppsA遺伝子の不活性化はすでに振盪フラスコでの培養においてシステイン収量の改善をもたらしている。
【0097】
したがって、当業者にとって、ホスホエノールピルビン酸シンターゼ活性の減弱化または不活性化は、他のシステイン産生株におけるシステイン産生を改善するための新規の有用な手段でもある。
【0098】
したがって、システイン産生に適した本発明の微生物株においては、産生株のppsA遺伝子によってコードされるタンパク質の酵素活性が減弱化されるかまたは完全に阻害され、同時にシステイン産生が増大する。実施例7は、Wt酵素の代わりに、システイン産生が可能であり、PpsAの酵素活性が低下したppsA突然変異体ppsA-MHIをコードする株が、発酵において、ppsAのWT遺伝子を含む株よりも有意に高いシステイン収量を達成することを実証する。
【0099】
問題の発酵プロセスにおいて、形成されるのは、本発明の産生株のバイオマスだけでなく、システインおよびその酸化生成物のシスチンである。バイオマスおよびシステインの形成は一時的に相関するか、またはバイオマスおよびシステインは相互に分離された方法で経時的に形成される。培養は、当業者によく知られている方法で行われる。この目的のために、培養は、振盪フラスコ(実験室規模)で、または発酵(生産規模)で行うことができる。
【0100】
1Lを超える発酵容積での発酵による生産規模のプロセスが好ましく、10Lを超える生産規模が好ましく、1000Lを超える生産規模が特に好ましく、10000Lを超える発酵容量が特に好ましい。
【0101】
培地は、微生物培養の実践から当業者によく知られている。それらは通常、炭素源、窒素源、およびビタミン、塩、微量元素等の添加物、および細胞増殖とシステイン産生とを最適化する硫黄源で構成される。
【0102】
炭素源は、産生株がシステイン生成物を形成するために用いることができるものである。炭素源としては、例えばグルコース、マンノース、フルクトースまたはガラクトース等のC6糖(ヘキソース)、および例えばキシロース、アラビノースまたはリボース等のC5糖(ペントース)を含む単糖のすべての形態が包含される。
【0103】
しかしながら、本発明の製造方法は、二糖類、特にスクロース、ラクトース、マルトースまたはセロビオースの形態のすべての炭素源も包含する。
【0104】
さらに、本発明の製造方法は、例えば、マルトデキストリン、デンプン、セルロース、ヘミセルロース、ペクチン等の高級糖類、グリコシドまたは2つを超える糖単位を有する炭水化物、または加水分解によってそれらから(酵素的にまたは化学的に)放出されるモノマーもしくはオリゴマーの形態のすべての炭素源も包含する。高級炭素源の加水分解は、本発明の製造方法の上流で行うことができ、または本発明の製造方法の途中にin situで行うことができる。
【0105】
糖または炭水化物以外の他の使用可能な炭素源は、酢酸(またはそれに由来する酢酸塩)、エタノール、グリセロール、クエン酸(およびその塩)またはピルビン酸(およびその塩)である。しかしながら、二酸化炭素または一酸化炭素等のガス状の炭素源も考えられる。
【0106】
本発明の製造方法に関連する炭素源は、単離された純粋な物質、または経済効率を高めるために、加水分解物としての植物原材料の化学的または酵素的な消化によって得ることができる、さらなる精製を伴わない個々の炭素源の混合物の両方を包含する。これらには、例えば、デンプンの加水分解物(グルコース単糖)、サトウダイコンの加水分解物(グルコース、フルクトースおよびアラビノース単糖)、サトウキビの加水分解物(スクロース二糖)、ペクチンの加水分解物(ガラクツロン酸単糖)またはリグノセルロースの加水分解物(セルロース、キシロース、アラビノース、マンノースからのグルコース単糖、およびヘミセルロースからのガラクトース単糖、および非炭水化物リグニン)が包含される。さらに、野菜原材料の消化による廃棄物、例えば糖蜜(サトウダイコン)およびバガス(サトウキビ)も炭素源として用いることができる。
【0107】
産生株を培養するための好ましい炭素源は、グルコース、フルクトース、スクロース、マンノース、キシロース、アラビノース、およびデンプン、リグノセルロース、サトウキビまたはサトウダイコンから得ることができる植物加水分解物である。
【0108】
特に好ましい炭素源は、単離された形態または植物加水分解物の成分としてのグルコースおよびスクロースである。
【0109】
特に好ましい炭素源はグルコースである。
【0110】
窒素源は、生産株がバイオマスを形成するために用いることができるものである。これらには、NHOHとしての気体状または水溶液中のアンモニア、または例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウムもしくは硝酸アンモニウム等のその塩が包含される。さらに、適切な窒素源は、例えばKNO、NaNO、硝酸アンモニウム、Ca(NO、Mg(NO等の既知の硝酸塩、および例えば尿素等の他の窒素源である。窒素源には、例えば、酵母エキス、プロテオースペプトン、麦芽エキス、大豆ペプトン、カザミノ酸、コーンスティープリカー(液体またはいわゆるCSDとして乾燥されたもの)、ならびにNZアミンおよび酵母窒素塩基等のアミノ酸の複雑な混合物も包含される。
【0111】
システインおよびシステイン誘導体の効率的な生産には、バッチ形式での1回の添加または連続供給のいずれかによる硫黄源の計量添加が必要である。連続的な計量添加は、純粋な供給溶液として、または例えばグルコース等のさらなる供給成分との混合物として行うことができる。
【0112】
適切な硫黄源は、硫酸塩、亜硫酸塩、亜ジチオン酸塩、チオ硫酸塩または硫化物の塩であり、所定の安定性でそれぞれの酸を用いることも考えられる。
【0113】
好ましい硫黄源は、硫酸塩、亜硫酸塩、チオ硫酸塩および硫化物の塩である。
【0114】
特に好ましい硫黄源は、硫酸塩およびチオ硫酸塩である。
【0115】
特に好ましいものは、例えばチオ硫酸ナトリウムおよびチオ硫酸アンモニウム等のチオ硫酸塩である。
【0116】
培養は、生産株のスターター培養物を培地に接種し、次いで栄養源をさらに供給することなく細胞を増殖させることを含む、いわゆるバッチモードで行うことができる。
【0117】
培養は、栄養源(供給物)の消費を補うために、バッチモードでの生育の初期段階の後に栄養源(供給物)を追加供給することを含む、いわゆるフェドバッチモードで行うこともできる。供給物は、炭素源、窒素源、硫黄源、生産に重要な1種以上のビタミンまたは微量元素、またはこれらの組み合わせから構成され得る。供給物成分は、混合物として一緒に計量することもでき、または個々の供給物セクションに別々に計量することもできる。さらに、システイン産生を特異的に増大させる添加物と同様に、他の培地成分も供給物に添加することができる。供給物は、連続的または部分的に(不連続的に)、あるいは連続的および不連続的な供給物の組み合わせで供給することができる。フェドバッチモードでの培養が好ましい。
【0118】
供給物中の好ましい炭素源は、グルコース、スクロース、およびグルコース含有またはスクロース含有植物加水分解物、および任意の混合比の好ましい炭素源の混合物である。
【0119】
供給物中の特に好ましい炭素源はグルコースである。
【0120】
好ましくは、培養物の炭素源は、生産段階における発酵槽中の炭素源の量が10g/Lを超えないように計量される。最大濃度が2g/Lであることが好ましく、最大濃度が0.5g/Lであることが特に好ましく、最大濃度が0.1g/Lであることがとりわけ好ましい。
【0121】
供給物中の好ましい窒素源は、NHOHとしての気体状または水溶液中のアンモニア、ならびにその塩である硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウムおよび塩化アンモニウム、さらに尿素、KNO、NaNOおよび硝酸アンモニウム、酵母。エキス、プロテオースペプトン、麦芽エキス、大豆ペプトン、カザミノ酸、コーンスティープリカー、NZアミンおよび酵母窒素塩基である。
【0122】
供給物中の特に好ましい窒素源は、アンモニアまたはアンモニウム塩、尿素、酵母エキス、大豆ペプトン、麦芽エキスまたはコーンスティープリカー(液体または乾燥形態)である。
【0123】
供給物中の好ましい硫黄源は、硫酸塩、亜硫酸塩、チオ硫酸塩および硫化物の塩である。
【0124】
供給物中の特に好ましい硫黄源は、硫酸塩およびチオ硫酸塩である。
【0125】
供給物中の硫黄源として特に好ましいのは、例えば、チオ硫酸ナトリウムおよびチオ硫酸アンモニウム等のチオ硫酸塩である。
【0126】
さらなる培地添加物として、リン、塩素、ナトリウム、マグネシウム、窒素、カリウム、カルシウム、鉄の元素の塩、および微量(つまり、μM濃度)のモリブデン、ホウ素、コバルト、マンガン、亜鉛、銅、ニッケルの元素の塩を添加することができる。さらに、有機酸(例えば、酢酸、クエン酸)、アミノ酸(例えば、イソロイシン)およびビタミン(例えば、ビタミンB1、ビタミンB6)を培地に添加することができる。
【0127】
培養は、産生株の増殖およびシステイン産生を促進するpHおよび温度条件下で行われる。有用なpHの範囲は、pH5~pH9までの範囲である。pH5.5~pH8までのpH範囲が好ましい。pH6.0~pH7.5までのpH範囲が特に好ましい。
【0128】
産生株の増殖に好ましい温度範囲は20℃~40℃である。温度範囲は、特に好ましくは25℃~37℃であり、とりわけ好ましくは28℃~34℃である。
【0129】
産生株の増殖は、任意に酸素を供給せずに(嫌気性培養)、または酸素を供給して(好気性培養)行うことができる。酸素を用いた好気性培養が好ましい。
【0130】
システイン生産のための本発明の株の好気性培養の場合、少なくとも10%(v/v)、好ましくは少なくとも20%(v/v)、特に好ましくは少なくとも30%(v/v)の飽和が酸素含有量に設定される。従来技術によれば、培養中の酸素飽和度は、ガス供給および撹拌速度の組み合わせによって自動的に調節される。
【0131】
酸素の供給は、圧縮空気または純粋な酸素の導入によって確保される。圧縮空気の導入による好気性培養が好ましい。好気性培養における圧縮空気の供給の有用な範囲は、0.05vvm~10vvm(vvm:1分あたりの発酵容積1リットルあたりの圧縮空気のリットルで指定される発酵バッチへの圧縮空気の導入)である。0.2vvm~8vvmの圧縮空気の導入が好ましく、0.4~6vvmの圧縮空気の導入が特に好ましく、0.8~5vvmの圧縮空気の導入がとりわけ好ましい。
【0132】
最大撹拌速度は2500rpmであり、好ましくは2000rpm、特に好ましくは1800rpmである。
【0133】
培養時間は10~200時間である。20~120時間の培養時間が好ましい。30~100時間の培養時間が特に好ましい。
【0134】
上述した方法によって得られる培養バッチは、培養上清中に溶解した形で、または沈殿したシスチンとして酸化された形でシステインを含む。培養バッチに含まれるシステインまたはシスチンは、さらなる精製(work-up)をすることなくそのままさらに用いられるか、または培養バッチから分離することができる。
【0135】
好ましくは、この方法は、形成されたシステインが単離されることを特徴とする。システインおよびシスチンの単離には、遠心分離、デカンテーション、鉱酸による粗生成物の溶解、濾過、抽出、クロマトグラフィーもしくは結晶化、または沈殿を含む既知のプロセス工程を利用することができる。前記プロセス工程は、所望の純度でシステインを単離するために、任意の形態で組み合わせることができる。望ましい純度は、その後の使用に依存する。
【0136】
精製によって得られたシスチンは、さらなる使用のためにシステインに還元することができる。電気化学的プロセスにおいてL-シスチンをL-システインに還元するプロセスは、EP0235908に開示されている。
【0137】
分光測光法、NMR、ガスクロマトグラフィー、HPLC、質量分析、重量測定またはこれらの分析方法の組み合わせを含む、システインまたはシスチン生成物の純度を特定、定量化および決定するための様々な分析方法を利用することができる。
【0138】
本発明はまた、化合物の発酵生産のための改良された微生物株を生産するために用いることができ、その生合成は3-ホスホグリセレートから始まり、L-セリンを介してL-システインおよびL-シスチンに至る。これはまた、ホスホセリン、O-アセチルセリン、N-アセチルセリンおよびチアゾリジン、L-システインとピルビン酸との縮合生成物を含む、L-セリンおよびL-システインの誘導体の発酵生産のための微生物株を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0139】
図は、実施例で用いられるプラスミドを示す。
図1図1は、実施例1および実施例2で用いられる3.4kbのベクターpKD13を示す。
図2図2は、実施例1および実施例3で用いられる6.3kbのベクターpKD46を示す。
図3図3は、実施例3で用いられる5kbのベクターpKan-SacBを示す。
図4図4は、実施例4で用いられる4.2kbのベクターpACYC184を示す。
【実施例0140】
本発明を以下の実施例によってさらに説明するが、本発明はそれらによって限定されるものではない。
【0141】
実施例1:エシェリヒア・コリにおけるppsA欠失突然変異体の作製
遺伝子単離および株開発に用いた親株は、エシェリヒア・コリK12 W3110(DSMZ-German Colection of Microorganism and Cell Cultures GmbH社から株番号DSM5911として市販されている)であった。
【0142】
遺伝子不活性化の対象を、E.coli由来のppsA遺伝子のコード配列とした。E.coli K12由来のppsA遺伝子(Genbank Gene ID:946209)のDNA配列は、配列番号1に開示されている。ヌクレオチド333~2711(E.coliのppsAとして同定されている)は、配列番号2に開示されるアミノ酸配列を有するホスホエノールピルビン酸シンターゼタンパク質をコードする(E.coliのPpsA)。
【0143】
E.coliのppsAは、以下に詳述するように、Gene Bridges GmbH社のRed(登録商標)/ET(登録商標)を用いて不活性化した(「Quick & Easy E. coli Gene Deletion Kit」のユーザーマニュアルに記載されており、「Technical Protocol, Quick & Easy E. coli Gene Deletion Kit, by Red(登録商標)/ET(登録商標) Recombination, Cat. No. K006, Version 2.3, June 2012」およびその中の引用文献、例えばDatsenko and Wanner, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97 (2000): 6640-6645を参照されたい)。この目的のために、プラスミドpKD13、pKD46およびpCP20が用いられた:
-3.4kbのプラスミドpKD13(図1)は、アクセション番号AY048744.1で「GenBank」の遺伝子データベースに開示されている。
-6.3kbのプラスミドpKD46(図2)は、アクセション番号AY048746.1で「GenBank」の遺伝子データベースに開示されている。
-9.4kbのプラスミドpCP20は、Cherepanov and Wackernagel, Gene 158 (1995): 9-14に開示されている。
【0144】
Lambda Redシステムを用いてE.coli W3110のppsA遺伝子を不活性化するために、以下の手順を行った:
【0145】
1.E.coli W3110をプラスミドpKD46(いわゆる「Redリコンビナーゼ」プラスミド、図2)で形質転換し、アンピシリン耐性クローンを単離した(W3110×pKD46と呼ぶ)。
【0146】
2.その不活性化に適したppsA特異的DNAフラグメントを、プラスミドpKD13のDNA(図1)、ならびにプライマーpps-5f(配列番号7)およびpps-6r(配列番号8)を用いたPCR反応(「Phusion(商標)High-Fidelity」DNAポリメラーゼ、Thermo Scientific(商標)社)を用いて製造した。
【0147】
プライマーpps-5fはppsA遺伝子の5’領域からの30ヌクレオチド(nt)(配列番号1のnt333~362)を含み、それにプラスミドpKD13に特異的な20nt(図1で「pr-1」と呼ばれる)が結合している。
【0148】
プライマーpps-6rはppsA遺伝子の3’領域からの30nt(配列番号1のnt2682~2711、逆相補型)を含み、それにプラスミドpKD13に特異的な20nt(図1で「pr-2」と呼ばれる)が結合している。
【0149】
プライマーpps-5fおよびpps-6rを用いて、プラスミドpKD13のDNAにより、5’末端および3’末端の両方に、E.coli W3110由来のppsA遺伝子に特異的なDNAの30ntセクションを含む1.4kbのPCR産物が製造された。さらに、PCR産物は、pKD13に含まれるカナマイシン耐性遺伝子の発現カセット、カナマイシン発現カセットの5’および3’末端に隣接する、いわゆる「FRTダイレクトリピート」(図1において「FRT1」および「FRT2」と呼ばれる)、抗生物質マーカーであるカナマイシンを除去するための後の作業工程において「FLPリコンビナーゼ」(プラスミドpCP20に含まれる)の認識配列として用いられるDNAの短いセクションを含んでいた。
【0150】
3.1.4kbのPCR産物を単離し、当業者によく知られており、メチル化DNAのみを切断する制限エンドヌクレアーゼDpnIで処理して、残留pKD13プラスミドDNAを除去した。PCR反応からの非メチル化DNAは分解されなかった。
【0151】
4.ppsA遺伝子に特異的で、カナマイシン耐性遺伝子の発現カセットを含む1.4kbのPCR産物をE.coli W3110×pKD46に形質転換し、カナマイシン耐性クローンを30℃のLBkanプレート上で分離した。LBkanプレートには、LB培地(10g/Lのトリプトン、5g/Lの酵母エキス、5g/LのNaCl)、1.5%の寒天、および15mg/Lのカナマイシンが含まれていた。
【0152】
5.得られたカナマイシン耐性クローンのうち10個をLBkanプレートで精製し(すなわち、特異化によるクローンの単離)、PCR反応でチェックして、カナマイシン耐性カセットがppsA遺伝子に正しく組み込まれているかどうかを確認した。
【0153】
PCR反応(「Phusion(商標)High-Fidelity」DNAポリメラーゼ、Thermo Scientific(商標)社)に用いたゲノムDNAを、DNA単離キット(Qiagen社)を用いて、Lbkan培地(10g/Lのトリプトン、5g/Lの酵母エキス、5g/LのNaCl、15mg/Lのカナマイシン)中のE.coli W3110のカナマイシン耐性クローンの培養物中の細胞から単離した。E.coli W3110野生型株のゲノムDNAをコントロールとして用いた。PCR反応に用いたプライマーは、pps-7f(配列番号:9)およびpps-8r(配列番号:10)であった。プライマーpps-7fは、配列番号1からのnt167~188を含み、プライマーpps-8rは配列番号1からのnt2779~2800を逆相補型で含んでいた。
【0154】
E.coli W3110野生型DNAは、完全な遺伝子で予想されるように、PCR反応で2630bpのDNAフラグメントを生成した。対照的に、研究中のカナマイシン耐性クローンは、1.4kbのPCR産物が、プライマーpps-5fおよびpps-6rによって定義される部位でppsA遺伝子に組み込まれた場合に予想されるように、PCR反応で約1660bpのDNAフラグメントを生成した。この結果から、カナマイシン耐性遺伝子がppsA遺伝子座に首尾よく組み込まれ、ppsA遺伝子が不活性化されたことが示された。不活性化されたppsA遺伝子を含むクローンを選抜し、W3110-ΔppsA::kanと命名した。
【0155】
6.カナマイシン選択マーカーを除去するために、W3110-ΔppsA::kanをプラスミドpCP20で形質転換し、30℃で形質転換体を選抜した。9.4kbのベクターpCP20は、Cherepanov and Wackernagel (1995), Gene 158: 9-14に開示されている。FLPリコンビナーゼの遺伝子はベクターpCP20上に存在している。FLPリコンビナーゼは、カナマイシン耐性遺伝子の発現カセットに隣接するFRT配列を認識し、カナマイシン発現カセットの除去をもたらす。この目的のために、30℃で得られたクローンを37℃でインキュベートした。これらの条件下で、FLPリコンビナーゼの発現が誘導され、pCP20ベクターの複製が抑制された。
【0156】
この工程の結果、ppsA遺伝子が不活性化され、カナマイシンに対する感受性が回復したクローンが得られた(いわゆる抗生物質選択マーカーの「治癒(curing)」)。ΔppsA突然変異体のゲノムからカナマイシンカセットを除去することにより、二重または多重の突然変異体を生成するためのさらに変異を導入することができる。
【0157】
W3110-ΔppsA::kanはpCP20プラスミドによる処理後にカナマイシン感受性を回復した。これは以下のように確認された:
-LBプレートおよびLBkanプレートにプレーティングすることにより:
LBプレート上での増殖は陽性であったのに対し、LBkanプレート上での増殖は観察されなくなり、これはゲノムからのカナマイシンカセットの除去に成功したことを示唆するものである。
【0158】
PCR反応により:
この目的のために、カナマイシン感受性クローンからゲノムDNAを単離し(Qiagen DNA isolation kit)、プライマーpps-7f(配列番号9)およびpps-8r(配列番号10)を用いたPCR反応(「Phusion(商標) High-Fidelity」DNA Polymerase、Thermo Scientific(商標)社)において用いられた。E.coli W3110野生型DNAは、PCR反応において約2630bpのDNAフラグメントを生成し、これは完全な遺伝子について予想されたとおりであった。対照的に、カナマイシン感受性クローンは、PCR反応において約300bpのDNAフラグメントを生じ、これは相同組換え後に残る不活性化ppsA遺伝子の5’および3’フラグメントの予想サイズに対応していた。
【0159】
この工程から分離された株を、E.coli W3110-ΔppsAと命名した。この株は、不活性化されたppsA遺伝子を含み、抗生物質カナマイシンに対する感受性を回復したという事実によって識別される。
【0160】
実施例2:パントエア・アナナティスにおけるppsA欠失突然変異体の作製
遺伝子単離および株開発に用いられた親株はパントエア・アナナティス(DSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbH社から株番号DSM30070として市販されている)であった。
【0161】
遺伝子不活性化の対象を、パントエア・アナナティス由来のppsA遺伝子とした。P.ananatisのppsA遺伝子のDNA配列(Genbank Gene ID:31510655)は、配列番号3に開示されている。ヌクレオチド417~2801(P.ananatisのppsAとして同定されている)は、配列番号4に開示されるアミノ酸配列を有するホスホエノールピルビン酸シンターゼタンパク質をコードする(P.ananatisのPpsA)。
【0162】
P.ananatisのppsA遺伝子は、以下に詳述するように、Gene Bridges GmbH社のRed(登録商標)/ET(登録商標)を用いて不活性化した(「Quick & Easy E. coli Gene Deletion Kit」のユーザーマニュアルに記載されており、「Technical Protocol, Quick & Easy E. coli Gene Deletion Kit, by Red(登録商標)/ET(登録商標)Recombination, Cat. No. K006, Version 2.3, June 2012」およびその中の引用文献、例えばDatsenko and Wanner, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97 (2000): 6640-6645を参照されたい)。この目的のために、プラスミドpKD13およびpRedETが用いられた:
-3.4kbのプラスミドpKD13(図1)は、アクセション番号AY048744.1で「GenBank」の遺伝子データベースに開示されている。
-市販の9.3kbのプラスミドpRedETは、「Quick & Easy E. coli Gene Deletion Kit」のユーザーマニュアルに記載されており、「Technical Protocol, Quick & Easy E. coli Gene Deletion Kit, by Red(登録商標)/ET(登録商標)Recombination, Cat. No. K006, Version 2.3, June 2012」を参照されたい。
【0163】
Lambda Redシステムを用いてP.ananatisのppsA遺伝子を不活性化するために、次の手順を行った:
【0164】
1.P.ananatisをプラスミドpRedET(いわゆる「Redリコンビナーゼ」プラスミド)で形質転換し、テトラサイクリン耐性クローンを単離した(P.アナナティス×pRedETと呼ぶ)。
【0165】
2.その不活性化に適したppsA特異的DNAフラグメントを、プラスミドpKD13のDNA(図1)、ならびにプライマーppsapa-3f(配列番号11)およびppsapa-4r(配列番号12)を用いたPCR反応(「Phusion(商標)High-Fidelity」DNAポリメラーゼ、Thermo Scientific(商標)社)を用いて製造した。
【0166】
プライマーppsapa-3fは、ppsA遺伝子の5’領域からの49nt(配列番号3のnt417~465)を含み、それにプラスミドpKD13に特異的な20nt(図1で「pr-1」と呼ばれる)が結合している。
【0167】
プライマーppsapa-4rは、ppsA遺伝子の3’領域からの49nt(配列番号3のnt2753~2801、逆相補型)を含み、それにプラスミドpKD13に特異的な20nt(図1で「pr-2」と呼ばれる)が結合している。
【0168】
プライマーppsapa-3fおよびppsapa-4rを用いて、プラスミドpKD13のDNAにより、5’末端および3’末端の両方に、P.ananatis由来のppsA遺伝子に特異的なDNA49ntセクションを含む1.4kbのPCR産物が製造された。さらに、PCR産物は、pKD13に含まれるカナマイシン耐性遺伝子の発現カセット、カナマイシン発現カセットの5’および3’末端に隣接する、いわゆる「FRTダイレクトリピート」(図1において「FRT1」および「FRT1」と呼ばれる)、必要に応じて、ppsA欠失突然変異体において抗生物質マーカーであるカナマイシンの除去を可能にするDNAの短いセクションを含んでいた。
【0169】
3.1.4kbのPCR産物を単離し、当業者によく知られており、メチル化DNAのみを切断する制限エンドヌクレアーゼDpnIで処理して、残留pKD13プラスミドDNAを除去した。PCR反応からの非メチル化DNAは分解されなかった。
【0170】
4.ppsA遺伝子に特異的で、カナマイシン耐性遺伝子の発現カセットを含む1.4kbのPCR産物をP.ananatis×pRedETに形質転換し、カナマイシン耐性クローンを30℃のLBkanプレート上で分離した。LBkanプレートには、LB培地(10g/Lのトリプトン、5g/Lの酵母エキス、5g/LのNaCl)、1.5%の寒天、および15mg/Lのカナマイシンが含まれていた。
【0171】
5.カナマイシン耐性クローンをLBkanプレートで精製し(すなわち、特異化によるクローンの単離)、PCR反応でチェックして、カナマイシン耐性カセットがppsA遺伝子に正しく組み込まれているかどうかを確認した。
【0172】
PCR反応(「Phusion(商標)High-Fidelity」DNAポリメラーゼ、Thermo Scientific(商標)社)に用いたゲノムDNAを、DNA単離キット(Qiagen社)を用いて、Lbkan培地(10g/Lのトリプトン、5g/Lの酵母エキス、5g/LのNaCl、15mg/Lのカナマイシン)中のP.ananatisのカナマイシン耐性クローンの培養物中の細胞から単離した。P.ananatis野生型株のゲノムDNAをコントロールとして用いた。PCR反応に用いたプライマーは、ppsapa-1f(配列番号13)およびppsapa-2r(配列番号14)であった。プライマーppsapa-1fは配列番号3のnt281~302を含み、プライマーppsapa-2rは配列番号3のnt2901~2922を逆相補型で含んでいた。
【0173】
P.ananatis野生型DNAは、完全な遺伝子で予想されるように、PCR反応で2640bpのDNAフラグメントを生成した。対照的に、研究中のカナマイシン耐性クローンは、約1.4kbのPCR産物が、プライマーppsapa-3f(配列番号11)およびppsapa-4r(配列番号12)によって定義される部位でppsA遺伝子に組み込まれた場合に予想されるように、PCR反応で1670bpのDNAフラグメントを生成した。この結果から、カナマイシン耐性遺伝子がppsA遺伝子座に首尾よく組み込まれ、ppsA遺伝子が不活性化されたことが示された。不活性化されたppsA遺伝子を含むクローンを選抜し、P.ananatis-ΔppsA::kanと命名した。
【0174】
実施例3:E.coli W3110-ppsA-MHIの作製
E.coli W3110-ppsA-MHIを、ppsA構造遺伝子の変異により酵素活性の減弱化を引き起こすことを特徴とし、当業者に知られているLambda Red組換えと、遺伝的改変の対抗選択スクリーニングとの組み合わせを用いて作製した(例えば、Sun et al., Appl. Env. Microbiol. (2008) 74: 4241-4245を参照されたい)。遺伝子ppsA-MHIのDNA配列は、配列番号5(ppsA-MHI)に開示され、配列番号6(PpsA-MHI)で特定される配列を有するタンパク質をコードする。
【0175】
手順は以下のとおりである:
1.ppsA WT遺伝子の一部(配列番号1のnt167~nt2800)、すなわちcdsならびに5’および3’隣接配列を含む2.6kbのDNAフラグメントを、pps-7f(配列番号9)およびpps-8r(配列番号10)を用いたPCRにより、E.coli W3110のゲノムDNAから単離した。
【0176】
2.「部位特異的」突然変異誘発によってppsA WT遺伝子に突然変異を連続的に導入することにより、ppsAWT遺伝子からppsA-MHIを得た。これは、ユーザーマニュアルの指示に従って、Agilent社の市販のクローニングキット「QuickChange II Site-Directed Mutagenesis Kit」を用いて行った。
【0177】
3.E.coli W3110のppsA WT遺伝子をppsA-MHIに交換するために、まず、プライマーpps-9f(配列番号15)およびpps-10r(配列番号16)を用いたPCRによるプラスミドpKan-SacB(図3)からの3.2kb のKan-sacBカセットの単離を行った。
【0178】
プラスミドpKan-sacBには、カナマイシン(Kan)耐性遺伝子および酵素レバンスクラーゼをコードするsacB遺伝子の両方の発現カセットが含まれていた。
【0179】
プライマーpps-9fは、ppsA遺伝子の開始ATG(配列番号1のnt333~362)から始まる30ntを含み、それにプラスミドpKan-SacBに特異的な20nt(図3で「pr-f」と呼ばれる)が結合している。
【0180】
プライマーpps-10rは、ppsA遺伝子の終止コドンから30nt(配列番号1のnt2682~2711、逆相補型)を含み、それにプラスミドpKan-SacBに特異的な21nt(図3で「pr-r」と呼ばれる)が結合している。
【0181】
4.E.coli W3110×pKD46(その産生については、実施例1を参照されたい)をppsA特異的3.2kb PCR産物で形質転換し、カナマイシン耐性クローンを単離した。
【0182】
5.クローンをLBSCプレート(10g/Lのトリプトン、5g/Lの酵母抽出物、7%のスクロース、1.5%の寒天、および15mg/Lのカナマイシン)に播種した。
【0183】
組み込まれたsacB遺伝子を含むクローンは、スクロースから毒性のレバンを生成し、これが増殖阻害をもたらした。そのようなクローンを選択し、PCR反応でチェックして、Kan-sacBカセットがppsA遺伝子に正しく組み込まれているかどうかを決定した。PCR反応(「Phusion(商標)High-Fidelity」DNAポリメラーゼ、Thermo Scientific(商標)社)に用いたゲノムDNAを、予めDNA単離キット(Qiagen社)を用いて、Lbkan培地(10g/Lのトリプトン、5g/Lの酵母エキス、5g/LのNaCl、15mg/Lのカナマイシン)中のE.coli W3110のカナマイシン耐性クローンの培養物中の細胞から単離した。E.coli W3110野生型株のゲノムDNAをコントロールとして用いた。PCR反応に用いたプライマーは、pps-7f(配列番号:9)およびpps-8r(配列番号:10)であった。
【0184】
E.coli W3110野生型DNAは、完全な遺伝子で予想されるように、PCR反応で2630ntのDNAフラグメントを生成した。対照的に、カナマイシン耐性クローンは、3.2kbのPCR産物が、プライマーpps-9f(配列番号15)およびpps-10r(配列番号16)によって定義される部位でppsA遺伝子に組み込まれた場合に予想されるように、PCR反応で約3400ntのDNAフラグメントを生成した。この結果から、Kan-sacBカセットがppsA遺伝子座に首尾よく組み込まれ、ppsA遺伝子が不活性化されたことが示されした。組み込まれたKan-sacBカセットを含むクローンを選抜し、W3110-ΔppsA::kan-sacB×pKD46と命名した。
【0185】
6.次の工程において、Kan-sacBカセットをppsA-MHI遺伝子と交換した。この目的のために、プライマーpps-11f(配列番号:17)およびpps-12r(配列番号18)を用いたPCR反応(「Phusion(商標) High-Fidelity」DNA Polymerase、Thermo Scientific(商標)社)において、工程2からのppsA-MHI DNAフラグメントから2.5kbのDNAフラグメントが増幅された。プライマーpps-11fは配列番号1のnt300~319を含み、プライマーpps-12rは配列番号1のnt2743~2763を逆相補型で含んでいた。
【0186】
7.2.5kbのppsA-MHI遺伝子をE.coli W3110-ΔppsA::kan-sacB×pKD46に形質転換し、クローンをカナマイシンを含まないLBSプレート(10g/Lのトリプトン、5g/Lの酵母抽出物、7%スクロース、1.5%の寒天)で選抜した。活性なsacB遺伝子を含まないクローンのみがLBSプレートで増殖した。
【0187】
これらのクローンをLBkanプレート上に播種して、活性Kan遺伝子を含まず、その増殖がカナマイシンの存在下で阻害されたクローンを選抜した。
【0188】
スクロースの存在下で正の増殖を示し、カナマイシンの存在下で負の増殖を示すクローンを選抜し、PCR反応でチェックして、KansacBカセットがppsA-MHI遺伝子によって正しく置換されたかどうかを決定した。
【0189】
ゲノムDNAを、LB培地(10g/Lのトリプトン、5g/Lの酵母抽出物、5g/LのNaCl)中の培養物の細胞からDNA単離キット(Qiagen社)を用いて得た。E.coli W3110野生型株のゲノムDNAをコントロールとして用いた。PCR反応に用いたプライマーは、pps-7f(配列番号9)およびpps-8r(配列番号10)であった。予想サイズが2630ntのPCR産物を、DNAシーケンシング(Eurofins Genomics社)によって分析した。正しく組み込まれたppsA-MHI遺伝子を含むクローンは、配列番号6からの配列に対応するタンパク質をコードする、配列番号5に開示されるDNA配列を生成した。突然変異V126M、R427HおよびV434Iを含む正しいppsA-MHI遺伝子を含むクローンを選抜し、E.coli W3110-ppsA-MHIと命名した。
【0190】
実施例4:システイン産生株の生成
用いたシステイン特異的産生プラスミドは、親ベクターpACYC184(図4)に由来するプラスミドpACYC184-cysEX-GAPDH-ORF306-serA317であった。pACYC184-cysEX-GAPDH-ORF306-serA317は、EP0885962B1に開示されるプラスミドpACYC184-cysEX-GAPDH-ORF306の誘導体である。プラスミドpACYC184-cysEX-GAPDH-ORF306は、複製起点およびテトラサイクリン耐性遺伝子(親ベクターpACYC184)だけでなく、システインによるフィードバック阻害が低下したセリンO-アセチルトランスフェラーゼをコードするcysEX対立遺伝子、およびその発現が構成的GAPDHプロモーターによって制御される流出遺伝子ydeD(ORF306)も含んでいる。
【0191】
さらに、pACYC184-cysEX-GAPDH-ORF306-serA317は、ydeD(ORF306)流出遺伝子の後にクローニングされ、SerAタンパク質(全長:410アミノ酸)のN末端の317アミノ酸をコードするserA317遺伝子フラグメントをさらに含む。E.coliのserA遺伝子は、「GenBank」の遺伝子データベースに遺伝子ID945258として開示されている。serA317は、Bell et al., Eur. J. Biochem. (2002) 269: 4176-418に開示されており、その中で「NSD:317」と呼ばれ、3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼのセリンフィードバック耐性変異体をコードする。serA317の発現は、serAプロモーターによって制御される。
【0192】
E.coli W3110株、E. coli W3110-ΔppsA株、E.coli W3110-ppsA-MHI株、P.ananatisおよびP.ananatis-ΔppsA::kan株を、それぞれプラスミドpACYC184-cysEX-GAPDH-ORF306-serA317(以下の実施例においてpCYSと呼ばれる)で形質転換した。形質転換は、EP0885962B1に記載されているように、エレクトロポレーションによって先行技術に従って行った。
【0193】
LBtet寒天プレート(10g/Lのトリプトン、5g/Lの酵母抽出物、5g/LのNaCl、1.5%の寒天、15mg/Lのテトラサイクリン)上で、プラスミドを有する形質転換体を選抜した。選抜された形質転換体を、QIAprep Spin Plasmid Kit(Qiagen社)によるプラスミド単離および制限分析により、形質転換pCYSプラスミドについてチェックした。正しく組み込まれたプラスミドpCYSを含む形質転換体を培養して、ppsA酵素活性をチェックし(実施例5)、システイン産生を決定した(実施例6および実施例7)。
【0194】
実施例5:ppsA酵素活性の測定
産生プラスミドpCYS(実施例4)でそれぞれ形質転換されたE.coli株W3110、W3110-ΔppsA、W3110-ppsA-MHIのppsA酵素活性を決定した。50mlのSM1培地(その組成については、実施例6を参照されたい)中の3種の株の振盪フラスコ培養からの細胞を、10分間の遠心分離によってペレット化し、10mlの0.9%(w/v)NaClで1回洗浄した。細胞ペレットを10mlのアッセイ緩衝液(100mMのTris-HCl、pH8.0;10mMのMgCl)に取り、細胞抽出物を調製した。
【0195】
細胞ホモジナイザーFastPrep-24(商標)5Gを用いた。この目的のために、2×1mlの細胞懸濁液を、製造業者によって事前に作製され、ガラスビーズ(「Lysing Matrix B」)を含む1.5mlチューブ中で破砕した(3×20秒、6000rpmの振盪周波数でインターバル間の各時間に30秒間の休止)。得られたホモジネートを遠心分離し、活性を決定するための細胞抽出物として上清を用いた。
【0196】
抽出物のタンパク質含有量を、製造業者の説明書に従って、「Qubit(登録商標)Protein Assay Kit」を用いて、Thermo Fisher Scientific社のQubit 3.0 Fluorometerによって測定した。
【0197】
ppsA酵素活性を測定するために、Sigma Aldrichi社のリン酸検出キット「Malachite Green Phosphate Assay Kit」(カタログ番号MAK307)を製造元の説明書に従って用いた。その原理は、ppsA酵素活性による平衡反応(4)におけるATPによるピルビン酸の変換によるホスホエノールピルビン酸の形成である。これは、活性を決定するために用いられるリン酸塩の化学量論量を生成する。
-このアッセイには、1mlのアッセイバッファー(100mMのTris-HCl、pH8.0;10mMのMgCl)中の100μgの細胞抽出物、4mMのピルビン酸ナトリウム、および4mMのATPが含まれていた。
-様々なアッセイを30℃でインキュベートした。
-インキュベーション開始から0分、10分、20分、30分および60分後に、それぞれのアッセイから50μlを取り出し、750μlのHOに添加し、最後に「Malachite Green Phosphate Assay Kit」の試薬200μlと混合した。
-30分間のインキュベーション後、形成されたリン酸の量を、リン酸標準曲線を用いて、製造元の指示に従って、620nmでの吸光度を測定することにより測光的に測定した。最後に、U/ml(1U=μmol基質ターンオーバー/分)抽出物中のppsA酵素活性を、それぞれのアッセイからのサンプリング時間に基づいて、リン酸の測定量から決定した。特異的なppsA酵素活性を、ppsA酵素活性を細胞抽出物の総タンパク質1mgに基づいて計算した(U/mgタンパク質)。
【0198】
【表1】
【0199】
実施例6:振盪フラスコにおけるシステイン生産
振盪フラスコで培養するための前培養として、15mg/Lのテトラサイクリンをさらに含む3mlのLB培地(10g/Lのトリプトン、5g/Lの酵母エキス、10g/LのNaCl)にそれぞれの株を接種し、30℃、135rpmのシェーカーで16時間インキュベートした。研究した株は、E.coli W3110、W3110-ΔppsA、W3110-ppsA-MHIであり、第2の実験においては、P.ananatisおよびP.ananatis-ΔppsA::kanであり、それぞれ産生プラスミドpCYS(例4)で形質転換されていた。
【0200】
本培養:その後、それぞれの前培養の一部を、15g/Lのグルコース、5mg/LのビタミンB1および15mg/Lのテトラサイクリンを含む30mlのSM1培地を含む300ml三角フラスコ(バッフル付き)に移した。
【0201】
SM1培地の組成:12g/LのKHPO、3g/LのKHPO、5g/Lの(NHSO、0.3g/LのMgSOx7HO、0.015g/LのCaClx2HO、0.002g/LのFeSOx7HO、1g/Lのクエン酸Nax2HO、0.1g/LのNaCl;1ml/Lの微量元素溶液。
【0202】
微量元素溶液の組成:0.15g/LのNaMoOx2HO、2.5g/LのHBO、0.7g/LのCoClx6HO、0.25g/LのCuSOx5HO、1.6g/LのMnCl1x4HO、0.3g/LのZnSOx7HO。
【0203】
本培養物を、0.025/mlの初期細胞密度OD600/ml(600nmで測定された本培養物の光学密度)を確立するのに十分な前培養物で接種した。これから始めて、30mlバッチ全体を30℃、135rpmで24時間インキュベートした。
【0204】
24時間後、サンプルを採取し、細胞密度OD600/mlおよび培養上清中の総システイン含有量を決定し、Gaitondeによる比色アッセイ(Gaitonde, M. K. (1967), Biochem. J. 104, 627-633)によりシステインの定量を行った。非常に酸性の反応条件下では、このアッセイは、システインと、システインとピルビン酸の縮合生成物である2-メチルチアゾリジン-2,4-ジカルボン酸(チアゾリジン)とが区別されないことに留意する必要があり、これについてはEP0885962B1に記載されている。式(2)に従って2つのシステイン分子の酸化によって形成されるL-シスチンは、同様に、pH8.0の希釈溶液中でジチオスレイトールによる還元によるアッセイでシステインとして検出される。結果を、言及されたE.coli株については表2に、P.ananatis株については表3に示す。
【0205】
【表2】
【0206】
【表3】
【0207】
実施例7:発酵槽におけるシステイン生産
E.coli W3110×pCYS、W3110-ppsA-MHI×pCYSおよびW3110-ΔppsA×pCYSを生産規模のフェドバッチ発酵で比較した。
【0208】
前培養1:
15mg/Lのテトラサイクリンを含む20mlのLB培地に、100mlのErlenmeyerフラスコ内のそれぞれの株を接種し、シェーカー(150rpm、30℃)で7時間インキュベートした。
【0209】
前培養2:
その後、前培養物1全体を、5g/Lのグルコース、5mg/LのビタミンB1および15mg/Lのテトラサイクリンを添加した100mlのSM1培地に移した(SM1培地の組成については、実施例6を参照されたい)。
【0210】
培養物をErlenmeyerフラスコ(容量1L)中で、30℃で17時間、150rpm(Inforsインキュベーターシェーカー)で振盪した。このインキュベーション後、細胞密度OD600/mlは3~5の間であった。
【0211】
主培地:
発酵は、Eppendorf社の「DASGIP(登録商標) Parallel Bioreactor System for Microbiology」発酵槽中で行った。総容量1.8Lの培養容器を用いた。発酵培地(900ml)には、15g/Lのグルコース、10g/Lのトリプトン(Difco社)、5g/Lの酵母エキス(Difco)、5g/Lの(NHSO、1.5g/LのKHPO、0.5g/LのNaCl、0.3g/LのMgSOx7HO、0.015g/LのCaClx2HO、0.075g/LのFeSOx7HO、1g/Lのクエン酸Nax2HOおよび1mlの微量元素溶液(実施例6を参照されたい)、0.005g/LのビタミンB1および15mg/Lのテトラサイクリンが含まれていた。
【0212】
発酵槽内のpHは、25%のNHOH溶液をポンピングすることによって最初に6.5に調整された。発酵中、25%のNHOHによる自動補正によりpHを6.5に維持した。接種のために、100mlの前培養物2を発酵容器にポンプで注入した。したがって、最初の体積は約1Lであった。培養物を最初に400rpmで撹拌し、無菌フィルターを介して2vvm(1分当たりの培地の体積当たりの空気の体積)の通気速度で滅菌した圧縮空気で通気した。これらの開始条件下で、接種前に酸素プローブを100%飽和に較正した。
【0213】
発酵中のO飽和度の目標値を30%に設定した。O飽和度が目標値を下回った後、O飽和度を目標値に戻すために調整カスケードを開始した。このために、最初にガス供給を連続的に増大させ(最大5vvmまで)、次いで撹拌速度を連続的に増大させた(最大1500rpmまで)。
【0214】
発酵を30℃で行った。2時間の発酵時間の後、チオ硫酸ナトリウム×5HOの滅菌60%(w/v)ストック溶液の形態の硫黄源を、1時間あたり1.5mlの速度で供給した。
【0215】
発酵槽内のグルコース含有量が最初の15g/Lから約2g/Lに低下すると、56%(w/w)のグルコース溶液を連続的に計量供給した。それ以降、発酵槽内のグルコース濃度が2g/Lを超えないように供給速度を調整した。グルコースは、YSI(Yellow Springs社、オハイオ州、米国)のグルコース分析装置を用いて測定した。
【0216】
発酵時間は48時間とした。その後、サンプルを発酵バッチから取り出し、培養上清(主にL-システインおよびチアゾリジン)および沈殿物(L-シスチン)中のL-システインおよびそれに由来する誘導体の含有量を別々に測定した。この目的のために、いずれの場合もGaitondeによる比色アッセイ(Gaitonde, M.K. (1967), Biochem. J. 104, 627-633)を行った。沈殿物中に存在するL-シスチンは、同じ方法で定量する前に、まず8%(v/v)塩酸に溶解する必要があった。最後に、システインの総量を、ペレット中および上清中のシステインの合計として決定した。
【0217】
表4に要約されるように、研究された株の細胞密度OD600/mlは同等であったが、コントロール株W3110×pCYSについてはいくらか高かった。対照的に、システインの生産量(g/L)は、W3110-ppsA-MHI×pCYSおよびW3110-ΔppsA×pCYSの両方で、野生型ppsA遺伝子を含むコントロール株W3110×pCYSよりも有意に高かった(約3倍)。
【0218】
制御された発酵条件かでは、ppsA酵素活性に関する活性の減弱化または不活性化がシステイン生産の有意な改善につながり、したがって株を改善するための適切な手段であるという結果が生産規模において示され、この結果は従来説明されていたものではなく、先行技術を考慮しても当業者にとって予想外である。
【0219】
【表4】
【0220】
図中で用いられる略語:
bla:アンピシリン(β-ラクタマーゼ)に対する耐性を付与する遺伝子
rrnB term:転写のためのrrnBターミネーター
kanR:カナマイシンに対する耐性を付与する遺伝子
ORI:複製起点
pr-1:プライマーの結合部位1
pr-2:プライマーの結合部位2
FRT1:FLPリコンビナーゼの認識配列1
FRT2:FLPリコンビナーゼの認識配列2
araC:araC遺伝子(リプレッサー遺伝子)
P araC:araC遺伝子のプロモーター
P araB:araB遺伝子のプロモーター
Gam:λファージのGam組換え遺伝子
Bet:λファージのBet組換え遺伝子
Exo:λファージのExo組換え遺伝子
ORI101:温度に感受性の複製起点
RepA:プラスミド複製タンパク質Aの遺伝子
sacB:レバンスクラーゼ遺伝子
pr-f:プライマーの結合部位f(フォワード)
pr-r:プライマーの結合部位r(リバース)
OriC:複製起点C
IHF:DNA結合タンパク質IHF(「組み込み宿主因子」)の結合部位
CamR:クロラムフェニコールに対する耐性を付与する遺伝子
TetR:テトラサイクリンに対する耐性を付与する遺伝子
P15A ORI:複製起点
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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【外国語明細書】