(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178249
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】グルカゴン受容体シグナル伝達の干渉による重度のインスリン抵抗性の処置方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20241217BHJP
A61P 5/50 20060101ALI20241217BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20241217BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20241217BHJP
C07K 16/26 20060101ALN20241217BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20241217BHJP
C12N 15/115 20100101ALN20241217BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61P5/50 ZNA
A61P3/10
A61P5/50
C07K16/28
C07K16/26
C12N15/113 140Z
C12N15/115 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024159035
(22)【出願日】2024-09-13
(62)【分割の表示】P 2022122568の分割
【原出願日】2017-08-29
(31)【優先権主張番号】62/381,263
(32)【優先日】2016-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/411,032
(32)【優先日】2016-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ジェスパー グロマダ
(72)【発明者】
【氏名】岡本 はるか
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン ジャスパース
(72)【発明者】
【氏名】ジョイス ハープ
(57)【要約】
【課題】グルカゴン受容体シグナル伝達の干渉による重度のインスリン抵抗性の処置方法の提供。
【解決手段】本明細書では、重度のインスリン抵抗性を有する患者を処置する方法が提供される。方法は、それを必要とする患者に治療量のGCG/GCGRシグナル伝達経路阻害剤を投与することを含み、これにより、血中グルコースもしくはベータ-ヒドロキシブチレートレベルが低下するか、または重度のインスリン抵抗性が媒介されるか、または重度のインスリン抵抗性によって特徴付けられる状態もしくは疾患が媒介されるか、または状態もしくは疾患と関連付けられる少なくとも1つの症状もしくは合併症が緩和されるか、もしくはその重症度が低減する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
図面に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルカゴン(GCG)阻害剤またはグルカゴン受容体(GCGR)アンタゴニストを使用して重度のインスリン抵抗性を処置するか、もしくはその進行を減速させ、かつ/またはそれを必要とする患者におけるインスリンの治療用量を低減させる方法に関する。
【0002】
配列表
本明細書と同時に、配列表の正式なコピーが、ファイル名10282WO01_SEQ_LIST_ST25、作成日2017年8月25日、およびサイズ約116キロバイトのASCIIフォーマットの配列表として、EFS-Webを介して電子提出される。このASCIIフォーマットの文書に含有される配列表は本明細書の一部であり、その全体は参照により本明細書に組み込まれている。
【背景技術】
【0003】
グルカゴンは29残基のポリペプチドホルモンであり、インスリンと協働して血液中のグルコース量の恒常性制御を媒介する。グルカゴンは主に、血中グルコースレベルが下がると、ある特定の細胞、例えば肝臓細胞を刺激してグルコースを放出させることにより、正常な血中グルコースレベルを維持するように作用する。グルカゴンの作用は、血中グルコースレベルが上がる度にグルコースを取り込み、貯蔵するように細胞を刺激するインスリンの作用と反対である。グルカゴンは膵臓のアルファ細胞において産生され、一方でインスリンは、付近のベータ細胞から分泌される。
【0004】
真性糖尿病および糖尿病性ケトアシドーシスなどのいくつかの疾患において重要な役割を果たし得るのは、グルカゴンおよびインスリンの不均衡である。特に、より高い基底グルカゴンレベル、および食後グルカゴン分泌の抑制の欠如は、ヒトの糖尿病状態に寄与することが研究により示されている(Mullerら(1970年)、N Eng J Med、283巻:109~115頁)。
【0005】
血中グルコースレベルの上昇に対するグルカゴンの効果は、グルカゴン(GCG)がその受容体(GCGRと呼ばれる)に結合した後、ある特定の細胞経路が活性化することよって部分的に媒介されると考えられている。GCGRは、Gタンパク質共役受容体のセクレチンサブファミリー(ファミリーB)のメンバーであり、主として肝臓において発現する。グルカゴンがその受容体に結合すると、Gタンパク質シグナルトランスダクションカスケードが引き起こされ、細胞内サイクリックAMPが活性化し、de novo合成によるグルコース生産(糖新生)およびグリコーゲン分解(糖原分解)の増加がもたらされる(Wakelamら(1986年)、Nature、323巻:68~71頁;Unsonら(1989年)、Peptides、10巻:1171~1177頁;ならびにPittnerおよびFain(1991年)、Biochem. J.、277巻:371~378頁)。
【0006】
グルカゴンの作用は、本明細書に記載されるように、小分子阻害剤、GCG抗体、またはGCGR抗体などのアンタゴニストを提供することにより抑制され得る。抗GCG抗体は、例えば、米国特許第4,206,199号、同第4,221,777号、同第4,423,034号、同第4,272,433号、同第4,407,965号、同第5,712,105号、ならびにPCT公開第WO2007/124463号および同第WO2013/081993号において言及されている。抗GCGR抗体については、米国特許第5,770,445号、同第7,947,809号、および同第8,545,847号、欧州特許出願第EP2074149(A2)号、欧州特許第EP0658200(B1)号、米国特許公開第2009/0041784号、同第2009/0252727号、および同第2011/0223160号、ならびにPCT公開第WO2008/036341号に記載されている。GCGまたはGCGRの小分子阻害剤は、例えば、WO07/47676、WO06/86488、WO05/123688、WO05/121097、WO06/14618、WO08/42223、WO08/98244、WO2010/98948、US20110306624、WO2010/98994、WO2010/88061、WO2010/71750、WO2010/30722、WO06/104826、WO05/65680、WO06/102067、WO06/17055、WO2011/07722、またはWO09/140342において言及されている。
重度インスリン抵抗性症候群は、患者がインスリンに対して良好に応答しない稀な代謝障害である。重度インスリン抵抗性症候群のために利用可能な現在の処置には、適切な血糖コントロールを行うことを目的とする規則的な摂食および非常に高い用量のインスリンが含まれる。IGF-Iの投与は短期では有効であるが、重度のインスリン抵抗性を有する患者の血糖コントロールを長期で行うことには失敗した。Vestergaardら(1997年)、European Journal of Endocrinology、136巻:475~482頁。組換えレプチンの投与は、Rabson-Mendenhall症候群(RMS)患者において数か月にわたって血中グルコースレベルを低下させたことにより、ある程度の成功を示した。Cochranら(2004年)、Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism、89巻:1548~1554頁。
重度インスリン抵抗性疾患の処置またはその進行の減速、すなわち重度のインスリン抵抗性を有する患者の延命および/または生活の質の向上のための有効な療法が存在しないことを考えると、本明細書に記載されるGCG/GCGRシグナル伝達経路阻害剤およびアンタゴニストなど、これらの疾患を処置するための他の薬剤を同定し、その使用を探る必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,206,199号明細書
【特許文献2】米国特許第4,221,777号明細書
【特許文献3】米国特許第5,770,445号明細書
【特許文献4】米国特許第7,947,809号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Vestergaardら、European Journal of Endocrinology(1997年)136巻:475~482頁
【非特許文献2】Cochranら、Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism(2004年)89巻:1548~1554頁
【非特許文献3】Wakelamら(1986年)、Nature、323巻:68~71頁
【非特許文献4】Unsonら(1989年)、Peptides、10巻:1171~1177頁
【非特許文献5】PittnerおよびFain(1991年)、Biochem. J.、277巻:371~378頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書では、GCG阻害剤またはGCGRアンタゴニスト、例えばGCG阻害剤またはGCGRアンタゴニストを含む医薬組成物を投与することにより、重度のインスリン抵抗性によって特徴付けられる状態または疾患を有する患者を処置するための方法が提供される。GCG阻害剤またはGCGRアンタゴニストは、グルカゴン受容体シグナル伝達経路を遮断または阻害することができる化合物である。アンタゴニストは、小分子阻害剤、ペプチド阻害剤、CRISPR技術(クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート;CRISPR技術は、GCGRノックダウンまたはGCGR活性に影響する制御配列の欠失を生成することができる)、アンチセンス阻害剤、DARPin、およびGCGまたはGCGR中和モノクローナル抗体の形態をとることができる。GCG阻害剤またはGCGRアンタゴニストは、単独で、医薬組成物において、あるいは、重度のインスリン抵抗性と関連付けられる状態もしくは疾患を処置すること、または状態もしくは疾患と関連付けられる1つもしくは複数の症状を処置すること、または重度のインスリン抵抗性と関連付けられる状態もしくは疾患を有する患者の血中グルコースおよび/もしくはケトンを低下させることにおいて有用な、1種または複数の治療剤と併せて投与されてもよい。
【0010】
一部の実施形態では、血中グルコースレベルおよび/またはベータ-ヒドロキシブチレートレベルを低下させるための、あるいはケトン血症および/またはケトアシドーシスを減少させるための、あるいは、高い血中グルコースおよび/もしくはケトン血症および/もしくはケトアシドーシスと関連付けられるかまたはそれらによって部分的に特徴付けられる状態もしくは疾患、または状態もしくは疾患と関連付けられる少なくとも1つの症状もしくは合併症を処置するための方法が提供される。一部の態様では、方法は、重度のインスリン抵抗性を有する患者に、治療有効量の、GCG/GCGRシグナル伝達の阻害剤を含む組成物を投与することを含み、これにより、血中グルコースもしくはベータ-ヒドロキシブチレートレベルが低下するか、または状態もしくは疾患が媒介されるか、または状態もしくは疾患と関連付けられる少なくとも1つの症状もしくは合併症が緩和されるか、もしくはその重症度が低減する。一部の実施形態では、GCGRシグナル伝達の阻害剤は、抗GCGR抗体などのGCGRアンタゴニストである。一部の実施形態では、抗GCGR抗体は、配列番号86/88のHCVR/LCVR配列ペアを有する。一部の実施形態では、GCGRシグナル伝達の阻害剤は、抗GCG抗体などのGCG阻害剤である。一部の実施形態では、抗GCG抗体は、配列番号182/190のHCVR/LCVR配列ペアを有する。一部の実施形態では、抗GCG抗体は、配列番号166/174のHCVR/LCVR配列ペアを有する。
【0011】
一部の態様では、重度のインスリン抵抗性を有する患者を処置するための方法であって、患者が上昇した血中グルコースレベルを呈する、方法が提供される。方法は、治療有効量の、GCG阻害剤またはGCGRアンタゴニストを含む組成物を患者に投与することを含む。
【0012】
一部の態様では、重度のインスリン抵抗性を有する患者を処置するための方法であって、患者が上昇した血中グルコースレベルを呈さない、方法が提供される。方法は、治療有効量の、GCG阻害剤またはGCGRアンタゴニストを含む組成物を患者に投与することを含む。
【0013】
一部の実施形態では、重度のインスリン抵抗性を有する患者を処置するために必要なインスリンの量および/または投与量を低減させるための方法であって、患者が、重度のインスリン抵抗性および/または上昇した血中グルコースレベルを呈する、方法が提供される。一部の態様では、方法は、治療有効量の、GCG阻害剤またはGCGRアンタゴニストを含む組成物を患者に投与することを含む。一部の態様では、GCG阻害剤またはGCGRアンタゴニストは、インスリンと併用投与される。インスリンの量および/または投与量は、GCGRに特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体と併用投与したとき、約30%~約95%、または約90%低減される場合がある。
【0014】
一部の態様では、GCGRアンタゴニストは、抗GCGR抗体であり得る。抗GCGR抗体は、GCGRを阻害またはアンタゴナイズし得る。抗GCGR抗体は、GCGRシグナル伝達経路を阻害または遮断し得る。一部の態様では、GCG阻害剤は、抗GCG抗体であり得る。抗GCG抗体は、GCGがGCGRに結合するのを阻害し得る。
【0015】
ある特定の実施形態では、抗体または抗原結合性断片は、hGCGRに特異的に結合し、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/68、70/78、86/88、90/98、106/108、110/118、126/128、130/138、および146/148からなる群より選択される重鎖および軽鎖の配列ペア中に含有された重鎖および軽鎖のCDRドメインを含む。
【0016】
ある特定の実施形態では、抗体または抗原結合性断片は、配列番号86/88のHCVR/LCVRアミノ酸配列ペア中に含有された重鎖および軽鎖のCDRドメインを含む。
【0017】
ある特定の実施形態では、抗体または抗原結合性断片は、配列番号86/88のHCVR/LCVRアミノ酸配列ペアを含む。
【0018】
一実施形態では、hGCGRに結合するヒト抗体またはヒト抗体の抗原結合性断片は、配列番号2、18、34、50、66、70、86、90、106、110、126、130、および146からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列を有する、重鎖可変領域(HCVR)を含む。
【0019】
一実施形態では、hGCGRに結合するヒト抗体またはヒト抗体の抗原結合性断片は、配列番号10、26、42、58、68、78、88、98、108、118、128、138、および148からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列を有する、軽鎖可変領域(LCVR)を含む。
【0020】
ある特定の実施形態では、hGCGRに結合するヒト抗体またはその断片は、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/68、70/78、86/88、90/98、106/108、110/118、126/128、130/138、および146/148からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列ペアを含む。ある特定の実施形態では、HCVR/LCVRアミノ酸配列ペアは、配列番号34/42、70/78、86/88、110/118、および126/128からなる群より選択される。
【0021】
ある特定の実施形態では、hGCGRに特異的に結合する単離されたヒト抗体またはその抗原結合性断片は、配列番号2、18、34、50、66、70、86、90、106、110、126、130、および146からなる群より選択されるHCVR配列中に含有された3つの重鎖CDR(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)を含むHCVR、ならびに/または配列番号10、26、42、58、68、78、88、98、108、118、128、138、および148からなる群より選択されるLCVR配列中に含有された3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)を含むLCVRを含む。
【0022】
ある特定の実施形態では、本明細書において提供される方法は、配列番号8、24、40、56、76、96、116、および136からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列を有するHCDR3ドメイン、ならびに/あるいは配列番号16、32、48、64、84、104、124、および144からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列を有するLCDR3ドメインを含む、hGCGRに結合する単離されたヒト抗体またはその抗原結合性断片の使用を企図する。
【0023】
一実施形態では、本明細書において提供される方法は、配列番号4、20、36、52、72、92、112、および132からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列を有するHCDR1ドメインと、配列番号6、22、38、54、74、94、114、および134からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列を有するHCDR2ドメインと、配列番号12、28、44、60、80、100、120、および140からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列を有するLCDR1ドメインと、配列番号14、30、46、62、82、102、122、および142からなる群より選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列を有するLCDR2ドメインとをさらに含む、抗体またはその断片の使用を企図する。
【0024】
一実施形態では、抗体または抗体の抗原結合性断片は、
(a)配列番号8、24、40、56、76、96、116、および136からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR3ドメインと、
(b)配列番号16、32、48、64、84、104、124、および144からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCDR3ドメインと
を含む。
【0025】
関連する実施形態では、抗体または抗体の抗原結合性断片は、
(c)配列番号4、20、36、52、72、92、112、および132からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR1ドメインと、
(d)配列番号6、22、38、54、74、94、114、および134からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR2ドメインと、
(e)配列番号12、28、44、60、80、100、120、および140からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCDR1ドメインと、
(f)配列番号14、30、46、62、82、102、122、および142からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCDR2ドメインと
をさらに含む。
【0026】
一実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、配列番号4、20、36、52、72、92、112、および132のうちの1つから選択されるアミノ酸配列を有するHCDR1ドメインと、配列番号6、22、38、54、74、94、114、および134のうちの1つから選択されるアミノ酸配列を有するHCDR2ドメインと、配列番号8、24、40、56、76、96、116、および136のうちの1つから選択されるアミノ酸配列を有するHCDR3ドメインとを含むHCVR、ならびに配列番号12、28、44、60、80、100、120、および140のうちの1つから選択されるアミノ酸配列を有するLCDR1ドメインと、配列番号14、30、46、62、82、102、122、および142のうちの1つから選択されるアミノ酸配列を有するLCDR2ドメインと、配列番号16、32、48、64、84、104、124、および144のうちの1つから選択されるアミノ酸配列を有するLCDR3ドメインとを含むLCVRを含む。
【0027】
ある特定の実施形態では、ヒトGCGRに結合するヒト抗体またはヒト抗体の抗原結合性断片は、配列番号8/16、24/32、40/48、56/64、76/84、86/88、96/104、116/124、および136/144からなる群より選択されるHCDR3/LCDR3アミノ酸配列ペアを含む。これらのHCDR3/LCDR3ペアを有する抗GCGR抗体の非限定的な例は、それぞれ、H4H1345N、H4H1617N、H4H1765N、H4H1321BおよびH4H1321P、H4H1327BおよびH4H1327P、H4H1328BおよびH4H1328P、H4H1331BおよびH4H1331P、H4H1339BおよびH4H1339Pと呼ばれる抗体である。
【0028】
一実施形態では、本明細書において提供される方法に従って有用な、GCGに特異的に結合し、かつGCGと関連付けられる少なくとも1つの活性を中和する、単離された抗体またはその抗原結合性断片は、(a)配列番号150、166、182、198、214、230、246、262、278、および294からなる群より選択される重鎖可変領域(HCVR)アミノ酸配列中に含有された3つの重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)、ならびに(b)配列番号158、174、190、206、222、238、254、270、286、および302からなる群より選択される軽鎖可変領域(LCVR)アミノ酸配列中に含有された3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)を含む。
【0029】
一部の実施形態では、GCGに特異的に結合し、かつGCGと関連付けられる少なくとも1つの活性を中和する、単離された抗体またはその抗原結合性断片は、配列番号150、166、182、198、214、230、246、262、278、および294からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCVR、ならびに配列番号158、174、190、206、222、238、254、270、286、および302からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む。
【0030】
一部の実施形態では、GCGに特異的に結合し、かつGCGと関連付けられる少なくとも1つの活性を中和する、単離された抗体またはその抗原結合性断片は、配列番号150/158、166/174、182/190、198/206、214/222、230/238、246/254、262/270、278/286、および294/302からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列ペアを含む。
【0031】
一部の実施形態では、HCVR/LCVRアミノ酸配列ペアは、配列番号166/174を含む。
【0032】
一部の実施形態では、HCVR/LCVRアミノ酸配列ペアは、配列番号182/190を含む。
【0033】
一実施形態では、本明細書において提供される方法に従って有用な、単離された抗体またはその抗原結合性断片は、
(a)配列番号152、168、184、200、216、232、248、264、280、および296からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR1ドメインと、
(b)配列番号154、170、186、202、218、234、250、266、282、および298からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR2ドメインと、
(c)配列番号156、172、188、204、220、236、252、268、284、および300からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCDR3ドメインと、
(d)配列番号160、176、192、208、224、240、256、272、288、および304からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCDR1ドメインと、
(e)配列番号162、178、194、210、226、242、258、274、290、および306からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCDR2ドメインと、
(f)配列番号164、180、196、212、228、244、260、276、292、および308からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCDR3ドメインと
を含む。
【0034】
一実施形態では、本明細書において提供される方法に従って有用な、単離された抗体またはその抗原結合性断片は、
(a)配列番号168のアミノ酸配列を含むHCDR1ドメインと、
(b)配列番号170のアミノ酸配列を含むHCDR2ドメインと、
(c)配列番号172のアミノ酸配列を含むHCDR3ドメインと、
(d)配列番号176のアミノ酸配列を含むLCDR1ドメインと、
(e)配列番号178のアミノ酸配列を含むLCDR2ドメインと、
(f)配列番号180のアミノ酸配列を含むLCDR3ドメインと
を含む。
【0035】
一実施形態では、本明細書において提供される方法に従って有用な、単離された抗体またはその抗原結合性断片は、
(a)配列番号184のアミノ酸配列を含むHCDR1ドメインと、
(b)配列番号186のアミノ酸配列を含むHCDR2ドメインと、
(c)配列番号188のアミノ酸配列を含むHCDR3ドメインと、
(d)配列番号192のアミノ酸配列を含むLCDR1ドメインと、
(e)配列番号194のアミノ酸配列を含むLCDR2ドメインと、
(f)配列番号196のアミノ酸配列を含むLCDR3ドメインと
を含む。
【0036】
また、本明細書において提供される方法によれば、本明細書において提供されるHCDR1アミノ酸配列のうちのいずれかから選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列を含む重鎖CDR1(HCDR1)を含む、GCGに特異的に結合する抗体またはその抗原結合性断片も有用である。
【0037】
また、本明細書において提供される方法によれば、本明細書において提供されるHCDR2アミノ酸配列のうちのいずれかから選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列を含む重鎖CDR2(HCDR2)を含む、GCGに特異的に結合する抗体またはその抗原結合性断片も有用である。
【0038】
また、本明細書において提供される方法によれば、本明細書において提供されるHCDR3アミノ酸配列のうちのいずれかから選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列を含む重鎖CDR3(HCDR3)を含む、GCGに特異的に結合する抗体またはその抗原結合性断片も有用である。
【0039】
また、本明細書において提供される方法によれば、本明細書において提供されるLCDR1アミノ酸配列のうちのいずれかから選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列を含む軽鎖CDR1(LCDR1)を含む、GCGに特異的に結合する抗体またはその抗原結合性断片も有用である。
【0040】
また、本明細書において提供される方法によれば、本明細書において提供されるLCDR2アミノ酸配列のうちのいずれかから選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列を含む軽鎖CDR2(LCDR2)を含む、GCGに特異的に結合する抗体またはその抗原結合性断片も有用である。
【0041】
また、本明細書において提供される方法によれば、本明細書に列挙されるLCDR3アミノ酸配列のうちのいずれかから選択されるアミノ酸配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に同様の配列を含む軽鎖CDR3(LCDR3)を含む、GCGに特異的に結合する抗体またはその抗原結合性断片も有用である。
【0042】
また、本明細書において提供される方法によれば、本明細書において提供されるLCDR3アミノ酸配列のうちのいずれかとペアになった、本明細書において提供されるHCDR3アミノ酸のうちのいずれかを含む、HCDR3およびLCDR3のアミノ酸配列ペア(HCDR3/LCDR3)を含む、GCGに特異的に結合する抗体またはその抗原結合性断片も有用である。ある特定の実施形態によれば、抗体またはその抗原結合性断片は、本明細書において提供される例示的な抗GCG抗体のうちのいずれか中に含有されたHCDR3/LCDR3アミノ酸配列ペアを含む。ある特定の実施形態では、HCDR3/LCDR3アミノ酸配列ペアは、配列番号172/180を含む。
【0043】
また、本明細書において提供される方法によれば、本明細書において提供される例示的な抗GCG抗体のうちのいずれか中に含有された6つのCDRのセット(すなわち、HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3)を含む、GCGに特異的に結合する抗体またはその抗原結合性断片も有用である。ある特定の実施形態では、HCDR1/HCDR2/HCDR3/LCDR1/LCDR2/LCDR3のアミノ酸配列セットは、配列番号168/170/172/176/178/180を含む。ある特定の実施形態では、HCDR1/HCDR2/HCDR3/LCDR1/LCDR2/LCDR3のアミノ酸配列セットは、配列番号184/186/188/192/194/196を含む。
【0044】
関連する実施形態では、GCGに特異的に結合する抗体またはその抗原結合性断片は、本明細書において提供される例示的な抗GCG抗体のうちのいずれかによって定義されるHCVR/LCVRアミノ酸配列ペア中に含有された6つのCDRのセット(すなわち、HCDR1/HCDR2/HCDR3/LCDR1/LCDR2/LCDR3)を含む。例えば、GCGに特異的に結合する抗体またはその抗原結合性断片は、166/174、182/190、198/206、214/222、230/238、246/254、262/270、278/286、および294/302からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列ペア中に含有された、HCDR1/HCDR2/HCDR3/LCDR1/LCDR2/LCDR3のアミノ酸配列セットを含む。
【0045】
GCGに特異的に結合し、かつ上に提供されるCDR配列を含む抗体の非限定的な例としては、HIH059P、H4H10223P、H4H10231P、H4H10232P、H4H10236P、H4H10237P、H4H10238P、H4H10250P、H4H10256P、およびH4H10270Pが挙げられる。
【0046】
HCVRおよびLCVRアミノ酸配列中のCDRを特定するための方法および技術は当技術分野において周知であり、本明細書において開示される特定のHCVRおよび/またはLCVRアミノ酸配列中のCDRを特定するために使用され得る。CDRの境界を特定するために使用することができる例示的な慣例としては、例えば、Kabat定義、Chothia定義、およびAbM定義が挙げられる。一般論として、Kabat定義は配列多様性に基づき、Chothia定義は構造上のループ領域の位置に基づき、AbM定義はKabat法とChothia法との折衷案である。例えば、Kabat(1991年)「Sequences of Proteins of Immunological
Interest」、National Institutes of Health、Bethesda、Md.;Al-Lazikaniら(1997年)、J. Mol. Biol.、273巻:927~948頁;およびMartinら(1989年)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、86巻:9268~9272頁を参照されたい。抗体中のCDR配列を特定するために、公開データベースも利用可能である。
【0047】
一部の実施形態では、重度のインスリン抵抗性を有する患者は、以下:ドナヒュー氏症候群、Rabson-Mendenhall症候群、A型インスリン抵抗性、B型インスリン抵抗性、HAIR-AN(アンドロゲン過剰症、インスリン抵抗性、および黒色表皮腫)症候群、偽末端肥大症(pseudoacromegaly)、アルストレーム症候群、筋緊張性ジストロフィー、ヴェルナー症候群、リポジストロフィー、硬変、単一遺伝子性病的肥満、高プロインスリン血症、カルボキシペプチダーゼE欠損症、アルギニン代謝障害、バルデー-ビードル症候群、および重度のインスリン抵抗性をもたらすことが報告されている1つまたは複数の遺伝子変異体の存在と関連付けられる状態または疾患から選択される状態または疾患のうちの1つを患っている場合がある。一部の実施形態では、患者の血清中でインスリン分解プロテアーゼ活性が検出される。一部の実施形態では、患者の血清中で中和性抗インスリン抗体または抗インスリン受容体抗体が検出される。一部の患者では、重度のインスリン抵抗性は、リポジストロフィーをもたらす脂肪細胞の自己免疫破壊との関連において生じる。
【0048】
一部の態様では、重度のインスリン抵抗性と関連付けられる遺伝子変異体は、以下:INSR、PSMD6、ADRA2A、AGPAT2(リポジストロフィーおよびインスリン抵抗性と関連付けられる)、AKT2、APPL1、BBS1(バルデー-ビードル症候群1と関連付けられる)、BSCL2、CIDEC、GRB10、IRS2、KLF14、LEP、LEPR、LMNA(リポジストロフィーと関連付けられる)、MC4R、PCNT、PIK2CA、POLD1(リポジストロフィーと関連付けられる)、PPARG、PTPRD、PTRF(リポジストロフィーと関連付けられる)、RASGRP1、TBC1D4、およびTCF7L2から選択される。
【0049】
一部の態様では、グルカゴン/GCGRアンタゴニストを含む組成物は、少なくとも1種のさらなる治療剤と組み合わせて患者に投与される。さらなる治療剤は、重度のインスリン抵抗性と関連付けられる症状および徴候を緩和または低減させる任意の薬剤であり得る。一部の実施形態では、少なくとも1種のさらなる治療剤は、以下:インスリン、ビグアナイド、hIGF1、レプチン、メトレレプチン(metraleptin)、ピオグリタゾン、ビルダグリプチン、アカルボース、アルファ-グリコシダーゼ阻害剤、L-アルギニン、ジペプチジル-ペプチダーゼ-4阻害剤、インスリン分泌促進物質、アミリン受容体アゴニスト、インスリン感作物質、FGF21、SGLT2阻害剤、SGLT1阻害剤、GLP-1受容体アゴニスト、GLP-1受容体活性化剤、第2のGCG阻害剤、および第2のGCGRアンタゴニストから選択される。一部の態様では、インスリン分泌促進物質は、スルホニル尿素、ATP感受性Kチャネルアンタゴニスト、およびメグリチニドから選択される。一部の態様では、インスリン感作物質は、チアゾリジンジオンおよびロシグリタゾンから選択される。一部の態様では、さらなる治療剤は、エネルギー消費および/または褐色脂肪の活性を増加させる薬剤、例えば、β3アドレナリン作動性アゴニスト(例えばミグリトール)、NPR1アゴニスト、NPR3アンタゴニスト、トリヨードチロニン、チアゾリジンジオン、VEGF、イリシン、メテオリン様、ナトリウム利尿ペプチド、オレキシン、ノルエピネフリン、T4、胆汁酸、FGF-21、メントール、slit2-C BMP7、BMP8β、およびFnIIIドメイン様/Tn3スキャフォールド(ヒトテネイシンCの第3のフィブロネクチンIII型ドメインに基づく結合分子)などであり得る。
【0050】
他の目的および利点は、続く詳細な説明を精査すれば明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1A】
図1A~1Eは、重度のインスリン抵抗性のマウスモデルにおける血中グルコースレベル、インスリンレベル、グルカゴンレベル、およびB-ヒドロキシブチレートレベル、ならびに体重を示す。
図1Aでは、インスリン受容体アンタゴニストであるS961、およびGCGRに対する抗体であるH4H1327Pで処置されたマウス(白三角)は、インスリン受容体アンタゴニストおよびアイソタイプ対照抗体で処置されたマウス(黒四角)における血中グルコースレベルと比べて、血中グルコースレベルの上昇を呈した。
図1Bでは、S961でのマウスの処置は、H4H1327Pの存在下(白三角)でさえ、時間をわたってインスリンレベルの上昇を実証した(黒四角)。
図1Cでは、S961の非存在下(白丸)または存在下(白三角)において、H4H1327Pで処置されたマウスは、アイソタイプ対照処置マウス(黒丸)またはS961処置マウス(黒四角)よりも高いグルカゴンレベルを呈した。
図1Dでは、S961およびH4H1327Pで処置されたマウス(白三角)は、アイソタイプ対照処置(黒丸)および抗体単独の対照(白丸)と同様のベータ-ヒドロキシブチレートレベルを維持した。GCGR抗体の非存在下においてインスリン受容体アンタゴニストで処置されたマウスは、他の処置群と比べてより高いベータ-ヒドロキシブチレートレベル(黒四角)を呈した。4つの処置群間で体重は変化しなかった。
図1Eを参照されたい。
【
図1B】
図1A~1Eは、重度のインスリン抵抗性のマウスモデルにおける血中グルコースレベル、インスリンレベル、グルカゴンレベル、およびB-ヒドロキシブチレートレベル、ならびに体重を示す。
図1Aでは、インスリン受容体アンタゴニストであるS961、およびGCGRに対する抗体であるH4H1327Pで処置されたマウス(白三角)は、インスリン受容体アンタゴニストおよびアイソタイプ対照抗体で処置されたマウス(黒四角)における血中グルコースレベルと比べて、血中グルコースレベルの上昇を呈した。
図1Bでは、S961でのマウスの処置は、H4H1327Pの存在下(白三角)でさえ、時間をわたってインスリンレベルの上昇を実証した(黒四角)。
図1Cでは、S961の非存在下(白丸)または存在下(白三角)において、H4H1327Pで処置されたマウスは、アイソタイプ対照処置マウス(黒丸)またはS961処置マウス(黒四角)よりも高いグルカゴンレベルを呈した。
図1Dでは、S961およびH4H1327Pで処置されたマウス(白三角)は、アイソタイプ対照処置(黒丸)および抗体単独の対照(白丸)と同様のベータ-ヒドロキシブチレートレベルを維持した。GCGR抗体の非存在下においてインスリン受容体アンタゴニストで処置されたマウスは、他の処置群と比べてより高いベータ-ヒドロキシブチレートレベル(黒四角)を呈した。4つの処置群間で体重は変化しなかった。
図1Eを参照されたい。
【
図1C】
図1A~1Eは、重度のインスリン抵抗性のマウスモデルにおける血中グルコースレベル、インスリンレベル、グルカゴンレベル、およびB-ヒドロキシブチレートレベル、ならびに体重を示す。
図1Aでは、インスリン受容体アンタゴニストであるS961、およびGCGRに対する抗体であるH4H1327Pで処置されたマウス(白三角)は、インスリン受容体アンタゴニストおよびアイソタイプ対照抗体で処置されたマウス(黒四角)における血中グルコースレベルと比べて、血中グルコースレベルの上昇を呈した。
図1Bでは、S961でのマウスの処置は、H4H1327Pの存在下(白三角)でさえ、時間をわたってインスリンレベルの上昇を実証した(黒四角)。
図1Cでは、S961の非存在下(白丸)または存在下(白三角)において、H4H1327Pで処置されたマウスは、アイソタイプ対照処置マウス(黒丸)またはS961処置マウス(黒四角)よりも高いグルカゴンレベルを呈した。
図1Dでは、S961およびH4H1327Pで処置されたマウス(白三角)は、アイソタイプ対照処置(黒丸)および抗体単独の対照(白丸)と同様のベータ-ヒドロキシブチレートレベルを維持した。GCGR抗体の非存在下においてインスリン受容体アンタゴニストで処置されたマウスは、他の処置群と比べてより高いベータ-ヒドロキシブチレートレベル(黒四角)を呈した。4つの処置群間で体重は変化しなかった。
図1Eを参照されたい。
【
図1D】
図1A~1Eは、重度のインスリン抵抗性のマウスモデルにおける血中グルコースレベル、インスリンレベル、グルカゴンレベル、およびB-ヒドロキシブチレートレベル、ならびに体重を示す。
図1Aでは、インスリン受容体アンタゴニストであるS961、およびGCGRに対する抗体であるH4H1327Pで処置されたマウス(白三角)は、インスリン受容体アンタゴニストおよびアイソタイプ対照抗体で処置されたマウス(黒四角)における血中グルコースレベルと比べて、血中グルコースレベルの上昇を呈した。
図1Bでは、S961でのマウスの処置は、H4H1327Pの存在下(白三角)でさえ、時間をわたってインスリンレベルの上昇を実証した(黒四角)。
図1Cでは、S961の非存在下(白丸)または存在下(白三角)において、H4H1327Pで処置されたマウスは、アイソタイプ対照処置マウス(黒丸)またはS961処置マウス(黒四角)よりも高いグルカゴンレベルを呈した。
図1Dでは、S961およびH4H1327Pで処置されたマウス(白三角)は、アイソタイプ対照処置(黒丸)および抗体単独の対照(白丸)と同様のベータ-ヒドロキシブチレートレベルを維持した。GCGR抗体の非存在下においてインスリン受容体アンタゴニストで処置されたマウスは、他の処置群と比べてより高いベータ-ヒドロキシブチレートレベル(黒四角)を呈した。4つの処置群間で体重は変化しなかった。
図1Eを参照されたい。
【
図1E】
図1A~1Eは、重度のインスリン抵抗性のマウスモデルにおける血中グルコースレベル、インスリンレベル、グルカゴンレベル、およびB-ヒドロキシブチレートレベル、ならびに体重を示す。
図1Aでは、インスリン受容体アンタゴニストであるS961、およびGCGRに対する抗体であるH4H1327Pで処置されたマウス(白三角)は、インスリン受容体アンタゴニストおよびアイソタイプ対照抗体で処置されたマウス(黒四角)における血中グルコースレベルと比べて、血中グルコースレベルの上昇を呈した。
図1Bでは、S961でのマウスの処置は、H4H1327Pの存在下(白三角)でさえ、時間をわたってインスリンレベルの上昇を実証した(黒四角)。
図1Cでは、S961の非存在下(白丸)または存在下(白三角)において、H4H1327Pで処置されたマウスは、アイソタイプ対照処置マウス(黒丸)またはS961処置マウス(黒四角)よりも高いグルカゴンレベルを呈した。
図1Dでは、S961およびH4H1327Pで処置されたマウス(白三角)は、アイソタイプ対照処置(黒丸)および抗体単独の対照(白丸)と同様のベータ-ヒドロキシブチレートレベルを維持した。GCGR抗体の非存在下においてインスリン受容体アンタゴニストで処置されたマウスは、他の処置群と比べてより高いベータ-ヒドロキシブチレートレベル(黒四角)を呈した。4つの処置群間で体重は変化しなかった。
図1Eを参照されたい。
【0052】
【
図2A】
図2A~2Fは、重度のインスリン抵抗性のマウスモデルにおける血中グルコースレベル、インスリンレベル、グルカゴンレベル、B-ヒドロキシブチレートレベル、およびアミノ酸レベル、ならびに体重を示す。抗体であるH4H1327Pによる処置の前にインスリン受容体アンタゴニスト(S961)による処置により、血中グルコースレベルが上昇し、血中グルコースレベルを低下させる抗体の能力が抗体処置の開始から数日以内に実証された(白三角)。
図2Aを参照されたい。
図2Bでは、S961での処置によりインスリンレベルが上がり(黒四角)、GCGR抗体であるH4H1327Pを用いた後続処置はインスリンレベルを低下させなかった(白三角)。
図2Cに示されるように、グルカゴンレベルは、H4H1327Pで処置されたマウス(白丸)においてより高く、抗体およびS961両方で処置されたマウス(白三角)ではさらに高かった。
図2Dは、血漿ベータ-ヒドロキシブチレートレベルがS961による処置に応答して上昇した(黒四角)が、H4H1327Pでの処置から数日以内にレベルが未処置対照および抗体単独の対照(白三角)のレベルに下がったことを示す。
図2Eは、アミノ酸レベルが、H4H1327Pで処置されたマウス(白丸)においてより高く、抗体およびS961両方で処置されたマウス(白三角)ではさらに高かったことを示す。体重の変化は観察されなかった。
図2Fを参照されたい。
【
図2B】
図2A~2Fは、重度のインスリン抵抗性のマウスモデルにおける血中グルコースレベル、インスリンレベル、グルカゴンレベル、B-ヒドロキシブチレートレベル、およびアミノ酸レベル、ならびに体重を示す。抗体であるH4H1327Pによる処置の前にインスリン受容体アンタゴニスト(S961)による処置により、血中グルコースレベルが上昇し、血中グルコースレベルを低下させる抗体の能力が抗体処置の開始から数日以内に実証された(白三角)。
図2Aを参照されたい。
図2Bでは、S961での処置によりインスリンレベルが上がり(黒四角)、GCGR抗体であるH4H1327Pを用いた後続処置はインスリンレベルを低下させなかった(白三角)。
図2Cに示されるように、グルカゴンレベルは、H4H1327Pで処置されたマウス(白丸)においてより高く、抗体およびS961両方で処置されたマウス(白三角)ではさらに高かった。
図2Dは、血漿ベータ-ヒドロキシブチレートレベルがS961による処置に応答して上昇した(黒四角)が、H4H1327Pでの処置から数日以内にレベルが未処置対照および抗体単独の対照(白三角)のレベルに下がったことを示す。
図2Eは、アミノ酸レベルが、H4H1327Pで処置されたマウス(白丸)においてより高く、抗体およびS961両方で処置されたマウス(白三角)ではさらに高かったことを示す。体重の変化は観察されなかった。
図2Fを参照されたい。
【
図2C】
図2A~2Fは、重度のインスリン抵抗性のマウスモデルにおける血中グルコースレベル、インスリンレベル、グルカゴンレベル、B-ヒドロキシブチレートレベル、およびアミノ酸レベル、ならびに体重を示す。抗体であるH4H1327Pによる処置の前にインスリン受容体アンタゴニスト(S961)による処置により、血中グルコースレベルが上昇し、血中グルコースレベルを低下させる抗体の能力が抗体処置の開始から数日以内に実証された(白三角)。
図2Aを参照されたい。
図2Bでは、S961での処置によりインスリンレベルが上がり(黒四角)、GCGR抗体であるH4H1327Pを用いた後続処置はインスリンレベルを低下させなかった(白三角)。
図2Cに示されるように、グルカゴンレベルは、H4H1327Pで処置されたマウス(白丸)においてより高く、抗体およびS961両方で処置されたマウス(白三角)ではさらに高かった。
図2Dは、血漿ベータ-ヒドロキシブチレートレベルがS961による処置に応答して上昇した(黒四角)が、H4H1327Pでの処置から数日以内にレベルが未処置対照および抗体単独の対照(白三角)のレベルに下がったことを示す。
図2Eは、アミノ酸レベルが、H4H1327Pで処置されたマウス(白丸)においてより高く、抗体およびS961両方で処置されたマウス(白三角)ではさらに高かったことを示す。体重の変化は観察されなかった。
図2Fを参照されたい。
【
図2D】
図2A~2Fは、重度のインスリン抵抗性のマウスモデルにおける血中グルコースレベル、インスリンレベル、グルカゴンレベル、B-ヒドロキシブチレートレベル、およびアミノ酸レベル、ならびに体重を示す。抗体であるH4H1327Pによる処置の前にインスリン受容体アンタゴニスト(S961)による処置により、血中グルコースレベルが上昇し、血中グルコースレベルを低下させる抗体の能力が抗体処置の開始から数日以内に実証された(白三角)。
図2Aを参照されたい。
図2Bでは、S961での処置によりインスリンレベルが上がり(黒四角)、GCGR抗体であるH4H1327Pを用いた後続処置はインスリンレベルを低下させなかった(白三角)。
図2Cに示されるように、グルカゴンレベルは、H4H1327Pで処置されたマウス(白丸)においてより高く、抗体およびS961両方で処置されたマウス(白三角)ではさらに高かった。
図2Dは、血漿ベータ-ヒドロキシブチレートレベルがS961による処置に応答して上昇した(黒四角)が、H4H1327Pでの処置から数日以内にレベルが未処置対照および抗体単独の対照(白三角)のレベルに下がったことを示す。
図2Eは、アミノ酸レベルが、H4H1327Pで処置されたマウス(白丸)においてより高く、抗体およびS961両方で処置されたマウス(白三角)ではさらに高かったことを示す。体重の変化は観察されなかった。
図2Fを参照されたい。
【
図2E】
図2A~2Fは、重度のインスリン抵抗性のマウスモデルにおける血中グルコースレベル、インスリンレベル、グルカゴンレベル、B-ヒドロキシブチレートレベル、およびアミノ酸レベル、ならびに体重を示す。抗体であるH4H1327Pによる処置の前にインスリン受容体アンタゴニスト(S961)による処置により、血中グルコースレベルが上昇し、血中グルコースレベルを低下させる抗体の能力が抗体処置の開始から数日以内に実証された(白三角)。
図2Aを参照されたい。
図2Bでは、S961での処置によりインスリンレベルが上がり(黒四角)、GCGR抗体であるH4H1327Pを用いた後続処置はインスリンレベルを低下させなかった(白三角)。
図2Cに示されるように、グルカゴンレベルは、H4H1327Pで処置されたマウス(白丸)においてより高く、抗体およびS961両方で処置されたマウス(白三角)ではさらに高かった。
図2Dは、血漿ベータ-ヒドロキシブチレートレベルがS961による処置に応答して上昇した(黒四角)が、H4H1327Pでの処置から数日以内にレベルが未処置対照および抗体単独の対照(白三角)のレベルに下がったことを示す。
図2Eは、アミノ酸レベルが、H4H1327Pで処置されたマウス(白丸)においてより高く、抗体およびS961両方で処置されたマウス(白三角)ではさらに高かったことを示す。体重の変化は観察されなかった。
図2Fを参照されたい。
【
図2F】
図2A~2Fは、重度のインスリン抵抗性のマウスモデルにおける血中グルコースレベル、インスリンレベル、グルカゴンレベル、B-ヒドロキシブチレートレベル、およびアミノ酸レベル、ならびに体重を示す。抗体であるH4H1327Pによる処置の前にインスリン受容体アンタゴニスト(S961)による処置により、血中グルコースレベルが上昇し、血中グルコースレベルを低下させる抗体の能力が抗体処置の開始から数日以内に実証された(白三角)。
図2Aを参照されたい。
図2Bでは、S961での処置によりインスリンレベルが上がり(黒四角)、GCGR抗体であるH4H1327Pを用いた後続処置はインスリンレベルを低下させなかった(白三角)。
図2Cに示されるように、グルカゴンレベルは、H4H1327Pで処置されたマウス(白丸)においてより高く、抗体およびS961両方で処置されたマウス(白三角)ではさらに高かった。
図2Dは、血漿ベータ-ヒドロキシブチレートレベルがS961による処置に応答して上昇した(黒四角)が、H4H1327Pでの処置から数日以内にレベルが未処置対照および抗体単独の対照(白三角)のレベルに下がったことを示す。
図2Eは、アミノ酸レベルが、H4H1327Pで処置されたマウス(白丸)においてより高く、抗体およびS961両方で処置されたマウス(白三角)ではさらに高かったことを示す。体重の変化は観察されなかった。
図2Fを参照されたい。
【0053】
【
図3】
図3Aおよび3Bは、S961およびH4H1327Pの一方または両方で処置されたマウスから得られたマウス肝臓試料に対するウェスタンブロット解析の結果を提供する。H4H1327Pでの処置により、マウス肝臓内のホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(Pepck)がアイソタイプ処置対照群と比べて70%低減し、S961での処置により、Pepckレベルが2.3倍上昇した。H4H1327Pでの処置は、S961によりもたらされたレベルの上昇をベースラインの30%未満に逆転させた。
図3Aおよび3Bを参照されたい。
【0054】
【
図4A】
図4A~4Dは、膵臓組織に対する4つの処置の効果を示す。膵臓重量、
図4A;膵臓α細胞質量(cell mass)、
図4B;膵臓β細胞質量、
図4C;および全膵臓面積に対する膵島数、
図4D。β細胞質量は、S961単独と比較した場合、S961およびH4H1327Pの存在下で2倍になり、対照マウスと比べると5.8倍増加した。
図4Cを参照されたい。
【
図4B】
図4A~4Dは、膵臓組織に対する4つの処置の効果を示す。膵臓重量、
図4A;膵臓α細胞質量(cell mass)、
図4B;膵臓β細胞質量、
図4C;および全膵臓面積に対する膵島数、
図4D。β細胞質量は、S961単独と比較した場合、S961およびH4H1327Pの存在下で2倍になり、対照マウスと比べると5.8倍増加した。
図4Cを参照されたい。
【
図4C】
図4A~4Dは、膵臓組織に対する4つの処置の効果を示す。膵臓重量、
図4A;膵臓α細胞質量(cell mass)、
図4B;膵臓β細胞質量、
図4C;および全膵臓面積に対する膵島数、
図4D。β細胞質量は、S961単独と比較した場合、S961およびH4H1327Pの存在下で2倍になり、対照マウスと比べると5.8倍増加した。
図4Cを参照されたい。
【
図4D】
図4A~4Dは、膵臓組織に対する4つの処置の効果を示す。膵臓重量、
図4A;膵臓α細胞質量(cell mass)、
図4B;膵臓β細胞質量、
図4C;および全膵臓面積に対する膵島数、
図4D。β細胞質量は、S961単独と比較した場合、S961およびH4H1327Pの存在下で2倍になり、対照マウスと比べると5.8倍増加した。
図4Cを参照されたい。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本方法について記載する前に、かかる方法および条件は様々であり得るため、記載される特定の方法および実験条件に本発明が限定されないことを理解されたい。また、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、本明細書において使用される専門用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とするものであり、限定を意図するものではないことも理解されたい。
【0056】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、「a」、「an」、および「the」という単数形には、文脈上他の意味を示すことが明らかでない限り、複数の参照物が含まれる。よって、例えば、「方法(a method)」への言及は、1つまたは複数の方法、および/または本明細書に記載される種類のステップ、および/または本開示を読めば当業者には明らかになるものを含む、などである。
【0057】
別途定義されない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本発明の実践または試験においては、本明細書に記載されるものと同様または同等の任意の方法および材料を使用することができるが、好ましい方法および材料についてこれより記載する。本明細書において言及されるすべての特許、出願、および非特許公開文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている。
【0058】
概説
重度のインスリン抵抗性は、様々な生理学的および病態生理学的な状況と関連して生じる。臨床的所見としては、高インスリン血症、黒色表皮腫、卵巣アンドロゲン過剰症、多嚢胞性卵巣、および最終的な高血糖症が挙げられ、稀な事例では、患者はケトアシドーシスを発症する場合がある。重度のインスリン抵抗性をより一般的なインスリン抵抗性と区別するための合意の得られた定義はないが、症候性のインスリン抵抗性は、原発性インスリンシグナル伝達欠損(インスリン受容体疾患(insulin receptoropathy)またはインスリンシグナル伝達経路の部分的な破壊)、または脂肪組織異常(重度の肥満またはリポジストロフィー)に続発するインスリン抵抗性のいずれかとして分類されてきた。Sempleら(2011年)、Genetic Syndromes of Severe Insulin Resistance、Endocrine Reviews、32巻(4号):498~514頁を参照されたい。
【0059】
重度のインスリン抵抗性の証拠は、1日当たり100~200単位を超える用量の外因性インスリンを必要とする患者、または内因性インスリンの循環血中レベルが慢性的に上昇している患者において見られる。MollerおよびFlier(1991年)、New England Journal of Medicine、325巻:938~948頁。50~70μU/mLを超える空腹時インスリンレベル、または350μU/mLを超えるピーク(経口グルコース負荷試験後)インスリンレベルは、重度のインスリン抵抗性を示唆する。2×104μU/mL・分未満のインスリン感受性指数値は、典型的には、重度のインスリン抵抗性の存在下で生じる。重度のインスリン抵抗性を有する患者は、2mg/kg・分未満のグルコース処理速度も呈する。TritosおよびMantzoros(1998年)、Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism、83巻:3025~3030頁を参照されたい。
【0060】
インスリンは、標的細胞の形質膜にあるインスリン受容体と相互作用する。インスリン受容体は、膜貫通チロシンキナーゼ受容体であり、グルコース恒常性を制御するように機能する。インスリン受容体は、インスリンが結合するための部位を含有する2つのαサブユニットと、チロシンキナーゼドメインを含有する2つのβサブユニットとからなり、サブユニットは、ジスルフィド架橋によって接続されて350kDaのβ-α-α-β四量体を形成する。受容体には、エクソン11を有するアイソフォーム(IR-B)およびエクソン11を有しないアイソフォーム(IR-A)という2種のアイソフォームが存在し、アイソフォームの発現レベルは種々の組織において異なる。IR-Bアイソフォームは、IR-Aアイソフォームよりも高く効率的なシグナル伝達活性を呈し、IR-Bアイソフォームは、主として肝臓、脂肪組織、および筋組織において発現する。IR-AアイソフォームはCNS細胞および造血細胞において発現し、わずかに高いインスリン結合親和性を有する。
【0061】
活性化されたインスリン受容体のチロシンキナーゼ活性は、グルコース輸送の膜貫通シグナル伝達およびグルコース恒常性の制御に関与している。
【0062】
重度のインスリン抵抗性は典型的に、細胞表面における発現または受容体のシグナル伝達能の低下をもたらすインスリン受容体突然変異と関連付けられる。他の突然変異としては、受容体結合親和性の欠損、またはインスリンシグナルトランスダクション経路、例えばインスリン受容体のチロシンキナーゼドメインの保存領域に関与するタンパク質の突然変異が挙げられる。
【0063】
重度のインスリン抵抗性を有する患者は、以下:ドナヒュー氏症候群、Rabson-Mendenhall症候群、A型インスリン抵抗性、B型インスリン抵抗性、HAIR-AN(アンドロゲン過剰症、インスリン抵抗性、および黒色表皮腫)症候群、偽末端肥大症、アルストレーム症候群、筋緊張性ジストロフィー、ヴェルナー症候群、リポジストロフィー、硬変、単一遺伝子性病的肥満、高プロインスリン血症、カルボキシペプチダーゼE欠損症、アルギニン代謝障害、またはバルデー-ビードル症候群から選択される状態または疾患を患っている場合がある。
【0064】
遺伝的および後天的な重度のインスリン抵抗性の状況は、身体の組織および臓器がインスリンに対して適切に応答しない稀な障害である。重度のインスリン抵抗性と関連付けられる臨床的所見としては、成長遅滞、臓器肥大、骨格および脂肪組織の発達障害、軟部組織異常増殖、糖尿病、脂肪肝(hepatic steatosis)、黒色表皮腫、卵巣アンドロゲン過剰症、および多毛症が挙げられる。検査所見としては、高インスリン血症、インスリンクリアランスの低減、高血糖症、脂質異常症、およびアンドロゲンの上昇が挙げられる。重度のインスリン抵抗性と関連付けられる種々の症候群はそれぞれ、一般的な臨床および検査上の特色の一部またはすべてに加え、独特の特色を有する。
【0065】
ドナヒュー氏症候群(DS、妖精症ともいう)およびRabson-Mendenhall症候群(RMS)は、インスリン受容体の両方の対立遺伝子が異常であり、患者が内因性および外因性のインスリンに応答することができない稀な常染色体劣性状態である。DSおよびRMSを有する個体は出生前から未発達であり、乳児として発育することができない。患者は、最高で正常レベルの1000倍という極めて高い循環血中インスリンのレベルを示す。DSの一次的な代謝結果は空腹時低血糖であり、二次的には食後高血糖症である。DSと診断された個体は通常1歳未満で死亡し、糖尿病性ケトアシドーシスを発症しない。RMSを有する個体も空腹時低血糖を経験し、典型的に乳児期を生き抜くが、やがて重度かつ難治性の糖尿病性ケトアシドーシスを発症し、インスリンレベルが低下する。
【0066】
ケトン血症は、脂肪酸の破壊およびアミノ酸の脱アミノ化によってケトン体が形成され、血液中に蓄積した場合に生じる。これが未処置のままであれば、次いで患者は糖尿病性ケトアシドーシスへと進み続け得る。ベータ-ヒドロキシブチレートおよびアセト酢酸は、より一般的なケトンのうちの2つであり、上昇したレベルは、ケトン血症の重症度およびケトアシドーシスの指標を計測するために使用され得る。
【0067】
A型インスリン抵抗性症候群は、重度のインスリン抵抗性によって特徴付けられる別の稀な障害であり、症状は典型的に、女性では思春期、または男性では成人期に現れる。女性は、原発性無月経または希発月経、卵巣嚢胞、多毛症、および黒色表皮腫を示すが、典型的には体重過多ではない。罹患した男性は真性糖尿病を発症するときに症状を示す。DSおよびRMSの場合と同様に、インスリン受容体遺伝子突然変異がA型インスリン抵抗性症候群の一因である。
【0068】
リポジストロフィーは、インスリン受容体自体またはインスリンシグナル伝達カスケードの下流構成成分における欠損に起因する異常な脂肪の分布、利用、および代謝によって特徴付けられる障害の一群を指す。リポジストロフィーの患者は、脂肪組織の全身性または部分的な欠如、インスリン抵抗性(糖尿病の有無にかかわらない)、著しい脂質異常症、および脂肪肝(fatty liver)を示す。Berardinelli-Seip症候群のような一部のリポジストロフィー症候群は遺伝性であり、Lawrence症候群を含む他は後天的で、時には感染性の前駆症状の後に得られる。さらなるリポジストロフィー症候群としては、Kobberling-Dunnigan症候群、他の異形症の特色を伴うリポジストロフィー、および頭胸部のリポジストロフィーが挙げられる。
【0069】
B型インスリン抵抗性症候群は、インスリン受容体に対する血清自己抗体の存在と関連付けられ、自己免疫疾患との関連において起こり得るという点で、DS、RMS、およびA型インスリン抵抗性症候群とは異なる。症状は他のインスリン抵抗性症候群と同様であり、時折の奇異性低血糖(paradoxal hypoglycemia)に加えて、非ケトン性および重度インスリン抵抗性糖尿病、黒色表皮腫、ならびに多毛症を含む。
【0070】
HAIR-AN(アンドロゲン過剰症、インスリン抵抗性、および黒色表皮腫)症候群は、様々な形態をとるインスリン抵抗性を有する典型的には肥満の若年女性において現れる。一部の個体は高いインスリン濃度を有するが正常なグルコースレベルを有し、一方、他は糖尿病症状を示す。他の重度のインスリン抵抗性の症候群が稀であることとは異なり、HAIR-AN症候群は、全世界で思春期の少女の約5%に影響すると推測されている。症候群は、インスリン受容体遺伝子のチロシンキナーゼドメインの突然変異と関連付けられている。
【0071】
偽末端肥大症は類肢端巨人症との関連において重度のインスリン抵抗性を示し、インスリンシグナル伝達経路の欠損、またはIGF-1受容体を通じてシグナル伝達する高いインスリンレベルに起因すると思われる。
【0072】
他の重度インスリン抵抗性症候群には、いくつか例を挙げると、アルストレーム症候群、筋緊張性ジストロフィー、およびヴェルナー症候群が含まれる。
【0073】
一部の患者では、状態または疾患は、重度のインスリン抵抗性をもたらすことが報告されている遺伝子変異体の存在と関連付けられる。例示的な遺伝子変異体としては、INSR、PSMD6、ADRA2A、AGPAT2(リポジストロフィーおよびインスリン抵抗性と関連付けられる)、AKT2、APPL1、BBS1(バルデー-ビードル症候群1と関連付けられる)、BSCL2、CIDEC、GRB10、IRS2、KLF14、LEP、LEPR、LMNA(リポジストロフィーと関連付けられる)、MC4R、PCNT、PIK2CA、POLD1(リポジストロフィーと関連付けられる)、PPARG、PTPRD、PTRF(リポジストロフィーと関連付けられる)、RASGRP1、TBC1D4、およびTCF7L2が挙げられる。
【0074】
一部の患者では、患者の血清中でインスリン分解プロテアーゼ活性が検出される。一部の患者では、患者の血清中で中和性抗インスリン抗体または抗インスリン受容体抗体が検出される。一部の患者では、重度のインスリン抵抗性は、リポジストロフィーをもたらす脂肪細胞の自己免疫破壊との関連において生じる。
【0075】
重度のインスリン抵抗性を有する患者は最終的に高血糖症を、一部の症候群ではケトアシドーシスを発症する。例えば、RMSの患者では、インスリンレベルは、幼少期、さらには奇異性空腹時低血糖の期間中にも、非常に高い状態から始まる。疾患が進行するにつれ、インスリンレベルは高いままであるが低下する。加えて、部分的に酸化された脂肪酸のレベルが上昇する。これは、インスリンが脂肪細胞からの脂肪酸の放出を抑制することができず、最終的に恒常的なケトアシドーシスをもたらすことを示す。同様に、恒常的な高血糖症の結果として、インスリンレベルが、肝臓におけるグルコースの産生および放出を抑制することができなくなる。しかしながら、極度に高い濃度のインスリン(9.5U/kg・時間)の持続注入により、増加した脂肪酸の酸化を逆転させ、ケトン尿症を阻止することができる。Longoら(1991年)、Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism、84巻:2623~2629頁。加えて、高トリグリセリド血症および低い高密度リポタンパク質コレステロールレベルが、重度のインスリン抵抗性と関連付けられている。
【0076】
重度インスリン抵抗性症候群の患者は、高血糖症にもかかわらず、正常またはさらにはわずかに上昇した血漿グルカゴンレベルを有する。Westら(1975年)、Arch. Dis. Child.、50巻(9号):703~708頁;Desbois-Mouthonら(1997年)、Pediatr. Res.、42巻(1号):72~77頁。高血糖症は、インスリン抑制の不足および異常に高いグルカゴンシグナル伝達に起因する肝臓におけるグルコース生産の増強から結果として生じる。
【0077】
今日まで、GCG/GCGRシグナル伝達経路をアンタゴナイズすることの、重度のインスリン抵抗性状態または疾患に対する効果を調査した研究は存在しない。実施例に記載される研究では、重度のインスリン抵抗性のマウスモデルにおいて、GCG/GCGRシグナル伝達経路の例示的な阻害剤としてGCGRのアンタゴニストを使用して、数週間の処置にわたり、血中グルコースレベル、および血漿ベータ-ヒドロキシブチレートレベルによって測定されるケトン血症に対する効果を実証する。
【0078】
定義
本明細書では「GCGR」とも呼ばれる「グルカゴン受容体」は、Gタンパク質共役受容体クラス2ファミリーに属し、長いアミノ末端細胞外ドメイン、7つの膜貫通セグメント、および細胞内C末端ドメインからなる。グルカゴン受容体は、とりわけ肝実質細胞の表面で発現し、ここでグルカゴンに結合し、それによりもたらされたシグナルを細胞内に伝達する。したがって、「グルカゴン受容体」という用語は、グルカゴンと特異的に相互作用して、結果として生物学的シグナルを生じる1つまたは複数の受容体も指す。当技術分野では、ラットおよびヒト起源のグルカゴン受容体をコードするDNA配列が単離され、開示されている(EP0658200B1)。マウスおよびカニクイザルのホモログも単離され、シーケンシングされている(Burcelinら(1995年)、Gene、164巻:305~310号;McNallyら(2004年)、Peptides、25巻:1171~1178頁)。本明細書で使用される場合、「グルカゴン受容体」および「GCGR」は交換可能に使用される。「GCGR」、「hGCGR」、またはその断片という表現は、本明細書で使用される場合、非ヒト種に由来するもの、例えば「マウスGCGR」、「ラットGCGR」、または「サルGCGR」であることが特定されている場合を除き、ヒトGCGRタンパク質またはその断片を指す。
【0079】
「GCGRアンタゴニスト」という語句は、GCGRシグナル伝達経路の阻害剤、アンタゴニスト、またはインバースアゴニストを指す。「GCG阻害剤」は、受容体へのグルカゴンの結合を防止し得る。GCGR阻害剤も、受容体へのグルカゴンの結合を防止し得る。しかしながら、いずれも受容体の活性化を有効に遮断もしくは減弱するか、またはGCGR活性化下流のシグナル伝達カスケードと干渉し得る。
【0080】
GCGRアンタゴニストは、グルカゴン受容体に結合し、それによって、GCGRにより媒介されるGCGの活性をアンタゴナイズすることができる。GCGRにおけるGCGの結合および活性をアンタゴナイズすることによりGCGの活性を阻害することによって、糖新生および糖原分解の速度、ならびに血漿中のグルコースの濃度が低下する。推定されるアンタゴニストのグルカゴン受容体との結合を決定するための方法は当技術分野では公知であり、グルカゴン受容体におけるグルカゴン活性との干渉を決定するための手段は公開されている。例えば、S. E. de Laszloら(1999年)、Bioorg. Med. Chem. Lett.、9巻:641~646頁を参照されたい。本明細書において有用と企図されるものは、小分子化合物、または言い換えれば低分子量の有機化合物をその機能的構成成分として有する、GCGRアンタゴニストまたはGCG阻害剤である。小分子は、典型的には800ダルトン未満である。さらに、CRISPR技術を使用して、GCGまたはGCGRの発現をノックダウンすることができる。
【0081】
「阻害剤」または「アンタゴニスト」という用語には、化学的もしくは生理学的な反応もしくは応答を遅滞させるか、または防止する物質が含まれる。一般的な阻害剤またはアンタゴニストとしては、アンチセンス分子、抗体、小分子阻害剤、ペプチド阻害剤、DARPin、Spiegelmer、アプタマー、操作されたFn III型ドメイン、およびそれらの誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
GCG阻害剤またはGCGRシグナル伝達経路アンタゴニストの例としては、GCGRシグナル伝達経路の結合を遮断する、またはその活性を阻害する、GCGまたはGCGRに対する抗体(ヒト抗体またはヒト化抗体)、またはその抗原結合性部分が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に記載される方法において使用され得る例示的なGCGRアンタゴニストとしては、(a)配列番号2、18、34、50、66、70、86、90、106、110、126、130、および146からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCVR、ならびに/または(b)配列番号10、26、42、58、68、78、88、98、108、118、128、138、および148からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む、単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片が挙げられる。本明細書に記載される方法において使用され得る例示的なGCG阻害剤としては、(a)配列番号150、166、182、198、214、230、246、262、278、および294からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCVR、ならびに/または(b)配列番号158、174、190、206、222、238、254、270、286、および302からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む、単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片が挙げられる。
【0083】
「治療有効用量」とは、投与に関して所望の効果をもたらす用量である。正確な用量は処置の目的に左右され、当業者が公知の技術(例えば、Lloyd(1999年)、The Art, Science and Technology of Pharmaceutical Compoundingを参照されたい)を使用することで確認可能である。
【0084】
「実質的に同一な」という語句は、配列番号2、18、34、50、66、70、86、90、106、110、126、130、および146からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCVR、ならびに/または(b)配列番号10、26、42、58、68、78、88、98、108、118、128、138、および148からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCVRに対して、少なくとも95%の同一性を有し、GCGRに結合しGCGRの生物学的活性を阻害することができる、タンパク質配列を意味する。「実質的に同一な」という語句は、アミノ酸配列である配列番号150、166、182、198、214、230、246、262、278、および294からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCVR、ならびに/または(b)配列番号158、174、190、206、222、238、254、270、286、および302からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCVRに対して、少なくとも95%の同一性を有し、GCGに結合し、GCGの生物学的活性を阻害することができるタンパク質配列も意味する。
【0085】
「同一性」または「相同性」という用語は、いかなる保存的置換も配列同一性の一部として考慮せずに、配列全体で最大の同一性パーセントが達成されるように必要に応じて、配列をアラインメントし、ギャップを導入した後に、対応する配列の残基と比較して同一である候補配列のアミノ酸残基の百分率を意味すると解釈される。N末端またはC末端の伸張も挿入も、同一性または相同性を低減させるものとは解釈されない。アラインメントのための方法およびコンピュータプログラムは当技術分野において周知である。配列同一性は、配列解析ソフトウェア(例えば、Sequence Analysis Software Package、Genetics Computer Group、University of Wisconsin Biotechnology Center、1710 University Ave.、Madison、Wis.53705)を使用して測定することができる。このソフトウェアは、種々の置換、欠失、および他の修飾に相同性の程度を割り当てることにより、同様の配列をマッチングさせる。
【0086】
「処置すること」(または「処置する」または「処置」)という用語は、本明細書に記載されるGCG阻害剤またはGCGRアンタゴニストの使用による、既存の症状、障害、状態、もしくは疾患の進行、持続期間、または重症度を減速させる、妨害する、阻害する、抑止する、コントロールする、停止する、低減させる、好転させる(ameliorate)、または逆転させることを伴うが、疾患に関連する症状、状態、または障害のすべての完全な消失を必ずしも伴うとは限らないプロセスを指す。さらに、「処置すること」、「処置」、または「処置する」とは、臨床結果を含む有益または所望の結果を得るための手法を指し、これらの結果には、限定されるものではないが、以下:重度のインスリン抵抗性の進行を阻害する、遅延する、もしくは防止すること;重度のインスリン抵抗性と関連付けられるか、または血漿インスリンレベルの上昇、血中グルコースレベルの上昇、および/もしくはケトン血症もしくはケトアシドーシス(ベータ-ヒドロキシブチレートレベルの上昇によって測定される)によって特徴付けられる疾患、例えばドナヒュー氏症候群、Rabson-Mendenhall症候群、A型インスリン抵抗性、B型インスリン抵抗性、HAIR-AN(アンドロゲン過剰症、インスリン抵抗性、および黒色表皮腫)症候群、偽末端肥大症、アルストレーム症候群、筋緊張性ジストロフィー、ヴェルナー症候群、リポジストロフィー、硬変、単一遺伝子性病的肥満、高プロインスリン血症、カルボキシペプチダーゼE欠損症、アルギニン代謝障害、バルデー-ビードル症候群、または重度のインスリン抵抗性をもたらすことが報告されている遺伝子変異体の存在と関連付けられる状態もしくは疾患の進行を阻害する、遅延する、または防止すること;あるいは、重度のインスリン抵抗性と関連付けられる疾患と関連付けられる少なくとも1つの症状を阻害する、防止する、または好転させること;あるいは、血中グルコースレベルおよび/またはベータ-ヒドロキシブチレートレベルを低下させること(ケトアシドーシスの指標として)により、高い血中グルコースレベルおよびケトン血症と関連付けられる状態もしくは疾患が媒介されるるか、または状態もしくは疾患と関連付けられる少なくとも1つの症状もしくは合併症が緩和されるか、またはその重症度が低減することのうちの1つまたは複数が含まれる。「処置」または「処置すること」とは、本明細書で使用される場合、疾患を患っているものの生活の質を高めること、疾患を処置するために必要とされる他の薬の用量を減少させること、および/または患者の生存を延長させることも指す。例えば、「処置」または「処置すること」は、重度のインスリン抵抗性を有する患者を処置するために必要なインスリンの量および/または投与量を低減させることを含み得る。
【0087】
「インスリン抵抗性」という語句は、定量的に正常な応答を誘起するために正常を超える量のインスリンが必要とされる状況である。「重度のインスリン抵抗性」という語句は、概して、内因性インスリン分泌および/またはインスリンの血漿レベルの著しい上昇にもかかわらず正常に近いかまたは上昇した血中グルコースレベルを典型的に示す臨床的実体を指す。重度のインスリン抵抗性の証拠は、1日当たり100~200単位を超える用量の外因性インスリンを必要とする患者、または内因性インスリンの循環血中レベルが慢性的に上昇している患者において見られる。MollerおよびFlier(1991年)、New England Journal of Medicine、325巻:938~948頁。50~70μU/mLを超える空腹時インスリンレベル、または350μU/mLを超えるピーク(経口グルコース負荷試験後)インスリンレベルは、重度のインスリン抵抗性を示唆する。2×104μU/mL・分未満のインスリン感受性指数値は、典型的には、重度のインスリン抵抗性の存在下で生じる。重度のインスリン抵抗性を有する患者は、2mg/kg・分未満のグルコース処理速度も呈する。TritosおよびMantzoros(1998年)、Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism、83巻:3025~3030頁を参照されたい。
【0088】
GCG/GCGRシグナル伝達経路阻害剤
本明細書では、重度のインスリン抵抗性によって特徴付けられる状態または疾患を処置するためのGCG阻害剤およびGCGRアンタゴニストが提供される。一部の実施形態では、アンタゴニストは、グルカゴンの阻害剤である。一部の実施形態では、アンタゴニストは、GCGRの阻害剤である。一部の実施形態では、GCGRアンタゴニストは、MK-0893、PF-06291874、LGD-6972、またはLY2409021である。
【0089】
一部の実施形態では、アンタゴニストは、GCGもしくはGCGRに結合することができる抗体、またはその断片を含む。一部の実施形態では、例えばCRISPR技術またはアンチセンスを使用することによる、GCGまたはGCGRの発現の妨害によって、シグナル伝達経路が阻害される。
【0090】
一部の実施形態では、GCG阻害剤またはGCGRアンタゴニストは、アンチセンス分子、抗体、小分子阻害剤、ペプチド阻害剤、DARPin、Spiegelmer、アプタマー、操作されたFn III型ドメイン、またはそれらの誘導体である。
【0091】
抗GCGR抗体、抗GCG抗体、および抗体断片
一部の実施形態では、GCGRアンタゴニストは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている米国特許第8,545,847号に開示されている抗体または抗体断片である。この文献において開示されている抗体を表1に提示する。
【表1】
【0092】
本明細書において有用と企図されるさらなるGCGR抗体または抗体断片としては、米国特許第5,770,445号および同第7,947,809号、欧州特許出願第EP2074149(A2)号、欧州特許第EP0658200(B1)号、米国特許公開第2009/0041784号、同第2009/0252727号、および同第2011/0223160号、ならびにPCT公開第WO2008/036341号に開示されているものが挙げられる。これらの特許および公開文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている。
【0093】
一部の実施形態では、GCG阻害剤は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれているU.S.2016/0075778に開示されている抗体またはその抗体断片である。この文献において開示されている抗体を表2に提示する。
【表2】
【0094】
本明細書において有用と企図されるさらなるGCG抗体または抗体断片としては、米国特許第4,206,199号、同第4,221,777号、同第4,423,034号、同第4,272,433号、同第4,407,965号、同第5,712,105号、ならびにPCT公開第WO2007/124463号および同第WO2013/081993号に開示されているものが挙げられる。
【0095】
抗体断片としては、必要な標的特異性を有する任意の断片、例えば、抗体全体の修飾(例えば酵素消化)によって産生される抗体断片、あるいは組換えDNA法を使用してde
novo合成されたもの(scFv、単一ドメイン抗体、DVD(二重可変ドメイン免疫グロブリン)、またはdAb(単一可変ドメイン抗体))、あるいはヒトファージディスプレイライブラリーまたは酵母ディスプレイライブラリーを使用して同定されたものが挙げられる(例えば、McCaffertyら(1990年)、Nature、348巻:552~554頁を参照されたい)。あるいは、ハイブリドーマの作製、またはSLAMなどのB細胞スクリーニング技術の使用を含むがこれらに限定されない、標準的な免疫化および抗体単離方法を使用して、ヒト、ヒト-マウス、ヒト-ラット、およびヒト-ウサギキメラ抗体を産生するマウスから抗体を単離してもよい。免疫グロブリン結合ドメインには、免疫グロブリンの重鎖(VH)または軽鎖(VL)の可変領域も含まれるが、これらに限定されない。あるいは、人々を免疫化し、抗原陽性B細胞を単離し、重鎖および軽鎖をコードしそれらをCHOなどの細胞内で共発現するcDNAをクローニングすることによる。
【0096】
本明細書において使用される「抗体」という用語は、抗原に特異的に結合しこれを認識する、免疫グロブリン遺伝子またはその断片に由来するフレームワーク領域を含むポリペプチドを指す。認識される免疫グロブリン遺伝子としては、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン、およびミューの定常領域、ならびに多種多様な免疫グロブリン可変領域遺伝子が挙げられる。軽鎖は、カッパまたはラムダのいずれかに分類される。重鎖は、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、またはイプシロンに分類され、これにより、それぞれIgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEの免疫グロブリンクラスが定義される。各IgGクラス中、異なるアイソタイプ(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)が存在する。典型的には、抗体の抗原結合性領域が、結合の特異性および親和性の決定において最も重要である。
【0097】
例示的な免疫グロブリン(抗体)構造単位は、四量体を含む。各四量体は2つの同一のポリペプチド鎖ペアから構成され、各ペアが1つの軽鎖(約25kD)および1つの重鎖(約50~70kD)を有する。各鎖のN末端は、抗原認識に主に関与する約100~110またはそれよりも多くのアミノ酸の可変領域を定義する。「可変軽鎖」(VL)および可変重鎖(VH)という用語は、それぞれ、これらの軽鎖および重鎖を指す。
【0098】
抗体は、インタクトな免疫グロブリンとして、または種々のペプチダーゼによる消化により産生されるいくつかの十分に特徴付けられた断片として存在する。例えば、ペプシンは、ヒンジ領域内のジスルフィド連結の下の抗体を消化して、Fabの二量体であるF(ab)’2を産生し、これ自体、ジスルフィド結合によりVH-CH1に接合した軽鎖である。F(ab)’2は、ヒンジ領域内のジスルフィド連結を破壊する穏やかな条件下で還元することができ、これにより、F(ab)’2二量体がFab’単量体に変換される。Fab’単量体は本質的に、ヒンジ領域の一部を有するFabである。種々の抗体断片はインタクトな抗体の消化という点から定義されるが、当業者であれば、かかる断片が化学的に、あるいは組換えDNA法を使用することによりde novo合成され得ることを察知するであろう。
【0099】
本明細書における方法に従って有用な抗体を調製するための方法は、当技術分野で公知である。例えば、KohlerおよびMilstein(1975年)、Nature、256巻:495~497頁;HarlowおよびLane(1988年)、Antibodies: a Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Lab.、Cold Spring Harbor、N.Y.を参照されたい。目的の抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子は、細胞からクローニングすることができる。例えば、モノクローナル抗体をコードする遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、組換えモノクローナル抗体を産生するために使用することができる。モノクローナル抗体は、ヒトスキャフォールドへのCDR領域の標準的なクローニングを使用してヒト化することができる。モノクローナル抗体のヒト重鎖および軽鎖をコードする遺伝子ライブラリーをハイブリドーマまたはプラズマ細胞から作製することもできる。重鎖および軽鎖遺伝子産物のランダムな組み合わせにより、異なる抗原特異性を有する抗体の大きなプールが生成される。本明細書において開示される方法で使用される抗体を産生するために、一本鎖抗体または組換え抗体の産生のための技術(米国特許第4,946,778号、米国特許第4,816,567号)を適合させてもよい。また、トランスジェニックマウス、または他の哺乳動物などの他の生物を使用して、ヒト、ヒト-マウスキメラ、ヒト-ラットキメラ、ヒト-ウサギキメラ、またはヒト化抗体を発現させてもよい。あるいは、ファージディスプレイまたは酵母ディスプレイ技術を使用して、選択された抗原に特異的に結合するヒト抗体およびヘテロマーのFab断片を同定することができる。
【0100】
イムノコンジュゲート
本開示は、血中グルコースレベルを低下させることまたは重度のインスリン抵抗性の別の症状に対処することができる薬剤などの治療的部分にコンジュゲートされたヒト抗GCGRモノクローナル抗体(「イムノコンジュゲート」)を用いた、重度のインスリン抵抗性の処置を包含する。抗GCGR抗体にコンジュゲートされ得る治療的部分の種類は、処置すべき状態および達成すべき所望の治療効果を考慮に入れる。例えば、血中グルコースを低下させ、かつ/または正常な血中グルコースレベルを維持する取り組みにおいて、ビグアナイド(例えばメトホルミン)、スルホニル尿素(例えばグリブリド、グリピジド)、PPARガンマアゴニスト(例えばピオグリタゾン、ロシグリタゾン)、アルファグルコシダーゼ阻害剤(例えばアカルボース、ボグリボース)、最終糖化産物形成の阻害剤(例えばアミノグアニジン)、または第2のGCGR阻害剤またはGCG阻害剤などの薬剤が、GCGR抗体にコンジュゲートされ得る。あるいは、所望の治療効果がケトン血症または重度のインスリン抵抗性と関連付けられる任意の他の症状もしくは状態を処置することである場合、適切な薬剤を抗GCGR抗体にコンジュゲートすることが有利である場合がある。イムノコンジュゲートを形成するための好適な薬剤の例は当技術分野で公知である。例えば、WO05/103081を参照されたい。
【0101】
多特異性抗体
本明細書において提供される方法に従って有用な抗体は、単一特異性、二重特異性、または多特異性であり得る。多特異性抗体は、1つの標的ポリペプチドの異なるエピトープに対して特異的であってもよいし、または、1つより多い標的ポリペプチドに対して特異的な抗原結合性ドメインを含有してもよい。例えば、Tuttら(1991年)、J. Immunol.、147巻:60~69頁;Kuferら(2004年)、Trends Biotechnol.、22巻:238~244頁を参照されたい。抗GCGR抗体は、別の機能分子、例えば別のペプチドもしくはタンパク質に連結されていてもよいし、またはそれらと共発現されてもよい。例えば、抗体またはその断片は、第2の結合特異性を有する二重特異性または多特異性の抗体を産生するように、1つまたは複数の他の分子実体、例えば別の抗体または抗体断片に(例えば、化学的カップリング、遺伝子融合、非共有結合性会合、または別のものによって)機能的に連結されていてもよい。例えば、免疫グロブリンの一方のアームがヒトGCGRまたはその断片に対して特異的であり、免疫グロブリンの他方のアームが第2の治療標的に対して特異的であるか、または治療的部分にコンジュゲートされている、二重特異性抗体が企図される。ある特定の実施形態では、免疫グロブリンの一方のアームは、hGCGRのN末端ドメインにあるエピトープまたはその断片に対して特異的であり、免疫グロブリンの他方のアームは、hGCGRのECループのうちの1つにあるエピトープまたはその断片に対して特異的である。ある特定の実施形態では、免疫グロブリンの一方のアームは、1つのECループまたはその断片に対して特異的であり、第2のアームは、第2のECループまたはその断片に対して特異的である。ある特定の実施形態では、免疫グロブリンの一方のアームは、hGCGRの1つのECループにある1つのエピトープに対して特異的であり、他方のアームは、hGCGRの同じECループにある第2のエピトープに対して特異的である。
【0102】
本明細書に記載される方法に従って使用され得る例示的な二重特異性抗体フォーマットは、第1の免疫グロブリン(Ig)のCH3ドメインおよび第2のIgのCH3ドメインの使用を伴い、ここで第1および第2のIgのCH3ドメインは、少なくとも1つのアミノ酸によって互いと異なり、少なくとも1つのアミノ酸の差により、プロテインAへの二重特異性抗体の結合が、アミノ酸の差が欠如している二重特異性抗体と比較して低減する。一実施形態では、第1のIgのCH3ドメインは、プロテインAに結合し、第2のIgのCH3ドメインは、プロテインA結合を低減または消失させる突然変異、例えばH95R修飾(IMGTエクソン付番による。EU付番による場合はH435R)を含有する。第2のCH3は、Y96F修飾(IMGTによる。EUによる場合はY436F)をさらに含み得る。第2のCH3中で見出され得るさらなる修飾としては、IgG1抗体の場合はD16E、L18M、N44S、K52N、V57M、およびV82I(IMGTによる。EUによる場合はD356E、L358M、N384S、K392N、V397M、およびV422I);IgG2抗体の場合はN44S、K52N、およびV821(IMGT。EUによる場合はN384S、K392N、およびV422I);ならびにIgG4抗体の場合はQ15R、N44S、K52N、V57M、R69K、E79Q、およびV82I(IMGTによる。EUによる場合はQ355R、N384S、K392N、V397M、R409K、E419Q、およびV422I)が挙げられる。上述の二重特異性抗体フォーマットにおけるバリエーションは、本開示の範囲内で企図されている。
【0103】
抗体のスクリーニングおよび選択 本明細書において提供される方法に従って有用な好ましい抗体のスクリーニングおよび選択は、当技術分野で公知の様々な方法によって行うことができる。標的抗原に対して特異的なモノクローナル抗体の存在に関する初回スクリーニングは、例えばELISAベースの方法を使用することにより行うことができる。抗体-薬物コンジュゲートの構築に使用するために所望のモノクローナル抗体を同定し選択するために、二次的なスクリーニングが行われることが好ましい。二次的なスクリーニングは、当技術分野で公知の任意の好適な方法を用いて行ってよい。参照によりその全体が本明細書に明確に組み込まれている米国特許公開第2004/0101920号には、「バイオセンサー改変支援プロファイリング(Biosensor Modification-Assisted Profiling)」(「BiaMAP」)と呼ばれる1つの好ましい方法が記載されている。BiaMAPにより、所望の特徴を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンの迅速な同定が可能になる。より具体的には、抗体:抗原相互作用の評価に基づいて、モノクローナル抗体が別個のエピトープ関連群に選別される。リガンドまたは受容体のいずれかを遮断することができる抗体が、NFκB駆動プロモーターまたはcAMP応答駆動プロモーターのコントロール下にあるルシフェラーゼ遺伝子を利用するルシフェラーゼアッセイなどの細胞ベースのアッセイによって同定され得る。グルカゴンによるGCGRの刺激は、NFκB/cAMP/CREBによるシグナルをもたらし、したがって細胞内のルシフェラーゼレベルを上昇させる。ルシフェラーゼ活性のグルカゴンによる誘導を遮断した抗体として、遮断抗体が同定される。
【0104】
処置集団
本明細書において提供される治療方法は、重度のインスリン抵抗性または重度のインスリン抵抗性と関連付けられる状態もしくは疾患を有する個体を処置するために有用である。例示的な状態または疾患としては、ドナヒュー氏症候群、Rabson-Mendenhall症候群、A型インスリン抵抗性、B型インスリン抵抗性、HAIR-AN(アンドロゲン過剰症、インスリン抵抗性、および黒色表皮腫)症候群、偽末端肥大症、アルストレーム症候群、筋緊張性ジストロフィー、ヴェルナー症候群、リポジストロフィー、硬変、単一遺伝子性病的肥満、高プロインスリン血症、カルボキシペプチダーゼE欠損症、アルギニン代謝障害、バルデー-ビードル症候群、および重度のインスリン抵抗性をもたらすことが報告されている遺伝子変異体の存在と関連付けられる状態または疾患が挙げられる。一部の実施形態では、患者の血清中でインスリン分解プロテアーゼ活性が検出される。一部の実施形態では、患者の血清中で中和性抗インスリン抗体が検出される。一部の患者では、重度のインスリン抵抗性は、リポジストロフィーをもたらす脂肪細胞の自己免疫破壊との関連において生じる。
【0105】
治療的な投与および製剤
本明細書において提供される方法によれば、例えば抗GCGR抗体などのグルカゴン/GCGRアンタゴニストを含む治療用組成物が有用である。本明細書に記載される方法に従う治療用組成物の投与は、好適な担体、賦形剤、および移入、送達、耐容能(tolerance)などを向上させるために製剤に組み込まれる他の薬剤とともに、静脈内、皮下、筋肉内、髄腔内、脳内、心室内(intraventricularly)、鼻腔内、または経口を含むがこれらに限定されない好適な経路により施される。すべての薬剤師に公知の処方集である、Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton、Paには、数多くの適切な製剤を見出すことができる。これらの製剤としては、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ワックス、油、脂質、脂質(カチオン性またはアニオン性)含有小胞(例えばLIPOFECTIN(商標))、DNAコンジュゲート、無水吸収ペースト、水中油型および油中水型の乳剤、乳剤カーボワックス(種々の分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、およびカーボワックスを含有する半固体混合物が挙げられる。Powellら、「Compendium of excipients for
parenteral formulations」PDA(1998年)、J Pharm Sci Technol、52巻:238~311頁も参照されたい。
【0106】
抗体の用量は、投与される被験体の年齢およびサイズ、標的の疾患、状態、投与経路などに応じて様々であり得る。抗体が、血中グルコースレベルを低下させるため、かつ/または、患者の種々の状態および疾患、例えばA型インスリン抵抗性症候群、RMS、またはDSにおいて、重度のインスリン抵抗性と関連付けられるケトン血症(例えばベータ-ヒドロキシブチレートレベルによって測定される)を減少させるために使用される場合、通常約0.01~約30mg/体重1kg、より好ましくは約0.02~約7、約0.03~約5、または約0.05~約3mg/体重1kgの用量で抗体を静脈内投与することが有利である。状態の重症度および処置への応答に応じて、処置の頻度および持続期間を調節してよい。ある特定の実施形態では、抗体またはその抗原結合性断片は、少なくとも約0.1mgから約800mgまで、約1から約500mgまで、約5から約300mgまで、または約10から約200mgまで、約100mgまで、もしくは約50mgまでの初回用量として投与してよい。
【0107】
ある特定の実施形態では、初回用量の後に、初回用量とほぼ同じであっても初回用量未満であってもよい量での、第2のまたは複数の後続用量の抗体またはその抗原結合性断片を投与してもよく、ここで後続用量は、少なくとも1日~3日、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも5週間、少なくとも6週間、少なくとも7週間、少なくとも8週間、少なくとも9週間、少なくとも10週間、少なくとも12週間、または少なくとも14週間の間をあけて投与される。
【0108】
種々の送達系、例えば、リポソーム内封入、微粒子、マイクロカプセル、突然変異体ウイルスを発現することができる組換え細胞、受容体媒介性エンドサイトーシスが公知であり、抗体を含む医薬組成物を投与するために使用することができる(例えば、Wuら(1987年)、J. Biol. Chem.、262巻:4429~4432頁を参照されたい)。導入の方法としては、デポ製剤、エアロゾル、真皮内、経皮、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、髄腔内、心室内、および経口経路が挙げられるが、これらに限定されない。組成物は、任意の簡便な経路によって、例えば注入またはボーラス注射によって、上皮または皮膚粘膜の内層(例えば、口腔粘膜、直腸および腸管粘膜など)を通じた吸収によって投与してよく、他の生物学的活性剤と一緒に投与してもよい。投与は、全身性であっても局所性であってもよい。
【0109】
医薬組成物は、小胞、特にリポソームにおいて送達することもできる(例えば、Langer(1990年)、Science、249巻:1527~1533頁を参照されたい)。
【0110】
ある特定の状況では、医薬組成物は、制御放出系において送達することができる。一実施形態では、ポンプを使用してよい。別の実施形態では、ポリマー材料を使用してよい。さらに別の実施形態では、制御放出系は、組成物の標的の近くに配置してよく、したがって全身用量の一部分しか必要とされない。
【0111】
注射可能な調製物は、静脈内、皮下、皮内および筋肉内注射、点滴注入などのための剤形を含み得る。これらの注射可能な調製物は、公然知られている方法によって調製することができる。例えば、注射可能な調製物は、例えば、注射のために従来使用されている無菌の水性媒体または油性媒体において、上述の抗体またはその塩を溶解、懸濁、または乳化させることにより調製され得る。注射のための水性溶媒としては、例えば、生理食塩水、グルコースおよび他の助剤を含有する等張性溶液などがあり、これらは、適切な可溶化剤、例えばアルコール(例えばエタノール)、多価アルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO-50(硬化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50mol)付加物)]などと組み合わせて使用され得る。油性媒体としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが用いられ、これらは、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどの可溶化剤と組み合わせて使用され得る。このように調製される注射剤は、好ましくは、適切なアンプルに充填される。
【0112】
本明細書において有用な医薬組成物は、標準的な針およびシリンジを用いて皮下または静脈内に送達され得る。加えて、皮下送達に関しては、本明細書に記載される方法において有用な医薬組成物の送達において、ペン型送達デバイスが容易に適用される。かかるペン型送達デバイスは、再使用可能であっても、使い捨てであってもよい。再使用可能なペン型送達デバイスは、概して、医薬組成物を含有する交換式カートリッジを利用する。カートリッジ内の医薬組成物がすべて投与され、カートリッジが空になったら、空のカートリッジを容易に廃棄し、医薬組成物を含有する新しいカートリッジと交換することができる。その後、ペン型送達デバイスを再使用することができる。使い捨てのペン型送達デバイスにおいては、交換式カートリッジはない。むしろ、使い捨てのペン型送達デバイスは、デバイス内のリザーバーに保持された医薬組成物が予め充填されている。リザーバー内の医薬組成物がなくなったら、デバイス全体が廃棄される。
【0113】
多数の再使用可能なペンおよびオートインジェクター送達デバイスが、本明細書に記載される方法に従って有用な医薬組成物の皮下送達に適用される。例としては、AUTOPEN(商標)(Owen Mumford,Inc.、Woodstock、UK)、DISETRONIC(商標)ペン(Disetronic Medical Systems、Burghdorf、Switzerland)、HUMALOG MIX 75/25(商標)ペン、HUMALOG(商標)ペン、HUMALIN 70/30(商標)ペン(Eli Lilly and Co.、Indianapolis、Inn.)、NOVOPEN(商標)I、II、およびIII(Novo Nordisk、Copenhagen、Denmark)、NOVOPEN JUNIOR(商標)(Novo
Nordisk、Copenhagen、Denmark)、BD(商標)ペン(Becton Dickinson、Franklin Lakes、N.J.)、OPTIPEN(商標)、OPTIPEN PRO(商標)、OPTIPEN STARLET(商標)、およびOPTICLIK(商標)(Sanofi-Aventis、Frankfurt、Germany)が挙げられるが、これらはほんの数例に過ぎず、もちろんこれらに限定されるものではない。本明細書に記載される方法に従って有用な医薬組成物の皮下送達に適用される使い捨てのペン型送達デバイスの例としては、SOLOSTAR(商標)ペン(sanofi-aventis)、FLEXPEN(商標)(Novo Nordisk)、およびKWIKPEN(商標)(Eli Lilly)、SURECLICK(商標)オートインジェクター(Amgen、Thousand Oaks、Calif.)、PENLET(商標)(Haselmeier、Stuttgart、Germany)、EPIPEN(Dey、L.P.)、およびHUMIRA(商標)ペン(Abbott Labs、Abbott Park、Ill.)が挙げられるが、これらはほんの数例に過ぎず、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0114】
有利なことには、上述の経口または非経口使用のための医薬組成物は、活性成分の用量を含めるのに適した単位用量の剤形に調製される。かかる単位用量の剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤などが挙げられる。含有される前述の抗体の量は、概して、単位用量の剤形当たり約5~約750mgである。前述の抗体は、とりわけ注射剤の形態においては約5~約100mgで、他の剤形の場合は約10~約250mgで含有されることが好ましい。
【0115】
併用療法
多数の実施形態では、本明細書で有用なGCG阻害剤またはGCGRアンタゴニストは、1つまたは複数のさらなる化合物もしくは療法と組み合わせて投与され得る。併用療法は、同時であっても逐次であってもよい。
【0116】
一部の実施形態では、GCG阻害剤またはGCGRアンタゴニストは、以下:インスリン、ビグアナイド、hIGF1、レプチン、ピオグリタゾン、ビルダグリプチン、アカルボース、アルファ-グリコシダーゼ阻害剤、L-アルギニン、ジペプチジル-ペプチダーゼ-4阻害剤、インスリン分泌促進物質、アミリン受容体アゴニスト、インスリン感作物質、SGLT2阻害剤、SGLT1阻害剤、GLP-1類似体、GLP-1受容体活性化剤、第2のGCG阻害剤、および第2のGCGRアンタゴニストから選択される少なくとも1種のさらなる治療剤とともに投与される。一部の実施形態では、GCG阻害剤またはGCGRアンタゴニストは、以下:バナジン酸塩またはバナジウム塩、フェニトイン、ベンザフィブレートから選択される少なくとも1種のさらなる治療剤とともに投与される。一部の実施形態では、GCG阻害剤またはGCGRアンタゴニストは、ω-3脂肪酸が豊富な魚油などの栄養補助食品とともに投与される。
【0117】
一部の実施形態では、インスリン感作物質は、チアゾリジンジオン、例えばトログリタゾンである。一部の実施形態では、インスリン感作物質は、ロシグリタゾンである。
【0118】
一部の実施形態では、インスリン分泌促進物質は、スルホニル尿素、ATP感受性Kチャネルアンタゴニスト、またはメグリチニドである。
【0119】
GCG阻害剤またはGCGRアンタゴニストの投与の前、それと同時、またはその後に、さらなる治療活性構成成分を投与してもよい。本開示の目的では、かかる投与レジメンは、第2の治療活性構成成分「と組み合わせた」GCG阻害剤またはGCGRアンタゴニストの投与とみなされる。
【0120】
投与レジメン
本明細書に記載されるある特定の実施形態によれば、既定の時間経過にわたって複数用量のグルカゴン/GCGRアンタゴニストを被験体に投与してよい。方法は、複数用量のグルカゴン/GCGRアンタゴニストを被験体に逐次投与することを含む。本明細書で使用される場合、「逐次投与すること」とは、アンタゴニストの各用量が、異なる時点で、例えば、所定の間隔(例えば、数時間、数日間、数週間、または数か月)だけ隔てた異なる日に、被験体に投与されることを意味する。本明細書に記載される方法は、単一の初回用量のグルカゴン/GCGRアンタゴニスト、その後に1回または複数の二次用量のグルカゴン/GCGRアンタゴニスト、任意選択でその後に1回または複数の三次用量のグルカゴン/GCGRアンタゴニストを、患者に逐次投与することを含む。
【0121】
「初回用量」、「二次用量」、および「三次用量」という用語は、本明細書において有用なグルカゴン/GCGRアンタゴニストの投与の時間上のシークエンスを指す。よって、「初回用量」とは、処置レジメンの開始時に投与される用量(「ベースライン用量」とも称する)であり、「二次用量」とは、初回用量の後に投与される用量であり、「三次用量」とは、二次用量の後に投与される用量である。初回用量、二次用量、および三次用量は、すべて同じ量のグルカゴン/GCGRアンタゴニストを含有してよいが、投与の頻度という点では概して互いと異なり得る。しかしながら、ある特定の実施形態では、初回用量、二次用量、および/または三次用量に含有されるグルカゴン/GCGRアンタゴニストの量は、処置の過程において互いと異なる(例えば、必要に応じて上方または下方に調節される)。ある特定の実施形態では、2回またはそれよりも多くの(例えば、2回、3回、4回、または5回の)用量が、処置レジメンの開始時に「負荷用量」として投与された後に、より低い頻度で投与される後続用量(例えば「維持用量」)が続く。
【0122】
医薬組成物
本明細書において開示される方法では、重度のインスリン抵抗性の処置において有用な少なくとも治療有効量の活性剤、例えばグルカゴン/GCGRアンタゴニスト、および薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物の使用が企図される。「薬学的に許容される」という用語は、動物、より特定するとヒトにおける使用のために、連邦政府もしくは州政府の規制機関によって認可されていること、または米国薬局方もしくは他の一般に認知されている薬局方に収載されていることを意味する。「担体」という用語は、治療薬がともに投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。かかる薬学的担体は、無菌の液体、例えば水、および石油、動物、植物、または合成起源のものを含む油類、例えばピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油などであり得る。好適な薬学的賦形剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、コメ、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが挙げられる。組成物は、所望の場合、微量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤も含有してもよい。これらの組成物は、液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、持続放出製剤などの形態をとることができる。組成物は、従来の結合剤および担体、例えばトリグリセリドとともに、坐剤として製剤化されていてよい。経口製剤は、標準的な担体、例えば薬学的グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどを含み得る。好適な薬学的担体の例は、E. W. Martinによる「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に記載されている。
【0123】
一実施形態では、組成物は、日常的手順に従い、ヒトへの静脈内投与のために適合された医薬組成物として製剤化される。必要な場合、組成物は、可溶化剤、および注射部位における痛みを軽減させるためのリドカインなどの局所麻酔薬も含んでもよい。組成物が注入により投与される場合、無菌の薬学的グレードの水または食塩水を含有する注入ボトルを用いて組成物を分注してもよい。組成物が注射により投与される場合、投与前に成分が混合され得るように無菌の注射用水または食塩水のアンプルを提供してもよい。
【0124】
本明細書に記載される方法に従って有用な活性剤は、中性または塩形態として製剤化することができる。薬学的に許容される塩としては、遊離アミノ基とともに形成されたもの、例えば塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来するもの、および遊離カルボキシル基とともに形成されたもの、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するものが挙げられる。
【0125】
重度のインスリン抵抗性の処置において有効となる活性剤の量は、本明細書に基づき、標準的な臨床技術によって決定することができる。加えて、最適な投与量範囲の特定に役立てるために、in vitroアッセイを任意選択で用いてもよい。製剤中に用いられる正確な用量は、投与経路、および状態の深刻さにも左右され、医師の判断および各被験体の状況に応じて決定されるべきである。しかしながら、静脈内投与に好適な投与量範囲は、概して、体重1キログラム当たり活性化合物約20マイクログラム~2グラムである。鼻腔内投与に好適な投与量範囲は、概して、約0.01pg/体重1kg~1mg/体重1kgである。有効用量は、in vitroまたは動物モデル試験系に由来する用量-応答曲線から外挿され得る。
【0126】
全身投与の場合、治療有効用量は、最初にin vitroアッセイから推測することができる。例えば、細胞培養において決定されるIC50を含む循環血中濃度範囲を達成するように、動物モデルにおいて用量を処方することができる。このような情報を使用して、ヒトにおいて有用な用量をより正確に決定することができる。初回投与量は、当技術分野で周知である技術を使用し、in vivoデータ、例えば動物モデルから推測することもできる。当業者であれば、動物データに基づいてヒトに対する投与を容易に最適化することができる。
【0127】
投与量および間隔は、治療効果を維持するのに十分な化合物の血漿レベルをもたらすように個別に調節してよい。局所投与または選択的取り込みの場合、化合物の有効な局所濃度は、血漿中濃度に関連しない場合がある。当業者であれば、過度の実験を行うことなく、治療上有効な局所投与量を最適化することができよう。
【0128】
投与される化合物の量は、当然ながら、処置される被験体、被験体の体重、病気の重症度、投与様式、および処方医師の判断に左右される。療法は、症状が検出可能である間、またはさらには症状が検出可能でないときにも、断続的に繰り返されてよい。療法は、単独で、または他の薬物と組み合わせて提供されてもよい。
【0129】
キット
本明細書では、パッケージング材料とパッケージング材料内に含有された医薬品とを含む製造品であって、医薬品が、本明細書において開示される方法に従って有用な少なくとも1種のGCG/GCGRアンタゴニストを含み、パッケージング材料が、重度のインスリン抵抗性によって特徴付けられる状態または疾患を処置するためにGCG/GCGRアンタゴニストが使用され得ることを示すラベルまたは添付文書を含む、製造品も提供される。
【0130】
いくつかの実施形態を参照しながら本発明を具体的に示し、記載したが、本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、本明細書において開示される種々の実施形態に対して形態および詳細の変更を行ってよいこと、ならびに、本明細書において開示される種々の実施形態が、特許請求の範囲に対する限定となることを意図するものではないことは、当業者には理解されよう。
【実施例0131】
以下の実施例は、本明細書において開示される方法がどのように実行されるかに関する完全な開示および説明を当業者が有するように提供される。使用される数(例えば量、温度など)に関して正確さを保証するよう努力を払ったが、ある程度の実験誤差および偏差が考慮されるべきである。別段の指示がない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度はセ氏温度であり、圧力は大気圧またはその付近である。
【0132】
(実施例1:極度のインスリン抵抗性のマウスモデルでの高血糖症の防止におけるGCGRアンタゴニストの評価)
インスリン受容体アンタゴニストであるS961を浸透圧ミニポンプによってマウスに投与すると、重度のインスリン抵抗性および高血糖症がもたらされる(Gusarova
Vら(2014年)、Cell、159巻:691~696頁;Yi Pら(2013年)、Cell、153巻:747~758頁;Schaffer L.(2008年)、Biochem. Biophys. Res. Commun.、376巻:380~383頁)。この重度のインスリン抵抗性のモデルを使用して、抗GCGR抗体の高血糖症防止における効果、ならびに重度のインスリン抵抗性に起因する血中グルコースレベルおよび血漿ベータ-ヒドロキシブチレートレベル(ケトン血症の尺度として)に対する効果を決定した。
材料:
・ hIgG4アイソタイプ対照
・ H4H1327P、抗hGCGR hIgG4・ S961、インスリン受容体アンタゴニスト(公開されている配列(Schaffer L.(2008年)、Biochem. Biophys. Res. Commun.、376巻:380~383頁)を使用し、Celtek Peptidesによってカスタム合成されたもの)
【0133】
動物および注射:
29匹のマウスを、マウス6~8匹の4つの群に分けた。第1の群には、0日目、6日目、および14日目に10mg/kgのhIgG4アイソタイプ対照を皮下注射し、7日目からは浸透圧ミニポンプ(Alzet 2002)によってPBSを皮下注入した。第2の群には、0日目、6日目、および14日目に10mg/kgのH4H1327Pを皮下注射し、7日目からは浸透圧ミニポンプ(Alzet 2002)によってPBSを皮下注入した。第3の群には、0日目、6日目、および14日目に10mg/kgのhIgG4アイソタイプ対照を皮下注射し、7日目からは浸透圧ミニポンプ(Alzet 2002)によって20nmol/週のS961を皮下注入した。第4の群には、0日目、6日目、および14日目に10mg/kgのH4H1327Pを皮下注射し、7日目からは浸透圧ミニポンプ(Alzet 2002)によって20nmol/週のS961を皮下注入した。血中グルコース測定のため、0日目、3日目、6日目、10日目、14日目、17日目、および21日目にマウスの採血を行った。各時点における血中グルコースレベルの平均±SEMを各群で計算し、表3に示した。インスリンおよびベータ-ヒドロキシブチレートレベルを決定するため、ベースライン、ならびに6日目、14日目、および21日目に血漿を収集した。各時点における血漿ベータ-ヒドロキシブチレートおよびインスリンレベルの平均±SEMを各群で計算し、表4および5に示した。
【表3】
【表4】
【表5】
【0134】
結果:
Prismソフトウェア(バージョン6)を用いて統計解析を行った。対照群(群1)に対する有意性を評価するために、ボンフェローニの多重比較検定とともに二元配置ANOVAを使用した。a:p<0.05、b:p<0.01、c:p<0.001、d:p<0.0001。
【0135】
H4H1327P処置およびPBS注入を受けた動物(群2)は、H4H1327P投与後(3日目~21日目の間)に、アイソタイプ対照投与およびPBS注入を受けた動物(群1)と比較して血中グルコースの低減を示し、H4H1327Pがグルコースを低下させる効力が確認された。アイソタイプ対照投与およびS961注入を受けた動物(群3)は、S961の注入後(10日目~21日目の間)に、アイソタイプ対照投与およびPBS注入を受けた動物(群1)と比較して血中グルコースの増加を示し、S961の高血糖性効果が確認された。H4H1327P処置およびS961注入を受けた動物(群4)では、S961注入後の10~21日の間の血中グルコースレベルが群1のマウスのものに匹敵していた。
図1Aを参照されたい。
【0136】
アイソタイプ対照投与およびS961注入を受けた動物(群3)では、14日目および21日目における血漿インスリンレベルが、アイソタイプ対照投与およびPBS注入を受けた動物(群1)と比較して上昇しており、研究期間中のインスリン受容体を阻害するS961の作用が確認された。インスリンレベルは、アイソタイプ対照投与およびS961注入を受けた動物(群3)と比較して、H4H1327P処置およびS961注入を受けた動物(群4)において同じく上昇した。
図1Bを参照されたい。
【0137】
以前の研究(Okamotoら(2015年)、Endocrinology、156巻(8号):2781~2794頁)と一致して、H4H1327Pは、S961投与とは無関係の効果である血漿グルカゴンレベルの上昇を実証した(
図1Cを参照されたい)。
【0138】
アイソタイプ対照投与およびS961注入を受けた動物(群3)では、14日目および21日目における血漿ベータ-ヒドロキシブチレートのレベルが、アイソタイプ対照投与およびPBS注入を受けた動物(群1)と比較して上昇していたが、H4H1327P処置およびS961注入を受けた動物(群4)では、そのレベルに変化はなかった。
図1Dを参照されたい。加えて、処置群間の体重差は観察されなかった(
図1Eを参照されたい)。
【0139】
これらのデータは、H4H1327Pが、インスリン受容体アンタゴニストにより誘導される高血糖症およびケトン血症を防止し、重度の高インスリン血症の存在下であっても血中グルコースを低下させることを示す。
【0140】
(実施例2:極度のインスリン抵抗性のマウスモデルでの高血糖症の逆転におけるGCGRアンタゴニストの評価)
抗GCGR抗体を注射する4日前にインスリン受容体アンタゴニストを投与したことを除いては実施例1において言及したものと同じ動物モデルおよび同じ材料を使用して、重度のインスリン抵抗性により誘導された、確立された高血糖症を逆転させる抗GCGR抗体の効果を決定した。血中グルコースおよび血漿ベータ-ヒドロキシブチレートレベルに対する効果も決定した。
【0141】
動物および注射:
32匹のマウスを、マウス8匹の4つの群に分けた。第1の群には、0日目から浸透圧ミニポンプ(Alzet 2002)によってPBSを皮下注入し、4日目、11日目、および18日目に10mg/kgのhIgG4アイソタイプ対照を皮下注射した。第2の群には、0日目からPBSを皮下注入し、4日目、11日目、および18日目に10mg/kgのH4H1327Pを皮下注射した。第3の群には、0日目から20nmol/週のS961を皮下注入し、4日目、11日目、および18日目に10mg/kgのhIgG4アイソタイプ対照を皮下注射した。第4の群には、0日目から20nmol/週のS961を皮下注入し、4日目、11日目、および18日目に10mg/kgのH4H1327Pを皮下注射した。血中グルコース測定のため、0日目、4日目、7日目、11日目、14日目、18日目、および21日目にマウスの採血を行った。各時点における血中グルコースレベルの平均±SEMを各群で計算し、表6に示した。インスリンおよびベータ-ヒドロキシブチレートレベルを決定するため、ベースライン、ならびに4日目、11日目、および21日目に血漿を収集した。各時点における血漿ベータ-ヒドロキシブチレートおよびインスリンレベルの平均±SEMを各群で計算し、表7および8に示した。
【表6】
【表7】
【表8】
【0142】
結果:
Prismソフトウェア(バージョン6)を用いて統計解析を行った。対照群(群1)に対する有意性を評価するために、ボンフェローニの多重比較検定とともに二元配置ANOVAを使用した。a:p<0.05、b:p<0.01、c:p<0.001、d:p<0.0001。
【0143】
S961注入およびアイソタイプ対照投与を受けた動物(群3)は、S961注入後(4日目~21日目の間)に、PBS注入およびアイソタイプ対照投与を受けた動物(群1)と比較して血中グルコースの増加を示し、S961の高血糖性効果が確認された。S961注入およびH4H1327P処置を受けた動物(群4)は、H4H1327P投与後、PBS注入およびアイソタイプ対照投与を受けた動物(群1)のものとほぼ同一の血中グルコースレベルを示した。PBS注入およびH4H1327P処置を受けた動物(群2)は、H4H1327P投与後(4日目~21日目の間)に、アイソタイプ対照投与およびPBS注入を受けた動物(群1)と比較して低下した血中グルコースレベルを維持し、H4H1327Pがグルコースを低下させる効力が確認された。
図2Aを参照されたい。
【0144】
S961注入およびアイソタイプ対照投与を受けた動物(群3)では、4日目、11日目、および21日目における血漿インスリンレベルが、PBS注入およびアイソタイプ対照投与を受けた動物(群1)と比較して上昇しており、研究期間中のインスリン受容体を阻害するS961の作用が確認された。
図2Bを参照されたい。高インスリン血症(表8および
図2B)および高グルカゴン血症(
図2Cを参照されたい)は、両方の受容体アンタゴニストを受けたマウスにおいてより顕著であった。
【0145】
S961注入およびアイソタイプ対照投与を受けた動物(群3)では、11日目および21日目の血漿ベータ-ヒドロキシブチレートのレベルが、PBS注入およびアイソタイプ対照投与を受けた動物(群1)と比較して上昇していたが、群1の動物に対し、S961注入およびH4H1327P処置を受けた動物(群4)では、これらの同じ時点におけるそのレベルに変化はなかった。
図2Dを参照されたい。
【0146】
以前の所見(Okamotoら、2015年)と一致して、H4H1327Pは循環血中アミノ酸レベルを上昇させた。S961も同じく循環血中アミノ酸レベルを上昇させたが、その程度は、抗体によるものよりも低かった(
図2Eを参照されたい)。インスリンとグルカゴン受容体との両方の阻害は、血漿アミノ酸レベルのさらなる上昇をもたらした(
図2Eを参照されたい)。体重の変化は観察されなかった(
図2Fを参照されたい)。
【0147】
これらのデータは、H4H1327Pが、インスリン受容体アンタゴニストにより誘導される高血糖症およびケトン血症を逆転させ、重度の高インスリン血症の存在下であっても血中グルコースを低下させることを示す。
【0148】
(実施例3:インスリン受容体アンタゴニストにより誘導される肝臓でのPepck発現の逆転におけるGCGRアンタゴニストの評価)
実施例1の4つの群のそれぞれに従って処置されたマウスから得た肝臓試料を、プロテアーゼおよびホスファターゼ阻害剤カクテル(Thermo-Fisher)、1mM DTT、および2mM Na3VO4の存在下で、氷冷RIPAバッファー(50mM Tris、150mM NaCl、1mMのEDTA、50mM NaF、10mM β-グリセロホスフェート、5mM二塩基性ピロリン酸ナトリウム、および1% NP-40)で溶解させた。全試料ライセートを6×SDSローディングバッファー(Alfa-Aesar)と混合し、5分間煮沸した。タンパク質試料(10~100μg)を4-20%勾配SDS-PAGEゲル(Bio-Rad)にロードし、分離し、二フッ化ポリビニリデン膜に転写した。0.1% Tween20(Bio-Rad)を補充した1×TBS中の5%ウシ血清アルブミンを用いて1時間膜をブロックし、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)に対する抗体(1:250、Abcam)とともにインキュベートした。西洋ワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートされた抗ウサギまたは抗マウス二次抗体(1:10,000、Jackson ImmunoResearch)、および増強化学発光試薬(Thermo-Fisher)を使用し、結合した抗体を検出した。Image Jソフトウェアにおいてバンド強度を定量化した。
【0149】
ウェスタンブロット解析により、H4H1327Pで処置されたマウスの肝臓において、律速糖新生酵素であるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(Pepck)のレベルが70%低下したことが明らかになった(
図3AおよびBを参照されたい)。それとは逆に、S961を注入したマウスの肝臓におけるPepckレベルは2.3倍上昇したが、この効果は、H4H1327Pによってベースラインより30%下まで逆転した。したがって、相対レベルのグルカゴンおよびインスリンシグナル伝達は、以前に実証されているように(Lynedjianら(1995年)、Rucktaeschelら(2000年)、Chakravartyら(2005年))、Pepck発現を制御する。これらのデータは、マウスのGCGRをH4H1327Pで遮断すると、肝臓におけるグルコース生産が抑制されることによって、重度のインスリン抵抗性により誘導される高血糖症が防止されることを示す。
【0150】
(実施例4:αおよびβ細胞質量におけるGCGRおよびインスリン受容体のアンタゴニズムの評価)
実施例2の4つの群のそれぞれに従って処置されたマウスから得た膵臓を、10%中性緩衝ホルマリン溶液中で48時間固定し、パラフィンに包埋し、スライド上で切片にした。膵臓の組織および細胞を透過処理し、製造元(Advanced Cell Diagnostics)の指示に従い、マウスGcgおよびIns2に対するmRNAプローブの組み合わせとハイブリダイズさせた。mRNAシグナルを増幅させるために発色キットを使用した(Advanced Cell Diagnostics)。Haloデジタル画像化解析ソフトウェア(Indica Labs)を使用し、グルカゴンおよびインスリン陽性細胞の面積を測定した。グルカゴンおよびインスリン陽性の面積パーセントを全膵臓面積に対する割合として計算した。各動物のαおよびβ細胞の面積に対応する膵臓重量を乗じることにより、αおよびβ細胞質量を計算した。Haloデジタル画像化解析ソフトウェアを使用して切片上のインスリン陽性膵島の数を計数することにより膵島数を測定し、切片の膵臓面積全体によって正規化した。
【0151】
H4H1327Pは膵臓重量を19%増加させ、効果はH4H1327PおよびS961両方の存在下ではより大きかった(33%)(
図4Aを参照されたい)。GcgおよびIns2に対するプローブを使用したRNA in situハイブリダイゼーション(RNA ISH)を、膵臓切片の形態計測解析のために使用した。H4H1327Pはα細胞質量を5.7倍増加させ(
図4Bを参照されたい)、S961投与はβ細胞質量を3倍増加させた(
図4Cを参照されたい)。H4H1327P単独ではβ細胞質量に影響はなかったが、予想外なことに、S961単独と比較した場合、S961およびH4H1327Pの同時存在下ではβ細胞質量は2倍になり、対照マウスと比べると5.8倍増加した(
図4Cを参照されたい)。正常な血中グルコースレベルの環境ではβ細胞質量のさらなる拡大増殖が起こったことに留意することが重要である(表3)。α細胞質量は、S961処置により(1.6倍)、H4H1327Pの同時存在下では(H4H1327P単独と比べて1.4倍)わずかに増加した(
図4Bを参照されたい)。S961は全膵臓面積当たりの膵島数を49%増加させたが、S961およびH4H1327Pの併用処置は、面積当たりの膵島数を82%増加させた(
図4Dを参照されたい)。まとめると、グルカゴンおよびインスリンシグナル伝達が阻害されたとき、αおよびβ細胞質量の代償的な増加がもたらされた。新規の所見は、インスリン抵抗性マウスにおいてグルカゴンシグナル伝達が遮断されたときβ細胞質量が2倍になったこと、およびこの効果が正常な血中グルコースレベルにおいて生じたことである。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
血中グルコースレベルおよび/またはケトン体のレベルを低下させるため、あるいは、高い血中グルコースもしくはケトン体増加と関連付けられるかまたはそれらによって部分的に特徴付けられる状態もしくは疾患、または前記状態もしくは前記疾患と関連付けられる少なくとも1つの症状もしくは合併症を処置するための方法であって、重度のインスリン抵抗性を有する患者に、治療有効量の、グルカゴン(GCG)阻害剤またはグルカゴン受容体(GCGR)アンタゴニストを含む組成物を投与することを含み、これにより、血中グルコースレベルもしくはケトン体のレベルが低下するか、または前記状態もしくは前記疾患が媒介されるか、または前記状態もしくは前記疾患と関連付けられる少なくとも1つの症状もしくは合併症が緩和されるか、もしくはその重症度が低減する、方法。
(項目2)
重度のインスリン抵抗性を有する前記患者が、ドナヒュー氏症候群、Rabson-Mendenhall症候群、A型インスリン抵抗性、B型インスリン抵抗性、HAIR-AN(アンドロゲン過剰症、インスリン抵抗性、および黒色表皮腫)症候群、偽末端肥大症、アルストレーム症候群、筋緊張性ジストロフィー、ヴェルナー症候群、リポジストロフィー、硬変、単一遺伝子性病的肥満、高プロインスリン血症、カルボキシペプチダーゼE欠損症、アルギニン代謝障害、バルデー-ビードル症候群、および重度のインスリン抵抗性をもたらすことが報告されている遺伝的変異体の存在と関連付けられる状態または疾患からなる群より選択される状態または疾患を患っている、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記患者の血清中でインスリン分解プロテアーゼ活性が検出される、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記患者の血清中で中和性抗インスリン抗体または抗インスリン受容体抗体が検出される、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記インスリン抵抗性が、INSR、PSMD6、ADRA2A、AGPAT2、AKT2、APPL1、BBS1、BSCL2、CIDEC、GRB10、IRS2、KLF14、LEP、LEPR、LMNA、MC4R、PCNT、PIK2CA、POLD1、PPARG、PTPRD、PTRF、RASGRP1、TBC1D4、およびTCF7L2からなる群より選択される1つまたは複数の遺伝子の遺伝的変異体と関連付けられる、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記GCG阻害剤または前記GCGRアンタゴニストがインスリンと併用投与される、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記組成物が、少なくとも1種のさらなる治療剤と組み合わせて前記患者に投与される、項目1に記載の方法。
(項目8)
前記少なくとも1種のさらなる治療剤が、インスリン、ビグアナイド、hIGF1、レプチン、ピオグリタゾン、ビルダグリプチン、アカルボース、アルファ-グリコシダーゼ阻害剤、L-アルギニン、ジペプチジル-ペプチダーゼ-4阻害剤、インスリン分泌促進物質、アミリン受容体アゴニスト、インスリン感作物質、FGF21、SGLT2阻害剤、SGLT1阻害剤、GLP-1アゴニスト、GLP-1受容体活性化剤、β3アドレナリン作動性アゴニスト、NPR1アゴニスト、NPR3アンタゴニスト、トリヨードチロニン、第2のGCG阻害剤、および第2のGCGRアンタゴニストからなる群より選択される、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記GCG阻害剤または前記GCGRアンタゴニストが、単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片である、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記GCGRアンタゴニストが、配列番号2、18、34、50、66、70、86、90、106、110、126、130、および146からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(HCVR)の相補性決定領域(CDR)、ならびに配列番号10、26、42、58、68、78、88、98、108、118、128、138、および148からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)のCDRを含む単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片である、項目1に記載の方法。
(項目11)
前記単離された抗体またはその抗原結合性断片が、(a)配列番号2、18、34、50、66、70、86、90、106、110、126、130、および146からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCVR、ならびに/または(b)配列番号10、26、42、58、68、78、88、98、108、118、128、138、および148からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記単離された抗体またはその抗原結合性断片が、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/68、70/78、86/88、90/98、106/108、110/118、126/128、130/138、および146/148からなる群より選択されるHCVR/LCVR配列ペアを含む、項目10に記載の方法。
(項目13)
前記単離された抗体またはその抗原結合性断片が、配列番号86/88に記載のHCVR/LCVRアミノ酸配列ペアを含む、項目10に記載の方法。
(項目14)
前記GCG阻害剤が、(a)配列番号150、166、182、198、214、230、246、262、278、および294からなる群より選択される重鎖可変領域(HCVR)アミノ酸配列中に含有された3つの重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)、ならびに(b)配列番号158、174、190、206、222、238、254、270、286、および302からなる群より選択される軽鎖可変領域(LCVR)アミノ酸配列中に含有された3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)を含む、単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片である、項目1に記載の方法。
(項目15)
前記単離された抗体またはその抗原結合性断片が、配列番号150、166、182、198、214、230、246、262、278、および294からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCVR、ならびに/または配列番号158、174、190、206、222、238、254、270、286、および302からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記単離された抗体またはその抗原結合性断片が、配列番号150/158、166/174、182/190、198/206、214/222、230/238、246/254、262/270、278/286、および294/302からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列ペアを含む、項目14に記載の方法。
(項目17)
前記単離された抗体またはその抗原結合性断片が、配列番号166/174または配列番号182/190のHCVR/LCVRアミノ酸配列ペアを含む、項目14に記載の方法。
(項目18)
前記インスリン分泌促進物質が、スルホニル尿素、ATP感受性Kチャネルアンタゴニスト、およびメグリチニドからなる群より選択される、項目8に記載の方法。
(項目19)
前記インスリン感作物質が、チアゾリジンジオンおよびロシグリタゾンからなる群より選択される、項目8に記載の方法。
(項目20)
前記ケトン体がベータ-ヒドロキシブチレートである、項目1に記載の方法。
(項目21)
重度のインスリン抵抗性を有する患者を処置する方法であって、前記患者は上昇した血中グルコースレベルを呈し、前記方法は、治療有効量の、GCG阻害剤またはGCGRアンタゴニストを含む組成物を前記患者に投与することを含む、方法。
(項目22)
重度のインスリン抵抗性を有する前記患者が、ドナヒュー氏症候群、Rabson-Mendenhall症候群、A型インスリン抵抗性、B型インスリン抵抗性、HAIR-AN(アンドロゲン過剰症、インスリン抵抗性、および黒色表皮腫)症候群、偽末端肥大症、アルストレーム症候群、筋緊張性ジストロフィー、ヴェルナー症候群、リポジストロフィー、硬変、単一遺伝子性病的肥満、高プロインスリン血症、カルボキシペプチダーゼE欠損症、アルギニン代謝障害、バルデー-ビードル症候群、および重度のインスリン抵抗性をもたらすことが報告されている遺伝的変異体の存在と関連付けられる状態または疾患からなる群より選択される状態または疾患を患っている、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記患者の血清中でインスリン分解プロテアーゼ活性が検出される、項目21に記載の方法。
(項目24)
前記患者の血清中で中和性抗インスリン抗体または抗インスリン受容体抗体が検出される、項目21に記載の方法。
(項目25)
前記インスリン抵抗性が、INSR、PSMD6、ADRA2A、AGPAT2、AKT2、APPL1、BBS1、BSCL2、CIDEC、GRB10、IRS2、KLF14、LEP、LEPR、LMNA、MC4R、PCNT、PIK2CA、POLD1、PPARG、PTPRD、PTRF、RASGRP1、TBC1D4、およびTCF7L2からなる群より選択される1つまたは複数の遺伝子の遺伝的変異体と関連付けられる、項目21に記載の方法。
(項目26)
前記GCG阻害剤または前記GCGRアンタゴニストがインスリンと併用投与される、項目21に記載の方法。
(項目27)
前記組成物が、少なくとも1種のさらなる治療剤と組み合わせて前記患者に投与される、項目21に記載の方法。
(項目28)
前記少なくとも1種のさらなる治療剤が、インスリン、ビグアナイド、hIGF1、レプチン、ピオグリタゾン、ビルダグリプチン、アカルボース、アルファ-グリコシダーゼ阻害剤、L-アルギニン、ジペプチジル-ペプチダーゼ-4阻害剤、インスリン分泌促進物質、アミリン受容体アゴニスト、インスリン感作物質、FGF21、SGLT2阻害剤、SGLT1阻害剤、GLP-1アゴニスト、GLP-1受容体活性化剤、β3アドレナリン作動性アゴニスト、NPR1アゴニスト、NPR3アンタゴニスト、トリヨードチロニン、第2のGCG阻害剤、および第2のGCGRアンタゴニストからなる群より選択される、項目27に記載の方法。
(項目29)
前記GCG阻害剤または前記GCGRアンタゴニストが、単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片である、項目21に記載の方法。
(項目30)
前記GCGRアンタゴニストが、配列番号2、18、34、50、66、70、86、90、106、110、126、130、および146からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCVRのCDR、ならびに配列番号10、26、42、58、68、78、88、98、108、118、128、138、および148からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCVRのCDRを含む単離されたヒトモノクローナル抗体である、項目21に記載の方法。
(項目31)
前記単離された抗体またはその抗原結合性断片が、(a)配列番号2、18、34、50、66、70、86、90、106、110、126、130、および146からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCVR、ならびに/または(b)配列番号10、26、42、58、68、78、88、98、108、118、128、138、および148からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む、項目30に記載の方法。
(項目32)
前記単離された抗体または抗原結合性断片が、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/68、70/78、86/88、90/98、106/108、110/118、126/128、130/138、および146/148からなる群より選択されるHCVR/LCVR配列ペアを含む、項目30に記載の方法。
(項目33)
前記単離されたヒトモノクローナル抗体が、配列番号86/88に記載のHCVR/LCVRアミノ酸配列ペアを含む、項目30に記載の方法。
(項目34)
前記GCG阻害剤が、(a)配列番号150、166、182、198、214、230、246、262、278、および294からなる群より選択される重鎖可変領域(HCVR)アミノ酸配列中に含有された3つの重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)、ならびに(b)配列番号158、174、190、206、222、238、254、270、286、および302からなる群より選択される軽鎖可変領域(LCVR)アミノ酸配列中に含有された3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)を含む、単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片である、項目21に記載の方法。
(項目35)
前記単離された抗体またはその抗原結合性断片が、配列番号150、166、182、198、214、230、246、262、278、および294からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCVR、ならびに/または配列番号158、174、190、206、222、238、254、270、286、および302からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む、項目34に記載の方法。
(項目36)
前記単離された抗体またはその抗原結合性断片が、配列番号150/158、166/174、182/190、198/206、214/222、230/238、246/254、262/270、278/286、および294/302からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列ペアを含む、項目34に記載の方法。
(項目37)
前記単離された抗体またはその抗原結合性断片が、配列番号166/174または配列番号182/190のHCVR/LCVRアミノ酸配列ペアを含む、項目34に記載の方法。
(項目38)
前記インスリン分泌促進物質が、スルホニル尿素、ATP感受性Kチャネルアンタゴニスト、およびメグリチニドからなる群より選択される、項目28に記載の方法。
(項目39)
前記インスリン感作物質が、チアゾリジンジオンおよびロシグリタゾンからなる群より選択される、項目28に記載の方法。
(項目40)
重度のインスリン抵抗性を有する患者を処置するために必要なインスリンの量および/または投与量を低減させる方法であって、前記患者は、重度のインスリン抵抗性および上昇した血中グルコースレベルを呈し、前記方法は、治療有効量の、GCG阻害剤またはGCGRアンタゴニストを含む組成物を前記患者に投与することを含む、方法。
(項目41)
前記GCG阻害剤または前記GCGRアンタゴニストがインスリンと併用投与される、項目40に記載の方法。
(項目42)
前記インスリンの量および/または投与量が、GCGRアンタゴニストと併用投与したとき、約30%~約95%低減する場合があり、前記GCGRアンタゴニストが、GCGRに特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体である、項目40に記載の方法。
(項目43)
前記インスリンの量および/または投与量が、GCGRアンタゴニストと併用投与したとき、約90%低減する場合があり、前記アンタゴニストが、GCGRに特異的に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体である、項目40に記載の方法。
(項目44)
重度のインスリン抵抗性を有する前記患者が、ドナヒュー氏症候群、Rabson-Mendenhall症候群、A型インスリン抵抗性、B型インスリン抵抗性、HAIR-AN(アンドロゲン過剰症、インスリン抵抗性、および黒色表皮腫)症候群、偽末端肥大症、アルストレーム症候群、筋緊張性ジストロフィー、ヴェルナー症候群、リポジストロフィー、硬変、単一遺伝子性病的肥満、高プロインスリン血症、カルボキシペプチダーゼE欠損症、アルギニン代謝障害、バルデー-ビードル症候群、および重度のインスリン抵抗性をもたらすことが報告されている遺伝的変異体の存在と関連付けられる状態または疾患からなる群より選択される状態または疾患を患っている、項目40に記載の方法。
(項目45)
前記患者の血清中でインスリン分解プロテアーゼ活性が検出される、項目40に記載の方法。
(項目46)
前記患者の血清中で中和性抗インスリン抗体または抗インスリン受容体抗体が検出される、項目40に記載の方法。
(項目47)
前記インスリン抵抗性が、INSR、PSMD6、ADRA2A、AGPAT2、AKT2、APPL1、BBS1、BSCL2、CIDEC、GRB10、IRS2、KLF14、LEP、LEPR、LMNA、MC4R、PCNT、PIK2CA、POLD1、PPARG、PTPRD、PTRF、RASGRP1、TBC1D4、およびTCF7L2からなる群より選択される1つまたは複数の遺伝子の遺伝的変異体と関連付けられる、項目40に記載の方法。
(項目48)
前記組成物が、少なくとも1種のさらなる治療剤と組み合わせて前記患者に投与される、項目40に記載の方法。
(項目49)
前記少なくとも1種のさらなる治療剤が、ビグアナイド、hIGF1、レプチン、ピオグリタゾン、ビルダグリプチン、アカルボース、アルファ-グリコシダーゼ阻害剤、L-アルギニン、ジペプチジル-ペプチダーゼ-4阻害剤、インスリン分泌促進物質、アミリン受容体アゴニスト、インスリン感作物質、FGF21、SGLT2阻害剤、SGLT1阻害剤、GLP-1アゴニスト、GLP-1受容体活性化剤、β3アドレナリン作動性アゴニスト、NPR1アゴニスト、NPR3アンタゴニスト、トリヨードチロニン、第2のGCG阻害剤、および第2のGCGRアンタゴニストからなる群より選択される、項目48に記載の方法。
(項目50)
前記GCG阻害剤または前記GCGRアンタゴニストが、単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片である、項目40に記載の方法。
(項目51)
前記GCGRアンタゴニストが、配列番号2、18、34、50、66、70、86、90、106、110、126、130、および146からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCVRのCDR、ならびに配列番号10、26、42、58、68、78、88、98、108、118、128、138、および148からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCVRのCDRを含む単離されたヒトモノクローナル抗体である、項目40に記載の方法。
(項目52)
前記単離された抗体またはその抗原結合性断片が、(a)配列番号2、18、34、50、66、70、86、90、106、110、126、130、および146からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCVR、ならびに/または(b)配列番号10、26、42、58、68、78、88、98、108、118、128、138、および148からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む、項目51に記載の方法。
(項目53)
前記単離された抗体または抗原結合性断片が、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/68、70/78、86/88、90/98、106/108、110/118、126/128、130/138、および146/148からなる群より選択されるHCVR/LCVR配列ペアを含む、項目51に記載の方法。
(項目54)
前記単離された抗体が、配列番号86/88に記載のHCVR/LCVRアミノ酸配列ペアを含む、項目51に記載の方法。
(項目55)
前記GCG阻害剤が、(a)配列番号150、166、182、198、214、230、246、262、278、および294からなる群より選択される重鎖可変領域(HCVR)アミノ酸配列中に含有された3つの重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)、ならびに(b)配列番号158、174、190、206、222、238、254、270、286、および302からなる群より選択される軽鎖可変領域(LCVR)アミノ酸配列中に含有された3つの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)を含む、単離されたヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片である、項目40に記載の方法。
(項目56)
前記単離された抗体またはその抗原結合性断片が、配列番号150、166、182、198、214、230、246、262、278、および294からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するHCVR、ならびに/または配列番号158、174、190、206、222、238、254、270、286、および302からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む、項目55に記載の方法。
(項目57)
前記単離された抗体またはその抗原結合性断片が、配列番号150/158、166/174、182/190、198/206、214/222、230/238、246/254、262/270、278/286、および294/302からなる群より選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列ペアを含む、項目55に記載の方法。
(項目58)
前記単離された抗体またはその抗原結合性断片が、配列番号166/174または配列番号182/190のHCVR/LCVRアミノ酸配列ペアを含む、項目55に記載の方法。
(項目59)
前記インスリン分泌促進物質が、スルホニル尿素、ATP感受性Kチャネルアンタゴニスト、およびメグリチニドからなる群より選択される、項目49に記載の方法。
(項目60)
前記インスリン感作物質が、チアゾリジンジオンおよびロシグリタゾンからなる群より選択される、項目49に記載の方法。
(項目61)
血中グルコースレベルおよび/またはベータ-ヒドロキシブチレートレベルを低下させるため、あるいは、高い血中グルコースもしくは高いレベルのケトン体と関連付けられるかまたはそれらによって部分的に特徴付けられる状態もしくは疾患、または前記状態もしくは前記疾患と関連付けられる少なくとも1つの症状もしくは合併症を処置するための方法であって、重度のインスリン抵抗性を有する患者に、治療有効量の、GCGRシグナル伝達の阻害剤を含む組成物を投与することを含み、これにより、血中グルコースレベルもしくはベータ-ヒドロキシブチレートレベルが低下するか、または前記状態もしくは前記疾患が媒介されるか、または前記状態もしくは前記疾患と関連付けられる少なくとも1つの症状もしくは合併症が緩和されるか、もしくはその重症度が低減する、方法。
(項目62)
前記GCGRシグナル伝達の阻害剤が、アンチセンス分子、GCGR抗体、小分子阻害剤、ペプチド阻害剤、DARPin、Spiegelmer、アプタマー、操作されたFn III型ドメイン、GCG抗体、およびそれらの誘導体からなる群より選択される、項目60に記載の方法。
(項目63)
肝臓におけるグルコース生産を抑制する方法であって、重度のインスリン抵抗性を有する患者に、治療有効量の、GCGRシグナル伝達の阻害剤を含む組成物を投与することを含み、これにより、肝臓におけるグルコース生産が抑制される、方法。
(項目64)
重度のインスリン抵抗性を有する患者のβ細胞質量を増加させる方法であって、治療有効量の、GCGRシグナル伝達の阻害剤を含む組成物を前記患者に投与することを含み、これにより、処置前のβ細胞質量と比べてβ細胞質量が増加する、方法。