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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017826
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】二酸化炭素の電解セル
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/23 20210101AFI20240201BHJP
   C25B 11/054 20210101ALI20240201BHJP
   C25B 11/032 20210101ALI20240201BHJP
   C25B 11/065 20210101ALI20240201BHJP
   C25B 11/075 20210101ALI20240201BHJP
   B01J 31/28 20060101ALI20240201BHJP
   C25B 13/08 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C25B1/23
C25B11/054
C25B11/032
C25B11/065
C25B11/075
B01J31/28 M
C25B13/08 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120732
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(71)【出願人】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】東 正信
(72)【発明者】
【氏名】清水 陽一
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 聡子
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G169AA04
4G169BA08B
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BE16A
4G169BE16B
4G169BE38A
4G169BE38B
4G169BE39A
4G169BE39B
4G169CB81
4G169CC21
4G169DA06
4G169EA08
4G169EC28
4G169FA02
4K011AA23
4K011AA69
4K011BA12
4K011DA10
4K021AA01
4K021AB25
4K021AC07
4K021AC09
4K021BA17
4K021DB05
4K021DB16
4K021DB18
4K021DB36
(57)【要約】
【課題】長時間安定して二酸化炭素を電解還元できる二酸化炭素の電解セルを実現することを目的とする。
【解決手段】二酸化炭素の電解セル(1)は、コバルトフタロシアニンを含有する陰極(10)と、ガス流路(20)と、陰極電解液(31)を内包可能である陰極室(30)と、陽極(40)と、陽極電解液(51)を内包可能である陽極室(50)と、アニオン交換膜(60)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルトフタロシアニンを含有し、二酸化炭素を還元する陰極と、
前記陰極に二酸化炭素を供給するガス流路と、
前記陰極に接触する陰極電解液を内包可能である陰極室と、
前記陰極と対となる陽極と、
前記陽極に接触する陽極電解液を内包可能である陽極室と、
前記陰極電解液と前記陽極電解液とを分離するアニオン交換膜と、を備える二酸化炭素の電解セル。
【請求項2】
前記陰極は、表面に疎水性バインダを含有するガス拡散電極である、請求項1に記載の電解セル。
【請求項3】
前記陰極は、水を吸着種としたBET比表面積(SAH2O)と窒素を吸着種としたBET比表面積(SAN2)との比(SAH2O/SAN2)が0.010以下である、請求項1または2に記載の電解セル。
【請求項4】
前記陰極電解液および前記陽極電解液は、pHが12以上である、請求項1または2に記載の電解セル。
【請求項5】
前記アニオン交換膜は、イオン伝導度が1mS/cm以上である、請求項1または2に記載の電解セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素の電解セルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生可能エネルギーの発電等により得られた余剰な電気エネルギーを貯蔵するために、二酸化炭素(CO)の電解還元が注目されている。二酸化炭素の電解還元により発生する炭素化合物、例えば一酸化炭素(CO)を貯蔵することにより、蓄電池で電気エネルギーを貯蔵する場合と比較して、貯蔵コストおよび貯蔵ロスを低減することができる。
【0003】
特許文献1には、ガス拡散電極を用いる二酸化炭素の電解還元方法が開示されている。特許文献2には、アノードをセパレータに接触させた二酸化炭素の電解セルが開示されている。
【0004】
また、非特許文献1には、酸素還元反応において拡散律速領域(diffusion-rate limit range)では、カソードの親水度が高いほど還元電流が小さいことから、カソードの親水度が高いほどガス拡散性が低減されることが示唆されている。非特許文献2には、アルカリ膜形燃料電池において使用されるアニオン交換膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1-205088号公報
【特許文献2】特開2018-123390号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S. Takase et. al., "Investigation of the Effect of Hydrophilicity on Oxygen Reduction Reaction Property with Measurement of Water Vapor Specific Surface Area" Electrochemistry, 89(6), 597-601 (2021)
【非特許文献2】柳裕之ら『アルカリ膜形燃料電池(AMFC)用電解質材料の開発と発電性能』水素エネルギーシステム、Vol.35, No.2(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および2に記載される従来技術は、長時間安定して二酸化炭素を電解還元することができないという問題がある。本発明の一態様は、長時間安定して二酸化炭素を電解還元できる二酸化炭素の電解セルを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る二酸化炭素の電解セルは、コバルトフタロシアニンを含有し、二酸化炭素を還元する陰極と、前記陰極に二酸化炭素を供給するガス流路と、前記陰極に接触する陰極電解液を内包可能である陰極室と、前記陰極と対となる陽極と、前記陽極に接触する陽極電解液を内包可能である陽極室と、前記陰極電解液と前記陽極電解液とを分離するアニオン交換膜と、を備える。
【0009】
発明者らの鋭意検討の結果、陰極にコバルトフタロシアニンを含有させることにより、二酸化炭素の還元による一酸化炭素の生成を促進するとともに、ギ酸の生成を低減できることが見出された。そのため、陰極電解液および陽極電解液のpHの変動を低減し、長時間安定して二酸化炭素を電解還元することができる。
【0010】
また、アニオン交換膜で陰極電解液と陽極電解液とを分離することにより、二酸化炭素の還元により生成する水酸化物イオン(OH)が、陰極室内からアニオン交換膜を通って陽極室内に移動することができる。このとき、陽極では例えば水または水酸化物イオンの酸化により、水素イオン(H)が生成している。そのため、陰極室内から陽極室内に移動した水酸化物イオン(OH)が、陽極室内で余剰になった水素イオン(H)の少なくとも一部を中和することができる。そのため、陰極電解液および陽極電解液のpHの変動を低減し、長時間安定して二酸化炭素を電解還元することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、長時間安定して二酸化炭素を電解還元できる二酸化炭素の電解セルを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一態様に係る二酸化炭素の電解セルを示す模式図である。
図2図1に係る電解セルの動作を説明する概略図である。
図3】実施例に係る電解セルの電解開始後の経過時間と電流との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一態様について、詳細に説明する。なお、以下の記載は、発明の趣旨をより良く理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0014】
〔二酸化炭素の電解セルの構造〕
図1は、本発明の一態様に係る二酸化炭素の電解セル1を示す模式図である。電解セル1は、陰極10と、ガス流路20と、陰極室30と、陽極40と、陽極室50と、アニオン交換膜60と、を備える。
【0015】
陰極10は、コバルトフタロシアニン(以下、「CoPc」と略記)を含有し、二酸化炭素を還元する電極である。陰極10では、二酸化炭素の還元により、例えば一酸化炭素が生じ得る。陰極10は、表面に疎水性バインダを含有するガス拡散電極であってもよい。疎水性バインダの例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を挙げることができる。陰極10は、疎水性を更に向上するために、親水性バインダを含有しなくてもよい。陰極10は、導電性向上のために、カーボン材料を更に含有していてもよい。
【0016】
陰極10を、表面に疎水性バインダを含有するガス拡散電極とすることにより、気体の拡散性を向上することができる。そのため、陰極10と二酸化炭素との接触を促進することができる。また、陰極10において生成する炭素化合物が気体である場合、気体状の炭素化合物が陰極10から離脱することを促進することができる。したがって、電解還元時の陰極10における電流密度を向上することができる。
【0017】
更に、疎水性の上昇によりぬれ性が低下し、陰極電解液31と陰極10との接触面積を減少させることができるので、陰極電解液31に溶解する二酸化炭素の量を低減することができる。
【0018】
陰極10がガス拡散電極である場合、陰極10におけるCoPcの濃度分布は、陰極10内で一様であってもよく、あるいは陰極10のガス流通側の表面に近い程、CoPcの濃度が高くなっていてもよい。
【0019】
陰極10は、水を吸着種としたBET比表面積(SAH2O)と窒素を吸着種としたBET比表面積(SAN2)との比(SAH2O/SAN2、以下「親水度」と略記)が、0.010以下であってもよい。
【0020】
陰極10の親水度を0.010以下とすることにより、気体の拡散性を向上させることができる。したがって、電解還元時の陰極10における電流密度を更に向上することができる。また、陰極電解液31と陰極10との接触面積を更に減少させることができるので、電解還元に必要な電圧を更に低下させることができる。
【0021】
ガス流路20は、陰極10に二酸化炭素を供給する。ガス流路20としては、既知のものを使用することができる。陰極10がガス拡散電極である場合、ガス流路20は、陰極10のガス拡散層に連なっていてもよい。
【0022】
陰極室30は、陰極10に接触する陰極電解液31を内包可能である。陰極電解液31のpHは特に限定されないが、例えば、pHが12以上であってもよく、好ましくは13以上であってもよい。陰極電解液31として使用できる電解液の例として、限定するものではないが、水酸化カリウム(KOH)水溶液、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液および炭酸水素カリウム(KHCO)水溶液を挙げることができる。
【0023】
陰極電解液31としてKHCO水溶液を使用した場合、炭酸イオン(CO 2-)が十分に存在する溶液中では、COが溶解してイオン化する反応は進行しづらい。一方で、溶液中のOHが少ない条件となり、対極反応である酸素発生反応が進みにくくなる。そのため、陰極電解液31として強塩基電解液を使用した場合よりも、電解還元時における電流が低減する。
【0024】
陽極40は、陰極10と対となる電極である。陽極40としては、例えば白金電極等の既知のものを使用することができる。陽極40では、例えば水(HO)または水酸化物イオン(OH)の酸化により、酸素(O)および水素イオン(H)が生じ得る。
【0025】
陽極室50は、陽極40に接触する陽極電解液51を内包可能である。陽極電解液51のpHは特に限定されないが、例えば、pHが12以上であってもよく、好ましくは13以上であってもよい。陽極電解液51は、陰極電解液31と同じ電解液を使用してもよい。
【0026】
アニオン交換膜60は、陰極電解液31と陽極電解液51とを分離する。アニオン交換膜60は、陽極40において生じる酸素が陰極電解液31まで移動することを防止するため、陽極40において生じた酸素が陰極10において還元される(酸素のクロスオーバー)ことを防止できる。二酸化炭素還元の過電圧は酸素還元の過電圧より大きいため、アニオン交換膜60がなければ、このような酸素のクロスオーバーを防止することは困難である。
【0027】
アニオン交換膜60は、イオン伝導度が1mS/cm以上であってもよく、好ましくは3mS/cm以上であってもよく、更に好ましくは5mS/cm以上であってもよい。アニオン交換膜60のイオン伝導度が高いほど、電解還元時に必要な電圧を低下させることができる。
【0028】
また、アニオン交換膜60は、膜抵抗が1Ω・cm以下であってもよく、好ましくは0.7Ω・cm以下であってもよく、更に好ましくは0.5Ω・cm以下であってもよい。アニオン交換膜60の膜抵抗が低いほど、電解還元時に必要な電圧を低下させることができる。
【0029】
〔アニオン交換膜のイオン伝導度〕
本明細書において、アニオン交換膜の「イオン伝導度」とは、下記の通り算出されるイオン伝導度を意味するものとする。
【0030】
まず、アニオン交換膜を大気中、乾燥状態で24時間以上放置したものを40℃のイオン交換水に湿潤させた後、横約6cm、縦2.0cmの長方形に切断する。また、アニオン交換膜をイオン交換水で湿潤させた状態における膜厚Lを測定する。
【0031】
次いで、線幅0.3mmの白金線5本を、横方向(アニオン交換膜の横方向と同じ方向)に0.5cm間隔で、いずれも縦方向(アニオン交換膜の縦方向と同じ方向)に対して平行となる直線状に配置した絶縁基板を準備する。そして、絶縁基板の白金線を短冊状のアニオン交換膜に押し当てることにより、測定用試料を作成する。
【0032】
測定用試料の5本の白金線について、長方形に切断されたアニオン交換膜の一方の短辺に近い方から順に、Pt1、Pt2、Pt3、Pt4およびPt5と称する。そして、Pt1とPt2との間(間隔=0.5cm)、Pt1とPt3との間(間隔=1.0cm)、Pt1とPt4との間(間隔=1.5cm)およびPt1とPt5との間(間隔=2.0cm)で、それぞれ交流インピーダンスを測定する。このとき、交流インピーダンスは、測定用試料を40℃、90%RHの恒温恒湿槽中でアニオン交換膜表面にイオン交換水の水滴が存在する状態に保持し、白金線間に1kHzの交流を印加したときの交流インピーダンスとして測定する。
【0033】
そして、横軸を白金線の間隔とし、縦軸を交流インピーダンスとして、各測定値をプロットし、最小二乗法を使用した直線近似を行うことにより、直線の傾きとして、アニオン交換膜の比抵抗を意味する抵抗極間勾配R3を求める。抵抗極間勾配R3から、下記式(2)に基づいてイオン伝導度σを算出する。下記式(2)の右辺について、「2.0」はアニオン交換膜の縦方向の長さを示し、単位はcmである。
【0034】
σ=1/(R3×2.0×L) ・・・(2)
σ:イオン伝導度[S/cm]
L:膜厚[cm]
R3:抵抗極間勾配[Ω/cm]
なお、上記近似直線のy切片は、測定用試料における白金線とアニオン交換膜との間の接触抵抗を意味する。本測定では、アニオン交換膜のイオン伝導度σは、抵抗極間勾配R3に基づいて算出されるので、上記接触抵抗の影響を除外することができる。
【0035】
〔アニオン交換膜の膜抵抗〕
本明細書において、アニオン交換膜の「膜抵抗」とは、下記の通り算出される膜抵抗を意味するものとする。
【0036】
膜抵抗(Ω・cm)=膜厚(cm)/イオン伝導率(1/(Ω・cm))
〔二酸化炭素の電解セルの動作〕
図2は、二酸化炭素の電解セル1を用いて二酸化炭素を電解還元する時の動作を説明する概略図である。図2の例では、陰極電解液31および陽極電解液51としてKOH水溶液を使用しているが、本発明はこれに限定されず、他の電解液を使用してもよい。陰極10では、下記式(3)および(4)の反応が進行する。
【0037】
【化1】
【0038】
また、陰極10では、更に下記式(5)の反応が進行することもある。
【0039】
【化2】
【0040】
一方、陽極40では、下記式(6)の反応が進行する。
【0041】
【化3】
【0042】
陰極電解液31では、上記式(3)および(4)の反応により、OHイオンが過剰となる。一方、陽極電解液51では、上記式(6)の反応により、Hイオンが過剰となる。ここで、電解セル1では、アニオン交換膜60が陰極電解液31と陽極電解液51とを分離するので、陰極電解液31において過剰となった水酸化物イオン(OH)が、陰極室30内からアニオン交換膜60を通って陽極室50内に移動することができる。そして、陰極室30内から陽極室50内に移動した水酸化物イオン(OH)は、陽極室50内で過剰になった水素イオン(H)の少なくとも一部を中和することができる。そのため、陰極電解液31および陽極電解液51のpHの変動を低減し、長時間安定して二酸化炭素を電解還元することができる。
【0043】
また、陰極電解液31のpHを12以上とした場合、上記式(5)による水素(H)の生成を低減し、上記式(4)によるCOの生成を促進することができる。また、陽極電解液51のpHを12以上とした場合、上記式(6)による陽極反応を促進し、電解還元時に必要な電圧を低下させることができる。
【0044】
上記の構成によれば、例えば再生可能エネルギーの発電等により得られた余剰な電気エネルギーを効率的に貯蔵することができる。このような効果は、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標7「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」等の達成にも貢献できる。
【0045】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0046】
〔実施例〕
本発明の実施例について以下に説明する。なお、本実施例に記載の電解セルは一例であり、本発明の一態様に係る電解セルを限定するものではない。まず、下記表1に示す組み合わせで、実施例に係る電解セルEx1~Ex3および比較例に係る電解セルCE1を作製した。
【0047】
【表1】
【0048】
陰極として、上記表1に記載の陰極触媒、疎水性カーボン粉末およびPTFEを混合し、ホットプレスすることによって作製した電極を使用した。陽極として、白金電極を使用した。
【0049】
上記表1に記載のアニオン交換膜として、株式会社トクヤマ製サンプル品(サンプル名:A201)を使用した。また、カチオン交換膜として、デュポン社製Nafion(品番:117)を使用した。
【0050】
作製した電解セルを用いて、陰極に-1600mVの定電位を印加し、導入ガスを(i)二酸化炭素のみ(ガス流量:30mL/min)または(ii)二酸化炭素+飽和水蒸気(合計ガス流量:30mL/min)として、二酸化炭素の電解還元を行った。結果を下記表2に示す。なお、表2において、導入ガス「CO2」とは、導入ガスが(i)二酸化炭素のみであることを表し、導入ガス「CO2+H2O」とは、導入ガスが(ii)二酸化炭素+飽和水蒸気であることを表す。また、「ND」は、検出されなかったことを表す。また、ファラデー効率が100%を上回っている場合がある。これは、発生気体の一部に対して分析を行っていることが原因の測定誤差と、想定より少ない電子数による反応の影響とが考えられる。少ない電子数による反応としては、例えば、COラジカルとCOとによる、1電子CO生成反応が考えられる。
【0051】
【表2】
【0052】
上記表2に示すように、Ex1~Ex3に係る電解セルは、ギ酸の生成が確認されないか、生成量が極めて少ないことが見出された。したがって、陰極にCoPcを含有させることにより、ギ酸の生成を低減できることが示された。
【0053】
また、Ex1~Ex2に係る電解セルは、Ex3に係る電解セルよりも、電気量が大きく、かつ一酸化炭素の生成量が多いことが示された。これは、Ex1~Ex2に係る電解セルは、陽極電解液としてpHが12以上の強塩基を使用しているので、上記式(6)で表される陽極反応が速やかに進むためであると推測される。
【0054】
Ex1およびEx3に係る電解セルにおいて、導入ガスとして(ii)二酸化炭素+飽和水蒸気を使用すると、導入ガスとして(i)二酸化炭素のみを使用した場合と比較して、COの生成量が増加した。したがって、陰極にCoPcを含有する場合、液体としての水が反応場に十分に供給されなくても、CO生成反応が進行することが示唆された。
【0055】
なお、本発明者らは、Ex1に係る電解セルにおいて、ガスの生成量が大きくなりすぎる条件では、電極内部からのガス生成による応力が原因と考えられる形態変化が観察されることを見出している。このことから、CoPcを陰極の反応層全体に担持した場合に、二酸化炭素の還元反応が、陰極と陰極電解液との界面だけでなく、陰極の内部でも進行していることが示唆される。
【0056】
一方、CoPc以外の金属触媒、例えば金は、一般的に、電極と電解液との界面に触媒が設置されることが多く、反応には、十分な量の液体としての水が必要であると一般的に考えられる。これは、金などの金属触媒では、反応中間体と金属触媒との結合強度が強いために、脱離反応を促進する必要があることが理由の1つであると推測される。
【0057】
図3は、電解セルEx1およびCE1について、電解還元開始後の経過時間と電流との関係を示す図である。測定は、再現性を確認するために、電解セルEx1およびCE1のそれぞれについて、2つの電解セルを用いて行った。図3に示すEx1-1およびEx1-2は、いずれも電解セルEx1の構造を有し、CE1-1およびCE1-2は、いずれも電解セルCE1の構造を有している。
【0058】
図3に示すように、CE1-1は9180秒、CE1-2は8280秒で電解還元が停止し、電圧を印加しても電流が流れなくなった。一方、Ex1-1は21600秒、Ex1-2は18000秒で電圧印加を停止させるまで、継続して電解還元を行うことができた。
【0059】
下記表3に、電解セルEx1およびCE1について、電解還元前後の電解液のpHおよび電位差を示す。表3に示すように、電解セルEx1-1およびEx1-2では、電解還元前後におけるpHの変動は小さく、いずれの時点でもpHは13.0以上であった。一方、電解セルCE1-1およびCE1-2では、電解還元終了後の陽極電解液のpHが12.5以下に低下していた。
【0060】
【表3】
【0061】
以上のように、Ex1に係る電解セルは、イオン交換膜としてアニオン交換膜を備えることにより、pHの変動を低減し、長時間安定して二酸化炭素を電解還元することができることが示された。
【0062】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る二酸化炭素の電解セルは、コバルトフタロシアニンを含有し、二酸化炭素を還元する陰極と、前記陰極に二酸化炭素を供給するガス流路と、前記陰極に接触する陰極電解液を内包可能である陰極室と、前記陰極と対となる陽極と、前記陽極に接触する陽極電解液を内包可能である陽極室と、前記陰極電解液と前記陽極電解液とを分離するアニオン交換膜と、を備える構成である。
【0063】
上記の構成によれば、発明者らの鋭意検討の結果、陰極にコバルトフタロシアニンを含有させることにより、二酸化炭素の還元による一酸化炭素の生成を促進するとともに、ギ酸の生成を低減できることが見出された。そのため、pHの変動を低減し、長時間安定して二酸化炭素を電解還元することができる。
【0064】
また、アニオン交換膜で陰極電解液と陽極電解液とを分離することにより、二酸化炭素の還元により生成する水酸化物イオン(OH)が、陰極室内からアニオン交換膜を通って陽極室内に移動することができる。このとき、陽極では例えば水または水酸化物イオンの酸化により、水素イオン(H)が生成している。そのため、陰極室内から陽極室内に移動した水酸化物イオン(OH)が、陽極室内で余剰になった水素イオン(H)の少なくとも一部を中和することができる。そのため、陰極電解液および陽極電解液のpHの変動を低減し、長時間安定して二酸化炭素を電解還元することができる。
【0065】
本発明の態様2に係る電解セルは、上記の態様1において、前記陰極は、表面に疎水性バインダを含有するガス拡散電極である構成としてもよい。
【0066】
上記の構成によれば、陰極を、表面に疎水性バインダを含有するガス拡散電極とすることにより、気体の拡散性を向上することができる。そのため、陰極と二酸化炭素との接触を促進することができる。また、陰極において生成する炭素化合物が気体である場合、気体状の炭素化合物が陰極から離脱することを促進することができる。したがって、電解還元時の陰極における電流密度を向上することができる。
【0067】
更に、陰極電解液と陰極との接触面積を減少させることができるので、陰極電解液に溶解する二酸化炭素の量を低減することができる。そのため、二酸化炭素のイオン化による炭酸イオン(CO 2-)の生成量を減少させ、還元のために必要な電圧(過電圧)を減少させることができる。したがって、電解還元時に過電圧の上昇を抑制することができる。
【0068】
本発明の態様3に係る電解セルは、上記の態様1または2において、前記陰極は、水を吸着種としたBET比表面積(SAH2O)と窒素を吸着種としたBET比表面積(SAN2)との比(SAH2O/SAN2)が0.010以下である構成としてもよい。
【0069】
上記の構成によれば、陰極についてSAH2O/SAN2を0.010以下とすることにより、気体の拡散性を向上させることができる。したがって、電解還元時の陰極における電流密度を更に向上することができる。また、陰極電解液と陰極との接触面積を更に減少させることができるので、電解還元に必要な電圧を更に低下させることができる。
【0070】
本発明の態様4に係る電解セルは、上記の態様1から3のいずれか1つにおいて、前記陰極電解液および陽極電解液は、pHが12以上である構成としてもよい。
【0071】
上記の構成によれば、陰極電解液のpHを12以上とすることにより、電解還元時の陰極における水素(H)の生成を低減し、COの生成を促進することができる。また、陽極電解液のpHを12以上とすることにより、陽極反応を促進することができる。したがって、電解還元時に必要な電圧を更に低下させることができる。
【0072】
本発明の態様5に係る電解セルは、上記の態様1から4のいずれか1つにおいて、前記アニオン交換膜は、イオン伝導度が1mS/cm以上である構成としてもよい。
【0073】
上記の構成によれば、アニオン交換膜のイオン伝導度を1mS/cm以上とすることにより、電解還元時に必要な電圧を低下させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、例えば余剰な電気エネルギーを貯蔵するために利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 電解セル
10 陰極
20 ガス流路
30 陰極室
31 陰極電解液
40 陽極
50 陽極室
51 陽極電解液
60 アニオン交換膜
図1
図2
図3